以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の半導体レーザ装置組立体、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の半導体レーザ装置組立体)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(実施例1〜実施例2の変形。分散補償光学系の変形)
5.実施例4(実施例1〜実施例2の変形。第1の態様に係る分散補償光学装置/分散補償光学装置等−A)
6.実施例5(実施例4の変形。分散補償光学装置等−B)
7.実施例6(実施例4の変形。分散補償光学装置等−C)
8.実施例7(実施例4の変形。分散補償光学装置等−D)
9.実施例8(実施例4〜実施例5、実施例7の変形)
10.実施例9(実施例1〜実施例2の別の変形。第2の態様に係る分散補償光学装置)
11.実施例10(実施例1〜実施例2の別の変形。第3の態様に係る分散補償光学装置)
12.実施例11(実施例1〜実施例10変形。半導体光増幅器の変形)
13.実施例12(実施例11の変形)
14.実施例13(実施例11〜実施例12の別の変形)
15.実施例14(実施例1〜実施例10の別の変形。半導体光増幅器の変形)
16.実施例15(実施例1〜実施例14の変形。モード同期半導体レーザ素子の変形)、その他
[本開示の半導体レーザ装置組立体、全般に関する説明]
本開示の半導体レーザ装置組立体にあっては、半導体光増幅器へ入射するレーザ光のパルス時間幅をτ1、半導体光増幅器から出力されるレーザ光のパルス時間幅をτ2としたとき、τ1>τ2であり、且つ、半導体光増幅器の駆動電流値が高い程、τ2の値が小さくなる形態とすることができる。また、半導体光増幅器において、キャリアのバンド内緩和時間は、25フェムト秒以下であることが好ましい。
上記の好ましい形態を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光スペクトル幅は4.5THz以上であることが好ましい。尚、波長λ(単位:メートル)のレーザ光の光スペクトル幅ΔSPLは、通常、長さの単位(メートル)で表されるが、これを周波数ΔSPFで表示すると、光速をc(単位:メートル/秒)としたとき、以下の関係にある。
ΔSPF=ΔSPL×c/(λ2)
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、半導体光増幅器の駆動電流密度は5×103アンペア/cm2以上であることが望ましい。尚、駆動電流密度とは、半導体光増幅器を駆動するための電流を、半導体光増幅器における駆動電流が流れる部分の面積で除した値である。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、半導体光増幅器の光閉込め係数は3%以下、好ましくは1%以下であることが望ましく、これによって、半導体光増幅器の一層の高出力化を達成することができる。尚、半導体光増幅器の光閉込め係数を3%以下、望ましくは1%以下とする手段に関しては、後に詳述する。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の半導体レーザ装置組立体にあっては、半導体光増幅器へ入射するレーザ光の光スペクトル幅に対して、半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光スペクトル幅が、2.5THz以上増加することが望ましい。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子は、ピークパワーの光密度が1×1010ワット/cm2以上、好ましくは1.4×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型のモード同期半導体レーザ素子である形態とすることができる。このように、モード同期半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のピークパワーの光密度を規定し、しかも、モード同期半導体レーザ素子におけるキャリア密度の値を規定することで、高い光パワー密度及び高いキャリア密度において自己位相変調を発生させ、これに対して適切な群速度分散値を与えることでサブピコ秒台のパルス状のレーザ光を確実に発生させることができる。しかも、このようなサブピコ秒台のパルス状のレーザ光といったパルス時間幅の狭隘化に加えて、モード同期半導体レーザ素子を電流注入型とすることで、光励起型のモード同期半導体レーザ素子に比較してエネルギー効率が高いといった利点を有する。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、分散補償光学系における群速度分散値は負である構成とすることが望ましい。尚、群速度分散値は、モード同期半導体レーザ素子の構成、構造、半導体レーザ装置組立体の構成、構造、駆動方法(例えば、キャリア注入領域(利得領域)に印加する電流量、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)に印加する逆バイアス電圧、駆動温度)等に基づき全体で決定される。あるいは又、半導体光増幅器へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値となる群速度分散値あるいはその近傍において動作させられる構成とすることが望ましい。尚、『群速度分散値の近傍』とは、後述する群速度分散極小値GVDminの近傍と同意である。
あるいは又、分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射され、半導体光増幅器に入射するレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する構成とすることが望ましい。このように、分散補償光学系の群速度分散値とモード同期半導体レーザ素子組立体から半導体光増幅器へと出射されるレーザ光のパルス時間幅との関係を規定することで、確実に、安定したサブピコ秒台のパルス状のレーザ光を発生させることができるし、発生したレーザ光におけるノイズの低減を図ることができる。そして、この場合、半導体光増幅器へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、例えば、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1|
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin|
但し、
|GVD1/GVDmin|=0.5
|GVD2/GVDmin|=2
を満足することが好ましく、更には、これらの場合、半導体光増幅器へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させられることが好ましく、更には、これらの場合、半導体光増幅器に入射するレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下、好ましくは−70dB以下であることが望ましい。尚、単調に変化させるとは、GVD1<GVD2の場合、単調に増加させることを意味し、GVD1>GVD2の場合、単調に減少させることを意味する。また、後述するように、群速度分散値が減少(群速度分散値の絶対値が増加)すると共に、時間ゼロの主パルス以外のサブパルスの個数が減少するが、サブパルスが観察されなくなったときの群速度分散値の上限値をGVDSとしたとき、『群速度分散極小値GVDminの近傍』とは、
GVDS±|GVDmin−GVDS|
で定義される。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子組立体から出力されるレーザ光は、周波数チャープが負であり、レーザ光のパルス時間幅が0.5ピコ秒以下であることが望ましい。ここで、周波数チャープが負であるとは(即ち、ダウンチャープであるとは)、パルスの時間始まりにおいては周波数が高く、時間が経過するにつれて周波数が低下することを意味する。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子は、レーザ光の繰返し周波数が1GHz以下であることが好ましい。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子は可飽和吸収領域を有する構成とすることができる。尚、従来の光励起型のモード同期半導体レーザ素子では発振特性を制御するのに半導体可飽和吸収体(SESAM)の温度特性を利用するが、可飽和吸収領域を有する形態にあっては、可飽和吸収領域への逆バイアス電圧Vsa、及び、分散補償光学系の群速度分散値に基づき発振特性を制御することができるので、発振特性の制御が容易である。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層)、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する構成とすることができる。尚、第1化合物半導体層は、基板や基体上に形成されている。
また、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、半導体光増幅器は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層)、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型と異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層、
が、順次、基体上に積層されて成る積層構造体、
第2化合物半導体層上に形成された第2電極、並びに、
第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備えた構成とすることができる。尚、第1化合物半導体層は、基板や基体上に形成されている。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、分散補償光学系に入射され、
分散補償光学系に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系から出射され、モード同期半導体レーザ素子に戻され、分散補償光学系に入射したレーザ光の残りは、半導体光増幅器に入射する形態とすることができる。
このような形態にあっては、外部共振器構造は分散補償光学系によって構成される。具体的には、分散補償光学系は、回折格子、集光手段(具体的には、レンズ)及び反射鏡(平面反射鏡。具体的には、例えば、誘電多層膜反射鏡)から成る形態とすることができる。回折格子は、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の内、1次以上の回折光を分散補償光学系に入射させ、0次の回折光を半導体光増幅器へ出射する構成とすることができる。ここで、モード同期半導体レーザ素子と回折格子との間に、モード同期半導体レーザ素子からのレーザ光を平行光束とするためのコリメート手段(具体的には、レンズ)を配してもよい。回折格子に入射(衝突)するレーザ光の中に含まれる回折格子における格子状のパターンの本数として、1200本/mm乃至3600本/mm、望ましくは2400本/mm乃至3600本/mmを例示することができる。所謂外部共振器の一端は、反射鏡から構成される。そして、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、回折格子に衝突し、1次以上の回折光が集光手段に入射し、反射鏡によって反射され、集光手段、回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子に戻される。また、0次の回折光は半導体光増幅器へ出射される。集光手段と反射鏡との間の距離を固定した状態で、回折格子と集光手段との間の距離を変えることで、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。
あるいは又、このような形態において、外部共振器構造は、分散補償光学系及び部分反射鏡(部分透過ミラー、半透過ミラー、ハーフミラーとも呼ばれる)によって構成される。そして、分散補償光学系は、具体的には、一対の回折格子から成る形態とすることができる。この場合、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、第1の回折格子に衝突し、1次以上の回折光が出射され、第2の回折格子に衝突し、1次以上の回折光が出射されて、部分反射鏡に到達する。そして、部分反射鏡に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡を通過し、半導体光増幅器へ出射される。一方、部分反射鏡に衝突したレーザ光の残りは、第2の回折格子、第1の回折格子を経由してモード同期半導体レーザ素子に戻される。第1の回折格子と第2の回折格子との間の距離を変えることで、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。あるいは又、分散補償光学系は、一対のプリズムから成る形態とすることができる。この場合、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、第1のプリズムを通過し、更に、第2のプリズムを通過し、部分反射鏡に到達する。そして、部分反射鏡に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡を通過し、半導体光増幅器へ出射される。一方、部分反射鏡に到達したレーザ光の残りは、第2のプリズム、第1のプリズムを経由してモード同期半導体レーザ素子に戻される。第1のプリズムと第2のプリズムとの間の距離を変えることで、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。あるいは又、分散補償光学系は、干渉計から成る形態とすることができる。具体的には、干渉計として、例えば、Gires−Tournois型干渉計を挙げることができる。Gires−Tournois型干渉計は、反射率1の反射鏡と反射率1未満の部分反射鏡から成り、反射光の強度スペクトルを変化させることなく位相を変化させることができる干渉計であり、反射鏡と部分反射鏡との間の距離を制御することで、あるいは又、入射レーザ光の入射角を調整することによって、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。
あるいは又、分散補償光学系は、対向して配置された第1の透過型体積ホログラム回折格子及び第2の透過型体積ホログラム回折格子から成り、各透過型体積ホログラム回折格子において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度である、即ち、
φin+φout=90度
である形態とすることができる。ここで、入射角及び出射角は、透過型体積ホログラム回折格子のレーザ光の入射面の法線と成す角度である。以下においても同様である。尚、このような分散補償光学系を、便宜上、『第1の態様に係る分散補償光学装置』と呼ぶ。
あるいは又、分散補償光学系は、対向して配置された第1の透過型体積ホログラム回折格子及び第2の透過型体積ホログラム回折格子から成り、各透過型体積ホログラム回折格子において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとは略等しい形態とすることができる。具体的には、例えば、
0.95≦φin/φout≦1.00
である。尚、このような分散補償光学系を、便宜上、『第2の態様に係る分散補償光学装置』と呼ぶ。また、第1の態様あるいは第2の態様に係る分散補償光学装置を総称して、『分散補償光学装置等』と呼ぶ場合がある。
あるいは又、分散補償光学系は、
透過型体積ホログラム回折格子及び反射鏡から成り、
透過型体積ホログラム回折格子において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度であり、あるいは又、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとは略等しく、
モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、透過型体積ホログラム回折格子に入射し、回折され、1次の回折光として出射され、反射鏡に衝突し、反射鏡によって反射された1次の回折光は、再び、透過型体積ホログラム回折格子に入射し、回折され、半導体光増幅器に出射される形態とすることができる。尚、このような分散補償光学系を、便宜上、『第3の態様に係る分散補償光学装置』と呼ぶ。
第1の態様に係る分散補償光学装置にあっては、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度であり、第2の態様に係る分散補償光学装置にあっては、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとは略等しく、また、第3の態様に係る分散補償光学装置は透過型体積ホログラム回折格子及び反射鏡から成るので、高い回折効率による高いスループットを有する小型の分散補償光学系を提供することができるし、回折角を任意に設計できるため、分散補償光学系の光学設計の自由度を高くすることができる。また、分散補償光学系における群速度分散値(分散補償量)の調整が容易となり、分散補償光学系を構成する光学部品の配置の高い自由度を達成することができる。
第1の態様に係る分散補償光学装置にあっては、モード同期半導体レーザ素子からのレーザ光が入射する第1の透過型体積ホログラム回折格子において、1次の回折光の出射角φoutはレーザ光の入射角φinよりも大きいことが、透過型体積ホログラム回折格子による角度分散を大きくするといった観点から好ましい。そして、この場合、第1の透過型体積ホログラム回折格子からの1次の回折光が入射する第2の透過型体積ホログラム回折格子にあっては、1次の回折光の出射角φoutはレーザ光の入射角φinよりも小さい構成とすることができる。尚、第1の透過型体積ホログラム回折格子におけるレーザ光の入射角φinと、第2の透過型体積ホログラム回折格子における1次の回折光の出射角(回折角)φoutとは等しく、且つ、第1の透過型体積ホログラム回折格子における1次の回折光の出射角(回折角)φoutと、第2の透過型体積ホログラム回折格子における1次の回折光の入射角φinとは等しいことが好ましい。後述する分散補償光学装置等−A〜分散補償光学装置等−Dにおいても同様である。
また、第2の態様に係る分散補償光学装置にあっては、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度であることが、分散補償光学装置における群速度分散値(分散補償量)の調整が容易となるといった観点から好ましい。
そして、上記の好ましい構成を含む分散補償光学装置等において、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として半導体光増幅器に出射される形態とすることができる。このような形態を、便宜上、『分散補償光学装置等−A』と呼ぶ。第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射するレーザ光と、第2の透過型体積ホログラム回折格子から出射されるレーザ光とは、概ね平行であることが(即ち、第1の透過型体積ホログラム回折格子から出射されたレーザ光が第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し得る収まる程度に平行であることが)、既存の光学系に分散補償光学装置を配置、挿入することが容易となるといった観点から好ましい。後述する分散補償光学装置等−B、分散補償光学装置等−Cにおいても同様である。
そして、分散補償光学装置等−Aにあっては、
平行に配置された第1の反射鏡及び第2の反射鏡を更に備えており、
第2の透過型体積ホログラム回折格子から出射されたレーザ光は、第1の反射鏡に衝突して反射され、次いで、第2の反射鏡に衝突して反射される形態とすることができる。このような形態を、便宜上、『分散補償光学装置等−B』と呼ぶ。更には、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射するレーザ光の延長線上に、第2の反射鏡に反射されたレーザ光が概ね位置しており、あるいは又、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射するレーザ光と、第2の透過型体積ホログラム回折格子から出射されるレーザ光とは、概ね平行である形態とすることができ、これによって、既存の光学系に分散補償光学装置を配置、挿入することが容易となる。分散補償光学装置等−Bは、シングルパス型の分散補償光学装置である。ここで、「概ね位置している」とは、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射するレーザ光の光スペクトルの波長中心が回折される角度の延長線上に第2の反射鏡の中心が位置することを意味する。
あるいは又、上記の好ましい構成を含む分散補償光学装置等において、
基体の第1面上に第1の透過型体積ホログラム回折格子が設けられており、
第1面と対向する基体の第2面上に第2の透過型体積ホログラム回折格子が設けられている形態とすることができる。このような形態を、便宜上、『分散補償光学装置等−C』と呼ぶ。分散補償光学装置等−Cは、シングルパス型の分散補償光学装置である。基体として、石英ガラスやBK7等の光学ガラスを含むガラスや、プラスチック材料(例えば、PMMA、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、非晶性のポリプロピレン系樹脂、AS樹脂を含むスチレン系樹脂)を挙げることができる。
あるいは又、上記の好ましい構成を含む分散補償光学装置等において、
反射鏡を更に備えており、
第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射されて、反射鏡に衝突し、
反射鏡によって反射されたレーザ光は、再び、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、再び、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、半導体光増幅器に出射される形態とすることができる。このような形態を、便宜上、『分散補償光学装置等−D』と呼ぶ。分散補償光学装置等−Dは、ダブルパス型の分散補償光学装置である。
透過型体積ホログラム回折格子を構成する材料(回折格子部材)として、フォトポリマー材料を挙げることができる。透過型体積ホログラム回折格子の構成材料や基本的な構造は、従来の透過型体積ホログラム回折格子の構成材料や構造と同じとすればよい。透過型体積ホログラム回折格子とは、+1次の回折光のみを回折・反射するホログラム回折格子を意味する。回折格子部材には、その内部から表面に亙り干渉縞が形成されているが、係る干渉縞それ自体の形成方法は、従来の形成方法と同じとすればよい。具体的には、例えば、回折格子部材(例えば、フォトポリマー材料)に対して一方の側の第1の所定の方向から物体光を照射し、同時に、回折格子部材に対して他方の側の第2の所定の方向から参照光を照射し、物体光と参照光とによって形成される干渉縞を回折格子部材の内部に記録すればよい。第1の所定の方向、第2の所定の方向、物体光及び参照光の波長を適切に選択することで、回折格子部材における干渉縞(屈折率変調度Δn)の所望の周期(ピッチ)、干渉縞の所望の傾斜角(スラント角)を得ることができる。干渉縞の傾斜角とは、透過型体積ホログラム回折格子の表面と干渉縞の成す角度を意味する。
以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む分散補償光学装置等にあっては、2つの透過型体積ホログラム回折格子の間の距離(光学的距離を含む)を変えることで、群速度分散値(分散補償量)を変えることができる。ここで、分散補償光学装置等−Cにおいて、2つの透過型体積ホログラム回折格子の間の距離を変えるためには基体の厚さを変えればよいが、実際には、群速度分散値(分散補償量)は固定値である。また、分散補償光学装置等−Dにあっては、第2の透過型体積ホログラム回折格子と反射鏡との間の距離を変えてもよい。更には、第3の態様に係る分散補償光学装置にあっては、透過型体積ホログラム回折格子と反射鏡の間の距離を変えることで、群速度分散値(分散補償量)を変えることができる。距離を変えるためには、周知の移動手段を用いればよい。必要とされる群速度分散値は、モード同期半導体レーザ素子から出射されるレーザ光の特性に依存する。そして、レーザ光の特性は、モード同期半導体レーザ素子の構成、構造、半導体レーザ装置組立体の構成、構造、駆動方法(例えば、キャリア注入領域(利得領域)に印加する電流量、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)に印加する逆バイアス電圧、駆動温度)等に基づき全体で決定され、群速度分散値(分散補償量)に基づき、アップチャープ現象[パルスの持続時間内に波長が長波から短波に変化する(周波数が増加する)現象]、ダウンチャープ現象[パルスの持続時間内に波長が短波から長波(周波数が減少)に変化する現象]のいずれも生じ得る。尚、チャープ無しとは、パルスの持続時間内で波長が変化しない現象[周波数が変化しない現象]を指す。そして、分散補償光学装置の群速度分散値の値を適切に選択することで、レーザ光のパルス時間幅を伸長/圧縮することができる。具体的には、例えば、アップチャープ現象を示すレーザ光に対して群速度分散値の値を正/負の値とすることで、レーザ光のパルス時間幅を伸長/圧縮することが可能であるし、ダウンチャープ現象を示すレーザ光に対して群速度分散値の値を正/負の値とすることで、レーザ光のパルス時間幅を圧縮/伸長することが可能である。透過型体積ホログラム回折格子にて回折され、出射された1次の回折光において、長波長成分の光路長と短波長成分の光路長とは異なる。そして、長波長成分の光路が短波長成分の光路よりも長くなる場合には、負の群速度分散を形成する。即ち、群速度分散値は負となる。一方、長波長成分の光路が短波長成分の光路よりも短くなる場合には、正の群速度分散を形成する。即ち、群速度分散値は正となる。従って、このような長波長成分の光路長と短波長成分の光路長の長短が達成できるように、光学要素を配すればよい。より具体的には、本開示の半導体レーザ装置組立体にあっては、群速度分散値が負となるように、光学要素を配すればよい。
アップチャープ現象等と群速度分散値の値との関係を、以下の表1に例示する。尚、表1では、アップチャープ現象を有するレーザ光を「アップチャープ・レーザ光」と表記し、ダウンチャープ現象を有するレーザ光を「ダウンチャープ・レーザ光」と表記し、チャープ無しのレーザ光を「チャープ無し・レーザ光」と表記する。
[表1]
チャープ現象 群速度分散値 レーザ光のパルス時間幅
アップチャープ・レーザ光 正 伸長
アップチャープ・レーザ光 負 圧縮
ダウンチャープ・レーザ光 正 圧縮
ダウンチャープ・レーザ光 負 伸長
チャープ無し・レーザ光 正 伸長
チャープ無し・レーザ光 負 伸長
より具体的には、分散補償光学装置等−B、分散補償光学装置等−C、分散補償光学装置等−D、及び、第2の態様に係る分散補償光学装置にあっては、群速度分散値は負である。一方、第3の態様に係る分散補償光学装置にあっては、群速度分散値は正、負、どちらの値ともなる。それ故、前述したとおり、本開示の半導体レーザ装置組立体にあっては、群速度分散値が負となるように、光学要素を配すればよい。
分散補償光学装置等−A、分散補償光学装置等−B、分散補償光学装置等−Cから構成された半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子の第2端面(光出射端面)と分散補償光学装置、あるいは、モード同期半導体レーザ素子の第2端面と分散補償光学装置との間に部分反射鏡を配置することで、モード同期半導体レーザ素子の第1端面(第2端面と対向する端面であり、レーザ光反射端面)と部分反射鏡とによって外部共振器構造が構成される。また、分散補償光学装置等−Dから構成された半導体レーザ装置組立体にあっては、分散補償光学装置と第1端面とによって外部共振器構造が構成される。
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光に対して光スペクトルを整形する光スペクトル整形手段を更に備えており、整形後のレーザ光が半導体光増幅器に入射する構成とすることができ、この場合、光スペクトル整形手段は、誘電多層膜から構成されたバンドパスフィルタから成り、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光は、バンドパスフィルタを複数回、通過する構成とすることができる。バンドパスフィルタは、例えば、低誘電率を有する誘電体薄膜と高誘電率を有する誘電体薄膜とを積層することで得ることができる。このように、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光を、光スペクトル整形手段を通過させることで、より確実に、適切なパルス伸長状態を得ることができる。
前述したとおり、半導体光増幅器の光閉込め係数を3%以下、望ましくは1%以下とすることが望ましいが、そのためには、半導体光増幅器において、
第1化合物半導体層は、基体側から、第1クラッド層及び第1光ガイド層の積層構造を有し、
積層構造体は、第2化合物半導体層、第3化合物半導体層(活性層)、及び、第1光ガイド層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造を有し、
第1光ガイド層の厚さをt1、リッジストライプ構造を構成する第1光ガイド層の部分の厚さをt1’としたとき、
6×10-7m<t1
好ましくは、
8×10-7m≦t1
を満足し、
0(m)<t1’≦0.5・t1
好ましくは、
0(m)<t1’≦0.3・t1
を満足する形態とすることが好ましい。尚、このような形態の半導体光増幅器を、便宜上、『第1の構成の半導体光増幅器』と呼ぶ。このように、第1光ガイド層の厚さt1を規定することで、光閉込め係数を低くすることができ、また、光場強度分布のピークが第3化合物半導体層(活性層)から第1光ガイド層へと移動する結果、高出力動作時に第3化合物半導体層付近の光密度を低下させることができ、光学的損傷を防ぐことができるだけでなく、半導体光増幅器において、増幅レーザ光の飽和エネルギーが増大し、高出力化の達成を図ることができる。しかも、リッジストライプ構造を構成する第1光ガイド層の部分の厚さt1’を規定することで、出力される光ビームの単一モード化を達成することができる。また、スラブ導波路の幅と第1光ガイド層の厚さが同程度となる結果、真円に近い光ビーム断面形状を得ることができ、レンズや光ファイバーを用いる応用において集光特性が劣化する等の弊害が生じることが無い。あるいは又、リッジストライプ構造の幅(例えば、光出射端面におけるリッジストライプ構造の幅)をWとしたとき、
0.2×W<t1<1.2×W
好ましくは、
0.2×W<t1≦W
の関係を満足することが好ましい。尚、
t1≦3×10-6m
を満足することが望ましい。第1ガイド層の厚さt1を3×10-6m以下とする結晶成長を行えば、結晶成長表面モホロジーが荒れることが無く、半導体光増幅器から出力されるレーザ光の特性や電気特性が劣化することを防止し得る。
尚、第1の構成の半導体光増幅器において、半導体光増幅器は単一モードの光ビームを出力する形態とすることができる。そして、この場合、積層構造体の光出射端面から出力された光ビームのリッジストライプ構造の幅方向の寸法をLBX、リッジストライプ構造の厚さ方向の寸法をLBYとしたとき、
0.2≦LBY/LBX≦1.2
好ましくは、
0.2≦LBY/LBX≦1.0
を満足することが望ましい。更には、積層構造体の光出射端面において、リッジストライプ構造の厚さ方向に沿った、積層構造体における活性層中心点から、積層構造体から出力される光ビームの中心点までの距離YCCは、
t1’≦YCC≦t1
好ましくは、
t1’≦YCC≦0.5・t1
を満足することが望ましい。
そして、第1の構成の半導体光増幅器において、第1光ガイド層内には、第1光ガイド層を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層が形成されている構成とすることができる。
具体的には、第1の構成の半導体光増幅器におけるこのような構成にあっては、第1光ガイド層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnG-1、高屈折率層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnHRとしたとき、
0.01≦nHR−nG-1≦0.1
好ましくは、
0.03≦nHR−nG-1≦0.1
を満足する形態とすることができる。尚、第3化合物半導体層(活性層)を構成する化合物半導体材料の平均屈折率をnAcとしたとき、
nHR≦nAc
を満足することが好ましい。更には、第2化合物半導体層は、基体側から、第2光ガイド層及び第2クラッド層の積層構造を有し、第1光ガイド層の厚さは、第2光ガイド層の厚さよりも厚い形態とすることができる。
あるいは又、前述したとおり、光閉込め係数を3%以下、望ましくは1%以下とすることが望ましいが、そのためには、半導体光増幅器において、
積層構造体は、少なくとも第2化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造を有し、
第1化合物半導体層は、0.6μmを超える厚さ(厚さの上限値として、例えば、10μmを例示することができる)を有し、
第1化合物半導体層内には、第1化合物半導体層を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層が形成されている形態とすることができる。尚、このような形態の半導体光増幅器を、便宜上、『第2の構成の半導体光増幅器』と呼ぶ。
このように、第2の構成の半導体光増幅器にあっては、第1化合物半導体層は0.6μmを超える厚さを有するので、光閉込め係数を低くすることができ、また、光場強度分布のピークが第3化合物半導体層(活性層)から第1化合物半導体層へと移動する結果、高出力動作時に第3化合物半導体層付近の光密度を低下させることができ、光学的損傷を防ぐことができるだけでなく、半導体光増幅器において、増幅レーザ光の飽和エネルギーが増大し、高出力化の達成を図ることができる。しかも、第1化合物半導体層内には、第1化合物半導体層を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層が形成されているので、高屈折率層を設けない場合と比較して、より広い範囲で化合物半導体層の厚さ方向の単一モードの条件を満たすことができ、カットオフ条件の緩和が可能となり、単一モードの光ビームを出力することができる。
そして、第2の構成の半導体光増幅器において、
第1化合物半導体層は、基体側から、第1クラッド層及び第1光ガイド層の積層構造を有し、
第1光ガイド層は、0.6μmを超える厚さを有し、
高屈折率層は、第1光ガイド層の内部に形成されている形態とすることができる。即ち、このような形態にあっては、第1光ガイド層は、基体側から、第1光ガイド層の第1の部分、高屈折率層、第1光ガイド層の第2の部分が積層された構成を有する。ここで、第1光ガイド層の第1の部分を、便宜上、『第1−A光ガイド層』と呼び、第1光ガイド層の第2の部分を、便宜上、『第1−B光ガイド層』と呼ぶ。
そして、この場合、第3化合物半導体層(活性層)と第1光ガイド層との界面(第3化合物半導体層と第1−B光ガイド層との界面)から、第3化合物半導体層側に位置する第1光ガイド層の部分(第1−B光ガイド層)と高屈折率層との界面までの距離(云い換えれば、第1−B光ガイド層の厚さ)は、0.25μm以上であることが望ましい。尚、第1光ガイド層の厚さから高屈折率層の厚さを減じた値の上限値として、5μmを例示することができる。
また、第1光ガイド層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnG-1、高屈折率層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnHRとしたとき、
0<nHR−nG-1≦0.3
好ましくは、
0.02≦nHR−nG-1≦0.2
を満足する形態とすることができる。尚、第3化合物半導体層(活性層)を構成する化合物半導体材料の平均屈折率をnAcとしたとき、
nHR≦nAc
を満足することが好ましい。
そして、第2の構成の半導体光増幅器にあっては、半導体光増幅器は単一モードの光ビームを出力する形態とすることができる。そして、この場合、積層構造体の光出射端面から出力された光ビームのリッジストライプ構造の幅方向の寸法をLBX、リッジストライプ構造の厚さ方向の寸法をLBYとしたとき、
3×100≦LBY/LBX≦1×103
好ましくは、
1×101≦LBY/LBX≦1×102
を満足することが望ましい。更には、積層構造体の光出射端面において、リッジストライプ構造の厚さ方向に沿った、積層構造体における活性層中心点から、積層構造体から出力される光ビームの中心点までの距離YCCは、
0m<YCC≦(第1光ガイド層の厚さ)
好ましくは、
0m<YCC≦(第1−B光ガイド層の厚さ)
を満足することが望ましい。更には、第2化合物半導体層は、基体側から、第2光ガイド層及び第2クラッド層の積層構造を有し、第1光ガイド層の厚さは、第2光ガイド層の厚さよりも厚い形態とすることができる。
モード同期半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のピークパワーの光密度は、レーザ光のパワー(単位はワットであり、パルスであるのでピークパワー)をモード同期半導体レーザ素子端面における近視野像の断面積(ピーク強度に対して1/e2となる領域)で除することによって得ることができる。また、キャリア密度は、キャリア寿命を測定し、注入電流量をゲイン部の電極(例えば、後述する第2電極の第1部分)の面積で除した値にキャリア寿命を乗ずることで得ることができる。更には、群速度分散値は、被測定光パルスを、既知の分散量を有する媒質を透過させた後にみられるパルス時間幅の変化を測定する方法や、周波数分解型光ゲート法(Frequency resolved optical gating,FROG)で得ることができる。また、1ピコ秒程度あるいはそれ以下のパルス時間幅は、SHG強度相関測定装置を用いて測定することができる。
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子は、共振器方向に発光領域と可飽和吸収領域とを並置したバイ・セクション(Bi Section)型のモード同期半導体レーザ素子から成り、
バイ・セクション型のモード同期半導体レーザ素子は、
(a)第1導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層、GaN系化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層(活性層)、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2化合物半導体層上に形成された帯状の第2電極、並びに、
(c)第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、
を備えており、
第2電極は、発光領域を経由して第1電極に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分と、可飽和吸収領域に電界を加えるための第2部分とに、分離溝によって分離されている形態とすることができる。
そして、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の1×10倍以上、好ましくは1×102倍以上、より好ましくは1×103倍以上であることが望ましい。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第1の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ。あるいは又、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値は、1×102Ω以上、好ましくは1×103Ω以上、より好ましくは1×104Ω以上であることが望ましい。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第2の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ。
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2電極の第1部分から発光領域を経由して第1電極に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極と第2電極の第2部分との間に電圧(逆バイアス電圧Vsa)を印加することによって可飽和吸収領域に電界を加えることで、モード同期動作させることができる。
このような第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2電極の第1部分と第2部分との間の電気抵抗値を、第2電極と第1電極との間の電気抵抗値の10倍以上とし、あるいは又、1×102Ω以上とすることで、第2電極の第1部分から第2部分への漏れ電流の流れを確実に抑制することができる。即ち、可飽和吸収領域(キャリア非注入領域)へ印加する逆バイアス電圧Vsaを高くすることができるため、パルス時間幅のより短いパルス状のレーザ光を有するモード同期動作を実現できる。そして、第2電極の第1部分と第2部分との間のこのような高い電気抵抗値を、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離するだけで達成することができる。
また、第1の構成及び第2の構成のモード同期半導体レーザ素子にあっては、限定するものではないが、
第3化合物半導体層は、井戸層及び障壁層を備えた量子井戸構造を有し、
井戸層の厚さは、1nm以上、10nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下であり、
障壁層の不純物ドーピング濃度は、2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下、好ましくは、1×1019cm-3以上、1×1020cm-3以下である形態とすることができる。尚、このようなモード同期半導体レーザ素子を、便宜上、『第3の構成のモード同期半導体レーザ素子』と呼ぶ場合がある。尚、活性層に量子井戸構造を採用することで、量子ドット構造を採用するよりも高い注入電流量を実現することができ、容易に高出力を得ることができる。
このように、第3化合物半導体層を構成する井戸層の厚さを1nm以上、10nm以下と規定し、更には、第3化合物半導体層を構成する障壁層の不純物ドーピング濃度を2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下と規定することで、即ち、井戸層の厚さを薄くし、しかも、第3化合物半導体層のキャリアの増加を図ることで、ピエゾ分極の影響を低減させることができ、パルス時間幅が短く、サブパルス成分の少ない単峰化されたレーザ光を発生させ得るレーザ光源を得ることができる。また、低い逆バイアス電圧Vsaでモード同期駆動を達成することが可能となるし、外部信号(電気信号及び光信号)と同期が取れたレーザ光のパルス列を発生させることが可能となる。障壁層にドーピングされた不純物はシリコン(Si)である構成することができるが、これに限定するものではなく、その他、酸素(O)とすることもできる。
ここで、モード同期半導体レーザ素子は、リッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造、Separate Confinement Heterostructure)を有する半導体レーザ素子である形態とすることができる。あるいは又、斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造を有する半導体レーザ素子である形態とすることができる。即ち、モード同期半導体レーザ素子の軸線とリッジストライプ構造の軸線とは、所定の角度で交わっている構成とすることができる。ここで、所定の角度θとして、0.1度≦θ≦10度を例示することができる。リッジストライプ構造の軸線とは、光出射端面(便宜上、『第2端面』と呼ぶ場合がある)におけるリッジストライプ構造の両端の二等分点と、光出射端面(第2端面)とは反対側の積層構造体の端面(便宜上、『第1端面』と呼ぶ場合がある)におけるリッジストライプ構造の両端の二等分点とを結ぶ直線である。また、モード同期半導体レーザ素子の軸線とは、第1端面及び第2端面に直交する軸線を指す。リッジストライプ構造の平面形状は、直線状であってもよいし、湾曲していてもよい。
あるいは又、モード同期半導体レーザ素子において、第2端面におけるリッジストライプ構造の幅をW2、第1端面におけるリッジストライプ構造の幅をW1としたとき、W1=W2であってもよいし、W2>W1としてもよい。尚、W2は5μm以上である形態とすることができ、W2の上限値として、限定するものではないが、例えば、4×102μmを例示することができる。また、W1は1.4μm乃至2.0μmである形態とすることができる。リッジストライプ構造の各端部は、1本の線分から構成されていてもよいし、2本以上の線分から構成されていてもよい。前者の場合、リッジストライプ構造の幅は、例えば、第1端面から第2端面に向かって、単調に、テーパー状に緩やかに広げられる構成することができる。一方、後者の場合、リッジストライプ構造の幅は、例えば、第1端面から第2端面に向かって、先ず同じ幅であり、次いで、単調に、テーパー状に緩やかに広げられ、あるいは又、リッジストライプ構造の幅は、例えば、第1端面から第2端面に向かって、先ず広げられ、最大幅を超えた後、狭められる構成とすることができる。
モード同期半導体レーザ素子にあっては、レーザ光ビーム(パルス状のレーザ光)が出射される積層構造体の第2端面の光反射率は0.5%以下であることが好ましい。具体的には、第2端面には低反射コート層が形成されている構成とすることができる。ここで、低反射コート層は、例えば、酸化チタン層、酸化タンタル層、酸化ジルコニア層、酸化シリコン層及び酸化アルミニウム層から成る群から選択された少なくとも2種類の層の積層構造から成る。尚、この光反射率の値は、従来の半導体レーザ素子においてレーザ光ビーム(パルス状のレーザ光)が出射される積層構造体の一端面の光反射率(通常、5%乃至10%)よりも格段に低い値である。また、第1端面は、高い光反射率、例えば、反射率85%以上、好ましくは反射率95%以上の高い反射率を有することが好ましい。
外部共振器における外部共振器長さ(X’,単位:mm)の値は、
0<X’<1500
好ましくは、
30≦X’≦500
であることが望ましい。ここで、外部共振器は、モード同期半導体レーザ素子の第1端面と、外部共振器構造を構成する反射鏡あるいは部分反射鏡、分散補償光学装置によって構成される。外部共振器長さとは、モード同期半導体レーザ素子の第1端面と、外部共振器構造を構成する反射鏡あるいは部分反射鏡、分散補償光学装置との間の距離である。
モード同期半導体レーザ素子において、積層構造体は、少なくとも第2化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造を有するが、このリッジストライプ構造は、第2化合物半導体層のみから構成されていてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層(活性層)から構成されていてもよいし、第2化合物半導体層、第3化合物半導体層(活性層)、及び、第1化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されていてもよい。
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子において、限定するものではないが、
第2電極の幅は、0.5μm以上、50μm以下、好ましくは1μm以上、5μm以下、
リッジストライプ構造の高さは、0.1μm以上、10μm以下、好ましくは0.2μm以上、1μm以下、
第2電極を第1部分と第2部分とに分離する分離溝の幅は、1μm以上、モード同期半導体レーザ素子における共振器長(以下、単に『共振器長』と呼ぶ)の50%以下、好ましくは10μm以上、共振器長の10%以下であることが望ましい。共振器長として、0.6mmを例示することができるが、これに限定するものではない。リッジストライプ構造の両側面よりも外側に位置する第2化合物半導体層の部分の頂面から第3化合物半導体層(活性層)までの距離dは1.0×10-7m(0.1μm)以上であることが好ましい。距離dをこのように規定することによって、第3化合物半導体層の両脇(Y方向)に可飽和吸収領域を確実に形成することができる。距離dの上限は、閾値電流の上昇、温度特性、長期駆動時の電流上昇率の劣化等に基づき決定すればよい。尚、以下の説明において、共振器長方向をX方向とし、積層構造体の厚さ方向をZ方向とする。
更には、上記の好ましい形態を含む第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子、本開示の半導体レーザ装置組立体における半導体光増幅器において、第2電極は、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/白金層の積層構造、又は、パラジウム層が第2化合物半導体層に接するパラジウム層/ニッケル層の積層構造から成る形態とすることができる。尚、下層金属層をパラジウムから構成し、上層金属層をニッケルから構成する場合、上層金属層の厚さを、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層から成る構成とすることが好ましく、この場合、厚さを、20nm以上、好ましくは50nm以上とすることが望ましい。あるいは又、第2電極を、パラジウム(Pd)単層、ニッケル(Ni)単層、白金(Pt)単層、又は、下層金属層が第2化合物半導体層に接する下層金属層と上層金属層の積層構造(但し、下層金属層は、パラジウム、ニッケル及び白金から成る群から選択された1種類の金属から構成され、上層金属層は、後述する工程(D)において第2電極に分離溝を形成する際のエッチングレートが、下層金属層のエッチングレートと同じ、あるいは同程度、あるいは、下層金属層のエッチングレートよりも高い金属から構成されている)から成る構成とすることが好ましい。また、後述する工程(D)において第2電極に分離溝を形成する際のエッチング液を、王水、硝酸、硫酸、塩酸、又は、これらの酸の内の少なくとも2種類の混合液(具体的には、硝酸と硫酸の混合液、硫酸と塩酸の混合液)とすることが望ましい。
以上に説明した好ましい構成、形態を含むモード同期半導体レーザ素子において、可飽和吸収領域の長さは発光領域の長さよりも短い構成とすることができる。あるいは又、第2電極の長さ(第1部分と第2部分の総計の長さ)は第3化合物半導体層(活性層)の長さよりも短い構成とすることができる。第2電極の第1部分と第2部分の配置状態として、具体的には、
(1)1つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分と、第2電極の第2部分とが、分離溝を挟んで配置されている状態
(2)1つの第2電極の第1部分と2つの第2電極の第2部分とが設けられ、第1部分の一端が、一方の分離溝を挟んで、一方の第2部分と対向し、第1部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第2部分と対向している状態
(3)2つの第2電極の第1部分と1つの第2電極の第2部分とが設けられ、第2部分の端部が、一方の分離溝を挟んで、一方の第1部分と対向し、第2部分の他端が、他方の分離溝を挟んで、他方の第1部分と対向している状態(即ち、第2電極は、第2部分を第1部分で挟んだ構造)
を挙げることができる。また、広くは、
(4)N個の第2電極の第1部分と(N−1)個の第2電極の第2部分とが設けられ、第2電極の第1部分が第2電極の第2部分を挟んで配置されている状態
(5)N個の第2電極の第2部分と(N−1)個の第2電極の第1部分とが設けられ、第2電極の第2部分が第2電極の第1部分を挟んで配置されている状態
を挙げることができる。尚、(4)及び(5)の状態は、云い換えれば、
(4’)N個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]と(N−1)個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]とが設けられ、発光領域が可飽和吸収領域を挟んで配置されている状態
(5’)N個の可飽和吸収領域[キャリア非注入領域]と(N−1)個の発光領域[キャリア注入領域、利得領域]とが設けられ、可飽和吸収領域が発光領域を挟んで配置されている状態
である。尚、(3)、(5)、(5’)の構造を採用することで、モード同期半導体レーザ素子の光出射端面における損傷が発生し難くなる。
モード同期半導体レーザ素子は、例えば、以下の方法で製造することができる。即ち、
(A)基体上に、第1導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層、GaN系化合物半導体から成る発光領域及び可飽和吸収領域を構成する第3化合物半導体層、並びに、第1導電型と異なる第2導電型を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層が、順次、積層されて成る積層構造体を形成した後、
(B)第2化合物半導体層上に帯状の第2電極を形成し、次いで、
(C)第2電極をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層の一部分をエッチングして、リッジストライプ構造を形成した後、
(D)分離溝を第2電極に形成するためのレジスト層を形成し、次いで、レジスト層をウエットエッチング用マスクとして、第2電極に分離溝をウエットエッチング法にて形成し、以て、第2電極を第1部分と第2部分とに分離溝によって分離する、
各工程を具備した製造方法に基づき製造することができる。
そして、このような製造方法を採用することで、即ち、帯状の第2電極をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層の一部分をエッチングして、リッジストライプ構造を形成するので、即ち、パターニングされた第2電極をエッチング用マスクとして用いてセルフアライン方式にてリッジストライプ構造を形成するので、第2電極とリッジストライプ構造との間に合わせずれが生じることがない。また、第2電極に分離溝をウエットエッチング法にて形成する。このように、ドライエッチング法と異なり、ウエットエッチング法を採用することで、第2化合物半導体層に光学的、電気的特性の劣化が生じることを抑制することができる。それ故、発光特性に劣化が生じることを、確実に防止することができる。
尚、工程(C)にあっては、第2化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層を厚さ方向に全部、エッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層を厚さ方向にエッチングしてもよいし、第2化合物半導体層及び第3化合物半導体層、更には、第1化合物半導体層を厚さ方向に一部分、エッチングしてもよい。
更には、前記工程(D)において、第2電極に分離溝を形成する際の、第2電極のエッチングレートをER0、積層構造体のエッチングレートをER1としたとき、ER0/ER1≧1×10、好ましくは、ER0/ER1≧1×102を満足することが望ましい。ER0/ER1がこのような関係を満足することで、積層構造体をエッチングすること無く(あるいは、エッチングされても僅かである)、第2電極を確実にエッチングすることができる。
モード同期半導体レーザ素子あるいは半導体光増幅器(以下、これらを総称して、『モード同期半導体レーザ素子等』と呼ぶ場合がある)において、積層構造体は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成る構成とすることができる。第1の構成あるいは第2の構成の半導体光増幅器における高屈折率層も、AlGaInN系化合物半導体から成る構成とすることができる。ここで、AlGaInN系化合物半導体として、より具体的には、GaN、AlGaN、GaInN、AlGaInNを挙げることができる。更には、これらの化合物半導体に、所望に応じて、ホウ素(B)原子やタリウム(Tl)原子、ヒ素(As)原子、リン(P)原子、アンチモン(Sb)原子が含まれていてもよい。また、第3化合物半導体層(活性層)は、量子井戸構造を有することが望ましい。具体的には、単一量子井戸構造[QW構造]を有していてもよいし、多重量子井戸構造[MQW構造]を有していてもよい。量子井戸構造を有する第3化合物半導体層(活性層)は、井戸層及び障壁層が、少なくとも1層、積層された構造を有するが、(井戸層を構成する化合物半導体,障壁層を構成する化合物半導体)の組合せとして、(InyGa(1-y)N,GaN)、(InyGa(1-y)N,InzGa(1-z)N)[但し、y>z]、(InyGa(1-y)N,AlGaN)を例示することができる。
更には、モード同期半導体レーザ素子等において、第2化合物半導体層は、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有し;超格子構造の厚さは0.7μm以下である構造とすることができる。このような超格子構造の構造を採用することで、クラッド層として必要な屈折率を維持しながら、モード同期半導体レーザ素子等の直列抵抗成分を下げることができ、モード同期半導体レーザ素子等の低動作電圧化につながる。尚、超格子構造の厚さの下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができるし、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さとして1nm乃至5nmを例示することができるし、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計として、60層乃至300層を例示することができる。また、第3化合物半導体層から第2電極までの距離は1μm以下、好ましくは、0.6μm以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層から第2電極までの距離を規定することで、抵抗の高いp型の第2化合物半導体層の厚さを薄くし、モード同期半導体レーザ素子等の動作電圧の低減化を達成することができる。尚、第3化合物半導体層から第2電極までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、0.3μmを挙げることができる。また、第2化合物半導体層には、Mgが、1×1019cm-3以上、ドーピングされており;第3化合物半導体層からの波長405nmの光に対する第2化合物半導体層の吸収係数は、少なくとも50cm-1である構成とすることができる。このMgの原子濃度は、2×1019cm-3の値で最大の正孔濃度を示すという材料物性に由来しており、最大の正孔濃度、即ち、この第2化合物半導体層の比抵抗が最小になるように設計された結果である。第2化合物半導体層の吸収係数は、モード同期半導体レーザ素子等の抵抗を出来るだけ下げるという観点で規定されているものであり、その結果、第3化合物半導体層の光の吸収係数が、50cm-1となるのが一般的である。しかし、この吸収係数を上げるために、Mgドープ量を故意に2×1019cm-3以上の濃度に設定することも可能である。この場合には、実用的な正孔濃度が得られる上での上限のMgドープ量は、例えば8×1019cm-3である。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層、及び、p型化合物半導体層を有しており;第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離は、1.2×10-7m以下である構成とすることができる。このように第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離を規定することで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制することができ、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させることができる。尚、第3化合物半導体層からp型化合物半導体層までの距離の下限値として、限定するものではないが、例えば、5×10-8mを挙げることができる。また、リッジストライプ構造の両側面には、SiO2/Si積層構造から成る積層絶縁膜が形成されており;リッジストライプ構造の有効屈折率と積層絶縁膜の有効屈折率との差は、5×10-3乃至1×10-2である構成とすることができる。このような積層絶縁膜を用いることで、100ミリワットを超える高出力動作であっても、単一基本横モードを維持することができる。また、第2化合物半導体層は、第3化合物半導体層側から、例えば、ノンドープGaInN層(p側光ガイド層)、MgドープAlGaN層(電子障壁層)、GaN層(Mgドープ)/AlGaN層の超格子構造(超格子クラッド層)、及び、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が積層されて成る構造とすることができる。第3化合物半導体層における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは、2.4eV以上であることが望ましい。また、第3化合物半導体層(活性層)から出射、出力されるレーザ光の波長は、360nm乃至500nm、好ましくは400nm乃至410nmであることが望ましい。ここで、以上に説明した各種の構成を、適宜、組み合わせることができることは云うまでもない。
モード同期半導体レーザ素子等にあっては、モード同期半導体レーザ素子等を構成する各種のGaN系化合物半導体層を基板や基体に順次形成するが、ここで、基板や基体として、サファイア基板の他にも、GaAs基板、GaN基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnS基板、ZnO基板、AlN基板、LiMgO基板、LiGaO2基板、MgAl2O4基板、InP基板、Si基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。主に、GaN系化合物半導体層を基板に形成する場合、GaN基板が欠陥密度の少なさから好まれるが、GaN基板は成長面によって、極性/無極性/半極性と特性が変わることが知られている。また、モード同期半導体レーザ素子等を構成する各種の化合物半導体層(例えば、GaN系化合物半導体層)の形成方法として、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法,MOVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法等を挙げることができる。
ここで、MOCVD法における有機ガリウム源ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)ガスやトリエチルガリウム(TEG)ガスを挙げることができるし、窒素源ガスとして、アンモニアガスやヒドラジンガスを挙げることができる。また、n型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、n型不純物(n型ドーパント)としてケイ素(Si)を添加すればよいし、p型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、p型不純物(p型ドーパント)としてマグネシウム(Mg)を添加すればよい。また、GaN系化合物半導体層の構成原子としてアルミニウム(Al)あるいはインジウム(In)が含まれる場合、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いればよいし、In源としてトリメチルインジウム(TMI)ガスを用いればよい。更には、Si源としてモノシランガス(SiH4ガス)を用いればよいし、Mg源としてシクロペンタジエニルマグネシウムガスやメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いればよい。尚、n型不純物(n型ドーパント)として、Si以外に、Ge、Se、Sn、C、Te、S、O、Pd、Poを挙げることができるし、p型不純物(p型ドーパント)として、Mg以外に、Zn、Cd、Be、Ca、Ba、C、Hg、Srを挙げることができる。
モード同期半導体レーザ素子等において、第1導電型をn型とするとき、n型の導電型を有する第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極は、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、タングステン(W)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、錫(Sn)及びインジウム(In)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましく、例えば、Ti/Au、Ti/Al、Ti/Pt/Auを例示することができる。第1電極は第1化合物半導体層に電気的に接続されているが、第1電極が第1化合物半導体層上に形成された形態、第1電極が導電材料層や導電性の基板や基体を介して第1化合物半導体層に接続された形態が包含される。第1電極や第2電極は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等のPVD法にて成膜することができる。
第1電極や第2電極上に、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するために、パッド電極を設けてもよい。パッド電極は、Ti(チタン)、アルミニウム(Al)、Pt(白金)、Au(金)、Ni(ニッケル)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましい。あるいは又、パッド電極を、Ti/Pt/Auの多層構成、Ti/Auの多層構成に例示される多層構成とすることもできる。
第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子においては、前述したとおり、第1電極と第2部分との間に逆バイアス電圧Vsaを印加する構成(即ち、第1電極を正極、第2部分を負極とする構成)とすることが望ましい。尚、第2電極の第2部分には、第2電極の第1部分に印加するパルス電流あるいはパルス電圧と同期したパルス電流あるいはパルス電圧を印加してもよいし、直流バイアスを印加してもよい。また、第2電極から発光領域を経由して第1電極に電流を流し、且つ、第2電極から発光領域を経由して第1電極に外部電気信号を重畳させる形態とすることができる。そして、これによって、レーザ光と外部電気信号との間の同期を取ることができる。あるいは又、積層構造体の一端面から光信号を入射させる形態とすることができる。そして、これによっても、レーザ光と光信号との間の同期を取ることができる。また、第2化合物半導体層において、第3化合物半導体層と電子障壁層との間には、ノンドープ化合物半導体層(例えば、ノンドープGaInN層、あるいは、ノンドープAlGaN層)を形成してもよい。更には、第3化合物半導体層とノンドープ化合物半導体層との間に、光ガイド層としてのノンドープGaInN層を形成してもよい。第2化合物半導体層の最上層を、MgドープGaN層(p側コンタクト層)が占めている構造とすることもできる。
モード同期半導体レーザ素子は、バイ・セクション型(2電極型)の半導体レーザ素子に限定するものではなく、その他、マルチセクション型(多電極型)の半導体レーザ素子、発光領域と可飽和吸収領域とを垂直方向に配置したSAL(Saturable Absorber Layer)型や、リッジストライプ構造に沿って可飽和吸収領域を設けたWI(Weakly Index guide)型の半導体レーザ素子を採用することもできる。
本開示の半導体レーザ装置組立体を、例えば、光ディスクシステム、通信分野、光情報分野、光電子集積回路、非線形光学現象を応用した分野、光スイッチ、レーザ計測分野や種々の分析分野、超高速分光分野、多光子励起分光分野、質量分析分野、多光子吸収を利用した顕微分光の分野、化学反応の量子制御、ナノ3次元加工分野、多光子吸収を応用した種々の加工分野、医療分野、バイオイメージング分野、量子情報通信分野、量子情報処理分野といった分野に適用することができる。
実施例1は、本開示の半導体レーザ装置組立体に関する。実施例1の半導体レーザ装置組立体の概念図を図1に示し、モード同期半導体レーザ素子10の共振器の延びる方向に沿った(即ち、図3の矢印I−Iに沿った)模式的な端面図を図2に示し、モード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向と直角方向に沿った(即ち、図2の矢印II−IIに沿った)模式的な断面図を図3に示す。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15の半導体レーザ装置組立体は、
モード同期半導体レーザ素子10、及び、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系110から構成されたモード同期半導体レーザ素子組立体、並びに、
モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光を増幅する、III−V族窒化物系半導体層の積層構造体から成る半導体光増幅器210、
から構成されている。
ここで、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10は、可飽和吸収領域を有する。具体的には、モード同期半導体レーザ素子10は、共振器方向に発光領域と可飽和吸収領域とを並置したバイ・セクション型のモード同期半導体レーザ素子から成る。あるいは又、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型(実施例においては、n型導電型)を有する第1化合物半導体層30、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層)40、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型(実施例においては、p型導電型)を有する第2化合物半導体層50、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する。第1化合物半導体層30は、基体(具体的には、基板21)上に形成されている。
そして、実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15において、モード同期半導体レーザ素子10は、ピークパワーの光密度が1×1010ワット/cm2以上、好ましくは1.4×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型であって受動モード同期のモード同期半導体レーザ素子である。より具体的には、発光波長405nm帯のバイ・セクション型のモード同期半導体レーザ素子10は、第1の構成あるいは第2の構成のモード同期半導体レーザ素子であり、図2及び図3に示すように、
(a)第1導電型(具体的には、n型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層30、GaN系化合物半導体から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層)40、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(具体的には、p型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体、
(b)第2化合物半導体層50上に形成された帯状の第2電極62、並びに、
(c)第1化合物半導体層30に電気的に接続された第1電極61、
を備えている。
第2電極62は、発光領域(利得領域)41を経由して第1電極61に直流電流を流すことで順バイアス状態とするための第1部分62Aと、可飽和吸収領域42に電界を加えるための第2部分62B(可飽和吸収領域42に逆バイアス電圧Vsaを加えるための第2部分62B)とに、分離溝62Cによって分離されている。ここで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(『分離抵抗値』と呼ぶ場合がある)は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の1×10倍以上、具体的には1.5×103倍である。また、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値(分離抵抗値)は、1×102Ω以上、具体的には、1.5×104Ωである。モード同期半導体レーザ素子10の共振器長を600μm、第2電極62の第1部分62A、第2部分62B、分離溝62Cのそれぞれの長さを、560μm、30μm、10μmとした。また、リッジストライプ構造55の幅を1.4μmとした。尚、リッジストライプ構造55は、端面反射を軽減させるために光出射端面(第2端面)に向かって湾曲している。
実施例1において、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光は、分散補償光学系110に入射され、分散補償光学系110に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系110から出射され、モード同期半導体レーザ素子10に戻され、分散補償光学系110に入射したレーザ光の残りは、後述する光スペクトル整形手段114及び光アイソレータ117を経由して、半導体光増幅器210に入射する。光アイソレータ117は、半導体光増幅器210からの戻り光がモード同期半導体レーザ素子10に向かうことを防止するために配置されている。分散補償光学系110は、具体的には、ホログラフィック型の回折格子111、集光手段(具体的には、レンズ)112及び反射鏡(平面反射鏡であり、具体的には、例えば、誘電多層膜反射鏡)113から成る。外部共振器構造は、分散補償光学系110によって構成される。即ち、具体的には、外部共振器は、反射鏡113とモード同期半導体レーザ素子10の第1端面とから構成される。回折格子111は、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光の内、1次以上の回折光を集光手段112に入射させ、0次の回折光(反射光)を半導体光増幅器210へ出射する。モード同期半導体レーザ素子10と回折格子111との間には、モード同期半導体レーザ素子10からのレーザ光を平行光束とするためのコリメート手段11である焦点距離4.0mmの非球面の凸レンズが配されている。回折格子111に入射(衝突)するレーザ光の中に含まれる回折格子111における格子状のパターンの本数は、実施例1にあっては、2400本/mmである。そして、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光は、回折格子111に衝突し、1次以上の回折光が集光手段(レンズ)112に入射し、反射鏡113によって反射され、集光手段112、回折格子111、コリメート手段11を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。また、0次の回折光(反射光)は半導体光増幅器210へ出射される。
集光手段112と反射鏡113との間の距離を固定し、回折格子111と集光手段112及び反射鏡113との間の距離を、周知の移動手段を用いて変えることで、分散補償光学系110における群速度分散値(分散補償量)を変えることができる。具体的には、集光手段112と反射鏡113とを、一体として、集光手段112の光軸上(1次の回折光の光路上)を移動させることで、分散補償光学系110に入射するレーザ光と出射するレーザ光とにおいて、相互に分散の変化を生じさせる。実施例1にあっては、集光手段112と反射鏡113との間の距離を150mmとし、凸のパワーを有する集光手段(レンズ)112の焦点距離を150mmとした。即ち、集光手段112と反射鏡113との間の距離と、凸のパワーを有する集光手段(レンズ)112の焦点距離とは一致しており、レーザ光の像は、集光手段112によって反射鏡113において結像する。集光手段112に入射する光と出射する光とは、倍率1.0の望遠鏡における入射レーザ光と出射レーザ光の関係にある。
例えば、回折格子111と集光手段112との間の距離が集光手段112の焦点距離と等しい場合、回折格子111から集光手段112に向かうレーザ光と反射鏡113で反射されて集光手段112を経由して回折格子111に入射するレーザ光の角度分散は変化しない。従って、この場合、分散補償光学系110が与える分散補償量はゼロである。一方、回折格子111と集光手段112との距離が集光手段112の焦点距離よりも長い場合、回折格子111で回折されたレーザ光の内、長波長成分の光路は短波長成分の光路よりも長くなり、この場合、負の群速度分散を形成する。即ち、群速度分散値は負となる。以下の説明において、回折格子111と集光手段112との距離を『距離L0』と呼ぶ。距離L0=0mmとは、回折格子111と集光手段112との距離が集光手段112の焦点距離と同じことを意味し、距離L0の値(L0>0)は、回折格子111と集光手段112との距離が集光手段112の焦点距離よりもL0mm長いことを意味する。分散補償量は、距離L0に比例する量である。距離L0が正の値において分散補償光学系110が与える分散は負の群速度分散である。
図46に示すように、波長λの光が反射型の回折格子に角度αで入射し、角度βで回折するものとする。ここで、角度α,βは回折格子の法線からの角度であり、反時計回りを正とする。するとグレーティング方程式は次のとおりとなる。ここで、dGは回折格子の溝の間隔であり、mは回折次数(m=0,±1,±2・・・である。
dG×{sin(α)+sin(β)}=m・λ (A)
溝の斜面に対して、入射レーザ光とm次の回折光が鏡面反射の関係にあるとき、m次の回折光にエネルギーの大部分が集中する。このときの溝の傾きをブレーズ角と呼び、θBで表すと、
θB=(α+β)/2
となる。また、このときの波長をブレーズ波長いい、λBと表すと、
λB={2dG/m}sin(θB)・cos(α−θB)
となる。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15にあっては、分散補償光学系における群速度分散値は負に設定されている。即ち、回折格子111と集光手段112との距離は、集光手段112の焦点距離よりも長く設定されている。あるいは又、半導体光増幅器210へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値となる群速度分散値あるいはその近傍において動作させられる。あるいは又、分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射され、半導体光増幅器210に入射するレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する。分散補償光学系における群速度分散値は負である。即ち、0>GVD1>GVD2であるが故に、分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2まで単調に減少させる。そして、この場合、半導体光増幅器210へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、例えば、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1|
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin|
但し、
|GVD1/GVDmin|=0.5
|GVD2/GVDmin|=2
を満足する。更には、半導体光増幅器210へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させられる。そして、これらによって、数百フェムト秒のレーザ光のパルス時間幅を得ることができる。
以下、発生したサブピコ秒台のパルス状のレーザ光の状態について説明するが、以下の説明においては、上述した実施例1の半導体レーザ装置組立体と異なり、集光手段112と反射鏡113との間の距離を100mmとし、凸のパワーを有する集光手段(レンズ)112の焦点距離を100mmとした分散補償光学系を用いた。また、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光を、1回、バンドパスフィルタ(透過帯域Δλ=1.3nm)を通過させた。
レーザ光の強度相関測定の測定原理、相関関数の種類とパルス時間幅と導出方法については、ヤリフ著、「光エレクトロニクスの基礎 第3版」、丸善株式会社、第183〜196頁、あるいは、Vasil’ev,"Ultrafast diode lasers", Artech House, pp39-43 に詳しく述べられている。
このような半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光の相関波形(時間波形)を図4Aに示す。尚、図4Aの横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。ここで、モード同期半導体レーザ素子の駆動条件を、第2電極62から発光領域(利得領域)41を経由して第1電極61に流す直流電流(ゲイン電流I)を130ミリアンペア、可飽和吸収領域42に加える逆バイアス電圧Vsaを−7ボルト、L0=7.28mmとした。分散補償光学系における群速度分散値は−0.0390ps2[(ピコ秒)2]である。
モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光の相関波形における半値全幅(FWHM)の値は0.45ピコ秒であり、ガウス型やsech2型のレーザ光の相関波形と異なる特徴的な形を示している。このときの光スペクトルを図4Bに示す。尚、図4Bの横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸は光パワー(単位:ミリワット)である。このようにして得られたレーザ光を、バンドパスフィルタ(透過帯域Δλ=1.3nm)を、1回、通過させ、レーザ光の短波長側を切り出したときの相関波形(時間波形)を図5Aに示す。尚、図5Aの横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。バンドパスフィルタを通過させることで、相関波形のテール(裾野)が除去され、時間ゼロ付近にsech2型の相関波形(便宜上、『中心部分の相関波形』と呼ぶ)が得られ、更に、中心部分の相関波形の両脇に複数のサイドパルスが得られる。中心部分の相関波形の半値全幅は290フェムト秒であり、sech2型関数の自己相関関数のコンボリューション因子0.65を用いると、発生したレーザ光のパルス時間幅は190フェムト秒と評価される。このときの光スペクトルを図5Bに示すが、光スペクトル幅は1.06nmであり、時間帯域幅積は0.34と計算され、sech2型関数のフーリエ積の限界0.315に近い。尚、図5Bの横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸は光パワー(単位:ミリワット)である。また、半導体レーザ装置組立体からの出力パワーは、バンドパスフィルタの通過前で11.46ミリワット、バンドパスフィルタの通過後で3.0ミリワットであった。レーザ光の繰返し周波数は1.03GHzであり、求められたレーザ光のパルス時間幅から、ピークパワーは10ワットと計算される。尚、相関波形にみられる複数のパルスの高さから、中心のパルスにパルスエネルギーの66%が集中していると仮定した。
このような特徴的なパルス形状は、分散補償量(群速度分散値)に依存して変化する。種々の分散補償量におけるレーザ光の相関波形(時間波形)を図6に示す。尚、図6の横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。いずれの相関波形も、バンドパスフィルタを通過した後のパルス波形である。尚、ゲイン電流Iを120ミリアンペア、逆バイアス電圧Vsaを−7ボルトとした。図6において、各レーザ光における群速度分散値は以下のとおりである。図6から、群速度分散値が減少(群速度分散値の絶対値が増加)すると共に、時間ゼロの主パルス以外のサブパルスの個数が減少していることが判る。また、群速度分散値の減少(群速度分散値の絶対値が増加)と共に、主パルスのパルス時間幅が増加している。尚、レーザ光「A」が得られるときの群速度分散値が群速度分散極小値GVDminであり、レーザ光「E」が得られるときの群速度分散値が群速度分散値の上限値GVDSであり、『群速度分散値の近傍』は、
GVDS±|GVDmin−GVDS|
で定義される。
レーザ光「A」:−0.0390ps2
レーザ光「B」:−0.0406ps2
レーザ光「C」:−0.0443ps2
レーザ光「D」:−0.0497ps2
レーザ光「E」:−0.0630ps2
以上の結果から、最短のパルス時間幅を得るには、負の群速度分散値(群速度分散値)を或る範囲内で小さくする必要がある。しかしながら、場合によっては、サブパルスが発生するため、半導体レーザ装置組立体の用途によっては、単純にパルス時間幅を最短とすることは、必ずしも望ましくない。例えば、発生した超短パルスを半導体光増幅器で増幅する場合、増幅されたパルスのエネルギーがサブパルスに分割されてしまう虞がある。
それ故、適切な分散補償量(群速度分散値)を設定することで、より具体的には、距離L0を適切に設定することで、発生するパルスが主パルスのみであり、しかも、パルス時間幅を出来る限り短く(狭く)することができる。このような場合のレーザ光の相関波形(時間波形)を図7Aに示す。尚、図7Aの横軸は時間(単位:ピコ秒)であり、縦軸は光強度(単位:任意)である。ここで、ゲイン電流Iを120ミリアンペア、逆バイアス電圧Vsaを−7ボルトとした。群速度分散値は−0.0630ps2であり、得られたレーザ光の相関波形における半値全幅は0.57ピコ秒であり、sech2形状のパルス時間幅は0.37ピコ秒である。また、図7Bに、対応する光スペクトルを示す。光スペクトル幅は1.56nmであり、時間帯域幅積は1.06と求められ、出射されたパルスはチャープしていることが判る。バンドパスフィルタを通過させた後の平均パワーは3.0ミリワットであり、出射されたレーザ光のピークパワーは約8ワットと求められる。
このようなレーザ光が発生するときの第2端面における光密度は次のようにして求めることができる。第2端面における光密度は、光パワーを第2端面におけるレーザ光の近視野像の断面積で除した値で定義される。尚、第2端面における光パワーは、共振器から出力されるときの効率で除する必要があり、本構成では約5%である。近視野像の断面積とは、近視野像の光強度がピークパワーに対して1/e2倍の強度であるときの断面積を指す。このモード同期半導体レーザ素子における近視野像の断面積は1.08μm2であり、この値を用いると光密度は約15ギガワット/cm2と計算される。
以下、サブピコ秒台のパルス状のレーザ光を発生させる駆動条件について説明する。
サブピコ秒台のパルス状のレーザ光が発生する駆動条件は、ゲイン電流I、逆バイアス電圧Vsa、分散補償量(群速度分散値)[云い換えれば、距離L0]に依存する。レーザ発振を得られる最も低いゲイン電流I(100ミリアンペア)及び逆バイアス電圧Vsa(−5.5ボルト)、並びに、距離L0=14.1mmといった駆動条件におけるレーザ光の相関波形(時間波形)を図8Aに示し、光スペクトルを図8Bに示す。尚、図8A及び図8Bにおいて、「A」は、バンドパスフィルタを通過させる前の状態を示し、「B」は、バンドパスフィルタを通過させた後の状態を示し、光パワーは、それぞれ、7.04ミリワット及び1.5ミリワットである。バンドパスフィルタを通過させた後にあっては、レーザ光のパルス時間幅が0.42ピコ秒である。また、このときの群速度分散値は−0.0753ps2である。尚、駆動条件は、ゲイン電流I、逆バイアス電圧Vsa、分散補償量(群速度分散値)の他に、外部共振器のフィードバック量にも依存するため、レーザ発振を得られる駆動条件の下限値は上記の値に限定されない。
逆バイアス電圧Vsa=−7ボルト、ゲイン電流I=130ミリアンペアの条件において、距離L0とレーザ光の相関波形における半値全幅の関係を求めた結果を図9Aに示し、群速度分散値とレーザ光の相関波形における半値全幅の関係を求めた結果を図9Bに示す。尚、図9Aと図9Bとは、同じデータに基づき作成したグラフである。また、「A」は、バンドパスフィルタを通過させる前の状態を示し、「B」は、バンドパスフィルタを通過させた後の状態を示す。尚、図9A及び図9Bに示した距離L0と群速度分散値との間には、
群速度分散値(ps2)=―5.352×10-3×L0(mm)
といった関係が存在する。尚、
群速度分散値=−(λ3/(π・c2・dG 2・cos2θr))・2・L0
で一般的には与えられる。ここで、
λ :波長
c :光速
dG:回折格子の溝の間隔
θr:回折格子の法線に対する回折光の角度
である。
図9Aから、或る距離L0に向かってパルス半値全幅が急激に減少し、極小値を取ることが判る。このパルス半値全幅の極小値に対応する分散補償量(『分散補償極小量』と呼び、図9Aに示した例では、距離L0=11.8mm)近傍に対応する分散補償量の僅かな変化で、前述したサイドパルスが現れることが判った。また、分散補償極小量よりも絶対値が大きな分散補償量では、分散補償極小量よりも絶対値が小さな分散補償量の範囲におけるパルス半値全幅の変化よりも、分散補償量に対するパルス半値全幅の変化は小さい。そして、分散補償極小量よりも絶対値が大きな分散補償量の範囲では、分散補償量を変化させることで発生するパルスの周波数チャープを調整することが可能である。パルス半値全幅が極小値の光パルスをバンドパスフィルタを通過させて、短波長成分のみを抽出することで、裾のないクリーンな光パルスを示す相関波形を得ることができる。更には、パルス時間幅が極小となる群速度分散値から負の側の群速度分散値において、裾のないクリーンなレーザ光を示す相関波形を得ることができる。
あるいは又、図9Bから、バンドパスフィルタを通過させる前の状態において、半導体光増幅器210へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1|
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin|
を満足している。但し、
|GVD1/GVDmin|=0.53
|GVD2/GVDmin|=2.1
である。具体的には、
PW1 =5.3ピコ秒
PW2 =2.9ピコ秒
PWmin =0.4ピコ秒
GVD1 =−0.0255ps2
GVD2 =−0.101ps2
GVDmin=−0.048ps2
である。
パルス時間幅が極小となる群速度分散値から負の側の群速度分散値において、裾のないクリーンなレーザ光を示す相関波形を得ることができるが、このような群速度分散値の範囲は、モード同期半導体レーザ素子組立体から出力されるレーザ光のRFスペクトルによって調べることができる。具体的には、帯域幅が繰返し周波数以上ある高速のフォトダイオードでパルス状のレーザ光を受光すると、パルス状のレーザ光の繰返し周期についての光スペクトルを得ることができる。この繰返し周期は外部共振器の長さX’によって決定されるが、モード同期半導体レーザ素子組立体内には種々の分散媒質が存在するため、周回時間には、通常、波長に依存してばらつきが存在する。RFスペクトルには、この繰返し周波数と共に、繰返し周波数のばらつきが反映される。図10Aに、群速度分散値が−0.0257ps2のときのRFスペクトルを示し、図10Bに、群速度分散値が−0.064ps2のときのRFスペクトルを示す。図10Aの光スペクトルが得られる群速度分散値は、図9Bにおいてパルス時間幅が極小を示す位置の群速度分散値よりも小さい(群速度分散値の絶対値は大きい)。図10Bにみられるように、群速度分散値に依存して、RFスペクトルは、繰返し周波数の主ピークに対して周回時間の揺らぎを示す雑音成分が60dB以上、抑圧されていることが判る。即ち、半導体光増幅器210へ出射されるレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下であることが判る。また、半導体光増幅器210へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させることが好ましいことも判る。尚、極小値を示すパルス時間幅は、ゲイン電流Iに依存し、逆バイアス電圧Vsaが一定であれば、ゲイン電流Iが大きいほどパルス時間幅は小さくなるし、発生するレーザ光は主パルスのみである。最小のパルス時間幅を示す場合のゲイン電流I(単位:ミリアンペア)に対するパルス時間幅(単位:ピコ秒)を以下の表2に示す。尚、表2中、「パルス時間幅A」は、バンドパスフィルタを通過させる前の値(単位:ピコ秒)であり、「パルス時間幅B」は、バンドパスフィルタを通過させた後の値である。また、逆バイアス電圧Vsaは、一定値(−7ボルト)とした。尚、ゲイン電流I=120ミリアンペアを境に、パルス状のレーザ光の繰返し周波数が2倍となるため、発振特性が変化し、パルス時間幅Bの変化がこのゲイン電流値を境に不連続になっている。
[表2]
ゲイン電流I パルス時間幅A パルス時間幅B
100 2.35 0.80
105 2.00 0.55
110 1.75 0.37
115 1.50 0.29
120 1.23 0.55
125 1.20 0.37
130 1.03 0.29
このように、ゲイン電流Iの増大によって極小となるレーザ光のパルス時間幅は狭くなる傾向にある。図11に、ゲイン電流Iに対するレーザ光のパルス時間幅の依存性を示す。
ところで、モード同期半導体レーザ素子にあっては、活性層(ゲイン部)の光パワー密度及びキャリア密度が特定の値を超えるとき、キャリアが誘導放出によって消費される結果、活性層における屈折率が動的に変化し、発振スペクトルが広がる。このような現象は自己位相変調と呼ばれる。自己位相変調による発振スペクトル幅の増大はパルス時間幅の狭隘化に寄与し、自己位相変調に対して分散補償光学系によって適切な群速度分散値を与えることで適切な光スペクトル幅が得られ、サブピコ秒台のレーザ光パルスを発生させることができる。このような特性は、自己位相変調と適切な群速度分散値とが共振器内で相互作用するときに見られるソリトン・モード同期の特徴に類似しており、発生するレーザ光パルスの時間幅をサブピコ秒(例えば、200フェムト秒)以下まで狭くする方法として極めて有効である。
実施例1の半導体レーザ装置組立体において、モード同期半導体レーザ素子組立体から出力されるレーザ光は、周波数チャープが負であり(即ち、ダウンチャープであり)、パルス時間幅が0.5ピコ秒以下である。また、モード同期半導体レーザ素子10は、レーザ光の繰返し周波数が1GHz以下である。
具体的には、実施例1の半導体レーザ装置組立体において、分散補償光学系110によって負の群速度分散が与えられると、図12Aに示すように、モード同期半導体レーザ素子組立体から半導体光増幅器210へと出射されるレーザ光は、200フェムト秒程度の急峻な立ち上がりを示す単一指数関数型の減衰を示す。ところで、このレーザ光にあっては、光スペクトルの短波長側の端を抽出することで、レーザ光のパルス時間幅が300フェムト秒以下の単一パルスが得られることが判っている。
実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光に対して光スペクトルを整形する光スペクトル整形手段114を更に備えており、整形後のレーザ光が半導体光増幅器210に入射する。ところで、このレーザ光の光スペクトルは、長波長側に強度が増加しているため、バンドパスフィルタを単独で使用するだけでは、光スペクトルが十分に整形されず、良好な相関波形(時間波形)が得られない場合がある。これは、誘電多層膜を利用したバンドパスフィルタは、透過関数がローレンツ関数で近似されることに起因している。それ故、光スペクトル整形手段114は、誘電多層膜から構成されたバンドパスフィルタから成り、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光を、バンドパスフィルタを複数回(具体的には、実施例1にあっては2回)、通過させることが望ましい。このように、レーザ光を、バンドパスフィルタを複数回、通過させることによって、遅い時間パルス成分及びインコヒーレントな成分を除去することができる。
実施例1にあっては、光スペクトル整形手段114として、より具体的には、低誘電率を有する誘電体薄膜と、高誘電率を有する誘電体薄膜とを積層することで形成されたバンドパスフィルタを用いた。このバンドパスフィルタは単一の二分の一波長共振器を内蔵する誘電体多層膜共振器であり、複数回、レーザ光を通過させることで、所望の波長以外の波長成分の通過量を、適宜、減少させることが可能である。但し、所望の波長成分以外の光の減衰量として必要な値が得られるのであれば、単一の二分の一波長共振器に限定する必要はなく、複数の共振器あるいは二分の一波長の整数倍の共振器によって構成されるバンドパスフィルタを用いることもできる。また、半導体光増幅器210への入射に必要な光スペクトル形状が得られ、且つ、光スペクトル整形後にレーザ光の分散状態が変化しなければ、光スペクトル整形手段はバンドパスフィルタに限定されない。
図1にバンドパスフィルタを、2回、透過させる場合の光学配置の一例を図示する。モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光は、光スペクトル整形手段114を通過し、反射鏡115Aで反射され、再び、光スペクトル整形手段114を通過し、反射鏡115B,116で反射され、光アイソレータ117へと導かれ、光アイソレータ117を通過したレーザ光は、集光手段(レンズ)211Aを通過して、半導体光増幅器210に入射する。そして、半導体光増幅器210から出力されたレーザ光は、集光手段(レンズ)211Bを経由して系外に出力される。
レーザ光のバンドパスフィルタ(透過帯域Δλ=2.0nm)の通過回数に伴う光スペクトル変化を図12Bの右側に示し、レーザ光のバンドパスフィルタ通過回数に伴う相関波形(時間波形)の変化を図12Bの左側に示す。尚、図12Bにおいて、「A」は、バンドパスフィルタを通過させる前の光スペクトル等、「B」は、バンドパスフィルタを、1回、通過させたときの光スペクトル等、「C」は、バンドパスフィルタを、2回、通過させたときの光スペクトル等である。図12Bから、光スペクトル形状を整形して、光スペクトルの長波長側成分を除去すると、相関波形の裾にみられる遅い時間成分を除去することができることが判る。このように、モード同期半導体レーザ素子組立体から得られるレーザ光をGaInN系の半導体光増幅器210に入射する場合、光スペクトル整形を、適宜、行うことが好ましい。
光スペクトル整形によって得られる光スペクトル形状は、波長400nm付近では典型的には光スペクトルの半値全幅が1nm以上あり、分散補償光学系110によってダウンチャープが付けられている。また、光スペクトルピークから離れた波長成分は、相関波形がガウス関数やsech2関数等の理想的なパルス形状からのずれが大きくならない程度に低減されていることが望ましい。例えば、光スペクトル整形後の光スペクトルピークをガウス関数で近似した場合、図13に示すように、光スペクトルピーク(図13の「A」参照)の半値よりも低い光スペクトル成分に関して、ガウス関数からのずれが、ガウス関数による光スペクトル(図13の「B」参照)の面積に比較して望ましくは20%以下、可能であれば10%以下であることが望ましい。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10は、具体的には、リッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH構造)を有する半導体レーザ素子である。より具体的には、このモード同期半導体レーザ素子10は、インデックスガイド型のAlGaInNから成るGaN系半導体レーザ素子であり、リッジストライプ構造を有する。そして、第1化合物半導体層30、第3化合物半導体層(活性層)40、及び、第2化合物半導体層50は、具体的には、AlGaInN系化合物半導体から成り、より具体的には、以下の表3に示す層構成を有する。ここで、表3において、下方に記載した化合物半導体層ほど、n型GaN基板21に近い層である。第3化合物半導体層40における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは3.06eVである。実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10は、n型GaN基板21の(0001)面上に設けられており、第3化合物半導体層40は量子井戸構造を有する。n型GaN基板21の(0001)面は、『C面』とも呼ばれ、極性を有する結晶面である。
[表3]
第2化合物半導体層50
p型GaNコンタクト層(Mgドープ)54
p型GaN(Mgドープ)/AlGaN超格子クラッド層53
p型AlGaN電子障壁層(Mgドープ)52
ノンドープGaInN光ガイド層51
第3化合物半導体層40
GaInN量子井戸活性層
(井戸層:Ga0.92In0.08N/障壁層:Ga0.98In0.02N)
第1化合物半導体層30
n型GaNクラッド層32
n型AlGaNクラッド層31
但し、
井戸層(2層) 8nm ノン・ドープ
障壁層(3層) 14nm Siドープ
また、p型GaNコンタクト層54及びp型GaN/AlGaN超格子クラッド層53の一部は、RIE法にて除去されており、リッジストライプ構造55が形成されている。リッジストライプ構造55の両側にはSiO2/Siから成る積層絶縁膜56が形成されている。尚、SiO2層が下層であり、Si層が上層である。ここで、リッジストライプ構造55の有効屈折率と積層絶縁膜56の有効屈折率との差は、5×10-3乃至1×10-2、具体的には、7×10-3である。そして、リッジストライプ構造55の頂面に相当するp型GaNコンタクト層54上には、第2電極(p側オーミック電極)62が形成されている。一方、n型GaN基板21の裏面には、Ti/Pt/Auから成る第1電極(n側オーミック電極)61が形成されている。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10にあっては、第3化合物半導体層40及びその近傍から発生した光密度分布に、Mgドープした化合物半導体層である、p型AlGaN電子障壁層52、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層53及びp型GaNコンタクト層54が出来るだけ重ならないようにすることで、内部量子効率が低下しない範囲で、内部損失を抑制している。そして、これにより、レーザ発振が開始される閾値電流密度を低減させている。具体的には、第3化合物半導体層40からp型AlGaN電子障壁層52までの距離dを0.10μm、リッジストライプ構造55の高さを0.30μm、第2電極62と第3化合物半導体層40との間に位置する第2化合物半導体層50の厚さを0.50μm、第2電極62の下方に位置するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層53の部分の厚さを0.40μmとした。また、リッジストライプ構造55は、端面反射を軽減させるために、第2端面に向かって湾曲しているが、このような形状に限定するものではない。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10において、コリメート手段11と対向する光出射端面(第2端面)には、無反射コート層(AR)が形成されている。一方、モード同期半導体レーザ素子10における光出射端面(第2端面)と対向する端面(第1端面)には、高反射コート層(HR)が形成されている。可飽和吸収領域42は、モード同期半導体レーザ素子10における第1端面の側に設けられている。無反射コート層(低反射コート層)として、酸化チタン層、酸化タンタル層、酸化ジルコニア層、酸化シリコン層及び酸化アルミニウム層から成る群から選択された少なくとも2種類の層の積層構造を挙げることができる。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15におけるモード同期半導体レーザ素子10のパルス繰返し周波数を1GHzとした。尚、外部共振器長さX’(第1端面と反射鏡113との間の距離)によってレーザ光のパルス列の繰り返し周波数fが決定され、次式で表される。ここで、cは光速であり、nは共振器の実効的な屈折率である。
f=c/(2n・X’)
ところで、レーザ発振に必要な光学利得を得るためには第3化合物半導体層(活性層)40内に高密度のキャリアを注入(励起)し、反転分布を形成する必要がある。ここで、電子及び正孔の有効質量が大きいGaN系化合物半導体から半導体レーザ素子を構成する場合、光学利得が正の値を取るには第3化合物半導体層40のキャリア密度が1019/cm3を超える必要がある(例えば、高橋清監修、吉川明彦、長谷川文夫編著「ワイドギャップ半導体 光・電子デバイス」、森北出版、p.124-126 参照)。この反転分布キャリア密度は、例えば、前述した非特許文献1に示されるGaAs系化合物半導体から成る半導体レーザ素子と比較して、1桁程度高く、GaN系化合物半導体から成る半導体レーザ素子の発振には非常に高密度のキャリア密度を注入する必要がある。実施例1のモード同期半導体レーザ素子にあっては、キャリア密度(反転分布キャリア密度)は約1.7×1019/cm3と見積もられる。
半導体光増幅器210の構成、構造は、第2電極が分割されていない点、及び、リッジストライプ構造は、湾曲しておらず、代わりに、光入射端面(第1端面)から光出射端面(第2端面)に向かって、その幅が広くなっている点を除き、実質的に、モード同期半導体レーザ素子10と同じ構成、構造を有する。具体的には、半導体光増幅器210は、デバイス長3.0mm、フレア幅15μmのテーパー型の半導体光増幅器であり、光閉込め係数は、半導体光増幅器210の仕様上、2.6%である。
即ち、半導体光増幅器210は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層30、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層)40、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型と異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層50、
が、順次、基体上に積層されて成る積層構造体、
第2化合物半導体層50上に形成された第2電極62、並びに、
第1化合物半導体層30に電気的に接続された第1電極61、
を備えている。尚、第1化合物半導体層30は、基体(具体的には、基板21)上に形成されている。
図14A及び図14Bに、半導体光増幅器210に入射するレーザ光の光スペクトル及び相関波形(時間波形)を示す。光スペクトル幅(半値全幅)は1.01nm、パルス時間幅(=相関波形の半値全幅×0.7)は0.27ピコ秒であり、計算から求められた理論限界値の約1.6倍、パルス時間幅が広がっており、周波数チャープが存在することを示している。また、このときの周波数チャープは、解析の結果、ダウンチャープであった。これは、分散補償光学系110における群速度分散値の符号によって決定される。このときのモード同期半導体レーザ素子10の駆動条件は、第2電極の第1部分62Aにゲイン電流I=175ミリアンペアを流し、第2電極の第2部分62Bに印加する逆バイアス電圧Vsaを−7ボルトとした。モード同期半導体レーザ素子組立体から出射され、光スペクトル整形手段114を通過した後のレーザ光の平均光パワーは1.3ミリワットであった。
このレーザ光を入射したときの半導体光増幅器210からの出力パルスの相関波形(時間波形)及び光スペクトルを図15及び図16に示す。図15及び図16において、「A」は、半導体光増幅器210に入射するレーザ光の光スペクトル及び相関波形であり、「B」、「C」、「D」、「E」は、それぞれ、後述する表4に示す駆動条件A,B,C,Dにおける半導体光増幅器210からの出力パルスの光スペクトル及び相関波形である。
図15及び図16から、半導体光増幅器210から出力されるレーザ光のパルス時間幅は、入射したレーザ光のパルス時間幅よりも短く、しかも、半導体光増幅器210を駆動する電流密度が増加すると、レーザ光のパルス時間幅が狭くなることが判る。また、半導体光増幅器210の出力にあっては、駆動電流密度が増加すると光スペクトルに大きな変形が認められる。
即ち、実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、半導体光増幅器210へ入射するレーザ光のパルス時間幅をτ1、半導体光増幅器210から出力されるレーザ光のパルス時間幅をτ2としたとき、τ1>τ2であり、且つ、半導体光増幅器210の駆動電流値が高い程、τ2の値が小さくなる。尚、半導体光増幅器210において、キャリアのバンド内緩和時間は25フェムト秒以下である。また、半導体光増幅器210から出力されるレーザ光の光スペクトル幅は4.5THz以上(即ち、光スペクトル幅は2.5nm以上であり、パルス時間幅は100フェムト秒以下)である。更には、半導体光増幅器210へ入射するレーザ光の光スペクトル幅に対して、半導体光増幅器210から出力されるレーザ光の光スペクトル幅が、2.5THz以上(即ち、光スペクトル幅は1nm以上)増加する。
表4に、パルス時間幅270フェムト秒のレーザ光を入射した場合の半導体光増幅器210から出力される増幅レーザ光の特性を示す。尚、表4において、「ASE」は、ASE(増幅自然放出光)スペクトル、即ち、レーザ光の入射が無い状態で半導体光増幅器を動作させたときに得られる光パワーの値であり、「SOA出力」は、レーザ光の入射があるときの半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光パワーの値である。また、「パルス成分」は、
{(半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光パワーの面積)−(ASEスペクトルにおける光パワーの面積)}/(半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光パワーの面積)
から得られる値であり、「パルスエネルギー」は、
(半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光パワー)×(パルス成分)/(モード同期半導体レーザ素子のパルス繰返し周波数)
から得られる値である。更には、「パルス時間幅」は、
(相関波形の半値全幅)×0.7
から得られる値であり、「ピークパワー」は、
(パルスエネルギーの値(/(パルス時間幅の値)
から得られる値である。
半導体光増幅器210における駆動電流密度が11×103アンペア/cm2(駆動電流:1.8アンペア)において、240ミリワットの半導体光増幅器出力が得られ、パルスエネルギーは最大で205ピコジュールであった。尚、この値は、平均出力240ミリワットを繰返し周波数1.17GHzで除した値であり、半導体光増幅器から出力されたレーザ光のパワーが全て光パルスになったと仮定している。このときのパルス時間幅は98フェムト秒と評価され、半導体光増幅器210に入射されるレーザ光のパルス時間幅(0.27ピコ秒)に対して約(1/2.7)まで圧縮されていることが判る。即ち、半導体光増幅器210の駆動電流密度は5×103アンペア/cm2以上であることが望ましい。図17に示すように、ASE(増幅自然放出光)スペクトルと増幅後のレーザ光の光スペクトルの比較を行うと、レーザ光に寄与するエネルギー成分は約100ピコジュールと求められる。このときのモード同期半導体レーザ素子10のパルス繰返し周波数は1.17GHzであった。これより、レーザ光のピークパワーは、パルスエネルギーをレーザ光のパルス時間幅で除することにより、約1キロワットと求めることができる。また、メインピークに対するサイドピークの比から、実効的なピークパワーは約800ワットと評価される。このように、実施例1にあっては、III−V族窒化物系半導体層の積層構造体から成る半導体光増幅器にダウンチャープの付いた時間幅数百フェムト秒のレーザ光を入射させると、半導体光増幅器から出力されるレーザ光のエネルギー増幅と共に、レーザ光のパルス時間幅が圧縮され、増幅レーザ光のピークパワーが増大する。
[表4]
通常のGaAsに代表される半導体光増幅器では、半導体光増幅器に入射するレーザ光のエネルギーは増幅されるが、レーザ光のパルス時間幅が半導体光増幅器自体で圧縮されることはなく、前述したとおり、半導体光増幅器による増幅後に、分散性の光学素子を利用したパルス圧縮器が必要とされる。
一方、実施例1にあっては、GaN系化合物半導体に代表されるワイドギャップ半導体において、超短レーザ光の増幅及びパルス圧縮が同時に可能である。これは、GaN系化合物半導体に代表されるワイドギャップ半導体に見られる大きな励起子束縛エネルギーと有効質量のために、バンド内のキャリア緩和時間がGaAs等他のIII−V族化合物に比較して短いことに起因すると考えられる。
即ち、実施例1の半導体光増幅器210によるレーザ光の増幅過程は、半導体光増幅器210によるエネルギー増幅の寄与が約90倍、半導体光増幅器210によるパルス圧縮の効果が約2.7倍である。尚、半導体光増幅器210によるエネルギー増幅の寄与が約90倍であることは、以下に基づき算出した。即ち、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射され、光スペクトル整形手段114を通過した後のレーザ光の平均光パワー1.3ミリワットを、モード同期半導体レーザ素子10のパルス繰返し周波数1.17GHzで除した値1.1pJ(半導体光増幅器210に入射するレーザ光の光パワー)で、表4の駆動条件「D」におけるパルスエネルギー102pJを除することによって得られた値である。このように、実施例1にあっては、半導体光増幅器210によるレーザ光のエネルギーの増大のみならず、パルス圧縮効果が同時に生じる。即ち、実施例1の半導体レーザ装置組立体にあっては、分散補償光学系110を備えているので、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されるレーザ光のチャープ状態及びパルスの伸長状態の最適化を図ることができる。そして、チャープ状態及びパルスの伸長状態の最適化が図られたレーザ光が、III−V族窒化物系半導体層の積層構造体から成る半導体光増幅器に入射する結果、半導体光増幅器から出力されるレーザ光は増幅され、しかも、圧縮され、ピークパワーを極めて効果的に大きくすることが可能となる。そして、これによって、半導体光増幅器の下流にパルス圧縮器を配することが必要とされなくなるため、半導体レーザ装置組立体の効率化、小型化に有利である。
半導体光増幅器において、出力されるレーザ光は、時間的に強度の包絡線が変化し、自己位相変調によって第3化合物半導体層(活性層)における屈折率が動的に変化する。この屈折率の時間的な変化は、半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光スペクトル幅を広げる要因となる。半導体光増幅器によって増幅されるレーザ光のパルス時間幅がピコ秒程度である場合、従来の技術にあっては、自己位相変調効果は、半導体光増幅器の利得の飽和が支配的であると考えられ、この場合、半導体光増幅器の出力レーザ光に見られる光スペクトルの広がりは、主に長波長側に観測される。
然るに、実施例1にあっては、半導体光増幅器の出力レーザ光の光スペクトル成分は、図18に示すとおり、入射レーザ光の光スペクトルに対して、長波長側のみならず、短波長側においても広がりを示している。尚、図18において、「A」は、半導体光増幅器に入射するレーザ光の光スペクトル成分を示し、「B」は、半導体光増幅器の出力レーザ光の光スペクトル成分を示し、「C」は、ASE(増幅自然放出光)スペクトルを示す。半導体光増幅器の第2電極に流した駆動電流値は、2.2アンペアである。そして、自己位相変調による光スペクトルの広がりは、半導体光増幅器の利得飽和による屈折率変化だけではなく、入射レーザ光に対する半導体光増幅器の非線形の屈折率時間応答にも依存すると考えられる。即ち、短波長側に光スペクトルの広がりが観測されたと云うことは、III−V族窒化物系半導体層の積層構造体から成る半導体光増幅器の非線形の屈折率時間応答が、半導体光増幅器に入射するレーザ光のパルス時間幅に対して十分速いことを示唆している。S. Hughes and T. Kobayashi, Semiconductor Science and Technology, vol. 12, p 733 (1997) によれば、レーザ発振を起こす閾値付近のキャリア密度においてGaNのバンド内緩和時間は15フェムト秒と評価され、GaAsに比較して短いことが報告されている。このように高速な緩和時間は、利得飽和によらない自己位相変調によってアンチストークス成分を発生させ、観測された短波長側の光スペクトル成分に寄与すると考えられる。これが、III−V族窒化物系半導体層の積層構造体から成る半導体光増幅器に特徴的な効果として、半導体光増幅器によるパルス増幅と圧縮が同時に発生する原因であると考えられる。
ところで、上述したとおり、第2化合物半導体層50上に、1×102Ω以上の分離抵抗値を有する2電極62を形成することが望ましい。GaN系半導体レーザ素子の場合、従来のGaAs系半導体レーザ素子とは異なり、p型導電型を有する化合物半導体における移動度が小さいために、p型導電型を有する第2化合物半導体層50をイオン注入等によって高抵抗化することなく、その上に形成される第2電極62を分離溝62Cで分離することで、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上とし、あるいは又、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を1×102Ω以上とすることが可能となる。
ここで、第2電極62に要求される特性は、以下のとおりである。即ち、
(1)第2化合物半導体層50をエッチングするときのエッチング用マスクとしての機能を有すること。
(2)第2化合物半導体層50の光学的、電気的特性に劣化を生じさせることなく、第2電極62はウエットエッチング可能であること。
(3)第2化合物半導体層50上に成膜したとき、10-2Ω・cm2以下のコンタクト比抵抗値を示すこと。
(4)積層構造とする場合、下層金属層を構成する材料は、仕事関数が大きく、第2化合物半導体層50に対して低いコンタクト比抵抗値を示し、しかも、ウエットエッチング可能であること。
(5)積層構造とする場合、上層金属層を構成する材料は、リッジストライプ構造を形成する際のエッチングに対して(例えば、RIE法において使用されるCl2ガス)に対して耐性があり、しかも、ウエットエッチング可能であること。
実施例1あるいは後述する実施例2〜実施例15にあっては、第2電極62を厚さ0.1μmのPd単層から構成した。
尚、p型GaN層及びp型AlGaN層が交互に積層された超格子構造を有するp型GaN/AlGaN超格子クラッド層53の厚さは0.7μm以下、具体的には、0.4μmであり、超格子構造を構成するp型GaN層の厚さは2.5nmであり、超格子構造を構成するp型AlGaN層の厚さは2.5nmであり、p型GaN層及びp型AlGaN層の層数合計は160層である。また、第3化合物半導体層40から第2電極62までの距離は1μm以下、具体的には0.5μmである。更には、第2化合物半導体層50を構成するp型AlGaN電子障壁層52、p型GaN/AlGaN超格子クラッド層53、p型GaNコンタクト層54には、Mgが、1×1019cm-3以上(具体的には、2×1019cm-3)、ドーピングされており、波長405nmの光に対する第2化合物半導体層50の吸収係数は、少なくとも50cm-1、具体的には、65cm-1である。また、第2化合物半導体層50は、第3化合物半導体層側から、ノンドープ化合物半導体層(ノンドープGaInN光ガイド層51及びp型化合物半導体層を有しているが、第3化合物半導体層40からp型化合物半導体層(具体的には、p型AlGaN電子障壁層52)までの距離(d)は1.2×10-7m以下、具体的には100nmである。
以下、図43A、図43B、図44A、図44B、図45を参照して、実施例1等におけるモード同期半導体レーザ素子の製造方法を説明する。尚、図43A、図43B、図44A、図44Bは、基板等をYZ平面にて切断したときの模式的な一部断面図であり、図45は、基板等をXZ平面にて切断したときの模式的な一部端面図である。
[工程−100]
先ず、基体上、具体的には、n型GaN基板21の(0001)面上に、周知のMOCVD法に基づき、第1導電型(n型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第1化合物半導体層30、GaN系化合物半導体から成る発光領域(利得領域)41及び可飽和吸収領域42を構成する第3化合物半導体層(活性層)40、並びに、第1導電型と異なる第2導電型(p型導電型)を有し、GaN系化合物半導体から成る第2化合物半導体層50が、順次、積層されて成る積層構造体を形成する(図43A参照)。
[工程−110]
その後、第2化合物半導体層50上に帯状の第2電極62を形成する。具体的には、真空蒸着法に基づきPd層63を全面に成膜した後(図43B参照)、Pd層63上に、フォトリソグラフィ技術に基づき帯状のエッチング用レジスト層を形成する。そして、王水を用いて、エッチング用レジスト層に覆われていないPd層63を除去した後、エッチング用レジスト層を除去する。こうして、図44Aに示す構造を得ることができる。尚、リフトオフ法に基づき、第2化合物半導体層50上に帯状の第2電極62を形成してもよい。
[工程−120]
次いで、第2電極62をエッチング用マスクとして、少なくとも第2化合物半導体層50の一部分をエッチングして(具体的には、第2化合物半導体層50の一部分をエッチングして)、リッジストライプ構造を形成する。具体的には、Cl2ガスを用いたRIE法に基づき、第2電極62をエッチング用マスクとして用いて、第2化合物半導体層50の一部分をエッチングする。こうして、図44Bに示す構造を得ることができる。このように、帯状にパターニングされた第2電極62をエッチング用マスクとして用いてセルフアライン方式にてリッジストライプ構造を形成するので、第2電極62とリッジストライプ構造との間に合わせずれが生じることがない。
[工程−130]
その後、分離溝を第2電極62に形成するためのレジスト層64を形成する(図45参照)。尚、参照番号65は、分離溝を形成するために、レジスト層64に設けられた開口部である。次いで、レジスト層64をウエットエッチング用マスクとして、第2電極62に分離溝62Cをウエットエッチング法にて形成し、以て、第2電極62を第1部分62Aと第2部分62Bとに分離溝62Cによって分離する。具体的には、王水をエッチング液として用い、王水に約10秒、全体を浸漬することで、第2電極62に分離溝62Cを形成する。そして、その後、レジスト層64を除去する。こうして、図2及び図3に示す構造を得ることができる。このように、ドライエッチング法と異なり、ウエットエッチング法を採用することで、第2化合物半導体層50の光学的、電気的特性に劣化が生じることがない。それ故、モード同期半導体レーザ素子の発光特性に劣化が生じることがない。尚、ドライエッチング法を採用した場合、第2化合物半導体層50の内部損失αiが増加し、閾値電圧が上昇したり、光出力の低下を招く虞がある。ここで、第2電極62のエッチングレートをER0、積層構造体のエッチングレートをER1としたとき、
ER0/ER1≒1×102
である。このように、第2電極62と第2化合物半導体層50との間に高いエッチング選択比が存在するが故に、積層構造体をエッチングすること無く(あるいは、エッチングされても僅かである)、第2電極62を確実にエッチングすることができる。尚、ER0/ER1≧1×10、好ましくは、ER0/ER1≧1×102を満足することが望ましい。
第2電極を、厚さ20nmのパラジウム(Pd)から成る下層金属層と、厚さ200nmのニッケル(Ni)から成る上層金属層の積層構造としてもよい。ここで、王水によるウエットエッチングにあっては、ニッケルのエッチングレートは、パラジウムのエッチングレートの約1.25倍である。
[工程−140]
その後、n側電極の形成、基板の劈開等を行い、更に、パッケージ化を行うことで、モード同期半導体レーザ素子10を作製することができる。
製作したモード同期半導体レーザ素子10の第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値を4端子法にて測定した結果、分離溝62Cの幅が20μmのとき、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は15kΩであった。また、製作したモード同期半導体レーザ素子10において、第2電極62の第1部分62Aから発光領域41を経由して第1電極61に直流電流を流して順バイアス状態とし、第1電極61と第2電極62の第2部分62Bとの間に逆バイアス電圧Vsaを印加することによって可飽和吸収領域42に電界を加えることで、セルフ・パルセーション動作させることができた。即ち、第2電極62の第1部分62Aと第2部分62Bとの間の電気抵抗値は、第2電極62と第1電極61との間の電気抵抗値の10倍以上であり、あるいは又、1×102Ω以上である。従って、第2電極62の第1部分62Aから第2部分62Bへの漏れ電流の流れを確実に抑制することができる結果、発光領域41を順バイアス状態とし、しかも、可飽和吸収領域42を確実に逆バイアス状態とすることができ、確実にシングルモードのセルフ・パルセーション動作を生じさせることができた。
実施例2は、実施例1の変形である。半導体光増幅器によるレーザ光のパルス増幅において、大きなエネルギーを得るためには、利得の飽和エネルギーを大きくする必要がある。そのためには、導波路中の光モードが占める体積に対する活性層の体積の割合に相当する光閉込め係数を小さくすることが有効である。実施例2にあっては、半導体光増幅器の光閉込め係数を低減させている。具体的には、実施例2において、半導体光増幅器は、具体的には、スラブ結合型導波路(SCOWA)構造を利用した半導体光増幅器である。そして、実施例1における光閉込め係数を2.6%としたのに対して、実施例2にあっては、光閉込め係数を0.8%とした。
SCOWA構造型の半導体光増幅器は、スラブ(板)状の2次元導波路にロッド(棒)状の導波路を結合させ、スラブとロッドの結合部に弱く光を閉じ込める構造である。ロッド状の導波路内に第3化合物半導体層(活性層)を設けることで、レーザ光のモードフィールドに対して活性層が占める体積を小さくすることが可能となり、低い光閉込め係数を有する半導体光増幅器を実現することが可能となる。尚、SCOWA構造型の半導体光増幅器の詳細な構成、構造に関しては、実施例11において詳述する。
このようなSCOWA型の実施例2の半導体光増幅器によってレーザ光を増幅した場合の増幅特性について、以下、説明する。実施例1と同様のモード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光を、実施例2の半導体光増幅器に入射させる。尚、分散補償光学系110における分散補償量は負である。モード同期半導体レーザ素子10の第2電極に流すゲイン電流Iを100ミリアンペア、逆バイアス電圧Vsaを−11ボルトとした。そして、透過帯域Δλ=1.3nmのバンドパスフィルタを光スペクトル整形手段として用いて光スペクトルを整形した。その結果、380フェムト秒のパルス時間幅、0.82ミリワットの平均パワーを有するレーザ光を得ることができた。また、このモード同期半導体レーザ素子から発生するパルスの繰返し周波数は413MHzであった。この値は、外部共振器の長さから決まる基本周波数である。低い光閉込め係数を有する実施例2の半導体光増幅器では、ASEスペクトルが減少するため、キャリアの回復時間が長くなる。そのため、入射するパルスの時間間隔がナノ秒以上であることが、大きなパルスエネルギーを得る上で有利である。
次に、このパルス状のレーザ光を実施例2の半導体光増幅器に入射して得られた増幅レーザ光出力について説明する。図19に、実施例2の半導体光増幅器から出力されるパルス状のレーザ光の駆動電流密度に対する依存性を示す。尚、図19における(A)、(B)、(C)、(D)のデータは、後述する表5における駆動条件A,B,C,Dでのデータであり、これらの駆動条件等にて得られた各種データ等(駆動電流(単位:アンペア)、半導体光増幅器から出力されたレーザ光のパルス時間幅(単位:フェムト秒)、各駆動電流密度における半導体光増幅器から出力された増幅後のパルス状のレーザ光の特性)を併せて、表5に示す。尚、表5において、第1段目のデータから第4段目のデータは温度15゜Cでのデータであり、第5段目のデータは温度20゜Cである。いずれの場合も、入射したレーザ光のパルス時間幅よりも、半導体光増幅器から出力されるレーザ光のパルス時間幅は狭くなることが観測された。また、駆動電流密度の増大と共に、パルス時間幅が減少した。特に、駆動電流が2.2アンペアのとき、半導体光増幅器の駆動温度を20゜Cとすると、ASEスペクトルの低下によってパルスエネルギーが増大し、また、パルス時間幅が狭くなることでピークパワーが極大となった。このときの相関波形と光スペクトルを図20に示すが、(A)には相関波形(時間波形)を示し、(B)には光スペクトルをに示す。パルス時間幅は81フェムト秒、パルスエネルギーは162ピコジュールであり、ピークパワーは1.5キロワットに相当する。尚、このパルスエネルギーの算出に当たっては、図21Aに示す光スペクトル解析を行い、半導体光増幅器の出力をASEスペクトルとパルス成分とに分離し、光パルス発生に寄与する成分を同定した。その値は80%であった。尚、図21Aにおいて、「A」は半導体光増幅器の出力レーザ光強度を示し、「B」はASEスペクトルを示し、複数の「C」は半導体光増幅器の出力レーザ光強度を分解したときの光スペクトルを示す。また、相関波形において、中心の大きなピークに併せて、小さなサイドパルスが観測されている。図21Bに示すとおり、「A」で示す相関波形(時間波形)と、「B」で示すガウス関数によるパルス理論形状との比較から、パルスエネルギーは、半導体光増幅器の出力レーザ光強度の75%程度と見積もることができる。このようにして、サイドパルスに割り振られているエネルギーを求めると、最終的なピークパワーとして1.5キロワットが得られる。即ち、光閉込め係数を低減させたSCOWA型の半導体光増幅器において、短波長側の光スペクトル成分の増大が顕著に認められた。尚、光閉込め係数を低減させるためには、SCOWA型以外にも、例えば、強導波構造の半導体光増幅器を採用してもよい。
[表5]
尚、表5のパルスエネルギーからサブパルス成分を引いた値がメインパルスのエネルギーとなり、これをパルス時間幅で除することでピークパワーを得ることができる。即ち、
(ピークパワー)=(パルスエネルギー)×(1−サブパルス成分)/パルス幅
である。例えば、表5の最下段の場合、
162ピコジュール×(1−0.25)/0.081ピコ秒=1.5キロワット
となる。
実施例3は、実施例1〜実施例2の変形であり、分散補償光学系の構成を変更した。
実施例3にあっては、外部共振器構造は、分散補償光学系120及び部分反射鏡123によって構成されている。具体的には、分散補償光学系120は、図22Aに概念図を示すように、一対の回折格子121,122から成る。モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、第1の回折格子121に衝突し、1次以上の回折光が出射され、第2の回折格子122に衝突し、1次以上の回折光が出射されて、外部共振器の一端を構成する部分反射鏡123に到達する。尚、第1の回折格子121と第2の回折格子122とは平行に配置されている。そして、部分反射鏡123に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡123を通過し、半導体光増幅器210に出射される。一方、部分反射鏡123に到達したレーザ光の残りは、第2の回折格子122、第1の回折格子121を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。第1の回折格子121と第2の回折格子122との間の距離を変えることで、分散補償光学系120における群速度分散値を変えることができる。
尚、使用する回折格子を1枚とすることも可能である。この場合、回折格子からの回折光を部分反射鏡に入射させ、且つ、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の光をこの部分反射鏡に集光させる。部分反射鏡が反射する光を同じ光路を通じて回折格子に戻すことで、回折格子が対向していることと同じ効果が得られる。分散補償量は、回折格子と部分反射鏡との間の距離を変えることで変化させることができる。尚、この場合、部分反射鏡から出射される光は発散光であるため、共振器外に、光束をコリメートする手段を設けることが好ましい。また、実施例3では反射型の回折格子を想定したが、同様な機能の外部共振器が構成できるのであれば透過型の回折格子を用いることもできる。
あるいは又、図22Bに概念図を示すように、分散補償光学系130は、一対のプリズム131,132から成る。そして、モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、第1のプリズム131を通過し、更に、第2のプリズム132を通過し、外部共振器の一端を構成する部分反射鏡133に到達する。尚、第1のプリズム131と第2のプリズム132との配置状態は、点対称である。そして、部分反射鏡133に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡133を通過し、半導体光増幅器210に出射される。一方、部分反射鏡133に到達したレーザ光の残りは、第2のプリズム132、第1のプリズム131を経由してモード同期半導体レーザ素子10に戻される。第1のプリズム131と第2のプリズム132との間の距離を変えることで、分散補償光学系120における群速度分散値を変えることができる。
尚、使用するプリズムを1つとすることも可能である。この場合、プリズムを通過した光を部分反射鏡に入射させ、且つ、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の光をこの部分反射鏡に集光させる。部分反射鏡が反射する光を同じ光路を通じてプリズムに戻すことで、プリズムを2つ設けたと同じ効果が得られる。分散補償量は、プリズムと部分反射鏡との間の距離を変えることで変化させることができる。尚、この場合、部分反射鏡から出射される光は発散光であるため、共振器外に、光束をコリメートする手段を設けることが好ましい。
あるいは又、図23に概念図を示すように、分散補償光学系140は、Gires−Tournois型の干渉計141から成る。Gires−Tournois型干渉計141は、反射率1の反射鏡141Aと反射率1未満の部分反射鏡141Bから成る。反射鏡141Aと部分反射鏡141Bとの間の距離を制御することで、あるいは又、入射レーザ光の入射角を調整することによって、分散補償光学系140における群速度分散値を変えることができる。モード同期半導体レーザ素子10から出射されたパルス状のレーザ光は、平面鏡142で反射され、部分反射鏡141Bを通過し、反射鏡141Aによって反射され、部分反射鏡141Bを再び通過し、外部共振器を構成する部分反射鏡143に到達する。そして、部分反射鏡143に到達したレーザ光の一部は部分反射鏡143を通過し、半導体光増幅器210に出射される。一方、部分反射鏡143に到達したレーザ光の残りは、部分反射鏡141Bを通過し、反射鏡141Aによって反射され、部分反射鏡141B、平面鏡142を再び通過し、モード同期半導体レーザ素子10に戻される。
あるいは又、分散補償光学系は、誘電体多層膜ミラーから成る。この場合、入射レーザ光の入射角を調整することによって、分散補償光学系における群速度分散値を変えることができる。
実施例4も、実施例1〜実施例2の変形であり、分散補償光学系の構成を変更した。以下、実施例4の分散補償光学装置を説明するが、それに先立ち、実施例4の分散補償光学装置の原理等を説明する。
図24に透過型体積ホログラム回折格子の模式的な一部断面図を示す。透過型体積ホログラム回折格子にあっては、厚さLの回折格子部材(フォトポリマー材料)311が、2枚のガラス基板312,313(屈折率:N)に挟まれている。回折格子部材311中には、2光束干渉を利用して、周期的な屈折率変調度Δn(図24では、太い斜線で示す)が平行して設けられている。入射レーザ光が回折される条件は、入射レーザ光の波数ベクトルをkI v、回折光の波数ベクトルをkv、屈折率の周期変調の逆格子ベクトル(以下、『回折格子ベクトル』と呼ぶ)をKvとしたとき、次の式(1)で与えられる。 ここで、mは整数である。尚、ベクトルを表記するために、便宜上、上付き文字「v」を付している。
kI v+m・Kv=kv (1)
ここで、入射レーザ光及び回折光の波数ベクトルkI v,kvはガラス基板312,313内の波数ベクトルであり、分散補償光学装置(より具体的には、ガラス基板312)へのレーザ光の入射角をφin、分散補償光学装置(より具体的には、ガラス基板313)からのレーザ光の出射角をφoutとする。尚、入射角φin及び出射角φoutは、透過型体積ホログラム回折格子のレーザ光入射面の法線と成す角度である。ここで、回折格子ベクトルKvは、屈折率変調度Δnの周期Pを用いて、以下の式(2)で与えられる。また、回折格子ベクトルKvの大きさは、回折格子部材311へのレーザ光の入射角θin、回折格子部材311からの出射角(回折角)θout、及び、入射レーザ光の波長λから、以下の式(3)で与えられる。従って、屈折率変調度Δnの周期Pは、以下の式(4)で与えられる。
|Kv|=2π/P (2)
K=k[{sin(θin)+sin(θout)}2
+{cos(θin)−cos(θout)}2]1/2
=k[2{1−cos(θin+θout)}]1/2 (3)
P=λ/[2{1−cos(θin+θout)}]1/2 (4)
ところで、式(1)の回折条件は、各ベクトルの回折格子面内の成分(図24のx成分)のみを考慮しても一般性を失うことがないので、以下の式(5)のように書き改めることができる。
kI,x v+m・Kx v=kx v (5)
式(5)から、透過型体積ホログラム回折格子に対するレーザ光の入射角φinと出射角(回折角)φoutの関係を求めると、以下の式(6)のとおりとなる。
sin(φin)+m・(λ/P)・sin(ψ)=sin(φout) (6)
ここで、ψは、透過型体積ホログラム回折格子の法線と回折格子ベクトルKvが成す角度であり、回折格子部材311に対する光の入射角θin及び回折角θoutは、次の式(7)の関係にある。
sin(ψ)={sin(θin)+sin(θout)}
/[2{1−cos(θin+θout)}]1/2 (7)
式(6)から、波長に対する回折光の角度分散の依存性を計算することができ、次の式(8)で与えられる。
dφout/dλ={sin(θin)+sin(θout)}/{N・λ・cos(θout)}
(8)
実施例4の分散補償光学装置にあっては、式(8)が示す空間分散の波長依存性を超短パルスの圧縮・伸長に利用する。また、高いスループットは、透過型体積ホログラム回折格子の回折効率によって決定される。そして、回折効率ηは、次の式(9)で近似することができる。
η=sin2[(π・Δn・L)/2λ{cos(θin)・cos(θout)}1/2]
・Sinc2[Δkz・(L/2)] (9)
ここで、sin2の項は、屈折率変調度Δnと透過型体積ホログラム回折格子を構成する回折格子部材の厚さLから決まる入射レーザ光と回折光の結合定数であり、Sinc2の項は、ブラッグの回折条件から波長がずれた場合の回折効率の変化に対応する(非特許文献3参照)。このうち、回折波長の帯域は、透過型体積ホログラム回折格子内で許容される逆格子ベクトルの広がりによって決定される。入射波長の変化に伴う波数ベクトルの差Δkは、次の式(10)で与えられる。
Δk=2π・N{1/(λ+Δλ)−1/λ}
≒−(2π・N)(Δλ/λ2) (10)
このとき、回折格子面内の波数ベクトル成分Δkzは、次の式(11)で与えられる。
Δkz=Δk{1−cos(θin+θout)}/cos(θout) (11)
式(11)を用いると、パルス圧縮に必要とされる波長帯域に対する回折効率を次の式(12)のように近似することができる。
η=sin2[(π・Δn・L)/2λ{cos(θin)・cos(θout)}1/2]
・Sinc2[π・N・L・(Δλ/λ2){1−cos(θin+θout)}
/cos(θout)] (12)
次に、式(12)から、必要とされる要件を満たす透過型体積ホログラム回折格子の条件を求める。ここで、式(12)は、2つの関数の積として記述され、屈折率変調度Δnに伴う回折効率を示すsin2に比例する項、及び、入射レーザ光と回折光の波数ベクトルの差に依存するSinc2に比例する項から構成されている。
実施例4の分散補償光学装置は、
(A)90%以上の高いスループット
(B)大きな空間分散
といった要求を満たし、また、第1の態様に係る分散補償光学装置にあっては、
(C)レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度である。
(A)高スループットの実現に関して
高スループットの実現にあっては、必要とされる波長帯域において可能な限り高い回折効率を実現する必要がある。式(12)では、Sinc2の項のみが波長帯域に依存するため、適当な条件のもと、sin2の項が「1」であると仮定すると、 以下の式(13)のとおりとなる。
η≒inc2[π・N・L・(Δλ/λ2){1−cos(θin+θout)}
/cos(θout)] (13)
この式(13)に対して、η≧90%であるためには、以下の式(14)を満足する必要がある。
|π・N・L・(Δλ/λ2){1−cos(θin+θout)}/cos(θout)|
≦0.553 (14)
ここで、「0.553」は、上記のSinc2の項が0.9以上となるための値である。これより、必要とされる波長λにおける帯域(パルス圧縮/伸長の対象であるレーザ光の光スペクトル幅)Δλを満たすための透過型体積ホログラム回折格子を構成する回折格子部材の厚さL及び屈折率Nの条件が、次の式(15)あるいは式(A)のように導出される。
|1−cos(θin+θout)}/cos(θout)|
≦{0.553/(π・N・L)}(λ2/Δλ) (15)/(A)
この式(15)は、圧縮・伸長の対象となるレーザ光パルスのパルス時間幅Δτによっても記述することができる。分散補償光学装置によって圧縮し得る光パルスの時間幅Δτと周波数幅Δνは、光パルス波形がガウス関数であるとすると、以下の関係が成り立つ。但し、フーリエ限界パルス時には等式となる。
Δτ・Δν≦0.441 (16)
また、周波数幅Δνは、波長λ、波長幅Δλ、及び、光速C0(2.99792458×108m/秒)を用いて、λ≫Δλのとき、次の式(17)のように近似することができる。
Δν=C0{1/λ−1/(λ+Δλ)}
≒C0(Δλ/λ2) (17)
式(17)を用いると、時間帯域幅積の不等式は、次の式(18)のように、光速と波長帯域によって書き換えることができる。
Δτ≦(0.441/Δν)≒0.441{λ2/(C0・Δλ} (18)
この式(18)を用いると、回折格子部材の厚さLに関する条件は、パルス圧縮し得る最短パルス時間幅Δτを用いて、次の式(19)のように書き換えることができる。
|{1−cos(θin+θout)}/cos(θout)|
≦(0.553・Δτ・C0)/(0.441π・N・L) (19)
尚、ここでは、パルス波形としてガウス型関数を仮定したため、時間帯域幅積の最小値として「0.441」を用いたが、その他のパルス波形を仮定することも可能である。例えば、Sech2型の関数の場合、時間帯域幅積の最小値として「0.315」を用いることができる。
(B)大きな空間分散に関して
小型の分散補償光学装置を構成するには、透過型体積ホログラム回折格子による角度分散を大きくする必要がある。角度分散を大きくするには、式(8)で与えられる波長に対する角度分散依存性を大きくする必要がある。屈折率変調度Δnの周期Pと同じ刻線を有する刻線型の回折格子の角度分散は、次の式(20)で与えられる。
dφout/dλ=1/{Pcos(θout)}≦2/{λcos(θout)} (20)
式(20)と式(8)とを比較すると、透過型体積ホログラム回折格子では角度分散が1/(2N)程度小さくなることが分かる。そこで、刻線型の回折格子と比較して1/3程度の空間分散が得られる条件として、
sin(θin)+sin(θout)≧1
について考える。この角度の条件を、
{1−cos(θin+θout)}/cos(θout)
の条件に換算すると、次の式(21)のように近似することができる。
{1−cos(θin+θout)}/cos(θout)>0.3 (21)
この条件と前述の式(15)あるいは式(19)とを対応させると、透過型体積ホログラム回折格子を構成する回折格子部材の厚さLの条件として、波長帯域による記述に基づく場合、式(22)が得られ、パルス時間幅による記述に基づく場合、式(23)が得られる。尚、この条件は、Sinc2項におけるパルス時間幅と厚さLの条件である。
L≦{0.553/(0.3・π・N)}(λ2/Δλ) (22)
L≦(0.553・Δτ・C0)/(0.3×0.441・π・N) (23)
更に、sin2項を最大化する条件は、以下の式(24)で与えられる。
L={(1+2m)・λ/Δn}・{cos(θin)・cos(θout)}1/2 (24)
そして、式(24)から、回折効率を90%以上にする条件は、以下の式(25)あるいは式(B)のとおりとなる。
{(0.8+2m)・λ/Δn}・{cos(θin)・cos(θout)}1/2
≦ L ≦
{(1.2+2m)・λ/Δn}・{cos(θin)・cos(θout)}1/2
(25)/(B)
回折格子部材311の屈折率変調度Δnが所与の場合、回折格子部材の厚さLは上記の条件を満たす必要がある。屈折率変調度Δnは2光束干渉の露光時間にも依存するため、一意に決定することは容易ではない。しかしながら、その上限は回折格子部材311の物性によって決まるため、屈折率変調度Δnから回折格子部材の厚さLを規定する要件を記述した。
(C)レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和が90度である場合についての考察
光軸調整が容易な分散補償光学装置を構成するためには、
φin+φout=90度
を満足する必要がある。特に、φout>φinとすると、式(8)における角度分散を大きくとることができる。φoutに対する空間分散の依存性dφout/dλを図25に示す。
以下に、φin≒φout,θin≒θoutの場合における透過型体積ホログラム回折格子の回折効率についての計算例を示す。
屈折率変調度Δnに依存するsin2の項を計算した結果を図26に示す。この計算にあっては、式(12)において波長を固定し、sin2項に比例する項を取り出している。また、以下の値を用いている。L=70μmのとき、sin2項に比例する項が最大となる。
屈折率変調度Δn =0.005
波長λ =405nm
回折格子部材への入射角θin=28度
次に、L=70μm、屈折率変調度Δn=0.005、波長λ=405nmの条件を固定した上で、入射レーザ光の光スペクトル幅を変化させたときの回折効率の変化を図27に示す。顕著な波長依存性が見られるが、回折効率95%以上を示す波長広がりは波長405nmの光に対して約±0.2nm程度である。この波長広がりは、フーリエ変換限界にある超短パルスでは約0.6ピコ秒のパルス時間幅に対応しており、このパルス時間幅よりも広い時間幅の超短パルスに対して適用が可能な波長帯域である。従って、InGaN化合物半導体から構成されたモード同期半導体レーザ素子によって発生したレーザ光パルスに対して適用が可能である。
以上のように屈折率変調度Δnの条件を、適宜、選ぶことにより、所望の波長の所望の回折角において回折効率90%以上の透過型体積ホログラム回折格子を実現することができる。そして、これを用いることで、以下の実施例において説明する分散補償光学装置全体のスループットを80%以上にすることが可能となる。
実施例4は、第1の態様に係る分散補償光学装置、より具体的には、分散補償光学装置等−Aに関する。実施例4の半導体レーザ装置組立体の一部分の概念図を図28に示す。尚、透過型体積ホログラム回折格子の模式的な一部断面図は、図24に示したとおりである。また、モード同期半導体レーザ素子10の共振器の延びる方向に沿った模式的な端面図は図2に示したとおりであり、モード同期半導体レーザ素子の共振器の延びる方向と直角方向に沿った模式的な断面図は図3に示したとおりである。
実施例4の分散補償光学装置410Aは、対向して配置された2つの透過型体積ホログラム回折格子(第1の透過型体積ホログラム回折格子411及び第2の透過型体積ホログラム回折格子412)から成り、各透過型体積ホログラム回折格子411,412において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度である。即ち、
φin+φout=90度
である。
第1の透過型体積ホログラム回折格子411と第2の透過型体積ホログラム回折格子412の間の距離を調整することで分散補償光学装置による群速度分散値(分散補償量)を制御することができる。ところで、(φin+φout)の値が90度でない場合、第1の透過型体積ホログラム回折格子411と第2の透過型体積ホログラム回折格子412の間の距離を広げると、それに対応して、分散補償光学装置からの1次の回折光の出射位置に変化が生じる。そのため、群速度分散値(分散補償量)を変化させると、それに対応して光学系の調整が必要となる。しかしながら、(φin+φout)の値を90度とすることで、1次の回折光の分散補償光学装置からの出射位置に変化が生じることが無くなり、群速度分散値(分散補償量)の調整が容易となる。
第1の透過型体積ホログラム回折格子411及び第2の透過型体積ホログラム回折格子412は、互いに平行に配置されている。そして、実施例4の分散補償光学装置410Aにあっては、モード同期半導体レーザ素子10からのレーザ光が入射する第1の透過型体積ホログラム回折格子411において、1次の回折光の出射角φoutはレーザ光の入射角φinよりも大きい。即ち、
φout>φin
である。一方、第1の透過型体積ホログラム回折格子411からの1次の回折光が入射する第2の透過型体積ホログラム回折格子412にあっては、1次の回折光の出射角φoutはレーザ光の入射角φinよりも小さい。即ち、
φout<φin
である。更には、第1の透過型体積ホログラム回折格子411におけるレーザ光の入射角φinと、第2の透過型体積ホログラム回折格子412における1次の回折光の出射角(回折角)φoutとは等しく、且つ、第1の透過型体積ホログラム回折格子411における1次の回折光の出射角(回折角)φoutと、第2の透過型体積ホログラム回折格子412における1次の回折光の入射角φinとは等しい。
そして、実施例4の分散補償光学装置410Aにおいて、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子411によって回折・反射され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子412に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子412によって回折・反射され、1次の回折光として半導体光増幅器210に出射される。分散補償光学装置410Aにおいて、群速度分散値(分散補償量)は負である。群速度分散値の制御は、分散補償光学装置410Aにおける第1の透過型体積ホログラム回折格子411と第2の透過型体積ホログラム回折格子412との間の距離を変えることで、制御することができる。尚、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射するレーザ光と、第2の透過型体積ホログラム回折格子412から出射されるレーザ光とは、概ね平行である。
モード同期半導体レーザ素子10の第2端面と分散補償光学装置410Aとの間には、モード同期半導体レーザ素子10からのレーザ光を平行光束とするためのコリメート手段11である焦点距離4.0mmの非球面の凸レンズ、及び、部分反射鏡12が配置されている。モード同期半導体レーザ素子10の第1端面と部分反射鏡12によって外部共振器構造が構成される。モード同期半導体レーザ素子10の第2端面から出射されたレーザ光は、部分反射鏡12に衝突し、一部は、部分反射鏡12を通過して、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射する。残りは、モード同期半導体レーザ素子10に戻される。
実施例4の分散補償光学装置にあっては、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度であり、高い回折効率による高いスループットを有する小型の分散補償光学装置を提供することができる。また、分散補償光学装置の小型化を図ることができるし、分散補償光学装置を構成する光学部品の配置の自由度が高い。更には、式(8)で与えられる波長に対する角度分散依存性を大きくすることができる。また、回折角を任意に設計できるため、分散補償光学装置の光学設計の自由度を高くすることができるし、分散補償光学装置における群速度分散値(分散補償量)の調整が容易となり、分散補償光学装置を構成する光学部品の配置の高い自由度を達成することができる。
実施例5は、実施例4の変形であり、分散補償光学装置等−Bに関する。概念図を図29Aに示す実施例5の分散補償光学装置410Bは、半導体レーザ装置組立体における第1の透過型体積ホログラム回折格子411を構成し、平行に配置された第1の反射鏡4131及び第2の反射鏡4132を更に備えている。そして、第2の透過型体積ホログラム回折格子412から出射されたレーザ光は、第1の反射鏡4131に衝突して反射され、次いで、第2の反射鏡4132に衝突して反射される。ここで、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射するレーザ光の延長線上に、第2の反射鏡4132に反射されたレーザ光が概ね位置している。これによって、既存の光学系に分散補償光学装置410を配置、挿入することが容易となる。尚、第1の透過型体積ホログラム回折格子411と第2の透過型体積ホログラム回折格子412の間の距離を調整する場合、第2の透過型体積ホログラム回折格子412と第1の反射鏡4131との位置関係に変化が生じないように、第2の透過型体積ホログラム回折格子412及び第1の反射鏡4131を移動させればよい。分散補償光学装置410Bにおいて、分散補償量は負である。
以上の点を除き、実施例5の分散補償光学装置は、実施例4の分散補償光学装置と同じ構成、構造を有するので、詳細な説明は省略する。
実施例6も、実施例4の変形であり、分散補償光学装置等−Cに関する。概念図を図29Bに示す実施例6の分散補償光学装置410Cは、半導体レーザ装置組立体における第1の透過型体積ホログラム回折格子411を構成し、ガラスから成る基体414の第1面414A上に第1の透過型体積ホログラム回折格子411が設けられており、第1面414Aと対向する基体414の第2面414B上に第2の透過型体積ホログラム回折格子412が設けられている。実施例6の分散補償光学装置410Cにおいて、2つの透過型体積ホログラム回折格子411,412の間の距離を変えるためには基体414の厚さを変えればよい。そして、これによって、群速度分散値を変えることができる。尚、群速度分散値は負である。第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射するレーザ光と、第2の透過型体積ホログラム回折格子412から出射されるレーザ光とは、概ね平行である。
以上の点を除き、実施例6の分散補償光学装置は、実施例4の分散補償光学装置と同じ構成、構造を有するので、詳細な説明は省略する。
実施例7も、実施例4の変形であり、分散補償光学装置等−Dに関する。概念図を図30Aに示す実施例7の分散補償光学装置410Dは、第1の透過型体積ホログラム回折格子411、第2の透過型体積ホログラム回折格子412、反射鏡415から構成されている。そして、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子411によって回折・反射され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子412に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子412によって回折・反射され、1次の回折光として出射されて、反射鏡415に衝突し、反射鏡415によって反射されたレーザ光は、再び、第2の透過型体積ホログラム回折格子412に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子412によって回折・反射され、1次の回折光として出射され、更に、再び、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射し、第1の透過型体積ホログラム回折格子411によって回折・反射され、半導体光増幅器210へと出射される。第1の透過型体積ホログラム回折格子411からレーザ光を半導体光増幅器210に出射させるためには、反射鏡415の角度を回折方向とは直交した方向に僅かに傾ければよく、即ち、図30AにおけるZ軸を中心として僅かに回転させればよく、これによって、入射レーザ光と出射レーザ光を空間的に分離することが可能となる。後述する実施例10においても同様である。群速度分散値の制御は、分散補償光学装置410Dにおける第1の透過型体積ホログラム回折格子411と第2の透過型体積ホログラム回折格子412との間の距離を変えることで行うことができる。群速度分散値は負である。尚、第2の透過型体積ホログラム回折格子412と反射鏡415との間に集光手段(レンズ)を配し、反射鏡415と集光手段との間の距離を固定し、第2の透過型体積ホログラム回折格子412と集光手段との間の距離を変えることで、群速度分散値を制御することもできる。
尚、概念図を図30Bに示すように、反射鏡415の代わりに、部分反射鏡416を配置し、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子411によって回折・反射され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子412に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子412によって回折・反射され、1次の回折光として出射されて、部分反射鏡416に衝突し、一部は半導体光増幅器210へと出射され、残りは、部分反射鏡416によって反射され、再び、第2の透過型体積ホログラム回折格子412に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子412によって回折・反射され、1次の回折光として出射され、更に、再び、第1の透過型体積ホログラム回折格子411に入射し、第1の透過型体積ホログラム回折格子411によって回折・反射され、モード同期半導体レーザ素子10に戻されるといった構成を採用してもよい。尚、この場合にも、分散補償光学装置410D(より具体的には、部分反射鏡416)とモード同期半導体レーザ素子10の第1端面によって外部共振器構造が構成され、図28に示した部分反射鏡12は不要となる。
以上の点を除き、実施例7の分散補償光学装置は、実施例4の分散補償光学装置と同じ構成、構造を有するので、詳細な説明は省略する。
実施例8は、実施例4〜実施例5、実施例7の変形である。ところで、第1の透過型体積ホログラム回折格子411における1次の回折光の出射角φoutの実用上の上限値は、回折光がガラス基板313から全反射せずに出射する条件に依存する。即ち、図31Aに示すように、回折光がガラス基板313の内部において全反射したのでは、回折光を第1の透過型体積ホログラム回折格子411から取り出せなくなる。
実施例8にあっては、模式的な一部断面図を図31Bに示すように、実施例8の分散補償光学装置410Eにおける透過型体積ホログラム回折格子を構成する出射側のガラス基板313Aを、斜面313a,313bを有するプリズム状とし、回折光がガラス基板313Aの斜面313aから出射する構成とすることで、回折光がガラス基板313Aにおいて全反射しない構造とすることができる。尚、透過型体積ホログラム回折格子を構成する入射側のガラス基板312Aの表面312aは、斜面313a,313bとは平行でない。斜面313aの法線と1次の回折光の成す角度である出射角φout’が、例えば、0度±10度となるように斜面313aの傾斜角を設定することが好ましい。
以上の点を除き、実施例8の分散補償光学装置は、実施例4〜実施例5、実施例7の分散補償光学装置と同じ構成、構造を有するので、詳細な説明は省略する。
実施例9は、第2の態様に係る分散補償光学装置に関する。実施例9の分散補償光学装置を組み込んだ半導体レーザ装置組立体の一部分の概念図を図32に示す。実施例9の分散補償光学装置510は、対向して配置された2つの透過型体積ホログラム回折格子(第1の透過型体積ホログラム回折格子511及び第2の透過型体積ホログラム回折格子512)から成り、各透過型体積ホログラム回折格子511,512において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとは略等しい(具体的には、実施例9にあっては等しい)。また、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度である。即ち、φin=φout=45度である。
以上の点を除き、実施例9の分散補償光学装置510は、実施例4の分散補償光学装置410Aと同様の構成、構造を有する。また、実施例9の分散補償光学装置510は、φin=φout=45度とする点を除き、実施例5〜実施例8の分散補償光学装置と同じ構成、構造を有する構成とすることもできる。それ故、これらの詳細な説明は省略する。尚、分散補償光学装置510にあっては、群速度分散値は負である。
実施例9の分散補償光学装置にあっては、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとは略等しいので、高い回折効率による高いスループットを有する小型の分散補償光学装置を提供することができる。また、分散補償光学装置の小型化を図ることができるし、分散補償光学装置を構成する光学部品の配置の自由度が高い。更には、回折角を任意に設計できるため、分散補償光学装置の光学設計の自由度を高くすることができるし、分散補償光学装置における群速度分散値(分散補償量)の調整が容易となり、分散補償光学装置を構成する光学部品の配置の高い自由度を達成することができる。
実施例10は、第3の態様に係る分散補償光学装置に関する。実施例10の分散補償光学装置610の概念図を図33Aに示す。実施例10の分散補償光学装置610は、
透過型体積ホログラム回折格子611及び反射鏡613から成り、
透過型体積ホログラム回折格子611において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとは略等しく(具体的には、実施例10にあっては等しく)、
モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光は、透過型体積ホログラム回折格子611に入射し、回折され、1次の回折光として出射され、反射鏡613に衝突し、反射鏡613によって反射された1次の回折光は、再び、透過型体積ホログラム回折格子611に入射し、回折され、半導体光増幅器へと出射される。
あるいは又、概念図を図33Bに示すように、実施例10の分散補償光学装置610は、
透過型体積ホログラム回折格子611及び反射鏡613から成り、
透過型体積ホログラム回折格子611において、レーザ光の入射角φinと1次の回折光の出射角φoutとの和は90度であり、
モード同期半導体レーザ素子10から出射されたレーザ光は、透過型体積ホログラム回折格子611に入射し、回折され、1次の回折光として出射され、反射鏡613に衝突し、反射鏡613によって反射された1次の回折光は、再び、透過型体積ホログラム回折格子611に入射し、回折され、半導体光増幅器210に出射される。
そして、透過型体積ホログラム回折格子611と反射鏡613との間には、集光手段(レンズ)612が配置されている。透過型体積ホログラム回折格子611と反射鏡613との間の距離を変えることで、群速度分散値(分散補償量)を変えるが、具体的には、集光手段612と反射鏡613との間の距離を固定した状態で、透過型体積ホログラム回折格子611と集光手段612との間の距離を変えることで、群速度分散値を変えることができる。例えば、透過型体積ホログラム回折格子611と集光手段612との間の距離が集光手段612の焦点距離と等しい場合、透過型体積ホログラム回折格子611から集光手段612に向かうレーザ光と反射鏡613で反射されて集光手段612を経由して透過型体積ホログラム回折格子611に入射するレーザ光の角度分散は変化しない。従って、この場合、分散補償光学系が与える分散補償量はゼロである。一方、透過型体積ホログラム回折格子611と集光手段612との距離が集光手段612の焦点距離よりも長い場合、透過型体積ホログラム回折格子611で回折されたレーザ光の内、長波長成分の光路は短波長成分の光路よりも長くなり、この場合、負の群速度分散を形成する。即ち、群速度分散値は負である。また、透過型体積ホログラム回折格子611と集光手段612との距離が集光手段612の焦点距離よりも短い場合、群速度分散値は正となる。
実施例10あっては、分散補償光学装置610とモード同期半導体レーザ素子10の第1端面によって外部共振器構造が構成される。
以上の点を除き、実施例10の分散補償光学装置は、実施例4の分散補償光学装置と同じ構成、構造を有するので、詳細な説明は省略する。
実施例10の分散補償光学装置は、透過型体積ホログラム回折格子611及び反射鏡613から成るので、高い回折効率による高いスループットを有する小型の分散補償光学装置を提供することができる。また、分散補償光学装置の小型化を図ることができるし、分散補償光学装置を構成する光学部品の配置の自由度が高い。更には、回折角を任意に設計できるため、分散補償光学装置の光学設計の自由度を高くすることができるし、分散補償光学装置における群速度分散値(分散補償量)の調整が容易となり、分散補償光学装置を構成する光学部品の配置の高い自由度を達成することができる。
実施例11は、実施例1〜実施例10の変形である。実施例11にあっては、半導体レーザ装置組立体を構成する半導体光増幅器の光閉込め係数の値の低下を図っている。尚、実施例11における半導体光増幅器は、第1の構成の半導体光増幅器である。
半導体光増幅器の軸線に垂直な仮想平面で切断したときの半導体光増幅器の模式的な一部断面図を図34に示すように、積層構造体は、第1導電型を有する第1化合物半導体層71、化合物半導体から成る第3化合物半導体層(活性層、利得領域)73、及び、第1導電型と異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層72が、順次、基体70上に積層されて成る。ここで、第1化合物半導体層71は、基体側から、第1クラッド層(n型AlGaN層)71A、及び、第1光ガイド層(n型GaN層)71Bの積層構造を有する。そして、第1光ガイド層71Bの厚さをt1、リッジストライプ構造75を構成する第1光ガイド層の部分71B’の厚さをt1’としたとき、
6×10-7m<t1
好ましくは、
8×10-7m≦t1
を満足し、
0(m)<t1’≦0.5・t1
好ましくは、
0(m)<t1’≦0.3・t1
を満足する。具体的には、実施例11にあっては、
t1 =1.25μm
t1’=0.15μm
とした。また、リッジストライプ構造75の長さ及び幅を、それぞれ、1.0mm、1.6μmとした。
尚、具体的には、基体70はn型GaN基板から成り、化合物半導体層はn型GaN基板の(0001)面上に設けられている。また、第1化合物半導体層71、活性層73、及び、第2化合物半導体層72から構成された積層構造体は、GaN系化合物半導体、具体的にはAlGaInN系化合物半導体から成り、より具体的には、以下の表6に示す層構成を有する。ここで、表6において、下方に記載した化合物半導体層ほど、基体70に近い層である。尚、活性層73における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは3.06eVである。活性層73は、井戸層及び障壁層を備えた量子井戸構造を有しており、障壁層の不純物(具体的には、シリコン,Si)のドーピング濃度は、2×1017cm-3以上、1×1020cm-3以下である。また、リッジストライプ構造75の両側にはSiO2/Siから成る積層絶縁膜76が形成されている。尚、SiO2層が下層であり、Si層が上層である。そして、リッジストライプ構造75の頂面に相当するp型GaNコンタクト層74に、第2電極(p側オーミック電極)62が形成されている。一方、基体70の裏面には、Ti/Pt/Auから成る第1電極(n側オーミック電極)61が形成されている。実施例11にあっては、第2電極62を厚さ0.1μmのPd単層から構成した。p型AlGaN電子障壁層72Aの厚さは10nmであり、第2光ガイド層(p型AlGaN層)72Bの厚さは50nmであり、第2クラッド層(p型AlGaN層)72Cの厚さは0.5μmであり、p型GaNコンタクト層74の厚さは100nmである。更には、第2化合物半導体層72を構成するp型AlGaN電子障壁層72A、第2光ガイド層72B、第2クラッド層72C、p型GaNコンタクト層74には、Mgが、1×1019cm-3以上(具体的には、2×1019cm-3)、ドーピングされている。一方、第1クラッド層(n型AlGaN層)71Aの厚さは2.5μmである。第1光ガイド層(n型GaN層)71Bの厚さは上述したとおりであり、第1光ガイド層71Bの厚さ(1.25μm)は、第2光ガイド層72Bの厚さ(100nm)よりも厚い。また、第1光ガイド層71BをGaNから構成しているが、代替的に、第1光ガイド層71Bを、活性層73よりもバンドギャップの広い化合物半導体であって、第1クラッド層71Aよりもバンドギャップの狭い化合物半導体から構成することもできる。
[表6]
第2化合物半導体層72
p型GaNコンタクト層(Mgドープ)74
第2クラッド層(p型Al0.05Ga0.95N層(Mgドープ))72C
第2光ガイド層(p型Al0.01Ga0.99N層(Mgドープ))72B
p型Al0.20Ga0.80N電子障壁層(Mgドープ)72A
活性層73
GaInN量子井戸活性層73
(井戸層:Ga0.92In0.08N/障壁層:Ga0.98In0.02N)
第1化合物半導体層71
第1光ガイド層(n型GaN層)71B
第1クラッド層(n型Al0.03Ga0.97N層)71A
但し、
井戸層(2層):10nm[ノン・ドープ]
障壁層(3層):12nm[ドーピング濃度(Si):2×1018cm-3]
実施例11の半導体光増幅器にあっては、第1光ガイド層の厚さt1が規定されているので、光閉込め係数を低くすることができ、また、光場強度分布のピークが活性層から第1光ガイド層へと移動する結果、高出力動作時に活性層付近の光密度を低下させることができ、光学的損傷を防ぐことができるだけでなく、高出力化の達成を図ることができる。しかも、実施例11にあっては、リッジストライプ構造を構成する第1光ガイド層の部分の厚さt1’が規定されているので、出力される光ビームの単一モード化を達成することができる。また、スラブ導波路の幅と第1光ガイド層の厚さが同程度となる結果、真円に近い光ビーム断面形状を得ることができ、レンズや光ファイバーを用いる応用において集光特性が劣化する等の弊害が生じることが無い。
実施例12は、実施例11の半導体光増幅器の変形である。実施例12の半導体光増幅器の軸線に垂直な仮想平面で切断したときの半導体光増幅器の模式的な一部断面図を図35に示すように、基体70には、半導体光増幅器の軸線方向に沿って延びる凹部81が2つ、形成されている。そして、全面に、即ち、2つの凹部81、及び、2つの凹部81によって挟まれた基体70の領域82の上には、実施例11にて説明した積層構造体が形成されている。更には、基体70の領域82の上方には、第2電極62が設けられている。
ここで、第1化合物半導体層71は、基体側から、第1クラッド層及び第1光ガイド層の積層構造を有し、
2つの凹部81によって挟まれた基体70の領域82の上の第1光ガイド層の厚さをt1、積層構造体の総厚をTTotal、凹部81の深さをDとしたとき、
6×10-7m<t1
好ましくは、
8×10-7m≦t1
を満足し、
(TTotal−0.5・t1)≦D≦TTotal
好ましくは、
(TTotal−0.3・t1)≦D≦TTotal
を満足する。具体的には、実施例12にあっては、
t1 =1.25μm
TTotal=4.1μm
D =3.7μm
とした。また、凹部81の幅を20μm、2つの凹部81によって挟まれた基体70の領域82の幅を1.5μmとした。
以上の点を除き、実施例12の半導体光増幅器は、実施例11の半導体光増幅器と同じ構成、構造を有するので、詳細な説明は省略する。
実施例12の半導体光増幅器にあっては、2つの凹部によって挟まれた基体の領域(即ち、凹部と凹部との間に位置する基体の部分)の上の第1光ガイド層の厚さt1が規定されているので、高出力動作時に活性層付近の光密度を低下させることができ、光学的損傷を防ぐことができるだけでなく、増幅レーザ光の飽和エネルギーが増大し、高出力化の達成を図ることができる。しかも、実施例12の半導体光増幅器にあっては、凹部の深さDが規定されているので、出力される光ビームの単一モード化を達成することができる。また、スラブ導波路の幅と第1光ガイド層の厚さが同程度となる結果、真円に近い光ビーム断面形状を得ることができ、レンズや光ファイバーを用いる応用において集光特性が劣化する等の弊害が生じることが無い。
実施例13は、実施例11〜実施例12の変形である。模式的な一部断面図を図36に示すように、実施例13の半導体光増幅器において、第1化合物半導体層71は、基体70側から、第1クラッド層71A及び第1光ガイド層71b1,71b2の積層構造を有し、第1光ガイド層71b1,71b2の内部には、第1化合物半導体層71を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層79、具体的には、厚さ50nmのIn0.02Ga0.98Nから成る高屈折率層79が形成されている。活性層73と上層の第1光ガイド層71b2との界面から、上層の第1光ガイド層71b2と高屈折率層79との界面までの距離を0.35μmとした。ここで、第1光ガイド層71b1,71b2を構成する化合物半導体材料の屈折率をnG-1、高屈折率層79を構成する化合物半導体材料の屈折率をnHR、活性層73を構成する化合物半導体材料の平均屈折率をnAcとしたとき、
0.01≦nHR−nG-1≦0.1
を満足し、
nHR≦nAc
を満足している。具体的には、
nHR =2.547
nG-1=2.520
nAc =2.620
である。
実施例14も、実施例1〜実施例10の変形である。実施例14にあっても、半導体レーザ装置組立体を構成する半導体光増幅器の光閉込め係数の値の低下を図っている。尚、実施例14における半導体光増幅器は、第2の構成の半導体光増幅器である。
模式的な一部断面図を図37に示すように、実施例14の半導体光増幅器において、積層構造体は、少なくとも第2化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造95を有し;第1化合物半導体層91は、0.6μmを超える厚さを有し;第1化合物半導体層91内には、第1化合物半導体層91を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層99が形成されている。具体的には、第1化合物半導体層91は、基体側から、第1クラッド層91A及び第1光ガイド層91Bの積層構造を有し、第1光ガイド層91Bは0.6μmを超える厚さを有し、高屈折率層99は第1光ガイド層91Bの内部に形成されている。ここで、第1光ガイド層91Bは、基体側から、第1光ガイド層の第1の部分(第1−A光ガイド層91B1)、高屈折率層99、第1光ガイド層の第2の部分(第1−B光ガイド層91B2)が積層された構成を有する。
高屈折率層99を含む第1光ガイド層91Bの全体の厚さを1.25μmとした。また、活性層93と第1光ガイド層91Bとの界面(活性層93と第1−B光ガイド層91B2との界面)から、活性層側に位置する第1光ガイド層91Bの部分(第1−B光ガイド層91B2)と高屈折率層99との界面までの距離は、0.25μm以上であり、実施例14にあっては、具体的には、0.35μmである。即ち、第1−B光ガイド層91B2の厚さは0.35μmである。高屈折率層99は、厚さ50nmのIn0.02Ga0.98Nから成る。第1光ガイド層91B1,91B2を構成する化合物半導体材料の屈折率をnG-1、高屈折率層99を構成する化合物半導体材料の屈折率をnHR、活性層93を構成する化合物半導体材料の平均屈折率をnAcとしたとき、
0<nHR−nG-1≦0.3
好ましくは、
0.02≦nHR−nG-1≦0.2
を満足し、
nHR≦nAc
を満足している。具体的には、
nHR =2.547
nG-1=2.520
nAc =2.620
である。
尚、リッジストライプ構造95の長さ及び幅を、それぞれ、1.0mm、1.6μmとした。半導体光増幅器は単一モードの光ビームを出力する。
尚、具体的には、基体90はn型GaN基板から成り、化合物半導体層はn型GaN基板の(0001)面上に設けられている。また、第1化合物半導体層91、活性層93、及び、第2化合物半導体層92から構成された積層構造体は、GaN系化合物半導体、具体的にはAlGaInN系化合物半導体から成り、より具体的には、以下の表7に示す層構成を有する。ここで、表7において、下方に記載した化合物半導体層ほど、基体90に近い層である。尚、活性層93における井戸層を構成する化合物半導体のバンドギャップは3.06eVである。活性層93は、井戸層及び障壁層を備えた量子井戸構造を有しており、障壁層の不純物(具体的には、シリコン,Si)のドーピング濃度は、2×1017cm-3以上、1×1020cm-3以下である。また、リッジストライプ構造95の両側にはSiO2/Siから成る積層絶縁膜96が形成されている。尚、SiO2層が下層であり、Si層が上層である。そして、リッジストライプ構造95の頂面に相当するp型GaNコンタクト層94に、第2電極(p側オーミック電極)62が形成されている。一方、基体90の裏面には、Ti/Pt/Auから成る第1電極(n側オーミック電極)61が形成されている。実施例14にあっては、第2電極62を厚さ0.1μmのPd単層から構成した。p型AlGaN電子障壁層92Aの厚さは10nmであり、第2光ガイド層(p型AlGaN層)92Bの厚さは50nmであり、第2クラッド層(p型AlGaN層)92Cの厚さは0.5μmであり、p型GaNコンタクト層94の厚さは100nmである。更には、第2化合物半導体層92を構成するp型AlGaN電子障壁層92A、第2光ガイド層92B、第2クラッド層92C、p型GaNコンタクト層94には、Mgが、1×1019cm-3以上(具体的には、2×1019cm-3)、ドーピングされている。一方、第1クラッド層(n型AlGaN層)91Aの厚さは2.5μmである。高屈折率層99を含む第1光ガイド層(n型GaN層)91Bの全体の厚さは、上述したとおり、1.25μmであり、第1光ガイド層91Bの全体の厚さ(1.25μm)は、第2光ガイド層92Bの厚さ(100nm)よりも厚い。また、第1光ガイド層91BをGaNから構成しているが、代替的に、第1光ガイド層91Bを、活性層93よりもバンドギャップの広い化合物半導体であって、第1クラッド層91Aよりもバンドギャップの狭い化合物半導体から構成することもできる。
[表7]
第2化合物半導体層92
p型GaNコンタクト層(Mgドープ)94
第2クラッド層(p型Al0.05Ga0.95N層(Mgドープ))92C
第2光ガイド層(p型Al0.01Ga0.99N層(Mgドープ))92B
p型Al0.20Ga0.80N電子障壁層(Mgドープ)92A
活性層93
GaInN量子井戸活性層93
(井戸層:Ga0.92In0.08N/障壁層:Ga0.98In0.02N)
第1化合物半導体層91
第1−B光ガイド層(n型GaN層)91B2
高屈折率層(n型In0.02Ga0.98N高屈折率層)99
第1−A光ガイド層(n型GaN層)91B1
第1クラッド層(n型Al0.03Ga0.97N層)91A
但し、
井戸層(2層):10nm[ノン・ドープ]
障壁層(3層):12nm[ドーピング濃度(Si):2×1018cm-3]
図38に、第2クラッド層92C、第2光ガイド層92B、p型AlGaN電子障壁層92A、活性層93、第1−B光ガイド層91B2、高屈折率層99、第1−A光ガイド層91B1、第1クラッド層91Aにおける屈折率分布及び光場強度のプロファイルを計算した結果を示す。高屈折率層99の存在によって、光場強度が第1クラッド層91A側に移動していることが判る。尚、図38の横軸は、p型GaNコンタクト層(Mgドープ)94と第2電極62との界面からの距離を表す。また、図39に、高屈折率層99の厚さを30nm及び50nmとして、第1−B光ガイド層91B2の厚さを変化させたときの光閉込め係数を計算にて求めた結果を示す。図39から、第1−B光ガイド層91B2の厚さを0.25μm以上とすることで、低い光閉込め係数を達成することができることが判る。また、種々の解析の結果、高屈折率層99の厚さは50nm以下であることが、半導体光増幅器から出力される光ビームのマルチビーム化を確実に抑制するといった観点から望ましく、また、InGaNから成る高屈折率層99におけるInの原子%が5%未満であることが、半導体光増幅器から出力される光ビームのマルチビーム化を確実に抑制するといった観点から望ましいことが判明した。
実施例14においては、高屈折率層を、第1光ガイド層に設けたが、場合によっては、第1クラッド層に設けてもよく、この場合、高屈折率層を構成する化合物半導体材料の屈折率は、第1クラッド層を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い。
実施例15は実施例1〜実施例14において説明したモード同期半導体レーザ素子の変形であり、第3の構成のモード同期半導体レーザ素子に関する。実施例1においては、モード同期半導体レーザ素子10を、極性を有する結晶面であるn型GaN基板21の(0001)面、C面上に設けた。ところで、このような基板を用いた場合、第3化合物半導体層(活性層)40にピエゾ分極及び自発分極に起因した内部電界によるQCSE効果(量子閉じ込めシュタルク効果)によって、電気的に可飽和吸収が制御し難くなる場合がある。即ち、場合によっては、セルフ・パルセーション動作及びモード同期動作を得るために第1電極に流す直流電流の値及び可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧の値を高くする必要が生じたり、メインパルスに付随したサブパルス成分が発生したり、外部信号と光パルスとの間での同期が取り難くなることが判った。
そして、このような現象の発生を防止するためには、第3化合物半導体層(活性層)40を構成する井戸層の厚さの最適化、第3化合物半導体層40を構成する障壁層における不純物ドーピング濃度の最適化を図ることが好ましいことが判明した。
具体的には、GaInN量子井戸活性層を構成する井戸層の厚さを、1nm以上、10.0nm以下、好ましくは、1nm以上、8nm以下とすることが望ましい。このように井戸層の厚さを薄くすることによって、ピエゾ分極及び自発分極の影響を低減させることができる。また、障壁層の不純物ドーピング濃度を、2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下、好ましくは、1×1019cm-3以上、1×1020cm-3以下とすることが望ましい。ここで、不純物として、シリコン(Si)あるいは酸素(O)を挙げることができる。そして、障壁層の不純物ドーピング濃度をこのような濃度とすることで、活性層のキャリアの増加を図ることができる結果、ピエゾ分極及び自発分極の影響を低減させることができる。
実施例15においては、表3に示した層構成における3層の障壁層(Ga0.98In0.02Nから成る)と2層の井戸層(Ga0.92In0.08N)から成るGaInN量子井戸活性層から構成された第3化合物半導体層(活性層)40の構成を以下の表8のとおりとした。また、参考例15のモード同期半導体レーザ素子においては、表3に示した層構成における第3化合物半導体層40の構成を以下の表8のとおりとした。
[表8]
実施例15 参考例15
井戸層 8nm 10.5nm
障壁層 12nm 14nm
井戸層の不純物ドーピング濃度 ノン・ドープ ノン・ドープ
障壁層の不純物ドーピング濃度 Si:2×1018cm-3 ノン・ドープ
実施例15においては井戸層の厚さが8nmであり、また、障壁層にはSiが2×1018cm-3、ドーピングされており、活性層内のQCSE効果が緩和されている。一方、参考例15においては井戸層の厚さが10.5nmであり、また、障壁層には不純物がドーピングされていない。
モード同期は、実施例1と同様に、発光領域に印加する直流電流と可飽和吸収領域に印加する逆バイアス電圧Vsaとによって決定される。実施例15及び参考例15の注入電流と光出力の関係の逆バイアス電圧依存性を測定した。その結果、参考例15にあっては、逆バイアス電圧Vsaを増加していくと、レーザ発振が開始する閾値電流が次第に上昇し、更には、実施例15に比べて、低い逆バイアス電圧Vsaで変化が生じていることが判った。これは、実施例15の活性層の方が、逆バイアス電圧Vsaにより可飽和吸収の効果が電気的に制御されていることを示唆している。但し、参考例15にあっても、可飽和吸収領域に逆バイアスを印加した状態でシングルモード(単一基本横モード)のセルフ・パルセーション動作及びモード同期(モードロック)動作が確認されており、参考例15も本開示に包含されることは云うまでもない。
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において説明した半導体レーザ装置組立体、半導体光増幅器、モード同期半導体レーザ素子、分散補償光学系や分散補償光学装置の構成、構造の構成は例示であり、適宜、変更することができる。また、実施例においては、種々の値を示したが、これらも例示であり、例えば、使用するモード同期半導体レーザ素子、半導体光増幅器の仕様が変われば、変わることは当然である。例えば、モード同期半導体レーザ素子や半導体光増幅器の軸線とリッジストライプ構造の軸線とは、所定の角度で交わっている構成としてもよいし、リッジストライプ構造の平面形状をテーパー状としてもよい。
発光領域41や可飽和吸収領域42の数は1に限定されない。1つの第2電極の第1部分62Aと2つの第2電極の第2部分62B1,62B2とが設けられたモード同期半導体レーザ素子(マルチセクション型(多電極型)のモード同期半導体レーザ素子)の模式的な端面図を図40に示す。図40に示すモード同期半導体レーザ素子にあっては、第1部分62Aの一端が、一方の分離溝62C1を挟んで、一方の第2部分62B1と対向し、第1部分62Aの他端が、他方の分離溝62C2を挟んで、他方の第2部分62B2と対向している。そして、1つの発光領域41が、2つの可飽和吸収領域421,422によって挟まれている。あるいは又、2つの第2電極の第1部分62A1,62A2と1つの第2電極の第2部分62Bとが設けられたモード同期半導体レーザ素子の模式的な端面図を図41に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、第2部分62Bの端部が、一方の分離溝62C1を挟んで、一方の第1部分62A1と対向し、第2部分62Bの他端が、他方の分離溝62C2を挟んで、他方の第1部分62A2と対向している。そして、1つの可飽和吸収領域42が、2つの発光領域411,412によって挟まれている。
モード同期半導体レーザ素子を、斜め導波路を有する斜めリッジストライプ型の分離閉じ込めヘテロ構造の半導体レーザ素子とすることもできる。このようなモード同期半導体レーザ素子におけるリッジストライプ構造55’を上方から眺めた模式図を図42に示す。このモード同期半導体レーザ素子にあっては、直線状の2つのリッジストライプ構造が組み合わされた構造を有し、2つのリッジストライプ構造の交差する角度θの値は、例えば、
0<θ≦10(度)
好ましくは、
0<θ≦6(度)
とすることが望ましい。斜めリッジストライプ型を採用することで、無反射コートをされた第2端面の反射率を、より0%の理想値に近づけることができ、その結果、モード同期半導体レーザ素子内で周回してしまうレーザ光の発生を防ぐことができ、メインのレーザ光に付随する副次的なレーザ光の生成を抑制できるといった利点を得ることができる。
実施例においては、モード同期半導体レーザ素子や半導体光増幅器を、n型GaN基板の極性面であるC面,{0001}面上に設けたが、代替的に、{11−20}面であるA面、{1−100}面であるM面、{1−102}面といった無極性面上、あるいは又、{11−24}面や{11−22}面を含む{11−2n}面、{10−11}面、{10−12}面といった半極性面上に、モード同期半導体レーザ素子や半導体光増幅器を設けてもよく、これによって、モード同期半導体レーザ素子や半導体光増幅器の第3化合物半導体層(活性層)にたとえピエゾ分極及び自発分極が生じた場合であっても、第3化合物半導体層の厚さ方向にピエゾ分極が生じることは無く、第3化合物半導体層の厚さ方向とは略直角の方向にピエゾ分極が生じるので、ピエゾ分極及び自発分極に起因した悪影響を排除することができる。尚、{11−2n}面とは、ほぼC面に対して40度を成す無極性面を意味する。また、無極性面上あるいは半極性面上にモード同期半導体レーザ素子10を設ける場合、実施例15にて説明したような、井戸層の厚さの制限(1nm以上、10nm以下)及び障壁層の不純物ドーピング濃度の制限(2×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下)を無くすことが可能である。
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[A01]《半導体レーザ装置組立体》
モード同期半導体レーザ素子、及び、モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光が入出射される分散補償光学系から構成されたモード同期半導体レーザ素子組立体、並びに、
モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光を増幅する、III−V族窒化物系半導体層の積層構造体あるいはワイドギャップ半導体層の積層構造体から成る半導体光増幅器、
から構成されている半導体レーザ装置組立体。
[A02]半導体光増幅器へ入射するレーザ光のパルス時間幅をτ1、半導体光増幅器から出力されるレーザ光のパルス時間幅をτ2としたとき、τ1>τ2であり、且つ、半導体光増幅器の駆動電流値が高い程、τ2の値が小さくなる[A01]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A03]半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光スペクトル幅は4.5THz以上である[A01]又は[A02]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A04]半導体光増幅器の駆動電流密度は5×103アンペア/cm2以上である[A01]乃至[A03]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A05]半導体光増幅器の光閉込め係数は3%以下である[A01]乃至[A04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A06]半導体光増幅器へ入射するレーザ光の光スペクトル幅に対して、半導体光増幅器から出力されるレーザ光の光スペクトル幅が、2.5THz以上増加する[A01]乃至[A05]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A07]モード同期半導体レーザ素子は、ピークパワーの光密度が1×1010ワット/cm2以上であり、且つ、キャリア密度が1×1019/cm3以上である電流注入型のモード同期半導体レーザ素子である[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A08]分散補償光学系における群速度分散値は負である[A01]乃至[A07]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A09]半導体光増幅器へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値となる群速度分散値あるいはその近傍において動作させられる[A01]乃至[A07]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A10]分散補償光学系の群速度分散値を、第1の所定値GVD1から第2の所定値GVD2(但し、|GVD1|<|GVD2|)まで単調に変化させたとき、モード同期半導体レーザ素子組立体から出射され、半導体光増幅器に入射するレーザ光のパルス時間幅は、減少し、極小値PWminを超えて増加する[A01]乃至[A07]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A11]半導体光増幅器へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が極小値PWminとなるときの分散補償光学系の群速度分散極小値をGVDminとし、分散補償光学系の群速度分散値が負の第1の所定値GVD1であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW1、分散補償光学系の群速度分散値が負の第2の所定値GVD2であるときのレーザ光のパルス時間幅をPW2としたとき、
(PW1−PWmin)/|GVDmin−GVD1|
≧2×(PW2−PWmin)/|GVD2−GVDmin|
但し、
|GVD1/GVDmin|=0.5
|GVD2/GVDmin|=2
を満足する[A10]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A12]半導体光増幅器へ出射されるレーザ光のパルス時間幅が最小値PWminとなる群速度分散極小値GVDminあるいはその近傍において動作させられる[A10]又は[A11]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A13]半導体光増幅器に入射するレーザ光の主発振周波数に対する雑音成分は−60dB以下である[A10]乃至[A12]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A14]モード同期半導体レーザ素子組立体から出力されるレーザ光は、周波数チャープが負であり、パルス時間幅が0.5ピコ秒以下である[A01]乃至[A13]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A15]モード同期半導体レーザ素子は、レーザ光の繰返し周波数が1GHz以下である[A01]乃至[A14]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A16]モード同期半導体レーザ素子は可飽和吸収領域を有する[A01]乃至[A15]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A17]モード同期半導体レーザ素子は、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型を有する第1化合物半導体層、
GaN系化合物半導体から成る第3化合物半導体層、及び、
GaN系化合物半導体から成り、第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2化合物半導体層、
が、順次、積層されて成る積層構造体を有する[A01]乃至[A16]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A18]モード同期半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、分散補償光学系に入射され、
分散補償光学系に入射したレーザ光の一部は、分散補償光学系から出射され、モード同期半導体レーザ素子に戻され、分散補償光学系に入射したレーザ光の残りは、半導体光増幅器に入射する[A01]乃至[A17]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A19]モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光に対して光スペクトルを整形する光スペクトル整形手段を更に備えており、整形後のレーザ光が半導体光増幅器に入射する[A01]乃至[A18]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A20]光スペクトル整形手段は、誘電多層膜から構成されたバンドパスフィルタから成り、
モード同期半導体レーザ素子組立体から出射されたレーザ光は、バンドパスフィルタを複数回、通過する[A19]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A21]バンドパスフィルタは、単一の二分の一波長共振器を内蔵する誘電体多層膜共振器から成る[A20]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A22]バンドパスフィルタは、複数の二分の一波長共振器を内蔵する誘電体多層膜共振器から成る[A20]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A23]バンドパスフィルタは、二分の一波長の整数倍の共振器を内蔵する誘電体多層膜共振器から成る[A20]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[A24]バンドパスフィルタは、バンドパスフィルタを通過したレーザ光の光スペクトルピークの半値よりも低い光スペクトル成分に関して、ガウス関数からのずれが、ガウス関数による光スペクトルの面積に比較して20%以下であるバンドパスフィルタである[A20]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B01]《第1の態様に係る分散補償光学装置》
分散補償光学系は、対向して配置された第1の透過型体積ホログラム回折格子及び第2の透過型体積ホログラム回折格子から成り、各透過型体積ホログラム回折格子において、レーザ光の入射角と1次の回折光の出射角との和は90度である分散補償光学装置から成る[A01]乃至[A24]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B02]半導体レーザ素子からのレーザ光が入射する第1の透過型体積ホログラム回折格子において、1次の回折光の出射角は、レーザ光の入射角よりも大きい[B01]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B03]《第2の態様に係る分散補償光学装置》
分散補償光学系は、対向して配置された第1の透過型体積ホログラム回折格子及び第2の透過型体積ホログラム回折格子から成り、各透過型体積ホログラム回折格子において、レーザ光の入射角と1次の回折光の出射角とは略等しい分散補償光学装置から成る[A01]乃至[A24]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B04]レーザ光の入射角と1次の回折光の出射角との和は90度である[B03]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B05]第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として系外に出射される[B01]乃至[B04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B06]平行に配置された第1の反射鏡及び第2の反射鏡を更に備えており、
第2の透過型体積ホログラム回折格子から出射されたレーザ光は、第1の反射鏡に衝突して反射され、次いで、第2の反射鏡に衝突して反射される[B05]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B07]第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射するレーザ光の延長線上に、第2の反射鏡に反射されたレーザ光が概ね位置している[B06]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B08]基体の第1面上に第1の透過型体積ホログラム回折格子が設けられており、
第1面と対向する基体の第2面上に第2の透過型体積ホログラム回折格子が設けられている[B01]乃至[B04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B09]反射鏡を更に備えており、
第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射されて、反射鏡に衝突し、
反射鏡によって反射されたレーザ光は、再び、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、再び、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、系外に出射される[B01]乃至[B04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B10]部分反射鏡を更に備えており、
第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射したレーザ光は、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射されて、部分反射鏡に衝突し、一部は系外に出射され、残りは、部分反射鏡によって反射され、再び、第2の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第2の透過型体積ホログラム回折格子によって回折され、1次の回折光として出射され、更に、再び、第1の透過型体積ホログラム回折格子に入射し、第1の透過型体積ホログラム回折格子によって回折される[B01]乃至[B04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B11]2つの透過型体積ホログラム回折格子の間の距離を変えることで、群速度分散値を変える[B01]乃至[B10]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B12]《第3の態様に係る分散補償光学装置》
分散補償光学系は、
透過型体積ホログラム回折格子及び反射鏡から成り、
透過型体積ホログラム回折格子において、レーザ光の入射角と1次の回折光の出射角との和は90度であり、あるいは又、レーザ光の入射角と1次の回折光の出射角とは略等しく、
半導体レーザ素子から出射されたレーザ光は、透過型体積ホログラム回折格子に入射し、回折され、1次の回折光として出射され、反射鏡に衝突し、反射鏡によって反射された1次の回折光は、再び、透過型体積ホログラム回折格子に入射し、回折され、系外に出射される分散補償光学装置から成る[A01]乃至[A24]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B13]透過型体積ホログラム回折格子と反射鏡の間の距離を変えることで、群速度分散値を変える[B12]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[B14]透過型体積ホログラム回折格子は、2枚のガラス基板の間に回折格子部材が挟まれた構造を有し、
回折格子部材へ入射するレーザ光の波長をλ、レーザ光スペクトル幅をΔλ、回折格子部材へのレーザ光の入射角をθin、回折角をθout、ガラス基板の屈折率をN、回折格子部材の厚さをLとしたとき、以下の式(A)を満足する[B01]乃至[B13]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
|1−cos(θin+θout)}/cos(θout)|
≦{0.553/(π・N・L)}(λ2/Δλ) (A)
[B15]mを整数、回折格子部材における屈折率変調度をΔnとしたとき、以下の式(B)を満足する[B14]に記載の半導体レーザ装置組立体。
{(0.8+2m)・λ/Δn}・{cos(θin)・cos(θout)}1/2
≦ L ≦
{(1.2+2m)・λ/Δn}・{cos(θin)・cos(θout)}1/2 (B)
[C01]《第1の構成の半導体光増幅器》
分散補償光学系において、
第1化合物半導体層は、基体側から、第1クラッド層及び第1光ガイド層の積層構造を有し、
積層構造体は、第2化合物半導体層、第3化合物半導体層、及び、第1光ガイド層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造を有し、
第1光ガイド層の厚さをt1、リッジストライプ構造を構成する第1光ガイド層の部分の厚さをt1’としたとき、
6×10-7m<t1
0(m)<t1’≦0.5・t1
を満足する[A01]乃至[B15]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C02]t1≦3×10-6m
を満足する[C01]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C03]半導体光増幅器は単一モードの光ビームを出力する[C01]又は[C02]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C04]積層構造体の光出射端面から出射された光ビームのリッジストライプ構造の幅方向の寸法をLBX、リッジストライプ構造の厚さ方向の寸法をLBYとしたとき、
0.2≦LBY/LBX≦1.2
を満足する[C01]乃至[C03]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C05]積層構造体の光出射端面において、リッジストライプ構造の厚さ方向に沿った、積層構造体における活性層中心点から、積層構造体から出射される光ビームの中心点までの距離YCCは、
t1’≦YCC≦t1
を満足する[C01]乃至[C04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C06]第1光ガイド層内には、第1光ガイド層を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層が形成されている[C01]乃至[C05]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C07]第1光ガイド層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnG-1、高屈折率層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnHRとしたとき、
0.01≦nHR−nG-1≦0.1
を満足する[C06]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[C08]第2化合物半導体層は、基体側から、第2光ガイド層及び第2クラッド層の積層構造を有し、
第1光ガイド層の厚さは、第2光ガイド層の厚さよりも厚い[C01]乃至[C07]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[D01]《第2の構成の半導体光増幅器》
分散補償光学系において、
積層構造体は、少なくとも第2化合物半導体層の厚さ方向の一部分から構成されたリッジストライプ構造を有し、
第1化合物半導体層は、0.6μmを超える厚さを有し、
第1化合物半導体層内には、第1化合物半導体層を構成する化合物半導体材料の屈折率よりも高い屈折率を有する化合物半導体材料から成る高屈折率層が形成されている[A01]乃至[B15]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[D02]第1化合物半導体層は、基体側から、第1クラッド層及び第1光ガイド層の積層構造を有し、
第1光ガイド層は、0.6μmを超える厚さを有し、
高屈折率層は、第1光ガイド層の内部に形成されている[D01]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[D03]活性層と第1光ガイド層との界面から、活性層側に位置する第1光ガイド層の部分と高屈折率層との界面までの距離は、0.25μm以上である[D02]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[D04]第1光ガイド層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnG-1、高屈折率層を構成する化合物半導体材料の屈折率をnHRとしたとき、
0<nHR−nG-1≦0.3
を満足する[D02]又は[D03]に記載の半導体レーザ装置組立体。
[D05]半導体光増幅器は単一モードの光ビームを出力する[D01]乃至[D04]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。
[D06]第2化合物半導体層は、基体側から、第2光ガイド層及び第2クラッド層の積層構造を有し、
第1光ガイド層の厚さは、第2光ガイド層の厚さよりも厚い[D02]乃至[D05]のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置組立体。