JP2017101000A - トゥレット症候群治療剤 - Google Patents
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Abstract
Description
を含む単純音声チックと、社会的に受容し難い卑猥、粗野な語を不随意的に発する「汚言」、他人が発した語などを不随意的に繰り返す「反響言語」などの複雑音声チックが見られる。
トゥレット症候群の経過は、寛解と憎悪を繰り返すのが特徴であるが、10代前半において症状がピークとなり、成人になると軽減することが多い。成人になってもチックの症状が残存する場合には、ストレスなどの環境要因によって、さらに憎悪することもある。
トゥレット症候群の発症患者の多くに家族発症が見られ、一卵性双生児の場合に同時に発症する確率が高いこと等から、トゥレット症候群には遺伝的要因が関与しているとされている。一方、家族性・遺伝性のものではないトゥレット症候群の孤発例も多く、精神ストレスなどによって症状が悪化することが知られており、環境要因も関与していると考えられる。
薬物療法としては、ドパミン遮断薬が現在までのところ最も有効性が高く、ハロペリドール(halperidol)、レボドパ(L-dopa)、ピモジド(pimozide)、リスペリドン(Risperidone)等が用いられている。他に、ノルエピネフリンリセプター作動薬であるクロニジン(Clonidine)が有効であるという報告もある。
しかしながら、これらの薬物療法は、トゥレット症候群に対して有効であるものの、副作用が強く、十分な量を投与することができないものであった。特に、10歳未満の患者に対してドパミン遮断剤を投与することは、前頭葉の発達に影響を及ぼすことから、できるだけ使用を避ける必要があるものであった。
また、メラトニン受容体作動薬は、睡眠障害治療剤や、時差ボケ治療剤等として用いることは知られていたが、トゥレット症候群の治療剤として用いることは知られていなかった(特許文献1及び2)。
本発明のトゥレット症候群又はその合併症の治療剤又は予防剤に用いるメラトニン受容体作動薬としては、次の一般式(1)
R2は水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、
R3は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基であり、
mは1ないし4の整数である。]
で表される化合物を用いることが好ましい。
また、上記一般式(1)で表される化合物のうち、(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル)プロピオンアミド(ラメルテオン)を本発明では好適に用いることができる。
本発明で用いるメラトニン受容体作動薬としては、一般式(1)で表される化合物の他に、メラトニン、メラトニン誘導体、アゴメラチン、タシメルテオン、N−[(2R)−2−(6−クロロ−5−メトキシ−1H−インドール−3−イル)プロピル]アセトアミド、N−[2−[2,3,7,8−テトラヒドロ−1H−フロ(2,3−g)インドール−1−イル]エチル]アセトアミド、2−アセトアミド−8−メトキシテトラリン、8−メトキシ−2−プロピオンアミド−テトラリン、8−メトキシ−2−クロロアセトアミドテトラリン、N−[2−[(4−メトキシフェニル)−フェニルアミノ]エチル]アセトアミド等を用いることができ、これらの化合物のうち、メラトニンを好適に用いることができる。
本発明は、メラトニン受容体作動薬又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、トゥレット症候群の治療剤若しくは予防剤又はトゥレット症候群の合併症の治療剤若しくは予防剤を提供する。
本発明において「トゥレット症候群」とは、「トゥレット症/トゥレット障害」、「Tourette Syndrome (TS)」、「Gilles de la Tourette Syndrome (GTS)」とも呼ばれ、運動チックと音声チックが1年以上にわたり続く疾患をいう。トゥレット症候群の診断は、例えば、世界保健機関(WHO)が作成した国際疾病分類第10版(International Classification of Diseases 10th revision 、ICD-10)や、米国精神医学会が作成したDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disease, Fifth Edition、精神障害の分類と診断の手引き第5版)に従って行うことができる。
本発明の治療剤及び予防剤は、トゥレット症候群であると診断された患者のみならず、トゥレット症候群の可能性のある患者や、トゥレット症候群を発症する恐れのある患者に対しても、治療剤又は予防剤として投与することができる。
注意欠陥多動性障害とは、集中困難、過活動、不注意等の症状を特徴とする神経発達症又は行動障害の一種であり、一般的に遺伝的要因が関与しているとされる疾患である。注意欠陥多動性障害は、トゥレット症候群と併発することが多いことが知られている。
強迫性障害とは、手や体を何度も洗うなど、心配ごとが要因となって不合理な行為や思考を反復してしまう精神疾患の一つである。強迫性障害は、一般的に心理的要因が大きく関わっているとされているが、トゥレット症候群と併発することが多いことが知られている。
トゥレット症候群を治療又は予防することによって、これらの合併症も治療又は予防することができることから、本発明の治療剤又は予防剤は、これらの合併症の治療剤又は予防剤として使用することができる。
メラトニン受容体作動薬としては、特に、脳に存在するメラトニン受容1型(MT1)及び/又はメラトニン受容体2型(MT2)に対する選択性を有する作動薬が好ましく、主に内蔵に存在するメラトニン受容体3型(MT3)に対しては選択性が低いものが好ましい。
メラトニン受動体作動薬としては、次の一般式(1)
R2は水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、
R3は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基であり、
mは1ないし4の整数である。]
で表される化合物を用いることが好ましい。
親出願に係る特許(特許文献1)は、S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル)プロピオンアミド(以下、「ラメルテオン」という。)を権利対象とする特許であり、子出願に係る特許(特許文献2)は、一般式(1)で表される化合物のうち、ラメルテオン以外の化合物を権利対象とする特許である。
また、一般式(1)に示される化合物の合成方法及び合成例についても、特許文献1及び2に記載されている。
ラメルテオンは、脳の機能を抑制する従来の睡眠導入剤とは異なり、体内時計を調節することで自然な眠りを導入するもので、副作用が少なく、薬の効果が少なくなってしまう「耐性」の問題や、依存や乱用の問題が生じない薬と考えられている。
このように、メラトニン受容体作動薬は、副作用の少ない医薬品となることが知られており、メラトニン受容体作動薬を有効成分として含有する本発明の治療剤及び予防剤も、従来のトゥレット症候群の治療剤と比較して、副作用が大幅に少ない医薬品になると考えられる。
尚、ラメルテオンは、メラトニン受容1型(MT1)及びメラトニン受容体2型(MT2)に対する選択性が高い作動薬である。
ここで、「アルキル基」としては、低級アルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のC1−6アルキル基とすることができる。「アルケニル基」としては、低級アルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基及びイソブテニル基等のC2−6アルケニル基とすることができる。「アルキニル基」としては、低級アルキニル基が好ましく、例えば、エチニル基、プロパルギル基、1−プロピニル基等のC2−6アルキニル基等とすることができる。「シクロアルキル基」としては、低級シクロアルキル基が好ましく、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のC3−6シクロアルキル基とすることができる。「アリール基」としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基及び2−アンスリル基等のC6−14アリール基が好ましく、例えばフェニル基とすることができる。
「置換基を有していてもよい炭化水素基」の「炭化水素基」は、前記の置換基を、炭化水素基の置換可能な位置に1ないし5個、好ましくは1ないし3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合は各置換基が同一又は異なっていてもよい。
「置換基を有していてもよい複素環基」の「複素環基」は、前記の置換基を、複素環基の置換可能な位置に1ないし5個、好ましくは1ないし3個有していてもよく、置換基数が2個以上の場合は、各置換基は同一又は異なっていてもよい。
ここで、「低級アルキル基」、「低級アルケニル基」、「低級アルキニル基」、「低級シクロアルキル基」、「アリール基」は、例えば、前記「炭化水素基」が有していてもよい「置換基」と同じものを1ないし5個、好ましくは1ないし3個有していてもよい。
ここで、「置換基を有していてもよい炭化水素基」及び「置換基を有していてもよいアミノ基」としては、例えば、前記したものと同様のものを用いることができる。また、「置換基を有していてもよい低級アルコキシ基」としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシ等のC1−6アルコキシ基に、置換基として、例えば、前記「炭化水素基」が有していてもよい「置換基」等を0ないし3個有するものが挙げられる。これらの「置換基を有していてもよい炭化水素基」、「置換基を有していてもよいアミノ基」及び「置換基を有していてもよい低級アルコキシ基」が有する置換基の数が2個以上の場合、各置換基は同一または異なっていてもよい。
R1が、i)ハロゲンまたはC1−6アルコキシ基でそれぞれ1〜4個置換されていてもよいC1−6アルキル基、ii)C3−6シクロアルキル基、iii)C2−6アルケニル基、iv)C1−6アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲノC1−6アルキル−カルボニルアミノ基またはハロゲン原子でそれぞれ1〜4個置換されていてもよいC6−10アリール基、v)モノ−またはジ−C1−6アルキルアミノ基、vi)1〜3個のC1−6アルコキシ基で置換されていてもよいC6−10アリールアミノ基またはvii)C7−11アラルキルオキシ−カルボニル基で1〜2個置換されていてもよい6員含窒素複素環基であり、
R2が水素原子または低級(C1−6)アルキル基であり、
R3が、(i)水素原子、(ii)低級(C1−6)アルキル基または(iii)C6−14アリール基であり、
R4が、水素原子またはオキソ基で置換されていてもよい低級(C1−6)アルキル基であり、
A環が、次の式で表され、
n'は、0ないし2の整数を示し、
R5は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいC1−6アルキル基、置換基を有していてもよいC1−6アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、置換基を有していてもよいアミノ基、又はオキソ基である1個又は2個の置換基を示す。(「置換基を有していてもよい」の「置換基」は、例えば、前記「炭化水素基」が有していてもよい「置換基」を示す。)]
B環が、次の式で表され、
mが、1又は2である化合物である。
R1がエチル基であり、R2及びR3が水素原子であり、
R4が水素原子であり、A環が酸素原子を1つ含む5員の複素環であり、B環がベンゼン環であり、mが2である、下記の構造式で表される化合物である。
例えば、一般式(1)で表される化合物の1つの合成スキームを以下の反応式に示す。
本発明の治療剤又は予防剤が含有する「メラトニン受容体作動薬」としては、一般式(1)で表される化合物以外のものとして、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の1)〜10)の化合物を用いることができる。
メラトニン(N−アセチル−5−メトキシトリプタミン)は、次の構造式で表される天然の化合物である。メラトニンは動物、植物、微生物中に存在するが、動物ではホルモンの一種として、脳の松果腺から分泌される。
本発明で用いる「メラトニン受容体作動薬」として、メラトニンを用いた場合には、副作用のより少ない治療剤又は予防剤とすることができる。しかしながら、メラトニンは体内の酵素により代謝されやすく半減期が20〜30分と短い。したがって、長時間効果を持続させる医薬品とするためには、メラトニン以外のメラトニン受容体作動薬を用いることが好ましい。
メラトニン誘導体は、メラトニンに官能基を導入し又は原子を置換するなどして、メラトニンの機能を本質的に変更しないように改変された化合物をいい、これらに限定されるわけではないが、例えば、2−ヨードメラトニン、6−クロロメラトニン、6−メトキシメラトニン、2,4,6,7−テトラブロモメラトニン、6−クロロ−5−メトキシ−α―メチルメラトニン、6−ヒドロキシメラトニン、8−ヒドロキシメラトニン等を用いることができる。
アゴメラチン(N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド)は、次の構造式で表される化合物である。
タシメルテオン(トランス−N−[[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−4−イル)シクロプロパン−1−イル]メチル]プロパンアミド)は、次の構造式で表される化合物である。
N−[(2R)−2−(6−クロロ−5−メトキシ−1H−インドール−3−イル)プロピル]アセトアミド(TIK301、LY156735)は、次の構造式で表される化合物である。
N−[2−[2,3,7,8−テトラヒドロ−1H−フロ(2,3−g)インドール−1−イル]エチル]アセトアミド(GR196429)は、次の構造式で表される化合物である。
2−アセトアミド−8−メトキシテトラリン(AH−001)は、次の構造式で表される化合物である。
8−メトキシ−2−プロピオンアミド−テトラリン(AH−002)は、次の構造式で表される化合物である。
8−メトキシ−2−クロロアセトアミドテトラリン(AH−017)は、次の構造式で表される化合物である。
N−[2−[(4−メトキシフェニル)−フェニルアミノ]エチル]アセトアミド(UCM765)は、次の構造式で表される化合物である。
本発明で用いる「メラトニン受容体作動薬」は、塩とならないフリーの形態又は塩の形態として、本発明の治療剤及び予防剤に含有させることができる。
ここで、塩の形態とする場合には、例えば、薬学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等とすることができる。
ここで、薬学的に許容できる担体としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶解補助剤、等張化剤、溶解補助剤等を用いることができる。
本発明の治療剤及び予防剤は、トゥレット症候群であると診断された患者、トゥレット症候群の可能性のある患者、又はトゥレット症候群を発症する恐れのある者に投与することができる。
投与は、経口的に行うことも、静脈中に投与することもできる。投与量は、年齢や疾患の程度によって異なるが、成人に対し経口剤として投与する場合、0.01〜300mg程度である。投与は、1日に1ないし数回に分けて投与することができるが、就寝前に行うことが好ましい場合もある。また、本発明の治療剤・予防剤は、他の精神疾患の治療剤と併用することもできる。
30歳男性のトゥレット症候群の患者に対し、ラメルテオン8mgを就眠前に経口投与したところ、1週間以内に音声チック、四肢のチックが減少した。Yale Global Tic Severity Scale(YGTSS)でチックの程度を計測したところ、ラメルテオンの投与前はスコアが66であったものが、投与後には34へと大幅に軽減した。患者は、外出の機会が多くなり、趣味のバンド活動も再開できるようになった。
23歳男性のトゥレット症候群の患者に対し、ラメルテオン8mgを就眠前に経口投与したところ、1週間以内に音声チック、四肢のチックが減少した。この患者は、診察待合室にいることが大きな声(音声チック)でわかるくらいであったのが、ラメルテオンの投与を開始したところ、音声チックが目立たなくなり、四肢の不随意運動も減少した。この患者は、建築関係の職業に従事していたもののチックが仕事に支障をきたしていたが、ラメルテオンの投与をしたことにより、無職の期間が短くなった。
Claims (5)
- メラトニン受容体作動薬又はその塩を有効成分として含有する、トゥレット症候群又はその合併症の治療剤又は予防剤。
- 前記メラトニン受容体作動薬が次の一般式(1)
R2は水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、
R3は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基であり、
mは1ないし4の整数である。]
で表される化合物である、請求項1に記載のトゥレット症候群又はその合併症の治療剤又は予防剤。 - 前記メラトニン受容体作動薬が(S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ[5,4−b]フラン−8−イル)エチル)プロピオンアミドである、請求項2に記載のトゥレット症候群又はその合併症の治療剤又は予防剤。
- 前記メラトニン受容体作動薬が、メラトニン、メラトニン誘導体、アゴメラチン、タシメルテオン、N−[(2R)−2−(6−クロロ−5−メトキシ−1H−インドール−3−イル)プロピル]アセトアミド、N−[2−[2,3,7,8−テトラヒドロ−1H−フロ(2,3−g)インドール−1−イル]エチル]アセトアミド、2−アセトアミド−8−メトキシテトラリン、8−メトキシ−2−プロピオンアミド−テトラリン、8−メトキシ−2−クロロアセトアミドテトラリン、及びN−[2−[(4−メトキシフェニル)−フェニルアミノ]エチル]アセトアミドからなる群から選択される少なくとも1種以上の化合物である、請求項1に記載のトゥレット症候群又はその合併症の治療剤又は予防剤。
- 前記メラトニン受容体作動薬がメラトニンである、請求項4に記載のトゥレット症候群又はその合併症の治療剤又は予防剤。
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