本実施形態を以下に図面を参照して説明する。図面において、同一部分には同一の参照符号を付す。また、重複した説明は、必要に応じて行う。
1.光化学反応セル
以下に図1および図2を用いて、本実施形態に係る光化学反応セルについて説明する。
図1は、本実施形態に係る光化学反応セルの構造を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る光化学反応セルは、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20で構成される積層体を備える。基板11の表面(光入射面)上には、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、および酸化触媒層19が形成される。一方、基板11の裏面上には、還元触媒層20が形成される。
基板11は、光化学反応セルを支持し、その機械的強度を増すために設けられる。基板11は、導電性を有し、例えばCu、Al、Ti、Ni、Fe、またはAg等の金属板、もしくはそれらを少なくとも1つ含む例えばSUSのような合金板で構成される。または、基板11は、導電性の樹脂等で構成されてもよい。また、基板11は、SiまたはGe等の半導体基板で構成されてもよい。なお、後述するように、基板11は、イオン交換膜で構成されてもよい。
反射層12は、基板11の表面上に形成される。反射層12は、光反射が可能な材料で構成され、例えば金属層、または半導体多層膜からなる分布型ブラッグ反射層で構成される。この反射層12は、基板11と多接合型太陽電池17との間に形成されることで、多接合型太陽電池17で吸収できなかった光を反射させて再び多接合型太陽電池17に入射させる。これにより、多接合型太陽電池17における光吸収率を向上させることができる。
還元電極層13は、反射層12上に形成される。還元電極層13は、多接合型太陽電池17のn型半導体層(後述するn型のアモルファスシリコン層14a)面上に形成される。このため、還元電極層13は、n型半導体層とオーミック接触が可能な材料で構成されることが望ましい。還元電極層13は、例えば、Ag、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金で構成される。または、還元電極層13は、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、またはATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物で構成される。また、還元電極層13は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造で構成されてもよい。
多接合型太陽電池17は、還元電極層13上に形成され、第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16で構成される。第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16はそれぞれ、pin接合半導体を使用した太陽電池であり、光の吸収波長が異なる。これらを平面状に積層することで、多接合型太陽電池17は、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光エネルギーをより効率良く利用することが可能となる。また、各太陽電池は直列に接続されているため高い開放電圧を得ることができる。
より具体的には、第1太陽電池14は、下部側から順に形成されたn型のアモルファスシリコン(a−Si)層14a、真性(intrinsic)のアモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)層14b、p型の微結晶シリコン(μc−Si)層14cで構成される。ここで、a−SiGe層14bは、400nm程度の短波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第1太陽電池14は、短波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
また、第2太陽電池15は、下部側から順に形成されたn型のa−Si層15a、真性(intrinsic)のa−SiGe層15b、p型のμc−Si層15cで構成される。ここで、a−SiGe層15bは、600nm程度の中間波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第2太陽電池15は、中間波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
また、第3太陽電池16は、下部側から順に形成されたn型のa−Si層16a、真性(intrinsic)のa−Si層16b、p型のμc−Si層16cで構成される。ここで、a−Si層16bは、700nm程度の長波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第3太陽電池16は、長波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
このように、多接合型太陽電池17は、各波長領域の光によって電荷分離が生じる。すなわち、正孔が正極側(表面側)に、電子が負極側(裏面側)に分離する。これにより、多接合型太陽電池17は、起電力を発生させる。
なお、上記において、3つの太陽電池の積層構造で構成される多接合型太陽電池17を例に説明したが、これに限らない。多接合型太陽電池17は、2つまたは4つ以上の太陽電池の積層構造から構成されてもよい。または、多接合型太陽電池17の代わりに、1つの太陽電池を用いてもよい。また、pin接合半導体を使用した太陽電池について説明したが、pn接合型半導体を使用した太陽電池であってもよい。また、半導体層として、SiおよびGeで構成される例を示したが、これに限らず、化合物半導体系、例えばGaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSeで構成されてもよい。さらに、単結晶、多結晶、アモルファス状の種々の形態を適用することができる。
酸化電極層18は、多接合型太陽電池17上に形成される。酸化電極層18は、多接合型太陽電池17のp型半導体層(p型のμc−Si層16c)面上に形成される。このため、酸化電極層18は、p型半導体層とオーミック接触が可能な材料で構成されることが望ましい。酸化電極層18は、例えば、Ag、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金で構成される。または、酸化電極層18は、ITO、ZnO、FTO、AZO、またはATO等の透明導電性酸化物で構成される。また、酸化電極層18は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造で構成されてもよい。
また、本例において、照射光は、酸化電極層18を通過して多接合型太陽電池17に到達する。このため、光照射面側に配置される酸化電極層18は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、照射面側の酸化電極層18の透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上であることが好ましい。
酸化触媒層19は、酸化電極層18上に形成される。酸化触媒層19は、多接合型太陽電池17の正極側に形成され、H2Oを酸化してO2とH+を生成する。このため、酸化触媒層19は、H2Oを酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H2Oを酸化してO2とH+を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等の三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物、もしくは、Ru錯体またはFe錯体等の金属錯体が挙げられる。また、酸化触媒層19の形態としては薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
また、本例において、照射光は、酸化電極層18と同様、酸化触媒層19を通過して多接合型太陽電池17に到達する。このため、光照射面側に配置される酸化触媒層19は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、照射面側の酸化触媒層19の透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より望ましくは30%以上である。
還元触媒層20は、基板11の裏面上に形成される。還元触媒層20は、多接合型太陽電池17の負極側に形成され、CO2を還元して炭素化合物(例えば、一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)等)を生成する。このため、還元触媒層20は、CO2を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、CO2を還元して炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、Au、Ag、Cu、Pt、C、Ni、Zn、C、グラフェン、CNT(carbon nanotube)、フラーレン、ケッチェンブラック、またはPd等の金属もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金、あるいは、Ru錯体またはRe錯体等の金属錯体が挙げられる。また、還元触媒層20の形態としては薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
なお、多接合型太陽電池17の極性と基板11との配置関係は任意である。本例では、酸化触媒層19を光入射面側に配置したが、還元触媒層20を光入射面側に配置してもよい。すなわち、光化学反応セルにおいて、酸化触媒層19と還元触媒層20との位置、酸化電極層18と還元電極層13との位置、および多接合型太陽電池の極性を入れ替えてもよい。この場合、還元触媒層20および還元電極層13は、透明性を有することが望ましい。
また、多接合型太陽電池17の表面上、または光照射面側の電極層と触媒層との間(本例では、酸化電極層18と酸化触媒層19との間)に保護層を配置してもよい。保護層は、導電性を有するとともに、酸化還元反応において多接合型太陽電池17の腐食を防止する。その結果、多接合型太陽電池17の寿命を延ばすことができる。また、保護層は、必要に応じて光透過性を有する。保護層としては、例えばTiO2、ZrO2、Al2O3、SiO2、またはHfO2等の誘電体薄膜が挙げられる。また、その膜厚は、トンネル効果により導電性を得るため、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。 図2は、本実施形態に係る光化学反応セルの動作原理を示す断面図である。ここでは、反射層12、還元電極層13、および酸化電極層18は省略している。
図2に示すように、表面側から光が入射すると、入射光は酸化触媒層19および酸化電極層18を通過し、多接合型太陽電池17に到達する。多接合型太陽電池17は、光を吸収すると、光励起電子およびそれと対になる正孔を生成し、それらを分離する。すなわち、各太陽電池(第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16)において、n型の半導体層側(還元触媒層20側)に光励起電子が移動し、p型の半導体層側(酸化触媒層19側)に光励起電子の対として発生した正孔が移動する、電荷分離が生じる。これにより、多接合型太陽電池17に起電力が発生する。
このように、多接合型太陽電池17内で発生した光励起電子は負極である還元触媒層20での還元反応に使用され、正孔は正極である酸化触媒層19での酸化反応に使用される。これにより、酸化触媒層19付近では(1)式、還元触媒層20付近では(2)式の反応が生じる。
2H2O → 4H++O2+4e− ・・・(1)
2CO2+4H++4e− → 2CO+2H2O ・・・(2)
(1)式に示すように、酸化触媒層19付近において、H2Oが酸化されて(電子を失い)O2とH+が生成される。そして、酸化触媒層19側で生成されたH+は、後述するイオン移動経路を介して還元触媒層20側に移動する。
(2)式に示すように、還元触媒層20付近において、CO2と移動したH+とが反応し、一酸化炭素(CO)とH2Oが生成される。
このとき、多接合型太陽電池17は、酸化触媒層19で生じる酸化反応の標準酸化還元電位と還元触媒層20で生じる還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、(1)式における酸化反応の標準酸化還元電位は1.23[V]であり、(2)式における還元反応の標準酸化還元電位は−0.1[V]である。このため、多接合型太陽電池17の開放電圧は、1.33[V]以上の必要がある。なお、より好ましくは、開放電圧は過電圧を含めた電位差以上の必要がある。より具体的には、例えば(1)式における酸化反応および(2)式における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2[V]である場合、開放電圧は1.73[V]以上であることが望ましい。
(2)式に示すCO2からCOへの還元反応だけでなく、CO2からHCOOH、CH4、CH3OH、C2H5OH等への還元反応は、H+を消費する反応である。このため、酸化触媒層19で生成したH+が対極の還元触媒層20へ移動できない場合、全体の反応の効率が低いものとなる。これに対し、本実施形態は、H+を移動させるイオン移動経路を形成することで、H+の輸送を改善して高い光反応効率を実現するものである。
2.光化学反応装置
以下に図3乃至図23を用いて、本実施形態に係る光化学反応セルを用いた光化学反応装置について説明する。
<2−1.第1の実施形態>
図3乃至図12を用いて、第1の実施形態に係る光化学反応装置について説明する。
第1の実施形態に係る光化学反応装置は、酸化触媒層19、還元触媒層20、およびこれらの間に形成された多接合型太陽電池17の積層体で構成される光化学反応セルと、酸化触媒層19と還元触媒層20との間でイオンを移動させるイオン移動経路と、を備える例である。これにより、高い光反応効率で、酸化触媒層19側で生成されたH+を還元触媒層20へと移動させることができ、このH+によって還元触媒層20側で二酸化炭素を分解することができる。以下に、第1の実施形態について詳説する。
[第1の実施形態の構造]
まず、第1の実施形態に係る光化学反応装置の構造について説明する。
図3は、第1の実施形態に係る光化学反応装置の構造を示す斜視図である。図4は、第1の実施形態に係る光化学反応装置の構造を示す断面図である。なお、図3において、後述するイオン移動経路は省略している。
図3および図4に示すように、第1の実施形態に係る光化学反応装置は、光化学反応セルと、光化学反応セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として電解槽31に接続された電解槽流路41とを備える。
光化学反応セルは、平板状に形成され、少なくとも基板11によって電解槽31を2つに分離する。すなわち、電解槽31は、光化学反応セルの酸化触媒層19が配置される酸化反応用電解槽45と、光化学反応セルの還元触媒層20が配置される還元反応用電解槽46とを備える。これら酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とでは、別々の電解液を供給することが可能である。
酸化反応用電解槽45には、電解液として例えばH2Oを含む液体が満たされている。このような電解液としては、任意の電解質を含むものが挙げられるが、H2Oの酸化反応を促進するものであることが望ましい。酸化反応用電解槽45では、酸化触媒層19によってH2Oが酸化されてO2とH+が生成される。
還元反応用電解槽46には、電解液として例えばCO2を含む液体が満たされている。還元反応用電解槽46における電解液は、CO2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、CO2を吸収するCO2吸収剤を有することが望ましい。このような電解液として、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4 −またはPF6 −等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液が挙げられる。または、電解液として、エタノールアミン、イミダゾール、またはピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもかまわない。一級アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミンなどである。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲンなどが置換していてもかまわない。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、例えば、メタノールアミンやエタノールアミン、クロロメチルアミンなどである。また、不飽和結合が存在していてもかまわない。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、などである。置換した炭化水素は、異なってもかまわない。これは、三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミンなどである。三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミンなどである。イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオンなどである。また、イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。例えば、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどである。ピリジニウムイオンとしてはメチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム、などである。イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンはともに、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4−、PF6−、CF3COO−、CF3SO3−、NO3−、SCN−、(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドなどがある。また、イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で連結した双生イオンでもよい。還元反応用電解槽46では、還元触媒層20によってCO2が還元されて炭素化合物が生成される。また、水分(H2O)が還元されて水素(H2)も生成され得る。
なお、電解液中の水分量を変えることによって、生成されるCO2の還元物質を変えることができる。例えば、HCOOH、CH4、CH3OH、C2H5OH、または水素等の生成割合を変えることができる。
また、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46に満たされている電解液の温度はその使用環境に応じて同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、還元反応用電解槽46に用いる電解液が工場から排出されたCO2を含むアミン吸収液である場合、その電解液の温度は大気温度よりも高い。この場合、電解液の温度は、30℃以上150℃以下、より好ましくは40℃以上120℃以下である。
電解槽流路41は、例えば電解槽31の側方に設けられる。電解槽流路41の一方は酸化反応用電解槽45に接続され、他方は還元反応用電解槽46に接続される。すなわち、電解槽流路41は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
この電解槽流路41内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた電解槽流路41を介して特定のイオンのみを移動させることができる。すなわち、光化学反応装置は、選択的に物質を通す隔壁構造を有する。ここで、イオン交換膜43は、プロトン交換膜であり、酸化反応用電解槽45で生成されたH+を還元反応用電解槽46側に移動させることができる。より具体的には、イオン交換膜43としてナフィオンまたはフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタまたはセレミオンのようなアニオン交換膜が挙げられる。
なお、イオン交換膜43の代わりに、イオンが移動でき、かつ電解液を分離できるもの、例えば塩橋のような寒天等を用いてもよい。一般に、ナフィオンに代表されるようなプロトン交換性の固体高分子膜を使用するとイオン移動の性能は良い。
また、電解槽流路41にポンプ等の循環機構42を設けてもよい。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で、イオン(H+)の循環を向上させることができる。また、電解槽流路41を2本設けてもよく、そのうちの少なくとも1本に設けられた循環機構42を用いて、一方の電解槽流路41を介して酸化反応用電解槽45から還元反応用電解槽46へイオンを移動させ、他方の電解槽流路41を介して還元反応用電解槽46から酸化反応用電解槽45へ移動させてもよい。また、複数の循環機構42を設けてもよい。また、イオンの拡散を低減させ、より効率よくイオンを循環させるために、複数(3個以上)の電解槽流路41を設けてもよい。また、液体を運搬することによって、発生したガスの気泡が電極表面や電解層表面にとどまることがなく、気泡による太陽光の散乱に起因する効率低下や光量分布を抑えてもよい。
また、多接合型太陽電池17の表面に光を照射することによって上昇した熱を利用して電解液に温度差を生じさせることで、イオンの拡散を低減させ、より効率よくイオンを循環させてもよい。言い換えると、イオン拡散以外の対流によってイオンの移動を促進させることができる。
一方、電解槽流路41内や電解槽31内に電解液の温度調整をする温度調整機構44を設け、温度制御によって太陽電池性能と触媒性能を制御することができる。これにより、例えば、太陽電池や触媒の性能を安定および向上させるために、反応系の温度を均一化することができる。また、システム安定のために、温度上昇を防ぐこともできる。温度制御によって、太陽電池および触媒の選択性を変化させることができ、その生成物を制御することもできる。
また、本例において、基板11の端部は、多接合太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20の端部よりも突出しているが、これに限らない。基板11、多接合太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20が同一面積の平板状であってもよい。
[第1の実施形態の変形例]
次に、第1の実施形態に係る光化学反応装置における変形例について説明する。
図5乃至図8は、第1の実施形態に係る光化学反応装置における変形例1乃至変形例4の構造を示す断面図である。なお、第1の実施形態に係る光化学反応装置の変形例において、主に上記構造と異なる点について説明する。
図5に示すように、第1の実施形態に係る光化学反応装置における変形例1は、光化学反応セルと、光化学反応セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として基板11に形成された開口部51とを備える。
開口部51は、例えば基板11の端部を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
この開口部51内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
図6に示すように、第1の実施形態に係る光化学反応装置における変形例2は、光化学反応セルと、光化学反応セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20に形成された開口部51とを備える。
開口部51は、例えば基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
この開口部51内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
なお、図6において、開口部51内の一部にイオン交換膜43が形成されているが、開口部51内を埋め込むようにイオン交換膜43が形成されてもよい。
図7に示すように、第1の実施形態に係る光化学反応装置における変形例3は、光化学反応セルと、光化学反応セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20に形成された開口部51とを備える。
開口部51は、例えば基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
また、光化学反応セルの光照射面(酸化触媒層19の表面)を覆うようにイオン交換膜43が設けられる。これにより、開口部51の酸化反応用電解槽45側は、イオン交換膜43によって覆われる。イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
また、変形例3では、イオン交換膜43によって、酸化触媒層19の表面が覆われる。これにより、イオン交換膜43は、酸化触媒層19、さらには多接合型太陽電池17の保護層として機能する。
図8に示すように、第1の実施形態に係る光化学反応装置における変形例4は、光化学反応セルと、光化学反応セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20に形成された開口部51とを備える。
変形例4では、基板11の代わりにイオン交換膜43が設けられている。すなわち、イオン交換膜43の表面上に多接合型太陽電池17および酸化触媒層19が形成され、裏面上に還元触媒層20が形成される。
開口部51は、例えば多接合型太陽電池17および酸化触媒層19を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられ、還元触媒層20を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51内にイオン交換膜43が設けられる構造となる。言い換えると、イオン交換膜43のみによって、酸化反応用電解槽45側と還元反応用電解槽46とが分離される。
イオン交換膜43は、特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。また、開口部51のみならず、突出したイオン交換膜43の端部においてもイオンを移動させることができる。
図9乃至図11は、第1の実施形態に係る光化学反応装置の構造を示す平面図であり、主に開口部51の平面形状の一例を示す図である。
図9に示すように、開口部51は、例えば、基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を貫通し、その平面形状が円形状の貫通孔52として形成される。この場合、複数の貫通孔52が形成されてもよい。複数の貫通孔52の配置構成は、例えば第1方向、および第1方向に直交する第2方向に四角格子状(正方格子状)である。
貫通孔52の直径(円相当径)の下限は、H+が移動可能な大きさであり、0.3nm以上であることが好ましい。なお、円相当径とは、((4×面積)/π)0.5で定義されるものである。
なお、貫通孔52の平面形状は円形状に限らず、楕円形状、三角形状、または四角形状であってもよい。また、複数の貫通孔52の配置構成は、四角格子状に限らず、三角格子状またはランダムであってもよい。また、貫通孔52は、イオン交換膜43部分を除いて酸化触媒層19から還元触媒層20に至るまで連続した空隙を有していればよく、各層での貫通孔52の直径の大きさは同じである必要はない。例えば、酸化触媒層19から多接合型太陽電池17までの貫通孔52の直径の大きさと、還元触媒層20から多接合型太陽電池17までの貫通孔52の直径の大きさとが異なってもよい。また製造上、貫通孔52の側壁にバリやラフネスが生じる場合であってもその効果は失われない。
また、図10に示すように、開口部51は、例えば、基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を貫通し、その平面形状が長方形状のスリット53として形成される。この場合、複数のスリット53が形成されてもよい。複数のスリット53は、例えば第1方向に並行に延び、第2方向に並んで配置される。
スリット53の幅(短幅)の下限は、H+が移動可能な大きさであり、0.3nm以上であることが好ましい。
また、図11に示すように、開口部51は、例えば、基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を分離し、その平面形状が長方形状のスリット54として形成される。すなわち、基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20で構成される複数の積層体が形成され、これら複数の積層体間にスリット54が形成される。なお、複数の積層体が図示せぬフレーム等で支持される。この場合、複数のスリット54が形成されてもよい。複数のスリット54は、例えば第1方向に並行に延び、第2方向に並んで配置される。
[第1の実施形態の製造方法]
次に、第1の実施形態に係る光化学反応装置の製造方法について説明する。ここでは、イオン移動経路となる開口部51として貫通孔52を形成する場合を例に説明する。
まず、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、および酸化電極層18で構成される構造体を準備する。反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、および酸化電極層18は、基板11の表面上に順に形成される。太陽電池としては、pin接合半導体を使用した第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16からなる多接合型太陽電池17が用いられる。
次に、酸化電極層18上に、例えばスパッタ法または塗布法により酸化触媒層19が形成される。酸化触媒層19は、例えば酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−Oなどの三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物、もしくは、Ru錯体またはFe錯体等の金属錯体で構成される。また、酸化触媒層19の形態としては薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
また、基板11の裏面上に、例えば真空蒸着法、スパッタ法、または塗布法により還元触媒層20が形成される。還元触媒層20は、例えばAu、Ag、Cu、Pt、C、Ni、Zn、グラフェン、CNT、フラーレン、ケッチェンブラック、またはPd等の金属もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金、あるいは、Ru錯体またはRe錯体等の金属錯体で構成される。また、還元触媒層20の形態としては薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
このようにして、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20の積層体で構成される光化学反応セルが形成される。
次に、この光化学反応セルに、酸化触媒層19から還元触媒層20まで貫通する貫通孔52が形成される。
貫通孔52の形成方法としては、例えば、マスクパターンを形成した後にエッチングする方法がある。より具体的には、酸化触媒層19上(表面側)または還元触媒層20上(裏面側)にマスクパターンを形成した後、このマスクパターンを用いて基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20をエッチングする。
マスクパターンの形成方法としては、一般的な光リソグラフィ、または電子線リソグラフィにより形成する方法が挙げられる。また、インプリントを用いた方法、ブロックコポリマーや粒子の自己組織化パターンを利用した方法であってもよい。エッチング方法としては、反応性ガス、例えば塩素系ガスを用いたドライエッチング、または、酸溶液やアルカリ溶液を用いたウェットエッチングが挙げられる。また、レーザ加工、プレス加工、または切削加工による直接加工も工程数が少ない利点があり、有用である。
このようにして、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20に貫通孔52が形成される。その後、貫通孔52が形成された光化学反応セルが電解槽31内に設置され、光化学反応装置が形成される。
[第1の実施形態の効果]
上記第1の実施形態によれば、光化学反応装置は、酸化触媒層19、還元触媒層20、およびこれらの間に形成された多接合型太陽電池17の積層体で構成される光化学反応セルと、酸化触媒層19と還元触媒層20との間でイオン(H+)を移動させるイオン移動経路と、を備える。これにより、酸化触媒層19で発生するH+を、イオン移動経路を介して還元触媒層20に輸送することが可能になる。その結果、還元触媒層20におけるCO2の還元分解反応を促進することができ、高い光還元効率を得ることが可能である。
ところで、酸化触媒層19付近におけるH2Oの酸化および還元触媒層20付近におけるCO2の還元に必要なエネルギー(電位)は、多接合型太陽電池17で発生した起電力によって供給される。通常、比較例における太陽電池では電荷分離された光励起電子を取り出すために電極が設けられているが、光を入射するため透明な電極が使用されている。しかしながら、透明性のある電極は抵抗が高いため、電気を取り出す効率が低下してしまう。このため、補助電極として透明性の無い金属配線等を透明電極に接続する場合もある。しかし、この場合、金属配線によって光が遮断されて光の入射量が減少するため、効率が低下してしまう。また、金属配線は長くかつ細く形成され、その金属配線を介して電気(電子)を収集するため、抵抗が高くなってしまう。
これに対し、第1の実施形態では、多接合型太陽電池17の表面および裏面に、平板状の酸化触媒層19および還元触媒層20が形成される。このため、多接合型太陽電池17が電荷分離したその場で触媒によって酸化還元反応が起こる。言い換えると、多接合型太陽電池17の全面で電荷分離が起こり、酸化触媒層19および還元触媒層20の全面で酸化還元反応が起こる。これにより、金属配線等によって抵抗が大きくなることはなく、多接合型太陽電池17によって生じた起電力を効率良く酸化触媒層19および還元触媒層20に印加することができる。また、金属配線等を形成する必要がないため、構造の簡略化を図ることもできる。
また、比較例における太陽電池から金属配線によって電気を収集して反応させる場合、構造が複雑化してしまうため電極以外の面積が大きくなる。このため、小型化を図るために電極面積は小さくなり、高電流密度での反応をする必要がある。この場合、高電流密度で反応可能な高性能触媒は限られており、貴金属を用いることが多い。
これに対し、第1の実施形態では、多接合型太陽電池17と酸化触媒層19および還元触媒層20とを積層させた構造であるため、電極以外の面積は不要となる。このため、小型化を図っても電極面積を大きくすることができ、比較的低電流密度で反応可能である。これにより、触媒金属の選択肢が広く汎用金属を用いることができ、また、反応の選択性を得ることも容易である。
以下に、第1の実施形態において、イオン移動経路として貫通孔52を形成した場合におけるCO2の光還元効率について説明する。
図12は、比較例に対する実施例1におけるCO2の光還元効率を示す実験結果である。より具体的には、比較例におけるCO2の光還元効率を1.00にした場合の実施例1(1−1〜1−12)におけるCO2の光還元効率を相対化したものである。以下に、図12についてより詳細に説明する。
実施例1は、第1の実施形態に係る光化学反応装置における光化学反応セルの一例である。より具体的には、実施例1における光化学反応セルは、H+輸送のみが可能な貫通孔52を有し、その円相当径が比較的大きいものである。ここでは、貫通孔52の円相当径を50,100,200μm、面積率を10,20,30,40%とした異なる12種(評価セル番号1−1〜1−12)の光化学反応セルを作製し、そのCO2の光還元効率を評価した。これら実施例1における光化学反応セルは、以下のように作製された。
まず、pin型のa−Si層、a−SiGe層、およびa−SiGe層からなる多接合型太陽電池17、多接合型太陽電池17の表面上に形成されたITOからなる酸化電極層18、多接合型太陽電池17の裏面上に形成されたZnOからなる還元電極層13、還元電極層13の裏面上に形成されたAgからなる反射層12、および反射層12の裏面上に形成されたSUS基板11を有する構造体を準備する。ここで、多接合型太陽電池17の膜厚は500nm、酸化電極層18の膜厚は100nm、還元電極層13の膜厚は300nm、反射層12の膜厚は200nm、SUS基板11の膜厚は1.5mmとする。また、酸化触媒層19は多接合半導体のp型面上に、還元触媒層20はn型面上に配置される。
次に、酸化電極層18の表面上にスパッタ法によりCo3O4からなる酸化触媒層19が形成される。また、SUS基板11の裏面上に真空蒸着法によりAuからなる還元触媒層20が形成される。ここで、酸化触媒層19の膜厚は100nm、還元触媒層20の膜厚は100nmとする。
このように、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20からなる積層体(セル)が形成される。その後、この積層体に対してソーラーシミュレーター(AM1.5、1000W/m2)により酸化触媒層19面側から光を照射し、そのときのセルの開放電圧を測定する。その結果、セルの開放電圧を1.9[V]とする。
次に、セルに貫通孔52が形成される。貫通孔52は、得られたセルにレーザ光が照射されることで形成される。レーザ光の照射条件としては、波長を515nm、パルス幅を15ps、繰り返し周波数を82MHzとする。このレーザ光を10倍の対物レンズで集光させてセルに照射する。これにより、セルに配置構成が三角格子状の複数の貫通孔52が形成される。その後、各貫通孔52が垂直形状になるように、再度レーザ光を用いてトリミングする。
次に、貫通孔52が形成されたセルを正方形状に切断して、エッジ部分をエポキシ樹脂で封止し、露出部分の面積が1cm2になるようにする。その後、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で貫通孔52が100個程度収まる画角で撮影した後、画像処理ソフトによって各セルの貫通孔52の平均円相当径および面積率を計測する。このようにして、実施例1における光化学反応セル(評価セル番号1−1〜1−12)が作製された。
これに対し、比較例は、貫通孔52を有さない光化学反応セルであり、貫通孔52以外については実施例1と同様の構造を有するものである。
また、CO2の光還元効率は、以下のように測定された。まず、CO2ガスを10分間バブリングした0.1M(mol/l)のKHCO3溶液を含む閉鎖系の水槽(電解槽31)中にセルを浸漬させる。次に、ソーラーシミュレーター(AM1.5、1000W/m2)により酸化触媒層19面側から光を10分間照射する。その後、水槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラム質量分析(GCMS)により行った。分析の結果、検出されたガス種は、O2、H2、およびCOであった。発生したCOは、CO2の還元によって発生したものである。比較例におけるセルで得られたCOの発生量を1.00として、実施例1における各種セルで得られたCOの量を相対値で算出したものをCO2の光還元効率とした。
図12に示すように、実施例1において貫通孔52の円相当径が同じ場合、貫通孔52の面積率が小さいほど比較例と比較して高いCO2の光還元効率が得られる。より具体的には、貫通孔52の円相当径がいずれの場合であっても、貫通孔52の面積率が10,20,30%であれば、高いCO2の光還元効率が得られる。これは、貫通孔52の面積率を最小限にすることで、多接合型太陽電池17の面積縮小を抑制して光の吸収損失による効率低下を抑制しつつ、H+輸送改善による効率向上が反映されているためである。しかしながら、面積率が40%以上では、H+輸送改善による効率向上以上に光の吸収損失による効率低下の寄与が大きく、得られる効果は比較例よりも低いものとなった。また、実施例1の結果より、セルの貫通孔52の面積率としては40%以下、より好ましくは10%以下であることが望ましいといえる。しかしながら、第2の実施形態で後述するように光の回折、散乱効果を利用できる場合、面積率としてはこの限りでない。
また、実施例1において貫通孔52の面積率が同じ場合、貫通孔52の円相当径が大きいほど比較例と比較して高いCO2の光還元効率が得られる。これは、円相当径が大きい貫通孔52から構成される構造体の方が単位面積当たりの加工領域(加工面積)が大きく、加工ダメージの影響が小さいためである。
このように、第1の実施形態において、イオン移動経路として貫通孔52を形成した場合、貫通孔52の円相当径と面積率とを調整することで、比較例と比較して高いCO2の光還元効率を得ることができる。
<2−2.第2の実施形態>
図13乃至図19を用いて、第2の実施形態に係る光化学反応装置について説明する。
図12における実験結果によれば、イオン移動経路として貫通孔52を形成した場合におけるCO2の光還元効率は、主に、貫通孔52によるH+輸送効率だけでなく、多接合型太陽電池17による光の吸収量によっても決まる。これは、光化学反応セルに貫通孔52を設けた場合、多接合型太陽電池17の面積が縮小し、それによる光吸収量の低下が生じてしまうためである。その結果、光によって生成される電子および正孔の数が減少し、酸化還元反応の反応効率が低下してしまう。このため、貫通孔52の形成によって生じる多接合型太陽電池17による光の吸収量の損失を抑制することが求められる。
これに対し、第2の実施形態は、貫通孔52のサイズ、形状、または構造を調整することで、多接合型太陽電池17の面積縮小に伴う光の吸収量の損失を抑制する例である。以下に、第2の実施形態について詳説する。なお、第2の実施形態において、上記第1の実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
[第2の実施形態の構造]
まず、第2の実施形態に係る光化学反応装置の構造について説明する。
図13は、第2の実施形態に係る光化学反応装置の構造を示す断面図であり、図9に示すA−A線に沿った断面図である。
図13に示すように、第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、貫通孔52のサイズが規定される点である。より具体的には、貫通孔52の周期幅(pitch)w1が3μm以下、もしくは円相当径(diameter)w2が1μm以下である。すなわち、第2の実施形態における貫通孔52は比較的微細に形成される。この根拠について、以下に説明する。
図14は、第2の実施形態に係る光化学反応装置における貫通孔52の周期幅w1と多接合型太陽電池17による光の吸収率との関係を示すグラフである。図15は、第2の実施形態に係る光化学反応装置における貫通孔52の円相当径w2と多接合型太陽電池17による光の吸収率との関係を示すグラフである。
ここでは、膜厚550nmのa−Si層に正方格子状の配置構成である複数の貫通孔52を形成した際のRCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法により求めた太陽光吸収量を示す。より具体的には、Diffract MD(Rsoft社製)を用いて入射光が試料面に垂直入射した際の波長300〜1000nmまでの光吸収率α(λ)を計算した後、太陽光スペクトルI(λ)を乗じて太陽光吸収量A=Σα(λ)×I(λ)を算出した。図14および図15はそれぞれ、貫通孔52を有さない場合の光化学反応装置(以下、比較例)の太陽光吸収量を1としたときの相対値を示している。なお、貫通孔52の面積率は、9,30,50,70%で計算している。
図14に示すように、貫通孔52の周期幅w1が大きくなると、光の吸収率は比較例と比べて小さくなる(1以下になる)。同様に、図15に示すように、貫通孔52の円相当径w2が大きくなると、光の吸収率は比較例と比べて小さくなる。これは、入射光と貫通孔構造が幾何光学的に相互作用し、貫通孔52の体積分だけ光の吸収量が低下するためである。
しかしながら、周期幅w1が3μm以下、もしくは円相当径w2が1μm以下である場合、比較例と比べて吸収量の低下はなく、高い吸収量を得ることも可能となる。これは、形成された貫通孔構造により入射光がa−Si層内で回折および散乱されるためである。すなわち、回折および散乱によって、入射光がa−Si層内に侵入し、さらに光路長が長くなり、a−Si層による光の吸収量が増加したためだと考えられる。
なお、配置構成が正方格子状である複数の貫通孔52について説明したが、配置構成が三角格子状であっても同様の結果が得られる。また、貫通孔52の平面形状は、円形状に限らず、楕円形状、四角形状、または三角形状であってもよい。また、規則的な形状および配置でなくてもよく、周期および径に揺らぎを持った構造であれば回折効果は得られるし、さらにランダムな構造体であっても光散乱効果により光吸収量の増加が得られる。
[第2の実施形態の製造方法]
次に、第2の実施形態に係る光化学反応装置の製造方法について説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20の積層体で構成される光化学反応セルが形成される。
次に、この光化学反応セルに、酸化触媒層19から還元触媒層20まで貫通する貫通孔52が形成される。
より具体的には、まず、酸化触媒層19上に、レジストが塗布され、ベークされる。その後、レジストに露光装置または電子線描画装置で光または電子線を照射した後、プリベークおよび現像処理によりレジストパターンが形成される。
次に、RIE(Reactive Ion Etching)により、レジストパターンをマスクとして、酸化触媒層19から還元触媒層20に至るまでエッチングが行われる。すなわち、酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、反射層12、基板11、および還元触媒層20が順にエッチングされる。その後、アッシング処理によりレジストが除去される。
このようにして、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20に貫通孔52が形成される。その後、貫通孔52が形成された光化学反応セルが電解槽31内に設置され、光化学反応装置が形成される。
ここで、基板11は、膜厚が大きく、RIE等のドライエッチングでは加工が困難な材料で形成され得る。このため、基板11に対して、第2の実施形態における微細な貫通孔52を形成することが困難になる。このような製造上の観点から、図16に示すように、貫通孔52を以下のように形成してもよい。
まず、酸化触媒層19上(表面上)に、レジストが塗布され、ベークされる。その後、レジストに露光装置または電子線描画装置で光または電子線を照射した後、プリベークおよび現像処理によりレジストパターンが形成される。
次に、RIEにより、レジストパターンをマスクとして、酸化触媒層19から反射層12に至るまでエッチングが行われる。すなわち、表面側から酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12が順にエッチングされ、貫通孔52が形成される。このとき、基板11および還元触媒層20は、エッチングされない。その後、アッシング処理によりレジストが除去される。
次に、加工した酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12の露出面に、レジストを形成して保護する。その後、還元触媒層20上(裏面上)に、レジストが塗布され、ベークされる。その後、レジストに露光装置または電子線描画装置で光または電子線を照射した後、プリベークおよび現像処理によりレジストパターンが形成される。
次に、ウェットエッチングにより、レジストパターンをマスクとして、還元触媒層20から基板11に至るまでエッチングが行われる。すなわち、裏面側から還元触媒層20および基板11が順にエッチングされる。
このとき、基板11および還元触媒層20は、ウェットエッチングにより、等方的にエッチングされる。このため、図16に示すように、基板11および還元触媒層20には、貫通孔52よりも円相当径が大きい貫通孔62が形成される。
その後、有機溶媒中で超音波洗浄することにより、酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12上のレジストおよび還元触媒層20上のレジストが除去される。
このようにして、酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12に貫通孔52が形成され、還元触媒層20および基板11に貫通孔62が形成される。その後、貫通孔52が形成された光化学反応セルが電解槽31内に設置され、光化学反応装置が形成される。
[第2の実施形態の効果]
上記第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
さらに、第2の実施形態によれば、光化学反応セルに形成される貫通孔52の周期幅w1を3μm以下にし、円相当径w2を1μm以下にする。これにより、入射光を回折および散乱させることができる。その結果、貫通孔52面に入射してきた光が多接合型太陽電池17内に侵入するため、多接合型太陽電池17による光の吸収量の損失を抑制することができる。さらに、光路長が長くなることで、多接合型太陽電池17による光の吸収量を増加させることも可能である。
以下に、第2の実施形態におけるCO2の光還元効率について説明する。
図17は、比較例に対する実施例2におけるCO2の光還元効率を示す実験結果である。より具体的には、比較例におけるCO2の光還元効率を1.00にした場合の実施例2(2−1〜2−4)におけるCO2の光還元効率を相対化したものである。以下に、図17についてより詳細に説明する。
実施例2は、第2の実施形態に係る光化学反応装置における光化学反応セルの一例である。より具体的には、実施例2における光化学反応セルは、H+輸送のみが可能な貫通孔52を有し、その円相当径が比較的小さいものである。ここでは、貫通孔52の円相当径を0.1,0.5,1.0,2.0μm、面積率を30%とした異なる4種(評価セル番号2−1〜2−4)の光化学反応セルを作製し、そのCO2の光還元効率を評価した。これら実施例2における光化学反応セルは、以下のように作製された。
まず、pin型のa−Si層、a−SiGe層、およびa−SiGe層からなる多接合型太陽電池17、多接合型太陽電池17の表面上に形成されたITOからなる酸化電極層18、多接合型太陽電池17の裏面上に形成されたZnOからなる還元電極層13、還元電極層13の裏面上に形成されたAgからなる反射層12、および反射層12の裏面上に形成されたSUS基板11を有する構造体を準備する。ここで、多接合型太陽電池17の膜厚は500nm、酸化電極層18の膜厚は100nm、還元電極層13の膜厚は300nm、反射層12の膜厚は200nm、SUS基板11の膜厚は1.5mmとした。
次に、酸化電極層18の表面上に、スパッタ法により酸化ニッケルからなる酸化触媒層19が形成される。また、SUS基板11の裏面上に、真空蒸着法によりAgからなる還元触媒層20が形成される。ここで、酸化触媒層19の膜厚は50nm、還元触媒層20の膜厚は100nmとした。
このように、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20からなる積層体(セル)が形成される。
次に、セルに貫通孔52および貫通孔62が形成される。貫通孔52および貫通孔62は、以下のように形成される。
まず、酸化触媒層19上(表面上)に、スピンコートによりi線露光用ポジ型レジストまたはポジ型電子線レジストが塗布され、ベークされる。その後、レジストに露光装置または電子線描画装置で光または電子線を照射した後、プリベークおよび現像処理により三角格子状の開口パターンのレジストパターンが形成される。
次に、塩素-アルゴン混合ガスを用いた誘導結合型プラズマ(ICP)RIEにより、レジストパターンをマスクとして、酸化触媒層19から反射層12に至るまでエッチングが行われる。すなわち、表面側から酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12が順にエッチングされ、貫通孔52が形成される。このとき、基板11および還元触媒層20は、エッチングされない。その後、アッシング処理によりレジストが除去される。
次に、加工した酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12の露出面に、レジストを形成して保護する。その後、還元触媒層20上(裏面上)に、i線露光用ポジ型レジストレジストが塗布され、ベークされる。その後、レジストに露光装置または電子線描画装置で光または電子線を照射した後、プリベークおよび現像処理によりレジストパターンが形成される。
次に、酸を用いたウェットエッチングにより、レジストパターンをマスクとして、還元触媒層20から基板11に至るまでエッチングが行われる。すなわち、裏面側から還元触媒層20および基板11が順にエッチングされる。
このとき、基板11および還元触媒層20は、ウェットエッチングにより、等方的にエッチングされる。このため、基板11および還元触媒層20には、貫通孔52よりも円相当径が大きい貫通孔62が形成される。貫通孔62の円相当径は15μm、面積率は10%である。また、複数の貫通孔62の配置構成は、三角格子状となる。
その後、有機溶媒中で超音波洗浄することにより、酸化触媒層19、酸化電極層18、多接合型太陽電池17、還元電極層13、および反射層12上のレジストおよび還元触媒層20上のレジストが除去される。
次に、貫通孔52が形成されたセルを正方形状に切断して、エッジ部分をエポキシ樹脂で封止し、露出部分の面積が1cm2になるようにする。その後、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で貫通孔52が100個程度収まる画角で撮影した後、画像処理ソフトによって各セルの貫通孔52の平均円相当径および面積率を計測した。このようにして、実施例2における光化学反応セル(評価セル番号2−1〜2−4)が作製された。
これに対し、比較例は、貫通孔52(および貫通孔62)を有さない光化学反応セルであり、貫通孔52以外については実施例2と同様の構造を有するものである。
また、CO2の光還元効率は、以下のように測定された。まず、CO2ガスを10分間バブリングした0.1M(mol/l)のKHCO3溶液を含む閉鎖系の水槽(電解槽31)中にセルを浸漬させる。次に、ソーラーシミュレーター(AM1.5、1000W/m2)により酸化触媒層19面側から光を10分間照射する。その後、水槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラム質量分析(GCMS)により行った。分析の結果、検出されたガス種は、O2、H2、およびCOであった。発生したCOは、CO2の還元によって発生したものである。比較例におけるセルで得られたCOの発生量を1.00として、実施例2における各種セルで得られたCOの量を相対値で算出したものをCO2の光還元効率とした。
図17に示すように、実施例2において、円相当径が0.1,0.5,1.0μmである場合、比較例と比較して高いCO2の光還元効率が得られる。これは、H+輸送改善による効率向上が反映されるとともに、円相当径を比較的小さくすることで入射光が回折および散乱し、多接合型太陽電池17による光の吸収量が増加したためである。特に、評価セル番号2−2(円相当径W2が0.5μm)では、より高いCO2の光還元効率が得られる。しかしながら、円相当径が2.0μmである場合、回折効果の影響が小さくなり、得られる効果は比較例よりも低いものとなった。
このように、第2の実施形態における実施例2において、貫通孔52の円相当径を1μm以下に調整することで、比較例と比較して高いCO2の光還元効率を得ることができる。
図18は、比較例に対する実施例3におけるCO2の光還元効率を示す実験結果である。より具体的には、比較例におけるCO2の光還元効率を1.00にした場合の実施例3(3−1〜3−2)におけるCO2の光還元効率を相対化したものである。また、図19は、実施例3における光化学反応装置の構造を示す平面図である。また、図20は、実施例3における光化学反応装置の構造を示す断面図である。以下に、図18乃至図20についてより詳細に説明する。
実施例3は、第2の実施形態に係る光化学反応装置における光化学反応セルの一例である。より具体的には、実施例2における光化学反応セルは、H+輸送のみが可能な貫通孔52を有し、その円相当径が比較的小さいものである。
また、図19および図20に示すように、実施例3における光化学反応装置において、複数の貫通孔52の円相当径および配置構成はランダムである。さらに、実施例3では、還元触媒層20に接する電解液と酸化触媒層19に接する電解液が異なり、還元触媒層20側から光照射して光化学反応を発現させる。
ここでは、貫通孔52の内部にイオン交換膜43を有するもの(評価セル番号3−1)と有さないもの(評価セル番号3−2)の2種の光化学反応セルを作製し、そのCO2の光還元効率を評価した。また、そのとき検出されるガス生成物についても調べた。これら実施例3における光化学反応セルは、以下のように作製された。
まず、pn接合を有するInGaP層(第3太陽電池16)、InGaAs層(第2太陽電池15)、およびGe層(第1太陽電池14)からなる多接合型太陽電池17、多接合型太陽電池17の表面(光入射面)上に形成されたITOからなる還元電極層13、多接合型太陽電池17の裏面上に形成されたAuからなる酸化電極層18を有する構造体を準備する。ここで、多接合型太陽電池17のp型面は酸化電極層18側に、n型面は還元電極層13側に配置される。
また、多接合太陽電池17の詳細な構成は、n−InGaAs(コンタクト層)/n−AlInP(窓層)/n−InGaP/p−InGaP/p−AlInP(Back Surface Field(BSF)層)/p−AlGaAs(トンネル層)/p−InGaP(トンネル層)/n−InGaP(窓層)/n−InGaAs/p−InGaP(BSF層)/p−GaAs(トンネル層)/n−GaAs(トンネル層)/n−InGaAs/p−Ge(Substrate)である。
次に、酸化電極層18の裏面上に、スパッタ法により酸化ニッケルからなる酸化触媒層19が形成される。また、還元電極層13の表面上に、真空蒸着法によりAgからなる還元触媒層20が形成される。ここで、酸化触媒層19の膜厚は50nm、還元触媒層20の膜厚は15nmとした。
このとき、ソーラーシミュレーター(AM1.5、1000W/m2)を用いて還元触媒層20側から光照射を行った場合のセルの開放電圧を測定した結果、開放電圧は2.4Vであった。
このように、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20からなる積層体(セル)が形成される。
次に、セルに貫通孔52および貫通孔62が形成される。貫通孔52および貫通孔62は、以下のように形成される。
まず、還元触媒層20上(表面上)に、スピンコートによりi線露光用ポジ型熱硬化性レジストが塗布され、ホットプレート上でベークされる。次に、鋳型である石英スタンパーを準備する。スタンパーのパターンは、ブロックコポリマーの自己組織化パターンを転写して作製される。スタンパーに形成されたパターンは、平均円相当径120nm(標準偏差31nm)であり、径にバラツキのあるピラーが不規則に並んだ配置構成を有したものである。このとき、離型用処理としてスタンパー表面をパーフルオロポリエーテル等のフッ素系離型剤でコーティングし、スタンパーの表面エネルギーを低くすることで離型性を向上させる。
次に、レジストにスタンパーを、ヒータープレートプレスを用いて、温度128℃、圧力60kNにて押し付ける。そして、1時間かけて室温に戻した後、垂直に離型することでレジストに鋳型の反転パターンが形成される。これにより、開口を有するレジストパターンが作成される。このレジストパターンをエッチングマスクとして、Agからなる還元触媒層20はイオンミリングにより、ITOからなる還元側電極層13はシュウ酸を用いたウェットエッチングによりエッチングされる。さらに、多接合太陽電池17のInGaP層16、InGaAs層15は塩素ガスを用いたICP−RIEによりエッチングされる。これにより、還元触媒層20、還元側電極層13、InGaP層16、およびInGaAs層15に貫通孔52が形成される。このとき、Ge層14、酸化電極層18、および酸化触媒層19は、エッチングされない。その後、アッシング処理によりレジストが除去される。
次に、加工した還元触媒層20、還元電極層13、InGaP層16、およびInGaAs層15の露出面に、レジストを形成して保護する。その後、酸化触媒層19上(裏面上)に、i線露光用ポジ型レジストが塗布され、ベークされる。その後、レジストに露光処理および現像が行われ、開口状のレジストパターンが形成される。
次に、酸化ニッケルからなる酸化触媒層19およびAuからなる酸化電極層18がイオンミリングによりエッチングされた後、Ge層14が酸を用いたウェットエッチング処理によりエッチングされる。これにより、酸化触媒層19、酸化側電極層18、およびGe層14に貫通孔62が形成される。この際、貫通孔62の円相当径は30μm、面積率は15%である。また、貫通孔62の配置構成は、三角格子状となる。
その後、有機溶媒中で超音波洗浄することにより、還元触媒層20、還元電極層19、InGaP層16、およびInGaAs層15上のレジスト、および酸化触媒層19上のレジストが除去される。
さらに、評価セル番号3−1では、貫通孔52,62内にイオン交換膜43が充填される。より具体的には、ナフィオン溶液をディッピング、および乾燥することにより、貫通孔52,62内にイオン交換膜43が充填される。
次に、貫通孔52が形成されたセルを正方形状に切断して、エッジ部分をエポキシ樹脂で封止し、露出部分の面積が1cm2になるようにする。このようにして、評価セル番号3−1における光化学反応セルが作製された。
なお、評価セル番号3−2における光化学反応セルは、貫通孔52(および貫通孔62)内にイオン交換膜43を有さない光化学反応セルであり、それ以外については評価セル番号3−1と同様の構造を有するものである。
これに対し、比較例は、貫通孔52(および貫通孔62)およびイオン交換膜43を有さない光化学反応セルであり、貫通孔52以外については実施例3(評価セル番号3−1,3−2)と同様の構造を有するものである。
図21は、実施例3および比較例における光化学反応装置を測定する電解槽31を示す断面図である。
図21に示すように、実施例3および比較例におけるセルは、閉鎖系のH型の電解層31の中央部にセットされる。言い換えると、電解槽31は、酸化反応用電解槽45および還元反応用電解槽46を有し、これらの接続部の幅が小さく形成される。この幅の小さい接続部に、セルが配置される。この際、酸化反応用電解槽45にはセルの酸化触媒層19、還元反応用電解槽46にはセルの還元触媒層20が配置されるようにセットした。また、酸化反応用電解槽45内の電解液としては、0.5mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を用いた。一方、還元反応用電解槽46内の電解液としては、CO2ガスを40℃で、2時間バブリングした2−アミノエタノール(モノエタノールアミン)水溶液(40wt%)を用いた。
また、CO2の光還元効率およびガス生成物は、以下のように測定された。まず、ソーラーシミュレーター(AM1.5、1000W/m2)により還元触媒層20面側から光を10分間照射する。その後、各水槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラム質量分析(GCMS)により行った。比較例におけるセルで得られたCO2還元物質の発生量を1.00として、実施例3における各種セルで得られたCOの量を相対値で算出したものをCO2の光還元効率とした。
図18に示すように、評価セル番号3−1では、評価セル番号3−2と異なり、貫通孔52(および貫通孔62)内部に充填したイオン交換膜43の効果により、H+のみが選択的に移動できる。このため、各槽で生成された生成物は分離されて検出された。より具体的には、還元反応用電解槽46ではH2およびCO2が検出され、酸化反応用電解槽45ではO2が検出された。
また、実施例3のように複数の貫通孔52(および貫通孔62)のサイズ(円相当径)および配置構成がランダムな場合であっても、比較例と比べて十分に高いCO2の光還元効率を得ることが可能である。さらに、実施例3では、実施例2と比べて高いCO2の光還元効率を得ることができる。これは、酸化反応用電解槽45の電解液と還元反応用電解槽46の電解液とがセルで仕切られた場合、H+の移動経路(貫通孔52および貫通孔62)を有さない比較例ではCO2の光還元反応が極端に低くなるためである。このことは、H+の移動経路を有さない光化学反応セルの場合、セルサイズが大きくなるにつれて、H+の移動が困難になり、得られる光反応効率が低くなることを意味している。このように、H+の移動経路を設けることにより、セルの大型化の際にも高い光反応効率を得ることができる。
[第2の実施形態の変形例]
次に、第2の実施形態に係る光化学反応装置における変形例について説明する。
図22および図23は、第2の実施形態に係る光化学反応装置における変形例1および変形例2の構造を示す断面図である。なお、第2の実施形態に係る光化学反応装置の変形例において、主に上記構造と異なる点について説明する。
図22に示すように、第2の実施形態に係る光化学反応装置における変形例1において、貫通孔52は、表面側(入射面側)から裏面側に向かってその円相当径w2が大きくなるように形成される。すなわち、貫通孔52は、酸化触媒層19から還元触媒層20に向かってその円相当径w2が大きくなるようなテーパー形状を有する。このため、多接合型太陽電池17の表面側の貫通孔52の円相当径は、裏面側の貫通孔52の円相当径よりも大きくなる。多接合型太陽電池17の裏面側の貫通孔52の円相当径は、表面側の貫通孔52の円相当径の10〜90%程度であることが望ましい。
テーパー形状を有する貫通孔52は、ICP−RIEによるエッチング工程の際、エッチングガスを調整することで形成される。より具体的には、エッチングガスとしてアルゴンの比率を高めた塩素−アルゴン混合ガスを用いて、等方的なエッチングをすることで、テーパー形状を有する貫通孔52が形成される。
貫通孔52をテーパー形状にすることで、表面側から裏面側にかけて屈折率の分布に勾配を持たせるGI(Graded Index)効果を付与することができる。これにより、光が入射する際に発生する光反射成分を抑制する反射防止効果を得ることができる。すなわち、より多くの光が多接合型太陽電池17に侵入するため、より多くの光を吸収することができる。実施例2と同様にCO2の光還元効率を測定した結果、光反射防止効果により実施例2の各種セルで得られた効率に対して10%から15%程度向上した。
図23に示すように、第2の実施形態に係る光化学反応装置における変形例2において、貫通孔52の内面上に保護層61が形成される。言い換えると、貫通孔52内における基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20の側面上に、保護層61が形成される。保護層61は、例えばSiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、またはHfO2等の誘電体(絶縁体)薄膜で構成される、また、保護層61の膜厚は、例えば30nm程度である。
保護層61は、ICP−RIEによるエッチング工程後、酸化触媒層19上のレジストを除去する前に、ALD(Atomic Layer Deposition)法またはCVD(chemical vapor deposition)法により、貫通孔52の内面上、およびレジスト上に形成される。その後、レジスト上の保護層61およびレジストを除去することで、貫通孔52の内面上のみに保護層61が形成される。
なお、保護層61の形成は、ALD法およびCVD法に限らない。金属イオンを含む溶液にセルを浸漬させた後、熱処理を行う浸漬法も有効である。
貫通孔52の側壁として保護層61を形成することで、多接合型太陽電池17からの電子および正孔のリークを抑制し、かつ、溶液による多接合型太陽電池17の腐食を防ぐことができる。実施例2と同様にCO2の光還元効率を測定した結果、リーク防止により実施例2の各種セルで得られた効率に対して5%から10%程度向上した。
<2−3.第3の実施形態>
図24乃至図28を用いて、第3の実施形態に係る光化学反応装置について説明する。第3の実施形態は、光化学反応セルを管状(パイプ状)の配管に適用する例である。これにより、CO2を分解しつつ、酸化触媒層19および還元触媒層20で生成された化合物を容易に運搬することができ、化学エネルギーとして利用することができる。以下に、第3の実施形態について詳説する。なお、第3の実施形態において、上記第1の光化学反応装置と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
[第3の実施形態の構造]
まず、第3の実施形態に係る光化学反応装置の構造について説明する。
図24は、第3の実施形態に係る光化学反応装置の構造を示す斜視図である。図25は、第3の実施形態に係る光化学反応装置の構造を示す断面図である。なお、図24において、イオン移動経路は省略している。
図24および図25に示すように、第3の実施形態に係る光化学反応装置では、電解槽31として配管101が用いられる。この第3の実施形態に係る光化学反応装置は、光化学反応セルと、内部に光化学反応セルを含み(内包し)、光透過性を有する管状の配管101と、イオン移動経路として基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20に形成された開口部51とを備える。ここで、「配管」とは、流体を導くための管やパイプのシステムを意味している。
光化学反応セルは、光照射面側(酸化触媒層19側)を外側にした円筒状(管状)に形成される。すなわち、光化学反応セルは、酸化触媒層19、多接合型太陽電池17、基板11、および還元触媒層20が外側から順に形成された管状構造を有する。この管状構造によって、配管101内を流通方向に沿って2つに分離する。管状の光化学反応セルと管状の配管101とは、中心軸が共通でなくてもよい。言い換えると、これらの断面形状は、同心円状でなくてもよい。これにより、配管101は、光化学反応セルの酸化触媒層19が配置される外側の酸化反応用電解槽102と、光化学反応セルの還元触媒層20が配置される内側の還元反応用電解槽103とを備える。これら酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103とでは、別々の電解液を供給することが可能である。なお、セル構造を逆転させた構造(還元触媒層20、多接合型太陽電池17、基板11、および酸化触媒層19が外側から順に形成された構造)でもよく、その場合、酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103とが逆転する。
酸化反応用電解槽102には、電解液として例えばH2Oを含む液体が満たされている。酸化反応用電解槽102では、酸化触媒層19によってH2Oが酸化されてO2とH+が生成される。
還元反応用電解槽103には、電解液として例えばCO2を含む液体が満たされている。還元反応用電解槽103では、還元触媒層20によってCO2が還元されて炭素化合物が生成される。
開口部51は、例えば基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を酸化反応用電解槽102側から還元反応用電解槽103側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103とを接続している。
この開口部51内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。ここで、イオン交換膜43は、プロトン交換膜であり、酸化反応用電解槽102で生成されたH+を還元反応用電解槽103側に移動させることができる。
また、第3の実施形態に係る光化学反応装置は、配管101で構成される。このため、酸化反応用電解槽102で生成されたO2および還元反応用電解槽103で生成されたCO等を配管101の流通方向に沿って流すことで容易に運搬することができる。これにより、各施設において、CO2の分解による生成物を化学エネルギーとして利用することができる。
[第3の実施形態の変形例]
次に、第3の実施形態に係る光化学反応装置における変形例について説明する。
図26は、第3の実施形態に係る光化学反応装置の構造の変形例を示す斜視図である。図27は、第3の実施形態に係る光化学反応装置の構造の変形例を示す断面図である。なお、図26において、イオン移動経路は省略している。
図26および図27に示すように、第3の実施形態に係る光化学反応装置の変形例では、電解槽31として配管101が用いられる。この第3の実施形態に係る光化学反応装置は、配管101内に設けられた光化学反応セルは、平板状に形成される。この平板状構造によって、配管101を流通方向に沿って2つに分離する。すなわち、配管101は、光化学反応セルの酸化触媒層19が配置される例えば上部側の酸化反応用電解槽102と、光化学反応セルの還元触媒層20が配置される例えば下部側の還元反応用電解槽103とを備える。これら酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103とでは、別々の電解液を供給することが可能である。
酸化反応用電解槽102には、電解液として例えばH2Oを含む液体が満たされている。酸化反応用電解槽102では、酸化触媒層19によってH2Oが酸化されてO2とH+が生成される。
還元反応用電解槽103には、電解液として例えばCO2を含む液体が満たされている。還元反応用電解槽103では、還元触媒層20によってCO2が還元されて炭素化合物が生成される。
開口部51は、例えば基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を酸化反応用電解槽102側から還元反応用電解槽103側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103とを接続している。
この開口部51内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽102と還元反応用電解槽103との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。ここで、イオン交換膜43は、プロトン交換膜であり、酸化反応用電解槽102で生成されたH+を還元反応用電解槽103側に移動させることができる。
[第3の実施形態の効果]
上記第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
さらに、第3の実施形態では、光化学反応セルを管状の配管に適用する。これにより、CO2を分解しつつ、酸化触媒層19および還元触媒層20で生成された化合物を配管構造により流通方向に沿って容易に運搬することができる。そして、生成された化合物を化学エネルギーとして利用することができる。
また、液体を流して運搬するため、発生したガスの気泡が電極表面や電解層表面にとどまることがない。これにより、気泡による太陽光の散乱に起因する効率低下や光量分布を抑えることができる。
[第3の実施形態の適用例]
次に、第3の実施形態に係る光化学反応装置の適用例について説明する。
図28は、第3の実施形態に係る光化学反応装置の適用例を示す平面図である。より具体的には、第3の実施形態に係る管状の配管である光化学反応装置をシステムとして用いる場合の例である。
図28に示すように、配管構造は、上述した外側の酸化反応用電解槽102および内側の還元反応用電解槽103からなる配管101と、これらに接続されるCO2流路104、H2O流路106、CO流路105、およびO2流路107と、を備える。
CO2流路104は還元反応用電解槽103の一方に接続され、CO流路105は還元反応用電解槽103の他方に接続される。また、H2O流路106は酸化反応用電解槽102の一方に接続され、O2流路107は酸化反応用電解槽102の他方に接続される。すなわち、配管101を構成する還元反応用電解槽103および酸化反応用電解槽102は一方側で分岐することで、CO2流路104およびH2O流路106となる。また、配管101を構成する還元反応用電解槽103および酸化反応用電解槽102は他方側で分岐することで、CO流路105およびO2流路107となる。
CO2流路104には、外部からCO2が流入される。CO2流路104において、CO2は気体で流入されてもよいし、CO2吸収剤を含む電解液等で流入されてもよい。CO2流路104は、還元反応用電解槽103と接続される(一体である)ため、光化学反応セルを管状に形成したもので構成されるが、これに限らず、気体であるCO2およびCO2吸収剤を含む電解液を流入可能なもので構成されればよい。
H2O流路106には、外部からH2Oが流入される。H2O流路106において、H2Oは気体で流入されてもよいし、液体で流入されてもよい。H2O流路106は、酸化反応用電解槽102と接続される(一体である)ため、光透過性を有する管状の配管101と同様のもので構成されるが、これに限らず、気体および液体のH2Oを供給可能なもので構成されればよい。
酸化反応用電解槽102には、H2O流路106から流入されたH2Oが流入される。そして、H2Oは、酸化触媒層19によって酸化されてO2とH+が生成される。一方、還元反応用電解槽103には、CO2流路104から流入されたCO2が流入される。そして、CO2は、還元触媒層20によって還元されて炭素化合物(CO等)が生成される。
CO流路105は、還元反応用電解槽103で生成されたCO等の炭素化合物を外部に流出する。CO流路105において、COは気体で流出されてもよいし、液体で流出されてもよい。また、CO流路105は、還元反応用電解槽103の他方に接続されるものである。このため、光化学反応セルを管状に形成したもので構成されるが、これに限らず、気体および液体であるCOを流出可能なもので構成されればよい。
O2流路107は、酸化反応用電解槽102で生成されたO2を外部に流出する。O2流路107において、O2は気体で流出されてもよいし、液体で流出されてもよい。また、O2流路107は、酸化反応用電解槽102の他方に接続されるものである。このため、光透過性を有する管状の配管101と同様のもので構成されるが、これに限らず、気体および液体のO2を流出可能なもので構成されればよい。
また、配管101の光出射面側に、反射板108を配置してもよい。反射板108は、例えば管状の配管101に沿った凹面鏡であり、光を反射して再び配管101内に入射させることができる。これにより、光化学反応効率の向上を図ることができる。また、配管101内を液体で満たすことによって、反射条件を変えることができる。これにより、配管101や気液界面の反射、屈折によって光を配管101内に入射させ、光化学反応効率の向上を図ることもできる。
このように、第3の実施形態に係る管状の配管である光化学反応装置を用いることで、外部から流入されるCO2を分解し、それによって生成される生成物を還元側と酸化側で分離して外部へと流出することができる。
3.光化学反応システム
以下に図29乃至図34を用いて、本実施形態に係る光化学反応システムについて説明する。本実施形態に係る光化学反応システムは、例えば図28に示す配管構造によって設計され得る。
図29は、本実施形態に係る光化学反応システムの構成を示すブロック図である。
図29に示すように、CO2還元手段110、CO2発生手段111、およびCO2吸収手段112を備える。
CO2還元手段110は、例えば上述した光化学反応装置である。CO2還元手段110は、CO2吸収手段112にCO2吸収剤を含む電解液を流出し、CO2吸収手段112からCO2を吸収したCO2吸収剤を含む電解液を流入する。そして、CO2還元手段110は、CO2吸収剤に吸収されたCO2を還元することにより、CO、HCOOH、CH3OH、またはCH4等の炭素化合物を生成し、これらをCO2発生手段111に流出する。また、CO2還元手段110は、CO2の還元とともにH2Oを酸化することにより、O2を生成し、これをCO2発生手段111に流出する。
CO2発生手段111は、例えば発電所である。CO2発生手段111は、CO2還元手段110で生成されたCO、HCOOH、CH3OH、またはCH4等の炭素化合物を流入する。そして、CO2発生手段111は、CH3OH、またはCH4等の炭素燃料を燃焼させることにより、エネルギーを得るとともにCO2を生成する。CO2発生手段111は、発生したCO2をCO2吸収手段112に流出する。また、CO2発生手段111は、CO2発生手段111で生成されたO2を流入する。このO2を助燃剤として用いることで、炭素燃料の燃焼効率を向上させてCO2の総排出量を減少させることができる。
CO2吸収手段112は、例えばCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)である。CO2吸収手段112は、CO2還元手段110から流入されたCO2吸収剤を用いて、CO2発生手段111で生成されたCO2を吸収する。これにより、CO2吸収手段112は、CO2を収集および貯蔵する。そして、CO2吸収手段112は、CO2を吸収したCO2吸収剤を含む電解液をCO2還元手段110に流出する。
このように、本実施形態に係る光化学反応システムによれば、CO2発生手段111によって炭素燃料を燃焼させてエネルギーを得るとともにCO2を生成し、CO2吸収手段112によって生成されたCO2を吸収し、CO2還元手段110によってCO2を還元分解する。そして、CO2還元手段110によってCO2の還元分解とともに生成された炭素化合物を炭素燃料として再びCO2発生手段111に流出する。これにより、CO2の分解を効率よく行うとともに、それによって生成される生成物を用いて効率よくエネルギーを得ることができる。
なお、炭素燃料を燃焼させてCO2を排出するCO2発生手段111としては発電所に限らず、鉄工所、化学工場、またはごみ処理場等も挙げられる。鉄工所では、高温が必要ととなり、CO2の排出量およびO2の消費量が多くなるため、上記システムは適している。また、化学工場等では、エネルギー、炭素化合物、およびO2をすべて必要となるため、上記システムは適している。
また、CO2還元手段110によって生成されるO2を養殖場の魚等の生物に供給することで、成長を促進させる効果や病気を防ぐ効果がある。そして、生物から排出されたCO2をCO2還元手段110によって還元させるとともに、生成されるO2を再び生物に供給することができる。また、CO2を還元して生成される炭素化合物をCO2発生手段111によって炭素燃料として燃焼させることで、熱や電気などのエネルギーを得ることができる。そして、これを再び養殖場に供給することも可能である。
また、CO2還元手段110によって生成されるO2を下水処理のバクテリア等に供給することで、処理の効率を向上させることができる。同様に、CO2を還元して生成される炭素化合物を炭素燃料として燃焼させることで、熱や電気などのエネルギーを得ることができる。そして、これを再び下水処理場に供給することも可能である。これにより、下水処理場の運営コストを低下することができる。さらに、CO2還元手段110によってCO2の還元分解とともに生成された副生物のH2を利用して、バクテリアによってCH3OH、C2H5OH、またはCH4等の炭素化合物を生成してもよい。
また、CO2還元手段110によって生成されるO2を病院に供給することができる。同様に、CO2を還元して生成される炭素化合物をCO2発生手段111によって炭素燃料として燃焼させることで、熱や電気などのエネルギーを得て、これを病院に供給することも可能である。さらに、自家発電分などのCO2を再びCO2還元手段110に供給して化学エネルギーを得てもよい。
また、O2を酸化力として、空気浄化システム、水浄化システム、または有機物の汚染したものを洗浄するシステムに用いてもよい。そして、得たエネルギーをシステム運営に用い、これらシステムに用いるエネルギー供給によって生じるCO2を吸収してCO2還元手段110およびCO2発生手段111によって再度化学エネルギーに変換し、サイクルしてもよい。
図30は、本実施形態に係る光化学反応システムの変形例1の構成を示すブロック図である。また、図31は、本実施形態に係る光化学反応システムの変形例2の構成を示すブロック図である。また、図32は、本実施形態に係る光化学反応システムの変形例3の構成を示すブロック図である。
CO2還元手段110(還元触媒層20)によって、CO2を分解してCOまたはHCOOHを生成することはできるが、一気に炭素燃料となるCH3OHまたはCH4等を生成することは困難である。すなわち、CO2還元手段110によってCOまたはHCOOHを形成した後、これらをCH3OHまたはCH4等に変換することが必要である。
これに対し、図30に示すように、変形例1における光化学反応システムは、第1化学プロセス手段113およびバッファタンク114を有する。
第1化学プロセス手段113およびバッファタンク114は、CO2還元手段110とCO2発生手段111との間の流路に設けられる。第1化学プロセス手段113は、CO2還元手段110によって生成されたCOまたはHCOOHを化学反応させて、CH3OHまたはCH4等を生成する。すなわち、第1化学プロセス手段113は、炭素燃料の生成における中間処理を行う。このとき、CO2還元手段110によって生成されるCOとH2との割合を電解液の化学構造や電解液中の水分量を調整することによって第1化学プロセス手段113に適した割合に調整するとよい。例えば、CH3OHを生成する場合、以下の(3)式によって反応する。
CO+H2 → CH3OH ・・・(3)
(3)式に示すように、COとH2からCH3OHを生成する場合、化学量論的にCO:H=1:2で反応が進行する。このため、CO2還元手段110によって生成されるCOとH2との割合を上記割合に調整することが望ましい。
なお、実際のプロセスにおいて、エネルギー効率やコストを考慮するため、これとは異なる割合になることが多いが適した割合に調整することができる。
また、デバイス温度や光の強弱、波長の変化によって生成物が変化する場合がある。この変動に対処するために、バッファタンク114が設けられる。
ところで、CO2還元手段110が太陽光エネルギーを用いる場合、雨季などによる長期的変化に対応するとバッファタンク114を大型化するなどの問題が生じる。
これに対し、図31に示すように、変形例2における光化学反応システムは、第2化学プロセス手段115をさらに有する。
第2化学プロセス手段115は、CO2還元手段110とCO2発生手段111との間の流路に設けられ、第1化学プロセス手段113とは異なる流路として設けられる。第2化学プロセス手段115は、第1化学プロセス手段113とは異なる製造装置および製造方法である。
このように、第1化学プロセス手段113と第2化学プロセス手段115とを異なる流路として設け、これらを適宜切り替えることで、気象条件や温度条件による化学反応の変動を解決してもよい。
なお、第1化学プロセス手段113および第2化学プロセス手段115の反応条件を変えたり、生成物を変えたりしてもよい。この際、第1化学プロセス手段113および第2化学プロセス手段115のそれぞれの生成物のタンク容量によって変える場合があってもよい。また、CO2還元手段110で生成されたO2をこれらに供給してもよい。これらの組み合わせは一例であって、複数の化学プロセス手段や多段のプロセスとの組み合わせに関して制限はない。また、反射板108の角度や位置を変化させたり、管内の液体量を変化させたりすることで、反射条件を変えることができる。これにより、配管や気液界面の反射、屈折によって配管101内への光の入射量を変化させることができ、その結果、光化学反応効率の向上を図ることともに生成物を選択的に作り変えることができる。
ところで、CO2還元手段110における光化学反応セルでは、太陽光を照射すると、多接合型太陽電池17において電荷分離が生じ、酸化触媒層19によってH2Oが酸化されてH+とO2が生成される。このとき、酸化触媒層19による酸化反応によって電子が対極の還元触媒層20に移動する。この移動した電子によって、還元触媒層20によるCO2の還元反応が進行する。しかし、H2Oを酸化するエネルギーは、非常に大きい。このため、H2Oの酸化電位とCO2の還元電位とには大きな電位差がある。したがって、H2Oの酸化反応およびCO2の還元反応を進めることは、大きなエネルギーが必要であり、非常に困難である。
そこで、酸化触媒層19側の電子源(還元体)としてトリエタノールアミンのような犠牲試薬を用いる例が知られている。酸化触媒層19によってH2OをH+とO2に分解する反応の代わりに犠牲試薬のような還元体を用いることで、酸化反応と還元反応との電位差を減少させることができる。これにより、酸化反応および還元反応は、比較的容易に進行する。その結果、多接合の太陽電池の接合数を減少させたり、太陽電池を単層で構成したりすることができる。また、同じ太陽電池を用いた場合であっても、電流が増加するために反応はより進行する。これらの組み合わせは、酸化と還元との電位差、代用電池の出力、または触媒の組み合わせによって任意に設定することができる。さらに、酸化触媒層19側の電子源(還元体)としてトリエタノールアミンのような犠牲試薬種を変化させること、トリエタノールアミンを水溶液として供給して濃度を変化させること、またはトリエタノールアミンを水と置き換えることによって、気象の変化による反応低下を抑えたり、生成物を変化させたりすることもできる。
図32に示すように、変形例3における光化学反応システムでは、上述したような酸化還元反応の電位差を小さくする還元体として、自然界116から大量に得られる還元体を用いる。なお、ここで、還元体とは、還元力を有するものを示す。言い換えると、還元体とは、自身が酸化されて電子を失い、その電子によって他の物質を還元するものを示す。
このような自然界116から得られる還元体として、例えば鉱山からの排水中に存在する鉄の2価イオン(Fe2+)等が挙げられる。他にも硫化水素やいおうなど自然界に存在する還元体であれば、制限は無い。変形例3における光化学反応システムでは、CO2還元手段110における酸化触媒層19側の反応として、自然界116から得られるFe2+が用いられる。以下に、CO2還元手段110における光化学反応セルの化学反応について、詳説する。
図33は、本実施形態に係る光化学反応システムの変形例3における光化学反応セルの動作原理を示す断面図である。ここでは、反射層12、還元電極層13、および酸化電極層18は省略している。
図29に示すように、酸化触媒層19付近において、自然界から得たFe2+が酸化されて(電子を失い)鉄の3価イオン(Fe3+)が生成される。この酸化反応によって生じた電子が還元触媒層20へと移動する。そして、還元触媒層20付近において、移動した電子によって還元反応が生じる。より具体的には、CO2が還元されてCOが生成されたり、H2Oが還元されてH2が生成されたりする。
このとき、Fe2+の酸化反応とCO2またはH2Oの還元反応との電位差が小さい。このため、これらの酸化反応および還元反応を比較的容易に進行させることができる。
上述したFe2+は、世界中の鉱山に大量に存在し、その多くは硫黄を含む鉱山廃水中に存在する。このため、坑道内などで硫黄の酸化によって生じたpHの低い硫酸水が環境問題となっている。特に、Fe2+の場合、安価な炭酸カルシウムのような中和剤で中和する必要がある。しかし、Fe2+は炭酸カルシウムと反応しにくい。このため、Fe2+をFe3+に酸化するために、バクテリアを用いてエネルギーを消費しているという問題がある。
これに対し、本実施形態に係る光化学反応システムの変形例3によれば、酸化触媒層19側の電解液として自然界116から得られるFe2+を含む抗廃水(鉱廃水)を用いる。このFe2+が還元体となることで、還元触媒層20によってH2やCO等のエネルギー物質を容易に得ることができる。それとともに、自然界116のFe2+を酸化することが可能となり、Fe2+による環境問題を解消することができる。
なお、このようにして得たエネルギーを鉱廃水処理施設や鉱山の採掘のエネルギーとして使用するとエネルギーの移動によるロスがなく、より望ましい。
また、図34に示すように、Fe3+となって沈殿した水酸化第二鉄(Fe(OH)3)を還元触媒層20側の電解液として還元することも有効である。これにより、Fe2+を生成し、再び酸化触媒層19側の電解液として用いることで、還元体としてサイクルすることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。