ところで、一般的に、ロータは動翼と比べると、その容量が非常に大きいため、動翼と同等の強度を有する均一な材料から無欠陥の状態に作ることが製造上極めて難しい。そのため、ロータに十分な強度及び剛性を確保するために、通常、ロータ側フックの幅及び高さを動翼側フックの幅及び高さよりも大きく設定し、且つ動翼には高強度材料を使用することにより、ロータ及び動翼の両方が、それぞれの許容応力に対して余裕を持つように設計されている。
しかしながら、この場合、動翼側フックにかかる応力が、ロータ側フックにかかる応力よりも高くなる。その結果、ロータの回転上昇とともに、互い対応する動翼側フック及びロータ側フックの全てがほぼ同時に接触する一般的な設計がなされている場合には、最外周側に位置する第1動翼側フック及び第1ロータ側フックの荷重負担率が最も高くなり、且つ作用する応力も最も高くなるという問題がある。
このことについて、図11を用いて説明する。
図11は、互いに対応する動翼側フック及びロータ側フックの接触部間距離が同一とされる一般的な設計がなされた2段フック構造のアウトサイド形植込み部がロータに連結された状態を示している。詳しくは、図11(a)は、ロータの静止状態を示し、図11(b)は、図11(a)の拡大図を示している。図11(c)は、ロータが定格回転数で回転して対応する2つのフックが接触した接触状態を示し、図11(d)は、図11(c)の拡大図を示している。なお、図11に示す構成要素における図10で説明した構成要素と同様の部分には、同一の符号が付されている。
上述の一般的な設計がなされた場合には、ロータ32が回転数を上昇させるに従い、動翼は、遠心力によって半径方向の外側に移動し、第1動翼側フック22aが第1ロータ側フック32aに接触し、第2動翼側フック22bが第2ロータ側フック32bに接触する(図11(c),(d))。ここで、動翼側フック間の接触部間距離Lb1とロータ側フック間の接触部間距離Lr1とは同一であるため、第1動翼側フック22a及び第1ロータ側フック32aと、第2動翼側フック22b及び第2ロータ側フック32bとは、ほぼ同時に接触することになる。この際、動翼の全体及びロータが遠心力によって伸びることで、動翼側及びロータ側の各フックが伸びる。これにより、図11(b)及び図11(d)に示すように、静止状態における動翼側フックの接触部間距離Lb1は、Lb1+ΔLbとなり、静止状態におけるロータ側フックの接触部間距離Lr1は、Lr1+ΔLrとなる。
ここで、動翼側及びロータ側の各フックの伸びは、ヤング率に反比例し応力に比例するが、ヤング率よりも作用する引張応力が支配的である。そのため、上述のように動翼側フックにかかる応力がロータ側フックにかかる応力よりも高くなる場合には、動翼側フック間の伸び量ΔLbは、ロータ側フック間の伸び量ΔLrより大きくなる。これにより、図11に示す例においては、静止状態における動翼側フックの接触部間距離Lb1と、ロータ側フックの接触部間距離Lr1とが同一(Lb1=Lr1)であるため、伸び差のみを考慮した場合、伸長後の接触部間距離Lb1と接触部間距離Lr1との間には、Lb1+ΔLb>Lr1+ΔLrの関係が成立する。
そして、図11の例では、ロータ32が定格回転数で回転しているときに、各動翼側フック22a,22bと、それに対応する各ロータ側フック32a,32bとが、接触しており、Lb1+ΔLb=Lr1+ΔLrの関係を保つ。そのため、上述の伸び差が生じることにより、第1動翼側フック22aが第1ロータ側フック32aを半径方向の外側に押すことで、第1ロータ側フック32aには図中の矢印α方向に作用する曲げ応力が発生し、第2動翼側フック22b及び第2ロータ側フック32bには、半径方向の内側に離れるように図中の矢印βの方向に作用する曲げ応力が発生することになる。
このような曲げ応力が発生した場合、第1ロータ側フック32aにおいては、遠心力による引張応力に加えて、伸び差に起因した矢印α方向の曲げ応力が遠心力と同一方向にかかるため、応力が大きくなり、且つ荷重分担率が高くなる。なお、第1動翼側フック22aにおいても同様である。また、第2ロータ側フック32bにおいては、伸び差に起因した矢印βの方向の曲げ応力が遠心力と反対方向に作用するため、第2ロータ側フック32bの遠心力による引張応力は軽減されることになり、且つ荷重分担率が低くなる。なお、第2動翼側フック22bにおいても同様である。
そのため、上述の一般的な設計においては、最外周側に位置する第1動翼側フック及び第1ロータ側フックの荷重負担率が最も高くなり、且つ作用する応力も最も高くなることになる。このような関係は、上述の一般的な設計がなされた逆クリスマスツリー形の多段フック構造の場合でも同様のことがいえる。
図12は、図9の4段フック構造の逆クリスマスツリー形植込み部の各フックの荷重分担率の計算例のグラフを示している。図13は、図10の3段フック構造のアウトサイド形植込み部の各フックの荷重分担率の計算例のグラフを示している。図12及び図13において、横軸の番号は各フックの番号を示し、縦軸は荷重分担率を示す。各フックの荷重分担率は、各フックにかかる荷重を全フックにかかる荷重の和で除した値である。全フックにかかる荷重は、動翼にかかる遠心力と釣り合う関係にある。
図12及び図13からも明らかなように、第1動翼側フックにおける遠心力による静応力が全フック中で最大であり、その荷重可担率が全フック中で最大である。第1動翼側フックの荷重分担率は、各フックの荷重分担率の平均値の1.1〜1.2倍程度の高い値であることが分かる。
また、図14は、図9の4段フック構造の逆クリスマスツリー形植込み部に曲げ振動が作用した際の、第1動翼側フックに対する他の各フックの振動応力の相対値の計算例のグラフを示している。横軸の番号は各フックの番号を示し、縦軸は振動応力の相対値を示す。
これによると、第1動翼側フックの振動応力は、他のフックに比べて3倍程度高い値となっている。これは、上述のように、互いに対応する各動翼側フック及びロータ側フックは、定格回転中において接触しているため、第1動翼側フックより半径方向の内側に位置する全てのフックは運転中には完全に拘束され、第1動翼側フックが動翼有効部(動翼本体)を支える固定端に相当するからである。すなわち、第1動翼側フックが、自由端となる動翼有効部の振動による影響を最も大きく受けることになるからである。
また、図15は、図12及び図14に示す各フックの応力状態を植込み部の疲労限度線図上に表したグラフを示している。縦軸は振動応力を示し、横軸は静応力を示している。ラインL15は疲労限度線を示し、F1は第1動翼側フックの応力状態、F2は第2動翼側フックの応力状態、F3は第3動翼側フックの応力状態、F4は第4動翼側フックの応力状態を示している。
図15に示すように、第1動翼側フックは、静応力と振動応力が共に各フック中で最大であり、疲労限度曲線に最も近い状態にある(マージンM15参照)。そのため、想定よりも大きな振動応力が加わる等の運転状況が厳しくなった場合には、疲労損傷を生じる可能性があることになる。動翼の主な損傷形態は、第1動翼側フックでの疲労破壊であることは良く知られており、このような疲労破壊の報告事例は少なくない。
以上のように多段フック構造による嵌め合いによって連結される動翼の植込み部とロータでは、互いに対応する動翼側フック及びロータ側フックの接触部間距離が同一に設定される一般的な設計がなされる場合に、最外周側に位置する動翼側及びロータ側のフックの荷重分担率が他のフックに比べて高くなる。その結果、その静応力及び振動応力が高くなり、疲労限度に対するマージンが少なくなっている。したがって、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制すると共に、各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保することにより、タービン動翼乃至蒸気タービンの信頼性を向上させる技術の確立が望まれる。
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、多段フック構造の嵌め合いによって連結されるタービン動翼とタービンロータにおいて、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制できると共に各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保でき、蒸気タービンの信頼性を向上させることができるタービン動翼組立体及び蒸気タービンを提供することを目的とする。
実施の形態によるタービン動翼組立体は、複数の動翼側フックが形成された多段フック構造の植込み部を有するタービン動翼と、前記複数の動翼側フックの各々に対応して形成された複数のロータ側フックを有し、当該複数のロータ側フックに前記複数の動翼側フックを嵌め合わせることにより前記植込み部と連結し、前記ロータ側フックの各々によって前記動翼側フックの各々の半径方向の外側への移動を規制するタービンロータと、を備える。前記複数の動翼側フックのうちのいずれかの動翼側フックを、対応する前記ロータ側フックに接触させた際に、前記複数の動翼側フックのうちの他の動翼側フックの少なくともいずれかが、対応する前記ロータ側フックとの間に間隙を形成するようになっている。
また、実施の形態による蒸気タービンは、上記のタービン動翼組立体を備える。
本発明によれば、複数の動翼側フックと対応する複数のロータ側フックの全てがほぼ同時に接触する一般的な構成とした場合には、荷重分担率が高くなる動翼側フック及びロータ側フック組合せの間に、これらとは異なる他の動翼側フックとロータ側フックとを接触させた際に間隙が形成されるように構成することで、この組合せにおける各フックの接触時の荷重分担率、静応力及び振動応力の低減を図ることができる。これにより、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制できると共に各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保でき、蒸気タービンの信頼性を向上させることができる。
以下に、添付の図面を参照して、本発明の各実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の各実施の形態において、図9及び図10を用いて説明した一般的なタービン動翼及びタービンロータと同様の構成部分については、同一の符号が示されている。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るタービン動翼組立体1の分解状態を示す図である。本実施の形態のタービン動翼組立体1は、蒸気タービンの車室内に設置されるタービン動翼(以下、動翼と呼ぶ。)10A及びタービンロータ(以下、ロータと呼ぶ。)31を備えている。
動翼10Aは、動翼本体11と、複数の動翼側フックが形成された多段フック構造の逆クリスマスツリー形の植込み部20Aと、を有する。植込み部20Aは、動翼本体11の根元からロータ31の半径方向の内側に向けて突出する先細り形状の植込み部本体21を有している。植込み部本体21の両側部の各々には、第1動翼側フック21a、第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dが動翼本体11の根元側からロータ31の半径方向の内側に向けて順に並んだ状態で形成されている。
ロータ31の外周部には、半径方向の内側にへこむ溝31Gが形成され、この溝31Gの両側面の各々には、複数の動翼側フック21a〜21dの各々に対応して形成された複数のロータ側フック31a〜31dが形成されている。詳しくは、溝31Gの両側面の各々には、第1ロータ側フック31a、第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dがロータ31の外周側から半径方向の内側に向けて順に並んだ状態で形成されている。
溝31Gは、蒸気タービンの軸方向に延びるように形成されており、本実施の形態に係るタービン動翼組立体1では、図中の矢印に示すように、複数のロータ側フック31a〜31dに複数の動翼側フック21a〜21dを嵌め合わせることにより、植込み部20Aとロータ31とが連結される。すなわち、本実施の形態に係るタービン動翼組立体1は、アキシャルエントリータイプの植込み構造を有している。
動翼10Aとロータ31とが連結された状態において、各動翼側フック21a〜21dは、ロータ31の回転上昇とともに、対応するロータ側フック31a〜31dに接触するようになっている。これにより、ロータ側フック31a〜31dの各々によって動翼側フック21a〜21dの各々の半径方向の外側への移動が規制されるようになっている。
以下では、各動翼側フック21a〜21dのうちのロータ31の回転上昇時に対応するロータ側フック31a〜31dに接触する部分のことを接触部と呼び、各ロータ側フック31a〜31dのうちのロータ31の回転上昇時に対応する動翼側フック21a〜21dに接触する部分のことを接触部と呼ぶ。
図1において、符号Lb1は、第1動翼側フック21aとこれに半径方向の内側で隣り合う第2動翼側フック21bとの接触部間距離を示し、符号Lb2は、第2動翼側フック21bとこれに半径方向の内側で隣り合う第3動翼側フック21cとの接触部間距離を示し、符号Lb3は、第3動翼側フック21cとこれに半径方向の内側で隣り合う第4動翼側フック21dとの接触部間距離を示している。
また、符号Lr1は、第1ロータ側フック31aとこれに半径方向の内側で隣り合う第2ロータ側フック31bとの間の接触部間距離を示し、符号Lr2は、第2ロータ側フック31bとこれに半径方向の内側で隣り合う第3ロータ側フック31cとの間の接触部間距離を示し、符号Lr3は、第3ロータ側フック31cとこれに半径方向の内側で隣り合う第4ロータ側フック31dとの間の接触部間距離を示している。
ここで、本実施の形態では、図1に示すように、第1ロータ側フック31aと第2ロータ側フック31bとの間の接触部間距離Lr1が、第1動翼側フック21aと第2動翼側フック21bとの接触部間距離Lb1よりも大きく設定されている。すなわち、Lb1=Lr1−δの関係が成立している。一方、Lb2とLr2とは同一の寸法となっており、Lb3とLr3とは同一の寸法となっている。
これにより、本実施の形態では、ほぼ同時に接触することになる第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々を、対応する第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dに接触させた際に、第1動翼側フック21aが、対応する第1ロータ側フック31aとの間に間隙δを形成するようになっている。
なお、間隙δは、ロータ31の回転時に作用する遠心力によって、第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々を、対応する第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dに最初に接触させた際に、第1動翼側フック21aに半径方向に沿う引張応力が生じていない或いはほぼ生じていない状態で、第1動翼側フック21aの接触部と第1ロータ側フック31aの接触部との間に生じる間隙を意味する。
また、間隙δは、植込み部20Aの引張り強さをσとし、ヤング率をEとしたときに、0よりも大きく、Lb1×σ/Eよりも小さい範囲の値に設定することが好ましい。すなわち、0<δ<Lb1×σ/Eの関係を成立させることが好ましい。この範囲に間隙δを設定した場合には、遠心力による第1動翼側フック21aの破損を抑制できる。
次に、本実施の形態の作用について説明する。
本実施の形態では、第1ロータ側フック31aと第2ロータ側フック31bとの間の接触部間距離Lr1を、対応する第1動翼側フック21aと第2動翼側フック21bとの接触部間距離Lb1よりも大きく設定している。一方、これらの他の互いに対応する動翼側の接触部間距離Lb2とロータ側の接触部間距離Lr2、及び、動翼側の接触部間距離Lb3とロータ側の接触部間距離Lr3とは同一の寸法となっている。
これにより、第1動翼側フック21aを除く、他の第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々は、ロータ31の回転上昇とともに、対応する第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dにほぼ同じ接触を開始する。このとき、第1動翼側フック21aは第1ロータ側フック31aに接触していないため、これらに作用する荷重は0であり、遠心力による荷重は、第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dが受け持つ状態となる。
そして、ロータ31の回転数がさらに上昇した場合には、動翼10Aが遠心力の影響によって半径方向に伸びるため、所定の回転数のときに、第1動翼側フック21aが第1ロータ側フック31aの接触部に接触し、荷重の一部を負担する。また、このとき、第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々も伸びようとするため、これら第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21d、並びにこれらに接触している第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dの間に作用する応力が増大する。すなわち、本実施の形態では、第2〜第4動翼側フック21b〜21d及び第2〜第4ロータ側フック31b〜31dが第1動翼側フック21a及び第1ロータ側フック31aよりも先行して接触することにより、第1動翼側フック21a及び第1ロータ側フック31aが負担する荷重及び応力の一部を受け持つように機能する。
これにより、本実施の形態によれば、第1動翼側フック21aと第1ロータ側フック31aの接触時の荷重分担率、静応力及び振動応力の低減を図ることができる。その結果、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制できると共に各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保でき、蒸気タービンの信頼性を向上させることができる。
すなわち、図9で説明したように、複数の動翼側フックと対応する複数のロータ側フックの全てがほぼ同時に接触する一般的な構成とした場合には、最外周側に位置する第1動翼側フックと第1ロータ側フックの荷重分担率が高くなり、その静応力及び振動応力も高くなる。このような場合に、本実施の形態では、上述のように、最外周側の第1動翼側フック21a及び第1ロータ側フック31aの組合せの間に、これらとは異なる他の動翼側フック(21b〜21d)とロータ側フック(31a〜31d)とを接触させた際に間隙δが形成されるように構成することで、最外周側の第1動翼側フック21aと第1ロータ側フック31aの接触時の荷重分担率、静応力及び振動応力の低減を図ることができる。
具体的に、図2は、本実施の形態における動翼側フック21a〜21dの荷重分担率の計算例のグラフを示している。横軸の番号は各フックの番号を示し、縦軸は荷重分担率を示す。図12の一般的な構成と比較して、本実施の形態では、図2に示すように、第1動翼側フック21aの荷重分担率を、各フック21a〜21dの荷重分担率の平均値以下に低減させることが可能となっている。そして、各動翼側フック21a〜21dの荷重分担率のばらつきが抑制されていることが分かる。
また、図3は、各動翼側フック21a〜21dの応力状態を植込み部20Aの疲労限度線図に表したグラフを示している。縦軸は振動応力を示し、横軸は静応力を示している。ラインL3は疲労限度線を示し、F1は第1動翼側フック21aの応力状態、F2は第2動翼側フック21bの応力状態、F3は第3動翼側フック21cの応力状態、F4は第4動翼側フック21dの応力状態を示している。
本実施の形態では、図15で説明した一般的な構成に比べて、第2〜第4動翼側フック21b〜21dの疲労限度に対するマージンは大きく変わらないが、第1動翼側フック21aにおいては、振動応力はほとんど変化しないものの、荷重分担率が減少したことで静応力が低減し、疲労限度に対するマージン(マージンM3参照)が増大している。これにより、各動翼側フック21a〜21dにおいて疲労限度に対するマージンが好適に確保されており、疲労損傷に対するタービン動翼の信頼性が大幅に改善されている。
このように本実施の形態によれば、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制できると共に各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保でき、蒸気タービンの信頼性を向上させることができることになる。
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態について説明する。図4は第2の実施の形態に係るタービン動翼組立体2の分解状態を示す図である。本実施の形態のタービン動翼組立体2は、蒸気タービンの車室内に設置される動翼10B及びロータ32を備えている。
動翼10Bは、動翼本体12と、複数の動翼側フックが形成された多段フック構造のアウトサイド形の植込み部20Bと、を有する。植込み部20Bは、動翼本体12の根元からロータ32の半径方向の内側に向けて突出する鞍型の植込み部本体22を有している。植込み部本体22の両側部の内面の各々には、第1動翼側フック22a、第2動翼側フック22b、及び第3動翼側フック22cが動翼本体12の根元側からロータ32の半径方向の内側に向けて順に並んだ状態で形成されている。
ロータ32の外周部には、半径方向の外側に突出する先細り形状のフック形成用突部32Tが形成され、このフック形成用突部32Tの両側面の各々には、複数の動翼側フック22a〜22dの各々に対応して形成された複数のロータ側フック32a〜32cが形成されている。詳しくは、フック形成用突部32Tの両側面の各々には、第1ロータ側フック32a、第2ロータ側フック32b、及び第3ロータ側フック32cがロータ32の外周側から半径方向の内側に向けて順に並んだ状態で形成されている。
本実施の形態に係るタービン動翼組立体1では、タービンの周方向に沿って、複数のロータ側フック32a〜32cに複数の動翼側フック22a〜22cを嵌め合わせることにより、植込み部20Bとロータ32とが連結される。すなわち、本実施の形態に係るタービン動翼組立体2は、タンジェンシャルエントリータイプの植込み構造を有している。
動翼10Bとロータ32とが連結された状態において、各動翼側フック22a〜22cは、ロータ32の回転上昇とともに、対応するロータ側フック32a〜32cに接触するようになっている。これにより、ロータ側フック32a〜32cの各々によって動翼側フック22a〜22cの各々の半径方向の外側への移動が規制されるようになっている。
以下では、各動翼側フック22a〜22cのうちのロータ32の回転上昇時に対応するロータ側フック32a〜32cに接触する部分のことを接触部と呼び、各ロータ側フック32a〜32cのうちのロータ32の回転上昇時に対応する動翼側フック22a〜22cに接触する部分のことを接触部と呼ぶ。
図4において、符号Lb1は、第1動翼側フック22aとこれに半径方向の内側で隣り合う第2動翼側フック22bとの接触部間距離を示し、符号Lb2は、第2動翼側フック22bとこれに半径方向の内側で隣り合う第3動翼側フック22cとの接触部間距離を示している。また、符号Lr1は、第1ロータ側フック32aとこれに半径方向の内側で隣り合う第2ロータ側フック32bとの間の接触部間距離を示し、符号Lr2は、第2ロータ側フック32bとこれに半径方向の内側で隣り合う第3ロータ側フック32cとの間の接触部間距離を示している。
ここで、本実施の形態では、図4に示すように、第1ロータ側フック32aと第2ロータ側フック32bとの間の接触部間距離Lr1が、第1動翼側フック22aと第2動翼側フック22bとの接触部間距離Lb1よりも大きく設定されている。すなわち、Lb1=Lr1−δの関係が成立している。一方、Lb2とLr2とは同一の寸法となっている。
これにより、本実施の形態では、ほぼ同時に接触することになる第2動翼側フック22b及び第3動翼側フック22cの各々を、対応する第2ロータ側フック32b及び第3ロータ側フック32cに接触させた際に、第1動翼側フック22aが、対応する第1ロータ側フック32aとの間に間隙δを形成するようになっている。また、本実施の形態においても、間隙δは、植込み部20Bの引張り強さをσとし、ヤング率をEとしたときに、0よりも大きく、Lb1×σ/Eよりも小さい範囲の値に設定することが好ましい。すなわち、0<δ<Lb1×σ/Eの関係を成立させることが好ましい。
このような第2の実施の形態においても、第1動翼側フック22aと第1ロータ側フック32aの接触時の荷重分担率、静応力及び振動応力の低減を図ることができる。その結果、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制できると共に各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保でき、蒸気タービンの信頼性を向上させることができる。
図5は、第2の実施の形態に係るタービン動翼組立体2における各動翼側フック22a〜22cの荷重分担率の計算例のグラフを示した図である。横軸の番号は各フックの番号を示し、縦軸は荷重分担率を示す。具体的に、図13の一般的な構成と比較すると、図5に示すように、本実施の形態では、第2動翼側フック22b及び第3動翼側フック22cの荷重分担率が増加する一方で、第1動翼側フック22aの荷重分担率が低減されることとなる。第1動翼側フック22aの振動応力はほとんど変化しないが、静応力が低減され、疲労限度線図に対するマージンは増大する。その結果、各動翼側フック22a〜22cの荷重分担率のばらつきが抑制されると共に、各動翼側フック22a〜22cにおいて疲労限度に対するマージンが好適に確保される。
したがって、本実施の形態によっても、動翼側及びロータ側の各フックの荷重分担率のばらつきを抑制できると共に各フックにおいて疲労限度に対するマージンを好適に確保でき、蒸気タービンの信頼性を向上させることができることになる。
(第3の実施の形態)
次に第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、動翼の植込み部が第1の実施の形態と同様に逆クリスマスツリー形であるが、ロータ回転時のフックの接触態様が第1の実施の形態と異なっている。本実施の形態の説明は、図1を参照しつつ第1の実施の形態と同様の構成要素を用いて行う。
上述の第1の実施の形態では、第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々を、対応する第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dに接触させた際に、第1動翼側フック21aが、対応する第1ロータ側フック31aとの間に間隙δを形成するようになっている。これにより、第1動翼側フック21aを除く、他の第2動翼側フック21b、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々が、ロータ31の回転上昇とともに、対応する第2ロータ側フック31b、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dにほぼ同時に接触を開始するようになっている。
これに対して、本実施の形態では、ロータ31の回転上昇時に、第2動翼側フック21bが対応する第2ロータ側フック31bに他の動翼側フックよりも先行して接触し、その後、第1動翼側フック21a、第3動翼側フック21c及び第4動翼側フック21dの各々が、対応する第1ロータ側フック31a、第3ロータ側フック31c及び第4ロータ側フック31dに接触を開始するように、各動翼側フック及び各ロータ側フックが構成されている。
この場合、接触部間距離Lb2と接触部間距離Lr2との間に、Lb2=Lr2+δの関係が成立し、且つ接触部間距離Lb3と接触部間距離Lr3との間に、一例として、Lb3=Lr3の関係が成立する。また、接触部間距離Lb1と接触部間距離Lr1との間には、Lb1≦Lr1の関係が成立する。ここで、第2動翼側フック21bのみが対応する第2ロータ側フック31bに先行して接触するようにするには、Lb1<Lr1の関係とする。また、この例では、Lb3=Lr3の関係が成立するが、接触部間距離Lb3と接触部間距離Lr3との間には、Lb3≧Lr3−δの関係が成立すればよい。なお、第2動翼側フック21bのみが対応する第2ロータ側フック31bに先行して接触するようにするには、Lb3>Lr3−δの関係とする。
このような本実施の形態では、ロータ31の回転数上昇により第2動翼側フック21bのみが対応する第2ロータ側フック31bに先行して接触し、その後、ロータ31のさらなる回転数上昇に伴う遠心力の増大により、他の動翼側フック21a,21c,21dが対応するロータ側フック31a,31c,31dに接触し始める。これにより、第1の実施の形態と同様に、最外周側の第1動翼側フック21aと第1ロータ側フック31aの接触時の荷重分担率、静応力及び振動応力の低減を図ることができる。
図6は、本実施の形態に係る動翼側フック21a〜21dの荷重分担率の計算例のグラフを示した図である。横軸の番号は各フックの番号を示し、縦軸は荷重分担率を示す。図12の一般的な構成と比較して、本実施の形態においても、第1動翼側フック21aの荷重分担率を低減させることが可能となっている。
また、第3の実施の形態の変形例1として、第3動翼側フック21cを対応する第3ロータ側フック31cに先行して接触させる構成が採用されてもよい。図7Aは、変形例1に係る動翼側フック21a〜21dの荷重分担率の計算例のグラフを示した図である。この変形例1においても、第1動翼側フック21aの荷重分担率を低減させることが可能となっている。
また、第3の実施の形態の変形例2として、第4動翼側フック21dを対応する第4ロータ側フック31dに先行して接触させる構成が採用されてもよい。図7Bは、変形例2に係る動翼側フック21a〜21dの荷重分担率の計算例のグラフを示した図である。この変形例2においても、第1動翼側フック21aの荷重分担率を低減させることが可能となっている。
(第4の実施の形態)
次に第4の実施の形態について図8を用いて説明する。上述の第1の実施の形態と同様の構成要素については、同一の符号が付されている。
本実施の形態では、ロータ31の半径方向の外側からi番目に隣り合う一対の動翼側フックの各々における対応するロータ側フックとの接触部の間の接触部間距離をLb(i)とし、半径方向の外側からi番目に隣り合う一対のロータ側フックの各々における対応する動翼側フックとの接触部の間の接触部間距離をLr(i)とし、Lr(i)−Lb(i)=ΔL(i)としたとき、ΔL(i)≧ΔL(i+1)≧0(i=1〜n−2であり、ΔL(1)〜ΔL(n−1)が全て同一の値である場合を除く。)の関係が成立している。
具体的に、本実施の形態では、上述のLb(1)が接触部間距離Lb1に対応し、Lb(2)が接触部間距離Lb2に対応し、Lb(3)が接触部間距離Lb3に対応する。また、Lr(1)が接触部間距離Lr1に対応し、Lr(2)が接触部間距離Lr2に対応し、Lr(3)が接触部間距離Lb3に対応する。そして、ΔL(1)が、Lr1−Lb1に対応し、ΔL(2)が、Lr2−Lb2に対応し、ΔL(3)が、Lr3−Lb3に対応する。そして、ΔL(1)≧ΔL(2)≧ΔL(3)≧0(但し、ΔL(1)=ΔL(2)=ΔL(3)を除く。)の、関係が成立している。
このような本実施の形態では、振動応力の低い第2〜第4動翼側フック21b〜21d及び第2〜第4ロータ側フック31b〜31dの荷重分担率を上昇させ、第1動翼側フック21a及び第1ロータ側フック21aの荷重分担率をさらに低減させることが可能となる。そして、ΔL(1)≧ΔL(2)≧ΔL(3)の関係において、適宜数値を調整することにより、第1動翼側フック21a及び第1ロータ側フック21a以外のフックの組合せについての荷重分担率及び応力バランスを最適な値に調整することが可能となる。例えば、ΔL(1)>ΔL(2)>ΔL(3)である場合には、ロータ31の回転数上昇により第4動翼側フック21dから対応する第4ロータ側フック31dに接触を開始し、ロータ31の回転数上昇にともない、第3動翼側フック21c、第2動翼側フック21b、第1動翼側フック21aが内径側(半径方向の内側)から順に、対応するロータ側フックに接触する。これにより、振動応力の低い第2〜第4動翼側フック21b〜21d及び第2〜第4ロータ側フック31b〜31dの荷重分担率を上昇させ、第1動翼側フック21a及び第1ロータ側フック21aの荷重分担率をさらに低減させることが可能となる。また、内径側から順に接触が生じることにより、内径側のフックの組合せである程、荷重を大きく分担する傾向とすることで、第2〜第4動翼側フック21b〜21d及び第2〜第4ロータ側フック31b〜31dの荷重分担率のばらつきを効果的に抑制することができ、荷重分担率及び応力バランスの最適化によるタービン動翼の長期信頼性のさらなる向上が可能となる。
なお、第2の実施の形態におけるアウトサイド形の植込み部20Bを有する動翼10Bとロータ32との間においても、第4の実施の形態と同様の関係を成立させてもよい。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記の実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、上述の各実施の形態では、4段フック構造の逆クリスマスツリー形の植込み部及び3段フック構造のアウトサイド形の植込み部がロータに連結される例を説明したが、本発明は、このようなフックの段数に限定されるものではない。