JP2017035745A - 継目無鋼管の切削加工方法 - Google Patents

継目無鋼管の切削加工方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ねじ切削加工時の切削抵抗及び凝着を抑制しつつ、生産効率を改善できる継目無鋼管の切削加工方法を提供する。
【解決手段】本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法は、基材を準備する工程と、切削加工する工程とを備える。基材を準備する工程では、質量%で、Cr:16.0〜18.0%を含有し、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む組織を有する基材を準備する。切削加工する工程では、切削工具を用いて基材を切削加工する。切削工具と基材との接触面積(mm2)をSとした時に、0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度を150〜350m/分、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度を150〜300m/分、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度を150〜200m/分とする。
【選択図】図4

Description

本発明は、継目無鋼管の切削加工方法に関し、さらに詳しくは、継目無高合金鋼管のねじ切削加工方法に関する。
油井管として使用される継目無鋼管は、互いに連結されて、油井に使用される。そのため、継目無鋼管の両端には、雄ねじ又は雌ねじが形成される。各ねじの形成は、ねじ切削加工により行われる。ねじ切削加工は、高速回転旋盤装置を用いて行われる。ねじ切削加工は、被削材となる鋼管又は切削工具の一方を固定し、他方を高速回転することによって行う。具体的には、鋼管を管軸周りに高速回転させ、鋼管の表面に切削工具の刃先を押しつけて加工する。又は、鋼管本体を固定し、単体或いは複数個の切削工具の刃先を、鋼管表面に接触させた状態で、管軸周りに高速回転させて加工する。
継目無鋼管の硬度が高い場合、ねじ切削加工時の切削抵抗は大きくなり、切削工具にかかる負荷は大きくなる。切削速度を速くすれば、切削工具にかかる負荷がさらに大きくなる。切削工具にかかる負荷が大きすぎる場合、ねじ切削加工時の継目無鋼管のせん断応力が切削工具の刃先強度を上回り、切削工具が欠損する。したがって、ねじ切削加工の切削速度は、適切な範囲に設定される必要がある。
一方で、近年、石油並びに天然ガス掘削環境の深化に伴い、油井管には強度と耐食性のさらなる強化が求められている。鋼がCr、Ni等の合金元素を含有すれば、鋼の強度が高まる。そのため、油井管として使用される継目無鋼管の材料として、高Cr含有鋼及びニッケル合金等が用いられる。高Cr含有鋼はたとえば、13Cr鋼及び17Cr鋼である。13Cr鋼はCrを12〜14%含有するマルテンサイト系ステンレス鋼である。17Cr鋼はCrを16〜18%含有する二相系ステンレス鋼である。17Cr鋼はたとえば、特開2012−149317号公報(特許文献1)、特開2005−336595号公報(特許文献2)、特開2010−209402号公報(特許文献3)及び国際公開第2010/050519号公報(特許文献4)に記載されている。
Cr等の合金元素を含有する鋼の場合、強度及び硬度が高まり、切削加工が難しくなる。切削加工が難しい難削材に対してねじ切削加工する場合は、切削抵抗が増大しやすい。したがって、上述の問題が特に生じやすい。
切削速度を制御することにより、難削材に対してねじ切削加工する場合であっても、切削工具にかかる負荷を抑制できる。たとえば、Cr等の合金元素を含む継目無鋼管に対してねじ切削加工する場合、Cr等の合金元素の含有量が多い程、切削速度を遅くする。これにより、切削工具にかかる負荷を抑制できる。
難削材に対しても適切な切削条件でねじ切削加工する方法が、たとえば、特開2005−313306号公報(特許文献5)に提案されている。特許文献5に開示された鋼管のねじ切削方法では、ねじ切削加工するための複数の刃部が設けられたチェザーを用いて鋼管をねじ切削加工する。この鋼管のねじ切削加工方法は、刃部の平均切削面積をS(mm2)、仕上げ切削用刃部の幅をB(mm)、仕上げ切削用刃部の高さをH(mm)、切削速度をV(m/分)、被切削鋼管のCr含有量をC(%)とした場合、以下の式を満足する条件で切削することを特徴とする。
S≦5.68×10-1×B−6.76×10-2×H−1.12×10-5×V2−1.68×10-2×C−5.82×10-1
上述の式により切削条件を設定することで、Cr含有量9〜18%及びNi含有量0.5%以下の鋼(13Cr鋼)を切削する場合においても、チェザーの刃部の寿命を向上可能である、と特許文献5には記載されている。
特開2007−268656号公報(特許文献6)、特開2005−118925号公報(特許文献7)、特開2001−293601号公報(特許文献8)、特開2014−144533号公報(特許文献9)及び特開2005−281779号公報(特許文献10)は、難削材に対しても工具寿命を向上可能な切削工具を提案する。これらの文献には、難削材に対して切削加工を行う際の切削条件の具体例が記載されている。
特許文献6及び特許文献7には、ねじ切削加工における切削条件の具体例が記載されている。特許文献6には、5%Ni含有合金(S13Cr鋼)に対して切削速度90m/分でねじ切削加工することについて記載がある。特許文献7には、API規格L80グレードの鋼管に対して切削速度100m/分でねじ切削加工することについて記載がある。
特許文献8〜特許文献10には、ねじ切削加工以外の切削加工における切削条件の具体例が記載されている。ねじ切削加工以外の切削加工はたとえば、継目無鋼管の切断(特許第4385349号公報(特許文献11))である。特許文献8には、SCM435(クロムモリブデン鋼)に対して切削速度250m/分で切削加工することについて記載がある。特許文献9には、インコネル718に対して切削速度200m/分で切削加工することについて記載がある。特許文献10には、質量%で、C:0.46%、Si:0.27%、Mn:0.99%、P:0.018%、S:0.068%、Al:0.021%及びN:0.008%を含有し、残部はFe及び不純物からなる試供材に対して、切削速度200m/分で切削加工することについて記載がある。
特開2012−149317号公報 特開2005−336595号公報 特開2010−209402号公報 国際公開第2010/050519号公報 特開2005−313306号公報 特開2007−268656号公報 特開2005−118925号公報 特開2001−293601号公報 特開2014−144533号公報 特開2005−281779号公報 特許第4385349号公報
しかしながら、上述の特許文献に開示された方法及び切削条件を用いても、鋼種によっては、ねじ切削加工時の切削抵抗の増大、凝着の発生、あるいは、継目無鋼管の生産効率の低下が生じる場合がある。
本発明の目的は、ねじ切削加工時の切削抵抗及び凝着を抑制しつつ、生産効率を改善できる継目無鋼管の切削加工方法を提供することである。
本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法は、基材を準備する工程と、切削加工する工程とを備える。基材を準備する工程では、質量%で、Cr:16.0〜18.0%を含有し、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む組織を有する基材を準備する。切削加工する工程では、切削工具を用いて基材を切削加工する。切削加工する工程において、切削工具と基材との接触面積(mm2)をSとした時に、切削速度は次のとおりである。0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度は150〜350m/分、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度は150〜300m/分、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度は150〜200m/分。
本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法は、ねじ切削加工時の切削抵抗及び凝着を抑制しつつ、生産効率を改善できる。
図1は、切削加工工程の一例を示す図である。 図2は、切削工具の一例を示す図である。 図3は、切削工具の刃部の拡大図である。 図4は、切削速度と切削抵抗との関係を示す図である。 図5は、ねじ切削加工後の切削工具表面をSEM観察した図である。 図6は、切削速度と凝着量との関係を示す図である。
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
本発明者らは、継目無鋼管の切削条件について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
一般的に、Cr等の合金元素を含有する継目無鋼管は、合金元素の含有量が増えるにしたがい硬度が高まる。したがって、Cr等の合金元素の含有量が高い場合は、ねじ切削加工における切削速度を遅くして、切削工具にかかる負荷を抑制する必要がある。
しかしながら、17Cr鋼を用いた継目無鋼管(質量%で、Cr:16.0〜18.0%を含有し、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む組織を有する継目無鋼管)をねじ切削加工する場合、従来よりも速い切削速度でねじ切削加工した場合であっても、切削抵抗が低い。そのため、切削速度を速くした場合であっても切削工具にかかる負荷を抑制できる。切削速度を速くすれば、生産効率が改善される。
ねじ切削加工時、継目無鋼管と切削工具との摩擦により発熱が生じる。この摩擦熱により、継目無鋼管の表層及び切削工具の表層に、局所的な液層が形成され、潤滑性を有する被膜(構成刃先と称される)が形成される。
ねじ切削加工における切削速度が高速になるほど摩擦熱が高くなる。そのため、一般的には、切削速度が高速になるほど継目無鋼管の表層の液層量が増加する。切削速度が速すぎる場合、構成刃先に継目無鋼管の溶融によって発生する移着成分が過剰に供給される。その結果、凝着が発生する。凝着量が多すぎる場合、切削工具の設計寸法が狂い、継目無鋼管の被削面の表面粗さが大きくなる。したがって、切削速度を遅くして、凝着を抑制する必要がある。しかしながら、上述の17Cr鋼の場合、ねじ切削加工時の切削速度を速くすれば、凝着量が減少する。したがって、切削速度を速くすることで、凝着量を減少させる。
一般的に、ねじ切削加工は、複数の切削段階(切削パス)を含む。ねじ切削加工の初期段階では、粗加工と呼ばれるねじ切削加工がおこなわれる。粗加工は、素材の加工に際して削った後の寸法精度よりも、切削量を多くすることを目的としたねじ切削加工である。ねじ切削加工の最終段階では、仕上げ加工と呼ばれるねじ切削加工が行われる。仕上げ加工は、所望の品質に従った寸法精度及び継目無鋼管の被削面粗さが要求されるねじ切削加工である。ねじ切削加工は、必要に応じて、粗加工及び仕上げ加工の間に中間加工を含む。
ねじ切削加工の初期段階(粗加工)では、切削工具と継目無鋼管との接触面積が比較的大きい。接触面積が大きければ、切削抵抗が大きくなりやすい。反対に、ねじ切削加工の最終段階(仕上げ加工)では、切削工具と継目無鋼管との接触面積が比較的小さく、切削抵抗も小さい。切削速度は、切削工具と継目無鋼管との接触面積の大きさを考慮して適宜設定される必要がある。
以上の知見に基づいて完成した、本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法は、基材を準備する工程と、切削加工する工程とを備える。基材を準備する工程では、質量%で、Cr:16.0〜18.0%を含有し、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む組織を有する基材を準備する。切削加工する工程では、切削工具を用いて基材を切削加工する。切削加工する工程において、切削工具と基材との接触面積(mm2)をSとした時に、切削速度は次のとおりである。0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度は150〜350m/分、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度は150〜300m/分、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度は150〜200m/分。
本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法は、ねじ切削加工時の切削抵抗及び凝着を抑制しつつ、生産効率を改善できる。
以下、本実施形態の継目無鋼管の切削加工方法について詳述する。
[製造工程]
本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法は、基材を準備する工程と、切削加工する工程とを備える。
[準備工程]
準備工程では、基材を準備する。基材は、17Cr鋼である。以下に、17Cr鋼の化学組成及び組織の一例を説明する。
[基材]
基材である17Cr鋼は、クロム(Cr)を16.0〜18.0%含有し、そのミクロ組織は、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む。化学組成について「%」とは、「質量%」を意味する。
[基材の化学組成]
Cr:16.0〜18.0%
クロム(Cr)は、基材の焼入れ性を高め、基材の強度を高める。Crはさらに、基材の耐食性、特に耐SSC性を高める。Cr含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、基材の熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は16.0〜18.0%である。Cr含有量の好ましい下限は16.5%である。Cr含有量の好ましい上限は17.5%である。
17Cr鋼の化学組成は、Cr以外についてたとえば以下の元素を含有する。
C:0.03%以下
炭素(C)は、オーステナイト相を安定化させる。Cはさらに、固溶強化により基材の強度を高める。しかしながら、基材のC含有量が高すぎれば、炭化物が過剰に析出し、基材の耐食性が低下する。したがって、C含有量は0.03%以下であることが好ましい。脱炭コストを考慮すると好ましいC含有量の下限は0.001%である。より好ましいC含有量の上限は0.01%である。
Si:0.50%以下
シリコン(Si)は、基材を脱酸する。Siはさらに、基材の強度を高める。Si含有量が低すぎれば、この効果が得られないことがある。一方、Si含有量が高すぎれば、基材の耐SSC性及び熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は、0.50%以下であることが好ましい。好ましいSi含有量の下限は、0.05%である。
Mn:2.0%以下
マンガン(Mn)は基材を脱酸する。Mnはさらに、基材の強度を高める。しかしながら、Mn含量が高すぎれば、Mnは、燐(P)及び硫黄(S)等の不純物元素とともに、粒界に偏析する。この場合、基材の耐SSC性及び靱性が低下する。したがって、Mn含有量は、2.0%以下であることが好ましい。好ましいMn含有量の下限は、0.05%である。より好ましいMn含有量の上限は、0.50%である。
Cu:1.0〜3.5%
銅(Cu)は、基材の強度を高める。Cuはさらに、基材の耐SSC性を高める。Cu含有量が低ければ、これらの効果が得られないことがある。一方、Cu含有量が高すぎれば、基材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は1.0〜3.5%であることが好ましい。より好ましいCu含有量の下限は、2.0%である。より好ましいCu含有量の上限は、3.0%である。
Ni:2.5〜6.0%
ニッケル(Ni)は、基材の耐食性を高める。一方、Ni含有量が高すぎれば、生産コストが高くなる。したがって、Ni含有量は2.5〜6.0%であることが好ましい。より好ましいNi含有量の下限は、4.0%である。より好ましいNi含有量の上限は、5.5%である。
Mo:1.0〜3.5%
モリブデン(Mo)は、基材の強度及び耐食性を高める。Mo含有量が低すぎれば、これらの効果が得られないことがある。一方、Mo含有量が高すぎれば、基材の熱間加工性が低下する。Mo含有量が高すぎればさらに、不要なコスト上昇を招く。したがって、Mo含有量は1.0〜3.5%であることが好ましい。より好ましいMo含有量の下限は、2.0%である。より好ましいMo含有量の上限は、3.0%である。
17Cr鋼の化学組成の一例において、残部はFe及び不純物である。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、又は、製造過程の環境等から混入する元素をいう。17Cr鋼は、Feの一部に代えて、以下の選択元素を含有してもよい。
V:0〜0.1%
バナジウム(V)は、選択元素である。Vは炭素及び窒素と結合して炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成する。これらの炭化物、窒化物及び炭窒化物は、基材を析出強化する。Vはさらに、基材の耐SSC性を高める。しかしながら、V含有量が高すぎれば、基材の靱性が低下する。したがって、V含有量は0〜0.1%であることが好ましい。含有する場合の好ましいV含有量の下限は、0.005%である。
W:0〜3.0%
タングステン(W)は選択元素である。Wは、高温環境における耐SCC性を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、Wの含有量が3.0%を超えるとフェライト分率が過剰になりやすく、高い強度が得られないおそれがある。したがって、W含有量は0〜3.0%であることが好ましい。含有する場合の好ましいW含有量の下限は、0.05%である。より好ましいW含有量の上限は、2.0%である。
[基材の組織]
基材である17Cr鋼は、上述の通り、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む組織を有する。基材は、体積%で、フェライト相が10〜15%、残留オーステナイト相が15%以下、残部がマルテンサイト相であることが好ましい。上述の組織を有する場合、基材の降伏強度が高まる。
[基材の製造方法]
上述の化学組成を有する基材を周知の方法で製造する。基材は、継目無鋼管である。基材の製造方法は特に限定されない。たとえば、上述の化学組成を有する溶湯を製造する。続いて、連続鋳造により鋳片(ブルーム)を製造し、得られた鋳片を分塊圧延してビレットにする。ビレットに対して、マンネスマン−マンドレルミル法を用いて穿孔圧延及び延伸圧延する。溶湯を製造した後、造塊法によりインゴットを製造してもよい。マンネスマン−マンドレルミル法に代えて、熱間押出し法により基材を製造してもよい。
得られた基材に対して、周知の熱処理を実施する。熱処理はたとえば、焼入れ及び焼戻しを含む。焼入れは、たとえば、850℃〜1050℃に加熱した後、水冷する。焼入れ後の焼戻しは、たとえば、510℃〜650℃の焼戻し温度で行う。以上の工程により、基材を製造できる。
[切削加工工程]
切削加工工程では、上述の製造方法により得られた基材に対して、切削工具を用いてねじ切削加工を実施する。ねじ切削加工は、コンピュータで切削速度、切込量及び送り量等が制御できるCNC旋盤装置を用いて行うことができる。図1は、切削加工工程の一例を示す図である。図1を参照して、基材1は、基材1の軸周り方向Xに回転する。切削工具2は固定され、基材1の表面に押し当てられる。基材1を回転させながら、切削工具2を基材1の軸方向Yに進めることによってねじ切削加工を行う。ねじ切削加工は、基材1を固定し、切削工具2を回転させることによっても実施できる。切削加工工程は、1回で完了してもよいし、複数の段階(切削パス)を含んでもよい。複数の段階(切削パス)を含む場合、切削加工工程は、初期段階(粗加工)及び最終段階(仕上げ加工)を含む。必要に応じて、切削加工工程は、中間段階(中間加工)を含む。
[切削工具2]
切削工具2の一例を図2に示す。図2を参照して、切削工具2は、複数の刃部3を有するねじ切削用チェザーである。切削工具2は、超硬合金を含む。超硬合金は、タングステンカーバイド(WC)を主成分とし、焼結助剤としてコバルト(Co)を含有する。超硬合金はWC、Coの他に、チタンカーバイド(TiC)及びタンタルカーバイド(TaC)等を含有してもよい。切削工具2の最表層には、硬質保護膜が形成される。硬質保護膜は、チタン(Ti)の窒化物を含む。硬質保護膜の厚さは、最大5μmである。
[接触面積]
切削工具2と基材1との接触面積をS(mm2)とする。図3は、切削工具2の刃部3の拡大図である。図3を参照して、接触面積Sは、切削工具2のねじ山の形状及び切込量(すくい面が基材1にくいこむ深さ)から求めた、切削工具2と基材1が接する総面積である。すなわち、すくい面4、逃げ面5、側面6及び側面7において、切削工具2と基材1とが接触する面積の合計を接触面積Sとする。
切削加工工程が初期段階から最終段階に進むにしたがって、接触面積Sを適切に変化させることが好ましい。初期段階(粗加工)では、切削量を多くするため、接触面積Sを大きくすることが好ましい。最終段階(仕上げ加工)では、寸法精度を上げ、被削面の表面粗さを小さくするため、接触面積Sを小さくすることが好ましい。初期段階における接触面積Sはたとえば、4.0<S≦6.0mm2である。最終段階における接触面積Sはたとえば、0.2≦S≦2.0mm2である。切削加工工程が中間段階を含む場合、中間段階における接触面積Sはたとえば、2.0<S≦4.0mm2である。上述の接触面積Sは切削加工工程が進むにしたがって、順次小さくすることが好ましい。しかしながら、各切削加工工程における接触面積Sは特定の値に限定されず、必要とするねじの寸法精度によって適宜選択することができる。
[切削速度]
切削速度は、接触面積Sに応じて適切な値に設定される。接触面積Sが0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度は150〜350m/分、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度は150〜300m/分、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度は150〜200m/分である。本発明が対象とする基材1は、切削速度を速くしても、切削抵抗が小さく、凝着が少ない。そのため、切削速度を速くすることで、切削抵抗及び凝着を抑制しつつ、生産効率を改善できる。
切削速度が150m/分未満の場合、生産効率を改善できない。反対に、切削速度が上述の範囲よりも速い場合は切削抵抗が高くなり過ぎる。具体的には、接触面積Sが0.2≦S≦2.0mm2の場合に切削速度が350m/分よりも速い場合、2.0<S≦4.0mm2の場合に切削速度が300m/分よりも速い場合、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合に切削速度が200m/分よりも速い場合である。この場合、切削抵抗が高くなり過ぎる。そのため、ねじ切削加工時の基材1のせん断応力が、切削工具2の刃先強度を上回る場合がある。この場合、切削工具2の刃先欠損が生じる。
切削速度を速くすることで、生産効率を高めることができる。したがって、生産効率を重視する場合には、0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度は250〜350m/分、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度は200〜300m/分、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度は180〜200m/分であることが好ましい。
[切削抵抗]
切削工具2の刃先へ付加されるせん断応力が切削抵抗である。図1を参照して、基材1の回転方向の分力を主分力Fc、切削工具2の送り方向の分力を送分力Ft、切削工具2を押し付ける基材1被削面の法線方向の分力を背分力Fnとする。切削抵抗Rは、式(1)で表される、これら3方向の分力のベクトル総和である。
2=Fc2+Fn2+Ft2 (1)
切削抵抗Rが低い程、基材1は切削されやすい。反対に、切削抵抗Rが高い程、基材1は切削され難い。本実施形態による継目無鋼管の切削加工方法では、ねじ切削加工における切削速度を速くした場合であっても、切削抵抗Rが低い。
[その他の切削条件の設定]
ねじ切削加工は、通常、複数回の切削パス(粗加工〜(中間加工)〜仕上げ加工)によって行われる。切削パス数、それぞれの切削パスにおける切込量及び回転数の設定はコンピュータプログラムへの入力で行われる。コンピュータ制御器には、たとえば、ファナック社製制御器(型番;FANUC Series Oi−TC)などが使用される。
切込量は粗加工から仕上げ加工にかけて、段階的に減少させるのが一般的である。切込量は、たとえば、粗加工の際には0.5mm〜1.0mmで設定され、仕上げ加工の際には0.2mm以下で設定され、中間加工の際には、0.2mm〜0.5mmで設定される。切込量によって、接触面積が決定される。
回転数とは、基材1または切削工具2の回転速度(rpm)のことをいう。回転数は、切削速度と基材1の外径から求まる。換言すれば、切削速度は、回転数と基材1の外径とから算出できる。回転数(又は切削速度)は、切込量(又は接触面積)に応じて粗切削から仕上げ加工にかけて段階的に変更することができる。すなわち、粗加工から仕上げ加工にかけた切込量減少(すなわち、接触面積の減少)に従って、回転数を上げる(すなわち、切削速度を上げる)ことができる。
回転数(又は切削速度)は、設定の容易さから、粗加工から仕上げ加工まで全ての切削パスまたは全切削パスのうちの複数の切削パスで同一とすることもできる。切削速度が同一の場合、切削抵抗は切削面積が大きいほど大きくなる。従って、回転数を複数の切削パスで同一とする場合の回転数は、それら複数の切削パスのうち、切込量がもっとも大きい(接触面積がもっとも大きい)切削パスにおける接触面積に応じて設定する。例えば、全切削パスで回転数を同一にする場合は、粗加工時がもっとも切込量が大きく、接触面積が大きい。従って、粗加工時の接触面積に応じて切削速度を設定し、切削速度と基材1の外径とから回転数を設定する。このように、複数の切削パスで回転数(又は切削速度)を変えない場合の回転数(又は切削速度)は、それら複数の切削パスのうちもっとも接触面積が大きい切削パスにおける適切な回転数(又は切削速度)に設定する必要がある。すなわち、回転数(又は切削速度)を同一とする複数の切削パスのうち、もっとも接触面積が大きい切削パスにおける接触面積が0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度は150〜350m/分(好ましくは、250〜350m/分)、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度は150〜300m/分(好ましくは200〜300m/分)、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度は150〜200m/分(好ましくは180〜200m/分)に設定し、回転速度はその切削速度と被切削材(基材1)の外径とから算出する。
基材1回転あたりに切削工具2が進む距離を送り量という。送り量は目的とするねじの形状に応じて適宜設定される。油井管として使用される鋼管の端部に設けられるねじの一般的な形状は決まっており、この場合の送り量は3.1〜6.5mm/回転の範囲となる。送り量がこの範囲の場合に、本発明で規定する切削速度が適用できる。
[準備工程]
2種類の基材を準備した。始めに、表1に示す化学組成を有する2種類の溶湯を製造した。それぞれの溶湯から、連続鋳造によりブルームを製造し、得られたブルームを分塊圧延してビレットを製造した。ビレットに対して、マンネスマン−マンドレルミル法を用いて穿孔圧延及び延伸圧延を実施した。得られた基材に対して焼入れ及び焼戻しを実施し、基材A(17Cr鋼)及び基材B(13Cr鋼)を得た。
[ビッカース硬さ測定試験]
基材A及び基材Bのビッカース硬さを、JIS Z2244(2009)に基づいて実施した。試験荷重は2.94N(0.3kgf)とした。基材Aのビッカース硬さは345Hv0.3以上であった。基材Bのビッカース硬さは239Hv0.3以上であった。
[切削加工工程]
得られた基材A及び基材Bに対して、被削鋼材回転式の旋盤装置を用いてねじ切削加工を施した。被削鋼材回転式の旋盤装置は、CNC旋盤装置であった。具体的には、基材を主軸台に固定し、切削工具を切削ホルダーと呼ばれる治具に装着した。切削工具は、WC及びCoからなる超硬合金の最表層に、Ti窒化物を含む硬質保護層を備えた切削工具であった。
[切削抵抗測定試験]
各接触面積における切削抵抗を測定した。上述の切削ホルダーを、CNC旋盤装置の動力計(機械歪みゲージ)に装着し、CNC旋盤装置を用いて表2に示す条件でねじ切削加工を実施した。このとき、送り量は6.0mm/回転であった。動力計を用いて機械歪みを測定した。機械歪みを動力計毎の補正値で圧電信号に置換し、主分力Fc(工具すくい面方向の分力)、送り分力Ft(工具送り方向の分力)、及び、背分力Fn(工具押し込み方向の分力)として計測した。得られた主分力Fc、送り分力Ft、及び、背分力Fnのベクトル和(合力)を上述の式(1)により算出し、切削抵抗とした。結果を表2及び図4に示す。図4は、接触面積が2.0mm2の場合の、切削速度と切削抵抗との関係を示す図である。鋼種Bに対しては、切削速度が300m/分以上では動力計の測定限界を超えたため、試験を中断した。
[凝着量測定試験]
ねじ切削加工における、切削速度と凝着量との関係を調べた。具体的には、基材Aを用いて、粗加工、中間加工及び仕上げ加工を含むねじ切削加工を実施した。切削条件は以下の通りとした。粗加工:接触面積6.0mm2、中間加工:接触面積4.0mm2、仕上げ加工:接触面積2.0mm2。切削速度は、粗加工〜仕上げ加工まで通して同一の速度とし、表3に示す通りに設定してねじ切削加工を実施した。次に、ねじ切削加工後の切削工具の刃先部をSEM−EDSを用いて解析した。図5は、ねじ切削加工後の切削工具表面をSEM観察した図である。図5を参照して、切削工具の刃先部10に対して、EDSを用いて解析を行った。具体的には、エネルギー分散形X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM−7100型FESEM)を用いて測定した。任意の5箇所を走査型電子顕微鏡にて観察し、組成を分析した。測定倍率1,000倍で、加速電圧;15kV、照射電流;最大200nAの電子ビームを照射し、kα線のX線強度を測定した。各元素のX線強度をもとに、それぞれの金属元素の含有量(質量%)を算出し、測定値とした。接触面積1mm2当たりのFe、Cr及びTiの質量%を5箇所測定の平均値で算出した。結果を表3及び図6に示す。
[評価結果]
基材Aを用いて、接触面積Sが2.0mm2の場合、切削速度150〜350m/分、4.0mm2の場合、切削速度150〜300m/分、及び、6.0mm2の場合、切削速度150〜200m/分、としてねじ切削加工した場合、切削抵抗(N)の値は2000N以下となった。切削抵抗は接触面積が大きいほど大きいので、基材Aを用いて、適切な切削速度でねじ切削加工を実施すると、具体的には、接触面積Sが0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度150〜350m/分、2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度150〜300m/分、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度150〜200m/分、としてねじ切削加工すると、切削抵抗(N)の値は2000N以下となる。基材Aは基材Bよりもビッカース硬さが高かった。それにも関わらず、いずれの切削速度においても、基材Aの方が基材Bよりも切削抵抗が低かった。
表3及び図6を参照して、基材Aを用いてねじ切削加工を実施した場合、切削速度が速くなるにしたがって、基材から切削工具に移着するFe量及びCr量の割合が減少した。一方で、切削工具表面の保護被膜の成分である、Ti量の割合は増加した。したがって、切削速度が速くなるにしたがって、凝着量が抑制された。
一方、基材Aを用いたねじ切削加工の切削速度が適切でない場合、具体的には、接触面積Sが0.2≦S≦2.0mm2の場合に、切削速度を350m/分より速くした場合、2.0<S≦4.0mm2の場合に、切削速度を300m/分より速くした場合、及び、4.0<S≦6.0mm2の場合に、切削速度を200m/分より速くすると、切削抵抗(N)の値は2000Nを超える。
基材BのCr含有量は13%であり、基材Aよりも低いにもかかわらず、基材Bを用いてねじ切削加工した場合、接触面積Sが2.0mm2であっても、200m/分以上の切削速度では、切削抵抗が2000Nを超えた。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
1 基材
2 切削工具

Claims (1)

  1. 継目無鋼管の切削加工方法であって、
    質量%で、Cr:16.0〜18.0%を含有し、フェライト相、マルテンサイト相及び残留オーステナイト相を含む組織を有する基材を準備する工程と、
    切削工具を用いて前記基材を切削加工する工程とを備え、
    前記切削加工する工程において、前記切削工具と前記基材との接触面積(mm2)をSとした時に、切削速度は次のとおりとする、継目無鋼管の切削加工方法。
    0.2≦S≦2.0mm2の場合、切削速度は150〜350m/分、
    2.0<S≦4.0mm2の場合、切削速度は150〜300m/分、及び、
    4.0<S≦6.0mm2の場合、切削速度は150〜200m/分。
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