JP2017020911A - 鉄道レールの削正管理方法及び削正管理装置 - Google Patents
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Abstract
Description
この「レールシェリング対策」では、レールに発生する疲労損傷のうち、代表的な転がり接触疲労損傷の1つであるレールシェリングに関し、車輪の転動荷重により生じるレールの塑性変形の状態をミクロ単位で観察し、その観察結果から、該レールの表層に白色層と呼ばれる熱変態組織が形成されたか否かを判定する。そして、この判定結果に基づき、白色層を除去する削正作業を実施して、レールの亀裂発生を防止するための保守管理を行うものである。
また、室内試験で、新品レールを敷設した場合を想定して、一定の削正基準は提案されているが、すでに形成された転がり疲労層を有する経年レールに対する削正基準は提案されていない。
本発明は、レールの経年変化と該経年変化に伴う微小亀裂との関係を示す基準トレンドモデルを予め設定する基準データ設定工程と、所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた指標となるパラメータと、前記基準データ設定工程で予め設定した基準トレンドモデルとから、該被測定レール片の削正時期を判定する削正判定工程とを有し、前記基準データ設定工程では、転がり疲労試験機により基準レール試験片に転がり疲労を進展させて微小亀裂を発生させる疲労層形成工程と、該疲労層形成工程を経た基準レール試験片に形成された転がり疲労層表面に対して、X線フーリエ解析を適用して、微小亀裂発生時期との関係性とともに、定量的な指標である転位密度と結晶子サイズとの相関性を示す基準トレンドモデルを決定する定量モデル決定工程と、を有し、また、前記削正判定工程では、現場からサンプリングした被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより、指標となる転位密度と結晶子サイズとを測定するパラメータ測定工程と、前記定量モデル決定工程で予め決定した基準トレンドモデルと、前記測定工程で測定した指標となるパラメータとから、該被測定レールの削正時期を決定する削正要素決定工程と、を有することを特徴とする。
すなわち、本発明では、削正判定工程にて、所定期間使用された後の被測定レール片に関し、車輪の転動荷重によりレール表面に生じる疲労層を定量的に評価することができ、これによってレールの亀裂発生予測を正確に行ない軌道保守の効率化が可能となる。
図1は、本発明に係る鉄道レールの削正管理方法を構成する工程を示す図であって、レールの経年変化と該経年変化に伴う損傷深さとの関係を示す基準トレンドモデルを予め設定する「基準データ設定工程」と、所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた指標となるパラメータと、前記基準データ設定工程で予め設定した基準トレンドモデルとから、該被測定レール片の削正時期及び削正量(削正深さ)を判定する「削正判定工程」とからなる。
具体的には、「基準データ設定工程」は、図1の工程図に示されるように、転がり疲労試験機にて(新品の)基準レール試験片の表面に、接線力を作用させずに転がり疲労のみを蓄積させる疲労形成工程(ステップ1)と、接線力を作用させることにより、該基準レール試験片に転がり疲労を進展させて微小亀裂を発生させる疲労層形成工程(ステップ2)と、該疲労層形成工程を経た基準レール試験片に形成された転がり疲労層表面に対して、X線フーリエ解析を適用して、微小亀裂発生時期との関係性を検討することにより、定量的な指標である転位密度と結晶子サイズとの相関性を示す基準トレンドモデルを決定する定量モデル決定工程(ステップ3)と、からなる。
まず、レールは車輪との繰り返し接触による転がり疲労の影響を受ける。この転がり疲労による材料劣化が進むと、シェリング、きしみ割れ、ゲージコーナ亀裂やはく離等の損傷を引き起こし、場合によってはレール折損に発展する。
レール折損の危険性を減らすことは車両の安定的な運用だけでなく、効率的なレール使用にも貢献すると考えられる。そのため、レール削正車が導入され、レール表層に形成された転がり疲労層を人工的に除去し、レール損傷の抑制に大きな寄与を果たしてきた。しかし、レール削正作業を効率的に実施するためには、削正間隔、削正量及び削正時期、削正延長や運用可能なレール削正車の数等を考慮する必要がある。特に、すでに敷設されている未削正のレールを削正する場合、すでに内在する転がり疲労層の状態を考慮しなければ、実用的にレール損傷を抑制することは困難になる。
なお、この2円筒転がり試験機では、ロータとの接触面圧、すべり率、総回転数、回転速度等を種々設定した上で、基準レール試験片表面に接線力を作用させることにより、該レール表面に転がり疲労を大きく進展させて、微小亀裂を発生させる疲労層形成工程を実施する。
また、この転がり疲労試験機では、(新品の)基準レール試験片の表面に、接線力を作用させずに転がり疲労のみを蓄積させる第1の疲労形成工程(前述のステップ1に相当)と、接線力を作用させることにより、該基準レール試験片に転がり疲労を進展させて微小亀裂を発生させる第2の疲労層形成工程(前述のステップ2に相当)を実施する。
また、本例では、以下の表1に示される2円筒転がり試験条件で、未使用の基準レール試験片に対して転がり疲労を実施した。
初期のレール鋼の金属組織は主にパーライト組織を有する結晶粒の集合体として構成されている。これが転がり疲労を受けると初期の結晶粒中や結晶粒界(図3(a)の実線部)に塑性ひずみ(転位)が蓄積される(図3(b)の点線部)。
これが継続されると蓄積した転位は新たな結晶粒界(図3(c)の実線部)を形成し、金属組織が微細化しながら変化していく。最終的に転がり疲労を受けた金属組織には、転がり疲労の履歴に対応した微細化、金属組織フロー等が形成される(図3(d))。
次に、疲労発生処理(ステップ1)を経て基準レール試験片に形成された転がり疲労層表面に対して、X線フーリエ解析を適用して、微小亀裂発生時期及び転がり疲労深さ(削正するための深さ)との関係性を検討する。
X線フーリエ解析による定量評価は、X線回折測定から得られた回折情報をもとに以下のように行った。まず、数式(1)に示す理論式から結晶子サイズの初期値α0を得る。
数式(6)において、フーリエ長さを変化させて最小二乗によるフィッティングを行い、右辺第二項を求め、第二項中のln(L)に対する傾きを求めることで、実験的に転位密度ρを見積もることが可能となる。
そして、本研究では数式(2)および(6)のX線結晶粒径となる結晶子サイズαと転位密度ρを求めることが可能となるものである。
そして、図4を参照して分かるように、2円筒転がり試験での総回転数が多いほど、レール試験片は転がり疲労を受け、該レール試験片の金属組織に転がり疲労の履歴に対応した微細化が生じることが確認された。また、この微細化は、3段階で示した接触面圧後のグラフを見て分かるように、接触面圧が大きいほどその傾向が顕著であることが確認された。
図5に種々の2円筒転がり試験条件で試験されたレール試験片に形成された転がり疲労層最表面でのX線フーリエ解析結果(転位密度と結晶子サイズ)とSEM観察で確認された微小亀裂発生との関係性を示す。
転がり疲労による材料劣化が進むと塑性ひずみの影響で転位密度が増加し、結晶子サイズが減少する。図3に示すようにX軸に転位密度の平方根をプロットした場合、結晶子サイズとはほぼ反比例の関係にあることがわかった。また、図中で中実のシンボル(図5に■、●、▲で示される記号)はSEM観察で微小亀裂が確認されなかったことを示し、中抜きのシンボル(図5に□、◇、▽で示される記号)はSEM観察で微小亀裂が確認されたことを示している。
図に示すように、転がり疲労が進むと転がり疲労層内に微小亀裂が発生していた。今後、敷設レールの評価等を通して、詳細を検討する必要はあるが、今回試験した範囲において、転位密度1015 1/M2(≒3.16×107 1/M)付近で、転がり疲労層内に微小亀裂が発生する可能性があることがわかった。
このようにX線フーリエ解析を適用することで、微小亀裂発生に至る転がり疲労の状態を定量的に把握できるものである。なお、図5において、微小亀裂発生時期を符号mで表現する。
図6は、X線フーリエ解析結果で示された転位密度及び結晶子サイズと、SEM観察で確認された微小亀裂発生との関係を1つのグラフにしたものである。
そして、後述する「削正判定工程」において、所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた指標(転位密度と結晶子サイズ)から、該被測定レールの転がり疲労層の大きさ(表面からの深さ)を求め、その大きさから該転がり疲労層の大きさが属する領域(I〜III)が決定される。そして、これら領域のいずれかに属するかにより、該被測定レールの削正処理を行うか否かが判別される。
すなわち、表1のレール試験条件から導き出せる累積通トン及び接触回数と、X線フーリエ解析結果で示された転位密度と、SEM観察で確認された微小亀裂発生との関係を、図7に示すような最大削正時期(基準トレンドモデル)を示すグラフにしておく。
そして、図7のグラフを利用して、所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた指標(転位密度)から、微小亀裂が生じる予測点P1、P2を求め、その予測点P1、P2から、使用に供することができる最大削正時期(符号Y1、Y2)を求めることが可能となる(以下の「削正判定工程」参照)。
なお、図7において、図7(a)はこれから使用に供する新品レール、図7(b)は所定期間使用して疲労層を有している損傷レールである。
ステップ1〜3で示される「基準データ設定工程」で、転位密度及び結晶子サイズと、SEM観察で確認された微小亀裂発生との関係を示す基準トレンドモデル(図6参照)、最大削正時期を示す基準トレンドモデル(図7参照)を決定したならば、以下のステップ4〜5にて、先の基準トレンドモデルを利用した被測定レールの削正深さ及び最大削正時期を求める処理を行う。
なお、これら転位密度と結晶子サイズは、上述した数式(1)〜(6)に基づき算出されるものである。
上記パラメータ測定工程(ステップ4)で求めた転位密度及び結晶子サイズと、基準トレンドモデル(図6、図7)とから、所定期間使用された被測定レール片の疲労層に形成された削正時期及び削正深さを求める(ステップ5)。
そして、これら領域のいずれに属するかにより、領域(I〜III)に応じた被測定レールの削正処理を行うか否かを判別する。
すなわち、実施形態に示される経年鉄道レールの削正管理方法では、削正判定工程にて、所定期間使用された後の被測定レール片に関し、車輪の転動荷重によりレール表面に生じる疲労層を定量的に評価することができ、これによってレールの亀裂発生予測を正確に行なうことができ保守の効率化が可能となる。
この削正管理装置100は、図8に示されるようにレール試験片のX線フーリエ解析を行うことが可能なX線装置10と、X線フーリエ解析で得られた検出データに基づき基準トレンドモデルを作成しかつ該基準トレンドモデルを記憶するデータ処理装置11と、該データ処理装置11で得た処理結果を表示する表示装置12と、を有している。
11 データ処理装置
12 表示装置
100 削正管理装置
Claims (9)
- レールの経年変化と該経年変化に伴う微小亀裂との関係を示す基準トレンドモデルを予め設定する基準データ設定工程と、
所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた指標となるパラメータと、前記基準データ設定工程で予め設定した基準トレンドモデルとから、該被測定レール片の削正時期を判定する削正判定工程とを有し、
前記基準データ設定工程は、
転がり疲労試験機により基準レール試験片に転がり疲労を進展させて微小亀裂を発生させる疲労層形成工程と、
該疲労層形成工程を経た基準レール試験片に形成された転がり疲労層表面に対して、X線フーリエ解析を適用して、微小亀裂発生時期との関係性とともに、定量的な指標である転位密度と結晶子サイズとの相関性を示す基準トレンドモデルを決定する定量モデル決定工程と、を有し、
前記削正判定工程は、
現場からサンプリングした被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより、指標となる転位密度と結晶子サイズとを測定するパラメータ測定工程と、
前記定量モデル決定工程で予め決定した基準トレンドモデルと、前記測定工程で測定した指標となるパラメータとから、該被測定レールの削正時期を決定する削正要素決定工程と、を有することを特徴とする鉄道レールの削正管理方法。 - 前記基準データ設定工程では、転位密度と累積通トン及び接触回数とに応じて最大削正時期を決定するための基準トレンドモデルが設定され、
前記削正判定工程では、所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた転位密度及び結晶子サイズと、前記基準データ設定工程で予め設定した基準トレンドモデルとから、該被測定レール片の削正深さを判定することを特徴とする請求項1に記載の鉄道レールの削正管理方法。 - 被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた転位密度と結晶子サイズとの各々の変化の組み合わせから、転がり疲労層の深さを推定することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の鉄道レールの削正管理方法。
- 転位密度と結晶子サイズとがいずれも所定以上変化する第一の領域、転位密度がほぼ一定で結晶子サイズが所定値より小さくなる第二の領域、および、転位密度がほぼ一定で結晶子サイズが母材の結晶子サイズに近くなる第三の領域のいずれに属するかによって前記被測定レール片の削正深さを判定することを特徴とする請求項3に記載の鉄道レールの削正管理方法。
- 前記疲労層形成工程にて、ロータとの接触面圧、すべり率、総回転数、回転速度等を種々設定した上で転がり疲労試験を実施し、その試験後に走査型電子顕微鏡(SEM)にて基準レール試験片の表面を観察することにより、前記定量モデル決定工程で示される微小亀裂発生時期を検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄道レールの削正管理方法。
- 前記基準データ設定工程では、転がり疲労試験を経た基準レール試験片の表面をX線フーリエ解析することにより、基準レール試験片の転位密度の平方根と結晶子サイズは反比例の関係にある基準トレンドモデルが示されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄道レールの削正管理方法。
- 前記基準データ設定工程では、転がり疲労試験を経た基準レール試験片の表面をX線フーリエ解析することにより転位密度1015 1/M2(≒3.16×107 1/M)付近で、転がり疲労層内に微小亀裂が発生することが示されることを特徴とする請求項6に記載の鉄道レールの削正管理方法。
- 前記転がり疲労試験は2円筒転がり試験機のロータの接触面に前記基準レール試験片を設置することにより行われる請求項1〜7のいずれか1項に記載の鉄道レールの削正管理方法。
- 試験片のX線フーリエ解析を行うX線装置と、X線フーリエ解析で得られた検出データに基づき作成された基準トレンドモデルを記憶するデータ処理装置とを有する鉄道レールの削正管理装置であって、
前記データ処理装置では、
レールの経年変化と該経年変化に伴う微小亀裂との関係を示す基準トレンドモデルを予め設定する基準データ設定処理と、
所定期間使用された後の被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより得られた指標となるパラメータと、前記基準データ設定処理で予め設定した基準トレンドモデルとから、該被測定レール片の削正時期を判定する削正判定処理とを有し、
前記基準データ設定処理は、
転がり疲労試験機により基準レール試験片に転がり疲労を進展させて微小亀裂を発生させる疲労層形成処理と、
該疲労層形成処理を経た基準レール試験片に形成された転がり疲労層表面に対して、X線フーリエ解析を適用して、微小亀裂発生時期との関係性とともに、定量的な指標である転位密度と結晶子サイズとの相関性を示す基準トレンドモデルを決定する定量モデル決定処理と、を実施し、
前記削正判定処理は、
現場からサンプリングした被測定レール片にX線フーリエ解析を適用することにより、指標となる転位密度と結晶子サイズとを測定するパラメータ測定処理と、
前記定量モデル決定処理で予め決定した基準トレンドモデルと、前記測定処理で測定した指標となるパラメータとから、該被測定レール片の疲労層に形成された微小亀裂の深さを求めて該被測定レールの削正時期を決定する削正要素決定処理と、を有することを特徴とする鉄道レールの削正管理装置。
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