JP2017018026A - 多能性幹細胞の遺伝子ターゲティング方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】多能性幹細胞の高効率遺伝子ターゲティング方法、並びに多能性幹細胞の遺伝子ターゲティング方法を用いたゲノム編集方法の提供。【解決手段】バルプロ酸又はその誘導体で多能性幹細胞を処理する工程、多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子発現用プラスミドを導入する工程、遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程、更に、多能性幹細胞にゲノム編集用ヌクレアーゼ発現用プラスミドを導入する工程、多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子を過剰発現させる工程を含む方法。【効果】前記遺伝子ターゲッティング方法は、転写活性が低い遺伝子であっても、多能性幹細胞に内在する遺伝子座をターゲッティングができ、効果的に遺伝子改変でき、特に、両アリルの遺伝子がターゲッティングされた多能性幹細胞を見出すためのクローン解析数を軽減化し、効果的に目的の株を取得可能となる。【選択図】図4

Description

本発明は、多能性幹細胞の高効率遺伝子ターゲティング方法に関する。更には、多能性幹細胞の遺伝子ターゲティング方法を用いたゲノム編集方法に関する。
多能性幹細胞とは、多分化能と自己複製能を有する未分化細胞である。このため、多能性幹細胞は、各種疾患の治療用物質のスクリーニング、再生医療分野において有用であるとして、さかんに研究されている。多能性幹細胞のうち、iPS細胞は、線維芽細胞などの体細胞に、特定の転写因子、例えばOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYC等の遺伝子を導入することにより、体細胞を脱分化して作製された人工多能性幹細胞である。分化多能性を持った細胞は理論上、各種組織や臓器に分化誘導することが可能である。遺伝子機能を調べるための一般的方法として、目的の遺伝子を破壊した細胞を作製し、その影響を調べる方法が、様々な生物種において、多くの研究者に用いられている。しかし、各遺伝子は、細胞あたり2コピーずつ存在するため、遺伝子機能を解析するためには、両方のコピーを破壊する必要があり、研究遂行上の律速段階となっている。
ゲノム編集(Genome Editing)によれば、人工ヌクレアーゼであるジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nuclease:ZFN)や転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(Transcription Activator-Like Effector Nucleases:TALEN)、CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats / CRISPR associated proteins 9)等のシステムを用いて目的ゲノム領域のヌクレオチドを特異的に変更すること(削除、置換、挿入)ができる。ゲノム編集は動物や植物、多能性幹細胞を含む培養細胞等において利用可能であることから、次世代の遺伝子改変技術として注目されている(Gupta et al. J Clin Invest, 2014; Kim et al, Nat Rev Genet, 2014)。切断されたDNAは、相同組換えあるいは非相同末端連結により修復されるが、このときに目的の遺伝子を改変することが可能となる。
ゲノム編集は、ゲノム領域の特定部位、例えば特定の遺伝子座において二本鎖切断(double-strand break:DSB)し、目的のゲノム領域と相同なDNA配列を単離後、改変を加えて細胞へ導入し、ゲノム配列と外来性相同配列との間で生じる組換えを利用してゲノムを改変する方法をいう。ゲノム編集には、内在性のゲノム領域の改変に相同組換え技術を用いる遺伝子工学的手法である遺伝子ターゲッティングの手法が用いられる。この方法によれば遺伝子の削除、エクソンの除去、遺伝子の導入、点変異の導入などを行うことができる。遺伝子ターゲティングの効果には恒久的なものと、限定的なものとがあり得る。限定的な作用として、標的となる生物の特定の成長段階や生涯の中の特定時期、また特定の組織における効果などが挙げられる。遺伝子ターゲティングでは対象となるゲノム領域に応じて個別にベクターを作製する必要がある一方で、どんな遺伝子座にも応用可能である。
現行のゲノム編集における遺伝子ターゲッティングの技術では、ヒト多能性幹細胞において片アリルの遺伝子ターゲッティングは比較的高効率に実施できるが、両アリルの遺伝子ターゲッティングは極めて効率が低いため容易に実施できない。実際、ヒトES/iPS細胞において、転写活性が低い(ヘテロクロマチン領域に存在する)遺伝子の両アリルの遺伝子ターゲティング効率は約1%以下であると報告されている(非特許文献1:Hockemeyer et al., Nat Biotechnol., 2009; 非特許文献2:Hockemeyer et al., Nat Biotechnol., 2011; 非特許文献3:Yu et al., Cell Stem Cell, 2015)。多能性幹細胞におけるゲノム編集研究を加速させるためには、両アリルの遺伝子ターゲティング効率を向上させることが必須である。
正常細胞や腫瘍細胞におけるRad51遺伝子過剰発現による相同組換え(homologous recombination: HR)の効率向上効果は公知である(非特許文献4:Hannah L. Klein, DNA Repair (Amst). 2008)。しかしながら、多能性幹細胞において両アリルの遺伝子ターゲティング効率を向上させる方法は未だ十分とはいえない。
Nature Biotechnology 09/2009; 27(9):851-7. Nature Biotechnology 07/2011; 29(8):731-4. Cell Stem Cell 16 142. PMID: 25658371. DNA Repair (Amst). 2008; 7(5):686-693.
本発明は、多能性幹細胞の高効率遺伝子ターゲティング方法を提供することを課題とする。更には、多能性幹細胞の遺伝子ターゲティング方法を用いたゲノム編集方法を提供することを課題とする。即ち、両アリルへの高効率な遺伝子ターゲッティング方法および高効率に遺伝子ターゲッティングを可能とする遺伝子ターゲッティング剤を提供することを課題とする。
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、バルプロ酸またはその誘導体で多能性幹細胞を処理すること、および/または多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子を過剰発現させる工程を含むことで、遺伝子ターゲッティングを効果的に行い、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.多能性幹細胞に目的遺伝子の遺伝子ターゲッティングを行う方法において、バルプロ酸またはその誘導体で多能性幹細胞を処理する工程を含むことを特徴とする、多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法。
2.多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法が、以下の工程を含む、前項1に記載の遺伝子ターゲッティング方法:
A)多能性幹細胞をバルプロ酸またはその誘導体を含む培養液中で培養する工程;
B)多能性幹細胞に遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
3.多能性幹細胞に目的遺伝子の遺伝子ターゲッティングを行う方法において、多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子を過剰発現させる工程を含むことを特徴とする、多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法。
4.多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法が、以下のa)およびb)の工程を同時に、または順序を変えて実施する工程を含む、前項3に記載の遺伝子ターゲッティング方法:
a)多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子発現用プラスミドを導入する工程;
b)多能性幹細胞に遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
5.多能性幹細胞に目的遺伝子の遺伝子ターゲッティングを行う方法において、以下の工程を含む、前項2または4に記載の遺伝子ターゲッティング方法:
A)多能性幹細胞をバルプロ酸またはその誘導体を含む培養液中で培養する工程;
B)多能性幹細胞に、以下のa)およびb)の工程を同時に、または順序を変えて実施する工程:
a)多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子発現用プラスミドを導入する工程;
b)遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
6.さらに、多能性幹細胞にゲノム編集用ヌクレアーゼ発現用プラスミドを導入する工程を含む、前項1〜5のいずれかに記載の多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法。
7.ゲノム編集用ヌクレアーゼが、CRISPR/Cas9、TALENおよびZFNから選択されるいずれかである、前項6に記載の遺伝子ターゲッティング方法。
8.ゲノム編集用ヌクレアーゼによりゲノムDNAの特定部位において二本鎖切断(DSB)を行い、遺伝子ターゲッティング用プラスミドの導入によりゲノム編集を行う、前項6または7に記載の遺伝子ターゲッティング方法を用いることを特徴とするゲノム編集方法。
9.前項1〜7のいずれかに記載の多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法により、目的遺伝子のゲノム編集がなされた多能性幹細胞。
本発明の遺伝子ターゲッティング方法によれば、転写活性が低い遺伝子であっても、多能性幹細胞に内在するゲノム領域をターゲッティングすることができ、効果的に遺伝子改変することができる。従来のゲノム編集における遺伝子ターゲッティングの技術では、ヒト多能性幹細胞において両アリルの遺伝子ターゲッティングは極めて効率が低く、ほぼ0%であったのに対し、本発明の多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法によれば、約10〜25%程度の効率で両アリルをターゲッティング可能であった。これにより、両アリルがターゲッティングされた多能性幹細胞を見出すためのクローン解析数を軽減化し、効果的に目的の株を取得可能となり、多能性幹細胞におけるゲノム編集研究を加速することができる。
AAVS1遺伝子座をターゲティングするためのベクターの模式図である。(実施例1) HNF4α遺伝子をターゲティングするためのベクターの模式図である。(実施例1) AAVS1遺伝子をターゲティングするためのベクターおよびHNF4α遺伝子座をターゲティングするためのベクターによる挿入遺伝子の確認結果を示す図である。(実施例1) 目的のゲノム領域をターゲティングするための細胞への遺伝子導入プロトコールを示す図である。(実施例1) ヒトES細胞におけるAAVS1遺伝子およびHNF4α遺伝子の発現量、およびヒストンH3のトリメチル化・アセチル化レベルを確認した結果を示す図である。(参考例1) 各種ヒト多能性幹細胞に関しAAVS1遺伝子座およびHNF4α遺伝子座での遺伝子ターゲッティングされたコロニー数を示す図である。(参考例2) ヒトES細胞における相同組換えで重要な役割を担う遺伝子の探索結果を示す図である。(参考例3) ヒトES細胞での相同組換え効率を向上させる化合物のスクリーニングプロトコールを示す図である。(参考例4) ヒトES細胞での相同組換え効率を向上させる化合物のスクリーニング結果を示す図である。(参考例4)
本発明は、多能性幹細胞の高効率遺伝子ターゲティング方法に関する。更には、多能性幹細胞の遺伝子ターゲティング方法を用いたゲノム編集方法に関する。
遺伝子ターゲティングは、内在性の遺伝子の改変に相同組換えを用いる遺伝子工学的手法である。この方法は遺伝子の削除、エクソンの除去、遺伝子の導入、点変異の導入などに用いることができる。遺伝子ターゲティングでは対象となる遺伝子座に応じて個別にベクターを作製する必要がある一方で、どんな遺伝子座にも応用可能である。
本明細書において、遺伝子ターゲッティングの対象となるゲノム領域は、多能性幹細胞に内在するゲノム領域(遺伝子座)であればよく、特に限定されない。細胞内に存在するゲノム領域に存在する遺伝子としては、転写活性が高いゲノム領域や低いゲノム領域が存在するが、本発明の遺伝子ターゲッティング方法によれば、転写活性が低いゲノム領域であっても、効果的に遺伝子改変することができる。例えば、転写活性の高いゲノム領域としてAAVS1遺伝子座および転写活性の低いゲノム領域としてHNF4α遺伝子座を例示して後述の実施例において検討を行い、何れの遺伝子座についても従来法に比べて優れた効果が確認された。これらの実施例に限定されることなく、本発明の効果は多能性幹細胞に内在するゲノム領域をターゲッティングすることができ、効果的に遺伝子改変を行うことができる。
本明細書において、「多能性幹細胞」とは、胚性幹細胞(以下、「ES細胞」ともいう)または人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」ともいう)をいい、特に好適にはヒトES細胞またはヒトiPS細胞をいう。さらにヒトES細胞またはヒトiPS細胞に遺伝子が導入されることにより方向付けられた分化を可能とする細胞、例えば中内胚葉系細胞、内胚葉系細胞等も本発明の多能性幹細胞に含まれる。
ES細胞とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J.Evans & M.H.Kaufman (Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R.Martin (Natl.Acad.Sci.USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank (NSCB)等から入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、または脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts, ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、または今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。
また、iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、卵子、胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、または今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。
ES細胞またはiPS細胞等の幹細胞の培養方法は特に限定されず、自体公知の方法によることができる。ES細胞の未分化性および多能性を維持可能な培地や分化誘導に適した培地として、自体公知の培地、または今後開発される新たな培地を用いることができる。具体的には、DMEMおよび/またはDMEM/F12などの市販のほ乳類細胞用基礎培地に、血清またはknock-out serum replacement (KSR)、並びにbFGFなどを加えたもの、市販の霊長類ES細胞用培地Primate ES Cell Medium、ReproStem、TeSRTM-E8TM、AK01、AK03、Essential 8 Medium等を用いることができる。また、培地には、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞の培養に適する自体公知の添加物、例えば、N2サプリメント、B27サプリメント、インシュリン、bFGF、アクチビンA、ヘパリン、ROCKインヒビターやGSK-3βインヒビターなどの各種インヒビター等から選択される1種または複数種の添加物を適当な濃度で添加することができる。培地およびその添加物は、使用する細胞、分化状態等により適宜選択し、使用することができる。
本明細書において、遺伝子ターゲッティングのために使用可能なヌクレアーゼは、自体公知のヌクレアーゼや、今後遺伝子ターゲッティングのために使用される新たなヌクレアーゼも包含され、特に限定されない。例えば自体公知のヌクレアーゼとして、人工ヌクレアーゼであるCRISPR/Cas9、TALEN、ZFN等が挙げられる。遺伝子ターゲッティング用ベクターの具体例としては、後述する実施例にも示すように、例えば図1および図2に示すベクターを利用することができる。本発明において使用しうるゲノム編集用ヌクレアーゼにより、ゲノム領域の特定部位において二本鎖切断(DSB)を行い、ゲノム編集を行うことができる。
本発明において、遺伝子ターゲッティング方法に適用可能な遺伝子ターゲッティング用ベクターは、loxP配列、プロモーター配列、EGFP遺伝子、P2A配列、Puro耐性遺伝子、pA配列、loxP配列を含むことができる。さらに、本発明において、遺伝子ターゲッティング用ベクターには、レポーター遺伝子を含ませることができる。レポーター遺伝子は、自体公知の遺伝子を使用することができる。好ましくは、検出可能な発現の標識を細胞において提示するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。レポーター遺伝子は、レポーター遺伝子の発現量の測定を生存状態のままの細胞を用いて簡便に行うことができ、多数の細胞における発現量の測定に適している点で、好ましくは、光シグナルによる発現の測定が可能なタンパク質をコードする遺伝子である。光シグナルによる発現の測定が可能なタンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ヒト化ウミシイタケ緑色蛍光タンパク質(hrGFP)、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)、増強青色蛍光タンパク質(eBFP)、増強シアン蛍光タンパク質(eCFP)、増強黄色蛍光タンパク質(eYEP)、赤色蛍光タンパク質(RFPまたはDsRed)、mCherryなどの蛍光タンパク質;ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼなどの生物発光タンパク質;アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼなどの化学発光基質を変換する酵素などが挙げられる。本発明において、遺伝子ターゲッティング用ベクターには、薬物耐性遺伝子を含ませることができる。薬物耐性遺伝子は、自体公知の遺伝子を使用することができる。好ましくは、検出可能な発現の標識を細胞において提示するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。薬物によるセレクションが可能なタンパク質としては、puromycin、neomycin、hygromycinなどが挙げられる。
以上の遺伝子ターゲッティング用ベクターやヌクレアーゼ発現用ベクターにおいて、ベクターとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。人工染色体ベクターとしては、酵母人工染色体ベクター(YAC)、細菌人工染色体ベクター(BAC)、P1人工染色体ベクター(PAC)、マウス人工染色体ベクター(MAC)、ヒト人工染色体ベクター(HAC)などが挙げられる。また、ベクターの成分としては、DNA、RNAなどの核酸、GNA、LNA、BNA、PNA、TNAなどの核酸アナログなどを用いても良い。ベクターは、糖類などの核酸以外の成分によって修飾されていてもよい。ベクターとして、ゲノムDNAに取り込まれずに細胞内で分解されるRNAを用いてもよい。この場合、二本鎖切断の後に、ベクターの分解が生じ、細胞内に安定的にベクターが残存せず、安全性が高い。
ヌクレアーゼ発現用ベクターは自体公知のベクターを利用することができる。人工ヌクレアーゼであるCRISPR/Cas9、TALEN、ZFN等を搭載した発現ベクターを利用することができる。
本発明は、当該遺伝子ターゲッティング方法を用いたゲノム編集方法にも及ぶ。ヌクレアーゼによる二本鎖切断を受けた細胞においては、相同組換え、または非相同末端連結による修復が生じるが、細胞内に適切なDNA断片が存在する場合には、組換えによって、ゲノム領域の遺伝子において欠失、挿入、破壊などの改変を行うことができる。したがって、例えば、本発明のヌクレアーゼ発現用ベクターを用いて、ゲノム上の領域の欠失、多重遺伝子破壊、染色体の転座、染色体の逆位、および染色体の重複からなる群から選ばれる変異導入を受けた細胞を高頻度で取得することができる。目的とするゲノム編集された多能性幹細胞の取得は、例えば標的遺伝子座近傍を増幅するprimerを用いて実施したPCR解析やダイレクトシークエンス解析を指標として、当該細胞を選択することによって行うことができる(図3)。
ゲノム編集の目的となる遺伝子座の遺伝子ターゲッティングの際、バルプロ酸またはその誘導体で多能性幹細胞を処理する工程を含むことが本発明の特徴であり、これにより高効率に遺伝子ターゲッティングを可能とする。具体的には、以下のA)およびB)の工程を含む方法により、高効率に遺伝子ターゲッティングを行なうことができる。
A)多能性幹細胞をバルプロ酸またはその誘導体を含む培養液中で培養する工程;
B)多能性幹細胞に遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
本明細書において、「バルプロ酸」のうち、例えばバルプロ酸ナトリウム (sodium valproate) の分子式は C8H15NaO2で、水に溶けやすい。GABA(γ-アミノ酪酸)トランスアミナーゼを阻害することにより抑制性シナプスにおけるGABA量を増加させ、薬理作用を発現する。抗けいれん薬と気分安定薬作用がある有機化合物で略称は「VPA」という。本明細書において、「バルプロ酸またはその誘導体」には薬学的に許容される塩も含まれる。バルプロ酸誘導体としては、バルプロ酸、バルプロ酸ヒドロキサム酸やバルプロ酸アミドなどが挙げられる。バルプロ酸またはその誘導体の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属などとの塩が挙げられるが、二バルプロ酸水素ナトリウムが最も好ましく使用される。バルプロ酸は、市販品として入手可能である。バルプロ酸誘導体として、例えば、バルプロ酸アミドは、公知の方法に準じて、例えば、バルプロ酸を酸塩化物とし、さらに、アンモニアと反応させることなどにより得ることができる。バルプロ酸もしくはバルプロ酸誘導体の塩は、公知の方法(特公昭64−3178号公報など)に準じて製造することができる。
本明細書において、バルプロ酸またはその誘導体は、例えば図4に示すタイミングで、多能性幹細胞に作用させることができる。例えば、ヒトES/iPS細胞をエレクトロポレーションを実施する24時間前から10μMのバルプロ酸またはその誘導体を作用させることができる。
あるいは、ゲノム編集の目的となる遺伝子座の遺伝子ターゲッティングの際、多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子(Homologous recombination-related genes)を過剰発現させる工程を含むことが本発明の特徴であり、これにより高効率に遺伝子ターゲッティングを可能とする。具体的には、以下のa)およびb)の工程を同時に、または順序を変えて実施する工程を含む方法により、高効率に遺伝子ターゲッティングを行なうことができる。
a)多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子発現用プラスミドを導入する工程;
b)多能性幹細胞に遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
上記において、相同組換え関連遺伝子としては、Rad51遺伝子やRad51遺伝子に類似する遺伝子、例えばRad51B遺伝子、Rad51C遺伝子、Rad51D遺伝子、XRCC2遺伝子およびXRCC3遺伝子などが挙げられる。「Rad51」は、単細胞真核生物からヒトまでの知られている限りすべての真核生物に存在する。DNA二重鎖切断の修復に関与する。原核生物のRecAタンパク質と配列の相同性を有する。特にヒトにはRAD51遺伝子と似たRAD51B遺伝子、RAD51C遺伝子、RAD51D遺伝子、XRCC2遺伝子およびXRCC3遺伝子などの複数の遺伝子が存在し、これらより選択されるいずれかを過剰発現させてもよい。
本明細書において、ゲノム編集の目的となる遺伝子座の遺伝子ターゲッティングされる多能性幹細胞において、相同組換え関連遺伝子を過剰発現させることで、高効率に遺伝子ターゲッティングさせることができる。本明細書において、多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子を過剰発現させるために、例えば図4に示すタイミングで、相同組換え関連遺伝子を多能性幹細胞に作用させることができる。相同組換え関連遺伝子を多能性幹細胞に作用させるために、相同組換え関連遺伝子発現プラスミドを作製することができる。相同組換え関連遺伝子発現プラスミドとして、例えば、pHMCA5-RAD51を使用可能である。CAプロモーター(CMV enhancer/β-actin promoter with the β-actin intron promoter)下流に相同組換え関連遺伝子、例えばRAD51遺伝子を搭載するプラスミドが挙げられる。
本発明の遺伝子ターゲッティング方において、バルプロ酸またはその誘導体で処理する工程、および多能性幹細胞にRAD51遺伝子を過剰発現させる工程に関し、いずれか一方の工程のみを行っても良いし、両方の工程を行っても良い。両方の工程を含むことで、多能性幹細胞への遺伝子ターゲッティングをより効果的に行うことができる。本発明は、遺伝子ターゲッティング方法の他、本発明の遺伝子ターゲッティング方法を用いたゲノム編集方法にも及ぶ。
以下、本発明の理解を深めるために実施例および実験例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
(実施例1)多能性幹細胞のAAVS1遺伝子座およびHNF4α遺伝子座における遺伝子ターゲッティング
本実施例では、ヒトES細胞(H9)のAAVS1遺伝子座およびHNF4α遺伝子座における遺伝子ターゲッティングについて示す。以下、ヒトES細胞について、特記する場合を除きH9を使用した。ここで、AAVS1遺伝子座およびHNF4α遺伝子座をターゲットとしたのは、ヒトES細胞において、AAVS1遺伝子座は転写活性レベルが高く、HNF4α遺伝子座は転写活性レベルが低いからである。ここで、AAVS1遺伝子座はユーロクロマチン領域に存在し、HNF4α遺伝子座はヘテロクロマチン領域に存在すると示唆される。転写活性レベルについては、後述の参考例にて述べる。
(1)遺伝子ターゲッティング用ベクターの構築
各遺伝子座について遺伝子ターゲッティング用ベクターの構築を行った。本実施例では、遺伝子ターゲッティングを行うために、CRISPR/Cas9システムを用いた。遺伝子ターゲッティング用ベクターは、自体公知の作製方法に基づいて作製した。
(I)AAVS1遺伝子座のターゲティング用ベクター:
ホモロジーアーム(homology arm)の間にEF1α-EGFP-P2A-PuroR-pAカセットが挿入されており、ホモロジーアームの外側にネガティブセレクションを実施するためにPGK-HSV-TKカセットが挿入されている(図1)
(II)HNF4α遺伝子座のターゲティング用ベクター:
ホモロジーアームの間にEF1α-PuroR-pAカセットが挿入されており、ホモロジーアームの外側にネガティブセレクションを実施するためにPGK-HSV-TKカセットが挿入されている(図2)。
ここで、遺伝子ターゲティング用ベクターに示す各略語の意味は以下のとおりである。
EF1α; elongation factor 1 alpha promoter,
EGFP; enhanced green fluorescent protein,
2A; self-cleaving P2A peptide sequence,
PuroR; puromycin resistant protein,
pA; polyadenylation sequence,
PGK; phosphoglycerate kinase promoter,
HSV-TK, herpesvirus thymidine kinase gene
(2)相同組換
遺伝子ターゲッティングのために、各遺伝子座における2つのホモロジーアームの中間付近のゲノムDNAをCRISPR/Cas9システムを用いて切断し、相同組換えを促進した。AAVS1遺伝子座のターゲッティングではエクソン1(exon 1)とエクソン2(exon 2)の間に、EF1α-EGFP-P2A-PuroR-pAカセットが挿入されたヒトES細胞クローンを取得することを目的とし(図1)、HNF4α遺伝子座のターゲッティングではエクソン2(exon 2)の一部とEF1α-EGFP-P2A-PuroR-pAカセットを置換することにより、HNF4αをノックアウトしたヒトES細胞クローンを取得することを目的とする(図2)。
(3)挿入遺伝子の確認
(A)AAVS1遺伝子座のエクソン1とエクソン2の間に、EF1α-EGFP-P2A-PuroR-pAカセットが挿入されたヒトES細胞クローンが作製できたかPCR法により確認した。野生型株、ヘテロ株、ホモ株を識別するために使用したプライマーは図1の矢印で示す位置に設計した。目的のカセットが両アリルに挿入できた場合には、4.2kbの位置にバンドが認められ、1.2kbの位置にはバンドが認められない(図3I)。
(B)HNF4α遺伝子座のエクソン2の一部とEF1α-EGFP-P2A-PuroR-pAカセットを置換することにより、HNF4αをノックアウトしたヒトES細胞クローンが作製できたかPCR法により確認した。野生型株、ヘテロ株、ホモ株を識別するために使用したプライマーは図2の矢印で示す位置に設計した。目的のカセットが両アリルに挿入できた場合には、3.3kbの位置にバンドが認められ、1.0kbの位置にはバンドが認められない(図3II)。
(4)遺伝子導入クローン細胞の確認
本参考例では、ヒトES細胞にドナープラスミド、CRISPR/Cas9プラスミドをエレクトロポレーション法により導入した。EF1α-EGFP-P2A-PuroR-pAカセットが細胞ゲノム内に挿入されたクローンを選別するために、ピューロマイシン(puromycin: Puro)による薬剤選択を実施した。また、挿入するカセットが細胞ゲノムの目的外の箇所に挿入されたクローンを排除するために、ガンシクロビル(GSV)による薬剤選択を実施した。ヒトES細胞の遺伝子ターゲティングプロトコールは、図4に示すとおりである。上記において、ドナープラスミドは相同組換えするために標的遺伝子座に相同な2本のアームを保持しており、アームの間にポジティブセレクションのためのPuro耐性カセットが挿入されている。また、アームの外側にはネガティブセレクションを実施するためのPGK-HSV-TKカセットが設計されている。
上記の結果を表1に示した。GSVを用いた薬剤選択により、相同組換え効率は上昇したものの、HNF4α遺伝子の両アリルに作製したカセットが挿入されたクローンは全24個中1個も得られなかった。
(5)各遺伝子を過剰発現させたときの遺伝子ターゲッティング効率の確認
ヒトES細胞における相同組換えで重要な役割を担うと考えられる遺伝子のうち、PPP4R2遺伝子、CHEK1遺伝子またはRAD51遺伝子を過剰発現させることによって、ヒトES細胞における相同組換え効率の向上を試みた。PPP4R2遺伝子、CHEK1遺伝子またはRAD51遺伝子を搭載したプラスミドをヒトES細胞にドナープラスミド、CRISPR/Cas9プラスミドと共に導入した。ヒトES細胞の遺伝子ターゲティングプロトコールは、図4に示すとおりである。
その後、得られたコロニーをPCR法により解析した。PPP4R2遺伝子、CHEK1遺伝子の過剰発現では、相同組換え効率に変化が認めらなかったが、RAD51遺伝子の過剰発現により、相同組換え効率の上昇が確認された。RAD51遺伝子を過剰発現することによって、HNF4α遺伝子座における両アリルターゲティングが初めて確認された。結果を表2に示した。RAD51遺伝子を過剰発現させることによって、AAVS1遺伝子座における片アリルターゲティングは24個中7個、両アリルターゲティングは24個中5個確認された。また、HNF4α遺伝子座における片アリルターゲティングは24個中9個、両アリルターゲティングは24個中2個確認された。以上のことから、ヒトES細胞にRAD51遺伝子を過剰発現させることにより相同組換えを促進できた。
(6)バルブロ酸またはバルプロ酸誘導体を含む系での遺伝子ターゲッティング効率の確認
バルプロ酸(valproic acid)、バルプロ酸ヒドロキサム酸(valproic acid hydroxamate)、ブチロラクトン3(butyrolactone 3)を作用させることによる、ヒトES細胞における相同組換え効率の向上を試みた。バルプロ酸、バルプロ酸ヒドロキサム酸、ブチロラクトン3の各々をヒトES細胞に24時間作用させ、その後ドナープラスミド、CRISPR/Cas9プラスミドを導入した。ヒトES細胞へのバルプロ酸等投与プロトコールおよび遺伝子ターゲッティングプロトコールは、図4に示すとおりである。その後、得られたコロニーをPCR法により解析した。
その結果を表3に示した。ブチロラクトン3を作用させることでは、相同組換え効率に変化が認めらなかったが、バルプロ酸、バルプロ酸ヒドロキサム酸を作用させることにより、相同組換え効率の上昇が確認された。この結果より、バルプロ酸またはバルプロ酸ヒドロキサム酸の作用によって、バルプロ酸を作用させることによって、AAVS1遺伝子座における片アリルターゲティングは24個中8個、両アリルターゲティングは24個中5個確認された。また、HNF4α遺伝子座における片アリルターゲティングは24個中8個、両アリルターゲティングは24個中2個確認された。以上のことから、ヒトES細胞における相同組換えをバルプロ酸またはバルプロ酸ヒドロキサム酸を作用させることにより促進できた。
(実施例2)多能性幹細胞における相同組換え効率の確認
本実施例ではRAD51遺伝子過剰発現とバルプロ酸作用を組み合わせることによって、ヒトES細胞における相同組換え効率がさらに向上できるかどうか検討した。本実施例では、バルプロ酸の作用の他、RAD51遺伝子を搭載したプラスミドをヒトES細胞にドナープラスミド、CRISPR/Cas9プラスミドと共に導入した時の効果についても確認した。遺伝子ターゲッティングの方法は、実施例1に記載の方法と同様である。
バルプロ酸をヒトES細胞に24時間作用させたのち、ドナープラスミド、CRISPR/Cas9プラスミド、RAD51遺伝子搭載プラスミドを共導入した。バルプロ酸作用とRAD51遺伝子過剰発現を組み合わせることによって、単独操作群と比較して、相同組換え効率がさらに上昇した。この結果より、バルプロ酸作用とRAD51遺伝子過剰発現を組み合わせることによって、AAVS1遺伝子座における片アリルターゲティングは24個中13個、両アリルターゲティングは24個中9個確認された。また、HNF4α遺伝子座における片アリルターゲティングは24個中15個、両アリルターゲティングは24個中6個確認された。以上のことから、ヒトES細胞における相同組換えをバルプロ酸作用とRAD51遺伝子過剰発現を組み合わせることにより促進できた。
(参考例1)多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法に係る予備的検討
参考例では、本発明の多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法を実施するにあたっての予備的検討を行った。本参考例では、ヒトES細胞でのAAVS1遺伝子とHNF4α遺伝子の転写活性を確認した。
まず、ヒトES細胞におけるAAVS1およびHNF4α遺伝子の発現量をreal-time RT-PCR法により定量した。Ct値よりAAVS1の発現量はHNF4αよりも有意に高いことが確認された(図5)。続いて、ヒトES細胞におけるAAVS1遺伝子座およびHNF4α遺伝子座におけるヒストンのトリメチル化・アセチル化レベルを評価した。AAVS1遺伝子座では、転写活性マーカーであるH3K4のトリメチル化、H3K27のアセチル化が高頻度に見られ、転写抑制マーカーであるH3K27のトリメチル化がほとんど見られなかった。一方、HNF4α遺伝子座では、H3K27のトリメチル化状態が高頻度に見られ、H3K4のトリメチル化、H3K27のアセチル化はほとんど見られなかった。以上のことから、ヒトES細胞において、AAVS1遺伝子座では転写活性レベルが高く、HNF4α遺伝子座では転写活性レベルが低いことがわかった(図5)。ここで、AAVS1はユーロクロマチン領域に存在し、HNF4αはヘテロクロマチン領域に存在することが示唆された。これにより、遺伝子ターゲッティング方法を実施するためのモデルとして、転写活性レベルが高いAAVS1遺伝子座および転写活性レベルが低いHNF4α遺伝子座について検討することとした。
(参考例2)多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法に係る予備的検討
本参考例では、多能性幹細胞における相同組換え効率を評価するため、実施例1で作製した遺伝子ターゲッティング用ベクターを用いて、Tic、YOW-iPS、Doctom、KhES1、H9、H1のヒト多能性幹細胞について相同組換実験を行った。実施例と同様に各細胞に対して各種プラスミドの導入、薬剤作用を行い、得られたヘテロ株・ホモ株の合算クローン数を示した。ヒトES細胞であるH1が最も相同組換え効率が高く、ヒトES細胞であるKhES1が最も相同組換え効率が低かった(図6)。
(参考例3)多能性幹細胞における相同組換えで重要な役割を担う遺伝子の探索
本参考例では、多能性幹細胞における相同組換えで重要な役割を担う遺伝子を探索するために、参考例2で用いた6種類の多能性幹細胞において、マイクロアレイ解析により遺伝子発現を網羅的に調べた(図7)。評価した遺伝子のうち、相同組換えに関与することがGOにより示されている遺伝子は66個あった。次に、それぞれの多能性幹細胞の相同組換え効率と相関した発現量を示す相同組換え関連遺伝子を抽出した。その結果、相関係数R2値が最も高かった3遺伝子はPPP4R2遺伝子、CHEK1遺伝子およびRAD51遺伝子であった。したがって、これら3遺伝子が多能性幹細胞における相同組換えで重要な役割を担っている可能性が示唆された(図7)。
(参考例4)多能性幹細胞での相同組換え効率を向上させる化合物のスクリーニング
多能性幹細胞での相同組換え効率をさらに上昇させるため、相同組換えを促進できる低分子化合物の探索を行った。これまでにヘテロクロマチン領域では相同組換え効率が低いことが知られているため、ヒトES細胞を用いて、未分化性を保持しつつ一過的に染色体構造を緩めることができる低分子化合物を特定することを試みた。染色体構造はヒストンのメチル化・アセチル化等により大きく制御されるため、このようなエピジェネティックな状態を変化させることができるエビジェネティック化合物ライブラリー(43種類の化合物を含む)を用いた(図8)。
(I)化合物作用による転写抑制マーカーであるH3K27のトリメチル化状態への影響をChIP-qPCR法を用いて評価した。43化合物のうち29の化合物がHNF4α遺伝子領域におけるH3K27のトリメチル化レベルを低下させた(図9I)。
(II)これらの化合物作用によってヒトES細胞の未分化性に影響を及ぼすかどうか調べるために、OCT3/4の遺伝子発現量をreal-time RT-PCR法によって評価した。29化合物のうち、17の化合物について、OCT3/4遺伝子発現量の変動が×0.5〜×1.5倍以内であった(図9II)。
(III)これらの化合物作用によりヒトES細胞の細胞生存率を変化させるかどうかWST8アッセイを用いて評価した。17化合物のうち、細胞生存率を変動させることがなかった化合物のうち上3つは、バルプロ酸(valproic acid)、バルプロ酸ヒドロキサム酸(valproic acid hydroxamate)、ブチロラクトン3(butyrolactone 3)であった(図9III)。
以上詳述したように、本発明の遺伝子ターゲッティング方法によれば、転写活性が低い遺伝子であっても、効果的に遺伝子改変することができる。従来のゲノム編集における遺伝子ターゲッティングの技術では、多能性幹細胞において両アリルの遺伝子ターゲッティングは極めて効率が低く、ほぼ0%であったのに対し、本発明のヒト多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法によれば、約10〜25%程度の効率で両アリルをターゲッティング可能であった。これにより、両アリルがターゲッティングされた多能性幹細胞を見出すためのクローン解析数を軽減化し、効果的に目的の株を取得可能となり、多能性幹細胞におけるゲノム編集研究を加速することができる。

Claims (9)

  1. 多能性幹細胞に目的遺伝子の遺伝子ターゲッティングを行う方法において、バルプロ酸またはその誘導体で多能性幹細胞を処理する工程を含むことを特徴とする、多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法。
  2. 多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法が、以下の工程を含む、請求項1に記載の遺伝子ターゲッティング方法:
    A)多能性幹細胞をバルプロ酸またはその誘導体を含む培養液中で培養する工程;
    B)多能性幹細胞に遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
  3. 多能性幹細胞に目的遺伝子の遺伝子ターゲッティングを行う方法において、多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子を過剰発現させる工程を含むことを特徴とする、多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法。
  4. 多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法が、以下のa)およびb)の工程を同時に、または順序を変えて実施する工程を含む、請求項3に記載の遺伝子ターゲッティング方法:
    a)多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子発現用プラスミドを導入する工程;
    b)多能性幹細胞に遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
  5. 多能性幹細胞に目的遺伝子の遺伝子ターゲッティングを行う方法において、以下の工程を含む、請求項2または4に記載の遺伝子ターゲッティング方法:
    A)多能性幹細胞をバルプロ酸またはその誘導体を含む培養液中で培養する工程;
    B)多能性幹細胞に、以下のa)およびb)の工程を同時に、または順序を変えて実施する工程:
    a)多能性幹細胞に相同組換え関連遺伝子発現用プラスミドを導入する工程;
    b)遺伝子ターゲッティング用プラスミドを導入する工程。
  6. さらに、多能性幹細胞にゲノム編集用ヌクレアーゼ発現用プラスミドを導入する工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法。
  7. ゲノム編集用ヌクレアーゼが、CRISPR/Cas9、TALENおよびZFNから選択されるいずれかである、請求項6に記載の遺伝子ターゲッティング方法。
  8. ゲノム編集用ヌクレアーゼによりゲノムDNAの特定部位において二本鎖切断(DSB)を行い、遺伝子ターゲッティング用プラスミドの導入によりゲノム編集を行う、請求項6または7に記載の遺伝子ターゲッティング方法を用いることを特徴とするゲノム編集方法。
  9. 請求項1〜7のいずれかに記載の多能性幹細胞での遺伝子ターゲッティング方法により、目的遺伝子のゲノム編集がなされた多能性幹細胞。
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