JP2016520288A - 効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、以下の工程を含むiPS細胞の製造方法を提供する:(i)初期化因子を体細胞に導入する工程;(ii)工程(i)で得た細胞を11日より長くかつ29日以下の間培養する工程;(iii)工程(ii)で得た細胞からTRA−1−60陽性細胞を選別する工程;(iv)工程(iii)で選別したTRA−1−60陽性細胞を培養する工程;(v)工程(iv)により得たコロニーを、別の培養容器へ移す工程;および(vi)工程(v)で得た細胞を培養し、iPS細胞を得る工程。工程(v)で得た細胞を、10回以上継代培養することが好ましい。本発明は、上記の方法により得たiPS細胞の分化を誘導することを含む、未分化細胞の残存率が低減された分化細胞集団の製造方法も提供する。【選択図】図4
Description
本発明は、人工多能性幹(以下、iPSという)細胞の効率的な樹立方法に関する。本発明は、分化誘導した際に、腫瘍形成リスクが低減された安全なiPS細胞の製造方法にも関する。
人工多能性幹細胞(iPSC)は、4つの転写因子Oct3/4、Sox2、Klf4及びc−Myc(OSKM)の組合せを、胚性及び成体マウス線維芽細胞に導入することにより、2006年に最初に作製された(非特許文献1)。続いて、同じ因子の組合せ(OSKM)(非特許文献2)、又は例えばOSにLIN28及びNANOGを加えるなどの異なるが重複する因子の組合せ(非特許文献3)のいずれかを用い、線維芽細胞からヒトiPSCが作製された。線維芽細胞に加え、iPSCは、肝細胞、胃上皮細胞(非特許文献4)、血液細胞(非特許文献5)及び神経細胞(非特許文献6−8)を含む様々な種類の体細胞から得られてきた。
iPSCは再現性良く作製することができるが、初期化因子を受けとった体細胞のごく一部のみがiPSCになる。我々の最初の報告(非特許文献2)において、OSKMの形質導入7日後に再播種した5x105の線維芽細胞から、およそ10のiPSCコロニーが出現した。この低い効率(〜0.2%)は、iPSCの起源が、体細胞培養物中に共存する、幹細胞又は前駆細胞のまれな集団である可能性を提起する。しかしながら、遺伝的組み換えを経て最終分化したTリンパ球(非特許文献9、非特許文献10)及びBリンパ球(非特許文献5)から、iPSCを作製することができるため、この可能性は正式に除外されている。しかしながら、残された重要な問いは、なぜ形質導入された体細胞のうちごく一部のみがiPSCになることができるのかということである。
この重要な問いに答えるためには、20〜30日かかる初期化の過程で、OSKMを形質導入された細胞の運命を観察することが重大である。この目的を達成するためには、形質導入され続いて初期化された細胞を検出することが必須である。マウスにおいて、OSKM(非特許文献6、非特許文献11)、及びSSEA−1などの特定のマーカー(非特許文献12、非特許文献13)を一様に導入するセカンダリiPSC誘導システムが、初期化中の細胞を検出するために、いくつかの研究で利用されてきた。これらの研究は、初期化中に起こる分子事象に焦点を当ててきており、iPSCになることのできなかった細胞は分析しなかった。さらに、ヒトiPSC作製の分子過程についてはほとんど知られていない。さらに、セカンダリiPSC誘導システムは、OSKMの外部からの送達によるプライマリ誘導と、実質的に異なるかもしれない。
Takahashi,K.&Yamanaka,S.(2006)Cell 126,663−676
Takahashi,K.et al.(2007)Cell 131,861−72
Yu,J.et al.(2007)Science 318,1917−20
Aoi,T.et al.(2008)Science 321,699−702
Hanna,J.et al.(2008)Cell 133,250−64
Wernig,M.et al.(2008)Nat Biotechnol 26,916−24
Eminli,S.et al.(2008)Stem Cells 26,2467−74
Kim,J.et al.(2008)Nature 454,646−50
Loh,Y.et al.(2010)Cell Stem Cell 7,15−9
Seki,T.et al.(2010)Cell Stem Cell 7,11−4
Eminli,S.et al.(2009)Nat Genet 41,968−76
Buganim,Y.et al.(2012)Cell 150,1209−22
Polo,J.M.et al.(2012)Cell 151,1617−32
本発明において、我々は、導入遺伝子を受けとった細胞を検出するために、内部リボソーム進入部位(IRES)と高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)をつなげたSOX2導入遺伝子を用いた。我々は、ヒトiPSC及び胚性幹細胞(ESC)において発現するが体細胞では発現しない糖タンパク質であるTRA−1−60の、該細胞での発現も観察した。TRA−1−60は、最良のヒト多能性幹細胞マーカーの一つである(Chan,E.M.et al.(2009)Nat Biotechnol.27,1033−7;Andrews,P.W.et al.(1984)Hybridoma 3,347−61)。我々は、フローサイトメトリーによりEGFP及び/又はTRA−1−60(+)細胞を検出し選別することにより、レトロウイルスによってヒト皮膚線維芽細胞(HDF)へOSKMが形質導入された後にどのようにして初期化され始めた細胞が出現しiPSCへと成熟するか、なぜ形質導入された細胞の多くがiPSCになることができないのか、理解しようと試みた。
結果として、我々は、ほとんどのHDFが、OSKM導入遺伝子を受けとると初期化過程を開始することを明らかにした。7日以内に、これらの形質導入された細胞の〜20%が、TRA−1−60抗原に対し陽性になったが、しかしながら、これらの初期化され始めた細胞のごく一部(〜1%)のみが、再播種後に人工多能性幹細胞(iPSC)のコロニーをもたらした。我々は、TRA−1−60(+)細胞の多くが、その後の培養の間に、再び陰性に戻ったことを見出した。形質導入後7日目又は11日目にTRA−1−60(+)細胞を選別しSNLフィーダー細胞上に再播種した際には、それらの約半数がTRA−1−60(−)状態に戻った。一方、15日目に選別した際には、逆戻り率が10%未満になった。さらに、7日目又は11日目に選別したTRA−1−60(+)細胞からのiPSCコロニー形成の効率は、低い(〜1%)ままだった。一方、15日目又は20日目に選別したTRA−1−60(+)細胞は、著しく増加したiPSCコロニー形成効率を示した。これらの結果は、初期化され始めた細胞がこの期間(11日目から15日目の間)に成熟することと、この期間後にTRA−1−60(+)細胞を選別し再播種することにより、iPS細胞の樹立効率を著しく改善することができることを示す。
直接初期化(direct reprogramming)を増進することが以前に報告されている因子のうち、LIN28が初期化の逆戻りを著しく阻害したが、NANOG、Cyclin D1又はp53 shRNAはしなかった。これらのデータは、開始ではなく成熟が、多能性へのヒト線維芽細胞の直接初期化の律速段階であること、それぞれの副初期化(pro−reprogramming)因子は異なる作用機序を有することを実証する。
我々は、21日以降に選別したTRA−1−60(+)細胞が、分化誘導後に未分化細胞を保持しているかどうかも検討した。結果として、10回以上継代後のポリクローナルなTRA−1−60(+)細胞の保持する未分化細胞は十分に低減した。
我々は、これらの知見に基づきさらに研究を行い、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]以下の工程を含むiPS細胞の製造方法:
(i)初期化因子を体細胞に導入する工程;
(ii)工程(i)で得た細胞を11日より長くかつ29日以下の間培養する工程;
(iii)工程(ii)で得た細胞からTRA−1−60陽性細胞を選別する工程;
(iv)工程(iii)で選別したTRA−1−60陽性細胞を培養する工程;
(v)工程(iv)により得たコロニーを、別の培養容器へ移す工程;および
(vi)工程(v)で得た細胞を培養し、iPS細胞を得る工程。
[2]初期化因子が、
(a)Oct3/4又はそれをコードする核酸;
(b)Sox2又はそれをコードする核酸;及び
(c)Klf4又はそれをコードする核酸、
を含む、上記[1]に記載の方法。
[3]初期化因子がさらに、(d)Lin28又はそれをコードする核酸を含む、上記[2]に記載の方法。
[4]iPS細胞がヒトiPS細胞である、上記[1]に記載の方法。
[5]工程(ii)の培養期間が15〜20日である、上記[1]に記載の方法。
[6]工程(vi)で得た細胞を10回以上継代培養する、上記[1]に記載の方法。
[7]上記[6]に記載の方法により得たiPS細胞の分化を誘導することを含む、未分化細胞の残存率が低減された分化細胞集団の製造方法。
[1]以下の工程を含むiPS細胞の製造方法:
(i)初期化因子を体細胞に導入する工程;
(ii)工程(i)で得た細胞を11日より長くかつ29日以下の間培養する工程;
(iii)工程(ii)で得た細胞からTRA−1−60陽性細胞を選別する工程;
(iv)工程(iii)で選別したTRA−1−60陽性細胞を培養する工程;
(v)工程(iv)により得たコロニーを、別の培養容器へ移す工程;および
(vi)工程(v)で得た細胞を培養し、iPS細胞を得る工程。
[2]初期化因子が、
(a)Oct3/4又はそれをコードする核酸;
(b)Sox2又はそれをコードする核酸;及び
(c)Klf4又はそれをコードする核酸、
を含む、上記[1]に記載の方法。
[3]初期化因子がさらに、(d)Lin28又はそれをコードする核酸を含む、上記[2]に記載の方法。
[4]iPS細胞がヒトiPS細胞である、上記[1]に記載の方法。
[5]工程(ii)の培養期間が15〜20日である、上記[1]に記載の方法。
[6]工程(vi)で得た細胞を10回以上継代培養する、上記[1]に記載の方法。
[7]上記[6]に記載の方法により得たiPS細胞の分化を誘導することを含む、未分化細胞の残存率が低減された分化細胞集団の製造方法。
初期化因子が導入された細胞を導入後11日より長い期間培養した後にTRA−1−60陽性細胞を選別することにより、TRA−1−60陽性細胞がTRA−1−60陰性状態に戻ることを顕著に抑制することができるので、iPS細胞の樹立効率を改善することができる。また、このようにして選別したTRA−1−60細胞を10回以上継代培養する場合、分化誘導した際の、未分化細胞の残存率が顕著に低減され、iPS細胞由来の安全な移植用細胞を提供することができる。
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって製造することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K.Takahashi及びS.Yamanaka(2006)Cell,126:663−676;K.Takahashi et al.(2007),Cell,131:861−872;J.Yu et al.(2007),Science,318:1917−1920;Nakagawa,M.et al.,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);WO2007/069666)。
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞及び分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
体細胞のソースとしての哺乳動物個体の選択は特に制限されない;しかしながら、iPS細胞を、ヒトにおける疾患の治療に使用する場合、移植片拒絶及び/又はGvHDを予防するという観点から、体細胞は、患者本人の細胞であるか、あるいは患者のHLA型と同一又は実質的に同一であるHLA型を有する他人から採取されることが好ましい。本明細書中使用される「実質的に同一であるHLA型」とは、ドナーのHLA型が、免疫抑制剤等の使用を伴う患者に移植した場合に、ドナーの体細胞由来のiPSの分化誘導により得られた移植細胞が生着可能である程度に、患者のものと一致することを意味する。例えば、主たるHLA(HLA−A、HLA−B及びHLA−DRの主要な3遺伝子座、あるいはさらにHLA−Cwを含む4遺伝子座)が同一であるHLA型等が挙げられる(以下同様の意味を適用)。
初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはノンコーディング(non−coding)RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはノンコーディングRNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c−Myc、N−Myc、L−Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15−2、Tcl1、beta−catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3、Glis1等が例示される。これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795−797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem cell,2:525−528、Eminli S,et al.(2008),Stem Cells.26:2467−2474、Huangfu D,et al.(2008),Nat Biotechnol.26:1269−1275、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3,568−574、Zhao Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3:475−479、Marson A,(2008),Cell Stem Cell,3,132−135、Feng B,et al.(2009),Nat Cell Biol.11:197−203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotech.,27:459−461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci USA.106:8912−8917、Kim JB,et al.(2009),Nature.461:649−643、Ichida JK,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491−503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167−74、Han J,et al.(2010),Nature.463:1096−100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713−720及びMaekawa M,et al.(2011),Nature. 474:225−9に記載の組み合わせが例示される。
好ましい態様において、Oct3/4、Sox2及びKlf4(OSK)を初期化物質として用いることができる。より好ましくは、該3因子に加え、L−Myc、N−Myc及びc−Myc(T58A変異体を含む)から選択されるMycファミリーメンバー(M)を用いることができる。さらに、下記実施例に示すように、Lin28は、TRA−1−60陽性細胞の形成を促進し、TRA1−60陰性細胞への逆戻り転換を阻害するので、3因子(OSK)又は4因子(OSKM)に加え、Lin28を初期化物質として使用することも好ましい。
上記初期化因子には、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327及びPD0325901)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5−アザシチジン)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX−01294等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L−チャネルカルシウムアゴニスト(例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA−83−01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR−291−3p、miR−294、miR−295およびmir−302などのmiRNA、Wntシグナリング(例えば可溶性Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれるが、それらに限定されない。本明細書においては、これらの樹立効率を高めることを目的として用いられる因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
初期化因子がDNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(Cell,126,pp.663−676,2006;Cell,131,pp.861−872,2007;Science,318,pp.1917−1920,2007)、アデノウイルスベクター(Science,322,945−949,2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Hemagglutinating Virus of Japanのベクター)(WO2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science,322:949−953,2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができ、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5−メチルシチジンおよびシュードウリジン(pseudouridine)(TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L,(2010)Cell Stem Cell.7:618−630)。
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX−WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
本発明は、部分的には、初期化因子導入後11日目までは、いったんTRA−1−60陽性となった初期化中の細胞の約半数以上が、その後の培養の間にTRA−1−60陰性に戻り、最終的にiPS細胞とならないのに対し、該細胞を11日間よりも長い間培養した後でTRA−1−60陽性細胞を選別し続いて培養を行った場合には、約90%以上の細胞がTRA−1−60陽性状態を維持し、iPS細胞として樹立されることを見出したことに基づく。
結果的に、本発明の方法は、
(i)初期化因子を体細胞に導入する工程;
(ii)工程(i)で得た細胞を11日より長い間培養する工程;
(iii)工程(ii)で得た細胞からTRA−1−60陽性細胞を選別する工程;
を含む。
(i)初期化因子を体細胞に導入する工程;
(ii)工程(i)で得た細胞を11日より長い間培養する工程;
(iii)工程(ii)で得た細胞からTRA−1−60陽性細胞を選別する工程;
を含む。
上記工程(i)の培養方法の例としては、5%CO2の存在下37℃で、10%FBSを含有するDMEM又はDMEM/F12培養液中、体細胞と初期化因子を接触させることが挙げられる。無血清培地を用いる培養方法もまた例として挙げることができる(Sun N,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci USA.106:15720−15725)。さらに、樹立効率を増進させるため、低酸素条件でiPS細胞を樹立してもよい(酸素濃度0.1%以上かつ15%以下)(Yoshida Y,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:237−241又はWO2010/013845)。
上記培養の間、培養開始2日目以降から、培養液を1日1回新鮮な培養液と交換する。核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞である。
該導入後、該細胞を、工程(i)で使用した同じ培養液中で11日より長い間培養することができる。工程(ii)の培養期間は11日より長ければ特に制限されず、例えば、12日以上、13日以上、14日以上又は15日以上であり、好ましくは15日以上である。培養期間の上限も特に制限されないが、30日以上培養する場合、完全に初期化されたiPS細胞のコロニーのみが残るので、TRA−1−60陽性細胞を選別する意義が実質的に失われる。従って、培養期間は29日以下であり、好ましくは25日以下、より好ましくは20日以下である。
TRA−1−60陽性細胞の選別は、例えば、市販の抗TRA−1−60抗体を用いたフローサイトメトリーにより行うことができる。
選別したTRA−1−60陽性細胞を、(iv)フィーダー細胞(例、マイトマイシンCで処理したSTO細胞、SNL細胞等)上又は細胞外基質でコーティングしたディッシュ上に再播種し、bFGFを含有する霊長類ES細胞用培養液中で培養することができる。細胞は、10%FBSを含有するDMEM培養液(さらにLIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含有むことができる)中で、フィーダー細胞上、5%CO2の存在下、37°Cで培養することもできる。
あるいは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞自体又は細胞外基質(例、ラミニン−5(WO2009/123349)及びマトリゲル(BD))を用いる方法(Takahashi K,et al.(2009),PLoS One.4:e8067又はWO2010/137746)を挙げることができる。
本発明はさらに、
(v)工程(iv)により得たコロニーをピックアップして、別の培養容器へ移す工程;および
(vi)工程(v)で得た細胞をさらに培養し、iPS細胞を得る工程、
を含む。
(v)工程(iv)により得たコロニーをピックアップして、別の培養容器へ移す工程;および
(vi)工程(v)で得た細胞をさらに培養し、iPS細胞を得る工程、
を含む。
工程(v)において、単一のコロニー(クローン)を別々にピックアップしてもよく、それぞれのコロニー(クローン)を別々の培養容器で継代培養してもよい。あるいは、複数のコロニーをピックアップして一緒に別の培養容器に移し、バルクで培養してもよい。
ポリクローナルにコロニーをピックアップしてバルクで10回以上継代培養した場合、体細胞に分化誘導した際の、未分化細胞の残存率を顕著に低減させることができる。従って、腫瘍形成リスクの低減されたクローンを選抜することなく、安全なiPS細胞を提供することができる。本発明において「継代培養する」とは、iPS細胞を培養容器から剥離させ、全細胞又は細胞の1/2、1/3若しくは1/4程度を別の培養容器へ移す作業を意味する。
以下に、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
材料及び方法
統計的分析の指針
統計的分析の指針
全ての定量的実験は、少なくとも生物学的に3重に行った。全ての図において、アスタリスクは、対応のあるT検定により決定されたP値<0.05を示す。エラーバーは標準偏差を示す。10の独立なHDF系統と10の独立なESC系統(表1)の比較に基づいて、HDF−G及びES−Gを倍率変化(fold−change(FC))>100、P<0.05と定義した。
細胞培養
Japanese Collection of Reserch Bioresources及びCell Applications IncからHDF系統を購入した。HDFは、10%のウシ胎仔血清(FBS、Thermo)、0.5%ペニシリン及びストレプトマイシン(Pen/Strep、Invitrogen)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Nacalai tesque)中で維持した。PLAT−E細胞は、1μg/mlピューロマイシン及び10μg/mlブラストサイジンSを含む10%FBS培地で培養した。ESC系統は、京都大学及びWiCELLから入手し、マイトマイシンCで処理したSNLフィーダー上で、4ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(Wako)を添加したヒトESC培地(ReproCELL)中で維持した。使用した全ての細胞系統は、表1に記載した。
Japanese Collection of Reserch Bioresources及びCell Applications IncからHDF系統を購入した。HDFは、10%のウシ胎仔血清(FBS、Thermo)、0.5%ペニシリン及びストレプトマイシン(Pen/Strep、Invitrogen)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Nacalai tesque)中で維持した。PLAT−E細胞は、1μg/mlピューロマイシン及び10μg/mlブラストサイジンSを含む10%FBS培地で培養した。ESC系統は、京都大学及びWiCELLから入手し、マイトマイシンCで処理したSNLフィーダー上で、4ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(Wako)を添加したヒトESC培地(ReproCELL)中で維持した。使用した全ての細胞系統は、表1に記載した。
プラスミド作製
本研究に用いられる遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)は、PCRによって増幅し、pENTR−D−TOPO(Invitrogen)へサブクローニングし、配列決定によって確認した。その後、ORFは、Gateway LR反応(Invitrogen)を用いて、製造者のプロトコルに従い、pMXs−gwレトロウイルスベクターに移した。TP53のためのノックダウンベクターはAddgeneから入手した(#10672)。
本研究に用いられる遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)は、PCRによって増幅し、pENTR−D−TOPO(Invitrogen)へサブクローニングし、配列決定によって確認した。その後、ORFは、Gateway LR反応(Invitrogen)を用いて、製造者のプロトコルに従い、pMXs−gwレトロウイルスベクターに移した。TP53のためのノックダウンベクターはAddgeneから入手した(#10672)。
iPSCコロニー形成
初期化は、Takahashi及びYamanaka(Cell 126,663−676(2006))に記載されたように行った。レトロウイルスを作製するため、我々は、それぞれの因子をコードするレトロウイルスベクターを、FuGENE6トランスフェクション試薬を製造者の推奨どおりに用いて、PLAT−E細胞へ導入した。翌日、我々は、該培地を、10%FBSを含有する新鮮な培地に交換し、約24時間該細胞のインキュベーションを行った。ウイルスを含む培地を、その後、回収し、0.45μm孔径の酢酸セルロースフィルター(Whatman)を用いてろ過した。次に、我々は、適切な組合せのウイルスを混合し、マウスSlc7a1遺伝子を発現するHDFを、4μg/mlポリブレン(Nacalai tesque)と共にウイルスに一晩さらして使用した。我々は、この時点を0日目とした。10%FBSを含有する培地を用い、形質導入した細胞を7日間培養した。我々は、形質導入後7日目に、該細胞を回収し、2.5x105細胞を、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー細胞上に再播種した。翌日、培地を、ヒトESC培地に置換した。培地は、1日おきに交換した。我々は、形質導入後24日目に、iPSCコロニーの数を計測した。
初期化は、Takahashi及びYamanaka(Cell 126,663−676(2006))に記載されたように行った。レトロウイルスを作製するため、我々は、それぞれの因子をコードするレトロウイルスベクターを、FuGENE6トランスフェクション試薬を製造者の推奨どおりに用いて、PLAT−E細胞へ導入した。翌日、我々は、該培地を、10%FBSを含有する新鮮な培地に交換し、約24時間該細胞のインキュベーションを行った。ウイルスを含む培地を、その後、回収し、0.45μm孔径の酢酸セルロースフィルター(Whatman)を用いてろ過した。次に、我々は、適切な組合せのウイルスを混合し、マウスSlc7a1遺伝子を発現するHDFを、4μg/mlポリブレン(Nacalai tesque)と共にウイルスに一晩さらして使用した。我々は、この時点を0日目とした。10%FBSを含有する培地を用い、形質導入した細胞を7日間培養した。我々は、形質導入後7日目に、該細胞を回収し、2.5x105細胞を、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー細胞上に再播種した。翌日、培地を、ヒトESC培地に置換した。培地は、1日おきに交換した。我々は、形質導入後24日目に、iPSCコロニーの数を計測した。
TRA−1−60(+)細胞、EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞及びEGFP(−)/TRA−1−60(−)細胞の解析
OKMに加えSOX2−IRES−EGFPを形質導入した細胞を、10%FBSを含有する培地で、8日間培養した。その後、培養液をヒトESC培地に置換した。形質導入後7日目、11日目及び15日目に、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて形質導入された細胞を回収し、70μm孔径の細胞ストレイナー(BD biosciences)を用いてろ過した。次に細胞を、抗TRA−1−60マイクロビーズキットで処理し、auto MACS pro装置(Miltenyi biotec)により、それらのTRA−1−60(+)細胞を選別した。MACS後のTRA−1−60(−)画分から、EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞及びEGFP(−)/TRA−1−60(−)細胞を、FACS Aria II機器(BD biosciences)により選別した。形質導入後20日目及び28日目にTRA−1−60(+)細胞を回収するため、我々は、MACSで選別した5x105のTRA−1−60(+)細胞を、形質導入後11日目に、10cmの培養ディッシュ中の、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー上に再播種した。次に、細胞をY−27632(10μM)を含むヒトESC培地中で、2日間培養した。次に、2日毎に、培地を新鮮なヒトESC培地に置換した。20日目及び28日目に、TRA−1−60(+)細胞を上記のMACSプロトコルを用いて選別した。
OKMに加えSOX2−IRES−EGFPを形質導入した細胞を、10%FBSを含有する培地で、8日間培養した。その後、培養液をヒトESC培地に置換した。形質導入後7日目、11日目及び15日目に、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて形質導入された細胞を回収し、70μm孔径の細胞ストレイナー(BD biosciences)を用いてろ過した。次に細胞を、抗TRA−1−60マイクロビーズキットで処理し、auto MACS pro装置(Miltenyi biotec)により、それらのTRA−1−60(+)細胞を選別した。MACS後のTRA−1−60(−)画分から、EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞及びEGFP(−)/TRA−1−60(−)細胞を、FACS Aria II機器(BD biosciences)により選別した。形質導入後20日目及び28日目にTRA−1−60(+)細胞を回収するため、我々は、MACSで選別した5x105のTRA−1−60(+)細胞を、形質導入後11日目に、10cmの培養ディッシュ中の、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー上に再播種した。次に、細胞をY−27632(10μM)を含むヒトESC培地中で、2日間培養した。次に、2日毎に、培地を新鮮なヒトESC培地に置換した。20日目及び28日目に、TRA−1−60(+)細胞を上記のMACSプロトコルを用いて選別した。
単一のTRA−1−60(+)細胞の選別及び培養
TRA−1−60(+)細胞を、上記のMACSプロトコルを用いて選別した。選別したTRA−1−60(+)細胞は、死細胞を検出するため、DAPI(Life Technologies Corporation)で30分間染色した。各TRA−1−60(+)/DAPI(−)細胞を、FACS Aria II機器を用いて、96穴プレートのウェルへ、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー上に、直接、選別した。細胞は、Y−27632(10μM)を含むヒトESC培地中で培養した。選別2日後、我々は、Y−27632を含む新鮮なヒトESC培地を加えた。我々は、選別4日後から、2日毎の培地の置換を始めた。我々は、形質導入後32日目に、iPSCコロニーが存在するウェルの数を計測した。
TRA−1−60(+)細胞を、上記のMACSプロトコルを用いて選別した。選別したTRA−1−60(+)細胞は、死細胞を検出するため、DAPI(Life Technologies Corporation)で30分間染色した。各TRA−1−60(+)/DAPI(−)細胞を、FACS Aria II機器を用いて、96穴プレートのウェルへ、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー上に、直接、選別した。細胞は、Y−27632(10μM)を含むヒトESC培地中で培養した。選別2日後、我々は、Y−27632を含む新鮮なヒトESC培地を加えた。我々は、選別4日後から、2日毎の培地の置換を始めた。我々は、形質導入後32日目に、iPSCコロニーが存在するウェルの数を計測した。
フローサイトメトリー及び蛍光活性化細胞選別(FACS)
解析のため、形質導入後1日おきに、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて、形質導入された細胞を回収した。少なくとも1x105細胞を、FACSバッファー(PBS中、2%FBS、0.36%グルコース)中で、以下の抗体を用いて、室温で30分間染色した。解析のため、以下の抗体を使用した。Alexa647結合TRA−1−60(1:20、560122、BD biosciences)、Alexa−488結合TRA−1−60(1:20、560173、BD biosciences)、フィコエリトリン結合TRA−1−85(1:10、FAB3195P、R&D Systems)、
解析のため、形質導入後1日おきに、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて、形質導入された細胞を回収した。少なくとも1x105細胞を、FACSバッファー(PBS中、2%FBS、0.36%グルコース)中で、以下の抗体を用いて、室温で30分間染色した。解析のため、以下の抗体を使用した。Alexa647結合TRA−1−60(1:20、560122、BD biosciences)、Alexa−488結合TRA−1−60(1:20、560173、BD biosciences)、フィコエリトリン結合TRA−1−85(1:10、FAB3195P、R&D Systems)、
逆戻りの解析
我々は、上記のMACSプロトコルを用いてTRA−1−60(+)細胞を選別した。Y−27632(10μM)を含むヒトESC培地を用い、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー上で、TRA−1−60(+)細胞を2日間培養した。その後、さらに2日間又は7日間(形質導入後15日目又は20日目まで)、TRA−1−60(+)細胞を培養した。培地を新鮮なヒトESC培地で2日毎に置換した。TRA−1−60(−)状態への逆戻りを検出するため、FACSプロトコル中にすでに記載したように、形質導入された細胞を、TRA−1−85抗体及びTRA−1−60抗体で染色した。TRA−1−85(+)集団中のTRA−1−60(−)細胞の割合を計算して、逆戻りを検出した。マイクロアレイの前に、逆戻りしたTRA−1−60(−)/TRA−1−85(+)細胞を、FACS Aria II機器を用いて選別した。
我々は、上記のMACSプロトコルを用いてTRA−1−60(+)細胞を選別した。Y−27632(10μM)を含むヒトESC培地を用い、マイトマイシンCで不活性化したSNLフィーダー上で、TRA−1−60(+)細胞を2日間培養した。その後、さらに2日間又は7日間(形質導入後15日目又は20日目まで)、TRA−1−60(+)細胞を培養した。培地を新鮮なヒトESC培地で2日毎に置換した。TRA−1−60(−)状態への逆戻りを検出するため、FACSプロトコル中にすでに記載したように、形質導入された細胞を、TRA−1−85抗体及びTRA−1−60抗体で染色した。TRA−1−85(+)集団中のTRA−1−60(−)細胞の割合を計算して、逆戻りを検出した。マイクロアレイの前に、逆戻りしたTRA−1−60(−)/TRA−1−85(+)細胞を、FACS Aria II機器を用いて選別した。
単一細胞遺伝子発現解析
我々は、まず、0.2xTaqmanプローブミックス(19のTaqmanプローブ(Application Binary Interface);1μlx19,DNA懸濁バッファー(Tecnova);4μl,水;77μl)を作製した。本研究に使用したTaqmanプローブを表2に記載する。
我々は、まず、0.2xTaqmanプローブミックス(19のTaqmanプローブ(Application Binary Interface);1μlx19,DNA懸濁バッファー(Tecnova);4μl,水;77μl)を作製した。本研究に使用したTaqmanプローブを表2に記載する。
FACS Aria II機器を用いて、9μlのマスターミックス(Cells Direct 2x反応ミックス(Life Technologies Corporation)、5μlの0.2xTaqmanプローブミックス、2.5μlのSuper script III RT/Platinum Taqミックス(Life Technologies Corporation)及び0.2μlのDNA懸濁バッファー(Tecnova);1.3μl)中に、単一細胞を直接選別した。50℃、15分間の単一細胞の溶解及び逆転写、並びに95℃、2分間の逆転写酵素の不活性化のため、サーマルサイクラー中で反応混合物のインキュベーションを行った。TaqManアッセイにおいて、22サイクルの間、95℃、15秒間及び60℃、4分間で、cDNAを特異的に増幅させた。TaqManアッセイを用いて単一細胞qPCRを行い、増幅したcDNAをBioMark System(Fluidigm)の48.48Dynamic Array中で5倍に希釈した。製造者により提供されたソフトウェアプログラム(Fluidigm Real−Time PCR解析)によって、Ct値を計算した。Ct値が26より高い場合、発現検出不可能/低発現として、フィルターをかけて除外した。全てのTaqManアッセイは、単一細胞レベルで遺伝子発現を定量化できることを確認して確かめた。
マイクロアレイ
全RNAを、Cyanine3を用いて標識した。標本を、全ヒトゲノムマイクロアレイSurePrint G3 Human GE 8x60K(G4112F、Agilent technologies)とハイブリダイズさせた。各標本は、単色プロトコルを用いて一度ハイブリダイズさせた。G2565BAマイクロアレイスキャナーシステム(Agilent technologies)を用いて、アレイをスキャンした。全てのマイクロアレイの結果は、Genes pring v 11ソフトウェアプログラム(Agilent technologies)を用いて解析した。標本は、75パーセンタイルシフトにより標準化した。エンティティーは、パーセンタイルによってフィルターをかけた。標本の少なくとも1つが、20パーセンタイルに対し100以内の値を持っていた場合、エンティティーはフィルターを通過した。さらに、エンティティーはフラグ値に基づいてフィルターをかけた。エンティティーが、標本の少なくとも1つにおいて、Present値又はMarginal値を持っていた場合、エンティティーはフィルターを通過した。
全RNAを、Cyanine3を用いて標識した。標本を、全ヒトゲノムマイクロアレイSurePrint G3 Human GE 8x60K(G4112F、Agilent technologies)とハイブリダイズさせた。各標本は、単色プロトコルを用いて一度ハイブリダイズさせた。G2565BAマイクロアレイスキャナーシステム(Agilent technologies)を用いて、アレイをスキャンした。全てのマイクロアレイの結果は、Genes pring v 11ソフトウェアプログラム(Agilent technologies)を用いて解析した。標本は、75パーセンタイルシフトにより標準化した。エンティティーは、パーセンタイルによってフィルターをかけた。標本の少なくとも1つが、20パーセンタイルに対し100以内の値を持っていた場合、エンティティーはフィルターを通過した。さらに、エンティティーはフラグ値に基づいてフィルターをかけた。エンティティーが、標本の少なくとも1つにおいて、Present値又はMarginal値を持っていた場合、エンティティーはフィルターを通過した。
BrdUの取り込み
解析1日前に、培地を新鮮な培地に交換した。翌日に、30分間、37℃で、10μM BrdUを用いて細胞のインキュベーションを行った。次に、FACSプロトコルにおいてすでに記載したように、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて、細胞を回収し、抗TRA1−60抗体と、室温で30分間インキュベーションを行った。BrdUの取り込みは、BrdU Flow Kit(BD Pharmingen)を用いて検出した。
解析1日前に、培地を新鮮な培地に交換した。翌日に、30分間、37℃で、10μM BrdUを用いて細胞のインキュベーションを行った。次に、FACSプロトコルにおいてすでに記載したように、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて、細胞を回収し、抗TRA1−60抗体と、室温で30分間インキュベーションを行った。BrdUの取り込みは、BrdU Flow Kit(BD Pharmingen)を用いて検出した。
アポトーシス
OSKMが形質導入された細胞を、11日目に0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて回収した。次に、それらをApoAlert(Clontech)を用いて速やかに染色し、FACS Aria II機器を用いて染色を検出した。
OSKMが形質導入された細胞を、11日目に0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて回収した。次に、それらをApoAlert(Clontech)を用いて速やかに染色し、FACS Aria II機器を用いて染色を検出した。
JSD
Buganim et al(Cell 150,1209−22(2012)に従い計算を行った。
Buganim et al(Cell 150,1209−22(2012)に従い計算を行った。
SFEBq法
SFEBq法は、次の通り行った。得た細胞を、Accumax(登録商標)を用いて、5分間37℃のインキュベーションを行って分離し、洗浄し、細胞数を計測した。細胞を、前記分化培地へ懸濁し、低接着96穴プレート(Lipidure−coat plate:日油株式会社)へ9000細胞/ウエルで播種した。細胞は、10μM Y−27632(WAKO)、0.1μM LDN193189(STEMGENT)、0.5μM A83−01(WAKO)、8%KSR(Invitrogen)、1mMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、0.1mM MEM非必須アミノ酸(Invitrogen)及び0.1mM 2−メルカプトエタノール(WAKO)を含有するGMEM(Invitrogen)中で、14日間培養した。Y27632は初回培養のために加えた。培地は、7日目までは交換せず、その後は3日おきに交換した。神経前駆細胞への誘導後、細胞を単一細胞に分散させ、TRA−1−60(+)細胞の数をフローサイトメーターを用いて決定した。
SFEBq法は、次の通り行った。得た細胞を、Accumax(登録商標)を用いて、5分間37℃のインキュベーションを行って分離し、洗浄し、細胞数を計測した。細胞を、前記分化培地へ懸濁し、低接着96穴プレート(Lipidure−coat plate:日油株式会社)へ9000細胞/ウエルで播種した。細胞は、10μM Y−27632(WAKO)、0.1μM LDN193189(STEMGENT)、0.5μM A83−01(WAKO)、8%KSR(Invitrogen)、1mMピルビン酸ナトリウム(Invitrogen)、0.1mM MEM非必須アミノ酸(Invitrogen)及び0.1mM 2−メルカプトエタノール(WAKO)を含有するGMEM(Invitrogen)中で、14日間培養した。Y27632は初回培養のために加えた。培地は、7日目までは交換せず、その後は3日おきに交換した。神経前駆細胞への誘導後、細胞を単一細胞に分散させ、TRA−1−60(+)細胞の数をフローサイトメーターを用いて決定した。
結果
我々は、OCT3/4、KLF4及びc−MYC用のpMXsレトロウイルスベクターを、SOX2−IRES−EGFPを発現するもう一つのpMXsベクターと共に、4人のコーカサス人及び6人の日本人ドナーを含む様々な年齢(0〜81歳)のドナーに由来する10のHDF系統に導入した。形質導入後7日目に、HDFの〜20%(5.9〜24.5%)は、EGFP(+)になった(図1A)。我々は、EGFP(+)細胞を選別し、定量的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、形質導入されたレトロウイルスのコピー数を評価した。形質導入後11日目又は15日目に、我々は、各導入遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4又はc−MYC)に対し、EGFP(+)細胞において、およそ5コピー/細胞のレトロウイルスを検出した(図1B)。一方、EGFP陰性(−)細胞において、我々は、少数のコピー/細胞のみのレトロウイルスを検出した。7日目に、我々は、EGFP(+)細胞及び(−)細胞のいずれにおいても、およそ2倍のコピー数のレトロウイルスを検出した。7日目に、一見したところ、より高いコピー数である理由は、明確ではない。それにもかかわらず、EGFP(+)細胞は、より多数のレトロウイルスのOSKMを受けとったHDFを意味し、一方、EGFP(−)HDFは著しく少数コピーのレトロウイルスの導入遺伝子が組込まれていることが、結果により確かめられた。
我々は、OCT3/4、KLF4及びc−MYC用のpMXsレトロウイルスベクターを、SOX2−IRES−EGFPを発現するもう一つのpMXsベクターと共に、4人のコーカサス人及び6人の日本人ドナーを含む様々な年齢(0〜81歳)のドナーに由来する10のHDF系統に導入した。形質導入後7日目に、HDFの〜20%(5.9〜24.5%)は、EGFP(+)になった(図1A)。我々は、EGFP(+)細胞を選別し、定量的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、形質導入されたレトロウイルスのコピー数を評価した。形質導入後11日目又は15日目に、我々は、各導入遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4又はc−MYC)に対し、EGFP(+)細胞において、およそ5コピー/細胞のレトロウイルスを検出した(図1B)。一方、EGFP陰性(−)細胞において、我々は、少数のコピー/細胞のみのレトロウイルスを検出した。7日目に、我々は、EGFP(+)細胞及び(−)細胞のいずれにおいても、およそ2倍のコピー数のレトロウイルスを検出した。7日目に、一見したところ、より高いコピー数である理由は、明確ではない。それにもかかわらず、EGFP(+)細胞は、より多数のレトロウイルスのOSKMを受けとったHDFを意味し、一方、EGFP(−)HDFは著しく少数コピーのレトロウイルスの導入遺伝子が組込まれていることが、結果により確かめられた。
7日目に、我々は、2.5x105細胞をSNLフィーダー細胞上に再播種し、線維芽細胞培地を多能性幹細胞用培地に置換した。24日目に、我々は、9〜583のiPSCコロニーを観察した(図1C)。その結果、以前に報告された結果と同様に(非特許文献2)、再播種したHDFからの推測上のiPSC作製効率は、0.0036〜0.23%と低かった。
我々は、iPSC作製の低い効率と対照的に、形質導入後7日目に、EGFP(+)細胞の〜20%がTRA−1−60(+)になることを見出した(図2A)。我々は、iPSCコロニーのほとんどがこれらのTRA−1−60(+)細胞に由来することを確認した(図2B)。我々は、7日目、11日目及び15日目にTRA−1−60(+)細胞を選別し、マイクロアレイ解析により、それらの遺伝子発現を解析した。HDFとヒト胚性幹細胞(ESC)との間の遺伝子発現の比較により、我々は、HDFにおける発現レベルがESCにおける発現レベルより少なくとも100倍高い、169の線維芽細胞に豊富な遺伝子(HDF−G)、及びESCにおける発現レベルがHDFにおける発現レベルより少なくとも100倍高い、196のESCに豊富な遺伝子(ES−G)を選択した。我々は、これらのES−Gのおよそ半数が、7日目に、TRA−1−60(+)細胞において、HDFにおけるそれらのレベルと比較して、少なくとも10倍増加したことを見出した(図2C)。これらは、例えばNANOG及び内在性OCT3/4などの周知のESCマーカー遺伝子を含んでおり、逆転写(RT)−PCRによりそれらの増加した発現を確認した(図2D)。一方、例えばLIN28及び内在性SOX2などの他のESCマーカーは、低いままだった。HDF−Gのおよそ半数が、多くとも10分の1に減少した(図2C)。これらのデータは、TRA−1−60(+)細胞が、形質導入後7日目までに、部分的に初期化された状態を獲得していたことを示す。
予想外なことに、我々は、TRA−1−60(−)にとどまっていたEGFP(+)細胞においても、部分的な初期化を検出した(図2C)。DNAマイクロアレイ解析は、EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞において、196のES−Gの中、77の遺伝子の発現が、7日目においてHDFにおけるそれらのレベルと比較して、少なくとも10倍増加したことを示した。169のHDF−G中、65の遺伝子の発現レベルが、多くとも10分の1に減少した。一方、EGFP(−)細胞において、ES−G及びHDF−Gのうちの少数のみの発現が>10倍に変化した(17のES−G及び2のHDF−G)。EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞においても同様に変化したが、TRA−1−60(+)細胞のものよりもわずかながら顕著でなかった(図2E)。
ES−G及びHDF−Gの主成分分析(PCA)は、EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞と同様に、TRA−1−60(+)細胞における部分的な初期化を実証したが、EGFP(−)細胞においてはしなかった(図2F)。注目すべきことに、我々は、7日目、11日目及び15日目で、TRA−1−60(+)細胞の初期化の進行を検出した。一方、そのような進行はTRA−1−60(−)細胞においては見られなかった。これらのデータは、高いコピー数のOSKM導入遺伝子を受けとったHDFの大多数において、初期化が開始されるが、初期化の成熟は、EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞ではなくTRA−1−60(+)細胞においてのみ起こることを実証した。
我々は次に、13のES−G及びHDF−Gを定量的に検出したTaqmanプローブを用いて単一細胞RT−PCRを行った(図3A及びB、表3)。
7日目のTRA−1−60(+)細胞の大多数において、NANOG、L1TD1、GDF3、GAL、SALL4、APOE、CDH1及びEPCAMを含む8のES−Gの発現が、HDFにおけるレベルより少なくとも10倍増加した。一方、DPPA4、SOX2、LIN28、DNMT3B及びGABRB3を含む他の5のES−Gは、20日目又は28日目まで抑制されたままであった。TRA−1−60(+)細胞の大多数において、4つ全てのHDF−G(MMP1、DCN、LUM及びCD13)は抑制された。EGFP(+)/TRA−1−60(−)細胞は、類似しているが小さな変化を示した。際立って対照的なことに、EGFP(−)細胞においては、ES−G及びHDF−Gの発現レベルの変化がほとんど観察されなかった。PCAは、7日目から28日目までに、TRA−1−60(+)細胞の初期化が、徐々に進行したことを実証した(図3C)。7日目、11日目及び15日目にTRA−1−60(+)細胞は、それらの遺伝子発現に関して、オリジナルののHDF又はESCよりもより異種遺伝子性であった(図3D)。これらのデータにより、高いコピー数のOSKM導入遺伝子を受けとったHDFのほとんどにおいて、初期化が開始され、次にTRA−1−60(+)細胞特異的に、初期化が徐々に進行することを確認した。
初期化され始めた細胞の運命を探索するため、我々は、磁気活性化細胞分離(MACS)を用いて、7日目、11日目、15日目及び20日目にTRA−1−60(+)細胞を選別し、SNLフィーダー上に再播種した。我々は、播種20日後のiPSCコロニーの数を計測した(図4A)。7日目又は11日目に選別したTRA−1−60(+)細胞からのiPSCコロニー形成の効率は、低いままであった(〜1%)。一方、15日目又は20日目に選別したTRA−1−60(+)細胞は、著しく増加したiPSCコロニー形成効率を示し、11日目から15日目に初期化が成熟することを示した。
選別後のTRA−1−60(+)細胞の運命をさらにたどるために、我々は、再播種したヒト細胞をマウスフィーダー細胞と区別する必要があった。この目的を達成するために、我々は、ヒト特異的抗原TRA−1−85を使用した。ESC又は樹立したiPSCを、TRA−1−60で選別し、再播種した場合、99%より多くが再播種4日後に陽性を維持していた(図4B)。一方、TRA−1−60(+)細胞を選別し形質導入後7日目に再播種した場合、再播種4日後以内に、それらの〜50%が逆戻りしTRA−1−60(−)になった。11日目に選別したTRA−1−60(+)細胞も、強い逆戻り傾向を示した。一方、15日目に選別したTRA−1−60(+)細胞は、10%未満の逆戻りを示した(図4B)。従って、逆戻りの度合及びiPSCコロニー形成の効率は、逆相関を示した。
196のES−G及び169のHDF−GのPCAにより、TRA−1−60(−)運命に戻った細胞において、初期化の逆戻りがあったことを確認した(図4C)。11日目に選別したTRA−1−60(+)細胞と比較して、15日目及び20日目に陰性に戻った細胞は、遺伝子発現において、元のHDFへの漸進的変化を示した。一方、15日目及び20日目でTRA−1−60(+)を維持した細胞において、我々は、遺伝子発現パターンにおける初期化の進行を検出した。
次に、我々は、線維芽細胞の増殖、TRA−1−60(+)細胞への転換、TRA−1−60(+)細胞の増殖、TRA−1−60(+)細胞死及び逆戻りを含む、iPSC作製の様々な側面に対する、報告された副初期化因子の効果を調査した。我々は、NANOG(Yu,J.et al.(2007)Science 318,1917−20;Hanna,J.et al.(2009)Nature 462,595−601;Silva,J.et al.(2006)Nature 441,997−1001)、LIN28(Yu et al.(2007)、上記)、Cyclin D1(Edel,M.J.et al.(2010)Genes Dev 24,561−73)、及びp53shRNA(Hanna et al.(2009)、上記;Hong,H.et al.(2009)Nature 460,1132−5;Kawamura,T.et al.(2009)Nature 460,1140−4;Utikal,J.et al.(2009)Nature 460,1145−8;Marion,R.M.et al.(2009)Nature 460,1149−1153;Li,H.et al.(2009)Nature 460,1136−9)の効果を分析した。我々は、OSKMと共に、これらの因子のそれぞれをHDFに導入し、形質導入28日後にiPSCコロニーの数を計測した。我々は、NANOGを除くこれらの因子の全てが、iPSCコロニーの数を著しく増加させたことを見出した(図5A)。Cyclin D1及びp53 shRNAによりHDFの増殖が増加したが、NANOG又はLIN28ではしなかった(図5B)。TRA−1−60(+)ステータスへの転換は、LIN28により増進したが、NANOG、Cyclin D1又はp53 shRNAによっては増進しなかった(図5C)。TRA−1−60陽性細胞の増殖は、LIN28により増進した(図5D)。従って、転換の増加は、TRA−1−60(+)細胞の選択的な拡大に起因するかもしれない。TRA−1−60(+)細胞死は、p53 shRNAにより抑制された(図5E)。TRA−1−60(+)状態から(−)状態への逆戻りは、LIN28により抑制された(図5F)。これらのデータは、iPSC作製の間、各副初期化因子が、異なる作用機序を有することを実証した。
上記と同様の方法によりレトロウイルスを用いてOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycをヒト線維芽細胞(TIG119またはTIG120)へ導入し、線維芽細胞を初期化した(d0)。
遺伝子導入後11日目(d11)に、上記の方法によりTRA−1−60(+)細胞を選別し、マイトマイシンC処理したSNL細胞上へ播種した。その後、10日目(d21)又は18日目(d29)に、同様にTRA−1−60(+)細胞を選別し、SFEBq法により神経前駆細胞へ分化させた。残存するTRA−1−60(+)細胞の数により分化抵抗性を評価した。さらに、播種後17日目(d28)にTRA−1−60陽性細胞をソーティングし、マイトマイシンCで処理したSNL細胞上へ再播種し、5回継代後(p5)又は10回継代後(p10)についても、同様に分化抵抗性を評価した。継代培養は、Takahashi K,et e al(Cell(2006)、上記)に記載の方法で行った。
SFEBq法による神経前駆細胞への誘導後、細胞を単一細胞に分散させ、フローサイトメーターを用いてTRA−1−60(+)細胞の数を測定した。TRA−1−60(+)細胞の含有率(%)を表4に示す。これらのデータは、低い分化抵抗性を有するiPS細胞の製造には、TRA−1−60陽性細胞選別後の継代が重要であることを実証した。
201B7は、分化感受性が確認されている標準株であり(Takahashi et e al.Cell(2006)、上記)、TIG108−4f3は、分化抵抗性が確認されている標準株である。
考察
本研究において、OSKM初期化因子を受けとったヒト線維芽細胞において、我々は、これまでに予測されたよりもはるかに頻繁に初期化が開始されることを示した(図6)。我々は、高いコピー数のOSKMレトロウイルスが形質導入されたHDFの大多数において、初期化が開始されていることを示す、多くのES−Gの素早い誘導及びHDF−Gの抑制を検出した。形質導入7日後以内に、これらの形質導入されたHDFのおよそ20%は、最もよく知られた多能性幹細胞マーカーの一つであるTRA−1−60陽性になった。これらのTRA−1−60(+)細胞は、その遺伝子発現パターンにおいて、iPSC/ESCにおける遺伝子発現パターンへの漸進的変化を示した。しかしながら、TRA−1−60(+)細胞のごく一部のみが、初期化過程を完了し、iPSCになった。従って、作製低効率の原因であるのは、開始ではなく、成熟である。
本研究において、OSKM初期化因子を受けとったヒト線維芽細胞において、我々は、これまでに予測されたよりもはるかに頻繁に初期化が開始されることを示した(図6)。我々は、高いコピー数のOSKMレトロウイルスが形質導入されたHDFの大多数において、初期化が開始されていることを示す、多くのES−Gの素早い誘導及びHDF−Gの抑制を検出した。形質導入7日後以内に、これらの形質導入されたHDFのおよそ20%は、最もよく知られた多能性幹細胞マーカーの一つであるTRA−1−60陽性になった。これらのTRA−1−60(+)細胞は、その遺伝子発現パターンにおいて、iPSC/ESCにおける遺伝子発現パターンへの漸進的変化を示した。しかしながら、TRA−1−60(+)細胞のごく一部のみが、初期化過程を完了し、iPSCになった。従って、作製低効率の原因であるのは、開始ではなく、成熟である。
我々は、TRA−1−60(+)細胞が初期化を完了できないことの根底にある重要な機構の一つが、TRA−1−60(−)状態への逆戻りであることも示した。TRA−1−60(+)細胞を選別し、SNLフィーダー細胞上に7日目に再播種した場合、再播種4日後に陽性のままであったのは、半数未満だった。逆戻りしたTRA−1−60(−)細胞の増殖は、陽性細胞より著しく低かった(データは示さず)ため、TRA−1−60(−)状態へ戻った細胞の実際の割合は、50%以上であったはずである。11日目に細胞を選別した場合、逆戻り率は、依然として高かった。一方、15日目に選別した場合、逆戻り率は、10%未満になった。この結果は、初期化され始めた細胞が、この期間(11日目から15日目の間)中に成熟することを示す。
本研究のもう一つの重要な発見は、各副初期化因子が、iPSC作製の促進において、異なる作用機序を有することである。我々は、OSKMを共導入した場合、LIN28、Cyclin D1及びp53 shRNAの3つの因子がiPSCコロニーの数を著しく増加させることを見出した。しかしながら、NANOGは、我々のアッセイにおいて、副初期化活性を示さなかった。副初期化活性を示した3つの因子のうち、Cyclin D1及びp53 shRNAは、主に増殖を促進し細胞死を抑制することによってiPSCコロニーの数を増加させた。一方、LIN28は、TRA−1−60(+)細胞の形成を促進し、(−)細胞への逆戻り転換を阻害した。我々は、TRA−1−60(+)細胞が成熟していく際に、内在性のLIN28が初期化の後期に活性化されたことを見出した。このようにLIN28は、初期化の成熟を促進するようである。注目すべきことに、我々は、LIN28はTRA−1−60(+)細胞の増殖を促進するが、TRA−1−60(−)細胞の増殖は促進しないことを見出した。この初期化され始めた細胞に特異的な活性化は、LIN28の副初期化機能に貢献するはずである。
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神及び範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
特許及び特許出願を含む、ここで述べられた全ての刊行物に記載された内容は、ここに参照により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
本出願は米国仮特許出願第61/833,722号に基づくものであり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本出願は米国仮特許出願第61/833,722号に基づくものであり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
Claims (7)
- 以下の工程を含む人工多能性幹(iPS)細胞の製造方法:
(i)初期化因子を体細胞に導入する工程;
(ii)工程(i)で得た細胞を11日より長くかつ29日以下の間培養する工程;
(iii)工程(ii)で得た細胞からTRA−1−60陽性細胞を選別する工程;
(iv)工程(iii)で選別したTRA−1−60陽性細胞を培養する工程;
(v)工程(iv)により得たコロニーを、別の培養容器へ移す工程;および
(vi)工程(v)で得た細胞を培養し、iPS細胞を得る工程。 - 初期化因子が、
(a)Oct3/4又はそれをコードする核酸;
(b)Sox2又はそれをコードする核酸;及び
(c)Klf4又はそれをコードする核酸、
を含む、請求項1に記載の方法。 - 初期化因子がさらに、(d)Lin28又はそれをコードする核酸を含む、請求項2に記載の方法。
- iPS細胞がヒトiPS細胞である、請求項1に記載の方法。
- 工程(ii)の培養期間が15〜20日である、請求項1に記載の方法。
- 工程(vi)で得た細胞を10回以上継代培養する、請求項1に記載の方法。
- 請求項6に記載の方法により得たiPS細胞の分化を誘導することを含む、未分化細胞の残存率が低減された分化細胞集団の製造方法。
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