JP2016508946A - 遷移金属を混合することによる多電子Liイオンリン酸塩カソードの設計 - Google Patents

遷移金属を混合することによる多電子Liイオンリン酸塩カソードの設計 Download PDF

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Abstract

一般に本発明は、電極材料、例えば高密度、低コスト、および高い安全性を有する新規なカソード材料に関する。挿入および脱リチウム化でリチウムを収容することができることが公知の結晶構造の、異なる遷移金属の混合に基づく電圧設計ストラテジーが、本明細書に示される。+2/+3対上で活性な金属(例えば、Fe)と、+3/+5または+3/+6対上で活性な元素(例えば、VまたはMo)とを混合することによって、高容量多電子カソードが適切な電圧ウィンドウ内に設計される。

Description

関連出願に対する相互参照
本願は、本明細書においてその全体が参考として援用される2013年1月11日に出願された、「遷移金属を混合することによる多電子Liイオンリン酸塩カソードの設計」という題の米国仮特許出願第61/751,643号に対する優先権およびその利益を主張する。
政府支援
本発明は、米国エネルギー省自動車技術局(Office of Vehicle Technologies of the U.S. Department of Energy)によって授与された契約番号DE−AC02−05CH11231のもと、先進輸送技術用バッテリー(BATT)(the Batteries for Advanced Transportation Technologies)プログラム副契約番号6806960のもと、授与番号DMR−0819762のもとでの国立科学財団のMRSECプログラムによって、政府の支援によりなされた。米国政府は、本発明において、ある権利を有する。
本発明は、一般に、改善された電極材料に関する。より詳細には、ある実施形態において本発明は、電極材料と、そのような材料を用いた電気化学セルと、そのような材料を合成する方法とに関する。
バッテリーは、典型的には正極、負極、および電解質を含む、少なくとも1つの電気化学セルを有する。バッテリーの1つのタイプであるリチウムイオンバッテリーには、重要な技術的および商業的な用途がある。リチウムイオンバッテリーは、現在、携帯電子機器用エネルギー貯蔵媒体の主要な形態であり、ハイブリッドおよび電気自動車などの新たな応用分野で、それらの需要がさらに増大する可能性がある。したがって、リチウムイオンバッテリー用に改善された材料構成要素が引き続き求められており、そのような構成要素の1つがバッテリーカソードである。新しい電極材料には、それらのコストをおそらくは低減させながら、リチウムイオンバッテリーの容量、レート特性、サイクル特性、および安全性を増大させる可能性がある。
LiCoO、LiFePO、およびLiMnなどの現行の電極材料は、金属当たり0.5〜1 Liしか移動させない。
精力的な研究努力は現在、高エネルギー密度、低コスト、および高い安全性を有する新しいLiイオンバッテリーカソード材料を見出すことに、集中している。リン酸鉄カンラン石LiFePOの高い熱安定性およびレート特性により、リン酸系カソード材料がバッテリー業界からかなりの注目を集めている。しかし現行のリン酸塩電極材料は、比エネルギーおよびエネルギー密度に関して制限に直面しており、高エネルギー密度のリン酸系カソードが非常に求められている。
カソードのエネルギー密度は、2つのパラメーター:電圧と容量との積である。したがって、より高い電圧を有するがリン酸鉄に類似した容量を有する材料を求めることは、エネルギー密度を改善する1つのストラテジーである。これは例えば、LiFePOに類似した容量でより高い電圧を提供するLiMnPOに、強い興味が持たれる理由であるが、残念ながらLiMnPOは不十分なレート性能を示す。
しかし一般に、電圧の増大は、電解質の分解(商業用電解質は、4.5V付近までしか安定ではない)に関していくつかの問題をもたらす可能性があり、より高い電圧材料は、一般に充電状態でより低い固有の熱安定性を有し、それが安全性に関する問題を引き起こす。提案された代替のストラテジーは、より高い容量を有するリン酸塩材料を見出すことである。しかし、電気化学的プロセス中に遷移金属当たり1つのリチウムを交換するリン酸塩材料の容量は本質的に限定され、カンラン石LiFePOは既に、最も高い容積および重量容量を有する1電子リン酸塩カソードの中にある。
リン酸塩系カソードの容量を増大させる別の選択肢は、多電子系(即ち、活性遷移金属当たり複数のリチウムをサイクルさせ得る材料)を使用することである。しかし、有機電解質の安定性ならびにカソードの構造安定性に起因した動作電圧に対する制約が、この目標に到達するのを難しくしている。実用的な多電子レドックス対の選択は、リン酸塩に限定される。リン酸塩で最も一般的な、+2/+4 2電子レドックス対の場合、+3/+4電圧は現行の電解質(例えば、Fe、Mn、Coなど)には高過ぎ、または+2/+3対は電圧が低過ぎる(例えば、VおよびMo)。この電圧の制約は、実際の使用から、+2/+4対で使用することができる多くの潜在的なリン酸塩系構造を除外する。
上記にて論じたように、LiCoO、LiFePO、およびLiMnなどの現行の電極材料は、限定された容量、限定された安全性、限定された安全性、限定されたレート特性、および高コストがいくらか入り混じった問題を免れない。現行の材料よりも大きい容量、安全性、レート特性、および安定性を有するがそれでも商業生産で実現可能な電極材料が、求められている。
一般に本発明は、電極材料、例えば高密度、低コスト、および高い安全性の新規なカソード材料に関する。挿入および脱リチウム化においてリチウムに順応できることが公知の結晶構造の、異なる遷移金属の混合に基づく電圧設計のストラテジーを、本明細書に提示する。+2/+3対上で活性な金属(例えば、Fe)と、+3/+5または+3/+6対上で活性な元素(例えば、VまたはMo)とを混合することによって、高容量多電子カソードが、適切な電圧ウィンドウ内に設計される。混合のストラテジーは、LiMPピロリン酸塩、ならびにLiMPO(OH)およびLiM(PO)Fタボライトとその他の適切な材料に、適用可能である。カソード材料として問題となっているいくつかの新しい化合物が、同定される。これらの材料の実験実施例の、首尾良くなされる調製および試験について、本明細書に記述する。
本明細書で論じられるいくつかの実施形態は、商業用電解質の電圧安定性ウィンドウ内で活性な多電子材料に関し、この材料は、+2/+4対を活性化させるために適切な部位を保有する結晶構造の2種の遷移金属を混合することによって、調製される。2から4.5Vの電圧ウィンドウ内で活性な+2/+3対を有する1種の遷移金属(例えば、Co、Fe、Mn、またはCr)と、VまたはMo(電圧<4.5Vの場合に+5または+6まで活性化することができる)とを混合することにより、第1の元素の+2/+3対ならびに第2の元素の+3/+5または+3/+6対を活性化する可能性を有する化合物が形成される。遷移金属当たり複数のリチウムを、より高容量をもたらす本明細書で論じられるいくつかの実施形態による化合物と交換してもよい。本明細書で論じられるいくつかの実施形態は、LiFePOよりも潜在的に高いエネルギー密度と魅力的な電圧とを有する新規な混合化合物に関する。
本発明は、本明細書に記述される電極材料を調製する方法にも関する。改善されたエネルギー密度および電圧を有する新規な化合物をもたらす合成技法を、本明細書に提示する。
本明細書に記述される一態様は、一般式LiM’X(式中、Mは、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;M’は、群[Mo、V]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;Xは、リン酸塩を含む化学基であり;x+yは、0.9から1.1の間の値を有し;aは、0から2x+yの間の値を有する)の化合物に関する。
いくつかの実施形態では、一般式LiM’Xの化合物は、少なくとも部分的に結晶質形態にある。いくつかの実施形態では、化合物は、同じ結晶構造のMとM’の両方を有する結晶を含む。いくつかの実施形態では、結晶は、一般式とほぼ同じである式を有する。
いくつかの実施形態では、aが0.9から1.1の間の値を有する。いくつかの実施形態では、x+yが1の値を有する。いくつかの実施形態では、xが0.3から0.7の間の値を有する。いくつかの実施形態では、xが約0.5の値を有する。
いくつかの実施形態では、Mは、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの単一元素である。いくつかの実施形態では、M’は、[Mo、V]からの単一元素である。いくつかの実施形態では、Xは、P、POF、もしくはPO(OH)、またはこれらの化学基の混合物である。
いくつかの実施形態では、M’がバナジウムであり、xおよびyが共に0.5の値を有し、Mがコバルトであり、XがPOFまたはPO(OH)である。いくつかの実施形態では、M’がモリブデンであり、xおよびyが共に0.5の値を有し、Mが、[Co、Ni、Zn、Mg]からの単一元素であり、XがPOFである。
本明細書に記述される別の態様は、上記段落に記述される態様および/または実施形態のいずれかによる化合物(例えば、一般式LiM’X(式中、Mは、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;M’は、群[Mo、V]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;Xは、リン酸塩を含む化学基であり;x+yは、0.9から1.1の間の値を有し;aは、0から2x+yの間の値を有する)の化合物)を含有する電極を有する、再充電可能なバッテリーに関する。
本明細書に記述される別の態様は、電気化学セルの電極の製造に使用される調合物に関し、この調合物は、上記段落に記述される態様および/または実施形態のいずれかによる化合物(例えば、一般式LiM’X(式中、Mは、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;M’は、群[Mo、V]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;Xは、リン酸塩を含む化学基であり;x+yは、0.9から1.1の間の値を有し;aは、0から2x+yの間の値を有する)の化合物)を含む。いくつかの実施形態では、調合物の電極が正極であり、電気化学セルが再充電可能なバッテリーでありまたは再充電可能なバッテリーの部分を形成する。
本明細書に記述されるさらに別の態様は、上述の態様および/または実施形態のいずれかによる化合物(例えば、一般式LiM’X(式中、Mは、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;M’は、群[Mo、V]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;Xは、リン酸塩を含む化学基であり;x+yは、0.9から1.1の間の値を有し;aは、0から2x+yの間の値を有する)の化合物)の使用に関する。いくつかの実施形態では、電極が正極であり、電気化学セルが、再充電可能なバッテリーでありまたは再充電可能なバッテリーの部分を形成する。いくつかの実施形態では、使用方法は、電気エネルギーの貯蔵を対象とする。
本明細書に記述される別の態様は、上述の態様および/または実施形態のいずれかによる化合物を調製するための方法に関し、原子Mおよび原子M’は、Li原子の供給源およびリン酸塩含有化学基の供給源と一緒になり、反応して、化合物(例えば、一般式LiM’X(式中、Mは、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;M’は、群[Mo、V]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;Xは、リン酸塩を含む化学基であり;x+yは、0.9から1.1の間の値を有し;aは、0から2x+yの間の値を有する)の化合物)を形成する。
いくつかの実施形態では、所望の割合にあるM、M’、Li、およびリン酸塩の混合水溶液を調製し、その後、この水溶液を高温高圧条件に供して化合物を形成させる。
いくつかの実施形態では、高温は200℃よりも高く、高圧は、その温度での水の蒸気圧に等しいか高い。いくつかの実施形態では、Mの1種またはいくつかの固体塩と、M’の1種またはいくつかの塩とがLiPOと一緒になって、ひとまとめにボールミリングされ、その後、ボールミリングされた混合物の温度を高温まで上昇させる。いくつかの実施形態では、高温が少なくとも700℃である。
いくつかの実施形態では、Mの1種またはいくつかの固体塩が、Mの酸化物またはフッ化物であり、M’の1種またはいくつかの固体塩が、M’の酸化物またはフッ化物である。いくつかの実施形態では、混合物の温度が前記高温にまで上昇した後、混合物から不純物を除去するために、得られた材料を溶媒による処理に供する。
いくつかの実施形態では、化合物が熱力学的に安定である。いくつかの実施形態では、熱力学的安定性は、「Chemistry of Materials、2008年、20巻、1798〜1807頁」に記載される方法により評価し、それによれば化合物は、前記方法から得られた「閉包上方エネルギー」というパラメーターが0に等しい場合に熱力学的安定であるとみなされる。
いくつかの実施形態では、化合物は、2Vから4.5Vの間の電圧で、化合物の分子当たり2x+yのリチウム原子を交換することが可能である。
いくつかの実施形態では、化合物は、ドーパントも含む。いくつかの実施形態では、ドーパントは、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、チタン、銅、銀、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、クロム、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、フッ素、硫黄、イットリウム、タングステン、ケイ素、および鉛からなる群から選択される。上記実施形態の元素に関する記述は、本発明のこの態様にも同様に適用することができる。
いくつかの実施形態では、化合物は、[LiFe0.50.5(PO)F、LiCo0.50.5(P)、LiFe0.5Mo0.5(PO)F、LiMn0.5Mo0.5(PO)(OH)、LiMn0.50.5(PO)F、LiMn0.50.5(PO)(OH)、LiMn0.5Mo0.5(PO)F、LiZn0.5Mo0.5(PO)F、LiMg0.5Mo0.5(PO)F]からなる群から選択されるメンバーである。
本発明の目的および特徴は、以下に示す図面および特許請求の範囲を参照することによって、より良く理解することができる。図面は、必ずしも正しい縮尺にあるわけではなく、代わりに、本発明の原理を示すことに、概して重点を置いている。図面では、同様の符号は、様々な図の全体を通して同様の部分を示すのに使用される。
本発明は、特定の実施例および特定の実施形態を参照しながら本明細書において特に図示され記述されるが、当業者なら、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形および詳細に様々な変更を行ってもよいことを理解すべきである。
図1は、リン酸塩中の種々のレドックス対に関する、平均速度対容量のプロットである。電圧は、ハイスループットGGA+U計算を通して計算的に得たが、容量は、実現可能な最大容量に該当する。この図は、Hautierら、Chemistry of Materials 2011年、23巻、3945〜3508頁から再現される。
図2は、LiM(P)(三角形)、LiM(PO)F(ダイヤモンド形)、およびLiM(PO)(OH)構造(円形)で活性な種々のレドックス対に関して計算された電圧のプロットである。リン酸塩(即ち、P5+イオンを含有する化合物)の脱リチウム化に関する平均電圧も、黒色十字形によって示される。図2の中央の破線は、商業用電解質での近似電圧安定性限界を示す。
図3は、遷移金属混合ストラテジーのスキームである。LiM(P)の遷移金属部位でのMnとVとの混合が、例として示される。全ての例示される電圧値は、GGA+U計算からのものである。
図4は、純粋および混合化合物(LiM0.50.5X(但し、X=P、PO(OH)、またはPOF))に関する、電圧対容量のプロットである。タボライトLiMPOFはダイヤモンド形のマークで示され、LiMPO(OH)は円形のマークで示され、LiMPは三角形のマークで示される。単一遷移金属化合物は、それらの遷移金属によりマークされ、混合化合物は、破線により分離された2種の混合遷移金属(例えば、Fe−V、Mn−V)によってマークされる。比エネルギーの等値線は、図4において3本の曲線として示される。図4では、電圧プロファイルがいくつかの電圧ステップを含有する場合に平均電圧をプロットした。特定の電圧ステップは、以下の表2で得ることができる。
図5は、純粋および混合化合物(LiM0.5Mo0.5X(但し、X=P、PO(OH)、またはPOF))に関する電圧対容量のプロットである。タボライトLiMPOFはダイヤモンド形のマークで示され、LiMPO(OH)は円形のマークで示され、LiMPは三角形のマークで示される。単一遷移金属化合物は、それらの遷移金属によりマークされ、混合化合物は、破線により分離された2種の混合遷移金属によってマークされる。比エネルギーの等値線は、図5において3本の曲線として示される。図5では、電圧プロファイルがいくつかの電圧ステップを含有する場合に平均電圧をプロットした。特定の電圧ステップは、以下の表3で得ることができる。
図6は、いくつかの公知のカソード材料の充電状態(黒色四角形)と、提示された混合遷移金属化合物(LiM(PO)F化合物に関してはダイヤモンド形、LiM(PO)(OH)に関しては円形、LiMPに関しては三角形)とに関する、臨界酸素化学ポテンシャル対理論的比エネルギーのプロットである。公知の化合物は、LiMnスピネル、LiMnPO、およびLiFePOカンラン石、LiFeSOFタボライト、層状化LiCoOおよびLiNiOである。酸素放出に関して高酸素化学ポテンシャルを有する材料は、熱的により不安定である。図6に示される全ての結果は、GGA+U計算からのものである。黒色破線は、ビジュアルガイドである。このビジュアルガイドの右にある新しい材料は、公知の材料に比べて充電状態での熱安定性および比エネルギーが改善されることを示す。
特許請求の範囲に記載される発明の装置、物品、方法、およびプロセスは、本明細書に記述される実施形態からの情報を使用して開発された変形例および適応例を包含することが企図される。本明細書に記述される装置、物品、方法、およびプロセスの適応および/または修正は、当業者が行うことができる。
明細書全体を通して、装置および物品が特定の構成要素を有する(having)、含む(including)、もしくは含む(comprising)と記述される場合、またはプロセスおよび方法が特定のステップを有する(having)、含む(including)、もしくは含む(comprising)と記述される場合、さらに、列挙される構成要素から本質的になる、または列挙される構成要素からなる本発明の装置および物品があり、かつ列挙される処理ステップから本質的になる、または列挙されるステップからなる本発明によるプロセスおよび方法があることが企図される。
ステップの順序またはある動作を行うための順序は、本発明が実施可能なままである限り重要ではないことを、理解すべきである。さらに、2つ以上のステップまたは動作を同時に実行してもよい。
本明細書において、例えば背景技術のセクションで任意の刊行物について述べている内容は、その刊行物が、本明細書に提示される特許請求の範囲のいずれかに関する従来技術として働くことを認めたものではない。背景技術のセクションは、明瞭にするために提示され、任意の特許請求の範囲に関する従来技術の記述であることを意味しない。
本紙において、商業用電解質の電圧安定性ウィンドウで活性な多電子材料を設計するためのストラテジーは、+2/+4対を活性化するための適切な部位を保有する結晶構造の2種の遷移金属を混合することによる。2から4.5Vの電圧ウィンドウで活性な+2/+3対を有する1種の遷移金属(例えば、Co、Fe、Mn、またはCr)と、VまたはMo(電圧<4.5Vで、+5または+6まで活性化することができる)とを混合することにより、第1の元素の+2/+3対ならびに第2の元素の+3/+5または+3/+6対を活性化する可能性を有する化合物を形成することができる。したがって遷移金属当たりの複数のリチウムを理論上は交換することがき、より高い理論容量をもたらすことができる。
混合ストラテジーとそのいくつかのリン酸塩系構造への適用を詳述した後、従来技術のアブイニシオ計算(Nanjundaswamy, K.ら、Solid State Ionics 1996年、92巻、1〜10頁、およびCeder, G.ら、MRS Bulletin 2011年、36巻、185から191頁)を使用して、それら設計された化合物の安定性および電圧、ならびにそれらの理論的比エネルギー、エネルギー密度、および充電状態での熱安定性の計算を行う。この分析から、LiFePOよりも潜在的に高いエネルギー密度を有しかつ魅力的な電圧を有するいくつかの新規な混合化合物について論じ、提示する。
全てのアブイニシオ計算は、Perdew−BurkeおよびErnzerhof(PBE)(Perdew, J.ら、Physical Review letters 1996年、77巻、3865〜3868頁)によってパラメーターで表された一般勾配近似(GGA:generalized gradient approximation)汎関数を使用して、密度汎関数理論(DFT:density functional theory)フレームワークで行った。遷移金属Fe、Cr、Co、Mn、V、およびMoには、Uパラメーターが割り当てられて、GGAに存在する自己相互作用誤差を補正した。このUパラメーターを、Wangら(Wang,L.ら、Physical Review B 2006年、73巻、195107頁;およびKubaschewski, O.ら、Thermochemical Data In Materials Thermochemistry、6版;Pergamon Press、1993年;5章、257〜323頁)の手法に従って、Kubaschewski表からの実験2元酸化物形成エネルギーに当て嵌めた。
コバルトの場合、5.7eVのUを使用した。全ての化合物は、少なくとも500/(単位セル中の原子数)k点のk点密度を有するそれらの強磁性状態で初期状態にした。フルオロ−タボライトに関する先の研究(Mueller, T.ら、Chemistry of Materials 2011年、23巻、3854〜3862頁)と、LiMPO(OH)およびLiMP(但し、x=0、1、2、およびM=Mn、Fe、Co、V、Mo、Cr)に関する反強磁性計算は、反強磁性および強磁性構造の間のエネルギーの差が小さいことを示した(7meV/原子未満)。
Vienna アブイニシオソフトウェアパッケージ(VASP:Vienna ab initio software package)を、平面補強波(PAW:plane−augmented wave)擬ポテンシャルと共に使用した。計算は、数meV/原子以内で収束することを予測した。全てのVASP計算は、AFLOWコード(Curtarolo, S.ら、Computational Materials Science 2012年、58巻、227〜235頁)を使用して実行し、ハイスループットアブイニシオ方法論およびパラメーターに関するさらなる詳細は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるJainら、Computational Materials Science 2011年、50巻、2295〜2310頁に見出すことができる。
熱力学的安定性は、アブイニシオ計算総エネルギーを使用して評価した。任意の相の安定性は、その他の相を、その他の相または凸閉包構造を使用して同じ組成をもたらす相の線形組合せと比較することによって評価した。安定性分析は、ICSDデータベースに存在する全ての化合物と、Hautier, G.ら、Chemistry of Materials 2011年、23巻、3945〜3508頁で予測されるひと組のリン酸塩とに対して行った。GGAおよびGGA+U計算は、Jainらの方法論(Jainら、Physical Review B 2011年、84巻、045115頁)を使用して組み合わせた。任意の化合物の安定性は、化合物の分解エネルギーの大きさを示す、閉包上方エネルギーを評価することによって定量した。閉包上方エネルギーは、常に正であり、化合物が分解してひと組の代替相になる熱力学的駆動力を測定する。熱力学的に安定な化合物は、安定相の凸閉包の部分であるので、0meV/原子の閉包上方エネルギーを有する。
材料からのリチウムの抽出に関連したリチウム金属アノードに対する電圧は、Aydinolら、J. Physical Review B 1997年、56巻、1354〜1365頁に提示される方法論を使用して計算した。電圧に対するエントロピーの関与は無視した。
リチウムの特定の秩序化(即ち、部分的な脱リチウム化)がわかっていない場合、Hartら、Physical Review B 2008年、77巻、224115頁により開発されたものに類似した列挙秩序化アルゴリズムを使用し、最も低い静電エネルギーに関連した秩序化が、同参考文献におけるEwald sumにより計算されたものになるよう選択した。
ポテンシャルリチウム挿入部位は、静電位モデルによって生成したポテンシャルエネルギー表面の稠密グリッドサーチを使用して明らかにした。このポテンシャルモデルは、結合原子価法から誘導され、Adams, S.およびRao, R.P.、Physical chemistry chemical physics: PCCP 2009年、11巻、3210〜6頁により最近開発されたものに類似している。
安全性または熱安定性は、酸素気体の発生を経て平衡時に化合物を分解するのに必要な酸素化学ポテンシャルを評価することによって、Ongら、Electrochemistry Communications 2010年、12巻、427〜430頁にあるように計算した。この手法は平衡プロセス、および酸素気体のみからの反応に対するエントロピー寄与を想定している。酸素化学ポテンシャル参照(μO=0meV)は、JANAF表で作表された酸素のエントロピーと、Wangら、Physical Review B 2006年、73巻、195107頁およびChase, M. W.、NIST−JANAF Thermochemical Tables; American Institute of Physics: Woodbury、NY、1998年から得た当て嵌められた酸素分子エネルギーとに従って、298Kで空気になるように選択した。酸素化学ポテンシャル範囲(この参照に対して)は、Hautierら、Chemistry of Materials 2010年、22巻、3762〜3767頁の補足情報において、典型的な2元酸化物の場合に見出すことができる。
2電子対に関する単一(singe)遷移金属リン酸塩の限界
図1は、1電子カソードの場合にリン酸塩で実現可能な最大重量容量に対する、比較的安定な化合物の脱リチウム化から予測される計算された平均電圧を示す。各データ点はレドックス対に対応し、約4.5Vの商業用電解質の安定性の限界は、水平破線として示す。イソ特異的エネルギー(600Wh/kgおよび800Wh/kg)の破線も図示する。最も一般的なリン酸塩カソード材料、LiFePOカンラン石は、約600Wh/kgの比エネルギーを有する。
図1から、1電子リン酸塩カソードでLiFePOの重量容量(即ち、170mAh/g)を打ち負かすことが難しくなることを観察することができる。比エネルギーの増大は、LiFePOに類似した容量およびそれよりも高い電圧を有するが妥当な範囲に電圧を保持する電極を使用することによって実現することができる。Mn2+/Mn3+対は、この目的に理想的な標的であるが、LiMnPOは満足のいく電気化学性能を商業化できるようにすることがまだ実証されていない。
LiNiPOおよびLiCoPOなどのその他のカンラン石系材料は、4.5Vよりも著しく高い電圧を示すが、電極の安定性および充電カソードの高酸化強度により限定される傾向がある。比エネルギーを上昇させる代替のストラテジーは、多電子系を使用することである。図1から、+2/+4対を見出すのが難しくなる可能性があり、そのために+2/+3および+3/+4対が共に3から4.5Vウィンドウで活性になることを観察することができる。所与の元素では、+2/+3対が問題となるが、+3/+4対は電圧が高過ぎる傾向があり(例えば、Fe、Mn、Co、またはCr)、または+3/+4対は4.5Vよりも低くなるが、+2/+3対は非常に低くなる(例えば、VおよびMo)。
この電圧の問題は、高容量+2/+4リン酸塩系カソード(例えば、LiFeP、LiMnP、LiFePOF、およびLiCoPOF)の開発における、基本的な難題の1つである。ある稀な結晶構造においてのみ、Mn3+/Mn4+対は、最近提示されたLiMn(CO)(PO)カルボノリン酸塩(例えば、Hautier, G.ら、Physical Review B 2012年、85巻、155208頁;Chen, H.ら、Chemistry of Materials 2012年、24巻、2009〜2016頁;およびChen, H.ら、Journal of the American Chemical Society 2012年、134巻、19619〜19627頁)のように4.5Vよりも低い電圧で活性とすることができる。
一方、バナジウムおよびモリブデン系化合物は、1電子対としてより低い最大重量容量であることを免れないが、リン酸塩(即ち、Mo3+/Mo6+およびV3+/V5+)では3から4.5Vの電圧ウィンドウ内で多電子活性に関する独自のポテンシャルを有する。いくつかの先の研究は、バナジウムの化学的性質(例えば、Li(PO NASICON、LiV(PO、およびLi(P(PO、但しM=VまたはMo)に焦点を当てたが、高容量、高速かつ高度可逆性Li抽出および挿入を可能にする結晶構造を有するバナジウムまたはモリブデン系2電子カソードは、まだ見出されていない。
LiMX化合物(但しX=POF、PO(OH)、またはP)の、計算による電圧および安定性
リン酸塩における+2/+3対と+3/+4対との間の電圧の不一致は、+2/+3対を使用した可逆的リチウム挿入ならびに+3/+4対を使用した脱リチウム化に関して電気化学的に活性であることが示されたいくつかの公知のリン酸塩系結晶構造が、実際の適用から除外されるので、残念なことである。一般式LiMX(但し、XはPOF、PO(OH)、またはPであり、Mはa+3レドックス活性金属である)の、挿入中にかなりの量のLiを収容することが示され(LiMX+xLi→Li1+xMX)、ならびに大きな構造不安定性なしにトポタクティック脱リチウム化を可能にする(LiMX→Li1−yMX+yLi)いくつかの結晶構造がある。フルオロリン酸塩タボライトLiMPOFに関し、可逆的プロセスは、挿入反応については鉄、チタン、およびバナジウムの形で、脱リチウム化ではチタンおよびバナジウムの形で実証された。同様に、タボライトヒドロキシリン酸塩LiM(PO)(OH)は、最近になって鉄の形で示されたように1つのLiを挿入することができ(Padhi, A.ら、Electrochem. Soc. 1997年、144巻、1609〜1613頁)、適切な+3/+4対の場合には、脱リチウム化して1つのLiを除去することができる。一方、LiMP構造は、LiFeP、LiTiP、およびLiVPで、遷移金属当たり0.5Liを挿入する場合に電気化学的に活性であることが公知である。さらに、Barkerら、Electrochemical and Solid−State Letters 2005年、8巻、A285頁は、LiVPからの完全に可逆的なリチウムデインターカレーションを実証した。これら3つの構造は、挿入および脱リチウム化に適切なLi部位を有しかつ高い理論容量をもたらすことができるが、遷移金属当たり2つの部位を使用することができる場合(最大で、LiM(P)の場合は224mAh/g、LiM(PO)(OH)の場合は302mAh/g、LiM(PO)Fの場合は299mAh/g)、+2/+3および+3/+4対の電圧の不一致により、この大容量をこれまでは送出することができなかった。
図2は、タボライトLiM(PO)F(ダイヤモンド形)、LiM(PO)(OH)(円形)、およびピロリン酸塩LiM(P)(三角形)での一般的なレドックス対に関する、計算による電圧を示すことによって、それらの構造における電圧不一致を示す。
MoおよびV以外の全ての元素に関し、+3/+4対は、全ての構造においてその電圧が高過ぎる。一方、バナジウムおよびモリブデンは、それらの+2/+3対に関して非常に低い電圧を示し、純粋なバナジウムまたはモリブデン化合物は低い平均電圧で動作するようになり、このとき2つの対の間には非常に重要な電圧ステップがある。リン酸塩の大きいプール(即ち、Li−M−P−O化学系(但し、Mはレドックス活性元素)に属する化合物)で得られた平均電圧も、図2において黒色十字形によって示され、計算された電圧も以下の表1に示される。
1電子の挿入(Li>Li)および1電子の除去(Li>Li)に関する、計算された電圧を表1に示す。既に存在する実験情報がICSDに示される場合、ICSD参照番号が提示される。対応するエントリーがICSDにはないが文献または特許からの情報にある化合物の場合、関連ある文書が参照される。参照45は、Barker, J.ら、Journal of The Electrochemical Society 2003年、150巻、A1394頁を指す。参照47は、Ramesh, T. N.ら、Electrochemical and Solid−State Letters 2010年、13巻、A43頁を指す。ICSDは、LiFe(PO)Fエントリーを指すが、このエントリーは、計算論文およびLiFe(PO)Fの脱リチウム化構造からのものである。参照53は、Barker, J.ら、Lithium Metal Fluorophosphate and preparation thereof、2007年を指す。
図2は、考えられる種々の構造の中での、電圧のいくつかの傾向を示す。全ての+2/+3対の場合、ピロリン酸塩(三角形)が最も高い電圧を有し、その後にフルオロリン酸塩(ダイヤモンド形)、およびヒドロキシリン酸塩(円形)が続く。フルオロリン酸塩は、フッ素の影響によって電圧がより高くなることが予測され、ピロリン酸塩(P基)は、オルトリン酸塩(PO基)よりも僅かに高い電圧を有することが既に示されている。図2に見られるように、+2/+3対は、先のハイスループット研究(図2の黒色十字形)で与えられた平均値よりも、電圧が全て低い。これは、+2/+3対を使用した安定な+2化合物の脱リチウム化からのものである、Hautier, G.ら、Chemistry of Materials 2011年、23巻、3945〜3508頁の平均値と矛盾せず、一方、本明細書で論じられるいくつかの実施形態による+2/+3電圧は、安定な+3化合物への挿入によって得られる。電圧は、充電(脱リチウム化)状態と放電(リチウム化)状態との間のエネルギーの差に正比例するので、それらの充電状態で安定な化合物は、同じレドックス対に関し、放電状態で安定な化合物よりも低い電圧を示すことになる。
計算された電圧は、報告された電気化学的測定がなされたいくつかの化合物に関する実験と比較することができる。LiM(P)構造への挿入は、バナジウムに関しては2.0Vで(Uebou, Y. Solid State Ionics 2002年、148巻、323〜328頁)、鉄に関しては2.9Vで(Padhi, A.ら、J. Electrochem. Soc. 1997年、144巻、1609〜1613頁)の実験により報告されている。これらの実験により報告された値は共に、それぞれ2.0Vおよび3.1Vの本明細書での計算値に一致する。LiV(P)化合物の脱リチウム化は、一方で、4.1Vと4.0Vとの間で報告されている。これは計算値3.8V(Barker, J.ら、Electrochemical and Solid−State Letters 2005年、8巻、A285頁)よりも僅かに高い。
ピロリン酸塩の、マンガンを含む形LiMn(P)は公知であるが、電気化学的性質はこれまで、この材料に関して報告されてこなかった。ピロリン酸クロム、LiCr(P)は、3.1Vから3.5Vの間のCr/Cr対に関して電気化学的に活性であることが報告され(Bhuvaneswari, G. D.; Kalaiselvi, N. Applied Physics A 2009年、96巻、489〜493頁)、これは計算(5V)に一致していない。しかし実験研究は、電気化学的プロセスがトポタクティック挿入の結果であることを証明しなかった。Marxら(Dalton transactions(Cambridge, England : 2003年)2010年、39巻、5108〜5116頁)は、現在の計算値2.4Vに一致する、2.6Vから2.3Vの間でのLiFe(PO)(OH)への挿入を測定し、脱リチウム化に関しては4.7Vまで活性は報告されず(Fe/Fe対の活性化)、これは現在の計算値5Vにも一致している。
鉄を含む形は、報告された電気化学的測定値を持つヒドロキシリン酸塩タボライトのみである。バナジウムLiV(PO)(OH)は、Barkerらの米国特許第6,964,827号によりカソードとして特許付与されているが、この材料に関する報告は、科学文献に提示されていない。脱リチウム化または挿入の報告は、公知のLiMn(PO)(OH)に関して見出されておらず;リチウム拡散測定のみが存在する(例えば、Aranda, M.ら、Angewandte Chemie International Edition in English 1992年、31巻、1090〜1092頁; Aranda, M.ら、J. Solid State Ionics 1993年、65巻、407〜410頁;およびAranda, M. Journal of Solid State Chemistry 1997年、132巻、202〜212頁により明示される)。研究された3つのファミリーから、フルオロリン酸塩タボライトははるかに、バッテリー業界から最も関心を集めるものである。
Rameshら(Electrochemical and Solid−State Letters 2010年、13巻、A43頁)は、現在の計算値2.8Vに一致する2.9Vでの、LiFe(PO)Fへの電気化学的Li挿入について報告した。バナジウムタボライトLiV(PO)Fの電圧は、脱リチウム化の場合には4.2Vで、挿入の場合には1.8Vで測定した。挿入の値は計算値1.7Vに近いが、脱リチウム化に関して計算された電圧は実験値よりも0.4V少なく見積もられ、これは通常のGGA+U誤差よりも大きい。本明細書で実験により得られた全ての値は、Mueller, Tら、Chemistry of Materials 2011年、23巻、3854〜3862頁に論じられたタボライトに関する先の計算作業に矛盾していない。
Li挿入で格子間部位を設けかつリチウム除去後に安定性を与えることに加え、タボライトLiM(PO)FおよびLiM(PO)(OH)ならびにLiM(P)構造は、非常に一般的でありかつほぼ任意の+3レドックス活性遷移金属に関して安定である。表1は、問題となっている3つの構造のV、Mn、Cr、Fe、Co、およびMoに関し、閉包上方エネルギー(即ち、0Kで、より安定な相に分解するエネルギー)を示す。これらの化合物のいくつかは、無機結晶構造データベース(ICSD)に存在せず、以前は決して合成することができなかったが、それらの全ては、その他の相への分解から10meV/原子以内にあり、これは典型的なDFT誤差の十分範囲内にある。
理論容量を増大させるための遷移金属混合ストラテジー
いくつかの実施形態では、混合ストラテジーの裏にある特に興味のある考えは、良好なインターカレーションカソードであることが公知の結晶構造を持つLiM0.5M’0.5X化合物(但し、X=P、PO(OH)、またはPOF、M=Fe、Mn、Cr、またはCo、M’=VまたはMo)を形成することである。十分高い電圧で+2に還元され得るイオン種(M=Fe3+、Mn3+、Cr3+、またはCo3+)と、4.5Vよりも低い電圧で+3から+5または+6のいずれかに酸化されることが可能な(図2参照)イオン種(M’=V3+またはMo3+)とを混合することにより、1種の活性元素からなる化合物の場合よりも高い容量を実現することができる。事実、V3+およびMo3+が中程度の電圧で最大V5+およびMo5+まで酸化する可能性を使用して、LiM0.5M’0.5X固溶体の完全なデインターカレーションを:
Li(M3+0.5(M’3+0.5X→(M3+)0.5(M’5+0.5X+Li (1)
により予測することができる。
さらに、M3+種の還元を経たリチウム挿入は:
Li(M3+0.5(M’3+0.5X+0.5Li→Li1.5(M2+0.5(M’3+0.5X (2)
により依然可能である。
完全反応は、遷移金属当たり1.5電子の交換に該当し、1電子対を使用した場合よりも高い最大理論容量(最大227mAh/g)を達成可能にする。このストラテジーは、これらの構造が、単一金属で作製された場合にM2+/M3+/M4+陽イオンを収容するだけであるが遷移金属は適切な+2/+3および+3/+4レドックス対を持たないという問題に対処する。VまたはMoの高電圧2電子レドックス活性と+2/+3対の単一電子とを組み合わせることにより、妥当な電圧範囲で高容量を実現することができる。
混合プロセスを、例としてLiM(P)に関して図3に示す。個々にマンガンおよびバナジウム化合物は、限定有効容量を有することを免れない。マンガン化合物LiMn(P)からの脱リチウム化は、非常に高い電圧(4.7V)を必要とし、したがって化合物は、113mAh/gの限定有効容量を有する(Mn2+/Mn3+対を使用した1つのLiの挿入による)。一方、LiV(P)は、理論上、バナジウム当たり1つのLiを挿入かつ除去することができた。しかし、挿入プロセスは低電圧で行われ、2電子容量を重要な電圧ステップ(1.8V)でかつ低い平均電圧(2.9V)で再充電可能(reachable)にするだけである。これらの特徴は共に、実際のバッテリーカソードに有害である。MnとVとを遷移金属部位上で混合しかつLiMn0.50.5(P)を形成することにより、カソードは、高い理論容量(169mAh/g)、より低い電圧ステップ(0.8V)、およびより高い平均電圧(4V)で設計することができる。Mn2+/Mn3+、V3+/V4+、およびV4+/V5+対を使用することにより、遷移金属当たり1.5電子に該当する理論容量が実現可能である。
まとめると、本明細書で論じられるいくつかの実施形態による混合ストラテジーは、遷移金属当たり多数のリチウムを収容し易い構造フレームワーク、その2+/3+対に関し高電圧で活性な金属(例えば、Mn、Fe、またはCo)、および4.5Vよりも低い電圧で活性な多電子対を有する金属(例えば、VまたはMo)を必要とする。そのような結晶構造にあるそれら2種の活性金属を混合することにより、妥当な電圧範囲で遷移金属当たり複数のリチウムを活性化するカソード材料を設計することができ;これらの材料は、単一金属化合物よりも著しく高い使用可能容量を提供することができる。
(バナジウム系化合物への混合ストラテジーの適用)
上記にて概説した一般的ストラテジーを使用して、M=Cr、Fe、Mn、CoとLiM0.50.5X(但し、X=P、PO(OH)、またはPOF)中のバナジウムとを混合した計算結果を本明細書に示す。図4は、種々の純粋および混合化合物であってLiMPOF(ダイヤモンド形)、LiMPO(OH)(円形)、およびLiM(P)(三角形)結晶構造にあるものの、電圧対容量のプロットを示す。単一遷移金属化合物は、それらの遷移金属によってマークされる。混合遷移金属化合物の平均電圧および容量は、破線により分離された2種の混合遷移金属によってマークされる。比エネルギーの等値線は、600Wh/kg、700Wh/kg、および800Wh/kgがマークされた破線で描かれる。4.6Vよりも低い計算電圧を有しかつ電圧ステップ<2Vである送出可能な容量のみが、図には含まれる。ほとんどの純粋な化合物は、問題となっている比エネルギーに到達するのに十分高い容量を示さず(LiFePOの場合のように、>600Wh/kg)、混合遷移金属化合物は、より高い比エネルギーをもたらすことができる。
2Vから4.5Vの電圧ウィンドウで高い比エネルギーのポテンシャルを有する唯一の単一遷移金属化合物は、LiMn(PO)OH(円形でマークされ、300mAh/gでMn)である。この化合物においてのみ、+3/+4対は電解質の安定性(4.3V)を損なわないよう十分低く、一方、+2/+3対は、2.8Vで比較的高いままである(図2参照)。この公知の材料に関する電気化学試験は、これまで報告されていなかった。構造およびLi拡散実験データのみが現在利用可能である。
ピロリン酸系化合物は、タボライト、フルオロおよびヒドロキシリン酸塩よりも低い容量を示す。これは、POFおよびPO(OH)に比べてP基の電荷と質量との比がより小さいことに起因する。全てのクロム系混合物の場合、Cr2+/Cr3+は、その電圧がV2+/V3+対に非常に近く、したがって純粋なバナジウム系よりも著しく良好に機能しない。電圧、比エネルギー、およびエネルギー密度のデータも、以下の表2に示す。
関心を呼ぶために、提示された混合遷移金属化合物は、合成可能になるようエネルギー的に十分安定であることが必要である。遷移金属の混合は、合成でしばしば使用される高温でのエントロピーの寄与によって促進されることになるが、混合のエネルギー成分を研究することに関心が持たれる。したがって、全ての混合遷移金属化合物に関する閉包上方エネルギーが計算される。閉包上方エネルギーは、0Kでの、より安定な相への可能性ある分解の駆動力を示す。閉包上方エネルギーが高くなるにつれ、材料の安定性はより低減する。0Kで安定な化合物は、0meV/原子の閉包上方エネルギーを有する。表2は、電気化学的性質と共に、それらの原子当たりの閉包上方エネルギーを提供することによって、混合化合物の安定性に関する指標を示す。混合物のほとんどは、類似の結晶構造を形成する遷移金属の混合で予測されるように、比較的低い閉包上方エネルギーがエネルギー的に好ましい。3つの結晶構造全体を通して、安定性が最も低い混合物はマンガン系のものである。MnおよびVの混合に関する好ましくないエネルギー性は、近接するイオン半径を有し(Mn3+高スピンの場合に0.645Å、およびV3+の場合に0.69Å)かつデータマイニングにより示される類似の構造を形成する強い傾向を有する、2つのイオンの場合に非常に驚くべきものである。しかし、所与のMn3+の純粋な形がV3+親化合物と等構造であるとしても、Mn3+の強力なJahn−Teller活性が、両方の金属が1つの構造内で混合されたときにV3+の周りに8面体の大きな歪みエネルギーをもたらすことが可能である。
混合化合物中の遷移金属の価電子状態は、バナジウムおよびその他の遷移金属上での磁気モーメントを計算することによって検証した。コバルト系化合物を除く全ての場合、バナジウム上の磁気モーメントは約1.9μBであり、V3+酸化状態であることを示した。コバルトの場合、バナジウム上のより低い磁気モーメントは、V3+−Co3+ではなくV4+−Co2+混合物を示した。したがってコバルト系化合物は、脱リチウム化:
Li(Co2+0.5(V4+0.5X→(Co3+0.5(V5+0.5X+Li (3)
の最中にV4+/V5+およびCo2+/Co3+対を酸化することによって反応し、リチウム挿入:
Li(Co2+0.5(V4+0.5X+0.5Li→Li1.5(Co2+0.5(V3+0.5X (4)
の最中に活性化されたV3+/V4+対を有する。
これは、電圧プロファイルに影響を及ぼし、Co2+からCo3+への活性化であってV4+からV5+への活性化ではないことに起因した、LiCo0.50.5(PO)Fにおける充電プロファイル(4.83V)での非常に高い電圧を説明する。
LiVPOFの、計算されたLi抽出電圧(V3+/V4+を活性化)と実験とを比較すると、GGA+Uは、電圧を低く予測することがわかった(4.2Vの代わりに3.8V)。
モリブデン系化合物への混合ストラテジーの適用
バナジウムと同様に、モリブデンは、その電圧が非常に近接したMo3+/Mo4+対とMo4+/Mo5+対との両方を有し、リン酸塩では4.5Vよりも低い(図1および2参照)。上記論じた混合ストラテジーは、LiM0.5Mo0.5X(但し、X=P、PO(OH)、またはPOF、およびM=Cr、Fe、Mn、Co)の化学的性質に適用した。図5は、種々の純粋なおよび混合化合物であってタボライトLiMPOF(ダイヤモンド形)、LiMPO(OH)(円形)、およびLiM(P)(三角形)構造に関する、電圧対容量のプロットを示す。比エネルギーの等値線(600Wh/kg、700Wh/kg、および800Wh/kg)も描かれている。4.6Vよりも低い計算電圧を有しかつ電圧ステップ<2Vである送出可能な容量のみが、図5に含まれる。バナジウムと同様に、ほとんどの純粋な化合物は、問題となっている比エネルギーに到達するのに十分高い容量を示さず(LiFePOの場合のように、>600Wh/kg)、混合遷移金属化合物は、より高い比エネルギーをもたらすことができる。
より大きな重量のモリブデンは、理論重量容量を、同等のバナジウム系化合物の場合よりも低くする。さらに、モリブデンは、バナジウムよりも低い電圧で活性である。それらの作用は共に、バナジウム化合物よりも低い比エネルギーをモリブデン系化合物に与え、混合ピロリン酸塩は600Wh/kgよりも高い比エネルギーに到達しなかった。しかしMoとVとの差は、容積エネルギー密度に関してはそれほど明確ではない(表2および3)。
混合化合物中の遷移金属の価電子状態を、バナジウムおよびその他の遷移金属上の磁気モーメントを計算することによって検証した。鉄、およびクロムと、モリブデンの混合物は、1.9から2μBの磁気モーメントを示し、Mo3+酸化状態と一致していた。一方、マンガンおよびコバルト化合物は、Mo上の磁気モーメントが約2.8μBであることを示し、これはMo4+酸化状態を示している。脱リチウム化中の磁気モーメントの変化の調査はさらに、Co−Mo化合物の場合にはMoが+6まで酸化され(Coは+2のまま)、一方でMn−Mo混合物の場合にはMoが+5まで酸化され、Mnは+3まで酸化されたことを示し、これはMn2+/Mn3+対に比べ、Co2+/Co3+レドックス対に関連したより高い電圧に一致した。
LiCo0.5Mo0.5(PO)F化合物は、コバルトが活性ではない場合であっても(+2のまま)、関心が持たれるものである。Moが6+まで高次に酸化される可能性を利用することにより、Moの部分をより軽いCoで置き換えることにより、理論重量容量を改善することができる。この代替の設計ストラテジーは、Mg、Zn、またはNiなどのその他の+2イオンにまで拡げることができ、+4−+2混合化合物のいくつかに関する計算データを表4に示す。Niを含む形およびCoを含む形は共に、比エネルギーおよびエネルギー密度に関して非常に関心が持たれているが、非常に高いMo5+/Mo6+対に関連した電圧を有する。興味深いことに、MgおよびZn混合物のより低い安定性(NiおよびCoに比べ)は、Mo4+/Mo6+対に関連した電圧を低下させ、このMo5+/Mo6+電圧によって電解質安定性が損なわれ難くなるようにする。しかし、より低い混合安定性は、混合化合物の合成がより難しくなる可能性がありかつサイクル動作中のカソード分解のリスクがより高くなることを示す。
モリブデンは+6まで酸化できるので、Moは、化合物Li(M3+2/3(Mo3+1/3X(但し、MはFeまたはCrである)が形成されるように還元することができる。Co3+またはMn3+イオンは、Mo3+を酸化する可能性があるので使用することができない。これらの化合物では、+2/+3レドックス対が:
Li(M3+2/3(Mo3+1/3X+2/3Li→Li5/3(M2+2/3(Mo3+1/3X (5)
による挿入で、活性化される。
脱リチウム化プロセスは、Mo3+からMo6+に理論的に活性化することができる:
Li(M3+2/3(Mo3+1/3X→(M3+2/3(Mo6+1/3X+Li (6)
表5は、式LiM2/3Mo1/3X(但し、X=P、PO(OH)、またはPOF、およびM=Cr、Fe)の化合物の、計算された性質を示す。より低い量のモリブデンが、重量容量には好ましい。表5の結果は、Mo5+/Mo6+対が、現行の電解質技術に適合するカソード材料をもたらすことが調査された結晶構造で、非常に高くなり得ることを示す。
高容量リン酸塩系カソードの開発は、適切な電圧で+2/+3および+3/+4レドックス対を共に有する化合物を見出すことの難しさによって、妨げられてきた。一般に、+3/+4レドックス対が4.5Vよりも下にある遷移金属は、+2/+3レドックス対に関して非常に低い電圧を示す傾向がある。したがって、Li挿入(+2/+3レドックス対)およびLi脱挿入(+3/+4レドックス対)を個別に収容することが公知の結晶構造内にあっても、単一金属または金属の混合物を良好な電圧範囲で見出すことは難しかった。本明細書で論じられるいくつかの実施形態は、1種の遷移金属の+2/+3レドックス対が、Vの+3/+5レドックス対またはMoの+3/+5もしくは+3/+6レドックス対のいずれかと組み合わされる新規なストラテジーに関する。1種の金属に関する単一電子プロセスと、その他の金属に関する多電子プロセスとを連結することにより、その全体容量を、良好な電圧(3V〜4.5V)スループットを保ちながら1電子プロセスの場合を超えて増大させることができる。
本明細書に記述される計算分析は、最も開発の進んだリン酸塩カソード材料であるLiFePOよりも著しく高い理論上の比エネルギーおよびエネルギー密度を有する、いくつかの潜在的な新規のカソード材料を明らかにした。表6に、本明細書で論じられたある実施形態による設計ストラテジーによって見出された、最も関心が持たれる化合物のリストを示す。
電圧(4.5V)の保存的カットオフを得ることにより、かつLiFePOよりも著しく大きい比エネルギーおよびエネルギー密度(即ち、>650Wh/kgおよび>2000Wh/l)を有する材料を探すことにより、本明細書に論じられるいくつかの実施形態による電気化学的に活性な元素を混合するストラテジーから、7種の化合物を見出すことができ;2種の化合物は、本明細書に論じられるいくつかの実施形態によりMoと不活性な+2元素との混合を行う代替のストラテジーから得られ、1種の化合物は、既に文献に報告されている。
電圧上限に対する制約が4.6Vまで僅かに緩和(増大)された場合、いくつかの追加の材料に関心が持たれるようになる(例えば、LiCo0.5Mo0.5(PO)F、LiNi0.5Mo0.5(PO)F、LiCo0.50.5(PO)(OH)、LiFe0.50.5(PO)(OH)、およびLiMn0.50.5(P))。
調査された3つの結晶構造ファミリーの中で、LiMPピロリン酸塩は、最も低い比エネルギーおよびエネルギー密度を示した。本明細書に提示される好ましい化合物の大多数は、ヒドロキシ−およびフルオロリン酸塩タボライトである。非混合化合物(表1)では、LiM(PO)F化合物中にフッ素が存在することにより、LiM(PO)OHに比べて脱リチウム化電圧を上昇させ(平均して0.23V)、挿入の場合(LiMX→LiMX)には平均して0.48V上昇させた。フッ素の存在は、そのより高い電気陰性度に起因して電圧を上昇させた。このフッ素の作用は、混合化合物におけるリチウム挿入に関しても観察された(ヒドロキシからフッ素系タボライトまで、平均上昇0.72V)。
脱リチウム化の第1のステップ(LiM0.5M’0.5X→Li0.50.5M’0.5X)では、フッ素タボライトの電圧がヒドロキシ−タボライトの場合よりも0.17V高かった。しかし驚くべきことに、混合化合物での最後の脱リチウム化ステップ(Li0.50.5M’0.5X→M0.5M’0.5X)は、平均してフッ素およびヒドロキシタボライトの場合と同じ電圧で生じることが予測される。フッ素系化合物でのより高い平均電圧は、同等のフルオロリン酸塩を、比エネルギーおよびエネルギー密度に関してしばしば関心が持たれるものにする。例えば、LiFe0.5Mo0.5(PO)FおよびLiFe0.5Mo0.5(PO)OHを比較すると、フルオロリン酸塩化合物は、挿入および第1の脱リチウム化ステップでのより高い電圧のため、より高い比エネルギーおよびエネルギー密度を提供する。当然ながら、合成条件、サイクル特性、またはレート特性などの本明細書では必ずしも考慮する必要のないその他の因子は、1つのまたはその他の化学的性質に好都合となり得る。混合ヒドロキシ−フルオロリン酸塩を合成するという可能性は、関心が持たれる別のデザインノブを付加することができる。
異なる+2/+3レドックス対の中で、本明細書で論じられるいくつかの実施形態は、Cr2+/Cr3+が、エネルギー密度に関して関心が持たれるようになるには常に低過ぎることを示す。Mn2+/Mn3+およびFe2+/Fe3+は、電圧が類似しているが、全てのMn化合物は、より好ましくないVまたはMoとの混合エネルギー性を示す。
バナジウムおよびモリブデン系化合物で実現可能な比エネルギーを比較すると、バナジウム化合物がMo系よりも優れている。例えば、フルオロリン酸バナジウム、LiFe0.50.5(PO)Fは、その組の化合物の中で最も大きい比エネルギーの1つを有していた。
LiFe0.50.5(PO)Fの最後の脱リチウム化ステップ(即ち、Li0.5Fe0.50.5(PO)F→Fe0.50.5(PO)F)の、より正確な電圧は、約4.89Vと推定される(LiV(PO)Fの実験電圧を再現するバナジウムに関して4.4eVのU値を使用して計算された)。
ハイブリッド汎関数は、標準DFTに存在する偽性自己相互作用を補正するためにも設計されたGGA+Uの、代替の手法である。最近になって、Haynes−Scuseria−Ernzerho(HSE)汎関数は、電圧を予測する際にGGA+Uと同様に行うことが示されたが、より高い計算コストになる。LiV(PO)Fの特定の場合、HSEを使用することによって、計算された脱リチウム化電圧4.16Vが得られ、これは実験(4.2V)に非常に密接に一致している。
Mo系混合化合物は、Moのより大きい重量に起因して、僅かに低い電圧および低い重量容量を示した。しかし、本明細書に記述される組では、いくつかの非常に競合的なMo系化合物がある。タボライトフルオロリン酸塩Fe−Mo混合化合物(Li0.5Fe0.5Mo0.5(PO)F)は、混合物として高い安定性、高い比エネルギー、およびエネルギー密度を有することで(それぞれ、683Wh/kgおよび2365Wh/l)非常に関心が持たれている。比エネルギーは、バナジウムの場合ほど競合的ではないが、容積エネルギー密度は非常に魅力的である(LiFePOよりも25%高い)。
活性元素を混合することにより開発された化合物に加え、不活性+2金属とMoとの混合が行われる代替のストラテジーも提示した。最も好ましい遷移金属混合を有する化合物:LiCo0.5Mo0.5(PO)Fは、電解質の安定性に関して厄介になり得る脱リチウム化プロファイル内に最後の電圧ステップ(4.54V)を有するが、LiMg0.5Mo0.5(PO)Fは、より好ましくない混合傾向を有するが、より魅力的な最後の電圧ステップ(4.29V)を有することがわかった。
電圧、比エネルギー、およびエネルギー密度に加え、充電カソード材料の安定性は最高である。安全性は、充電電極の酸素放出に対する熱安定性に結び付けることができるので、DFT計算に基づくスキームは、Ong, S. P.ら、Electrochemistry Communications 2010年、12巻、427〜430頁で論じられるように、酸素放出に関する酸素化学ポテンシャルを計算することによってカソード材料の固有の熱安定性を評価するために、最近になって開発された。酸素放出に関して高酸素化学ポテンシャルを有する材料は、熱的により不安定になる。本明細書で論じられるいくつかの実施形態による設計中に(即ち、V5+、Mo5+、またはMo6+)、充電カソードで標的とされる酸化状態は、Hautier, G.ら、Chemistry of Materials 2011年、23巻、3945〜3508頁で論じられるように、本質的に熱的に安定になる傾向があり、かつ酸素放出に関する低い化学ポテンシャルに関連していることが公知である。安全なカソード材料が、本明細書で論じたいくつかの実施形態で設計されたことを検証するために、非常に関心が持たれている全ての化合物からの酸素放出に関する酸素化学ポテンシャルを計算した。
図6は、いくつかの公知のカソード材料(四角形により示される)および表6に示される本発明の化合物(LiM(PO)Fに関してはダイヤモンド形、LiM(PO)(OH)に関しては円形、およびLiMPに関しては三角形)に関する、比エネルギーに対する完全に脱リチウム化された状態(充電状態)の酸素化学ポテンシャルを示す。
比エネルギーと安全性との間の逆相関は、比エネルギーが最も低い、最も安全な材料(LiFePO)と、比エネルギーが最も高い、安全性が最も低い材料(層状化ニッケルおよびコバルト酸化物)とで直接観察することができる。より高い電圧(したがって、より高い比エネルギー)は、より低い熱安定性をしばしば示唆する。図6の破線は、現在関心が持たれているカソード材料における、安全性の傾向に対する現行の比エネルギーに関するビジュアルガイドである。本明細書で論じられる実施形態により提案された化合物のほとんどは、破線の右に位置し、熱安定性を損ない過ぎることなくより高い比エネルギーが得られる領域にある。
本明細書で論じられるいくつかの実施形態は、良好なバッテリー材料を示す、必要なバッテリー特性のいくつかをスクリーニングした。リチウム拡散の障壁は、レート特性に関する追加の重要な性質である。フルオロリン酸塩タボライト(特にLiVPOF)は、非常に低いリチウム移行障壁を有することができる。したがって、いくつかの実施形態で論じられるフルオロリン酸塩化合物(例えば、LiMg0.5Mo0.5(PO)FおよびLiFe0.5Mo0.5(PO)F)は、高いエネルギー密度、高い安全性、および高レートカソード材料を形成することができた。
混合化合物に加え、1種の非混合化合物は、計算によれば、2電子レドックス容量に関して驚くべきポテンシャルを示すことがわかった。LiMn(PO)(OH)は、4.3Vでデインターカレーションを行いながら電圧2.8Vで1つのLiを挿入できることが予測される。
理論上の比エネルギーおよびエネルギー密度は極めて大きく、それぞれ1065Wh/kgおよび3082Wh/lである。4.5Vよりも低いMn3+/Mn4+対を活性化するリン酸塩系カソードは稀であるが、LiMn(CO)(PO)に関する最近の研究で示されるように(例えば、Hautier, G.ら、Physical Review B 2012年、85巻、155208頁;およびChen, H.ら、Chemistry of Materials 2012年、24巻、2009〜2016頁)、不可能ではない。LiMn(PO)(OH)に関するいくつかの従来技術の報告があるが、電気化学的測定は報告されていない。
混合ストラテジーを、特定の結晶構造に関して本明細書に示すが、手法は、その他のリン酸塩材料に使用することができる。例えばLiMo(PO NASICONは、161mAh/gといういくらか低い理論容量を有する、興味あるカソード材料であってもよい。一方、LiFe(PO NASICONは、Fe3+/Fe4+対の高電圧により、式単位当たり2つの追加のLiを挿入することができるが脱リチウム化することができない周知の材料である。+6までのMo酸化に関するポテンシャルを使用して、LiMoFe(PO混合化合物を提示することができる−これは完全に脱リチウム化することができ(MoFe(POの場合はMo6+まで)、式単位当たり最大1つのLiを挿入することができる(Fe3+からFe2+に還元し、LiMoFe(POを形成する)。この化合物の容量は、約230mAh/gと考えられる。
さらに、混合ストラテジーは、リン酸塩以外の様々な化学的性質で様々な新しい化合物を開発するのに使用することができる。いくつかの実施形態では、特に関心が持たれている化学的性質は、電解質安定性ウィンドウに比べて+3/+4対の電圧を非常に高くする、高い誘起効果を持つ化学的性質である(例えば、フルオロポリアニオン、硫酸塩、およびフッ化物)。
商業用電解質の安定性電圧ウィンドウ内で活性なリン酸塩系多電子カソード材料を見出すことは、難題である。本明細書で論じられるいくつかの実施形態は、挿入および脱リチウム化においてLiを可逆的に収容することが公知の結晶構造を持つ、遷移金属を混合することに基づいた、設計ストラテジーに関する。+2/+3対上で適度に高い電圧で電気化学的に活性な元素(例えば、Fe)と、電解質電圧ウィンドウ内で+3/+5または+3/+6対上で活性な元素(即ち、VおよびMo)とを混合することにより、高容量多電子カソードを設計できることが示された。本明細書で論じられるいくつかの態様による混合ストラテジーは、リン酸塩、フルオロリン酸塩、およびヒドロキシリン酸塩の化学的性質(その他の化学的性質に加え)に適用されてもよい。いくつかの実施形態では、いくつかの化合物が、電圧、比エネルギー、エネルギー密度、および安全性に関して好ましい性質を有する、関心が持たれる材料として明らかにされる。
均等物
本発明を、特定の好ましい実施形態について特に示し記述してきたが、当業者なら、添付される特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形および詳細における様々な変更をそこに行うことができることを理解すべきである。

Claims (31)

  1. 一般式LiM’Xの化合物であって、
    − Mが、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;
    − M’が、群[Mo、V]からの元素またはこの群からの元素の組合せであり;
    − Xが、リン酸塩を含む化学基であり;
    − x+yが、0.9から1.1の間の値を有し;かつ
    − aが、0から2x+yの間の値を有する
    化合物。
  2. 前記化合物は、少なくとも部分的に結晶質形態にある、請求項1に記載の化合物。
  3. 前記化合物は、同じ結晶構造のMおよびM’の両方を有する結晶を含む、請求項2に記載の化合物。
  4. 前記結晶が、前記一般式とほぼ同じである式を有する、請求項3に記載の化合物。
  5. aが、0.9から1.1の間の値を有する、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  6. x+yが1の値を有する、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  7. xが、0.3から0.7の間の値を有する、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  8. xが約0.5の値を有する、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  9. Mが、群[Fe、Mn、Cr、Co、Ni、Zn、Mg]からの単一元素である、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  10. M’が、群[Mo、V]からの単一元素である、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  11. Xが、P、POF、もしくはPO(OH)、またはこれらの化学基の混合物である、前記請求項のいずれかに記載の化合物。
  12. M’がバナジウムであり、xおよびyが共に0.5の値を有し、Mがコバルトであり、XがPOFまたはPO(OH)である、請求項1から11のいずれかに記載の化合物。
  13. M’がモリブデンであり、xおよびyが共に0.5の値を有し、Mが、群[Co、Ni、Zn、Mg]からの単一元素であり、XがPOFである、請求項1から11のいずれかに記載の化合物。
  14. 前記請求項のいずれかに記載の化合物を含む電極を有する、再充電可能なバッテリー。
  15. 電気化学セルの電極の製造に使用される調合物であって、該調合物は、請求項1から13のいずれかに記載の化合物を含む、調合物。
  16. 前記電極が正極であり、前記電気化学セルが、再充電可能なバッテリーでありまたは再充電可能なバッテリーの部分を形成する、請求項15に記載の調合物。
  17. 電気化学セルの電極での、請求項1から13のいずれかに記載の化合物の使用。
  18. 前記電極が正極であり、前記電気化学セルが、再充電可能なバッテリーでありまたは再充電可能なバッテリーの部分を形成する、請求項17に記載の使用。
  19. 電気エネルギーを貯蔵するための、請求項17または18に記載の使用。
  20. 請求項1から13のいずれかに記載の化合物を調製するための方法であって、原子Mおよび原子M’が、Li原子の供給源およびリン酸塩含有化学基の供給源と一緒になり、反応して前記化合物を形成する、方法。
  21. M、M’、Li、およびリン酸塩が所望の割合にある混合水溶液が調製され、その後、前記混合水溶液が高温高圧条件に供されて前記化合物の形成を引き起こす、請求項20に記載の方法。
  22. 前記高温が200℃よりも高く、前記高圧が、その温度での水の蒸気圧に等しいか高い、請求項21に記載の方法。
  23. Mの、1種または数種の固体塩、およびM’の、1種または数種の塩が、LiPOと一緒になり、一緒にボールミリングされ、その後、ボールミリングされた混合物の温度を高温まで上昇させる、請求項20に記載の方法。
  24. 前記高温が少なくとも700℃である、請求項23に記載の方法。
  25. Mの、前記1種または数種の固体塩が、Mの酸化物またはフッ化物であり、M’の、前記1種または数種の固体塩が、M’の酸化物またはフッ化物である、請求項23または24に記載の方法。
  26. 前記混合物の温度が前記高温まで上昇した後、前記混合物から不純物を除去するために、得られた材料を溶媒による処理に供する、請求項23から25のいずれかに記載の方法。
  27. 前記化合物は、熱力学的に安定である、請求項1から13のいずれかに記載の化合物。
  28. 熱力学的安定性が、「Chemistry of Materials、2008年、20巻、1798〜1807頁」に記述される方法に従い評価され、前記方法から得られたパラメーター「閉包上方エネルギー」が0に等しい場合に、前記化合物が熱力学的に安定とみなされる、請求項27に記載の化合物。
  29. 2Vから4.5Vの間の電圧で、前記化合物の分子当たり2x+y個のリチウム原子を交換することが可能である、請求項1から13のいずれかに記載の化合物。
  30. ドーパントをさらに含む、請求項1から13または27から29のいずれか一項に記載の化合物。
  31. 前記化合物は、[LiFe0.50.5(PO)F、LiCo0.50.5(P)、LiFe0.5Mo0.5(PO)F、LiMn0.5Mo0.5(PO)(OH)、LiMn0.50.5(PO)F、LiMn0.50.5(PO)(OH)、LiMn0.5Mo0.5(PO)F、LiZn0.5Mo0.5(PO)F、LiMg0.5Mo0.5(PO)F]からなる群から選択されるメンバーである、請求項1に記載の化合物。
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