以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る重力屈性調節剤は、フェニル酢酸類縁体、カルコン、カルコン類縁体、ピペリジン類縁体、トロポロン、トロポロン類縁体及びカナバニン類縁体から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含むものである。重力屈性とは、重力ベクトルに対応して器官が成長運動を変化させながら姿勢制御を行う植物に特異的な生理作用である。重力屈性を調節するとは、言い換えると、常態における重力屈性を変化させることと同義である。すなわち、本発明に係る重力屈性調節剤は、常態(当該重力屈性調節剤が存在しない条件)における重力屈性を変化させるものである。より具体的に、本発明に係る重力屈性調節剤は、茎等の地上部の重力屈性及び根等の地下部の重力屈性を調節する機能を有する。常態において、茎等の地上部では重力と反対方向に成長し、地下茎や根等の地下部では重力の方向に成長する正の重力屈性を示す。本発明に係る重力屈性調節剤は、特に、地上部における重力屈性を変化させることができる。
また、本発明に係る重力屈性調節剤は、蔓植物の地上部に作用し、蔓の旋回運動を変化させることができる。なお、蔓植物は旋回運動をしながら成長するが、この旋回運動には重力屈性が関与していることが知られている(文献:Kitazawa et al., PNAS, 102, 18742-18747, 2005)。すなわち、本発明に係る重力屈性調節剤は、蔓植物の支柱等に対する巻き付きを防止することができる。
なお、本発明に係る重力屈性調節剤は、上述した重力屈性を変化させる機能を有していれば、他の機能を併有するものであってもよい。他の機能としては、例えば、地下部及び/又は地上部に対する成長抑制作用や成長促進作用といった成長調節作用を挙げることができる。すなわち、本発明に係る重力屈性調節剤は、地上部に対する重力屈性調節作用に加えて、成長調節作用を有していても良い。
<フェニル酢酸類縁体>
本発明に係る重力屈性調節剤の有効成分であるフェニル酢酸類縁体は、下記式(1)に示される化合物である。
式(1)において、Aは水素原子、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素及びヨウ素等)、置換基を有しても良い炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の分岐鎖アルキル基(例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルケニル基(例えばアリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基)又はアシル基、スルホニル基、シアノ基又はアリール基である。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
また、式(1)におけるAの置換位置としては、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれでも良いが、オルト位又はメタ位がより好ましい。また、式(1)におけるAは、1又は複数個(例えば2個、3個、4個、5個)を意味している。
さらに、式(1)においてR1は、水素原子、置換基を有しても良い炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の分岐鎖アルキル基(例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルケニル基(例えばアリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基)又はアシル基、スルホニル基、シアノ基又はアリール基である。
特に、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるフェニル酢酸類縁体としては、下記式(6)〜(8)で表される化合物とすることが好ましい。
また、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるフェニル酢酸類縁体としては、下記式(20)及び(21)で表される化合物を挙げることができる。
<カルコン及びカルコン類縁体>
本発明に係る重力屈性調節剤の有効成分であるカルコン及びカルコン類縁体は、それぞれ下記式(22)及び(2)に示される化合物である。
式(2)において、B及びCは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素及びヨウ素等)、置換基を有しても良い炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の分岐鎖アルキル基(例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルケニル基(例えばアリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、アリルオキシ基)、トリフルオロメチル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、又はアシル基、スルホニル基、シアノ基又はアリール基である。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
また、式(2)におけるB及びCの置換位置としては、それぞれ独立して、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれでも良い。特に式(2)におけるBの置換位置は、オルト位又はメタ位がより好ましい。特に式(2)におけるCの置換位置は、オルト位又はパラ位がより好ましい。また、式(2)におけるB及びCは、それぞれ独立して、1又は複数個(例えば2個、3個、4個、5個)を意味している。
特に、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるカルコン類縁体としては、下記式(9)〜(12)で表される化合物とすることが好ましい。
また、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるカルコン類縁体としては、下記式(23)〜(34)で表される化合物を挙げることができる。
<ピペリジン類縁体>
本発明に係る重力屈性調節剤の有効成分であるピペリジン類縁体は、下記式(3)に示される化合物である。
式(3)において、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基を有するアルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基)、炭素数1〜5のアシル基(例えばホルミル基、アセチル基、プロピニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基)又はカルボキシル基、アミド基、又はスルホニル基である。
また、式(3)においてR3は、置換基を有しても良い炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の分岐鎖アルキル基(例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルケニル基(例えばアリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基)、置換基を有してよいアリール基(例えばフェニル基、ハロゲン化フェニル基、メトキシフェニル基、ベンジル基、トリル基、o-キシリル基)又はピリジル基、フラニル基又はチオフェニル基である。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
或いは、式(3)においてR2及びR3はともに置換基を有してもよい環状炭化水素でもよい。R2及びR3で構成する環状炭化水素としては、ベンゼン、ピリジン、シクロヘキサン、シクロヘキシン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、1,2-ジヒドロナフタレン等のジヒドロナフタレン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、インデン、6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾシクロヘプテン、ベンゾオキサゾール及びキノリン等を挙げることができる。
さらに、式(3)においてR4は、水素原子又は保護基である。保護基としては、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、2-ニトロベンゼンスルホニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基、フタロイル基を挙げることができる。
特に、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるピペリジン類縁体としては、下記式(13)で表される化合物とすることが好ましい。なお、下記式においてTsはトシル基である。
また、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるピペリジン類縁体としては、下記式(35)〜(43)で表される化合物を挙げることができる。なお、下記式においてTsはトシル基である。
<トロポロン及びトロポロン類縁体>
本発明に係る重力屈性調節剤の有効成分であるトロポロン及びトロポロン類縁体は、それぞれ下記式(44)及び(4)に示される化合物である。
式(4)において、Dは水素原子、置換基を有しても良い炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の分岐鎖アルキル基(例えばイソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルケニル基(例えばアリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基)又はアリール基、アシル基、又はハロゲンである。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
R5は、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基を有するアルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の鎖状アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、アリルオキシ基)又は環状アルコキシ基(例えば、ベンジルオキシ基、フェノキシ基、シクロヘキシルオキシ基)、炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)又は環状炭化水素(例えばフェニル基、ベンジル基)を有するアミノ基又はアルキル基、アリール基、ハロゲン、又は水酸基である。但し、トロポロン類縁体はトロポロンとは異なるため、R5が水酸基である場合、Dは上述した官能基のうち水素原子以外の官能基である。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
特に、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるトロポロン類縁体としては、下記式(14)、(15)又は(53)で表される化合物とすることが好ましい。
また、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるトロポロン類縁体としては、下記式(17)、(45)〜(50)で表される化合物を挙げることができる。なお、下記式(17)に示す化合物は新規化合物である。
<カナバニン類縁体>
本発明に係る重力屈性調節剤の有効成分であるカナバニン類縁体は、下記式(5)に示される化合物である。
式(5)において、X1及びX2はそれぞれ独立して水素原子又は保護基である。保護基としては、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、2-ニトロベンゼンスルホニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基、フタロイル基を挙げることができる。
また、式(5)においてX3は水素原子、置換基を有しても良い炭素数1〜5の直鎖アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基)、置換基を有してもよい炭素数1〜5の鎖状アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、アリルオキシ基)又はアミノ基、スルホニル基である。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
さらに、式(5)においてR6は水素原子、アミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜5の鎖状アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、アリルオキシ基)又は水酸基、ニトロ基、又はハロゲンである。ここで、置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基を挙げることができる。
特に、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるカナバニン類縁体としては、下記式(16)で表される化合物とすることが好ましい。
また、本発明において重力屈性調節剤の有効成分であるカナバニン類縁体としては、下記式(18)、(19)、(51)及び(52)で表される化合物を挙げることができる。なお、下記式においてBocはtert-ブトキシカルボニル基である。なお、下記式(18)及び(19)に示す化合物はともに新規化合物である。
上述した<フェニル酢酸類縁体>、<カルコン及びカルコン類縁体>、<ピペリジン類縁体>、<トロポロン及びトロポロン類縁体>、<カナバニン類縁体>を重力屈性調節剤として使用する場合、化合物それ自体で用いてもよいが、重力屈性調節剤として活性を示す量の化合物と、製剤化に一般的に用いられる不活性な液体担体及び/又は固体担体の1種類以上に、必要に応じて使用される界面活性剤の1種類以上、更には補助剤等の1種類以上を混合して、粉剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤、乳剤、液剤、微粒剤又は粒剤等の除草剤組成物に製剤して使用することも好ましい。
製剤化に際して用いられる液体担体としては、例えばイソプロピルアルコール、キシレン、シクロヘキサン、メチルナフタレン、水等の担体等が挙げられ、又、固体担体としては、例えばタルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、炭酸カルシウム、消石灰、珪砂、硫安、尿素等、が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物金属塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等が挙げられる。
また、補助剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、アラビアゴム等が挙げられる。
なお、本発明の重力屈性調節剤には、必要に応じて殺虫剤、殺菌剤、除草剤、植物生長調節剤、微生物、肥料等を混用してもよい。
本発明の除草剤組成物は使用に際し、直接施用してもよいし、使用目的に応じた濃度に希釈して、茎葉散布、土壌施用又は水面施用等により使用される。
本発明に係る重力屈性調節剤中の有効成分量は、必要に応じて適宜選ばれるが、例えば0.001〜100%(重量)の濃度とすることができる。本発明の重力屈性調節剤の施用量は、使用される有効成分の種類、対象雑草、発生傾向、環境条件ならびに使用する剤型等によって変わる。
特に本発明に係る重力屈性調節剤は、特に地上部の重力屈性を変化させるといった作用を示す。このため、本発明に係る重力屈性調節剤は、難防除雑草である蔓植物の蔓の巻きつき防止剤として利用できる。すなわち、本発明に係る重力屈性調節剤は、難防除雑草である蔓植物の除草剤として使用することができる。
蔓植物としては、特に限定されないが、例えば、クズ、ヤブガラシ、カナムグラなどの在来蔓性雑草と、外来植物で最近河川敷等で広がって問題となっているアレチウリ等を対象とすることができる。その他にも、蔓植物としては、アメリカアサガオ、マルバアメリカアサガオ、ホシアサガオ、マメアサガオ、マルバルコウなどの外来種アサガオ類、アメリカネナシカズラ、ヘクソカズラ、ガガイモ、カキドウシ、アオツヅラフジ、アカネ、アケビ、アマチャズル、イシミカワ、イタビカヅラ、イワガラミ、エビヅル、オニドコロ、カスマグサ、カラスウリ、カラスノエンドウ、キヅタ、コヒルガオ、ゴヨウアゲビ、サネカズラ、サルトリイバラ、サンカクズル、シラゲクサフジ、ジャケツイバラ、スイカズラ、スズメウリ、スズメノエンドウ、センニンソウ、タチドコロ、タンキリマメ、ツタ、ツタウルシ、ツタバウンラン、ツルウメモドキ、ツルドクダミ、ツルニチニチソウ、ツルニンジン、ツルマサキ、ツルマメ、ツルリンドウ、テイカカズラ、ナガイモ、ナツフジ、ナヨクサフジ、ネコハギ、ノアズキ、ノササゲ、ノブドウ、ハマヒルガオ、ヒヨドリジョウゴ、ヒルガオ、フジ、フユイチゴ、ボタンヅル、ママコノシリヌグイ、ミツバアケビ、ムベ、ヤブツルアズキ、ヤブマメ、ヤマノイモ、ヨバイソウ、ルコウソウ、ミカニア・ミクランサなどを挙げることができる。
一般に、蔓植物は、茎を旋回運動することで地上部に存在する構造材に巻き付き、情報へと成長する。本発明に係る重力屈性調節剤は、蔓植物の重力屈性を変化させることで、蔓植物における構造材に対する巻き付きを防止する。本発明に係る重力屈性調節剤を蔓植物の巻き付き防止用途に使用する場合、具体的な重力屈性調節剤の使用態様は特に限定されない。なお、構造材とは、特に限定されず、鉄塔を構成する支柱、電柱、金網等のフェンス、その他あらゆる建築資材を挙げることができる。
一例としては、蔓植物の自生場所に立設した構造材に重力屈性調節剤を塗布する形態が挙げられる。この場合、重力屈性調節剤は、例えば展着剤を含む溶液として構造材に塗布することができる。あるいは、重力屈性調節剤は、構造材に対して塗布される防錆剤や塗料に含ませておくこともできる。すなわち、重力屈性調節剤を含む防錆剤や塗料を構造材に塗布することで、蔓植物の巻き付きを防止することができる。
また、他の例としては、蔓植物の自生場所に立設した構造材に上記重力屈性調節剤を含むシートを貼り付ける形態が挙げられる。さらに他の例としては、蔓植物の自生場所に使用する構造材自体に重力屈性調節剤を含ませることができる。例えば、ビニル樹脂をコーティングした金網等の構造材においては、重力屈性調節剤を含むビニル樹脂組成物で金網をコーティングすることで、蔓植物の巻き付きを防止できる構造材を作製することができる。
一方、本発明に係る重力屈性調節剤は、根等の地下部に対する重力屈性を変化させることもできるため、植物の匍匐性を高めることができる。このため、所定の植物により土地表面を被覆することが可能となり土壌流出の防止、光の競合による雑草の抑制が可能となる。すなわち、本発明に係る重力屈性調節は、植物の匍匐性を向上させる肥料として使用することができる。この用途は、休耕地の管理、庭園や果樹園下草管理に適している。
さらに、本発明に係る重力屈性調節剤によれば、根の重力屈性を変化させることで水分吸収を抑制することができる。その結果、植物に実った果実の糖度を向上させることができる。これまでの方法は、土壌中の水分を減らす水切りという方法でメロン、トマト、スイカなどの糖度を向上したり、塩水を灌水することで浸透圧を高め、作物が水分を吸うのを妨害して糖度を向上したりしていた。しかし、これまでの方法では植物体に対する負担が大きいため、枯死したり、収量が低下する問題があった。本発明に係る重力屈性調節剤のうち生育阻害活性がないものは、重力屈性のみを阻害することができるため、植物体を弱めることなく、根の重力方向への伸長を抑制して水分吸収を阻害するので、耕種的技術を必要としない糖度上昇技術となる。
さらにまた、本発明に係る重力屈性調節剤は、ムギ類など、湿害に弱い植物に適用することで、根を水平方向に曲げて湿害を防止することができる。さらにまた、本発明に係る重力屈性調節剤は、根が地下10mほど深く貫入することで半乾燥地域や砂漠で難防除雑草となっているマメ科植物メスキートのような雑草・雑木に投与することで、このような難防除性の雑草・雑木を防除することが可能となる。
特に、本発明に係る重力屈性調節剤は、重力屈性といった植物に特異的な重力感知機構に作用するので、人間や環境にとって安全性の高い資材となる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実験例〕
供試化合物による重力屈性の変化を検出する手法を開発した。本手法では、先ず、プロピオペトリディッシュ(角シャーレと称す(アズワン社製))を用い、2%寒天培地にレタス種子を播種した(図1)。そして、角シャーレをアルミホイルで二重に包み、角シャーレを垂直に立てた状態で25℃、暗条件下で2日間培養する。培養後の角シャーレは図2に示すように、種子から鉛直下方向に根が進展している。なお、以下の実験では、寒天培地から根が浮いている芽生えは使用しない。
次に、図3に示すように、供試化合物を含む寒天培地に芽生えを移植する。このとき、根の先端部分に印を付けておくか、角シャーレに付された格子の線に根の先端をあわせるように移植する。そして、再びアルミホイルで角シャーレを包み、元の重力方向を保ったまま(根の進展方向が鉛直下方向と平行)、25℃暗条件下で1時間放置する(バイオトロン内)。その後、角シャーレを左方向に90度回転し、重力刺激を与える。この状態で18時間培養する(図4)。
その後、アルミホイルを外して撮像し、画像解析ソフトにより、根の進展方向の屈曲角度(curvature)を測定する。ここで、屈曲角度は、根端約200μm部分の中心を通る直線の水平に対する角度として測定する。一例として、オーキシンの極性移動阻害物質であるトリヨード安息香酸(TIBA)を10μM添加した培地、1-ナフチルフタラミン酸(NPA)を20μM添加した培地、及びIAAを500nM添加した培地を用いて、根の重力屈性に対する影響を見た結果を図5に示す。図5から分かるように、コントロールでは、重力刺激に呼応して根の進展方向が変化するのに対して、TIBAやNPA、IAAを添加した培地では重力屈性が変動し、重力方向とは異なる方向に根が進展していることが分かる。以上のように、本手法により、供試物質による根の重力屈性に対する影響を判定できることが示された。
〔実施例1〕
本実施例では、上述した実験例に示した手法において、供試化合物として下記式(22)に示すカルコン及び下記式(9)〜(12)に示すカルコン類縁体(それぞれ、SOB-13-035、SOB-13-052、SOB-13-069及びSOB-13-068と命名)を使用した以外は、上述した実験例と同様にして重力屈性に対する影響を測定した。
具体的に、上述した手法においてカルコン及びカルコン類縁体を200〜500μM含有する培地を用いて、これら物質による重力屈性に対する影響を測定した。その結果を表1に示す。
表1の記号において、異なる記号はTukeyの多重検定によって1%水準で有意差があることを意味している。
表1に示したように、カルコン及びカルコン類縁体:SOB-13-035、SOB-13-052、SOB-13-069及びSOB-13-068は、根の重力屈性を変化させる活性を有することが明らかとなった。
〔実施例2〕
本実施例では、上述した実験例に示した手法において、供試化合物として下記式(44)に示すトロポロン及び下記式(14)、(15)並びに(53)に示すトロポロン類縁体(下記式(14)及び(15)に示すトロポロン類縁体はそれぞれTMA-9-54、TMA-9-102と命名)を使用した以外は、上述した実験例と同様にして重力屈性に対する影響を測定した。なお、下記式(53)に示したトロポロン類縁体はヒノキチオール(hinokitiol)である。
具体的に、上述した手法においてトロポロン及びトロポロン類縁体を50μM含有する培地を用いて、これら物質による重力屈性に対する影響を測定した。その結果を表2に示す。
表2の記号において、異なる記号はTukeyの多重検定によって5%水準で有意差があることを意味している。
表2に示したように、トロポロン及びトロポロン類縁体:TMA-9-54、TMA-9-102及びhinokitiolは、根の重力屈性を変化させる活性を有する可能性があることが明らかとなった。
〔実施例3〕
本実施例では、上述した実験例に示した手法において、供試化合物として下記式(13)に示すピペリジン誘導体(KKB-3-195と命名)を使用した以外は、上述した実験例と同様にして重力屈性に対する影響を測定した。
具体的に、上述した手法においてピペリジン誘導体を100μM含有する培地を用いて、これら物質による重力屈性に対する影響を測定した。その結果を表3に示す。
表3の記号において、異なる記号はTukeyの多重検定によって1%水準で有意差があることを意味している。
表3に示したように、ピペリジン誘導体KKB-3-195は、根の重力屈性を変化させる活性を有することが明らかとなった。
〔実施例4−1〕
本実施例では、カルコン及びトロポロンを用いて、蔓植物における蔓の伸長阻害率を検討した。本実施例では、蔓植物として、グリーンハウス内で育てて蔓の長さが20〜30cmになったインゲン(Phaseolus valgaris)を使用した。供試化合物を溶解させた溶液(0.01% DMSO、供試物質濃度を1%(10,000 ppm))2mlを、蔓の先端に塗りつけその後7〜10日ほど毎日つるの長さを計測し、対照区と比較して蔓の伸長阻害率を算出した。
阻害率は以下の式にて算出した。すなわち、阻害率=[1−(物質を塗布した蔓の一日平均の伸び(cm))/(対照区の蔓の一日平均の伸び(cm))]×100
その結果、カルコンを使用した場合には阻害率が93%となり、トロポロンを使用した場合には阻害率が100%(枯死)であった。また、溶液に含まれるカルコン及びトロポロンの濃度を10倍に希釈して(すなわち、0.1%(1,000 ppm))、同様にインゲンの蔓の伸長阻害率を検討した。その結果、カルコンを使用した場合には阻害率が50%となり、トロポロンを使用した場合には阻害率が81%であった。これらの結果から、カルコン及びトロポロンには、蔓植物における蔓が旋回運動しながら伸長することを防止し、蔓の巻き付きを防止できることが明らかとなった。
〔実施例4−2〕
本実施例では、選抜した天然物について、蔓植物における蔓の巻き付きに及ぼす影響を検討した。本実施例では、蔓植物として、シラゲクサフジ(Vicia villosa)を使用した。供試した天然物については、1% DMSOに濃度が1000 ppmとなるように溶液として調製した。本実施例では、シラゲクサフジをポットに播種した後、14日目から、当該溶液を筆で蔓の先端に塗布する(塗布処理)か、当該溶液に蔓の先端を10秒間浸漬し(浸漬処理)、蔓先端の巻き付き回転数を測定した。そして、蔓先端の巻き付き回転数について、対照区と比較して阻害率を算出した。
阻害率は以下の式にて算出した。すなわち、阻害率=[1−(溶液を処理した蔓の回転数)/(対照区の蔓の回転数)]×100
溶液の塗布処理の結果を表4に示し、溶液の浸漬処理の結果を表5に示す。
表4及び5に示すように、ヒノキチオールは、塗布処理及び浸漬処理のいずれの方法によっても、蔓植物における蔓の巻き付きを阻害できることが明らかとなった。なお、塗布処理ではヒノキチオールとトロポロン、浸漬処理ではヒノキチオール、カルコン、L-DOPA及びイヌリンに強い蔓の巻き付き阻害活性があることがわかった。
〔実施例5〕
本実施例では、重力屈性調節剤として機能する下記式(17)で表される新規トロポロン類縁体(5-Isopropyl-2-(pentyloxy)cyclohepta-2,4,6-trien-1-one(TMA-9-104))を合成した。
先ず、アルゴン雰囲気下、室温でγ-thujaplicin(50.0mg、0.30mmol)のDMF溶液(1.2mL)にK2CO3(84.2mg、0.61mmol)を加え、60℃に加熱し12時間撹拌した。その後反応溶液を室温まで冷まし、水及びエーテルを加え有機層を分離して水層からエーテルを用いて3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、ろ液を減圧下濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製しTMA-9-104(58.3mg、0.25 mmol、82%)を得た。Yield82%;1H-NMR (400MHz、CDCl3)δ0.92(3H、t、J=6.8Hz)、1.22(6H、d、J=6.8Hz)、1.32-1.50(4H、m)、1.91(2H、quint、J=6.8Hz)、2.79(1H、sept、J=6.8Hz)、4.02(2H、t、J=6.8Hz)、6.72(1H、d、J=10.8Hz)、6.91(1H、d、J=10.8Hz)、7.15(1H、d、J=12.8Hz)、7.22(1H、d、J=12.8Hz)
〔実施例6〕
本実施例では、重力屈性調節剤として機能する下記式(18)で表される新規カナバニン類縁体(Methyl (E)-5-(2,3-bis(tert-butoxycarbonyl)guanidino)pentanoate (FIA-1-119))を合成した。
先ず、アルゴン雰囲気下、室温でγ-butyrolactone(607.3mg、7.1mmol)のMeOH溶液(35mL)にEt3N(5.9mL、42.3mmol)を加え、60℃に加熱し24時間撹拌した。その後反応溶液を室温まで冷ましヘキサンを加え減圧濃縮し混合物を得た。次いで得られた混合物のTHF溶液(51mL)にアルゴン雰囲気下、室温でPPh3(2.00g、7.6mmol)及びN-hydroxyphthalimide(994.2mg、6.1mmol)を加え、反応溶液を0℃に冷却した。さらにDEAD(40% in toluene、3.32g、7.6mmol)を5分間かけて少しずつ滴下し、反応溶液を室温まで昇温80分間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製しmethyl 4-[(1,3-dioxoisoindolin-2-yl)oxy]butanoate(1.00g、3.8mmol、2 steps 54%)を得た。アルゴン雰囲気下、室温でmethyl 4-[(1,3-dioxoisoindolin-2-yl)oxy]butanoate(557.8mg、2.1mmol)のMeOH溶液(21mL)にN2H4・H2O(0.31mL、6.4mmol)を加え、同温度にて6時間撹拌した。その後反応溶液を減圧濃縮しFIA-1-118の混合物を得た。次いで得られた混合物のDMF溶液にアルゴン雰囲気下、室温でN,N’-di-Boc-1H-pyrazole-1-carboxamide(789.1mg、2.5mmol)を加え、反応溶液を15時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル:Et3N=89:10:1)で精製しFIA-1-119(191.5mg、0.5mmol、24% in 2 steps)を得た。Yield 24% (2 steps);1H-NMR(400MHz、CDCl3)δ1.48(9H、s)、1.51(9H、s)、2.00-2.08(2H、m)、2.40-2.46(2H、m)、3.68(3H、s)、4.06-4.16(2H、m)、7.72(1H、brs)、9.09(1H、brs)
〔実施例7〕
本実施例では、重力屈性調節剤として機能する下記式(19)で表される新規カナバニン類縁体(Methyl (E)-N,N,N'-tris(tert-butoxycarbonyl)-L-argininate (FIA-1-134))を合成した。
先ず、アルゴン雰囲気下、室温でL-methionine(1.00g、6.70mmol)のH2O/MeOH(7/1)混合溶液(22mL)にMeI(1.00mL、26.8 mmol)を加え、40℃に加熱し37時間撹拌した。その後反応溶液を室温まで冷まし減圧濃縮することによりFIA-1-117-1の混合物を得た。次いで得られた混合物のH2O溶液(22mL)にアルゴン雰囲気下、室温でNaHCO3(0.56g、6.70mmol)を加え、反応溶液を加熱還流し12時間撹拌した。反応溶液を室温に冷まし減圧濃縮し、FIA-1-117-2の混合物を得た。そしてアルゴン雰囲気下、室温で混合物のH2O/1,4-dioxane(2/1)混合溶液(22mL) に1N NaOH水溶液(6.70mL) を加え、その後(Boc)2O(1.70mL、7.37mmol)を作用させた。同温度で24時間撹拌した後、1N NaOH(2.01mL)水溶液及び(Boc)2O(0.31mL、1.34mmol)を再び加えさらに24時間撹拌した。次いで水及び酢酸エチルを加え、水層を分離して有機層から水を用いて3回抽出した。そして合わせた水層に酢酸を加え反応溶液を酸性にし、酢酸エチルを加え有機層を分離して水層から酢酸エチルを用いて3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、ろ液を減圧下濃縮し、(tert-butoxycarbonyl)-L-homoserine(1.28g、5.83mmol、3 steps 87%)を得た。アルゴン雰囲気下、0℃で(tert-butoxycarbonyl)-L-homoserine(318.5mg、1.37mmol)のCH2Cl2/MeOH(17/3)混合溶液(9.8mL)にTMSCHN2(2M in hexane、2.1mL、4.10mmol)を加え、室温まで昇温し30分間撹拌した。その後反応溶液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:2)で精製しメチルエステル体を粗生成物として得た。そしてアルゴン雰囲気下、室温で得られた混合物のTHF溶液(13.7mL)にPPh3(608.8mg、2.32mmol)及びN-hydroxyphthalimide(40% in toluene、1.0mL、2.32mmol)を加え、反応溶液を0℃に冷却した。さらにDEADを5分間かけて少しずつ滴下し、反応溶液を室温まで昇温し80分間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製しフタルイミド置換体を粗生成物として得た。次いでアルゴン雰囲気下、室温で本化合物のMeOH溶液(7.2mL)にN2H4・H2O(0.10mL、2.15mmol)を加え、同温度にて75分間撹拌した。その後反応溶液を減圧濃縮しヒドロキシアミンの混合物を得た。その後得られた混合物のDMF溶液(3.6mL)にアルゴン雰囲気下、室温でN-N’-di-Boc-1H-pyrazole-1-carboxamide(332.9mg、1.07mmol)を加え、反応溶液を14時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、水及び酢酸エチルを加え有機層を分離して水層からヘキサン/酢酸エチル(1:1)混合溶液を用いて3回抽出した。その後合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、ろ液を減圧下濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製しFIA-1-134(140.3 mg、0.29 mmol、4 steps 20%)を得た。Yield 20% (4 steps);1H-NMR(400MHz、CDCl3)δ1.44(9H、s)、2.03-2.11(1H、m)、2.18-2.29(1H、m)、3.74(3H、s)、4.06-4.19(2H、m)、4.40-4.50(1H、m)、5.28(1H、brs)