以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。
まず、本発明の思想を適用可能な作業車両の一例として、モータグレーダの構成について説明するが、本発明は、駆動のオンおよびオフを切り換え可能に構成された動力伝達装置を有する、他の各種の作業車両に適用可能である。
図1は、本発明の一実施形態におけるモータグレーダ1の構成を概略的に示す側面図である。図1に示すように、本実施形態のモータグレーダ1は、全6輪の車両である。モータグレーダ1は、左右一対の前輪と、片側2輪ずつの後輪とからなる走行輪を備えている。前輪は、左前輪2と、図1には図示しない右前輪とを有している。後輪は、左後前輪4と、左後後輪5と、図1には図示しない右後前輪および右後後輪とを有している。前輪および後輪の数および配置は、図1に示す例に限られるものではない。
モータグレーダ1は、ブレード50を備えている。ブレード50は、前輪と後輪との間に設けられている。モータグレーダ1は、ブレード50で、地面の整地作業、除雪作業、軽切削、材料混合などの作業を行なうことができる。
モータグレーダ1は、車体フレームを備えている。車体フレームは、フロントフレーム51と、リヤフレーム52とを有している。フロントフレーム51は、リヤフレーム52に、回動可能に連結されている。
前輪は、ブレード50と共に、フロントフレーム51に設けられている。前輪は、フロントフレーム51の前端部に、回転可能に取り付けられている。後輪は、リヤフレーム52に設けられている。後輪は、リヤフレーム52に、後述するようにエンジンからの駆動力によって回転駆動可能に取り付けられている。
図2は、図1に示すモータグレーダ1の概略構成を示す構成図である。上述した左右一対の前輪は、左前輪2と、右前輪3とを有している。モータグレーダ1は、エンジン6を備えている。エンジン6は、図1に示すリヤフレーム52に支持されている。
エンジン6の一方の出力側には、油圧システム7L,7Rが接続されている。油圧システム7Lは、左前輪2を駆動する。油圧システム7Rは、右前輪3を駆動する。エンジン6の他方の出力側には、トルクコンバータ8、変速機9、終減速装置10およびタンデム装置11を介して、左後輪4,5および左後輪4,5と一対の右後輪が接続されている。エンジン6は、トルクコンバータ8、変速機9、終減速装置10およびタンデム装置11を介して、左後輪4,5と右後輪とを駆動する。
モータグレーダ1は、前輪2,3と左後輪4,5および右後輪とが動力発生用および伝達用の各装置6〜11で共に駆動される、全輪駆動車両である。当該装置6〜11は、全輪駆動装置12を構成している。全輪駆動装置12のほとんど(エンジン6、油圧システム7L,7Rの一部、トルクコンバータ8、変速機9および終減速装置10)は、リヤフレーム52で支持されている。
油圧システム7Lは、左油圧ポンプ13と、左油圧モータ14とを備えている。油圧システム7Rは、右油圧ポンプ16と、右油圧モータ15とを備えている。左油圧ポンプ13および右油圧ポンプ16は、エンジン6の出力がPTO(Power Take-Off)17を介して伝達されて駆動される。左油圧モータ14は、左油圧ポンプ13から吐出する作動油で回転されて、左前輪2を駆動する。右油圧モータ15は、右油圧ポンプ16から吐出する作動油で回転されて、右前輪3を駆動する。油圧モータ14,15は、本実施形態では、斜軸式アキシャル形のモータである。
左油圧ポンプ13と、左油圧モータ14とは、左油圧回路18により接続されている。左油圧ポンプ13から吐出する作動油は、左油圧回路18を経由して、左油圧モータ14に供給される。左前輪2が駆動されるときの左前輪2の回転速度は、左油圧ポンプ13から吐出する作動油によって、制御されている。
左油圧回路18には、リリーフバルブ30と、フラッシングバルブ32とが設けられている。リリーフバルブ30は、左油圧回路18内の作動油の圧力が過剰に増加するのを防止するために設けられている。フラッシングバルブ32は、余剰油を排出するために設けられている。
右油圧ポンプ16と、右油圧モータ15とは、右油圧回路19により接続されている。右油圧ポンプ16から吐出する作動油は、右油圧回路19を経由して、右油圧モータ15に供給される。右前輪3が駆動されるときの右前輪3の回転速度は、右油圧ポンプ16から吐出する作動油によって、制御されている。
右油圧回路19には、リリーフバルブ31と、フラッシングバルブ33とが設けられている。リリーフバルブ31は、右油圧回路19内の作動油の圧力が過剰に増加するのを防止するために設けられている。フラッシングバルブ33は、余剰油を排出するために設けられている。
左油圧式クラッチ機構22が、左前輪2と左油圧モータ14との間に設けられている。右油圧式クラッチ機構23が、右前輪3と右油圧モータ15との間に設けられている。左油圧式クラッチ機構22および右油圧式クラッチ機構23に油圧が供給されることにより、左前輪2と右前輪3とに動力が伝達されて、モータグレーダ1は全輪駆動となる。左油圧式クラッチ機構22および右油圧式クラッチ機構23への油圧の供給が遮断されると、モータグレーダ1は、全輪駆動が解除されて後輪駆動となる。
図3は、本発明の一実施形態における動力伝達装置125の模式図である。動力伝達装置125は、駆動源としての油圧モータ124(図2に示す油圧モータ14,15に相当)の動力を、ホイール(図2に示す前輪2,3に相当)に伝達するための装置である。動力伝達装置125は、第1遊星歯車減速機126と、第2遊星歯車減速機127と、油圧式クラッチ機構128(図2に示す油圧式クラッチ機構22,23に相当)とを備えている。図3に示す一点鎖線は、動力伝達装置125に含まれる回転物の回転中心となる中心線CLを示している。
第1遊星歯車減速機126は、第1太陽ギヤ130、複数の第1遊星ギヤ131、第1キャリヤ132、および第1リングギヤ133を有している。第2遊星歯車減速機127は、第2太陽ギヤ135、複数の第2遊星ギヤ136、第2キャリヤ137、および第2リングギヤ138を有している。
この動力伝達装置125では、油圧モータ124からのトルクは第1太陽ギヤ130に入力される。第1キャリヤ132は、第2太陽ギヤ135に連結されている。第1リングギヤ133は、第2リングギヤ138に連結されている。両リングギヤ133,138は、ホイールに連結されている。第2キャリヤ137は、油圧式クラッチ機構128を介して、固定ハウジング139に連結されている。
図4は、本発明の一実施形態における動力伝達装置125の全体断面構成図である。図4に示すように、油圧モータ124は、車体内側(図4において右側)のモータハウジング140に収納されている。油圧モータ124は、回転可能な出力軸124aと、本体部124bとを有している。出力軸124aは、本体部124bから、車体外側(図4において左側)に向けて突き出している。図4に示す一点鎖線は、図3と同様に、油圧モータ124の出力軸124aなどの回転物の回転中心となる中心線CLを示している。出力軸124aは、ホイールの回転軸と同軸に配置されている。モータハウジング140は、車体外側に突出する突出部140aを有している。
動力伝達装置125は、回転ハウジング144を有している。回転ハウジング144内に、第1遊星歯車減速機126、第2遊星歯車減速機127、および油圧式クラッチ機構128が収納されている。第1遊星歯車減速機126と第2遊星歯車減速機127とは、出力軸124aの軸方向(中心線CLの延びる方向であって、図4における左右方向)に並んで配置されている。回転ハウジング144は、モータハウジング140に対し、中心線CLを中心として回転可能に設けられている。回転ハウジング144は、モータハウジング140側に開く椀型の形状を有している。
回転ハウジング144は、第1ケース部144aと、第2ケース部144bと、第3ケース部144cと、第4ケース部144dとを有している。第1ケース部144aは、略円板状の形状を有しており、椀型の底部を構成している。第2ケース部144b、第3ケース部144cおよび第4ケース部144dは、環状の形状を有しており、椀型の側部を構成している。
第1ケース部144aと第2ケース部144bとは、ボルト145によって固定されている。第2ケース部144bと第3ケース部144cとは、ボルト146によって固定されている。第3ケース部144cと第4ケース部144dとは、ボルト147によって固定されている。
回転ハウジング144(第4ケース部144d)とモータハウジング140との間に、オイルシール148aおよびフローティングシール148bが設けられている。オイルシール148aとフローティングシール148bとは、回転ハウジング144内のオイルが外部に漏れるのを防止するために設けられている。
第3ケース部144cには、凹部147aが形成されている。凹部147aは、第3ケース部144cの外表面の一部が窪んで形成されている。ボルト147の頭部は、凹部147a内に収容されている。
図示しないボルトが第3ケース部144cに形成された穴を介して第4ケース部144dにねじ込まれている。このボルトによってホイール(図2に示す前輪2,3)が回転ハウジング144に取り付けられている。
径方向においてモータハウジング140の突出部140aと回転ハウジング144の第4ケース部144dとの間に、2つのホイールベアリング142,143が配置されている。回転ハウジング144およびホイールは、2つのホイールベアリング142,143を介して、モータハウジング140の突出部140aに回転可能に支持されている。
ホイールベアリング142,143は、モータハウジング140の突出部140aよりも径方向外側に配置されている。ホイールベアリング142,143の内輪は、モータハウジング140の突出部140aの外周面に固定されている。ホイールベアリング142,143の外輪は、回転ハウジング144の第4ケース部144dの内周面に固定されている。
油圧モータ124の出力軸124aと同軸に、入力軸150が配置されている。入力軸150は、中心線CLを中心として回転可能に設けられている。入力軸150は、油圧モータ124の出力軸124aに対して、車体外側に配置されている。出力軸124aの車体外側の端面と、入力軸150の車体内側の端面とは、互いに対向している。
出力軸124aの車体外側の端部付近における外周面に、スプライン溝が形成されている。入力軸150の車体内側の端部付近における外周面に、スプライン溝が形成されている。出力軸124aと入力軸150とは、スプライン筒152によって連結されている。スプライン筒152の内周面には、スプライン歯が形成されている。このスプライン歯が出力軸124aのスプライン溝および入力軸150のスプライン溝に嵌め合わされて、入力軸150と出力軸124aとは一体として回転可能に連結されている。
図5は、図4に示す動力伝達装置125の、第1遊星歯車減速機126および第2遊星歯車減速機127の断面構成図である。図4およびその部分拡大図である図5に示すように、第1遊星歯車減速機126は、第2遊星歯車減速機127よりも油圧モータ124から離れて配置されている。第1遊星歯車減速機126は、第2遊星歯車減速機127に対して車体外側に配置されている。第1遊星歯車減速機126は、第1太陽ギヤ130と、第1遊星ギヤ131と、第1キャリヤ132と、第1リングギヤ133とを有している。
第1太陽ギヤ130は、入力軸150と一体に形成されている。第1太陽ギヤ130は、入力軸150の車体外側の端部に形成されている。第1太陽ギヤ130は、入力軸150と一体として回転可能に設けられている。第1太陽ギヤ130は、入力軸150に連結されていてもよい。入力軸150の車体外側の端面と、回転ハウジング144(第1ケース部144a)との間には、ボール151が配置されている。ボール151は、入力軸150のスラスト力を受け止めている。
複数の第1遊星ギヤ131は、それぞれ第1キャリヤ132に回転自在に支持され、第1太陽ギヤ130と噛み合っている。第1キャリヤ132には、円周方向に所定の間隔で径方向に貫通する複数のスリットが形成されている。このスリットに各第1遊星ギヤ131が配置されている。各スリットを軸方向に貫通して、第1支持ピン154が設けられている。各第1遊星ギヤ131は、第1支持ピン154に、2つのテーパローラベアリング155を介して回転自在に支持されている。第1キャリヤ132の車体内側の内周部には、軸方向に突出して連結リング132aが形成されている。連結リング132aの内周面には、複数の歯が形成されている。
第1リングギヤ133は、回転ハウジング144(第2ケース部144b)の内周面に設けられている。第1リングギヤ133には、複数の第1遊星ギヤ131が噛み合っている。
第2遊星歯車減速機127は、第1遊星歯車減速機126よりも油圧モータ124側に配置されている。第2遊星歯車減速機127は、第1遊星歯車減速機126に対して車体内側に配置されている。第2遊星歯車減速機127は、第2太陽ギヤ135と、第2遊星ギヤ136と、第2キャリヤ137と、第2リングギヤ138とを有している。
第2太陽ギヤ135の中心部に、軸方向に貫通する孔135aが形成されている。この孔135aを入力軸150が貫通している。第2太陽ギヤ135の車体外側の一部には複数の歯が形成されており、この歯に第1キャリヤ132の連結リング132aの複数の歯が噛み合っている。これにより第2太陽ギヤ135は、第1キャリヤ132に連結されている。
複数の第2遊星ギヤ136は、それぞれ第2キャリヤ137に回転自在に支持され、第2太陽ギヤ135の車体内側の部分に形成された歯に噛み合っている。第2キャリヤ137には、第1キャリヤ132と同様に、円周方向に所定の間隔で径方向に貫通する複数のスリットが形成されている。このスリットに各第2遊星ギヤ136が配置されている。各スリットを軸方向に貫通して、第2支持ピン162が設けられている。各第2遊星ギヤ136は、第2支持ピン162に、2つのテーパローラベアリング163を介して回転自在に配置されている。第2キャリヤ137の車体内側の側面外周端部には、軸方向に突出する連結リング137aが形成されている。
第2リングギヤ138は、回転ハウジング144(第2ケース部144b)の内周面に設けられている。第2リングギヤ138には、複数の第2遊星ギヤ136が噛み合っている。第1リングギヤ133と第2リングギヤ138とは、径方向において同じ位置に形成されている。第1リングギヤ133と第2リングギヤ138とは、相等しい径を有している。
図6は、図4に示す動力伝達装置125の、油圧式クラッチ機構128の断面構成図である。油圧式クラッチ機構128は、オン状態で中心線CLを中心とする第2キャリヤ137の回転を禁止(動力伝達)し、オフ状態で第2キャリヤ137の回転を許容(伝達解除)する機構である。
図4およびその部分拡大図である図6に示すように、油圧式クラッチ機構128は、回転部と固定部とから構成されている。回転部は、クラッチ入力部167と、複数(この例では9枚)のクラッチプレート168とを有している。クラッチ入力部167は、第2キャリヤ137の一部に形成された連結リング137aに連結されており、第2キャリヤ137とともに回転可能に設けられている。
複数のクラッチプレート168は、リング状に形成されている。クラッチ入力部167の外周面には、係合部169が形成されている。クラッチプレート168の内周面には、係合部169に係合する係合部が形成されている。クラッチプレート168の両面には、摩擦フェーシングが貼付されている。クラッチプレート168は、第2キャリヤ137とともに回転するとともに、クラッチ入力部167の係合部169に沿って軸方向に移動が可能である。
油圧式クラッチ機構128の固定部は、プレッシャプレート171と、複数(この例では10枚)の固定プレート172と、ピストン173とを有している。固定部は、モータハウジング140に対して回転不能に取り付けられている。
複数の固定プレート172は、リング状に形成されている。モータハウジング140の突出部140aの内周面には、係合部174が形成されている。固定プレート172の外周には、係合部174に係合する係合部が形成されている。これにより、固定プレート172は、モータハウジング140に対して相対回転不能でかつ軸方向移動可能に装着されている。モータハウジング140の突出部140aは、図3に示す固定ハウジング139としての機能を有している。
モータハウジング140の突出部140aに対して径方向内側に、油圧式クラッチ機構128が配置されている。モータハウジング140の突出部140aに対して径方向外側に、上述したホイールベアリング142,143が配置されている。これにより油圧式クラッチ機構128は、ホイールベアリング142,143よりも径方向内側に配置されている。
油圧式クラッチ機構128は、クラッチ入力部167に対して径方向外側に配置されている。クラッチ入力部167において、油圧式クラッチ機構128が装着される部分は略円筒状の形状を有しており、その内周面は油圧モータ124の本体部124bに対向している。油圧式クラッチ機構128は、油圧モータ124の本体部124bよりも径方向外側に配置されている。
モータハウジング140の突出部140aの車体外側の先端に、環状板部180が、ボルト181によって固定されている。環状板部180は、その外周縁の近傍において、モータハウジング140の突出部140aに固定されている。環状板部180の内周縁は、円筒形状に形成されている。環状板部180の内周縁と、クラッチ入力部167との間に、ボールベアリング182が設けられている。
プレッシャプレート171は、リング状に形成されている。プレッシャプレート171は、径方向において、モータハウジング140の突出部140aと環状板部180の内周縁との間に配置されている。プレッシャプレート171の外周には、係合部174に係合する係合部が形成されている。プレッシャプレート171に対し車体外側には、プレッシャプレート171の車体外側向きの移動を規制するスナップリングが設けられている。
クラッチプレート168と固定プレート172とは、中心線CLに沿う軸方向に交互に配置されている。クラッチプレート168と固定プレート172とが交互に重ねられた組立体に対し、車体内側にピストン173が配置されており、車体外側にプレッシャプレート171が配置されている。クラッチプレート168と固定プレート172とは、ピストン173とプレッシャプレート171との間で圧接されるように構成されている。
油圧式クラッチ機構128では、ピストン173を作動させることによって、クラッチのオンとオフとが切り換えられる。クラッチがオン(ブレーキオン)の状態において、油圧式クラッチ機構128の回転部は、固定され、回転を禁止される。クラッチがオフ(ブレーキオフ)の状態において、油圧式クラッチ機構128の回転部は、固定解除され、回転を許容される。
ピストン173は、図示しないコントロールバルブから供給される油圧によって作動される。この油圧供給のための供給口185が、図6に示すように、モータハウジング140に形成されている。供給口185は、モータハウジング140の半径方向中間部に、軸方向に沿って形成されている。供給口185は、外部(たとえば、油圧モータ124が収容されているモータ収容空間)と、ピストン173が配置された室とを連通している。コントロールバルブから供給口185に供給された油圧が、ピストン173に作用する。
以上のように構成された動力伝達装置125では、ピストン173に油圧を供給することにより、油圧式クラッチ機構128のクラッチプレート168と固定プレート172が圧接されて、クラッチがオン(ブレーキオン)状態になる。これにより、第2遊星歯車減速機127の第2キャリヤ137の回転が禁止される。
油圧モータ124から、入力軸150を介して、第1太陽ギヤ130にトルクが入力される。第1太陽ギヤ130に入力されたトルクは、複数の第1遊星ギヤ131を介して第1リングギヤ133に伝達される。また第1キャリヤ132からのトルクは、第2太陽ギヤ135に入力される。第2太陽ギヤ135に入力されたトルクは、複数の第2遊星ギヤ136を介して、第2リングギヤ138に伝達される。第2リングギヤ138に伝達されたトルクは、第1リングギヤ133のトルクと合成され、ホイールに伝達される。第2キャリヤ137のトルクの反力は、油圧式クラッチ機構128を介して、固定ハウジング139によって受けられる。
以上のように、動力伝達装置125では、油圧モータ124から入力され、第1遊星歯車減速機126によって伝達されたトルクと、第2遊星歯車減速機127によって伝達されたトルクとが合わさって、ホイールに伝達される。
また、ピストン173への油圧供給を停止し、圧油を排出することによって、油圧式クラッチ機構128はオフ状態となる。油圧式クラッチ機構128がオフ(ブレーキオフ)の場合は、第2遊星歯車減速機127の第2キャリヤ137の回転が許容される。このため、油圧モータ124からトルクが入力されても、第2キャリヤ137は回転し、第2遊星ギヤ136は自転するとともに公転することになる。したがって、ホイールには、第1遊星歯車減速機126からも第2遊星歯車減速機127からもトルクは伝達されない。
なお、図4に図示されている油圧式クラッチ機構128のうち、中心線CLよりも下側の、供給口185が図示されている側の油圧式クラッチ機構128は、ピストン173に油圧が供給されていないオフ状態である。図4に図示されている油圧式クラッチ機構128のうち、中心線CLよりも上側の、供給口185が図示されていない側の油圧式クラッチ機構128は、ピストン173に油圧が供給されているオン状態である。
図7は、油圧モータ124の概略構成を示す側面図である。図7に示すように、油圧モータ124は、出力軸124aと、本体部124bと、シリンダ収容部124cとを有している。
出力軸124aは、本体部124bから車体外側に突き出ている。出力軸124aは、本体部124bに収容された駆動軸に連結されて、本体部124bに支持されている。駆動軸とともに回転可能に設けられたシリンダブロックの少なくとも一部が、シリンダ収容部124cに収容されている。シリンダブロックは、駆動軸に対して傾斜して配置されている。
油圧モータ124の駆動時には、シリンダブロックに圧油が供給されて、ピストンがシリンダ穴に対して往復運動する。これによりシリンダブロックが回転するとともに、駆動軸がシリンダブロックとともに回転する。この回転力をモータ出力として、出力軸124aから取り出す。
本体部124bは、中心線CLに対して対称な、軸対称形状を有している。本体部124bは、その外径が最大となる最大外径部124dを有している。中心線CLに沿う軸方向において、最大外径部124dは、本体部124bのうちシリンダ収容部124cに接続される側の端部に設けられている。
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態の動力伝達装置125は、図4に示すように、油圧モータ124と、モータハウジング140と、回転ハウジング144と、ホイールベアリング142,143とを備えている。油圧モータ124は、回転可能な出力軸124aを有している。モータハウジング140は、油圧モータ124を収容している。回転ハウジング144は、モータハウジング140に対し、油圧モータ124の出力軸124aの回転中心を示す中心線CLを中心として、回転可能である。ホイールベアリング142,143は、回転ハウジング144をモータハウジング140に対し回転可能に支持している。
動力伝達装置125はさらに、第1遊星歯車減速機126と、第2遊星歯車減速機127と、油圧式クラッチ機構128とを備えている。第2遊星歯車減速機127は、図5に示すように、第2太陽ギヤ135と、第2太陽ギヤ135に噛み合う第2遊星ギヤ136と、第2遊星ギヤ136を回転自在に支持する第2キャリヤ137とを備えている。油圧式クラッチ機構128は、中心線CLを中心とする第2キャリヤ137の回転を許容または禁止する。油圧式クラッチ機構128は、ホイールベアリング142,143よりも径方向内側に配置されている。
図4に示す領域Aは、径方向においてホイールベアリング142,143が配置されている範囲を示している。領域Bは、径方向において油圧式クラッチ機構128が配置されている範囲を示している。領域Aは、領域Bよりも中心線CLから離れている。領域Bは、中心線CLからの最短距離が、領域Aよりも小さくなっている。ホイールベアリング142,143に対する油圧式クラッチ機構128の配置を規定し、油圧式クラッチ機構128の径を小さくすることにより、径方向における動力伝達装置125の外形寸法を小さくすることができる。
モータハウジング140の突出部140aの外周側にホイールベアリング142,143を配置し、突出部140aの内周側に油圧式クラッチ機構128を配置することにより、図6に示すように、油圧式クラッチ機構128の固定プレート172を突出部140aに装着できる。モータハウジング140とは別体のクラッチハウジングを設けて固定プレート172を装着する必要がなく、クラッチハウジングを不要にできるので、動力伝達装置125の重量を低減することができる。
本実施形態の動力伝達装置125は、クラッチハウジングを備えないシンプルな構造であるため、クラッチの構成を単純化でき、生産性を向上することができる。
ホイールベアリング142,143をモータハウジング140の突出部140aの径方向外側に設けて、椀型の回転ハウジング144が油圧式クラッチ機構128を取り囲む構成とする。これにより、クラッチをオンにしてクラッチプレート168を固定プレート172に圧接した状態で、油圧モータ124のトルクによって回転する回転物と回転しない非回転物とが隣り合う配置が低減されている。したがって、回転物と非回転物との間の空気の摩擦抵抗による損失を抑制でき、動力伝達装置125の動力伝達効率を向上することができる。
ホイールベアリング142,143が油圧式クラッチ機構128よりも径方向外側に配置されており、ホイールベアリング142,143の径が増大されている。これにより、ホイールベアリング142,143の剛性を向上できるので、回転ハウジング144に荷重が負荷されたときの回転ハウジング144の変形を抑制できる。回転ハウジング144のより安定した支持が可能になるため、回転ハウジング144に収容された第1遊星歯車減速機126および第2遊星歯車減速機127の信頼性を向上できる。加えて、ホイールベアリング142,143の寿命を延ばすことができる。
また図4に示すように、中心線CLに沿う出力軸124aの軸方向より見て、第1遊星歯車減速機126と油圧式クラッチ機構128とが重畳して配置されている。第1遊星歯車減速機126を構成している第1遊星ギヤ131、第1キャリヤ132および第1リングギヤ133の一部は、径方向において油圧式クラッチ機構128が配置されている範囲を示す領域B内に配置されている。このように第1遊星歯車減速機126に対する油圧式クラッチ機構128の位置を規定することにより、油圧式クラッチ機構128がホイールベアリング142,143よりも径方向内側に配置された構成を、より確実に実現することができる。
ホイールベアリング142,143は、中心線CLに沿う軸方向より見て、第1遊星歯車減速機126および第2遊星歯車減速機127のいずれとも重畳していない。ホイールベアリング142,143は、第1遊星歯車減速機126および第2遊星歯車減速機127よりも、径方向外側に配置されている。第1遊星歯車減速機126および第2遊星歯車減速機127は、径方向においてホイールベアリング142,143が配置されている範囲を示す図1中の領域Aから外れて配置されている。
また図7に示すように、油圧モータ124は、出力軸124aと、出力軸124aを支持する本体部124bとを有している。図4に示すように、油圧式クラッチ機構128は、本体部124bを取り囲んで配置されている。中心線CLに沿う軸方向において油圧モータ124の本体部124b、油圧式クラッチ機構128およびホイールベアリング142,143が重畳して配置され、中心線CLから径方向外側へ向けて本体部124b、油圧式クラッチ機構128およびホイールベアリング142,143の順に配置されている。径方向において、油圧式クラッチ機構128は、油圧モータ124の本体部124bとホイールベアリング142,143との間に配置されている。これにより、油圧式クラッチ機構128がホイールベアリング142,143よりも径方向内側に配置された構成を、より確実に実現することができる。
また図7に示すように、油圧モータ124の本体部124bは、中心線CLに対して対称な形状を有している。本体部124bは、その外径が最大となる最大外径部124dを有している。図4に示すように、最大外径部124dの外径よりも、油圧式クラッチ機構128の内径が小さくなっている。最大外径部124dの外周面は、図4に示す領域B内に配置されている。油圧式クラッチ機構128を油圧モータ124により近づけて配置し、油圧式クラッチ機構128の内径をより小さくすることにより、油圧式クラッチ機構128がホイールベアリング142,143よりも径方向内側に配置された構成を、より確実に実現することができる。
また図6に示すように、油圧式クラッチ機構128は、クラッチプレート168と固定プレート172とを有している。クラッチプレート168と固定プレート172とは、中心線CLに沿う軸方向に交互に配置されている。固定プレート172は、モータハウジング140の突出部140aに装着されている。これにより、動力伝達装置125はクラッチハウジングを必要としないシンプルな構成になるので、動力伝達装置125の小型化および軽量化を確実に実現することができる。
また図4に示すように、動力伝達装置125は、入力軸150をさらに備えている。入力軸150は、油圧モータ124の出力軸124aに連結されており、油圧モータ124からのトルクを第1太陽ギヤ130に入力する。中心線CLに沿う軸方向において、油圧式クラッチ機構128は、入力軸150に対して油圧モータ124側に配置されている。入力軸150は、第1太陽ギヤ130と一体化されていてもよい。または入力軸150は、第1太陽ギヤ130に連結されていてもよい。
図4に示す領域Cは、軸方向においてクラッチプレート168および固定プレート172が配置されている範囲を示している。領域Dは、軸方向において入力軸150が配置されている範囲を示している。領域Dの車体内側(図4中の右側)に油圧モータ124の出力軸124aが配置されており、出力軸124aは本体部124bから車体外側に突き出している。油圧式クラッチ機構128は、油圧モータ124の本体部124bを取り囲んで配置されている。したがって油圧式クラッチ機構128は、入力軸150に対して油圧モータ124側に配置されている。
このように入力軸150に対する油圧式クラッチ機構128の位置を規定することにより、中心線CLに沿う軸方向における動力伝達装置125の外形寸法を小さくすることができる。入力軸150の外周に設けられる第1および第2遊星歯車減速機126,127に、油圧式クラッチ機構128が干渉することがない。そのため、第1リングギヤ133と第2リングギヤ138とを同径に形成し、第1および第2遊星歯車減速機126,127の全体構成の外径を小さくして、動力伝達装置125を軽量化することが可能になる。
本実施の形態のモータグレーダ1は、図1,2に示すように、左前輪2と、右前輪3とを備えている。モータグレーダ1はまた、左前輪2および右前輪3に動力を伝達する、図4に示す動力伝達装置125を備えている。このようにすれば、モータグレーダ1の左前輪2および右前輪3の重量を低減することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。