JP2016210986A - 希土類フリー蛍光体の製造方法および希土類フリー蛍光体 - Google Patents
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Abstract
Description
青色を発する蛍光体からの光と、緑色を発する蛍光体からの光と、赤色を発する蛍光体からの光を混合して白色光を得る場合、例えば、青色発光用蛍光体にはBaMgAl10O17:Eu2+を用い、緑色発光用蛍光体にはLaPO4:Ce3+,Tb3+を用い、赤色発光用蛍光体にはY2O3:Eu3+を用いることができる。
ところが、上述の蛍光体の発光因子として賦活されているEu(ユウロピウム)、セリウム(Ce)、テルビウム(Tb)などの希土類元素は、希少かつ非常に高価な元素である問題がある。その上、希土類元素の資源は一部の国に集中しているので供給が不安定となるおそれがあり、今後、価格も更に高騰する懸念もある。
希土類元素を使用しない白色蛍光材料として、3Ca2(PO4)2・Ca(F,Cl)2:Sb3+,Mn2+を例示することができる(非特許文献1参照)。
ところが、希土類元素を使用しない多くの蛍光体は、一般に、希土類元素使用の蛍光体に比べ発光強度や演色性が低いという問題があった。なお、低い演色性については、Sb3+,Mn2+とのそれぞれの発光が、青緑領域での発光と赤色領域での発光による疑似白色である事に由来している。
また、近年、組成式K2SiF6:Mn4+で表される蛍光材料についても蛍光特性が報告され、Mn4+を発光中心とした希土類フリー蛍光体として注目されている(非特許文献2参照)。
また、K2SiF6自身の物性として、水に対する溶解性が0.12g/100g(17.5℃)、0.95/100g(100℃)であり高いという問題がある。このことは、水分を含む大気中において成分が溶解して変質するおそれを有する。
このため、希土類フリーの蛍光体であり、特殊な方法でなくとも製造することができ、水に対する溶解性の低い蛍光体が望まれる。
(1)本発明は、組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6(式中、xはMnあるいはTiの濃度であり、0<x≦0.02である。)で示される希土類フリー蛍光体の製造方法であり、組成式Na3AlF6で示される氷晶石の粉末に、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、ホウ酸、フッ化マグネシウムのうち、いずれか1種または2種以上からなるフラックスの粉末と、マンガンあるいはチタンの化合物粉末を所定量秤量して混合し、粉砕した後、焼成することを特徴とする。
このため、発光強度の高い演色性の高い赤色発光、緑色発光あるいは白色発光が可能な希土類フリーの蛍光体を生成できる。
フラックスの粉末の添加量として炭酸ナトリウムの粉末、炭酸リチウムの粉末、ホウ酸の粉末、フッ化マグネシウムの粉末のそれぞれに望ましい添加量があり、上述の範囲の添加量を選択することで、発光強度の高い演色性の良好な希土類フリーの蛍光体を生成できる。
(4)本発明において、前記マンガンの化合物粉末として酸化マンガンの粉末を3モル%以上5モル%以下の範囲で混合することが好ましい。
マンガンの化合物粉末として酸化マンガンを選択することができ、添加量として1〜5モル%の範囲を選択することで、発光強度の高い演色性の良好な希土類フリー蛍光体を製造することができる。酸化マンガンの添加量として3〜5モル%を選択するならば、発光強度のより高い演色性のより良好な希土類フリー蛍光体を製造することができる。
各粉末を混合粉砕した後、焼成する場合、700〜1000℃の範囲の温度を選択することができ、3〜16時間焼成する条件を選択することで、発光強度の高い演色性の良好な希土類フリー蛍光体を製造することができる。
組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6で示される希土類フリー蛍光体を製造する場合、氷晶石の粉末に代えてNaのフッ化物粉末とAlの化合物粉末を混合し、粉砕混合して焼成することにより、組成式Na3AlF6で示される氷晶石の結晶を生成することができ、同時にこの結晶の6配位の八面体サイトにマンガンあるいはチタンを賦活させて組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6で示される希土類フリー蛍光体を生成することができる。Alの化合物粉末として例えばAlのフッ化物粉末を用いることができる。
Mn4+イオンを賦活した組成の蛍光体は希土類を用いなくても赤色領域に単一の強い発光ピークを示し、演色性の良好な蛍光体を提供できる。また、Mn2+イオンあるいはTi4+イオンを固溶した場合は緑色蛍光あるいは白色蛍光が得られる。
(8)本発明の希土類フリー蛍光体は、近紫外光または青色光による励起により赤色領域に発光のピークを有することを特徴とする。
(9)本発明は(7)または(8)に記載の希土類フリー蛍光体において、組成式Na3AlF6で示される氷晶石の結晶においてAl3+イオンによる6配位のサイトにMn4+イオンあるいはMn2+イオンまたはTi4+イオンが固溶されたことを特徴とする。
前記6配位のサイトにMn4+イオンを固溶させることで、近紫外光または青色光による励起により赤色蛍光が得られる。また、Mn2+イオンを固溶させた場合は緑色蛍光が得られ、Ti4+イオンを固溶させた場合は白色蛍光が得られる。
氷晶石の粉末に代えてNaのフッ化物粉末とAlの化合物粉末を混合して用いることもできる。
本発明により、フラックス粉末を混合することで単純な固相合成反応により希土類フリーの蛍光体の生成が可能となる。
以下に、本発明の第一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係る希土類フリー蛍光体の製造工程の一例を示すもので、本実施形態で製造対象とする希土類フリー蛍光体は、組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6(式中、xはMnあるいはTiの濃度であり、0<x≦0.02である。)で示される希土類を含まない蛍光体である。
本実施形態の蛍光体は、Na3AlF6なる組成式で示される氷晶石の結晶のAl3+サイトが6配位の八面体サイトをとるため、希土類に代わる発光元素としてマンガン(Mn4+)イオンを固溶させた蛍光体である。Mn4+は、熱消光(温度の上昇に伴い、発光強度が低下すること。)が小さく、八面体サイトを置換することにより、近紫外光〜青色光(200〜440nm)の照射に応じて660nm近傍、例えば、657nm近傍の赤色発光を呈する。すなわち、6配位のAl3+サイトにMn4+を固溶させることにより、近紫外光〜青色光の励起光の照射に応じて赤色発光を呈する蛍光体を得ることができる。この蛍光体の発光中心は、Mn4+イオンの2E→4A2の遷移による。
Mn4+を固溶させた蛍光体はNa3AlF6:Mn4+と表記することができ、Ti4+を固溶させた蛍光体はNa3AlF6:Ti4+と表記することができ、Mn2+を固溶させた蛍光体はNa3AlF6:Mn2+と表記することができる。
第1の製造方法に基づき、蛍光体を製造するには、Na3AlF6なる組成式で示される氷晶石の粉末(粒子)と、フラックスの粉末(粒子)とMnあるいはTiの化合物粉末(粒子)を出発材料として用意する。
氷晶石の粉末は一般市販の粉末を用いることができる。ここで用いる粉末は粒径数μm〜数10μmレベルの細粒、あるいは、粒径がnmオーダーの微粒子粉末、あるいは粒径数10〜数100μmに及ぶ粒子状の粉末のいずれであっても良い。
フラックスの粉末は、一例として、炭酸ナトリウム粉末、炭酸リチウム粉末、炭酸カリウム粉末、ホウ酸粉末、フッ化マグネシウム粉末のうち、1種または2種以上を単独あるいは適宜混合して用いることができる。ここで用いるフラックス粉末の粒径は特に制限はなく、上述の氷晶石の粉末と同様に、細粒、微粒子粉末、粒子状粉末のいずれを用いることもできる。フラックス粉末して混合粉末を用いる場合、炭酸ナトリウム粉末、炭酸リチウム粉末、炭酸カリウム粉末の混合粉末を用いることができる。
なお、フラックスの粉末として、上述の粉末の他に、塩化アンモニウム、塩化ナトリウムなどの粉末を用いることもできる。
Tiの化合物粉末は、一例として酸化チタン(TiO2)の粉末を用いることができるがその他のTi化合物粉末を用いても良い。
混合粉砕物を得たならば、この混合粉砕物を700〜1000℃の温度で3〜16時間程度焼成する焼成工程を施す。焼成温度が700℃未満ではフラックスの粉末を用いたとしてもMnやTiの固溶が充分になされず、目的の蛍光体を得ることが難しくなる。1000℃を超える温度で焼成すると温度が高すぎて混合粉末が一部溶解して焼成炉の試料容器内に溶融残留物として固着するおそれがある。
製造工程として、一度、仮焼きを600℃の温度で6時間程度行い、試料を取り出し、再度混合粉砕を行い、本焼温度850〜1000℃で焼成工程を行う条件が好ましい。
焼成時の雰囲気は大気中でも良いし、N2ガス雰囲気中やArガス雰囲気中などのような不活性ガス雰囲気あるいは脱酸素雰囲気で行ってもよい。脱酸素雰囲気として、N2ガス80〜90%、CO2ガス10〜20%などの混合ガス雰囲気を採用することができる。
Na2CO3粉末を用いる場合、一例として、フラックス粉末10モル%添加する場合、氷晶石粉末0.5254gに対し、MnO2粉末0.0022g、フラックス粉末(Na2CO3粉末)0.0266gの割合で混合できる。同様に、50モル%添加する場合、氷晶石粉末0.5248gに対し、MnO2粉末0.0019g、フラックス粉末(Na2CO3粉末)0.1330gの割合で混合できる。100モル%添加する場合、氷晶石粉末0.5252gに対し、MnO2粉末0.0020g、フラックス粉末(Na2CO3粉末)0.2655gの割合で混合できる。150モル%添加する場合、氷晶石粉末0.5251gに対し、MnO2粉末0.0018g、フラックス粉末(Na2CO3粉末)0.3976gの割合で混合できる。200モル%添加する場合、氷晶石粉末0.5248gに対し、MnO2粉末0.0022g、フラックス粉末(Na2CO3粉末)0.5304gの割合で混合できる。300モル%添加する場合、氷晶石粉末0.5251gに対し、MnO2粉末0.0026g、フラックス粉末(Na2CO3粉末)0.7952gの割合で混合できる。
H3BO3粉末を用いる場合、一例として、フラックス粉末10モル%添加する場合、氷晶石粉末1.0495gに対し、MnO2粉末0.0040g、フラックス粉末(H3BO3粉末)0.0313gの割合で混合できる。
H3BO3粉末を用いる場合、一例として、フラックス粉末50モル%添加する場合、氷晶石粉末1.0500gに対し、MnO2粉末0.0041g、フラックス粉末(H3BO3粉末)0.1546gの割合で混合できる。
この蛍光体は、氷晶石に対し適切な量のフラックス粉末と酸化マンガン粉末あるいは酸化チタン粉末とともに混合され、適切な温度と雰囲気で焼成されているため、氷晶石の6配位のAl3+サイトにMn4+をあるいはMn2+もしくはTi4+を固溶させることができる。近紫外光〜青色光の励起光照射に伴い、Mn4+イオンに起因する赤色発光を呈する蛍光体を得ることができる。あるいは、Mn2+イオンに起因する緑色蛍光もしくはTi4+イオンに起因する白色蛍光を得ることができる。
また、上述の方法で得られたMn4+イオンに起因する赤色発光を呈する蛍光体は、660nm近傍のみに単一の蛍光スペクトルの発光を呈するので、発光ピークが高く演色性にも優れた発光を呈する蛍光体である。
なお、蛍光体の励起光として例えば、Mn4+の場合は439nmの励起光、Mn2+の場合は418nmの励起光、Ti4+の場合は254nmの励起光を用いることができる。
この例のLED装置1によれば、LED発光体2から青色光を出射し、この出射光を蛍光体3に照射して蛍光体3を赤色に発光させ、先の出射光を蛍光体4に照射して蛍光体4を緑色に発光させることができ、これらの混色により白色光Aを発するLED装置1を提供することができる。
このLED装置1であるならば、蛍光体3が発する赤色光が単一光で強く、他の色が入っていない演色性の良好な赤色光であるので、蛍光体4が発する緑色光が単一光で強く、他の色が入っていない演色性の良好な緑色光であるならば、得られる白色光Aは単一光で強く他の色の入っていない白色光を出射できる。
第2の製造方法においては、Na3AlF6なる組成式で示される氷晶石を構成する元素の化合物原料を出発材料として氷晶石の結晶を製造し、この結晶を利用して蛍光体を製造する方法を採用することができる。
Na3AlF6なる組成式で示される氷晶石を構成する元素の化合物原料とは、一例として、ナトリウム化合物粉末とアルミニウム化合物粉末とナトリウムあるいはアルミニウムのフッ化物粉末である。ナトリウム化合物粉末とアルミニウム化合物粉末のいずれかをフッ化物粉末とした場合、例えば、フッ化ナトリウム粉末とアルミニウム化合物の組み合わせ、ナトリウム化合物とアルミニウムフッ化物の組み合わせでも良い。
混合粉砕物を得たならば、この混合粉砕物を第1の製造方法と同様の700〜1000℃の温度で3〜16時間程度焼成する焼成工程を施すことで、組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6(式中、xはMnあるいはTiの濃度であり、0<x≦0.02である。)で示される希土類を含まない蛍光体を得ることができる。焼成工程は大気中で行う通常焼成であって良く、他に不活性ガス雰囲気中または不活性ガスと他のガスを混合した脱酸素雰囲気中において実施できる。この製造方法の一例工程を図4に示す。
上述の方法で得られた蛍光体は、Ti4+を氷晶石の結晶に固溶した場合、白色発光が得られ、Mn2+を氷晶石の結晶に固溶した場合、緑色発光が得られる。
以下に本発明の実施例について説明し、本発明の効果を検証する。
氷晶石粉末と酸化マンガン粉末とフラックスの粉末を秤量し、めのう乳鉢にて乾式粉砕混合した。フラックスの粉末とは、炭酸ナトリウム粉末と炭酸リチウム粉末とホウ酸粉末とフッ化マンガン粉末のいずれかである。
この粉砕混合物を電気炉において800℃で3時間〜16時間焼成し、焼成物を得た。フラックスの粉末は試料の種類に応じて10〜300モル%の間に調整し、酸化マンガンは氷晶石のAlに対し試料に応じて1〜5モル%の間に調整した。
得られた焼成物試料の結晶同定はX線回折法を用い、蛍光特性は分光蛍光光度計を用いて評価した。
フラックス粉末として、炭酸リチウム粉末を用いた場合、10モル%の添加量を選択し、この場合の氷晶石粉末と酸化マンガン粉末との配合量は、先の実施形態の説明で記載した配合量と同等とした。
フラックス粉末として、ホウ酸粉末を用いた場合、10モル%、50モル%の添加量を選択し、それらの場合の氷晶石粉末と酸化マンガン粉末との配合量は、先の実施形態の説明で記載した配合量と同等とした。
なお、上述の配合時の基準は、氷晶石に対して酸化マンガン粉末1モル%、炭酸ナトリウム添加量としている。例えば、1gの氷晶石を使用する場合、1/209.9(氷晶石のモル質量)=0.00476モルとなる。これに対して、1%の酸化マグネシウム粉末は、0.00476×0.01=0.0000476モルとなるので、0.0000476×40.30(酸化マグネシウムのモル質量)=0.0019gと求めて配合している。炭酸ナトリウムについても同様に算出し、配合した。以上説明した関係に基づき、以下の各実施例の配合量を調整し、所定のモル数で配合し、出発材料粉末としている。
また、炭酸ナトリウム粉末を用いて400モル%の配合量とした場合、炭酸リチウム粉末を用いて50モル%とした場合、ホウ酸粉末を用いて100モル%とした場合もそれぞれ氷晶石粉末と酸化マンガン粉末と混合し、焼成してみたが、いずれも焼成時に収容容器(焼成ボート)に試料が溶融固着してしまい、製造に支障を来した。
また、図6にそれぞれの焼成物試料に対し波長440nmの励起光を照射し、得られた発光スペクトルの測定結果を示す。
いずれの試料も大きな発光ピークが1つ出現するので、図5に示すXRD図形が示す結晶性と合わせて考慮すると、フラックス粉末として炭酸ナトリウムを用いる場合、10〜300モル%の範囲で配合可能なことがわかる。また、炭酸ナトリウムの配合量は、上述の範囲内であっても、発光ピークの強さから、10モル%以上200モル%の範囲がより好ましく、50モル%前後が最も望ましいと推定できる。
図7に示す結果から、フラックス粉末として炭酸リチウム粉末を用いて得た焼成物あるいはホウ酸粉末を用いて得られた各焼成物はいずれも660nm付近のみに大きな発光ピークが1つ出現したので、優れた赤色蛍光体であることが判明した。
図8に示す結果から、いずれの試料も660nm付近に大きな発光ピークが1つ出現するので、フラックス粉末としてフッ化マグネシウム粉末を用いる場合、10〜200モル%の範囲で配合可能なことがわかる。また、フッ化マグネシウムの配合量は、上述の範囲内であっても、発光ピークの強さから、10モル%以上100モル%の範囲が好ましく、10〜50モル%の範囲が最も望ましいと推定できる。
なお、図9に示すフッ化マグネシウム粉末を用いた場合に生じた660nmより少し波長の長い領域での弱い発光は、Al2O3:Mn4+の発光ピークと思われる。
図9に示す焼成物を製造した場合の焼成時間3時間に対し、図10に示す焼成時間16時間の焼成物では副生成物からの発光が増加した。このことから、焼成時間を長くすると副生成物の生成が進行すると思われる。
図11に示す結果から、いずれのフラックス粉末の組み合わせでも660nm付近に大きな発光ピークが得られたので、混合フラックス粉末を用いることにより蛍光体を製造できることがわかった。なお、炭酸ナトリウム粉末(50モル%)+フッ化マグネシウム粉末(100モル%)の場合、675nm付近にも弱い発光ピークが見られたので、この発光ピークはAl2O3:Mn4+の発光ピークと思われる。
氷晶石粉末に添加するフラックス粉末として炭酸リチウム粉末(10モル%)、ホウ酸粉末(10モル%)、フッ化マグネシウム粉末(10モル%)のいずれかを用い、酸化マンガン粉末の配合量を1、2、3、5モル%のいずれかに設定し、めのう乳鉢にて乾式粉砕混合し、焼成温度800℃で3時間焼成して得た各焼成物のXRD図形と発光スペクトル測定結果を求めた。
図15〜図17に示す結果から、酸化マンガンの配合量は1〜5モル%の範囲を採用することができ、1つの発光ピークを有する発光特性の蛍光体を得ることができるが、1つの大きな発光ピークを有する蛍光体を得るためには、酸化マンガンの配合量として3〜5モル%を選択することが望ましいことがわかった。
フッ化ナトリウム粉末と硫酸アルミニウム粉末と酸化マンガン粉末とフラックス粉末を秤量し、これらをめのう乳鉢にて湿式粉砕混合し、これらの粉砕混合物を電気炉にて700℃で12時間焼成し、各焼成物を得た。
フラックス粉末として、炭酸ナトリウム粉末を用いる場合は、添加量50モル%に設定し、炭酸リチウム粉末を用いる場合は添加量10モル%に設定し、ホウ酸粉末を用いる場合は10モル%に設定し、フッ化マグネシウムを用いる場合は100モル%に設定してそれぞれ焼成物を得た。
いずれの焼成物においても660nm付近に強い発光ピークが認められたので、優れた蛍光体を製造できることがわかった。
フッ化ナトリウム粉末と硫酸アルミニウム粉末と酸化マンガン粉末とフラックス粉末を秤量し、これらをめのう乳鉢にて湿式粉砕混合し、これらの粉砕混合物を電気炉にて700℃で12時間焼成し、各焼成物を得た。
フラックス粉末として、炭酸ナトリウム粉末と炭酸リチウム粉末の混合粉末を用いる場合は、炭酸ナトリウム粉末添加量50モル%、炭酸リチウム粉末添加量10モル%に設定し、炭酸ナトリウム粉末とホウ酸粉末の混合粉末を用いる場合は炭酸ナトリウム粉末50モル%、ホウ酸粉末10モル%に設定し、炭酸ナトリウム粉末とフッ化マグネシウム粉末の混合粉末を用いる場合は炭酸ナトリウム粉末50モル%、フッ化マグネシウム粉末10モル%に設定してそれぞれ焼成物を得た。
いずれの焼成物においても660nm付近に強い発光ピークが認められたので、フラックス粉末として混合粉末を用いた場合においても優れた蛍光体を製造できることがわかった。
フラックスとして混合フラックス(Na2CO3、Li2CO3、K2CO3)を用い,焼成温度700〜900℃で6時間、酸化マンガン及び酸化チタンは氷晶石のAlに対し1モル%に設定し、フラックス添加量を0〜200モル%に変量して複数の焼成物を作製した。
詳細には、NaF、AlF3、MnO2を天秤に入れて秤量し、電気炉を用いて600℃で6時間仮焼し、フラックス(混合フラックスあるいはNa2CO3フラックス)と仮焼物をメノウ乳鉢にて乾式混合した。この混合物を電気炉に収容し、温度700〜900℃で6時間通常焼成(大気中焼成)あるいは脱酸素焼成(N280%−CO220%雰囲気下)を行った後、純水洗浄を行った。評価方法として、結晶相同定はX線回折を用い、蛍光特性は分光蛍光光度計を用いて評価を行った。
フラックス添加量50モル%、900℃、6時間の条件における焼成物と氷晶石試薬の実測値を比較したところ、氷晶石に帰属される回折ピークを得ることができた。これに対し、その他の条件における焼成物では氷晶石に帰属される回折ピークを得ることができなかった。その原因として温度及びフラックス添加量の不足によって固溶が完全に行われていなかったことが考えられる。また、混合フラックスを添加せずに合成を行なったところ、氷晶石に帰属されるピークは得られたが、ブラックライト照射にて赤色発光がみられなかったことから、融点が下がっていないために固溶が正常に行われず、Mn4+が置換されなかったと考えられる。よって、フラックスを用いなければNa3AlF6:Mn4+の合成はできないと考えられる。副生物として2θ=38°付近にNa由来と思われる回折ピークを確認することができ、このNa由来と思われる副生物を除去するため純水洗浄を行った。その結果、純水洗浄を行ったフラックス添加量50モル%、900℃、6時間の条件における焼成物では副生物である2θ=38°付近の物質を取り除くことができた。その結果を図23に示す。
また、それぞれの試料にブラックライト(励起光:439nm)を照射したところ、いずれの試料も赤色の発光を示した。その結果を図24に示す。
図24に示す結果から850℃、50モル%、6時間の条件で製造した焼成物の発光強度が最も強いことがわかる。また、図24に示すように、通常焼成温度800〜900℃、フラックス添加量50モル%〜200モル%で蛍光体を得ることができた。
各焼成物と氷晶石試薬の実測値とを比較したところ、氷晶石に帰属される回折ピークは得られているが、副生物と思われる回折ピークも存在していることを確認できた。しかし、脱酸素雰囲気下での焼成であるため、この回折ピークは副生物ではなく混合フラックスが正常に機能しなかったことにより溶解しなかった出発原料のNaF、AlF3の溶け残りであると考えられる。また、各生成物にブラックライト(励起光:439nm)を照射したところ、赤色の発光を示したのは900℃、50モル%、6時間(2)の条件の焼成物と950℃、100モル%、6時間の条件の焼成物であった。赤色発光を示さなかった焼成物の原因として、焼成温度及びフラックス添加量の不足によってAlイオンの一部をMn4+で置換する反応が正常に行われていなかったことが考えられる。なお、900℃、50モル%、6時間(1)の条件の焼成物は焼成の際に電気炉の設定条件を誤動作させた試料であり、これが原因となって赤色発光を示さなかった。
焼成物にブラックライト(439nm)を照射した状態及び蛍光測定した結果から、950℃、100モル%、6時間の条件で製造した焼成物の発光強度が最も高いと判断できた。図25に示すXRD図形に示すようにフラックス:50〜150モル%、850〜1000℃の条件で蛍光体を製造できた。
図27に示すいずれかの条件で製造した焼成物と氷晶石試薬の実測値とを比較したところ、いずれの条件でも氷晶石に帰属される回折ピークを得ることができなかった。その原因として温度及びフラックス添加量の不足によって固溶が完全に行われていなかったためであると考えられる。副生物として2θ=38°付近にNa由来と思われる回折ピークを確認し、このNa由来と思われる副生物を除去するため焼成物の純水洗浄を行った。
しかし、それぞれの焼成物におけるXRD図形では、氷晶石に帰属される回折ピークが得られていなかったため、これは氷晶石ではなく、温度あるいはフラックス添加量の不足によって生成されてしまった副生物にTi4+が置換された可能性が考えられる。よってこれらの製造条件では、Na3AlF6:Ti4+の生成はできなかったと考えられる。
フラックスとしてNa2CO3を用い、焼成温度950〜1000℃で6時間、酸化マンガンあるいは酸化チタンは1モル%、フラックス添加量を25〜100モル%に変量して試験を行った。本発明の1つの目的であるNa3AlF6:Mn4+が生成されると氷晶石の結晶にMn4+が固溶されるため、X線回折の結果として氷晶石の回折ピークが左側にシフトした図形を確認できる。Na3AlF6:Mn4+の蛍光スペクトルは660nm付近にシャープなピークが現れ、Na3AlF6:Ti4+の蛍光スペクトルは500nm付近にフラットなピークが現れる。
これは焼成の際に弱還元状態になった影響により、本来置換されるべきMn4+ではなくMn2+が置換されたためであると考えられる。脱酸素雰囲気下での焼成であれば、脱酸素のし過ぎによる影響が考えられるが、通常焼成においても弱還元状態になってしまったため、脱酸素雰囲気による影響ではないと認識できる。
各焼成物と氷晶石試薬の実測値とを比較したところ、いずれの条件の焼成物においても氷晶石に帰属される回折ピークを得ることができた。しかし、副生物と思われる回折ピークを2θ=8°、16°、27°付近に確認できた。これらはフラックスの添加不足または焼成温度が低かったために反応しなかったMnO2と脱酸素焼成を行う際に使用しているガス中のCO2の反応によって生成された炭酸マンガンがピークの正体ではないかと推測したが、炭酸マンガンの回折ピークが説明されている文献との比較でピークの一致が見られなかったため、その他のMn由来の物質またはNa由来の物質が原因ではないかと考えられる。
ブラックライト(254nm)を照射し、白色発光がみられた焼成物の蛍光測定を行ったところ、Ti4+の発光スペクトルを確認できた。図33に示す焼成物のXRD図形から氷晶石に帰属される回折ピークが得られていることから、この製造条件において焼成物中に副生物は発生してしまうがNa3AlF6:Ti4+の生成ができたと判断できる。
図35に示すように焼成物と氷晶石試薬の実測値とを比較したところ、氷晶石に帰属される回折ピークを得ることができた。しかし、副生物と思われる回折ピークも確認できた。これらは、フラックスの添加不足または焼成温度が低かったために反応しなかったTiO2と脱酸素焼成を行う際に使用しているガス中のCO2の反応によって生成されてしまった物質であると考えられる。
脱酸素焼成においては、いずれの条件においても出発原料の溶け残りが発生するものの、主生成物としてNa3AlF6:Mn4+の生成ができた。
フラックス(Na2CO3)を用いて添加量75モル%、脱酸素焼成で1000℃、6時間の製造条件では、一部Mn2+となったが、焼成物中に主生成物としてNa3AlF6:Mn4+の生成ができた。同様に、フラックス(Na2CO3)を用いて添加量75モル%、1000℃、6時間の製造条件では、焼成物中に副生物が生成されてしまうものの、主生成物としてNa3AlF6:Ti4+を生成できることがわかった。
Claims (9)
- 組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6(式中、xはMnあるいはTiの濃度であり、0<x≦0.02である。)で示される希土類フリー蛍光体の製造方法であり、組成式Na3AlF6で示される氷晶石の粉末に、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、ホウ酸、フッ化マグネシウムのうち、いずれか1種または2種以上からなるフラックスの粉末と、マンガンあるいはチタンの化合物粉末を所定量秤量して混合し、粉砕した後、焼成することを特徴とする希土類フリー蛍光体の製造方法。
- 前記炭酸ナトリウムの粉末を混合する場合に10モル%以上300モル%以下、前記炭酸リチウムの粉末を混合する場合に10モル%以上50モル%未満、前記ホウ酸の粉末を混合する場合に10モル%以上50モル%以下、前記フッ化マグネシウムの粉末を用いる場合に10モル%以上200モル%以下の範囲で混合することを特徴とする請求項1に記載の希土類フリー蛍光体の製造方法。
- 前記酸化マンガンの粉末を1モル%以上5モル%以下の範囲で混合することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の希土類フリー蛍光体の製造方法。
- 前記酸化マンガンの粉末を3モル%以上5モル%以下の範囲で混合することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の希土類フリー蛍光体の製造方法。
- 前記焼成を700℃〜1000℃で3〜16時間行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の希土類フリー蛍光体の製造方法。
- 組成式Na3AlF6で示される氷晶石の粉末に代えて、Naのフッ化物粉末とAlの化合物粉末を混合することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の希土類フリー蛍光体の製造方法。
- 組成式Na3(Al1-x(Mn,Ti)x)F6(式中、xはMnあるいはTiの濃度であり、0<x≦0.02である。)で示される希土類フリー蛍光体であり、励起光により赤色、緑色あるいは白色に発光することを特徴とする希土類フリー蛍光体。
- 近紫外光または青色光による励起により赤色領域に発光のピークを有することを特徴とする請求項7に記載の希土類フリー蛍光体。
- 組成式Na3AlF6で示される氷晶石の結晶においてAl3+イオンによる6配位のサイトにMn4+イオンあるいはMn2+イオンまたはTi4+イオンが固溶されたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の希土類フリー蛍光体。
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