JP2016204292A - Bmp7変異体とアルブミンとの融合体、及び該融合体を含む腎疾患治療剤 - Google Patents
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Description
しかし、慢性腎臓病の進展機序については未解明な点が多く、既存の治療方法では疾患の抑制を十分に達成できていない。例えば、現在、腎疾患に対する薬物治療としては降圧薬やステロイドなどが使用されているが、これらの腎疾患治療薬は予防的側面が強く、病態進行を改善または回復させる薬剤は未だ存在しない。
原核生物細胞によって産生する組み換えヒトBMPは、糖鎖を含まないために培養自体が容易であるとともに、増殖能に優れた原核生物細胞を製造に使用できるという利点がある。さらに、異種真核生物細胞で作られた組み換えヒトBMPの場合に見られるようなヒト型糖鎖と異なる糖鎖によるネガティブな影響を考えなくても良いという利点がある。しかしながら、原核生物細胞で産生された組み換えヒトBMPは、凝集しやすくかつ溶解性が非常に低いという欠点があり、実用化の障害になっている。また、糖鎖を含まない組み換えヒトBMPは、凝集性や溶解性の問題に加えて、貯蔵時の安定性や、生体内での骨の再生や修復という持続的機能に関して課題がある。そのため、原核生物で産生された組み換えヒトBMPを、特定の範囲濃度の塩酸溶液に溶解する工程を含む組み換えBMPを製造する方法が提案されている(特許文献1)。
(1)配列番号1に記載のヒトBMP7の10番目のアスパラギン、29番目のアスパラギン、および80番目のアスパラギンが任意のアミノ酸に置換され、糖欠損型のBMP7であるBMP7変異体と、ヒト血清アルブミンとの融合体からなる融合タンパク質、ここで、BMP7変異体とヒトアルブミンは直接または2〜20(好ましくは2〜10)のアミノ酸からなるスペーサーを介して結合している。
(2)前記BMP7変異体が、配列番号2で示されるアミノ酸配列であるBMP7変異体である上記(1)に記載の融合タンパク質。
(3)前記融合タンパク質が、配列番号3に示される、BMP7変異体とヒト血清アルブミンとの融合体からなる融合タンパク質である上記(2)に記載の融合タンパク質。
(4)さらに、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを、前記融合体のN末端側またはC末端側に含む、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の融合タンパク質、ここで前記ペプチドは融合タンパク質中にいずれの向きで含まれていてもよい。
(5)前記融合タンパク質が、配列番号5に示される、BMP7変異体と、ヒト血清アルブミンと、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、との融合体からなる融合タンパク質である、上記(4)に記載の融合タンパク質。
(6)前記(1)から(5)のいずれかひとつに記載の融合タンパク質を含む腎疾患治療剤。
(7)週1回投与されることを特徴とする前記(6)に記載の腎疾患治療剤。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本発明の他の一つの態様は、配列番号2に示されるBMP7変異体、ヒト血清アルブミンとの融合体からなる融合タンパク質である。
配列番号2に示されるBMP7変異体は、139アミノ酸からなるヒトBMP7の配列において、糖鎖の結合部位である10番目のアスパラギン、29番目のアスパラギン、および80番目のアスパラギンをグルタミンに変更した配列である。これにより、BMP7変異体は糖鎖欠損型となる。
BMP7変異体とヒト血清アルブミンとの結合は、直接結合しても、両者の間にペプチドのスペーサーを介して結合してもよいが、スペーサーを介して結合するのが好ましい。スペーサーとしては、アミノ酸数、2〜20,好ましくは2〜10の長さのペプチドが用いられ、アミノ酸としては主としてグリシンから構成されるのが好ましい。具体的には、−(Gly)n−Ser−(Gly)n−で表されるペプチドが好ましく用いられ、nは、それぞれ独立に、1〜10、好ましくは2〜5、特に好ましくは4である。
融合タンパク質の発現系としては、原核生物細胞または真核生物細胞を用いた公知の発現系を適宜用いることができるが、好ましくは、ピキア酵母発現系である。ピキア酵母発現系での融合タンパク質の作製は、公知の方法、例えば、生田らの報告(S. Ikuta et al., J. Control. Release 147 (2010) 189-195)や本発明者らによる報告(非特許文献3)に基づいて行うことができる。
本発明のもう一つの別の態様は、配列番号2に示されるBMP7変異体と、ヒト血清アルブミンと、配列番号4に示されるアミノ酸配列のペプチドが融合した融合タンパク質である。
配列番号2に示されるBMP7変異体、及びBMP7とHSAを融合するためのペプチドのスペーサーについては、前記の通りである。
配列番号4に示されるアミノ酸配列のペプチドは、腎標的ペプチドとして本発明者らにより発見されたペプチド(以下、腎標的ペプチドという場合がある)である。配列番号4のペプチドは、いずれの向きで融合タンパク質中に配置されてもよい。例えば、ペプチド(His-Gly-Val-Gln-Ala-Arg-Leu)−HSA−BMP7であっても、ペプチド(Leu-Arg-Ala-Gln-Val-Gly-His)−HSA−BMP7であってもよい。また、融合タンパク質中の、ペプチド、HSA,BMP7の配列順は、ペプチドがN末端側またはC末端側に配置されていれば、それ以外はいずれの配置でもよい。
本発明の融合タンパク質は、良好な血中滞留性と生理活性の持続性を有するので、週1回程度の投与でも十分な効果が発揮できる。また、BMP7に由来する骨形成活性がBMP7に比べて低いので、副作用の懸念が少なく、BMP7に比べて高用量および/または長期の投与が可能である。
全ての動物事件は、熊本大学の実験動物指針に従って行った。
Pichia pastoris発現キットは、Invitrogen(USA)から購入した。
シスプラチンは、日本化薬から購入した。
HSA−BMP7融合タンパク質の作製は、生田らの方法に従って行った。具体的には、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子を組み込んだpPIC9ベクターにより形質転換したPichia pastorisをBMGY培地で培養した後、BMMY培地に交換後、タンパク質発現誘導因子、炭素源およびメタノールを添加してさらに培養を続けた。メタノールは毎日添加してタンパク質発現誘導効果を維持した。融合タンパク質の精製は、アフィニティカラムを用い、次いで、疎水性カラムを用いたクロマトグラフィーにより行った。精製した融合タンパク質は、SDS−PAGEを行い分子量により確認した。
実施例1と同様にして行った。但し、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子を組み込んだpPIC9ベクターにより形質転換したPichia pastorisを用いた。
4週齢のICR雄マウスを用い、尿管(左腎側)を2箇所結束して(一側尿管結紮(UUO)により)マウス腎間質線維化モデルを作製した。線維化の程度は、UUO処置7日後と14日後の組織形態学的観察(マッソントリクローム染色)と14日後のヒドロキシプロリン量の測定により評価した。
結束時点(0日目)および7日目に、実施例1で調製したHSA−BMP7、HSAまたはBMP7のそれぞれをマウスに、100 nmol/kgにて静脈内投与した。対照として、生理食塩水のみを投与した。また、尿管結束をしていないマウスをcontrolとした。
UUO処置14日後のマッソントリクローム染色の結果を図1に示す。生理食塩水投与群で観察された膠原繊維(青く染まる)は、HSA−BMP7投与群では顕著に抑制された。一方、HSAまたはBMP7投与群では膠原繊維の抑制効果は観察されなかった。
ヒドロキシプロリン量の測定結果を図2に示す。HSA−BMP7により、有意に低下しているのが判る。
これらの結果より、1週間に1回の投与でも、HSA−BMP7により腎繊維化が抑制できることが判った。
4週齢のICR雄マウスを用い、シスプラチンを投与する30分前に、実施例1で調製したHSA−BMP7を100 nmol/kgにて静脈内投与した。対照として、生理食塩水のみを投与した。また、シスプラチンを投与していないマウスをcontrolとした。シスプラチンは、15mg/kgにて腹腔内投与した。シスプラチン投与96時間後に、腎機能および腎組織学的評価を行った。具体的には、血清クレアチニンと血中尿素窒素含量を測定するとともに、腎組織の形態学的観察をPAS染色およびTUNEL染色により行った。
結果を図3〜図5に示す。HSA−BMP7投与により、血清クレアチニンおよび血中尿素窒素含量の有意な抑制並びにクレアチニンクリアランスの上昇が観察された。また、組織形態学的観察(PAS/TUNEL染色)からも顕著な腎保護効果が観察された。
融合タンパク質であるHSA−BMP7の骨形成活性を確認した。
骨形成活性は、常法に従い、マウス筋芽細胞(C2C12)を用いてBMP7による骨芽細胞への分化誘導モデルにて骨芽細胞への分化の指標であるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を測定した。結果を図6に示す。HSA−BMP7は、BMP7に比べてALP活性を示さないこと、すなわち骨形成活性が低下していることが示された。
ヒト尿細管上皮細胞(HK−2)を用いて、BMPシグナル伝達に関わるSmad1/5/8のリン酸化をウェスタンブロットにより確認した。
BMP7(Prospec社 CYT−276:CHO細胞由来糖鎖あり)は10nMの濃度にて、HSA−BMP7は100nMの濃度にて培地中に添加した。結果を図7に示す。糖鎖のない本発明の融合タンパク質HSA−BMP7は、BMPシグナル伝達に関わるSmad1/5/8のリン酸化活性がBMP7(糖鎖あり)に比べて低いものの、Smad1/5/8をリン酸化することが確認できた。このことは、BMP7活性がHSAと融合化しても保持されていることを示している。
実施例3と同様にして、実施例2で作製したペプチド−HSA−BMP7の腎繊維化の抑制効果を確認した。
結束時点(0日目)および7日目に、ペプチド−HSA−BMP7、HSA−BMP7のそれぞれを100 nmol/kgにて静脈内投与した。対照として、生理食塩水のみを投与した。また、尿管結束をしていないマウスとcontrol(Normal)とした。14日目のヒドロキシプロリン量の測定結果を図8に示す。腎繊維化抑制効果の組織形態学的観察は、筋繊維芽細胞マーカーであるα−SMAの免疫染色により確認した。その結果を図9に示す。
これらの結果より、ペプチド−HSA−BMP7は、HSA−BMP7に比べて高い腎繊維化抑制効果を示した。
Claims (7)
- 配列番号1に記載のヒトBMP7の10番目のアスパラギン、29番目のアスパラギン、および80番目のアスパラギンが任意のアミノ酸に置換されて糖欠損型のBMP7であるBMP7変異体と、ヒト血清アルブミンとの融合体からなる融合タンパク質、ここで、BMP7変異体とヒトアルブミンは直接または2〜20のアミノ酸からなるスペーサーを介して結合している。
- 前記BMP7変異体が、配列番号2で示されるアミノ酸配列であるBMP7変異体である請求項1に記載の融合タンパク質。
- 前記融合タンパク質が、配列番号3に示される、BMP7変異体とヒト血清アルブミンとの融合体からなる融合タンパク質である請求項2に記載の融合タンパク質。
- さらに、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを、前記融合体のN末端側またはC末端側に含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の融合タンパク質、ここで前記ペプチドは融合タンパク質中にいずれの向きで含まれていてもよい。
- 前記融合タンパク質が、配列番号5に示される、BMP7変異体と、ヒト血清アルブミンと、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、との融合体からなる融合タンパク質である、請求項4に記載の融合タンパク質。
- 請求項1〜5のいずれかひとつに記載の融合タンパク質を含む腎疾患治療剤。
- 週1回投与されることを特徴とする請求項6に記載の腎疾患治療剤。
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