以下、本発明を実施するための形態の一例について、図面に基づいて詳細に説明する。
1.熱中性子透過量測定装置
本発明の熱中性子透過量測定装置は、粉体又は造粒物を分析対象物とし、分析対象物の分析対象元素濃度を定量分析する際に必要となる熱中性子透過量の測定に用いられる。具体的には、例えば石炭灰中のホウ素濃度を定量分析する際に必要となる熱中性子透過量の測定に好適に用いられる。
(1−1)第一の実施形態
図1及び図2に、第一の実施形態にかかる本発明の熱中性子透過量測定装置の一例を示す。図1及び図2に示す熱中性子透過量測定装置20aは、速中性子を放射する中性子線源23と、速中性子を熱中性子に変換する減速材22と、熱中性子が照射され、分析対象物が収容される試料ホルダ21と、試料ホルダ内に収容された分析対象物を透過した熱中性子を検出する検出器26とを少なくとも備えるものとしている。
中性子線源23は、速中性子を全方向に放射する線源であり、例えば、カリホルニウム252(252Cf)中性子標準密封線源を用いることができる。ここで、中性子線源23は、法令等で定められた規格容量(10MBq)以下のものとしなければならない。これにより、表示付認証機器として設計認証を受けることができ、中性子線源23の取り扱いを簡便なものとできる。
減速材22は、中性子線源23から放射された速中性子を減速して熱中性子に変換する部材であり、速中性子を減速させるまでの所要時間が短く且つ中性子吸収効果の少ない原子番号の小さな元素、例えば水素元素を含む材料により構成される部材を適宜用いることができる。このような材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂及びアクリル系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル等)等の樹脂等が挙げられる。樹脂は加工性・成形性に優れているため、所望の形状のものを入手・作製し易いという利点がある。ここで、樹脂の中でも特にポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。ポリエチレン分子中には水素元素が多く含まれることから、速中性子を極めて効率よく熱中性子に変換することができる。したがって、速中性子を熱中性子に変換する効率を向上させて、試料ホルダ21に入射する熱中性子数を増大させることができ、これにより測定感度を向上させることができる。尚、減速材22は、樹脂により構成されるものには限定されず、例えば、重水や水等といった水素元素を含む液体のように速中性子減速作用を有する液体を容器に満たして減速材とすることもできる。また、速中性子減速作用を有する気体を容器に充填して減速材とすることもできる。尚、樹脂等の固体を減速材とする場合にも、ブロック状のものには限定されず、粉体や粒状物を容器に収容して減速材とすることもできる。
減速材22は、中性子線源23と試料ホルダ21の間に配置される。これにより、中性子線源23から全方向に放射される速中性子を減速材22で熱中性子に変換し、この熱中性子を三次元的な広がりをもって減速材22から放出させて、試料ホルダ21に照射することができる。尚、以降の説明では、減速材22の試料ホルダ21との対向面を「減速材22の測線放出面」と呼ぶこともある。また、試料ホルダ21の減速材22との対向面を「試料ホルダ21の測線入射面」と呼ぶこともある。
尚、本実施形態では、中性子線源23を減速材22中に埋め込むことで、中性子線源23と試料ホルダ21の間に減速材22が配置されるようにして、且つ、中性子線源23を減速材22中に固定して安定に保持するようにしているが、中性子線源23の配置の仕方は必ずしもこのような形態に限定されるものではない。
中性子線源23から減速材22の測線放出面までの距離は、中性子線源23から放射される速中性子を十分に熱中性子に変換することができ、且つ、熱中性子の移動距離を過度に引き延ばすことのない距離に設定される。これにより、熱中性子を十分に発生させながらも、熱中性子の減衰を抑えて、測定感度を向上させやすいものとできる。減速材22をポリエチレン樹脂製のブロックとした場合の、中性子線源23から減速材22の測線放出面までの距離(最短距離)について例示すると、20mm〜55mm未満、好適には20mm〜50mm、より好適には30mm〜50mm、さらに好適には40mm〜50mmである。
試料ホルダ21は、分析対象物である粉体又は造粒物を収容して熱中性子透過量測定に供するための容器であり、熱中性子を実質的に吸収しない材料、換言すれば、熱中性子吸収断面積が極めて小さい材料、例えば樹脂、アルミニウム合金やステンレス鋼等で構成される。本実施形態では、試料ホルダ21内に分析対象物を導入するために、試料ホルダ21の上部全体を開口したものとしているが、試料ホルダ21内に分析対象物を導入するための構成は、このような形態に限定されるものではなく、例えば、試料ホルダ21の上部の一部のみを開口して分析対象物の導入部とするようにしてもよい。尚、試料ホルダ21内には、分析対象物である粉体又は造粒物がそのまま収容されて測定に供される。つまり、本発明においては、分析対象物に対して、底質調査法等で定められたアルカリ溶融による湿式分解溶液の調製等を必要としないだけでなく、分析対象物の加圧成形等を必要としないという利点もある。
試料ホルダ21は、減速材22と比例計数管26の間に配置される。これにより、減速材22から三次元的な広がりをもって放出される熱中性子のうち減速材22の測線放出面から放出された熱中性子が試料ホルダ21に照射され、試料ホルダ21内に収容された分析対象物を透過した熱中性子が検出器26で検出され、分析対象物の熱中性子透過量が測定される。ここで、減速材22、試料ホルダ21及び検出器26は、できるだけ近接させて配置することが好ましい。これにより、中性子線源23から検出器26までの距離を狭めて、熱中性子の減衰を抑えながら測定を行うことができ、測定感度を向上させることができる。尚、本実施形態では、中性子線源23が埋め込まれた減速材22を試料ホルダ21の下方に配置し、検出器26を試料ホルダ21の上方に配置するようにしているが、中性子線源23が埋め込まれた減速材22と検出器26の配置は逆転させてもよい。即ち、中性子線源23が埋め込まれた減速材22を試料ホルダ21の上方に配置し、検出器26を試料ホルダ21の下方に配置するようにしてもよい。
ここで、試料ホルダ21の熱中性子透過方向の厚み(図1及び図2に示す熱中性子透過量測定装置20aにおいては、試料ホルダ21の高さ)は、熱中性子の分析対象物中の移動距離を十分に確保しながらも、熱中性子の移動距離を過度に引き延ばすことのない厚みに設定される。これにより、分析対象物中の分析対象元素と熱中性子の衝突確率を上昇させながらも、熱中性子の減衰を抑えて、測定感度を向上させやすいものとできる。試料ホルダ21の熱中性子透過方向の厚みについて例示すると、35mm超〜55mm、好適には40mm〜55mm、より好適には40mm〜50mm、さらに好適には40mm〜47mmである。
試料ホルダ21の容積は、要求される測定感度に応じて適宜設定される。尚、分析対象元素が偏在しやすい分析対象物や粒径ばらつきの大きな分析対象物については、分析対象物に対してできるだけ広範囲に熱中性子が照射されるように、試料ホルダ21の測線入射面の面積を広げて試料ホルダ21の容積を大きなものとすることが好ましい。これにより、分析対象物の分析対象元素の偏在や粒径ばらつきにより生じる測定誤差を抑えることができる。
検出器26は、熱中性子を検出する機器であり、本実施形態では、比例計数管(例えば3He比例計数管等)を用いるようにしている。但し、検出器26は、比例計数管に限定されるものではない。
比例計数管26は、例えば筐体25に収納して用いられる。筐体25は、熱中性子を実質的に吸収しない材料、換言すれば、熱中性子吸収断面積が極めて小さい材料で構成される。このような材料としては例えば樹脂、アルミニウム合金やステンレス鋼等が挙げられる。筐体25には、比例計数管26の他にも、例えば比例計数管26で得られた信号を増幅するプリアンプ(図示省略)等が収納される。増幅された信号は、ケーブル等を通じて制御処理器(図示省略)で波形成形され、データが蓄積される。
比例計数管26の配置の仕方については、要求される測定感度を確保し得る限り特に限定されるものではないが、中性子線源23から筐体25の下面に到達する測線のうちの最短の測線Aを中心として配置することが好ましい。減速材22の測線放出面における熱中性子放射量は、中性子線源23から減速材22の測線放出面までの最短距離において最も多くなり、減速材22の測線放出面の端部に向かうほど少なくなる。減速材22の測線放出面におけるこのような熱中性子放出量の面内分布を考慮した場合、比例計数管26を中性子線源23から筐体25の下面に到達する測線のうちの最短の測線Aを中心又は略中心として配置することで、最も効率よく熱中性子を検出できる。また、比例計数管26は、測線Aに対して垂直又は略垂直に配置することが好ましい。比例計数管26を、測線Aに対して垂直又は略垂直とせずに大きく傾けて配置した場合、比例計数管26の測定有効部の一部が中性子線源23から離れすぎて熱中性子が減衰してしまい、測定感度が低下することがあるからである。
尚、試料ホルダ21についても、減速材22の測線放出面における熱中性子放出量の面内分布を考慮して、測線Aが試料ホルダ21の測線入射面の中心又は略中心を通過するように配置することが好ましい。
また、減速材22の測線放出面のうち比例計数管26の長軸方向に平行な方向の長さは、比例計数管26の測定有効部よりも長くすることが好ましく、比例計数管26の測定有効部の長さに対して1.1〜1.2倍以上の長さとすることがより好ましい。これらの場合、比例計数管26の測定有効部の全体を利用して熱中性子を検出することができ、比例計数管26の熱中性子検出能力を最大限に発揮させることができる。
ここで、中性子線源23から全方向に放出される速中性子は、減速材22内で乱反射しながら減速される。したがって、減速材22の測線放出面における熱中性子放出量は、減速材22の形状及び大きさによって任意の方向に偏らせることができる。例えば、減速材22を直方体とした場合には、減速材22の測線放出面が長方形となり、図37に示すように、短手方向よりも長手方向の方が速中性子の熱中性子への変換率が大きくなって、長手方向の熱中性子放出量が短手方向の熱中性子放射量よりも多くなる。この場合には、比例計数管26の長軸方向が減速材22の測線放出面の長手方向に対して平行になるように比例計数管26を配置することで、短手方向に対して平行に配置するときよりも測定感度を向上させることができる。
以上の構成により、図1に示すように、比例計数管26の本数を1本としても十分な測定感度が得られる。この場合、比例計数管26にかかる費用を抑えて、本発明の熱中性子透過量測定装置にかかる設備費用を大幅に抑えることができる。但し、このことは比例計数管26を2本又は3本以上(例えば、3本又は4本)使用することを必ずしも否定するものではない。
例えば、比例計数管26の本数を増やすことで、測定感度をさらに向上させることができる。また、比例計数管26を一定間隔で複数本配置して、熱中性子を検出可能な範囲を広げることで、分析対象物の分析対象元素の偏在や粒径ばらつきにより生じる測定誤差を抑制することも可能となる。例えば図2に示す熱中性子透過量測定装置20aのように、比例計数管26を2本使用する場合には、中性子線源23から筐体25の下面に到達する測線のうちの最短の測線Aを中心として、この測線Aと垂直又は略垂直に、且つ、試料ホルダ21の幅方向又は奥行き方向(図2では試料ホルダ21の幅方向)と垂直に一定間隔で配置することが好ましい。試料ホルダ21の幅が100mmの場合の比例計数管26の間隔について例示すると、40mm〜100mm未満(試料ホルダ21の幅未満)、好適には42mm〜92mm、より好適には52mm〜82mm、さらに好適には62mm〜82mm、最も好適には80mm程度である。但し、十分な測定感度を確保し得る限り、比例計数管26は試料ホルダ21の幅方向又は奥行き方向と垂直とせずともよく、適宜傾けても構わない。
以上のように構成された熱中性子透過量測定装置による分析対象物の熱中性子透過量の測定原理について以下に説明する。
中性子線源23から全方向に放射される速中性子は、減速材22を伝播する過程で熱中性子に変換され、この熱中性子が三次元的な広がりをもって減速材22から放出される。このうち、減速材22の測線放出面から放出される熱中性子が試料ホルダ21の測線入射面から入射され、試料ホルダ21内の分析対象物中を伝播する。この過程で、熱中性子の一部が分析対象物中の分析対象元素と衝突して吸収される一方で、分析対象元素と衝突しない熱中性子は分析対象物を透過して比例計数管26に到達し、検出される。これにより、分析対象物中の分析対象元素の濃度に依存した熱中性子透過量が測定される。尚、分析対象物中の分析対象元素の濃度が高い程、熱中性子透過量は減少する。逆に、分析対象物中の分析対象元素の濃度が低い程、熱中性子透過量は増加する。
ここで、比例計数管26で計測される熱中性子数は、中性子線源23に使用されている原子の半減期によって減衰し得る。したがって、一定期間毎(例えば24時間毎)にブランク値を測定し、ブランク値を考慮した校正を行うことが好ましい。尚、ブランク値とは、試料ホルダ21に試料未導入の状態で熱中性子透過量を測定した値である。さらに好ましくは、中性子線源23に使用されている原子の半減期を考慮した補正を信号値に対して行う補正機能を備えるものとすることである。これにより、ブランク値の測定頻度を減らすことができる。あるいは、ブランク値の測定を省くことができる。
尚、本発明の熱中性子透過量測定装置による分析対象物の熱中性子透過量の測定時間については、長くするほど測定感度が向上する傾向が見られるものの、一定以上長くすると測定感度は飽和する。したがって、十分な測定感度が得られる範囲で、できるだけ短時間で測定が完了するように、測定時間が設定される。
第一の実施形態にかかる熱中性子透過量測定装置によれば、底質調査法等で定められたアルカリ溶融による湿式分解溶液の調製等を必要とすることなく、分析対象物の分析対象元素濃度を定量分析する際に必要となる熱中性子透過量を簡易且つ迅速に測定することが可能となる。
(1−2)第二の実施形態
図3及び図4に、第二の実施形態にかかる本発明の熱中性子透過量測定装置の一例を示す。図3及び図4に示す熱中性子透過量測定装置20bでは、試料ホルダ21を、分析対象物の熱中性子透過方向の厚みを一定に規定するものとしている。具体的には、図1及び図2に示す熱中性子透過量測定装置20aのように、減速材22、試料ホルダ21及び筐体25を横置きで積み重ねた構造とせずに、縦置きに並べて配置した構造としている。
尚、「横置き」とは、設置面に対して垂直な辺または中心軸が、設置面に対して平行な辺または中心軸よりも短い設置状態を意味している。また、「縦置き」とは、設置面に垂直な辺または中心軸が、設置面に平行な辺または中心軸よりも長い設置状態を意味している。
ここで、試料ホルダ21に収容された分析対象物の縦方向の厚みは、分析対象物の嵩密度の影響で変動することがある。したがって、図1及び図2に示す熱中性子透過量測定装置20aのように、試料ホルダ21の底面を測線入射面とし、試料ホルダ21に収容された分析対象物の縦方向に熱中性子が透過する場合には、試料ホルダ21内に収容した分析対象物の熱中性子透過方向の厚みが、分析対象物の嵩密度の影響で変動して、熱中性子の分析対象物中の移動距離が変動してしまうことがある。その結果、分析対象元素の熱中性子捕獲率(熱中性子の減衰率)が変動して熱中性子透過量が変動してしまうことがある。この場合には、後述する嵩密度を考慮した補正(あるいは嵩密度及びカリウム濃度を考慮した補正)を行うことで、高精度且つ高確度な分析を行うことが可能である。
これに対し、試料ホルダ21に収容された分析対象物の横方向の厚みは、試料ホルダ21の横方向の厚みによって一定に規定されることになる。したがって、図3及び図4に示す熱中性子透過量測定装置20bのように、試料ホルダ21の一の側面(減速材22との対向面)を測線入射面とし、試料ホルダ21に収容された分析対象物の横方向に熱中性子が透過する場合には、試料ホルダ21内に収容した分析対象物の熱中性子透過方向の厚みが一定に規定されることになるので、熱中性子の分析対象物中の移動距離の変動が抑えられる。したがって、分析対象物中の熱中性子の移動距離が変動することによる分析対象元素の熱中性子捕獲率(熱中性子の減衰率)の変動が抑えられ、分析対象物の嵩密度の影響に起因する熱中性子透過量の変動が抑えられる。この場合には、後述する嵩密度を考慮した補正(あるいは嵩密度及びカリウム濃度を考慮した補正)を行うことなく、高精度且つ高確度な分析を行うことが可能である。
また、図3及び図4に示す熱中性子透過量測定装置20bのように、減速材22と試料ホルダ21と筐体25を縦置きで並べて配置することで、試料ホルダ21の上方を遮るものが無くなるので、減速材22と筐体25の間に試料ホルダ21を配置したままの状態でも分析対象物を試料ホルダ21内に導入することが可能になる。
比例計数管26の本数は、第一の実施形態と同様、図3に示すように1本とすることが特に好ましいが、測定感度をさらに向上させたり、熱中性子を検出可能な範囲を広げたりするために、図4に示すように2本としてもよいし、3本以上としてもよい。
ここで、本実施形態において、比例計数管26を1本とする場合、比例計数管26の配置の仕方は、第一の実施形態において説明した配置の仕方に加えて、さらに以下の条件を満たすことが好ましい。即ち、比例計数管26の測定有効部の長軸方向の長さが、試料ホルダ21の高さ方向の長さよりも長く、且つ減速材22の高さ方向の長さよりも短くなるように調製することが好ましい。この場合、分析対象物の嵩密度の影響をほぼ完全に排除することができ、後述する嵩密度補正(さらにはカリウム濃度補正)を行うことなく、極めて高精度且つ高確度な分析を行うことが可能となる。例えば、図3に示す熱中性子透過量測定装置20bでは、試料ホルダ21の高さ方向に対する比例計数管26の長軸の傾きを0°(平行)あるいはその近傍としたときに、比例計数管26の測定有効部の長軸方向の長さが、試料ホルダ21の高さ方向の長さよりも長く且つ減速材22の高さ方向の長さよりも短くなる。この場合、分析対象物の嵩密度の影響をほぼ完全に排除することができ、後述する嵩密度補正(さらにはカリウム濃度補正)を行うことなく、極めて高精度且つ高確度な分析を行うことが可能となる。試料ホルダ21の高さ方向の長さは、比例計数管26の測定有効部の長軸方向の長さに対して例えば0.8〜0.9倍とすることが好ましい。
尚、図3に示す熱中性子透過量測定装置20bでは、試料ホルダ21の下に調整台21bを設けて、測線Aが試料ホルダ21の測線入射面の中心又は略中心を通過するように配置するようにしているが、別の方法により測線Aが試料ホルダ21の測線入射面の中心又は略中心を通過するように調整しても構わない。
第二の実施形態にかかる熱中性子透過量測定装置によれば、底質調査法等で定められたアルカリ溶融による湿式分解溶液の調製等を必要とすることなく、分析対象物の分析対象元素濃度を定量分析する際に必要となる熱中性子透過量を簡易且つ迅速に測定することが可能となる。さらには、分析対象物の嵩密度の影響を抑えながら熱中性子透過量を測定することが可能となる。
2.定量分析方法、装置及びプログラム
本発明の定量分析方法、装置及びプログラムについて、分析対象物を石炭灰とし、分析対象元素をホウ素とした場合を例に挙げて以下に説明する。
(2−1)第一の実施形態
第一の実施形態にかかる定量分析方法、装置及びプログラムは、本発明の熱中性子透過量測定装置において、試料ホルダ21を、分析対象物の熱中性子透過方向の厚みを一定に規定するものとして、分析対象物の嵩密度の影響による熱中性子透過量の変動が抑えられている場合に特に好適に適用される。
第一の実施形態にかかる定量分析方法は、例えば図5に示す手順で実施される。即ち、分析対象石炭灰を採取し(S01)、分析対象石炭灰の熱中性子透過量を測定する(S02)。そして、単回帰関数を利用して分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する(S03)。詳細には、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、熱中性子透過量を独立変数として、単回帰分析を行うことにより予め求めておいた単回帰関数に、S02で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する。
第一の実施形態にかかる定量分析方法は、例えば図6に示す定量分析装置1aにより実施される。図6に示す定量分析装置1aは、熱中性子透過量測定装置20と、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、熱中性子透過量を独立変数として、単回帰分析を行うことにより予め求めておいた単回帰関数に、分析対象石炭灰の熱中性子透過量を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段7aを少なくとも備えるものとしている。熱中性子透過量測定装置20としては、例えば、図3及び図4に示す熱中性子透過量測定装置20bが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
以降の説明では、「複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、熱中性子透過量を独立変数として、単回帰分析を行うことにより予め求めておいた単回帰関数に、分析対象石炭灰の熱中性子透過量を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段7a」を、単に「ホウ素濃度算定手段7a」と呼ぶこともある。
S01において採取された分析対象石炭灰は、熱中性子透過量測定装置20の試料ホルダ21に導入され、熱中性子透過量が測定される(S02)。
ホウ素濃度算定手段7aでは、単回帰関数を利用して分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される(S03)。
単回帰関数は、以下の手順で求めることができる。
まず、分析対象石炭灰と同種の試料として、複数の石炭灰を準備する。この複数の石炭灰のうちホウ素濃度が未知のものについては、例えば、底質調査法によるホウ素定量方法(環境省環境管理局水環境部:「底質調査方法について」、環水大水発第120725002号、(2012).)や、硝酸とフッ化水素酸によるボンブ分解後にICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析を行うことにより、ホウ素濃度を取得する。
尚、複数の石炭灰については、例えば、石炭灰が排出される事業所毎に準備し、単回帰関数の決定に用いることが好適である。これにより、当該事業所から排出される石炭灰のホウ素濃度の定量分析をより高精度及び高確度に実施し得る。また、事業所において、取引される石炭の炭種が変更された場合には、炭種変更後の石炭灰を複数準備して、単回帰関数の決定に用いることが好適である。
次に、複数の石炭灰について、熱中性子透過量測定装置20を利用して熱中性子透過量を測定する。
最後に、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、熱中性子透過量を独立変数として単回帰分析を行う。これにより、単回帰関数が得られる。
S03では、上記の手順で予め求めておいた単回帰関数に、S02で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する。
ホウ素濃度算定手段7aは、例えば図7に示すコンピュータ10であり、このコンピュータ10により定量分析プログラム17が実行される。
コンピュータ10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え、相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、コンピュータ10には、記憶装置としてのデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が相互に行われる。
制御部11は、記憶部12に記憶されている定量分析プログラム17によって、コンピュータ10全体の制御及び演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
入力部13は、少なくとも作業者の命令等を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードやタッチパネル等である。
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
第一の実施形態では、S02で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量が、データサーバ16に格納(保存)される。尚、S02において取得されたデータは、例えば、適当な記録媒体に保存された後に作業者によってデータサーバ16に記録されるようにしてもよいし、熱中性子透過量測定装置20から無線又は有線の通信手段を介して、データサーバ16に自動的に記録されるようにしてもよい。
また、コンピュータ10の制御部11は、データ読込部11aと演算部11bとにより構成される。
定量分析プログラム17が実行されると、まず、制御部11のデータ読込部11aにより、S02において取得されたデータを記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む処理が行われる。
具体的には、データ読込部11aにより、S02において取得されてデータサーバ16に記憶されている分析対象石炭灰の熱中性子透過量がデータサーバ16から読み込まれ、読み込まれた分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータがメモリ15に記憶させられる。
そして、制御部11の演算部11bにより、読み込まれた分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータと上記単回帰関数とによって、分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される。具体的には、上記単回帰関数に分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータが代入されて、分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される。上記単回帰関数は、定量分析プログラム17内に予め規定される。
分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータは、制御部11の演算部11bにより分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される際に入力部13を介して作業者によって入力されるようにしてもよい。あるいは、分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータが記録されたデータファイルとして記憶部12に保存されるようにしてもよい。
第一の実施形態にかかる定量分析方法、装置及びプログラムによれば、底質調査法等で定められたアルカリ溶融による湿式分解溶液の調製等を必要とすることなく、石炭灰中のホウ素濃度を簡易且つ迅速に、高精度且つ高確度で定量分析することが可能となる。しかも、分析対象石炭灰の嵩密度を測定することなく、高精度且つ高確度な分析対象石炭灰のホウ素濃度の定量分析が可能となる。したがって、分析対象石炭灰の嵩密度を算定するために必要となる体積測定や重量測定にかかる手間や時間を省くことができ、極めて簡易且つ迅速な分析が可能となる。
(2−2)第二の実施形態
第二の実施形態にかかる定量分析方法、装置及びプログラムは、熱中性子透過量が石炭灰の嵩密度の影響により変動する場合に実施される。
第二の実施形態にかかる定量分析方法は、例えば図8に示す手順で実施される。即ち、分析対象石炭灰を採取し(S10)、分析対象石炭灰の重量を測定し(S11)、分析対象石炭灰の体積を測定し(S12)、分析対象石炭灰の熱中性子透過量を測定する(S13)。そして、S11で得られた分析対象石炭灰の重量測定値及びS12で得られた分析対象石炭灰の体積測定値から嵩密度を算定し(S14)、第一重回帰関数を利用して分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する(S15)。詳細には、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、嵩密度及び熱中性子透過量を独立変数として重回帰分析を行うことにより予め求めておいた第一重回帰関数と、S14で得られた分析対象石炭灰の嵩密度算定値及びS13で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値とに基づいて、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する。
第二の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析方法は、例えば図9に示す定量分析装置1bにより実施される。図9に示す定量分析装置1bは、分析対象石炭灰の重量を測定する手段2と、分析対象石炭灰の体積を測定する手段3と、熱中性子透過量測定装置20と、分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値から嵩密度を算定する手段6と、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、嵩密度及び熱中性子透過量を独立変数として予め求めておいた第一重回帰関数に、分析対象石炭灰の嵩密度算定値及び熱中性子透過量測定値を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段7bとを少なくとも備えるものとしている。熱中性子透過量測定装置20としては、例えば、図1及び図2に示す熱中性子透過量測定装置20aが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
以降の説明では、「分析対象石炭灰の重量を測定する手段」を「重量測定手段」と呼ぶこともある。また、「分析対象石炭灰の体積を測定する手段」を「体積測定手段」と呼ぶこともある。また、「分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値から嵩密度を算定する手段」を「嵩密度算定手段」と呼ぶこともある。さらに、「複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、嵩密度及び熱中性子透過量を独立変数として予め求めておいた第一重回帰関数に、分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値及び嵩密度算定値を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段7b」を「ホウ素濃度算定手段7b」と呼ぶこともある。
S10において採取された分析対象石炭灰は、重量測定手段2に供され、重量が測定される(S11)。重量測定手段2は、例えば秤量計である。
また、S10において採取された分析対象石炭灰は、体積測定手段3に供され、体積が測定される(S12)。体積測定手段3は、目盛り付きの容器、例えばメスシリンダーである。詳細には、メスシリンダーに分析対象石炭灰を入れて振動を与えることにより、粉体を最も密になるよう充填した後、粉体層表面の位置の目盛りを読み取ることで体積が測定される。尚、目盛りの読み取りは、人為的に行うようにしてもよいし、センサ等で機械的に行うようにしてもよい。
さらに、S10において採取された分析対象石炭灰は、熱中性子透過量測定装置20に導入され、熱中性子透過量が測定される(S13)。
次に、嵩密度算定手段6では、S11で得られた分析対象石炭灰の重量測定値及びS12で得られた体積測定値から嵩密度が算定される(S14)。具体的には、分析対象石炭灰の重量測定値を分析対象石炭灰の体積測定値で割ることによって、嵩密度が算定される。
ホウ素濃度算定手段7bでは、第一重回帰関数を利用して分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される(S15)。
第一重回帰関数は、以下の手順で求めることができる。
まず、第一の実施形態と同様、複数の石炭灰を準備する。尚、複数の石炭灰について、嵩密度が未知の場合には、JIS−K 1201−1(日本工業標準調査会:「工業用炭酸ナトリウム−第1部:かさ密度の求め方」、JIS K 1201−1、(2000).)に準拠して嵩密度を取得する。
次に、複数の石炭灰について、熱中性子透過量測定装置20を利用して熱中性子透過量を測定する。
最後に、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、嵩密度及び熱中性子透過量を独立変数として重回帰分析を行う。これにより、第一重回帰関数が得られる。この第一重回帰関数によって、S13で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値に対して、分析対象石炭灰の嵩密度を考慮した補正がなされる。したがって、分析対象石炭灰のホウ素濃度を高精度且つ高確度に分析することが可能になる。
S15では、上記の手順で予め求めておいた第一重回帰関数に、S14で得られた分析対象石炭灰の嵩密度算定値及びS13で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する。
嵩密度算定手段6及びホウ素濃度算定手段7bは、第一の実施形態と同様、例えば図7に示すコンピュータ10であり、このコンピュータ10により石炭灰中ホウ素の定量分析プログラムが実行される。
コンピュータ10は、第一の実施形態と同様、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え、相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、コンピュータ10には、記憶装置としてのデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が相互に行われる。
第二の実施形態では、S11で得られた分析対象石炭灰の重量測定値、S12で得られた分析対象石炭灰の体積測定値、及びS13で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値が、データサーバ16に格納(保存)される。尚、S11〜S13において取得されたデータは、例えば、適当な記録媒体に保存された後に作業者によってデータサーバ16に記録されるようにしてもよいし、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20から無線又は有線の通信手段を介して、データサーバ16に自動的に記録されるようにしてもよい。
また、コンピュータ10の制御部11は、データ読込部11aと演算部11bとにより構成される。
定量分析プログラム17が実行されると、まず、制御部11のデータ読込部11aにより、S11及びS12において取得された分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値のデータを記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む処理が行われる。
具体的には、データ読込部11aにより、S11及びS12において取得されてデータサーバ16に記憶されている分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値のデータがデータサーバ16から読み込まれ、読み込まれた分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値のデータがメモリ15に記憶させられる。
続いて、制御部11の演算部11bにおいて、分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値のデータから、分析対象石炭灰の嵩密度が算定される。分析対象石炭灰の嵩密度算定値のデータはメモリ15に記録される。
次いで、データ読込部11aにより、S13において取得されてデータサーバ16に記憶されている分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値のデータをデータサーバ16から読み込む処理が行われる。そして、データ読込部11aにより、読み込まれた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値のデータがメモリ15に記録させられる。
そして、制御部11の演算部11bにおいて、上記第一重回帰関数を利用して、分析対象石炭灰の嵩密度算定値及び分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値のデータから、分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される。具体的には、上記第一重回帰関数に分析対象石炭灰の嵩密度算定値及び分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値のデータが代入されて、分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される。上記第一重回帰関数は、定量分析プログラム17内に予め規定される。
ここで、第二の実施形態にかかる定量分析プログラムにおいて、分析対象石炭灰の嵩密度算定処理を省いて、上記第一重回帰関数のうち分析対象石炭灰の嵩密度算定値が代入される変数XdをXw/Xvとし、Xwに分析対象石炭灰の重量測定値がXwに代入され、分析対象石炭灰の体積測定値がXvに代入されるようにしてもよい。この場合、上記第一重回帰関数内にて分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値から嵩密度が算定されることになり、上記第一重回帰関数を利用して、分析対象石炭灰の嵩密度算定値及び分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値のデータから、分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定されることになる。
分析対象石炭灰の重量測定値、体積測定値及び熱中性子透過量測定値のデータは、制御部11の演算部11bにより分析対象石炭灰のホウ素濃度が算定される際に入力部13を介して作業者によって入力されるようにしてもよい。あるいは、分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータが記録されたデータファイルとして記憶部12に保存されるようにしてもよい。
以上、第二の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析方法、装置及びプログラムによれば、底質調査法等で定められたアルカリ溶融による湿式分解溶液の調製等を必要とすることなく、石炭灰中のホウ素濃度を簡易且つ迅速に、高精度且つ高確度で定量分析することが可能となる。
(2−3)第三の実施形態
第三の実施形態にかかる定量分析方法、装置及びプログラムは、石炭灰の嵩密度に加えて、さらにカリウム濃度を考慮した補正を行うことによって、第二の実施形態にかかる定量分析、装置及びプログラムと比較して、さらに高精度且つ高確度に分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する場合に実施される。
第三の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析方法は、例えば図10に示すように、分析対象石炭灰を採取し(S20)、分析対象石炭灰の重量を測定し(S21)、分析対象石炭灰の体積を測定し(S22)、分析対象石炭灰の熱中性子透過量を測定し(S23)、分析対象石炭灰のカリウム濃度を測定する(S24)。そして、S21で得られた分析対象石炭灰の重量測定値及びS22で得られた分析対象石炭灰の体積測定値から嵩密度を算定し(S24)、第二重回帰関数を利用して分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する(S25)。詳細には、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、嵩密度、熱中性子透過量及びカリウム濃度を独立変数として予め求めておいた第二重回帰関数と、S25で得られた分析対象石炭灰の嵩密度算定値、S23で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値及びS24で得られた分析対象石炭灰のカリウム濃度測定値とに基づいて、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する。
第三の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析方法は、例えば図11に示す定量分析装置1cにより実施される。図11に示す定量分析装置1cは、分析対象石炭灰の重量を測定する手段2と、分析対象石炭灰の体積を測定する手段3と、熱中性子透過量測定装置20と、分析対象石炭灰のカリウム濃度を測定する手段5と、分析対象石炭灰の重量測定値及び体積測定値から嵩密度を算定する手段6と、複数の石炭灰について、ホウ素濃度を従属変数とし、嵩密度、熱中性子透過量及びカリウム濃度を独立変数として予め求めておいた第二重回帰関数に、分析対象石炭灰の嵩密度算定値、熱中性子透過量測定値及びカリウム濃度測定値を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段7とを少なくとも備えるものとしている。
第三の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析方法は、S24において分析対象石炭灰のカリウム濃度を測定する点、S24において独立変数にカリウム濃度をさらに加えて第二重回帰関数を求めておき、S24において得られた分析対象石炭灰のカリウム濃度測定値をさらに利用する点が第二の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析方法とは異なっており、他は共通している。
また、第三の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析装置は、分析対象石炭灰のカリウム濃度を測定する手段(以下、「カリウム濃度測定手段」と呼ぶこともある)5を備えている点、並びに、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段7cにおいて、独立変数にカリウム濃度をさらに加えて第二重回帰関数を求めておき、分析対象石炭灰のカリウム濃度を測定する手段5において得られた分析対象石炭灰のカリウム濃度測定値をさらに利用する点が第二の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析装置とは異なっており、他は共通している。
以下、第二の実施形態とは異なる点について、詳細に説明する。
S20において採取された分析対象石炭灰は、カリウム濃度測定手段5に供され、カリウム濃度が測定される(S24)。カリウム濃度の測定は、例えば蛍光X線分析装置(XRF)を用いて実施される。
蛍光X線分析装置を利用した石炭灰の未成形粉体の測定方法については、電力中央研究所研究報告V13023「エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いた石炭灰中セレン、ヒ素、クロムの簡易・迅速定量」の付録に、詳細が記載されている。具体的には、カリウム(K2O)濃度については、例えば、測定線をKα1とし、管電圧を10kVとし、フィルター無し、測定時間5分間、Pd管球のレイリー散乱線の影響を考慮したPdLγ1/Rayleighの信号値補正により、信号値を得て、カリウム濃度が既知の石炭灰標準試料数種により作成された検量線を利用して、得られた信号値から、カリウム濃度を算定することができる。
但し、蛍光X線分析装置により石炭灰のカリウム濃度を測定する条件は、上記の条件には限定されない。また、カリウム濃度は、蛍光X線分析装置以外の装置を用いて測定するようにしてもよい。
そして、第三の実施形態では、第二重回帰関数を求める際に、複数の石炭灰の嵩密度及び熱中性子透過量に加えて、さらにカリウム濃度を独立変数とする。そして、予め求めておいた第二重回帰関数に、S25で得られた分析対象石炭灰の嵩密度算定値、S23で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値及びS24で得られた分析対象石炭灰のカリウム濃度測定値を代入して、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する。これにより、熱中性子透過量測定装置20で得られた分析対象石炭灰の熱中性子透過量測定値に対して、分析対象石炭灰の嵩密度及びカリウム濃度を考慮した補正がなされる。したがって、第二の実施形態の第一重回帰関数を用いた場合よりも、分析対象石炭灰のホウ素濃度をさらに高精度且つ高確度に分析することが可能になる。
尚、第三の実施形態にかかる定量分析プログラムについても、分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定する手段において、独立変数にカリウム濃度をさらに加えて第二重回帰関数を求めておき、分析対象石炭灰のカリウム濃度測定値をさらに利用する点が第二の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析プログラムとは異なっており、他は共通している。
第三の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析、装置及びプログラムによれば、嵩密度に加えて、カリウム濃度をさらに考慮することによって、第二の実施形態にかかる石炭灰中ホウ素の定量分析、装置及びプログラムと比較して、さらに高精度且つ高確度で分析対象石炭灰のホウ素濃度を算定することが可能となる。
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
例えば、図9に示す石炭灰中ホウ素の定量分析装置1bでは、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20がこの順で直列に配置されているが、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20はいずれも非破壊分析であることから、順序は任意であり、これに限定されるものではない。また、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20は並列に配置してもよい。あるいは並列と直列の組み合わせとしてもよい。例えば、重量測定手段2と体積測定手段3を直列とし、これに熱中性子透過量測定装置20を並列に配置してもよい。尚、図8に示す石炭灰中ホウ素の定量分析方法についても、S11〜S13の順序は任意であるし、全てを同時にあるいは一部を同時に実施するようにしてもよい。
図11に示す石炭灰中ホウ素の定量分析装置1cについても、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20がこの順で直列に配置されているが、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20はいずれも非破壊分析であることから、順序は任意であり、これに限定されるものではない。また、カリウム濃度測定手段5も非破壊分析であることから、これを重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20の直列配置に組み込んでもよい。さらに、重量測定手段2、体積測定手段3及び熱中性子透過量測定装置20は並列に配置してもよい。あるいは並列と直列の組み合わせとしてもよい。尚、図10に示す石炭灰中ホウ素の定量分析方法についても、S21〜S24の順序は任意であるし、全てを同時にあるいは一部を同時に実施するようにしてもよい。
また、本発明の定量分析において使用する熱中性子透過量測定装置20は、分析対象物の熱中性子透過量を非破壊分析できるものであればよく、図1〜図4に示す熱中性子透過量測定装置20a、20bには限定されない。
また、分析対象石炭灰は、例えば石炭火力発電所等から最終的に排出されたもの以外にも、例えば石炭灰が通過する配管等に分岐を設けて、当該分岐から分析対象石炭灰を採取するようにしてもよい。つまり、石炭火力発電所等におけるプロセス中に分析対象石炭灰を採取する手段を組み込んで、本発明の定量分析に供するようにしてもよい。
また、熱中性子透過量測定装置20は、石炭灰中ホウ素の定量分析方法における分析対象石炭灰の熱中性子透過量の測定に用いられる測定装置として、独立して設置するようにしてもよい。即ち、図6、図9及び図11に示すように、石炭灰中ホウ素の定量分析装置1a、1b及び1c内に組み込まずに、独立して設置するようにしてもよい。そして、熱中性子透過量測定装置20により得られたデータを利用して、例えばコンピュータ10により分析対象石炭灰のホウ素濃度の算定を別途行うようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、分析対象物を石炭灰とし、石炭灰中のホウ素濃度を定量分析する実施形態について説明したが、分析対象物を石炭灰以外の粉体又は造粒物としてもよい。具体例を挙げると、鉱物、もみほぐした土壌試料、各種材料、寒天等の食品、生物及び廃棄物等の粉体又は造粒物、またはこれらの灰等としてもよい。これらの分析対象物についても、石炭灰の場合と同様に、嵩密度によって熱中性子透過量に変動が生じる場合には、本発明の定量分析方法、装置及びプログラムにかかる第二の実施形態において説明した嵩密度補正、さらには本発明の定量分析方法、装置及びプログラムにかかる第三の実施形態において説明した嵩密度補正及びカリウム濃度補正によって、定量分析の精度及び確度を確保するようにしてもよい。
また、分析対象元素についてもホウ素に限定されるものではなく、熱中性子吸収断面積の大きいガドリニウム又はリチウムを分析対象元素としてもよい。
また、分析対象物は、分析対象元素を人為的に吸着あるいは吸収させたものとしてもよい。例えば、水中のホウ素(又はガドリニウム若しくはリチウム)を吸着剤(例えば、吸着性のある高分子ゲル造粒物やセラミック系造粒物等)に吸着させて濃縮した後に、吸着剤を分析対象物として本発明の定量分析に供することにより、水中に低い濃度で含まれ得るホウ素(又はガドリニウム若しくはリチウム)を定量分析することも可能である。
また、吸着剤を用いる場合、吸着剤を一定容積の容器(カラム)等に充填し、ホウ素(又はガドリニウム若しくはリチウム)を含む水溶液を通液して、この容器自体を試料ホルダとして本発明の定量分析に供するようにしてもよい。この場合、吸着剤である造粒物の周りを取り囲む微小空間は、空気ではなく水で満たされていることになるものの、造粒物の一定容積に占める充填密度によって、定量分析結果にばらつきが生じ得ることから、本発明と同様の嵩密度補正を行うことによって、定量分析の精度及び確度を確保し得る。
また、分析対象物は粉体又は造粒物ではなく、一塊の物体としてもよい。例えば、グラスファイバー含有樹脂やホウ珪酸ガラス板等の熱中性子透過量を測定し、ホウ素(又はガドリニウム若しくはリチウム)を定量分析するようにしてもよい。この場合には、嵩密度に関する補正を行うことなく、複数の同種試料(例えば、分析対象物をホウ珪酸ガラス板とする場合には、複数のホウ珪酸ガラス板)について、ホウ素(又はガドリニウム若しくはリチウム)の濃度と熱中性子透過量との相関を予め確認しておき、この相関に基づいて、分析対象物のホウ素(又はガドリニウム若しくはリチウム)の濃度を定量分析することができる。
また、嵩密度を考慮した補正を行う場合、分析対象物の嵩密度が既知の場合には、分析対象物の重量及び体積を測定したり、分析対象物の嵩密度を算定したりすることなく、既知のデータをそのまま用いるようにしてもよい。カリウム濃度を考慮した補正を行う場合にも、分析対象物のカリウム濃度が既知の場合には、分析対象物のカリウム濃度を測定することなく、既知のデータをそのまま用いるようにしてもよい。
また、図4に示すように、試料ホルダ21に目盛り21aを設けるようにしてもよい。試料ホルダ21に目盛りを設けておけば、試料ホルダ21自体が、体積測定手段3として機能し得る。つまり、本発明の熱中性子透過量測定装置内に、体積測定手段3も集約することができる。尚、目盛りの読み取りは、人為的に行うようにしてもよいし、センサ等で機械的に行うようにしてもよい。因みに、図3及び図4に示すように、試料ホルダ21を縦置きにした場合、粉体層表面をフラットにしやすい。したがって、体積測定誤差を最小限に抑え易いものとできる。さらに、図3及び図4に示すように、試料ホルダ21を縦置きにした場合、試料ホルダ21の下方に減速材22が配置されないので、ここに秤量計等を備えることにより、本発明の熱中性子透過量測定装置内に重量測定手段2を付設することができる。つまり、本発明の熱中性子透過量測定装置内に、重量測定手段2も集約することができる。この場合、上記のように試料ホルダ21に目盛りを設けておけば、本発明の熱中性子透過量測定装置内に、重量測定手段2と体積測定手段3の双方を集約することができる。
また、上述の実施形態では、減速材22、試料ホルダ21、筐体25の形状として直方体を想定しているが、これらの形状は必ずしも直方体に限定されるものではなく、横置き又は縦置き可能な形状を種々選択するようにしてもよい。例えば、立方体や、多角柱、円柱等としてもよい。また、減速材22、試料ホルダ21、筐体25の形状は、それぞれ同じ形状としてもよいし、異なる形状としてもよい。
また、中性子線源23が埋め込まれた減速材22を固定することなく、試料ホルダ21の測線入射面に対して平行移動可能としてもよい。若しくは、試料ホルダ21を固定することなく、減速材22の測線放出面に対して平行移動可能としてもよい。あるいは、減速材22及び試料ホルダ21の双方をそれぞれ試料ホルダ21の測線入射面及び減速材22の測線放出面に対して平行移動可能としてもよい。これらの場合、試料ホルダ21内に収容された分析対象物に対する熱中性子の照射面積を拡大して、分析対象物の分析対象元素の偏在や粒径ばらつきにより生じる測定誤差を効果的に抑えることができる。また、試料ホルダ21の測線照射面を拡大すると共に、比例計数管26の本数を増やして熱中性子の検出領域を拡大した上で、中性子線源22が埋め込まれた減速材22及び試料ホルダ21の一方又は双方を上記のように移動可能とすれば、試料ホルダ21内に収容された分析対象物に対する熱中性子の照射面積をより広範囲なものとして測定を行うことが可能となり、分析対象物の分析対象元素の偏在や粒径ばらつきにより生じる測定誤差を極めて効果的に抑えることができる。
また、上述の実施形態では、試料ホルダ21内に収容した分析対象物の熱中性子透過方向の厚みが一定に規定される場合について、図3及び図4に示すように、試料ホルダ21を縦置きとした形態について例示したが、必ずしもこのような形態に限定されるものではない。例えば、図36に示す熱中性子透過量測定装置20cように、減速材22の測線放出面及び筐体25の試料ホルダ21との対向面を同一方向に傾けて、この傾きに沿う断面平行四辺形状の試料ホルダ21を減速材22と筐体25の間に配置するようにしてもよい。この場合にも試料ホルダ21の全側面によって試料ホルダ21内に収容される分析対象物の熱中性子透過方向の厚みが一定に規定される。したがって、分析対象物の嵩密度の影響を抑えながら熱中性子透過量を測定することが可能となり、嵩密度を考慮した補正(さらには嵩密度とカリウム濃度を考慮した補正)を行うことなく、高精度且つ高確度な分析を行うことが可能となる。
尚、上述の実施形態における図3及び図4に示す熱中性子透過量測定装置20b、さらには図36に示す熱中性子透過量測定装置20cのように、試料ホルダ21内に収容した分析対象物の熱中性子透過方向の厚みが一定に規定される場合には、嵩密度を考慮した補正(さらには嵩密度とカリウム濃度を考慮した補正)を行わずとも、高精度且つ高確度な分析を行うことが可能となる旨を説明したが、このような場合においても、嵩密度を考慮した補正(さらには嵩密度とカリウム濃度を考慮した補正)を行い、さらに高精度且つ高確度な分析を行うようにしても構わない。
また、上述の実施形態では、分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータがデータサーバ16に格納(保存)されるようにしているが、分析対象石炭灰の熱中性子透過量のデータの保存態様はこれに限られるものではなく、記憶部12に保存されるようにしてもよく、あるいは、コンピュータ10に接続されたハードディスク等の記憶装置に格納(保存)されるようにしてもよく、さらに言えば、制御部10がアクセス可能(換言すると、認識可能)であるようにコンピュータ10のスロット等に着脱自在な種々の記憶媒体に格納(保存)されるようにしてもよい。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
[実施例1]
石炭灰の熱中性子透過量の測定条件を検討した。
(1)試料
ホウ素濃度が既知の単一性状の石炭灰(後述する表3のNo.15)に、ホウ素(高純度化学製、純度99.0%以上、粒径40μm以下)を60〜1000mg/kgとなるように標準添加した試料を用いた。以下、この試料のことを「ホウ素標準添加試料」と呼ぶこともある。
(2)実験装置
中性子水分計NMA−2001(神鋼エンジニアリング&メンテナンス製)を、熱中性子透過量測定装置に改良して用いた。熱中性子透過量測定装置の構成概略図を図12A〜図12Cに示す。この熱中性子透過量測定装置20は、減速材22に中性子線源23が埋め込まれ、筐体25に2本の比例計数管26が収納され、減速材22と筐体25との間に試料ホルダ21を配置可能としたものである。このように構成することにより、中性子線源23から発生する速中性子を減速材22で熱中性子に変換し、試料ホルダ21内の試料を透過する熱中性子を比例計数管26で検出可能とした。
中性子線源23は、N−252CE(Eckert & Ziegler Isotope Products製)とした。この中性子線源は、研究用途専用として表示付設計認証を受けた機器(認証番号は下記の通りである。)であり、カリホルニウム252(252Cf)をセラミック基材に分散させステンレス鋼製のカプセルに梱包した密封線源である。252Cfの半減期は2.65年、平均中性子エネルギーは2.3MeVであり、この中性子線源の規格容量は3.7MBq、中性子放出数は4.2×105n/sである。中性子線源23は中性子線源用のホルダ23aに保持した(図12Cを参照)。
尚、本実施例で使用した熱中性子透過量測定装置では、252Cfの半減期を考慮した補正は行わず、同一条件における検討は24時間以内に実施した。
減速材22は樹脂製とし、形状は直方体とした。
減速材22は、昇降台31に載置し、筐体25と減速材22の間隔を調整可能とした。
比例計数管26は、3He比例計数管(ガス圧:5.0気圧、感度:15.6cps/nv)とした。尚、この比例計数管の長さは140mmであり、測定有効部の長さは127mmである。筐体25に収納された2本の比例計数管26の間隔は、42〜102mmの範囲で調整可能とした。尚、比例計数管26で得られた信号は、比例計数管26と共に筐体25に収納されているプリアンプ27で増幅され、ケーブル28を通じて図示省略した制御処理器で波形成型させて、データを蓄積した。制御処理器の測定範囲は入力パルスとして10kHz以下、測定時間は1〜3600秒、繰り返し回数は1〜999回である。
筐体25は、2本の比例計数管26と2つのプリアンプ27を収納可能な、ステンレス鋼製の略直方体の蓋付きの容器とした。筐体25は支持フレーム30で支持され、筐体25の下方のスペースに減速材22と試料ホルダ21を配置可能とした。
試料ホルダ21は、上部が開口したステンレス鋼製の略直方体の容器とした。
条件を以下のように固定し、以下の(4)〜(8)の検討を行った。
・比例計数管の間隔:40mm
・試料の厚さ(試料ホルダのサイズ):55mm(100mm(幅)×55mm(高さ)×130mm(奥行))
・減速材種:ポリエチレン
・減速材のサイズ:160mm(幅)×80mm(高さ)×130mm(奥行)
・減速材の厚さ(中性子線源23の中心軸から減速材22の上面までの最短距離):40mm
・測定時間:1分間
(3)熱中性子透過量測定装置のホウ素検出下限値の計算方法
熱中性子透過量測定装置では、試料中のホウ素濃度が高いほど熱中性子の捕獲量は多くなる。したがって、試料の熱中性子透過量とホウ素濃度との相関を示す検量線は負の傾きをとる。そこで、ホウ素検出下限値は、ISOが定める式(ISO/CD 11843-2:“Calibration of detection Part 2: Methodology in the liner calibration",(1994))を次のように一部改変して求めた。
検出下限値Xdは、検量線の傾きaと残差(各点のずれ)の標準偏差Sxyにより算出される。熱中性子透過量測定装置では、検量線の傾きは負の値を示すため、以下の式1に示すように、算出値の絶対値よりホウ素検出下限値を求めた。
Xd=|(3.29Sxy/a)| ・・・(式1)
また、標準偏差Sxyは、以下の式2に示すように、検量線の傾きa、切片Yb及び総測定回数nより算出される。尚、以下の式2において、ホウ素濃度iの場合のx値をxi、y値をyiとした。
Sxy=[Σ{yi−(axi+Yb)}2/(n−2)]1/2 ・・・(式2)
また、ホウ素定量下限値は、以下の式3により求めた。
Xd=|(10Sxy/a)| ・・・(式3)
(4)2本の比例計数管の間隔の検討
2本の比例計数管26の間隔を調整し、試料中にホウ素が偏在している場合の測定結果への影響について検討した。
本検討においては、試料ホルダ21として、12.5mm×12.5mmの四角孔が等間隔で15ヶ所貫通したポリエチレン樹脂製の専用ホルダを用いた(図13を参照)。この四角孔(スリットとも呼ばれる)にポリスチレン樹脂製の光学セルをそれぞれ導入し、うち1ヶ所にホウ素3.0gを添加した。そして、このホウ素添加セルの導入位置と2本の比例計数管26の間隔をそれぞれ変動させて、信号値の変化を確認した。測定は、常温且つ大気圧下で実施した。
結果を図14に示す。(a)が比例計数管間隔42mm、(b)が比例計数管間隔62mm、(c)が比例計数管間隔82mmの結果である。2本の比例計数管26の間隔が狭い場合、中性子線源23から比例計数管26までの距離が短くなることから、より高い信号値が得られる一方で、試料の位置による信号値の偏りが大きくなる傾向が認められた。試料の位置による信号値の偏りは、比例計数管26に対して交差する測線上で顕著であり、平行する測線上では影響は小さかった。
次に、ホウ素標準添加試料を用い、2本の比例計数管26の間隔を5条件(42mm、62mm、82mm、102mm、122mm)に設定し、それぞれの検量線(n=5)を作成した結果を図15に示し、作成した検量線より求めたホウ素検出下限値の変動を図16に示す。試料ホルダ21には、ホウ素標準添加試料500gを導入し、常温且つ大気圧下で測定を実施した。
2本の比例計数管26の間隔が広くなると、検量線の傾きの絶対値と切片が減少する傾向が認められた(図15を参照)。検量線より算出したホウ素検出下限値は、2本の比例計数管26の間隔が42〜82mmの場合にはほぼ一定(79.5〜82.1mg−B/kg)であり、2本の比例計数管26の間隔が82mmを超えると、間隔が広がる程に上昇する傾向が認められた。
以上の結果から、2本の比例計数管26の間隔は、中性子線源23から比例計数管26までの距離が長くなることによる信号値低下を抑制でき、且つ試料中のホウ素の偏在による測定ばらつきの発生を抑えることのできる80mmが好適であると考えられた。
(5)測定試料の厚さの検討
高さの異なる以下の4種類の試料ホルダを用いて、測定試料の厚さについて検討した。
・ホルダA:160mm(幅)×35mm(高さ)×130mm(奥行)
・ホルダB:130mm(幅)×40mm(高さ)×130mm(奥行)
・ホルダC:110mm(幅)×47mm(高さ)×130mm(奥行)
・ホルダD:100mm(幅)×55mm(高さ)×130mm(奥行)
上記4種類の試料ホルダは、上部が開口したステンレス鋼製の略直方体の容器とした。
上記4種類の試料ホルダを用いて測定を実施し、それぞれ検量線を作成して、ホウ素検出下限値を算出した。
結果を図17に示す。○が減速材22の上面から筐体25の下面までの距離を55mmに保って測定した結果であり(図中では距離一定と記載)、●が減速材22の上面から筐体25の下面までの距離を試料ホルダの高さに合わせて最短距離に調整した結果である(図中では最短距離と記載)。
減速材22の上面から筐体25の下面までの距離を一定に保った場合には、試料ホルダの高さが高くなるに伴いホウ素検出下限値が低下した。これは、試料ホルダが高くなるにつれて試料の厚さが増し、熱中性子の試料透過距離が長くなったためと考えられる。つまり、試料の厚みが増すと熱中性子がホウ素に捕獲される確率が増加するため、ホウ素検出下限値が低下するものと考えられる。
一方、減速材22の上面から筐体25の下面までの距離を試料ホルダの高さに合わせて最短距離に調整した場合には、ホルダB(高さ40mm)におけるホウ素検出下限値が最も低い値となった(55.1mg/kg)。ブランク(各ホルダに試料を導入しない)測定より、試料ホルダの高さが低い場合に熱中性子の信号が大きくなる傾向があったため、試料の厚さに加えて減速材22と筐体25の間隔の影響を受けたと考えられる。
以上の結果から、ホウ素の感度が最も高いホルダB:130mm(幅)×40mm(高さ)×130mm(奥行)を用い、減速材22と筐体25の間隔を試料ホルダの高さに合わせて最短距離に調整することが好適であると考えられた。
(6)減速材の材質の検討
減速材22として、水素原子の含有量が異なる以下の3種の樹脂について検討した。
・ポリエチレン樹脂(PE、(CH2CH2)n)
・ポリプロピレン樹脂(PP、(CH2CHCH3)n)
・アクリル樹脂(PMMA、[CH2C(CH3)(COOCH3)]n)
減速材22の種類毎に作成した検量線(n=5)を図18に示す。また、作成した検量線より求めたホウ素検出下限値を図19に示す。検量線の傾きの絶対値と切片は、PE>PP>PMMAの順に減少する傾向が見られた。同様に、ホウ素検出下限値は、PE<PP<PMMAの順に増加し、PEを減速材22として用いた場合に最も高感度となることが明らかとなった。また、各減速材の規格と重量より、減速材の水素原子量を試算した結果、水素原子量の多い樹脂ほど感度が高い傾向が認められた(図19を参照)。
以上の結果から、ホウ素の感度が最も高いPEを減速材22として用いることが好適であると考えられた。
(7)減速材の厚さの検討
中性子線源23からの減速材22の厚さについて検討した。
具体的には、減速材22の形状は、160mm(幅)×Xmm(高さ)×130mm(奥行)の直方体とし、中性子線源23からの厚さ(詳細には、中性子線源23の中心軸から減速材22の上面までの最短距離)が20〜55mmとなるように、減速材22の高さを調整した。例えば、減速材22の厚みを20mmとしたときはX=40mmとし、減速材22の厚みを55mmとしたときはX=110mmとした。
結果を図20に示す。厚さが20〜40mmの場合には厚くなるほどホウ素検出下限値は低くなり、40〜50mmでホウ素検出下限値が極小値(69.2〜70.5mg/kg)を示した。また、厚さを50mm以上とした場合には、ホウ素検出下限値が著しく上昇した。これは、減速材22によって生成する熱中性子量の影響と、減速材22と筐体25の間隔の影響によるものと考えられる。
以上の結果から、減速材22の厚さは40mmが好適であると考えられた。
(8)測定時間の検討
測定時間を変えて検量線を作成し、ホウ素検出下限値を算出した結果を図21に示す。●がホウ素検出下限値であり、○がブランク(試料ホルダ21への試料未導入時)の信号値である。
測定時間が長くなるほどホウ素検出下限値は低下し、5分以上ではほぼ一定となる傾向が認められた(y=67.5x−0.23、r2=0.966)。
ここで、熱中性子透過量測定装置では、中性子線源23の半減期によって信号値が減衰する。また、信号値は測定時間に比例して大きくなる傾向にある。このため、中性子線源23の半減期を加味した場合はブランク値が5.04×105以上の場合にホウ素検出下限値が一定となる。
以上の結果から、ブランク値が5.04×105となる測定時間(本検討では測定時間は5分)とすることが好適であると考えられた。
(9)熱中性子透過量測定装置の定量性評価
上記(4)〜(8)で決定した条件(表1を参照)でホウ素標準添加試料を測定して検量線を作成し、単一性状の石炭灰に含まれるホウ素の定量性について検討した。
結果を図22に示す。直線性の高い検量線(y=−54.3x+434000、r2=0.995)が得られ、式1よりホウ素検出下限値を算出したところ、44.4mg/kgとなった。また、式3よりホウ素定量下限値を算出したところ、135mg/kgであった。
既往文献における石炭灰と後述する実施例2の実機灰の計206種の石炭灰中ホウ素濃度は36.8〜1390mg/kg(平均299mg/kg、図23を参照)であり、定量下限値135mg/kgの熱中性子透過量測定装置により、石炭灰中ホウ素の2/3が定量可能であることが明らかとなった。
[実施例2]
国内の石炭火力発電所で発生した石炭灰(以下、「実機灰」と呼ぶ)21種について、熱中性子透過量測定装置による測定値と、湿式分解−ICP発光分光分析法(以下、「従来法」と呼ぶ)による測定値とを比較検討した。
実機灰の物理的性状は、以下の方法により測定した。
<嵩密度>
JIS K 1201−1(日本工業標準調査会:「工業用炭酸ナトリウム−第1部:かさ密度の求め方」、JIS K 1201−1、(2000).)に準拠した。
<比表面積>
JIS Z 8830.7.3(BET一点法、日本工業標準調査会:「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」、JIS Z 8830、14、(2013).)に準拠した。
<粒度(メディアン径)>
レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−3000(島津製作所)で測定した。
実機灰中の化学成分は、以下の方法により測定した。
<主成分>
JIS R 5204(日本工業標準調査会:「セメントの蛍光X線分析方法」、JIS R 5204、(2002).)に準拠した。
<ホウ素、リチウム>
硝酸(HNO3)とフッ化水素酸(HF)でボンブ分解した後にICP発光分析装置(ICP−OES)で測定した。この方法が、従来法に該当する。
<硫黄>
硝酸とフッ化水素酸でボンブ分解した後に四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)で残渣を溶融し、ICP−OESで測定した。
<ガドリニウム>
フッ化水素酸でボンブ分解した後に硝酸で残渣を分解し、ICP質量分析装置で測定した。
<強熱減量>
JIS A 6201.8.3(日本工業標準調査会:「コンクリート用フライアッシュ」、JIS R 5204、3、(2008).)に準拠した。
尚、実機灰のホウ素濃度が59〜868mg/kg(平均:348mg/kg)であった。また、強熱減量を含めた各成分の合計値は、94〜108wt%の範囲に収まった。
実機灰の物理的性状及び化学成分を表2及び表3に示す。
熱中性子透過量測定装置による測定条件は、実施例1の(9)と同様とした。
熱中性子透過量測定装置による実機灰中のホウ素濃度の分析は、熱中性子透過量測定装置で得られた信号値から、実施例1の(9)で得られた検量線を用いて行った。
結果を図24に示す。従来法による実機灰中のホウ素濃度と熱中性子透過量測定装置による実機灰中のホウ素濃度との相関について検討した結果、y=1.11x+66.3(r2=0.921)の直線が得られた。従来法による実機灰中のホウ素濃度と熱中性子透過量測定装置による実機灰中のホウ素濃度とが完全に一致している場合、y=xの直線関係が得られることから、従来法による実機灰中のホウ素濃度と熱中性子透過量測定装置による実機灰中のホウ素濃度には乖離が認められることが明らかとなった。
ここで、石炭灰中には、熱中性子の吸収断面積が大きな元素として、ホウ素(42cm2/g、755barns)だけでなく、ガドリニウム(176cm2/g、46000barns)やリチウム(6.16cm2/g、71barns)等が含まれている。そこで、従来法による測定値と熱中性子透過量測定装置による測定値の乖離の要因を検証するため、実機灰の物理性状と化学成分それぞれに対して重回帰分析(2変数)を実施した。具体的には、従来法による実機灰のホウ素濃度の測定値を従属変数とし、実機灰の熱中性子透過量測定装置による信号値に加えて、実機灰の物理性状及び化学成分のいずれか1つを独立変数として、重回帰分析(2変数)を実施した。結果を図25に示す。実機灰の嵩密度の影響が最も大きく、ホウ素定量の妨害が予測されたガドリニウムやリチウム等の影響は小さいことが明らかとなった。尚、熱中性子透過量測定装置の信号値と嵩密度の2変数による重回帰分析により得られた重回帰式は、以下のとおりであった。
y=-0.0142x1+400x2+5730 ・・・(式4)
式4中、yは重回帰予測値による石炭灰中のホウ素濃度、x1は熱中性子透過量測定装置の信号値、x2は石炭灰の嵩密度である。
式3を元に、熱中性子透過量測定装置の信号値と石炭灰の嵩密度から実機灰中のホウ素濃度の予測値(重回帰予測値)を算出した結果、重回帰予測値yと従来法定量値xの関係において、y=0.965x+12.7(r2=0.965)の直線が得られ、重回帰予測値yと従来法定量値xで高い相関が得られた(図26を参照)。
尚、本結果のスクリーニング性能を厚生労働省で推奨されている方法(厚生労働省 医薬食品安全部 監視安全課:「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」、(2012))で求めた結果、擬陽性率を1.0%とした場合には、実際のスクリーニングの閾値レベルは258mg/kgであった。
底質調査法におけるホウ素の定量では試料の前処理操作に2日間を要し、実施例2で用いたボンブ分解を利用した前処理法も3時間を要する。しかも、硝酸やフッ化水素酸といった取り扱いに注意を要する試薬を用いる必要があり、処理操作自体も煩雑である。一方、熱中性子透過量測定装置では非接触でのホウ素測定が可能であり、5分で定量が完了する。補正に必要な嵩密度は手動測定でも約5分で完了する。以上、本発明により、石炭灰中ホウ素の定量分析を簡易且つ迅速に実施できることが明らかとなった。
さらに、従来法による実機灰のホウ素濃度の測定値を従属変数とし、実機灰の熱中性子透過量測定装置による信号値に加えて、実機灰の嵩密度及びカリウム濃度を独立変数として、重回帰分析(3変数)を実施した。その結果、重回帰予測値yと従来法定量値xの関係において、y=0.98x+7.71(r2=0.979)の直線が得られ、重回帰予測値yと従来法定量値xでさらに高い相関が得られた(図27を参照)。この結果から、さらにカリウム濃度を考慮することによって、さらに高精度且つ高確度で石炭灰中のホウ素の定量分析が可能となることが明らかとなった。尚、石炭灰のカリウム濃度については、粉体のまま蛍光X線分析等に供することで簡易且つ迅速に定量することができ、簡易性と迅速性も十分に担保し得る。
[実施例3]
熱中性子透過量測定装置のレイアウトについて、図12A〜図12Cに示す横型レイアウトから縦型レイアウトに変更した場合を想定し、測定条件について検討した。
(1)試料
ホウ素濃度が既知の単一性状の石炭灰(表3のNo.15)に、ホウ素(高純度化学製、純度99.0%以上、粒径45μm以下)を60〜500mg/kgとなるように標準添加した試料を用いた。
(2)実験装置
実施例3において使用した縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置の構成概略図を図28に示す。この熱中性子透過量測定装置は、図3に示す熱中性子透過量測定装置と同様の基本構成を有している。具体的には、中性子線源23が埋め込まれた減速材22、試料ホルダ21及び1本の比例計数管26が収納された筐体25がこの順で縦置きに並べて配置したものである。
中性子線源23は、実施例1と同様、N−252CE(Eckert & Ziegler Isotope Products製)とした。また、中性子線源23は、実施例1と同様に、中性子線源用のホルダ23aに保持して使用した。
減速材22は、ポリエチレン樹脂製とし、形状は直方体とした。尚、減速材22のサイズは160mm(高さ)×80mm(幅)×130mm(奥行)とした。減速材22の厚さ(中性子線源23の中心軸から減速材22の測線放出面までの最短距離)は40mmとした。
試料ホルダ21は、上部が開口したステンレス鋼(SUS304)製の直方体の容器とし、以下の4種類のサイズについて検討した。尚、実施例3では、試料ホルダ21の幅が熱中性子の最短透過距離となる。
・ホルダA:160mm(高さ)×35mm(幅)×130mm(奥行)
・ホルダB:130mm(高さ)×40mm(幅)×130mm(奥行)
・ホルダC:110mm(高さ)×47mm(幅)×130mm(奥行)
・ホルダD:100mm(高さ)×55mm(幅)×130mm(奥行)
筐体25はステンレス鋼製の円筒形の容器とした。筐体25内には、実施例1と同様の3He比例計数管26を1本と、プリアンプ27を収納した。比例計数管26で得られた信号は、実施例1と同様、比例計数管26と共に筐体25に収納されているプリアンプ27で増幅され、ケーブル28を通じて図示省略した制御処理器で波形成型させて、データを蓄積した。
また、本実施形態では、軸40aを中心として比例計数管26を任意の角度に調整可能とする角度調整機構40を設けた。以降の説明では、試料ホルダ21の高さ方向の中心軸に対して比例計数管26の長軸が平行である場合を比例計数管角度0°とし、試料ホルダ21の高さ方向の中心軸に対して比例計数管26の長軸が垂直の場合を比例計数管角度90°とする。
尚、図28において、減速材22と試料ホルダ21は、架台41上に載置した。また、筐体25は、支持体42により支持した。試料ホルダ21は調整台21b上に載置した。
(3)熱中性子透過量測定装置のホウ素検出下限値の計算方法
実施例1の(3)と同様の方法により計算した。
(4)試料ホルダの幅の検討
ホルダA〜Dの4種類の試料ホルダを用いた熱中性子透過量の測定を行い、検量線を作成してホウ素の検出下限値を算出した。測定時間は5分、計数管角度は0°とした。結果を図29に示す。ホルダB(幅40mm)とホルダC(幅47mm)において、検出下限値が低い値となった(ホルダB:51.6 mg/kg、ホルダC:50.1mg/kg)。一方、ホルダA(幅35mm)とホルダD(幅55mm)では検出下限値が上昇する傾向が認められた。ホルダAの場合は、試料の熱中性子透過距離が短いために試料中のホウ素との衝突確率が低かったことから検出下限値が上昇したものと考えられる。また、ホルダDの場合は、中性子線源23から比例計数管26までの距離が離れたために比例計数管26で検出される熱中性子数が減少し、検出下限値が上昇したものと考えられる。
以上の結果から、試料ホルダ21の幅(熱中性子の最短透過距離)が40〜47mmの場合に熱中性子透過量測定装置の感度が上昇する傾向にあることが判明した。
(5)比例計数管の角度の検討
比例計数管の角度を15°ごとに0°〜90°の範囲で回転させて熱中性子透過量の測定を行い、検出下限値を算出した。試料ホルダとしてホルダBを用い、測定時間は5分とした。結果を図30に示す。0°〜45°において、検出下限値は48.3〜53.7mg/kgの範囲で変動した。45°の場合に検出下限値は最も低い値を示したが、0°〜45°における検出下限値の変動は10%以下であり、0°〜45°の範囲では検出下限値に顕著な差は認められなかった。一方、60°〜90°では、角度が大きくなるにつれて検出下限値が上昇する傾向が認められた。
また、各角度におけるブランク値を比較した結果、60°〜90°の範囲でブランク値が減少する傾向が認められた。60°〜90°の範囲で検出下限値が上昇した要因として、減速材22の高さと奥行きが異なるために、比例計数管の角度によって計測できる熱中性子量に差異があったためと推察される。より詳細には、減速材22の奥行き方向と比較して高さ方向における速中性子の熱中性子への変換率が高くなる結果として、0°〜45°の範囲におけるブランク値と比較して、60°〜90°の範囲でブランク値が減少したものと推察される。
以上の結果から、比例計数管の角度が0°〜45°の場合に熱中性子透過量測定装置の感度が上昇する傾向にあることが判明した。
(6)測定時間の検討
(4)及び(5)の実験結果に基づき、試料ホルダBとC、比例計数管角度0°と45°において、測定時間1〜10分の範囲の検出下限値を算出した結果を図31に示す。各実験条件において、測定時間が長くなるほど検出下限値は低下し、5分以上でほぼ一定となる傾向が認められた。測定時間5分において、比例計数管角度0°で試料ホルダCの場合の検出下限値は50.1mg/kg、角度0°で試料ホルダBの場合は51.6mg/kg、角度45°で試料ホルダCの場合は45.3mg/kgであり、これら3種の条件では検出下限値に大きな差異は認められなかった。
また、実施例1(8)にて算出した検出下限値(44.4mg/kg)に比べて検出下限値に大きな差異は認められなかったが、実施例1では、2本の比例計数管を用いて測定を行っているのに対し、実施例3では比例計数管を1本として測定を行っていることを考慮すると、実施例3における比例計数管1本の縦型レイアウトの構成では、検出感度が約2倍上昇したことがわかった。
また、実施例3において、測定時間5分におけるブランク値は、2.5〜2.6×105であった。中性子線源23の減衰を考慮した場合、ブランク値が2.5〜2.6×105以上の場合に検出下限値がほぼ一定となる。また、実施例3における測定は、中性子線源23の導入時から2年が経過している。したがって、中性子線源23の導入から少なくとも2年間は5分以内で約50mg/kgのホウ素を検出できることが判明した(252Cfの半減期は2.65年)。
[実施例4]
実施例3において使用した縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を利用した場合の嵩密度の影響の抑制効果について検討した。
具体的には、実施例3において使用した縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置(試料ホルダC、比例計数管角度0°、測定時間5分)を用い、従来法(湿式分解−ICP発光分析)によるホウ素濃度yと熱中性子透過量測定装置の信号値より求めたホウ素濃度の予測値y’(式4)の残差平方和RSSを比較することで評価した。
y’=b1x1+b2x2+b0・・・(式5)
式5において、x1は熱中性子透過量測定装置の信号値(独立変数1)、x2は石炭灰の物理性状と化学組成の値(独立変数2)、b0は定数項、b1及びb2は偏回帰係数である。予測値y’は、熱中性子透過量測定装置の信号値のみを独立変数とした1変数による単回帰分析、嵩密度等の性状値を独立変数に加えて2変数とした重回帰分析によりそれぞれ算出した。
残差平方和RSSは、残差の平方(二乗)の和である(以下の式6を参照)。RSSはデータと予測モデルとの間の不一致を評価する尺度であり、RSSの値が小さいほど予測値は従来法による濃度測定値に一致していること示す。
式6において、yiは石炭灰試料i番目の従来法におけるホウ素濃度、y’i はi番目の試料における熱中性子透過量測定装置のホウ素濃度予測値、nは試料数(本実施例では21試料)である。熱中性子透過量測定装置の信号値を独立変数1として単回帰分析(1変数分析)したときの予測値のRSSと、実機灰の物理性状と化学組成の値17項目それぞれを独立変数2として重回帰分析(2変数分析)したときの予測値のRSSを比較した。そのうち2種(実施例1の横型レイアウトと実施例3の縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置)における、8項目の残差平方和を図32A及び図32Bに示す。
横型レイアウトでは、嵩密度を変数とした場合に、熱中性子透過量測定装置の予測値に比べRSSは著しく低下し、直線性は大きく向上した(r2=0.9615)。一方、縦型レイアウトでは両者に大きな差異は認められなかった。他の項目として、縦型レイアウトでは、実機灰の粒径や強熱減量等の場合においてRSSが減少したが、回帰直線の決定係数に大きな差異が認められなかったため、これら項目に対するホウ素定量への影響は少ないと考えられる。
以上の結果から、実施例3の縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置では嵩密度の影響が抑制され、嵩密度を考慮した補正を行うことなく、より簡易・迅速なホウ素測定が可能であることが明らかとなった。
次に、実施例3において使用した縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置(試料ホルダC、比例計数管角度0°、測定時間5分)を用い、表2及び表3に示す実機灰21種のうち、ホウ素濃度の異なる5種(No5,13,19,20,21)を選択して検量線を作成し、熱中性子透過量測定装置におけるホウ素の定量性を確認した。結果を図33に示す。
図33に示される結果から、直線性の高い検量線(y=-30.6x+221480、r2=0.9967)が得られることが明らかとなった。また、この検量線から算出した検出下限値は51.7mg/kgであり、定量下限値は157mg/kgであった。
次に、実施例3の(4)〜(6)の条件のうち、5種の条件下で検量線を作成し、検出下限値と定量下限値を求めた。結果を表4に示す。
表4に示される結果から、サンプルホルダBまたはCにおいて比例計数管の角度が0°のときに検量線の決定係数と両下限値は最も良好な値となることが明らかとなった。また、測定時間5分と10分とでは大きな差異は認められず、ホウ素の定量は5分で十分完了することがわかった。尚、図30に示した結果においては、比例計数管角度が45°の場合に検出下限値が最も低下したのに対し、表4に示す結果では、比例計数管角度が45°の場合に検出下限値が最も高いものとなった。この結果から性状が一定の石炭灰を測定する場合には、比例計数管角度を45°とすることが最も好適である可能性がある一方で、性状の異なる石炭灰を測定する場合には、比例計数管角度を45°とするよりも嵩密度の影響が生じ、0°とした方が良好な結果が得られることが明らかとなった。しかしながら、嵩密度の影響が生じているとはいってもこの影響は極めて軽微なものであり、嵩密度を考慮した補正を行わずとも、十分に高精度且つ高確度な測定が可能であると考えられる。
次に、表2及び表3に示す実機灰21種に含まれているホウ素について、実施例3で使用した縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置(サンプルホルダB又はC、比例計数管角度0°、測定時間5分)による測定値と従来法(湿式分解−ICP発光分析法)による測定値を比較した。結果を図34に示す。
図34に示される結果から、ホルダBではy=0.955x+7.47;r2=0.9520、ホルダCではy=0.956x+7.38;r2=0.9503の直線が得られ、両ホルダともに従来法のホウ素測定値と相関性の高い直線が得られた。
また、実施例3で使用した縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いた実施例4における結果は、横型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用い、嵩密度で補正した実施例1の結果(y=0.965x+12.7;r2=0.9654)とほぼ同程度の精度であったことから、縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いることで、嵩密度補正を行わずとも、横型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いて嵩密度で補正した実施例2の結果と遜色のない精度で定量分析が可能であることが明らかとなった(図35)。縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いる場合、試料ホルダ21内に収容された分析対象物の熱中性子透過方向の厚みが一定に規定されることにより、分析対象物の嵩密度による熱中性子透過量の変動が抑えられて、高精度及び高確度な測定が可能になったものと考えられる。
以上の結果から、縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いることで、嵩密度を測定することなく、石炭灰中ホウ素をより簡易・迅速に定量分析することが可能であることが明らかとなった。
また、縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いる場合、ホウ素定量に要する時間は5分であり、嵩密度の測定は不要であることから、定量操作の工程が短縮され、実施例1の横型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いる場合に比べて、定量分析にかかる時間は半分となる。因みに、縦型レイアウトの熱中性子透過量測定装置を用いた場合にホウ素定量に要する時間は、従来法(湿式分解−ICP発光分析)の1/40以下まで短縮され、圧倒的に迅速且つ簡易に定量分析を行うことが可能である。
さらに、熱中性子透過量測定装置の構成部品のうち、コストの大きな比例計数管を2本から1本に削減できることが明らかになった。したがって、比例計数管を2本使用した場合と比較して、装置に要する初期費用をおよそ3/4に低減することが可能であることも明らかとなった。