以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う関節運動補助装置の第一の実施形態である歩行運動補助装置10が示されている。歩行運動補助装置10は、股関節の屈伸を補助するものであって、股関節を跨いで延びる左右一対の補助力伝達部としての補助力伝達帯12,12の両端部分に、使用者の股関節を挟んで大腿骨が位置する大腿部側に取り付けられる第1の装着部14と、使用者の股関節を挟んで寛骨が位置する腰部側に取り付けられる第2の装着部16とが、それぞれ設けられた構造を有している。そして、これら左右一対の補助力伝達帯12,12と、各第1の装着部14,14と、第2の装着部16と、一対の駆動手段としての電動モータ17,17とで、左右一対のアシスト部材が構成されている。なお、図1では、歩行運動補助装置10が使用者の装着状態で図示されており、使用者の輪郭線が2点鎖線で示されている。また、以下の説明において、原則として、前面とは使用者の腹部側の面(正面)を、後面とは使用者の背部側の面(背面)を、上下とは鉛直上下方向である図1中の上下を、それぞれ言う。また、以下の説明において、「アシスト力」とは、歩行等の動作に必要とされる力を補う方向で作用する補助力のことをいう。
より詳細には、補助力伝達帯12は、可撓性の帯状体で形成されており、使用者の左右の大腿骨の各前方において股関節を跨いで略上下方向に直線的に延びる構造とされている。本実施形態の補助力伝達帯12は、直線的に延びる実質的に単一のベルト構造をもって構成されている。そして、左右の各補助力伝達帯12の下端部が、使用者の大腿部側に装着される第1の装着部14に取り付けられると共に、左右の各補助力伝達帯12の上端部が、使用者の腰部側に装着される第2の装着部16に取り付けられている。
なお、補助力伝達帯12の材質は、変形可能な軟質の薄材が好適であり、触感や耐久性,通気性などを考慮して、織布や不織布の他、皮革、ゴムシート,樹脂シート等が適宜に採用され得る。特に本実施形態の補助力伝達帯12は、後述する電動モータ17による引張力の作用方向となる長さ方向(図1中、上下方向)で弾性変形可能とされていることが好適であり、長さ方向において0.3kgf/cm2 〜0.5kgf/cm2 程度の弾性を有していることが望ましい。
また、補助力伝達帯12の下端部には、第1の装着部14が設けられている。第1の装着部14は、大腿部の下端側において膝関節付近に巻き付けられて装着されるベルト状とされて、本実施形態では膝関節を保護するために用いられるスポーツ用サポータ状とされている。即ち、第1の装着部14には、例えば伸縮性を有する布地等で形成されて使用者の膝関節に巻き付けられ、面ファスナやスナップ,フック等で膝関節部分へ位置を固定された状態で装着されるようになっている。なお、第1の装着部14は、補助力伝達帯12と一体形成されていても良いし、補助力伝達帯12と別体形成されて、接着や縫合などで後固着されていても良い。なお、第1の装着部14には、使用者の膝頭に位置決めされる貫通孔が形成されることにより、膝関節の屈伸を妨げないように配慮することもできる。
また、補助力伝達帯12の上端部には、第2の装着部16が設けられている。第2の装着部16は、腰部付近に巻き付けられて装着される一つのベルト構造とされており、第1の装着部14と同様に、例えば伸縮性を有する布地等で形成されて使用者の腰部に巻き付けられ、面ファスナやスナップ,フック等で腰部へ位置を固定された状態で装着されるようになっている。
そして、このように所定長さのベルト状とされた第1の装着部14と第2の装着部16は、使用者に巻き付けられて面ファスナ等で固定されることにより、使用者の膝部付近と腰部付近において実質的に位置固定に装着されるようになっている。
さらに、左右の第1の装着部14,14には、左右の大腿部の前方に配される補助力伝達帯12,12の下端部が、それぞれ、接着や溶着、縫い付けなどによって固着され又は一体的に形成されることによって取り付けられている。そして、補助力伝達帯12,12は、使用者への装用状態で、体前面において膝付近から上方に向かって延びるように配されるようになっている。
一方、第2の装着部16には、使用者への装用状態で体前面において左右脚の股関節の各上方に位置する部位に、駆動手段としての左右一対の電動モータ17,17が固定的に取り付けられている。また、これら電動モータ17,17には、それぞれ、回転力が及ぼされる回転軸が略水平方向に延びるように設けられている。
各電動モータ17は、好適には回転位置を検出して正逆両方向の回転量を制御することができるサーボモータ等が採用される。そして、電源装置18からの通電によって駆動される電動モータ17の駆動軸における回転駆動力が、適宜の減速歯車列を介して、図示しない回転軸に伝達されるようになっている。この回転軸は、周方向への回転を許容されるように支持されたロッド状の部材であって、その外周面に補助力伝達帯12の上端部が固定されて巻き付けられており、以て、補助力伝達帯12が股関節を跨いで配設されている。
そして、図示しない回転軸が電動モータ17の駆動軸から及ぼされた駆動力によって周方向一方に回転させられることにより、補助力伝達帯12が回転軸に巻き取られる。これにより、電動モータ17による駆動力が補助力伝達帯12の長さ方向に伝達されて、第1の装着部14と第2の装着部16の間に引張力として及ぼされる。
なお、電動モータ17として、エンコーダとしてのロータリエンコーダ20を備えたサーボモータ等を採用することにより、電動モータ17によって補助力伝達帯12に及ぼされる引張方向の牽引量としての巻取量を直接的に検出することができる。これにより、ロータリエンコーダ20による検出値に基づいて電動モータ17を作動制御せしめて補助力伝達帯12の牽引量を所望の値に制御する、牽引量制御手段を設けることができる。そして、以下に説明する引張力による制御に加えて、巻取量による制御を併せて採用することで、制御の信頼性の向上等も図られ得る。
一方、回転軸が電動モータ17によって周方向他方に回転させられると、回転軸による補助力伝達帯12の巻き取りが解除されて送り出され、第1の装着部14と第2の装着部16の間で引張力が解除される。
尤も、電動モータ17の逆回転は必須でなく、電動モータ17への給電を停止して、電動モータ17の出力軸をフリーにすることで、補助力伝達帯12の引き出しが自由に許容され得る状態にすることにより、第1の装着部14と第2の装着部16の間での引張力を解除しても良い。これによれば、使用者の筋力による動作に伴って、補助力伝達帯12が過度に弛むことなく、動作の抵抗となる程の張力をもたないで、歩行動作に対して容易に追従して送り出されるようにすることが可能になる。
また、電動モータ17の制御は、電源装置18から電動モータ17への通電の有無や通電方向(電動モータ17の駆動軸の回転方向)が制御装置22によって制御されることで実行されている。制御装置22は、後述する関節角度センサ26の検出結果(出力信号)などに基づいて使用者の股関節の屈曲運動および伸展運動などを検出して、検出した股関節の運動に応じて電動モータ17への給電を制御する。これにより、電動モータ17の駆動力に基づいて第1の装着部14と第2の装着部16の間に及ぼされる引張力が、制御装置22によって調節されるようになっている。なお、電動モータ17,17に対する給電を制御して、補助力伝達帯12によって使用者へ及ぼされるアシスト力をコントロールするための電源装置18と制御装置22は、第2の装着部16の背面側に設けられている。
また、左右の補助力伝達帯12,12には、それぞれ、長さ方向の中間部分に位置して、荷重センサ24,24が装着されている。かかる荷重センサ24は、引張方向に作用する荷重(応力)を直接に検出するものであって、例えば補助力伝達帯12の分断箇所に介在させて、補助力伝達帯12の分断部を荷重センサ24を介して連結することで、補助力伝達帯12に及ぼされる引張荷重の全てが荷重センサ24に及ぼされるようにすることができる。
なお、補助力伝達帯12の表面に荷重センサ24を貼着したり、補助力伝達帯12の幅方向の一部だけを分断させてそこに荷重センサ24を介在させたりすることで、補助力伝達帯12に及ぼされる引張荷重の一部が荷重センサ24に及ぼされるようにしても良く、歩行等に際して補助力伝達帯12に作用する引張荷重の変化量を荷重センサ24で検出できれば良い。
採用する荷重センサ24の種類も、補助力伝達帯12に作用する荷重を検出し得るものであれば良く、ロードセルにより荷重を直接に電圧値に変換して出力する荷重センサが好適に採用され得て、磁歪式や静電容量式、ジャイロ式、ひずみゲージ式などのロードセルのほか、バネ等の弾性体を用いた荷重センサなども採用可能である。
さらに、補助力伝達帯12に対して荷重を及ぼす電動モータ17に荷重センサ24を設けることにより、補助力伝達帯12に及ぼされる引張方向の力を入力側で検出することも可能である。具体的には、例えば電動モータ17に対する給電回路において電流値を検出することにより、補助力伝達帯12に及ぼされる引張力を電動モータ17の駆動トルクとして、かかる電流値によって検出する荷重センサ24を構成することも可能である。
また、使用者への装着状態で左右の各大腿部に位置する部分には、それぞれ、股関節の屈曲角度として大腿部の傾斜角度を検出する関節角度センサ26,26が設けられている。この関節角度センサ26は、関節の屈曲角度を計測し得るものであれば良く、具体的なセンサの種類や構造、装着位置などは限定されるものでない。例えば、前述の特許文献1に記載されているように誘電性の弾性材で形成された誘電体層の両面に導電性の弾性材で形成された一対の電極膜を設けた静電容量型センサを採用して、腰部から大腿部の体側面に沿って配設することも可能である。
本実施形態では、ジャイロセンサが、関節角度センサ26,26として採用されている。かかるジャイロセンサは、大腿部の傾斜角度を検出することで略鉛直状態に保持される腰部側の寛骨に対する股関節の屈曲角度を検出するものとして、公知のものが採用され得る。
例えば、かかる関節角度センサ26としてのジャイロセンサとしては、一般的なMEMS(Micro Electro Mechanical System)センサであって、直交3軸回りの回転の角速度を検出可能な三軸角速度センサなどが採用され得る。また、ジャイロセンサと併せて、加速度センサを大腿部に装着して、両センサの検出信号を併せて演算処理することで検出精度の向上や情報の高度化を図ることも可能である。例えば、ジャイロセンサによる傾斜方向の検出値における基準方向を、加速度センサで適宜に較正することにより、基準方向の誤差の累積を回避することも可能であり、また、加速度センサで検出される重力方向(鉛直方向)に対して、ジャイロセンサで検出される大腿部の角速度を、演算装置によって積分演算することで、大腿部の三次元の傾斜方向を時間軸を含む四次元数で求めることも可能となる。更にまた、ジャイロセンサにおけるノイズ等による検出誤差を軽減するために、センサフュージョンアルゴリズムとしてのフィルタ手段等を採用することも可能である。
さらに、本実施形態では、関節角度センサ26,26の取付けに際して、補助力伝達帯12,12とは別体の固定バンド28,28が採用されている。即ち、使用者の大腿部に対して固定的に装着される固定バンド28を採用して、かかる固定バンド28に関節角度センサ26を取り付けて支持せしめることにより、関節角度センサ26を大腿部の後面側に固定的に取り付けるようになっている。なお、固定バンド28としては、ゴム等の弾性による巻き付けベルトや、面ファスナによる締め付けベルトなどの適宜の装着構造が採用可能である。また、関節角度センサ26の取付位置は、大腿部の傾斜角度を検出できれば良く、使用者の動きや補助力伝達帯12の作動などに支障がない範囲で任意に設定可能である。なお、ジャイロセンサに必要とされる電源や演算装置などは、固定バンド28,28に装着するほか、第2の装着部16などに装着しても良い。
ここにおいて、本実施形態では、制御装置22が、以下の3つの制御手段を併せ備えており、それら3つの制御を実行するようになっている。
(I)電動モータ17の巻取作動により補助力伝達帯12に引張力を及ぼして、歩行時の脚部筋力を補助するアシスト力を作用させるに際して、関節角度センサ26で検出される股関節の屈曲角度の値に基づいて、駆動手段の作動タイミングとしての電動モータ17の巻取作動の開始タイミングと、駆動手段の作動時間としての電動モータ17の巻取作動継続時間とを決定するアシストタイミング制御手段。
(II)上記(I)に記載のアシスト力の作用中において、補助力伝達帯12に作用する荷重が、予め設定されたアシスト力の目標値となるように、電動モータ17の出力レベルを荷重センサ24の検出値に基づいてフィードバック制御して調節するアシスト力制御手段。
(III)上記(I)に記載のアシスト力が作用していない非作用中において、補助力伝達帯12に作用する荷重が、該補助力伝達帯12の弛みを解消し得るように予め設定されたバイアス力の目標値となるように、電動モータ17の出力レベルを荷重センサ24の検出値に基づいてフィードバック制御して調節する弛み防止制御手段。
すなわち、制御装置22による電動モータ17,17の制御手段は、関節角度センサ26によって検出される左右の股関節角度の検出値や、荷重センサ24によって検出される左右の補助力伝達帯12の引張荷重の検出値を参照信号とし、予め設定されたアシストタイミングやアシスト力、バイアス力に対応した電動モータ17,17の制御条件を満足するように、携帯型のバッテリ等の二次電池からなる電源装置18から電動モータ17,17への電力供給を実行するようになっている。
具体的には、例えば図2にハードウェアの機能ブロック図が示されているように、かかる制御装置22は、ROMやRAM等の記憶手段を備えたコントローラ30と、かかるコントローラ30からの指令値に従って電源装置18から電動モータ17,17へ電力を給電するドライバ32を含んで構成されている。即ち、制御装置22は、予め制御用プログラムが記憶されており、左右のジャイロセンサからなる関節角度センサ26,26から得られる股関節角度の検出値と、左右の荷重センサ24,24から得られる補助力伝達帯12に及ぼされている引張荷重の検出値とに基づいて、前述の(I)アシストタイミング制御手段、(II)アシスト力制御手段、(III)出力特性制御手段の各機能を実現するようになっている。なお、本実施形態では、左右の電動モータ17,17への給電制御が各別に制御されることで、左右の脚に及ぼされるアシスト力が各別に独立して制御され得るようになっている。
(I)アシストタイミング制御手段は、ハードウェアおよびソフトウェアにより例えば次のように構成される。即ち、制御装置22のROMやRAMに予め記憶されたアシストタイミング制御用のプログラムに従って、制御装置22は左右の関節角度センサ26,26から出力される股関節角度を参照信号として、かかる股関節角度が、記憶手段(30)に予め記憶された給電開始の股関節角度に達した場合には、アシスト開始の信号を発して、電源装置18から電動モータ17への給電を開始する。また、本実施形態のアシストタイミング制御手段では、股関節角度を参照信号として、かかる股関節角度が、記憶手段(30)に予め記憶された給電終了の股関節角度に達した場合には、アシスト終了の信号を発して、電源装置18から電動モータ17への給電を停止する。このように、本実施形態のアシストタイミング制御手段では、アシストの開始と終了のタイミングを制御することから、結果的にアシスト時間(電動モータ17の作動時間)を制御可能とされている。なお、アシストタイミング制御手段による制御は、例えば、左右の関節角度センサ26,26から出力される股関節角度が所定周期で変化することなどにより歩行状態であると判定されることを条件として実行されることとなる。
(II)アシスト力制御手段は、ハードウェアおよびソフトウェアにより例えば次のように構成される。即ち、制御装置22のROMやRAMに予め記憶されたアシスト力制御用のプログラムに従って、制御装置22は左右の荷重センサ24,24の出力値として得られる引張荷重を参照信号として、かかる引張荷重が、記憶手段(30)に予め記憶されたアシスト用目標値となるように電源装置18から電動モータ17への給電を制御する。なお、アシスト力制御手段による制御は、例えば歩行状態を前提としてアシストタイミング制御手段でアシスト開始の信号が発せられたことを条件として実行されることとなる。
(III)弛み防止制御手段は、ハードウェアおよびソフトウェアにより例えば次のように構成される。即ち、制御装置22のROMやRAMに予め記憶された弛み防止制御用のプログラムに従って、制御装置22は左右の荷重センサ24,24の出力値として得られる引張荷重を参照信号として、かかる引張荷重が、記憶手段(30)に予め記憶された弛み防止用目標値となるように電源装置18から電動モータ17への給電を制御する。なお、弛み防止用目標値は、例えば歩行に際して使用者が違和感を覚えない程度の略一定の大きさをもって与えられることが望ましい。また、弛み防止制御手段による制御は、例えば歩行状態を前提として、アシスト力制御手段による引張荷重の制御が終了した時点から、アシストタイミング制御手段で次のアシスト開始の信号が発せられるまでの間に亘って連続的に実行されることとなる。
そして、これら(I)アシストタイミング制御手段、(II)アシスト力制御手段、(III)弛み防止制御手段を用いて、制御装置22で電動モータ17,17が作動せしめられることにより、使用者の歩行運動に際して、補助力伝達帯12,12を通じてアシスト力が股関節回りの運動補助力として作用せしめられて、歩行補助が行われるようになっている。特に本実施形態では、歩行時に遊脚を前方へ振り出す際のアシスト作用が実行されることとなる。
すなわち、人の歩行は、図3にモデル図が示されているように、左右一対の脚X,Yを交互に前方に振り出して前後へ周期的に動かすことによって行われる。この歩行動作において、歩行面の傾斜等による歩行抵抗に抗して重心を前方に移動させる運動エネルギーを維持するために、接地した脚Xの筋活動で与えられる体重支持等のエネルギーだけでなく、地面から浮いた遊脚Yの運動も重要な役割を担っている。具体的には、歩行に際して後方に延びた方の脚は、人の重心より後方で爪先が地面から離れて遊脚Yとなり、前方に延びた方の脚Xだけが接地した片脚立脚の状態で歩行が進められる。一方、地面から浮いた遊脚Yは、歩行に際して後方に大きく延び出した状態で地面から浮き、遊脚Yに作用する重力も利用して、人の重心より後方から股関節まわりの揺動により前方へ振り出される。この遊脚Yの振り出しによる振子運動が、重心を前方に進める運動エネルギーとしても作用する。
ところが、加齢等による歩行能力低下者では、歩幅も小さく速度も小さいことから、かかる遊脚Yが後方で浮いた際にも十分な重力が作用し得ずに遊脚Yの振子運動による効果が発揮され難くなる。その結果、歩行能力低下者は、スムーズな歩行ができなくなり、歩行自体が苦痛となって歩行しなくなることで、脚筋力の更なる低下が進んでしまうと考えられる。ここにおいて、本実施形態の歩行運動補助装置10では、遊脚Yに対して振子運動をサポートするように、適切なタイミングで遊脚Yに補助的にアシスト力Fを及ぼすことにより、遊脚Yの振子運動を促進することで、使用者の歩行にリズムを持たせると共に効率化させる。特に、地面から浮いた遊脚Yに対してアシスト力Fを及ぼすものであるから、小さい力で遊脚Yを効率的に変位運動させて歩行を補助することができると共に、接地して体重を支える接地脚Xでは、使用者自身の筋力が主体的に使用されることで、筋力も効果的にトレーニングされ得る。
かかるアシスト力Fは、電動モータ17で補助力伝達帯12を通じて引張力として使用者の股関節まわりに及ぼされることとなるが、その作用力の経時的パターンの一例を、図4に示す。即ち、歩行に際しては、図5に示すように、関節角度センサ26により周期的な股関節角度の変化パターンが検出されることから、前記(I)アシストタイミング制御手段によりアシスト開始のタイミングを決定し、アシスト開始時点からアシスト終了時点に至るまでの間、アシスト力Fの大きさを経時的に変化させつつ、遊脚Yに及ぼすようにされる。本実施形態では、図5に示すように、使用者の股関節の屈曲角度の検出値が最大となる時点の間隔に基づいて使用者の歩行周期Sを認定すると共に、股関節角度が最大となる時点から歩行周期Sに対して所定の係数を乗算した算出結果分だけ遡った時点を、アシスト開始のタイミングt1 としている。なお、使用者の歩行周期を股関節角度値が最大となる時点の間隔に基づいて設定すれば、歩行周期を精度良く認定することができる。また、図5に示した股関節角度のプロファイルにおける二つのピークは、前のピークが遊脚を前方に最大まで振り出した時点を示し、後のピークが振り出した遊脚を地面に着地(ヒールコンタクト)させた時点を示しており、遊脚を前方に最大まで振り出した時点の間隔に基づいて歩行周期を認定することが望ましい。
なお、アシスト終了時点t2 は、例えばアシスト開始時点t1 から予め設定された時間が経過するまでの間として時間設定することも可能であり、また、関節角度センサ26の股関節角度の検出値が予め設定された角度値に至るまでの間として設定することなども可能である。本実施形態では、歩行周期Sに所定の係数を乗じた算出結果をアシスト開始時点t1 に加えることにより、アシスト終了時点t2 を決定し、アシスト作用期間Tを定めている。
また、アシスト開始時点からアシスト終了時点までのアシスト力Fの作用期間Tは、図6に示すように、一般に歩行時に後方に延びた脚が地面を離れて遊脚となるのと略同じ時点から前方に振り出されて着地するより少し前の期間、即ち離陸した遊脚となっている期間よりも僅かに短い期間で設定されるのが好ましい。なお、アシスト開始時点は、好適には、歩行時に後方に延びた脚が地面を離れて遊脚となる時点に対するずれが、アシスト力Fの作用期間Tの10%以内とされる。
また、目的とするアシスト力Fの大きさは、歩行に違和感を抱かせることを回避しつつ、効率的に歩行補助を行い得るように、出力特性設定手段によって設定される目標値に基づいて制御される。即ち、出力特性設定手段によって設定されるアシスト力Fの目標値は、アシスト力Fの作用期間Tにおいて、中間に一つのピークを有する山形のプロファイルをもって設定されており、アシスト力Fの作用開始からの経過時間tに伴って徐々に(実質的に連続して)変化している。そして、目的とするアシスト力は、遊脚Yから接地脚X、または接地脚Xから遊脚Yへの股関節の周期的な屈曲運動に対応して、山形プロファイルが所定時間の間隔をもって繰り返されるものであり、即ち周期的な波形プロファイルとして表すことができる。
さらに、出力特性設定手段では、アシスト力Fの目標値が関数として設定されている。即ち、アシスト力Fは、F=A*f(α,t)を満たすように設定されている。なお、当該関数において、Aはアシスト力Fの最大値を設定するパラメータであって、最大出力設定手段によって予め適宜に設定される。この最大出力設定手段は、使用者の脚筋力を補助するアシスト力の大きさを定める設定値Aを入力して変更設定可能とする手段であって、例えば、ダイヤルやテンキーなどの外部入力デバイスと、外部入力デバイスからの入力に応じてアシスト力Fの目標値を示す数式において設定値Aを設定する設定手段とを有している。なお、最大出力設定手段は、上記のように外部入力デバイスによって使用者が設定値Aを手動で設定するようにしても良いし、センサの検出結果などに基づいて設定値Aを自動で設定するようにしても良い。また、f(α,t)は、後述するピーク位置設定手段によって予め設定される設定値αと、アシスト力の作用開始からの経過時間tとの関数である。
特に本実施形態の出力特性設定手段では、アシスト力Fの目標値が正弦関数として設定されており、アシスト力Fは、F=A*sin(πt/T+α*sin(πt/T))を満たすように設定されている。要するに、本実施形態の関数f(α,t)は正弦関数であって、f(α,t)=sin(πt/T+α*sin(πt/T))である。
ここにおいて、上記正弦関数のαは、アシスト力Fのピーク位置t3 を変更設定するためのパラメータであって、ピーク位置設定手段によって−1≦α≦1の範囲で任意に或いは選択的に設定可能とされている。この設定値αを調節することにより、アシスト力Fの作用期間Tにおけるアシスト力Fのピーク位置t3 が調節されるようになっている。なお、出力特性設定手段が備えるピーク位置設定手段は、設定値αを入力して変更設定可能とする手段であって、例えば、ダイヤルやテンキーなどの外部入力デバイスと、外部入力デバイスからの入力に応じてアシスト力Fの目標値を示す数式の設定値αを設定する設定手段とを有している。なお、ピーク位置設定手段は、上記のように外部入力デバイスによって使用者が設定値αを手動で設定するようにしても良いし、センサの検出結果などに基づいて設定値αを自動で設定するようにしても良い。
すなわち、図7のグラフに示すように、設定値αの数値を−1≦α≦1の範囲で変更すると、設定値αが0の場合には、アシスト力Fのピーク位置t3 がアシスト力Fの作用期間Tの中央に設定されて、ピークの前後で略対称の出力特性となる。また、設定値αが正の数値をとる場合には、ピーク位置t3 がアシスト力Fの作用期間Tの中央よりも前半に設定される一方、設定値αが負の数値をとる場合には、ピーク位置t3 がアシスト力Fの作用期間Tの中央よりも後半に設定される。なお、図7のグラフでは、αが−1から0.25ずつ1まで増加する場合に、アシスト力Fの作用開始からの経過時間tに対して、アシスト力Fがどのように変化するかを示しており、αが1に近づくに従って、ピーク位置がアシスト力の作用開始時点に近づいて、より短い経過時間tでアシスト力Fがピークに達するように出力特性が変わっていくことが分かる。
また、F=A*f(α,t)で定義されるアシスト力Fにおいて、関数f(α,t)がsin(πt/T+α*sin(πt/T))とされていることから、アシスト力Fの作用開始時点t1 と作用終了時点t2 においてアシスト力Fが何れも0である一方、アシスト力Fが作用開始時点t1 からピーク位置t3 まで徐々に大きくなっていると共に、ピーク位置t3 から作用終了時点t2 まで徐々に小さくなっている。
ここにおいて、このようにピーク位置t3 を変更可能とすることにより、アシスト力が使用者の歩容に与える影響を適宜に変更することができる。即ち、アシスト力のピーク位置t3 をアシスト力の作用期間Tの前半に設定する(α>0)と、アシスト力のピーク位置t3 を作用期間Tの中央に設定する場合(α=0)に比して、歩幅が大きくなると共に、単位時間当たりの歩数が少なくなって歩調が緩やかになる。一方、アシスト力のピーク位置t3 を作用期間Tの後半に設定する(α<0)と、アシスト力のピーク位置t3 を作用期間Tの中央に設定する場合(α=0)に比して、歩幅が小さくなると共に、単位時間当たりの歩数が多くなって歩調が早くなる。要するに、設定値αを正の値に設定して使用者にアシスト力を作用させると、一歩で移動する距離が大きいストライド歩法になり、設定値αを負の値に設定して使用者にアシスト力を作用させると、一歩に要する時間が短いピッチ歩法になる。なお、αの絶対値が大きくなるに従って、α=0の場合に対する歩幅および歩調の差が大きくなり、アシスト力による歩容への影響が大きくなる。
したがって、ピーク位置設定手段によって設定値αの数値を変更して、アシスト力の目標値のピーク位置(波形)を変更することにより、アシスト力を受けた使用者の歩容をある程度コントロールすることができて、例えば、αを正の値に設定すれば、脚を動かす回数を減らして心肺機能への負担を軽減することなどが可能となり得ると共に、αを負の値に設定すれば、股関節の角度変化を小さくして、脚筋力への負担を小さくすることなどが可能となり得る。また一方、αを正の値に設定すれば、股関節の角度変化が大きくなることから、脚筋力を効率的に鍛えることもできると共に、αを負の値に設定すれば、脚を動かす回数が増えることから、心肺機能を効率的に鍛えることも可能になる。
加えて、f(α,t)=sin(πt/T+α*sin(πt/T))であることから、アシスト力Fの最大値は、最大出力設定手段による設定値Aの大きさに応じて定まるようになっている。これにより、アシスト力Fの最大値は、ピーク位置設定手段によって設定される設定値αとは独立したパラメータである設定値Aによって調節可能とされており、設定値Aを最大出力設定手段によって適宜に設定することで、必要な大きさのアシスト力Fを容易に設定できる。
以上により、本実施形態の歩行運動補助装置10では、最大出力設定手段によって設定される設定値Aと、ピーク位置設定手段によって設定される設定値αとの二つのパラメータを調節することにより、アシスト力の出力特性が簡単に調節設定可能とされており、目的とするアシスト力を簡単且つ高精度に得ることが可能とされている。
しかも、補助力伝達帯12を通じて脚へ及ぼされるアシスト力Fの大きさが、補助力伝達帯12に装備された荷重センサ24で直接に検出され、検出された実際のアシスト力の大きさが目標とするアシスト力の大きさとなるように、電動モータ17が荷重センサ24の検出値に基づいてフィードバック制御される。それ故、図4,6に例示される如き目的とするアシスト力の大きさが高精度に実現され得るのである。
また、上述の如き電動モータ17によって補助力伝達帯12が巻き取られて張力によるアシスト力が作用制御されている状況以外では、電動モータ17が作動せずに補助力伝達帯12が一定長さで放置されていると、補助力伝達帯12には、歩行に伴って弛みや過度の引張が発生してしまう。そこで、本実施形態では、アシスト力の非作用中、(III)弛み防止制御手段で電動モータ17を制御することにより、補助力伝達帯12に対して略一定の小さな引張力が弛み防止力として及ぼされた状態に保たれる。この弛み防止の制御に際しては、補助力伝達帯12の引張応力を直接に検出する荷重センサ24の検出値を参照して、かかる検出値が目的とする一定の引張力となるように電動モータ17がフィードバック制御される。
なお、このような弛み防止制御が実行されることで、図4に示されているように、アシスト力Fの作用期間Tを除く実質的に全期間に亘って、補助力伝達帯12には所定のバイアス力(小さな引張力)が作用せしめられる。そして、このようにして補助力伝達帯12の弛みが常時防止されることにより、例えば(I)アシストタイミング制御手段によりアシストが開始された時点で、(II)アシスト力制御手段に設定されたアシスト力Fを作用させるに際して、電動モータ17の作動に伴って補助力伝達帯12による引張力が直ちに立ち上がる。それ故、目的とするアシスト力が殆ど時間遅れなく、遊脚に作用せしめられることとなり、歩行に好適なパターンでアシスト力を精度良く遊脚に及ぼすことが可能になる。
特に本態様では、アシスト力Fの作用中も(II)アシスト力制御手段により補助力伝達帯12の引張応力が荷重センサ24の検出値で直接にフィードバック制御されることから、アシスト力Fの作用開始時における速やかな立ち上がりに加えて、アシスト力Fの不足やオーバーシュート、更には発散などの制御不具合も効果的に防止され、目標値への高精度な追従性が併せて達成され得るのである。
因みに、本実施形態の歩行運動補助装置10による上述の如き歩行アシスト制御の全体の流れを、一つの制御態様を示す図8のフロー図に従って説明する。
先ず、ステップS1で制御が開始されると、ステップS2の初期化工程において関節角度センサ26や荷重センサ24について原点出しなどのセンサ校正を行ってから、ステップS3で弛み防止用として補助力伝達帯12にバイアス力を及ぼす制御に際して目標値とされる荷重センサ24のバイアス力を設定する。
次に、ステップS4で歩行時の筋力を補助するアシスト力の目標値のパターン(図4,6に示される如きアシスト力の大きさの経時的な変化プロファイル)を設定する。即ち、ステップS4では、最大出力設定手段によってアシスト力の最大値に関する設定値Aを設定すると共に、ピーク位置設定手段によってアシスト力のピーク位置に関する設定値αを設定することにより、アシスト力の大きさの経時的な変化プロファイルを設定する。なお、設定値Aおよびαは、それぞれ手動入力乃至はセンサの検出値などに基づいた自動入力によって設定されて、本実施形態では何れも連続的に乃至は段階的に数値を変更可能とされる。更に、設定値Aと設定値αは、各別に設定可能とされていても良いし、設定値Aと設定値αの組み合わせの複数種類を、目的とする運動の種類に応じてプリセットしておいて、それらプリセットされた設定値Aとαの組み合わせから選択して設定するようにしても良い。
その後、ステップS5以下において、電動モータ17の駆動制御を実行してアシスト作動を開始する。なお、以下の電動モータ17の制御は、対象となる左右の脚の一方毎に交互に実施されても良いし、左右の脚の各別に独立した制御系を備えていても良い。
すなわち、ステップS5において、左右の関節角度センサ26,26から左右脚における股関節角度の検出値を取得すると共に、左右の荷重センサ24,24から左右の補助力伝達帯12,12の引張力の検出値を取得し、角度信号やアシスト力信号として制御装置22のRAMに記憶する等の信号処理を行う。続くステップS6において、ステップS5で得られた左右の関節角度センサ26,26の検出結果に基づいて左右脚の周期的な股関節角度の変化を検出して、装用者の現状態を把握する。
そして、ステップS7において、装用者の現状態が歩行状態か否かを判定し、歩行状態でないと判断されると、ステップS8において、前記ステップS3で設定されたバイアス力を制御目標値に設定した後、ステップS9が実行され、かかる制御目標値が補助力伝達帯12の引張力となるように、荷重センサ24の検出値を参照信号として、電動モータ17が作動制御されることで、補助力伝達帯12において一定の弛み防止力(バイアス力)が及ぼされる。
また、ステップS10において、電源からの給電を遮断するスイッチ等からの入力によってアシスト制御作動が終了したと判定されるまでの間、上記ステップS5〜S9の制御が、所定間隔で繰り返して実行されることにより、歩行が開始されるまでの間は、上記一定の弛み防止力が及ぼされた状態に保たれることとなる。
一方、ステップS7において、装用者の現状態が歩行状態であると判定されると、ステップS11に進み、関節角度センサ26で検出される股関節の角度の検出値に基づいてアシスト力の作用期間T(図5,6参照)であるか否かが判定される。そして、アシスト力の作用期間Tで無いと判定されると、ステップS12において、関節角度センサ26で検出される股関節の角度に基づいてアシスト開始時点t1 に達したか否かが判定される。
股関節の角度検出値に基づいて、未だアシスト開始点t1 に達していないと判定された場合には、ステップS8に進み、上述の弛み防止力(バイアス力)を生ぜしめるための制御ループに戻る。
これに対して、前記ステップS11において、アシスト力の作用期間T(図5,6参照)でアシスト力の作用中であると判定されると、ステップS13に進み、アシスト力の作用期間Tの終了前か否かが判定される。なお、アシスト力の作用期間Tの終了は、前記ステップS4で入力される、例えばアシスト開始時点t1 からアシスト終了時点t2 までの時間データや、アシスト終了と判定される股関節角度の値などによって判定することができる。
そして、ステップS13において、アシスト期間Tの終了前と判定された場合、および前記ステップS12においてアシスト期間Tが開始されたと判定された場合には、ステップS14に進んでアシスト力の発生制御が行われる。それには、先ず、ステップS14において、前記ステップS4で入力されたアシスト力のパターンを利用して、現時点におけるアシスト力を求めて決定し、目標値に設定する。その後、ステップS9に進み、かかる制御目標値が補助力伝達帯12の引張力となるように、荷重センサ24の検出値を参照信号として、電動モータ17が作動制御されることで、補助力伝達帯12においてアシスト力が及ぼされる。
そして、ステップS10でアシスト制御作動が終了したと判定されるまでの間、上記ステップS11〜S14を含む制御が、所定間隔で繰り返して実行されることにより、アシスト期間Tの間、予め設定されたアシスト力のパターンでアシスト力の制御が実行されることとなる。なお、ステップS13において、アシスト期間Tが終了したと判定された場合には、ステップS12において未だアシスト開始点に達していないと判定された場合と同様に、ステップS8に進み、上述の弛み防止力(バイアス力)を生ぜしめるための制御ループに戻る。
上述の如き、電動モータ17のフィードバック制御によるバイアス力およびアシスト力の制御作動は、ステップS10でアシスト制御作動が終了したと判定されて、ステップS15に至って終了するまで継続される。
上述の如き本実施形態の歩行運動補助装置10を装用すれば、股関節を屈曲する際に必要とされる力の一部が、電動モータ17の発生力に基づいて補助力伝達帯12,12の引張力として使用者の脚に及ぼされるアシスト力によって補われることとなる。それ故、例えば、歩行時に股関節を屈曲して後足を前方に運ぶ動作をする際に、小さな筋力で目的とする動作を行うことが可能となり、加齢や傷病によって使用者が動作を行うための充分な筋力を備えていない場合にも、目的とする歩行動作をスムーズに行うことができて、使用者の活動が制限されるのを防ぐことが可能となる。
また、電動モータ17の発生駆動力をアシスト力として使用者の脚部に伝達する経路上に設けられた補助力伝達帯12が可撓性とされており、より好適には力の伝達方向で弾性変形可能とされている。これにより、電動モータ17の発生駆動力は、補助力伝達帯12の可撓変形や弾性によって緩和されてから、使用者の脚部に及ぼされる。それ故、電動モータ17の発生駆動力が剛性の骨格構造からなる伝達系でダイレクトに伝達される場合に比して、使用者の関節等への負荷が軽減されて、筋を痛める等といった問題が生じるのを防ぐことができる。
さらに、出力特性設定手段によって、電動モータ17によって出力されるアシスト力の目標値が、アシスト開始時点からの経過時間に応じて変化する山形プロファイルをなすように制御されており、歩行運動の段階に対応するアシスト力を適切に及ぼすことができる。特に、歩行運動の周期に応じてアシスト力の作用開始時点と作用終了時点が設定されていることにより、歩行運動に即したアシスト力を及ぼすことが可能とされている。
しかも、本実施形態では、使用者の脚部に実際に作用する荷重が荷重センサ24によって直接的に計測されており、かかる計測値に基づいて実際のアシスト力とアシスト力の目標値との差が低減されるように、電動モータ17の出力がフィードバック制御されることから、より目標値に近い高精度なアシスト力を使用者に及ぼすことができる。
また、出力特性設定手段の最大出力設定手段によって、電動モータ17が出力するアシスト力の目標最大値が、適宜に変更設定可能とされている。それ故、使用者の筋力や目的とする運動に応じて、適切な大きさのアシスト力を作用させることができて、使用者の歩行を有効に補助することができる。特に本実施形態では、アシスト力Fの目標値がF=A*sin(πt/T+α*sin(πt/T))とされることから、アシスト力の目標最大値が最大出力特定手段によって設定される設定値Aに応じて定まるようになっており、アシスト力を容易に調節可能とされている。
さらに、本実施形態では、関数f(α,t)=sin(πt/T+α*sin(πt/T))が正弦関数とされていることから、初期位置でのアシスト力Fの目標値が0であると共に、ピーク位置に向かってアシスト力Fが徐々に増大するように制御される。従って、アシスト力の急激な立ち上がりが回避されて、電動モータ17やアシスト力の伝達系に過大な負荷が作用するのを防ぐことで耐久性の向上が図られると共に、アシスト力に対する使用者の違和感も低減される。同様に、アシスト終了時点においても、アシスト力Fの目標値が0となっていると共に、ピーク位置からアシスト終了時点に向かってアシスト力が漸減するように制御されることから、耐久性の向上と違和感の低減が図られる。
また、出力特性設定手段のピーク位置設定手段によって、電動モータ17によって出力されるアシスト力のピーク位置が、アシスト力の作用期間T内において適宜に変更設定可能とされている。それ故、アシスト力が使用者の歩行運動に及ぼす影響を、アシスト力のピーク位置の変更設定によってある程度コントロールすることができて、心肺機能又は脚筋力の負荷の低減や、負荷の増大による心肺機能又は脚筋力の効率的なトレーニングなどを、適宜に選択して実現することができる。なお、アシスト力のピーク位置の違いに基づく歩行運動への影響を、目的とする運動に応じて選択するだけでなく、使用者の好みに合わせて選択しても良いことは、言うまでもない。
なお、このようなピーク位置設定手段による設定値αの違いに基づいた歩容の変化は、図9に示すように、実験によっても確認された。図9は、本実施形態に係る歩行運動補助装置10の効果を確認するために、3人の被験者(使用者)に対して歩行実験を行った結果である。以下に実験の内容とその結果について説明する。
先ず、被験者が歩行運動補助装置10に慣れると共に、被験者にとって快適な歩行速度などを確認するために、歩行実験前に10分程度の練習歩行を行った。その際に、ピーク位置設定手段によって設定値αを変更し、α>0の場合とα<0の場合とにおいて、アシスト力が最も有効に作用していると被験者が感じる条件を確認した。その結果、α>0の場合としてα=1を、α<0の場合としてα=−0.5を、それぞれアシスト力が有効であったことから採用し、それらにα=0の場合を加えた3種類の設定値αについて、歩行実験を行った。また、アシスト力を0にした場合についても同様の歩行実験を行い、歩行運動補助装置10のアシスト力の有効性を確認した。
歩行実験では、アシスト力なしの場合、アシスト力ありで且つα=0の場合、アシスト力ありで且つα=1の場合、アシスト力ありで且つα=−0.5の場合について、それぞれ一片20mの正方形状の歩行コースを被験者が5周し、その歩行時の歩幅や単位時間当たりの歩数(歩調)を計測した。なお、最大出力設定手段による設定値Aの調節で変更可能な歩行速度は、事前の歩行練習において被験者が快適であるとした速度を採用した。また、実験結果の精度向上などを目的として、上記の歩行実験を条件ごとに二回ずつ行った。
そして、上記の歩行実験における歩幅および単位時間当たりの歩数(歩調)の計測結果の平均値が、図9にグラフとして示されている。これによれば、アシスト力が作用していない場合に比して、アシスト力が作用している場合には、歩幅が大きくなっていると共に、単位時間当たりの歩数も増えている。これらの結果から、本実施形態に係る歩行運動補助装置10を使用してアシスト力を作用させることにより、歩行速度が増して移動がスムーズになると共に、より活動的な歩容で歩行可能となることが確認されている。
さらに、図9によれば、歩行運動補助装置10の使用状態において、ピーク位置設定手段による設定値αの変更に応じて、被験者の歩容が変化することも分かる。即ち、α=1の場合には、α=0の場合に比して、歩幅が大きくなると共に、単位時間当たりの歩数が少なくなって歩調が緩やかになっている。一方、α=−0.5の場合には、α=0の場合に比して、歩幅が小さくなっていると共に、単位時間当たりの歩数が多くなって歩調が早くなっている。このように、α>0の場合にストライド歩法になると共に、α<0の場合にピッチ歩法になることが、実験によっても確認できた。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第1の装着部は、膝関節よりも上方の大腿部に装着することも可能であり、それによって装置のコンパクト化が実現可能となる。尤も、本発明の関節運動補助装置は、股関節まわりの運動補助に限定されるものでなく、例えば肘や肩などの関節まわりの運動補助にも適用可能である。具体的には、例えば使用者が腕立て伏せや肩まわしなどの周期的な関節の屈曲を伴うリハビリ運動を行う場合に、歩行と同様にアシスト力を及ぼして運動補助を行うことができる。
また、制御装置や電源装置等の装着位置は限定されるものでなく、例えば通電用リード線によって接続された独立構造として使用者の衣服のポケットに収容したり、使用者の肩にかけたり等して装着することも可能である。ウォーキングマシンを使用するなどして場所を移動しない運動に対してアシスト力を及ぼす場合には、設置バッテリや家庭用電源のコンセントなどから給電することも可能である。
更にまた、補助力伝達部は、必ずしも全体が可撓性(柔軟性)を有するものに限定されず、部分的であれば金属や合成樹脂等で形成された硬質な部分があっても良い。更に、補助力伝達部に弾性を及ぼすに際しても、補助力伝達部の全体が力の伝達方向で弾性変形可能とされていても良いし、補助力伝達部が力の伝達方向での弾性変形を部分的に許容されていても良い。
さらに、補助力伝達部は、前記実施形態に示すような一つのベルト状とされた補助力伝達帯12に限定されるものではなく、例えば、前述の特許文献2に示されているように、第1の牽引帯と第2の牽引帯とを連結金具で相互に繋いだ構造なども採用され得る。
また、関節角度センサの取付位置は、対象となる関節の屈曲角度を測定し得る位置であれば、特に限定されない。即ち、前記実施形態のように、大腿部の後ろ側に関節角度センサを装着する必要はなく、例えば図10(a)〜(c)に示されているように、ジャイロセンサ等の関節角度センサ26,26を、使用者の大腿部の前面側の下端付近などの任意の位置に装着しても良い。また、図10(a)〜(c)に示されているように、関節角度センサ26を、前記実施形態の如き特別な固定バンド28を採用することなく、例えば第1の装着部14などに取り付けることも可能である。尤も、補助力伝達帯12に関節角度センサ26を装着する場合には、大腿部の傾斜角度と高精度には一致しないことから、第1の装着部14との固定端のように大腿部と略等しく傾斜せしめられる部位へ装着することで股関節の屈曲角度の測定誤差を軽減することが望ましい。
また、前記実施形態に示したアシスト力Fの目標値の数式は、あくまでも例示であって特に限定されるものではなく、f(α,t)も正弦関数に必ずしも限定されない。更に、前記実施形態では、アシスト力の目標値が、アシスト作用期間Tにおいて一つのピークだけが現れる山形のプロファイルをもって設定されているが、二つ以上のピークを有する山形プロファイルでアシスト力の目標値を設定しても良く、目標値の変化プロファイルは目的とする関節運動の違いなどに応じて適宜に設定され得る。
また、前記実施形態では、人体に及ぼされる外力であるアシスト力を荷重センサ24で直接に検出していたが、駆動手段によって及ぼされるアシスト力は駆動手段の出力に対応していることから、例えば、電動モータ17の消費電力を検出するなどして、駆動手段の出力をアシスト力として検出したり、電動モータ17の供給電圧を制御するなどして、駆動手段の出力を所定の目標値となるようにアシスト力として制御することも可能である。