JP2016166868A - イオン液体を用いた透過型電子顕微鏡による錯体の観察方法及び観察用試料 - Google Patents
イオン液体を用いた透過型電子顕微鏡による錯体の観察方法及び観察用試料 Download PDFInfo
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Abstract
Description
例えばCoFeプルシアンブルー錯体は、電子線に対し強い物質ではなく、更にはナノサイズの微粒子であるため、その観察は走査型電子顕微鏡(SEM)による結晶の表面観察や透過型電子顕微鏡(TEM)による外形の観察が主体であった。
このため従来、CoFeプルシアンブルー錯体など、電子線に対して弱い錯体結晶の原子配列やそれに基づいた構造解析について透過型電子顕微鏡を用いて行うことが望まれている。
特に、低温でCoFeプルシアンブルー錯体試料に電子線を照射すると直ちに錯体結晶が壊れる問題がある。この原因は、電子線照射によって結晶内の結晶水が熱せられ、蒸発する際に結晶が破壊されることが原因と考えられる。
また、生体試料を走査型電子顕微鏡により観察する場合、チャージアップの問題を回避するために、カチオンおよびアニオンから構成されるイオン液体を試料全体に含浸させて観察する方法が知られている(特許文献2参照)。
錯体において絶縁性のものは、電子顕微鏡にて観察する場合にチャージアップの防止が必須であるので、前記従来技術のイオン液体に着目し、透過型電子顕微鏡を用いて錯体を観察する際にイオン液体を利用する方法が有望であると考えた。
先の特許文献1、2には、適用するイオン液体としてイミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系などの陽イオンと、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、あるいはホウ素系などの陰イオンとの組み合わせのイオン液体が種々開示されている。
このため、特許文献1、2に記載された系列のイオン液体を用いて錯体を覆い、透過型電子顕微鏡観察を試みたが、いずれのイオン液体を用いて観察しても電子線によって錯体が早期に損傷を受け、安定的に観察できないことが判明した。
また、本発明は、錯体の結晶の原子配列などの構造解析について透過型電子顕微鏡を用いて観察できる方法の提供とその観察の際に用いる試料の提供を目的とする。
(1)本発明は、透過型電子顕微鏡を用いて錯体試料を観察するに際し、錯体試料の一部または全体をコリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液に浸してから観察することを特徴とする。
透過型電子顕微鏡を用いて錯体を観察する場合、錯体が絶縁体である場合はチャージアップを防止するために錯体の周囲を導電体で覆う必要がある。ここで錯体試料をイオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液で覆うならば、チャージアップの問題を回避できる。また、コリン系のイオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液で錯体試料を覆うことで電子線の照射に耐え、破壊し難い錯体試料にすることができる。錯体試料の結晶に結晶水を含む場合、コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液で覆っておけば電子線を照射しても結晶水の蒸発を抑制することができ、結晶水を含む錯体を破壊することなく観察できる。
コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液は真空環境などにおいても蒸発し難いため、電子顕微鏡による観察に耐えて錯体試料を保護できるとともに、コリン系イオン錯体は電子線の透過に影響し難いために、電子線による錯体試料の透過観察の際、鮮明な観察像を得ることができる。
コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を乾燥することで錯体試料の周囲を覆う被覆層を形成することができ、錯体試料の保護ができる。
コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を乾燥させた被覆層で錯体試料を被覆することで透過型電子顕微鏡電子線に耐えるようになる。
(3)本発明において、前記錯体試料を金属製のグリッドの上に載置し、前記錯体試料を覆うように前記コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を前記グリッド上に滴下してから透過型電子顕微鏡を用いて観察することが好ましい。
透過型電子顕微鏡観察を行う場合に使用する試料台となるグリッドに錯体試料を設置し、その上にイオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を滴下することで錯体をイオン液体で覆った試料を簡単に作製できる。
錯体試料を覆ってチャージアップを防止し、電子線透過によっても試料の破壊を生じないイオン液体としてコリンラクテートを用いることができる。コリンラクテートのイオン液体を錯体試料の被覆用として用いるならば、錯体結晶を観察する時の映像が鮮明であり、錯体結晶の格子解析、元素位置の変動や転移観察が可能となる。
CoFeプルシアンブルー錯体は、235K以下の低温と室温においてFe原子とCo原子のスピンが異なる状態となり、磁性を発現しない状態となるか、磁性を発現する状態となるか、などの物理特性が変化する。また、低温域において光の照射によってもFe原子とCo原子のスピン状態が変化する。
これらFe原子とCo原子のスピンの状態に応じ、錯体結晶においてFe原子あるいはCo原子がどのような状態を呈しているのか、透過型電子顕微鏡を用いて直接観察が可能となる。このため、錯体結晶の内部において格子欠陥の存在、電荷移動スピン転移などがどのように影響して磁性発現や磁性消失に繋がるか研究することができる。このため、本発明の観察方法を適用することで、透過型電子顕微鏡を用いて従来不可能であった錯体結晶内部における格子欠陥の状態、電荷移動スピン転移などの観察が直にできるようになる。
コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液の乾燥物からなる被覆層で覆うことにより、表面の導電性を確実に向上でき、透過型電子顕微鏡による観察時のチャージアップを確実に防止できる。
透過型電子顕微鏡を用いて錯体を観察する場合、錯体が絶縁体である場合はチャージアップを防止するために錯体の周囲を導電体で覆う必要がある。ここで錯体試料をイオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液で覆うならば、チャージアップの問題を回避して透過型電子顕微鏡による観察ができるようになる。
コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液は真空環境などにおいても揮発し難いため、電子顕微鏡による観察に耐えて錯体試料を保護するとともに、コリン系イオン錯体は電子線の透過に影響し難いために、電子線による錯体試料の透過観察の際、良好な観察像を得ることができる。
錯体試料を覆ってチャージアップを防止し、電子線透過によっても試料の破壊を生じないイオン液体としてコリンラクテートを用いることができる。コリンラクテートのイオン液体を錯体試料の被覆用として用いるならば、錯体結晶を観察する時の映像が鮮明であり、錯体結晶の格子解析、元素位置の変動や転移観察が可能となる。
(9)本発明において、前記錯体試料がCoFeプルシアンブルー錯体であることが好ましい。
従って、従来は透過型電子顕微鏡観察できなかった錯体の原子配列変化や相転移などの物理現象を解析できるようになる効果を奏する。
以下に、本発明の第一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1は本発明に係る錯体観察方法の実施に用いる透過型電子顕微鏡の一例を示す全体構成図であり、図1に示す透過型電子顕微鏡Aは、円筒状の筐体1の上部に電子銃2を備え、該電子銃2の下方に照射レンズ3、4を備え、それらの下方に試料ホルダー5、対物レンズ6、中間レンズ7、投射レンズ8を備え、筐体1の底部に設けられた蛍光板9と撮像装置10を備えている。これらのレンズや蛍光板を備えた透過型電子顕微鏡Aは一般的な構成であり、本発明の観察方法において、用いる透過型電子顕微鏡の構造に特別な要求はなく、一般的な構造の透過型電子顕微鏡を使用することができる。
透過型電子顕微鏡Aにおいて電子銃2から電子線を放出させ、試料ステージ5aに保持させた錯体試料を透過させた後に複数のレンズ系で拡大し、蛍光板9に電子線を到達させ、CCDカメラなどの撮像装置10で蛍光板9における投影画像を撮像することにより試料の拡大画像を得ることができる。
図2(A)に示すように錯体の結晶Sを試料保持部材13の上に設置したならば、錯体の結晶Sを覆うようにマイクロピペット15でイオン液体Lを錯体の結晶Sの周囲に散布し全体を乾燥させる。
イオン液体Lの散布と乾燥により試料保持部材13上の結晶Sは図2(B)に示すようにイオン液体からなるドーム状の被覆層16により覆われる。図2(A)、(B)においては図面の簡略化のためにマイクログリッド構造の保持部材13を単純な円板形状に示している。
CoFeプルシアンブルー錯体結晶は、シアノ基を介しCoとFeがNaClタイプの結晶構造をとって結合している錯体結晶であり、温度操作と光照射により多重安定相(非平衡相)が出現する結晶として知られている。これは図3(B)に示すような格子欠陥を有するとともに、電荷移動スピン転移により、図4(A)に示す低スピン状態と図4(B)に示す高スピン状態の間で相転移が生じることで説明される。
このようなCoFeプルシアンブルー錯体結晶は一般的には平均粒径400〜500nmなどの微粒子状粉末として市販されている。
本実施形態では、CoFeプルシアンブルー錯体結晶のドメインと多重安定相の相関を研究する目的から、透過型電子顕微鏡Aにて観察を行うこととした。
ところが、錯体結晶は内部に結晶水を有しているために、カーボン膜などの導電性の保護膜を形成するためにコーティング装置の真空容器に収容して真空引きすると結晶水が容易に蒸発して結晶構造が容易に破壊される。
そこで、本実施形態では、イオン液体Lを乾燥させた被覆層16にて錯体結晶Sを覆うこととした。
これらの中で本実施形態で用いるコリン系イオン液体は、カチオンとしてコリン、アニオンとしてカルボン酸、ジカルボン酸、芳香族カルボン酸、あるいは、乳酸(ラクテート)のいずれかを用いたものを適用できる。
アニオンとしてのカルボン酸を用いたものは、コリンフォーメート(choline fomate)、コリンアセテート(choline acetate)、コリンプロピオネート(choline propionate)、コリンオクサレート(choline oxalate)、コリンマロネート(choline malonate)、コリンサシネート(choline succinate)、コリンフォスフェート(choline phosphate)、コリンベンゾエート(choline benzoate)、コリンラクテート(choline lactate)などがあり、他に、コリンレブリネート(choline levulinate)、コリンピルベート(choline pyruvate)などもあるので、これらの中から選択して1種または2種以上を適宜用いることができる。
これらの中でも、組成式[(CH3)3NC2H4OH][CH3C(OH)CO2]で示されるコリンラクテートのイオン液体を用いることが好ましい。
コリン系イオン液体について、10%〜50%濃度の水溶液として更にこの水溶液を5〜100倍程度に希釈して用いることができる。イオン液体の原液のままでは錯体結晶Sを覆う被覆層16が濃くなり過ぎて電子線の透過に影響を与えるおそれがあるため、上述の範囲で溶媒で希釈することが好ましい。上述の範囲内でも、10%〜50%濃度の水溶液として更にこの水溶液を5〜20倍程度に希釈して用いることが好ましく、5〜10倍程度に希釈することがより好ましい。
乾燥の条件は、例えば、60℃のオーブンに入れ、10分間乾燥させる条件を採用できるが、例えば60℃以外の他の温度や他の乾燥時間を選択しても良く、自然乾燥などの条件で乾燥しても良い。
ただし、自然乾燥で飛びきらない溶媒が残留した場合、電子顕微鏡内の真空度を悪くするおそれがあり、電子顕微鏡内部を汚染するおそれがあるため、常温より高い温度で強制的に乾燥させることが好ましい。
錯体結晶Sをイオン液体の乾燥物の保護層16で覆っているので、透過型電子顕微鏡Aにおいて真空状態で電子線を透過させて観察したとしても、錯体結晶Sの結晶水が蒸発することがなく、また、電子線により錯体試料18がチャージアップすることもないので、先鋭な観察画像を得ることができる。
このため、従来は不可能であった結晶水を含む錯体結晶Sの結晶構造について透過型電子顕微鏡Aを用いて詳細に観察できるようになる。
また、錯体結晶Sを覆っているイオン液体からなる被覆層16は、電子線に耐え、真空環境下で揮発することなく、更に210K程度の低温まで耐えるので、低温で相転移する錯体結晶の観察にも適用できる。
例えば、錯体結晶の内部でFeの原子とCoの原子のコヒーレンス長が変化すると物性的にFe原子の配置とCo原子の配置がどのように変化して相転移するのか、透過型電子顕微鏡Aにより逐一観察することができるようになる。
従来、錯体に対するこのような観察は不可能であったために、相転移がどのような状況の元、発生していたかを直に観察できなかったが、本実施形態のイオン液体Lを用いた錯体試料18を用いることで、このような観察について透過型電子顕微鏡Aを用いて実施できるようになる。
この効果は結晶解析の分野において極めて大きな効果であり、本実施形態の技術を用いることで錯体結晶の研究が飛躍的に前進する可能性がある。
なおまた、観察対象とする錯体結晶は、イオン液体Lの乾燥膜により覆うことができる結晶であれば、いずれの結晶でも良い。例えば、ヘテロ構造を有するコア・シェル型錯体(Rb0.24Co[Fe(CN)6]0.74@K0.10Co[Cr(CN)6]0.7/nH2Oの結晶、あるいは、Rb0.24Co[Fe(CN)6]0.74、K0.10Co[Cr(CN)6]0.7 、Rb0.5Co[Fe(CN)6]0.8・zH2O@K0.1Ni[Fe(CN)6]0.7・zH2Oの結晶、Rb0.5Co[Fe(CN)6]0.8・zH2O@Rb0.1Ni[Cr(CN)6]0.7・zH2Oの結晶など、従来技術では透過型電子顕微鏡での直接観察が困難であった種々の結晶の観察に適用することができる。
以下に本発明の実施例について説明し、本発明の効果を検証する。
K0.32Co[Fe(CN)6]0.77・3.6H2Oなる組成式で示されるCoFeプルシアンブルー錯体結晶粉末を用意し、透過型電子顕微鏡試料作成用のマイクログリッド構造の銅メッシュプレート上にプラスチックの薄膜(支持膜)を張り、その上に錯体結晶粉末を散布した。錯体結晶粉末を覆う程度の容量のイオン液体をマイクロピペットを用いてメッシュプレート上に滴下し、イオン液体の水溶液の液滴で錯体結晶粉末を覆い、これを60℃のオーブンに入れ10分間乾燥させ、錯体結晶粉末をドーム状の被覆層で覆った。
この観察用試料を透過型電子顕微鏡の試料ステージにセットし、透過型電子顕微鏡により室温観察した。
イオン液体は[(CH3)3NC2H4OH][CH3C(OH)CO2]なる組成式で表記されるコリンラクテートを用いた。具体的には、コリンラクテートの10体積%水溶液を水で10倍に希釈し、マイクロピペットに収容して用いた。
また、同試料の更なる拡大図を図5(B)、図5(C)に示す。図5(A)に示す太線の縮尺は50nm、図5(B)の太線の縮尺は20nm、図5(C)の太線の縮尺は2nmである。
また、図5(C)の写真画像のバックグランド信号を逆フーリエ変換して結晶の格子情報のみを取り出し、Fe原子とCo原子の配列状態を捕らえた解析図を図5(D)、(E)に示す。図5(D)、(E)に示すように原子間距離は約5Åであると推定でき、一般的なX線回折法から知られているCoFeプルシアンブルー錯体結晶の格子間距離と同等であることを定量的に確認できた。
このように従来透過型電子顕微鏡によって観察できなかった錯体結晶について、透過型電子顕微鏡で直接観測し、錯体結晶格子内の原子の並びを観察し、格子間距離を定量的に確認できたことは、本発明により初めて達成できた成果であり、その効果は大きい。
このため、コリンラクテート型イオン液体を透過型電子顕微鏡の試料観察に用いる場合、10体積%の10倍希釈として1体積%のイオン液体が利用可能であり、50体積%のイオン液体が利用可能であるので、1体積%〜50体積%の広い濃度範囲のイオン液体を利用できることがわかる。
また、コリンラクテート型イオン液体を原液のまま用いて先の実施例と同等の手順で錯体試料を作成し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、濃度の高いイオン液体の影響で錯体結晶の格子の縞模様を観察できなかった。
このため、透過型電子顕微鏡の試料作成用としてイオン液体を用いる場合、イオン液体の水溶液状態が望ましく、その濃度は1体積%〜10体積%が良好な範囲であると思われる。
比較例として、コリンラクテート型イオン液体に代えて、BuMeImBF4なる組成式で示される第2のイオン液体を水で5倍希釈あるいは10倍希釈してそれぞれ錯体試料を作成し、透過型電子顕微鏡で観察した。
5倍希釈の第2のイオン液体を用いた錯体試料は4〜5秒ほど結晶の縞模様を確認できたが、その後は模様が消失し、それ以降は観察できなかった。10倍希釈の前記第2のイオン液体を用いた錯体試料は縞模様を観察できなかった。
次にTributyloctylphoshpnium thiocyanate [P4,4,48][SCN]と称されるイオン液体の原液とTributyloctylphoshpnium bis(trifluoromethanesulfonyl) amide [P4,4,48][Tf2N]と称されるイオン液を用いてそれぞれ錯体試料を作成した。
[P4,4,48][SCN]と称されるイオン液体を用いて上述の実施例と同等条件でCoFeプルシアンブルー錯体試料を作製した場合は30秒程度で格子模様の観察ができなくなった。
[P4,4,48][Tf2N]と称されるイオン液体の原液を用いて上述の実施例と同等条件でCoFeプルシアンブルー錯体試料を作製した場合、6日間は観察ができた。これは電子線による結晶へのダメージの発生によるものと推定できる。
図6はCoFeプルシアンブルー錯体を100K〜300Kの間で温度変化させた場合のスピン転移状態の変位と230K、250K、300Kの各状態における錯体結晶組織の透過型電子顕微鏡写真を対照して示す。冷却は錯体試料をドライアイスまたは液体窒素もしくは液体ヘリウムを用いて冷却した。
235K、250K、300Kのいずれの温度においても鮮明にCoFeプルシアンブルー錯体結晶の格子模様を捕らえることができた。なお、イオン液体の凝固点温度約210Kよりも高温であれば、測定は可能と思われるが、この例で良好な測定が可能であったのは220Kからであった。
図7(B)に示すように最隣接原子の結合長の状態がわかり、4つのサイトに囲まれているFe−Co結合長の平均値を求めることができ、Co−Fe−Co原子の結合角度も求めることができる。なお、図7(B)において黒くプロットした点は電子線が透過して蛍光板のイメージングプレート(IP)が感光した部分を示す。結晶の対称性から、感光した位置の重心同士の距離と電子線を吸収して濃い灰色に写った原子の重心同士の距離は等しくなる。このため、4つの黒くプロットした点の間に存在する濃い灰色に写っている部分に原子が存在しこれらの距離を計測することで原子の重心同士の距離がわかる。図7(B)では原子が存在する濃い灰色の部分を4つ例示して○印で囲み、それらのうち、左右に隣接する○印の間の矢印が原子間距離を示す。
これらの図7、図8、図9に示すように235K、250K、280K、300Kのそれぞれの温度におけるCoFeプルシアンブルー錯体結晶面において結合長の分布を定量的かつ具体的に解明できたのは、今回初めての成果であり、錯体結晶の相転移状態の研究を飛躍的に前進させる効果を得ることができた。
図11(A)〜(E)に示すように、高スピン状態の原子の数とコヒーレンス構造の平均サイズがわかり、錯体結晶の相転移構造の解析を飛躍的に前進させる結果を得ることができた。
以上の説明で明らかにしたように、イオン液体で錯体結晶を覆って透過型電子顕微鏡の観察試料とすることにより、210K近傍の低温から常温まで、従来は観察不可能であった電子線に弱い錯体結晶の原子配列と格子の状態を明確に定量分析することができるようになり、錯体結晶の構造解析に飛躍的な進歩を得ることができた。
用いたイオン液体は、コリンプロピオネートの1%水溶液と5%水溶液、コリンレブリネートの5%水溶液、コリンピルベートの1%水溶液と5%水溶液である。
いずれの水溶液においても、錯体結晶の画像を観察することができた。
Claims (9)
- 透過型電子顕微鏡を用いて錯体試料を観察するに際し、錯体試料の一部または全体をコリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液に浸してから観察することを特徴とする錯体の観察方法。
- 前記コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を観察前に乾燥することを特徴とする請求項1に記載の錯体の観察方法。
- 前記錯体試料を金属製のグリッドの上に載置し、前記錯体試料を覆うように前記コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を前記グリッド上に滴下してから透過型電子顕微鏡を用いて観察することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の錯体の観察方法。
- 前記コリン系イオン液体として、コリンラクテートを用いることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の錯体の観察方法。
- 前記錯体試料としてCoFeプルシアンブルー錯体を用いることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の錯体の観察方法。
- 前記コリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液を乾燥して被覆層とすることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の錯体の観察方法。
- 透過型電子顕微鏡用の試料基体の上に錯体試料が設置され、該錯体試料の少なくとも観察面がコリン系イオン液体あるいはコリン系イオン液体と溶媒との混合液の乾燥物で覆われたことを特徴とする観察用試料。
- 前記コリン系イオン液体がコリンラクテートであることを特徴とする請求項7に記載の観察用試料。
- 前記錯体試料がCoFeプルシアンブルー錯体であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の観察用試料。
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