鋼管矢板を切断して回収する方法(特許文献1、3)では、鋼管矢板を1本ずつ切断しなければならない上、カッターは円形断面の鋼管矢板の周方向に公転させられることで、1本の鋼管矢板の切断を完了をさせることから、1本の鋼管矢板の切断に時間を要するため、基礎構造物構築終了後の不要な鋼管矢板の撤去作業が長期化する傾向がある。またカッター自体の刃が摩耗し易く、カッターの交換の頻度が高いため、鋼管矢板切断のための費用が上昇する。
本発明は上記背景より、基礎構造物構築終了後の不要な上側鋼管矢板の切断を要することなく、撤去可能な状態に、上側鋼管矢板を下側鋼管矢板に軸方向に連結しながら、水平方向に隣接する上側鋼管矢板にも互いに接続する鋼管矢板の接続構造を提案するものである。
請求項1に記載の発明の鋼管矢板の接続構造は、基礎構造物の構築時に、この基礎構造物の周囲に周方向に連続して地中に挿入され、外周面に互いに連結されるための継手部が突設された鋼管矢板の内、地上寄りの上側鋼管矢板を、その下方に挿入される下側鋼管矢板を地中に存置させたまま、前記基礎構造物の構築終了後に撤去可能な状態に、前記上側鋼管矢板を前記下側鋼管矢板に軸方向に連結しながら、水平方向に隣接する前記上側鋼管矢板とも互いに接続した鋼管矢板の接続構造であり、
前記上側鋼管矢板が前記下側鋼管矢板に対し、軸回りに回転して前記下側鋼管矢板に連結され、逆向きに回転して前記下側鋼管矢板から分離自在であることを構成要件とする。
「互いに連結されるための継手部」は鋼管矢板の本体から外周側へ張り出した部分であり、隣接する鋼管矢板1、1(2、2)の一方の継手部1a(2a)と他方の継手部1a(2a)が図14−(c)〜(e)のように互いに軸方向の一方側、及び水平方向に係合し合う形状をし、例えば一方の継手部1a、2aが凸形状であれば、他方の継手部1a、2aは一方の継手部1a、2aを包囲するような凹形状に形成される。「軸方向の一方側」は後から挿入される鋼管矢板1、2の降下側の向き(下向き)を指す。隣接する鋼管矢板1、1(2、2)の内、一方の鋼管矢板1(2)はその継手部1a(2a)が、先行して地中に挿入されている他方の鋼管矢板1(2)の継手部1a(2a)に係合した状態で、軸方向に挿入(圧入)されることにより他方の鋼管矢板1(2)に隣接したまま地中に挿入されるため、凸形状の継手部1a、2aを包囲する凹形状の継手部1a、2aには軸方向に連続した溝が形成される。
「上側鋼管矢板を下側鋼管矢板に軸方向に連結しながら、水平方向に隣接する上側鋼管矢板同士を互いに接続した」とは、図1、図9に示すように上側鋼管矢板2が軸方向(鉛直方向)に連続する下側鋼管矢板1と互いに連結(継手)されると同時に、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2とも互いに連結されることである。請求項1では上側鋼管矢板2は下側鋼管矢板1とは軸回りの回転により連結され、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2とは双方の継手部2a、2a同士が互いに係合することにより、または両継手部2a、2a間に跨る継手部材3が各継手部2aに係合することにより(請求項2)連結される。水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1同士は双方の継手部1a、1a同士の接続により連結される。ここで言う「水平方向」は基礎構造物5の周方向でもあり、上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1自身の放射方向、あるいは半径方向でもある。
請求項1では水平方向(基礎構造物5の周方向)に隣接する上側鋼管矢板2、2同士が、双方の継手部2a、2a同士の接続によって接続されるか、双方の継手部2a、2a間に別の継手部材3が介在するか(請求項2)を問わない。但し、隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a同士が直接、接続される場合には、継手部2a、2a同士が上側鋼管矢板2の周方向に係合する関係で、そのままでは分離時に上側鋼管矢板2を回転させて下側鋼管矢板1から分離させることができないため、分離時には継手部2aの切断が必要になる。上側鋼管矢板2の地中への挿入時には、図6−(c)に示すように予め上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1に連結しておけば、挿入時に上側鋼管矢板2の回転を伴わずに済む。
これに対し、隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間に別体の継手部材3が介在する場合(請求項2)には、継手部材3が隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2aに跨って両継手部2a、2aに差し込まれることで、両継手部2a、2aを接続した状態を維持する。下側鋼管矢板1は基礎構造物5の構築終了後の回収を要しないことから、水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1は双方の継手部1a、1a同士の係合により接続されればよいため、継手部1a、1a間に継手部材3が介在する必要がない。この関係で、継手部2a、2a間に継手部材3が介在し、隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2aの端部間にクリアランスが確保される請求項2では、図1に示すように上側鋼管矢板2の継手部2aの、上側鋼管矢板2の本体20(以下、上側鋼管矢板本体20)の外周面からの突出幅は下側鋼管矢板1の継手部1aの、下側鋼管矢板1の本体10(以下、下側鋼管矢板本体10)の外周面からの突出幅より小さくなる。
請求項2では隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2aの端部間にクリアランスが確保されることで、図8−(a)に示すように継手部材3を上側鋼管矢板2の回収時に先行して回収すれば、隣接する上側鋼管矢板2、2の係合状態が解除されるため、継手部2aの切断を要することなく、各上側鋼管矢板2を独立して回収することが可能になる。継手部2aと継手部材3のいずれか一方は凸形状に、他方は一方を包囲する凹形状に形成されるが、凹形状に形成される側には軸方向に連続した溝が形成される。
この場合、下側鋼管矢板1上で水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2同士は図1に示すようにそれぞれの継手部2a、2a間にクリアランスが確保された状態で配列し、隣接する上側鋼管矢板2、2の両継手部2a、2a間に、両上側鋼管矢板2、2とは別体の継手部材3が差し込まれ、隣接する上側鋼管矢板2、2を互いに連結する(請求項2)。「別体の」は「上側鋼管矢板2とは独立した」の意味であり、継手部材3自体の設置と回収が上側鋼管矢板2の設置と回収から独立していることを言う。継手部2a、2a間のクリアランスは両継手部2a、2a間に跨る継手部材3が塞ぐ。
請求項2では上側鋼管矢板2の設置時、図6−(d)に示すように上側鋼管矢板2が地中に挿入されて下側鋼管矢板1に連結され、上側鋼管矢板2、2が水平方向に隣接した後に、継手部材3は両上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間に跨ったまま落とし込まれる。上側鋼管矢板2の回収時には図8−(a)に示すように継手部材3は両上側鋼管矢板2、2が地中に挿入された状態のまま、先行して引き抜かれるため、上側鋼管矢板2の継手部2aと継手部材3の内、前記のように凹形状に形成される側に軸方向に連続した溝が形成される。図7では継手部材3の幅方向両側の係合部3aが凸形状に形成されているため、これを包囲する継手部2aに軸方向に連続した溝が形成される。
前記のように上側鋼管矢板2の回収時には、図8−(b)に示すように上側鋼管矢板2は下側鋼管矢板1との連結時とは逆向きの軸回りに回転させられることにより下側鋼管矢板1から切り離され、回収される。ここで、上側鋼管矢板2の回転による回収時に、隣接する、未回収の上側鋼管矢板2との接触を回避する上でも、図6−(c)に示すように上側鋼管矢板2の継手部2aの水平方向の端部と、それに隣接する上側鋼管矢板2の継手部2aの水平方向の端部との間にクリアランスが確保されることが適切である。
請求項2では隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2aの端部間にクリアランスが確保されることで、隣接する上側鋼管矢板2、2の内、図8−(b)に示す一方の回転による回収時に他方の上側鋼管矢板2との接触が回避される。隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間のクリアランスは前記のように両継手部2a、2a間に跨る継手部材3が埋める。
請求項1における「上側鋼管矢板が下側鋼管矢板に対して軸回りに回転し、軸方向の互いに分離する向きに係合した状態で下側鋼管矢板に連結される」とは、具体的には図2−(a)に示すように上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1のいずれか一方の、他方側の端部の外周面に形成された雄ねじ2bが他方の、一方側の端部の内周面に形成された雌ねじ1bに、上側鋼管矢板2が軸回りに回転することにより螺合し、両鋼管矢板1、2が互いに連結されることを言う。螺合(ねじ)により連結される鋼管矢板1、2の上側と下側のいずれが雄ねじであるかは任意である。
この他、図3、図5に示すように一方の鋼管矢板1(2)の他方側の端部の外周面、もしくは内周面に形成された被係合部1cに、他方の鋼管矢板2(1)の一方側の端部の外周面、もしくは内周面に形成された係合部2cを鋼管矢板1、2の軸方向に互いに係合させる方法もある。被係合部1cは一方の鋼管矢板1(2)の外周面か内周面に鋼管矢板1、2の周方向に間隔を置いて配列し、係合部2cも他方の鋼管矢板2(1)の外周面か内周面に周方向に間隔を置いて配列する。被係合部1cと係合部2cの数は等しく、鋼管矢板1、2の中心から等しい同一の周面上に配列する。
鋼管矢板1、2の周方向には被係合部1c、1cと係合部2c、2cが必ずしも等間隔に配列する必要はないが、被係合部1cと係合部2cは鋼管矢板1、2の周方向に互い違いに配列し、軸方向に衝突しない位置で軸方向に対向させられた状態で、一方の鋼管矢板2(1)が他方の鋼管矢板1(2)に突き合わせられる。その状態から、係合部2cが鋼管矢板1、2の軸方向に被係合部1cを越えた位置で一方の鋼管矢板2(1)が軸回りに回転させられることにより図3−(d)、図5に示すように係合部2cが被係合部1cに軸方向の互いに分離する向きに係合した状態になる。
螺合による方法と回転・係合による方法のいずれも、上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に連結された状態では、上側鋼管矢板2の下端面が下側鋼管矢板1の上端面に突き当たりながら、軸方向の互いに分離する向きに係合した状態になるため、上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1との間で軸方向の圧縮力と引張力を伝達できる状態になる。水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1同士は互いに継手部1a、1aにおいて図14−(c)〜(e)に示すように分離する方向である水平方向に係合し、上側鋼管矢板2、2同士は互いに継手部2a、2aにおいて図7−(b)、(c)に示すように分離する方向である水平方向に係合している。このため、全下側鋼管矢板1と全上側鋼管矢板2が連結され、基礎構造物5の回りを周回したときには、いずれかの下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2が受けた荷重が基礎構造物5の周方向に分散され、負担される状態にある。
請求項1、2では上側鋼管矢板2が軸回りの回転により下側鋼管矢板1に連結されることで、基礎構造物5の構築終了後には図8−(b)に示すように上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1への連結時と逆向きの軸回りの回転により下側鋼管矢板1から分離させることができる。この結果、上側鋼管矢板2の切断が不要になり、上側鋼管矢板2の撤去作業が簡素化され、撤去に要する時間の短縮が図られる。上側鋼管矢板2の切断を要しないことで、切断のための費用が不要になり、カッター交換の必要も生じないため、工費の節減も図られる。
上側鋼管矢板2は軸回りの回転以外に、軸方向の下端部寄りの区間が下側鋼管矢板1内に軸方向に挿通して下側鋼管矢板1に重なり、この重なり合った区間に充填材4が充填され、硬化することによっても、基礎構造物5の構築終了後に上側鋼管矢板2の切断を要せずに、下側鋼管矢板1から分離可能に連結される(請求項3)。この場合、上側鋼管矢板2の継手部2aは下側鋼管矢板1に重なる下端部寄りの一部区間を除いた上方寄りの区間に形成され、上側鋼管矢板2は下端部寄りの一部区間において下側鋼管矢板1内に軸方向に挿通して下側鋼管矢板1に重なり、この重なり区間に充填される充填材4の硬化によって下側鋼管矢板1に連結される。
充填材4の充填区間は上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1の重なり区間の少なくとも一部でよく、充填量は充填材4の硬化による両鋼管矢板1、2との付着力の発生により基礎構造物5の構築中、上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に接合された状態を維持できる程度の量でよい。上側鋼管矢板2は基礎構造物5の構築終了後に回収されるため、回収時に硬化している充填材4が下側鋼管矢板1か上側鋼管矢板2から分離し易くなるようにする上でも、充填材4の下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2への付着力が強くなり過ぎないよう、充填区間と充填量、付着力が調整される。
請求項3では上側鋼管矢板2の下端部寄りの一部の区間が下側鋼管矢板1の上端部寄りの内部に挿入される関係で、上側鋼管矢板2の少なくとも下端部寄りの区間の外径は下側鋼管矢板1の内径より小さく設定される。「少なくとも下端部寄りの区間」とは、図9−(b)に示すように上側鋼管矢板2の下端部寄りの、下側鋼管矢板1内に挿入される区間(挿入部2e)のみの外径、または下側鋼管矢板1内に挿入される区間(挿入部2e)を含む区間の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合と、図9−(a)に示すように上側鋼管矢板2の全長の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合があることを言う。
上側鋼管矢板2の、下側鋼管矢板1内に挿入される区間(挿入部2e)の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合は、図9−(b)に示すように下側鋼管矢板1の上端面より上の区間(上側部2f)の外径に下側鋼管矢板1の外径と同一の大きさを持たせることもできる。その場合、上側鋼管矢板2の継手部2aの、上側鋼管矢板本体20の外周面からの突出幅と、下側鋼管矢板1の継手部1aの、下側鋼管矢板本体10の外周面からの突出幅を等しくしておくことで、下側鋼管矢板1への上側鋼管矢板2の落とし込み時にその継手部2aを、設置(挿入)済みの隣接する上側鋼管矢板2の継手部2aに接続しながら、すなわち設置済みの上側鋼管矢板2の継手部2aに案内(ガイド)させながら、降下させることができる。
また図9−(b)場合、下側鋼管矢板1の上端面より上の区間(上側部2f)の外径に下側鋼管矢板1の外径と同一の大きさを持たせることで、上側鋼管矢板本体20を下側鋼管矢板本体10の上に載置させ、上側鋼管矢板本体20に生じる鉛直荷重を下側鋼管矢板本体10に伝達することも可能になるため、図9−(a)に示す受け部2gを不要にできる利点がある。
図9−(a)に示すように上側鋼管矢板2の全長の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合において、下側鋼管矢板1への上側鋼管矢板2の落とし込み時にその継手部2aを、設置(挿入)済みの隣接する上側鋼管矢板2の継手部2aに接続するには、上側鋼管矢板2の継手部2aの、上側鋼管矢板本体20の外周面からの突出幅が下側鋼管矢板1の継手部1aの、下側鋼管矢板本体10の外周面からの突出幅より大きく、上側鋼管矢板2の継手部2aの水平方向の端部が下側鋼管矢板1の継手部1aの水平方向の端部に揃えられる(請求項4)。「上側鋼管矢板の継手部の端部が下側鋼管矢板の継手部の端部に揃えられる」とは、上側鋼管矢板2の継手部2aの、上側鋼管矢板本体20の外周面からの突出幅と、下側鋼管矢板1の継手部1aの、下側鋼管矢板本体10の外周面からの突出幅が等しいか、同等程度であることを言う。
水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1は、後から挿入される下側鋼管矢板1の落とし込み時に双方の継手部1a、1a同士が互いに係合し合いながら接続されるため、上側鋼管矢板2の継手部2aの水平方向の端部が下側鋼管矢板1の継手部1aの水平方向の端部に揃えられることで、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2も、後から挿入される上側鋼管矢板2の落とし込み時に双方の継手部2a、2a同士が互いに係合し合いながら接続されることになる。
上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1内に挿入される区間の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合と、上側鋼管矢板2の全長の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合のいずれも、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2aを直接、接続することなく、図1、図6の例のように両継手部2a、2aに跨る継手部材を介在させることもできる。
請求項3、もしくは請求項4では上側鋼管矢板2の少なくとも下端部の外径が下側鋼管矢板1の内径より充填材4充填のための空間(空隙)分、小さく設定される関係で、上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1内への落とし込みの際に、上側鋼管矢板2の外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間の距離(クリアランス)が鋼管矢板1、2の周方向に一定にならず、周方向の各部毎に相違する可能性がある。そこで、上側鋼管矢板本体20の下側鋼管矢板1との重なり区間の外周面に、下側鋼管矢板1の内周面との間の間隔を一定範囲内に抑えるスペーサ2hを突設することで(請求項5)、上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1への落とし込み時に、上側鋼管矢板2の外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間の間隔を周方向に一定範囲内に留めることが可能になる。
スペーサ2hは上側鋼管矢板本体20の周方向に断続的に複数個、または連続して配置される。前者の場合、スペーサ2hは棒状、ブロック状等に形成され、複数個のスペーサ2hが上側鋼管矢板本体20の周方向に間隔を置いて配列する。後者の場合のスペーサ2hは環状に形成され、1本の上側鋼管矢板2に1個、接合される。スペーサ2hは上側鋼管矢板2には溶接やボルトにより接合される。
特にスペーサ2hの、下側鋼管矢板1内周面側の面に、図10に示すように上側鋼管矢板2の下方から上方へかけ、半径方向中心側から外周側へ向かう傾斜が付けられれば、上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1への落とし込み時に、降下に伴い、上側鋼管矢板2の中心を下側鋼管矢板1の中心側へ寄せることができるため、上側鋼管矢板2の中心(軸線)を下側鋼管矢板1の中心に合致させた状態で上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1内に挿入することが可能である。
請求項1では上側鋼管矢板を軸回りの回転により下側鋼管矢板に連結し、回収時には下側鋼管矢板への連結時と逆向きの軸回りの回転により下側鋼管矢板から分離可能にするため、基礎構造物の構築終了後、上側鋼管矢板の回収のための上側鋼管矢板の切断が不要になる。この結果、上側鋼管矢板の撤去作業が簡素化され、撤去に要する時間の短縮を図ることができる上、切断のための費用が不要であるため、工費の節減も図られる。
請求項3では上側鋼管矢板の軸方向の下端部寄りの区間を下側鋼管矢板内に軸方向に挿通させて下側鋼管矢板に重ね、重なった区間に充填材を充填し、硬化させて上側鋼管矢板を下側鋼管矢板に連結するため、上側鋼管矢板の回収のための上側鋼管矢板の切断が不要になる。この結果、上側鋼管矢板の撤去作業が簡素化され、撤去に要する時間の短縮を図ることができ、工費の節減も図られる。
図1は図13に示すような基礎構造物5の構築時に、基礎構造物5の周囲に周方向に連続して地中に挿入され、軸方向(鉛直方向)に連結される下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の連結例、並びに水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1同士及び上側鋼管矢板2、2同士の連結例を示す。下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2は鉛直方向と水平方向に連結されることで、土留め壁を構成する。
地上寄りの上側鋼管矢板2は、その下方に挿入される下側鋼管矢板1を地中に存置させたまま、基礎構造物5の構築終了(完成)後に撤去可能な状態に、下側鋼管矢板1に軸方向に連結されながら、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2にも互いに接続される。上側鋼管矢板2は下側鋼管矢板1と同一の軸線上で下側鋼管矢板1に連結されるため、下側鋼管矢板1、1も水平方向に隣接して配列する。複数本の下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2は基礎構造物5を包囲するように環状に配列する。環状の形状は基礎構造物5の平面形状に従い、円形状、矩形状、楕円形状等がある。
下側鋼管矢板1の外周面には水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1に連結されるための継手部1a、1aが突設され、上側鋼管矢板2の外周面にも水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2に連結されるための継手部2a、2aが突設される。下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2はそれぞれ水平方向に隣接して配列するため、継手部1a、2aは下側鋼管矢板本体10及び上側鋼管矢板本体20の半径方向、または放射方向の両側に突設されるが、突設位置は基礎構造物5の平面形状、または鋼管矢板1、2が矩形状に配列する場合の各鋼管矢板1、2の配置位置に応じて異なる。下側鋼管矢板本体10と上側鋼管矢板本体20はそれぞれ下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の継手部1a、2aを除く部分を指す。
下側鋼管矢板1は基礎構造物5の構築終了後に地上に回収される上側鋼管矢板2から切り離されて地中に存置される区間に挿入される鋼管矢板であり、地中には1本の下側鋼管矢板1が挿入される場合と、軸方向に複数本の下側鋼管矢板1が連結された状態で挿入される場合がある。上側鋼管矢板2は下側鋼管矢板1から分離自在に下側鋼管矢板1に連結され、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2とも回収時に互いに分離し得るよう、連結される。上側鋼管矢板2は基礎構造物5の構築終了後に地上に引き抜かれる区間に挿入される鋼管矢板であり、この区間には上側鋼管矢板2も1本の場合と軸方向に複数本、連結される場合がある。
図1は上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に対し、軸回りに回転することにより下側鋼管矢板1に連結され、逆向きに回転することにより下側鋼管矢板1から分離する場合の例を示す。図1に示す軸回りの回転により上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に分離自在に連結される具体的な方法には図2に示すように上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1の互いに軸方向に対向する側の端部のいずれか一方に形成された雌ねじ1bと他方に形成された雄ねじ2bによる螺合方法と、図3に示すように一方に形成された係合部2cと他方に形成された被係合部1cとの軸方向の係合による方法がある。
螺合による方法では、下側鋼管矢板1の上端部と上側鋼管矢板2の下端部いずれか一方の外周面に形成された雄ねじ2bが他方の内周面に形成された雌ねじ1bに螺合することにより上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1にそれから分離自在に連結される。図2では下側鋼管矢板1に雌ねじ1bを、上側鋼管矢板に雄ねじ2bを形成しているが、逆の場合もある。
図2ではまた、雄ねじ2bの雌ねじ1bへの螺合をし易くするために、雄ねじ2bが形成された上側鋼管矢板2の下端部の径を上方から下方へかけて小さくしているが、必ずしもその必要はない。雄ねじ2bを上側鋼管矢板2の下端部に形成する場合、雄ねじ2bは後述の挿入部2eの外周に形成される。図2−(a)は連結前の上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1の様子を、(b)は連結後の様子を示している。図2では雄ねじ2bを形成した筒状の挿入部2eを上側鋼管矢板本体20の下端に、同一軸線上で溶接し、雌ねじ1bを形成した筒状の部材を下側鋼管矢板本体10の上端に、同一軸線上で溶接している。
係合による方法では、下側鋼管矢板1の上端部と上側鋼管矢板2の下端部いずれか一方の外周面、もしくは内周面に形成された被係合部1cに、他方の外周面、もしくは内周面に形成された係合部2cが鋼管矢板1、2の軸方向に係合することにより両鋼管矢板1、2が連結される。係合部2cは上側鋼管矢板2が軸方向に下側鋼管矢板1側へ移動(降下)した後、軸回りに回転することにより被係合部1cに係合する。図面では下側鋼管矢板1に被係合部1cを、上側鋼管矢板2に係合部2cを形成しているが、逆の場合もある。
被係合部1cは鋼管矢板1(2)の周方向に、少なくとも係合部2bの周長分の間隔を置いて配列し、係合部2cは鋼管矢板2(1)の周方向に隣接する被係合部1c、1c間に確保された間隔内に位置し、この間隔内に納まる周長で形成される。被係合部1cと係合部2cは周長が小さければ、平板状に形成されることもあるが、それぞれが突設される下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の外周面、もしくは内周面の曲率と同様の曲率の曲面板状に形成される。
係合部2cが上側鋼管矢板2に形成された場合、係合部2cは図3−(a)、(b)に示すように上側鋼管矢板2の軸線が下側鋼管矢板1の軸線と同一線上に位置し、係合部2cが被係合部1c、1c間に位置した状態から、上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1上に落とし込まれることにより下側鋼管矢板1の周方向に隣接する被係合部1c、1c間に入り込む。そのまま、係合部2cの上端が被係合部1cの下端以下に至るまで上側鋼管矢板2が落とし込まれた後、上側鋼管矢板2が周方向のいずれかの向きに回転させられ、係合部2cの上端面全体が被係合部1cの下端の下に位置するまで上側鋼管矢板2が回り込むことにより図3−(c)、(d)に示すように係合部2cが被係合部1cに上側鋼管矢板2の軸方向上向きに係合し、上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に連結された状態になる。
図3では下側鋼管矢板1の外周面に、下側鋼管矢板1の上端より上方へ突出させて被係合部1cを突設し、上側鋼管矢板2の外周面に、上側鋼管矢板2の下端より下方へ突出させて係合部2cを突設しているが、図3−(c)に示すように上側鋼管矢板2の下端面、または後述のカップリング管2dの底板の下向き面(下側鋼管矢板1側の面)が下側鋼管矢板1の上端面に突き当たったときに、係合部2cの上端面が被係合部1cの下端面以下に位置するように係合部1cと被係合部2cが配置されればよい。
図3ではまた、被係合部1cと係合部2cを下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の外周面に突設していることに伴い、互いに軸方向に係合した係合部2cと被係合部1cを両者の外周側から覆い、土砂から保護するための筒状の、底板を有するカップリング管2dを上側鋼管矢板2に突設しているが、カップリング管2dは下側鋼管矢板1に突設されることもある他、突設されないこともある。被係合部1cと係合部2cは下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2に主に溶接により接合されるが、カップリング管2dを突設する場合にはこれに係合部2c、もしくは被係合部1cを溶接等することもある。
図3は下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の外周面に被係合部1cと係合部2cを突設した場合の例であるが、図4は下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の内周面にそれぞれ被係合部1cと係合部2cを突設し、図3の例におけるカップリング管2dを不要にした場合の例を示す。
図4はまた、係合部2cが被係合部1cに軸方向上向きと、軸回りの回転方向のいずれかの向きに係合するよう、L字形の立面形状に形成することで、上側鋼管矢板2に生じる引張力と軸回りに一方向に回転させようとする力が下側鋼管矢板1に伝達されるようにした場合の例を示している。図5は図4における上側鋼管矢板2に突設した係合部2cが下側鋼管矢板1に突設した被係合部1cに軸方向と回転方向に係合し、上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に軸方向に連結された状態を示す。
図6−(a)〜(d)は図2に示すような螺合による連結の場合の上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1の連結と、水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1同士、及び上側鋼管矢板2、2同士の接続の手順例を示す。上側鋼管矢板2は例えば(a)に示すように下側鋼管矢板1にねじ込まれて連結されることにより下側鋼管矢板1と一本化(一体化)させられ、(b)に示すように下側鋼管矢板本体10と上側鋼管矢板本体20の外周面に継手部1a、2aが溶接された後に、(c)に示すように一本化した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2が同時に地中に挿入(圧入)され、先行して挿入されている下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2に水平方向に隣接する。
一本化した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の挿入時には、下側鋼管矢板1の、挿入済みの下側鋼管矢板1側の継手部1aが挿入済みの下側鋼管矢板1の継手部1aに軸方向以外に係合し、案内されながら、挿入される。その後、図6−(d)に示すように水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間に両継手部2a、2a間に跨る継手部材3が落とし込まれ、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2が互いに接続される。
図7−(a)は一本化した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の挿入が完了したときに、隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間にクリアランスが確保されている様子を、(b)は隣接する上側鋼管矢板2、2間の継手部2a、2a間に継手部材3を挿入した後の様子を示す。図7−(a)、(b)は継手部1a、2aがL字形の断面形状の場合の例を示すが、(c)は(b)の変形例として継手部1a、2aがC字形の断面形状の場合の例を示す。継手部材3は隣接する上側鋼管矢板2、2の各継手部2a、2a内に軸方向に挿入され、軸方向以外の水平方向に係合する係合部3a、3aと、両係合部3a、3aをつなぐ連結部3bからなる。
螺合により上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1に連結する場合、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間に継手部材3が跨設される一方、隣接する下側鋼管矢板1、1の継手部1a、1aは直接、互いに係合し合う関係で、下側鋼管矢板1の継手部1aの下側鋼管矢板本体10の外周面からの突出幅は上側鋼管矢板2の継手部2aの下側鋼管矢板本体20の外周面からの突出幅より大きい。このため、上側鋼管矢板2の挿入状態では水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1の継手部1a、1aは互いに水平方向に係合しながらも、上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2a間にはクリアランス(空隙)が形成される。
この水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1と上側鋼管矢板2、2の関係から、一本化した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の挿入時には、上側鋼管矢板2、2同士の接触を回避しながら、前記のように先行する下側鋼管矢板1の継手部1aをガイドとして下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を挿入することが可能であり、挿入時の作業性と安定性が向上する利点がある。
図6では予め上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1に連結し、一本化させた後に両鋼管矢板1、2を一括して地中に挿入する場合の例を示しているが、螺合、または回転と係合により上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1に連結する方法では、上側鋼管矢板2の軸線が先行して地中に挿入されている下側鋼管矢板1の軸線に揃えられた状態で、上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1上に落とし込み、軸回りに回転させることにより下側鋼管矢板1に連結することもできる。その場合、上側鋼管矢板2が下側鋼管矢板1に連結されたときには、上側鋼管矢板2の下端面が下側鋼管矢板1の上端面に突き当たり、上側鋼管矢板2の継手部2a、2aは水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2の方向を向く。下側鋼管矢板1の地中への挿入時には下側鋼管矢板1の回転を要さないため、単純に圧入されることにより地中に挿入される。
基礎構造物5の構築終了後の上側鋼管矢板2の回収時には、図8−(a)に示すようにいずれかの隣接する上側鋼管矢板2、2間に跨る継手部材3を引き抜いて回収した後、(b)に示すように隣接する上側鋼管矢板2、2のいずれか一方を下側鋼管矢板1との連結時と逆回りに回転させて下側鋼管矢板1から分離させ、そのまま引き抜いて回収する作業が繰り返される。あるいは基礎構造物5を包囲する全隣接する上側鋼管矢板2、2間の継手部材3を回収した後、各上側鋼管矢板2を回転させて回収する作業が繰り返される。回転と係合により上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1に連結する図3〜図5に示す方法でも同様である。
図9−(a)は上側鋼管矢板2の下端部寄りの区間を下側鋼管矢板1の上端部の内周部に挿入し、上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1の重なり区間に充填材4を充填することにより上側鋼管矢板2を下側鋼管矢板1から分離可能に下側鋼管矢板1に連結した場合の例を示す。この例では下側鋼管矢板1の内周部に挿入される区間を挿入部2e、それより上の区間の、下側鋼管矢板1から上方へ突出する区間を上側部2fと呼称する。充填材4の充填区間は挿入部2eの軸方向の少なくとも一部の区間になる。
図9−(a)は上側鋼管矢板本体20の全長が一定の外径の鋼管である場合の例を示しているが、この場合、上側鋼管矢板本体20(鋼管)が下側鋼管矢板本体10(鋼管)上に載らないため、挿入部2eより上の区間である上側部2fの最下端の外周面には、上側鋼管矢板本体20の自重を含み、上側鋼管矢板2が負担する鉛直荷重を下側鋼管矢板1に伝達するための受け部2gが上側鋼管矢板本体20の放射方向(半径方向)外周側へ突出して形成、もしくは突設される。受け部2gは上側鋼管矢板2の周方向に間隔を置いて複数個形成されるか、または周方向に連続して環状に形成される。
図9−(b)は上側鋼管矢板2の全長の内、挿入部2eのみの外径が下側鋼管矢板1の内径より小さく、上側部2fの外径が下側鋼管矢板1の外径に等しいか、同等程度である場合の、上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1との連結例を示す。この例では上側部2fの下端面が下側鋼管矢板1の上端面に載置されることから、上側鋼管矢板2の荷重が下側鋼管矢板1に伝達されるため、(a)の場合の受け部2gは必要とされない。挿入部2eの外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間には充填材4が充填される。
上側鋼管矢板2の挿入部2eの下側鋼管矢板1内への挿入と充填材4の充填により連結する方法では、水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1同士と上側鋼管矢板2、2同士はそれぞれの継手部1a、1a、2a、2aの係合により接続されるため、下側鋼管矢板1の継手部1aの水平方向の端部と、上側鋼管矢板2の継手部2aの水平方向の端部は揃えられ、図9−(a)、(b)に示すように立面上は同一の鉛直線上に位置する。
この関係で、上側鋼管矢板本体20の全長が同一径の図9−(a)の例の場合、上側鋼管矢板2の継手部2aの、上側鋼管矢板本体20の外周面からの突出幅は下側鋼管矢板1の継手部1aの、下側鋼管矢板本体10の外周面からの突出幅より大きくなる。挿入部2eのみの外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい(b)の例の場合は、上側鋼管矢板2の継手部2aの、上側鋼管矢板本体20の外周面からの突出幅は下側鋼管矢板1の継手部1aの、下側鋼管矢板本体10の外周面からの突出幅に等しい。
図10−(a)〜(c)は図9−(a)に示す下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の連結と、水平方向に隣接する下側鋼管矢板1、1同士、及び上側鋼管矢板2、2同士の接続の手順例を示す。図10では上側鋼管矢板本体20の下側鋼管矢板1との重なり区間である挿入部2eの外周面に、下側鋼管矢板1の内周面との間の間隔を一定範囲内に抑えるスペーサ2hを突設した場合の例を示している。スペーサ2hは挿入部2eの外周面の少なくとも軸方向の一部の区間に突設される。
スペーサ2hは棒状やブロック状、または環状に形成され、前者の場合、スペーサ2hは上側鋼管矢板本体20の周方向に断続的に複数個、配置され、後者の場合、スペーサ2hは上側鋼管矢板本体20の周方向に連続して配置される。図10では特に上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1へ内への落とし込み時に、降下に伴い、上側鋼管矢板2の中心を下側鋼管矢板1の中心側へ寄せることができるよう、スペーサ2hの、下側鋼管矢板1内周面側の面に、上側鋼管矢板2の下方から上方へかけ、半径方向中心側から外周側へ向かう傾斜を付けている。
図9−(a)に示す下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2の連結例では、上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1内への挿入と充填材4の充填により連結され、連結には充填材4の硬化を要するため、図10においても予め下側鋼管矢板1に上側鋼管矢板2を連結した後に一本化(一体化)した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を地中に挿入している。
詳しくは、図10に示す例では(a)に示すように地中への挿入前に、継手部1a、1aが突設された下側鋼管矢板1上から、同じく継手部2a、2aが突設された上側鋼管矢板2を軸方向に落とし込み、(b)に示すように挿入部2eを下側鋼管矢板1内に挿入し、挿入部2eの外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間にモルタル、コンクリート、接着剤等の充填材4を充填し、硬化させて下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を一本化させている。その後、(c)に示すように先行して地中に挿入されている下側鋼管矢板1の継手部1aと上側鋼管矢板2の継手部2aをガイドとして利用し、これらに挿入中の下側鋼管矢板1の継手部1aと上側鋼管矢板2の継手部2aを係合させながら、一本化した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を地中に軸方向(鉛直方向)に挿入している。「予め」とは工場において、または現場付近においての意味である。
一本化した下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を地中に挿入した状態では、水平方向に隣接する上側鋼管矢板2、2の継手部2a、2aは図11−(a)に示すように互いに係合し合い、下側鋼管矢板1、1の継手部1a、1aも(b)に示すように互いに係合し合っている。下側鋼管矢板1、1の継手部1a、1aは図11−(a)に破線で示す位置にあり、下側鋼管矢板本体10、10の表面間の距離は上側鋼管矢板本体20、20の表面間距離より小さい。
図10に示すように予め下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を一本化する方法において、上側鋼管矢板2の全長の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい場合には、(b)に示すように上側鋼管矢板2の挿入部2eの外周面と上側部2fの境界部分と、下側鋼管矢板1の内周面との間に、充填材4の充填空間分の空隙が形成される。この空隙を通じて挿入部2eの外周側が下側鋼管矢板1、または上側鋼管矢板2の外周側(外部)の空間に連通するため、下側鋼管矢板1、または上側鋼管矢板2の外部から挿入部2eの外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間に充填材4を充填することができ、充填作業性がよい。
図9−(b)に示すように上側鋼管矢板2の上側部2fの外径が下側鋼管矢板1の外径に揃えられている場合には、挿入部2eと上側部2fの境界部分を通じては、下側鋼管矢板1、または上側鋼管矢板2の外部から挿入部2eの外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間に充填材4を充填することができないため、充填材4は上側鋼管矢板2の上端、または下側鋼管矢板1の下端を通じて充填されることになる。
上側鋼管矢板2の全長の外径が下側鋼管矢板1の内径より小さい図9−(a)に示す場合と、上側部2fの外径が下側鋼管矢板1の外径に揃えられている図9−(b)に示す場合のいずれも、挿入部2eと下側鋼管矢板1間に予め充填材4を充填する場合には、充填材4の充填領域をせき板等により区画することができるため、充填材4を特定の充填領域に正確に充填することが可能である。
図9−(a)、(b)に示す連結例においても、下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を現場で独立して地中に挿入した後に、挿入部2eの外周面と下側鋼管矢板1の内周面との間に充填材4を充填して連結することもできる。その場合、上側鋼管矢板2の下側鋼管矢板1への連結時に、軸回りの回転を要しないため、図1に示す連結例の場合に、下側鋼管矢板1と上側鋼管矢板2を独立して地中に挿入する方法より挿入作業は容易であるが、充填材4を上側鋼管矢板2の内部を通じて充填することが必要になる。
基礎構造物5の構築終了後の上側鋼管矢板2の回収時には、例えば引き抜くべき上側鋼管矢板2の上方部に水平荷重を加える等により硬化している充填材4を挿入部2eと下側鋼管矢板1から剥離させて上側鋼管矢板2と下側鋼管矢板1を分離させた後、図12に示すように引き抜くべき上側鋼管矢板2を軸方向上方へ引き抜き、回収する作業が繰り返される。