以下、図面を用いて各実施形態について説明する。
以下では、荷電粒子線装置の一例として、荷電粒子顕微鏡について説明する。ただし、これは本発明の単なる一例であって、本発明は以下説明する実施の形態に限定されるものではない。本発明は、走査電子顕微鏡、走査イオン顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、これらと試料加工装置との複合装置、またはこれらを応用した解析・検査装置にも適用可能である。
また、本明細書において「大気圧」とは大気雰囲気または所定のガス雰囲気であって、大気圧または若干の負圧状態の圧力環境のことを意味する。具体的には約105Pa(大気圧)から〜103Pa程度である。
<原理説明>
大気圧下で観察可能な荷電粒子線装置では試料と隔膜は近接していなければならない。我々が計算した結果、荷電粒子線の加速電圧と1気圧中の荷電粒子線の平均自由工程との関係は図1のとおりであった。平均自由行程とは散乱で妨害されること無く進むことのできる距離の平均値のことを言う。たとえば、加速電圧100kVの場合は200μm程度が平均自由工程となる。なお、後述するように散乱されることなく平均自由工程以上に飛来し、顕微鏡画像の分解能に寄与する無散乱荷電粒子線が存在する。そのため、実際に大気中の試料を荷電粒子線顕微鏡観察する場合は、隔膜と試料との距離が図1で示した平均自由工程よりも数倍から5倍程度にすることが可能であることが実験的にわかっている。つまり、荷電粒子線の加速電圧が1kVから100kV程度の範囲の場合は、試料と隔膜との距離は1000μm程度以下でなければならないということになる。
図2に大気中に置かれた観察試料を走査型電子顕微鏡で観察した実験結果を示す。加速電圧は15kVで、隔膜と試料との距離は約70μmである。“9”という文字は金属で構成され、その他はSiで構成された試料である。図中A部とB部は同じ材料で構成されているが画像の明るさが異なる。B部はA部よりも明るく観察される。また、文字“9”の周辺がぼけているように見える。一方で、文字“9”のエッジはしっかりと識別することが可能である。
一般的に電子顕微鏡では、ある一点にビーム照射をしている場合には照射している領域以外からの信号は検出されない。このことを前提としてビーム照射点を試料上でスキャンさせ、ビーム形状の大きさよりも十分大きい視野の画像を取得することが一般的である。つまり、取得される画像中の1点の輝度値は、試料上の当該1点に対応する場所にビームが照射されているときの二次的荷電粒子の検出量に対応している。したがって、図2の試料を従来の高真空の試料室を有する電子顕微鏡で観察する場合には文字“9”の部分は明るくそれ以外の部分は暗くなり、A部とB部の明るさはほぼ変わらないはずである。しかし、図2のSEM像の場合は、B部はA部よりも明るく観察されている。図2のような画像は一般的な電子顕微鏡では取得されない。B部に電子線を照射している状態でB部以外からの信号が検出されていることになる。B部の領域に電子線を照射しているときに、B部以外からの信号が検出されるということは、実際にはB部以外の領域にも電子線の一部が照射されていると推測される。つまり実際に試料に照射されているビーム形状の大きさが視野の大きさに対して近いということになる。この現象に関して以下考察する。
図3を用いて大気圧で観察される荷電粒子線装置の一般的な構成要素について説明する。図3(a)は荷電粒子顕微鏡の構成を表す概念図である。荷電粒子源8を備えた荷電粒子光学鏡筒2に電磁場を発生することが可能なコンデンサレンズや対物レンズなどの荷電粒子光学部品が具備されている。荷電粒子源8から隔膜10の図中上面までの空間11は真空である。また、隔膜10の図中下面から試料6までの空間12は大気または所望のガス雰囲気による非真空空間である。なお、以下では非真空空間の距離とは、特筆しない限り、当該非真空空間を荷電粒子線が通過する経路の長さであり、荷電粒子線方向の長さを指す。通常隔膜10に対して垂直に荷電粒子線が照射されるので、隔膜と試料との距離が非真空空間の距離となる。この構成を簡易化して記述すると図3(b)のようになる。荷電粒子が放出される面を物面8aとすると、レンズ301、レンズ302、レンズ303は荷電粒子線を集束することが可能な集束レンズ301a、302a、303aに対応する。一方、隔膜10部と非真空雰囲気の空間12は、それぞれ荷電粒子線を散乱させる散乱レンズ10aと散乱レンズ12aと記述することができる。
ここで、荷電粒子顕微鏡の光学鏡筒の長さ(荷電粒子源から対物レンズの焦点位置)は加速電圧によるが一般的に10mmから1000mm程度である。荷電粒子線ビームを集束させる必要上、一般的に加速電圧が大きくなると光学鏡筒の長さも長くなる。つまり、光学鏡筒の長さをh1、隔膜と試料との距離をh2とするならば、以下の関係が成り立つ。
h1/h2≧1000 ・・・(式1)
したがって、図3(b)で図示したよりも、実際には隔膜と試料との距離h2はh1に比べて非常に小さい。つまり、この構成は、集束レンズ303aと試料面6aとの間に非常に薄い二つの散乱レンズが近接して導入されている点で、非常に特徴的である。
隔膜を通過した荷電粒子には、隔膜で散乱された荷電粒子と散乱されなかった荷電粒子とが含まれる。隔膜での荷電粒子線の散乱量は隔膜10の材料種m、密度ρ、厚みtに依存する。隔膜を通過した荷電粒子は非真空雰囲気の空間12に入射する。非真空雰囲気の空間12に入射された荷電粒子は雰囲気ガスによって散乱される。ここでも一度も散乱されないで進むことができる荷電粒子が存在する。非真空雰囲気の空間での荷電粒子線の散乱量は、隔膜10から試料6までの距離z(図3ではh2)、非真空雰囲気のガス種a、ガス圧力P(あるいは密度)に依存する。また、隔膜および非真空雰囲気における散乱量は荷電粒子線の照射エネルギーE(加速電圧ともいう)にも依存する。例えば図1で示したとおり、加速電圧が高いほど平均自由工程が大きい、つまり散乱されづらくなるといえる。以上をまとめると、隔膜と非真空雰囲気の空間を表す二つの散乱レンズを一つの散乱レンズ関数(または、劣化関数)Aで表現すると、散乱レンズ関数は以下で記述される。
A=A(m,ρ,t,a,P,z,E) ・・・(式2)
また、隔膜及び非真空雰囲気の空間を経由した前の荷電粒子ビーム形状をFとし、隔膜及び非真空雰囲気の空間を経由した後の荷電粒子ビーム形状をGとした場合、以下の式で記述される。
G=A(m,ρ,t,a,P,z,E)×F ・・・(式3)
なお、前述の通り散乱レンズ関数を経由しても隔膜や非真空雰囲気によって一度も散乱されずに飛来する荷電粒子線も存在する。その様子を説明するために、図4(a)を用いて、隔膜10aと非真空雰囲気の空間12aでの荷電粒子線の散乱について説明する。ビーム305は隔膜10aに入射する直前のビームの形状を表している。その後、隔膜10aを透過すると、隔膜中および非真空雰囲気中で多くの荷電粒子が散乱される。一方で、一度も散乱されないで進むことができる荷電粒子も存在する。以下、隔膜および非真空雰囲気のガスによって散乱されないで進行することができた荷電粒子を「無散乱荷電粒子」と呼び、一回以上散乱された荷電粒子を「散乱荷電粒子」と呼ぶ。このようにビームが散乱された結果、試料6に到達したときのビーム形状は306のようになる。この図では横方向がビーム形状を示す距離(すなわち試料面上の空間的な距離)であり、縦方向は荷電粒子数を表している。ビーム306は無散乱荷電粒子で構成されるビーム307と、散乱荷電粒子で構成されたビーム308からなる。
図4(b)でビーム形状だけ拡大して示す。無散乱荷電粒子数をN0、散乱荷電粒子数をN1と表すと、無散乱荷電粒子数N0はビーム形状内部の307aの部分(面積)に相当し、散乱荷電粒子数N1はビーム形状内部の308aの部分(面積)に相当する。つまり、試料6が大気下に配置された荷電粒子顕微鏡装置において、光学レンズで集束されたビーム305は試料に到達する直前にはビーム306で表される形状になる。入射された荷電粒子線のビーム径をd0、無散乱荷電粒子のビーム径をd1、散乱荷電粒子のビーム径をd2とすると、これらの関係は以下のようになる。
d2>d0〜d1 ・・・(式4)
入射された荷電粒子線のビーム径d0と無散乱荷電粒子のビーム径d1とがほぼ等しいので、取得される顕微鏡画像の分解能は無散乱荷電粒子のビーム径d1によって決定される。つまり、ビーム307さえ残っていれば、別の表現をすれば無散乱荷電粒子の数が十分残っているのであれば、分解能は維持されるといえる。なお、上記d0、d1、d2で表されるビーム径は、ビーム径の定義が同じであれば、具体的にはビーム直径、半径、または半値幅などで規定されてもよい。以下、特筆のない限り、ビーム形状またはスポット形状とはビームの径の大きさを表すパラメータのことを指す。
次にd1とd2の大きさについて議論する。荷電粒子線のビーム径(d1)は一般的には最大で1nm〜100nm程度である。また、隔膜の材料や厚み、ガスによる散乱では距離などのパラメータに依存するが、典型的には散乱荷電粒子線のビーム径(d2)は10nm〜10,000nm程度となる。隔膜と試料との距離Zが大きければ大きいほど散乱量は増すため、d2は10,000nmよりさらに大きくなることがある。以上から荷電粒子線の散乱が問題となるケースでは以下の式が成り立つといえる。
d2/d1≧10 ・・・(式5)
以上の考察に基づけば、図2で取得された電子顕微鏡画像を図4で説明した散乱荷電粒子によって説明することが可能である。つまり、図2のB部に電子線を照射している時に、散乱電子によるビーム308が文字“9”の部分にも照射されてしまったと考えることができる。これに対してA部は文字“9”から離れているので、A部に電子線を照射しているときにビーム308が文字“9”の部分に照射されず、B部よりも暗く観察される。一方で、無散乱電子によるビーム307によって分解能は維持されるため、文字“9”のエッジははっきりと観察されると考察できる。
この現象は(式5)で表されるように散乱荷電粒子線のビーム径が無散乱荷電粒子線のビーム径に比べて非常に大きくなることに起因している。その結果、散乱荷電粒子線が試料上の広範囲に照射されてしまう。このように広範囲に荷電粒子の散乱の影響が発生するのは非真空環境下にある試料に荷電粒子線を照射するときの特徴的現象であり、従来の真空試料室を持つ電子顕微鏡では発生しない現象である。
以上の現象と考察から、荷電粒子光学鏡筒2と試料6との間に配置された非常に薄い散乱レンズで表される隔膜や非真空雰囲気は一次荷電粒子線のスポット形状変化を引き起こすものの、無散乱荷電粒子線307が残っているのであれば、画像分解能は維持されることを我々は発見した。また、(式1)で示したように、ビームの散乱を引き起こす原因は空間的に非常に凝縮されているため、この空間で発生したビーム形状変化を理論的に計算することができる。つまり、(式2)で示した散乱レンズ関数Aを計算やシミュレーションなどから求めて、散乱後のビーム形状Gを計算することが非常に簡単である。この点は、後述する画像復元の観点からも非常に重要な構成であるといえる。
<画像復元>
以下で説明する画像復元とは取得画像に何らかの演算処理を行うことで分解能や画質の劣化を復元する処理のことである。また、以下で説明する画像復元とは取得後の画像に対して演算処理を行い復元する場合のみではなく、検出器から出力される信号に対して演算処理を行い処理後の信号によって画像を生成する場合も含むものとする。
真空下の試料を観察するための電子顕微鏡において、実験的に把握されたビーム形状を用いて画像復元する手法は従来知られている。例えば、ノイズや分解能劣化などがない理想画像Fに分解能の劣化などの劣化関数Aによる畳込みとノイズnを重畳したときに、取得画像Gのモデルは以下で示される。
G=A・F+n ・・・(式6)
この関係から、取得画像Gと劣化関数Aから理想画像Fを推定する。これを画像復元と呼ぶ。この対応関係は(式3)と同等である。つまり、ビーム形状の劣化を表す劣化関数Aを求めてこの形状をデコンボリューション処理することによって画像復元が実施可能である。しかし、これまで大気雰囲気下、所望のガス圧下またはガス種下で散乱されたビーム形状から理想画像Fを推定することはこれまで実施されてこなかった。それは、散乱される領域の制御ができなかったためと考えられる。一方で、前述のとおり、大気圧下で観察可能な電子顕微鏡の場合は、画質劣化要因を非常に薄い散乱レンズとみなすことができ、ビーム形状の劣化度合いを決定する要因が隔膜から試料までの局所的な空間に凝縮されている。この結果、ビーム形状を決定する散乱レンズ関数を決定するパラメータは隔膜と非真空雰囲気の空間に起因するパラメータだけであり、またこれらは制御可能であるため、画像復元に必要な劣化関数Aを求めることが非常に簡単になる。このことが本発明において重要な点の一つである。
散乱レンズ関数A(劣化関数A)のパラメータのうち、装置に使用される隔膜は既知なので、隔膜10の材料種M、密度ρ、厚みtは既知である。つまり、隔膜によって散乱される散乱量はあらかじめ計算可能である。また、後述するように荷電粒子線の加速電圧、非真空雰囲気のガス種、圧力、及び非真空雰囲気空間の距離は、装置のユーザが指定することで、知ることができる。つまり、これらの観察条件から、無散乱荷電粒子数N0と散乱荷電粒子数N1の比率及び無散乱荷電粒子のビーム径d1、散乱荷電粒子のビーム径d2の値やビーム形状などをあらかじめ求めておくことが可能ということである。その結果、無散乱荷電粒子によるビーム307aだけを残し、散乱荷電粒子によるビーム308aの影響を画像信号から除去することが可能である。これによって、後述するように、これまで実施されなかった大気雰囲気下、または所望のガス圧もしくはガス種の雰囲気下で散乱されたビーム形状から理想画像Fを推定し、画像復元することが可能となった。なお、ここで「除去」とは完全に除去する場合のみならず、散乱荷電粒子による影響を一部除去し、ビーム劣化による画像への影響を低減する場合も含むものとする。
画像復元処理の対象とするビーム形状は図4(a)に示されるような形状306である。したがって(式6)における散乱レンズ関数Aのモデルとして、例えば、図4(b)のように幅d1で構成された第一の波形307aと、幅d2で構成された第二の波形308bの和を用いればよい。第一の波形307aは無散乱荷電粒子線のスポット形状を表し、第二の波形308bは散乱荷電粒子線のスポット形状を表している。散乱された荷電粒子線は再度散乱を受けることもあるため、単純に二つの波形分布の和では記述できない場合がある。その場合は、入射した電子数Nが一定となるような条件を維持して、d1,d2,d3・・・dnなどの複数の波形の和としてビーム形状を作成してもよい。なお、前述の波形とは例えばガウス分布などであるが、どのような波形の和で表してもかまわない。散乱レンズ関数Aのモデルが決まると、(式2)で前述したm,ρ,t,a,P,z,Eのパラメータにより散乱レンズ関数Aを確定することができる。この確定した散乱レンズ関数Aを用いて取得画像Gに対してデコンボリューション処理することで、理想画像Fを復元することができる。
本発明の重要な点の一つは、無散乱荷電粒子と散乱荷電粒子の二つ(または二つ以上)の波形に分離して考えて、画像復元のための演算処理をする際に、それら無散乱荷電粒子と散乱荷電粒子のそれぞれを表す波形を足すことで試料に到達するときの劣化したビーム形状(すなわち散乱レンズ関数のモデル)を作ることができることを見出した点である。
図5で、上述した画像復元処理の前後の画像を比較する。図5(a)が画像復元前で、図5(b)が画像復元後である。図5は、(式5)を満たす観察条件の場合に、無散乱荷電粒子線と散乱荷電粒子線の和を散乱レンズ関数Aのモデルとして、上述のようにデコンボリューション処理することによって図2で示した取得画像を復元した結果である。画像復元したことによって、散乱電子による文字“9”周辺の明るさのにじみが大幅に低減できることが確認できた。また、文字“9”のエッジもしっかりと観察することができる。
この画像復元において、散乱レンズ関数のパラメータを把握して画像復元処理をすることが重要となる。そこで、以下では上述の散乱レンズ関数のパラメータに基づいて画像復元する荷電粒子線装置及び画像処理方法について述べる。なお、後述するように、荷電粒子線の加速電圧、非真空雰囲気のガス種、圧力、及び非真空雰囲気空間の距離に応じた無散乱荷電粒子数N0と散乱荷電粒子数N1の比率、及び無散乱荷電粒子のビーム径d1、散乱荷電粒子のビーム径d2の値をユーザ自身が入力していてもよい。また、あらかじめ散乱による影響を計算し試料に到達する際にどのようなビーム306の形状になるかをコンピュータ内の記憶部に保存しておき、検出器で取得した信号に対して記憶部で記憶されているデータを用いてデコンボリューション処理を行うことで、自動的に画像復元してもよい。
上述した散乱レンズ関数に基づく画像復元方法は、散乱レンズとみなすことができる物体が局所的に凝縮して配置された荷電粒子光学系を有する装置に対して非常に有効である。このような装置の具体的実施形態を以下の実施例で示すが、本発明の適用は以下の実施例に限定されるものではない。
<基本装置構成説明>
本実施例では、基本的な実施形態について説明する。図6には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。
図6に示される荷電粒子顕微鏡は、主として、荷電粒子光学鏡筒2、荷電粒子光学鏡筒2と接続されこれを支持する筐体(真空室)7、大気雰囲気下に配置される試料ステージ5、およびこれらを制御する制御系によって構成される。荷電粒子顕微鏡の使用時には荷電粒子光学鏡筒2と筐体7の内部は真空ポンプ4により真空排気される。真空ポンプ4の起動・停止動作も制御系により制御される。図中、真空ポンプ4は一つのみ示されているが、二つ以上あってもよい。荷電粒子光学鏡筒2及び筺体7は図示しない柱や土台によって支えられているとする。
荷電粒子光学鏡筒2は、荷電粒子線を発生する荷電粒子源8、発生した荷電粒子線を集束して鏡筒下部へ導き、一次荷電粒子線として試料6を走査する光学レンズ1などの要素により構成される。荷電粒子光学鏡筒2は筐体7内部に突き出すように設置されており、真空封止部材123を介して筐体7に固定されている。荷電粒子光学鏡筒2の端部には、上記一次荷電粒子線の照射により得られる二次的荷電粒子(二次電子または反射電子)を検出する検出器3が配置される。検出器3は荷電粒子光学鏡筒2の外部にあっても内部にあってもよい。荷電粒子光学鏡筒には、これ以外に他のレンズや電極、検出器を含んでもよいし、一部が上記と異なっていてもよく、荷電粒子光学鏡筒に含まれる荷電粒子光学系の構成はこれに限られない。
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、制御系として、装置使用者が使用するコンピュータ35、コンピュータ35と接続され送受信される命令に従って真空排気系や荷電粒子光学系などの制御を行う制御部36を備える。コンピュータ35は、装置の操作画面(GUI)が表示されるモニタ33と、キーボードやマウスなどの操作画面への入力手段を備える。制御部36およびコンピュータ35は、各々通信線により接続される。
制御部36は真空ポンプ4、荷電粒子源8や光学レンズ1などを制御するための制御信号を送受信する部位であり、さらには検出器3の出力信号をディジタル画像信号に変換してコンピュータ35を経由して画面33に表示される。制御部36で生成された画像はコンピュータ35のモニタ33に表示される。図では検出器3からの出力信号をプリアンプなどの増幅器154を経由して制御部36に接続している。もし、増幅器が不要であればなくてもよい。
制御部36ではアナログ回路やディジタル回路などが混在していてもよいし、二つ以上の制御部から構成されていてもよい。荷電粒子顕微鏡には、このほかにも各部分の動作を制御する制御部が含まれていてもよい。制御部36は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、コンピュータ35で実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。なお、図6に示す制御系の構成は一例に過ぎず、制御ユニットやバルブ、真空ポンプまたは通信用の配線などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例のSEMないし荷電粒子線装置の範疇に属する。
筐体7には、一端が真空ポンプ4に接続された真空配管16が接続され、内部を真空状態に維持できる。同時に、筐体内部を大気開放するためのリークバルブ14を備え、メンテナンス時などに、筐体7の内部を大気開放することができる。リークバルブ14は、なくてもよいし、二つ以上あってもよい。また、筐体7におけるリークバルブ14の配置箇所は、図6に示された場所に限られず、筐体7上の別の位置に配置されていてもよい。
筐体下面には上記荷電粒子光学鏡筒2の直下になる位置に隔膜10を備える。この隔膜10は、荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出される一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能であり、一次荷電粒子線は、隔膜10を通って最終的に試料台52に搭載された試料6に到達する。隔膜10によって構成される閉空間(すなわち、荷電粒子光学鏡筒2および筐体7の内部)は真空排気可能である。試料は非真空空間に配置されるので、隔膜10は真空空間と非真空空間の差圧を維持可能なものである必要がある。本実施例では、隔膜10によって真空排気される空間の気密状態が維持されるので、荷電粒子光学鏡筒2を真空状態に維持できかつ試料6を大気圧に維持して観察することができる。また、荷電粒子線が照射されている状態でも試料が設置された空間が大気雰囲気であるまたは大気雰囲気の空間と連通しているため、観察中、試料6を自由に交換できる。
隔膜10は土台9上に成膜または蒸着されている。隔膜10はカーボン材、有機材、金属材、シリコンナイトライド、シリコンカーバイド、酸化シリコンなどである。土台9は例えばシリコンや金属部材のような部材である。隔膜10部は複数配置された多窓であってもよい。一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能な隔膜の厚みは数nm〜数μm程度である。隔膜は大気圧と真空を分離するための差圧下で破損しないことが必要である。そのため、隔膜10の面積は数十μmから大きくとも数mm程度の大きさである。隔膜10の形状は正方形でなく、長方形などのような形状でもよい。形状に関してはどのような形状でもかまわない。隔膜10を製作する土台がシリコンであり、シリコン上に隔膜材料を成膜してからウェットエッチングにて加工するのであれば、図のように隔膜上部と下部とで面積が異なる。つまり、土台9の図中上側開口面積は隔膜面積よりも大きくなる。
隔膜10を支持する土台9は隔膜保持部材155上に具備されている。図示しないが、土台9と隔膜保持部材155は真空シールが可能なOリングやパッキンや接着剤や両面テープなどによって接着されているものとする。隔膜保持部材155は、筐体7の下面側に真空封止部材124を介して脱着可能に固定される。隔膜10は、荷電粒子線が透過する要請上、厚さ数nm〜数μm程度以下と非常に薄いため、経時劣化または観察準備の際に破損する可能性がある。また、隔膜10及びそれを支持する土台9は小さいので、直接ハンドリングすることが非常に困難である。そのため、本実施例のように、隔膜10および土台9を隔膜保持部材155と一体化し、土台9を直接ではなく隔膜保持部材155を介してハンドリングできるようにすることで、隔膜10及び土台9の取扱い(特に交換)が非常に容易となる。つまり、隔膜10が破損した場合には、隔膜保持部材155ごと交換すればよい。仮に隔膜10を直接交換しなければならない場合でも、隔膜保持部材155を装置外部に取り出し、隔膜10と一体化された土台9ごと装置外部で交換することができる。
また、図示しないが、試料6の直下または近傍に試料が観察可能な光学顕微鏡を配置してもよい。この場合は、隔膜10が試料上側にあり、光学顕微鏡は試料下側から観察することになる。そのため、この場合は、試料台52は光学顕微鏡の光に対して透明である必要がある。透明な部材としては、透明ガラス、透明プラスチック、透明の結晶体などである。より一般的な試料台としてスライドグラス(又はプレパラート)やディッシュ(又はシャーレ)などの透明試料台などがある。
また、温度ヒータや試料中に電界を発生可能な電圧印加部などを備えてもよい。この場合、試料が加熱または冷却していく様子や、試料に電界が印加されている様子を観察することが可能となる。
また、隔膜は2つ以上配置してもよい。例えば、荷電粒子光学鏡筒2の内部に隔膜があってもよい。あるいは、真空と大気とを分離する第一の隔膜の下側に、第二の隔膜を備え第二の隔膜と試料ステージとの間に試料が内包されていてもよい。
また、別の実施形態として、試料を環境セルに入れて通常の高真空荷電粒子顕微鏡の試料ステージに配置して観察してもよい。環境セルとは、試料全体を密閉状態で内包して真空装置内部に導入することで、真空チャンバ内で試料近傍の雰囲気を局所的に維持する容器のことである。環境セル内部に試料高さ調整機構が具備されていてもよい。環境セルに設けられた真空と局所雰囲気を分離するための隔膜と試料との間の散乱を除去する場合にも上述した画像復元処理が有効である。本発明では隔膜の数や種類は問わず、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例のSEMないし荷電粒子線装置の範疇に属する。
また、図示しないが、試料6の直下に、試料6を透過した荷電粒子線を検出することが可能な検出器を配置してもよい。この検出器は数keVから数十keVのエネルギーで飛来してくる荷電粒子線を検知及び増幅することができる検出素子である。例えば、シリコン等の半導体材料で作られた半導体検出器や、ガラス面または内部にて荷電粒子信号を光に変換することが可能なシンチレータやルミネッセンス発光材、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)素子等が用いられる。検出器からの電気信号または光信号は、配線、光伝達経路、または光検出器などを経由して上位制御部36や下位制御部37で構成される制御系に送信される。このような試料を直接または間接に搭載した検出器からは透過荷電粒子信号を検出することができる。したがって、試料6が搭載された検出器ごと、隔膜10に接近させることによって、大気中での試料6の透過荷電粒子線画像を取得することが可能である。この場合も本実施例における画像復元法が有効となる。
筺体7に具備された隔膜10の下部には大気雰囲気下に配置された試料ステージ5を備える。これによって試料を大気雰囲気(非真空空間)に載置する。試料ステージ5には少なくとも試料6を隔膜10に接近させることが可能な高さ調整機能をもつZ軸駆動機構を備える。当然のことながら、試料面内方向に動くXY駆動機構を備えてもよい。なお、図示しないが、試料6と隔膜10の間の距離を調整する機構として、試料6を動かすZ軸駆動機構の代わりにまたはこれに加えて、隔膜10及び隔膜保持部材155を試料方向(図中上下方向)に駆動する駆動機構を備えてもよい。または、荷電粒子光学鏡筒2や真空筐体7を垂直方向に可動な駆動機構を具備して、荷電粒子光学鏡筒2や真空筐体7全体を試料側に動かしても構わない。隔膜、試料、または荷電粒子光学鏡筒を可動とすることにより隔膜と試料との距離を可変とするこれらの機構を距離調整機構と総称する。
本実施例では、荷電粒子線源8からの荷電粒子線が試料に到達するときのエネルギーEを設定及び制御する。制御部36と荷電粒子光学鏡筒2との間には照射エネルギー制御部59が設けられている。照射エネルギー制御部59は、例えば荷電粒子線源8へ供給する電圧を可変とすることで荷電粒子線の試料への照射エネルギーEを変更することが可能な高圧電源である。照射エネルギー制御部59は制御部36の内部にあってもよい。また、別の例として、照射エネルギー制御部59は、荷電粒子線源からの荷電粒子線の加速電圧を変更する電極でもよい。また、一次荷電粒子線を加速または減速させることが可能な光学レンズへの電圧を可変制御する電源でもよい。また別の例としては、試料ステージに電圧を印加できる電源でもよい。このような制御系は制御部36内にあってもよいし、制御部36と光学レンズ1との間にあってもよい。また、上記した荷電粒子線の照射エネルギー制御部の具体例は適宜組み合わされて用いられても良い。
コンピュータ35は、データ送受信部60、データメモリ部61、外部インターフェース62、データ処理部63、を含んで構成される。データ送受信部60は、検出信号の受信など各種データを送受信する。データメモリ部61は、画像信号を格納することが可能である。外部インターフェース62は、モニタ33やキーボードやマウスなどのユーザインターフェース34と接続される。データ処理部63は、検出信号を画像信号に変換し出力する。さらに本実施例ではデータ処理部63は前述のように一次荷電粒子線が試料に到達するまでに散乱されることによってスポット形状に生じる影響を除去する処理、すなわち画像復元処理を実施する。本実施例においては、一次荷電粒子線は隔膜および隔膜と試料との間の大気によって散乱される。画像復元のための散乱レンズ関数のパラメータはユーザインターフェース34によって入力することができる。データ処理部63は、これら散乱レンズ関数のパラメータを用いて無散乱荷電粒子と散乱荷電粒子で構成されるビーム形状を求める。前述のように、隔膜による散乱量は隔膜と材料種、密度、厚さによって求めることができ、隔膜と試料との間の大気による散乱量は隔膜と試料との距離、大気のガス種、圧力によって求めることができる。このように求められた散乱量に基づいて一次荷電粒子線のスポット形状に生じる影響を求めることができる。その後、取得された画像または現在取得している画像信号に対して、前述のように画像復元処理を実施し、散乱によってスポット形状に生じる影響を除去する。その結果、散乱荷電粒子の影響が低減された顕微鏡画像をモニタ33に表示することが可能となる。なお、散乱レンズ関数パラメータが既知の場合で入力する必要が無い場合は、予め保存された画像取得条件と散乱レンズ関数パラメータの対応関係を用いてビーム形状を求めればよい。具体的には、画像取得条件と散乱レンズ関数パラメータの対応表をデータメモリ部61に保管しておき、画像取得条件を自動で読み込んだ後に、この対応表を用いて画像取得条件に対応した散乱レンズ関数パラメータを自動で読み込んで散乱レンズ関数を確定し、これを用いて画像復元する。
図6で示した装置構成において、毎回同一種類の隔膜を用いれば隔膜10の材料種M、密度ρ、厚みtは変動することがなく一定である。また、非真空空間(大気空間)のガス種A、圧力Pも大気圧下で使用している限りはほぼ一定である。つまり、図6のうち散乱レンズ関数パラメータを変動させる要因は本実施例では隔膜10と試料6との距離Zだけとなる。そこで、以下では隔膜と試料との距離を求める方法について複数記載する。
図7(a)では隔膜および試料の周辺部だけに関して図示している。本実施例では、試料6と隔膜10との間に距離制御部材400が具備される。距離制御部材は試料台から突起するように設けられ、図7(a)で示すように、距離制御部材400の先端が常に試料6よりも隔膜側に配置されている。そして、図7(b)で示したように、試料台401の位置を隔膜10方向に接近させた状態において、距離制御部材400が隔膜保持部材155に接触する。これによって、隔膜10と試料6との距離をある一定値とすることが可能となる。一方で、試料6の高さBは試料に応じて変わることがある。そのため、試料Bの高さに応じて距離制御部材400の高さAを調整できる調整機構を有することが望ましい。例えば、距離制御部材400はおねじであり、試料台401側をめねじ402とすることにより、距離制御部材400のネジ部を回すことで距離制御部材400の高さAを変更することが可能となる。なお、調整機構は、距離制御部材400における試料と隔膜とが接触する位置を荷電粒子光学鏡筒の光軸方向に移動可能とするものであればよい。
試料台401から試料表面までの距離(試料の厚み)をBとし、隔膜保持部材155と隔膜10との距離をCとした場合、距離制御部材400を隔膜保持部材155に接触させた場合の隔膜と試料間の距離Zは次式となる。
Z=(A−B)−C ・・・(式7)
前述の通り、荷電粒子線の平均自由工程の観点から隔膜と試料間との距離Zは短いことが望ましい。具体的には1000μm以下であるとよい。また、隔膜10と試料6とが接触しないためには次式に従う必要がある。
A−B>C ・・・(式8)
以上の関係式により、距離制御部材を用いると試料と隔膜との距離がZであることを保証できる。
次に、図8を用いて、距離制御部材408を配置した別の形態を説明する。この場合は、隔膜10を保持している土台9上に距離制御部材408が具備されている。距離制御部材408はあらかじめ土台9上に成膜されている薄膜でもよいし、後から取り付けられたスペーサなどでもよい。例えば、厚みが既知の距離制御部材408に試料6を接触させると隔膜との距離Zを把握することが可能となる。または接触した後に、再度試料と距離制御部材408をある既知の距離だけ離すことによって、試料6と隔膜10との距離を制御することが可能である。
また、図示しないが図6の装置の図中横方向からカメラなどで距離を把握してもよい。または、レーザなどで隔膜と試料との間の距離を計測してもよい。また、データ送受信部400から図示しない駆動制御部に対して信号を送り、試料ステージなどを電気的に駆動させることによって試料と隔膜との距離を制御してもよい。なお、図示しないが、試料6が載置された試料ステージ5が動くことによって試料6と隔膜10を接近させる代わりに、隔膜10及び隔膜保持部材155が図中上下方向に駆動する駆動機構によって試料6と隔膜10を接近させてもよい。または、試料6の高さを本荷電粒子線装置以外の場所で計測することで、試料高さを既知すれば、前述で説明した手法を使わなくても、試料ステージ5の高さから隔膜10と試料6との距離を把握することが可能となる。
<操作画面>
図9に、操作画面の一例を示す。ここでは、操作画面を通して入力されたパラメータを用いて画像復元する例を説明する。
操作画面700は、観察条件を設定する条件設定部701、取得した原画像を表示する画像表示部702、画像復元後の画像を表示する画像表示部703、画像調整部704、画像復元パラメータ設定部705などを備える。条件設定部701は照射エネルギーE設定部706、照射開始ボタン707、照射停止ボタン708、画像保存ボタン709、画像読み出しボタン710などを備える。画像表示部702には画像復元前の画像が表示され、画像表示部703には復元された画像が表示される。画像調整部704には焦点調整部715、明るさ調整部716、コントラスト調整部717などを備える。
画像復元パラメータ設定部705は、一次荷電粒子線の散乱に寄与する物質に関連するパラメータを入力する入力欄である。具体的には隔膜−試料間距離設定部711、画像取得した際の加速電圧を入力する加速電圧入力部723、倍率設定部732、画像復元開始ボタン713、画像復元した画像の明るさやコントラストを調整するボタンを備える。ここでは、隔膜に関する情報が既知でかつ隔膜と試料との間の空間は大気であるとすると、隔膜−試料間距離Zと加速電圧Eと倍率を設定することで、図4で示したような散乱荷電粒子ビーム形状が計算可能である。当然ながら隔膜−試料間距離Zだけではなく、一次荷電粒子線の散乱に寄与する物質に関連するパラメータとして上述した別のパラメータを入力可能としてもよい。なお、倍率を設定するのは、画像を構築している一画素の大きさ(画素サイズ)がいくつかを決めるためである。倍率に代えて画素サイズを入力できるようにしてもよい。
これらの値から無散乱荷電粒子線のビーム径d1、散乱荷電粒子線のビーム径d2、無散乱荷電粒子比率N0/(N0+N1)が決定される。これらは前述のようにあらかじめ計算式や計算テーブルを準備しておき、コンピュータ内に保存されている既知のパラメータを併せて使うことで自動計算される。この結果を用いて取得した画像に対してデコンボリューション処理することで、ビームの散乱の影響を除去することができる。ただし、隔膜−試料間距離が入力者の想定と異なる場合などは画像復元結果が不適切な場合がある。その場合には自動計算された値を使うのではなく、ユーザが無散乱荷電粒子線のビーム径d1、散乱荷電粒子線のビーム径d2、無散乱荷電粒子比率N0/(N0+N1)を手動で入力してもよい。これらの値を自動計算するかユーザが入力するかを設定することが選択できるボタン726,727を備えてもよい。一方で、この作業が煩雑である場合はパラメータを設定する部位725は非表示であってもよい。このようにユーザが画像復元処理に用いるパラメータを入力できることで、ユーザがより現実に近いビーム形状を探索することができる。または、ユーザがパラメータを調整した結果、最も理想画像に近い画像となった時に用いたビーム形状が実際のビーム形状に近いという知見を得ることが可能となる。
なお、画像を呼び出した際に、画像を取得したときの画像取得情報が記述されたファイルを読み込めば、加速電圧と倍率を入力する手間を省くことが可能となる。
また、これらのパラメータをまとめて何らかのパラメータに置き換えて入力させてもよい。例えば、デコンボリューション処理の強弱を示すようなパラメータである。より具体的には、画像復元処理の強度レベルを1から10までに分けて、レベル1がd2/d1=10に対応し、レベル10がd2/d1=1000に対応するようにすればよい。この場合にはパラメータを数値入力する代わりに、スライダーバーなどの入力手段を表示させてもよい。このようにすればユーザが画像復元処理レベルで画像復元を実施し、結果に満足しなければ別レベルに再度画像復元を実施すればよく、ユーザは選択すべきパラメータは画像復元処理のレベルだけとなるので、非常に簡便な操作となる。
<特定領域画像復元>
図5では画像全体を処理した結果について図示した。しかし、図10のように試料6に大きな凹凸が存在する場合などは、隔膜10と試料6の間の距離が均一ではなく、隔膜と試料表面との距離は試料上の位置に依存する。例えば、6aの位置では隔膜と試料表面との距離がZ1であるのに対して、6bの位置では隔膜と試料表面との距離がZ2である。試料上の位置によって隔膜と試料表面との距離が異なると、散乱レンズ関数のパラメータが異なる。そのため、入射ビーム形状305を入射すると試料表面に到達する荷電粒子線のビーム形状306は図10の下図に示したようになる。つまり、無散乱荷電粒子と散乱荷電粒子によるビームの形状やこれらの数が異なるために、試料表面に到達するときのビーム形状が異なる。そのため、試料6a部と試料6b部とが混在した画像すべての領域に対して一つの散乱レンズパラメータで一括して画像復元処理することは最適とはいえない。
そこで、6a近傍と6b近傍の画像を別々のパラメータを用いて画像復元する。この処理を行うための操作画面を図11に示す。画面700には、画像を読み出すボタン710、読み込んだ画像を表示する画像表示部702と、復元後の画像を表示する画像表示部703を有する。画像復元パラメータ設定部705など特記しない部分については図9にて説明した通りである。画面700には画像復元領域を設定する領域設定部729をそなえる。領域設定部729では、四角や丸や三角などの図形が選択でき、画像表示部702上に所望の図形で示される範囲を入力することが可能である。表示された図形の内部に含まれる画像に対して指定のパラメータで画像復元される。すなわち、画面700では一枚の画像のうち画像復元の処理を行う領域をユーザが指定可能となっている。四角や丸などの既知の形だけでなくユーザがフリーハンドで自由に領域を描けるような領域設定を可能としてもよい。
また、一つの画像に対して複数個所に同一パラメータによる画像復元の対象となる領域を設定可能としてもよい。例えば、図中の領域730、領域731などである。このような状態で画像復元開始ボタン723を押すと、画像復元が開始され、画像表示部703に復元後の画像が表示される。この状態では、同じパラメータにて画像復元を2か所実施した様子となっている。次に、別領域に対して別パラメータにて画像復元を実施したい場合は、例えば、復元画像呼び出しボタン729を押すと、画像表示部702に復元された画像が呼び出され、その後同様の手順を繰り返すことで、さらに別パラメータにて画像復元を実施してその結果を上書きすることが可能となる。
また、別の例として、図12のように画像復元パラメータ設定部705に、領域ごとにパラメータをそれぞれ設定可能な入力欄733(複数パラメータ設定部)を設けてもよい。複数パラメータ設定部には、入力された数値パラメータに対応する領域選択が可能であることを明示するボタンを有してもよい。選択ボタン(図中領域Aのボタンなど)を押した状態のままパラメータを設定し、領域設定部729にて図形を選び、画像表示部702上で領域730(図中A部)を指定する。次に、複数パラメータ設定部にて別パラメータのボタン(図中領域Bボタン)を選択して同様に別の領域731(図中B部)を選択する。こうすると、一枚の画像に含まれる領域730と領域731とに対して互いに異なるパラメータを用いて一括して画像復元することが可能となるので、保存された画像を再度読み込む作業は不要となる。
<手順説明>
以下で、図13を用いて画像取得を行う手順について説明する。最初に、ステップ500で加速電圧Eを設定する。次に、ステップ501で画像を撮像する。次に、ステップ502にて所望の画像を保存する。保存された画像の中から画像復元処理を実施する画像を選択する。または所望の画像を呼び出してもよい(ステップ511)。次に、ステップ512で、その画像を取得した際の加速電圧Eや倍率(または画素サイズ)の設定を行う。次のステップ503で画像復元をする画像内の領域を設定する。画像全部に画像復元処理をする場合は、このステップはなくてもよい。次に、ステップ504にて、隔膜−試料間距離Zを設定する。前述の通り、このステップ504で設定するパラメータは隔膜−試料間距離Zではなく何らかに置きかえられたパラメータであってもかまわない。ステップ505では、設定されたパラメータを用いて散乱荷電粒子線に関するパラメータが決定される。散乱荷電粒子線に関するパラメータとは、無散乱荷電粒子線のビーム径d1、散乱荷電粒子線のビーム径d2、無散乱荷電粒子比率N0/(N0+N1)等である。前述のように、散乱荷電粒子に関するパラメータを手動で入力したい場合はこのステップで入力する。
また、図12で示したように、画像復元領域を複数設定したい場合はステップ503に戻り、別の画像復元領域を決定する。設定されたパラメータが満足いく値であれば、画像復元を開始する。次に、復元された画像を確認し(ステップ507)、結果が不満足であればパラメータを再設定する。問題なければ復元された画像を保存して(ステップ510)、画像復元処理を終了させる。
また、図9の説明において前述したとおり、ステップ504から505までの処理でパラメータを入力することは非常に煩雑であるため、デコンボリューション処理の強弱を示すようなパラメータなどに置き換えて計算させてもよい。
また、顕微鏡が画像を保存した際に加速電圧や倍率などの情報が画像ファイルそれ自体に埋め込まれている場合や、別ファイルにて保存されている場合などは、ステップ511にて画像ファイルを呼び出す際に、それらファイルを同時に読み込むことによって、ステップ512を不要とすることも可能である。
なお、本実施例の画像復元処理は荷電粒子顕微鏡装置とは独立したコンピュータ上で実施することも可能である。図14にその状態を説明する。コンピュータ35が荷電粒子顕微鏡装置に併設されており、これとは独立してコンピュータ35’が設けられている。コンピュータ35とコンピュータ35’とは通信配線や記録媒体などを経由してデータの送受信が可能である。散乱荷電粒子線を含んだ状態で取得された荷電粒子顕微鏡画像を、コンピュータ35を経由し、コンピュータ35’に送信する。コンピュータ35’では図11または図12のような操作画面により、上述したように画像復元に用いるパラメータや画像復元対象とする領域の設定が可能である。その後、図13のステップ511のように、コンピュータ35’が受信した画像データを呼び出し、画像復元を実施する。なお、別に配置されたコンピュータ35’で画像復元を実施する場合は、図9の操作画面のように荷電粒子線の照射条件や焦点調整などの設定部は不要である。図14の実施形態によれば、荷電粒子顕微鏡をコントロールするコンピュータ35を使うことなく別コンピュータにて画像復元作業を実施することが可能であるため、画像取得と画像復元を効率よく実施できる。なお、図14の実施形態の場合にはコンピュータ35’に専用のソフトウェアをインストールすることで本実施例の画像復元処理が可能となる。この専用のソフトウェアは少なくとも図11または図12に示すようなパラメータの設定が可能な操作画面を表示する機能と、このパラメータを用いて散乱レンズ関数を決定し画像復元処理をする機能とを有する。この専用のソフトウェアは非一時的かつ有体のコンピュータ読み取り可能記録媒体に記憶される。
本実施例または他の実施例で述べるように大気圧下で試料を観察する荷電粒子線装置は荷電粒子線装置の使用に慣れていない初心者が用いる可能性もあり、最適な画像を取得可能な位置に試料を配置することは必ずしも容易とはいえないが、本実施例にて説明した方法によれば、試料と隔膜との距離が離れていても画像復元を実施することで良好な画像を取得することが可能なる。この結果、隔膜や試料を破損することなく、使い勝手が飛躍的に向上するという効果を奏することができる。
以上、本実施例では試料と隔膜との距離に応じた画像復元を行う装置および方法について述べたが、各制御構成、配線経路および操作画面に関しては上記以外の場所に配置されてもよく、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例のSEMないし荷電粒子線装置の範疇に属する。
以下では、一般的な荷電粒子線装置を簡便に大気下にて試料観察できる装置構成に関して説明する。図15には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。実施例1と同様、本実施例の荷電粒子顕微鏡も、荷電粒子光学鏡筒2、該荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する筐体(真空室)7、試料ステージ5などによって構成される。これらの各要素の動作・機能あるいは各要素に付加される付加要素は、実施例1とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
本構成では、筐体7(以下、第1筺体)に挿入して使用される第2筐体(アタッチメント)121を備える。第2筐体121は、直方体形状の本体部131と合わせ部132とにより構成される。後述するように本体部131の直方体形状の側面のうち少なくとも一側面は開放面15となっている。本体部131の直方体形状の側面のうち隔膜保持部材155が設置される面以外の面は、第2筺体121の壁によって構成されていてもよいし、第2筺体121自体には壁がなく第1筺体7に組み込まれた状態で第1筺体7の側壁によって構成されても良い。第2筐体121は第1筐体7の側面又は内壁面又は荷電粒子光学鏡筒に固定される。本体部131は、観察対象である試料6を格納する機能を持ち、上記の開口部を通って第1筐体7内部に挿入される。合わせ部132は、第1筐体7の開口部が設けられた側面側の外壁面との合わせ面を構成し、真空封止部材126を介して上記側面側の外壁面に固定される。これによって、第2筐体121全体が第1筐体7に嵌合される。上記の開口部は、荷電粒子顕微鏡の真空試料室にもともと備わっている試料の搬入・搬出用の開口を利用して製造することが最も簡便である。つまり、もともと開いている穴の大きさに合わせて第2筐体121を製造し、穴の周囲に真空封止部材126を取り付ければ、装置の改造が必要最小限ですむ。また、第2筐体121は第1筐体7から取り外しも可能である。
第2筐体121の側面は大気空間と少なくとも試料の出し入れが可能な大きさの面で連通した開放面15であり、第2筐体121の内部(図の点線より右側;以降、第2の空間とする)に格納される試料6は、観察中、大気圧状態に置かれる。なお、図15は光軸と平行方向の装置断面図であるため開放面15は一面のみが図示されているが図15の紙面奥方向および手前方向の第1の筺体の側面により真空封止されていれば、第2の筺体121の開放面15は一面に限られない。第2の筺体121が第1の筺体7に組み込まれた状態で少なくとも開放面が一面以上あればよい。一方、第1筐体7には真空ポンプ4が接続されており、第1筐体7の内壁面と第2筐体の外壁面および隔膜10によって構成される閉空間(以下、第1の空間とする)を真空排気可能である。第2の空間の圧力を第1の空間の圧力より大きく保つように隔膜が配置されることで、本実施例では、第2の空間を圧力的に隔離することができる。すなわち、隔膜10により第1の空間11が高真空に維持される一方、第2の空間12は大気圧または大気圧とほぼ同等の圧力のガス雰囲気に維持されるので、装置の動作中、荷電粒子光学鏡筒2や検出器3を真空状態に維持でき、かつ試料6を大気圧に維持することができる。また、第2筐体121が開放面を有するので、観察中、試料6を自由に交換できる。つまり、第一の空間11が真空状態のままで、試料6を大気中で動かしたり装置外へと出し入れすることが可能となる。
第2筐体121の上面側には、第2筐体121全体が第1筐体7に嵌合された場合に上記荷電粒子光学鏡筒2の直下になる位置に隔膜10を備える。この隔膜10は、荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出される一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能であり、一次荷電粒子線は、隔膜10を通って最終的に試料6に到達する。
第2筐体121の内部には試料ステージ5が配置される。試料ステージ5上には試料6が配置される。隔膜10と試料6との接近には試料ステージ5が用いられる。試料ステージは手動で操作してもよいし、試料ステージ5に電動モータなどの駆動機構を具備させて、装置外部から電気通信にて操作してもよい。
以上の通り、隔膜を備えたアタッチメント部を導入することによって、一般的な真空下での撮像を行う荷電粒子線装置を用いて大気圧またはガス雰囲気で試料観察することが可能である。また、本実施例のアタッチメントは、試料室の側面から挿入する方式のため大型化が容易である。
本実施例の装置構成によっても、実施例1で述べた方法により、隔膜や試料を破損することなく、簡単にかつ正確に試料位置の調整ができるという効果を奏することができる。
本実施例で説明する装置構成においても、隔膜での散乱および隔膜と試料との間大気空間での散乱によりビーム形状が劣化するため、上述の画像復元が有効となる。画像復元に用いるパラメータや画像復元処理の方法は上述した通りなので説明を省略する。
図16には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。実施例2と同様、本実施例の荷電粒子顕微鏡も、荷電粒子光学鏡筒2、該荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する第1筐体(真空室)7、第1筐体7に挿入して使用される第2筐体(アタッチメント)121、制御系などによって構成される。これらの各要素の動作・機能あるいは各要素に付加される付加要素は、実施例1や2とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
本実施例の荷電粒子顕微鏡の場合、第2筐体121の少なくとも一側面をなす開放面を蓋部材122で蓋うことができるようになっており、種々の機能が実現できる。以下ではそれについて説明する。
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、試料位置を変更することで観察視野を移動する手段としての試料ステージ5が蓋部材122に連結されている。試料ステージ5には、面内方向へのXY駆動機構および高さ方向へのZ軸駆動機構を備えている。蓋部材122には試料ステージ5を支持する底板となる支持板107が取り付けられており、試料ステージ5は支持板107に固定されている。支持板107は、蓋部材122の第2筐体121への対向面に向けて第2筐体121の内部に向かって延伸するよう取り付けられている。Z軸駆動機構およびXY駆動機構からはそれぞれ支軸が伸びており、各々蓋部材122が有する操作つまみ108および操作つまみ109と繋がっている。装置ユーザは、これらの操作つまみ108、109を操作することにより、試料6の第2筐体121内での位置を調整する。
本実施例の荷電粒子顕微鏡においては、第2筐体内に置換ガスを供給する機能を備える。例えばガスボンベおよびガス供給管である。またはこれに代えて、第一の空間11や装置外部である外気とは異なった気圧状態を形成可能な機能を備えてもよい。例えば少しだけ真空引きできるポンプである。荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出された荷電粒子線は、高真空に維持された第1の空間を通って、隔膜10を通過し、更に、大気圧または(第1の空間よりも)低真空度に維持された第2の空間に侵入する。その後、試料6に荷電粒子線が照射される。大気空間では電子線は気体分子によって散乱されるため、平均自由行程は短くなる。つまり、隔膜10と試料6の距離が大きいと、一次荷電粒子線、または荷電粒子線照射により発生する二次電子、反射電子もしくは透過電子等が試料及び検出器3まで届かなくなる。一方、荷電粒子線の散乱確率は、気体分子の質量数や密度に比例する。従って、大気よりも質量数の軽いガス分子で第2の空間を置換するか、少しだけ真空引きすることを行えば、電子線の散乱確率が低下し、荷電粒子線が試料に到達できるようになる。また、第2の空間の全体ではなくても、少なくとも第2の空間中の荷電粒子線の通過経路、すなわち隔膜10と試料6との間の大気をガス置換または真空引きできればよい。
以上の理由から、本実施例の荷電粒子顕微鏡では、蓋部材122にガス供給管100の取り付け部(ガス導入部)を設けている。なお、ここではガス供給管と称するが、排気管として利用することで前述のように少しだけ真空引きすることにも使える。ガス供給管100は連結部102によりガスボンベ103と連結されており、これにより第2の空間12内に置換ガスが導入される。ガス供給管100の途中には、ガス制御用バルブ101が配置されており、管内を流れる置換ガスの流量を制御できる。このため、ガス制御用バルブ101から下位制御部37に信号線が伸びており、装置ユーザは、コンピュータ35のモニタ上に表示される操作画面で、置換ガスの流量を制御できる。また、ガス制御用バルブ101は手動にて操作して開閉してもよい。
置換ガスの種類としては、窒素や水蒸気など、大気よりも軽いガスであれば画像S/Nの改善効果が見られるが、質量のより軽いヘリウムガスや水素ガスの方が、画像S/Nの改善効果が大きい。
置換ガスは軽元素ガスであるため、第2の空間12の上部に溜まりやすく、下側は置換しにくい。そこで、蓋部材122でガス供給管100の取り付け位置よりも下側に第2の空間の内外を連通する開口を設ける。例えば図16では圧力調整弁104の取り付け位置に開口を設ける。これにより、ガス導入部から導入された軽元素ガスに押されて大気ガスが下側の開口から排出されるため、第2筐体121内を効率的にガスで置換できる。なお、この開口を後述する粗排気ポートと兼用しても良い。
上述の開口の代わりに圧力調整弁104を設けても良い。当該圧力調整弁104は、第2筐体121の内部圧力が1気圧以上になると自動的にバルブが開く機能を有する。このような機能を有する圧力調整弁を備えることで、軽元素ガスの導入時、内部圧力が1気圧以上になると自動的に開いて窒素や酸素などの大気ガス成分を装置外部に排出し、軽元素ガスを装置内部に充満させることが可能となる。なお、図示したガスボンベまたは真空ポンプ103は、荷電粒子顕微鏡に備え付けられる場合もあれば、装置ユーザが事後的に取り付ける場合もある。
また、ヘリウムガスや水素ガスのような軽元素ガスであっても、電子線散乱が大きい場合がある。その場合は、ガスボンベ103を真空ポンプに代えればよい。そして、少しだけ真空引きすることによって、第2の筐体内部を極低真空状態(すなわち大気圧に近い圧力の雰囲気)にすることが可能となる。つまり、第一の隔膜10と試料6の間の空間を真空にすることが可能である。例えば、第2の筐体121または蓋部材122に真空排気ポートを設け、第2筐体121内を少しだけ真空排気する。その後置換ガスを導入してもよい。この場合の真空排気は、第2筐体121内部に残留する大気ガス成分を一定量以下に減らせればよいので高真空排気を行う必要はなく、粗排気で十分である。なお、この際に空間12の圧力を監視することが可能な圧力計80を有してもよい。
また、図示しないが、ボンベ103部はガスボンベと真空ポンプを複合的に接続した、複合ガス制御ユニット等でもよい。図示しないが試料6を加熱するための加熱機構を第2の筺体121内部に配置してもよい。
また、二次電子検出器や反射電子検出器に加えて、X線検出器や光検出器を設けて、EDS分析や蛍光線の検出ができるようにしてもよい。X線検出器や光検出器は、第1の空間11または第2の空間12のいずれに配置されてもよい。
このように本装置構成では、試料が載置された空間を大気圧(約105Pa)から約103Paまでの任意の真空度に制御することができる。従来のいわゆる低真空走査電子顕微鏡では、電子線カラムと試料室が連通しているので、試料室の真空度を下げて大気圧に近い圧力とすると電子線カラムの中の圧力も連動して変化してしまい、大気圧(約105Pa)〜約103Paの圧力に試料室を制御することは困難であった。本実施例によれば、第2の空間と第1の空間を薄膜により隔離しているので、第2の筐体121および蓋部材122に囲まれた第2の空間12の中の雰囲気の圧力およびガス種は自由に制御することができる。したがって、これまで制御することが難しかった大気圧(約105Pa)〜約103Paの圧力に試料室を制御することができる。さらに、大気圧(約105Pa)での観察だけでなく、その近傍の圧力に連続的に変化させて試料の状態を観察することが可能となる。つまり、本実施例による構成は前述までの構成と比べて、第2筺体内部の第2の空間12が閉じられているという特徴を持つ。そのため、例えば隔膜10と試料6との間にガス導入し、または真空排気することが可能な荷電粒子線装置を提供することが可能となる。
本実施例では、試料ステージ5およびその操作つまみ108、109、ガス供給管100、圧力調整弁104が全て蓋部材122に集約して取り付けられている。従って装置ユーザは、上記操作つまみ108、109の操作、試料の交換作業、またはガス供給管100、圧力調整弁104の操作を第1筐体の同じ面に対して行うことができる。よって、上記構成物が試料室の他の面にバラバラに取り付けられている構成の荷電粒子顕微鏡に比べて操作性が非常に向上している。
以上説明した構成に加え、第2筐体121と蓋部材122との接触状態を検知する接触モニタを設けて、第2の空間が閉じているまたは開いていることを監視してもよい。
以上、本実施例の装置は、実施例1や2の効果に加え、大気圧から所望の置換ガス種または所望の圧力下での観察が可能である。また、第一の空間とは異なった圧力の雰囲気下での試料観察が可能である。また、隔膜を取り外して第1の空間と第2の空間を連通させることにより、大気または所定のガス雰囲気下での観察に加えて第一の空間と同じ真空状態での試料観察も可能なSEMが実現される。本実施例の装置構成によっても、実施例1や2に述べた方法により、隔膜や試料を破損することなく、簡単にかつ正確に試料位置の調整ができるという効果を奏することができる。
本実施例においても、一次荷電粒子線は隔膜および非真空空間である隔膜と試料との間のガスによって散乱される。これらの散乱によって一次荷電粒子線のスポット形状に生じる影響は、前述の方法と同様にすれば除去することが可能である。パラメータや演算処理方法は前述のとおりである。ただし、本実施例における装置において、試料と隔膜間にガスを導入したり、大気圧よりも低い圧力にした場合は、図4で示した試料到達ビーム形状は変化する。これは、図3の空間12に相当する散乱レンズ12aの散乱レンズ関数が変化するためである。
つまり、(式2)におけるガス種aおよびガス圧力Pが変化する。試料と隔膜との間の空間に軽元素ガスをいれるとより散乱量が少ないaを設定する必要があり、少しだけ真空引きした場合はより散乱量が少ない圧力Pを設定する必要がある。またガスを導入したり軽く真空引きしたりすることにより試料と隔膜との距離を変えた場合にはこれも新たに変更入力する必要がある。前述の通り、軽元素ガスを導入したり大気圧よりも低い圧力にすると、平均自由工程が伸びるので散乱荷電粒子ビーム径d2は小さくなる傾向となる。そのため、本実施例における装置の操作画面では、図9などの操作画面に空間12に導入するガス種aや、圧力計80によって計測されたガス圧力Pを入力することが可能な設定部を有することで上述した画像復元が実施可能となる。
本実施例では、実施例1の変形例である荷電粒子光学鏡筒2が隔膜10に対して下側にある構成に関して説明する。図17に、本実施例の荷電粒子顕微鏡の構成図を示す。真空ポンプや制御系などは省略して図示する。また、真空室である筺体7、荷電粒子光学鏡筒2は装置設置面に対して柱や支え等によって支持されているものとする。各要素の動作・機能または各要素に付加される付加要素は、前述の実施例とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
図17(a)に示すように、本実施例の装置には、試料6を隔膜10に接近させる試料ステージ5が具備されている。本実施例の装置構成では図中試料6下側の試料面が観察されることになる。言い換えれば、本実施例の装置構成では、装置上方が大気圧空間として開放されている。この場合も実施例1,2で説明した方法によって隔膜と試料との距離を調整することができる。
図17(b)のように、試料6を直接隔膜10側に搭載してもよい(図中矢印)。この場合は必ずしも試料ステージ5は必要でない。本実施例に実施例1,2で説明した方法を適用して隔膜と試料6とを接近させるためには、隔膜10と試料6との間に厚みが規定され成膜された薄膜や着脱可能な箔材などの接触防止部材56を用いる。この場合には接触防止部材56が実施例1,2で述べた距離調整機構にあたる。接触防止部材56を置くことによって、試料6を安心して配置することが可能となる。例えば、様々な既知の厚みの接触防止部材56を複数個準備する。最初に、厚みがt1の接触防止部材56を土台9上に配置する。次に、試料6を搭載する。これにより、隔膜10と試料6とを接触させて破損させることなく観察を実施することが可能となる。
図17(a)(b)のいずれの構成においても、隔膜での散乱および隔膜と試料との間大気空間での散乱によりビーム形状が劣化するため、上述の画像復元が有効となる。画像復元に用いるパラメータや画像復元処理の方法は上述した通りなので説明を省略する。
前述までの実施例では、隔膜10と試料6とが非接触な状態で大気下に配置された荷電粒子顕微鏡観察する装置及び方法について説明した。本実施例では、隔膜と試料とが接触した状態で大気雰囲気中に配置された試料の顕微鏡観察する装置にて画像復元を実行する方法について記載する。
図18を用いて大気圧で観察される荷電粒子線装置の一般的な構成要素について説明する。図3と同様な点は説明を割愛する。図18では隔膜10の図中下面側が非真空空間であり、隔膜10の図中上側は真空空間である。試料は隔膜10に接触して保持されている。この構成を簡易化して記述すると図18(b)のようになる。隔膜10に試料が接触しているので、図3で説明したような非真空空間に対応する散乱レンズ12aは存在していない。つまり、隔膜10による散乱レンズ10aだけが存在していることとなり、散乱量は隔膜10の材料種m、密度ρ、厚みt、及び荷電粒子線の照射エネルギーEに依存する。隔膜だけによる散乱レンズ関数(または、劣化関数)Aとおくと、散乱レンズ関数は以下で記述される。
A=A(m,ρ,t,E) ・・・(式9)
また、隔膜に入射する前の荷電粒子ビーム形状をFとし、隔膜を透過した後の荷電粒子ビーム形状をGとした場合、以下と記述される。
G=A(m,ρ,t,E)×F ・・・(式10)
隔膜10に入射されるビーム形状をビーム305とすると、試料6に到達したビーム形状はビーム306のようになる。隔膜と試料との間の非真空雰囲気による散乱レンズ(図3の12a)がないために、実施例1から実施例5までの装置と比べると散乱荷電粒子に起因するビームが少ない。つまり、散乱荷電粒子ビーム径d2は小さい。しかしながら、隔膜10による散乱は図3の場合と同様に発生する。この結果、図3の場合と同様に、無散乱荷電粒子線によるビーム307と、散乱荷電粒子線によるビーム308が混在したビームとなる。したがって、前述した画像復元法が有用である。
図19に本実施例における荷電粒子装置を示す。荷電粒子光学鏡筒2及び筺体7は図示しない柱や土台によって支えられているとする。また、図17で示したように荷電粒子光学鏡筒が隔膜10に対して下側にある構成にしてもよい。本構成では、隔膜10に試料6が接触している点以外の構成は実施例1と同じである。実施例2や3で説明した図15や図16のように一般の荷電粒子顕微鏡装置にアタッチメントをつけた構成としてもよい。隔膜に直接試料を接触させて保持する場合、隔膜保持部材155上に試料6を搭載した後で、隔膜保持部材155を筐体7に接触させて空間11を真空にし、荷電粒子線を照射することで画像を取得する。その後、取得した画像に対して前述の画像復元を実施する。
次の例として、図20に隔膜と試料とを接触させて観察する別の荷電粒子顕微鏡装置について記載する。本構成では試料6を非真空雰囲気の局所空間で密閉して内包することが可能な容器100が荷電粒子装置の試料ステージ5上に配置されている。試料6は隔膜10に接触している。試料6は、荷電粒子顕微鏡装置外部で容器100の蓋101に具備された隔膜10に直接搭載される。蓋101と容器100は図示しないねじ等で固定されている。これによって容器100の内部を容器100の外部の空間とは異なる局所雰囲気空間に保持している。次に、荷電流顕微鏡装置内部に容器100を導入し、荷電粒子顕微鏡観察を実施する。この場合には荷電粒子源8から放出された荷電粒子線はいくつかの光学レンズ1を経由したのち真空空間11を通過し、隔膜10を経由して試料6に到達する。この場合、容器100の外部は真空になっているので、図19の装置と同様に荷電粒子線を散乱させる要因は主に隔膜10のみである。
これら隔膜に試料6を接触させた装置構成の場合は、隔膜10と接触した試料部位を観察することになる。そのため、荷電粒子線散乱は隔膜10の材料種や密度や厚みのみに依存する。隔膜に関するパラメータは既知であるため、(式10)を計算するときにおいてユーザが設定すべきパラメータがない。したがって、本荷電粒子顕微鏡装置で取得される画像の画像復元を実施する場合は、図9の操作画面で説明したような隔膜−試料間距離を入力する必要はない。別の表現をすれば隔膜−試料間距離は0であるともいえる。この結果、ビーム形状306がどのようになるかあらかじめ求めておくことが可能となるので、コンピュータ35に隔膜による散乱量を記憶させておいて、画像取得時には常に同じパラメータでの画像復元処理を行ってもよい。ただし、観察したい試料部に必ずしも隔膜に接触しているとは限らない。その場合に散乱量を調整できるようにしておくために、何らかの散乱量調整部を有してもかまわない。
本実施例で説明した装置構成の場合は、隔膜と試料との間の非真空空間の雰囲気による散乱がないため、より明瞭な画像を取得することが可能となる。さらに、非真空空間の雰囲気に起因する散乱レンズ関数のパラメータをユーザが気にする必要がないためより簡便な画像復元が可能となる。
本実施例では、実施例1から5とは異なり、隔膜が配置されておらず、試料が低真空下などに配置される例を説明する。例えば、低真空領域でSEM観察が実施可能な低真空SEMなどである。なお以下で低真空とは10-1Paから103Pa程度のことをいう。この場合にも、荷電粒子線は、試料に到達するまでに低真空環境下に残っているガスによって散乱される。実施例1から5と比べると散乱される量は少ないが、本実施例の場合もなお上述の画像復元が有効である。
図21を用いて本荷電粒子線装置の一般的な構成要素について説明する。図3と同様な点は説明を割愛する。隔膜10の図中下面側の空間13が低真空空間である。試料は低真空下に配置されている。一般的に荷電粒子線源8の周辺は低真空であることは望ましくないため、荷電粒子線源8の雰囲気は真空ポンプ4と配管16によって高真空(10-1Pa以下)に維持される。筐体7内の気体ガスが荷電粒子源側に入り込むことを極力避けるために、微小穴があいたアパーチャ82などを有している。アパーチャが複数設けられ、多段階で差圧が形成されていてもよい。以下で、低真空空間とはアパーチャ82(アパーチャが複数ある場合は最も試料に近いアパーチャ)から試料6までのことをいう(図中h3部)。
この低真空空間h3の距離(すなわちアパーチャから試料までの距離)は対物レンズからの距離であるワーキングディスタンスに対して相対的に決まっている。アパーチャ82の位置及び対物レンズ303の位置は装置固有であり、対物レンズ303の磁場強度からワーキングディスタンスを把握することは可能である。つまり、試料の位置にかかわらず試料に焦点が合う位置を求めることができる。したがって、低真空空間h3の距離はワーキングディスタンスと相対比較することで把握することが可能となる。
この構成を簡易化して記述すると図21(b)のようになる。前述の実施例と比較すると隔膜10がないので、低真空空間13に対応する散乱レンズ13aが荷電粒子線を散乱させる主要因となる。散乱量は隔膜10から試料6までの距離z(図21(a)ではh3)と低真空空間のガス種aおよびガス圧力P(あるいは密度)、荷電粒子線の照射エネルギーEに依存する。つまり、この場合の低真空空間による散乱レンズ関数(または劣化関数)Aとおくと、散乱レンズ関数は以下で記述される。
A=A(a,P,z,E) ・・・(式11)
また、低真空空間を経由する前の荷電粒子ビーム形状をFとし、低真空空間を経由した後の荷電粒子ビーム形状をGとした場合、以下と記述される。
G=A(a,P,z,E)×F ・・・(式12)
低真空空間に入射されるビーム形状をビーム305とすると、試料6に到達したビーム形状はビーム306のようになる。隔膜による散乱レンズ12aがないために、散乱量は実施例1から実施例5までの装置と比べると散乱荷電粒子によるビームが少ない。つまり、散乱荷電粒子ビーム径d2は小さい。しかしながら、無散乱荷電粒子線によるビーム307と、散乱荷電粒子線によるビーム308を持ったビームとなるので、前述で説明した画像復元法が有用である。
図22に、本実施例における荷電粒子装置の例を示す。この装置では低真空空間13に試料が配置される。筐体7内部のガスが荷電粒子源8に入り込まないように荷電粒子光学鏡筒2の中にアパーチャ82が具備される。筐体7内を低真空の真空度にするために、リークバルブ81と圧力計80が具備される。リークバルブ81は例えば大気側とつながっており、リークバルブの開閉量によって筐体7内に大気ガスをいれることが可能である。また、圧力計80によって圧力が計測できる。リークバルブ81と圧力計80は制御部36と電気的に接続され、真空度の制御はコンピュータ35にて実施することが可能である。また、図示しないが配管16経由でガスが荷電粒子源側に混入されないように複数の真空ポンプを設けられていてもよい。こうした装置において上記と同様の画像復元が可能なデータ処理部を有する。上述した画像復元の処理によって、低真空下で取得される画像の画像復元により画質の改善が可能となる。
図23に、操作画面の一例を示す。図9などと同様な点は説明を割愛する。操作画面700には筐体7内部の真空度を設定し、設定された真空度にすることが可能な真空度設定部733をそなえる。また、画像復元パラメータ設定部705には、低真空空間h3の距離を設定する入力欄734を備える。入力欄734には代わりに試料高さまたは対物レンズとのワーキングディスタンスが入力され、この値を用いて低真空空間h3の距離が求められてもよい。また、真空度を設定する入力欄735も備える。その他の条件としては、加速電圧と倍率が設定される。これにより、画像復元パラメータが決定され、前述の画像復元が可能となる。このようにユーザパラメータが入力したパラメータによって画像復元処理を最適化することができる。
なお、復元対象の画像を呼び出して処理する場合や表示している画像に当該画像取得時の条件を示す情報が付帯している場合は、加速電圧や倍率などの条件は既知であるためユーザが入力する必要がない。また、画像復元処理を行うのが荷電粒子線装置とは別に設置されたコンピュータであっても、画像を取得したときの試料位置やワーキングディスタンス、真空度、加速電圧、画像を取得したときの倍率などの画像取得情報が記述されたファイルを読み込むなどを実施すれば、ユーザが前述したパラメータの全部または一部を入力する手間を省くことが可能となる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。