JP2016145175A - アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、アミロイド線維を分解する分解剤、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬、ならびに、抑制剤および分解剤の製造方法 - Google Patents

アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、アミロイド線維を分解する分解剤、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬、ならびに、抑制剤および分解剤の製造方法 Download PDF

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【課題】 アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、アミロイド線維を分解する分解剤、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬、ならびに、抑制剤および分解剤の製造方法を提供すること。【解決手段】 本発明のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤/アミロイド線維を分解する分解剤は、上述の式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを含む。【選択図】 図4

Description

本発明は、アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、アミロイド線維を分解する分解剤、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬、ならびに、抑制剤および分解剤の製造方法に関する。
高齢化社会に伴い、アルツハイマー病、パーキンソン病等の神経変性疾患の患者数が増加しており、神経変性疾患の症状の進行の抑制、改善、発症の予防等に対するアプローチが積極的に研究されている。
神経変性疾患では、タンパク質やペプチドが繊維状に凝集した難溶性の凝集体(以降では、アミロイド線維と呼ぶ)の形成が認められており、このアミロイド線維の形成が発症に起因しているとされている。
例えば、神経変性疾患の中でも家族性アミロイドポリニューロパチーは、血清タンパク質であるトランスサイレチン(TTR)により形成されたアミロイド線維が起因している。アミロイド線維となる変異TTRの多くが肝臓で生成されることから肝移植治療が行われているが、デンドリマーを用いたアミロイド線維の形成抑制といった治療の有効性が報告されている(例えば、特許文献1を参照。)。
しかしながら、これまでは母体タンパク質であるTTRのアミロイド化の阻害については、TTRの高次構造を安定化するという方針により抑制剤の設計が行われてきたため、特許文献1に記載の物質を含め、形成されたアミロイド線維を分解する物質はなかった。
別の例では、神経変性疾患の中でもアルツハイマー病は、老人班と呼ばれる特徴的な構造物を示す。老人班は、主に、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質により形成されたアミロイド線維に起因することが分かっている。したがって、アルツハイマー病の発症因子の1つは、Aβにより形成されたアミロイド線維の脳への蓄積とされている。
アルツハイマー病の進行の抑制、発症を予防するために、Aβがアミロイド線維を形成するのを抑制する技術、治療薬の開発が盛んである(例えば、非特許文献1、2を参照。)。
非特許文献1によれば、アミノ酸誘導体を含む有機小分子が、Aβがアミロイド線維を形成すること(以降では単にアミロイド化と称する)を阻害し得、アルツハイマー病の進行の抑制・発症の予防に有効とされている。また、非特許文献2によれば、単核金属錯体が、Aβのアミロイド化を阻害し得る。
最近では、アルツハイマー病を改善/治療する治療薬として、アミロイド線維となったAβを分解する、ポリフェノール(−)−エピ−ガロカテキンガラート(EGCG)が開発されている(例えば、非特許文献3を参照。)。
しかしながら、非特許文献1および2に記載のいずれの物質も、形成されたアミロイド線維を分解することは困難であり、神経変性疾患の改善、治療には難しい。また、非特許文献3に記載の物質は、形成されたアミロイド線維を分解することができるが、製造が困難であり、収率が低いといった問題がある。
一方、ペプチド部位に部位特異的に導入された複数の金属錯体からなるペプチド金属錯体アレイが開発された(例えば、非特許文献4を参照。)。非特許文献4によれば、複数の金属錯体が導入されたペプチド金属錯体アレイおよびその製造方法が開示されるが、これらの新しい用途が期待されている。
国際公開第2011/002026号パンフレット
A.Rauk,Chem.Soc.Rev.,2009,38,2698−2715 D.J.Hayneら,Chem.Soc.Rev.,2014,43,6701−6715 J.Bieschkeら,PNAS,2010,107,7710-7715 P.Vairaprakashら,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,759−761
本発明の課題は、アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、アミロイド線維を分解する分解剤、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬、ならびに、抑制剤および分解剤の製造方法を提供することである。
本発明によるアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤/本発明によるアミロイド線維を分解する分解剤は、式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを含み、これにより上記課題を解決する。
前記式(1)において、nは、2以上の自然数であり、Zは、同一または別異の、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体である。
前記Zは、それぞれ、式(2)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体であってもよい。
前記式(2)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
前記Zは、それぞれ、式(3)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体であってもよい。
前記式(3)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
nが3である場合、前記Zは、それぞれ、式(4)で表される金属錯体であってもよい。
前記式(4)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
前記(X)は、同一または別異の、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンであってもよい。
前記アミロイド線維は、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβからなるペプチドを含むタンパク質からなってもよい。
本発明の神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬は、上述のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、または、アミロイド線維を分解する分解剤を含み、これにより上記課題を解決する。
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、家族性アミロイドポリニューロパチー、心筋症、認知症、および、パーキンソン病からなる群から選択される疾患であってもよい。
前記神経変性疾患は、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβからなるペプチドを含むタンパク質からなるアミロイド線維に基づいてもよい。
本発明による上述のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、または、アミロイド線維を分解する分解剤を製造する方法は、ペプチド固相合成法を用い、これにより上記課題を解決する。
前記ペプチド固相合成法は、少なくとも、固相担体に、式(5)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップと、前記導入されたN保護アミノ酸に結合した金属錯体にN保護グルタミン酸エステルを導入するステップと、前記導入されたN保護グルタミン酸エステルに、式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップと、前記導入されたN保護アミノ酸に結合した金属錯体にさらなるN保護グルタミン酸エステルを導入するステップと、前記導入されたさらなるN保護グルタミン酸エステルにトリエチレングリコール鎖を導入するステップと、前記固相担体を切り離すステップとをさらに包含してもよい。
前記式(5)および(6)において、Zは、同一または別異の、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体であり、Proは同一または別異の保護基である。
前記Zは、それぞれ、式(2)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体であってもよい。
前記式(2)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
前記ペプチド固相合成法は、前記式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップ、および、さらなるN保護グルタミン酸エステルを導入するステップを1回以上繰り返すステップをさらに包含してもよい。
本発明による神経変性疾患の予防、治療および/または進展の抑制方法は、上述の医薬を投与する。
前記タンパク質に対する前記水溶性ペプチド金属錯体アレイのモル比は、0.1以上1.0以下を満たし得る。
本発明による抑制剤/分解剤によれば、上述の特定の化学式(1)を満たし、多座配位子と遷移金属イオンとを含む複数の金属錯体を有する水溶性ペプチド金属錯体アレイを含む。この水溶性ペプチド金属錯体アレイは、タンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制し、さらにはアミロイド線維を分解するように作用する。このような抑制剤/分解剤は、神経性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬として有利である。
本発明のペプチド固相合成法を用いた抑制剤または分解剤の製造工程を示すフローチャート 本発明のペプチド固相合成法を用いた抑制剤または分解剤を製造するプロシージャ 比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料の様子を示す図 比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料のTEM観察の結果を示す図 比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料のCDスペクトルを示す図 比較例6、実施例7、比較例8および比較例9の試料の様子を示す図 比較例6および実施例7の試料のTEM観察の結果を示す図 比較例6、実施例7、比較例8および比較例9の試料のCDスペクトルを示す図 比較例10および実施例11の試料のCDスペクトルを示す図 比較例10および実施例11の試料のTEM観察の結果を示す図
以下、本発明の実施の形態を説明する。本願発明者らは、非特許文献4に記載のペプチド金属錯体アレイに着目し、これを用いて鋭意工夫し、適切に改変することにより、アミロイド線維の形成の抑制、ならびに、アミロイド線維の分解に有効であることを見出した。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、アミロイド線維を分解する分解剤、および、その製造方法について説明する。
本発明のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、および、アミロイド線維を分解する分解剤の有効成分である水溶性ペプチド金属錯体アレイは、式(1)で表される。
式(1)において、nは、2以上の自然数であり、Zは、同一または別異の、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体である。なお、Zは、式(1)における繰り返し単位における金属錯体Zを、繰り返し数(n=2、3、4・・・)に合わせて、例えば、Z、Z、Z、Z・・・のように区別するために用いられていることに留意されたい。
本願発明者らは、このような特定の式(1)を満たす水溶性ペプチド金属錯体アレイが、タンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制し、さらには形成したアミロイド線維を分解するように作用することを見出した。
好ましくは、Zは、式(2)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である。式(2)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。Zが、式(2)に記載の金属錯体であれば、アミロイド線維の形成を抑制し、アミロイド線維を分解できる。
例えば、Reを有する金属錯体に配位する(X)は、1価のカウンターアニオンであり、mは1となる。1価のカウンターアニオンは、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンである。ハロゲン化物イオンが塩化物イオンの場合、製造が容易であり得る。
例えば、Ru2+またはPt2+を有する金属錯体に配位する(X)は、1価または2価のカウンターアニオンである。カウンターアニオンがすべて1価である場合には、カウンターアニオンの数であるmは2となり、カウンターアニオンが2価である場合には、mは1となる。1価のカウンターアニオンは、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンである。2価のカウンターアニオンは、例えば、炭酸イオン(CO 2−)、硫酸イオン(SO 2−)等である。
例えば、Rh3+またはIr3+を有する金属錯体に配位する(X)は、1価、2価、3価またはこれらの組み合わせのカウンターアニオンである。カウンターアニオンが1価である場合には、カウンターアニオンの数であるmは3となり、カウンターアニオンが1価と2価との組み合わせである場合には、mは2となり、カウンターアニオンが3価である場合には、mは1となる。1価のカウンターアニオンは、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンである。2価のカウンターアニオンは、例えば、炭酸イオン、硫酸イオン等である。3価のカウンターアニオンは、例えば、リン酸イオン(PO 3−)等である。
より好ましくは、Zは、式(2)で表される金属錯体群のうち式(3)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である。ここでも、式(2)と同様に、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
が、式(3)に記載の金属錯体であれば、上述の水溶性ペプチド金属錯体アレイを高収率で製造できるとともに、アミロイド線維の形成を抑制し、アミロイド線維を分解できる。
さらに好ましくは、式(1)において、nが3(n=3)である場合、Z〜Zは、それぞれ、式(4)で表される金属錯体である。ここでも、式(2)と同様に、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
〜Zが、式(4)で表される金属錯体であれば、上述の水溶性ペプチド金属錯体アレイを高収率で製造できるとともに、アミロイド線維の形成の抑制、ならびに、アミロイド線維の分解を促進できる。
式(4)において、(X)は、好ましくは、同一または別異の、1価のカウンターアニオンであり、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンある。ハロゲン化物イオンであれば特に制限はないが、製造の容易さから、好ましくは、塩化物イオンである。
式(1)において、nが2以上であれば、同様の効果が得られるが、製造の容易さ、収率、および、アミロイド線維に対する抑制・分解の効果の観点からから、nは3が好ましい。
本発明の抑制剤または分解剤は、任意のタンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制し、さらにはそのようなアミロイド線維を分解することができるが、特に、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβからなるペプチドを含むタンパク質がアミロイド線維を形成するのを抑制し、このようなタンパク質からなるアミロイド線維を分解することを得意とする。
本発明の抑制剤または分解剤が、式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを有効成分とする場合、例えば、タンパク質に対する水溶性ペプチド金属錯体アレイのモル比が、0.1以上1.0以下を満たすことが好ましい。この範囲であれば、アミロイド線維の形成を抑制できるとともに、アミロイド線維が分解される。
本発明の抑制剤または分解剤は、有効成分として式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを含有していれば、固体または液体のいずれの形態であってもよい。例えば、薬学上許容される担体または添加剤を配合して、固体または液体状の医薬組成物として調製してもよい。
ここで、非特許文献4に記載のペプチド金属錯体アレイとの差異について述べておく。上述の式(1)の水溶性ペプチド金属錯体アレイは、非特許文献4に記載のペプチド金属錯体アレイに対して、ペプチド部位が異なっている。さらに、非特許文献4に記載のペプチド金属錯体アレイは水溶性を有さないが、上述の式(1)の水溶性ペプチド金属錯体アレイは水溶性を有する。また、非特許文献4では、ペプチド金属錯体アレイのアミロイド線維の形成の抑制あるいは分解については着目しておらず、ペプチド部位の改変によって及ぼす効果については一切開示されていないことに留意されたい。
次に、このような水溶性ペプチド金属錯体アレイを含むアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、または、このような水溶性ペプチド金属錯体アレイを含むアミロイド線維を分解する分解剤の例示的な製造方法について説明する。例えば、本発明の抑制剤または分解剤は、ペプチド固相合成法により製造される。図1および図2を参照して、ペプチド固相合成法を用いた製造方法を詳述する。なお、図1および図2では、簡単のため、上述の式(1)においてn=2である水溶性ペプチド金属錯体アレイの製造方法を詳述する。
図1は、本発明のペプチド固相合成法を用いた抑制剤または分解剤の製造工程を示すフローチャートである。
図2は、本発明のペプチド固相合成法を用いた抑制剤または分解剤を製造するプロシージャである。
本発明の水溶性ペプチド金属錯体アレイを含有する抑制剤または分解剤は、少なくともステップS110〜ステップS160を行うペプチド固相合成法により製造される。各ステップを詳述する。
ステップS110:レジンなどの前処理した固相担体に、式(5)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体(図2)を導入する。例えば、レジンは、9−Fmoc−アミノキサンテン−3−イロキシTGレジン(NovaSyn TG Sieberレジン)であり得る。
式(5)において、Zは、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体であり、式(1)におけるZに相当する。好ましくは、Zは、上述の式(2)の金属錯体群から選択される。これにより、アミロイド線維の形成を抑制し、アミロイド線維を分解できる。さらに好ましくは、Zは、上述の式(3)の金属錯体群から選択される。これにより、アミロイド線維の形成の抑制ならびにアミロイド線維の分解が促進される。さらに好ましくは、Zは、上述の式(3)の金属錯体群のうち、Ru2+を有する金属錯体である。これにより、アミロイド線維の形成の抑制ならびにアミロイド線維の分解が確実に促進される。
式(5)において、Proは保護基であるが、所定の条件下で容易に脱保護できることから、好ましくは、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)である。
ステップS110における金属錯体の例示的な導入手順は、前処理したレジン等の固相担体に、式(5)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体、O−ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N´,N´−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)、ジメチルスルホキシド、塩化メチレン等のハロゲン化メチレン、次いで、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を添加し、撹拌すればよい。
なお、ステップS110において、固相担体に未反応のアミノ基がある場合には反応性を失わせるためにキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングは既存の手順で行われる。
また、ステップS120に先立って、導入された式(5)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体から保護基を除去してもよい。保護基の除去は、保護基の種類に応じて、既存の手順で行われる。例えば、保護基がFmocであれば、ピペリジンを含有する溶液で撹拌することにより容易に除去される。
ステップS120:ステップS110で導入されたN保護アミノ酸に結合した金属錯体(保護基は除去されていてもよい)にN保護グルタミン酸エステルを導入する。このように導入されたN保護グルタミン酸エステルは、後述するステップS160において固相担体を切り離すことにより、カルボン酸へと変化し、ペプチド部位に水溶性を付与するので、タンパク質またはペプチド、あるいは、それらがアミロイド化したアミロイド線維に対する親和性が向上し得る。
ステップS120の例示的な導入手順は、ステップS110で金属錯体が導入された固相担体に、N末端をFmoc、Alloc等の保護基で保護し、カルボン酸をt−ブチル基(tBu)等の保護基で保護したグルタミン酸、HBTU、塩化メチレン等のハロゲン化メチレン、ジメチルスルホキシド、次いで、DIPEAを添加し、撹拌すればよい。
なお、ステップS120において、固相担体に未反応のアミノ基がある場合には反応性を失わせるためにキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングは既存の手順で行われる。
また、ステップS130に先立って、導入されたN末端を保護基で保護されたグルタミン酸エステルから保護基を除去してもよい。保護基の除去は、上述のとおりである。
ステップS130:ステップS110〜S120で得た、金属錯体、グルタミン酸エステルが導入された固相担体に、式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体(図2)を導入する。
式(6)において、Zは、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体であり、式(1)におけるZに相当する。好ましくは、Zは、上述の式(2)の金属錯体群から選択される。これにより、アミロイド線維の形成を抑制し、アミロイド線維を分解できる。さらに好ましくは、Zは、上述の式(3)の金属錯体群から選択される。これにより、アミロイド線維の形成の抑制ならびにアミロイド線維の分解が促進される。さらに好ましくは、Zは、上述の式(3)の金属錯体群のうち、Pt2+を有する金属錯体である。これにより、アミロイド線維の形成の抑制ならびにアミロイド線維の分解が確実に促進される。
式(6)において、Proは保護基であるが、所定の条件下で容易に脱保護できることから、好ましくは、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)である。
ステップS130における金属錯体の導入の手順は、ステップS110のそれと同様である。
なお、ステップS130において、固相担体に未反応のアミノ基がある場合には反応性を失わせるためにキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングは既存の手順で行われる。
また、ステップS140に先立って、導入された式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体から保護基を除去してもよい。保護基の除去は、上述したとおりである。
ステップS140:ステップS130で導入されたN保護アミノ酸に結合した金属錯体(保護基は除去されていてもよい)にさらなるN保護グルタミン酸エステルを導入する。このように導入されたN保護グルタミン酸エステルは、後述するステップS160において固相担体を切り離すことにより、カルボン酸へと変化し、ペプチド部位に水溶性を付与するので、タンパク質またはペプチド、あるいは、それらがアミロイド化したアミロイド線維に対する親和性が向上し得る。ステップS140におけるさらなるN保護グルタミン酸エステルの導入手順は、ステップS120のそれと同様である。
なお、ステップS140において、固相担体に未反応のアミノ基がある場合には反応性を失わせるためにキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングは既存の手順で行われる。
また、ステップS150に先立って、導入されたN末端を保護基で保護されたグルタミン酸エステルから保護基を除去してもよい。保護基の除去は、上述のとおりである。
ステップS150:ステップS140で導入されたさらなるN保護グルタミン酸エステル(保護基は除去されていてもよい)にトリエチレングリコール鎖を導入する。これにより、ペプチド部位がさらに水溶性となるので、タンパク質またはペプチド、あるいは、それらがアミロイド化したアミロイド線維に対する親和性が向上し得る。
ステップS150の例示的な導入手順は、ステップS110〜S140で導入された金属錯体、および、グルタミン酸エステルが導入された固相担体に、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸、HBTU、塩化メチレン等のハロゲン化メチレン、次いで、DIPEAを添加し、撹拌すればよい。
ステップS160:固相担体を切り離す。すなわち、本発明の水溶性ペプチド金属錯体アレイを切り出す。切り離し剤としてトリフルオロ酢酸等の酸が用いられる。このようにして、上述した式(1)においてnが2を満たす水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる抑制剤または分解剤が得られる。また、切り離しにより、導入されたN保護グルタミン酸エステルは、カルボン酸へと変化するので、ペプチド部位に水溶性が付与されることになる。その結果、タンパク質またはペプチド、あるいは、それらがアミロイド化したアミロイド線維に対する親和性を向上させることができる。
上述した式(1)において、nが3以上である水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる抑制剤または分解剤を製造する場合には、ステップS150に先立って、ステップS130の式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップ、および、ステップS140のさらなるN保護グルタミン酸エステルを導入するステップを1回以上繰り返せばよい(図示せず)。
上述した式(1)においてnが3を満たす水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる抑制剤、または、分解剤を得たい場合には、ステップS130およびステップS140を1回だけ繰り返せばよい。この場合、好ましくは、Zは、上述の式(3)の金属錯体群のうち、Rh3+を有する金属錯体である。これにより、アミロイド線維の形成の抑制ならびにアミロイド線維の分解が確実に促進される。
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、および、アミロイド線維を分解する分解剤を含む医薬、ならびに、それを用いた治療方法について説明する。
実施の形態1で説明した本発明の式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを含む、アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、および、アミロイド線維を分解する分解剤は、アミロイド線維に起因するとされる神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬に含有されてもよい。
ここで、本発明の医薬の適用対象となる神経変性疾患は、アルツハイマー病、家族性アミロイドポリニューロパチー、心筋症、認知症、および、パーキンソン病からなる群から選択される疾患である。これらは、主として、アミロイド線維に起因するとされる。
中でも、本発明の医薬は、含有される抑制剤または分解剤が、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβ(Aβ)からなるペプチドを含むタンパク質がアミロイド線維となるのを抑制し、分解するので、TTR(105−115)、および/または、Aβからなるペプチドを含むタンパク質に基づく神経変性疾患に対して、有効である。TTR(105−115)、および/または、Aβからなるペプチドを含むタンパク質に基づく神経変性疾患としては、代表的には、アルツハイマー病、家族性アミロイドポリニューロパチーが知られており、本発明の医薬はこれらの神経変性疾患に有効である。
本発明の医薬は、実施の形態1で説明した本発明の抑制剤または分解剤に加えて、1以上の調剤用添加物を含む。経口投与に適した医薬として、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤等がある。非経口投与に適した医薬として、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム、貼付剤等がある。これらの調剤用添加物としては、乳糖、オリゴ糖等の賦形剤、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、色素、気借財、pH調整剤、安定化剤、粘着剤等がある。
本発明の医薬を、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物等に適用させてもよい。例えば、機能性食品、栄養補助剤、飲食物として使用する場合、本発明の医薬を、甘味料、香辛料、調味料等とともに用いてもよい。この場合、固形状、液体状、ゼリー状等形態を問わない。
本発明の医薬を用いた治療方法としては、本発明の医薬を人に投与すれば、神経変性疾患の予防、治療および/または進展の抑制に有効である。その投与量は、神経変性疾患に寄与するタンパク質に対する医薬中の式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイのモル比が0.1以上1.0以下を満たすことが好ましい。これにより、予防、治療および/または進展の抑制を促進できる。例えば、有効成分量として、成人一日あたり10mg〜10g、より好ましくは、15mg〜5mgである。
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
[実施例1]
実施例1では、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物を、図1および図2を参照して詳述した固相ペプチド合成法を用いて製造した。式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイは、式(1)において、nが3であり、Zが式(4)を満たす場合に相当する。図1および図2を参照し、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイの製造方法を説明する。
固相担体として、9−Fmoc−アミノキサンテン−3−イロキシTGレジン(NovaSyn TG Sieberレジン)用いた。レジンを次の手順で前処理した。レジン(Novabiochem製、0.21mmol/g、27.6μm、130mg)を含有する塩化メチレン懸濁液(1.0mL)にピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。
前処理したレジンに式(8)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体(Ru錯体と呼ぶ)を導入した(図1および図2のステップS110)。
前処理したレジンにRu錯体(55.4μmol、70.2mg)、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N´,N´−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)(83.1μmol、31.6mg)、ジメチルスルホキシド(4.5mL)、塩化メチレン(0.5mL)、および、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(50μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。レジンをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)し、最後に塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、レジンに導入されたRu錯体(以降では、レジンに導入されたものを、簡単のため単にレジンと呼ぶ)上の未反応アミノ基を次の手順でキャッピングした。洗浄後のレジンに安息香酸無水物(1.5mmol、339mg)、N−メチルイミダゾール(1.5mmol、0.12mL)および塩化メチレン(3.0mL)を加え、25℃で2時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、保護基であるFmoc基を次の手順で除去した。洗浄後のレジンにピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。洗浄液中の脱離Fmoc基を吸収スペクトル測定(300nm)により定量した結果、Ru錯体の導入量は20.2μmol(74%)であった。
式(8)で表されるRu錯体にN保護グルタミン酸エステルを導入した(図1および図2のステップS120)。
レジン(詳細には、ステップS110で得られた、保護基Fmoc基が除去されたRu錯体が導入されたレジン)に、N末端をFmoc基、側鎖カルボン酸をtBu基で保護されたグルタミン酸(100.9μmol、44.7mg)、HBTU(151.4μmol、57.6mg)、塩化メチレン(4.5mL)、ジメチルスルホキシド(0.5mL)、および、DIPEA(50μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。これをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、レジン上の未反応アミノ基を次の手順でキャッピングした。洗浄後のレジンに安息香酸無水物(1.5mmol、339mg)、N−メチルイミダゾール(1.5mmol、0.12mL)、塩化メチレン(3.0mL)を加え、25℃で2時間撹拌後、溶液を除去した。レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、保護基であるFmoc基を次の手順で除去した。洗浄後のレジンにピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。洗浄液中の脱離Fmoc基を吸収スペクトル測定(300nm)により定量した結果、グルタミン酸エステルの導入量は19.3μmol(96%)であった。
ステップS120で導入されたN保護グルタミン酸エステルに、式(9)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体(Pt錯体と呼ぶ)を導入した(図1および図2のステップS130)。
レジン(ステップS110〜S120で得られた、保護基Fmoc基が除去された、Ru錯体およびグルタミン酸エステルが導入されたレジン)に、Pt錯体(38.6μmol、36.7mg)、HBTU(57.9μmol、22.0mg)、ジメチルスルホキシド(4.5mL)、塩化メチレン(0.5mL)、および、DIPEA(50μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。レジンをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)し、最後に塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、レジン上の未反応アミノ基を次の手順でキャッピングした。洗浄後のレシンに安息香酸無水物(1.5mmol、339mg)、N−メチルイミダゾール(1.5mmol、0.12mL)、塩化メチレン(3.0mL)を加え、25℃で2時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)で交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、保護基であるFmoc基を次の手順で除去した。洗浄後のレジンにピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0 mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。洗浄液中の脱離Fmoc基を吸収スペクトル測定(300nm)により定量した結果、Pt錯体の導入量は15.6μmol(81%)であった。
式(9)で表されるPt錯体にさらなるN保護グルタミン酸エステルを導入した(図1およびお図2のステップS140)。
レジン(詳細には、ステップS110〜S130で得られた、保護基Fmoc基が除去された、Ru錯体、グルタミン酸エステルおよびPt錯体が導入されたレジン)に、N末端をFmoc基、側鎖カルボン酸をtBu基で保護されたグルタミン酸(78.1μmol、34.6mg)、HBTU(117.2μmol、44.6mg)、塩化メチレン(4.5mL)、ジメチルスルホキシド(0.5mL)、および、DIPEA(50μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。これをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、レジン上の未反応アミノ基を次の手順でキャッピングした。洗浄後のレシンに安息香酸無水物(1.5mmol、339mg)、N−メチルイミダゾール(1.5mmol、0.12mL)、塩化メチレン(3.0mL)を加え、25℃で2時間撹拌後、溶液を除去した。レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、保護基であるFmoc基を次の手順で除去した。洗浄後のレジンにピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。洗浄液中の脱離Fmoc基を吸収スペクトル測定(300nm)により定量した結果、グルタミン酸エステルの導入量は12.9μmol(83%)であった。
上述のステップS130およびS140を1回繰り返した。ただし、ステップS130のPt錯体に代えて、式(10)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体(Rh錯体と呼ぶ)を導入した。すなわち、ステップS140で導入されたN保護グルタミン酸エステルに、式(10)で表されるRh錯体、次いで、さらなるN保護グルタミン酸エステルを導入した。
レジン(ステップS110〜S140で得られた、保護基Fmoc基が除去された、Ru錯体、Pt錯体およびグルタミン酸エステルが導入されたレジン)に、Rh錯体(25.8μmol、24.0mg)、HBTU(38.7μmol、14.7mg)、ジメチルスルホキシド(5.0mL)、および、DIPEA(50μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。レジンをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)し、最後に塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、レジン上の未反応アミノ基を次の手順でキャッピングした。洗浄後のレシンに安息香酸無水物(1.5mmol、339mg)、N−メチルイミダゾール(1.5mmol、0.12mL)、塩化メチレン(3.0mL)を加え、25℃で2時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、保護基であるFmoc基を次の手順で除去した。洗浄後のレジンにピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。次いで、レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。洗浄液中の脱離Fmoc基を吸収スペクトル測定(300nm)により定量した結果、Rh錯体の導入量は11.4μmol(88%)であった。
次いで、さらなるN保護グルタミン酸エステルを次の手順で導入した。レジンに、N末端をFmoc基、側鎖カルボン酸をtBu基で保護されたグルタミン酸(56.9μmol、25.2mg)、HBTU(85.4μmol、32.5mg)、塩化メチレン(4.5mL)、ジメチルスルホキシド(0.5mL)、および、DIPEA (50 μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。これをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、最後に塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、レジン上の未反応アミノ基を次の手順でキャッピングした。洗浄後のレジンに安息香酸無水物(1.5mmol、339mg)、N−メチルイミダゾール(1.5mmol、0.12mL)、塩化メチレン(3.0mL)を加え、25℃で2時間撹拌後、溶液を除去した。レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
次に、保護基であるFmoc基を次の手順で除去した。洗浄後のレジンにピペリジンの25%ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)を加え、25℃で5時間撹拌後、溶液を除去した。レジンをメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、さらに塩化メチレンで洗浄した(3mL×4回)。洗浄液中の脱離Fmoc基を吸収スペクトル測定(300nm)により定量した結果、グルタミン酸エステルの導入量は9.7μmol(85%)であった。
導入されたさらなるN保護グルタミン酸エステルにトリエチレングリコール鎖を導入した(図1およびお図2のステップS150)。
レジン(ステップS110〜S140(繰り返しのステップS130およびS140を含む)で得られた、保護基Fmoc基が除去された、Ru錯体、Pt錯体、Rh錯体およびグルタミン酸エステルが導入されたレジン)に、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(96.8μmol、17.2mg)、HBTU(145.2μmol、55.3mg)、塩化メチレン(5.0mL)、および、DIPEA(50μL)を順番に加え、25℃で12時間撹拌し、溶液をデカンテーションで除去した。これをジメチルスルホキシドで洗浄(3mL×3回)後、さらにメタノール(3.0mL)と塩化メチレン(3.0mL)とで交互に洗浄(3サイクル)後、最後に塩化メチレンで洗浄した(3mL×3回)。
固相担体を切り離した(図1および図2のステップS160)。
レジンをジエチルエーテルで洗浄(4mL×3回)し、乾燥した。塩化メチレン(0.5mL)を加えて、5分間静置後、CFCOH(0.1mL)およびEtSiH(20μL)を含む1,2−ジクロロエタン(1.9mL)を加え、25℃で1時間静置し、溶液をデカンテーションで分離した。この操作を溶液が無色になるまで繰り返し、得られた溶液を全てまとめた後、乾固した。残渣をジメチルスルホキシドに溶解させ、酢酸エチルを加えた。生じた沈殿をろ別し、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥し、赤色固体(7.3mg)が得られた。
マトリックス支援レーザ脱離イオン化法および飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF、ジスラノール)により、この赤色固体が、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイであることを確認した。結果を示す。
MALDI−TOF:C140130Cl2020PtRhRu([M-2Cl−3CFCO)のm/z理論値2881.69、実測値2882.07.
次に、比較例2、実施例3、比較例4および比較例5において、タンパク質またはペプチドのアミロイド線維の形成に対する抑制効果について調べた。
[比較例2]
比較例2では、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))からなるペプチドを含有するタンパク質(以降では単にTTR(105−115)ペプチドと称する)を用い、これのアミロイド線維を得た。
TTR(105−115)ペプチドをアセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=1:9(体積比))に溶かし、HClを添加し、pHを2.0に調整した。この溶液中のペプチドの濃度は800μMであった。この溶液を37℃で14日間保持し、目視観察した。結果を図3(A)に示す。次いで、この溶液の濃度を半分に希釈し、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。結果を図4(A)に示す。この溶液の円偏光2色性(CD)スペクトルを測定し、二次構造を評価した。結果を図5に示す。
[実施例3]
実施例3では、TTR(105−115)を用い、実施例1で得た式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイペプチドからなる組成物(単にRuPtRh錯体アレイと呼ぶ)のアミロイド線維の形成に対する抑制効果を調べた。
TTR(105−115)ペプチドおよびRuPtRh錯体アレイを、アセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=1:9(体積比))に溶かし、HClを添加し、pHを2.0に調整した。ここで、TTR(105−115)ペプチドとRuPtRh錯体アレイとのモル比(TTR(105−115)ペプチド:RuPtRh錯体アレイ)は、8:1であった。すなわち、ペプチド(タンパク質)に対するRuPtRh錯体アレイのモル比は、0.125であった。この溶液中のペプチドの濃度は800μMであった。この溶液を37℃で14日間保持し、目視観察した。結果を図3(B)に示す。次いで、この溶液の濃度を半分に希釈し、TEM観察し、CDスペクトルを測定した。結果を図4(B)および図5に示す。
[比較例4]
比較例4では、TTR(105−115)ペプチドを用い、式(8)で表されるRu錯体(実施例1で用いたRu錯体と同じ)のアミロイド線維の形成に対する抑制効果を調べた。
比較例4は、実施例3のRuPtRh錯体アレイに代えて、Ru錯体を用いた以外は、同様の手順であった。目視観察、TEM観察およびCDスペクトル測定の結果を、図3(C)、図4(C)および図5に示す。
[比較例5]
比較例5では、TTR(105−115)ペプチドを用い、式(11)で表されるPt錯体のアミロイド線維の形成に対する抑制効果を調べた。
比較例5は、実施例3のRuPtRh錯体アレイに代えて、式(11)で表されるPt錯体を用いた以外は、同様の手順であった。目視観察、TEM観察およびCDスペクトル測定の結果を、図3(D)、図4(D)および図5に示す。
以上の比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の実験条件について表1にまとめ、以上の結果を説明する。

図3は、比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料の様子を示す図である。
図3(A)〜(D)は、それぞれ、比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料の様子である。図3ではグレースケールで示すため、明瞭ではないが、図3(A)、(C)および(D)は、繊維状会合体を示したが、図3(B)は、繊維状会合体を示すことなく、透明であった。
図4は、比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料のTEM観察の結果を示す図である。
図4(A)〜(D)は、それぞれ、比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料のTEM観察の結果である。図4(A)、(C)および(D)は、ナノスケールの太さを有する繊維構造を示したが、図4(B)は、繊維構造を示さなかった。
図5は、比較例2、実施例3、比較例4および比較例5の試料のCDスペクトルを示す図である。
比較例2、比較例4および比較例5の試料のCDスペクトルは、いずれも、βシート構造特有のパターンを示した。このことは、比較例2、比較例4および比較例5の試料では、TTR(105−115)ペプチドのアミロイド化が、βシート構造の形成を介して進んでいることを示唆している。一方、実施例3の試料のCDスペクトルは、ランダムコイル構造特有のパターンを示した。このことは、実施例3の試料では、TTR(105−115)ペプチドのアミロイド化が二次構造レベルで抑制されていることを示す。
以上の結果から、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物は、タンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制する抑制剤として機能するこを確認した。
また、実施例3と比較例4および5とを比較すれば、任意の金属錯体にはタンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制する効果はないが、複数の任意の金属錯体が特定の水溶性ペプチド部位に結合することによって、抑制効果を発揮し得ることが示唆される。このことは、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイの一般式である式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物においても同様に抑制剤として機能することを示す。
次に、比較例6、実施例7、比較例8および比較例9において、タンパク質またはペプチドからなるアミロイド線維に対する分解効果について調べた。
[比較例6]
比較例6では、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))からなるペプチドを含有するタンパク質を用い、これのアミロイド線維を得た。
TTR(105−115)ペプチドをアセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=1:9(体積比))に溶かし、HClを添加し、pHを2.0に調整した。この溶液中のペプチドの濃度は1600μMであった。この溶液を37℃で26日間保持し、アミロイド線維を形成した。
この試料を4分割し、そのうち1つを、同量のアセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=1:9(体積比))で希釈した。この溶液中のペプチドの濃度は800μMであった。この溶液をさらに37℃で14日間保持し、目視観察した。結果を図6(A)に示す。次いで、この溶液の濃度を半分に希釈し、TEM観察およびCDスペクトル測定をした。結果を図7(A)および図8に示す。
[実施例7]
実施例7では、TTR(105−115)ペプチドを用い、実施例1で得た式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物(単にRuPtRh錯体アレイと呼ぶ)のアミロイド線維に対する分解効果を調べた。
比較例6において4分割したうちの1つに、RuPtRh錯体アレイ、および、アセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=1:9(体積比)、pH=2.0)を添加した。この溶液中のペプチドの濃度およびRuPtRh錯体アレイの濃度は、それぞれ、800μMおよび200μMであった。すなわち、ペプチド(タンパク質)に対するRuPtRh錯体アレイのモル比は、0.25であった。この溶液を37℃で14日間保持し、目視観察した。結果を図6(B)に示す。次いで、この溶液の濃度を半分に希釈し、TEM観察し、CDスペクトルを測定した。結果を図7(B)および図8に示す。
[比較例8]
比較例8では、TTR(105−115)ペプチドを用い、式(8)で表されるRu錯体のアミロイド線維に対する分解効果を調べた。
比較例8は、実施例7のRuPtRh錯体アレイに代えて、Ru錯体を用いた以外は、同様の手順であった。目視観察およびCDスペクトル測定の結果を、図6(C)および図8に示す。
[比較例9]
比較例9では、TTR(105−115)ペプチドを用い、式(11)で表されるPt錯体のアミロイド線維に対する分解効果を調べた。
比較例9は、実施例7のRuPtRh錯体アレイに代えて、式(11)で表されるPt錯体を用いた以外は、同様の手順であった。目視観察およびCDスペクトル測定の結果を、図6(D)および図8に示す。
以上の比較例6、実施例7、比較例8および比較例9の実験条件について表2にまとめ、以上の結果を説明する。

図6は、比較例6、実施例7、比較例8および比較例9の試料の様子を示す図である。
図6(A)〜(D)は、それぞれ、比較例6、実施例7、比較例8および比較例9の試料の様子である。図6ではグレースケールで示すため、明瞭ではないが、図6(A)、(C)および(D)は、形成された繊維状会合体に変化はなかったが、図6(B)は、形成された繊維状会合体が減少し、より透明であった。
図7は、比較例6および実施例7の試料のTEM観察の結果を示す図である。
図7(A)および(B)は、それぞれ、比較例6および実施例7の試料のTEM観察の結果である。図7(A)は、ナノスケールの太さを有する繊維構造を示したが、図7(B)は、繊維構造を示さなかった。
図8は、比較例6、実施例7、比較例8および比較例9の試料のCDスペクトルを示す図である。
比較例6、比較例8および比較例9の試料のCDスペクトルは、いずれも、βシート構造特有のパターンを示した。このことは、比較例6、比較例8および比較例9の試料では、βシート構造の形成を介してTTR(105−115)ペプチドのアミロイド線維が形成されていることを示唆している。一方、実施例7の試料のCDスペクトルは、ランダムコイル構造特有のパターンを示した。このことは、実施例7の試料では、TTR(105−115)ペプチドからなるアミロイド線維の分解が二次構造レベルで生じていることを示す。

上述したように、これまでは母体タンパク質であるTTRのアミロイド化阻害については、TTRの高次構造を安定化するという方針で抑制剤の設計が行われてきたため、形成されたアミロイド線維は分解されなかった。これに対し、注目すべきは、本発明の水溶性ペプチド金属錯体アレイはβシート構造をランダムコイル構造に変化させる能力を有しており、アミロイド線維を分解することができる点にある。
以上の結果から、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物は、タンパク質またはペプチドからなるアミロイド線維を分解する分解剤として機能するこを確認した。
また、実施例7と比較例8および9とを比較すれば、任意の金属錯体にはタンパク質またはペプチドからなるアミロイド線維を分解する効果はないが、複数の任意の金属錯体が特定の水溶性ペプチド部位に結合することによって、分解効果を発揮し得ることが示唆される。このことは、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイの一般式である式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物においても同様に分解剤として機能することを示す。
次に、比較例10および実施例11において、別のタンパク質またはペプチドのアミロイド線維の形成に対する抑制効果について調べた。
[比較例10]
比較例10では、アミロイドβ(Aβ)ペプチド(1−42)を含有するタンパク質(以降では単にAβ(1−42)ペプチドと称する)を用い、これのアミロイド線維を得た。
Aβ(1−42)ペプチドを0.1%アンモニア水に溶解し、0.5mMの溶液を調整した。この溶液をアセトニトリルとリン酸バッファーとの混合溶媒(アセトニトリル:リン酸バッファー=1:19(体積比))で希釈し、20μMの溶液(pH=7.4)とした。この溶液を25℃で24時間保持し、CDスペクトルを測定した。結果を図9に示す。さらにこの溶液を25℃で9日間保持し、TEM観察をした。結果を図10(A)に示す。
[実施例11]
実施例11では、Aβ(1−42)ペプチドを用い、実施例1で得た式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物(単にRuPtRh錯体アレイと呼ぶ)のアミロイド線維の形成に対する抑制効果を調べた。
Aβ(1−42)ペプチドとRuPtRh錯体アレイとを0.1%アンモニア水に溶解し、0.5mMの溶液を調整した。ここで、Aβ(1−42)とRuPtRh錯体アレイとのモル比(Aβ(1−42):RuPtRh錯体アレイ)は、2:1であった。すなわち、ペプチド(タンパク質)に対するRuPtRh錯体アレイのモル比は、0.5であった。この溶液をアセトニトリルとリン酸バッファーとの混合溶媒(アセトニトリル:リン酸バッファー=1:19(体積比))で希釈し、20μMの溶液(pH=7.4)とした。この溶液を25℃で24時間保持し、CDスペクトルを測定した。結果を図9に示す。さらにこの溶液を25℃で9日間保持し、TEM観察をした。結果を図10(B)に示す。
図9は、比較例10および実施例11の試料のCDスペクトルを示す図である。
比較例10の試料のCDスペクトルは、βシート構造特有のパターンを示しており、Aβ(1−42)ペプチドのアミロイド化が、βシート構造の形成を介して進んでいることを示唆している。一方、実施例11の試料のCDスペクトルは、ランダムコイル構造特有のパターンを示した。このことは、実施例11の試料では、Aβ(1−42)ペプチドのアミロイド化が二次構造レベルで抑制されていることを示す。
図10は、比較例10および実施例11の試料のTEM観察の結果を示す図である。
図10(A)および(B)は、それぞれ、比較例10および実施例11の試料のTEM観察の結果である。図10(A)は、ナノスケールの太さを有する繊維構造を示したが、図10(B)は、繊維構造を示さなかった。
以上の結果から、式(7)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイからなる組成物は、タンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制する抑制剤として機能するこを確認した。
実施例3、実施例7および実施例11の結果から、本発明の組成物によるアミロイド線維の形成の抑制/分解の効果は、特定のタンパク質またはペプチドに限るものではなく、任意のタンパク質またはペプチドに対して同様に効果を発揮することが示唆される。
また、本発明の組成物は、タンパク質またはペプチドのアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、ならびに、アミロイド線維を分解する分解剤として機能することから、本発明の組成物を含有する医薬は、アミロイド線維に起因する神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制し得ることが示された。
本発明の抑制剤/分解剤は、タンパク質またはペプチドがアミロイド線維を形成するのを抑制し、さらにはアミロイド線維を分解するよう作用するので、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制に有効であり、このような抑制剤/分解剤を用いた医薬、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物にも有利である。

Claims (19)

  1. 式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを含む、アミロイド線維の形成を抑制する抑制剤。

    前記式(1)において、nは、2以上の自然数であり、Zは、同一または別異の、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体である。
  2. 前記Zは、それぞれ、式(2)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である、請求項1に記載の抑制剤。

    前記式(2)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  3. 前記Zは、それぞれ、式(3)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である、請求項2に記載の抑制剤。

    前記式(3)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  4. nが3である場合、前記Zは、それぞれ、式(4)で表される金属錯体である、請求項3に記載の抑制剤。

    前記式(4)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  5. 前記(X)は、同一または別異の、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンである、請求項4に記載の抑制剤。
  6. 前記アミロイド線維は、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβからなるペプチドを含むタンパク質からなる、請求項1に記載の抑制剤。
  7. 式(1)で表される水溶性ペプチド金属錯体アレイを含む、アミロイド線維を分解する分解剤。

    前記式(1)において、nは、2以上の自然数であり、Zは、同一または別異の、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体である。
  8. 前記Zは、それぞれ、式(2)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である、請求項7に記載の分解剤。

    前記式(2)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  9. 前記Zは、それぞれ、式(3)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である、請求項8に記載の分解剤。

    前記式(3)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  10. nが3である場合、前記Zは、それぞれ、式(4)で表される金属錯体である、請求項9に記載の分解剤。

    前記式(4)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  11. 前記(X)は、同一または別異の、ハロゲン化物イオンまたはトリフルオロ酢酸イオンである、請求項10に記載の分解剤。
  12. 前記アミロイド線維は、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβからなるペプチドを含むタンパク質からなる、請求項7に記載の分解剤。
  13. 請求項1〜6のいずれかに記載のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、または、請求項7〜12のいずれかに記載のアミロイド線維を分解する分解剤を含む、神経変性疾患の予防、治療および/または進展抑制のための医薬。
  14. 前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、家族性アミロイドポリニューロパチー、心筋症、認知症、および、パーキンソン病からなる群から選択される疾患である、請求項13に記載の医薬。
  15. 前記神経変性疾患は、トランスサイレチンの105−115残基(TTR(105−115))、および/または、アミロイドβからなるペプチドを含むタンパク質からなるアミロイド線維に基づく、請求項13に記載の医薬。
  16. ペプチド固相合成法を用いて、請求項1〜6のいずれかに記載のアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤、または、請求項7〜12のいずれかに記載のアミロイド線維を分解する分解剤を製造する方法。
  17. 前記ペプチド固相合成法は、少なくとも
    固相担体に、式(5)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップと、
    前記導入されたN保護アミノ酸に結合した金属錯体にN保護グルタミン酸エステルを導入するステップと、
    前記導入されたN保護グルタミン酸エステルに、式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップと、
    前記導入されたN保護アミノ酸に結合した金属錯体にさらなるN保護グルタミン酸エステルを導入するステップと、
    前記導入されたさらなるN保護グルタミン酸エステルにトリエチレングリコール鎖を導入するステップと、
    前記固相担体を切り離すステップと
    をさらに包含する、請求項16に記載の方法。

    前記式(5)および(6)において、Zは、同一または別異の、多座配位子と遷移金属イオンとを含む金属錯体であり、Proは同一または別異の保護基である。
  18. 前記Zは、それぞれ、式(2)で表される金属錯体群から選択される、同一または別異の金属錯体である、請求項17に記載の方法。

    前記式(2)において、(X)は、同一または別異の、1価、2価および3価からなる群から選択されるカウンターアニオンであり、mは、金属イオンに配位するカウンターアニオンの数であり、1以上の自然数である。
  19. 前記ペプチド固相合成法は、前記式(6)で表されるN保護アミノ酸に結合した金属錯体を導入するステップ、および、さらなるN保護グルタミン酸エステルを導入するステップを1回以上繰り返すステップをさらに包含する、請求項17に記載の方法。
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