JP2016140346A - 脂肪組織由来間葉系幹細胞の選別法 - Google Patents
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Abstract
【課題】医療用材料として有用な脂肪組織由来間葉系幹細胞の臨床応用を図るべく、移植に一層適した高品質の脂肪組織由来間葉系幹細胞を提供することを課題とする。
【解決手段】低血清条件下で培養して得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞について組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を基準値と比較する。基準値よりも低い値を示した場合に高品質の細胞であると判定する。
【選択図】図4
【解決手段】低血清条件下で培養して得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞について組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を基準値と比較する。基準値よりも低い値を示した場合に高品質の細胞であると判定する。
【選択図】図4
Description
本発明は脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)を選別する技術に関する。詳しくは、ASCの選別法、及びそれによって得られる高品質のASCの利用に関する。
様々な細胞に分化することが可能な多分化能幹細胞を利用して、損傷を受けた組織を再建しようとする試みが世界的な規模で行われている。例えば、多分化能幹細胞の一つである間葉系幹細胞(MSCs)は骨細胞、軟骨細胞、心筋細胞など、様々な細胞への分化能を有し、その臨床応用に注目が集まっている。骨髄由来の間葉系幹細胞(BM-MSC)については臨床応用された例もあり、その有用性が裏付けられている。
一方、簡便な操作で大量に採取が可能であることや採取の際の患者への負荷が少ないことなどの理由から、骨髄よりも脂肪組織の方が間葉系幹細胞源として有望であると考えられ、その臨床応用への期待が高まっている。実際、ASCの臨床応用に向け、様々な試みが行われている。
ASCの特性に関してTatsumiらは、培養したASCの表面に発現する組織因子(Tissue Factor;TF。別称はCD142)が肺塞栓を引き起こす要因となることを報告するとともに、その対策として抗凝固因子の使用や、全身投与ではなく局所投与によるASCの移植を提案している(非特許文献1)。
本発明者らの研究グループはASCの可能性に注目し、その特性や有用性について研究を行ってきた。その成果の一つとして、従来の条件(血清が高濃度に存在する条件)で培養して得られた細胞群(本明細書において高血清培養ASC又はHASCとも呼ぶ)に比べ、低血清培養で調製した細胞群(本明細書において低血清培養ASC又はLASCとも呼ぶ)がより優れた特性ないし活性を示し、各種疾患の治療に適したものであることを報告した(特許文献1、2)。
Biochemical and Biophysical Research Communication 431 (2013) 203-209
本発明の課題は、医療用材料として有用な脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)の臨床応用を図るべく、移植(生体への投与)に一層適した高品質のASCを提供することにある。
上記課題の下で検討を進める中、本発明者らは組織因子(TF)に着目し、高血清培養ASCと低血清培養ASCとの間でTF発現量を比較した。その際、移植実績が多く、安全性が高いと考えられる骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)のTF発現量も比較することにした。検討の結果、幅はあるものの低血清培養ASCのTF発現量は概ね低い値を示した。また、BM-MSCのTF発現量は最も低いものであった。これらの結果から、ASCにおけるTF発現量は肺塞栓や血管閉塞の有用且つ重要な指標となり、高血清培養ASCよりも有用性の高い低血清培養ASCをTF発現量で選別すれば、一層高品質の移植用細胞が得られ、移植時の肺塞栓や血管閉塞のリスクが低減される(換言すれば治療成績が向上する)と考えられた。本発明者らは更に検討を進め、高血清培養ASCのTF発現量と低血清培養ASCのTF発現量を各々統計学的に解析し、比較した。その結果として、低血清培養ASCを選別する際の基準(カットオフ値)を特定することに成功した。以上の成果及び考察に基づき、次の発明が提供される。
[1]以下のステップ(1)〜(3)を含む、脂肪組織由来間葉系幹細胞の選別法:
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、を用意するステップ、
(2)ステップ(1)で用意した細胞の組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を算出するステップ、
(3)ステップ(2)で算出した値を基準値と比較し、基準値よりも低い場合に前記細胞が高品質であると判定するステップ。
[2]前記基準値が2.5〜3.5の範囲内にある、[1]に記載の選別法。
[3]前記基準値が3.27である、[1]に記載の選別法。
[4]前記ステップ(3)で高品質と判定された細胞は全身投与に適する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の選別法。
[5]前記低血清条件が、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下の条件である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の選別法。
[6][1]〜[5]のいずれか一項に記載の選別法によって高品質であると判定された細胞を回収し、製剤化するステップを含む、細胞製剤の調製法。
[7][1]〜[5]のいずれか一項に記載の選別法によって高品質であると判定された細胞を含む、細胞製剤。
[1]以下のステップ(1)〜(3)を含む、脂肪組織由来間葉系幹細胞の選別法:
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、を用意するステップ、
(2)ステップ(1)で用意した細胞の組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を算出するステップ、
(3)ステップ(2)で算出した値を基準値と比較し、基準値よりも低い場合に前記細胞が高品質であると判定するステップ。
[2]前記基準値が2.5〜3.5の範囲内にある、[1]に記載の選別法。
[3]前記基準値が3.27である、[1]に記載の選別法。
[4]前記ステップ(3)で高品質と判定された細胞は全身投与に適する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の選別法。
[5]前記低血清条件が、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下の条件である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の選別法。
[6][1]〜[5]のいずれか一項に記載の選別法によって高品質であると判定された細胞を回収し、製剤化するステップを含む、細胞製剤の調製法。
[7][1]〜[5]のいずれか一項に記載の選別法によって高品質であると判定された細胞を含む、細胞製剤。
脂肪組織由来間葉系幹細胞はASC(Adipose-derived stem cells)、ADRC(Adipose-derived regeneration cells)、AT-MSC(Adipose Tissue-derived mesenchymal stem cells)、AD-MSC(Adipose-derived mesenchymal stem cells)等とも呼ばれる。本明細書では以下の用語、即ち、脂肪組織由来間葉系幹細胞、ASC、ADRC、AT-MSC、AD-MSCを相互に置換可能に使用する。本明細書において「脂肪組織由来間葉系幹細胞」とは、脂肪組織に含まれる体性幹細胞のことをいうが、多分化能を維持している限りにおいて、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる細胞も「脂肪組織由来間葉系幹細胞」に該当するものとする。
「低血清培養によって得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞」を「低血清培養ASC」又は「LASC」と略称することがある。同様に、「従来の条件(血清が高濃度に存在する条件)で培養して得られた脂肪組織由来間葉系幹細胞」を「高血清培養ASC」又は「HASC」と略称することがある。
本発明の第1の局面は脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)の選別法に関する。本発明の選別法によれば高品質のASCを得ることが可能になる。本明細書において「高品質」とは、移植に一層適したものであることを意味する。高品質のASCは移植に伴う肺塞栓や血管閉塞の危険性(リスク)が少なく、治療効果の増大及び副作用の低減をもたらす。
本発明の選別法では、大別して以下のステップ(1)〜(3)をこの順序で行う。
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、を用意するステップ
(2)ステップ(1)で用意した細胞の組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を算出するステップ
(3)ステップ(2)で算出した値を基準値と比較し、基準値よりも低い場合に前記細胞が高品質であると判定するステップ
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、を用意するステップ
(2)ステップ(1)で用意した細胞の組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を算出するステップ
(3)ステップ(2)で算出した値を基準値と比較し、基準値よりも低い場合に前記細胞が高品質であると判定するステップ
1.ステップ1(低血清培養ASCの用意)
ステップ(1)では、選別に供するASC、即ち、低血清培養を経て調製されたASC(LASC)を用意する。通常、低血清培養ASCは、生体から分離された脂肪組織を出発材料とし、細胞集団(脂肪組織に由来する、ASC以外の細胞を含み得る)を構成する細胞として「単離された状態」に調製される。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。
ステップ(1)では、選別に供するASC、即ち、低血清培養を経て調製されたASC(LASC)を用意する。通常、低血清培養ASCは、生体から分離された脂肪組織を出発材料とし、細胞集団(脂肪組織に由来する、ASC以外の細胞を含み得る)を構成する細胞として「単離された状態」に調製される。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。
<低血清培養ASCの調製法>
低血清培養ASCは、脂肪基質からの分離・調製される幹細胞を低血清条件下で培養して得られる。低血清培養に供するASCの調製法は特に限定されない。例えば公知の方法(Fraser JK et al. (2006) “Fat tissue: an underappreciated source of stem cells for biotechnology.” Trends in Biotechnology; Apr;24(4):150-4. Epub 2006 Feb 20. Review.; Zuk PA et al. (2002) “Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells.”Molecular Biology of the Cell; Dec;13(12):4279-95.; Zuk PA et al. (2001) “Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies.” Tissue Engineering; Apr;7(2):211-28.等が参考になる)に従ってASCを調製することができる。また、脂肪組織からASCを調製するための装置(例えば、Celution(登録商標)装置(サイトリ・セラピューティクス社、米国、サンディエゴ))も市販されており、当該装置を利用してASCを調製することにしてもよい。当該装置を利用すると、脂肪組織より、細胞表面マーカーCD29及びCD44陽性の細胞を分離できる。以下、低血清培養ASCの調製法の具体例を示す。
低血清培養ASCは、脂肪基質からの分離・調製される幹細胞を低血清条件下で培養して得られる。低血清培養に供するASCの調製法は特に限定されない。例えば公知の方法(Fraser JK et al. (2006) “Fat tissue: an underappreciated source of stem cells for biotechnology.” Trends in Biotechnology; Apr;24(4):150-4. Epub 2006 Feb 20. Review.; Zuk PA et al. (2002) “Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells.”Molecular Biology of the Cell; Dec;13(12):4279-95.; Zuk PA et al. (2001) “Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies.” Tissue Engineering; Apr;7(2):211-28.等が参考になる)に従ってASCを調製することができる。また、脂肪組織からASCを調製するための装置(例えば、Celution(登録商標)装置(サイトリ・セラピューティクス社、米国、サンディエゴ))も市販されており、当該装置を利用してASCを調製することにしてもよい。当該装置を利用すると、脂肪組織より、細胞表面マーカーCD29及びCD44陽性の細胞を分離できる。以下、低血清培養ASCの調製法の具体例を示す。
(A)脂肪組織からの細胞集団の調製
脂肪組織は動物から切除、吸引などの手段で採取される。ここでの用語「動物」はヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)を含む。免疫拒絶の問題を回避するため、本発明を利用して得られた細胞集団を適用する対象(患者)と同一の個体から脂肪組織(自己脂肪組織)を採取することが好ましい。但し、同種の動物の脂肪組織(他家)又は異種動物の脂肪組織の使用を妨げるものではない。
脂肪組織は動物から切除、吸引などの手段で採取される。ここでの用語「動物」はヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)を含む。免疫拒絶の問題を回避するため、本発明を利用して得られた細胞集団を適用する対象(患者)と同一の個体から脂肪組織(自己脂肪組織)を採取することが好ましい。但し、同種の動物の脂肪組織(他家)又は異種動物の脂肪組織の使用を妨げるものではない。
脂肪組織として皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため、採取の際の患者への負担が少なく、好ましい細胞源といえる。通常は一種類の脂肪組織を用いるが、二種類以上の脂肪組織を併用することも可能である。また、複数回に分けて採取した脂肪組織(同種の脂肪組織でなくてもよい)を混合し、以降の操作に使用してもよい。脂肪組織の採取量は、ドナーの種類や組織の種類、或いは必要とされるASCの量を考慮して定めることができ、例えば0.5〜500g程度である。ヒトをドナーとする場合にはドナーへの負担を考慮して一度に採取する量を約10〜20g以下にすることが好ましい。採取した脂肪組織は、必要に応じてそれに付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、以下の酵素処理に供される。尚、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分を除去することができる。
酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ等の酵素によって消化することにより行う。このような酵素処理は当業者に既知の手法及び条件により実施すればよい(例えば、R.I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A John Wiley & Sones Inc., Publication参照)。好ましくは、後述の実施例に記載の手法及び条件によってここでの酵素処理を行う。以上の酵素処理によって得られた細胞集団は、多分化能幹細胞、内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、及び/又はこれらの前駆細胞等を含む。細胞集団を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類に依存する。
(B)沈降細胞集団(SVF画分:stromal vascular fractions)の取得
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1〜10分間、800〜1500rpmである。尚、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団をろ過等に供し、その中に含まれる酵素未消化組織等を除去しておくことが好ましい。
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1〜10分間、800〜1500rpmである。尚、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団をろ過等に供し、その中に含まれる酵素未消化組織等を除去しておくことが好ましい。
ここで得られた「SVF画分」はASCを含む。SVF画分を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類、酵素処理の条件などに依存する。また、SVF画分は、CD34陽性且つCD45陰性の細胞集団と、CD34陰性且つCD45陽性の細胞集団を含む点によって特徴付けられる(国際公開第2006/006692A1号パンフレット)。
(C)接着性細胞(ASC)の選択培養及び細胞の回収
SVF画分にはASCの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞等)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をASCとして低血清培養に供する。
SVF画分にはASCの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞等)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をASCとして低血清培養に供する。
まず、SVF画分を適当な培地に懸濁した後、培養皿に播種し、一晩培養する。培地交換によって浮遊細胞(非接着性細胞)を除去する。その後、適宜培地交換(例えば3日に一度)をしながら培養を継続する。必要に応じて継代培養を行う。継代数は特に限定されない。尚、培養用の培地には、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMED:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(シグマ等))を使用することができる。血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、ウマ血清など)又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加した培地を使用することにしてもよい。血清又は血清代替物の添加量は例えば5%(v/v)〜30%(v/v)の範囲内で設定可能である。
以上の操作によって接着性細胞が選択的に生存・増殖する。続いて、増殖した細胞を回収する。回収操作は常法に従えばよく、例えば酵素処理(トリプシンやディスパーゼ処理)後の細胞をセルスクレーパーやピペットなどで剥離することによって容易に回収することができる。また、市販の温度感受性培養皿などを用いてシート培養した場合は、酵素処理をせずにそのままシート状に細胞を回収することも可能である。このようにして回収した細胞(ASC)を用いることにより、有効な細胞を高純度で含有する細胞集団を調製することができる。
(D)低血清培養(低血清培地での選択的培養)及び細胞の回収
次に低血清培養を行う。低血清培養では、SVF画分((C)の後にこの工程を実施する場合には(C)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多分化能幹細胞(即ちASC)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明を利用して得られた細胞集団を投与する対象(患者)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。自己血清を使用することによって、製造工程中から異種動物材料を排斥し、安全性が高く且つ高い治療効果を期待できる細胞集団が提供される。ここでの「低血清条件下」とは5%以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(V/V)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(V/V)以下の血清と1〜100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2(bFGF)を含有する培養液中で細胞培養する。
次に低血清培養を行う。低血清培養では、SVF画分((C)の後にこの工程を実施する場合には(C)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多分化能幹細胞(即ちASC)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明を利用して得られた細胞集団を投与する対象(患者)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。自己血清を使用することによって、製造工程中から異種動物材料を排斥し、安全性が高く且つ高い治療効果を期待できる細胞集団が提供される。ここでの「低血清条件下」とは5%以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(V/V)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(V/V)以下の血清と1〜100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2(bFGF)を含有する培養液中で細胞培養する。
血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清やウマ血清等を用いることができる。好ましくはヒト血清、更に好ましくは本発明を適用して得られた細胞集団を適用する対象の血清(即ち自己血清)を用いる。
培地は、使用の際に含有する血清量が低いことを条件として、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMED:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(シグマ)等を使用することができる。
以上の方法で培養することによってASCを選択的に増殖させることができる。また、上記の培養条件で増殖するASCは高い増殖活性を持つので、継代培養によって、移植に必要とされる数の細胞を容易に調製することができる。尚、SVF画分を低血清培養することによって選択的に増殖する細胞はCD13、CD90及びCD105陽性であり、CD31、CD34、CD45、CD106及びCD117陰性である(国際公開第2006/006692A1号パンフレット)。
続いて、上記の低血清培養によって選択的に増殖した細胞を回収する。回収操作は上記(C)の場合と同様に行えばよい。
(B)で得られた細胞集団(SVF画分)を直接、低血清培養に供することにしてもよい。即ちこの態様では(C)(選択培養)を省略する。一方、SVF画分を従来法(高血清条件下)で数回継代培養した後に低血清条件下で培養して得られる細胞も低血清培養ASCとして用いることが可能である。
以上の方法では、SVF画分を低血清培養して低血清培養ASCを調製するが、脂肪組織から得た細胞集団を直接(SVF画分を得るための遠心処理を介することなく)低血清培養して低血清培養ASCを得ることにしてもよい。即ち、本発明の一態様では、脂肪組織から得た細胞集団を低血清培養したときに増殖した細胞を低血清培養ASCとして用いる。
後述のように、本発明を適用して選別された細胞は、例えば、免疫機能の抑制が予防効果又は治療効果をもたらす各種用途に用いることができる。当該用途への使用を予定している場合には、免疫抑制能を高めるため、追加の培養工程として、免疫抑制能を増強する物質、例えばインターフェロンγ(IFN-γ)、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-12、IL-18、TNF-αおよびLPS(リポポリサッカライド)等を用いて、低血清培養によって増殖した細胞を刺激するとよい。即ち、好ましい態様では、低血清培養で増殖した細胞を刺激して免疫抑制能を高めておく。免疫抑制能を増強する物質の使用量(培地への添加量)は適宜設定可能である。一例として、IFN-γであれば例えば100〜1000 IU/mLの濃度で使用するとよい。また、ここでの培養の長さ(培養時間)は特に限定されない。例えば1時間〜24時間、培養することにする。その他の培養条件は低血清培養の場合に準ずればよい。尚、当該培養工程のことを本明細書では免疫抑制能増強工程と呼ぶ。
2.ステップ2(組織因子の検出)
ステップ(1)に続くステップ(2)では、低血清培養ASCをフローサイトメトリーに供し、組織因子(TF)の発現を検出する。組織因子はCD142とも呼ばれ、凝固系で重要な役割を果たす。フローサイトメトリー解析のための装置は例えば日本ベクトン・ディッキンソン株式会社、ベックマン・コールター株式会社などから販売されており、本発明ではこれらを利用することができる。基本的な操作法、解析条件などは装置に添付の取扱説明書に従えばよい。また、フローサイトメトリー解析に関する論文や成書も数多く存在し、例えば、Cao TM, et al. Cancer. 2001 Jun 15;91(12):2205-13.、Storek KJ, et al. Blood 97: 3380-3389、WEIR’S HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY Vol.II <Blackwell Science>、Little MT and R. Storb Nture Reviews Cancer 2002 2: 231-238等が参考になる。
ステップ(1)に続くステップ(2)では、低血清培養ASCをフローサイトメトリーに供し、組織因子(TF)の発現を検出する。組織因子はCD142とも呼ばれ、凝固系で重要な役割を果たす。フローサイトメトリー解析のための装置は例えば日本ベクトン・ディッキンソン株式会社、ベックマン・コールター株式会社などから販売されており、本発明ではこれらを利用することができる。基本的な操作法、解析条件などは装置に添付の取扱説明書に従えばよい。また、フローサイトメトリー解析に関する論文や成書も数多く存在し、例えば、Cao TM, et al. Cancer. 2001 Jun 15;91(12):2205-13.、Storek KJ, et al. Blood 97: 3380-3389、WEIR’S HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY Vol.II <Blackwell Science>、Little MT and R. Storb Nture Reviews Cancer 2002 2: 231-238等が参考になる。
フローサイトメトリーの典型的な操作手順を以下に示す。細胞と標識抗体(コントロールではアイソタイプ抗体)を反応させ、細胞を蛍光標識化する。細胞表面に存在する抗原(TF)の量に応じて、結合する標識抗体量に差が生じる結果、細胞の蛍光標識量が異なることになる。従って、蛍光強度を測定することによって当該細胞の表面に存在する抗原(TF)の量を推定することができる。蛍光強度の検出に先行し、前方散乱光(Forward Scatter: FSC)及び側方散乱光(Side Scatter: SSC)を測定してゲートをかけ、目的の細胞集団の蛍光強度のみを測定することにしてもよい。具体的には例えば、前方散乱光及び側方散乱光をそれぞれX軸及びY軸にとり、ドットプロット展開から得られるデータにおいて生細胞と思われる細胞集団にゲートをかけ、ゲート内の蛍光強度を測定する。測定結果はヒストグラムなどの形式に表示する。
本発明では、フローサイトメトリーによる検出結果を解析し、幾何平均(geometric mean)を利用して平均蛍光強度比(MFI比)を算出する。ここでの平均蛍光強度比は、サンプルの平均蛍光強度をネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)の平均蛍光強度で除して得られる値である。検出結果の解析には汎用的なソフトウエアを使用することができる。例えば、FACS DiVa (BD Bioscience)、FlowJo(トミーデジタルバイオロジー)、Kaluza(ベックマン・コールター)、WinMDI(Joe Trotter)等を用いることができる。
3.ステップ3(判定)
ステップ(3)では、ステップ(2)で算出した値(平均蛍光強度比)を基準値(カットオフ値)と比較する。基準値は、複数のドナーから採取した脂肪組織に由来する、低血清培養ASC及び高血清培養ASCの平均蛍光強度比を統計学的に処理することによって設定することができる。具体的には例えば以下の手順で基準値を設定する。(i)複数のドナーか採取した脂肪組織を用意し、それぞれから低血清培養ASCと高血清培養ASCを調製する。(ii)調製した低血清培養ASCをフローサイトメトリーに供し、各サンプルの平均蛍光強度比を算出する。高血清培養ASCについても同様に各サンプルの平均蛍光強度比を算出する。(iii)低血清培養ASCと高血清培養ASCの各々について、平均蛍光強度比を統計学的に処理し、95%信頼区間を算出する。(iv)高血清培養ASCの95%信頼区間の下限を規定する値(下限値)を基準値とする。尚、典型的には、低血清培養ASCの95%信頼区間の上限値よりも、高血清培養ASCの95%信頼区間の下限値(本発明において基準値として採用される)の方が低く、算出した平均蛍光強度比がこれら二つの値の間にある低血清培養ASCは「高品質でない」と判定されることになる。
ステップ(3)では、ステップ(2)で算出した値(平均蛍光強度比)を基準値(カットオフ値)と比較する。基準値は、複数のドナーから採取した脂肪組織に由来する、低血清培養ASC及び高血清培養ASCの平均蛍光強度比を統計学的に処理することによって設定することができる。具体的には例えば以下の手順で基準値を設定する。(i)複数のドナーか採取した脂肪組織を用意し、それぞれから低血清培養ASCと高血清培養ASCを調製する。(ii)調製した低血清培養ASCをフローサイトメトリーに供し、各サンプルの平均蛍光強度比を算出する。高血清培養ASCについても同様に各サンプルの平均蛍光強度比を算出する。(iii)低血清培養ASCと高血清培養ASCの各々について、平均蛍光強度比を統計学的に処理し、95%信頼区間を算出する。(iv)高血清培養ASCの95%信頼区間の下限を規定する値(下限値)を基準値とする。尚、典型的には、低血清培養ASCの95%信頼区間の上限値よりも、高血清培養ASCの95%信頼区間の下限値(本発明において基準値として採用される)の方が低く、算出した平均蛍光強度比がこれら二つの値の間にある低血清培養ASCは「高品質でない」と判定されることになる。
後述の実施例に示す通り本発明者らは、上記のごとき統計学的処理を利用した方法によって、高品質の低血清培養ASCを選別するための基準値を設定することに成功した。この成果に基づき本発明の一態様では、基準値として2.5〜3.5の範囲の値、好ましくは3.27を採用する。
本発明では、算出した平均蛍光強度比の値が基準値よりも低い場合に細胞が高品質であると判定される。ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。
本発明の選別法で高品質と判定された細胞は移植に適したものであり、移植用細胞として維持ないし回収される。換言すれば、本発明の方法を適用して得られた高品質の低血清培養ASCは典型的には細胞製剤の有効成分として利用される。そこで本発明は別の局面として、本発明の選別法によって得られた細胞を回収し、製剤化するステップを含む、細胞製剤の調製法を提供する。また、本発明の選別法によって高品質であると判定された細胞を含む、細胞製剤も提供する。尚、高品質でないと判定された細胞は通常、廃棄又は他の用途に供されることになる。
本発明の選別法によって得られた細胞の製剤化にあたっては、例えば、回収した細胞(即ち、選別された高品質の低血清培養ASC)を生理食塩水や適当な緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁する。治療上有効量の細胞が投与されるように、一回投与分の量として例えば1×106個〜1×1010個の細胞を含有させるとよい。細胞の含有量は、使用目的、対象疾患、適用対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、患部の状態、細胞の状態などを考慮して適宜調整することができる。
細胞の保護(凍結時の傷害からの保護も含む)を目的として血清アルブミン、DMSO、グリセロール、メチルセルロース、トレハロース等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させてもよい。
高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤は、例えば、免疫機能の抑制が予防効果又は治療効果をもたらす各種用途に用いられる。典型的には、自己免疫疾患の治療を目的として当該細胞製剤を使用することができる。治療対象の自己免疫疾患として、腎炎(ANCA関連腎炎、抗糸球体基底膜抗体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、血栓形成性糸球体腎炎、微小変化型ネフローゼ症候群、その他のネフローゼ症候群など)、肝炎(自己免疫性肝炎など)、膠原病(強皮症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、混合性結合織病)、炎症性肺障害(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、急性肺障害など)、血管炎(高安病、結節性動脈周囲炎)、ベーチェット病、サルコイドーシを例示することができる。従来の免疫抑制剤と同様に、移植時の合併症である移植片対宿主病(GVHD)の予防のために本発明の細胞製剤を使用することも可能である。尚、その効果を確認・検証することなどの実験ないし研究目的で細胞製剤を使用することもできる。
上記用途の他、高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤は虚血性疾患、腎機能障害、創傷、尿失禁及び骨粗しょう症にも適用可能である。換言すれば、当該細胞製剤は虚血性疾患の予防又は治療、腎機能障害の予防又は治療、創傷の治療、尿失禁の予防又は治療、骨粗しょう症の予防又は治療にも利用され得る。この場合、通常は、虚血性疾患の患者(又は潜在的患者)、腎機能障害の患者(又は潜在的患者)、創傷を有する患者、尿失禁の患者(又は潜在的患者)、又は骨粗しょう症の患者(又は潜在的患者)に対して細胞製剤が投与されることになる。但し、その効果を確認・検証することなどの実験目的で細胞製剤を使用することもできる。
ところで、虚血は臓器や組織への血流の停止や血流量の低下により引き起こされる。虚血時間が短ければ血流の再開(再灌流)によって臓器の機能は回復する。虚血時間が長いと再灌流により臓器等が不可逆的な損傷(虚血再灌流障害)を受け、機能不全に陥る。このような虚血又は虚血再灌流が原因となる疾患のことを「虚血性疾患」と呼ぶ。例えば閉塞性動脈硬化症(下肢閉塞性動脈硬化症など)、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)、脳血管障害(脳梗塞など)、肝臓の虚血障害等が虚血性疾患に該当する。本発明の細胞製剤の適用対象疾患の一つはこのような虚血性疾患である。好ましい適用対象は閉塞性動脈硬化症又は虚血性心疾患であり、特に好ましい適用対象は閉塞性動脈硬化症である。
本発明において「腎機能障害」とは、腎組織が何らかの傷害を受け、腎臓が本来の機能を果たさなくなった状態をいう。例えば急性腎不全、慢性腎不全、溶血性尿毒性症候群、急性尿細管壊死、間質性腎炎、急性乳頭壊死、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、膠原病に伴う腎炎、血管炎に伴う腎障害、腎盂炎、腎硬化症、薬剤性腎障害、移植に伴う腎障害などが腎機能障害に該当する。本発明の細胞製剤の適用対象疾患の一つはこのような腎機能障害である。好ましい適用対象は急性腎不全又は慢性腎不全であり、特に好ましい適用対象は急性腎不全である。
「創傷」とは体表面組織が物理的な損傷を受けた状態をいう。創傷は外的要因又は内的要因によって引き起こされる。創傷は形状や要因によって切創、裂創、刺創、咬創、挫創、挫傷、擦過傷、熱傷、褥瘡などに分類される。本発明の細胞製剤が適用される創傷の種類は特に限定されない。また、創傷の部位も特に限定されるものではない。
「尿失禁」とは、排尿機能(蓄尿及び排尿)が正常な状態を逸し、自分の意志とは無関係に尿が漏れてしまう状態をいう。尿失禁は真性尿失禁及び仮性尿失禁(腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、反射性尿失禁など)に大別される。
「骨粗しょう症」とは、骨量・骨密度の減少によって骨が脆くなる疾患であり、骨変形や骨折の原因となる。骨粗しょう症はその原因によって原発性骨粗鬆症(退行期骨粗鬆症、特発性骨粗鬆症)及び続発性骨粗鬆症(特定の病気(関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢進症、性機能異常など)や薬剤によっておこる骨粗鬆症)に分類される。
<適用対象>
高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤が投与される対象は典型的にはヒトである。但し、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)用に細胞製剤を構成することも可能である。
高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤が投与される対象は典型的にはヒトである。但し、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)用に細胞製剤を構成することも可能である。
<投与方法>
高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって細胞製剤を投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。ここで、局所投与であっても細胞が血管内へ移行することが想定される。損傷部位で細胞が塞栓を形成すれば障害が悪化し得る。高品質の低血清培養ASCの使用は、局所投与に伴う塞栓形成のリスクも低減し、安全性の高い治療法を実現する。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。複数回投与する際の投与間隔は特に限定されず、例えば1日〜3月である。また、投与回数も特に限定されない。投与回数の例は2回〜10回である。
高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって細胞製剤を投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織・臓器・器官への直接注入を例示することができる。ここで、局所投与であっても細胞が血管内へ移行することが想定される。損傷部位で細胞が塞栓を形成すれば障害が悪化し得る。高品質の低血清培養ASCの使用は、局所投与に伴う塞栓形成のリスクも低減し、安全性の高い治療法を実現する。投与スケジュールは、対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。複数回投与する際の投与間隔は特に限定されず、例えば1日〜3月である。また、投与回数も特に限定されない。投与回数の例は2回〜10回である。
本発明を適用することによって得られる高品質の低血清培養ASCはその投与に伴う肺塞栓や血管閉塞のリスクが低減されたものである。従って、高品質の低血清培養ASCを有効成分とした細胞製剤は、全身投与(例えば静脈内注射)や血流のある組織への局所投与に特に適したものであるといえる。
1.ヒト低血清培養ASC(LASC)の調製
以下の手順でヒト脂肪組織からSVF画分を調製した。まず、術前に患者の同意を得て脂肪組織を採取した。DMEM(シグマ))30mlにて脂肪組織を3回洗浄し、付着した血液などを除去した。次に、滅菌培養皿内で、脂肪組織を手術用メスで細片化した。50mlの遠心チューブ(ファルコン)に脂肪組織を入れ、その重量を計測した。脂肪重量に対して1mg/mlのコラゲナーゼtype1(Worthington)溶液を上記の遠心チューブに入れた後、37℃、120回/minの条件下、1時間振盪させた。続いて、遠心チューブにDMEM液を全量が40mlになるように入れ、ピペッティングした。ピペッティング後の細胞懸濁液を孔径100μmのフィルター(ファルコン)で濾過した。得られた濾液を常温で1200rpm、5分間遠心処理した。沈渣を回収し、再度DMEM液40mlに懸濁、ピペッティングにより洗浄し、常温、1200rpm、5分間遠心処理した。沈渣を回収し、SVF画分とした。
以下の手順でヒト脂肪組織からSVF画分を調製した。まず、術前に患者の同意を得て脂肪組織を採取した。DMEM(シグマ))30mlにて脂肪組織を3回洗浄し、付着した血液などを除去した。次に、滅菌培養皿内で、脂肪組織を手術用メスで細片化した。50mlの遠心チューブ(ファルコン)に脂肪組織を入れ、その重量を計測した。脂肪重量に対して1mg/mlのコラゲナーゼtype1(Worthington)溶液を上記の遠心チューブに入れた後、37℃、120回/minの条件下、1時間振盪させた。続いて、遠心チューブにDMEM液を全量が40mlになるように入れ、ピペッティングした。ピペッティング後の細胞懸濁液を孔径100μmのフィルター(ファルコン)で濾過した。得られた濾液を常温で1200rpm、5分間遠心処理した。沈渣を回収し、再度DMEM液40mlに懸濁、ピペッティングにより洗浄し、常温、1200rpm、5分間遠心処理した。沈渣を回収し、SVF画分とした。
次に、以下の手順でSVF画分を低血清培養した。SVF画分中の有核細胞105個を5mlの低血清培養液に懸濁し、ファイブロネクチンコート60mmカルチャーディッシュ(ファルコン)に播種した。低血清培養液は以下の通り調製した(a〜e)。
(a) DMEM(日水製薬)5.7g、MCDB201(シグマ)7g、L-グルタミン(シグマ)0.35g、NaHCO3(シグマ)1.2g、0.1mMアスコルビン酸(和光純薬工業)0.03g、PenStrep(抗生物質(5,000units/mlペニシリン及び5mg/mlストレプトマイシン)(ライフテクノロジーズ))10mlを980mlの蒸留水に溶解する。
(b) 4N NaOHにてpHを7.2に調整する。
(c) リノール酸-アルブミン(シグマ)10mlと100×ITS(インスリン10mg、トランスフェリン5.5mg、亜セレン酸ナトリウム5μg)(ライフテクノロジーズ)10mlを添加する。
(d) 濾過・滅菌する。
(e) ウシ胎仔血清FBSとbFGF(ぺプロテック)を加える(FBSの最終濃度2%、bFGFの最終濃度10ng/ml)。
(a) DMEM(日水製薬)5.7g、MCDB201(シグマ)7g、L-グルタミン(シグマ)0.35g、NaHCO3(シグマ)1.2g、0.1mMアスコルビン酸(和光純薬工業)0.03g、PenStrep(抗生物質(5,000units/mlペニシリン及び5mg/mlストレプトマイシン)(ライフテクノロジーズ))10mlを980mlの蒸留水に溶解する。
(b) 4N NaOHにてpHを7.2に調整する。
(c) リノール酸-アルブミン(シグマ)10mlと100×ITS(インスリン10mg、トランスフェリン5.5mg、亜セレン酸ナトリウム5μg)(ライフテクノロジーズ)10mlを添加する。
(d) 濾過・滅菌する。
(e) ウシ胎仔血清FBSとbFGF(ぺプロテック)を加える(FBSの最終濃度2%、bFGFの最終濃度10ng/ml)。
2〜4日毎に培地を全量交換し、コンフルエントに達したら1mM EDTA含有PBSで洗浄後、0.05〜0.25%トリプシン溶液で処理して細胞を剥離して回収し、回収した細胞を4000〜8000個/cm2の密度で同様にファイブロネクチンコートプレート(シグマ社のヒトファイブロネクチンを用いて作製)に播種した。以上の継代培養を必要に応じて繰り返した(本実験では2〜5継代後の細胞を使用した)。
比較のため、高血清培養(20%FBS含有、10ng/mlのbFGF含有の培地にて培養)で調製したASC(HASC)および骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)(Lonzaより購入)を用意した。
2.フローサイトメトリー(FACS)による組織因子(TF)の発現量の解析
<検体の作製>
上記の方法で調製した各細胞(LASC、HASC、BM-MSC)を用い、以下の手順で解析用の検体を作製した。
(1) 10cm培養皿で80%コンフルエントにまで増殖した細胞の培養上清を捨て、PBSで洗浄する。
(2) 6mlの冷FACSバッファーを入れ、セルスクレーパーで細胞を回収する。回収した細胞は50ml 遠心管に入れ、氷上に置いておく。
(3) 4mlの冷FACSバッファーで培養皿を洗浄し、セルスクレーパーで回収しきれなかった細胞も回収する。
(4) 細胞数を数える。
(5) 4℃、300g、10分の条件で遠心分離し、上清を捨て、新しい冷FACSバッファーで1×106細胞/100μLの濃度になるようにペレットを再懸濁する。
(6) 100μLずつサンプルチューブに分注する。アイソタイプ用と本染色用の2本分作成する。
(7) 抗体を推奨使用量加えた後よく懸濁し、遮光して反応させる。反応は室温、15分あるいは4℃、30分(15分経ったら再懸濁する)の条件で行う。
(8) 1mLのFACSバッファーを加えてピペッティングし、4℃、300g、10分の遠心分離を行う。
(9) 上清を捨て、新しいFACSバッファー1mLで再懸濁し、4℃、300g、10分の遠心分離を行う。
(10) 1mLの0.5%パラホルムアルデヒド(2%パラホルムアルデヒドをFACSバッファーで希釈する)でペレットを懸濁し、検体とする。すぐにFACSで解析できない場合は1%パラホルムアルデヒドに懸濁し、遮光して4℃に保管し、翌日解析する。
<検体の作製>
上記の方法で調製した各細胞(LASC、HASC、BM-MSC)を用い、以下の手順で解析用の検体を作製した。
(1) 10cm培養皿で80%コンフルエントにまで増殖した細胞の培養上清を捨て、PBSで洗浄する。
(2) 6mlの冷FACSバッファーを入れ、セルスクレーパーで細胞を回収する。回収した細胞は50ml 遠心管に入れ、氷上に置いておく。
(3) 4mlの冷FACSバッファーで培養皿を洗浄し、セルスクレーパーで回収しきれなかった細胞も回収する。
(4) 細胞数を数える。
(5) 4℃、300g、10分の条件で遠心分離し、上清を捨て、新しい冷FACSバッファーで1×106細胞/100μLの濃度になるようにペレットを再懸濁する。
(6) 100μLずつサンプルチューブに分注する。アイソタイプ用と本染色用の2本分作成する。
(7) 抗体を推奨使用量加えた後よく懸濁し、遮光して反応させる。反応は室温、15分あるいは4℃、30分(15分経ったら再懸濁する)の条件で行う。
(8) 1mLのFACSバッファーを加えてピペッティングし、4℃、300g、10分の遠心分離を行う。
(9) 上清を捨て、新しいFACSバッファー1mLで再懸濁し、4℃、300g、10分の遠心分離を行う。
(10) 1mLの0.5%パラホルムアルデヒド(2%パラホルムアルデヒドをFACSバッファーで希釈する)でペレットを懸濁し、検体とする。すぐにFACSで解析できない場合は1%パラホルムアルデヒドに懸濁し、遮光して4℃に保管し、翌日解析する。
<FACS解析>
検体を70μmメッシュに通してからテストチューブに入れ、FACS解析(FACS CantoII(Cat#: 338960)を使用)に供した。検出用抗体として蛍光色素PE標識の抗CD142抗体(クローンHTF-1、BDバオサイエンス)、アイソタイプ抗体(コントロール)として蛍光色素PE標識のマウスIgG1(κ)(クローンMOPC-21、BDバオサイエンス)を推奨濃度20μL/100μL(106細胞)で使用した。検出結果を図1に示す。図1は、高血清培養ASC(HASC)、低血清培養ASC(LASC)及び骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)の代表的なヒストグラムである。HASCに比べ、LASCのTF発現量が低いことがわかる。また、BM-MSCのTF発現量は最も低い。これらの結果は、HASCよりもLASCが有用であることを裏づけるとともに、TF発現量が肺塞栓や血管閉塞の有用且つ重要な指標となり、LASCをTF発現量で選別すれば、より高品質の移植用細胞が得られることを示唆する。
検体を70μmメッシュに通してからテストチューブに入れ、FACS解析(FACS CantoII(Cat#: 338960)を使用)に供した。検出用抗体として蛍光色素PE標識の抗CD142抗体(クローンHTF-1、BDバオサイエンス)、アイソタイプ抗体(コントロール)として蛍光色素PE標識のマウスIgG1(κ)(クローンMOPC-21、BDバオサイエンス)を推奨濃度20μL/100μL(106細胞)で使用した。検出結果を図1に示す。図1は、高血清培養ASC(HASC)、低血清培養ASC(LASC)及び骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)の代表的なヒストグラムである。HASCに比べ、LASCのTF発現量が低いことがわかる。また、BM-MSCのTF発現量は最も低い。これらの結果は、HASCよりもLASCが有用であることを裏づけるとともに、TF発現量が肺塞栓や血管閉塞の有用且つ重要な指標となり、LASCをTF発現量で選別すれば、より高品質の移植用細胞が得られることを示唆する。
検出結果をFlowJo(トミーデジタルバイオロジー)で解析し、幾何平均(Geom.Mean)から平均蛍光強度比(MFI比)を算出し(図2)、統計解析を行った。統計解析ソフトRを使用して多重検定を行ったところ(一元配置分散分析、Tukey法)、HASCとBM-MSCの間のp値は0.000242、LASCとBM-MSCの間のp値は0.9(有意差なし)、LASCとHASCの間のp値は0.000919(有意差あり)との結果が得られた(図3)。高品質のLASCを選別するための基準値を設定するために、各細胞の平均蛍光強度比について平均値、標準偏差を求め、その値を基に95%信頼区間の上限と下限を算出した(図4)。HASCの下限値(3.27)を基準値(カットオフ値)としてLASCを選別すれば(基準値よりも低い平均蛍光強度比を示したLASCを高品質なものとして回収する)、より高品質の移植用細胞が得られる。この基準値で選別すると、一つのサンプル(平均蛍光強度比が3.34のHASC。図2の表を参照)が高品質でないと判定される。その他のサンプルは高品質と判定され、回収される。
本発明の選別法によれば、移植時の肺塞栓や血管閉塞の危険性が低減された、高品質のASCが得られる。高品質のASCは全身投与に適したものであり、免疫機能の抑制が予防効果又は治療効果をもたらす各種用途(例えば、自己免疫疾患の治療)、虚血性疾患の治療、腎機能障害の治療、創傷の治癒、尿失禁の治療、骨粗しょう症の治療などへ利用され得る。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
Claims (7)
- 以下のステップ(1)〜(3)を含む、脂肪組織由来間葉系幹細胞の選別法:
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、を用意するステップ、
(2)ステップ(1)で用意した細胞の組織因子の発現をフローサイトメトリーで検出し、平均蛍光強度比を算出するステップ、
(3)ステップ(2)で算出した値を基準値と比較し、基準値よりも低い場合に前記細胞が高品質であると判定するステップ。 - 前記基準値が2.5〜3.5の範囲内にある、請求項1に記載の選別法。
- 前記基準値が3.27である、請求項1に記載の選別法。
- 前記ステップ(3)で高品質と判定された細胞は全身投与に適する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の選別法。
- 前記低血清条件が、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下の条件である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の選別法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載の選別法によって高品質であると判定された細胞を回収し、製剤化するステップを含む、細胞製剤の調製法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載の選別法によって高品質であると判定された細胞を含む、細胞製剤。
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WO2018159432A1 (ja) * | 2017-03-03 | 2018-09-07 | ロート製薬株式会社 | 間葉系幹細胞及び医薬組成物 |
WO2020040293A1 (ja) * | 2018-08-24 | 2020-02-27 | 株式会社ステムリム | 間葉系幹細胞の製造方法 |
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WO2023008933A1 (ko) | 2021-07-29 | 2023-02-02 | 주식회사 툴젠 | 혈액 적합성을 갖는 중간엽 줄기세포, 이의 제조방법 및 용도 |
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2015
- 2015-02-05 JP JP2015021613A patent/JP2016140346A/ja active Pending
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