以下に、本発明の実施の形態にかかるヒータ制御装置およびヒータ制御方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるヒータ制御装置1の構成を示す模式図である。図2は、本発明の実施の形態1にかかるヒータ制御装置1における制御部6の機能構成を示す機能構成図である。図3は、本発明の実施の形態1にかかるヒータ制御装置1における制御部6のハードウェア構成の一例を示す図である。
本実施の形態1にかかるヒータ制御装置1は、制御対象となるn個の各温度制御対象2のそれぞれに取り付けられて温度制御対象2を加熱するn個のヒータ3と、各温度制御対象2のそれぞれに取り付けられて温度制御対象2の温度を計測するn個の温度センサ4と、ヒータ3のそれぞれに設けられて制御部6の指示により各ヒータ3をONまたはOFFするn個のヒータスイッチ5と、ヒータスイッチ5のONおよびOFFを制御してヒータ3のONおよびOFFを制御する制御部6と、ヒータ3を含むヒータ制御装置1内の各部に電力を供給する電源7と、を備える。なお、nは、2以上の整数である。なお、図1において温度制御対象2、ヒータ3、温度センサ4およびヒータスイッチ5の符号において上から順にa,b,…,nと付した添字は、同じ構成要素のものが複数個あることを示す。なお、ここのヒータ3それぞれの電源を有する構成とすることも可能である。また、温度制御対象2、ヒータスイッチ5および電源7は、ヒータ制御装置1に含まれなくてもよい。
制御部6は、各温度センサ4で計測された温度データの電気信号をデジタルデータに変換するアナログデジタル変換部11と、アナログデジタル変換部11でデジタル化された温度データのデジタルデータを物理量である工学値に変換する工学値変換部12と、を備える。以下では、この温度データの工学値を、温度制御対象2の温度Tiと呼ぶ場合がある。また、制御部6は、工学値変換部12によって工学値に変換された温度データに基づいて各温度制御対象2の温度低下の速度である温度降下速度を計算する温度降下速度計算部13と、温度降下速度計算部13によって計算された温度降下速度に基づいて「ヒータ3の制御における基準温度である制御基準温度」としてのOFF温度を計算するOFF温度計算部14と、を備える。OFF温度は、ヒータ3をOFFする基準となる温度である。
また、制御部6は、工学値変換部12によって変換された温度データの工学値と既定の下限温度とOFF温度計算部14で計算されたOFF温度とから各ヒータ3に行うONまたはOFFの制御を判定してヒータ3毎に要求情報を生成するヒータ制御要求部であるヒータON/OFF要求部15と、ヒータON/OFF要求部15で生成された要求情報に基づいてヒータスイッチ5のONまたはOFFを制御するヒータスイッチ制御部16と、を備える。下限温度は、各温度制御対象2に固有の値であり、各温度制御対象2を正常に動作させるために維持することが必要な温度である。
制御部6は、たとえば図3に示したハードウェア構成の処理回路として実現される。図3は、処理回路のハードウェア構成の一例を示す図である。制御部6を構成する各構成要素は、例えば、図3に示すプロセッサ101がメモリ102に記憶されたプログラムを実行することにより、実現される。また、複数のプロセッサおよび複数のメモリが連携して上記機能を実現してもよい。また、制御部6の機能のうちの一部を電子回路として実装し、他の部分をプロセッサ101およびメモリ102を用いて実現するようにしてもよい。
つぎに、本実施の形態1にかかるヒータ制御装置1の動作について説明する。図4は、本実施の形態1にかかるヒータ制御装置1の動作の手順を示すフローチャートである。ヒータ制御装置1が制御を開始すると、まず、ステップS10において、各温度制御対象2に取り付けられた各温度センサ4が、各温度制御対象2の温度をヒータ3のONおよびOFFの制御周期よりも短い既定の周期で計測する。各温度センサ4は、計測した各温度制御対象2の温度データの電気信号を、制御部6のアナログデジタル変換部11に出力する。
アナログデジタル変換部11は、各温度センサ4から入力された各温度制御対象2の温度データの電気信号をデジタルデータに変換する。アナログデジタル変換部11は、各温度制御対象2の温度データのデジタルデータを工学値変換部12に出力する。
工学値変換部12は、アナログデジタル変換部11から入力された温度データのデジタルデータを物理量である工学値に変換する。工学値変換部12は、温度データの工学値である温度制御対象2の温度Tiを温度降下速度計算部13およびヒータON/OFF要求部15に出力する。温度制御対象2の温度Tiは、温度Tiが測定された温度制御対象2の情報および該温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の情報と関連付けられている。
つぎに、ステップS20において、温度降下速度計算部13は、工学値変換部12から入力された温度制御対象2の温度Tiに基づいて各温度制御対象2の温度降下速度を計算する。温度降下速度計算部13は、前後する2つの時刻で計測された温度制御対象2の温度Tiの差分を求めることにより、温度降下速度を計算する。すなわち、温度降下速度は、単位時間当たりの温度制御対象2の温度の変化率である。温度降下速度計算部13は、複数の温度制御対象2について、同じ時刻における各温度制御対象2の温度Tiの差分を求めることにより、同じ時刻における各温度制御対象2の温度降下速度を計算する。温度降下速度計算部13は、計算した温度降下速度をOFF温度計算部14に出力する。温度降下速度は、該温度降下速度を計算した温度制御対象2の情報および該温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の情報と関連付けられている。
つぎに、ステップS30において、OFF温度計算部14は、温度降下速度計算部13から入力された温度降下速度に基づいて、「ヒータ3の制御における基準温度である制御基準温度」としてのOFF温度を、各温度制御対象2について計算する。すなわち、温度降下速度計算部13は、制御基準温度を温度降下速度に基づいて計算する制御基準温度計算部として機能する。ここでは、温度制御対象2毎に、各温度制御対象2に固有のOFF温度を計算する。
相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2は、温度がOFF温度を下回ってから下限温度まで低下するまでの時間が、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2と比較して短い。そして、ヒータ3をONにする制御を行ってから、実際に温度制御対象2の温度が上昇するまでには、タイムラグが存在する。このため、温度制御対象2を適切な温度に保持するために、温度制御対象2の温度が下限温度を下回らないように、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2については、OFF温度を高めに設定する必要がある。すなわち、温度降下速度が速い温度制御対象2については、OFF温度と下限温度との差を大きく設定する必要がある。
一方、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2は、下限温度まで同じ温度幅を低下するまでの時間が、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して長い。このため、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、OFF温度を低めに設定することができる。すなわち、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、OFF温度と下限温度との差を小さく設定することができる。
すなわち、温度降下速度の遅い温度制御対象2ほど、下限温度とOFF温度との温度幅を小さくする。これにより、温度降下速度の遅い温度制御対象2の、ヒータ3の制御を行っている間における平均温度を、下限温度とOFF温度との温度幅が温度降下速度が速い温度制御対象2と同じ場合と比較して、低く下げることが可能になる。そして、温度降下速度の遅い温度制御対象2の平均温度を下げることにより、複数ある温度制御対象2の全体の、ヒータ3の制御を行っている間における平均温度を下げることが可能になる。その結果、ヒータ3で使用する平均電力を少なく抑制することができ、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できる。
図5は、温度制御対象2の温度降下速度とOFF温度との関係の一例を示す特性図である。図5においては、横軸に温度降下速度を、縦軸にOFF温度と下限温度との差を示している。温度降下速度とOFF温度とは、線形特性を有する。
OFF温度計算部14は、図5のグラフに示すような、温度降下速度と、OFF温度と下限温度との差と、の関係を定義する関係情報と、各温度制御対象2の既定の下限温度と、を予め保持している。そして、OFF温度計算部14は、この温度降下速度と下限温度と関係情報とに基づいて、温度降下速度に対応するOFF温度を、各温度制御対象2について計算する。OFF温度計算部14は、計算したOFF温度を、ヒータON/OFF要求部15に出力する。OFF温度は、該OFF温度を計算した温度制御対象2の情報および該温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の情報と関連付けられている。図5に示すような、「温度降下速度と、OFF温度と下限温度との差と、の関係を定義する関係情報」は、全ての温度制御対象2について共通で使用できる。
また、各温度制御対象2の下限温度は予め決まっているので、図5に示す関係情報において、OFF温度と下限温度との差の代わりに、温度降下速度に対応するOFF温度が予め代入されている関係情報を各温度制御対象2について保持してもよい。
つぎに、ヒータON/OFF要求部15は、工学値変換部12から入力された温度制御対象2の温度Tiと、OFF温度計算部14から入力されたOFF温度と、既定の下限温度とに基づいて、各温度制御対象2に取り付けられているヒータ3に行うONまたはOFFの制御を判定してヒータ3毎に要求情報を生成する。ヒータON/OFF要求部15は、各温度制御対象2の既定の下限温度を予め保持している。そして、ヒータON/OFF要求部15は、各温度制御対象2に取り付けられているヒータ3について決定したONまたはOFFを要求する制御要求情報をヒータスイッチ制御部16に出力する。ヒータON/OFF要求部15は、ON制御を要求するヒータ3についてはヒータON要求情報を、ヒータスイッチ制御部16に出力する。また、ヒータON/OFF要求部15は、OFF制御を要求するヒータ3についてはヒータOFF要求情報をヒータスイッチ制御部16に出力する。
ヒータON/OFF要求部15において温度制御対象2に取り付けられているヒータ3のONまたはOFFを決定する方法について説明する。ヒータON/OFF要求部15は、各温度制御対象2について固有の、既定の下限温度Tiuを予め保持している。工学値変換部12から入力された温度制御対象2の温度Tiと、この温度Tiに基づいて計算されたOFF温度Tioと、が入力されると、ステップS40において、ヒータON/OFF要求部15は、温度制御対象2の温度Tiと下限温度Tiuとを比較し、温度制御対象2の温度Tiが下限温度Tiuよりも低いか否かを判定する。
ステップS40において、温度制御対象2の温度Tiが下限温度Tiuよりも低い場合は(ステップS40、Yes)、ステップS50において、ヒータON/OFF要求部15は、この温度制御対象2に対応するヒータ3についてヒータON要求情報を生成して、ヒータスイッチ制御部16に出力する。
一方、ステップS40において、温度制御対象2の温度Tiが下限温度Tiu以上である場合は(ステップS40、No)、ステップS70において、ヒータON/OFF要求部15は、温度制御対象2の温度TiとOFF温度Tioとを比較し、温度制御対象2の温度TiがOFF温度Tio以上であるか否かを判定する。ここで、ヒータON/OFF要求部15は、温度制御対象2の温度Tiを、各温度制御対象2に対して個別に計算された固有のOFF温度Tioと比較する。
ステップS70において、温度制御対象2の温度TiがOFF温度Tio以上である場合は(ステップS70、Yes)、ステップS80において、ヒータON/OFF要求部15は、この温度制御対象2に対応するヒータ3についてヒータOFF要求情報を生成して、ヒータスイッチ制御部16に出力する。
一方、ステップS70において、温度制御対象2の温度TiがOFF温度Tio未満である場合は(ステップS70、No)、ヒータON/OFF要求部15は、ヒータスイッチ制御部16に対してヒータON要求情報およびヒータOFF要求情報のいずれの情報も出力せず、ステップS10に戻る。これによりヒータ3のON状態またはOFF状態の切り替えが行われず、現状のヒータ3のON状態またはOFF状態が維持される。上記のようなヒータON/OFF要求部15での制御は、一般的にヒステリシス制御と呼ばれる。
つぎに、ステップS60において、ヒータスイッチ制御部16は、ヒータON/OFF要求部15から入力されたヒータ3毎のヒータスイッチ制御要求情報、すなわち、ヒータON要求情報またはヒータOFF要求情報が入力されたヒータ3のヒータスイッチ5のONまたはOFFを制御するヒータスイッチ制御情報を各ヒータスイッチ5に出力する。ヒータスイッチ制御部16は、ヒータON/OFF要求部15から制御要求情報が入力されないヒータ3のヒータスイッチ5には、ヒータスイッチ制御情報を出力せず、現状のヒータスイッチ5のON状態またはOFF状態を維持する。すなわち、現状のヒータ3のON状態またはOFF状態を維持する。
各ヒータスイッチ5では、ヒータスイッチ制御部16から入力されたヒータスイッチ制御情報に基づいて、ヒータスイッチ5のONまたはOFFを既定の制御周期で実施する。
以上の処理を繰り返すことにより、各温度制御対象2に取り付けられたヒータ3のONおよびOFFが制御される。
図6は、実施の形態1にかかるヒータ制御装置1により制御された温度制御対象2の温度プロファイルの一例を示す特性図である。上記手順により複数の温度制御対象2に対応する各ヒータ3のONおよびOFFを制御した場合、温度制御対象2の温度Tiはたとえば図6のようになる。図6においては、温度降下速度が異なる温度制御対象2Aと温度制御対象2Bとの温度プロファイルの一例を示している。また、図6においては、横軸が時間軸を示しており、t1〜t8がヒータ3の制御周期である。また、縦軸が温度制御対象2の温度を示している。また、図6においては、便宜的に下限温度Tiuが同じ温度であるとして示しているが、実際には下限温度Tiuは温度制御対象2毎に異なる。図6に示すように、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2BのOFF温度Tibは、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2AのOFF温度Tiaと比較して、低く設定される。すなわち、下限温度Tiuとの差は、OFF温度Tiaと比較して、OFF温度Tibの方が少なく設定される。
全ての温度制御対象2についてOFF温度と下限温度Tiuとの温度差が1つの固定の値とされている場合には、温度制御対象2の温度は、同じ温度範囲の近傍で振れることになる。この場合、OFF温度と下限温度Tiuとの温度差は、複数の温度制御対象2のうち、最も大きくする必要のあるものを基準に設定されるため、温度制御対象2の温度が振れる範囲は広くなり、平均温度が高くなる。
一方、本実施の形態1では、温度降下速度が異なる温度制御対象2毎に、OFF温度と下限温度Tiuとの温度差が各温度制御対象2に固有のOFF温度を計算し、このOFF温度に基づいて各温度制御対象2に取り付けられたヒータ3のOFF制御を行う。すなわち、各温度制御対象2のヒータ3は、温度制御対象2ごとに設定されるOFF温度に基づいてヒータ3のOFF制御が行われる。相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、OFF温度を低めに設定する。すなわち、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、OFF温度と下限温度との差を小さく設定する。これにより、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2の平均温度を下げることが可能になり、複数ある温度制御対象2の全体の平均温度を下げることができる。その結果、ヒータ3で使用する平均電力を少なく抑制することができ、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できる。
なお、制御部6内の各部が予め保持しているデータは、制御部6内の共有の記憶部に保持されていてもよい。この場合には、制御部6内の各部は、既定の処理に必要なデータを共有の記憶部から読み出して用いる。
また、ヒータ3のONおよびOFFの制御周期毎に上記の制御を行うためには、温度センサ4の測定周期はヒータ3のヒータONおよびOFFの制御周期毎に比べて大幅に短い周期で行う必要がある。また、現在の制御周期の時間帯に処理されて生成されたヒータON要求情報またはヒータOFF要求情報を用いて、数周期先の制御周期においてヒータ3のONおよびOFFの制御を行ってもよい。
ヒータ制御装置1は、人工衛星および床暖房装置に用いることが可能である。上述したヒータ制御装置1を人工衛星に適用した場合は、温度制御対象2としては、衛星構体に配置された電子機器、推進系のタンクおよびバルブ、配管、衛星外側のアンテナおよびインジェクションコーンがある。ヒータ制御装置1を床暖房装置に適用した場合は、温度制御対象2としては、床面、配管、制御用の電子機器がある。
人工衛星は、異常事態が発生して通常運用モードから太陽指向モードに移行する場合は、構体の向きが通常運用モードから変化して地球指向から太陽指向に変化するため、太陽光の入射角が変化する。このため、人工衛星の外部機器では熱入力量の急激な変動が起こり、内部機器では異常事態に備えて軽負荷モードに移行するので内部の発熱状況も大幅に変わる可能性がある。すなわち、人工衛星における温度制御対象2の温度Tiは急激に変化する可能性がある。
このような急激な温度制御対象の温度の変化を前提として、温度降下速度を求める考え方としては2つある。1つ目は、人工衛星における温度制御対象の温度が変化した場合には、温度制御対象の温度の変化に直ちに追従して、温度降下速度を更新するという考え方である。2つ目は、内部機器発熱量と外部熱入力量は変化するものとして、保持している過去の履歴の中で一番少ない内部機器発熱量と外部熱入力量のデータ、およびこの時の温度降下速度を予めデータとして保持しておき、この時の温度降下速度を通常の運用でも利用するという考え方である。
前者の場合は、たとえば移動平均等の平均化の手法を用いて、ランダムな誤差を排除しながら統計的な変化を利用して、温度制御対象の温度の変化に迅速に対応する必要がある。後者の場合は、内部機器発熱量と外部入力熱量とが少ない場合には温度降下速度が速くなることから、保持している過去の温度降下速度の履歴の中で一番速い温度降下速度に合わせて下限温度までの温度制御マージンを確保しておくものである。前者のメリットは、ヒータ3で使用する平均電力を低減でき、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できることである。一方、後者のメリットは、機器の下限温度の割込みのリスクを低減できることである。
上述したように、本実施の形態1においては、実測した温度制御対象2の温度Tiに基づいて温度降下速度を計算し、該温度降下速度に基づいて各温度制御対象2に固有の制御基準温度であるOFF温度を決定する。そして、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2ほど、下限温度とOFF温度との温度差を小さくする。これにより、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2の平均温度を下げることができ、複数の温度制御対象2の全体の平均温度を下げることが可能になる。したがって、本実施の形態1によれば、ヒータ3で使用する平均電力を少なく抑制することができ、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できる、という効果が得られる。
実施の形態2.
本実施の形態2では、使用可能な電力に上限があり、電力需給が逼迫する前に使用電力を前倒しすることによって電力の平滑化を実現してピーク電力を抑える場合について説明する。本実施の形態2にかかるヒータ制御装置が実施の形態1にかかるヒータ制御装置1と異なる点は、制御部6の代わりに制御部21を備えることである。図7は、本発明の実施の形態2にかかるヒータ制御装置における制御部21の機能構成を示す機能構成図である。なお、実施の形態1にかかるヒータ制御装置1と同じ部材については、同じ符号を付すことで説明を省略する。
制御部21は、温度降下速度計算部13によって計算された温度降下速度に基づいて「ヒータ3の制御における基準温度である制御基準温度」として、各温度制御対象2の温度制御を前倒し制御するために用いる加熱制御温度を計算する加熱制御温度計算部22と、温度制御対象2の温度Tiと、加熱制御温度計算部22で計算された加熱制御温度とから各ヒータ3に行うONまたはOFFの制御を判定してヒータ3毎に要求情報を生成するヒータ制御要求部であるヒータON/OFF要求部23と、を備える。加熱制御温度は、温度制御対象2における下限温度よりも高い、各温度制御対象2に固有の値である。加熱制御温度は、各温度制御対象2を正常に動作させるためのヒータ3による温度制御対象2の温度制御を前倒し制御するために用いる、ヒータ3のONおよびOFFを制御する基準となる温度である。
また、制御部21は、ヒータON/OFF要求部23からヒータON要求情報が入力された複数のヒータ3について、各温度制御対象2の温度降下速度に基づいて、ONするヒータ3の優先順位を判定する優先順位判定部24と、ONするヒータ3の優先順位に従って、既定の電力閾値を超えない限りヒータ3をONすべきである優先順位の高い温度制御対象2を決定するヒータピーク電力管理部25と、ヒータON/OFF要求部23から入力されるヒータOFF要求情報と、ヒータピーク電力管理部25から入力されるヒータON要求情報およびヒータOFF要求情報と、に基づいてヒータスイッチ5のONおよびOFFを制御するヒータスイッチ制御部26と、を備える。
そして、優先順位判定部24とヒータピーク電力管理部25とにより、電力管理部が構成される。電力管理部は、ヒータON/OFF要求部23においてヒータON要求情報が生成された複数のヒータ3について、ヒータ3の電力の和が既定の電力を超えないように、ヒータ3をONする優先順位の高いヒータ3を決定してON要求情報を生成し、その他の優先順位の低いヒータ3についてヒータOFF要求情報を生成する。
なお、本実施の形態2においては、温度降下速度計算部13は、温度降下速度を加熱制御温度計算部22および優先順位判定部24に出力する。
つぎに、本実施の形態2にかかるヒータ制御装置の動作について説明する。図8は、本実施の形態2にかかるヒータ制御装置の動作の手順を示すフローチャートである。ヒータ制御装置が温度制御を開始すると、まず、実施の形態1の場合と同様にステップS10において、各温度センサ4で各温度制御対象2の温度が計測され、工学値変換部12において各温度制御対象2の温度Tiが得られる。工学値変換部12は、各温度制御対象2の温度Tiを温度降下速度計算部13、ヒータON/OFF要求部23および優先順位判定部24に出力する。温度制御対象2の温度Tiは、温度Tiが測定された温度制御対象2の情報および該温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の情報と関連付けられている。
つぎに、ステップS20において、実施の形態1の場合と同様に、温度降下速度計算部13において各温度制御対象2について温度降下速度が計算される。温度降下速度計算部13は、温度降下速度を加熱制御温度計算部22と優先順位判定部24とに出力する。温度降下速度は、該温度降下速度を計算した温度制御対象2の情報および該温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の情報と関連付けられている。
つぎに、ステップS110において、加熱制御温度計算部22は、温度降下速度計算部13から入力された温度降下速度に基づいて、「ヒータ3の制御における基準温度である制御基準温度」として加熱制御温度を各温度制御対象2について計算する。すなわち、加熱制御温度計算部22は、制御基準温度を温度降下速度に基づいて計算する制御基準温度計算部として機能する。
本実施の形態2においては、実施の形態1のように、下限温度とOFF温度とを用いたヒステリシス制御は行わず、加熱制御温度を用いてヒータ3のONおよびOFFの制御を行う。すなわち、本実施の形態2においては、基本的に、温度制御対象2の温度Tiが加熱制御温度以下であると判断された場合に、ヒータ3のON制御を行う。なお、後述するように、温度制御対象2の温度Tiが加熱制御温度以下であると判断された場合でも優先順位によっては、必ずしもヒータ3がONされない場合がある。また、温度制御対象2の温度Tiが加熱制御温度よりも大であると判断された場合に、ヒータ3のOFF制御を行う。これにより、本実施の形態2においては、温度制御対象2の温度Tiを、下限温度よりも高い、加熱制御温度を基準としたその近傍の温度範囲において制御する。
相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2は、温度が加熱制御温度を下回ってから下限温度まで低下するまでの時間が、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2と比較して短い。そして、ヒータ3をONにする制御を行ってから、実際に温度制御対象2の温度が上昇するまでには、タイムラグが存在する。このため、温度制御対象2を適切な温度に保持するために、温度制御対象2の温度が下限温度を下回らないように、温度降下速度が速い温度制御対象2については、加熱制御温度を高めに設定する必要がある。すなわち、温度降下速度が速い温度制御対象2については、加熱制御温度と下限温度との差を大きく設定する必要がある。
一方、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2は、下限温度まで同じ温度幅を低下するまでの時間が、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して長い。このため、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、加熱制御温度を低めに設定することができる。すなわち、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、加熱制御温度と下限温度との差を小さく設定することができる。
すなわち、温度降下速度の遅い温度制御対象2ほど、下限温度と加熱制御温度との幅を小さくする。これにより、温度降下速度の遅い温度制御対象2の、ヒータ3の制御を行っている間における平均温度を、下限温度と加熱制御温度との温度幅が温度降下速度が速い温度制御対象2と同じ場合と比較して、低く下げることが可能になる。そして、温度降下速度の遅い温度制御対象2の平均温度を下げることにより、複数ある温度制御対象2の全体の平均温度を下げることが可能になる。その結果、ヒータ3で使用する平均電力を少なく抑制することができ、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できる。
図9は、温度制御対象2の温度降下速度と加熱制御温度との関係の一例を示す特性図である。図9においては、横軸に温度降下速度を、縦軸に加熱制御温度と下限温度との差を示している。温度降下速度と加熱制御温度とは、線形特性を有する。加熱制御温度計算部22は、実施の形態1におけるOFF温度計算部14と同様に、図9に示すような温度制御対象2の温度降下速度と、加熱制御温度と下限温度との関係との差と、の関係を定義する関係情報と、各温度制御対象2の既定の下限温度と、を予め保持している。
そして、加熱制御温度計算部22は、この温度降下速度と下限温度と関係情報とに基づいて、温度降下速度に対応する加熱制御温度を、各温度制御対象2について計算する。加熱制御温度計算部22は、計算した加熱制御温度計算部22を、ヒータON/OFF要求部23に出力する。加熱制御温度は、該加熱制御温度を計算した温度制御対象2の情報および該温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の情報と関連付けられている。図9に示すような、「温度降下速度と、加熱制御温度と下限温度との差と、の関係を定義する関係情報」は、全ての温度制御対象2について共通で使用できる。
また、各温度制御対象2の下限温度は予め決定しているので、図9に示す関係情報において、加熱制御温度と下限温度との差の代わりに、温度降下速度に対応する加熱制御温度が予め代入されている関係情報を各温度制御対象2について保持してもよい。
つぎに、ヒータON/OFF要求部23は、工学値変換部12から入力された温度制御対象2の温度Tiと、加熱制御温度計算部22から入力された加熱制御温度と、に基づいて、各温度制御対象2に取り付けられているヒータ3に行うONまたはOFFの制御を判定してヒータ3毎に要求情報を生成する。ヒータON/OFF要求部23は、各温度制御対象2に取り付けられているヒータ3について決定したONまたはOFFを要求する制御要求情報を、ヒータスイッチ制御部26および優先順位判定部24に出力する。ヒータON/OFF要求部23は、ON制御を要求するヒータ3についてはヒータON要求情報を、優先順位判定部24に出力する。また、ヒータON/OFF要求部23は、OFF制御を要求するヒータ3についてはヒータOFF要求情報をヒータスイッチ制御部26に出力する。
ヒータON/OFF要求部23において温度制御対象2に取り付けられているヒータ3のONまたはOFFの制御の要求を決定する方法について説明する。ヒータON/OFF要求部23は、ステップS120において、温度制御対象2の温度Tiと加熱制御温度Tisとが入力された複数の温度制御対象2について、温度制御対象2の温度Tiと加熱制御温度Tisとを比較し、温度制御対象2の温度Tiが加熱制御温度Tis以下であるか否かを判定する。
ステップS120において、温度制御対象2の温度Tiが加熱制御温度Tisより大である場合は(ステップS120、No)、ステップS200において、ヒータON/OFF要求部23は、この温度制御対象2に対応するヒータ3についてヒータOFF要求情報をヒータスイッチ制御部26に出力する。
一方、ステップS120において、温度制御対象2の温度Tiが加熱制御温度Tis以下である場合は(ステップS120、Yes)、ステップS130において、ヒータON/OFF要求部23は、この温度制御対象2に対応するヒータ3をONする候補として、該ヒータ3についてヒータON要求情報を生成して、優先順位判定部24に出力する。
優先順位判定部24は、ステップS140において、ヒータON要求情報が入力された、ONする候補である複数のヒータ3について、ヒータ3をONする温度制御対象2の優先順位を判定する。優先順位判定部24は、各温度制御対象2の温度降下速度に基づいて、ヒータ3をONする優先順位を判定する。すなわち、優先順位判定部24は、相対的に温度降下速度の速い温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の優先順位を高くし、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2に取り付けられたヒータ3の優先順位を低くして、優先順位を判定する。また、温度降下速度が同じ場合には、温度制御対象2の温度が低い方の優先順位を高くする。
また、優先順位判定部24は、相対的に温度の低い、すなわち相対的に下限温度との温度差の小さい温度制御対象2の優先順位を高くし、相対的に温度の高い、すなわち相対的に下限温度との温度差の大きい温度制御対象2の優先順位を低くして、優先順位を判定する。優先順位判定部24は、ONする候補である複数のヒータ3について、優先順位をヒータピーク電力管理部25に出力する。
したがって、より好ましくは、優先順位判定部24が、各温度制御対象2の下限温度を保持しておく。そして、優先順位判定部24は、各温度制御対象2の温度が温度Tiから低下してそれぞれの下限温度に達するまでの下限温度到達時間を、温度制御対象2の温度Tiと各温度制御対象2の下限温度とにより算出する。そして、この下限温度到達時間が短い順に優先順位を高く設定する。
ヒータピーク電力管理部25は、ステップS150において、優先順位の高い順にヒータ3をONした場合の、ヒータ3の合計電力であるトータルヒータ電力Ptを計算する。ヒータピーク電力管理部25は、ONする候補のヒータ3cの各ヒータ電力Pcを、各ヒータの電圧Vと各ヒータの抵抗値Rcとを保持しておき、下記式(2)により計算する。
Pc=V2 /Rc ・・・・(2)
そして、このONする候補の各ヒータ3cのヒータ電力Pcを求め、優先順位の高い順にONした場合のヒータ3cのトータルヒータ電力Ptを計算する。たとえば、ΣPc(1)を優先順位が1番目のヒータ3cのヒータ電力の1制御周期分の総和、ΣPc(2)を優先順位が2番目のヒータ3cのヒータ電力の1制御周期分の総和、・・・、ΣPc(k)を優先順位がk番目のヒータ3cのヒータ電力の1制御周期分の総和とする。優先順位が1番目からk番目までのヒータ3のトータルヒータ電力Ptは、下記式(3)のように計算される。
Pt=ΣPc(1)+ΣPc(2)+…+ΣPc(k)・・・・(3)
ヒータピーク電力管理部25は、既定の電力上限値Puの情報を予め保持している。ヒータピーク電力管理部25は、ステップS160において、ONする候補の各ヒータ3cのヒータ電力を、優先順位に基づいて逐次加算することによって得られるトータルヒータ電力Ptが、電力上限値Puより大であるか否かを判定する。
ステップS160において、トータルヒータ電力Ptが電力上限値Puより大である場合は(ステップS160、Yes)、ヒータピーク電力管理部25は、ステップS150に戻る。そして、ヒータピーク電力管理部25は、最後に加算したヒータ3cのヒータ電力Pcをトータルヒータ電力Ptから除いて、再度トータルヒータ電力Ptを求め、再度ステップS160を行う。ヒータピーク電力管理部25は、トータルヒータ電力Ptが電力上限値Puを超えなくなるまでこの処理を繰り返す。トータルヒータ電力Ptからヒータ3cを除く順番は、優先順位の低い順にしたがっている。この処理により、優先順位の低い順にしたがって、OFFするヒータ3を決定することができる。
ステップS160において、トータルヒータ電力Ptが電力上限値Puを超えない場合は(ステップS160、No)、ヒータピーク電力管理部25は、ステップS170において、このときのトータルヒータ電力Ptの算出に含まれているヒータ3cを、トータルヒータ電力Ptが電力上限値Puを超えない範囲で最終的にONするヒータ3として決定する。また、ヒータピーク電力管理部25は、このときのトータルヒータ電力Ptの算出に含まれていないヒータ3cを、OFFするヒータ3として決定する。
そして、ステップS180において、ヒータピーク電力管理部25は、最終的にONするヒータ3として決定したヒータ3について、ヒータON要求情報を生成してヒータスイッチ制御部26に出力する。また、ヒータピーク電力管理部25は、OFFするヒータ3として決定したヒータ3について、ヒータOFF要求情報を生成してヒータスイッチ制御部26に出力する。これにより、下記式(4)に示すように、ヒータ3cのトータルヒータ電力Ptは電力上限値Pu内となり、ヒータピーク電力管理部25による一連のヒータON/OFF設定作業が終わる。
Pt=ΣPc(1)+ΣPc(2)+…+ΣPc(h)<Pu ・・・(4)
つぎに、ステップS190において、ヒータスイッチ制御部26は、ヒータON要求情報およびヒータOFF要求情報が入力されたヒータ3のヒータスイッチ5のONまたはOFFを制御するヒータスイッチ制御情報を各ヒータスイッチ5に出力する。
各ヒータスイッチ5では、ヒータスイッチ制御部26から入力されたヒータスイッチ制御情報に基づいて、ヒータスイッチ5のON/OFFを既定の制御周期で実施する。
以上の処理を繰り返すことにより、各温度制御対象2に取り付けられたヒータ3のON/OFFが制御される。
図10は、実施の形態2にかかるヒータ制御装置により制御された温度制御対象2の温度プロファイルの一例を示す特性図である。上記手順により複数の温度制御対象2に対応する各ヒータ3のONおよびOFFを制御した場合、温度制御対象2の温度Tiはたとえば図10のようになる。図10においては、温度降下速度が異なる温度制御対象2Cと温度制御対象2Dとの温度プロファイルの一例を示している。また、図10においては、横軸が時間軸を示しており、t1〜t8がヒータ3の制御周期である。また、縦軸が温度制御対象2の温度を示している。また、図10においては、便宜的に下限温度Tiuが同じ温度であるとして示しているが、実際には下限温度Tiuは温度制御対象2毎に異なる。図10に示すように、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2Cの加熱制御温度Tiscは、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2Dの加熱制御温度Tisdと比較して、低く設定される。すなわち、下限温度Tiuとの差は、加熱制御温度Tisdと比較して、加熱制御温度Tiscの方が少なく設定される。
全ての温度制御対象2について加熱制御温度と下限温度Tiuとの差が1つの固定の値とされている場合には、全温度制御対象2の温度は、下限温度Tiuから固定の幅だけ高い加熱制御温度の近傍で振れることになる。この場合、加熱制御温度と下限温度Tiuとの差は、複数の温度制御対象2のうち、加熱制御温度と下限温度Tiuとの差を最も大きくする必要のあるものを基準に設定されるため、温度制御対象2の平均温度が高くなる。
一方、本実施の形態2では、温度降下速度が異なる温度制御対象2毎に、加熱制御温度と下限温度Tiuとの温度差が各温度制御対象2に固有の加熱制御温度を計算し、この加熱制御温度に基づいて各温度制御対象2に取り付けられたヒータ3のONおよびOFFの制御が行う。そして、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、加熱制御温度を低めに設定する。すなわち、相対的に温度降下速度が遅い温度制御対象2については、相対的に温度降下速度が速い温度制御対象2と比較して、加熱制御温度と下限温度との差を小さく設定する。これにより、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2の平均温度を下げることが可能になり、複数ある温度制御対象2の全体の平均温度を下げることができる。その結果、ヒータ3で使用する平均電力を少なく抑制することができ、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できる。
また、ヒステリシス制御においては、制御に用いる基準温度のうち低い方の基準温度まで温度制御対象の温度が下がらないとヒータはONとならず、また低い方の基準温度まで温度制御対象の温度が下がったら必ずONしなければならない。
一方、本実施の形態2では、図10に示すように温度制御対象2の温度が下限温度に下がる前からヒータ3をONすることを可能にさせ、且つその場合必ずしもヒータをONする必要はないので、ヒータ3のONおよびOFFの制御に対して自由度が大きい。すなわち、ピーク電力の電力上限値Puに対してヒータ3のトータルヒータ電力Ptが少ない場合は、温度制御対象2の温度が下限温度Tiuまで下がらなくても優先順位に従ってヒータ3をONすることができる。また、トータルヒータ電力Ptがピーク電力の電力上限値Puを超えてしまう場合は、優先順位の低い順に従って、ヒータ3をOFFしていくことができる。
図10に示した例では、t2〜t3、t4〜t5、t6〜t7の制御周期では、優先順位が高く温度降下速度が速い温度制御対象2Dのヒータ3がONされ、優先順位が低く温度降下速度が遅い温度制御対象2Cのヒータ3がOFFされている。これにより、図10に示した例では、ヒータ3のONの重なりによるピーク電力の増大を抑制する制御形態とされている。なお、ここでは、温度制御対象2cと温度制御対象2Dとの2つのみを示しているが、複数の温度制御対象2について優先順位にしたがってONすることにより、同様にヒータ3のONの重なりによるピーク電力の増大を抑制する制御を行うことができる。
以上によって、ヒータ3のONおよびOFFの制御は自由度の大きな状態で、そのトータルヒータ電力Ptがヒータ3の平均電力より少し大きく設定したピーク電力の電力上限値Pu内に収まるように制御される。この結果、トータルヒータ電力Ptは、常時平均電力付近で推移し、平均電力に比べて少し大きい程度のピーク電力に抑えられる。
ここで、ヒータ3の制御周期におけるピーク電力の電力上限値Puに対してヒータ3のトータルヒータ電力Ptが少ない場合に、温度制御対象2の温度が下限温度Tiuまで下がらない温度制御対象2のヒータ3を優先順位に従ってONすることにより、ピーク電力を抑制するために使用電力を前倒しすることが可能である。すなわち、トータルヒータ電力Ptがヒータ3の平均電力より少し大きく設定したピーク電力の電力上限値Pu内に収まるように、温度制御対象2の温度が下限温度Tiuまで下がらない温度制御対象2について、優先順位に従ってヒータ3をONすることができる。これにより、後の時間帯において温度制御対象2の温度が下限温度Tiuまで下がってヒータ3をONすることが必要となる温度制御対象2の温度を予め上げることができ、このヒータ3による使用電力を前倒しすることができる。この結果、このヒータ3による使用電力の前倒しをしない場合に比べて、後の時間帯においてこのヒータ3をONした場合に複数のヒータ3のONの重なりによる生じるピーク電力の増大を抑制することができる。したがって、使用電力の平均化が可能となり、トータルヒータ電力Ptは、常時平均電力付近で推移し、平均電力に比べて少し大きい程度のピーク電力に抑えられる。
図11は、実施の形態2にかかるヒータ制御装置により制御されたトータルヒータ電力Ptの挙動の一例を示す図である。図11において、四角いブロックは、時間毎の各ヒータ3の電力を示している。図11に示すように、各制御周期におけるトータルヒータ電力Ptは、常時平均電力付近で推移し、平均電力に比べて少し大きい程度のピーク電力に抑えられる。
各ヒータ3のONまたはOFFの制御は制御周期毎に行われてもよく、更に細かい時間帯において行われてもよい。すなわち、1つの制御周期における時間帯を複数の分割時間帯に分割してもよい。センサ4および制御部21の各部は、分割時間帯に対応させて各分割時間帯毎に上述した情報を取得または生成する。ヒータピーク電力管理部25は、1つの制御周期における各分割時間帯について上述した一連のヒータON/OFF設定作業を実施する。ヒータスイッチ制御部26は、1つの制御周期における各分割時間帯についてヒータON要求情報およびヒータOFF要求情報が入力されたヒータ3のヒータスイッチ5のONまたはOFFを制御するヒータスイッチ制御情報を、各ヒータスイッチ5に出力する。
各ヒータスイッチ5では、ヒータスイッチ制御部26から入力されたヒータスイッチ制御情報に基づいて、1つの制御周期における各分割時間帯において、ヒータスイッチ5のON/OFFを、分割時間帯に対応する既定の刻み時間で判断して実施する。この場合には、図11に示すように、1つの制御周期において、複数のピーク電力が生じるが、この場合も各分割時間帯においてトータルヒータ電力Ptが電力上限値Puを超えない範囲で最終的にONするヒータ3として決定される。たとえば図11においては、1つの制御周期が図示しない多数の分割時間帯されている。そして、t1〜22の制御周期のうち前半部分では、トータルヒータ電力Ptが電力上限値Puを超えない範囲で、優先順位に従ってヒータ3a,3b,3cがONされている。また、制御周期のうち後半部分では、トータルヒータ電力Ptが電力上限値Puを超えない範囲で、優先順位に従ってヒータ3a,3dがONされている。
ピーク電力を抑制するために使用電力を前倒しする場合には、ピーク電力の制御を行わない場合に比べて各温度制御対象の温度が上昇し、温度制御対象の全体の平均温度が高くなり、使用平均電力が増加する。しかしながら、本実施の形態2においては、ピーク電力の制御を行いつつ、トータルヒータ電力Ptを使用平均電力に比べて少し大きい程度のピーク電力に抑制できる。
上述したように、本実施の形態2においては、実測した温度制御対象2の温度Tiに基づいて温度降下速度を計算し、該温度降下速度に基づいて各温度制御対象2に固有の制御基準温度である加熱制御温度を決定する。そして、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2ほど、下限温度と加熱制御温度との温度差を小さくする。これにより、相対的に温度降下速度の遅い温度制御対象2の平均温度を下げることができ、複数の温度制御対象2の全体の平均温度を下げることが可能になる。したがって、本実施の形態2によれば、ヒータ3で使用する平均電力を少なく抑制することができ、ヒータ3による電力系への負荷を軽減できる、という効果が得られる。
また、本実施の形態2においては、ピーク電力の制御を行いつつ、トータルヒータ電力Ptを使用平均電力に比べて少し大きい程度の少ないピーク電力に抑制できる、という効果が得られる。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。