JP2016137115A - ヘッドキャップ - Google Patents

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三樹男 高野
Mikio Takano
三樹男 高野
恭平 小瀧
Kyohei Kotaki
恭平 小瀧
伸行 塩瀬
Nobuyuki Shiose
伸行 塩瀬
俊之 中務
Toshiyuki Nakatsukasa
俊之 中務
啓美 藤澤
Hiromi Fujisawa
啓美 藤澤
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Abstract

【課題】患者の頭部を冷却したり、加温したりする際に、熱源部の精密な温度管理を実現可能なヘッドキャップを提供する。
【解決手段】本発明のヘッドキャップ10は、患者の頭部に装着可能なインナーキャップ20、複数のぺルチェ素子32を有する熱源部30、及び、熱源部30の熱を外気へ放熱するアウターキャップ40が、熱源部30を挟んで積層された3層構造を有し、熱源部30の熱をアウターキャップ40によって外気へ効率的に放熱する構成となっている。
【選択図】 図2

Description

本発明は、ヘッドキャップに関し、特に、患者の頭部に装着する医療用装具として用いて好適なヘッドキャップに関する。
医療の分野において、頭部、特に脳が重大な障害を受けた場合、障害がそれ以上進行することを防止するために、体温を低く保つ脳低温療法が知られている。脳低温療法は、脳を冷却して脳の炎症を抑え、神経細胞が死滅しないように管理する療法である。また、救急救命の現場では、進行的な脳組織の破壊を抑制することで、救命率や機能予後の向上が見込まれ、それを制御することが重要な課題とされている。
脳を一定時間(一定期間)所定の低温に維持する療法は、急性脳障害の治療に有効であることが知られている。しかし、効果的な脳温を得るために、全身を冷却する等の療法の適用は、他の正常な機能を大きく妨げる危険を伴う。そのため、急性脳障害の治療には精密な温度管理が必要になることから、規模の大きな全身冷却システムが定着していることが報告されている。しかしながら、スペースに限りがある環境、例えば救急車、救難ヘリコプター、救急医療専用ヘリコプター(所謂、ドクターヘリ)への大規模な全身冷却システムの搭載は困難である。
このような大規模な全身冷却システムに対して、患者の頭部の冷却及び加温が可能な頭部冷暖装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、頭部に装着する形状の頭部装着部が、ペルチェ素子が内蔵されたペルチェ素子モジュール、ペルチェ素子モジュールの裏面に一部が接触した熱伝導材、及び、熱伝導材の外側に設けられた断熱材を有する頭部冷暖装置が記載されている。
特開2011−342号公報
上述したように、特許文献1に記載の頭部冷暖装置は、基本的に、頭部装着部がペルチェ素子モジュールと熱伝導材との2層構造となっており、しかも、熱伝導材の外側には熱伝導材を外気から熱的に遮断する断熱材を設けた構成となっている。従って、熱伝導材を通して患者の頭部を冷却したり、加温したりすることができるものの、熱源部であるペルチェ素子モジュールの放熱については考慮されていないために、熱源部の精密な温度管理が望めない。
そこで、本発明は、患者の頭部を冷却したり、加温したりする際に、熱源部の精密な温度管理を実現可能なヘッドキャップを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するための本発明のヘッドキャップは、
患者の頭部に装着可能なインナーキャップ、
複数の熱電素子を有する熱源部、及び、
熱源部の熱を外気へ放熱するアウターキャップが、順次、積層されて成ることを特徴とする。
本発明によれば、インナーキャップ及びアウターキャップが、熱源部を挟んで積層された3層構造のヘッドキャップとなっており、熱源部の熱をアウターキャップによって効率的に外気へ放熱できるため、熱源部の精密な(精度の良い)温度管理を実現できる。尚、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。また、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって、これに限定されるものではなく、また付加的な効果があってもよい。
図1は、本発明の一実施形態に係るヘッドキャップの外観を示す概略正面図である。 図2Aは、本発明の一実施形態に係るヘッドキャップの側断面図であり、図2Bは、図2Aの一点鎖線で囲ったA部の拡大断面図である。 図3は、ペルチェ素子及び温度センサーの配置の一例を示す、図1のヘッドキャップを上方から見た展開図である。 図4Aは、図4Bの矢印A−Aに沿った実施例1に係るアウターキャップの放熱機構部を示す断面図であり、図4Bは、実施例1に係るアウターキャップの放熱機構部を示す平面図である。 図5Aは、図5Bの矢印A−Aに沿った実施例2に係るアウターキャップの放熱機構部を示す断面図であり、図5Bは、実施例2に係るアウターキャップの放熱機構部を示す平面図である。 図6Aは、図6Bの矢印A−Aに沿った実施例3に係るアウターキャップの放熱機構部を示す断面図であり、図6Bは、実施例3に係るアウターキャップの放熱機構部を示す熱伝導性シリコーンゲルの平面図である。 図7Aは、ペルチェ素子の構造を示す一部断面を含む概略斜視図であり、図7Bは、ペルチェ素子の原理図である。 図8は、制御ユニット(制御部)の構成の一例を、ペルチェブロック及び温度センサーブロックと共に示すブロック図である。 図9Aは、患者の頭頂部前側に対応する部位に温度表示部を備えるヘッドキャップの外観を示す概略正面図であり、図9Bは、温度表示部の表示例を示す図である。 図10は、電流制御部による熱源部の温度の制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。 図11は、ヘッドキャップを装着した患者がベッド又はマット上に寝かされた状態を示す図である。
以下、本発明の技術を実施するための形態(以下、「実施形態」と記述する)について図面を用いて詳細に説明する。本発明は実施形態に限定されるものではなく、実施形態における種々の数値や材料などは例示である。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
<本発明のヘッドキャップ、全般に関する説明>
本発明のヘッドキャップにおいて、熱電素子(熱電変換素子)は、熱と電気を関連付ける現象を利用した半導体素子である。本発明のヘッドキャップにあっては、熱電素子として、ペルチェ効果を利用したペルチェ素子を用いる構成とすることができる。ペルチェ効果は、異なる2種類の金属又は半導体(N型半導体とP型半導体)を接合して電流を流すとき、その接合部にジュール熱以外の吸熱及び発熱が発生する現象である。従って、熱電素子としてペルチェ素子を用いることで、冷却と加温及び温度制御を自由に行うことができる。熱電素子としては、ペルチェ素子の他、ゼーベック効果を利用したゼーベック素子や、電気抵抗の温度変化を利用したサーミスターなどのデバイスを用いることも可能である。
上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、インナーキャップについて、布被覆ヘッドスキンキャップと熱伝導性シリコーンラバーとが積層されて成る構成することができる。布(例えば、フリース)で被覆したヘッドスキンキャップは、患者の頭部に対する優れた装着性を確保できる。熱伝導性シリコーンラバーは、頭部の形状に合わせて密着した形で装着された状態で、熱源部の熱電素子と患者の頭部との間での熱伝導を効率的に行う。インナーキャップについては、布被覆ヘッドスキンキャップと熱伝導性シリコーンラバーとの2層構造の他にも、熱伝導性シリコーンラバーに対して高熱伝導性グラファイトが積層されて成る3層構造、具体的には、布被覆ヘッドスキンキャップ、熱伝導性シリコーンラバー、及び、高熱伝導性グラファイトの3層構造とすることもできる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、アウターキャップについて、外気に直接触れる熱伝導性シリコーンゲルと熱伝導性シリコーンラバーとが積層されて成る構成とすることができる。熱伝導性シリコーンゲル及び熱伝導性シリコーンラバーの積層構造から成るアウターキャップはクッション性に優れ、患者の頭部に装着する医療用装具として有用なものとなる。熱伝導性シリコーンラバーは、熱源部の熱を熱伝導性シリコーンゲルへ効率的に伝導する。アウターキャップについては、熱伝導性シリコーンゲルと熱伝導性シリコーンラバーとの2層構造の他にも、熱伝導性シリコーンラバーに対して炭素繊維又は熱伝導性グラファイトが積層されて成る3層構造、具体的には、熱伝導性シリコーンゲル、熱伝導性シリコーンラバー、及び、炭素繊維又は熱伝導性グラファイトの3層構造とすることもできる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、熱伝導性シリコーンゲルについて、放熱フィン等の放熱機構部を有する構成とすることが好ましい。放熱機構部を有することで、熱源部から熱伝導性シリコーンゲルに伝導された熱を効率的に外気へ放熱することができる。また、放熱機構部は、熱伝導性シリコーンゲルと同じ材料にて一体的に形成されるのが好ましい。これにより、放熱機構部が熱伝導性シリコーンゲルと異なる材料で形成され、熱伝導性シリコーンゲルと放熱機構部との間に、それらの接合部での熱抵抗が存在する場合に比べて、熱伝導性シリコーンゲルから放熱機構部への熱伝導効率を高めることができる。加えて、放熱機構部が熱伝導性シリコーンゲルと同じ材料から成ることで、患者の頭部の形状に合わせて変形できることになる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、熱源部について、直流安定化電源に接続される、単一の熱電素子から成る複数の熱電素子ブロック、又は、直列接続された複数の熱電素子から成る複数の熱電素子ブロックが並列接続された構成とすることができる。並列接続された複数の熱電素子ブロックの各々は、患者の頭部の所定の部位に対応して分散して配置されることになる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、複数の熱電素子ブロックの温度を制御する制御部を備える構成とすることができる。また、熱源部については、複数の温度センサーを有する構成とすることができる。このとき、制御部は、複数の温度センサーの検知温度に基づいて複数の熱電素子ブロックの温度を制御する、好ましくは、複数の温度センサーの検知温度の平均値を算出し、この算出した平均値に基づいて複数の熱電素子ブロックの温度を制御する構成とすることができる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、制御部について、複数の熱電素子ブロックに対して断続的にパルス電流を供給する制御を行う構成とすることができる。また、制御部について、複数の熱電素子ブロックに流す電流の極性を反転することによって冷熱/加温の切替え制御を行う構成とすることができる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、制御部について、予め標準的に定められた設定温度を基準として複数の熱電素子ブロックの温度制御を行う構成とすることができる。予め標準的に定められた設定温度については、変更可能である構成とする、具体的には、患者の容態に応じて変更可能である構成とすることができる。
更に、上述した好ましい構成を含む本発明のヘッドキャップにあっては、直流安定化電源について、商用電源の整流電源、車輛電源、又は、携帯可能な電池パック電源に基づいて動作する構成とすることができる。直流安定化電源の元が商用電源の整流電源の場合には、例えば病院で使用されることになる。直流安定化電源の元が車輛電源の場合には、例えば救急車で使用されることになる。直流安定化電源の元が携帯可能な電池パック電源の場合には、スペースに限りがある環境、例えば救急車、救難ヘリコプター、救急医療専用ヘリコプターの他、屋外など任意の場所での使用が可能になる。
<本発明の一実施形態に係るヘッドキャップ>
図1は、本発明の一実施形態に係るヘッドキャップの外観を示す概略正面図である。図2Aは、本発明の一実施形態に係るヘッドキャップの側断面図であり、図2Bは、図2Aの一点鎖線で囲ったA部の拡大断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るヘッドキャップ10は、患者の頭部を全体的に覆う頭巾形の形状となっており、前面側に患者の顔が露出する開口部11を有し、例えば、開口部11の下側で患者から見て左側の端部12と右側の端部13とが互いに重ね合わされる構成となっている。左側の端部12は右側の端部13に対して面的に着脱できる面ファスナー14にて着脱自在となっている。そして、面ファスナー14を外すことで、ヘッドキャップ10を患者の頭部に装着したり、ヘッドキャップ10を外したりすることが容易な構成となっている。また、左側の端部12と右側の端部13との結合部が面ファスナー14であることで、患者の頭部、特に首周りのサイズに対応して左側の端部12と右側の端部13との間を自由に広げたり、縮めたりすることができる。尚、ヘッドキャップ10のサイズを予め複数、例えば子供用と大人用の2サイズを用意しておくことで、子供から大人まであらゆるサイズの頭部に対応できることになる。
図2A及び図2Bに示すように、ヘッドキャップ10は、患者の頭部に装着可能なインナーキャップ20、複数の熱電素子を有する熱源部30、及び、熱源部30の熱を外気へ放熱するアウターキャップ40が、順次、積層された3層構造(3層のサンドイッチ構造)となっている。また、図1に示すように、ヘッドキャップ10には、熱源部30の温度を制御する制御ユニット50が装備されている。制御ユニット50は、ヘッドキャップ10の熱源部30に対してコード60を介して電気的に接続されている。
[インナーキャップ]
図2Bにおいて、インナーキャップ20は、吸熱用の装具であり、患者の頭部に直接接触する最内面側に、厚さが1[mm]程度の布(例えば、フリース)で被覆した布被覆ヘッドスキンキャップ21を有することで、患者の頭部に対する優れた装着性を確保している。布被覆ヘッドスキンキャップ21には、厚さが5[mm]程度のシート状の熱伝導性シリコーンラバー22が積層されている。
熱伝導性シリコーンラバー22は、シリコーンゴム特有の柔軟性を有し、熱伝導性に優れている。一般的なシリコーンゴムの熱伝導率は0.2[W/m・K]程度である。これに対して、熱伝導性シリコーンラバー22の熱伝導率は、シリコーンゴムやオイルに配合する熱伝導性粒子にもよるが、1.0〜7.0[W/m・K]程度と一般的なシリコーンゴムに比べて極めて熱伝導性に優れている。
布被覆ヘッドスキンキャップ21とシート状の熱伝導性シリコーンラバー22とは、例えば、シリコーンゴム等から成る接着剤や放熱性接着剤によって接合することができる。放熱性接着剤は、優れた熱伝導性を有する機能性接着剤である。
先述した面ファスナー14は、インナーキャップ20に取り付けられることになる。これにより、インナーキャップ20は、面ファスナー付きインナーキャップとなる。ここでは、インナーキャップ20について、布被覆ヘッドスキンキャップ21と熱伝導性シリコーンラバー22との2層構造としたが、熱伝導性シリコーンラバー22に対して高熱伝導性グラファイトを更に積層した、布被覆ヘッドスキンキャップ21、熱伝導性シリコーンラバー22、及び、高熱伝導性グラファイトの少なくとも3層構造としてもよい。
[熱源部]
熱源部30は、インナーキャップ20のシート状の熱伝導性シリコーンラバー22上に積層された接着層31を有する。接着層31は、両面粘着テープ等の接着剤から成る。両面粘着テープは、強固な接着が可能な接着剤である。熱源部30には、接着層31の上に複数の熱電素子、例えばペルチェ効果を利用したペルチェ素子32が配置されている。換言すれば、熱源部30は、インナーキャップ20上に複数のペルチェ素子32が接着層31によって貼り付けられた構成となっている。
ペルチェ素子32の詳細については後述する。ペルチェ素子32とペルチェ素子32との間は、厚さが2[mm]程度の断熱性のセパレータ33によって熱的に仕切られた構造となっている。そして、セパレータ33によって仕切られた空間には、ペルチェ素子32の数に対して所定の割合で複数の温度センサー34が設けられている。
図3に、ペルチェ素子32及び温度センサー34の配置の一例を示す。図3は、図1のヘッドキャップ10を上方から見た展開図である。図3では、ペルチェ素子32を□印で図示し、温度センサー34を○印で図示している。
図1に示す、患者の頂頭部に対応する部位15及び左右両側頭部に対応する部位16,17にペルチェ素子32及び温度センサー34が配置されることになる。具体的には、図3において、ペルチェ素子32は複数、例えば6個直列接続されて1つのペルチェブロック35を構成している。そして、患者の頂頭部に対応する部位15には、ペルチェブロック35が後頭部から前頭部に向かう方向に沿って例えば3列(35-1,35-2,35-3)配置されている。更に、左右両側頭部に対応する部位16,17には、ペルチェブロック35が後頭部から前頭部に向かう方向に沿って例えば1列ずつ(35-4,35-5)配置されている。このようなペルチェ素子32の配置により、患者の頭部、特に脳を全体的に冷却することができる。
温度センサー34は、ペルチェブロック35とペルチェブロック35との間の隙間に、後頭部から前頭部に向かう方向に沿って適当な間隔をもって複数個ずつ配置されて温度センサーブロック36を構成している。本例では、患者の頂頭部に対応する部位15には、ペルチェブロック35-1とペルチェブロック35-2との間の隙間、及び、ペルチェブロック35-2とペルチェブロック35-3との間の隙間に、温度センサー34が3個ずつ配置されて温度センサーブロック36-1及び温度センサーブロック36-2を構成している。更に、患者の左右両側頭部に対応する部位16,17には、温度センサー34が2個ずつ配置されて温度センサーブロック36-3及び温度センサーブロック36-4を構成している。このような温度センサー34の配置により、熱源部30の温度、より具体的には、複数のペルチェブロック(熱電素子ブロック)35-1〜35-5の温度を全体的に検知することができる。
ペルチェ素子32の実装に当たっては、例えば、ペルチェブロック35の単位でフレキシブルプリント回路基板(フレキシブル基板)を用いて当該基板上に複数のペルチェ素子32を配置する構成を採ることができる。フレキシブルプリント回路基板は、絶縁性を持った薄く柔らかいベースフィルム(ポリイミド等)と銅箔等の導電性金属を貼り合わせた基材に電気回路を形成した基板であり、複数のペルチェ素子32の間の電気的接続を容易に実現できる。更には、ペルチェ素子32が実装されたフレキシブルプリント回路基板上に、温度センサー34を実装することも可能である。
[アウターキャップ]
図2Bにおいて、アウターキャップ40は、放熱用の装具であり、外気に直接触れるシート状の熱伝導性シリコーンゲル41とシート状の熱伝導性シリコーンラバー42とが、熱伝導性シリコーンラバー42を内側にして熱源部30の上に積層された2層構造となっている。熱伝導性シリコーンゲル41は、後述する放熱機構部(図4A、図4B、図5A、及び、図5B参照)を有しており、共通ベースの厚さが5[mm]程度で、放熱フィン(放熱片)の概略の高さが5〜10[mm]程度の総合した概略の高さが15〜20[mm]程度であり、柔軟性を有し、且つ、熱伝導性に優れている。熱伝導性シリコーンゲル41の熱伝導率は、6.0〜17.0[W/m・K]程度であって、一般的なシリコーンゴムの熱伝導率(0.2[W/m・K]程度)に比べて極めて高い。熱伝導性シリコーンラバー42は、厚さが3〜5[mm]程度である。熱伝導性シリコーンラバー42としては、インナーキャップ20の熱伝導性シリコーンラバー22と同じ材質のものを用いることができる。
ここでは、熱伝導性シリコーンゲル41と熱伝導性シリコーンラバー42との2層構造のアウターキャップ40を例示したが、熱伝導性シリコーンラバー42に対して炭素繊維又は熱伝導性グラファイトを更に積層した、熱伝導性シリコーンゲル41、熱伝導性シリコーンラバー42、及び、炭素繊維又は熱伝導性グラファイトの少なくとも3層構造としてもよい。
熱伝導性シリコーンゲル41については、放熱面積を拡張した放熱機構部を有する構成とすることが好ましい。熱伝導性シリコーンゲル41が放熱機構部を有することにより、放熱面積を拡張できるために、熱源部30から熱伝導性シリコーンゲル41に伝導された熱を効率的に外気へ放熱することができる、即ち放熱効果を高めることができる。このとき、放熱機構部は、熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料にて一体的に形成されるのが好ましい。これにより、放熱機構部が熱伝導性シリコーンゲル41と異なる材料で形成され、熱伝導性シリコーンゲル41と放熱機構部との間に、それらの接合部での熱抵抗が存在する場合に比べて、熱伝導性シリコーンゲル41から放熱機構部への伝導効率を高めることができる。加えて、放熱機構部が熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料から成ることで、患者の頭部の形状に合わせた変形が可能となる。
以下に、アウターキャップ40において、熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料にて一体的に形成されて成る放熱機構部の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
図4Aは、図4Bの矢印A−Aに沿った実施例1に係るアウターキャップの放熱機構部を示す断面図であり、図4Bは、実施例1に係るアウターキャップの放熱機構部を示す平面図である。図4A及び図4Bに示すように、実施例1に係る放熱機構部は、熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料にて、断面形状が例えば矩形形状(あるいは、くさび形状)を有する帯状の放熱フィン41Aが一体的に形成された構成となっている。
このように、熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料にて放熱フィン41Aを一体的に形成して成る放熱機構部によれば、加工の一元化が可能であるとともに、熱伝導性シリコーンゲル41から放熱フィン41Aへの熱の伝導効率を高めることができる。その結果、熱源部30から熱伝導性シリコーンゲル41に伝導された熱を、放熱フィン41Aを介して効率的に外気へ放熱することができる。
(実施例2)
図5Aは、図5Bの矢印A−Aに沿った実施例2に係るアウターキャップの放熱機構部を示す断面図であり、図5Bは、実施例2に係るアウターキャップの放熱機構部を示す平面図である。図5A及び図5Bに示すように、実施例2に係る放熱機構部は、熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料にて、高さの低い円柱状、所謂イボ状の放熱片41Bが一体的に形成された構成となっている。
このように、熱伝導性シリコーンゲル41と同じ材料にて放熱片41Bを一体的に形成して成る放熱機構部によれば、加工の一元化が可能であるとともに、熱伝導性シリコーンゲル41から放熱片41Bへの熱の伝導効率を高めることができる。その結果、熱源部30から熱伝導性シリコーンゲル41に伝導された熱を、放熱片41Bを介して効率的に外気へ放熱することができる。
実施例1に係る放熱機構部及び実施例2に係る放熱機構部については、各々単独での適用の他、両者を併用して適用することも可能である。例えば、患者の頭部の部位によって実施例1に係る放熱機構部と実施例2に係る放熱機構部とを使い分けることができる。具体的には、一例として、実施例1に係る放熱機構部を頂頭部用の放熱機構部として用い、実施例2に係る放熱機構部を側頭部用の放熱機構部として用いるというような使い分けを挙げることができる。
(実施例3)
図6Aは、図6Bの矢印A−Aに沿った実施例3に係るアウターキャップ40の放熱機構部を示す熱伝導性シリコーンゲル41の断面図であり、図6Bは、実施例3に係るアウターキャップ40の放熱機構部を示す熱伝導性シリコーンゲル41の平面図である。図6A及び図6Bに示すように、実施例3に係る放熱機構部は、熱伝導性シリコーンゲル41自体にその長手方向に沿って円筒状の貫通孔41Cを複数形成して成る中空ラジエータ構造となっている。
このように、熱伝導性シリコーンゲル41を中空ラジエータ構造とすることで、熱伝導性シリコーンゲル41の放熱面積を大きくとることができるため、放熱効率を上げることができる。また、貫通孔41C内を液体や気体を流す構成を採ることも可能であり、当該構成を採ることによって放熱効率をより向上できる。
アウターキャップ40の放熱機構部としては、上述した実施例1乃至実施例3に係る放熱機構部に限られるものではなく、他の構造のものを用いることもできる。また、実施例1乃至実施例3に係る放熱機構部の構成、構造はあくまで例示に過ぎず、適宜、変更することができる。更には、実施例3に係る放熱機構部を、実施例1に係る放熱機構部と組み合わせたり、実施例2に係る放熱機構部と組み合わせたり、あるいは、実施例1に係る放熱機構部及び実施例2に係る放熱機構部と組み合わせたりすることも可能である。
[ペルチェ素子]
ここで、熱電素子の一例であるペルチェ素子について説明する。ペルチェ素子は、直流電流を流すことによって一方の面から他方の面に熱を移動させる効果のあるデバイスであり、冷却と加温及び温度制御が可能な半導体素子である。
ペルチェ素子の原理について図7A及び図7Bを用いて具体的に説明する。図7Aは、ペルチェ素子の構造を示す一部断面を含む概略斜視図であり、図7Bは、ペルチェ素子の原理図である。
図7Aに示すように、ペルチェ素子32は、P型の熱電半導体素子321とN型の半導体素子322とを上側の銅電極323及び下側の銅電極324で接合し、これらを多数直列に接続し、好ましくは可撓性を有するセラミック基板325及びセラミック基板326によって上下から挟み込んだ構造となっている。そして、多数直列に接続されたP型の熱電半導体素子321及びN型の半導体素子322には、リード線327及びリード線328を通して直流電流が供給される。
図7Bに示すように、N型の半導体素子322の方からを直流電流を流すと、図の上側の接合面から下側の接合面へ熱を運ぶ。このときに、下側の銅電極324から十分な放熱を行うと、上側の銅電極323で吸熱作用を連続的に得ることができる。また、電源部329の極性、即ち直流電流の流れる方向を逆にすることにより、熱の移動方向が逆になるため、上側の銅電極323で放熱作用を連続的に得ることができる。従って、直流電流の流れる方向を変えることによって冷却/加温を切り替えることができる。
[制御ユニット]
図1において、ヘッドキャップ10に装備される制御ユニット50は、熱源部30の温度、より具体的には、複数のペルチェブロック(熱電素子ブロック)35-1〜35-5の温度を制御する制御部であって、コード60によってヘッドキャップ10と電気的に接続されている。以下に、制御部である制御ユニット50の具体的な構成について、図8を用いて説明する。
図8は、制御ユニット(制御部)50の構成の一例を、ペルチェブロック35及び温度センサーブロック36と共に示すブロック図である。先述したように、ヘッドキャップ10には、ペルチェブロック35及び温度センサーブロック36がそれぞれ複数列ずつ内蔵される。
図3との対応関係では、ペルチェブロック35が5列(35-1〜35-5)配置され、温度センサーブロック36が4列(36-1〜36-4)配置されている。また、ペルチェブロック35-1〜35-5の各々について、ペルチェ素子32の個数nはn=6である。また、温度センサーブロック36-1〜36-4において、温度センサー34の個数mは、温度センサーブロック36-1,36-2ではm=3であり、温度センサーブロック36-3,36-4ではm=2である。
図8に示すように、5列分のペルチェブロック35-1〜35-5の各々において、n個のペルチェ素子32-1〜32-nは互いに直列に接続され、最終段に抵抗素子Rが接続されている。また、5列分のペルチェブロック35-1〜35-5は互いに並列に接続されている。そして、ペルチェブロック35-1〜35-5の各出力端は、共通に接続されて接地されている。尚、ここでは、ペルチェブロック35が、直列接続された複数のペルチェ素子32-1〜32-nから構成されるとしたが、これに限られるものではなく、単一のペルチェ素子32から成る構成であってもよい。
ペルチェブロック35及び温度センサーブロック36と制御ユニット50との間においては、コード60によりI/Oコネクタ18を介して信号の授受が行われる。具体的には、制御ユニット50からペルチェブロック35-1〜35-5に対して、温度を制御する直流電流(パルス電流)が供給される。また、温度センサーブロック36-1〜36-4から制御ユニット50に対して、個々の温度センサー34がペルチェブロック35-1〜35-5の温度を検知した検知信号(検知温度の情報)が供給される。
図8に示すように、制御ユニット(制御部)50は、電流制御部51、極性制御部52、温度表示部53、電源端子54、及び、外部出力端子55を有する構成となっている。電流制御部51には、電源部70から電源端子54を介して直流電流が供給される。電源部70は直流安定化電源である。この直流安定化電源から成る電源部70に対して、電流制御部51、コード60、及び、I/Oコネクタ18を介して、単一のペルチェ素子32又は直列接続された複数のペルチェ素子32-1〜32-nから成る複数のペルチェブロック35-1〜35-5が並列接続されることになる。
直流安定化電源から成る電源部70は、商用電源(例えば、100[V]/240[V])の整流電源、車輛電源、又は、携帯可能な電池パック電源に基づいて動作する。直流安定化電源の元が商用電源の整流電源の場合には、医療用装具であるヘッドキャップ10を例えば病院で用いることができる。直流安定化電源の元が車輛電源の場合には、ヘッドキャップ10を例えば救急車で用いることができる。直流安定化電源の元が携帯可能な電池パック電源の場合には、ヘッドキャップ10を例えば救急車、救難ヘリコプター、救急医療専用ヘリコプター等、スペースに限りがある環境で用いることができるとともに、屋外など任意の場所での使用が可能になる。
制御ユニット50において、電流制御部51は、複数のペルチェブロック35-1〜35-5に対して断続的にパルス電流を供給する制御を行うことによってペルチェブロック35-1〜35-5の温度制御を行う。具体的には、電流制御部51は、温度センサーブロック36-1〜36-4の各温度センサー34の検知温度、より具体的には、各温度センサー34の検知温度の平均値を算出し、この算出した平均値に基づいてペルチェブロック35-1〜35-5の温度制御を行う。
先述したように、ペルチェ素子32は、直流電流の流れる方向を変えることによって冷却/加温を切り替えることができる。そこで、電流制御部51は、極性制御部52による制御の下に、ペルチェブロック35-1〜35-5に流す直流電流の極性(方向)を反転することによって冷却/加温を切り替える。この冷却/加温の切り替えによって、患者の頭部の冷却治療のみならず、必要に応じて、あるいは、患者の容態に応じて、加温治療を行うこともできる。あるいは又、ペルチェブロック35-1〜35-5の温度が、予め標準的に定められた設定温度の制御範囲から極端に逸脱した場合には、冷却/加温の切り替えによって、ペルチェブロック35-1〜35-5の温度を制御範囲内に迅速に戻す制御を行うこともできる。
脳が重大な障害を受けた場合の脳低温療法では、一般的に、脳温を33±1℃程度に保つのが適正であるとされている。従って、ここでは、33±1℃に対応する温度が予め標準的に定められた設定温度ということになる。そして、電流制御部51は、ペルチェブロック35-1〜35-5の温度が、33±1℃に対応する制御範囲内、即ち、34℃に対応する温度を上限値とし、32℃に対応する温度を下限値とする制御範囲内になるように制御することになる。また、電流制御部51は、ペルチェブロック35-1〜35-5にパルス電流を流す時間(パルス数)によって冷却/加温効果を強めたり、弱めたりすることができる。そして、パルス電流によるデジタル制御であることにより、滑らかな温度制御を実現できる。
ここで、予め標準的に定められた設定温度については、患者の容態に応じて変更できるようにするとよい。また、熱源部30の温度の制御についても、種々の制御手法をとることができる。一例として、重大な脳障害の初期段階では、設定温度を極めて低く設定して患者の頭部を急冷し、段階的に設定温度を上げていき、最終的に、ペルチェブロック35-1〜35-5の温度が、脳低温療法で一般的に適正とされている33±1℃に対応する温度範囲を制御範囲として、当該制御範囲内を維持するように冷却温度を微調整する等のフィールドプログラマブルな制御を行うことができる。
尚、ここでは、フィールドプログラマブルな制御範囲を、脳低温療法で一般的に適正とされている33±1℃に対応する温度範囲としたが、これは一例に過ぎず、これに限られるものではない。例えば、治療の現場において、患者の容態に応じて、制御範囲を33±1℃よりも極めて低い温度範囲に設定することも可能である。あるいは又、33±1℃に対応する温度範囲以外にも、33±0.5℃、33±0.25℃、33±0.1℃など、より狭い温度範囲とすることも可能である。制御範囲をより狭い温度範囲とすることにより、制御精度を高めることができる。
電流制御部51は、温度センサーブロック36-1〜36-4の各温度センサー34の検知温度の平均値を算出した際に、その算出した平均値を示す温度信号を温度表示部53に供給する。これにより、各温度センサー34の検知温度の平均値が、ペルチェブロック35-1〜35-5の平均温度として温度表示部53に表示される。温度表示部53は、図1に示す制御ユニット50の本体上面あるいは本体前面に配置されることで、医師や看護士、あるいは救命救急隊員等に対してペルチェブロック35-1〜35-5の現在の平均温度を告知(提示)することができる。
尚、ここでは、温度表示部53を制御ユニット50の本体上面あるいは本体前面に配置するとしたが、図9Aに示すように、ヘッドキャップ10における患者の頂頭部の前面側(顔側)に対応する部位に温度表示部53を配置する構成を採るようにしてもよい。この構成を採ることにより、医師や看護士、あるいは救命救急隊員等は、ペルチェブロック35-1〜35-5の温度を脳温として、患者の容態と共に確認できることになる。温度表示部53の表示例を図9Bに示す。ここでは、脳低温療法で一般的に適正とされている33±1℃の温度範囲の中心、即ち33.0℃をデジタル表示した例を示している。
電流制御部51で算出された平均値を示す温度信号は、例えば、外部出力端子55を通して制御ユニット50の外部へ出力され、ヘッドキャップ10に装備された温度表示部53に供給されることになる。また、外部出力端子55から出力される温度信号を、ヘッドキャップ10に装備された温度表示部53の他にも、必要に応じて、例えば病室に装備されている外部表示装置(例えば、モニター)に供給し、当該外部表示装置にペルチェブロック35-1〜35-5の平均温度を表示するようにすることも可能である。
(温度制御の処理手順)
制御ユニット(制御部)50の電流制御部51は、例えば、マイクロコンピュータなどによって構成される。ここで、電流制御部51による熱源部30の温度の制御の処理手順について、図10のフローチャートを用いて説明する。
図10は、電流制御部51による熱源部30の温度の制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。本フローの一連の処理は、例えば、制御ユニット50に備えられている電源スイッチ(図示せず)の投入(電源オン)を受けて開始されるものとする。ここでは、患者の頭部を冷却する際に、重大な脳障害の患者の頭部にヘッドキャップ10を装着した段階で電源スイッチが投入される場合を例に挙げて説明することとする。また、熱源部30の温度の最終的な制御範囲を、脳温が脳低温療法で一般的に適正とされている33±1℃となるように制御する。従って、熱源部30の温度の制御範囲は、33±1℃の温度範囲に対応することになる。具体的には、制御範囲の上限値THighは34℃に対応し、下限値TLowは32℃に対応することになる。
患者の頭部にヘッドキャップ10が装着され、電源スイッチが投入されると、これを受けて電流制御部51は、ペルチェブロック35-1〜35-5に対して所定方向の直流電流(パルス電流)を連続的に供給することによって熱源部30を冷却する状態とする(ステップS11)。次に、電流制御部51は、温度センサーブロック36-1〜36-4の各温度センサー34の検知温度を取り込み(ステップS12)、次いで、これらの検知温度の平均値を算出する(ステップS13)。
ここで、重大な脳障害の患者の頭部の温度は、一般的に、平熱よりも高い状態にある。従って、患者の頭部の温度の影響を受けて、熱源部30の温度は上昇する傾向にある。そこで、電流制御部51は、検知温度の平均値が制御範囲の上限値THighを超えるか否かを判断する(ステップS14)。そして、電流制御部51は、検知温度の平均値が制御範囲の上限値THighを超えていれば、ステップS11に戻ってペルチェブロック35-1〜35-5に対して直流電流を連続的に供給し、冷却状態を継続する。
電流制御部51は、検知温度の平均値が制御範囲の上限値THighを超えていなければ、続いて、検知温度の平均値が制御範囲の下限値TLowを下回るか否かを判断する(ステップS15)。そして、電流制御部51は、検知温度の平均値が制御範囲の下限値TLowを下回っていれば、ペルチェブロック35-1〜35-5に対する直流電流の供給を停止する(ステップS16)。直流電流の供給を停止することで、熱源部30の冷却状態が解除される。これにより、熱源部30の温度が上昇し、検知温度の平均値が制御範囲内に入ることになる。尚、検知温度の平均値が制御範囲の下限値TLowを下回った場合には、ペルチェブロック35-1〜35-5に流す電流の向きを逆にし、熱源部30の加温状態にすることによって、検知温度の平均値を制御範囲内に迅速に戻す制御を行うことも可能である。
電流制御部51は、ステップS16の処理後、ステップS14に移行することで、検知温度の平均値が制御範囲の上限値THighを超えるか否かを再度判断する。そして、ステップS14からステップS16までの処理を繰り返すことで、検知温度の平均値が制御範囲内に維持されることになる。電流制御部51は、検知温度の平均値が制御範囲内に維持され、ステップS15で検知温度の平均値が制御範囲の下限値TLowを下回らないと判断すると、続いて、制御停止か否か(制御停止の指令が発せられたか否か)を判断する(ステップS17)。制御停止の指令は、例えば、制御ユニット50に備えられている制御停止ボタン(図示せず)を、医師や看護士、あるいは救命救急隊員等が操作することによって発せられる。そして、制御停止であれば、本フローの一連の処理を終了し、制御停止でなければ、ステップS14に戻ってステップS14からステップS17までの処理を繰り返して実行する。
上述した温度制御において、温度を例えば0.1℃ステップで変化させるとした場合、リアルタイムで検知温度の平均値を算出して温度を制御することも可能であるが、一定期間(例えば、10秒)毎に検知温度の平均値を算出したり、あるいは、当該一定期間における検知温度の平均値を算出したりして温度を制御する方が、安定した制御を行うことができるため好ましい。
以上の一連の温度制御の処理により、患者の脳温を脳低温療法で一般的に適正とされている33±1℃の温度範囲内に維持できることになる。上記の制御例では、患者の頭部に本ヘッドキャップ10を装着した段階で、制御ユニット50の電源ONによって開始するようにしているが、これに限られるものではない。例えば、患者の頭部に本ヘッドキャップ10を装着していない状態でも、常時、温度センサーブロック36-1〜36-4の各温度センサー34の検知温度の平均値を制御範囲内に維持するようにして管理しておくこともできる。これにより、熱源部30の温度が常時上記の制御範囲内に維持された状態にあるため、重大な脳障害の救急患者が搬送された際に、患者の脳を本ヘッドキャップ10によって直ちに冷却する処置を行うことができることになる。
以上、説明したように、本実施形態に係るヘッドキャップ10は、インナーキャップ20及びアウターキャップ40が、ペルチェ素子32を含む熱源部30を挟んで積層された3層構造となっていることを特徴としている。これによれば、熱源部30の熱をアウターキャップ40によって効率的に外気へ放熱できるため、熱源部30の精密な温度管理、ひいては、患者の脳の精密な温度管理を実現できる。その上で、制御ユニット(制御部)50が、熱源部30に設けられた温度センサー34の検知温度に基づいて、ペルチェブロック35-1〜35-5に対して断続的にパルス電流を供給する制御を行うことになるため、熱源部30の温度、ひいては、患者の脳温を所望の温度範囲内に精度よく維持する制御を実現できる。
尚、上記の実施形態では、自動制御によって患者の脳温を制御範囲内に維持する場合を例に挙げて説明したが、これは一例に過ぎず、自動制御に限られるものではない。例えば、患者の容態に応じて、適宜、図10のフローチャートに沿った自動制御を解除し、手動制御により、33±1℃の温度範囲に対応する制御範囲よりも極めて低い温度を、患者の容態に適した冷却温度として設定して患者の脳を急冷したり、あるいは、手動制御と自動制御とを組み合わせて実行したりすることも可能である。
<ヘッドキャップの使用例>
次に、以上説明した本実施形態に係るヘッドキャップ10の使用例について説明する。本ヘッドキャップ10は、基本的に、重大な脳障害の患者の頭部に装着され、患者の脳を冷却するのに用いられる。図11に、ヘッドキャップ10を装着した患者がベッド又はマット80上に寝かされた状態を示す。
図11に示すように、ベッド又はマット80上に患者を寝かせるにあたっては、患者の頭部とベッド又はマット80との間に、中空の頭部台座(中空枕)90を介在させるのが好ましい。患者の頭部の下に中空の頭部台座90を配し、患者の頭部をベッド又はマット80から隔離することで、ヘッドキャップ10周りの通気性を高めて自然冷却を促進することができる。その結果、ヘッドキャップ10のアウターキャップ40からの外気への放熱を助長することができる。中空の頭部台座90としては、アウターキャップ40からの外気への放熱を助長できるものであればよく、その構造は問わなく、種々の構造のものを用いることができる。
本実施形態に係るヘッドキャップ10は、左側の端部12と右側の端部13との結合部に面ファスナー14(図1参照)を用いているために、患者の頭部、特に、首周りのサイズの大小に関係なく対応できる。しかし、極端なサイズの違いにも対応できるようにするために、ヘッドキャップ10を単一サイズではなく複数サイズ、例えば子供用と大人用の2サイズを用意しておくのが好ましい。これにより、基本的に、子供から大人まであらゆるサイズの頭部に対応できることになる。また、本ヘッドキャップ10は、医療用装具として、規模の大きな大病院の他、規模の小さな小病院や、スペースに限りがある環境、例えば救急車、救難ヘリコプター、救急医療専用ヘリコプター等に常備しておくようにすることが好ましい。このとき、常時、熱源部30の温度が33±1℃の温度範囲内に維持された状態で保管しておくのが好ましい。これによれば、重大な脳障害の救急患者が搬送された際に、直ちに患者の脳を冷却する処置を行うことができるため、救命率や機能予後の向上に寄与できることになる。
<変形例>
以上、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。実施形態において説明したヘッドキャップの構成、構造はあくまでも例示に過ぎず、適宜、変更することができる。例えば、上記の実施形態では、熱源部30のペルチェ素子32と同じ層に温度センサー34を配置するとしたが、インナーキャップ20の内面側に温度センサー34を配置し、患者の頭部の温度を直接検知し、その検知温度(例えば、複数の温度センサーの平均値)に基づいてペルチェブロック35-1〜35-5の温度を制御するようにすることもできる。患者の頭部の温度を直接検知する場合には、熱源部30の制御範囲の上限値THigh及び下限値TLowは、脳低温療法で一般的に適正とされている脳温の上限値34℃及び下限値32℃とほぼ一対一の対応関係となる。
10・・・ヘッドキャップ、11・・・開口部、12・・・左側の端部、13・・・右側の端部、14・・・面ファスナー、18・・・I/Oコネクタ、20・・・インナーキャップ、21・・・布被覆ヘッドスキンキャップ、22・・・熱伝導性シリコーンラバー、30・・・熱源部、31・・・接着層、32・・・ペルチェ素子、33・・・セパレータ、34・・・温度センサー、35(35-1〜35-5)・・・ペルチェブロック、36(36-1〜36-4)・・・温度センサーブロック、40・・・アウターキャップ、41・・・熱伝導性シリコーンゲル、41A・・・放熱フィン、41B・・・放熱片、41C・・・貫通孔、42・・・熱伝導性シリコーンラバー、50・・・制御ユニット(制御部)、60・・・コード、70・・・電源部(直流安定化電源)、80・・・ベッド又はマット、90・・・中空の頭部台座(中空枕)

Claims (17)

  1. 患者の頭部に装着可能なインナーキャップ、
    複数の熱電素子を有する熱源部、及び、
    熱源部の熱を外気へ放熱するアウターキャップが、順次、積層されて成ることを特徴とするヘッドキャップ。
  2. 複数の熱電素子は、ペルチェ素子から成ることを特徴とする請求項1に記載のヘッドキャップ。
  3. インナーキャップは、布被覆ヘッドスキンキャップと熱伝導性シリコーンラバーとが積層されて成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヘッドキャップ。
  4. インナーキャップは、熱伝導性シリコーンラバーに対して高熱伝導性グラファイトが積層されて成ることを特徴とする請求項3に記載のヘッドキャップ。
  5. アウターキャップは、外気に直接触れる熱伝導性シリコーンゲルと熱伝導性シリコーンラバーとが積層されて成ることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のヘッドキャップ。
  6. アウターキャップは、熱伝導性シリコーンラバーに対して炭素繊維又は熱伝導性グラファイトが積層されて成ることを特徴とする請求項5に記載のヘッドキャップ。
  7. 熱伝導性シリコーンゲルは、放熱機構部を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のヘッドキャップ。
  8. 放熱機構部は、熱伝導性シリコーンゲルと同じ材料にて一体的に形成されることを特徴とする請求項7に記載のヘッドキャップ。
  9. 熱源部は、直流安定化電源に接続される、単一の熱電素子から成る複数の熱電素子ブロック、又は、直列接続された複数の熱電素子から成る複数の熱電素子ブロックが並列接続されて構成されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のヘッドキャップ。
  10. 複数の熱電素子ブロックの温度を制御する制御部を備えていることを特徴とする請求項9に記載のヘッドキャップ。
  11. 熱源部は、複数の温度センサーを有しており、
    制御部は、複数の温度センサーの検知温度に基づいて複数の熱電素子ブロックの温度を制御することを特徴とする請求項10に記載のヘッドキャップ。
  12. 制御部は、複数の温度センサーの検知温度の平均値を算出し、この算出した平均値に基づいて複数の熱電素子ブロックの温度を制御することを特徴とする請求項11に記載のヘッドキャップ。
  13. 制御部は、複数の熱電素子ブロックに対して断続的にパルス電流を供給する制御を行うことを特徴とする請求項12に記載のヘッドキャップ。
  14. 制御部は、複数の熱電素子ブロックに流す電流の極性を反転することによって冷熱/加温の切替え制御を行うことを特徴とする請求項13に記載のヘッドキャップ。
  15. 制御部は、予め標準的に定められた設定温度を基準として複数の熱電素子ブロックの温度制御を行うことを特徴とする請求項9から請求項14のいずれか1項に記載のヘッドキャップ。
  16. 予め標準的に定められた設定温度は、変更可能であることを特徴とする請求項15に記載のヘッドキャップ。
  17. 直流安定化電源は、商用電源の整流電源、車輛電源、又は、携帯可能な電池パック電源に基づいて動作することを特徴とする請求項9から請求項16のいずれか1項に記載のヘッドキャップ。
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