本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、胸部表面の形状に対応して装着状態の維持や検出精度の安定化が図られると共に、使用時の違和感も低減される、新規な構造の心肺蘇生術補助装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第一の態様は、胸部圧迫による心肺蘇生術を補助する心肺蘇生術補助装置であって、胸部に重ね合わされる感圧部を備えており、該感圧部がエラストマで形成された柔軟な誘電体層の両面に導電性エラストマで形成された柔軟な第一の電極と第二の電極を重ね合わせた構造を有していると共に、該感圧部における該第一の電極と該第二の電極の対向部分には該第一の電極と該第二の電極の対向距離の変化に伴う静電容量の変化を検出する検出部が構成されている一方、該第一の電極と該第二の電極には計測用電圧を印加する電源装置が接続されていると共に、該第一の電極と該第二の電極には該検出部の静電容量を検出する検出手段が接続されており、更に該検出手段によって得られる該検出部の静電容量の値に基づいて、胸部圧迫回数と、単位時間当たりの胸部圧迫回数と、胸部圧迫時の胸部押込み深さと、胸部解放時の胸部押込み深さと、胸部を押して圧迫する時間と胸部を押さずに戻す時間の割合との、少なくとも一つの評価情報を算出する処理手段が設けられていることを、特徴とする。
このような本発明の第一の態様に従う構造とされた心肺蘇生術補助装置によれば、被救命者の胸部に重ね合わされる感圧部が、柔軟な構造の静電容量型センサで構成されており、例えば全体として可撓性の積層シート状とされ得て、胸部の表面形状に沿って容易に変形する。それ故、感圧部を胸部に密着させ易く、感圧部を胸部上で容易に位置決め保持できると共に、感圧部と胸部の間に隙間ができることによる検出精度の低下などが生じ難く、胸部圧迫の安定した検出が可能となる。
特に、本発明では静電容量型センサを採用したことで、従来の加速度センサ等を利用したものに比して、環境条件に拘わらずに安定した測定精度を得ることが可能になる。即ち、加速度センサで胸部圧迫状態を検出する場合には、被救命者が載せられた背部の敷物の弾性による影響を避け難く、柔軟なベッド上の被救命者と硬い板上の被救命者では測定値が異なってしまうが、本発明の心肺蘇生術補助装置では、そのような環境条件に拘わらずに胸部圧迫に伴う各種測定値を安定した精度をもって取得することが可能になる。また、ストレッチャーや救急車、ヘリコプターなどで搬送中の被救命者や訓練用の人体モデルに使用すると、加速度センサでは、搬送時の振動が検出結果に影響することから、心肺蘇生の正しい補助が困難になるが、電極間の対向距離の変化に伴う静電容量の変化を検出する静電容量型センサを採用すれば、搬送時の振動の影響が回避されて、胸部の圧迫を正しく検出することができる。
また、静電容量型センサを採用したことで、従来の加速度センサ等を利用したものでは実現されていなかった救命者による胸部の圧迫状態を適正化に向けて案内するようなことも可能になる。即ち、静電容量型センサでは、所定面積で広がる領域に設定した複数点の押圧状態を位置情報をもって検出することも可能になることから、例えば後述する第四の態様に記載するように圧迫位置を検出することも可能であり、押圧力と位置との情報をもって、救命者が認識し得るようにモニター等で表示させることで、より適切な押圧力や位置などが実現され得るように、救命者をしむけることが容易に実現可能となるのである。
さらに、心肺蘇生術補助装置の感圧部が柔軟に変形可能とされることから、救命者が被救命者の胸部を圧迫して心肺蘇生術(非開胸の心臓マッサージ)を実施する際に、胸骨圧迫を感圧部を介して行うことによる違和感も低減される。それ故、例えば、本発明に係る心肺蘇生術補助装置を用いた訓練後に心肺蘇生術補助装置なしで心肺蘇生術を実施する場合にも、訓練時と同様に被救命者の胸部を圧迫することで、適正な心肺蘇生術を実行することができる。しかも、救命者の手や被救命者の胸部において、心肺蘇生術補助装置を介した圧迫による痛みや傷が生じることも回避できることから、例えば長時間の心臓マッサージにも対応できる。
また、検出部を備えた静電容量型センサ(感圧部)の検出値に基づいて、心肺蘇生術において重要なパラメータである胸部圧迫回数と、単位時間当たりの胸部圧迫回数と、胸部圧迫時の胸部押込み深さと、胸部解放時の胸部押込み深さと、胸部圧迫時間の割合との、少なくとも一つを算出することにより、実行された心肺蘇生術を評価することができる。
更にまた、本態様の心肺蘇生術補助装置では、静電容量型センサ(感圧部)の検出値や処理手段によって演算処理された測定値などを経時的に記憶する記憶手段を設けることも可能である。このような記憶手段を設けることで、例えば計測開始から現時点等の特定時間内における情報に基づいて、被救命者に施された胸骨圧迫の施術時間や当該施術が中断された時間などを求めて外部出力させることも可能になる。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記感圧部において前記検出部が複数箇所に設けられているものである。
第二の態様によれば、感圧部の複数箇所に検出部が設けられていることにより、たとえば各検出部の検出結果に基づいて圧迫位置を判定したり、各検出部が設けられた位置ごとの圧迫量をそれぞれ測定したりすることができる。
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記第一の電極と前記第二の電極が複数箇所で交差して配設されており、それら各交差箇所において該第一の電極と該第二の電極が前記誘電体層を挟んで対向せしめられて前記検出部が構成されているものである。
第三の態様によれば、相互に交差する第一の電極と第二の電極の交差箇所に検出部を構成することにより、複数箇所の検出部を簡単な構造で設けることができる。また、第一の電極と第二の電極が複数箇所で交差して配設されることにより、多数の検出部を設ける場合であっても、それら検出部の検出信号を送信する配線などを少なくすることができて、構造の簡略化が図られる。
本発明の第四の態様は、第二又は第三の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記処理手段が、前記検出手段によって得られる前記検出部の静電容量の検出値に基づいて胸部圧迫位置を前記評価情報として算出するものである。
第四の態様によれば、検出部の静電容量の変化に基づいて算出される静電容量値の分布などに基づいて胸部の圧迫位置を検知することにより、胸部圧迫位置が適正であるか否かや、心肺蘇生術中の圧迫位置の変化やズレなどを知ることができる。それ故、そのような情報を知った救命者が、かかる情報に基づいて圧迫位置をより適切な位置に適宜修正することも可能になる。
本発明の第五の態様は、第二〜第四の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記処理手段が、心肺停止の経過時間に対する胸部圧迫時間の割合を前記評価情報として前記検出手段によって得られる前記検出部の静電容量の値に基づいて算出するものである。
第五の態様によれば、被救命者の心肺停止時間に対する胸部圧迫時間の割合を算出することによって、救命処置の有効性を判定することができる。すなわち、心肺停止の確認から胸部圧迫による心肺蘇生術を開始するまでの時間を短くするとともに胸部圧迫を持続的に実行することが、救命率の向上や良好な予後にとって重要であることから、かかる割合を評価情報として算出することが有効である。
本発明の第六の態様は、第二〜第五の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記処理手段が、閾値以上の静電容量の変化が検出された前記検出部を選択して、それら選択された検出部の静電容量の値に基づいて胸部圧迫時の胸部押込み深さと胸部解放時の胸部押込み深さとの少なくとも一方を算出するものである。
第六の態様によれば、感圧部での圧迫面積の違いに起因する検出値の誤差が低減されることから、胸部押込み深さの検知において、救命者の手の大きさや胸部圧迫位置などの違いによる検知結果の誤差が抑えられて、胸部の押込み深さを安定して精度良く検知することが可能とされる。たとえば、選択された検出部の静電容量の平均値に基づいて胸部圧迫時の胸部押込み深さと胸部解放時の胸部押込み深さとの少なくとも一方を算出することが可能であり、その際の平均値としては、閾値以上の静電容量の変化があった対象検出部の全体的な出力を把握できれば良く、例えば相加平均や相乗平均、調和平均などが採用され得る。
本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記感圧部の面積が人の掌における胸部圧迫部分の平均面積以上とされているものである。
第七の態様によれば、感圧部の面積が救命者の掌における実質的な胸部圧迫部分の面積に対して大きくされて、救命者が被救命者の胸部を圧迫する際に、胸部の圧迫位置が多少ずれたとしても、圧迫/解放による検出部の静電容量の変化を有効に検出できる。好適には、感圧部の面積が例えば人の掌における母指球の平均面積である900mm2 以上とされることにより、少なくとも心肺蘇生術が有効になされ得る範囲では、圧迫位置がずれたとしても、胸部の圧迫と解放に伴う静電容量の変化が有効に検出される。なお、本態様で対象とされる人は、心肺蘇生の施術を行うことを想定される者であって、一般に成人男女を母集団とした掌における胸部圧迫部分の平均面積が採用され得る。
本発明の第八の態様は、第一〜第七の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記感圧部が前記電源装置および前記検出手段に対して着脱自在に接続されているものである。
第八の態様によれば、救命者および被救命者に直接接触する感圧部を、例えば使用後などに定期的に交換することで、感圧部の衛生を保つことができると共に、圧迫力が繰り返し入力される感圧部の交換によって、心肺蘇生術補助装置の信頼性や耐久性の向上が図られる。しかも、定期的な交換が望ましい感圧部を、電源装置や計測手段に対して着脱自在とすることで、心肺蘇生術補助装置全体の交換を要することなく、部分的な交換によって衛生や信頼性などを確保することができる。
本発明の第九の態様は、第一〜第八の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記第一の電極と前記第二の電極の少なくとも一方が、接地されたノイズガード電極を備えるものである。
第九の態様によれば、救命者の手又は被救命者の胸部と第一の電極と第二の電極の少なくとも一方との接触が検出に及ぼす悪影響(ノイズ)が、ノイズガード電極によって防止されて、検出精度の向上が図られる。なお、ノイズガード電極は、感圧部に設けられていても良いが、例えば感圧部とは別体とされて、感圧部と救命者の手又は被救命者の胸部との間に配されるようにしても良い。
本発明の第十の態様は、第一〜第九の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記第一の電極と前記第二の電極の少なくとも一方には、接地されたノイズガード電極が絶縁体層を介して重ね合わされているものである。
第十の態様によれば、基準電位に保持されたノイズガード電極が救命者の手や被救命者の胸部と電極との間に配されると共に、ノイズガード電極と電極との間に誘電率の大きい絶縁体層が配されていることにより、救命者の手又は被救命者の胸部と電極との間でコンデンサが構成されるのを防いで、検出への悪影響(ノイズ)を回避することができる。
本発明の第十一の態様は、第一〜第十の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記感圧部を胸部上で位置合わせ可能とする位置合わせ手段が設けられているものである。
第十一の態様によれば、感圧部が被救命者の胸部上で適正な位置に位置合わせして配されることから、救命者は、感圧部の正しい位置を圧迫すれば、それによって被救命者の胸部における正しい位置を圧迫することができる。従って、心肺蘇生術補助装置によって検出される胸部圧迫のパラメータが適正値になるように心肺蘇生術を行うことにより、被救命者の胸部を正しく圧迫して有効な心肺蘇生術を実施することができる。
本発明の第十二の態様は、第一〜第十一の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記処理手段の算出結果である前記評価情報を出力する報知手段が設けられているものである。
第十二の態様によれば、救命者や他の者が、救命者の実施する心肺蘇生術の良否などを、報知手段によって出力される評価情報に基づいて容易に把握することができる。なお、報知手段は、特に限定されるものではなく、例えば、スピーカーによる発音や発声、モニターへの視覚情報の表示、ランプの点灯の他、各種の態様が採用され得る。
本発明の第十三の態様は、第十二の態様に記載された心肺蘇生術補助装置であって、前記報知手段が、胸部圧迫位置における適正位置からのずれを表示するモニター表示手段であるものである。
第十三の態様によれば、心肺蘇生術を行うに際して、救命者がモニターに表示されたずれを視覚認識して自発的に適切な胸部圧迫位置を圧迫するように修正することが容易となる。なお、モニター表示に際しては、モニター上で認識しやすいように、胸部圧迫位置を赤や黄色などの目立つ色で表示すると共に、胸骨下半分等における適正位置も上下左右が判りやすいようにクロスポイント表示することなどが一層好適である。尤も、具体的なモニター表示態様は限定されるものでなく、例えば検出された現状の胸部圧迫位置を適正位置へ移動させるのに必要な方向をモニター上に矢印や文字で表示したり、方向と併せて必要な移動距離をモニター上に矢印の大きさや文字で表示することも可能である。また、必要な場合には、音声をもって移動方向や距離を報知することも可能である。
本発明の第十四の態様は、第十二又は第十三の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記報知手段が、前記感圧部における前記静電容量の検出値もしくは該静電容量の検出値に基づいて算出された値をマップ状に表示するものである。
第十四の態様によれば、静電容量の検出値もしくは該静電容量の検出値に基づいて算出された値をマップ状に表示することにより、心肺蘇生術の良否や改善点などの情報を施術者やその補助者などが直感的に把握することができて、より適切な心肺蘇生術の実施に資する。
本発明の第十五の態様は、第一〜第十四の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記検出部による検出値または該検出値から前記処理手段で求められた前記評価情報を送信信号として無線送信する無線送信手段と、該送信信号を受信する無線受信手段と、該無線受信手段による受信信号に基づいて該評価情報を報知する報知手段とを備えているものである。
第十五の態様によれば、検出値や評価情報の信号を無線で送受信することにより、配線が不要になると共に、無線が有効な距離であれば任意の場所で情報を得ることができる。特に、被救命者や訓練用の人体モデル等をストレッチャーなどで移動させながら心肺蘇生術を実施する場合には、配線の取回しが不要になると共に、救命者を補助する者が検出値や評価情報を無線で受信することにより、受信した情報に基づいて救命者を補助することも容易になる。しかも、移動時の振動による配線の抜け等も回避されることから、信頼性の向上も図られ得る。
本発明の第十六の態様は、第十五の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記無線受信手段が携帯型端末によって構成されているものである。
第十六の態様によれば、無線受信手段が携行性に優れた携帯型端末(モバイル)とされることにより、情報の送受信を無線で行う利点を生かして、任意の場所での情報の受信や、情報を受信しながらの移動などが容易になる。特に、補助者が移動する救命者に情報を提供して心肺蘇生術を補助する場合にも、補助者が携帯型端末で情報を得ながら移動することができて、補助が容易になる。
本発明の第十七の態様は、第一〜第十六の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記評価情報について設定された判定値を基準として良否判定する判定手段を備えていると共に、該判定手段による良否判定結果を報知する報知手段が設けられているものである。
第十七の態様によれば、心肺蘇生術の実施者やその補助者が良否判定によって実施中の或いは実施された心肺蘇生術が、十分に適切か否かを簡単に把握することができる。それ故、特に心肺蘇生術の訓練において、有効な心肺蘇生術を身に着けやすくなる。
本発明の第十八の態様は、第十七の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記判定手段による良否判定結果により、否との判定結果に際して良とするために変更すべき方針を報知するアドバイス手段を設けたものである。
第十八の態様によれば、アドバイス手段の示す変更方針に応じて、圧迫の深さやリズム、リコイル時間の長さ、デューティサイクルなどを変更することにより、有効な心肺蘇生術を比較的容易に実施することができる。
本発明の第十九の態様は、第十七又は十八の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、少なくとも一つの前記評価情報に基づく前記判定手段による良否判定結果が良である胸部圧迫時間を、心肺停止の経過時間に対する割合として算出するものである。
第十九の態様によれば、胸部圧迫による心肺蘇生術がある程度の有効性をもって実行された時間の長さを、判定手段による良否判定結果によって特定することにより、心肺停止の経過時間において有効な心肺蘇生術が実施された時間の割合を把握することができる。本態様では、胸部圧迫がなされた時間が、少なくとも一つの評価情報に基づく良否判定結果が良であることを基準として特定されることから、たとえば心肺蘇生術の習熟度が低い救命者についても、比較的に有効な胸部圧迫が実施された時間の割合を把握することができる。
本発明の第二十の態様は、第十九の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記評価情報に基づく前記判定手段による良否判定結果が全て良である胸部圧迫時間を、心肺停止の経過時間に対する割合として算出するものである。
第二十の態様によれば、胸部圧迫による心肺蘇生術が十分な有効性をもって実行された時間の長さを、判定手段による良否判定結果によって特定することにより、心肺停止の経過時間において有効な心肺蘇生術が実施された時間の割合を把握することができる。本態様では、胸部圧迫がなされた時間が、評価情報に基づく良否判定結果の全てが良であることを基準として特定されることから、たとえば心肺蘇生術の習熟度が高い救命者をより高度な心肺蘇生術の習得に導くことができる。
本発明の第二十一の態様は、第一〜第二十の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記感圧部を胸部上に位置決めする位置決め手段が設けられているものである。
第二十一の態様によれば、位置決め手段によって感圧部が胸部上に位置決めされることから、感圧部を繰り返し圧迫しても感圧部の胸部上でのずれを防いで、心肺蘇生術を適切に実施し易くなる。特に、ストレッチャーや救急車、ヘリコプターなどで移動しながら心肺蘇生術を実施する場合において、感圧部が移動時の振動によって胸部上でずれたり、胸部から落ちたりする不具合も回避される。
本発明の第二十二の態様は、第一〜第二十一の何れか一つの態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記感圧部が訓練用の人体モデルに装着されて用いられるものである。
第二十二の態様によれば、本発明に係る心肺蘇生術補助装置を訓練に用いることにより、評価情報に基づいて正しい心肺蘇生術を身に着けやすくなって、訓練を効率的に行うことができる。しかも、柔軟な感圧部を有する心肺蘇生術補助装置によれば、胸部圧迫時に感圧部を介することによる違和感が低減されることから、訓練後に実際の救命活動として心肺蘇生術を行う際に、訓練との違いが小さく、訓練時と同様に実施することができる。
本発明の第二十三の態様は、第二十二の態様に記載された心肺蘇生術補助装置において、前記評価情報について設定された判定値を基準として良否判定する判定手段を備えていると共に、前記感圧部に対する圧迫の終了後に、該判定手段による良否判定結果を表示する評価結果表示手段を備えているものである。
第二十三の態様によれば、訓練として心肺蘇生術を行った者が、訓練後に良否判定結果を見ることで、改善すべき項目を正しく認識することができる。これにより、訓練の効率化が図られて、心肺蘇生術の技術をより速く向上させることができる。
本発明によれば、心肺蘇生術補助装置において、胸部に重ね合わされる感圧部が柔軟な静電容量型センサとされていることにより、感圧部が胸部の凹凸に沿って変形することで胸部上に保持され易くなっていると共に、感圧部を介した胸部圧迫であっても、胸部を直接圧迫する場合に近い感覚で心肺蘇生術を実施することができ、更に感圧部の接触による痛みなども回避される。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明の第一の実施形態としての心肺蘇生術補助装置10が示されている。心肺蘇生術補助装置10は、胸部圧迫による心肺蘇生術において用いられるものであって、胸部に重ね合わされて胸部圧迫を検出するセンサ本体12と、センサ本体12の検出結果の処理などを行うセンサコントローラ14とを、備えている。
センサ本体12は、図2,3に示すように、誘電体層16の一方の面にエラストマシート18aが重ね合わされていると共に、誘電体層16の他方の面にエラストマシート18bが重ね合わされている構造を、有している。
誘電体層16は、ゴムや樹脂などの電気絶縁性エラストマで形成されて、板状乃至はシート状とされており、弾性乃至は可撓性を有していると共に、伸縮変形可能とされて、特に厚さ方向で容易に変形可能とされている。なお、誘電体層16の形成材料としては、例えば、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル−ポリ塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸共重合体などが、好適に採用される。更に、誘電体層16は発泡体であっても良く、必要な誘電率と柔軟性が確保されれば、その発泡体は、必ずしも独立気泡によって均質な相を呈するものに限定されず、例えば連続気泡が形成されるなどして不均一な相を呈していても良い。また、誘電体層16の厚さや形成材料などは、後述する検出部22において求められる比誘電率や柔軟性に応じて適宜に設定される。
また、エラストマシート18aに第一の電極としての電極20aが設けられていると共に、エラストマシート18bに第二の電極としての電極20bが設けられている。電極20a,20bは、例えば、ゴムや樹脂などのエラストマに導電性フィラー(例えばカーボンブラックや銀粉などの金属粉)を添加した柔軟な導電性エラストマによって形成されて、容易に変形可能とされている。なお、電極20a,20bの形成材料であるエラストマとしては、例えば、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース、変性セルロース類などが、好適に採用される。また、エラストマシート18a,18bは、例えば、電極20a,20bと同様のエラストマによって形成される。本実施形態のエラストマシート18a,18bは、理解を容易とするために透明乃至は半透明とされているが、必ずしも透明でなくても良い。
さらに、電極20a,20bは、それぞれ薄肉の長手帯状とされており、直交二軸のx−y平面において、エラストマシート18aに設けられてx軸と並行に延びる5本の電極20aと、別のエラストマシート18bに設けられてy軸と並行に延びる5本の電極20bとが配されている。そして、エラストマシート18aが誘電体層16の一方の面に重ね合わされることにより、電極20aが誘電体層16とエラストマシート18aの間に配されて、誘電体層16の一方の面に電極20aの1x〜5xが重ね合わされており、互いに並列的に延びている。一方、エラストマシート18bが誘電体層16の他方の面に重ね合わされることにより、電極20bが誘電体層16とエラストマシート18bの間に配されており、誘電体層16の他方の面に電極20bの1y〜5yが重ね合わされて、電極20aと直交して互いに並列的に延びている。これらにより、電極20aと電極20bが複数箇所で交差して配設されており、電極20a,20bが交差する対向部分には、それぞれコンデンサが構成されて、該コンデンサの静電容量の変化に基づいて入力を検出可能とされた静電容量型センサとしての検出部22が形成されている。検出部22は、一つだけが設けられていても良いが、本実施形態では、電極20aと電極20bが複数箇所で交差して配設されることにより、複数が分散して設けられている。また、誘電体層16は、図1に示す平面視において、エラストマシート18a,18bにおける電極20a,20bの配設領域と略同じかそれよりも大きな形状で形成されており、全ての検出部22において電極20a,20b間に挟まれている。なお、図1では、分かり易さのために、検出部22が斜線によるハッチングを付して示されている。
これら電極20a,20bの交差部分(検出部22)では、誘電体層16とエラストマシート18a,18bの積層方向で誘電体層16が圧縮変形すると、電極20a,20b間の対向距離が短くなるので、該当部分の静電容量が変化する。それ故、電気的な制御装置からなるセンサコントローラ14を用いて、各検出部22における静電容量の変化を検知することで、各検出部22における電極20a,20bの対向距離の変化を検出することが可能とされて、感圧部24が構成されている。即ち、電極20a,20bの各交差部分(検出部22)が、静電容量型の検出素子(セル)として機能し得るのである。なお、検出部22では、電極20a,20bの対向距離の変化に伴う静電容量の変化が検出されると共に、電極20a,20bの伸縮や面方向の相対変位による実質的な対向面積の変化によっても静電容量の変化が検出され得る。即ち、後述する胸部圧迫時において、対向距離の変化に伴う静電容量の変化が検出されるだけでなく、面方向の相対変位や伸縮による静電容量の変化も検出でき得る。
本実施形態の感圧部24は、25個の検出部22が5列×5行で二次元的に配置された静電容量型のセンサとされて、センサ本体12を構成している。また、感圧部24の面積が、人の掌における胸部圧迫部分の平均的な面積以上とされている。好適には、例えば、人の掌における実質的な胸部圧迫部分である母指球(親指の付け根部分にある掌の盛り上がり)の平均的な面積(例えば900mm2 程度)以上とされており、それによって圧迫位置のずれにも十分に対応することができる。また、より好適には、人の掌全体の平均的な面積以上とされることによって、掌の適当な部分で押圧できているかを確認することなども可能となり得る。なお、図1では、分かり易さのために、感圧部24を二点鎖線で仮想的に図示した。
また、エラストマシート18a,18bは、電極20a,20bの配設領域(感圧部24)よりも外側まで広がっており、エラストマシート18a,18bの電極20a,20bよりも外側には、それぞれ配線26a,26bが導電性材料によって印刷されている。そして、配線26aが電極20aに接続されていると共に、配線26bが電極20bに接続されている。なお、配線26a,26bは、例えば、エラストマシート18a,18bの表面に導電性インクによってプリントされた配線パターンとして得ることができる。更に、電極20a,20bは、導電性エラストマで形成された導電性インクによって、配線26a,26bと同様にエラストマシート18a,18bに印刷して形成することもできる。また、エラストマシート18a,18bは、電極20a,20bの配設領域および配線26a,26bの形成領域を外れた外周端部において、接着剤や両面テープなどによって相互に固着されている。
また、エラストマシート18bには、絶縁体層28が重ね合わされている。絶縁体層28は、可撓性および伸縮性に加えて電気絶縁性を有する軟質の合成樹脂やゴム弾性体などで形成されており、シート状乃至は板状とされて、エラストマシート18bに対して誘電体層16とは反対側に重ね合わされている。なお、絶縁体層28の形成材料としては、ポリエチレンやウレタンゴムなどが、好適に採用される。
さらに、絶縁体層28には、エラストマシート18cに設けられたノイズガード電極30が重ね合わされている。ノイズガード電極30は、電極20a,20bと同様に柔軟且つ伸縮可能な導電性エラストマで薄膜状に形成されており、絶縁体層28に対してエラストマシート18bとは反対側に重ね合わされている。これにより、ノイズガード電極30は、エラストマシート18bの電極20bに対して、絶縁体層28を介して重ね合わされており、絶縁体層28によって電気的に絶縁されている。
次に、図3について説明する。本実施形態のセンサ本体12は、カバー32によって覆われている。カバー32は、布やゴム弾性体、軟質の合成樹脂などで形成されており、表側のシートと裏側のシートを外周部分で相互に固着してなる袋状とされて、誘電体層16とエラストマシート18a,18bと絶縁体層28とノイズガード電極30とによって構成されたセンサ本体12が収容されている。更に、カバー32の表面(エラストマシート18aを覆う側の表面)には、位置合わせ手段としての圧迫点イラスト34が描画されており、圧迫点イラスト34によって胸部上で容易に位置合わせ可能とされている(図4参照)。なお、図1では、カバー32内のセンサ本体12を見易くするために、カバー32が透視された状態で図示されている。
また、電極20aに接続された配線26aは、処理手段としてのセンサコントローラ14に設けられたコネクタ36aに接続されており、電極20aが配線26aを介してセンサコントローラ14に電気的に接続されている。一方、電極20bに接続された配線26bは、センサコントローラ14のコネクタ36bに接続されており、電極20bが配線26bを介してセンサコントローラ14に電気的に接続されている。また、ノイズガード電極30に接続された配線26cは、センサコントローラ14に設けられた接地端子38に接続されており、ノイズガード電極30が接地されて、ノイズガード電極30の電位が基準電位とされている。なお、配線26a,26bがセンサコントローラ14のコネクタ36a,36bに着脱可能に接続されていると共に、配線26cがセンサコントローラ14の接地端子38に着脱可能に接続されており、感圧部24を備えたセンサ本体12がセンサコントローラ14に対して着脱自在に接続されている。
かかるセンサコントローラ14は、例えば、図1に示されているように、各電極20a,20bに対してコネクタ36a,36bを介してそれぞれ接続された電源装置としての作動電圧給電用の電源回路40と、検出手段としての静電容量検知用の検出回路42とを、備えている。電源回路40は、電極20aの1x〜5xと電極20bの1y〜5yに対する給電を選択的に行うようになっており、中央演算装置(CPU)44による制御下で、コンデンサを構成する25箇所の各交差部分に対して、計測用電圧として周期的な波形電圧を走査的に印加する。
そして、かかる電圧作用下で検出される静電容量の検出信号が、順次に検出回路42で検出され、その検出値がRAM(random access memory)46に記憶される。なお、検出回路42による静電容量の検出は、例えば電流値から求められるインピーダンスを用いて静電容量値を求めることによって行われる。
また、ROM(read only memory)48には、電極20a,20bの交差部分で構成されたコンデンサの特性データが記憶されており、この特性データに基づいて、CPU44により、配線抵抗の影響を排除して求められた静電容量の検出値から電極20a,20bの交差部分に及ぼされた外力である圧迫力を求めることもできる。なお、図1では、分かり易さのために、電源回路40,検出回路42,CPU44,RAM46,ROM48が、センサコントローラ14に機能ブロックとして図示されている。
従って、コンデンサを構成する電極20a,20bの交差部分で構成された25の検出部22における静電容量をそれぞれスキャンすることにより、全体として二次元的な静電容量値の分布が検出可能とされている。なお、静電容量の検出値に基づく圧迫力の二次元的な分布を得るようにしても良い。
かくの如き構造とされた心肺蘇生術補助装置10は、例えば、救命処置や救命訓練において、胸骨圧迫による心肺蘇生術の実施時に使用される。以下に、救命訓練における具体的な使用例について説明する。
先ず、図4に示すように、人体の全身乃至は上半身を模した被救命者としての訓練用人形50をストレッチャーや床に横たえて設置すると共に、心肺蘇生術補助装置10の感圧部24を訓練用の人体モデルである訓練用人形50の胸部に重ね合わせて装着する。本実施形態では、感圧部24を覆うカバー32の表面に描かれた位置合わせ手段としての圧迫点イラスト34によって訓練用人形50における胸部圧迫点と一致するように、訓練用人形50の胸部上で感圧部24を位置合わせしておく。また、感圧部24は、訓練用人形50の胸部上に非固着で敷設されるだけでも良いが、例えば、感圧部24を覆うカバー32が両面テープや面ファスナ、スナップなどの位置決め手段によって訓練用人形50に着脱可能に固着されることにより、感圧部24が訓練用人形50の胸部上の所定位置で位置決め保持されるようにしても良い。なお、感圧部24を胸部上に位置決めする位置決め手段としては、上記例示のもの以外に、たとえば、スプレーのりや接着剤、粘着性ポリマー、粘接着性布などによる接着、熱融着、外周部分の係止、ステープラーによる固定、周縁部のテープによる固定、ピン止め、リベット固定、ねじ止め、クランプ固定、バンド締結、クリップ固定、人形50の表面に設けられた凹所への嵌込み、紐止め、エラストマーによる重ね合わせ面の凹凸嵌合など、各種の固定態様が選択的に或いは任意に組み合わせて採用され得る。感圧部24は、訓練用人形50の胸部に取外し不能に固定されても良いが、好適には、着脱可能に位置決めされる。また、位置決め手段は、感圧部24の全体を位置決め固定するものでも良いが、一箇所乃至は複数箇所を部分的に固定するものでも良い。
上記の如く面ファスナやスナップなどの位置決め手段で位置決めする場合には、圧迫点イラスト34は必須ではなく、例えば、カバー32の裏面と訓練用人形50の胸部前面とに設けられる面ファスナやスナップの相互位置によって位置合わせ手段を構成することも可能である。また、本実施形態では、圧迫点イラスト34が十字に交差する線とされて、訓練用人形50の左右中央および乳頭を繋ぐ仮想線(図4中の二点鎖線)とに位置合わせされることで、感圧部24が訓練用人形50の胸部上で位置決めされるようになっているが、圧迫点イラスト34は十字の線に限定されるものではない。
次に、センサコントローラ14の図示しない電源スイッチをOFFからONに切り替えて、電源回路40による電極20a,20bへの給電を開始すると共に、検出回路42による静電容量の検出を開始する。
そして、図示しない救命者としての訓練者は、感圧部24の上から訓練用人形50の胸部を圧迫して、訓練用人形50に胸部圧迫による心肺蘇生術を施す。感圧部24は、全体が柔軟であることから、圧迫力の作用による訓練用人形50の胸部の押下や訓練者の手の変形に応じて自在に変形する。それ故、訓練者は、感圧部24を介することによる違和感を殆ど感じることなく、胸部を直接圧迫する場合と同じ感覚で心肺蘇生術を実行することができる。
また、訓練者が感圧部24を介して訓練用人形50の胸部を圧迫すると、訓練者の手で圧迫された検出部22では、電極20a,20bの対向面間距離が小さくなる。その結果、当該検出部22の静電容量が大きくなって、静電容量の変化が検出回路42によって検出される。
また、検出回路42によって検出された各検出部22の静電容量の検出信号は、検出回路42から処理手段(CPU44,RAM46,ROM48)に伝送されて、訓練者の心肺蘇生術を評価する各種パラメータの算出に用いられる。本実施形態の処理手段は、評価情報として、訓練用人形50の胸部における圧迫位置が適正であるか否かに加えて、圧迫時の押込み深さ、解放時の押込み深さ、圧迫時間の比率(Duty Cycle;DC)、圧迫回数、一分間の圧迫回数(bpm)、胸骨圧迫時間の心肺停止時間に対する割合(Chest Compression Fraction;CCF)を、それぞれ算出するようになっている。以下に、各パラメータの算出方法の一例を示す。
より具体的には、各検出部22の静電容量検出値に基づいて、感圧部24における静電容量の分布を求める(図5参照)。そして、静電容量の変化量が最大であった検出部22が感圧部24の外周端に位置し、且つ検出された静電容量が予め設定された閾値以下の場合(図5(a))には、圧迫位置が感圧部24を外れた不適正な位置であると判定する。一方、静電容量の変化量が最大であった検出部22が感圧部24の外周端以外に位置する場合、或いは外周端に位置し且つ検出された静電容量が予め設定された閾値を越える場合(図5(b))には、当該検出部22付近で適正な位置が圧迫されていると判定する。以上によって、訓練用人形50の胸部における圧迫位置が算出されて、圧迫位置が適正であるか否かが判定される。更に、圧迫位置が算出されることによって、適正な圧迫位置と実際の圧迫位置との差(距離)を確認できることから、圧迫位置の補正量を簡単に把握することができて、効率的な訓練を行うことができる。本実施形態では、圧迫位置が適正位置を外れていると判定された場合には、報知手段としてのモニター表示手段(後述するパーソナルコンピュータ52のモニター54)に文字や絵などを表示して訓練者に報知することで、圧迫位置の変更を促すようになっている。尤も、報知手段は、モニター表示手段に限定されるものではなく、訓練者に圧迫位置のずれを認識させ得るものであれば、音声やライトの点灯などであっても良い。
なお、図5は、感圧部24からセンサコントローラ14に送信された静電容量の検出信号の強さ(電圧)を分布図として示した例であって、縦軸の目盛が電極20aの1x〜5xを示すと共に、横軸の目盛が電極20bの1y〜5yを示しており、縦軸と横軸の各目盛の交点が各検出部22を示している。図5(a)は、有効ではない心肺蘇生術を施した場合であって、検出信号の強さとその分布から、圧迫位置が適正な位置から外れた電極20aの5xと電極20bの1yとの交点付近であると共に、検出信号の最大値が40〜50digitとなる不十分な力で圧迫されていることが分かる。一方、図5(b)は、有効な心肺蘇生術を施した場合であって、検出信号の強さとその分布から、圧迫位置が適正な位置である電極20aの3xと電極20bの1yとの交点付近であると共に、検出信号の最大値が100〜150digitとなる十分に大きな力で圧迫されていることが分かる。
また、圧迫時および解放時の押込み(圧迫)深さは、例えば以下のようにして算出される。即ち、静電容量の変化量が予め設定された閾値を越えた検出部22を選択して、それら検出部22の静電容量の総和を算出した後、かかる静電容量の総和を選択された検出部22の数で除した値に基づいて、選択された検出部22において検出される静電容量又は押圧力の平均値を算出する。この平均値に基づいて、訓練用人形50の胸部の初期状態からの押下量を算出することにより、圧迫時および解放時の押込み深さを求めることができる。即ち、訓練用人形50の押圧力に対する変形特性(押下特性や復元特性を含む)を予め実験や演算などのデータから関数やマップデータなどとして求めておくことで、圧迫や解放に伴う訓練用人形50の変形を算出できる。なお、押込み深さの算出は、必ずしも検出された静電容量の平均値に基づくものに限定されないが、閾値を越えた検出部22を選択して、選択された検出部22の静電容量の検出値に基づいて算出されることが望ましく、平均値に基づく算出はその一例である。
より具体的には、図6(a)に示すように感圧部24の中央部分を圧迫した場合には、図中に斜線のハッチングで示された16個の検出部22が選択されて、それら検出部22の静電容量検出値の総和(Ca1+Ca2+・・・+Ca16 )を算出し、算出値を選択された検出部22の数である16で除する。かかる計算結果の数値に基づいて、16個の検出部22において検出される静電容量の平均値を求めて、この力の平均値に基づいて押込み深さを算出する。一方、図6(b)に示すように感圧部24の中央から離れた端部分を圧迫した場合には、図中に斜線のハッチングで示された10個の検出部22が選択されて、それら検出部22の静電容量検出値の総和(Cb1+Cb2+・・・+Cb10 )を算出し、算出値を選択された検出部22の数である10で除する。かかる計算結果の数値に基づいて、10個の検出部22で検出される静電容量の平均値を求めて、この平均値に基づいて押込み深さを算出する。なお、図6では、二点鎖線の円によって、訓練者の掌による圧迫位置が簡略に示されている。要するに、押込み深さは、Cave =ΣCn/nによって求められる静電容量検出値の平均値(Cave )に基づいて算出される。なお、上式において、nは選択された検出部22の個数である。
このように、胸部の押込み深さを、所定値以上の静電容量の変化を検出した複数の検出部22についての平均値に基づいて算出すれば、例えば、訓練者の掌の大きさに個人差がある場合や、図6(b)のように訓練者の手の一部が感圧部24を外れた位置で胸部を圧迫した場合に、図6(a)と図6(b)のような感圧部24での圧迫面積の違いに起因する検出結果の誤差が低減される。なお、本実施形態では、選択された検出部22の静電容量検出値の相加平均に基づいて押込み深さを算出する例を示したが、例えば、静電容量検出値の相乗平均や調和平均に基づいて押込み深さを算出することもできる。
なお、掌の大きさや圧迫位置のずれの検出結果を利用して、静電容量検出値から胸部の押込み深さを求めることもできる。即ち、静電容量検出値を胸部押込み深さに変換する数式を圧迫面積や圧迫位置の検出結果に応じて予め複数準備しておいて、全ての検出部22の静電容量検出値の平均値を算出すると共に、前記変換数式を圧迫面積や圧迫位置の検出結果に応じて選択することにより、圧迫面積や圧迫位置の違いによる検出値の差を補正して、押込み深さを求めることもできる。
また、静電容量の閾値を越えた増大によって解放状態からの圧迫(図7中のt1 からt2 まで)を検出すると共に、静電容量の閾値を越えた減少によって圧迫状態からの解放(図7中のt2 からt3 まで)を検出することにより、圧迫と解放を1単位とする心肺蘇生術のサイクル(図7中のt1 からt3 まで)の回数(圧迫回数)を検知することができる。
なお、図7のグラフは、上記の如くして算出された押込み深さの時間経過に対する変化をモデル的に示しており、t1 は胸部圧迫後に胸部を押込み深さが最小になるまで解放した時間を、t2 はt1 の胸部解放後に胸部を押込み深さが最大になるまで圧迫した時間を、t3 はt2 の胸部圧迫後に胸部を押込み深さが最小になるまで解放した時間を、それぞれ示す。このような押込み深さと時間との関係を正確にグラフ化するためには、データの取得間隔(サンプリングレート)が長くなり過ぎないことが必要となる。蓋し、データの取得間隔が適切であれば、図8(a)に示すように、押込み深さと時間との関係を示す波形が実際の押込み深さの変化に近いものとなる一方、データの取得間隔が長くなり過ぎると、図8(b)に示すように、押込み深さと時間との関係を示す波形が、実際の押込み深さの変化とは大きく異なって正確さを欠くおそれが生じるからである。このようなデータ取得間隔は、全検出部22の80%以上において0.1秒以下の間隔(毎秒10フレーム以上のデータ取得)であることが望ましく、より好適には0.07秒以下の間隔(毎秒15フレーム以上のデータ取得)とされる。
さらに、解放状態から圧迫後、再び解放状態に戻るまでの1サイクルに要する時間(t3 −t1 )に基づいて、胸部圧迫による心臓マッサージのリズム(単位時間当たりの圧迫回数)を算出することができる。なお、図7において、t1 ,t2 ,t3 の単位が、ミリ秒であることから、例えば1分間当たりの圧迫回数(bpm)は、bpm={1/(t3 −t1 )}*1000*60によって算出される。
また、検出部22の静電容量が増加する圧迫時間(t2 −t1 )を、解放状態から圧迫して再び解放状態に戻るまでの1サイクルに要する時間(t3 −t1 )で除した算出値に基づいて、1サイクルにおける圧迫時間の割合(Duty Cycle)を百分率として得ることができる。要するに、1サイクルにおける圧迫時間の割合(DC)は、図7において、DC={(t2 −t1 )/(t3 −t1 )}*100によって算出できる。
また、本実施形態では、胸骨圧迫比(CCF)も算出される。CCFとは、被救命者の心肺停止が確認されてから経過した時間(経過時間)に対する胸部圧迫時間の割合を百分率として算出したものである。訓練では、訓練開始時に心肺停止を確認することから、訓練開始時からの経過時間に対する胸部圧迫時間の割合を算出することにより、CCFを求めることができる。一般的に、胸骨圧迫の中断を最小限にすることが望ましいことから、判定手段によってCCFについての良否判定を行う場合には、たとえば、算出されたCCFが予め設定された閾値を超えた場合に、良との判定をするようにできる。なお、CCFを算出する際の胸部圧迫時間には、心肺停止が確認されてから胸部圧迫を開始するまでの時間や、自動体外式除細動器(AED)の使用時間、胸部圧迫の実行者が交代する時間など、胸部圧迫以外の救命行動などに費やした時間は、含まれない。また、CCFを算出する際の経過時間としては、通常の救命活動では、心肺停止が確認されてから心肺蘇生が確認されるまでの時間であって、訓練時には、訓練内容に応じて心肺停止時点と心肺蘇生時点を任意に設定すればよい。更に、心肺停止が確認された心肺停止時点から心肺蘇生が確認された心肺蘇生時点までの時間を経過時間として、心肺蘇生術の終了後にCCFを算出することが可能であると共に、心肺停止が確認された心肺停止時点から現時点までの時間を経過時間として、心肺蘇生術の実行中にリアルタイムのCCFを算出することもできる。このように心肺蘇生術中に算出したリアルタイムのCCFを救命者に報知すれば、救命者がCCFを意識しながら心肺蘇生術を行うことができて、より質の高い救命活動が可能になる。
さらに、本実施形態では、圧迫位置と、押込み深さと、リズムと、リコイル深さと、Duty Cycleとについて、それぞれ良否の判定を行い、良否判定結果を考慮して有効な胸部圧迫時間を求めて、心肺停止確認からの経過時間に対する有効な胸部圧迫時間の割合を算出することによって、有効CCFを求める。本実施形態において、有効CCFとは、押込み深さ、リズム、リコイル、Duty Cycle、圧迫位置の各評価情報について、良否判定結果が全て良との判定であった時間を有効な胸部圧迫実行時間として、かかる胸部圧迫実行時間の心肺停止時間に対する割合を百分率として算出したものである。なお、本実施形態のように全ての項目において良否判定結果が良である場合を有効な胸部圧迫時間として有効CCFを求めることが望ましいが、たとえば圧迫位置が適切であれば、他の項目が良判定には至らなかったとしても、心肺蘇生術の効果がある程度は期待できることから、圧迫位置の良否判定結果が良である胸部圧迫時間に基づいてCCFを算出することなども、有効な場合がある。要するに、上記項目の少なくとも一つにおいて良否判定結果が良である場合を有効な胸部圧迫時間として、有効CCFを算出することもできる。
以上により、心肺蘇生術において重要とされる各パラメータを得ることができる。また、得られた各パラメータに基づいて、訓練者が行った心肺蘇生術を評価/採点するようにもできる。具体的には、例えば、各パラメータについて理想的な数値(判定値)を予め設定しておいて、設定された判定値に対する実際の検出値の差に基づいて、圧迫時の押込み深さ、解放時の押込み深さ、圧迫時間の比率(Duty Cycle)、一分間の圧迫回数(bpm)について、それぞれ評価すると共に、それら各パラメータの評価結果から心肺蘇生術を総合的に評価する。各パラメータの判定値としては、例えば、CPRのガイドラインにおいて提唱されている数値などを採用することができ、具体的には、圧迫時の押込み深さが5cm、解放時の押込み深さが0cm、圧迫時間の比率が50%、一分間の圧迫回数が110回などとされる。また、心肺蘇生術の1サイクルに着目して説明したが、通常の心肺蘇生術はある程度の時間に亘って継続的に実施されることから、例えば、サイクルごとに上記の各パラメータを得て、全サイクルの平均値に基づいて心肺蘇生術を評価することもできる。
上記の如き心肺蘇生術の評価/採点は、例えば、センサコントローラ14にパーソナルコンピュータ52を接続し、評価結果や注意点などをパーソナルコンピュータ52のモニター54に表示させたり、パーソナルコンピュータ52のスピーカーによって読み上げさせることにより、訓練者に通知される。このように評価結果などをパーソナルコンピュータ52によって報知させることにより、訓練者に心肺蘇生術の更なる改善を促すことができる。なお、ここでは心肺蘇生術の完了後に評価結果を報知する例を示したが、例えば、心肺蘇生術の実施中に評価結果を逐次報知することにより、実施中の心肺蘇生術の補正を促して改善を図ることができる。以上の説明からも明らかなように、本実施形態では、圧迫位置のずれや心肺蘇生術の評価結果などの評価情報を訓練者に知らせる報知手段が、センサコントローラ14に接続されたパーソナルコンピュータ52によって構成されている。
より具体的には、図9に示すように、心肺蘇生術の実施中に評価情報を報知手段としてのパーソナルコンピュータ52のモニター54に表示させることができる。即ち、図9には、パーソナルコンピュータ52のモニター54の表示例が示されており、画面中央に設けられた検出値マップ表示領域56において、静電容量の検出値に基づく押込み深さがマップ状で且つリアルタイムに表示されている。ここで言うマップ状に表示するとは、図9の検出値マップ表示領域56に示されているように、静電容量の検出値又はそれに基づく算出値を、等高線と色の塗り分けによって、平面上の分布として表示することである。従って、検出値マップ表示領域56では、押込み深さに応じて色が異ならされてカラー表示されており、色の分布から圧迫の位置と深さを直感的に認識可能とされている。特に、図9のように、人体モデルのイラスト58と重ねて表示すれば、胸部における圧迫位置と押込み深さの分布が簡単にわかることから、圧迫の位置や深さが適切であるか否かに加えて、不適切である場合にはどのように修正すべきかを容易に把握できる。なお、検出値マップ表示領域56の表示を回転させることが可能とされていても良く、たとえば被救命者の向きに合わせて回転させることで、圧迫位置と押込み深さの分布がより直観的に把握され得る。
本実施形態では、検出値マップ表示領域56において、静電容量の検出値に基づく押込み深さが、等高線と色の塗り分けによって平面上の分布としてマップ状に表示されるようになっているが、検出値マップ表示領域56には、静電容量の検出値または静電容量の検出値に基づいて算出された値(押込み深さなど)の感圧部24平面上における分布が表示されていれば良い。たとえば、感圧部24に相当する平面上に分散的に設定した複数点において、静電容量の検出値をそれぞれ表示する他、感圧部24に相当する平面をメッシュ区画して、各区画ごとに検出値を表示する等しても良い。尤も、検出値を平面上に数値として表示するよりも、等高線と色の塗り分けのように、簡単に把握できるものの方が好ましい。なお、静電容量の検出値または静電容量の検出値に基づいて算出された値をマップ状に表示するとは、静電容量検出値またはそれに基づく算出値に応じた色や具体的な数値、記号などを、感圧部24上での検出位置に対応する平面上の部位に表示することを言う。
このように検出値マップ表示領域56をリアルタイムで表示する際には、心肺蘇生術の動作(たとえば、胸部の圧迫および解放)に対して、検出値マップ表示領域56の表示が0.15秒以内の遅れで追従して更新されることが望ましく、より好適には表示の遅れが0.1秒以内とされる。これにより、検出値マップ表示領域56を見る者は、心肺蘇生術の動作に対して検出値マップ表示領域56の表示の顕著な時間遅れを感じずに、リアルタイムの情報表示として違和感なく認識できる。なお、検出値マップ表示領域56の表示は、必ずしも心肺蘇生術の進行に対応するリアルタイム表示である必要はなく、所定の時間遅れで表示されるようにする他、静止画として表示されて、所定時間毎に自動で画像が更新されるようにしても良いし、手動で任意に画像を更新又は選択できるようにしても良い。
さらに、検出値マップ表示領域56のマップ状表示のフレームレートは、4fps(frames per second)以上であることが望ましく、より好適には10fps以上とされる。これにより、図10で概略的に示すように、検出値マップ表示領域56の表示が、心肺蘇生術の動作に精度よく追従する。即ち、フレームレートが5fpsとされた図10(a)の場合と、3fpsとされた図10(b)の場合とを比較すると、図10(b)では、圧迫力が最大となった図10(a)の2フレーム目が表示されず、圧迫力の変化を正確に把握することができない。従って、検出値マップ表示領域56の単位時間当たりのフレーム数(フレームレート)は、心肺蘇生術の動作の推移を正確に把握するために、多い方が好ましい。なお、図10の(a)と(b)は、同じ圧迫力の変化を表示する場合であって、(a)の2フレーム目と4フレーム目が(b)ではフレームレートの違いから表示されないことを示している。
また、図9のモニター表示では、左方の中段に4項目についてのアドバイス表示領域60が設けられている。即ち、押込み深さ、一分間の圧迫回数(リズム)、胸部の解放(リコイル)、圧迫時間の比率(Duty Cycle;DC)の各項目(評価情報)について、判定手段としてのパーソナルコンピュータ52によって設定された判定値を基準とする良否判定がなされて、本実施形態では、アドバイス表示領域60において、良との判定について○が、否との判定について×が表示されるようになっている。図9では、リズム、リコイル、DCの3項目が良と判定されていると共に、押込み深さが不十分で否と判定されていることから、押込み深さを大きくすることによって心肺蘇生術の改善が可能であることが容易に理解される。本実施形態では、評価情報について、予め設定された基準値に基づいて良否判定を実行する判定手段と、良否判定結果を報知する判定結果報知手段とが、何れもパーソナルコンピュータ52によって構成されている。なお、各項目について、良否判定の結果に加えて或いは替えて、測定結果の数値などを表示するようにしても良い。
さらに、モニター表示の右方上段には、圧迫位置の良否と圧迫回数を表示する補助表示領域62が設けられている。補助表示領域62には、圧迫位置の良否判定結果に基づいて、良との判定について○が、否との判定について×が表示されていると共に、訓練開始から現在までの胸部圧迫回数が表示されている。なお、アドバイス表示領域60と補助表示領域62に表示される良否判定結果に基づいて、否との判定をされた項目について、良とするために変更すべき方針を報知するアドバイス手段が設けられていても良く、たとえば「もっと深く押してください」などと表示乃至は発音するようにしても良い。
更にまた、補助表示領域62の下方には、CCF表示領域64が設けられている。CCF表示領域は、胸部圧迫の実行時間の被救命者の心肺停止時間(心肺停止確認からの経過時間)に対する割合を百分率として算出したCCFを表示する領域であって、本実施形態では、上記の一般的なCCFに加えて、有効CCFも表示されている。なお、CCF表示領域64には、図9の表示に加えて或いは替えて、上記5つの評価情報の少なくとも1つについて、良否判定結果が良との判定であった時間を胸部圧迫実行時間として、胸部圧迫実行時間の心肺停止時間に対する割合を百分率として算出したものを表示しても良い。
また、モニター表示の下段には、訓練中の時間経過に対する押込み深さの変化がグラフとして表示されたグラフ表示領域66が設けられている。更に、アドバイス表示領域60の上方には、グラフ表示領域66における特定の短時間だけを抜粋して拡大表示したグラフ拡大表示領域68が設けられている。なお、グラフ表示領域66の左方には、マウスなどのポイントデバイスで選択することにより表示を開始させるスタートスイッチ部70と、マウスなどのポイントデバイスで選択することにより後述する図11の良否判定結果画面に切り替える評価スイッチ部72が設けられている。
一方、図11には、図9に係る心肺蘇生術の訓練完了後(感圧部24に対する圧迫の終了後)に、パーソナルコンピュータ52のモニター54に表示される良否判定結果の一例が示されている。良否判定結果は、上述のように、予め設定された判定値を基準として、圧迫時の押込み深さ、解放時の押込み深さ、圧迫時間の比率(Duty Cycle)、一分間の圧迫回数(リズム)をそれぞれ評価したものであり、図11では、更に圧迫位置の目標位置からのずれを加えた5つの項目について評価されて、評価結果が表示されている。
より具体的には、上記5つの各項目が判定値を基準として100点満点で採点されて、各項目ごとの得点が表示されていると共に、各項目の得点のバランスを容易に把握できるように、5項目の得点のバランスを示す五角形のレーダーチャートが表示されている。更に、5項目の得点の平均が総合得点として示されており、総合得点の良否判定結果が総合得点の下方に文字で表示されている。また、訓練を行った時間(訓練時間)と、訓練開始から終了までで実際に心肺蘇生術を行っていた時間(圧迫時間)と、上記5項目が何れも判定値を上回って有効な心肺蘇生術が実施された時間(有効時間)とが、それぞれ表示されていると共に、圧迫時間と有効時間は、訓練時間に対する比率が百分率で表示されている。なお、本実施形態では、パーソナルコンピュータ52が、評価情報について設定された判定値を基準として良否の判定を実行するようになっていると共に、良否判定の結果がパーソナルコンピュータ52のモニター54に表示されるようになっており、判定手段と評価結果表示手段がともにパーソナルコンピュータ52によって構成されている。
図11の具体例では、図9のグラフに示されているように、訓練中の略全体に亘って押込み深さが判定値の5cmに達していなかったことから、深さの項目の得点が0点となっており、有効時間が極めて短くなっていると共に、総合得点が77点と低く、良否判定において「poor」という否との判定結果が示されている。このように、訓練結果の良否を客観的に判定して訓練者に速やかに与えることにより、訓練者は、訓練の目標や改善点への認識を持つことができて、効率的な訓練の進捗が図られる。
もっとも、図11の結果は、心肺蘇生術の実施中にリアルタイムで表示されるパーソナルコンピュータ52のモニター情報(図9)を訓練者に報知しない例であって、当該モニター情報を訓練中の訓練者に与えることで、訓練中に改善させることもできる。即ち、図9では、深さが不足していることがアドバイス表示領域60に記号で示されていることから、訓練者がパーソナルコンピュータ52のモニター54を見る、或いは補助者がモニター54の表示内容を伝達するなどして、訓練者にアドバイス表示の情報を随時与えることにより、訓練者は当該アドバイス表示に従って押込み深さを意図的に深くするなど改善を図ることができる。このように、パーソナルコンピュータ52のモニター54のアドバイス表示領域60および補助表示領域62に変更すべき方針を記号で表示することにより、本実施形態のアドバイス手段が構成されている。
なお、上述の如き訓練結果の評価方法は、あくまでも一例であって、他の評価方法を採用することもできる。具体的には、図11では各項目の得点の平均点に基づいて総合評価をしているが、たとえば判定値から許容範囲を超えて外れた項目が一つ乃至は所定数ある場合に、他の項目の得点に関係なく総合評価を否としても良い。また、たとえば、各項目における基準(判定値)からのずれ量(偏差)の平均に基づいて総合評価をすることもできる。
また、訓練結果の表示方法も、特に限定されるものではない。即ち、前記実施形態のように総合評価を点数と文字で示す他、総合評価の良否を文字や記号(たとえば○と×)などで示したり、総合評価の判定値に対する達成率(%)で示したりしても良い。
このような本実施形態に従う構造とされた心肺蘇生術補助装置10によれば、胸部における圧迫位置と、胸部の圧迫回数と、単位時間当たりの胸部圧迫回数(リズム)と、圧迫時および解放時の胸部の押込み深さと、胸部圧迫時間の割合とを、それぞれ検知できることから、それらの検知結果に基づいて心肺蘇生術がより適切に実行されるように補助することができる。
さらに、心肺蘇生術補助装置10は、圧迫を検出する感圧部24がエラストマで形成されて柔軟に変形可能とされていることから、胸部表面の凹凸に沿って変形し易く、胸部から滑り落ちにくいと共に、感圧部24と胸部との間に隙間ができることによる検出結果の誤差が低減される。しかも、訓練者は、感圧部24を介することによる圧迫時の違和感が低減されることから、心肺蘇生術補助装置10を用いない場合と略同じ感覚で訓練を行うことができる。加えて、圧迫時に感圧部24が接することで痛みや傷を生じることもない。
更にまた、感圧部24の面積が人の掌における胸部圧迫部分の平均的な面積以上とされていることから、胸部を掌で圧迫することによる静電容量の変化を有効に検出できると共に、適切な胸部の圧迫領域から外れない範囲で掌による圧迫位置がずれても、心肺蘇生術の各パラメータを有効に検出することができる。特に、エラストマで形成された柔軟な感圧部24を採用することにより、感圧部24の面積を十分に大きくしても感圧部24が胸部の表面に沿って変形することから、広い範囲に亘って静電容量の変化を有効に検出することができる。しかも、静電容量型センサを構成する感圧部24は、誘電体層16および電極20a,20bの大きさや電極20a,20bの数などを変更することにより、面積や検出精度を容易に変更することができる。
また、基準電位の端子(接地端子38)に接続されたノイズガード電極30が、絶縁体層28を介して電極20bに重ね合わされており、感圧部24が被救命者である人体や訓練用人形50の胸部に重ね合わされた状態で、電極20bと人体や訓練用人形50の胸部との間にノイズガード電極30と絶縁体層28が配されている。それ故、電極20bと人体や訓練用人形50の胸部との間でコンデンサが構成されるのが防止されて、当該コンデンサの静電容量によって検出結果に誤差が生じるのを回避できることから、検出結果を精度良く得ることができる。
また、感圧部24を含むセンサ本体12が、電源装置および計測手段を有するセンサコントローラ14に対して着脱自在に接続されていることから、例えば、繰り返し圧迫されることによる損傷や劣化などが生じ得る感圧部24を、必要に応じてセンサコントローラ14から取り外して交換することができる。また、センサ本体12を使用後に交換するようにすれば、人体に接触するセンサ本体12を清潔に保つこともできる。なお、センサコントローラ14の故障時などに、センサ本体12から取り外したセンサコントローラ14を交換しても良いことは、言うまでもない。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、電極20a,20bの数は例示であって、適宜に変更され得る。特に電極20a,20bの数を増やすことにより、より詳細な検出やより広範囲での検出を実現することもできる。また、電極20a,20bは、必ずしも複数箇所で相互に交差する構造に限定されず、たとえば一箇所だけで交差する構造でも良いし、複数箇所に第一の電極と第二の電極が誘電体層16を挟んで一対一で対向配置されて、それら第一,第二の電極の対向部分で検出部が構成されるようにしても良い。要するに、複数箇所に検出部を設ける場合には、それら検出部がそれぞれ独立した電極で構成され得る。なお、検出部は、感圧部24において複数箇所に設けられていなくても良く、感圧部24の一箇所だけに設けられ得る。
また、ノイズガード電極30と絶縁体層28は必須ではない。更に、ノイズガード電極30と絶縁体層28は、エラストマシート18a側に重ね合わされて配設されていても良く、それによって、救命者の手と電極20aの間でコンデンサが構成されて検出結果に誤差が生じるのを防ぐことができる。また、ノイズガード電極30と第一, 第二の電極20a,20bとの間に配される絶縁体層は、必ずしも前記実施形態のように特別に設けられていなくても良く、例えばエラストマシート18a,18bを絶縁体層として利用することもできる。更に、ノイズガード電極30と絶縁体層28がセンサ本体12とは別体とされて、それらノイズガード電極30と絶縁体層28がカバー32の外面に重ね合わされることで、ノイズガード電極30と絶縁体層28が第一, 第二の電極20a,20bと人体との間に配されるようにしても良い。
更にまた、胸部を押して圧迫する時間と胸部を押さずに戻す時間の割合の測定値として、前記実施形態では、1サイクルにおける圧迫時間の割合[(t2 −t1 )/(t3 −t1 )]の値が採用されていたが、それに限定されるものでなく、例えば[(t2 −t1 )/(t3 −t2 )]の値などを採用することも可能である。更に、各測定値として、2回以上の複数回の平均値等を採用したり、適切な周波数パスフィルターを介したりすることで、ノイズの除去や外部表示結果の安定化などを図ることも可能である。
また、本実施形態では、感圧部24を含むセンサ本体12がセンサコントローラ14に対して着脱自在に接続される構成は必須ではなく、実質的に分離不能に接続されることで、センサ本体12とセンサコントローラ14の意図しない分離が回避されて、信頼性の向上が図られ得る。
更にまた、センサコントローラ14に無線送信手段としての無線送信装置を装備して、無線送信させた測定結果の送信信号をパーソナルコンピュータ52側の無線受信手段で無線受信することも可能である。また、その場合には、電源回路40に蓄電池を含むことが望ましい。更に、センサコントローラ14には、静電容量の検出信号を無線送信させる機能だけを装備させる一方、パーソナルコンピュータ52において、無線受信した静電容量の検出信号から目的とする圧迫力や胸部押込み深さなどの測定値を求める演算処理を行う演算手段を構成することも可能であり、それによってセンサ本体12と一体化される構成部分の小形化を図って取り扱いを一層容易にすることも可能となる。
具体的には、無線による送受信手段を備えた心肺蘇生術補助装置74が、図12に本発明の第二の実施形態として示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
この心肺蘇生術補助装置74は、感圧部24の第一,第二の電極20a,20bに接続された配線26a,26bが、センサコントローラ14を介して無線送信装置76に有線で接続された構造を有している。要するに、本実施形態の心肺蘇生術補助装置74は、感圧部24の検出部22から受信した静電容量の検出信号を無線による送信信号に変換する演算処理手段(センサコントローラ14)と、生成した送信信号を無線送信する無線送信手段(無線送信装置76)とを、備えている。
また、無線送信装置76から無線送信された送信信号は、無線送信装置76から送信された送信信号が無線受信手段を備えたパーソナルコンピュータ52やタブレット80などの携帯型端末によって受信されるようになっている。更に、パーソナルコンピュータ52やタブレット80は、受信信号に基づく演算処理によって評価情報を算出して、モニター54,82に表示するようになっており、報知手段としての機能も有している。なお、携帯型端末は、パーソナルコンピュータ52とタブレット80の両方を同時に用いても良く、その場合には、第一の実施形態で説明したパーソナルコンピュータ52の機能の一部をタブレット80に分担させても良いし、パーソナルコンピュータ52と同じ処理をタブレット80に並列的に実行させても良い。更に、パーソナルコンピュータ52に別の無線送信手段を設けて、パーソナルコンピュータ52によって処理された評価情報をパーソナルコンピュータ52からタブレット80へ無線送信して表示させるようにしても良い。一方、パーソナルコンピュータ52に替えてタブレット80を採用することも可能であり、この場合には、第一の実施形態で説明したパーソナルコンピュータ52の機能をタブレット80が備える。更に、携帯型端末としては、例示したパーソナルコンピュータ52やタブレット80の他に、スマートフォンなども採用され得る。更にまた、無線受信手段は、携行性に優れた携帯型端末であることが望ましいが、たとえば据置型端末(デスクトップなど)であっても良い。
このような本実施形態に従う構造とされた心肺蘇生術補助装置74によれば、パーソナルコンピュータ52やタブレット80などの端末に対して、感圧部24の検出信号が無線で送信されることから、端末を接続するための配線が不要になると共に、端末の取回し性が向上する。特に、ストレッチャーや救急車、ヘリコプターなどで搬送しながら使用する場合に、評価情報を表示する端末が、感圧部24やセンサコントローラ14などのセンシング部分と無線で接続されていることにより、端末との接続配線によって搬送が阻害されることがなく、使用し易い。しかも、移動時の振動によって端末を接続する配線が抜けることもなく、信頼性の向上も図られ得る。
なお、検出信号から評価情報を求める演算処理をセンサコントローラ14で実行して、評価情報を送信信号として無線送信しても良い。また、十分なサンプリングレートで取得された有効な検出結果を、体感されるほどの遅延を生じることなく、携帯型端末などへ無線によってスムーズに転送するためには、無線によるデータ通信速度が50Mbps以上であることが望ましい。従って、たとえばbluetooth(登録商標)よりも高速の通信が可能なwifiなどが好適に採用される。
また、図4に示された心肺蘇生術補助装置10の訓練用人形50への装着状態は、あくまでも例示であって、心肺蘇生術補助装置10全体の大きさや感圧部24が訓練用人形50の胸部を覆う面積などは、適宜に変更され得る。即ち、図13に示すように、前記実施形態に比して面積の大きな感圧部24を備える比較的に大型の心肺蘇生術補助装置10も採用可能であり、圧迫位置などをより広い範囲で検出することができる。また、本発明では感圧部24が柔軟な構造とされていることから、比較的に大きな感圧部24を採用しても、感圧部24が訓練用人形50の表面や救命者の手の凹凸などに沿って容易に変形して、有効な検出が可能であると共に、感圧部24を介することによる違和感が低減される。
前記実施形態では、本発明に係る心肺蘇生術補助装置10を心肺蘇生術の訓練に用いる場合について説明したが、心肺蘇生術補助装置10は、訓練用には限定されず、被救命者に対する救命処置にも用いられ得る。この場合には、心肺蘇生術の実行中に評価結果をリアルタイムで通知することによって、より適切な心肺蘇生術が行われるように救命者に補正を促すことが望ましい。