以下、本発明の凹凸パターンを有する部材の製造方法、それにより得られる凹凸パターンを有する部材を用いたモールドの製造方法、そのモールドを用いて光学基板を製造する方法、及びその光学基板を用いて製造される発光素子の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[凹凸パターンを有する部材の製造方法]
凹凸パターンを有する部材の製造方法の実施形態について説明する。凹凸パターンを有する部材の製造方法は、図1に示すように、主に、収縮性を有する基材を用意する工程S1と、基材上に硬質層を積層する工程S2と、基材を収縮させる工程S3を有する。以下に、上記各工程S1〜S3について、図2(a)〜(d)及び図3(a)〜(e)を参照しながら順に説明する。
<基材を用意する工程>
まず、収縮性を有する基材を用意する(図1の工程S1)。収縮性を有する基材は、基材の原反(未加工のシート、原材料または生地)を延伸することによって形成することができる。
図2(a)に示す原反28は、収縮性を付与することができる公知の樹脂から構成されてよく、例えば、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、スチレン系樹脂(例えばポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体等)、オレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、環状オレフィン系樹脂(例えばポリシクロオレフィン等)、ポリ乳酸系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリアセチルアセテート系樹脂、メタクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂(例えばフッ素樹脂)、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(例えば、2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(例えば、セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等)などの熱可塑性樹脂、またはこれらの混合物から構成されてよい。これらのうち、後述する収縮工程における収縮が容易な点から、スチレン系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。
さらに、原反28は、顔料や染料などの着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、蛍光増白剤、抗菌剤、拡散粒子、熱可塑性エラストマーその他の配合剤が適宜配合されていてもよい。
原反28を構成する熱可塑性樹脂は、加工の容易さの観点から、そのガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
また、原反28を構成する樹脂は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が、5,000〜500,000の範囲内であることが好ましい。重量平均分子量がこの範囲内であることにより成形加工性が良好となり、機械的強度を向上させることができる。また、重量平均分子量は8,000〜200,000の範囲内であることがより好ましく、10,000〜100,000の範囲内であることがさらに好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定することができる。
上記原反28は、上記樹脂を公知のフィルム成形法によって成形することにより製造することができる。例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などの公知のフィルム成形法によって上記樹脂から原反28を形成してよい。そのほか、スピンコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法,カーテンコート法、インクジェット法、スプレーコート法、スパッタ法、真空蒸着法等により支持基板上に樹脂の膜を形成し、その膜を支持基板から取り外すことによって原反28としてもよい。なお、支持基板としては特に制限されず、フィルムを形成する際に用いることが可能な公知の基板(ガラス基板等)を適宜用いることができる。また、原反28の形状は、五角形以上の多角形状や円形状にすることができる、なお、複数の方向から原反28へ張力を付与することが容易になることから、原反28は真円状、楕円状等の円形状であることが好ましい。このようにして形成する原反28の厚みは、1〜500μmの範囲であることが好ましく、1〜300μmの範囲であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂から形成された原反28を加熱しながら延伸することによって、図2(b)に示す収縮性を有する基材30を得ることができる。例えば、コイルバネを接続したグリッパを用いて、円形状に裁断した原反の外周の6か所以上を挟持することにより、原反に張力を加え、次いで原反を加熱して原反を軟化させ、コイルバネの張力により原反を延伸する。また、基材は、原反を二軸延伸法で延伸して形成してもよい。延伸した原反は、冷却することによって延伸された状態で形状が固定される。これを本実施形態の収縮性を有する基材30として用いる。
原反28を延伸する倍率(延伸倍率)は、後述の収縮工程において形成される凹凸パターンが所望の凹凸深さ及び凹凸ピッチを有するように、原反の引張り特性に応じて適宜選択することができるが、102〜150%の範囲内であることが好ましい。なお、延伸倍率とは、延伸方向における(延伸後の長さ)/(延伸前の長さ)×100(%)を指す。延伸倍率が102%より小さい場合、後述する収縮工程における収縮率が小さくなり、形成される凹凸パターンの凹凸深さが不十分となることがある。延伸倍率が150%を超える場合、形成される凹凸パターンが不均一になることがある。
原反28の延伸時の温度は、原反28を構成する材料のガラス転移温度をTgとしたときに、Tg〜(Tg+60℃)の範囲内であることが好ましい。延伸温度がTg未満であると、延伸が困難である。また、Tg+60℃を超えると、均一な延伸が困難である。さらに、原反28の延伸時の温度は、Tg〜(Tg+50℃)の範囲内であることがより好ましい。
このように原反28を延伸することにより形成した基材30は、後述する収縮工程において、加熱しながら張力を緩和することにより収縮させることができる。また、基材30の厚さの平均値は、ハンドリングの観点から、25〜150μmの範囲内であることが好ましい。
なお、本実施形態において、収縮性を有する基材30は、前述のように原反から製造する必要はなく、市場やフィルムメーカなどの製造業者を通じて入手してもよい。例えば、市販のポリエステル系シュリンクフィルム、ポリスチレン系シュリンクフィルム、ポリオレフィン系シュリンクフィルム、ポリカーボネート系シュリンクフィルム、ポリ塩化ビニル系シュリンクフィルム等を基材として用いてもよい。
<硬質層積層工程>
次いで、図2(c)に示すように、収縮性を有する基材30上に硬質層50を積層する(図1の工程S2)。硬質層50は、蒸着、スパッタリング等の物理気相成長(PVD)法、化学気相成長(CVD)法等の公知の方法を用いて積層することができる。特に、後述する収縮工程において皺による凹凸パターンが形成されやすいことから、蒸着により硬質層50を積層することが好ましい。硬質層50の材質は特に限定されないが、例えば、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル等の金属、酸化アルミニウム等の金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属炭化物等の無機材料が挙げられる。
硬質層50を積層する時の基材の温度は、基材を構成する材料のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましい。基材温度がTg以上であると、硬質層50の積層中に基材が収縮して後述する収縮工程における基材の収縮率が小さくなり、形成される凹凸パターンの凹凸の深さが不十分となることがある。
<収縮工程>
上述の様に硬質層50を形成した基材30を以下のようにして収縮させる(図1の工程S3)。図3(a)に示すように、硬質層50を積層した基材30をグリッパ10a〜10hで挟持して固定する。なお、本実施形態において、グリッパ10a〜10hは円形状の基材30の外周を8等分する位置に設置されている。次に基材30を基材30のガラス転移点Tg以上の温度に加熱し、基材30を軟化させる。このとき基材30は収縮しようとする力が生じるが、上述の様にグリッパ10a〜10eにより外周が固定され、基材30に張力が付与されているため、基材30が収縮せず、延伸されたままの形状及び大きさを維持する。
次いで、図3(a)に示すように、基材30の加熱温度を維持しながら、対向して設置されているグリッパ10a、10eを基材30の中心に向かって(図3(a)の矢印で示した方向に)移動させる。それにより、グリッパ10a、10eにより基材30に付与されていた張力が緩和して基材30の体積が減少し、図3(b)に示すように、グリッパ10a、10eを通る直線方向(第1方向)に基材30が収縮する。基材30上の硬質層は加熱してもほとんど体積変化しないため、基材30と硬質層の体積変化の差により、硬質層の表面に皺による凹凸(いわゆるバックリングパターン)が形成される。このとき、形成された凹凸の各凹部及び各凸部は、第1方向に対して直交する方向に延在する。なお、このときグリッパ10b、10c、10d、10f、10g、10hは固定されたままであり、基材30は第1方向以外の方向に張力が付与されている。
次に、対向して設置されているグリッパ10b、10fを基材30の中心に向かって(図3(b)の矢印で示した方向に)移動させる。それにより、グリッパ10b、10fにより基材30に付与されていた張力が緩和して基材30の体積が減少し、図3(c)に示すように、グリッパ10b、10fを通る直線方向(第2方向)に基材30が収縮する。それにより、第2方向に対して直交する方向に延在する凹凸(バックリングパターン)が、硬質層の表面にさらに形成される。
さらに、対向して設置されているグリッパ10c、10gを基材30の中心に向かって(図3(c)の矢印で示した方向に)移動させる。それにより、グリッパ10c、10gにより基材30に印加されていた張力が緩和して基材30の体積が減少し、図3(d)に示すように、グリッパ10c、10gを通る直線方向(第3方向)に基材30が収縮する。それにより、第3方向に対して直交する方向に延在する凹凸(バックリングパターン)が、硬質層の表面にさらに形成される。
続いて、対向して設置されているグリッパ10d、10hを基材30の中心に向かって(図3(d)の矢印で示した方向に)移動させる。それにより、グリッパ10d、10hにより基材30に付与されていた張力が緩和して基材30の体積が減少し、図3(e)に示すように、グリッパ10d、10hを通る直線方向(第4方向)に基材30が収縮する。それにより、第4方向に対して直交する方向に延在する凹凸(バックリングパターン)が、硬質層の表面にさらに形成される。
以上の操作により、図2(d)に示すように基材30上の硬質層の表面に凹凸パターン80が形成される。
なお、第1方向、第2方向、第3方向及び第4方向への基材30の収縮率は、それぞれ2〜50%の範囲内であることが好ましい。なお、収縮率とは、(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/(収縮前の長さ)×100(%)を指す。収縮率はグリッパを移動させる距離によって制御することができる。収縮率が2%より小さい場合、硬質層の表面に凹凸が形成されなかったり、凹凸の深さが不十分となったりすることがある。収縮率が50%を超える場合、形成される凹凸のピッチ及び深さが不均一になることがある。第1方向、第2方向、第3方向及び第4方向への基材30の収縮率は、同等であることが好ましい。それにより、凹凸ピッチ及び凹凸深さが均一で且つ等方的な凹凸パターンを形成することができる。
上記のように基材30を収縮させるときの、基材30の加熱温度は基材10を構成する材料のガラス転移温度をTgとすると、Tg〜Tg+60℃の温度範囲内であることが好ましい。収縮温度がTg未満であると、基材30を収縮させることができない。また、Tg+60℃を超えると、基材30を均一に収縮させることが困難である。さらに、加熱温度は、Tg〜Tg+50℃の範囲内であることがより好ましい。
グリッパ10a〜10hの移動速度は0.1〜10mm/sの範囲内とすることが好ましい。移動速度が前記下限未満の場合、硬質層が基材の収縮に追従して変形し、硬質層の表面に凹凸が形成されなかったり、凹凸の深さが不十分となったりすることがある。移動速度が前記上限を超える場合、基材30または硬質層の表面にクラック等の傷が発生しやすくなる傾向がある。
基材30を収縮させた後、基材30を冷却する。それにより、基材30の形状が固定され、図2(d)に示すような凹凸パターン80を有する部材100が得られる。上述の様に、凹凸パターン80は、収縮方向以外の方向に張力を付与しながら第1方向、第2方向、第3方向及び第4方向の4つの方向に基材30を順次収縮することによって形成されているため、凹凸のピッチ及び凹凸深さのばらつき(標準偏差)を小さくすることができる。
なお、基材30を構成する材料として熱可塑性樹脂を用いる代わりに、光照射等の加熱以外の方法によって軟化する材料を用いてもよい。例えば光可塑性の樹脂を用いる場合、上記実施形態において、収縮性を有する基材を用意する工程において原反を加熱しながら延伸する代わりに、原反に光を照射しながら延伸してよい。また収縮工程において、基材を加熱する代わりに光照射することによって基材を収縮させてよい。
また、収縮工程において基材30の外周の8か所を固定し、固定位置を順次移動させることにより、4つの異なる方向に基材を順次収縮させたが、基材の収縮方向は3方向以上であればよい。例えば、基材30の外周の6か所を固定して、固定位置を順次移動させることにより、3つの異なる方向に基材を順次収縮させてもよい。n個の異なる方向に基材を収縮させる場合、各収縮方向とそれに隣接する収縮方向のなす角度が180/n度であることが好ましい。また基材を収縮させる方向の順番は特に限定されず、任意の順番で収縮させてよい。
また、原反を加熱延伸した後冷却して形状を固定したものを基材として用い、硬質層積層後に再度加熱して基材を収縮させる代わりに、原反を加熱延伸した後、加熱を継続しながら硬質層の積層及び引き続く基材の収縮を行ってもよい。この場合、硬質層積層中も、基材の外周をグリッパ等で把持するなどして、基材の外周を固定しておく必要がある。硬質層の積層中の基材温度は延伸時の温度と同じであってもよいし、延伸時の温度より低くてもよい。
以上のようにして製造された凹凸パターンを有する部材100の凹凸パターン80を転写して回折格子基板等の光学基板を製造する場合、凹凸パターン80の凹凸の平均ピッチは、100〜1500nmの範囲にあることが好ましい。凹凸の平均ピッチが前記下限未満では、可視光の波長に対してピッチが小さくなりすぎるため、凹凸による光の回折が生じなくなる傾向があり、他方、上限を超えると、回折角が小さくなり、回折格子としての機能が失われてしまう傾向がある。凹凸の平均ピッチは300〜900nmの範囲であることがより好ましい。凹凸ピッチのばらつきは凹凸の平均ピッチに対して−20〜+20%の範囲内であることが好ましい。凹凸ピッチのばらつきが凹凸の平均ピッチの−20%未満または20%を超える場合、回折光強度にむらが生じ、この結果、例えば、凹凸パターンを有する部材100を用いて有機EL素子を作製した場合に、発光強度が不均一となる傾向がある。
また、凹凸パターン80の凹凸の深さ分布の平均値は、10〜300nmの範囲であることが好ましい。凹凸の深さ分布の平均値が前記下限未満では、可視光の波長に対して深さが小さすぎるために必要な回折が生じなくなる傾向があり、他方、上限を超えると、回折光強度にむらが生じ、この結果、例えば、凹凸パターンを有する部材100を用いて有機EL素子を作製した場合に、有機EL素子の有機層内部の電界分布が不均一となって特定の箇所に電界が集中することによってリーク電流が生じ易くなったり、寿命が短くなったりする傾向がある。凹凸の深さ分布の平均値は、20〜180nmの範囲であることがより好ましい。凹凸深さの標準偏差は、5〜20nmの範囲であることが好ましい。
本願において、凹凸の平均ピッチとは、凹凸が形成されている表面における凹凸のピッチ(隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔)を測定した場合において、凹凸のピッチの平均値のことをいう。このような凹凸のピッチの平均値は、走査型プローブ顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製の製品名「E−sweep」等)を用いて、下記条件:
測定方式:カンチレバー断続的接触方式
カンチレバーの材質:シリコン
カンチレバーのレバー幅:40μm
カンチレバーのチップ先端の直径:10nm
により、表面の凹凸を解析して凹凸解析画像を得た後、かかる凹凸解析画像中における、任意の隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔を100点以上測定し、その算術平均を求めることにより算出できる。また、凹凸のピッチの最小値と平均ピッチの差、及び凹凸のピッチの最大値と平均ピッチの差を求め、その値を凹凸の平均ピッチの値で割ることで、凹凸のピッチのばらつきを求めることができる。
また、本願において、凹凸の深さ分布の平均値及び凹凸深さの標準偏差は以下のようにして算出できる。任意の3μm角(縦3μm、横3μm)または10μm角(縦10μm、横10μm)の測定領域の表面の凹凸の形状を、走査型プローブ顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製の製品名「E−sweep」等)を用いて、前述の条件で測定し、凹凸解析画像を得る。その際に測定領域内の16384点(縦128点×横128点)以上の測定点における凹凸高さのデータをナノメートルスケールでそれぞれ求める。なお、このような測定点の数は、用いる測定装置の種類や設定によっても異なるものではあるが、例えば、測定装置として上述の株式会社日立ハイテクサイエンス製の製品名「E−sweep」を用いた場合には、3μm角の測定領域内において65536点(縦256点×横256点)の測定(256×256ピクセルの解像度での測定)を行うことができる。そして、このようにして測定される凹凸高さ(単位:nm)に関して、先ず、全測定点のうち、基材の裏面(硬質膜が形成された面の反対側の面)からの高さが最も高い測定点Pを求める。そして、かかる測定点Pを含み且つ基材の裏面と平行な面を基準面(水平面)として、その基準面からの深さの値(測定点Pにおける基材裏面からの高さの値から各測定点における基材裏面からの高さを差し引いた差分)を凹凸深さのデータとして求める。なお、このような凹凸深さデータは、測定装置(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製の製品名「E−sweep」)によっては測定装置中のソフト等により自動的に計算して求めることができ、このような自動的に計算して求められた値を凹凸深さのデータとして利用できる。このようにして、各測定点における凹凸深さのデータを求めた後、その算術平均及び標準偏差を求めることにより算出できる値をそれぞれ凹凸の深さ分布の平均値及び凹凸深さの標準偏差として採用する。本明細書において、凹凸の平均ピッチ、凹凸ピッチのばらつき、凹凸の深さ分布の平均値、及び凹凸深さの標準偏差は、凹凸が形成されている表面の材料に関わらず、上記のような測定方法を通じて求めることができる。
凹凸パターン80は、表面の凹凸の形状を解析して得られる凹凸解析画像に2次元高速フーリエ変換処理を施して得られるフーリエ変換像が円状もしくは円環状の模様を示すような、すなわち、凹凸の向きの指向性はないものの凹凸のピッチの分布は有するような疑似周期パターンでよい。このような疑似周期パターンを有する部材を用いて製造される光学基板は、その凹凸ピッチの分布が可視光線を回折する限り、有機EL素子のような面発光素子に使用される回折基板に好適である。
なお、フーリエ変換像は、波数の絶対値が0μm−1である原点を略中心とする円状又は円環状の模様を示してよく、前記円状又は円環状の模様は波数の絶対値が10μm−1以下(より好ましくは0.667〜10μm−1、更に好ましくは1.11〜3.33μm−1の範囲内)となる領域内に存在してよい。フーリエ変換像の円状の模様は、フーリエ変換像において輝点が集合することにより観測される模様である。ここにいう「円状」とは、輝点が集合した模様がほぼ円形の形状に見えることを意味し、外形の一部が凸状又は凹状となっているように見えるものも含む概念である。輝点が集合した模様がほぼ円環状に見えることもあり、この場合を「円環状」として表現する。なお、「円環状」は、環の外側の円や内側の円の形状がほぼ円形の形状に見えるものも含み且つかかる環の外側の円や内側の円の外形の一部が凸状又は凹状となっているように見えるものも含む概念である。また、「円状又は円環状の模様が波数の絶対値が10μm−1以下(より好ましくは0.667〜10μm−1の範囲内、更に好ましくは1.11〜3.33μm−1の範囲内)となる領域内に存在する」とは、フーリエ変換像を構成する輝点のうちの30%以上(より好ましくは50%以上、更により好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上)の輝点が波数の絶対値が10μm−1以下(より好ましくは0.667〜10μm−1の範囲内、更に好ましくは1.11〜3.33μm−1の範囲内)となる領域に存在することをいう。なお、凹凸パターンとフーリエ変換像との関係について、次のことが分かっている。凹凸パターン自体にピッチの分布や指向性がない場合には、フーリエ変換像もランダムなパターン(模様がない)で現れるが、凹凸パターンがXY方向に全体として等方的であるがピッチに分布がある場合には、円または円環状のフーリエ変換像が現れる。また、凹凸パターンが単一のピッチを有する場合には、フーリエ変換像に現れる円環がシャープになる傾向がある。
前記凹凸解析画像の2次元高速フーリエ変換処理は、2次元高速フーリエ変換処理ソフトウエアを備えたコンピュータを用いた電子的な画像処理によって容易に行うことができる。
[凹凸パターンを有する部材の製造方法の第1変形形態]
上記実施形態では収縮性を有する基材として、原反を加熱延伸することによって収縮性を有する基材を用意したが、本変形形態では、加熱により原反を膨張させることにより収縮性を有する基材を用意する。本変形形態の凹凸パターンを有する部材の製造方法も、上記実施形態と同様に、図1に示すように、主に、収縮性を有する基材を用意する工程S1と、基材上に硬質層を積層する工程S2と、基材を収縮させる工程S3を有する。以下に、各工程S1〜S3について説明する。
<基材を用意する工程>
本変形形態において、収縮性を有する基材は次のようにして用意することができる。基材の材料として、加熱又は冷却により体積が変化する材料(例えば、熱膨張係数が50ppm/K以上の材料)を用いる。特に、後述する収縮工程で凹凸が形成しやすいという観点から、熱膨張係数が大きく、高い柔軟性を有しているシリコーン系ポリマーを用いることが好ましく、ポリジメチルシロキサンを含有するシリコーン系ポリマーを用いることが特に好ましい。上述した公知のフィルム成形法によって上記の加熱又は冷却により体積が変化する材料からなる膜(原反)を作製し、この膜を加熱して膨張させる。この膜は、冷却することにより収縮させることができる。すなわち、加熱膨張した膜は、本発明の収縮性を有する基材として用いることができる。このようにして形成した基材の厚みは、1〜200μmの範囲であることが好ましく、1〜100μmの範囲であることがより好ましい。
基材の膨張倍率は、後述の収縮工程において形成される凹凸パターンが所望の凹凸深さ及び凹凸ピッチを有するように、適宜選択することができるが、102〜150%の範囲内であることが好ましい。なお、膨張倍率とは、(膨張後の長さ)/(膨張前の長さ)×100(%)を指す。膨張倍率が102%より小さい場合、後述する収縮工程における収縮率が小さくなり、形成される凹凸の深さが不十分となることがある。膨張倍率が150%を超える場合、形成される凹凸パターンが不均一になることがある。
基材を膨張させるための加熱温度は、基材を構成する材料の熱膨張係数等によって適宜設定してよいが、40℃以上が好ましく、70〜150℃の範囲がより好ましい。加熱温度が70℃未満の場合、基材の膨張倍率が小さいために、後述する収縮工程における収縮率が小さくなり、形成される凹凸の深さが不十分となることがある。また、加熱温度が150℃を超える場合、基材の熱膨張量が基材の面内で不均一となり、後述の収縮工程において形成される凹凸の形状が基材の面内で不均一になることがある。基材の加熱温度は、90〜150℃の範囲がさらに好ましい。
<硬質層積層工程>
基材の加熱温度を維持しながら、基材上に硬質層を積層する。積層方法は上述した実施形態と同様にしてよい。硬質層積層時の基材温度は、上述の基材を用意する工程における基材の加熱温度と同様の範囲にしてよい。
<収縮工程>
硬質層を形成した基材を以下のようにして収縮させる。まず、上記実施形態と同様に、図3(a)に示すように硬質層を積層した基材30をグリッパ10a〜10hで挟持して固定する。
次いで、グリッパ10a、10eを基材30から外し、基材30を冷却する。それにより、基材30の体積が減少し、図3(a)の矢印で示した方向(第1方向)に基材30が収縮する。硬質層は基材30と比べ熱膨張係数が小さいため、基材30上の硬質層は冷却してもほとんど体積が減少しない。そのため、基材30と硬質層の体積変化の差により、硬質層の表面に皺による凹凸(いわゆるバックリングパターン)が形成される。このとき、形成された凹凸の凹部及び凸部は、第1方向に対して直交する方向に延在する。なお、このときグリッパ10b、10c、10d、10f、10g、10hは基材30を把持したまま固定されているため、基材30には第1方向以外の方向に張力が付与されている。基材30が所望の形状になるまで収縮したら、図3(b)に示すように再びグリッパ10a、10eで基材30を把持する。
次いで、基材30の冷却を続けながら、グリッパ10b、10fを基材30から取り外す。それにより、基材30の体積が減少し、図3(b)の矢印で示した方向(第2方向)に基材30が収縮する。それにより、第2方向に対して直交する方向に延在する凹凸(バックリングパターン)が、硬質層の表面にさらに形成される。基材30が所望の形状になるまで収縮したら、図3(c)に示すように再びグリッパ10b、10fで基材30を把持する。
さらに、基材30の冷却を継続しながら、グリッパ10c、10gを基材30から取り外す。それにより、基材30の体積が減少し、図3(c)の矢印で示した方向(第3方向)に基材30が収縮する。それにより、第3方向に対して直交する方向に延在する凹凸(バックリングパターン)が、硬質層の表面にさらに形成される。基材30が所望の形状になるまで収縮したら、図3(d)に示すように再びグリッパ10c、10gで基材30を把持する。
続いて、基材30の冷却を継続しながら、グリッパ10d、10hを基材30から取り外す。それにより、基材30の体積が減少し、図3(d)の矢印で示した方向(第4方向)に基材30が収縮する。それにより、第4方向に対して直交する方向に延在する凹凸(バックリングパターン)が、硬質層の表面にさらに形成される。基材30が所望の形状になるまで収縮したら、図3(e)に示すように再びグリッパ10d、10hで基材30を把持する。
以上の操作により、基材30上の硬質層の表面に凹凸パターンが形成される。
基材30を冷却する時の降温速度は0.1〜50℃/分の範囲内とすることが好ましい。降温速度が前記下限未満の場合、硬質層が基材の収縮に追従して変形し、硬質層の表面に凹凸が形成されなかったり、凹凸の深さが不十分となったりすることがある。降温速度が前記上限を超える場合、基材30または硬質層の表面にクラック等が発生しやすくなる傾向がある。また、基材30は最終的に25℃以下に冷却されることが好ましい。
基材30の各収縮方向における収縮率は、上記実施形態と同様に2〜50%の範囲内であることが好ましい。
[凹凸パターンを有する部材の製造方法の第2変形形態]
上記実施形態では、原反を加熱延伸することによって収縮性を有する基材を用意したが、本変形形態では、ゴム、エラストマー等からなる原反を面内の少なくとも2つの異なる方向に機械的に引っ張って延伸することにより、収縮性を有する基材を用意してもよい。本変形形態の凹凸パターンを有する部材の製造方法も、上記実施形態と同様に、図1に示すように、主に、収縮性を有する基材を用意する工程S1と、基材上に硬質層を積層する工程S2と、基材を収縮させる工程S3を有する。以下に、各工程S1〜S3について説明する。
<基材を用意する工程>
本変形形態において、収縮性を有する基材は次のようにして用意することができる。基材の材料として、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどのゴム又はエラストマーを用いる。これらのゴムまたはエラストマーからなる膜(原反)を上述した公知のフィルム成形法によって作製し、この膜に張力を加えて弾性変形させ、延伸する。この膜は、張力をゼロにする又は緩和することにより、弾性によって収縮する。すなわち、張力を加えて延伸した膜は、本発明の収縮性を有する基材として用いることができる。例えば、コイルバネを接続したグリッパで、円形状に裁断した原反(ゴム又はエラストマーからなる膜)の外周の6か所以上を挟持することにより、原反に張力を加えることができる。
なお、原反を延伸する倍率(延伸倍率)は、上述の実施形態と同様に、102〜150%の範囲内であることが好ましい。
<硬質層積層工程>
引き続き基材に張力を付与しながら、基材上に硬質層を積層する。積層方法は上述した実施形態と同様にしてよい。
<収縮工程>
基材を加熱する必要がないこと以外は上記実施形態と同様にして、グリッパを基材の中心に向かって順次移動させることにより基材を収縮させる。グリッパを基材の中心に向かって移動させることにより、あらかじめ基材に加えていた引っ張り力がゼロになる又は緩和され、弾性力により基材が収縮する。それにより、ゴム又はエラストマーから構成される基材上の硬質層の表面に凹凸パターンが形成される。
以上のように、本発明の「収縮性を有する基材」は、実施形態で説明した原反を加熱しながら面内の少なくとも2つの異なる方向に延伸する方法、第1変形形態で説明した原反を加熱して膨張させる方法、または、第2変形形態で説明した原反を面内の少なくとも2つの異なる方向に機械的に引っ張って延伸する方法により用意することができる。実施形態の原反を加熱しながら延伸することにより用意した収縮性を有する基材は、収縮工程において基材を加熱しながら基材に印加されている張力を緩和することによって収縮させることができる。第1変形形態の原反を加熱して膨張させることにより用意した収縮性を有する基材は、収縮工程において冷却することによって収縮させることができる。第2変形形態の原反を機械的に引っ張って延伸することにより用意した収縮性を有する基材は、収縮工程において基材に印加されている張力を緩和することによって収縮させることができる。
[モールドの製造方法]
上記のようにして製造される凹凸パターン80を有する部材100を母型として用い、凹凸パターンを有するモールドを製造することができる。後述するように、このモールドの凹凸パターンを転写することにより、光学基板等の別の部材を製造することができる。このような凹凸パターンを有する部材100から製造されるモールドには、金属モールド又はフィルム状の樹脂モールド等が含まれる。樹脂モールドを構成する樹脂には、天然ゴム又は合成ゴムのようなゴムも含まれる。そのようなモールドの製造方法を以下に説明する。
電鋳法等により、凹凸パターンを有する部材100(母型)の凹凸パターンを転写した金属モールドを形成する。部材100の凹凸パターン80が形成されている面が絶縁性である場合は、必要に応じて、最初に、電鋳処理のための導電層となるシード層を、無電解めっき、スパッタまたは蒸着等により母型上に形成する(シード層形成工程)。シード層は、後続の電鋳工程における電流密度を均一にして後続の電鋳工程により堆積される金属層の厚みを一定にするために10nm以上が好ましい。シード層の材料として、例えば、ニッケル、銅、金、銀、白金、チタン、コバルト、錫、亜鉛、クロム、金・コバルト合金、金・ニッケル合金、ホウ素・ニッケル合金、はんだ、銅・ニッケル・クロム合金、錫ニッケル合金、ニッケル・パラジウム合金、ニッケル・コバルト・リン合金、またはそれらの合金などを用いることができる。なお、部材100の凹凸パターン80が形成されている面が導電性である場合は、シード層形成工程は行わなくてもよい。
次に、シード層上(シード層を形成しない場合は、部材100の凹凸パターン80上)に電鋳(電界めっき)により金属層を堆積させる(電鋳工程)。金属層の厚みは、例えば、シード層の厚みを含めて全体で10〜30000μmの厚さにすることができる。電鋳により堆積させる金属層の材料として、シード層として用いることができる上記金属種のいずれかを用いることができる。形成した金属層は、後続のモールドの形成のための樹脂層の押し付け、剥離及び洗浄などの処理の容易性からすれば、適度な硬度及び厚みを有することが望ましい。
上記のようにして得られた金属層(シード層を形成した場合はシード層も含む)を、母型から剥離して金属基板を得る(剥離工程)。剥離方法は物理的に剥がしても構わないし、母型の凹凸パターンを形成する材料を、それらを溶解する有機溶媒(例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムなど)または無機溶液(例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液、塩酸等の酸性溶液など)を用いて溶解して除去することによって剥離してもよい。金属基板を母型から剥離するときに、残留している材料成分を洗浄にて除去することができる。洗浄方法としては、界面活性剤などを用いた湿式洗浄や紫外線やプラズマを使用した乾式洗浄を用いることができる。また、例えば、粘着剤や接着剤を用いて残留している材料成分を付着除去するなどしてもよい。こうして得られる、母型からパターンが転写された金属基板(金属モールド)は、凹凸パターン転写用のモールドとして用いられ得る。
さらに、得られた金属基板を用いて、金属基板の凹凸構造(パターン)をフィルム状の支持基板に転写することで、フィルム状モールドのように可撓性のあるモールドを作製することができる。例えば、硬化性樹脂を支持基板に塗布した後、金属基板の凹凸構造を樹脂層に押し付けつつ樹脂層を硬化させる。支持基板として、例えば、ガラス、石英、シリコン等の無機材料からなる基材;シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリアリレート等の有機材料からなる基材、ニッケル、銅、アルミ等の金属材料が挙げられる。また、支持基板の厚みは、1〜500μmの範囲にし得る。
硬化性樹脂として、例えば、光硬化および熱硬化、湿気硬化型、化学硬化型(二液混合)等の樹脂を挙げることができる。具体的には、エポキシ系、アクリル系、メタクリル系、ビニルエーテル系、オキセタン系、ウレタン系、メラミン系、ウレア系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、フェノール系、架橋型液晶系、フッ素系、シリコーン系、ポリアミド系等のモノマー、オリゴマー、ポリマー等の各種樹脂が挙げられる。硬化性樹脂の厚みは0.5〜500μmの範囲内であることが好ましい。厚みが前記下限未満では、硬化樹脂層の表面に形成される凹凸の高さが不十分となり易く、前記上限を超えると、硬化時に生じる樹脂の体積変化の影響が大きくなり凹凸形状が良好に形成できなくなる可能性がある。
硬化性樹脂を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法、スパッタ法等の各種コート方法を採用することができる。さらに、硬化性樹脂を硬化させる条件としては、使用する樹脂の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲内であり、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲内であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜5J/cm2の範囲内であることが好ましい。
次いで、硬化後の硬化樹脂層から金属基板を取り外す。金属基板を取り外す方法としては、機械的な剥離法に限定されず、公知の方法を採用することができる。こうして得ることができる支持基板上に凹凸が形成された硬化樹脂層を有するフィルム状の樹脂モールドは、凹凸パターン転写用のモールドとして用いられ得る。
また、上述の方法で得られた金属基板の凹凸構造(パターン)上にゴム系の樹脂材料を塗布し、塗布した樹脂材料を硬化させ、金属基板から剥離することにより、金属基板の凹凸パターンが転写されたゴムモールドを作製することができる。得られたゴムモールドは凹凸パターン転写用のモールドとして用いられ得る。ゴム系の樹脂材料として、天然ゴム及び合成ゴムを用いることができ、特に、シリコーンゴム、またはシリコーンゴムと他の材料との混合物もしくは共重合体が好ましい。シリコーンゴムとしては、例えば、ポリオルガノシロキサン、架橋型ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサン/ポリカーボネート共重合体、ポリオルガノシロキサン/ポリフェニレン共重合体、ポリオルガノシロキサン/ポリスチレン共重合体、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリ4メチルペンテンなどが用いられる。シリコーンゴムは、他の樹脂材料と比べて安価で、耐熱性に優れ、熱伝導性が高く、弾性があり、高温条件下でも変形しにくいことから、凹凸パターン転写プロセスを高温条件下で行う場合には好適である。さらに、シリコーンゴム系の材料は、ガスや水蒸気透過性が高いため、被転写材の溶媒や水蒸気を容易に透過することができる。そのため、後述するような樹脂材料または無機材料の前駆体溶液の膜に凹凸パターンを転写する目的でゴムモールドを用いる場合には、シリコーンゴム系の材料が好適である。また、ゴム系材料の表面自由エネルギーは25mN/m以下が好ましい。これによりゴムモールドの凹凸パターンを基材上の塗膜に転写するときの離形性が良好となり、転写不良を防ぐことができる。ゴムモールドは、例えば、長さ50〜1000mm、幅50〜3000mm、厚み1〜50mmにし得る。また、必要に応じて、ゴムモールドの凹凸パターン面上に離型処理を施してもよい。
[光学基板の製造方法]
上述の製造方法で製造したモールドを用いたナノインプリント法により、別の凹凸パターン(凹凸構造)を有する部材を製造することができる。そのような部材として光学基板を例に挙げ、以下にその製造方法を説明する。光学基板の製造方法は、主に、無機材料の前駆体溶液を調製する溶液調製工程、調製前駆体溶液を基板に塗布する塗布工程、凹凸パターンを有するモールドを基板上の塗膜(前駆体膜)に押し付けながら塗膜を硬化させることにより、塗膜に凹凸パターンを転写する転写工程、転写パターンが形成されたモールドを押し付ける押圧工程、モールドが押し付けられた塗膜を仮焼成する仮焼成工程、モールドを塗膜から剥離する剥離工程、及び塗膜を本硬化する硬化工程を有する。このような製造方法により製造される光学基板は、基板と、基板上に形成された凹凸構造層とを有する。
<溶液調整工程>
無機材料からなる凹凸構造層を形成するために、無機材料の前駆体の溶液を調製する。無機材料としては、例えば、シリカ、SiN、SiON等のSi系の材料、TiO2等のTi系の材料、ITO(インジウム・スズ・オキサイド)系の材料、ZnO、ZnS、ZrO2、Al2O3、BaTiO3、SrTiO2等の無機材料が挙げられる。ゾルゲル法を用いて無機材料からなる凹凸構造層を形成する場合、前駆体として金属アルコキシドを調製する。例えば、シリカからなる凹凸構造層を形成する場合は、シリカの前駆体として、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシランに代表されるテトラアルコキシドモノマーや、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシランに代表されるトリアルコキシドモノマー、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−i−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−t−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−i−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−t−ブトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、ジプロピルジイソプロポキシシラン、ジプロピルジ−n−ブトキシシラン、ジプロピルジ−i−ブトキシシラン、ジプロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジプロピルジ−t−ブトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジプロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジ−n−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−i−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−t−ブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジプロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−i−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−t−ブトキシシラン等のジアルコキシシランに代表されるジアルコキシドモノマーを用いることができる。さらに、アルキル基の炭素数がC4〜C18であるアルキルトリアルコキシシランやジアルキルジアルコキシシランを用いることもできる。ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するモノマー、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有するモノマー、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基を有するモノマー、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリル基を有するモノマー、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル基を有するモノマー、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するモノマー、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基を有するモノマー、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するモノマー、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するモノマー、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するモノマー、これらモノマーを少量重合したポリマー、前記材料の一部に官能基やポリマーを導入したことを特徴とする複合材料などの金属アルコキシドを用いてもよい。また、これらの化合物のアルキル基やフェニル基の一部、あるいは全部がフッ素で置換されていてもよい。さらに、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、オキシ塩化物、塩化物や、それらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。金属種としては、Si以外にTi、Sn、Al、Zn、Zr、Inなどや、これらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。上記酸化金属の前駆体を適宜混合したものを用いることもできる。さらに、シリカの前駆体として、分子中にシリカと親和性、反応性を有する加水分解基および撥水性を有する有機官能基を有するシランカップリング剤を用いることができる。例えば、n−オクチルトリエトキシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のシランモノマー、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン等のサルファーシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、これらモノマーを重合したポリマー等が挙げられる。
無機材料の前駆体としてTEOSとMTESの混合物を用いる場合には、それらの混合比は、例えばモル比で1:1にすることができる。この前駆体は、加水分解及び重縮合反応を行わせることによって非晶質シリカを生成する。合成条件として溶液のpHを調整するために、塩酸等の酸またはアンモニア等のアルカリを添加する。pHは4以下もしくは10以上が好ましい。また、加水分解を行うために水を加えてもよい。加える水の量は、金属アルコキシド種に対してモル比で1.5倍以上にすることができる。
ゾルゲル法で用いる前駆体溶液の溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、二硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物、水、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。特に、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好ましく、またそれらに水を混合したものも好ましい。
ゾルゲル法で用いる前駆体溶液の添加物としては、粘度調整のためのポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールや、溶液安定剤であるトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アセチルアセトンなどのβジケトン、βケトエステル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどを用いることが出来る。また、前駆体溶液の添加物として、エキシマUV光等紫外線に代表されるエネルギー線などの光を照射することによって酸やアルカリを発生する材料を用いることができる。このような材料を添加することにより、光を照射することよって前駆体溶液をゲル化(硬化)させて無機材料を形成することができるようになる。
また、無機材料の前駆体としてポリシラザンを用いてもよい。ポリシラザンは、加熱またはエキシマなどのエネルギー線を照射することで酸化してセラミックス化(シリカ改質)し、シリカ、SiNまたはSiONを形成する。なお、「ポリシラザン」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si3N4及び両方の中間固溶体SiOXNY等のセラミック前駆体無機ポリマーである。特開平8−112879号公報に記載されている下記の一般式(1)で表されるような比較的低温でセラミックス化してシリカ等に変性する化合物がより好ましい。
一般式(1):
−Si(R1)(R2)−N(R3)−
式中、R1、R2、R3は、各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。
上記一般式(1)で表される化合物の中で、R1、R2及びR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPSともいう)や、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンが特に好ましい。
低温でセラミック化するポリシラザンの別の例としては、ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報)等を用いることもできる。
ポリシラザン溶液の溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。酸化珪素化合物への改質を促進するために、アミンや金属の触媒を添加してもよい。
ポリシラザンを用いる場合、後述する硬化工程において、加熱により塗膜の硬化を促進してもよいし、エキシマなどのエネルギー線の照射により塗膜の硬化を促進してもよい。
<塗布工程>
上記のように調製した無機材料の前駆体溶液を基板上に塗布する。基板としては、特に制限されず、公知の透明基板を適宜利用することができる。例えば、ガラス等の透明無機材料からなる基板;ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等)、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、スチレン系樹脂(ABS樹脂等)、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリイミド系樹脂(ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂等)、シクロオレフィンポリマー等の樹脂からなる基板;などを利用することができる。本製造方法で製造される光学基板を有機EL素子等の発光素子の光学基板として用いる場合、基板は耐熱性、UV光等に対する耐候性を備えることが望ましい。これらの点で、ガラスや石英基板等の無機材料からなる基板がより好ましい。特に、凹凸構造層が無機材料から形成される場合には、基板が無機材料から形成されていると、製造される光学基板において、基板と凹凸構造層との間で屈折率の差が少なく、発光素子内での意図しない屈折や反射を防止することができるので好ましい。基板の厚みは、1μm〜20mmの範囲内であることが好ましい。また、基板表面の突起を埋めるために、基板上に平滑化層を設けるなどしてもよい。
前駆体溶液の塗布方法として、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法などの任意の塗布方法を使用することができるが、比較的大面積の基板に前駆体溶液を均一に塗布可能であること、前駆体膜が硬化する前に素早く塗布を完了させることができることからすれば、バーコート法、ダイコート法及びスピンコート法が好ましい。
前駆体溶液の塗布後、塗膜(前駆体膜)中の溶媒を蒸発させるために基板を大気中もしくは減圧下で保持してもよい。この保持時間が短いと塗膜の粘度が低くなりすぎて塗膜への凹凸パターンの転写ができなくなり、保持時間が長すぎると前駆体の重合反応が進み塗膜の粘度が高くなりすぎて塗膜への凹凸パターンの転写ができなくなる。また、前駆体溶液を塗布後、溶媒の蒸発の進行とともに塗膜の硬化が進行し、塗膜の粘度などの物性も短時間で変化する。凹凸パターン形成の安定性の観点から、パターン転写が良好にできる乾燥時間範囲が十分広いことが望ましく、これは乾燥温度(保持温度)、乾燥圧力、前駆体の材料種、前駆体の材料種の混合比、前駆体溶液調製時に使用する溶媒量(前駆体の濃度)等によって調整することができる。なお、基板をそのまま保持するだけでも塗膜(前駆体膜)中の溶媒が蒸発するので、必ずしも加熱や送風などの積極的な乾燥操作を行う必要はなく、塗膜を形成した基板をそのまま所定時間だけ放置したり、後続の工程を行うために所定時間の間に搬送したりするだけでもよい。
<転写工程>
次いで、凹凸パターン転写用のモールドを用いて、塗膜(前駆体膜)に凹凸パターンを形成する。モールドとして、上述したモールドの製造方法で製造することができるフィルム状モールドや金属モールドを用いることができるが、柔軟性または可撓性のあるフィルム状モールドを用いることが望ましい。この際、押圧ロールを用いてモールドを前駆体膜に押し付けてもよい。押圧ロールを用いたロールプロセスでは、プレス式と比較して、モールドと塗膜とが接する時間が短いため、モールドや基板及び基板を設置するステージなどの熱膨張係数の差によるパターンくずれを防ぐことができること、前駆体膜中の溶媒の突沸によってパターン中にガスの気泡が発生したり、ガス痕が残ったりすることを防止することができること、基板(塗膜)と線接触するため、転写圧力及び剥離力を小さくでき、大面積化に対応し易いこと、押圧時に気泡をかみ込むことがないなどの利点を有する。また、モールドを押し付けながら基板を加熱してもよい。押圧ロールを用いてモールドを塗膜(前駆体膜)に押し付ける例として、図4に示すように押圧ロール122とその直下に搬送されている基板40との間にフィルム状モールド140を送り込むことでフィルム状モールド140の凹凸パターンを基板40上の塗膜64に転写することができる。すなわち、フィルム状モールド140を押圧ロール122により塗膜64に押し付ける際に、フィルム状モールド140と基板40を同期して搬送しながら、基板40上の塗膜64の表面をフィルム状モールド140で被覆する。この際、押圧ロール122をフィルム状モールド140の裏面(凹凸パターンが形成された面と反対側の面)に押しつけながら回転させることで、フィルム状モールド140と基板40が進行しながら密着する。なお、長尺のフィルム状モールド140を押圧ロール122に向かって送り込むには、長尺のフィルム状モールド140が巻き付けられたフィルムロールからそのままフィルム状モールド140を繰り出して用いるのが便利である。
前駆体膜にモールドを押し付けた後、前駆体膜を仮焼成してもよい。仮焼成することにより前駆体を無機材料に転化させて塗膜を硬化し、凹凸パターンを固化し、剥離の際に崩れにくくする。仮焼成を行う場合は、大気中で室温〜300℃の温度で加熱することが好ましい。なお、仮焼成は必ずしも行う必要はない。また、前駆体溶液に紫外線などの光を照射することによって酸やアルカリを発生する材料を添加した場合には、前駆体膜を仮焼成する代わりに、例えばエキシマUV光等の紫外線に代表されるエネルギー線を照射することによって塗膜を硬化してもよい。
モールドの押圧または前駆体膜の仮焼成の後、塗膜(前駆体膜、または前駆体膜を転化することにより形成された無機材料膜)からモールドを剥離する。モールドの剥離方法として公知の剥離方法を採用することができる。塗膜を加熱しながらモールドを剥離してもよく、それにより塗膜から発生するガスを逃がし、膜内に気泡が発生することを防ぐことができる。ロールプロセスを使用する場合、プレス式で用いるプレート状モールドに比べて剥離力は小さくてよく、塗膜がモールドに残留することなく容易にモールドを塗膜から剥離することができる。特に、塗膜を加熱しながら押圧するので反応が進行し易く、押圧直後にモールドは塗膜から剥離し易くなる。さらに、モールドの剥離性の向上のために、剥離ロールを使用してもよい。図4に示すように剥離ロール123を押圧ロール122の下流側に設け、剥離ロール123によりフィルム状モールド140を塗膜64に付勢しながら回転支持することで、フィルム状モールド140が塗膜64に付着された状態を押圧ロール122と剥離ロール123の間の距離だけ(一定時間)維持することができる。そして、剥離ロール123の下流側でフィルム状モールド140を剥離ロール123の上方に引き上げるようにフィルム状モールド140の進路を変更することでフィルム状モールド140は凹凸が形成された塗膜(凹凸構造層)60から引き剥がされる。なお、フィルム状モールド140が塗膜64に付着されている期間に前述の塗膜64の仮焼成や加熱を行ってもよい。なお、剥離ロール123を使用する場合には、例えば室温〜300℃に加熱しながら剥離することによりモールド140の剥離を一層容易にすることができる。
<硬化工程>
凹凸が形成された塗膜(凹凸構造層)からモールドを剥離した後、凹凸構造層を本硬化してもよい。本実施形態では、本焼成により凹凸構造層を本硬化させることができる。ゾルゲル法によりシリカに転化する前駆体を用いた場合、凹凸構造層を構成するシリカ(アモルファスシリカ)中に含まれている水酸基などが本焼成によって脱離して、凹凸構造層がより強固となる。本焼成は、200〜1200℃の温度で、5分〜6時間程度行うのが良い。この時、凹凸構造層がシリカからなる場合、焼成温度、焼成時間に応じて非晶質または結晶質、または非晶質と結晶質の混合状態となる。なお、硬化工程は必ずしも行う必要はない。また、前駆体溶液に紫外線などの光を照射することによって酸やアルカリを発生する材料を添加した場合には、凹凸構造層を焼成する代わりに、例えばエキシマUV光等の紫外線に代表されるエネルギー線を照射することによって、凹凸構造層を本硬化することができる。
以上のようにして、基板40上に凹凸構造層60が形成された光学基板300(図5参照)を製造することができる。光学基板300は、基材を面内の3つ以上の互いに異なる方向に順次収縮させて形成した上記実施形態の凹凸パターンを有する部材を凹凸パターンの母型として用いて形成されているため、光学部材の凹凸パターンも、凹凸ピッチのばらつき及び凹凸深さの標準偏差が小さい。
なお、上記の塗布工程において塗布する前駆体としては、シリカの前駆体のほかに、TiO2、ZnO、ZnS、ZrO2、Al2O3、BaTiO3、SrTiO2、ITO等の前駆体を用いてもよい。
またゾルゲル法のほか、無機材料の微粒子の分散液を用いる方法、液相堆積法(LPD:Liquid Phase Deposition)などを用いて凹凸構造層を形成してもよい。
また、上記実施形態の製造方法では、無機材料からなる凹凸構造層を形成したが、凹凸構造層は、上述の無機材料のほか、硬化性樹脂から構成されてもよい。硬化性樹脂としては、例えば、光硬化および熱硬化、湿気硬化型、化学硬化型(二液混合)等の樹脂を用いることができる。具体的にはエポキシ系、アクリル系、メタクリル系、ビニルエーテル系、オキセタン系、ウレタン系、メラミン系、ウレア系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、フェノール系、架橋型液晶系、フッ素系、シリコーン系、ポリアミド系、等のモノマー、オリゴマー、ポリマー等の各種樹脂が挙げられる。また、これらの硬化性樹脂材料に上述した紫外線吸収材料を含有させてもよい。
硬化性樹脂を用いて凹凸構造層を形成する場合、例えば、硬化性樹脂を基板に塗布した後、塗布した硬化性樹脂層に凹凸パターンを有するモールドを押し付けつつ塗膜を硬化させることによって、硬化性樹脂層にモールドの凹凸パターンを転写することができる。硬化性樹脂は有機溶剤で希釈してから塗布してもよい。この場合に用いる有機溶剤としては硬化前の樹脂を溶解するものを選択して使用することができる。例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン系溶剤等の公知のものから選択できる。硬化性樹脂を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法、スパッタ法等の各種コート方法を採用することができる。凹凸パターンを有するモールドとしては、例えばフィルム状モールド、金属モールドなど所望のモールドを用いることができる。さらに、硬化性樹脂を硬化させる条件としては、使用する樹脂の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲内であり、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲内であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜5J/cm2の範囲内であることが好ましい。
また、上記の製造方法では基板上に塗膜を形成し、この塗膜にモールドを押圧することによって光学基板を製造したが、それに代えて、モールドの凹凸パターン上に凹凸構造層を構成する材料からなる膜を形成し、この膜を基板に貼合してモールドを剥離することにより、凹凸構造層が基板上に形成された光学基板を形成することもできる。この場合、凹凸構造層を構成する材料からなる膜をモールド上に形成する方法として、上述の塗布工程で説明した塗布方法に加え、蒸着、スパッタリング等の物理気相成長(PVD)法、化学気相成長(CVD)法等の公知のドライプロセスを用いた方法も用いることができる。この場合、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属炭化物、金属ハロゲン化物、またこれらの混合物(金属酸窒化物、金属酸化ハロゲン化物、金属窒化炭化物など)等からなる凹凸構造層を形成することができる。
ドライプロセスを用いてモールド上に形成した凹凸構造層は、例えば、次のような方法で基板に貼合することができる。まず、基板上に接着剤を塗布する。基板上の接着剤層とモールド上の凹凸構造層が接着するように、基板とモールドを重ね合わせ、接着剤を硬化させる。それにより、基板と凹凸構造層が接着剤を介して接合される。次いでモールドを凹凸構造層から剥離する。それにより、凹凸構造層が基板上に形成された光学基板を形成することができる。
さらに、凹凸構造層の表面に被覆層を形成してもよい。被覆層は、凹凸構造層の凹凸深さの標準偏差の25〜150%の範囲内の膜厚を有することが好ましい。それにより、凹凸構造層表面に異物や欠陥があった場合にそれらを被覆することができるため、この光学基板を用いて有機EL素子等の発光素子を形成した場合に、発光素子のリーク電流を有効に抑制できる。また、そのような上記範囲内の膜厚を有する被覆層を備える光学基板を用いて形成された発光素子は良好な光取り出し効率を有する。
被覆層の材料(被覆材料)としては、凹凸構造層の材料として用いることができる材料として上記で例示したSiOX、TiO2、ZnO、ZrO2、Al2O3、ZnS、BaTiO3、SrTiO2、ITO(インジウム・スズ・オキサイド)等、これらに公知の微粒子、フィラー、紫外線吸収材等を含有させたもの等を用いることができる。特に凹凸構造層の材料として用いた材料と同じ材料を用いて被覆層を形成することが望ましい。被覆材料と凹凸構造層材料が同じ材料であることにより、被覆層と凹凸構造層の間の界面における光の反射を抑制することができる。ゾルゲル法により被覆層を形成する場合、被覆層の形成に用いる無機材料の前駆体溶液は、凹凸構造層の形成に用いた前駆体溶液よりも溶媒でさらに希釈したものを用いることが望ましい。それにより、凹凸構造層よりも薄い所望の膜厚で被覆層を形成することが容易になる。
またゾルゲル法のほか、無機材料の微粒子の分散液を用いる方法、液相堆積法(LPD:Liquid Phase Deposition)、ポリシラザンを用いる方法などを用いて被覆層を形成してもよい。
また、被覆層の材料としては、上述の無機材料のほか、硬化性樹脂材料を用いてもよい。硬化性樹脂材料としては、凹凸構造層の材料として用いることができる材料として上記で例示した硬化性樹脂材料を用いることができる。硬化性樹脂を用いて被覆層を形成する場合、例えば、硬化性樹脂を凹凸構造層上に塗布した後、硬化させることによって、被覆層を形成することができる。
さらに、凹凸構造層の表面(被覆層を形成する場合は被覆層の表面)に疎水化処理を行ってもよい。疎水化処理の方法は知られている方法を用いればよく、例えば、シリカ表面であれば、ジメチルジクロルシラン、トリメチルアルコキシシラン等で疎水化処理することもできるし、ヘキサメチルジシラザンなどのトリメチルシリル化剤とシリコーンオイルで疎水化処理する方法を用いてもよいし、超臨界二酸化炭素を用いた金属酸化物粉末の表面処理方法を用いてもよい。凹凸構造層の表面が疎水性であると、この光学基板を用いて有機EL素子等の発光素子を製造する場合、その製造工程において光学基板から水分を容易に除去できるため、発光素子におけるダークスポットのような欠陥の発生や、デバイスの劣化を防止することができる。
上記被覆層のほかにも、凹凸構造層の表面に種々の機能層を設置してよい。該機能層の例としては、反射防止層、偏光層、カラーフィルター、紫外線吸収層等の光学機能層や、ハードコート層、応力緩和層等の力学的機能層、帯電防止層、導電層などの電気的機能層、防曇層、防汚層、被印刷層などが挙げられる。
なお、フィルム状のモールドを用いて光学基板を製造する方法について説明したが、金属モールド、石英モールド等の硬質なモールドを用いても上記製造方法と同様に光学基板を製造することができる。硬質モールドを用いる場合、基板としてフィルム状基板等の可撓性のある基板を用いることが好ましい。また、凹同様の方法で、光学基板のほか、絶縁、導電、防曇、断熱、防汚、誘電、親水、撥水等の種々の機能を有する部材を製造することもできる。
[発光素子]
次に、上記光学基板を用いて製造される発光素子の実施形態について説明する。図5に示すように、発光素子200は、基板40及び凹凸構造層60からなる光学基板300上に、第1電極層92、有機層94及び第2電極層98をこの順に備える。発光素子200はさらに、封止部材101と封止接着剤層103とを備えてもよい。
<第1電極>
第1電極92は、その上に形成される有機層94からの光を基板40側に透過させるために透過性を有する透明電極にし得る。また、第1電極92は、凹凸構造層60の表面に形成されている凹凸パターンが第1電極92の表面に維持されるようにして積層されることが望ましい。
第1電極の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、金、白金、銀、銅が用いられる。これらの中でも、透明性と導電性の観点から、ITOが好ましい。第1電極92の厚みは20〜500nmの範囲であることが好ましい。
<有機層>
有機層94は、第1電極92上に形成される。有機層94は、有機EL素子の有機層に用いることが可能なものであれば特に制限されず、公知の有機層を適宜利用することができる。
有機層94の表面(有機層94と第2電極98の界面)は、図5に示すように、凹凸構造層60の表面に形成されている凹凸パターンを維持していてもよい。あるいは、有機層94の表面は、凹凸構造層60の表面に形成されている凹凸パターンを維持せずに、その表面が平坦であってもよい。有機層94の表面が凹凸構造層60の表面に形成されている凹凸パターンを維持している場合、第2電極98によるプラズモン吸収が低減し、光の取出し効率が向上する。ここで、正孔輸送層の材料としては、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ビス(3ーメチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4’’−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、発光層は、第1電極92から注入された正孔と第2電極98から注入された電子とを再結合させて発光させるために設けられている。発光層に使用できる材料としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、アルミニウムキノリノール錯体(Alq3)などの有機金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体及び各種蛍光色素等を用いることができる。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。また、スピン多重項からの発光を示す材料系、例えば燐光発光を生じる燐光発光材料、およびそれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができる。なお、前記燐光発光材料はイリジウムなどの重金属を含むことが好ましい。上述した発光材料をキャリア移動度の高いホスト材料中にゲスト材料としてドーピングして、双極子−双極子相互作用(フェルスター機構)、電子交換相互作用(デクスター機構)を利用して発光させても良い。また、電子輸送層の材料としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルミニウムキノリノール錯体(Alq3)などの有機金属錯体などが挙げられる。さらに上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。なお、正孔輸送層もしくは電子輸送層が発光層の役割を兼ねていてもよい。
さらに、第2電極98からの電子注入を容易にするという観点から、有機層94と第2電極98の間に電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)、Li2O3等の金属フッ化物や金属酸化物、Ca、Ba、Cs等の活性の高いアルカリ土類金属、有機絶縁材料等からなる層を設けてもよい。また、第1電極92からの正孔注入を容易にするという観点から、有機層94と第1電極92の間に正孔注入層として、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、または導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどからなる層を設けても良い。
また、有機層94が正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層からなる積層体である場合、正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層の厚みは、それぞれ1〜200nmの範囲、5〜100nmの範囲、及び5〜200nmの範囲であることが好ましい。
<第2電極>
第2電極98は、有機層94上に形成される。第2電極98として、仕事関数の小さな物質を適宜用いることができ、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、MgAg、MgIn、AlLi等の金属電極にし得る。また、第2電極98の厚みは50〜500nmの範囲であることが好ましい。また、第2電極98は、凹凸構造層60の表面に形成されている凹凸パターンが維持されるようにして積層されてもよい。また、金属で形成された第2電極98の鏡面反射対策として偏光板を第2電極98上に設けてもよい。
<封止部材>
封止部材101は基板40と対向して設けられ、基板40との間に空間(封止空間)105を形成する。第1電極92、有機層94、及び第2電極98は、この封止空間105内に位置する。封止部材101は封止接着剤層103を用いて基板40に対して固定することができる。封止接着剤層103は、図5のZ方向(基板40の法線方向)においては基板40と封止部材101の間に位置し、XY方向(基板40の面内方向)においては有機層94を取り囲むように位置してよい。封止部材101及び封止接着剤層103により、水分や酸素が封止空間105内に侵入することが防止される。これにより、有機層94等の劣化が抑制され、発光素子200の寿命が向上する。また、有機層94から発光した光を有効に取り出すために、封止接着剤層103は有機層94に接触しておらず、封止接着剤層103は有機層94から所定の間隔を隔てて形成されることが好ましい。上記所定の間隔は例えば1μm以上であることが好ましい。
封止部材101の材料は、ガスバリア性の高い材料であればよく、例えば包装材等に使用される公知のガスバリア性フィルム、例えば酸化珪素又は酸化アルミニウムを蒸着したプラスチックフィルム、セラミック層と衝撃緩和ポリマー層の積層物、ポリマーフィルムをラミネートした金属箔、ガラス製又は金属製の封止缶、掘り込みガラス等を使用することができる。
封止接着剤層103の材料としては、ガラス、また、プラスチック基板等に対して一般に使用されている任意の接着剤を制限なく用いることができ、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマー等反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型のアクリル系接着剤、エポキシ樹脂接着剤、2−シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型等の接着剤、エチレン共重合体系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノ−ル樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、ゴム系接着剤等を挙げることができる。
封止空間105は、不活性ガスなどによって満たされてもよい。不活性ガスとしては、N2の他、He、Ar等の希ガスが好ましく用いられるが、HeとArを混合した希ガスも好ましく、気体中に占める不活性ガスの割合は、90〜100体積%であることが好ましい。また、封止空間105は、固形状又は液体状の樹脂、ガラス、フッ素系などの不活性オイル又はゲル材などの充填剤が充填されてもよい。これらの充填剤は透明または白濁していることが望ましい。さらに、封止空間105内に吸水性の物質を配置してもよい。吸水性の物質として例えば酸化バリウムなどを用いることができる。具体的には例えば、アルドリッチ社製の高純度酸化バリウム粉末を、粘着剤付きのフッ素樹脂系半透過膜(ミクロテックス S−NTF8031Q 日東電工製)等を用いて封止部材101に貼り付けることにより、封止空間105内に配置することができる。その他、ジャパンコアテックス(株)、双葉電子(株)などで市販されている吸水性物質も好ましく使用できる。
さらに、発光素子200は、基板40の凹凸構造層60等が形成されている側の面と反対側の面(発光素子の光の取り出し面となる面)に光学機能層が設けられてもよい。光学機能層としては、発光素子の光の取り出しのために用いることが可能なものであればよく、特に制限されず、光の屈折や、集光、拡散(散乱)、回折、反射等を制御して素子の外側へ光を取出すことが可能な構造を有する任意の光学部材を用いることができる。このような光学機能層としては、例えば、半球レンズのような凸レンズ、凹レンズ、フレネルレンズ、プリズムレンズ、円柱状レンズ、レンチキュラー型レンズ、上述した光学基板の製造方法と同様の方法で形成することが可能な凹凸層からなるマイクロレンズ等の各種レンズ部材、透明体に拡散材が練りこまれた拡散シート、拡散板、表面に凹凸構造(凹凸パターン)を有する拡散シート、拡散板、回折格子、反射防止機能を有する部材等を使用してもよい。これらのうち、より効率よく光を取り出すことが可能となることから、レンズ部材が好ましい。また、このようなレンズ部材としては、複数のレンズ部材を用いてもよく、この場合には微細なレンズ部材を配列させて、いわゆるマイクロレンズ(アレイ)を形成してもよい。光学機能層は、市販品を用いてもよい。このような光学機能層を設けることで、基板40内を通過してきた光が基板40(光学機能層を含む)と空気の界面において全反射することを抑制して光取出し効率を向上することができる。
発光素子200に用いられている光学基板300は、上述したように、凹凸パターンのピッチのばらつき及び凹凸深さの標準偏差が小さい。そのため、発光素子200において、有機層内部の電界分布が不均一となって特定の箇所に電界が集中することによってリーク電流が生じ易くなったり、寿命が短くなったりすることが抑制される。また、光学基板300の凹凸パターンのピッチのばらつき及び凹凸深さの標準偏差が小さいために、光学基板300は面内で均一に光を回折することができ。それゆえ、発光素子200は、面内(図5のXY平面内)の輝度分布が小さいく、均一に発光する。
以下、本発明の凹凸パターンを有する部材の製造方法を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<凹凸パターンを有する部材の作製>
実施例1
シリコーン系ポリマー(シリコーンゴム(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、製品名Elastosil RT601)90質量%と硬化剤10質量%との混合樹脂組成物)をスピンコート法によりガラス板状に塗布し、100℃にて1時間加熱して硬化させて、厚さ5μmのシリコーンフィルムを得た。このシリコーンフィルムをガラス板から剥離して、このシリコーンフィルムを直径20cmの円形に裁断した。次いで、シリコーンフィルムの外周を8個のコイルバネを接続したグリッパで把持することにより、シリコーンフィルムに張力を加えた。なお、グリッパはシリコーンフィルムの外周を8等分する位置に設置した。次いで、シリコーンフィルムを150℃に加熱してシリコーンフィルムを軟化させた。このとき、グリッパを介してシリコーンフィルムに加えた張力により、シリコーンフィルムを4方向に延伸した。加熱を30分間維持した後、シリコーンフィルムを100℃に冷却した。このときシリコーンフィルムの直径は24cmとなった。
シリコーンフィルム上に、硬質層として、厚さ10nmのアルミニウム層を形成した。アルミニウム層の形成は蒸着により行った。蒸着中のシリコーンフィルムの温度は100℃とした。
次いで、シリコーンフィルムを100℃に加熱した状態で、対向する一対のグリッパ10a、10e(図3(a)参照)をシリコーンフィルムの中心に向かって移動させて張力を緩和することで、グリッパ10a、10eを通る直線方向(図3(a)において矢印で示した方向)にシリコーンフィルムを収縮させた。それにより、アルミニウム層の表面に、グリッパ10a、10eを通る直線と直交する方向に延在する皺による凹凸が形成された。
次に、対向する一対のグリッパ10b、10f(図3(b)参照)をシリコーンフィルムの中心に向かって(図3(b)の矢印で示した方向に)移動させた。同様に、対向する一対のグリッパ10c、10g(図3(c)参照)をシリコーンフィルムの中心に向かって(図3(c)の矢印で示した方向に)移動させた。さらに、さらに、対向する一対のグリッパ10d、10h(図3(d)参照)をシリコーンフィルムの中心に向かって(図3(d)の矢印で示した方向に)収縮させた。その後、最後に、シリコーンフィルムを100℃から20℃まで、1℃/minの降温速度で冷却した。
実施例2
シリコーン系ポリマー(シリコーンゴム(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、製品名Elastosil RT601)90質量%と硬化剤10質量%との混合樹脂組成物)をスピンコート法によりガラス板状に塗布し、100℃にて1時間加熱して硬化させて、厚さ5μmのシリコーンフィルムを得た。このシリコーンフィルムをガラス板から剥離して、直径20cmの円形に裁断した。次いで、シリコーンフィルムを150℃に加熱し、30分間維持して、シリコーンフィルムを膨張させた。このときシリコーンフィルムの直径は24cmとなった。シリコーンフィルムの温度を150℃に維持しながら、シリコーンフィルムの外周を8個のグリッパで把持し、固定した。なお、グリッパは図3(a)に示すようにシリコーンフィルムの外周を8等分する位置に設置した。
外周を固定したシリコーンフィルム上に、硬質層として、厚さ10nmのアルミニウム層を形成した。アルミニウム層の形成は蒸着により行った。蒸着中のシリコーンフィルムの温度は150℃とした。
次いで、対向する一対のグリッパ10a、10e(図3(a)参照)をシリコーンフィルムから取り外すと共に、シリコーンフィルムを150℃から130℃まで、1℃/minの降温速度で冷却した。それにより、図3(a)において矢印で示した方向にシリコーンフィルムが収縮した。これにより、アルミニウム層の表面に皺による凹凸が形成された。その後、図3(b)に示すようにグリッパ10a、10eを収縮したシリコーンフィルムの外周に取り付けた。
次に、対向する一対のグリッパ10b、10f(図3(b)参照)をシリコーンフィルムから取り外すと共に、シリコーンフィルムを130℃から110℃まで、1℃/minの降温速度で冷却し、シリコーンフィルムを収縮させた。その後、グリッパ10b、10fをシリコーンフィルムの外周に取り付けた。
次に、対向する一対のグリッパ10b、10f(図3(b)参照)をシリコーンフィルムから取り外すと共に、シリコーンフィルムを110℃から90℃まで、1℃/minの降温速度で冷却し、シリコーンフィルムを収縮させた。その後、グリッパ10b、10fをシリコーンフィルムの外周に取り付けた。
同様に、対向する一対のグリッパ10c、10g(図3(c)参照)をシリコーンフィルムから取り外すと共に、シリコーンフィルムを90℃から70℃まで、1℃/minの降温速度で冷却し、シリコーンフィルムを収縮させた。その後、グリッパ10c、10gをシリコーンフィルムの外周に取り付けた。さらに、対向する一対のグリッパ10d、10h(図3(d)参照)をシリコーンフィルムから取り外すと共に、シリコーンフィルムを70℃から50℃まで、1℃/minの降温速度で冷却し、シリコーンフィルムを収縮させた。その後、グリッパ10d、10hをシリコーンフィルムの外周に取り付けた。最後に、シリコーンフィルムを20℃に冷却した。
以上の操作により作製した試料において、シリコーンフィルム上のアルミニウム層の表面には凹凸パターンが形成されていた。
比較例1
シリコーンフィルムを収縮させるときに、8個のグリッパを同時にシリコーンフィルムの中心に向かって移動させたこと以外は実施例1と同様にして、試料を作製した。このようにして作製した試料において、シリコーンフィルム上のアルミニウム層の表面に凹凸パターンが形成されていた。
比較例2
シリコーンフィルムを冷却して収縮させるときに、シリコーンフィルムの外周のいずれの部分もグリッパで固定しなかったこと以外は実施例2と同様にして、試料を作製した。このようにして作製した試料において、シリコーンフィルム上のアルミニウム層の表面に凹凸パターンが形成されていた。)
<凹凸パターンの形状の解析>
実施例1、2及び比較例1、2で形成した試料の凹凸パターンの形状を原子間力顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製の環境制御ユニット付走査型プローブ顕微鏡「NanonaviIIステーション/E−sweep」)を用いて解析画像を得た。原子間力顕微鏡の解析条件は、以下の通りである。
測定モード:ダイナミックフォースモード
カンチレバー:SI−DF40(材質:Si、レバー幅:40μm、チップ先端の直径:10nm)
測定雰囲気:大気中
測定温度:25℃
試料の凹凸パターンの任意の10μm角(縦10μm、横10μm)の測定領域について、凹凸解析画像を求めた。かかる凹凸解析画像中における、任意の隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔を100点以上測定し、その最大値、最小値及び平均値を求めた。最大値と平均値の差及び最小値と平均値の差を平均値で割った値を凹凸ピッチのばらつきとした。実施例1、比較例1の試料の凹凸ピッチのばらつきはそれぞれ、±25%、±60%であった。実施例2、比較例2の試料の凹凸ピッチのばらつきはそれぞれ、±20%、±50%であった。
試料の凹凸パターンの任意の10μm角(縦10μm、横10μm)の測定領域について、凹凸解析画像を求めた。その際に測定領域内の65536点(縦256点×横256点)の測定点における凹凸深さのデータをナノメートルスケールでそれぞれ求めた。このようにして測定された凹凸深さ(nm)に関して、先ず、全測定点のうち、シリコーンフィルムの裏面(アルミニウム層が形成された面と反対側の面)からの高さが最も高い測定点Pを求めた。そして、かかる測定点Pを含み且つシリコーンフィルムの裏面と平行な面を基準面(水平面)として、その基準面からの深さの値(測定点Pにおけるシリコーンフィルムの裏面からの高さの値から各測定点におけるシリコーンフィルムの裏面からの高さを差し引いた差分)を凹凸深さのデータとして求めた。なお、このような凹凸深さデータは、E−sweep中のソフトにより自動的に計算して求めることが可能であり、このような自動的に計算して求められた値を凹凸深さのデータとして利用できる。こうして得た各測定点の凹凸深さのデータに基づいて凹凸深さの標準偏差(σ)を計算した。実施例1、比較例1の試料の凹凸深さの標準偏差はそれぞれ、15nm、25nmであった。実施例2、比較例2の試料の凹凸深さの標準偏差はそれぞれ、10nm、30nmであった。
以上の解析結果から、実施例1、2の試料は、比較例1、2の試料と比べて凹凸ピッチのばらつき及び凹凸深さの標準偏差(ばらつき)が小さいことがわかった。比較例1、2では、収縮方向を制限せずにシリコーンフィルムを収縮させたため、形成される凹凸(皺)が深い(又は浅い)部分及び/または凹凸ピッチが大きい(又は小さい)部分が局所的に形成されていた。一方、実施例1、2では、収縮方向以外の方向に張力を付与しながら、収縮方向を順次変えながら基材を収縮させたため、局所的に凹凸が深く(または浅く)なったり、凹凸ピッチが大きく(小さく)なったりすることがなく、それゆえに凹凸ピッチ及び凹凸深さのばらつきの小さい凹凸パターンが形成されたと考えられる。
以上、本発明を実施形態及び変形形態により説明してきたが、本発明の製造方法により製造される凹凸パターンを有する部材は上記実施形態及び変形形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で適宜改変することができる。例えば、本発明の製造方法により製造される凹凸パターンを有する部材は、光学素子に用いられる光学基板の製造以外の用途にも用いることができる。例えば、光反射部材、光散乱部材、絶縁部材、電極パターン部材、導電部材、防曇部材、断熱部材、防汚部材、光導波部材、誘電部材、無反射部材、低反射部材、偏光機能部材、光回折部材、親水部材、撥水部材等の種々の機能を有する部材の製造に用いることができる。