JP2016057163A - 鋼材の水素脆化の特性評価方法 - Google Patents

鋼材の水素脆化の特性評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼材の水素脆化特性評価方法において、測定データの精度を向上させるために定荷重、定水素量の条件で試験を行い、かつ少ない試験回数で水素脆化特性を評価することを課題とする。
【解決手段】鋼材に変形応力を負荷しない状態で、電流発生手段により少なくとも鋼材中の水素量が一定になるまで電気化学的に水素チャージを行った後、水素チャージを続けながら定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持し、破断しなかった場合は、以後、引張強度を増加させるかまたは鋼材中の水素量を増加させて一定時間保持する工程を、破断するまで順次行うことで破断応力を測定する。
【選択図】図2

Description

本発明は、少ない試験回数で高精度な評価が可能な水素脆化特性評価方法に関する。
近年、鋼材の高強度化が進められている。例えば、自動車用鋼板の分野では、環境問題への対応のため炭酸ガス排出低減や燃費低減を目的に自動車の軽量化が進められ、一方、衝突安全性向上に対する要求は高くなっている。自動車の軽量化や衝突安全性向上のためには鋼材の高強度化が有効な手段であり、近年ではバンパーやドアインパクトビームなどの補強材、シートレールなどの用途に引張強度を1180MPa以上に高めた超高強度鋼板が適用されつつある。しかし、一般に鋼材を高強度化すると、切欠き感受性が高まり環境の悪影響を受けやすくなる。特に腐食環境下では表面に腐食ピットが形成されると、これが応力集中源となり、更に腐食反応の進行に伴って発生する水素により水素脆化による割れ、いわゆる遅れ破壊が発生する。遅れ破壊は、薄鋼板よりも前から高強度化が進められているボルトやPC鋼棒などの条鋼部材や、多量の水素が侵入するサワー環境などで使用される油井管やラインパイプなどでは古くから注目されている。そのため、従来から、条鋼、鋼管及び厚鋼板を供試材とする、様々の水素脆化特性評価方法が提案されている。薄鋼板においても、高強度化に伴い水素脆化特性への関心は高まっており、特に鋼材固有の水素脆化特性である、特定の応力を負荷したときにその応力で破断に至る最小の拡散性水素量、すなわち限界拡散性水素量を測定することで薄鋼板の水素脆化特性を評価する需要が高まっている。
鋼材における水素脆性の評価方法について、例えば、薄鋼板をU字状に曲げて、水素を電解によって侵入させながら、破断するまでの時間を測定する水素脆化の評価方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。この方法は、実部品を模擬して曲げ加工による応力を負荷したものであるが、変形が単純でないため、破断発生における限界応力や限界水素量に関する定量的な考察が困難であった。
これに対して、鋼材に単純な引張応力を負荷して水素脆化を評価する方法が提案されている。1つは定荷重の条件で水素量を増加させていくことで試験片を破断させる方法である(例えば、特許文献3、4)。または、一定水素の条件で荷重を増加させていくことで試験片を破断させる方法である(例えば、非特許文献1)。
これらの方法は、いくつかの鋼種について水素脆化特性の相対比較をするだけであれば、以下のように簡易に評価することができる。例えば、水素量を段階的に増加させていく方法では、破断するまでに鋼中の水素を増加させるために変化させたパラメータ(電流値、促進剤の濃度など)が大きいほど水素脆化特性に優れた材料であると判断できる。また荷重を増加させていく方法では、破断した応力、破断までに有した試験時間が大きいほど水素脆化特性に優れた材料と判断できる。
しかし、これらの方法では、特定の環境で、その部材で水素脆化による破壊の危険性があるかについての定量的な評価をすることが困難であった。つまり、雰囲気から鋼材へ特定量の水素侵入が予測される環境において、特定の荷重が負荷される部材に対象鋼材を用いた場合に、対象鋼材が水素脆化による破壊に耐えられるか、耐えられるとすれば、水素量または応力としてどれくらいの余裕度があるかについての情報を得ることはできない。
また、上記の方法において試験後のサンプルを分析し鋼中の水素量を得たとしても、実用性能との不一致が見られることがあり、評価精度の向上が望まれている。
これらに対し、一定水素、一定荷重の条件で試験片を破断させる方法が提案されている(例えば、特許文献5、6)。これは鋼材に事前に水素チャージを行った後に鋼材中に水素を封入するためにめっき処理を施し、定荷重試験を行う方法であり、非常に精度が良い。ただし、この方法は試験片にめっきを施す工程が作業効率を低下させるほかに、限界拡散性水素量を決定するために多くの試験回数が必要であるという課題がある。
このように、水素脆化特性を高精度かつ少ない試験回数で評価可能な方法はこれまで提案されていない。
特開平7−146225号公報 特開2005−134152号公報 特開2009−69004号公報 特開2013−124998号公報 特開2007−262557号公報 特開2009−69007号公報
漆原亘, 湯瀬文雄, 中山武典 , 並村裕一, 茨木信彦、神戸製鋼技報、Vol.52、No3
本発明は、鋼材の水素脆化特性評価方法において、測定データの精度を向上させるために定荷重、定水素量の条件で試験を行い、かつ少ない試験回数で水素脆化特性を評価することを課題とする。
本発明者らは上記の問題を解決するため、一定荷重、一定水素量の条件で、かつ少ない試験回数で評価が可能な鋼材の水素脆化特性評価方法について検討した。
まず本発明者らは従来法(特許文献3)に従い水素脆化特性の評価を検討した(検討1)。この方法は荷重の負荷と同時に鋼材に水素チャージを開始し、水素チャージを継続した状態で鋼材の破断応力を測定するものであるが、この方法による水素脆化特性の評価結果はばらつきが大きく、また暴露試験などによる実環境での水素脆化割れの発生とも相関が低かった。
続いて特許文献5の方法に従い水素脆化特性の評価を行った(検討2)。この方法は鋼材に事前に水素チャージを行った後に鋼材中に水素を封入するためにめっき処理を施し、定荷重試験を行うものである。この方法による評価結果はばらつきが小さく、精度の高いものであったが、一つの鋼種で応力と限界拡散性水素量の関係を明確にするためには多くの試験数が必要であり、さらに各々の試験において材料にめっき処理を施す必要があることから試験効率も低く非常に長時間の試験時間を要した。
図1は特許文献5の方法を用いて、ある負荷応力での材料の限界拡散性水素量を測定した例で、ある応力を加えたとき、試験片が破断するまでの時間とそのときの鋼中の拡散性水素量を示している。→(図1中の右向きの矢印)は600秒以上応力を負荷しても破断が起きなかったことを示す。この結果から、この材料の、この応力での限界拡散性水素量は0.3ppmであることが分かるが、9個の試験片を準備した上で9回の試験が必要になる。
本発明者らはこの検討2において、荷重の負荷開始から破断に至るまでにある程度の時間を有することに着目した。荷重の負荷中、試験片中の水素量や負荷重は変化していないことから、この荷重負荷から破断までの時間は鋼中の水素が応力集中箇所に拡散するまでの時間と応力集中箇所に集まった水素が鋼板を破断に至らせるまでの時間の和であると考えられる。後者の時間が何に起因するものかは明らかではないが、水素脆化割れのメカニズムとして、水素を原因として材料中に何らかの損傷(たとえば空孔性の欠陥)が増加し、ある損傷量に至ると材料が破断する現象であると仮定すると、この時間は水素が材料中の損傷を増加させている時間と捉えることができる。このことから本発明者らは、検討1での荷重の負荷と同時に鋼材に水素チャージを開始し水素チャージを継続した状態で鋼材の破断応力を測定する方法や、非特許文献1のような一定水素の条件で荷重を増加させていくことで試験片を破断させる方法において評価結果にばらつきを生じる理由は、試験中に水素量や応力が増加する試験方法では、本来破断するはずの水素量や応力に達してからも破断するまでの間に水素量や応力が増加を続けるため、破断応力やそのときの水素量を高めに評価している可能性があると結論づけた。この知見をもとにして、本発明者らは高精度で、また評価作業の簡易化と短時間化のため少ない試験数で水素脆化特性を評価可能な方法について検討を進めた。
まず、本発明者らは鋼材に一定の電流値で水素チャージを続けるとある時間後に鋼中に侵入する水素量と鋼中から放出される水素量が等しくなり、鋼中の水素量が一定に保たれる現象に着目した。図2この現象の例を示す。図2は引張強度420MPa、板厚1.5mmの材料について、塩化ナトリウムの濃度を3mass%とした水溶液(電解液)に、水素侵入促進剤としてチオシアン酸アンモニウムを1g/l加えた20℃の溶液中で水素チャージを行ったときのチャージ時間と鋼材中の拡散性水素量の関係を示す。水素チャージの電流密度は0.05mA/cm2、電圧は1.2Vである。鋼材中の拡散性水素量はチャージ時間の増加に伴って増加するが、ある時間以上チャージを行うと時間によらずほぼ一定になることがわかる。図2の例では水素量が一定になるまでの時間は26分でありそのときの鋼材中の拡散性水素量は0.41ppmである。本発明者らはこの現象を応用し、無負荷の状態で鋼中の水素量が一定になるまで水素チャージを行った後に水素チャージを続けながら荷重を負荷することで、水素量を一定に保ったまま試験を行うことが可能であると考えた。ただし、このとき、単に一定の荷重を負荷するだけの試験方法を採用してしまうと、検討2と同様に多くの試験数が必要になってしまう。荷重の負荷方法を低ひずみ速度の引張法にすると定荷重の条件で試験ができなくなってしまう。
そこで、材料に一定の荷重を負荷し、一定時間を過ぎても破断に至らないことを確認した後に、荷重をわずかに増加させた上でさらに一定時間内での破断確認を、材料が破断に至るまで繰り返すことで、一本の試験片で破断応力と破断した時の水素量の関係を精密に測定できることを明らかにした。つまり、破断に至るまでに試験片に与えた低い荷重での負荷は、材料の水素脆化特性に関する限界水素量や限界応力には、ほとんど影響を及ぼさないことを明らかにした。
さらに、上記の方法では水素チャージ量を一定とした状態で段階的に応力を増加させていくことで試験片が破断に至る応力を見出していたが、同様の原理により、負荷応力を一定とした状態で段階的に電解液濃度を増加させるか、または段階的に電流密度を増加させていくことで、鋼材中の水素量を段階的に増加させ試験片破断時の試験片中の拡散性水素量を測定する方法でも水素脆性を精度良く評価することができることを確認した。
また、非特許文献1などの試験法においては、荷重を連続的に変化させる必要があるため駆動力を有した引張試験機が必須であるが、当試験法においては、荷重を段階的に変化させればよいため、重りとてこを使った試験機を用いることができ、引張試験機を用いるよりも比較的安価に試験を行える。あるいは、荷重を一定とし、電解液濃度または電流密度を段階的に増加させていけばよいため、この場合も、重りとてこを使った試験機を用いることができ、引張試験機を用いるよりも比較的安価に試験を行える。
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)
電解液を保持する電解槽と、鋼材に負荷する変形応力を発生する定荷重発生手段と、鋼材に水素チャージを行うための電流を発生する電流発生手段からなる実験装置を用いて、定荷重発生手段に設置した鋼材に変形応力を負荷しない状態で、電解液中で電流発生手段により少なくとも鋼材中の水素量が一定になるまで電気化学的に水素チャージを行った後、水素チャージを続けながら定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持し、破断しなかった場合は、以後、さらに変形応力を増加させて一定時間保持する工程を、破断するまで順次行うことを特徴とする水素脆化特性評価方法。
(2)
電解液を保持する電解槽と、鋼材に負荷する変形応力を発生する定荷重発生手段と、鋼材に水素チャージを行うための電流を発生する電流発生手段からなる実験装置を用いて、定荷重発生手段に設置した鋼材に変形応力を負荷しない状態で、電解液中で電流発生手段により少なくとも鋼材中の水素量が一定になるまで電気化学的に水素チャージを行った後、水素チャージを続けながら定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持し、破断しなかった場合は、以後、さらに鋼材中の水素量を上昇させて定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持する工程を、破断するまで順次行うことを特徴とする水素脆化特性評価方法。
(3)
電解液中の水素侵入促進剤の濃度を増加させることで、鋼材中の水素量を上昇させることを特徴とする(2)に記載の水素脆化特性評価方法。
(4)
電解液中で鋼材に与える電流密度を増加させることで、鋼材中の水素量を上昇させることを特徴とする(2)に記載の水素脆化特性評価方法。
(5)
応力を付加した材料の破断有無の判定を行う時間を10分以上とすることを特徴とする(1)から(4)のいずれか1項に記載の水素脆化特性評価方法。
(6)
定荷重発生手段として、てこと重りを用いることを特徴とする(1)から(5)のいずれか1項に記載の水素脆化特性評価方法。
(7)
破断後の鋼材中の水素量を測定することを特徴とする(1)から(6)のいずれか1項に記載の水素脆化特性評価方法。
本発明によれば、鋼材の水素脆化特性の高精度の評価が可能となる。また、本発明を、本発明と同様に高精度な評価が可能な方法(例えば特許文献5、6)と比較すると、限界拡散性水素量を決定するために必要な試験数が5〜10回程度から1回に大幅に減少する。このように精度よくかつ簡易に鋼材の水素脆性を評価できることは今後の高張力鋼の開発を著しく加速させ、産業上の貢献は極めて顕著である。
公知技術(特許文献5)での限界拡散性水素量の求め方を示すグラフである。 水素チャージ時間と水素量の関係を示すグラフである。 試験片形状を示す図である。
本発明において使用される電解液は特に制限はなく、試験片(鋼材)を陰極として電流を流したときに試験片表面で水素が発生するもの、例えば塩化ナトリウム、塩化銅、塩化水素、水酸化ナトリウムなどの電解質の水溶液を適用できる。濃度も特に限定されるものではないが、一般的な濃度は塩化ナトリウムを用いる場合であれば0.5〜10mass%程度であり、本発明で評価する鋼材の水素脆化の評価においては、1〜5mass%程度とすれば良い。これらの条件設定は当業者においては困難なものではなく、一般的に知られている水素チャージに関する公知技術を適用すれば良い程度のものである。
電解液のpHが3未満であると試験片表面での腐食が進行することがある。この場合、水素脆化の評価の精度に影響を及ぼす可能性がある。一方、電解液のpHは、7を超えると水素チャージ速度が遅くなり、評価の精度が低下することがある。そのため、水素チャージを行う際の電解液のpHは3〜7とすることが好ましい。
さらに、水素侵入促進剤として知られている、周期表14〜16族の元素を含む化合物や,CN−(cyanide ion)、CNS(rhodanide ion)、I(iodide ion)のようなアニオン、CS、CO、CON(urea)、CSN(thiourea)など、特に、NaS、Ca,As,NaAsO,チオシアン酸アンモニウムを添加することは、水素チャージの時間的な短縮や水素侵入量の調整による試験効率の向上に効果的である。
また、試験片(鋼材)の形状についても特に制限がないが、ばらつきを低減させる目的で平行部に切り欠きaを有した試験片を用いることができる。図3に薄鋼板の試験を行うときの代表的な試験片の形状を示す。
上記の試験片を定荷重発生手段と連結する。このとき、連結方法は特に制限がないが支持ピンを介する方法や定荷重発生手段の有するチャックを用いる方法が挙げられる。支持ピンを介する方法を用いるときは、支持ピンは試験荷重を十分に支えることができる材質ものを選ぶ必要があり、例えば、部分安定化ジルコニア又はサイアロンが挙げられる。試験片から定荷重発生装置に電流が流れないよう、試験片と定荷重発生装置は絶縁することが好ましい。
続いて試験片を電解槽中の電解液の中に保持する。このとき、試験片と定荷重発生手段の連結部は電解液中に浸漬していてもかまわないし、電解液外に出ていてもかまわない。
試験片を陰極とし、試験片のまわりに陽極の電極(例えば白金線や白金−ロジウム合金線)を設置し、電流発生手段により定電流を発生させて水素チャージを行う。陽極は試験片に均一に水素チャージを行うため、スパイラル状にしたものが好ましい。スパイラル状以外には、網状、複数の棒状、電解槽の高さ方向に複数配置された円状としても良い。
水素チャージはまず試験片に荷重を負荷しない状態で行い、試験片中の水素がおおよそ一定になるまでチャージを続ける必要がある。このとき、水素チャージの電流密度は、0.01mA/cm2未満であるとチャージされる水素量が非常に小さくなり、鋼材が水素脆化をほとんど起こさなくなるため、0.01mA/cm以上であることが望ましい。鋼材中の水素が一定になるまでの時間は水素の拡散係数と試験片厚さから予測が可能であり、本発明者らが上記の計算を行った結果、板厚が1.5mm以内の範囲ではおおよそ30分以内のチャージにより、水素の量が一定になることが明らかになった。そこで、板厚が1.5mm以下の材料では30分以上チャージをすれば十分である。板厚が1.5mmより大きく2.5mm以下の場合は1時間以上、板厚が2.5mmより大きく5mm以下の場合は2時間以上のチャージ、5mmより大きく10mm以下の場合は4時間以上のチャージを行うものとする。
なお、本明細書および請求項で「鋼材中の水素量が一定」という記述を用いているが、確かに理論的には板厚とチャージ条件によって鋼中水素量は一定値になるが、実用的な実験ではほぼ水素が一定になってからも、鋼材や雰囲気との接触によるpHの変化など溶液の経時変化などにより水素量は緩やかに変動する。このため、本発明の規定における「水素量が一定」や「定水素量」という表現は、あくまでも計測される限界拡散性水素量の精度に対して「一定」とみなすことができるという意味で用いている表現である。
水素が一定に保たれるまでチャージを行った後に、荷重を負荷する。最初に負荷する荷重は材料が破断しない範囲である必要がある。引張強度の0.9倍を超える荷重を負荷すると水素脆化による破断が発生する確率が非常に高くなるため、最大の荷重を引張強度の0.9倍以下とすることが望ましい。水素脆化による破断が起きる荷重におおよその目安がついている場合は、その荷重より小さい荷重を負荷する。水素脆化による破断が起きる荷重に全く目安がつかない場合は、より低い荷重から試験を開始することが望ましい。最初の荷重の負荷により試験片の破断が起きた場合は、初期荷重をさらに小さくした再試験を行う必要がある。
ここから荷重を段階的に増加させていく、請求項1に記載の方法を説明する。
最初の荷重の負荷後、一定時間保持する間に破断が生じなかった場合、さらに荷重を増加させ、この増加させた荷重に維持して、一定時間保持する。そして、段階的な荷重増加と一定時間保持を破断に至るまで段階的に繰り返して行い、破断応力を測定する。そして、破断した際の応力と、破断した試験片を分析することで得られる拡散性水素量により水素脆化特性を評価する。
ここで、各荷重下での保持時間の下限は0でなければ特に限定するものではないが、あまり短いと連続的な応力増加試験と同様に試験結果の精度を低下させる可能性があるため、実用的には1分以上とすることが望ましい。発明者らが検討2において定荷重、定水素量の条件で様々な材料に試験を行った結果、荷重を負荷してから破断に至るまでにかかった時間は、10分以内であった。この時間は、鋼材に破断に至る水素量と荷重が負荷されたとき鋼中の水素が応力集中箇所に拡散するまでの時間と応力集中箇所に集まった水素が鋼板を破断に至らせるまでの時間の和の最大値であると考えられる。このことより、荷重を増加させるまでの時間は10分以上とする。水素量が一定の場合、特定の荷重でこの期間内に脆性破断が起きないのであれば、それ以上どれだけ長時間保持しても脆性破断は起きないため、保持時間に上限はないが、試験の効率を考慮すると24時間以下が望ましい。
一定時間の保持で破断しなかった時に増加させる荷重は、小さいほど試験精度が高くなるが試験効率は低下するため、引張強度の0.01〜0.5倍の範囲とすることが望ましい。荷重の増加を引張強度の0.01倍以下とすることは試験の効率を大幅に低下させる。荷重を引張強度の0.3倍以上増加させたときに試験片が破断に至った場合は、精度を向上させるため、増加させる荷重を引張強度の0.1倍以下として再試験をすることが望ましい。
続いて鋼材への水素侵入量を段階的に増加させていく、請求項2に記載の方法を説明する。なお請求項2に記載の方法においても、先ず荷重を負荷しない状態で試験片中の水素がおおよそ一定になるまでチャージを行う。このとき、水素チャージの電流密度は、0.01mA/cm2未満であるとチャージされる水素量が非常に小さくなり、鋼材が水素脆化をほとんど起こさなくなるため、0.01mA/cm以上であることが望ましい。上述したように鋼材中の水素が一定になるまでの時間は水素の拡散係数と試験片厚さから予測が可能である。そして、水素が一定に保たれるまでチャージを行った後に、荷重を負荷する。負荷する荷重は引張強度の0.9倍以下とすることが望ましい。また以下では、請求項2に記載の方法の一例として、請求項3に相当する水素侵入促進剤の濃度を増加させることで水素侵入量を増加させる手順と、請求項4に相当する電流密度を増加させることで水素侵入量を増加させる手順で説明するが、これはあくまでも水素侵入量を増加させる方法の一つとして記述するものである。当然ではあるが、水素侵入量は、水素侵入促進剤の濃度や電流密度の他にも、水素侵入促進剤の種類や、電解質の種類や濃度、温度、pH、さらにはチャージ電圧や電流などで調整することも可能である。本発明の効果を得るために、これらの手段が特別なものである必要はなく、一般的に知られているものが適用できる。本発明においては、特に水素侵入量を事前に狙っている値に精度良く調整する必要はなく、試験後のサンプルの分析により実績値が得られれば十分であり、その実績値こそが水素脆化特性評価において重要な値である。このため、上記の様々な因子が水素侵入量に対して複雑に影響するようなものであったとしても、これらを調整して水素侵入量を変化させ、本発明を実施できる。もちろん、水素侵入量に対する上記の様々な因子の影響は、既に十分に知られたものであり、一般的な知見を用いて精度良く制御することは当業者にとってさほど困難なことではない。
また、本明細書では例えば溶液温度やチャージ電圧などについて特に適用すべき範囲が記述されていない制御因子もある。これは、これらの適用範囲はそれ以外の制御因子により適切な範囲が変動するため、特定範囲で限定することの技術的意義が小さいことによるものである。この事情は、適用範囲を記述している制御因子についても同様であり、好ましいものとして記述された範囲は、あくまでもそれ以外の条件が特定の範囲にある状況で好ましく適用できるものである。本発明の本質は、これらの各因子を特定の範囲で制御することではなく、これらの多くの因子により鋼材への水素侵入量を適切に制御することであり、侵入量は実績で管理し、また侵入量の制御自体も公知技術により実用的に利用されているものを実施すればよいものである。
さらに当然ではあるが、水素侵入量を変化させるために複数の因子を同時に変化させることは可能である。しかし、変化させる因子は1つにすることが実験手法として単純であり好ましいことは言うまでもない。特に以下に説明する水素侵入促進剤の濃度を変化させる方法と電流密度を変化させる方法は、その制御範囲も広く精緻な制御も容易であるため、本発明で適用するに好ましいものである。
以下では請求項3に相当する水素侵入促進剤の濃度を増加させることで水素侵入量を増加させる手順を説明する。ここでは水素侵入促進剤としてチオシアン酸アンモニウムを用いているが、これに限定されないことは上述の通りである。以下の説明は、濃度3mass%の塩化ナトリウムを電解質とした20℃の水溶液において、電流密度0.05mAで水素チャージを行う場合のものである。
最初の荷重の負荷後、10分間以上保持し破断が生じなかった場合、チオシアン酸アンモニウム濃度を増加させる。なお、請求項2(請求項3)に記載の方法の場合は、荷重は一定に維持して良い。上述のように10分より短い時間でチオシアン酸アンモニウム濃度を増加させることは試験結果の精度を低下させる可能性があるため、最初の荷重の負荷後、チオシアン酸アンモニウム濃度を増加させるまでの時間は10分間以上必要である。最初の荷重の負荷後、チオシアン酸アンモニウム濃度を増加させるまでの時間に上限はないが、試験の効率を向上させるため、24時間以下が望ましい。チオシアン酸アンモニウム濃度を増加させるとき、一度に増加させるチオシアン酸アンモニウム濃度は0.1g/l以上10g/l以下とする。チオシアン酸アンモニウム濃度の増加を0.1g/l以上とすることは試験の効率を大幅に低下させることから0.1g/l以上とする。一度に大きくチオシアン酸アンモニウム濃度を増加させることは試験の精度を低下させる可能性があるため、10g/l以下を最大の増加量とする。
そして、チオシアン酸アンモニウム濃度を0.1g/l以上10g/l以下増加させた状態で、まず鋼材中の水素量が一定に保たれるまでチャージを行い、さらに荷重を負荷した状態を10分間以上保持する。このとき負荷する荷重は最初に負荷した荷重と同じで良い。この場合も、水素量が一定に保たれるまでチャージを行ってから荷重を負荷した状態を保持する時間が10分より短いと試験結果の精度を低下させる可能性がある。また、このように水素量が一定に保たれるまでチャージを行ってから荷重を負荷した状態を保持する時間の上限はないが、試験の効率を向上させるため、24時間以下が望ましい。このように水素量が一定に保たれるまでチャージを行ってから荷重を負荷した状態を保持して10分間以上の時間を経過しても破断しなかった場合は、さらにチオシアン酸アンモニウム濃度を0.1g/l以上10g/l以下増加させて鋼材中の水素量が一定水素が一定に保たれるまでチャージを行い、水素量一定で荷重を負荷した状態を10分間以上保持する工程を行う。このように、チオシアン酸アンモニウム濃度を0.1g/l以上10g/l以下増加して荷重を負荷した状態を保持する工程を、破断に至るまで行い、破断に至ったら、鋼材中の拡散性水素量を測定する。
続いて電流密度を段階的に増加させていく、請求項4に記載の方法を説明する。以下の説明は、濃度3mass%の塩化ナトリウムを電解質とした20℃の水溶液にチオシアン酸アンモニウムを3g/l添加した電解液で水素チャージを行う場合のものである。
最初の荷重の負荷後、10分間以上保持し破断が生じなかった場合、電流密度を増加させる。なお、請求項4に記載の方法の場合も、荷重は一定に維持して良い。上述のように10分より短い時間で電流密度を増加させることは試験結果の精度を低下させる可能性があるため、最初の荷重の負荷後、電流密度を増加させるまでの時間は10分以上必要である。最初の荷重の負荷後、電流密度を増加させるまでの時間に上限はないが、試験の効率を向上させるため、24時間以下が望ましい。電流密度を増加させるとき、一度に増加させる電流密度は0.01mA/cm2以上0.5mA/cm2以下とする。電流密度の増加を0.01mA/cm2以下とすることは試験の効率を大幅に低下させることから0.01mA/cm2とする。一度に大きくチオシアン酸アンモニウム濃度を増加させることは試験の精度を低下させる可能性があるため、0.5mA/cm2以下を最大の増加量とする。
そして、電流密度を0.01mA/cm2以上0.5mA/cm2以下増加させた状態で、まず鋼材中の水素量が一定水素が一定に保たれるまでチャージを行い、さらに荷重を負荷した状態を10分間以上保持する。なお、このとき負荷する荷重は最初に負荷した荷重と同じで良い。この場合も、水素量が一定に保たれるまでチャージを行ってから荷重を負荷した状態を保持する時間が10分より短いと試験結果の精度を低下させる可能性がある。また、このように水素量が一定に保たれるまでチャージを行ってから荷重を負荷した状態を保持する時間の上限はないが、試験の効率を向上させるため、24時間以下が望ましい。このように水素量が一定に保たれるまでチャージを行ってから荷重を負荷した状態を保持して10分間以上経過しても破断しなかった場合は、さらに電流密度を0.01mA/cm2以上0.5mA/cm2以下増加させて鋼材中の水素量が一定水素が一定に保たれるまでチャージを行い、水素量一定で荷重を負荷した状態を10分間以上保持する工程を行う。このように、電流密度を0.01mA/cm2以上0.5mA/cm2以下増加して荷重を負荷した状態を保持する工程を、破断に至るまで行い、破断に至ったら、鋼材中の拡散性水素量を測定する。
本発明記載のいずれも方法においても、破断後の鋼材中の拡散性水素量を昇温脱離分析法により測定することができる。このとき、鋼材中の水素が空気中に放出することを防ぐため、試験片の破断から測定するまでの時間は1時間以内であることが望ましい。さらに望ましくは30分以内である。破断後すぐに測定することが難しい場合は、液体窒素中に浸漬することで鋼材中の水素の放出を防いだまま、試験片を保存することができる。そして、測定された水素量と応力に基づいて限界拡散性水素量の関係を求めることができる。
本発明の試験法は材料の限界拡散性水素量を正確に測定するための方法であり、請求項1、2どちらの方法においても、破断した試験片の拡散性水素量を測定し、この値で水素脆化特性を評価することができる。請求項1の方法では、(拡散性)水素量を一定とした場合の限界応力が求められ、請求項2の方法では応力を一定とした場合の限界(拡散性)水素量が求められる。どちらの場合にも、特定応力下での限界拡散性水素量が決定される。
特定の応力におけるいくつかの材料の限界拡散性水素量を比較し、より限界拡散性水素量が大きい材料が水素脆化特性に優れた鋼種であると判断することができる。また、その材料に環境中で侵入する水素量(環境中侵入水素量)を暴露試験やその他の実環境を模擬した加速試験により測定し、環境中侵入水素量より限界拡散性水素量がよりどれだけ大きいかを安全性の指標として用いることもできる。また、特定の環境中侵入水素量のもとで、特定の部材に付加される応力を検討することで、対象材料への負荷応力の余裕度を評価することも可能である。このような評価を行うためにも、本発明により、限界拡散性水素量を正確に測定することは重要である。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、前述のように本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
まず、予備試験として水素のチャージ条件と鋼材中の水素量が一定になるまでの時間、またはそのときの鋼材中の拡散性水素量の関係を調査した。試験片の形状は図3においてD=10mm、d=5mmのものを用いた。この試験片を部分安定化ジルコニアからなる支持ピンを介して定荷重発生手段に連結された冶具に取り付けた。電解槽には、3%の塩化ナトリウム水溶液を満たし、さらに水素侵入促進剤として0g〜3g/lのチオシアン酸アンモニウムを加えた。電解液の温度は20℃とした。このとき、pHはチオシアン酸アンモニウムの量に応じて、約5.5〜7.0の値をとる。白金線からなる電線と電極をポテンシオスタットに接続し、0.05mA/cm2の定電流を印加した。2〜310分間水素チャージを行った後、試験片を回収して昇温脱離分析法で水素量の測定を行った。鋼材を100℃/hの昇温速度で加熱し、室温から300℃までに鋼材から放出される水素量を拡散性水素量と定義した。水素量の測定位置は図の試験片の切り欠きaから両幅10mmまでの位置とした。
この試験では水素チャージにより、鋼材中の水素が一定になるまでの時間とそのときの鋼材中の拡散性水素量を調べることが目的である。鋼材中の水素量が一定になるまでの時間は板厚と鋼材中の水素の拡散係数によって決まると考えられる。そこで、板厚を0.5mm〜8mmの範囲で変化させて鋼材中の水素量が一定になるまでの時間への影響を調査した。また、水素の拡散係数に関しても、同様の検討が必要であるが鋼材中の水素の拡散係数を全ての鋼種について実測することは困難である。そこで、本試験では、引張強度1500MPa以上の材料を水素の拡散係数が小さい材料として、引張強度500MPa以下の材料を水素の拡散係数が大きい材料とし、それぞれの材料で鋼材中の水素が一定になるまでの時間を調査した。引張強度が高い材料ほど水素の拡散係数が小さいと判断できる理由は、引張強度の高い材料ほど鋼材中に多くの合金元素を固溶状態や析出物として含んでおり、その応力場が水素の拡散を妨げるためである。また、チオシアン酸アンモニウムの量を0〜3g/lの範囲で変化させた。
結果を表1に示す。表中の鋼中拡散性水素量とは、水素量が一定になったときの拡散性水素量を示す。試験No.a−1〜a−5の結果からチオシアン酸アンモニウム量を変化させることで鋼材中の拡散性水素量を変化させることができる。また、このとき、水素量が一定になるまでの時間は大きく変化しない。試験b〜pから、水素量が一定になるまでの時間は板厚が大きいほど長くなり、同じ板厚で比べると材料強度が大きい(水素の拡散係数が小さい)ほど長く、材料強度が小さい(水素の拡散係数が大きい)ほど短くなる。この予備試験の結果、水素量が一定になるまでの時間がもっとも短い条件でも水素量が一定になるまでの時間は10分間かかることから、水素量一定の条件で水素脆化の評価試験を行うためには、荷重を負荷する前に最低でも10分の水素チャージを行う必要があることがわかる。
続いて、上記の予備試験と同様の試験片を用い、同様の装置を使用して、一定時間水素チャージを行ったあとに荷重を負荷する実験を行った。電解槽には、3%の塩化ナトリウム水溶液を満たし、さらに0g〜3g/lのチオシアン酸アンモニウムを加えた。定電流の大きさは0.05mA/cm2とした。荷重負荷前のチャージ時間は0〜600分とした。一定時間のチャージを行った後、最初に引張強度の0.1〜0.95倍の応力を負荷し、2分〜60分の時間保持した後、破断に至らなかった場合は、試験片中の水素量は一定に維持したまま、さらに引張強度の0.005倍〜0.6倍の荷重を増加して負荷するか、荷重負荷は一定に維持したまま、さらにチオシアン酸アンモニウム濃度を0.1g/l以上10g/l以下増加させるか、電流密度を0.01mA/cm2以上1mA/cm2以下増加させて、鋼材中の水素量が一定水素が一定に保たれるまでチャージを行い、さらに荷重を負荷した状態を保持した。荷重はてことおもりからなる定荷重発生装置を使用して負荷した。破断後は試験片を30分以内に回収し、昇温脱離分析法で水素量の測定を行った。拡散性水素量の定義や測定位置は上記の予備試験と同様である。
また、比較として、特許文献6の方法で同鋼種の破断応力と限界拡散性水素量を調査した。上記したように、特許文献6は鋼板の破断応力と限界拡散性水素量の関係を非常に精度よく調査可能な方法であるが、一方、本試験と比較し、試験効率が大きく劣る方法である。本試験において、本発明の効果が得られることの定義は、特許文献6で得られた結果と破断応力、限界拡散性水素量の値が同等(誤差5%以内)であり、なおかつ、より簡易に結果が得られることとする。ここで、本発明により試験が簡易になるとは具体的には、めっき塗布の作業工程が不要であること、試験に要する全体の時間が減ること、破断応力と限界拡散性水素量の関係を得るために必要な試験片の本数が減ることなどが挙げられるが、特に定量化がしやすい試験片の本数について特許文献6の方法と比較する。
表2に結果を示す。ここで、「定荷重」の欄は一定の荷重で試験ができているかどうかを○×で示している。ただし、ここで一定荷重とは試験の開始から終了までの間、終始荷重がかわらないという意味ではなく、各荷重で水素脆化による割れが発生するかどうか判断するまでの間において荷重が変化しないという意味である。「定水素量」の欄は一定の水素量で試験ができているかどうかを○×で示している。同様に、ここで一定水素量とは試験の開始から終了までの間、終始水素量がかわらないという意味ではなく、各水素量で水素脆化による割れが発生するかどうか判断するまでの間において水素量が変化しないという意味である。特許文献6との比較の欄は破断応力や破断時の鋼中拡散性水素量が本発明と特許文献6の方法による結果と同等(誤差が5%以内)であるか、過剰であるかを示す。節約できた試験片の本数は「(特許文献6の方法で結果を得るために使用した試験片の本数)−(本発明で結果を得るために使用した試験片の本数)」を示す。表2において試験a-1〜5とi-4,6,9,10,13とa-6,7,10,11,13,14,17,18は本発明の範囲の条件であり、定荷重、定水素の条件で評価ができている。その結果、特許文献6の方法と同等の結果が得られており、非常に精密な評価ができている上、試験片の本数は3〜7本もの節約になっている。表には明記していないが、当然試験に必要な工程も減り、試験全体の時間も大きく減っている。試験i-1〜3は荷重負荷前のチャージ時間が、板厚が1.5mmの鋼材に必要な30分以上に満たないため、評価中に水素量が増加しており、一定水素量での評価となっていない。結果として、本来、水素量が一定になるまでチャージされていればi-4と同じ、引張強度の0.7倍の応力で破断していたはずのところを、引張強度の0.8倍の応力まで破断せずに、破断応力を過剰評価してしまっている。試験i-5は最初に負荷する荷重を引張強度の0.95倍としており、荷重負荷と同時(あるいは実際には荷重が完全に試験片に伝わるきる前)に破断しており、これにより破断荷重を過剰評価してしまっている。試験i-7,8は最初に荷重を負荷してから次の荷重を負荷するまでの時間が2分、8分であり、これは各荷重で試験片が破断しないことを確認するために十分な時間10分よりも短い。その結果、本来であれば試験i-4と同じ、引張強度の0.7倍の応力で破断が起きていたはずであるが、破断の確認を十分に行わないまま次の荷重を負荷していまい、結果として破断応力を引張強度の0.8倍と過剰評価してしまっている。試験i-11は最初に負荷する荷重を引張強度の0.3倍、2回目以降に負荷する荷重を引張強度の0.6倍としている。結果、2回目に荷重を負荷したとき、荷重の負荷と同時(あるいは実際には荷重が完全に試験片に伝わるきる前)に破断しており、破断荷重を過剰評価している。試験i-12は2回目以降に負荷する荷重を引張強度の0.005倍の応力としているため、精度の良い結果を得ているが、試験に非常に長時間を要している。同様に試験a-8,9,15,16は最初の荷重付加から溶液の濃度を変化させるか、または、電流値密度を変化させるまでに十分な時間をおいていないため、その荷重と水素量で試験片が破断するかどうか十分に確認できていないまま水素量が増加しており、一定水素量で試験を行っているとはいえないため、破断時の水素量を過剰評価してしまっている。ちなみに、a-6〜19の試験は板厚0.5mmの試験片で実施しており、水素量が安定するまでの時間として30分、これに水素脆化が停止することを見極めるための時間として10分、合わせて40分の保持を行うことが試験精度確保のために必要な時間となる。試験a-12,19はそれぞれ一度に増加させるチオシアン酸アンモニウムの濃度と電流密度が大きすぎるため、破断時の水素量を過剰評価してしまっている。
Figure 2016057163
Figure 2016057163

Claims (7)

  1. 電解液を保持する電解槽と、鋼材に負荷する変形応力を発生する定荷重発生手段と、鋼材に水素チャージを行うための電流を発生する電流発生手段からなる実験装置を用いて、定荷重発生手段に設置した鋼材に変形応力を負荷しない状態で、電解液中で電流発生手段により少なくとも鋼材中の水素量が一定になるまで電気化学的に水素チャージを行った後、水素チャージを続けながら定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持し、破断しなかった場合は、以後、さらに変形応力を増加させて一定時間保持する工程を、破断するまで順次行うことを特徴とする水素脆化特性評価方法。
  2. 電解液を保持する電解槽と、鋼材に負荷する変形応力を発生する定荷重発生手段と、鋼材に水素チャージを行うための電流を発生する電流発生手段からなる実験装置を用いて、定荷重発生手段に設置した鋼材に変形応力を負荷しない状態で、電解液中で電流発生手段により少なくとも鋼材中の水素量が一定になるまで電気化学的に水素チャージを行った後、水素チャージを続けながら定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持し、破断しなかった場合は、以後、さらに鋼材中の水素量を上昇させて定荷重発生手段により試験材に引張強度未満の変形応力を負荷して一定時間保持する工程を、破断するまで順次行うことを特徴とする水素脆化特性評価方法。
  3. 電解液中の水素侵入促進剤の濃度を増加させることで、鋼材中の水素量を上昇させることを特徴とする請求項2に記載の水素脆化特性評価方法。
  4. 電解液中で鋼材に与える電流密度を増加させることで、鋼材中の水素量を上昇させることを特徴とする請求項2に記載の水素脆化特性評価方法。
  5. 応力を付加した材料の破断有無の判定を行う時間を10分以上とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の水素脆化特性評価方法。
  6. 定荷重発生手段として、てこと重りを用いることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の水素脆化特性評価方法。
  7. 破断後の鋼材中の水素量を測定することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の水素脆化特性評価方法。
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