JP2016028567A - 細胞接着制御方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】新たな細胞接着制御技術を提供する。【解決手段】細胞を低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質培地中で培養することで、器材に前記細胞をインテグリンを介さないで接着させることを特徴とする、細胞の接着方法。また、この細胞接着を阻害する方法。【選択図】図1

Description

本発明は、細胞接着制御方法に関し、詳しくは細胞の器材への接着方法、細胞が器材に接着した複合体及び細胞の接着阻害物質のスクリーニング方法に関する。
我々人類含めすべての多細胞生物は多数の細胞が互いに結合(接着)することにより形成されかつ一個の有機体として機能している。一方で、細胞膜表面は一般に陰性荷電を有しており、単離した細胞同士は自然には結合しないと考えられて来た。この細胞間結合を行うため細胞が互いに結合するメカニズムとして様々な細胞接着機構が明らかにされて来ている。この細胞接着機構は、大まかに分けると、細胞−細胞接着と細胞−基質接着の2つがある。細胞−細胞接着は細胞同士が直接結合するものである。一方、細胞−基質接着では細胞は他の細胞と直接結合せず、基底膜(細胞外マトリックスで形成)などの生体組織を介して別の細胞・組織と結合している。細胞−細胞接着、細胞−基質接着とも細胞表面に特異的な接着リセプターがあり、接着する相手の細胞表面あるいは基質中の細胞外マトリックスをリガンドとして認識して特異的に結合することにより細胞が接着するというメカニズムが提唱されている。例えば細胞−細胞接着のカドヘリン(リガンドもカドヘリン)やセレクチン(リガンドは細胞表面糖蛋白質上の糖鎖)、細胞−基質接着のインテグリン(リガンドはコラーゲンやフィブロネクチン等の細胞外マトリックス)などである(非特許文献1−3)。
この細胞−基質接着は付着細胞の体外培養に利用されている。生体内の細胞を体外で維持増殖させる方法を細胞培養と呼ぶが、動物血清を5〜20v/v%加えた調整塩類溶液(培地)に細胞を懸濁してプラスチックスやガラス製の容器(培養容器)に入れ、培地pH調整のためのCO2濃度と温度を一定に保った培養装置中に保持することが一般的である。細胞培養において、10v/v%程度の血清を含む培地中で培養した時に培養容器に接着する細胞を付着細胞と呼び、接着せず浮遊状態を維持する細胞を浮遊細胞と呼んでいる。細胞培養が開発された当時にはプラスチックス製等の容器への血清添加培地中での付着細胞の接着は良くなく、培養容器表面に合成ポリマーであるポリリジン(poly-lysine)や細胞外マトリックスであるフィブロネクチンをコーティングすることで接着性の改善が図られた(非特許文献4、5)。その後培養容器自体を表面処理する方法、すなわち、ポリスチレン製培養容器に酸素中などでプラズマ放電することで容器表面に親水基を導入する方法、が開発されたことで血清添加培地中での付着細胞の培養容器への接着性が改善された。この処理を施した容器を、細胞培養用処理をした培養容器(tissue culture plate/dish)、あるいは単に細胞培養用容器と呼ぶ。細胞培養において細胞培養用容器に付着細胞が接着する場合には、血清中の(あるいは細胞が自ら分泌する)細胞外マトリックスを介して細胞は培養容器に接着すると考えられている。すなわち、培養容器(器材)に細胞外マトリックスが結合し、その器材に結合した細胞外マトリックスに細胞が細胞表面のインテグリンで結合することにより細胞が器材に接着する、というメカニズムである。培養条件下で多くの付着細胞と容器の結合はRGDペプチドを培養液に添加することで阻害されることが知られているが(非特許文献6)、これは細胞表面のインテグリンと細胞外マトリックスの結合を溶液中のRGDペプチドが阻害するためだと考えられている。一方、血液細胞や精子、白血病由来培養細胞など一部の細胞は浮遊細胞であり、血液中、精液中、あるいは、血清添加培養液中で培養容器に接着しないことが知られている。浮遊細胞では血清中に含まれる細胞外マトリックスに結合出来るインテグリンが発現していない、あるいは、不活性状態にあると考えられている。
非特許文献7は、Figure 1で無血清培地中でJurkat細胞が細胞培養用処理をした培養容器に接着することを示しているが細胞接着の効率は本接着に比べて低く、また、細胞外マトリックスであるフィブロネクチンをコーティングしたプレートには接着する一方、細胞培養用処理をしていない未処理のポリスチレンプレートには接着しないことが示されている。またconclusionの欄でこの接着はインテグリンとプラズマ放電により形成されたプレート表面の親水基の間の結合を介したものであると説明されている。従って、非特許文献7で示されているJurkat細胞の接着は本発明の接着とは異なる種類の接着であり、また、HeLa細胞は無血清培地中で細胞培養用容器に接着しないと記載されている。
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本発明は、新たな細胞接着もしくは細胞接着阻害技術を提供することを主な目的とする。
本発明者は、付着細胞であるか浮遊細胞であるかにかかわらず、血清タンパク質を含まないか血清タンパク質量が少ない培地で細胞を培養すると、様々な器材に細胞が培養温度に非依存的に速やかに接着し、この接着はインテグリン−細胞外マトリクス間の結合を介さない接着であり、血清タンパク質を十分量含む培地中での接着とは接着機構が異なることを見出した。
本発明は、以下の、細胞の接着方法、細胞と器材の複合体、細胞の器材への接着を阻害する物質のスクリーニング方法を提供するものである。
項1. 細胞を低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質培地中で培養することで、器材に前記細胞をインテグリンを介さないで接着させることを特徴とする、細胞の接着方法。
項2. 前記細胞が動物細胞又は微生物である項1に記載の細胞の接着方法。
項3. 前記細胞が10v/v%の血清タンパク質を含む培養液中では培養容器に接着しない浮遊細胞である、項1又は2に記載の細胞の接着方法。
項4. 培地中の血清タンパク質の濃度が1v/v%以下、好ましくは0.5v/v%以下、より好ましくは0.33v/v%以下、特に好ましくは0.1v/v%以下である項1〜3のいずれかに記載の細胞の接着方法。
項5. 前記培地が血清を含まない培地である、項1〜4のいずれかに記載の細胞の接着方法。
項6. RGDペプチド、EDTA、EGTAの添加で接着が阻害されない、項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7. 細胞を4〜37℃で器材に接着させる、項1〜6のいずれかに記載の細胞の接着方法。
項8. 血清の存在下では培養容器に接着しない浮遊細胞と器材の複合体であって、前記器材が有機高分子、ガラス、金属もしくは金属酸化物の表面を有する、複合体。
項9. 前記器材が容器、ビーズもしくは多孔質支持体である項8に記載の複合体。
項10. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の細胞培養液に候補物質を添加して、細胞と器材間のインテグリンを介さない接着に対するこの候補物質の添加による影響を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞の器材へのインテグリンを介さない接着を阻害する物質のスクリーニング方法。
項11. 候補物質を予め器材表面に塗付する、吹き付ける、あるいは、溶液中で吸着させておいた上で、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の細胞培養液中での細胞と器材のインテグリンを介さない接着における候補物質の影響を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞の器材へのインテグリンを介さない接着を阻害する物質のスクリーニング方法。
項12. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の溶液中で器材に接着した細胞の接着維持あるいは脱接着を評価することを特徴とする、溶液に添加することで器材に接着した細胞を除去する物質ないし物理的刺激のスクリーニング方法。
項13. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培養液中での細胞とのインテグリンを介さない接着を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞に接着する器材の選択方法。
項14. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培養液中での細胞とのインテグリンを介さない接着を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞に接着しない器材の選択方法。
本発明によれば、インテグリンを介さない細胞の器材への接着を制御することができる。対象となる細胞は付着細胞でも浮遊細胞でもよく、また、細胞接着の対象となる器材は培養容器でもよくビーズ、シート、多孔体など任意であり、これらの器材と細胞間の接着は血清タンパク質により脱着されるため、DDSを含む種々の用途に応用できる。
浮遊細胞であるヒト急性骨髄製白血病由来株化細胞KG-1の培地中血清の有無による培養容器(ペトリディッシュ)への接着の制御と実験方法及び結果の説明。 他の浮遊細胞株(Jurkat、U-937)および末梢血由来血球細胞の血清無添加培地中での培養容器(ペトリディッシュ)への接着。 KG-1細胞のペトリディッシュへの接着に及ぼすウシ胎児血清(FCS)濃度の影響。細胞を様々な濃度のウシ胎児血清を添加した培養液に懸濁して培養容器への細胞接着阻害効果を見る場合と、培養容器を血清含有液でpre-coatingした後に血清無添加培地に懸濁した細胞を加えてpre-coatingによる接着阻害効果を見る場合の2通りの解析。(a)培地中血清濃度と非接着KG-1細胞数の関連。(b)コーティング液中血清濃度と非接着細胞数の関連。 KG-1細胞の血清無添加培地中でのペトリディッシュへの接着に要する時間の検討。 KG-1細胞-器材接着の血清成分(BSA、γグロブリン)による阻害効果。 細胞接着の対象となる器材の検討。 KG-1細胞-器材接着はRGDペプチドにより阻害されないことを示す実験結果。 KG-1細胞-器材接着はEDTA, EGTAにより阻害されないことを示す実験結果。 (a)付着細胞の細胞−器材接着。血清依存性の従来の接着と血清阻害性の本発明の接着の比較の模式図。 (b)付着細胞の血清非依存性細胞−器材接着を示す実験結果。 HEK293細胞-器材接着のRGDペプチド感受性。従来の細胞接着はRGDペプチドで阻害されるが、血清無添加培地中での接着は付着細胞であるHEK293細胞でも阻害されないことを示す。 希釈による血液細胞の器材への結合。 細胞より小さな器材の細胞への結合。血清無添加培地中での細胞より小さなプラスチックスビーズの細胞への接着。 細胞-器材複合体のin vitro細胞ベースデリバリー。細胞-細胞接着を利用した、細胞-器材複合体の他の種類の細胞への送達。 大腸菌の器材への結合。 無血清培地中での器材への接着がKG-1細胞のEzrin/Radixin/Moesin (ERM)蛋白質C末Thr残基リン酸化状態におよぼす影響。インテグリン−細胞外マトリックス結合を介する細胞接着同様、本発明の細胞−器材接着によってもERM蛋白質C末Thr残基は脱リン酸化され、脱接着によりリン酸化された。本発明の細胞-器材接着が、インテグリン−細胞外マトリックス結合を介する細胞接着と同様の細胞内シグナル伝達を引き起こすことを示す実験結果。
細胞接着としては細胞表面のカドヘリン、セレクチン、インテグリンなどの分子とそのリガンド分子の間の結合を介した接着が提唱されている。付着細胞の器材への接着に関しては血清中の細胞外マトリックスと細胞表面インテグリンの結合を介した細胞接着が提唱されているが、本発明における細胞接着はこれらとは全く違うメカニズムの細胞接着である。
本発明は、血清を含まない、あるいは、低濃度しか含まない培地中に静置すると、細胞は短時間(15分から1時間程度)で器材に結合するという発見に立脚している。従来より知られていた血清添加培地中での培養容器への細胞接着とは異なり、本発明の細胞接着は細胞外マトリックス等生物由来のリガンドを必要としない。血清由来あるいは自己分泌性細胞外マトリックスを必要としないので、本発明の細胞−器材接着はインテグリン−細胞外マトリックス結合を阻害するRGDペプチド(最終濃度20〜50μM)の培地への添加で阻害されず、また2価カチオンのキレート剤でカドヘリン・インテグリンの活性を阻害するEDTAあるいは EGTA(最終濃度5〜10 mM)の添加によっても阻害されない。接着に血清を必要とせず、また、RGDペプチドやEDTAの培地への添加で阻害されないので、本発明の細胞−器材接着はインテグリンと細胞外マトリックスの間の結合を介さない接着であることは証明されている。そこで、本明細書では本発明の細胞−器材接着について「インテグリンを介さないで接着させる」あるいは「インテグリンを介さない接着」のような表現を用いている。
本明細書において細胞とは動物、植物又は微生物に由来する細胞を意味し、好ましくは動物由来、より好ましくは脊椎動物由来、より好ましくは哺乳類由来であるが、これに限定されない。哺乳類としては、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ネコなどが挙げられ、ヒト細胞が好ましい。また、本明細書の細胞は浮遊細胞と付着細胞の両方を含む。浮遊細胞は10v/v%程度の血清添加培地中で培養容器に接着せず浮遊状態で存在する細胞を意味し、血液細胞(赤血球、白血球)、白血病由来培養細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、胚などが挙げられ、具体的にはKG-1, Jurkat, U-937などの培養細胞が挙げられる。付着細胞は、単離して10v/v%程度の血清添加培地中で静置培養した場合に培養容器に接着する細胞である。付着細胞としては、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、癌細胞などが挙げられ、具体的にはHeLa, HEK293, NIH 3T3などの培養細胞が挙げられる。血清無添加培地中で静置培養した場合、浮遊細胞と付着細胞は両方とも器材に対し同様なメカニズムで接着する。植物細胞はプロトプラストを含む。微生物としては、細菌、真菌が挙げられる。
細胞培養用の培地としては、RPMI-1640, DMEM, α-MEM, HBSS, PBSなどが挙げられる。
細胞が接着する器材の材質としては、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ビニロン、セロファン、ポリトリフルオロクロロエテン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸など)、ガラス、金属もしくは金属酸化物(アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、金、白金、銀、銅もしくはこれらの酸化物、ヒドロキシアパタイトなど)が挙げられる。器材は全体が上記材質で構成されてもよく、表面のみ上記材質の層を有していてもよい。器材の形状は任意であり特に限定されないが、例えば培養容器であってもよく、ビーズ、カプセル、フィルム、シート、多孔質支持体などであってもよい。
血清タンパク質は血清中に含まれる任意のタンパク質を意味し、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミンなどの血清アルブミン、γグロブリンなどが挙げられる。血清タンパク質は、精製したタンパク質として培地に添加してもよく、これらを含む血清、血漿として培地に添加してもよい。無血清タンパク質培地とは培地中にタンパク質を含まないものを言い、一方低血清タンパク質培地とは培地中のタンパク質濃度が血清換算で1v/v%以下、好ましくは0.5v/v%以下、より好ましくは0.33v/v%以下、さらに好ましくは0.3v/v%以下、特に好ましくは0.2v/v%以下、最も好ましくは0.1v/v%以下である。血清タンパク質濃度が高いほど細胞と器材の接着が抑制され、血清換算で1 v/v%以上血清タンパク成分が培地に添加されると細胞接着は阻害される。
低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質培地中で動物細胞を静置培養すると、動物細胞は器材(例えば培養容器)に接着する。これは、全ての動物由来の細胞に見られる現象であり、浮遊細胞でも起こる。細胞の器材への接着は静置で自然落下の場合数分(例えば2分又は3分)〜数十分(例えば20分又は30分)程度かかる。また、旋回培養などで細胞を動かし続けると接着しないことから、細胞と器材がしばらく接触することが接着に必要と考えられる。器材の面積が細胞数に対して十分広ければ、ほとんど(90%以上)の細胞が器材に接着する。
低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質培地中での細胞-器材接着において、培地の温度要求性は低く、室温(20〜25℃)でも37℃とほとんど変わらず細胞は器材に接着し、やや時間がかかるものの4℃でさえ接着する。一方、10%血清添加培地中での付着細胞の器材への接着は室温でも著しく阻害される。
なお、死んだ細胞は器材に接着しないので、接着にはエネルギーが必要であると考えられる。接着した細胞は生きており、血清を含む培地中に戻すと増殖する。
接着した浮遊細胞に1v/v%以上の濃度の血清を加えても数時間は接着を維持する。浮遊細胞(血清添加培養液中で容器に接着しない細胞)では、接着した細胞に血清を加えるとかなりの部分がやがて脱接着する、あるいは、増殖した細胞が脱接着する。脱接着した細胞は生きており、再び培養可能である。
接着した細胞を器材よりはがすことは、物理的力を加える事で可能であるがかなり難しい。(付着細胞の植え継ぎに使用される)トリプシン-EDTA処理は細胞の剥離にほとんど効果がない。アクチン脱重合剤Latrunculin A処理により一部細胞は物理的力で容易にはがせることから、接着ないし接着の維持には重合アクチンが必要だと考えられる。
接着した細胞は器材上でほとんど移動せず、また、ほとんどspreadingしない。これは細胞外マトリックスを介する接着と異なる。
本発明は、細胞の器材への接着を阻害する物質のスクリーニング方法にも関する。具体的には、候補物質を加えた低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培地中で細胞(浮遊細胞又は付着細胞)を培養し、候補物質の添加により細胞の培養容器等器材への接着が阻害されるか、あるいは、細胞を低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培地中で培養容器等器材へ接着させた後候補物質を加えることで接着が弱められあるいは脱接着するか評価することができる。脱接着は血清フリーの培養液を用いた洗浄により細胞が洗い流されるか容器に接着したままかにより容易に確認できる。細胞が付着細胞の場合には、付着した細胞の形状により評価できる。細胞の接着力が弱まることは、水流、超音波あるいは細胞を剥がすための物理的な力を加えたときの細胞の剥がれやすさにより評価することができる。また、接着阻害候補物質を器材とする、あるいは、あらかじめ器材表面に吸着させておいて低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培地中で細胞を培養し、細胞−器材接着に及ぼす候補物質の阻害効果を見ることが出来る。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
以下の実施例において、血清を含む培地としては、10v/v%ウシ胎児血清 (FCS)を含むRPMI 1640培地、あるいは、10% FCSを含むDMEM培地を使用し、無血清(血清無添加)培地は、血清を含まないRPMI 1640培地、DMEM培地、あるいは、PBSを使用した。
浮遊細胞としては、KG-1、U-937(共にヒト急性骨髄性白血病由来細胞株)、Jurkat(ヒトTリンパ芽腫細胞株)、末梢血由来血液細胞(大部分が赤血球)および末梢血由来白血球を使用した。
付着細胞としては、HeLa(ヒト子宮頸癌由来細胞)、HEK293(ヒト胎児腎臓由来細胞)、NIH3T3(マウス繊維芽細胞)を用いた。
細胞との接着をみる物質を本特許出願では「器材」(substratum、複数形substrata)と呼ぶ様に定義した。
接着を検出するための器材は、基本は滅菌ディッシュ(ポリスチレン製ペトリディシュ)を用いた。これは表面処理による差異を避けるためである。しかし、細胞培養用(tissue culture) ディシュやプレート、あるいは、ガラスボトムチェンバーを用いても細胞接着に関しては同様の結果が得られている。なお、血清添加培地中での付着細胞の細胞培養に使用される細胞培養用ディシュやプレートは、ペトリディシュに相当するポリスチレン製の容器を酸素等存在下でプラズマ放電処理して表面に親水基を導入したものである。
また、各種器材への接着を見る為には、内側に器材を敷いた滅菌ディシュに細胞懸濁液を入れて培養する方法を用いた。
実施例1: 無血清培地中での浮遊細胞の培養容器への接着
KG-1等の浮遊細胞は10v/v%FCSを含む培地中では培養容器に接着せず、浮遊状態で培養される。しかし、KG-1細胞等浮遊細胞は血清を含まない培地中では培養容器に接着することを発見した。10v/v%FCSを含む培地中で培養していたKG-1細胞を遠心してFCSを含む培地を遠心上清として除去し、遠心ペレット状態の細胞を血清無添加培地中で懸濁させてプラスチックス製容器(ペトリディシュ)に入れてCO2インキュベーターで30分〜1時間静置状態で培養するとほとんどの細胞が培養容器に接着した。細胞の容器への接着を証明するため、(A)培養液をチューブに移動して培養容器を血清無添加培地で数回洗浄して培養容器表面に細胞が接着して残っている事を顕微鏡で確認し、(B)チューブに移動した培地中の細胞数を計測し、培養開始時の細胞数と比較し、また、(C)洗浄後培養容器に接着している細胞をピペットを用いて物理的にはがし、その細胞数を培養開始時の細胞数と比較した。比較の対照としては、10v/v%FCSを含む培地中に同数のKG-1細胞を懸濁させて培養した場合を用いた。図1に示す様に、細胞数に比較して培養容器表面積が十分大きければ、血清無添加培地中ではほとんど(90%以上)の細胞が容器に接着したのに対し、10%FCS添加培地中ではほとんどの細胞が接着しなかった。
KG-1の代わりに同じく浮遊細胞であるJurkat、U-937細胞を用いた解析でも、10v/v%FCSを含む培地中では細胞は培養容器にほとんど接着しないが、血清無添加培地中ではほとんどの細胞が容器(ペトリディシュ)に接着する(図2)。また、ヒト末梢血由来血球細胞は10v/v% FCSを含む培地中ではガラスボトムチェンバーにほとんど接着しないが、血清無添加の培地中では大多数の血球細胞が容器に接着する(図2)。
実施例2: 浮遊細胞の培養容器への接着を阻害する血清濃度の検定
実施例1に示した様に、血清無添加培地中ではKG-1細胞はポリスチレン製培養容器に接着する一方、10v/v% FCSを含む培地中では接着しない。培地中の血清の細胞接着阻害作用の濃度依存性を明らかにするため、培地に様々な濃度になるようにウシ胎児血清を加えた培養液中にKG-1細胞を懸濁して1時間培養し、血清濃度と細胞接着の関係を調べた。その結果、血清濃度0.1%以下ではほとんどの細胞が接着する一方、血清濃度1%以上ではほとんどの細胞が接着しなかった(図3a)。この様に培養液中のウシ胎児血清の細胞接着阻害作用には濃度依存性が認められた。
次に、この血清の細胞接着阻害作用が細胞を標的としているのか、接着の器材(培養容器)を標的としているのか調べた。器材が標的かどうか決定するためには、培養容器(器材)を血清含有培地に予め接触させておいてから(血清を含まない培地で)洗浄し、無血清培地に懸濁した細胞を加えて接着を見た(図3b)。この方法でも血清は濃度依存的に細胞−器材接着を阻害することから、血清は器材を作用点として細胞−器材接着を阻害する事が明らかになった。コーティングのための血清含有培地と器材の接触時間を十分(例えば一晩)取れば、コーティングに用いる血清濃度0.1%以上でKG-1細胞の培養容器への接着を阻害する一方、血清濃度0.01%未満では阻害作用は著しく弱い(図3b)。従って、器材表面をコーティングする場合でも血清に濃度依存性があることになり、血清は器材を標的として細胞接着阻害を起こすことが出来ることを示している。また、この細胞接着阻害における血清濃度は細胞懸濁液に加えた場合の細胞接着阻害血清濃度よりも低い。これはより長い接触時間の間に血清中の接着阻害成分が器材表面により多く吸着するからだと考えられる。
血清の細胞−器材接着阻害作用が器材への作用のみで説明出来るには、細胞が接着するより前に、血清中の接着阻害成分が器材に結合する事が必要である。KG-1細胞が血清無添加培地中で培養容器に接着するのに必要な培養時間を測定したところ、KG-1細胞の器材への接着には数分〜30分(半数接着におおよそ15〜20分)必要であることがわかった(図4)。一方、10%血清含有培地を用いて器材のコーティングに必要な時間を測定したところ、数十秒〜1分程度血清含有培地を器材に接触させておけば細胞接着を阻害する事がわかった。このコーティングに要する時間は細胞接着にかかる時間より短い事から、血清の細胞−器材接着阻害効果は器材に対する作用のみで説明出来る。
実施例3: 血清中細胞接着阻害物質
実施例1、2に記載した細胞−器材接着阻害に働く血清中の成分を探した。血清アルブミン、グロブリン等の血清タンパク質は血清同様に培地に加えても容器(ペトリディシュ)のコーティングに使用しても濃度依存的に細胞−器材接着を阻害する事が明らかになった(図5)。ウシ血清アルブミン(BSA)(シグマアルドリッチ社製、Cohn Fraction V)の場合、培養液中に加えた場合に接着をほぼ阻害する濃度はおおよそ1%以上、長時間接触させて器材をコーティングした場合に大部分の細胞の接着を阻害する濃度は0.01%以上であった。
また、血清を95℃10分ボイルしたものを培地に加えても細胞接着阻害機能があった。従って、血清タンパク質を熱変成処理した血清でも細胞接着阻害作用があることになり、接着阻害は血清タンパク質の酵素的機能によるものではないと考えられる。
実施例4: 細胞接着の対象となる器材
培養容器(ポリスチレン)以外の物質が、実施例1に記載した細胞-器材接着における器材として働くか調べた。既に末梢血由来白血球が血清無添加培地中でガラスボトム細胞培養チェンバーに接着することは示したが(図2)、KG-1等の培養細胞でもガラスボトムチェンバーへの同様の接着を観察した。ポリスチレンとガラス以外の物質を器材として接着できるかどうか確かめるため、培養容器の内側底部に各種プラスチックスシート(器材)を敷き周囲を重りで止めた容器(図6)に血清無添加培地にKG-1細胞を懸濁した培養液を入れて1時間培養し、器材への細胞接着を実施例1の方法で検討した。図6に示すように、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、セロファンにもKG-1細胞は血清無添加培地中で良好に接着した。
また、蛍光色素(Cell Tracker Green, Invitrogen社製)で細胞質をラベルしたKG-1細胞と落射蛍光顕微鏡を用いて、血清無添加培地中でKG-1細胞はアルミ箔に接着することを確認した(図6)。
実施例5: インテグリン細胞接着阻害剤の本細胞−器材接着への影響
付着細胞が培養容器に接着する場合、その接着は、血清由来あるいは細胞自体が分泌する細胞外マトリックスが培養容器に吸着し、その細胞外マトリックスに細胞表面のインテグリンで接着すると考えられている。α5β1インテグリンなどいくつかのインテグリンと細胞外マトリックスの間の結合、ひいては細胞の培養容器への接着は、RGDペプチドを培養液中に添加する事で阻害される(非特許文献6)。また、β2インテグリンを介する細胞接着は、Mgイオン・Caイオンのキレート剤であるEDTAの添加で阻害される。また、カドヘリンを介する細胞−細胞接着はEDTAないしCaイオンのキレート剤であるEGTAの添加で阻害される(非特許文献1)。そこで、本特許出願における血清無添加培地中での細胞-器材接着がこれらの試薬で阻害されるか検討した。図7に示すように、RGDペプチドを最終濃度20 μM(あるいは50 μM)培地に加えてもKG-1細胞の培養容器への接着は全く阻害されなかった。同様に、KG-1細胞の培養容器への接着は、最終濃度5〜10mMのEDTA、あるいは、EGTAの添加により阻害されなかった(図8)。このことから、本特許出願における細胞−器材接着は、付着細胞で従来報告されているインテグリンやカドヘリンによる細胞接着とは異なるものである。
また、付着細胞が10%FCS培地中で培養容器に接着する場合、その接着はしばしば温度依存性であり、37℃では接着しても室温(20〜25℃)での接着は著しく遅滞する。そこで、本特許出願における細胞−器材接着における温度依存性を調べたところ、KG-1細胞は室温でも37℃と変わらない時間で培養容器へ接着し、さらに、冷蔵庫内(およそ4〜6℃)でもさして遅れずに接着した。この現象も、本発明における細胞-器材接着が、付着細胞で従来報告されている細胞接着とは異なるものであることを示している。
実施例6: 付着細胞における本特許出願の細胞−器材接着
浮遊細胞と異なり、付着細胞は10v/v%血清添加培地中でも細胞培養用容器に接着する。10%血清添加培地中での付着細胞の接着は、血清中の細胞外マトリックスが培養容器に吸着し、その細胞外マトリックスに細胞表面膜蛋白質のインテグリンで細胞が結合すると考えられている(非特許文献3、5、6)。また、細胞によっては、細胞外マトリックスを自ら産生・分泌するものもある。この様な性質を有する付着細胞が本特許出願の細胞−器材接着を有するか、培養条件・培養液・器材のコーティング・添加物・細胞の種類などを制御して調べた(図9(a)(b))。
付着細胞であるHEK293, HeLa, NIH3T3をトリプシン-EDTA処理により脱接着後遠心してトリプシンを除去し、各種培地に懸濁してペトリディシュ中で30分培養後、培養上清を除去し血清無添加培地で洗ってディシュに接着している細胞を撮影した。図9(b)に示す様に、10%血清添加培地中では各細胞があまりディシュに接着していない時点でも、血清無添加培地中では細胞は良く接着している。短時間で血清を含まない培地中で、血清添加培地よりむしろ良く接着していることから、これら各付着細胞でも本特許出願の細胞−器材接着が存在すると考えられる。一方、1%BSA添加培地中では細胞はほとんどディシュに結合していなかった。
次に、培養容器に一晩10%血清添加培地を入れ、血清無添加培地で洗浄後、血清成分コーティング培養容器として使用した。この場合、付着細胞であるHEK293は血清無添加培地、あるいは、1%BSA添加培地中1時間程度の培養で血清をコーティングした培養容器に接着する(図10)。浮遊細胞では実施例2に示す様に血清でコーティングした器材には接着しないことから、この現象は浮遊細胞とは明らかに異なる。
これらの細胞−器材接着のメカニズムを明らかにするため、各細胞接着がRGDペプチドで阻害されるか検討した。HEK293細胞を1%BSA添加培地中に懸濁して血清をコーティングしたペトリディシュで培養すると細胞は容器に接着するが、RGDペプチドを最終濃度20 μM加えておくと接着しなかった(図10)。これに対して、同じ細胞を血清無添加培地に懸濁して何もコーティングしていないペトリディシュで培養するとRGDペプチドの有無に関わらず細胞は接着した(図10)。この結果より、HEK293細胞は培地中RGDペプチドにより阻害されるインテグリン−血清中細胞外マトリックスの結合を介する器材への接着と、RGDペプチドにより阻害されない血清無添加培地中での器材への接着を有する事がわかる。後者の接着は培地へのRGDペプチド添加によっては阻害されないが、1%BSA添加で阻害される(図9(b))。これらの結果より、付着細胞にもRGDペプチドにより阻害される血清中物質依存性の細胞−器材接着とは別に、RGDペプチドにより阻害されずBSAなど血清成分により阻害される細胞−器材接着、すなわち、本特許出願で主張する細胞−器材接着が存在すると言える。
実施例7: 希釈による細胞の器材への接着
実施例2に示す様に、培養液中の血清濃度が0.1%以下であれば細胞は器材に接着する。血清濃度は最大で100%であるから、どのような細胞懸濁液であっても血清無添加培地で千倍に希釈すれば細胞を器材に接着させられる事を意味する。そこでヒト末梢血をPBSで千倍に希釈してガラスボトムチェンバー中で室温、20分静置したところ、図11に示す様にほとんどの細胞がガラス面に接着した。一方、百倍希釈ではほとんどの細胞が接着しなかった。この結果は、遠心操作などで血清を除去しなくても、血清無添加培地による適切な倍率の希釈のみで、多数の細胞を含む懸濁液より器材に細胞を接着し固定させる事が出来ることを示している。
実施例8:小さな器材の細胞への接着
上記実施例はすべて細胞よりはるかに大きな器材と細胞の間の接着を扱っている。逆に、細胞と同程度、あるいは、細胞より小さな器材が細胞と接着するか調べた。蛍光物質含有ポリスチレンビーズ(Spherotech社製、粒径0.4〜0.6μm)を血清無添加培地中で浮遊細胞(KG-1, Jurkat, U-937, 末梢血血液細胞)と静置すると細胞表面に蛍光ビーズが結合し、その後血清添加培地等で洗浄しても数時間結合が持続することが観察された(図12)。一方、血清を10v/v%含む培地中ではほとんど結合しなかった。蛍光ビーズの粒径は40〜60nmから約10μmの範囲で細胞と結合することを確認した。
実施例9: 細胞を用いた器材のデリバリー
実施例8の結果を用いて、細胞を用いた器材のデリバリーを行った。単球系浮遊細胞U-937は細胞表面にα4β1インテグリン、PSGL-1を発現しているが、それぞれVCAM-1、E-selectinと結合することが知られている(非特許文献2、3)。そこで、ヒトVCAM-1あるいはE-selectinを遺伝子導入により発現させたHEK293細胞を用意し、培養容器に付着した状態で培養した。U-937細胞に実施例8の方法で蛍光ビーズを結合させ、この細胞−ビーズ複合体を10%血清添加培地中で、VCAM-1あるいはE-selectin発現HEK293細胞と1時間培養後洗浄し、HEK293細胞上の蛍光ビーズを観察した。図13に示す様に、VCAM-1あるいはE-selectin発現HEK293細胞上にはU-937細胞−蛍光ビーズ複合体が見られたが、非発現HEK293細胞上には見られなかった。VCAM-1およびE-selectinは炎症部位の血管内皮細胞表面に発現し、循環血液中の白血球が血管壁に接着して血管外へ遊走するのに関与することが知られている。従って、図13に示すin vitroの結果は、器材封入薬剤を単球系細胞に結合させることで炎症箇所にデリバリーする細胞ベース薬剤デリバリー法が可能であることを示している。
実施例10: 大腸菌の器材への結合
動物細胞以外の細胞について同様の細胞−器材接着が成立するか調べるため、大腸菌をLB培地中でペトリディッシュに入れて1時間静置後上清を除去・洗浄し、大腸菌がディッシュに結合するか観察した。その結果、LB培地中で大腸菌はディッシュに結合するが、培地にBSA(最終濃度1%)やFCS(最終濃度10%)を加えた場合、あるいは、同濃度のBSAかFCSを含む培地でディッシュを予め一晩(over night, ON)コーティングしておいた場合には、大腸菌のディッシュへの結合は大部分抑制されることが明らかになった(図14)。LB培地のかわりにPBSを用いても同様の結果が得られた。この結果より、大腸菌も動物細胞同様に血清無添加培地中で器材に結合し、血清やBSAがその結合(接着)を阻害することが判った。
実施例11:本細胞−器材接着がEzrin/Radixin/Moesin (ERM) C末Thrリン酸化に及ぼす影響
動物付着培養細胞は血清添加培地中で培養容器に結合した状態では細胞内ERM蛋白質のC末Thr残基(ヒトMoesin T558など)はあまりリン酸化されていない。トリプシン処理などにより細胞を器材より脱接着させるとERM蛋白質C末Thr残基リン酸化が亢進する。しかし、細胞がインテグリン-細胞外マトリックス結合を介して器材に接着(本発明の接着ではない従来から知られている接着)すると、ERM蛋白質C末Thr残基は脱リン酸化される。(非特許文献8のFig10。付着細胞HEK293T細胞のα4β1インテグリンとそのリガンドをコーティングしたディシュとの間の接着の影響。)このC末Thr残基がリン酸化されたERM蛋白質は活性型であり、細胞膜と表在性アクチン細胞骨格のリンカーとしてアクチン細胞骨格を細胞膜へリクルートすることによる細胞形態形成・細胞接着制御に関与すると考えられる。
同様の現象が本発明の細胞接着、すなわち、無血清培地中での細胞-器材接着においても見られるか実験した。血清添加培地中で維持培養していた浮遊細胞KG-1を遠心し、無血清培地(RPMI-1640)に懸濁してペトリディシュ中でCO2インキュベーターで1時間培養するとほとんどの細胞が器材に接着する(本発明の接着)。接着したままの状態の細胞を溶解した細胞溶解液(attached)、無血清培地中でピペッティングにより器材よりはがした細胞を遠心により集めて作製した細胞溶解液(attached→detached)、および、血清添加培地中で培養していたKG-1細胞を遠心して作製した細胞溶解液(-)を抗phospho-ERM抗体を用いた免疫ブロッティングで比較解析した(図15)。その結果、無血清培地中でのペトリディシュへの接着(本発明の接着)によってもERM蛋白質C末Thr残基が脱リン酸化されること、また、本発明の接着をした状態から脱接着させた細胞でもERM蛋白質C末Thr残基がリン酸化されることが明らかになった。
上記結果より、本発明の細胞-器材接着によっても、インテグリン−細胞外マトリックス結合を介する従来型細胞−器材接着と同様のシグナル伝達が一部見られる事が明らかになった。このことから、従来型細胞−器材接着が細胞におよぼす機能が、本発明の細胞−器材接着によっても代替出来ると考えられる。
(1)細胞培養への応用
上皮系の細胞は血清添加培地中で器材への接着に比較的長い時間(1〜数時間)がかかる一方、器材に接着しない浮遊状況だとanoikisと呼ばれるアポトーシスを起こして死ぬ事、また、細胞同士が接着して固まり(aggregate)をつくりきれいに分散した付着培養になりにくい事が知られている。そこでまず、血清無添加培地中で上皮系の細胞を短時間(〜1時間)で器材に接着させ、接着したら血清添加培地に交換する。これにより、anoikisを起こすことなくきれいに分散した細胞培養を行うことが可能である。
また、ES細胞やiPS細胞を植え継ぐ場合、器材への接着が悪いと細胞が未分化状態を保てず分化したり増殖能を失う可能性がある。そこで上記同様に血清無添加培地中で細胞を器材に接着させておいてから培養用培地に培地を交換する事で、これらの細胞を未分化状態を保ったまま培養することが可能になる。
(2)希釈によって血液等細胞等を器材に固定する方法
本発明は、血液細胞等をガラス等の器材上に固定する簡便な方法として使うことができる。血清濃度0.1v/v%未満ならほとんどの細胞は器材に結合するので、血液をPBSなど血清を含まない培養液等で5百倍〜千倍以上に希釈してガラスチェンバー中に約15〜20分放置すると、遠心等不要で血液細胞をガラス面に接着固定させる事が出来る(図11)。5百倍希釈でもほとんどの血液細胞が接着するのは、血液(全血)中の血漿分画の体積が全血体積の約半分だからである。血球細胞をガラス等器材上に固定するこの方法は、遠心機、培養器、電源、固定液、コーティングなどの特別な装置/操作なしに容易に行うことができる。
(3)細胞ベースDDS(ドラッグデリバリーシステム)への応用
本細胞器材接着を用いると、白血球のような細胞により小さい(面積が小さい)物質を接着剤や抗体などの物質を用いずに結合させる事が可能である(図12)。一度形成した細胞−器材複合体は血清添加培地中でも数時間は複合体を形成したままである。白血球等の血球には血液循環により全身を循環し、刺激に応じて炎症部位や癌組織に移行するものがある。そこで、各種白血球等に本細胞器材接着を用いて薬剤を結合させたものを静脈注射などで体内投与し、血液循環により患部に到達して薬剤を患部で放出する細胞ベースのドラッグデリバリーシステム(DDS)を構築することが可能である。薬剤に見立てた蛍光ビーズをU-937細胞に結合させてU-937結合能を有する別の細胞に届けることはin vitroでは達成済みである(図13)。
この細胞ベースDDSに用いる白血球等の細胞としては、末梢血や骨髄より採取し必要なら精製した細胞を用いる事が可能であり、また培養細胞やiPS細胞等より分化させた細胞を用いることも可能である。薬剤としては、例えばナノカプセルに薬剤を封入したものが考えられる。細胞ベースDDSの問題の一つは、細胞に薬剤を結合・封入させるしくみである。細胞に薬剤ナノカプセルを結合させる方法として、抗体やレクチン、ビオチン化などを用いるのが既存の方法であるが、生体内に無い物質が結合に必要なことから治療法として審査をパスするのはハードルが高いと考えられる。それに対して本法では細胞とナノカプセルの結合に第3の物質は不要であり、かつ、ナノカプセルの材料として臨床で用いられている物質(手術用糸の成分である生分解性プラスチックスのポリグリコール酸など)も使用可能と考えられる。
(4)本細胞−器材接着を阻害する物質のスクリーニング系
本明細書で扱っている接着は、血清の様な接着阻害物質が含まれていない溶液中で細胞が器材に結合する現象である。細胞として動物細胞、器材として培養容器以外の系でも自然界にこのメカニズムによる細胞器材接着は多々見られると考えられる。実際、大腸菌がポリスチレン製ディッシュに結合することが観察されており(図14)、他の細菌等も同様の状況で器材に結合する事が考えられる。医療や食品製造等においては細菌数を低く抑えることが必要である事から、細菌と器材の接着を阻害抑制する器材・表面処理剤・添加物などのスクリーニング系として本発明の細胞−器材接着は使用出来る。これ以外にも生物と器材の関係する様々な現象の中に本発明の細胞−器材接着が内包されている可能性がある。例えば、貝の幼生は水界中を漂い泳ぐ生物であるが、ある時点で石など硬い物質に付着してそこから動かず成長する。この付着の最初のステップが本特許願で扱う細胞接着であると考えると、船舶の外板成分と貝の幼生細胞の接着を阻害する物質は船舶外部に貝が付着するのを防ぐ物質と考えられる。この様に、本特許願に記したメカニズムを介する細胞器材接着機構による細胞接着を行う細胞種と器材の種類の組み合わせを阻害する物質のスクリーニング系として広く使用出来る。この阻害物質は培地などの細胞懸濁液に添加する物質でも構わないし、器材表面にコーティングする物質でも構わない。
また、例えば、器材上の血液を洗浄・除去するために水等で希釈すると、目的とは逆に血液細胞の器材への接着を促進してしまう可能性がある。細胞−器材接着を阻害することを洗浄剤の機能、器材のコーティングの評価系として使用できる。

Claims (14)

  1. 細胞を低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質培地中で培養することで、器材に前記細胞をインテグリンを介さないで接着させることを特徴とする、細胞の接着方法。
  2. 前記細胞が動物細胞又は微生物である請求項1に記載の細胞の接着方法。
  3. 前記細胞が10v/v%の血清タンパク質を含む培養液中では培養容器に接着しない浮遊細胞である、請求項1又は2に記載の細胞の接着方法。
  4. 培地中の血清タンパク質の濃度が1v/v%以下、好ましくは0.5v/v%以下、より好ましくは0.33v/v%以下、特に好ましくは0.1v/v%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の細胞の接着方法。
  5. 前記培地が血清を含まない培地である、請求項1〜4のいずれかに記載の細胞の接着方法。
  6. RGDペプチド、EDTA、EGTAの添加で接着が阻害されない、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 細胞を4〜37℃で器材に接着させる、請求項1〜6のいずれかに記載の細胞の接着方法。
  8. 血清の存在下では培養容器に接着しない浮遊細胞と器材の複合体であって、前記器材が有機高分子、ガラス、金属もしくは金属酸化物の表面を有する、複合体。
  9. 前記器材が容器、ビーズもしくは多孔質支持体である請求項8に記載の複合体。
  10. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の細胞培養液に候補物質を添加して、細胞と器材間のインテグリンを介さない接着に対するこの候補物質の添加による影響を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞の器材へのインテグリンを介さない接着を阻害する物質のスクリーニング方法。
  11. 候補物質を予め器材表面に塗付する、吹き付ける、あるいは、溶液中で吸着させておいた上で、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の細胞培養液中での細胞と器材のインテグリンを介さない接着における候補物質の影響を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞の器材へのインテグリンを介さない接着を阻害する物質のスクリーニング方法。
  12. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の溶液中で器材に接着した細胞の接着維持あるいは脱接着を評価することを特徴とする、溶液に添加することで器材に接着した細胞を除去する物質ないし物理的刺激のスクリーニング方法。
  13. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培養液中での細胞とのインテグリンを介さない接着を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞に接着する器材の選択方法。
  14. 低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質の培養液中での細胞とのインテグリンを介さない接着を評価することを特徴とする、低血清タンパク質もしくは無血清タンパク質条件下で細胞に接着しない器材の選択方法。
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