JP2016008163A - 灰色化された酸化物セラミックス焼結体およびその製造方法 - Google Patents

灰色化された酸化物セラミックス焼結体およびその製造方法 Download PDF

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完爾 荒井
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Abstract

【課題】低熱膨張率と高ヤング率を有し、位置決めに使用されるレーザー光等の透過、散乱を起させない所望の灰色の色調を有する酸化物セラミックス焼結体の提供。
【解決手段】結晶相としてコーディエライト、ムライト及びサフィリンの3相を含む酸化物セラミックス焼結体であって、結晶相を構成する母組成として、MgO、Al23及びSiO2を含有し、コーディエライト相を主成分とし、前記母組成以外に、着色剤成分として、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を0.3〜1.0質量%含有し、明度がJIS Z8729に規定されるL*(エルスター)の値で40〜65であり、21℃〜23℃における平均熱膨張率が−0.2×10-6〜0.2×10-6/℃であり、かつ、ヤング率が140GPa以上である酸化物セラミックス焼結体。
【選択図】図1

Description

本発明は、酸化物セラミックス焼結体およびその製造方法に係り、特に、半導体露光装置のような精密光学装置の部材に適した酸化物セラミックス焼結体と、その製造方法に関する。
近年、LSI(大規模集積回路)等における高集積化にしたがって回路の微細化が急速に進められ、それに伴い、半導体製造に使用される精密加工機や精密測定機では高い精度が求められるようになっている。特に、シリコンウエハに高精密回路を形成するための露光装置等の部材においては、わずかな温度変化に伴う寸法変化や、高速移動直後の静止時に発生する振動に起因する精度の低下が問題となっている。そのため、このような精密加工機や精密測定器を構成する部材においては、低熱膨張性、すなわち、装置使用温度である室温付近で熱膨張率が低い材料であることと、高剛性および低密度であること、別の言い方をすると、剛性を密度で除した値である比剛性の高い材料であることが望まれている。
前記した特性上の要望を満たす材料として、コーディエライト相を主相とする酸化物セラミックス焼結体(以下、コーディエライト系焼結体ということもある。)が知られている。そして、装置使用温度である室温付近で低い熱膨張率と高い剛性(ヤング率)を有する低膨張コーディエライト系焼結体(以下、低膨張コーディエライトと示す。)が開発され使用されている。
低膨張コーディエライトは、装置使用温度域である室温付近でゼロに近い所定の低膨張率とするように、室温付近で負の熱膨張率を有する結晶であるコーディエライト相を主相とし、室温付近正の熱膨張率を持つコーディエライト以外の結晶相やガラス相(以下、副相と示す。)を、目的の熱膨張率となるように配合量を調整して添加しまたは析出させたものである。このとき添加または析出される副相を高ヤング率の結晶相とすることで、高剛性化も達成される。すなわち、低熱膨張率と高ヤング率を有する低膨張酸化物セラミックス材料を得るには、主相であるコーディエライトに対して副相の選択と添加量の精密な制御が最も重要である。例えば、特許文献1では、副相としてジルコン相、特許文献2では、副相として、希土類酸化物が焼成後結晶化して発生する希土類酸化物のダイシリケート相が挙げられ、共にこれら副相の量を制御する事によって目標の熱膨張率とした材料を得ている。
このような低膨張コーディエライトの用途のなかでも、半導体露光装置のウエハーステージのように、特に高速移動を伴う用途では、レーザーを用いる光学式の精密位置決め機構が使用される場合がある。しかし、一般的な白色の酸化物セラミックスは透光性を有しており、色調が白色の低膨張コーディエライトに、精密な位置決めのためレーザーの照射を受けると、その部分で透過や散乱が生じ、その結果、精密な位置決めが困難になる。そのため、一般には白色である低膨張コーディエライトを、例えば黒色等に着色する(以下、黒色化というときがある。)必要がある。
コーディエライトを主体とするセラミックス焼結体を黒色等に着色する方法として、Fe、Cr、Co等の遷移金属元素酸化物を添加する方法(例えば、特許文献3参照)、FeやNiの酸化物を添加する方法(例えば、特許文献4参照)、Tiの酸化物と希土類の酸化物を添加する方法(例えば、特許文献5参照)などが提案されている。
しかしながら、特許文献3に記載された方法では、黒色化のための着色剤として、遷移金属元素やその酸化物としてFe、Cr、およびCoが含まれるスピネル系結晶を1質量%〜10質量%を含有すること、特許文献4に記載されている方法では、黒色化のために着色剤としてFeおよびNiを酸化物換算で合計10.7質量%以上15.0質量%以下含有すること、特許文献5に記載された方法では、Tiを酸化物換算で0.1〜10重量%含有し、希土類元素を酸化物換算で1〜20重量%含有することが必要となっている。
基本的に低膨張特性は、白色状態での主相であるコーディエライトの量と、副相の量と、を制御することで達成されているため、黒色化のために着色剤として、遷移金属の酸化物等を添加することは、制御された副相以外の相の析出や、主相であるコーディエライトや副相へ着色剤が固溶することでの特性変化や、当初再現されていた副相の特性や相構成が変化し、熱膨張率を主とする諸特性が損なわれることとなりうる。そのため、所望の色調を発現する、遷移金属元素やその酸化物、あるいはセラミックス顔料の種類や量を求めた後、再度で低熱膨張率やその他の特性が得られるように、副相の選択や含有量の設定を再調整する必要があった。
また、黒色化を図った低膨張コーディエライト部材で、画像処理等による形状評価−寸法−位置等の制御を行う際、単純に黒色化された低膨張コーディエライト部材では、それ自体が鏡の様な作用を起し画像処理に無関係な周囲状況等を映し出し(以降、鏡化とする)、画像処理等を行う障害を発生させることが起こっていた。そのためレーザー光を照射された際に透過や散乱を起さず、画像処理等による形状評価−寸法−位置等の制御に際しては鏡化を起さない、白色や黒色でない色調すなわち灰色化が望まれていた。
特開2001−151563号公報 特開平11−130520号公報 特開2001−302341号公報 特開2007−112694号公報 特開2010−208943号公報
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、酸化物セラミックス焼結体の他の物性に影響することなしに、透光性を阻害する最適量の着色剤を添加することで、白色状態で得られた低熱膨張率や高ヤング率等を変化させずに、位置決め機構等に使用されるレーザーの透過や散乱を引き起こすことがなく、加えて画像処理等による制御を行う際にも鏡化を起させない、灰色酸化物セラミックス焼結体を提供する。
上記した目的を達成するため、本発明は、結晶相としてコーディエライト、ムライト、およびサフィリンの3相を含む酸化物セラミックス焼結体であって、結晶相を構成する母組成として、MgO、Al23およびSiO2を含有し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下含有し、前記母組成以外に、着色剤成分として、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を0.3質量%以上1.0質量%未満含有し、明度がJIS Z8729に規定されるL*(エルスター)の値で40〜65であり、21℃〜23℃における平均熱膨張率が−0.2×10-6/℃以上0.2×10-6/℃以下であり、かつ、ヤング率が140GPa以上であることを特徴とする酸化物セラミックス焼結体を提供する。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、前記母組成以外の元素の酸化物を、前記着色剤成分を含めて、2質量%未満含有してもよい。
また、本発明は、下記工程(1a)〜(4)を有する、本発明の酸化物セラミックス焼結体の製造方法Aを提供する。
(1a)Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む酸化物を、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下の成分比となるように調合し、その後、1300℃以上1450℃以下の温度で加熱して、結晶相がコーディエライト相、ムライト相、および、サフィリン相を有する酸化物とした後、該酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下のコーディエライト化された粉末を得る工程。
(2)Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を1300℃以上1450℃以下の温度で加熱した後、前記酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下の着色剤成分の粉末を得る工程。
(3)前記工程(1a)で得られたコーディエライト化された粉末と、前記工程(2)で得られた着色剤成分の粉末と、を、前記着色剤成分の粉末の含有割合が0.3質量%以上1.0質量%未満となるよう混合する工程。
(4)前記工程(3)で得られた混合物を1410℃以上1450℃以下の温度で焼成する工程。
また、本発明は、下記工程(1b)〜(4)を有する、本発明の酸化物セラミックス焼結体の製造方法Bを提供する。
(1b)Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む酸化物を、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下の成分比となるように調合し、その後該調合物を加熱溶融した後、急冷してガラス化し、該ガラスを1280℃以上1450℃以下の温度で結晶化させて、結晶相がコーディエライト相、ムライト相、および、サフィリン相を有する酸化物とした後、該酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下のコーディエライト化された粉末を得る工程。
(2)Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を1300℃以上1440℃以下の温度で加熱した後、前記酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下の着色剤成分の粉末を得る工程。
(3)前記工程(1b)で得られたコーディエライト化された粉末と、前記工程(2)で得られた着色剤成分の粉末と、を、前記着色剤成分の粉末の含有割合が0.3質量%以上1.0質量%未満となるよう混合する工程。
(4)前記工程(3)で得られた混合物を1410℃以上1450℃以下の温度で焼成する工程。
本発明の酸化物セラミックス焼結体の製造方法A,Bでは、組成範囲をより厳密に制御する場合には、Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む平均粒径2μm以下の酸化物を、混合後のMgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOが12質量%以上14質量%以下、Al23が34質量%以上39質量%以下、SiO2が47質量%以上51質量%以下となることを条件として、前記工程(1a)または(1b)で得られたコーディエライト化された粉末100質量部に対して、10質量部以下の範囲で添加してもよい。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、室温付近における熱膨張率が0(ゼロ)に極めて近いうえに、低密度で高いヤング率すなわち高い比剛性を有し、透光性を阻害し、鏡化させない程度の好ましい灰色に着色されている。これによって、この酸化物セラミックス焼結体を、半導体露光装置等の部材として用いる際、室温付近の温度変化に伴う部材の寸法変化や、高速移動直後の静止時に発生する部材の振動を抑制できるうえに、位置決め機構に使用されるレーザー光の透過、散乱や、加えて画像処理による制御を行う際に、障害となる鏡化が防止されるため、半導体露光装置の精度や生産性を向上できる。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、室温付近における熱膨張率が0(ゼロ)に極めて近い値を示すのは、室温付近で負(マイナス)の熱膨張率を有する、主相としてのコーディエライト相と、室温付近で正(プラス)熱膨張率を有する、副相としてのムライト相およびサフィリン相と、を、それぞれの結晶相の比率を調節することで得られているためである。着色剤成分として加えられる、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物の添加量が0.3質量%以上1.0質量%未満と微量であるため、着色剤成分に起因する制御された副相以外の結晶相の析出や、主相であるコーディエライト相や副相であるムライト相およびサフィリン相への着色剤成分の固溶による特性変化を生じることがない。その結果、低熱膨張率を発現させるコーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相の三相の構成比に変化を与えないため、室温付近における熱膨張率が0(ゼロ)に極めて近い値や高ヤング率がそのまま保持される。このため着色剤成分の添加により、副相の構成や、その構成比の調整をやり直す必要がない。
本発明の製造方法によれば、コーディエライト化された粉末に対し、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物で構成される着色剤成分を0.3質量%以上1.0質量%未満の範囲で添加し、1410℃以上1450℃以下の温度で焼成することにより、結晶相として、主相であるコーディエライト相と、副相であるムライト相およびサフィリン相と、を含み、灰色化された色調や低熱膨張率や高い比剛性等の物性を有する酸化物セラミックスを得ることができる。
本発明の製造方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。 本発明の実施例である例1〜例13において、成形体を加熱する温度条件
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、結晶相として、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相の3相を含む酸化物セラミックス焼結体である。これら3相のみだと白色の酸化物セラミックスを灰色化させるため、着色剤成分として、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を0.3質量%以上1.0質量%未満含有する。これにより、レーザー光等による位置決めの際、照射部位によって透過や散乱を生じさせず、更に画像処理による制御を行う際に、障害となる鏡化を起さない灰色化が達成される。また、上記した着色剤成分の含有量が0.3質量%以上1.0質量%未満であるため、上記した3相のみで構成される白色酸化物セラミックスの結晶相と同様に、式:2MgO・2Al23・5SiO2で表されるコーディエライト相と、式:3Al23・2SiO2で表されるムライト相、および式:4MgO・4Al23・2SiO2で表されるサフィリン相の三相を含む構成が維持することができ、室温付近における低熱膨張率が維持される。上記した着色剤成分の含有量が0.3質量%未満であると、透光性を阻害するまでの低い明度が得られず、レーザーの透過や散乱が生じ、1.0質量%を超えると、鏡化や先の相構成が変化し熱膨張率の増大が起こり易くなる。このため、着色剤成分の含有量が1.0質量%を超える場合は、室温付近において、低熱膨張率を達成するため、改めて主相であるコーディエライト相、ならびに、副相であるムライト相およびサフィリン相の各相の量の調整、すなわち組成の変更を余儀なくされる。以上から安定的にレーザーの透過や散乱や画像処理による制御を行う際に、障害となる鏡化を起さない、より望ましい着色剤成分の含有量は、0.4質量%以上0.8質量%以下である。
酸化物セラミックス焼結体の結晶相は、X線回折装置を用いて同定できる。本発明においては、例えば、CuのKα線を用いたX線回折装置により測定されるムライトの主ピーク(2θ=30.7〜31.3°)の強度をImとし、コーディエライトの主ピーク(2θ=28.3〜29.0°)の強度をIcとしたピーク強度比(Im/Ic)が、0.001以上であるとき、ムライト相が存在するという。同様に、CuのKα線を用いたX線回折装置により測定されるサフィリンの主ピーク(2θ=27.0〜27.5°)の強度をIsとし、このピーク強度Isとコーディエライトのピーク強度Icとの比(Is/Ic)が0.001以上であるとき、サフィリン相が存在するという。
本発明の酸化物セラミックス焼結体において、上記したピーク強度比(Im/Ic)および(Im/Ic)は、所望の低い熱膨張率を得るために、いずれも0.001以上0.05の範囲にあることが好ましい。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、上記した結晶相を構成する母組成として、MgO、Al23およびSiO2を含有し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下含有する。なお、MgO、Al23およびSiO2の3成分以外の成分の合計含有量は、上述した着色剤成分を含めて、全体の2.0質量%未満であることが好ましく、1.5質量%未満がより好ましい。
上記したMgO、Al23およびSiO2の含有量は、ガラスビード法で作成した試料について、蛍光X線分析法により測定された値である。以下、ガラスビード法で試料を作製し、その試料について蛍光X線分析を行う方法を、ガラスビード蛍光X線分析法という。また、上記したMgO、Al23およびSiO2以外の含有量は、粉体を直接蛍光X線分析することで評価した。
なお、本発明の酸化物セラミックス焼結体におけるMgO、Al23およびSiO2の含有量を上記した範囲に限定したのは、この範囲を外れると、室温付近において0に極めて近い値の熱膨張率を有し、ヤング率と比剛性が高い酸化物セラミックス焼結体を得ることができないためである。
本発明の酸化物セラミックス焼結体においては、低熱膨張化は、室温付近において負の熱膨張率を有する、主相のコーディエライト相に対して、副相として、室温付近において、正の熱膨張率を有するムライト相およびサフィリン相を所定の量含有させることが必要であるため、結晶相を構成する母組成であるMgO、Al23およびSiO2の含有量を上記した範囲に調整している。これにより室温付近における熱膨張率を0に極めて近い値に調整できる。具体的には、21℃〜23℃における平均熱膨張率を、−0.2×10-6/℃以上0.2×10-6/℃以下の範囲に制御できる。ここで、熱膨張率の値は、例えばレーザーヘテロダイン干渉式熱膨張計を用いて測定できる。
また、本発明の酸化物セラミックス焼結体においては、緻密体におけるヤング率が約140GPa程度であるコーディエライト相に対して、ヤング率がより高いムライト相およびサフィリン相を副相として適量含有させることで、ヤング率をより高く、具体的には140GPa以上にすることができる。なお、ヤング率は、JIS R1602で定める超音波パルス法により測定した値とする。
なお、灰色の色調は、JIS Z8729に規定されるL*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)表色系における明るさの尺度(明度L*値)で表すことができる。ちなみに、明度L*=100で白色、L*=0で黒色を表し、L*が大きい場合は、白い(明るい)ことを示し、反対に小さい場合は、黒い(暗い)ことを示す。
本発明の酸化物セラミックス焼結体の明度L*値は、40〜65の範囲を示す。明度L*値が40〜65の場合は、薄い灰色から濃い灰色までの適度の灰色が得られ、白色状態で得られた諸特性を変えずに、レーザーの透過、散乱と画像処理による制御を行う際に、障害となる鏡化を防止できる。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、上述した明度L*値を達成するため、上述した着色剤成分を0.3質量%以上1.0質量%未満含有する。
着色剤成分の含有量と明度L*値との関係を確認すると、着色剤成分の含有量が0.3質量%未満だと明度L*値は65を超えた値を示し、レーザー光の透過、散乱が発生する。着色剤成分の含有量が1.0質量%以上だと明度L*値は40より低い値を示し、鏡化が生じはじめる。明度を安定的に制御する観点からは、明度L*の範囲を42〜63の範囲とするのが好ましい。
さらに、本発明の酸化物セラミックス焼結体においては、比剛性を十分に高めること、具体的には比剛性を56.5×1062/s2以上にすることができる。比剛性を56.5×1062/s2以上にすることで、高速移動直後の静止時に発生する振動を効果的に抑制できる。なお、比剛性は、ヤング率を嵩密度で除することで算定される値である。ここで、嵩密度は、JIS R1634で定めるアルキメデス法により測定した値とする。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、上述したように、高比剛性であるため、HIP(高温静水圧焼成)を行うことで開気孔率が0.1体積%未満のきわめて高い緻密化を達成できる。この時、酸化物セラミックス焼結体の開気孔率は、0.09体積%以下であることがより好ましい。開気孔率が低くなるほど、強度および絶縁破壊特性が向上し、例えば、誘電体電極や半導体製造装置用部材として、より好ましいものとなる。開気孔率もJIS R1634で定めるはアルキメデス法により求めることができる。
本発明の酸化物セラミックス焼結体は、さらに、希土類元素の酸化物を0.15質量%以下の割合で含むことができる。詳しくは後述するが、希土類元素酸化物の含有により、酸化物セラミックス焼結体の色調がより均一化される効果が期待される。希土類元素としては、La、Y、Yb、Lu、Er、Ce、Nd、Sm等が挙げられる。これらの中でも、La23が特に好ましい。
なお、希土類元素酸化物の含有量が0.15質量%を超えると、希土類元素を含むガラス相が過剰に生成したり、希土類元素の酸化物とSiO2との化合物の生成を起こし、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相の三相で得られていた低い熱膨張係数や高いヤング率が損なわれる場合がある。
希土類元素酸化物を含有させることによる効果として、以下に示すことが考えられる。希土類元素酸化物を添加しない場合は、後述する焼成工程において、着色剤成分が1300℃以上の温度範囲から液相を形成するが、希土類元素酸化物、特にLa23を0.15質量%以下の割合で添加した場合は、着色剤成分はより低温で安定的に溶融し、さらには安定なガラス相を形成させる。微量添加されている着色剤成分の溶融温度をより低下させることで、着色成分の分布をより均一化させた後、安定なガラス相を生成させることで、酸化物セラミックス焼結体の色調をより均一化することができると考えられる。なお、希土類酸化物、特にLa23を添加することで、色調に変化は生じさせない。また、このように生成された液相から形成されたガラス相は、酸化物セラミックス焼結体のヤング率や熱膨張率に影響を与えるほどの量でなく、酸化物セラミックス焼結体の熱膨張率、ヤング率等を変化させることがなく、低熱膨張率、高ヤング率等の良好な特性を確保できる。
次に、このような酸化物セラミックス焼結体(コーディエライト系焼結体)の製造方法について説明する。
<酸化物セラミックス焼結体の製造方法>
本発明の酸化物セラミックス焼結体の製造方法は、(1)コーディエライト化された粉末の合成と粉砕工程、(2)着色剤成分の合成、粉砕工程、(3)(1)のコーディエライト化された粉末と(2)の着色剤成分との混合、調合粉化工程、及び(4)成形焼成工程、を有する。各工程を順に説明する。
(1)コーディエライト化された粉末の合成と粉砕工程
本工程は、酸化物セラミックス焼結体を構成する結晶相を有する酸化物を合成し、該酸化物を粉砕して、所定の粒径のコーディエライト化された粉末を得る工程である。
得られる酸化物セラミックス焼結体の熱膨張率を精密に制御するため、着色剤成分の添加によって、より均一な灰色を発現させるためには、酸化物セラミックス焼結体の製造原料として、コーディエライト化された粉末を用いることが望ましい。その理由を以下に示す。なお、コーディエライト化粉末とは、目標組成範囲であるMgO、Al23およびSiO2の各酸化物の合計を100質量%とした場合に、MgOが12質量%以上14質量%以下、Al23が34質量%以上39質量%以下、SiO2が47質量%以上51質量%以下の範囲内で、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相を有する酸化物を含有する粉末のことである。
コーディエライト化された粉末を使用する理由は、製造される酸化物セラミックス焼結体において、安定的に熱膨張率や比剛性率や色調等の特性を再現させるためである。後述する焼成工程において、着色剤成分が1300℃付近で液相を形成するため、酸化物セラミックス焼結体の製造原料として、コーディエライト化された粉末ではなく、結晶相を構成する母組成であるMgO、Al23、および、SiO2を、目標組成範囲となるよう調合した粉末を使用した場合、それら調合された酸化物成分と、着色剤成分とが反応する、これらの成分が固溶体を形成する等の複雑な反応を引き起こす。このような状態でコーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相を安定的発生、析出させるためには、種々の反応毎に焼成条件を調整することが必要となる。更に、場合によっては、先の三相の構成比が変化し、三相以外の結晶相の発生が起こることも考えられる。この場合、主相であるコーディエライト相と、副相であるムライト相、サフィリン相と、の厳密な量比の制御困難となり低熱膨張率に発現させることが困難になる。
このため、酸化物セラミックス焼結体の製造原料として、コーディエライト化された粉末を使用する必要である。コーディエライト化された粉末を使用することにより、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相以外の相を生成させることがなく、着色剤成分を含有しない酸化物セラミックス焼結体における低熱膨張率等の物性は維持される。
コーディエライト化された粉末を作製するには、目標組成範囲となるように、MgO、Al23、および、SiO2のそれぞれ単独の酸化物を、目標組成範囲となるように調合した粉末を所定の温度に加熱して、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相が析出した酸化物を得る必要がある。ここで、MgO、Al23、および、SiO2のそれぞれ単独の酸化物を、目標組成範囲となるように調合した粉末を使用する代わりに、MgO、Al23、SiOのうち、少なくとも一種の単独酸化物と、Mg、Al、および、Siのうち、少なくとも2種の元素を構成要素とする一種以上の複合酸化物とを目標組成範囲となるように調合した粉末を使用してもよく、または、Mg、Al、および、Siのうち、少なくとも2種の元素を構成要素とする1種以上の複合酸化物を目標組成範囲となるように調合した粉末を使用してもよい。
目標組成範囲となるように調合した粉末を、1350℃以上1450℃以下の温度に加熱することで、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相が析出した酸化物を得ることができる。
また、目標組成範囲となるように調合した粉末を、加熱溶融して溶融体とした後、水等に投入して急冷することでガラス化し、その後、1280℃〜1450℃の温度範囲でこのガラス体を結晶化させることで、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相が析出した酸化物を得ることもできる。後者の方法は、結晶相の安定化の点でより望ましい。
上記の手順で得られたコーディエライト化された粉末等を用いて、緻密な焼結体を得るためには、コーディエライト化された粉末の平均粒径(D50)が2μm以下、好ましくは1μm以下になるまで粉砕することが重要である。但し、上記した平均粒径とする粉砕の方法に特に制限はなく、例えば、湿式のボールミルや遊星ミル、アトライター、ビーズミル、湿式や乾式のジェットミル等により粉砕することができる。このとき、通常よりも平均粒径を小さくすることができる条件で粉砕を行うことが好ましい。
例えば、ボールミルを用いる湿式粉砕の場合には、使用するボールを小さくし、かつ適切な分散媒、分散剤、処理粘度、処理時間を選択することで、上述した平均粒径の粉末を得ることができる。コーディエライト化された粉末の平均粒径(D50)を2μm以下とすることによって、発生する相の偏析を防止や焼結後の嵩密度や開気孔率のバラツキを抑制し、これによって強度の高い緻密質の焼結体が得られる。以下、本明細書に記載される粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定した値である。原料の粉砕は、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した時点で、粉砕は終了し、スラリーを回収し、これを真空乾燥、もしくはスプレードライ処理を行い、乾燥粉体とする。
なお、組成範囲をより厳密に制御する場合には、Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む平均粒径2μm以下の酸化物を、混合後のMgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOが12質量%以上14質量%以下、Al23が34質量%以上39質量%以下、SiO2が47質量%以上51質量%以下となることを条件として、上記の手順で得られたコーディエライト化された粉末100質量部に対して、10質量部以下の範囲で添加してもよい。
また、酸化物セラミックス焼結体の焼結性を向上させる目的で、希土類元素の酸化物を上記の手順で得られたコーディエライト化された粉末に添加することも可能である。この場合、希土類元素の酸化物の添加量は、混合後の合計質量に対して0.15質量%以下とする。
(2)着色剤成分の合成、粉砕工程
上述したように、本発明の酸化物セラミックス焼結体は、着色剤成分として、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を0.3質量%以上1.0質量%未満含有する。
本工程は、上述した組成の着色剤成分を合成し、該着色剤成分を粉砕して、所定の粒径の着色剤成分の粉末を得る工程である。
上述した組成の着色剤としては、酸化物セラミックス焼結体の黒色化に使用される黒色系着色剤としても使用されるものが存在する。黒色系着色剤としては、Fe、Cr、および、Coの単独酸化物、または、これらの元素の複合酸化物を主成分とするFe−Cr−Co−O系着色剤、Fe、および、Coの単独酸化物、または、これらの元素の複合酸化物を主成分とするFe−Co−O系黒色系着色剤、Cu、Cr、および、Mnの単独酸化物、または、これらの元素の複合酸化物を主成分とするCu−Cr−Mn−O系黒色系着色剤、Cr、Mn、および、Coの単独酸化物、または、これらの元素の複合酸化物を主成分とするCr−Mn−Co系黒色系着色剤等がある。黒色系着色剤として、上記で例示したものを主成分とする市販品もあるが、市販品の多くは平均粒径が5〜10μmと粗大であることや、溶融剤として、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物やこれら元素の炭酸塩が加えられていることが多く、本発明において着色剤成分として使用することはできない。この理由としては、平均粒径5〜10μmの着色剤を使用すると、焼成途中で着色剤成分が液相となるためにポアの発生源となりうること、粗粒のため均一に分散しにくく色調の均一化が困難となること、加えて市販品の多くは溶融剤成分として、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物を含有しているが、これらは焼成時にコーディエライトに固溶し、熱膨張率の増大を招く等の問題がある。そのため本発明では、着色剤成分を独自に合成する必要がある。
着色剤成分を合成する場合、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物として、該当する元素の単独酸化物として、または、該当する二種以上の元素を含む複合酸化物を、所定の配合割合となるよう調合する。その後、本発明では、得られた調合物を1300℃以上1440℃以下の温度で加熱する。この加熱の過程で、調合物された成分ごとの液相の生成や、個々の成分間での固体拡散が起こり、最終的に上記温度範囲に加熱されることによって着色剤成分の均一化が図られる。この時、加熱温度が1440℃より高い場合は、着色剤成分にCo等の蒸気圧が高い元素が含まれる場合、これらの元素が揮発することによって成分の変化を招き、意図しない色調の変化を生じる場合がある。また加熱温度が1300℃より低い場合は、これら調合物から発生する液相量や、成分間での固体拡散の量が少ないため、着色剤成分の均一化が図りにくくなる。着色剤成分の均一性を高めるためには、加熱温度は1350℃以上1430℃以下が好ましい。
次に、上記の手順で加熱した着色剤を、酸化物セラミックス焼結体中に均一に分散させるためには、加熱後の着色剤の平均粒径(D50)が2μm以下、好ましくは1μm以下になるまで粉砕することが重要である。平均粒径(D50)が2μm超える大きさの着色剤を使用した場合、酸化物セラミックス焼結体中に着色剤が均一に分散しにくく、酸化物セラミックス焼結体の色調の均一化が困難になる。また、焼成工程の途中で着色剤成分が液相となることより、ポアの発生源となるおそれがある。
なお、加熱された着色剤成分の粉砕は、上述したコージェライト化された粉末の粉砕と同様の手順で実施できる。
着色剤成分の合成および粉砕の手順の一例として、Fe−Cr−Co−O系着色剤の合成および粉砕の手順を以下に示す。
a)使用する着色剤成分の組成に応じて、Fe源としてFe23等のFeの酸化物、Cr源としてCr23等のCrの酸化物、および、Co源としてCo23等のCoの酸化物を調合し湿式混合する。ここで、上記したFe、Cr、および、Coの単独酸化物に変えて、または、これらの単独酸化物に加えて、Fe、Cr、および、Coのうち、二種以上の元素を含む複合酸化物を調合してもよい。
b)上記の混合物を乾燥した後、アルミナ坩堝に入れ蓋をした後、1300℃以上1440℃以下の温度で加熱する。
c)b)での加熱後の着色剤を鋼球やSUS球を用いた湿式ボールミルで平均粒径(D50)2μm以下、好ましくは1μm以下まで粉砕する。この際、予め鋼球、SUS球からのコンタミ量を測定しておき、(a)の調合時に調整しておくことが好ましい。
d)(c)で粉砕された着色剤成分を回収し、これを真空乾燥、もしくはスプレードライ処理することで着色剤成分の粉末を得ることができる。
また、Cu−Cr−Mn−O系、Cr−Mn−Co系等といった、Feを含まない着色剤成分を使用する場合は、Feのコンタミが起こるおそれがある(c)の手順を実施せず、(a)および(b)の手順で着色剤成分を合成した後、ZrO2球を用いた湿式ボールミルで粉砕するか、上述したコーディエライト化された粉末の粉砕工程に投入して、加熱後の着色剤成分を粉砕することが好ましい。
(3)コーディエライト化された粉末と、着色剤成分の粉末との混合、調合粉化工程
本工程では、上記(1)の工程で得られたコージェライト化された粉末と、上記(2)の工程で得られた着色剤成分の粉末とを、着色剤粉末の含有割合が0.3質量%以上1.0質量%未満となるよう混合する。この際、湿式混合の使用が望ましく、湿式のボールミルや、その他の粉砕機、混合機として回転羽根等を有するミキサー等を使用できる。但し、コンタミを抑制できる点から、鉄芯の入った樹脂球を使用した湿式ボールミルが好ましい。
例として、湿式ボールミルで混合する場合、混合される粉末の体積%は、40%以下が望ましく、混合媒体は水、エタノール等を使用可能であるが、混合性を考慮すると、水の使用が望ましい。混合時間としては3時間以上あればよく、混合後、両粉体の混合物はスラリーとして回収される。この時、次の工程で成形する形状(大きさや質量)に応じて、スラリー中の両粉末(上記(1)の工程で得られたコージェライト化された粉末、および、上記(2)の工程で得られた着色剤成分の粉末)からなる粉体質量を100質量部とした際に、有機バインダーを0.5〜5質量部加えることができる。混合媒体に水を使用した際の有機バインダーとしてはPVA(ポリビニルアルコール類)、ポリ酢酸ビニル類、セルロースエーテル類等の水溶性高分子があり、混合媒体にエタノールを使用した際の有機バインダーとしては、PVB(ポリビニルブチラ―ル類)、セルロースエーテル類としてエチルセルロール等がある。
上記、回収されたスラリーは(4)成形工程での必要に応じて、スラリーとして得てもよく、真空乾燥粉や、もしくはスプレードライ処理され乾燥粉として得てもよい。
上記(1)の工程で得られたコーディエライト化された粉末、および、上記(2)の工程で得られた着色剤成分の粉末は、熱膨張率等の物性を安定発現させるため、両粉体を混合する前に、共に乾燥粉体としておくことが重要である。これは、これら粉末中に過剰な水分等が含まれていると、それが調合誤差となり、コーディエライト相、ムライト相、サフィリン相間の量比の変化や、それに伴う着色剤成分の量の過不足による色調等の変化につながるためである。
そのため、上記(1)の工程で得られたコーディエライト化された粉末と、上記(2)の工程で得られた着色剤成分の粉末と、を混合する際には、事前に300℃以上500℃以下の温度まで加熱し、これらの粉末の質量減少率を測定しておき、混合時にその結果に基づく補正を行うことが好ましい。
(4)成形工程
本工程では、上記(3)の工程で得られたスラリーまたは乾燥粉を所定の形状に成形する。たとえば、上記(3)の工程で得られた乾燥粉を必要に応じて乳鉢等での解砕を加えて後、金型等に充填し20MPa程度の圧力で機械プレスして成形する。更に機械プレス後、もしくは、乾燥粉を紙やゴム等の型に充填して、成形圧100MPa〜200MPa程度の冷間静水圧プレス(以下CIPと表示)を行ってもよい。また、プレスやCIPを行わず、上記(3)の工程で得られたスラリーを石膏等の型に鋳込成形して成形体を作製するも可能である。このような成形により得られる成形体の形状にも特に制限はなく、用途に応じて種々の形状とすることができる。例えば、円板状や、ホットプレス成形が困難なドーナツ形等の板状とすることができる。
また、上記(3)の工程で得られたスラリーまたは乾燥粉に、成形助剤として有機材料を添加し混合した後に成形することが好ましい。
(5)焼成工程
本工程では、上記(4)の工程で得られた成形体を、大気中で1410℃以上1450℃以下の温度で焼成して、緻密で灰色化された低膨張の酸化物セラミックス焼結体を得ることができる。本工程では、特許文献2の請求項2に示されるような、降温時の温度制御を行う必要はなく、所定の焼成温度まで加熱し、該温度で保持した後は、加熱を停止させた一般的な炉冷を行うことで、結晶相として、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相の3相を含み、結晶相を構成する母組成として、MgO、Al23およびSiO2を含有し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下含有し、該母組成以外に、着色剤成分として、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を0.3質量%以上1.0質量%未満含有し、明度がJIS Z8729に規定されるL*(エルスター)の値で40〜65であり、21℃〜23℃における平均熱膨張率が−0.2×10-6/℃以上0.2×10-6/℃以下であり、かつ、ヤング率が140GPa以上であること特徴とする酸化物セラミックス焼結体が得られる。この酸化物セラミックス焼結体は、より緻密化することが好ましく、緻密化には、熱間等方静水圧プレス成形(以下、HIPと示す。)を追加することができる。具体的には、アルゴン等の不活性ガス雰囲気の下で、130〜150MPa(1283〜1481気圧)の圧力を印可しつつ、1280℃以上1350℃以下の温度で加熱することにより、焼結体をより緻密化できる。
上述した本発明の酸化物セラミックス焼結体の製造手順の一例を、図1にその工程図で示す。
この方法によれば、低熱膨張率、高ヤング率で、レーザー光の透過、散乱や、画像処理による制御を行う際に、障害となる鏡化を生じさせない灰色の色調を有する低膨張酸化物セラミックス焼結体を得ることができる。そして、こうして得られた酸化物セラミックス焼結体は、半導体製造装置用の部材として、特にシリコンウエハを搭載し露光するステージ部材のような大型の成形体として好適する。
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。例1〜9は本発明の実施例であり、例10〜13は比較例である。
(基本調合粉の調合、粉砕、乾燥)
コーディエライト化された粉末として、AGCセラミックス株式会社製、商品名;ELP−150FINE、平均粒径14.1μmを96.2質量部に、平均粒径が0.2μmのアルミナ粉末3.8質量部を加えた混合粉末を、水を分散媒として、高純度アルミナボールを使用したボールミル処理を加えた。その際、使用する水の量は、粉末体積の4倍とし、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を、粉体に対し1質量%を添加して混合粉砕した。粉砕後のスラリー状の混合粉末の平均粒径は、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)によって測定したところ、体積基準の平均粒径(D50)が1.7μmであった。平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、そのスラリーを回収しスプレードライヤーで乾燥し基本調合粉を得た。
こうして得られた基本調合粉の成分のうち、酸化物セラミックス焼結体の結晶相を構成する母組成のMgO、Al23およびSiO2の含有量は、ガラスビ―ド蛍光X線法で分析し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%として評価した。また、MgO、Al23およびSiO2以外の成分の含有量は、基本調合粉を直接蛍光X線分析して評価した。これらの分析結果を表1に示した。
例1
着色剤成分Aとして、株式会社高純度化学研究所製Fe23、Cr23、Co23(それぞれ純度99.9%以上)を1:1:1の質量比で評量し、その混合粉100gを自動乳鉢で混合しながらペースト状になるまでエタノールを滴下し、ペースト状態を維持させながら、30分以上自動乳鉢混合した。その後、回収し、乾燥後、アルミナ乳鉢に入れて蓋をし、大気中、1350℃で1hr以上加熱し、塊状の着色剤成分Aを得た。塊状の着色剤成分Aに対し、分散媒として、水を、着色剤成分Aの体積の1.5〜4倍添加し、分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を、着色剤成分Aの質量の1.0質量%添加し、粉砕メディアとしてSUS球を用いたボールミル粉砕で微粉化した。粉砕過程で、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)を用いて、測定粉体をFe23と仮定の上で測定し、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、粉砕を終了した。その後スラリーを回収し、スプレードライヤーで乾燥し着色剤成分Aの粉末を得た。ちなみに、この時得られた測定粉体の平均粒径(D50)は1.4μmであった。
基本調合粉99.2質量部に対し、着色剤成分Aの粉末0.8質量部を加えた後、混合処理は、鉄芯入り樹脂製ボールを用いたボールミルで行った。混合条件は、水を分散媒とし、その量は粉体体積の1.5倍とした。分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を粉体の質量に対し1質量%添加した。また、有機バインダーとしてPVA(中京油脂株式会社製、商品名;セルナWF804)を2質量%添加して、湿式ボールミルで3hr〜5hrの間混合処理した。その後、スプレードライヤーで乾燥し造粒粉を得た。
次に、こうして得られた造粒粉は評価用の板を得るため、寸法125×125×40mmの金型に投入し20MPaの成形圧でプレス成形を行った後、さらに180MPa静水加圧によるCIP成形を行いより緻密化された成形体を得た。その後、大気中で図2のグラフに示す温度条件(最高温度1430℃)で焼成した。なお、図2の焼成条件の中の400℃で約5時間の保持は、成形体中に含まれる有機材料が熱分解時に発生するガス成分を徐々に放出させることでクラック等の発生の防止を考慮したものである。よってこの保持時間は、成形体の肉厚、添加された有機バインダー量の増減に応じて調整されるものであり、これに限定されない。さらに大気焼成後、得られた焼結体をさらに緻密化させるためAr雰囲気で温度1320℃、圧力145MPaのHIPを行った。HIP後は、HIP処理炉内の還元変色の影響を除去するため、焼結体全面を100〜300μm研削加工して、寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例2
基本調合粉99.5質量部とし、例1で作製された着色剤成分Aの粉末を0.5質量部加え、その後の混合処理以降は例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例3
基本調合粉を99.6質量部とし、例1で作製された着色剤成分Aの粉末を0.4質量部加え、その後の混合処理以降は例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例4
La23が添加された調合粉を以下の方法で作製した。
コーディエライト化された粉末としてAGCセラミックス株式会社製、商品名;ELP−150FINE、(平均粒径14.1μm)を96.06質量部に、平均粒径が0.2μmのアルミナ粉末3.79質量部、株式会社高純度化学研究所製、純度99.9%以上のLa23粉末を0.15質量部加えた混合粉末を、高純度アルミナボールを有するボールミルで、水を分散媒とし、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)1質量%を添加して混合粉砕した。粉砕後の混合粉末の平均粒径を、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)によって測定したところ、体積基準の平均粒径(D50)が1.5μmであった。そのスラリーを回収しスプレードライヤーで乾燥し造粒粉を得た。
こうして得られた造粒粉の成分のうち、酸化物セラミックス焼結体の結晶相を構成する母組成のMgO、Al23およびSiO2の含有量は、ガラスビ―ド蛍光X線法で分析し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%として評価した。また、MgO、Al23およびSiO2以外の成分の含有量は、La23が添加された造粒粉を直接蛍光X線分析して評価した。これらの分析結果を表2に示した。
こうして得られた造粒粉を99.6質量部とし、例1で作製された着色剤成分Aの粉末を0.4質量部加え、その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例5
着色剤成分Bとして、株式会社高純度化学研究所製Fe23、Cr23、Co23(それぞれ純度99.9%以上)を2:1:3の質量比で評量し、その混合粉100gを自動乳鉢に投入しペースト状になるまでエタノールを滴下して加えた。その後30分以上自動乳鉢混合と同時に必要に応じてエタノールを滴下することでペースト状を維持し、その後ペーストを回収して乾燥後、アルミナ乳鉢に入れて蓋をして大気中にて、1350℃で1hr以上加熱し、塊状の着色剤成分Bを得た。塊状の着色剤成分Bに対し、分散媒として、水を、着色剤成分Bの体積の1.5〜4倍添加し、分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を着色剤成分Bの質量の1.0質量%添加し、粉砕メディアとしてSUS球を用いたボールミル粉砕で微粉化した。粉砕過程で、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)を用いて、測定粉体をFe23と仮定の上で測定し、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、粉砕を終了した。その後、スラリーを回収し、スプレードライヤーで乾燥し着色剤成分Bの粉末を得た。ちなみに、この時得られた測定粉体の平均粒径(D50)は1.2μmであった。
基本調合粉を99.6質量部に、上記の様に作製された着色剤成分Bの粉末を0.4質量部加え、その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い。寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例6
着色剤成分Cとして、株式会社高純度化学研究所製Fe23、Cr23、Co23(それぞれ純度99.9%以上)を3:1:4の質量比で評量し、その混合粉100gを自動乳鉢に投入しペースト状になるまでエタノールを滴下して加えた。その後30分以上自動乳鉢混合と同時に必要に応じてエタノールを滴下することでペースト状を維持し、その後ペーストを回収して乾燥後、アルミナ乳鉢に入れて蓋をして大気中にて、1300℃で1hr以上加熱し、塊状の着色剤成分Cを得た。塊状の着色剤成分Cに対し、分散媒として、水を、着色剤成分Cの体積の1.5〜4倍添加し、分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を着色剤成分Cの質量の1.0質量%添加し、粉砕メディアとしてSUS球を用いたボールミル粉砕で微粉化した。粉砕過程で、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)を用いて、測定粉体をFe23と仮定の上で測定し、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、粉砕を終了した。その後、スラリーを回収し、スプレードライヤーで乾燥し着色剤成分Cの粉末を得た。ちなみに、この時得られた測定粉体の平均粒径(D50)は1.4μmであった。
基本調合粉を99.6質量部に、上記の様に作製された着色剤成分Cの粉末を0.4質量部に加え、その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例7
着色剤成分Dとして、株式会社高純度化学研究所製Cr23、MnO2、Co23(それぞれ純度99.9%以上)を1:1:0.2の質量比で評量し、その混合粉100gを自動乳鉢に投入しペースト状になるまでエタノールを滴下して加えた。その後30分以上自動乳鉢混合と同時に必要に応じてエタノールを滴下することでペースト状を維持し、その後ペーストを回収して乾燥後、アルミナ乳鉢に入れて蓋をして大気中にて、1410℃で1hr以上加熱し、塊状の着色剤成分Dを得た。塊状の着色剤成分Dに対し、分散媒として、水を、着色剤成分Dの体積の4倍添加し、分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を着色剤成分Dの質量の1.0質量%添加し、粉砕メディアとしてZrO2球を用いたボールミル粉砕で微粉化した。粉砕過程で、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)を用いて、測定粉体をFe34と仮定の上で測定し、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、粉砕を終了した。その後、スラリーを回収し、スプレードライヤーで乾燥し着色剤成分Dの粉末を得た。ちなみに、この時得られた測定粉体の平均粒径(D50)は1.5μmであった。
基本調合粉を99.2質量部に、上記の様に作製された着色剤成分Dの粉末を0.8質量部に加え、その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例8
着色剤Eとして、株式会社高純度化学研究所製Cr23、MnO2(それぞれ純度99.9%以上)を1:1の質量比で評量し、その混合粉100gを自動乳鉢に投入しペースト状になるまでエタノールを滴下して加えた。その後30分以上自動乳鉢混合と同時に必要に応じてエタノールを滴下することでペースト状を維持し、その後ペーストを回収して乾燥後、アルミナ乳鉢に入れて蓋をして大気中にて、1410℃で1hr以上加熱し、塊状の着色剤成分Eを得た。塊状の着色剤成分Eに対し、分散媒として、水を、着色剤成分Eの体積の1.5倍添加し、分散剤として、着色剤成分Eとして、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を着色剤成分Eの質量の1.0質量%添加し、粉砕メディアとしてZrO2球を用いたボールミル粉砕で微粉化した。粉砕過程で、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)を用いて、測定粉体をFe34と仮定の上で測定し、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、粉砕を終了した。ちなみに、この時得られた測定粉体の平均粒径(D50)は1.5μmであった。
基本調合粉を99.5質量部に上記の様に作製された着色剤成分Eの粉末を0.5質量部加え、その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例9
着色剤Fとして、株式会社高純度化学研究所製CuO、Cr23、MnO2(それぞれ純度99.9%以上)を1:1:0.2の質量比で評量し、その混合粉100gを自動乳鉢に投入しペースト状になるまでエタノールを滴下して加えた。その後30分以上自動乳鉢混合と同時に必要に応じてエタノールを滴下することでペースト状を維持し、その後ペーストを回収して乾燥後、アルミナ乳鉢に入れて蓋をして大気中にて、1370℃で1hr以上加熱し、塊状の着色剤成分Fを得た。塊状の着色剤成分Fに対し、分散媒として、水を、着色剤成分Fの体積の4倍添加し、分散剤として、着色剤成分Eとして、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を着色剤成分Eの質量の1.0質量%添加し、粉砕メディアとしてZrO2球を用いたボールミル粉砕で微粉化した。粉砕過程で、レーザー散乱式測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名;Partica LA−9502)を用いて、測定粉体をFe34と仮定の上で測定し、平均粒径(D50)が2μm以下であることを確認した後、粉砕を終了した。ちなみに、この時得られた測定粉体の平均粒径(D50)は1.5μmであった。
基本調合粉を99.2質量部に上記の様に作製された着色剤成分Fの粉末を0.8質量部加え、その混合処理以降は、例1同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例10
基本調合粉を99.0質量部に対し、例1で作製された着色剤成分Aの粉末を1.0質量部加え、その後の混合処理以降は、例1同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例11
基本調合粉を99.8質量部に対し、例1で作製された着色剤成分Aの粉末を0.25質量部に加え、その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例12
1300℃以上の温度で焼成することでコーディエライト結晶相となる丸ス釉薬合資会社製商品名;AF−2(これは粘土やMgを含む粘土鉱物であるタルク等を、コーディエライト組成とした混合粉である)を、粘土等に含まれる結晶水や混入している有機物等を除去するため、大気中にて1000℃で1hr以上加熱した後、住友化学株式会社製アルミナ、商品名;AKP50、株式会社高純度化学研究所製MgO(純度99.9%)等を加え、MgO、Al23およびSiO2が、表1に示す質量比をなるように調合した。調合粉の成分のうち、酸化物セラミックス焼結体の結晶相を構成する母組成のMgO、Al23およびSiO2の含有量は、ガラスビ―ド蛍光X線法で分析し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%として評価した。また、MgO、Al23およびSiO2以外の成分の含有量は、調合粉を直接蛍光X線分析して評価した。これらの分析結果を表3に示した。
表3の分析値が表1と大きく異なるのはMgO、Al23およびSiO2以外の成分の含有量が、着色剤成分を添加する前の状態で、2.0質量%を超えている点である。これは、使用したAF−2が粘土やタルク等の天然原料を用いているため、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属の酸化物等の混入が避けられないためである。
表3に示す調合粉を99.7質量部に対し、例1で作製された着色剤成分Aの粉末を0.3質量部加え、分散媒として、水を、調合粉の体積の4倍添加し、分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を調合粉の質量の1.0質量%添加し、鉄芯入り樹脂製ボールを用いた湿式ボールミルで24hr混合処理した。なお、例1での混合処理時間が3hrであったのに、AF−2が二種類以上粘土鉱物等の混合物であるため、より均一な混合状態とさせるために、混合処理時間を24hrとした。その後、スプレードライヤーで乾燥し造粒粉を得た。
その後の混合処理以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例13
上記した(基本調合粉の調合、粉砕、乾燥)で作製され、表1の組成である基本調合粉100.0質量部と、成形用の有機バインダーと、の混合処理を行った。混合処理として鉄芯入り樹脂製ボールを使用し、分散媒として、水を、基本調合粉の体積の4倍添加し、分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(中京油脂株式会社製、商品名;セルナD305)を基本調合粉の質量の1質量%添加し、有機バインダーとしてPVA(中京油脂社製、商品名;セルナWF804)を基本調合粉の質量の2質量%添加して湿式ボールミルで3hr〜5hrの間混合処理した。その後、スプレードライヤーで乾燥し造粒粉を得た。
その後のプレス成形以降は、例1と同様の工程を行い寸法100×100×30mmの評価用試料を得た。
例1〜13で得られたセラミックス焼結体を構成する結晶相を、X線回折装置(株式会社リガク社製、装置名;RINT2500)を用いて同定したところ、コーディエライト相、ムライト相およびサフィリン相の3相を含むことがわかった。測定は、CuKα線を使用し、管電圧は50kV、管電流は50mAとした。そして、得られたX線スペクトルにおいて、ムライト相のピーク(2θ=30.7〜31.3°)の強度をImとし、サフィリン相のピーク(27.0°≦2θ≦27.5°)の強度をIsとし、それぞれのピーク強度とコーディエライト相のピーク(28.3°≦2θ≦29.0°)の強度Icとの比を測定した。その結果、例1〜13で得られたセラミックス焼結体中のムライト相とコーディエライト相との強度比(Im/Ic)は0.023、サフィリン相とコーディエライト相との強度比(Is/Ic)は0.017となった。そして、サフィリン相およびムライト相において、コーディエライト相との強度比が0.001以上0.05以下の範囲にあり、サフィリン相およびムライト相が存在することが確認された。
また、得られたセラミックス焼結体のヤング率、嵩密度、開気孔率、比剛性、熱膨張率、及び色調を、それぞれ以下に示す方法で測定した。これらの結果を表4および表5に示す。
[ヤング率]
ヤング率は、JIS R1602で定める超音波パルス法によって測定した。
[嵩密度および開気孔率]
嵩密度および開気孔率は、JIS R1634で定めるアルキメデス法によって測定した。
[比剛性]
比剛性は、上述した方法で求めたヤング率を嵩密度で除することで算出した。
[熱膨張率]
半導体露光装置が使用される温度領域である21〜23℃における平均熱膨張率を、レーザーヘテロダイン干渉式熱膨張計(ユニオプト社製、装置名;CTE−01)を用いて測定した。
[色調(明度)]
色調(明度)は、JIS Z8729に規定されるL*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)表色の測定結果の明るさの尺度(以下、明度L*値と示す)から評価し、装置としては、色調簡易型分光色差計(日本電色工業社製、装置名;NF333)を用いた。以下に各試料についての評価手順を示す。
(1)HIP処理炉内の還元変色の影響を除去するため、焼結体全面を300μm〜500μm研削加工を行う。
(2)試料の明度L*は、試料上面(焼成時フリー面)と試料下面(焼成時に棚板との接触面)の明度L*値を測定し、その平均値で評価した。
表4および表5にまとめられた結果から以下の点が確認された。
(1)全ての例(例1〜13)が、コーディエライト相とムライト相およびサフィリン相の3相を結晶相として有する酸化物セラミックス焼結体であること。
(2)本発明の実施例である例1〜9から、コージェライト化された原料から調合された基本調合粉のみで作製された試料(例13)との物性の比較から、着色剤成分を0.3質量%以上1.0質量%未満添加することは、ヤング率や熱膨張率などに変化を及ぼさずに、明度L*40〜65のレーザー等のセンサー光の透過、散乱を起さず、かつ、鏡化を起さない灰色化された酸化物セラミックスが得られること。
(3)本発明の実施例の中には、着色剤成分の添加による密度の増加によって、比剛性率が57.3m2/s2から57.2m2/s2へとわずかに低下した例(例1)もあったが、比剛性率としては56.5m2/s2以上であればよく問題とならないこと。
(4)着色剤成分を1.0質量%添加した例10(比較例)については、明度L*は38と暗くなり、着色剤を0.25質量%添加した例11(比較例)については、明度L*が70と明るくなり、明度L*が40〜65の範囲を満たさないこと。ちなみに例10で得られた明度L*=38は、色調によっては、反射や写りこみが起こりはじめる、明度L*=40を下回る明度であり、例11で得られた明度L*70は、レーザー等のセンサー光の透過、散乱が起こりうる明度である。
また着色剤成分を添加しない例13(比較例)の試料では、試料上面、試料内部、試料下面共に明度L*80以上を示し、この明度は肉眼的には白色であった。
(5)例12(比較例)に示すように、酸化物セラミックス焼結体の結晶相を構成する母組成であるSiO2、Al23、MgOの各質量比を合わせても、コーディエライト化されていない調合粉の使用や、SiO2、Al23、MgO以外の含有量が2.0質量%を超えた場合、21〜23℃における室温での平均熱膨張率が0±0.20×10-6/℃の範囲とならないこと。例12において、コーディエライト化された原料を使用せず、SiO2、Al23、MgO以外の含有量が2.0質量%を超えた場合に、21〜23℃における平均熱膨張率が増加したのは、原料中に含まれるアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属の酸化物、あるいは、その他の不純物元素の酸化物が、コーディエライト相、ムライト相、サフィリン相に焼成時に拡散して固溶体を形成したり、高熱膨張率のガラス相を形成したためと考えられる。
原料混合物に希土類元素の酸化物であるLa23を0.15質量%添加した例4の酸化物セラミックス焼結体の特性を、La23の添加を行わなかった例3の酸化物セラミックス焼結体と比較したところ、ヤング率、嵩密度、開気孔率、熱膨張率はほぼ同じで、例3と例4とで優位性は確認されない。この結果から、0.15質量%のLa23を添加することで、特に物性を向上させるものではないが、着色剤成分をより低温で溶融させる点や、焼成工程後半の降温時に着色剤成分等の結晶化が防止される等効果が考えられるため、希土類の酸化物、特にLa23を0.15質量%以下添加することは、より大きな製品を製造する際の、色ムラの抑制や製品内の材料特性の均一化、安定化には寄与されるものと考えられる。
本発明によれば、室温付近における熱膨張率が0に極めて近いうえに、低密度で高いヤング率および高い比剛性を有し、適度の明るさの灰色の色調を有する酸化物セラミックス焼結体を得ることができる。そして、この酸化物セラミックス焼結体を、半導体露光プロセス等における精密機器の部材として用いることで、位置決め用レーザーの透過、散乱等や画像処理等を行う際の障害となる映り込みを防止するとともに、室温付近の温度変化に伴う部材の寸法変化や、高速移動直後の静止時に発生する部材の振動を抑制し、半導体装置の生産性や測定精度を向上させることができる。特に、半導体露光装置における高精度の位置決めを要するX−Yステージ、自動焦点機構を有する光学用鏡筒等に適用できる。

Claims (5)

  1. 結晶相としてコーディエライト、ムライトおよびサフィリンの3相を含む酸化物セラミックス焼結体であって、結晶相を構成する母組成として、MgO、Al23およびSiO2を含有し、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下含有し、前記母組成以外に、着色剤成分として、Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を0.3質量%以上1.0質量%未満含有し、明度がJIS Z8729に規定されるL*(エルスター)の値で40〜65であり、21℃〜23℃における平均熱膨張率が−0.2×10-6/℃以上0.2×10-6/℃以下であり、かつ、ヤング率が140GPa以上であることを特徴とする酸化物セラミックス焼結体。
  2. 前記母組成以外の元素の酸化物を、前記着色剤成分を含めて、2質量%未満含有する、請求項1に記載の酸化物セラミックス焼結体。
  3. 下記工程(1a)〜(4)を有する、請求項1または2に記載の酸化物セラミックス焼結体の製造方法。
    (1a)Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む酸化物を、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下の成分比となるように調合し、その後、1300℃以上1450℃以下の温度で加熱して、結晶相がコーディエライト相、ムライト相、および、サフィリン相を有する酸化物とした後、該酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下の粉末を得る工程。
    (2)Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を1300℃以上1440℃以下の温度で加熱した後、前記酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下の着色剤成分の粉末を得る工程。
    (3)前記工程(1a)で得られた粉末と、前記工程(2)で得られた着色剤成分の粉末と、を、前記着色剤成分の粉末の含有割合が0.3質量%以上1.0質量%未満となるよう混合する工程。
    (4)前記工程(3)で得られた混合物を1410℃以上1450℃以下の温度で焼成する工程。
  4. 下記工程(1b)〜(4)を有する、請求項1または2に記載の酸化物セラミックス焼結体の製造方法。
    (1b)Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む酸化物を、MgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOを12質量%以上14質量%以下、Al23を34質量%以上39質量%以下、SiO2を47質量%以上51質量%以下の成分比となるように調合し、その後該調合物を加熱溶融した後、急冷してガラス化し、該ガラスを1280℃以上1450℃以下の温度で結晶化させて、結晶相がコーディエライト相、ムライト相、および、サフィリン相を有する酸化物とした後、該酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下の粉末を得る工程。
    (2)Fe、Cr、Co、Cu、および、Mnからなる群から選択される二種以上の元素の酸化物を1300℃以上1440℃以下の温度で加熱した後、前記酸化物を粉砕して、平均粒径(D50)が2μm以下の着色剤成分の粉末を得る工程。
    (3)前記工程(1b)で得られた粉末と、前記工程(2)で得られた着色剤成分の粉末と、前記着色剤成分の粉末の含有割合が0.3質量%以上1.0質量%未満となるよう混合する工程。
    (4)前記工程(3)で得られた混合物を1410℃以上1450℃以下の温度で焼成する工程。
  5. Mg、AlおよびSiのうち、1種以上の元素を含む平均粒径2μm以下の酸化物を、混合後のMgO、Al23およびSiO2の含有量の合計を100質量%とした場合に、MgOが12質量%以上14質量%以下、Al23が34質量%以上39質量%以下、SiO2が47質量%以上51質量%以下となることを条件として、前記工程(1a)または(1b)で得られたコーディエライト化された粉末100質量部に対して、10質量部以下の範囲で添加する、請求項3または4に記載の酸化物セラミックス焼結体の製造方法。
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