JP2016003355A - 陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法、希土類元素の回収方法 - Google Patents

陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法、希土類元素の回収方法 Download PDF

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Ryohei Mori
良平 森
近沢 孝弘
Takahiro Chikasawa
孝弘 近沢
山本 琢磨
Takuma Yamamoto
琢磨 山本
宏文 竹之内
Hirofumi Takenouchi
宏文 竹之内
裕亮 藤田
Yusuke Fujita
裕亮 藤田
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Abstract

【課題】希土類元素、放射性元素およびFeを含む装荷抽出溶媒の有機相から、希土類元素、放射性元素およびFeを取り除いて、この有機相を再利用することを可能にする。
【解決手段】希土類元素、放射性元素およびFeを含む原料を陽イオン交換型抽出剤に溶解させた装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合させ、混合液を生成する混合工程と、該混合液を静置して、前記陽イオン交換型抽出剤を主体とする有機相、前記放射性元素およびFeが溶解した水相、および前記希土類元素を主体とした固形物相を生成する分相工程と、前記有機相を前記水相および前記固形物相から分離させる有機相分離工程と、を備えている。
【選択図】図1

Description

この発明は、陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法、および陽イオン交換型抽出剤を用いた希土類元素の回収方法に関する。
希土類元素を含む原料、例えば、バストネサイト、モナザイトなどの鉱石から希土類元素を抽出する方法の1つとして、陽イオン交換型抽出剤(以下、単に抽出剤と称することがある)を用いた希土類元素の抽出方法が知られている。こうした抽出剤を用いた希土類元素の抽出方法は、抽出剤を有機溶媒に希釈した抽出溶媒からなる有機相(有機溶液相)に、希土類元素を含む水溶液からなる水相(水溶液相)を加え、撹拌等によって所望の希土類元素を有機相に移行させることによって、希土類元素を含む水溶液から所望の希土類元素だけを選択的に抽出する方法である。
抽出剤を用いた希土類元素の抽出においては、希土類元素の抽出率は水相の水素イオン濃度指数(以下、pHと称する)によって変化し、高濃度の酸が存在する環境では抽出率が低下する希土類元素が多い。希土類元素の抽出溶媒による抽出では、こうした性質を利用して、有機相に溶解した希土類元素を高濃度の酸を用いて水相に移行させて回収する。このように、抽出溶媒に溶解させた元素を水相に移行させて回収することを、一般的に逆抽出と称する。また、逆抽出に用いる水相液を逆抽出液と称する。例えば、特許文献1では、鉄イオンを抽出した抽出溶媒(以降、元素を抽出させた抽出溶媒を単に装荷抽出溶媒と称することがある)から逆抽出することによって回収する技術が記載されている。
希土類元素の回収に用いる抽出剤は、一般的に高価なものが多く、希土類元素の回収を低コストに行うために、多くの場合、抽出溶媒は繰り返し使用される。しかしながら、希土類元素を含む原料の中には、抽出剤と強固に結合する元素が存在し、これら元素の一部は、高濃度の酸による逆抽出が困難である。こうした高濃度の酸では逆抽出が困難な元素は、抽出溶媒に溶解された状態で残り、この抽出溶媒を繰り返し使用するたびに抽出剤中に蓄積し続け、逆抽出が困難な元素が飽和すると、この抽出剤の抽出、分離能力は失われる。
抽出剤と強固に結合し、逆抽出が困難な元素としては、中重希土類元素、Fe、U、Thなどが挙げられる。このうち、中重希土類元素は、原子番号が62〜71の元素、即ち、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luであり、逆抽出時に一部が抽出剤中に残留する。また、U、Thは、放射性元素であり、逆抽出時にほぼ全量が抽出剤中に残留する。Feは放射能を持たないが、逆抽出時にほぼ全量が抽出剤に残留する。
特許第2636940号公報
しかしながら、従来のように、有機相に溶解した元素を、高濃度の酸を用いて水相に移行させて回収する逆抽出方法では、抽出剤と中重希土類元素、放射性元素およびFeとが強く結合して有機相に残留するため、この有機相を抽出剤として再利用することが困難であるという課題があった。
また、中重希土類元素、放射性元素およびFeとが共に含まれている有機相から、中重希土類元素だけを分離して回収することが困難であるという課題があった。
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、陽イオン交換型抽出剤によって抽出された希土類元素、放射性元素およびFeとを含む装荷抽出溶媒から、希土類元素と放射性元素とを取り除いて、装荷抽出溶媒を陽イオン交換型抽出剤として再利用を可能にする陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法を提供する。
また、この発明は、陽イオン交換型抽出剤によって抽出された希土類元素、放射性元素およびFeとを含む装荷抽出溶媒から、希土類元素だけを分離して回収することを可能にする希土類元素の回収方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、希土類元素、放射性元素およびFeを含む原料を陽イオン交換型抽出剤に溶解させた装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を用いて洗浄を行うことによって、放射性元素およびFeと希土類元素とが互いに異なる相に移行すること見出した。
本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法は、少なくとも希土類元素、放射性元素およびFeが陽イオン交換型抽出剤に溶解した装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合させ、混合液を生成する混合工程と、該混合液を静置して、前記陽イオン交換型抽出剤を主体とする有機相、前記放射性元素およびFeが溶解した水相、および前記希土類元素を主体とする固形物相を生成する分相工程と、前記有機相を前記水相および前記固形物相から分離させる有機相分離工程を備えたことを特徴とする。
本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法によれば、少なくとも希土類元素、放射性元素およびFeを含む装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合して洗浄することによって、希土類元素を固形物相に、放射性元素およびFeを水相に、それぞれ移行させることができる。これによって、装荷抽出溶媒の有機相から希土類元素、放射性元素およびFeが取り除かれるので、この有機相を陽イオン交換型抽出剤としての再利用を可能にすることができる。
前記混合工程における、前記装荷抽出溶媒に対する前記炭酸アルカリ塩水溶液の添加量は、前記分相工程で生成する水相のpHを9.0以上にできる量以上であることを特徴とする。
水相のpHを9.0以上にすることによって、希土類元素、放射性元素およびFeを高い移行率で固形物相および水相に移行させて、有機相に含まれる希土類元素の濃度を低減することができるので、装荷抽出溶媒の洗浄効果を高めることが可能になる。
本発明では、前記炭酸アルカリ塩は、炭酸ナトリウム(NaCO)であることを特徴とする。
炭酸アルカリ塩として、NaCOを用いることによって、希土類元素を高い移行率で固形物相に移行させ、また、放射性元素およびFeを高い移行率で水相に移行させて、有機相に含まれる希土類元素、放射性元素およびFeの濃度を低減することができるので、装荷抽出溶媒の再利用が可能になる。
本発明では、前記有機相分離工程の後工程であって、前記分相工程において生じた第一の有機相、第二の有機相、および高濃度酸とを混合して、前記第一の有機相および前記第二の有機相を単一の相からなる第三の有機相にする抽出剤再生工程を更に備えたことを特徴とする。
これによって、分相工程の過程で有機相が2相に分相した場合であっても、2相に分相した有機相を1相に戻して、再利用することが可能になる。
本発明では、前記抽出剤再生工程において、前記高濃度酸の添加量は、前記陽イオン交換型抽出剤と前記高濃度酸との反応当量に対して、1/3倍以上であることを特徴とする。
抽出剤再生工程での高濃度酸の添加量を上述した量以上にすることによって、2相に分相して生じた第一の有機相と第二の有機相とを、完全に単一の相からなる第三の有機相にすることができる。
本発明の希土類元素の回収方法は、少なくとも希土類元素、放射性元素およびFeが陽イオン交換型抽出剤に溶解した装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合させ、混合液を生成する混合工程と、該混合液を静置して、前記陽イオン交換型抽出剤を主体とする有機相、前記放射性元素およびFeが溶解した水相、および前記希土類元素を主体とする固形物相を生成する分相工程と、前記固形物相を前記有機相および前記水相から分離させる固形物相分離工程を備えたことを特徴とする
本発明の希土類元素の回収方法によれば、希土類元素と放射性元素およびFeとを、互いに異なる相に移行させて分別することができる。これによって、希土類元素、放射性元素およびFeが陽イオン交換型抽出剤に溶解した装荷抽出溶媒から、希土類元素だけを回収することが可能になる。
前記混合工程における、前記装荷抽出溶媒に対する前記炭酸アルカリ塩水溶液の添加量は、前記分相工程で水相のpHを9.0以上にできる量以上であることを特徴とする。
水相のpHを9.0以上にすることによって、希土類元素、放射性元素およびFeを高い移行率で固形物相および水相に移行させて、有機相に含まれる希土類元素の濃度を低減することができるので、装荷抽出溶媒の再利用が可能になる。
本発明では、前記炭酸アルカリ塩は、NaCOであることを特徴とする。
炭酸アルカリ塩として、NaCOを用いることによって、希土類元素を高い移行率で水相および固形物相に移行させ、また、放射性元素およびFeを高い移行率で水相に移行させることができる。これによって、放射性元素を殆ど含まない純度の高い希土類元素を固形物相で回収することが可能になる。
本発明では、前記希土類元素は、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luであることを特徴とする。
こうしたSm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素であっても、本発明の希土類元素の回収方法によって、装荷抽出溶媒から固形物相に移行させて回収することが可能になる。
本発明では、前記固形物相分離工程は、前記有機相および前記水相の少なくともいずれか一方と、前記固形物相とを濾過して、前記固形物相を回収する工程であることを特徴とする。
これによって、有用な希土類元素が移行した固形物相を、有機相から容易に分離して回収することができる。
本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法によれば、少なくとも希土類元素、放射性元素およびFeを含む装荷抽出溶媒の有機相から、希土類元素、放射性元素およびFeを取り除いて、この有機相を陽イオン交換型抽出剤として再利用することが可能になる。
また、本発明の希土類元素の回収方法によれば、陽イオン交換型抽出剤に希土類元素、放射性元素およびFeとが共に溶解された装荷抽出溶媒から希土類元素だけを分離、回収することが可能になる。
本発明の第一実施形態における陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法を示すフローチャートである。 分相工程後の装荷抽出溶媒の様子を示す模式図である。 本発明の第二実施形態における陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法を示すフローチャートである。 本発明の希土類元素の回収方法を示すフローチャートである。 検証例1の結果を示すグラフである。 検証例5の結果を示すグラフである。
以下、図面を参照して、本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法、および希土類元素の回収方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
(陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法:第一実施形態)
本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法の一例について説明する。
図1は、陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法を含む、希土類元素含有原料の処理工程全体を段階的に示したフローチャートである。
まず、希土類元素、放射性元素およびFeを共に含む原料、例えば、バストネサイト、モナザイトなどの鉱石を強酸などの溶媒によって溶解し、原料を溶解した原料溶液を形成する(原料溶解工程S1)。そして、この原料溶液を、陽イオン交換型抽出剤と混合した後、静置して、有機相と水相に分離する(溶媒抽出工程S2)。
原料から各種元素の抽出に用いる陽イオン交換型抽出剤としては、例えば、2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシル−ホスホン酸(PC−88A)、ビス(2−エチルヘキシル)リン酸(B2EHPA)、ジ−2−エチルヘキシルリン酸(D2EHPA)、モノ−2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル(M2EHPA)などが挙げられる。本実施形態では、陽イオン交換型抽出剤としてPC−88Aを用いた。
PC−88Aは、予め有機溶媒、例えばケロシンに溶解して希釈しておくことが好ましい。PC−88Aの希釈濃度は、例えば、20vol%以上、50vol%以下の範囲にすることが好ましい。本実施形態では、PC−88Aの濃度が20−50vol%となるようにケロシンに溶解したPC−88Aのケロシン溶液を用いている。なお、PC−88Aを溶解する有機溶媒としては、ケロシン以外にも、例えば、ドデカン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
PC−88Aのケロシン溶液は、予め鹸化処理を行うことが好ましい。PC−88Aは、希土類元素を抽出する際に、水酸基を構成する酸素と希土類元素とが結合して水素イオンを放出するために、水相のpHが低下する。こうしたpHの変動があると、希土類元素の各元素どうしを正確に分離するために必要な水相の正確なpH制御が難しくなり、目的元素の効率的な抽出が難しくなる。このため、希土類元素の抽出時に水相のpH低下を抑制する目的で、例えば、アンモニアガスロード槽において、陽イオン交換型抽出剤を溶解した有機溶媒中にアンモニア有機化合物を形成したり、水酸化物を添加することによって、希土類元素抽出時のpHの変動を抑制することができる。
溶媒抽出工程S2において、有機相と水相のそれぞれに希土類元素および不純物が移行する。このうち、水相に残留する希土類元素としては、例えば、La、Ceなどが挙げられる。一方、有機相には、装荷抽出溶媒と結合した希土類元素、放射性元素およびFeを含む不純物が移行される。溶媒抽出工程S2において分離された水相は、例えば、多段分離工程S3によって、各元素に分離される。
一方、溶媒抽出工程S2において分離された有機相は、希土類元素を水相へ移行させるために高濃度酸と混合した後、静置して、有機相と水相に分離する(逆抽出工程S4)。この逆抽出工程S4に用いる高濃度酸としては、例えば、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液などが挙げられる。一例として、濃度が2〜5mol/Lの塩酸水溶液を高濃度酸として用いる。
こうした逆抽出工程S4によって、中重希土類元素(Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の一部と、U,Thなどの放射性元素およびFeを除く元素は水相に移行し、この水相から更に多段分離工程S5によって、各元素を分離する。一方、上述した中重希土類元素の一部、放射性元素、およびFeは、水相にはほとんど移行せず、有機相に留まったままである。例えば、放射性元素であるUの逆抽出工程S4による水相移行率は、約3%程度である。
逆抽出工程S4によって生じた有機相(装荷抽出溶媒)は、本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法である溶媒洗浄工程S6によって処理される。溶媒洗浄工程S6は、混合工程S6aと、分相工程S6bと、有機相分離工程S6c、および抽出剤再生工程S7とからなる。有機相分離工程S6cは、更に第一分離工程S6c1と第二分離工程S6c2とからなる。
まず、逆抽出工程S4を経て得られた、中重希土類元素、放射性元素およびFeが溶解した有機相(装荷抽出溶媒)に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合し、有機相(装荷抽出溶媒)と炭酸アルカリ塩水溶液との懸濁混合液を生成する(混合工程S6a)。有機相(装荷抽出溶媒)と炭酸アルカリ塩水溶液との混合は、振とう、撹拌によって行う。こうした炭酸アルカリ塩水溶液の混合によって、炭酸塩および炭酸錯体が形成される。
有機相(装荷抽出溶媒)に加える炭酸アルカリ水溶液としては、例えば、NaCO水溶液を用いることができる。NaCO水溶液の有機相に対する添加量は、後述する分相工程で生成する水相のpHを9.0以上に維持できる量以上とする。一例として、有機相(装荷抽出溶媒)100mlに対して、濃度1.5mol/L(16重量%)のNaCO水溶液を100ml加える。
次に、混合工程S6aで得られた懸濁混合液を静置して、有機相、水相、および固形物相に分相する(分相工程S6b)。分相工程S6bによって、懸濁混合液は、図2に示すように、第一の有機相11、第二の有機相12、水相13、および固形物相14に分相する。
第一の有機相11は、ケロシンを主体とした相である。また、第二の有機相12はPC−88Aを主体とした相である。水相13は、炭酸アルカリ水溶液の添加によって生じた炭酸錯体によって、放射性元素およびFeの大半が溶解した相である。固形物相14は、第一の有機相11と第二の有機相12との界面付近に生じた相であり、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素を主体としたゲル状の固体からなる。
次に、上相側にある第一の有機相11、第二の有機相12、固形物相14と、水相13とを比重差によって、相分離する(第一分離工程S6c1)。分離された水相13は、放射性元素(例えばU,Th)およびFeの大半が移行し溶解している。こうした第一分離工程S6c1によって、有機相(装荷抽出溶媒)に含まれていた放射性元素であるU,Thは、70〜100%の割合で、Feは94〜95%の割合で水相13に移行させることができ、第一の有機相11、第二の有機相12に残る放射性元素およびFeの濃度を極めて低くすることができる。
次に、第一分離工程S6c1で分離された第一の有機相11、第二の有機相12および固形物相14を、濾材に透過させることによって濾過し、固形物相14を濾材で捕捉する(第二分離工程S6c2)。これによって、第一の有機相11および第二の有機相12と、固形物相14とが分離される。
濾過によって分離された固形物相14は、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素を多く含んでいる。こうした固形物相14は、更に精製することによって、それぞれの中重希土類元素を得ることができる。
一方、第二分離工程S6c2で固形物相14が除去された第一の有機相11、第二の有機相12は、次に、高濃度酸と混合した後、静置して、第一の有機相と第二の有機相を、単一の相からなる第三の有機相にする(抽出剤再生工程S7)。この第三の有機相は、例えば、PC−88Aのケロシン溶液からなる。なお、第三の有機相の下層には、高濃度酸からなる水相が形成される。この抽出剤再生工程S7に用いる高濃度酸としては、例えば、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液などが挙げられる。本実施形態では、濃度が2mol/Lの塩酸を高濃度酸として用いる。
なお、抽出剤再生工程S7における高濃度酸の添加量は、PC−88Aと高濃度酸との反応当量に対して、1/3倍以上にすることが好ましい。これによって、第一の有機相と第二の有機相とを、完全に単一の相(1相)からなる第三の有機相にすることができる。
そして、第三の有機相と水相(高濃度酸)とを相分離することにより、第三の有機相が得られる。分離された第三の有機相は、中重希土類元素、放射性元素およびFeが殆ど除去されているので、溶媒抽出工程S2で用いる装荷抽出溶媒(PC−88Aのケロシン溶液)として、再利用することができる。一方、高濃度酸を含む水相は、中和処理を行った後に排出される(S8)。
(陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法:第二実施形態)
以下に示す陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法の第二実施形態は、上述した第一実施形態のうち、溶媒洗浄工程を他の手順で行う例である。よって、溶媒洗浄工程の前工程、および後工程は、第一実施形態と同様であり、その説明は省略する。
図3は、第二実施形態における陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法を段階的に示したフローチャートである。
逆抽出工程S4によって生じた中重希土類元素、放射性元素およびFeを含む有機相(装荷抽出溶媒)は、溶媒洗浄工程S11によって、中重希土類元素と放射性元素およびFeとを分離する。溶媒洗浄工程S11は、混合工程S11aと、分相工程S11bと、有機相分離工程S11cとからなる。有機相分離工程S11cは、更に第三分離工程S11c1と第四分離工程S11c2とからなる。
まず、逆抽出工程S4を経て得られた有機相に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合し、有機相(装荷抽出溶媒)と炭酸アルカリ塩水溶液との懸濁混合液を生成する(混合工程S11a)。有機相(装荷抽出溶媒)と炭酸アルカリ塩水溶液との混合は、振とう、撹拌によって行う。こうした炭酸アルカリ塩水溶液を混合によって、炭酸塩および炭酸錯体が形成される。
有機相(装荷抽出溶媒)に加える炭酸アルカリ水溶液としては、例えば、NaCO水溶液を用いることができる。NaCO水溶液の有機相に対する添加量は、後述する分相工程で生成する水相のpHを9.0以上に維持できる量以上とする。
次に、混合工程S11aで得られた懸濁混合液を静置して、有機相、水相、および固形物相に分相する(分相工程S11b)。図2に示すように、分相工程S11bによって、混合液は、第一の有機相11、第二の有機相12、水相13、および固形物相14が生じる。
第一の有機相11は、ケロシンを主体とした相である。また、第二の有機相12はPC−88Aを主体とした相である。水相13は、炭酸アルカリ水溶液の添加によって生じた炭酸錯体によって、放射性元素およびFeの大半が溶解した相である。固形物相14は、第一の有機相11と第二の有機相12との界面付近に生じた相であり、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素を主体としたゲル状の固体からなる。
次に、液体相である第一の有機相11、第二の有機相12および水相13と、固体相である固形物相14とを、濾材に透過させることによって濾過し、固形物相14を濾材で捕捉する(第三分離工程S11c1)。これによって、第一の有機相11、第二の有機相12および水相13と、固形物相14とが分離される。
濾過によって分離された固形物相14は、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素を多く含んでいる。こうした固形物相14は、更に精製することによって、それぞれの中重希土類元素を得ることができる。
次に、第一の有機相11および第二の有機相12と、水相13とを、比重差によって相分離する(第四分離工程S11c2)。分離された水相13は、放射性元素(例えばU,Th)およびFeの大半が移行し溶解している。こうした第四分離工程S11c2によって、有機相(装荷抽出溶媒)に含まれていた放射性元素であるU,Thは、70〜100%の割合で、Feは94〜95%の割合で水相13に移行させることができ、第一の有機相11、第二の有機相12に残る放射性元素およびFeの濃度を極めて低くすることができる。
この後、第一の有機相11、第二の有機相12は、抽出剤再生工程S7によって、単一の相からなる第三の有機相にする。
以上、段階的に説明したように、本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法によれば、逆抽出工程S4を経て得られた、中重希土類元素、放射性元素およびFeとを含む有機相(装荷抽出溶媒)に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合して洗浄することによって、中重希土類元素の多くを固形物相に、放射性元素とFeの多くを水相に、それぞれ移行させることができる。これによって、中重希土類元素と放射性元素およびFeとを、有機相(装荷抽出溶媒)から取り除いて、この有機相を陽イオン交換型抽出剤として再利用することが可能になる。
(希土類元素の回収方法)
本発明の希土類元素の回収方法の一例について説明する。
図4は、本発明の希土類元素の回収方法を含む、希土類元素含有原料の処理工程全体を段階的に示したフローチャートである。
まず、希土類元素、放射性元素およびFeを共に含む原料、例えば、バストネサイト、モナザイトなどの鉱石を強酸などの溶媒によって溶解し、原料を溶解した原料溶液を形成する(原料溶解工程S21)。そして、この原料溶液を、陽イオン交換型抽出剤と混合した後、静置して、有機相と水相に分離する(溶媒抽出工程S22)。
原料から各種元素の抽出に用いる陽イオン交換型抽出剤としては、例えば、2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシル−ホスホン酸(PC−88A)、ビス(2−エチルヘキシル)リン酸(B2EHPA)、ジ−2−エチルヘキシルリン酸(D2EHPA)、モノ−2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル(M2EHPA)などが挙げられる。本実施形態では、陽イオン交換型抽出剤としてPC−88Aを用いた。
PC−88Aは、予め有機溶媒、例えばケロシンに溶解して希釈しておくことが好ましい。PC−88Aの希釈濃度は、例えば、20vol%以上、50vol%以下の範囲にすることが好ましい。本実施形態では、PC−88Aの濃度が20−50vol%となるようにケロシンに溶解したPC−88Aのケロシン溶液を用いている。なお、PC−88Aを溶解する有機溶媒としては、ケロシン以外にも、例えば、ドデカン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
PC−88Aのケロシン溶液は、予め鹸化処理を行うことが好ましい。PC−88Aは、希土類元素を抽出する際に、水酸基を構成する酸素と希土類元素とが結合して水素イオンを放出するために、水相のpHが低下する。こうしたpHの変動があると、希土類元素の各元素どうしを正確に分離するために必要な水相の正確なpH制御が難しくなり、目的元素の効率的な抽出が難しくなる。このため、希土類元素の抽出時に水相のpH低下を抑制する目的で、例えば、アンモニアガスロード槽において、陽イオン交換型抽出剤を溶解した有機溶媒中にアンモニア有機化合物を形成したり、水酸化物の添加することによって、希土類元素抽出時のpHの変動を抑制することができる。
溶媒抽出工程S22において、有機相と水相のそれぞれに希土類元素および不純物が移行する。
このうち、水相に残留する希土類元素としては、例えば、La、Ceなどが挙げられる。一方、有機相には、抽出剤と結合した希土類元素および放射性元素を含む不純物が移行される。溶媒抽出工程S22において分離された水相は、例えば、多段分離工程S23によって、各元素に分離される。
一方、溶媒抽出工程S22において分離された有機相は、高濃度酸と混合した後、静置して、有機相と水相に分離する(逆抽出工程S24)。この逆抽出工程S24に用いる高濃度酸としては、例えば、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液などが挙げられる。一例として、濃度が2〜5mol/Lの塩酸水溶液を高濃度酸として用いる。
こうした逆抽出工程S24によって、中重希土類元素(Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の一部と、U,Thなどの放射性元素、およびFeを除く元素は水相に移行し、この水相から更に多段分離工程S25によって、各元素を分離する。一方、上述した中重希土類元素の一部、放射性元素およびFeは、水相にはほとんど移行せず、有機相に留まったままである。例えば、放射性元素であるUの逆抽出工程S24による水相移行率は、約3%程度である。
逆抽出工程S24によって生じた有機相(装荷抽出溶媒)は、本発明の希土類元素の回収方法である希土類元素回収工程S26によって処理される。希土類元素回収工程S26は、混合工程S26aと、分相工程S26bと、固形物相分離工程S26cとからなる。固形物相分離工程S26cは、更に第五分離工程S26c1と第六分離工程S26c2とからなる。
まず、逆抽出工程S24を経て得られた、中重希土類元素、放射性元素およびFeが溶解した有機相(装荷抽出溶媒)に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合し、有機相(装荷抽出溶媒)と炭酸アルカリ塩水溶液との懸濁混合液を生成する(混合工程S26a)。有機相(装荷抽出溶媒)と炭酸アルカリ塩水溶液との混合は、振とう、撹拌によって行う。こうした炭酸アルカリ塩水溶液を混合によって、炭酸塩および炭酸錯体が形成される。
有機相(装荷抽出溶媒)に加える炭酸アルカリ水溶液としては、例えば、NaCO水溶液を用いることができる。NaCO水溶液の有機相に対する添加量は、後述する分相工程で生成する水相のpHを9.0以上に維持できる量以上とする。一例として、有機相(装荷抽出溶媒)100mlに対して、濃度1.5mol/L(16重量%)のNaCO水溶液を100ml加える。
次に、混合工程S26aで得られた懸濁混合液を静置して、有機相、水相、および固形物相に分相する(分相工程S26b)。分相工程S26bによって、懸濁混合液は、図2に示すように、第一の有機相11、第二の有機相12、水相13、および固形物相14に分相する。
第一の有機相11は、ケロシンを主体とした相である。また、第二の有機相12はPC−88Aを主体とした相である。水相13は、炭酸アルカリ水溶液の添加によって生じた炭酸錯体によって、放射性元素およびFeの大半が溶解した相である。固形物相14は、第一の有機相11と第二の有機相12との界面付近に生じた相であり、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素を主体としたゲル状の固体からなる。
次に、上相側にある第一の有機相11、第二の有機相12、固形物相14と、水相13とを比重差によって、相分離する(第五分離工程S26c1)。分離された水相13は、放射性元素、例えばU,ThおよびFeの大半が移行し溶解している。こうした第五分離工程S26c1によって、有機相(装荷抽出溶媒)に含まれていた放射性元素であるU,Thは、70〜100%の割合で、Feは94〜95%の割合で水相13に移行させることができ、第一の有機相11、第二の有機相12に残る放射性元素およびFeの濃度を極めて低くすることができる。
次に、第五分離工程S26c1で分離された第一の有機相11、第二の有機相12および固形物相14を、濾材に透過させることによって濾過し、固形物相14を濾材で捕捉する(第六分離工程S26c2)。これによって、第一の有機相11および第二の有機相12と、固形物相14とが分離される。
濾過によって分離された固形物相14は、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどの中重希土類元素を多く含んでいる。例えば、こうした固形物相14は、更に精製することによって、それぞれの中重希土類元素を得ることができる。
なお、固形物相14を分離した後の第一の有機相11および第二の有機相12は、後工程で1相の有機相になるように再生処理するなどして、PC−88Aのケロシン溶液として再利用することができる。
以上の工程によって、中重希土類元素、放射性元素およびFeが溶解した有機相(装荷抽出溶媒)から、中重希土類元素を固形物相として選択的に回収することができる。
なお、本実施形態では、固形物相分離工程S26cとして、最初に相分離によって放射性元素をおよびFe含む水相13を分離(第五分離工程S26c1)した後、濾過によって中重希土類元素を含む固形物相14を回収(第六分離工程S26c2)しているが、これ以外にも、水相を有機相から相分離する前に、濾過によって固形物相を回収する手順であってもよい。
以上、段階的に説明したように、本発明の希土類元素の回収方法によれば、中重希土類元素、放射性元素およびFeとが抽出剤に強く結合して、有機相(装荷抽出溶媒)に溶解していても、希土類元素と放射性元素およびFeとを、互いに異なる相に移行させて分別することができる。これによって、希土類元素、放射性元素およびFeが陽イオン交換型抽出剤に溶解した装荷抽出溶媒から、放射性元素を殆ど含まない希土類元素だけを回収することが可能になる。
以上、本発明の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法の実施形態、および希土類元素の回収方法の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、炭酸アルカリ塩として、NaCOを用いているが、他の炭酸アルカリ塩であっても、それぞれの実施形態に対して同様に適用することができる。
また、陽イオン交換型抽出剤としてPC−88Aを用いているが、他の陽イオン交換型抽出剤であっても、それぞれの実施形態に対して同様に適用することができる。
以下、本発明の効果を検証した検証結果について説明する。
(検証例1)
複数種類の中重希土類元素を含む装荷抽出溶媒に対して、NaCO水溶液を用いて洗浄し、装荷抽出溶媒の洗浄率を検証した。
検証例1の手順は以下のとおりである。
まず、PC−88Aの濃度が30vol%となるようにケロシンと混合して、抽出溶媒を作成した。次に、この抽出溶媒のPC―88Aの50%を10mol/LのNaOHを用いて鹸化させた。その後、重希土類元素としてYb,Lu、不純物元素としてFe、放射性元素としてU、Thを用い、それぞれの元素の濃度が100mg/Lとなるように抽出溶媒に抽出させた(以降、このそれぞれの元素を抽出させた抽出溶媒を有機相と称する)。この有機相30mLに対して、濃度が0.3mol/L〜2mol/L(0.3mol/L,0.5mol/L,0.6mol/L,0.8mol/L,1.0mol/L,1.5mol/L,2.0mol/L)のNaCO水溶液(水相)30mLを添加し、水相の液量と有機相の液量とが1:1となるようにした。その後、有機相および水相が混合するように5分間振とうさせた。そして、1日(24時間)静置して平衡状態とし、各相が分離した試料(Run1〜7)を得た。初期の有機相における各元素の濃度(初期有機相濃度)は、Yb=108.2mg/L,Lu=105.2mg/L,Fe=106.8mg/L,Th=104.5mg/L,U=106.2mg/Lであった。初期状態の各試料の条件を表1に示す。
Figure 2016003355
以上の各試料(Run1〜7)を用いて、各種分析(水相のpH、水相に移行した元素の濃度、分相状態)を行った。
各分析の手順は以下のとおりである。
(1)水相のpH測定
装置名:水素イオン濃度測定計
メーカー:HORIBA
型番:F74
測定手順:装置の電源を入れて電極の内部液補充口の蓋を外し、蒸留水に電極を浸けたまま30分程度置く。次に、校正液pH1.68、pH4.01、pH6.86で3点校正を実施した。こうした準備を経て、上述した試料の測定を実施した。
(2)水相に移行した元素の濃度測定
装置名:ICP−AES(ICP発光分光分析装置)
メーカー:SIIナノテクノロジー
型番:SPS3100
使用波長:Yb:369.419nm、Lu:261.542nm、Fe:238.204nm、U:409.014nm、Th:401.913nm
定量下限値:Yb,Lu,Fe,Th:0.1mg/L、U:1mg/L
測定手順:サンプル瓶からピペットで水相のみを吸い上げて別容器に採取する。pHを測定後、水相を蒸留水で10倍に希釈し、ICP−AESで元素の濃度測定を実施した。
水相に移行した元素の濃度の評価にあたっては、有機相の洗浄率(%)を算出した。この洗浄率の算出式を式1に示す。
(洗浄後水相の元素M含有量(g)+洗浄後固形物の元素M含有量(g))/初期有機相の元素M含有量(g)×100(%)・・・(式1)
なお、この式1における元素Mは、対象の元素(Yb、Lu、Fe、U、Th)に置き換えられる。なお、本試験では析出した固形物が極微量であり、分析限界を下回っていた。したがって、初期有機相における含有量と洗浄後水相における含有量との比較(有機相から水相への移行率)を洗浄率とした。また、洗浄率が100%を超えた試料は、洗浄率100%と見なした。
以上の分析結果について、図5、表2、表3にそれぞれ示す。図5は、平衡時水相のpHと各元素の洗浄率との関係を示すグラフである。表2は、NaCO水溶液による洗浄後の水相の液量と、各元素の濃度とを示す表である。表3は、NaCO水溶液の濃度と、混合比(A/O)、平衡時pH、洗浄率、分相状態との関係を示す表である。
Figure 2016003355
Figure 2016003355
図5、表2、表3に示す結果によれば、各元素の洗浄率について、平衡時の水相のpHが高いほど洗浄率が高くなる傾向が確認された。特に、pH9以上であれば、対象の元素に関して約80%以上の十分な洗浄率が得られることが確認された。多元素系において平衡時の水相pHを9以上に保持することで、金属元素を洗浄できることを意味する。水相pH9以上における洗浄率は、Yb:79−98%、Lu:81−96%、Fe:94−95%、U:100%、Th:100%であった。
表3に示す結果では、分相状態、沈殿形成に関して、Run3−7については、有機相が2相に分相し、試料全体で有機相2相+水相1相の3相に分相した。Run7については、底部に白色沈殿物が発生した。濃度分析結果から、白色沈殿は溶解度を超えて析出したNaCOであった。
(検証例2)
中重希土類元素であるDyと、放射性元素U,Thとを含む装荷抽出溶媒に対して、NaCO水溶液を用いて洗浄し、装荷抽出溶媒の洗浄率、および回収率を検証した。
検証例2の手順は以下のとおりである。
まず、PC−88Aの濃度が30vol%となるようにケロシンと混合して、抽出溶媒を作成した。次に、この抽出溶媒のPC―88Aの50%を10mol/LのNaOHを用いて鹸化させた。その後、中重希土類元素としてDy、放射性元素としてU、Thを用い、それぞれの元素の濃度が500mg/L,100mg/Lとなるように抽出溶媒に抽出させた(以降、このそれぞれの元素を抽出させた抽出溶媒を有機相と称する)。この有機相30mLに対して、濃度が1.5mol/L,2mol/LのNaCO水溶液(水相)30mLを添加し、水相の液量と有機相の液量とが1:1となるようにした。その後、有機相および水相が混合するように5分間振とうさせた。そして、1日(24時間)静置して平衡状態とし、各相が分離した試料(Run8、9)を得た。各試料から分液漏斗によって有機相を分取し、さらに、分取した有機相から濾過によって固形物相を分取した。こうして得た固形物相を、30mLのケロシン希釈PC−88A(濃度10vol%)に溶解させ、溶解した液を60mlの5mol/L塩酸(混合比(A/O)2:1)で逆抽出し、この逆抽出液を分析することによって、固形物中の元素量を算出した。
初期状態の各試料の条件を表4に示す。
Figure 2016003355
以上の各試料(Run8,9)を用いて、各種分析(水相のpH、元素の濃度、分相状態)を行った。
各分析の手順は以下のとおりである。
(1)水相のpH測定
装置名:水素イオン濃度測定計
メーカー:HORIBA
型番:F74
測定手順:装置の電源を入れて電極の内部液補充口の蓋を外し、蒸留水に電極を浸けたまま30分程度置く。次に、校正液pH1.68、pH4.01、pH6.86で3点校正を実施した。こうした準備を経て、上述した試料の測定を実施した。
(2)水相に移行した元素の濃度測定
装置名:ICP−AES(ICP発光分光分析装置)
メーカー:SIIナノテクノロジー
型番:SPS3100
使用波長:Dy:353.170nm、U:367.007nm、Th:401.913nm
定量下限値:U,Th:0.5mg/L、Dy:0.1mg/L
測定手順:サンプル瓶からピペットで水相のみを吸い上げて別容器に採取する。pHを測定後、水相を蒸留水で10倍に希釈し、ICP−AESで元素の濃度測定を実施した。
水相に移行した元素の濃度の評価にあたっては、有機相の洗浄率(%)の算出式は、検証例1において示した式1と同様である。回収率は、以下の式2に示すとおりである。
洗浄後固形物の元素M含有量(g)/初期有機相の元素M含有量(g)×100(%)・・・(式2)
なお、この式1および式2における元素Mは、対象の元素(Dy、U、Th)に置き換えられる。また、洗浄率が100%を超えた試料は、洗浄率100%と見なした。
以上の分析結果について、表5〜表8にそれぞれ示す。表5は、試料Run8における各相の液量と各元素の濃度測定の結果を示す表である。表6は、試料Run9における各相の液量と各元素の濃度測定の結果を示す表である。表7は、平衡時水相pHと、各元素の洗浄率、および分相状態との関係を示す表である。表8は、固形物相における各元素の回収率を示す表である。
Figure 2016003355
Figure 2016003355
Figure 2016003355
Figure 2016003355
表7に示す結果から、放射性元素であるU,Thは、70%〜90%の範囲で洗浄可能なことが確認された。また、Dyの洗浄率は80%程度であった。
また、固形物相について、有機相中に含有される固形物を分析したところ、Dyが検出され、Dyの回収率は20%程度となった(表8参照)。なお、本分析手法では、固形物を一度抽出溶媒に溶解させ、酸で逆抽出して固形物の元素量を分析したが、U、Thは酸での逆抽出が困難であるため、これらの含有量は分析できなかった。NaCO水溶液による洗浄の際、溶解度を超えて析出した中重希土類元素の一部は固形物として析出し、有機相中に浮遊する。有機相中の固形物は濾過により回収することができる。
(検証例3)
NaCO水溶液による溶媒洗浄によって、2相に分離した有機相を1相に再生する試験を行った。
検証例3の手順は以下のとおりである。
まず、PC−88Aの濃度が20vol%となるようにケロシンと混合して、装荷抽出溶媒を作成した。次に、この抽出溶媒のPC―88Aの50%を10mol/LのNaOHを用いて鹸化させた。その後、放射性元素としてU、Thを用い、それぞれの元素の濃度が100mg/Lとなるように抽出溶媒に抽出させた(以降、このそれぞれの元素を抽出させた抽出溶媒を有機相と称する)。この有機相30mLに対して、濃度が0.5mol/LのNaCO水溶液(水相)30mLを添加し、水相の液量と有機相の液量とが1:1となるようにした。その後、有機相および水相が混合するように5分間振盪させた。そして、1日(24時間)静置して平衡状態とし、有機相が2相に分離した試料を得た。その後、分液漏斗にて2相の有機相だけを分取し、有機相10mlに濃度が2mol/Lの塩酸を1ml添加し、5分間振盪した。その後、外観を観察した。
検証例3の結果、NaCO水溶液による洗浄によって2相に分相していた有機相は、塩酸との混合によって、1相に再生されることが確認された。なお、20vol%のPC−88Aは、0.6mol/LのPC−88Aに相当する。従って、混合時のHClは、PC−88Aとの反応当量の1/3倍である。
(検証例4)
中重希土類元素と放射性元素(U,Th)のNaCO水溶液NaCOによる分離回収の検証を行った。
検証例4の手順は以下のとおりである。
まず、PC−88Aの濃度が30vol%となるようにケロシンと混合して、装荷抽出溶媒を作成した。次に、この抽出溶媒のPC―88Aの50%を10mol/LのNaOHを用いて鹸化させた。その後、中重希土類元素としてDy、放射性元素としてU、Thを用い、それぞれの元素の濃度が500mg/L,100mg/Lとなるように抽出溶媒に抽出させた(以降、このそれぞれの元素を抽出させた抽出溶媒を有機相と称する)。この有機相30mLに対して、濃度が1.5mol/L,2mol/LのNaCO水溶液(水相)30mLを添加し、水相の液量と有機相の液量とが1:1となるようにした。その後、有機相および水相が混合するように5分間振盪させた。そして、1日(24時間)静置して平衡状態とし、各相が分離した試料を得た。分液漏斗によって有機相を分取し、さらに、分取した有機相から濾過によって固形物相を分取した。こうして得た固形物相を、30mLのケロシン希釈PC−88A(濃度10vol%)に溶解させ、溶解した液を60mlの5mol/L塩酸(混合比(A/O)2:1)で逆抽出し、この逆抽出液を分析することによって、固形物中の元素量を算出した。
(1)固形物相に移行した元素の組成測定
装置名:蛍光X洗分析装置(液体窒素フリータイプ、エネルギー分散型)
メーカー:JEOL日本電子データム
型番:JSX−3100RII
測定手順:試料からピペットで有機相のみを分取し、減圧濾過する(0.45μmの濾紙を使用)。次に、スパチュラで固形物を回収し、乾燥器で1日(24時間)減圧乾燥した。得られた乾燥後の固形物の重量を測定した後、蛍光X線分析装置によって元素の組成を分析した。
以上の分析結果について、表9に示す。表9は、固形物相における各元素の重量比を示す表である。
Figure 2016003355
表9に示す結果によれば、固形物の主成分はPC−88A由来のPと、Dyであった。中重希土類元素は、NaCO水溶液による溶媒洗浄時に一部は水相に溶解するものの、溶解度を超えたものは固形物として析出し有機相中に浮遊するため、固形物形態で回収可能である。本検証例では、Dyの多くを固形物相として回収可能であることを示しており、希土類元素の回収方法として有用であることが確認された。
(検証例5)
複数種類の放射性元素を含む装荷抽出溶媒に対して、NaCO水溶液を用いて洗浄し、装荷抽出溶媒の洗浄率を検証した。
検証例5の手順は以下のとおりである。
まず、PC−88Aの濃度が20vol%となるようにケロシンと混合して、抽出溶媒を作成した。次に、この抽出溶媒のPC―88Aの50%を10mol/LのNaOHを用いて鹸化させた。その後、放射性元素としてU、Thを用い、それぞれの元素の濃度が100mg/Lとなるように抽出溶媒に抽出させた(以降、このそれぞれの元素を抽出させた抽出溶媒を有機相と称する)。この有機相30mLに対して、濃度が0.05mol/L〜2mol/LのNaCO水溶液(水相)30mLを添加し、水相の液量と有機相の液量とが1:1となるようにした。その後、有機相および水相が混合するように5分間振盪させた。そして、1日(24時間)静置して平衡状態とし、各相が分離した試料(Run10〜19)を得た。初期状態の各試料の条件を表10に示す。
Figure 2016003355
以上の各試料(Run10〜19)を用いて、各種分析(水相のpH、水相に移行した元素の濃度、分相状態)を行った。
各分析の手順は以下のとおりである。
(1)水相のpH測定
装置名:水素イオン濃度測定計
メーカー:HORIBA
型番:F74
測定手順:装置の電源を入れて電極の内部液補充口の蓋を外し、蒸留水に電極を浸けたまま30分程度置く。次に、校正液pH1.68、pH4.01、pH6.86で3点校正を実施した。こうした準備を経て、上述した試料の測定を実施した。
(2)水相に移行した元素の濃度測定
装置名:ICP−AES(ICP発光分光分析装置)
メーカー:SIIナノテクノロジー
型番:SPS3100
使用波長: U:409.014nm、Th:401.913nm
定量下限値:Th:0.1mg/L、U:1mg/L
測定手順:サンプル瓶からピペットで水相のみを吸い上げて別容器に採取する。pHを測定後、水相を蒸留水で10倍に希釈し、ICP−AESで元素の濃度測定を実施した。
水相に移行した元素の濃度の評価にあたっては、有機相の洗浄率(%)を算出した。洗浄率の算出式は、検証例1において示した式1と同様である。なお、本試験では析出した固形物が確認されなかった。したがって、初期有機相における含有量と洗浄後水相における含有量との比較(有機相から水相への移行率)を洗浄率とした。また、洗浄率が100%を超えた試料は、洗浄率100%と見なした。
以上の分析結果について、図6、表11、表12にそれぞれ示す。図6は、平衡時水相のpHとU,Thの洗浄率との関係を示すグラフである。表11は、NaCO水溶液による洗浄後の水相の液量と、各元素の濃度とを示す表である。表12は、NaCO水溶液の濃度と、平衡時pH、洗浄率、分相状態との関係を示す表である。
Figure 2016003355
Figure 2016003355
図6、表11、表12に示す結果によれば、各元素の洗浄率について、平衡時の水相のpHが高いほど洗浄率が高くなる傾向が確認された。水相pH9以上における洗浄率は、U:94%〜100%、Th:87%〜94%であった。なお、添加するNaCO水溶液の濃度は洗浄率に影響を及ぼさない。また、平衡時の水相のpHが6.5であったRun10と、5.8であったRun11は、水相と有機相とが分相不良となった。操作性の面からも、分相不良の条件は好ましくない。
11 第一の有機相
12 第二の有機相
13 水相
14 固形物相

Claims (10)

  1. 少なくとも希土類元素、放射性元素およびFeが陽イオン交換型抽出剤に溶解した装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合させ、混合液を生成する混合工程と、
    該混合液を静置して、前記陽イオン交換型抽出剤を主体とする有機相、前記放射性元素およびFeが溶解した水相、および前記希土類元素を主体とする固形物相を生成する分相工程と、
    前記有機相を前記水相および前記固形物相から分離させる有機相分離工程と、
    を備えたことを特徴とする陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法。
  2. 前記混合工程における、前記装荷抽出溶媒に対する前記炭酸アルカリ塩水溶液の添加量は、前記分相工程で生成する水相のpHを9.0以上にできる量以上であることを特徴とする請求項1記載の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法。
  3. 前記炭酸アルカリ塩は、NaCOであることを特徴とする請求項1または2記載の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法。
  4. 前記有機相分離工程の後工程であって、前記分相工程において生じた第一の有機相、第二の有機相、および高濃度酸とを混合して、前記第一の有機相および前記第二の有機相を単一の相からなる第三の有機相にする抽出剤再生工程を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし3記載の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法。
  5. 前記抽出剤再生工程において、前記高濃度酸の添加量は、前記陽イオン交換型抽出剤と前記高濃度酸との反応当量に対して、1/3倍以上であることを特徴とする請求項4記載の陽イオン交換型抽出剤の洗浄方法。
  6. 少なくとも希土類元素、放射性元素およびFeが陽イオン交換型抽出剤に溶解した装荷抽出溶媒に対して、炭酸アルカリ塩水溶液を混合させ、混合液を生成する混合工程と、
    該混合液を静置して、前記陽イオン交換型抽出剤を主体とする有機相、前記放射性元素およびFeが溶解した水相、および前記希土類元素を主体とする固形物相を生成する分相工程と、
    前記固形物相を前記有機相および前記水相から分離させる固形物相分離工程と、
    を備えたことを特徴とする希土類元素の回収方法。
  7. 前記混合工程における、前記装荷抽出溶媒に対する前記炭酸アルカリ塩水溶液の添加量は、前記分相工程で生成する水相のpHを9.0以上にできる量以上であることを特徴とする請求項6記載の希土類元素の回収方法。
  8. 前記炭酸アルカリ塩は、NaCOであることを特徴とする請求項6または7記載の希土類元素の回収方法。
  9. 前記希土類元素は、Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを含む中重希土類元素であることを特徴とする請求項6ないし8いずれか一項記載の希土類元素の回収方法。
  10. 前記固形物相分離工程は、前記有機相および前記水相の少なくともいずれか一方と、前記固形物相とを濾過して、前記固形物相を回収する工程であることを特徴とする請求項6ないし9いずれか一項記載の希土類元素の回収方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN109055745A (zh) * 2018-09-27 2018-12-21 南昌航空大学 一种分馏萃取联产纯铕和纯铒的萃取分离工艺
JP2022159818A (ja) * 2021-04-05 2022-10-18 日本イットリウム株式会社 放射性元素の含有量が低減したガドリニウム化合物を製造する方法、及びガドリニウム化合物

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