定義
本発明を説明するために使用される様々な用語の定義を以下に挙げる。これらの定義は、具体例において限定されない限り、個々にまたは大きな群の一部としてのいずれかとして、本明細書全体および特許請求の範囲において使用されている用語に対して適用される。
ヒドロカルビル置換基内の炭素原子の数は、置換基内の炭素原子のxが最小およびyが最大数である、接頭辞「Cx−Cy」により示すことができる。同様に、Cx鎖は、x個の炭素原子を含有するヒドロカルビル鎖を意味する。
示された構造における連結要素が「不在」または「結合」である場合には、示された構造における左要素が、示された構造における右要素に直接連結する。例えば、化学構造が、式中Lが不在またはNが0であるX−(L)n−Yとして示された場合、化学構造はX−Yである。
用語「アルキル」は、本明細書で使用されるとき、ある特定の実施形態では、1〜6個、または1〜8個の炭素原子をそれぞれ含有する、飽和、直鎖または分岐鎖炭化水素部分を意味する。C1−C6アルキル部分の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、N−ブチル、tert−ブチル、ネオペンチル、N−ヘキシル部分が含まれるが、これらに限定されず、C1−C8アルキル部分の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、N−ブチル、tert−ブチル、ネオペンチル、N−ヘキシル、ヘプチル、およびオクチル部分が含まれるが、これらに限定されない。
用語「アルケニル」は、本明細書で使用されるとき、ある特定の実施形態では、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を有する、2〜6個、または2〜8個の炭素原子を含有する炭化水素部分から誘導される一価の基を表す。二重結合は別の基への結合点であってもなくてもよい。アルケニル基は、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1−メチル−2−ブテン(buten)−1−イル、ヘプテニル、オクテニル等を含むが、これらに限定されない。
用語「アルキニル」は、本明細書で使用されるとき、ある特定の実施形態では、少なくとも一つの炭素−炭素三重結合を有する、2〜6個、または2〜8個の炭素原子を含有する炭化水素部分から誘導される一価の基を表す。アルキニル基は他の基への結合点であってもなくてもよい。代表的なアルキニル基は、例えば、エチニル、1−プロピニル、1−ブチニル、へプチニル、オクチニル等を含むが、これらに限定されない。
用語「アルコキシ」は、−O−アルキル部分を意味する。
用語「アリール」は、本明細書で使用されるとき、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、イデニル等を含むがこれらに限定されない、縮合または非縮合の、一つ以上の芳香環を有する単環式または多環式炭素環系を意味する。
用語「アラルキル」または「アリールアルキル」は、本明細書で使用されるとき、アリール環に結合されるアルキル残基を意味する。例としては、ベンジル、フェネチル等が含まれるが、これらに限定されない。
用語「炭素環」は本明細書で使用されるとき、単環式または多環式の、飽和、一部不飽和、または完全に不飽和の炭素環化合物から誘導される一価の基を表す。炭素環基の例としては、シクロアルキルの定義およびアリールの定義において見られる基を含む。
用語「シクロアルキル」は、本明細書で使用されるとき、単環式または多環式の、飽和または一部不飽和の炭素環化合物から誘導される一価の基を表す。C3−C8−シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロペンチルおよびシクロオクチルが含まれるが、これらに限定されず、C3−C12−シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、およびビシクロ[2.2.2]オクチルが含まれるが、これらに限定されない。単一の水素原子の除去により少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を有する、単環式または多環式炭素環化合物から誘導される一価の基もまた企図される。かかる基の例としては、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、等が含まれるが、これらに限定されない。
用語「ヘテロアリール」は、本明細書で使用されるとき、1個の環原子がS、OおよびNから選択される5〜10個の環原子を有する;S、OおよびNから独立して選択される0、1または2個の環原子は追加のヘテロ原子である;および残った環原子は炭素である、を有する単環式または多環式(例えば、二環式、または三環式またはそれ以上)の縮合または非縮合の、少なくとも一つの芳香環を有する部分または環形を意味する。ヘテロアリールは、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノキサリニル、等を含むがこれらに限定されない。
用語「ヘテロアラルキル」は、本明細書で使用されるとき、ヘテロアリール環に結合したアルキル残基を意味する。例としては、ピリジニルメチル、ピリジニルエチル等が含まれるが、これらに限定されない。
用語「ヘテロシクロアルキル」は本明細書で使用されるとき、非芳香族3、4、5、6または7員環または非縮合系の縮合二環式または三環式基を意味し、ここで、(i)各環が、酸素、硫黄、および窒素から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する(ii)各5員環が、0〜1個の二重結合を有し、各6員環が、0〜2個の二重結合を有し、(iii)窒素および硫黄ヘテロ原子は、任意選択的に酸化されてよく、(iv)窒素ヘテロ原子は任意選択的に四級化されてよく、(iv)任意の上記環がベンゼン環に縮合されてよい。代表的なヘテロシクロアルキル基は、[1,3]ジオキソラン、ピロリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキサゾリジニル、チアゾリジニル、モルホリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、およびテトラヒドロフリルを含むが、これらに限定されない。
用語「アルキルアミノ」は、C1−C12アルキルは先に定義された通りである、構造−NH(C1−C12アルキル)を有する基を意味する。
用語「アシル」は、カルボン酸、カルバミン酸、炭酸、スルホン酸、および亜リン酸を含むが、これらに限定されない酸から誘導される残基を含む。例としては、脂肪族カルボニル、芳香族カルボニル、脂肪族スルホニル、芳香族スルフィニル、脂肪族スルフィニル、芳香族リン酸および脂肪族リン酸を含む。脂肪族カルボニルの例としては、アセチル、プロピオニル、2−フルオロアセチル、ブチリル、2−ヒドロキシアセチル、等が含まれるが、これらに限定されない。
本発明に従って、本明細書に記載の任意のアリール、置換アリール、ヘテロアリールおよび置換ヘテロアリールは、任意の芳香族基であり得る。芳香族基は、置換または非置換であり得る。
用語「ハル」、「ハロ」および「ハロゲン」は、本明細書で使用されるとき、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択された原子を意味する。
用語「オキソ」は、本明細書で使用されるとき、好ましくは二重結合により炭素に結合する酸素(例えば、カルボニル)を意味する。
本明細書に記載のように、本発明の化合物は、上記に概して記載されるように、または本発明の特定のクラス、サブクラス、および種に例示されるように、一つ以上の置換基で任意選択的に置換されてよい。語句「任意選択的に置換された」が語句「置換または非置換」と互換的に使用されることが理解されるだろう。一般に、用語「置換」は、用語「任意選択的」に先行されようがされまいが、特定の置換基の遊離基との、所与の構造内の水素遊離基の置き換えを意味する。別段の指示がない限り、任意選択的に置換された基は、基の各置換可能な位置に置換基を有してよく、任意の所与の構造内の一つより多い位置が、特定の基から選択された一つより多い置換基で置換され得る時、置換基は全ての位置で同一または異なってもいずれでもよい。用語「任意選択的に置換された」、「任意選択的に置換されたアルキル」、「任意選択的に置換された「任意選択的に置換されたアルケニル」、「任意選択的に置換されたアルキニル」、「任意選択的に置換されたシクロアルキル」、「任意選択的に置換されたシクロアルケニル」、「任意選択的に置換されたアリール」、「任意選択的に置換されたヘテロアリール」、「任意選択的に置換されたアラルキル」、「任意選択的に置換されたヘテロアラルキル」、「任意選択的に置換されたヘテロシクロアルキル」、および任意の他の任意選択的に置換された基は、本明細書で使用されるとき、
アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル(例えば、−CF3)、ハロアルコキシ(例えば、−OCF3)、
−F、−Cl、−Br、−I、
−OH、保護ヒドロキシ、酸素、オキソ、
−NO2、−CN、
−NH2、保護アミノ、−NH−C1−C12−アルキル、−NH−アリール、−ジアルキルアミノ、−
−O−C1−C12−アルキル、−O−アリール、
−C(O)−、−C(O)O−、−C(O)NH−、−OC(O)−、−OC(O)O−、−OC(O)NH−、−NHC(O)−、−NHC(O)O−、
−C(O)−C1−C12−アルキル、−C(O)−C3−C12−シクロアルキル、−C(O)−アリール、−C(O)−ヘテロアリール、−C(O)−ヘテロシクロアルキル、
−C(O)O−C1−C12−アルキル、−C(O)O−C3−C12−シクロアルキル、−C(O)O−アリール、−C(O)O−ヘテロアリール、−C(O)O−ヘテロシクロアルキル、
−CONH2、−CONH−C1−C12−アルキル、−−CONH−アリール、
−OCO2−C1−C12−アルキル、−OCO2−アリール、−OCONH2、−OCONH−C1−C12−アルキル、−OCONH−アリール、
−NHC(O)−C1−C12−アルキル、−NHC(O)−アリール、−NHCO2−C1−C12−アルキル、−NHCO2−アリール、
−S(O)−C1−C12−アルキル、−S(O)−アリール、−SO2NH−C1−C12−アルキル、−SO2NH−アリール、
−NHSO2−C1−C12−アルキル、−NHSO2−アリール、または
−SH、−S−C1−C12−アルキル、または−S−アリール
を含むがこれらに限定されない置換基で、1個、2個、または3個またはそれ以上のその上の水素原子を独立して置き換えることにより、置換されるまたは非置換の基を意味する。
ある特定の実施形態では、任意選択的に置換された基は以下を含む。C1−C12アルキル、C2−C12アルケニル、C2−C12アルキニル、C3−C12シクロアルキル、C3−C12アリール、C3−C12ヘテロシクロアルキル、C3−C12ヘテロアリール、C4−C12アリールアルキル、またはC2−C12ヘテロアリールアルキル。
アリール、ヘテロアリール、アルキル、等はさらに置換され得ることが理解される。
本明細書で使用されるとき、用語「金属キレート剤」は、金属イオンとの複合体(つまり、「キレート」)形成が可能な任意の分子または部分を意味する。ある特定の例示的な実施形態では、金属キレート剤は、溶液中の、金属イオンに「結合」し、化学/酵素反応での使用に利用できないようにする任意の分子または部分を意味する。ある特定の実施形態では、溶液は生理的条件下で水性環境を備える。金属イオンの例としては、Ca2+、Fe3+、Zn2+、Na+、等が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、金属キレート剤はZn2+に結合する。ある特定の実施形態では、金属イオンを沈殿させる部分の分子を金属キレート剤であるとは考えない。
用語「被検体」は本明細書で使用されるとき、哺乳類を意味する。被検体はそれゆえ、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、モルモット、等を意味する。好ましくは、被検体はヒトである。被検体がヒトである場合、被検体は本明細書において患者と称されてよい。
「処置する」、「処置すること」および「処置」は、疾患および/またはその付随する症状を緩和または軽減する方法を意味する。
本明細書で使用されるとき、用語「薬学的に許容され得る塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび下等動物の組織との接触における使用に好適で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等を伴わず、妥当な利益/リスク比に見合う、本発明の工程により形成される化合物の塩を意味する。薬学的に許容され得る塩は当該技術分野で周知である。例えば、S.M.Bergeらは、薬学的に許容され得る塩をJ.Pharmaceutical Sciences,66:1−19(1977)にて詳細に記載している。該塩は、本発明の化合物の最終の単離および精製中にインサイチュで調製され得るか、または別途、遊離塩基の官能基と好適な有機酸を反応させることにより調製され得る。薬学的に許容され得るの例としては、非毒性の酸付加塩は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸および過塩素酸などの無機酸または、酢酸、マイレン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸またはマロン酸などの有機酸とともに形成される、またはイオン交換など当該技術分野で使用される他の方法を使用することにより形成されるアミノ基の塩を含むが、これらに限定されない。他の薬学的に許容され得る塩は、アジピン酸、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、櫛状、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸、リン酸、ピクリン酸塩、ピバレート、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸、吉草酸塩、等を含むが、これらに限定されない。代表的なアルカリまたはアルカリ土類金属塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、等を含む。さらに薬学的に許容され得る塩は、適切な場合は、ハロゲン化物、水酸化物、カルボキシレート、硫酸塩、リン酸、硝酸塩、1〜6個の炭素原子を有するアルキル、スルホン酸塩およびアリールスルホン酸塩などの対イオンを使用して形成される非毒性アンモニウム、第四級アンモニウムおよびアミンカチオンを含む。
本明細書で使用されるとき、用語「薬学的に許容され得るエステル」は、インビボで加水分解されてヒトの体内で容易に分解されて親化合物またはその塩になるものを含む、本発明の工程により形成される化合物のエステルを意味する。好適なエステル基は例えば、薬学的に許容され得る脂肪族カルボン酸、特にアルカン、アルケン、シクロアルカンおよびアルカン二酸から誘導されるものを含み、ここで各アルキルまたはアルケニル部分は有利には6個以下の炭素原子を有する。具体的なエステルの例は、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酢酸塩、アクリル硫酸およびエチルコハク酸塩を含むが、これらに限定されない。
用語「薬学的に許容され得るプロドラッグ」は本明細書で使用されるとき、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび下等動物の組織との接触における使用に好適で、過度の毒性、刺激、アレルギー性反応等を伴い、妥当な利益/リスク比に見合い、その意図される用途に有効である、本発明の工程により形成される化合物のプロドラッグを意味し、ならびに可能な場合は、本発明の化合物の両性イオン形態を意味する。「プロドラッグ」は本明細書で使用されるとき、代謝的手段(例えば、加水分解)によりインビボで転換可能であり、本発明の式で示される任意の化合物が得られる化合物を意味する。様々な形態のプロドラッグが当該技術分野で公知であり、例えば、Bundgaard(編),Design of Prodrugs,Elsevier(1985);Widderら(編),Methods in Enzymology,第4巻,Academic Press (1985);Krogsgaard−Larsenら(編).「Design and Application of Prodrugs,Textbook of Drug Design and Development,第5章,113−191(1991);Bundgaardら,Journal of Drug Deliver Reviews,8:1−38(1992);Bundgaard,J.of Pharmaceutical Sciences,77:285以降.(1988);Higuchi and Stella(編)Prodrugs as Novel Drug Delivery Systems,American Chemical Society(1975);およびBernard Testa&Joachim Mayer,「Hydrolysis In Drug and Prodrugs Metabolism:Chemistry,Biochemistry and Enzymology」John Wiley and Sons,Ltd.(2002)に記載されている。
本発明は、本発明の化合物の薬学的に許容され得るプロドラッグを含有する医薬組成物、および投与を通して障害を処置する方法も包含する。例えば、遊離アミノ、アミド、ヒドロキシまたはカルボキシル基を有する本発明の化合物は、プロドラッグへと変換され得る。プロドラッグは、本発明の化合物の遊離アミノ、ヒドロキシまたはカルボン酸基にのアミドまたはエステル結合を通して、アミノ酸残基、または2個以上の(例えば、2、3または4個の)アミノ酸残基のポリペプチド鎖が共有結合される、化合物を含む。アミノ酸残基は、一般に3文字記号で示される20種類の天然に存在するアミノ酸を含むが、これらに限定されず、また4−ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン(hydroxyysine)、デモシン(demosine)、イソデモシン(isodemosine)、3−メチルヒスチジン、ノルバリン、ベータ−アラニン、ガンマ−アミノ酪酸、シトルリン、ホモシステイン、ホモセリン、オルニチンおよびメチオニンスルホンも含む。さらなるタイプのプロドラッグも包含される。例えば、遊離カルボキシル基は、アミドまたはアルキルエステルとして誘導体化されることができる。遊離ヒドロキシ基は、Advanced Drug Delivery Reviews,1996,19,1 15に概要を述べられるように、ヘミコハク酸、リン酸エステル、ジメチルアミノアセテート、およびホスホリルオキシメチルオキシカルボニルを含むがこれらに限定されない基を使用して、誘導体化されてよい。ヒドロキシ基およびアミノ基のカルバメートプロドラッグもまた、ヒドロキシ基の炭酸塩プロドラッグ、スルホン酸塩エステルおよび硫酸塩エステルであるとして含まれる。(アシルオキシ)メチルおよび(アシルオキシ)エチルエーテル、ここでアシル基はアルキルエステルであってよく、エーテル、アミンおよびカルボキシル酸官能基を含むがこれらに限定されない基で任意選択的に置換されてよく、または上述のようにアシル基はアミノ酸エステルである、としてのヒドロキシ基の誘導体化もまた包含される。このタイプのプロドラッグは、J.Med.Chem.1996、39、10に記載されている。遊離アミンもまたアミド、スルホンアミドまたはホスホンアミドとして誘導体化され得る。全てのこれらのプロドラッグ部分は、エーテル、アミン、およびカルボン酸官能基を含むがこれらに限定されない基を組み込んでよい。
本発明によって構想される置換基と可変部の組み合わせは、安定な化合物の形成をもたらすもののみである。用語「安定な」は、本明細書で使用されるとき、製造を可能にするのに充分な安定性を有し、本明細書に詳述する目的(例えば、被検体への治療的または予防的投与)に有用であるのに充分な期間、化合物の完全性を維持している化合物をいう。
用語「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋」は、その天然の状態で発見される通常付随する成分を実質的または本質的に含まない物質を意味する。純度および均一性は、典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学技術を用いて決定される。特に、実施形態では、化合物は少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも90%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%純粋である。
本明細書で使用されるとき、用語「疾患」は、うつ病、大うつ病、臨床的うつ病、慢性うつ病、気分変調、非定型うつ病、双極性うつ病、躁うつ病、季節性うつ病、精神病性うつ病、産後うつ病、不安、全般性不安障害、強迫性障害(OCD)、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および社会恐怖症(または社会不安障害)を含む。
本発明の化合物
式I:
(式中、
R
xおよびR
yはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、テトラヒドロピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、オキソゾリジン(oxozolidine)、またはイミダゾリジンを形成し、その各々は任意選択的に置換され;
各R
Aは独立して(indpendently)、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロ、OH、−NO
2、−CN、または−NH
2であり;または二つのR
A基は共に任意選択的に置換されたシクロアルキルまたは複素環を形成することができ;
mは0、1、または2である)の化合物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを本明細書に提供する。
一実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはテトラヒドロピランを形成する。
別の実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピルまたはシクロヘキシルを形成する。
別の実施形態では、mは1または2であり、各RAは独立して、メチル、フェニル、F、Cl、メトキシル、またはCF3である。
他の実施形態では、mは0である。
代表的な式Iの化合物は、下記の表1の以下の化合物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを含むがこれらに限定されない。
ある特定の実施形態では、本発明の化合物は、表2から選択されるか、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグである。
特定の実施形態では、式Iの化合物は化合物73であるか、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグである:
別の特定の実施形態では、式Iの化合物は化合物101であるか、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグである:
別の態様では、本発明は、式I:
(式中、
R
xおよびR
yはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、テトラヒドロピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、オキソゾリジン、またはイミダゾリジンを形成し、その各々は任意選択的に置換され;
各R
Aは独立して、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロ、OH、−NO
2、−CN、または−NH
2であり;または二つのR
A基は共に任意選択的に置換されたシクロアルキルまたは複素環を形成することができ;
mは0、1、または2である)の化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを提供する。
一実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはテトラヒドロピランを形成する。
別の実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピルまたはシクロヘキシルを形成する。
別の実施形態では、mは1または2であり、各RAは独立して、メチル、フェニル、F、Cl、メトキシル、またはCF3である。
他の実施形態では、mは0である。
ある特定の実施形態では、式Iの化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを被検体に投与することを備える、それを必要とする被験体のHDAC6により媒介される疾患または症状を処置するための方法を、本明細書に提供する。
他の実施形態では、式Iの化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを被検体に投与することを備える、それを必要とする被検体におけるHDAC6により媒介されるCNS疾患または症状を処置するための方法を、本明細書に提供する。
他の実施形態では、式Iの化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを被検体に投与することを備える、それを必要とする被検体の脳内のα−チューブリンアセチル化を増大させるための方法を、本明細書に提供する。
ある特定の具体的な実施形態では、式Iの化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを被検体に投与することを備える、それを必要とする被検体のうつ病を処置するための方法を本明細書に提供する。
他の具体的な実施形態では、式Iの化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを被検体に投与することを備える、それを必要とする被検体の不安を増大させるための方法を、本明細書に提供する。
好ましい実施形態では、本発明において有用な化合物は、一つ以上の以下の特性を有する:化合物は少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素を阻害することが可能である;化合物はHDAC6を阻害することが可能である;化合物は選択的HDAC6阻害剤である;化合物は血液脳関門を透過できる;および/または化合物はHDAC6のポリユビキチン結合ドメインに結合する。
ある特定の好ましい実施形態では、本発明の化合物は金属結合部分、好ましくはヒドロキサメートなどの亜鉛結合部分を備える。上述のように、ある特定のヒドロキサメートはHDAC6活性の強力な阻害剤である;理論に縛られることを望まないが、これらのヒドロキサメートの効力は、亜鉛に結合する化合物の能力に、少なくとも部分的に、起因すると考えられる。好ましい実施形態では、本発明の化合物は、生物学的経路に関与する生物学的標的、例えば、チューブリン脱アセチル化酵素(TDAC)またはHDAC活性、例えば、HDAC6を有する生物学的標的、に選択性を付与することができる、少なくとも一つの部分または領域を含む。ゆえに、ある特定の好ましい実施形態では、本発明の化合物は、生物学的標的への結合を左右する分子の他の部分から離間する亜鉛結合部分を含む。
本発明は、式Iの化合物、または薬学的に許容され得るエステル、塩、またはそのプロドラッグを薬学的に許容され得る担体と共に、備える医薬組成物についても提供する。
本発明の別の目的は、本明細書の障害または疾患の処置に使用するための医薬品の製造における、本明細書に記載のような化合物の使用である。本発明の別の目的は、本明細書の障害または疾患の処置において使用するための、本明細書に記載の化合物の使用である。
本発明の化合物の合成は下記の実施例に見出すことができる。
別の実施形態は、本明細書に示した反応の、いずれか一つ、または組み合わせを使用する式Iの化合物の作成方法である。該方法は、本明細書に示した一つ以上の中間体または化学試薬の使用を含み得る。
別の態様は、本明細書に示した式Iの同位体標識化合物である。かかる化合物は、化合物内に導入される、放射性であってもなくてもよい(例えば、3H、2H、14C、13C、35S、32P、125I、および131I)一つ以上の同位体原子を有する。かかる化合物は、薬物代謝研究および診断、ならびに治療用途について有用である。
本発明の化合物は、遊離塩基形態の本化合物と薬学的に許容され得る無機または有機酸を反応させることにより、薬学的に許容され得る酸付加塩として製造され得る。あるいは、本発明の化合物の薬学的に許容され得る塩基付加塩は、遊離酸形態の化合物と薬学的に許容され得る無機または有機塩基を反応させることにより調製され得る。
あるいは、本発明の化合物の塩形態は、出発物質または中間体の塩を使用して調製され得る。
本発明の化合物の遊離酸または遊離塩基形態は、それぞれ、対応する塩基付加塩または酸付加塩から調製され得る。例えば、酸付加塩形態内の本発明の化合物は、好適な塩基(例えば、水酸化アンモニウム溶液、水酸化ナトリウム、等)で処理することにより対応する遊離塩基へと変換され得る。塩基付加塩形態内の本発明の化合物は、好適な酸(例えば、塩酸等)で処理することにより対応する遊離酸へと変換され得る。
本発明の化合物のプロドラッグ誘導体は、当業者に既知の方法(例えば、より詳細にはSaulnierら、(1994)、Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,第4巻,p.1985を参照)により調製され得る。例えば、適切なプロドラッグが、誘導体化されていない本発明の化合物と好適なカルバミル化剤(例えば、1,1−アシルオキシアルキルカルバノクロリデート、パラ−二トロフェニルカルボネート、など)とを反応させることにより調製され得る。
本発明の化合物の保護誘導体は、当業者に既知の手段により作成され得る。保護基の創出およびそれらの除去に適用可能な技術の詳細な説明は、T.W.Greene,「Protecting Groups in Organic Chemistry」,第三版,John Wiley and Sons,Inc.,1999、およびその続編に見出されることができる。
本発明の化合物は、溶媒和化合物(例えば、水和物)として、本発明の工程の間に好都合に調製または形成され得る。本発明の化合物の水和物は、ジオキサン、テトラヒドロフランまたはメタノールなどの有機溶媒を使用して、水性/有機溶媒混合物からの再結晶により好都合に調製され得る。
本明細書の方法において有用な酸および塩基は当該技術分野で公知である。酸触媒は、本質的に無機(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、三塩化アルミニウム)または有機(例えば、カンファースルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、イッテルビウムトリフラート)であり得る、任意の酸性化学物質である。酸は、触媒的また化学量論的量のいずれにおいても、化学反応を促進するため有用である。塩基は、本質的に無機(重炭酸ナトリウム、水酸化カリウム)または有機(例えば、トリエチルアミン、ピリジン)であり得る、任意の塩基化学物質である。塩基は、触媒的また化学量論的量のいずれにおいても、化学反応を促進するために有用である。
加えて、本発明の化合物のいくつかは、一つ以上の二重結合、または一つ以上の不斉中心を有する。かかる化合物は、ラセミ体、ラセミ混合物、単一のエナンチオマー、個々のジアステレオマー、ジアステレオマー混合物、およびシス−またはトランス−またはE−またはZ−二重異性体型、および、絶対立体化学に関して、(R)−または(S)−、アミノ酸については(D)−または(L)−として規定され得る他の立体異性体型として生じ得る。これらの化合物の全てのかかる異性体型は、明確に本発明に含まれる。光学異性体は、上記の手順により、またはラセミ混合物を分割することにより、そのそれぞれの光学的に活性な前駆体から調製されてよい。分割は、クロマトグラフィーにより、または反復結晶化により、または当業者に公知のこれらの技術のいくつかの組み合わせにより、分割剤の存在下で行われ得る。分割に関するさらなる詳細は、Jacquesら、Enantiomers,Racemates,and Resolutions(John Wiley&Sons,1981)に見出され得る。本発明の化合物はまた、多数の互変異性体型で表されてもよく、かかる場合では、本発明は本明細書に記載の化合物の全ての互変異性体型を明確に含む。本明細書に記載の化合物がオレフィン性二重結合または他の幾何学的不斉中心を含有し、別段の指定がない場合、化合物はE幾何異性体およびZ幾何異性体の両方を含むと意図される。同様に、全ての互変異性体型も含むことが意図される。本明細書で見られる任意の炭素−炭素二重結合の配置は、便宜上のためだけに選択されたもので、文章でそのように明言しない限り特定の配置を指示することを意図しない。ゆえに、トランスとして本明細書に随意に示された炭素−炭素二重結合は、シス、トランス、または任意の割合での二つの混合物であってもよい。かかる化合物の、全てのかかる異性体型は、本発明に明確に含まれる。本明細書に記載の化合物の全ての結晶形は、明確に本発明に含まれる。
合成された化合物は、反応混合物から分離され、カラムクロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー、または再結晶などの方法により、さらに精製され得る。当業者により理解され得るように、本明細書の式の化合物を合成するさらなる方法は、当業者にとって明白だろう。さらに、様々な合成のステップが、所望の化合物を得るために交互の順または順序通りに行われてよい。加えて、本明細書に示した溶媒、温度、反応持続期間等は、単に例示を目的とするものであり、当業者は多様な反応条件が所望の本発明の化合物を生成し得ると認識するだろう。本明細書に記載の化合物の合成において有用な合成化学転換および保護基の方法論(保護および脱保護)は、当該技術分野で知られており、例えば、
R.Larock,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers(1989);T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,第2版,John Wiley and Sons(1991);L.Fieser and M.Fieser,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1994);およびL.Paquette,編,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1995)、およびその続編に記載されるものなどを含む。
実施形態では、本発明は、本明細書に示した式の中間体化合物、およびかかる化合物を本明細書の(例えば、本明細書のスキームの)式の化合物に変換する方法について提供し、該方法は、本明細書の化合物と、一つ以上の化学転換(本明細書に提供されるものを含む)における一つ以上の試薬を反応させることを備え、それにより本明細書の任意の式の化合物またはその中間体化合物を提供する。
本明細書に記載の合成方法は、任意のスキームに記載される任意のステップの前後いずれかで、本明細書に記載の式の化合物の合成を最終的に可能にするために、好適な保護基を加えるまたは除去するステップも加えて含んでよい。本明細書に示した方法は、一式の化合物を別の式の化合物に変換する(例えば、スキームAにおいて、A1からA2;A2からA3;A1からA3)ことを企図する。変換の工程は、一つ以上の化学転換を意味し、それはインサイチュで、または中間体化合物の単離することで行われ得る。転換は、本明細書に引用した参考文献内のものを含む、当該技術分野で公知の技術およびプロトコルを使用して、出発化合物または中間体を追加の試薬と反応させること含み得る。中間体は精製(例えば、ろ過、蒸留、昇華、結晶化、研和、固相抽出、およびクロマトグラフィー)されてもされなくても、使用され得る。
本発明の化合物は、選択的生物学的特性を亢進させるために、本明細書に示した任意の合成手段を介して様々な官能基を付加することにより修飾され得る。かかる修飾は、当該技術分野に公知で、所与の生物学的システム(例えば、血液、リンパ系、中枢神経系)内への生物学的透過を増大させるもの、経口アベイラビリティを増大させるもの、注射による投与を可能にするために可溶性を増大させるもの、代謝を改変するもの、および排出速度を改変するものを含む。
本発明の化合物は、その化学構造および/または化学名により本明細書に定義される。化合物が化学構造と化学名の両方により言及され、化学構造と化学名が矛盾する場合には、化学構造が化合物のアイデンティティーを決定づける。
本明細書の変数の任意の定義における化学基のリストの列挙は、リストされた基の任意の単一基または組み合わせとしてのその変数の定義を含む。本明細書の実施形態の列挙は、任意の単一の実施形態または任意の他の実施形態またはその一部の組み合わせとしてその実施形態を含む。本明細書の変数についての実施形態の列挙は、任意の単一の実施形態としてまたは任意の他の実施形態またはその一部との組み合わせとしてその実施形態を含む。
本発明の方法
別の態様では、本発明は、式I:
(式中、
R
xおよびR
yはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、テトラヒドロピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、オキソゾリジン、またはイミダゾリジンを形成し、その各々は任意選択的に置換され;
各R
Aは、独立して、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロ、OH、−NO
2、−CN、または−NH
2であり;または二つのR
A基は共に、任意選択的に置換されたシクロアルキルまたは複素環を形成することができ;
mは0、1、または2である)の化合物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを、被検体に投与することを備える、被検体において他のHDAC(例えばHDAC1、HDAC2、HDAC3)ではなく、HDAC6を選択的に阻害する方法を提供する。
一実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはテトラヒドロピランを形成する。
別の実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピルまたはシクロヘキシルを形成する。
別の実施形態では、mは1または2であり、各RAは独立して、メチル、フェニル、F、Cl、メトキシル、またはCF3である。
他の実施形態では、mは0である。
一実施形態では、式Iの化合物は、他のHDACに対し、5から1000倍のHDAC6についての選択性を有する。
別の実施形態では、式Iの化合物は、HDAC酵素アッセイで試験されたとき、他のHDACに対し、約5から1000倍のHDAC6についての選択性を有する。
ある特定の実施形態では、化合物は、他のHDACに対して、15から40倍のHDAC6についての選択性を有する。
別の態様では、本発明は、式I:
(式中、
R
xおよびR
yはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、テトラヒドロピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、オキソゾリジン、またはイミダゾリジンを形成し、その各々は任意選択的に置換され;
各R
Aは、独立して、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロ、OH、−NO
2、−CN、または−NH
2であり;または二つのR
A基は共に任意選択的に置換されたシクロアルキルまたは複素環を形成することができ;
mは0、1、または2である)の化合物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを、被検体に投与することを備える、被検体のうつ病および/または不安の処置方法を提供する。
一実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはテトラヒドロピランを形成する。
別の実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピルまたはシクロヘキシルを形成する。
別の実施形態では、mは1または2であり、各RAは独立して、メチル、フェニル、F、Cl、メトキシル、またはCF3である。
他の実施形態では、mは0である。
ある特定の実施形態では、うつ病は以下の一つ以上である。大うつ病、臨床的うつ病、慢性うつ病、気分変調、非定型うつ病、双極性うつ病、躁うつ病、季節性うつ病、精神病性うつ病、および産後うつ病。
他の実施形態では、不安は以下の一つ以上である。全般性不安障害、強迫性障害(OCD)、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および社会恐怖症(または社会不安障害)。
別の態様では、本発明は、式I:
(式中、
R
xおよびR
yはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、テトラヒドロピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、オキソゾリジン、またはイミダゾリジンを形成し、その各々は任意選択的に置換され;
各R
Aは、独立して、アルキル、アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロ、OH、−NO
2、−CN、または−NH
2であり;または二つのR
A基は共に任意選択的に置換されたシクロアルキルまたは複素環を形成することができ;
mは0、1、または2である)の化合物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグを、被検体に投与することを備える、被検体のHDAC6により媒介される疾患の処置方法を提供する。
一実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはテトラヒドロピランを形成する。
別の実施形態では、RxおよびRyはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピルまたはシクロヘキシルを形成する。
別の実施形態では、mは1または2であり、各RAは独立して、メチル、フェニル、F、Cl、メトキシル、またはCF3である。
他の実施形態では、mは0である。
ある特定の実施形態では、HDAC6により媒介される疾患は、うつ病、大うつ病、臨床的うつ病、慢性うつ病、気分変調、非定型うつ病、双極性うつ病、躁うつ病、季節性うつ病、精神病性うつ病、産後うつ病、不安、全般性不安障害、強迫性障害(OCD)、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および社会恐怖症(または社会不安障害)である。
一実施形態では、本発明のHDAC6阻害剤は、以下のいずれか一つ以上の処置に有用である。うつ病、大うつ病、臨床的うつ病、慢性うつ病、気分変調、非定型うつ病、双極性うつ病、躁うつ病、季節性うつ病、精神病性うつ病、産後うつ病、不安、全般性不安障害、強迫性障害(OCD)、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および社会恐怖症(または社会不安障害)。
本明細書に示した方法は、特定の所定の処置を必要とすると被検体が同定されるものを含む。かかる処置を必要とする被検体を同定することは、被検体または医療専門家の判断であり得、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、試験または診断方法によって測定可能)であり得る。
好ましくは、HDAC6阻害剤はHDAC6の選択的阻害剤であり、それ自体、ヒストン脱アセチル化酵素により調節される障害の処置に有用である。一実施形態では、本発明のHDAC6阻害剤は、チューブリン脱アセチル化酵素の選択的阻害剤であり、それ自体、チューブリン脱アセチル化酵素によって調節される障害の処置に有用である。
好ましくは、HDAC6阻害剤は、血液脳関門を透過する。
ゆえに、本発明の別の態様では、うつ病および/または不安を処置するための方法は、本明細書に記載のように、それを必要とする被検体に治療有効量のHADC6阻害剤を投与することを備えて提供される。ある特定の実施形態では、被検体はかかる処置を必要とすると同定される。ある特定の実施形態では、疾患を処置するための方法は、所望の結果を達成するために必要とされる量および時間をかけて、それを必要とする被検体に、治療有効量のHDAC6阻害剤またはHDAC6阻害剤を備える医薬組成物を投与することを備えて提供される。本発明のある特定の実施形態では、「治療有効量」のHDAC6阻害剤または医薬組成物は、本発明にかかる、サイトカインのグループのサブセットを調節するのに有効な量である。
ある特定の実施形態では、本方法は、それを必要とする(必要としていると同定された被検体を含む)被検体(ヒトまたは動物を含むがこれらに限定されない)への、治療有効量のHDAC6阻害剤またはその薬学的に許容され得る誘導体の投与を必然的に含む。ある特定の実施形態では、HDAC6阻害剤は、大うつ病、臨床的うつ病、慢性うつ病、気分変調、非定型うつ病、双極性うつ病、躁うつ病、季節性うつ病、精神病性うつ病、産後うつ病、不安、全般性不安障害、強迫性障害(OCD)、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および社会恐怖症(または社会不安障害)を含むうつ病の処置に有用である。
ある特定の実施形態では、本発明は、被検体がヒトである、本明細書に記載の任意の障害の処置方法を提供する。
前述に従って、本発明は、かかる処置が必要な被検体の上記の任意の疾患または障害を予防するまたは処置するための方法をさらに提供し、該方法は本発明の治療有効量のHDAC6阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を、前記被検体に投与することを備える。上記の使用のいずれについても、必要とされる投与量は、投与様式、処置すべき特定の症状および所望の効果に依存して変動するだろう。
別の実施形態では、本明細書の方法は、他のHDAC(例えば、HDAC1、HDAC2、HDAC3)に対し、Z倍の選択性(Zは2〜1000の整数である)をHDAC6について有するとして化合物を同定するステップを備える。
一実施形態では、本発明は、化学療法剤、放射線剤、ホルモン剤、生物学的製剤、または抗炎症剤の一つ以上を被検体に同時投与することをさらに備える方法を提供する。
別の態様では、本発明は、式I、
(式中、
R
xおよびR
yはそれぞれが結合する炭素と一緒になって、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、テトラヒドロピラン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、オキソゾリジン、またはイミダゾリジンを形成し、その各々は任意選択的に置換され;
各R
Aは、独立してアルキル、アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロ、OH、−NO
2、−CN、または−NH
2であり;または二つのR
A基は共に任意選択的に置換されたシクロアルキルまたは複素環を形成することができ;
mは0、1、または2である)の一つ以上の化合物、または薬学的に許容され得る塩、エステルまたはそのプロドラッグから選択される、被検体のうつ病および/または不安の処置が可能な化合物を備えるキット、およびうつ病および/または不安の処置に使用するための取扱い説明書を提供する。
上記のように、本発明は、うつ病および/または不安の処置に有用な化合物を提供する。特定の実施形態では、本発明の化合物は、ヒストン脱アセチル化酵素またはチューブリン脱アセチル化酵素の阻害剤として有用である。ある特定の実施形態例では、本発明の化合物は、チューブリン脱アセチル化活性に関連する障害に有用である。
本明細書に示した方法は、特定の所定の処置を必要とすると被験者が同定されるものを含む。かかる処置を必要とする被検体を同定することは、被検体または医療専門家の判断であり得、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、試験または診断方法によって測定可能)であり得る。
上記のように、本発明の化合物はHDAC6の選択的阻害剤であり、それ自体、ヒストン脱アセチル化酵素により調節される障害の処置に有用である。上記のように、本発明の化合物は、チューブリン脱アセチル化酵素の選択的阻害剤であり、それ自体、チューブリン脱アセチル化酵素によって調節される障害の処置に有用である。例えば、本発明の化合物はうつ病および/または不安の処置に有用であってよい。
ゆえに、本発明の別の態様では、うつ病および/または不安を処置するための方法は、本明細書に記載のように、それを必要とする被検体に治療有効量の化合物を投与することを備えて提供される。ある特定の実施形態では、被検体はかかる処置を必要とすると同定される。ある特定の実施形態では、うつ病および/または不安を処置するための方法は、所望の結果を達成するために必要とされる量および時間をかけて、それを必要とする被検体に治療有効量の化合物、または化合物を備える医薬組成物を投与することを備えて提供される。本発明のある特定の実施形態では、「治療有効量」の化合物または医薬組成物は、うつ病および/または不安を処置するのに有効な量である。本発明の方法にかかる、化合物および組成物は、うつ病および/または不安の処置に有効な、任意の量および任意の投与ルートを使用して投与されてよい。ゆえに、表現「うつ病の処置に有効な量」は、本明細書で使用されるとき、うつ病の兆候または症状を処置するために充分な量の薬剤を意味する。同様に、表現「不安の処置に有効な量」は、本明細書で使用されるとき、不安の兆候または症状を処置するために充分な量の薬剤を意味する。必要とされる正確な量は、被検体の種、年齢、および全身状態、感染の重症度、特定の抗癌剤、投与の様式等により、被検体によって変動するだろう。
ある特定の実施形態では、本方法は、それを必要とする被検体(ヒトまたは動物を含むがこれらに限定されない)への、治療有効量の化合物またはその薬学的に許容され得る誘導体の投与を必然的に含む。
前述に従って、本発明は、かかる処置が必要な被検体の上記の任意の疾患または障害を予防するまたは処置するための方法をさらに提供し、該方法は治療有効量の本発明の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を、前記被検体に投与することを備える。上記の使用のいずれについても、必要とされる用量は、投与様式、処置すべき特定の症状および所望の効果によって変動するだろう。
医薬組成物
別の態様では、本発明は式Iの化合物を備える医薬組成物、または薬学的に許容され得るエステル、塩、またはそのプロドラッグを、薬学的に許容され得る担体と共に提供する。この医薬組成物は、うつ病および/または不安の処置において使用され得る。
本発明の化合物は、任意の従来のルートによって、具体的には経腸的に、例えば、経口的に、例えば、タブレットまたはカプセルの形で、または非経口的に、例えば注射可能な溶液または懸濁液の形で、局所的に、例えばローション、ゲル、軟膏またはクリームの形で、または経鼻または坐薬の形で、医薬組成物として投与され得る。遊離形または薬学的に許容される塩形の本発明の化合物を、少なくとも一つの薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む医薬組成物は、混合、造粒またはコーティング方法による従来の方法で製造され得る。例えば、経口組成物は、活性成分をa)希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン;b)平滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムまたはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコールと共に;錠剤についてはまたc)結合剤、例えば、ケイ酸アルミニウム・マグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよびまたはポリビニルピロリドン;および必要に応じて、d)崩壊剤、例えば、デンプン、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩、または発泡性混合物;および/またはe)吸収剤、着色剤、香味剤および甘味剤も共に備える錠剤またはゼラチンカプセル剤であり得る。注射可能な組成物は、水性等張液または懸濁液であり得、坐剤は脂肪酸乳剤または懸濁液から調製され得る。組成物は、滅菌されてよく、および/または、保存剤、安定剤、湿潤剤または乳化剤などのアジュバント、溶解促進剤、浸透圧および/または緩衝液を調節するための塩を含有してよい。加えて、それらはまた他の治療的に価値ある物質も含んでよい。経皮適用に好適な製剤は、有効量の本発明の化合物を担体と含む。担体は、宿主の皮膚の通過を助けるために吸収性の薬理学的に許容し得る溶媒を含み得る。例えば、経皮デバイスは、裏打ち部材、任意選択的に担体を伴って化合物を含有する貯蔵部、任意選択的に、制御されたおよび所定の速度で長時間にわたり、宿主の皮膚に化合物を送達するための速度制御バリア、および該デバイスを皮膚に固定するための手段を備える、包帯の形である。マトリックス経皮製剤も使用されてよい。例えば皮膚および眼への、局所適用に好適な製剤は、好ましくは、当分野で既知の水性溶液、軟膏、クリームまたはゲルである。これらは、可溶化剤、安定剤、張性増加剤、緩衝剤および防腐剤を含有してよい。
ある特定の実施形態では、組成物は、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、スプレー、吸入剤またはパッチの形であってよい。ある特定の実施形態例では、本発明にかかる、組成物の製剤はクリームであり、それはステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、パルミトオレイン酸、セチルまたはオレイルアルコールなどの飽和または不飽和脂肪酸をさらに含有してよく、特にステアリン酸が好ましい。本発明のクリームは、非イオン界面活性剤、例えば、ポリオキシ−40−ステアリン酸塩も含有してよい。ある特定の実施形態では、活性成分は、薬学的に許容される担体および必要に応じて任意の必要な防腐剤または緩衝剤と、無菌条件下で混合される。眼科用製剤、点耳剤、および点眼剤も本発明の範囲内であると企図される。加えて、本発明は、身体への化合物の制御された送達を提供するというさらなる利点を有する、経皮パッチの使用を企図する。かかる剤形は、化合物を適当な媒体に溶解または分散させることにより作成される。上述のように、浸透促進剤も、皮膚を通る化合物のフラックスを増大させるために使用され得る。速度は、速度制御膜の提供または化合物を高分子マトリックスまたはゲル内に分散させることによって制御され得る。
本発明の化合物および医薬組成物が、製剤化され得、併用療法において採用され得ることも理解されるだろう。つまり、化合物および医薬組成物は、一つ以上の他の所望の治療手順または医療手順で製剤化され得、またそれらの手順と同時または前後で、投与され得る。治療(治療法または手順)の特定の組み合わせを併用で採用するには、レジメンは、所望の治療法および/または手順の適合性、および達成すべき所望の治療的効果を考慮にいれるだろう。採用される治療は、同一の障害について所望の効果を達成してよく(例えば、本発明の化合物は、別の免疫調節剤、抗癌剤または乾癬の処置に有用な薬剤と同時に投与されてよい)、または異なる効果(例えば、任意の有害作用の制御)を達成してよいことも理解されるだろう。
ある特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、一つ以上の追加の治療的に活性な成分をさらに備える。本発明の目的のため、用語「緩和剤」は、疾患の症状および/または治療レジメンの副作用の緩和に焦点を当てるが、治癒的ではない処置を意味する。例えば、緩和処置は、鎮痛剤、抗悪心薬剤、解熱剤、および抗病薬を包含する。加えて、化学療法、放射線療法および外科手術は、全てに緩和的(つまり、治癒に向かうことなく症状を減らす;例えば、腫瘍の縮小および圧力、出血、疼痛および癌の他の症状の減少)に用いられ得る。
本発明の医薬組成物は、一種類以上の薬学的に許容され得る担体と一緒に製剤化された治療有効量の本発明の化合物を備える。本明細書で使用されるとき、用語「薬学的に許容され得る担体」は、任意の型の無毒性の、不活性な固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、カプセル封入物質または製剤化助剤を意味する。本発明の医薬組成物は、経口的、直腸内、非経口的、大槽内、膣内、腹腔内、局所的(散剤、軟膏剤または滴剤として)、頬側に、または口腔または鼻腔スプレーとして、ヒトおよび他の動物に投与され得る。
注射用製剤、例えば、無菌の注射用の水性または油性懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて公知の技術に従って製剤化されてよい。無菌の注射用製剤は、例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容され得る希釈剤または溶媒中の無菌の注射用溶液、懸濁液または乳剤であってもよい。採用されてよい許容され得るビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液、U.S.Pおよび等張性塩化ナトリウム溶液がある。加えて、無菌の、不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として従来使用されている。この目的のために、任意の無刺激性不揮発性油は、合成のモノジグリセリドまたはジグリセリドを含んで採用され得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸は注射剤の調製に使用される。
薬物の効果を長引かせるため、皮下または筋肉内注射からの薬物の吸収を遅くすることがしばしば望ましい。これは、水溶性がに乏しい結晶性または非晶質の物質の液体懸濁液の使用によって達成され得る。そのため、薬物の吸収速度はその溶解速度に依存し、さらに、溶解速度は結晶サイズおよび結晶性形態に依存し得る。あるいはまた、非経口投与される薬物形態の吸収遅延は、薬物を油性ビヒクルに溶解または懸濁させることにより達成される。
類似した型の固形組成物も、例えば、ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いて、軟質および硬質充填ゼラチンカプセル内の充填剤として採用してよい。
本発明の処置方法に従い、ヒトまたは他の動物などの被験者において、所望の結果を達成するために必要な量および時間をかけて、治療有効量の本発明の化合物を被検体に投与することにより、障害は処置されるまたは予防される。用語「治療有効量」の本発明の化合物は、本明細書で使用されるとき、被検体の障害の症状を低減させるために充分な量を意味する。医学分野でよく理解されるように、治療有効量の本発明の化合物は、いずれの医学的処置にも適応できる妥当な利益/リスク比であるだろう。
一般に、本発明の化合物は、単一でまたは一つ以上の治療薬と組み合わせのいずれかで、当該技術分野で公知の任意の通常および許容され得る様式を介して治療有効量で投与されるだろう。治療有効量は、疾患の重症度、被検体の年齢、相対な健康状態、使用される化合物の効力、および他の因子に依存して広く変動してよい。一般に、満足のいく結果は、体重あたり約0.03〜2.5mg/kg(0.05〜4.5mg/m2)の1日投与量で全身的に得られることが示される。大型哺乳類、例えばヒトにおける指示される1日投与量は、約0.5mg〜約100mgの範囲であり、好都合には、例えば1日4回までの分割量で、または制御された放出形態で投与される。経口投与に好適な単位投与形態は、約1〜50mgの活性成分を備える。
ある特定の実施形態では、本発明の化合物の治療的量または投与量は、約0.1mg/kg〜約500mg/kg(約0.18mg/m2〜約900mg/m2)、あるいは約1〜約50mg/kg(約1.8〜約90mg/m2)まで変動してよい。一般に、本発明にかかる処置レジメンは、1日単回または複数回投与で約10mg〜約1000mgの本発明の化合物を、かかる処置を必要とする患者へ投与することを備える。投与ルート、ならびに他の薬剤との併用の可能性に依存して、治療量または投与量も変動するだろう。
被検体の状態の改善に際し、維持用量の本発明の化合物、組成物、または組み合わせが、必要に応じて、投与されてよい。その後、処置を止めるべき、所望のレベルまで症状が軽減されたときに改善された状態が保持されるレベルまで、症状の関数として、投与の用量または頻度、または両方を減らしてもよい。しかしながら、被検体は、任意の疾患症状の再発に際して、長期にわたる断続的な処置を必要とするかもしれない。
しかしながら、本発明の化合物および組成物の総1日使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるだろう。任意の特定の患者についての具体的な阻害用量は、処置されている障害および障害の重症度;採用される具体的な化合物の活性;採用される具体的な組成物;患者の年齢、体重、全体の健康状態、性別、食事;投与の時間、投与ルート、採用される具体的な化合物の排出速度;処置期間;採用される具体的な化合物と組み合わせてまたは同時に使用される薬物;および医学的分野で周知の同様の因子を含む、様々な因子に依存するだろう。
実施例
本発明の化合物および工程は、単なる例示を意図し本発明の範囲の限定を意図しない、以下の実施例と関連させると、よりよく理解されるだろう。開示された実施形態に対する種々の変更および修正は当業者に自明であり、限定されないが、本発明の化学構造、置換基、誘導体、製剤および/または方法に関するものなどを含むかかる変更および修正は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲の範囲から逸脱せずに行われてよい。本明細書のスキームにおける構造内の変数の定義は、本明細書に示した式中の対応する位置のそれと同一基準である。
本発明の化合物の合成は、PCT/US2011/060791に提供され、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
実施例1:化合物の合成1
化合物1:
合成のスキーム:
エチル2−(フェニルアミノ)ピリミジン−5−カルボキシレート(化合物B)の合成
NMP(20ml)中の化合物Aの溶液に、アニリン(1.0g、5.36mmol)を添加し、120℃で一晩加熱した。反応が完了した後、混合物を氷水(20ml)に注ぎ込み、沈殿物を分取してメタノール(5ml*2)で洗浄し、沈殿物をろ過により単離して、化合物Bを淡色固体として得た(980mg、75%)。
N−ヒドロキシ−2−(フェニルアミノ)ピリミジン−5−カルボキサミド(化合物1)の合成
メタノール/ジクロロメタン(5/2ml)中の化合物Bの溶液(100mg、0.411mmol)に、98%NH
2OH(1.7ml、水中50%)を0℃で添加し、10分間撹拌した。メタノール(1.5ml)中の飽和水酸化ナトリウムの溶液を添加し、混合物をさらに10分間撹拌し続けた。反応混合物を真空で濃縮し、粗残基を2NHClでpH=6〜7まで酸性化した。沈殿物を分取し、水で洗浄して1を灰白色固体として得た(90mg、94.7%)。
実施例2:化合物99の合成
実施例3:化合物110の合成
実施例4:化合物111の合成
実施例5:2−((1−(3−フルオロフェニル)シクロヘキシル)アミノ)−N−ヒドロキシピリミジン−5−カルボキサミド(化合物101/ACY−775)の合成
中間体2の合成:乾燥DMF(1000ml)中の化合物1の溶液(100g、0.74mol)に、1,5−ジブロモペンタン(170g、0.74mol)を添加した。反応物を氷浴で冷却しながらNaH(65g、2.2当量)を滴加した。得られた混合物を50℃で一晩激しく撹拌した。懸濁液を氷水で注意深くクエンチし、酢酸エチル(3×500ml)で抽出した。合一された有機層を濃縮して粗生成物を得、それをフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して化合物2を淡色固体として得た(100g、67%)。
中間体3の合成:PPA(500ml)中の化合物2の溶液(100g、0.49mol)を110℃で約5〜6時間にわたって加熱した。完了後、得られた混合物を、飽和NaHCO3溶液を用いて約8〜9のpHに注意深く調整した。得られた沈殿物を分取し、水(1000ml)で洗浄して、化合物3を白色固体として得た(95g、87%)。
中間体4の合成:N−BuOH(800ml)中の化合物3の溶液(95g、0.43mol)にNaClO(260ml、1.4当量)を添加した。3N NaOH(400ml、2.8当量)を次いで0℃で添加し、反応物を室温で一晩撹拌した。得られた混合物をEA(2×500ml)で抽出し、合一された有機層を塩水で洗浄した。溶媒を真空で除去して粗生成物を得、それをHCL塩で処理することによってさらに精製して、化合物4を白色粉末として得た(72g、73%)。
中間体6の合成:ジオキサン(50ml)中の化合物4の溶液(2.29g 10mmol)に、化合物5(1.87g、1.0当量)およびDIPEA(2.58g、2.0当量)を添加した。混合物を110〜120℃で一晩加熱した。得られた混合物をシリカゲルカラム上で直接精製して、結合した生成物、化合物6、を白色固体として得た(1.37g、40%)。
2−((1−(3−フルオロフェニル)シクロヘキシル)アミノ)−N−ヒドロキシピリミジン−5−カルボキサミド(化合物101/ACY−775)の合成:
MeOH/DCM(10ml、1:1)中の化合物6の溶液(100mg、0.29mmol)に水(2ml、過剰)中の50%NH
2OHを添加した。MeOH(2ml、過剰)中の飽和NaOHを次いで0℃で添加し、反応物を3〜4時間撹拌した。完了後、得られた混合物を濃縮し、2N HCLで4〜5のpHに達するまで酸性化した。沈殿物を分取りし、水(10ml)で洗浄して過剰NH
2OHを除去した。沈殿物を乾燥させて2−((1−(3−フルオロフェニル)シクロヘキシル)アミノ)−N−ヒドロキシピリミジン−5−カルボキサミドを白色粉末として得た(70mg、73%)。
実施例6:N−ヒドロキシ−2−((1−フェニルシクロプロピル)アミノ)ピリミジン−5−カルボキサミド(化合物73/ACY−738)の合成
反応スキーム
中間体2の合成:MBTE(3750ml)中の化合物1の溶液、ベンゾニトリル、(250g、1.0当量)、およびTi(OiPr)4(1330ml、1.5当量)を窒素雰囲気下で約−10〜−5℃まで冷却した。EtMgBr(1610ml、3.0M、2.3当量)を60分間かけて滴加し、その間反応物の内部温度を5℃未満に維持した。反応混合物を15〜20℃まで1時間自然に温めた。内部温度を15℃未満に維持しつつ、BF3−エーテル(1300ml、2.0当量)を60分間かけて滴加した。反応混合物を、15〜20℃で1〜2時間撹拌し、低水準のベンゾニトリルが残ったときに停止した。内部温度を30℃未満に維持しつつ、1N HCl(2500ml)を滴加した。依然として温度を30℃未満に維持しつつ、NaOH(20%、3000ml)を滴加し、pHを約9.0にまでした。反応混合物をMTBE(3L×2)およびEtOAc(3L×2)で抽出し、合一された有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下(45℃未満)で濃縮して赤色油を得た。MTBE(2500ml)を、油に添加して透明な溶液を得、乾燥HClガスでバブリングした際に、固体沈殿物を得た。この固体をろ過して真空で乾燥させ、143gの化合物2を得た。
中間体4の合成:化合物2(620g、1.0当量)およびDIPEA(1080g、2.2当量)をNMP(3100ml)中に溶解し、20分間撹拌した。化合物3(680g、1.02当量)を添加し、反応混合物を約85〜95℃まで4時間加熱した。溶液をゆっくりと自然に室温まで冷却した。この溶液をH2O(20L)上に注ぎ、固体の多くを、強い撹拌で、溶液から凝結させた。混合物をろ過し、ケーキを減圧下50℃で24時間乾燥させ、896gの化合物4を得た(固体、86.8%)。
N−ヒドロキシ−2−((1−フェニルシクロプロピル)アミノ)ピリミジン−5−カルボキサミド(化合物73/ACY−738)の合成:MeOHの溶液(1000ml)を撹拌しながら約0〜5℃まで冷却した。NH2OH HCl(1107g、10当量)を添加し、その後NaOCH3(1000g、12.0当量)を注意深く添加した。得られた混合物を0〜5℃で1時間撹拌し、ろ過して固体を除去した。化合物4(450g、1.0当量)を一度に反応混合物に添加し、化合物4が消費されるまで10℃で2時間撹拌した。反応混合物を、HCL(6N)の添加を通して約8.5〜9のpHまで調整し、沈殿物をもたらした。混合物を減圧下で濃縮した。水(3000ml)を激しく撹拌しながら残基に添加し、沈殿物をろ過によって分取りした。生成物を45℃のオーブンで一晩乾燥させた。(340g、79%収率)。
実施例7:HDAC酵素アッセイ
試験するための化合物を、DMSOで最終濃度の50倍まで希釈し、10.3倍希釈の連続がなされた。化合物をアッセイ緩衝液(50mMのHEPES、pH7.4、100mMのKCl、0.001%のTween−20、0.05%のBSA、20μMのTCEP)で希釈して、それらの最終濃度の6倍まで希釈した。HDAC酵素(BPS Biosciencesから購入)をその最終濃度の1.5倍までアッセイ緩衝液で希釈した。0.05μMの最終濃度のトリペプチド基質およびトリプシンをアッセイ緩衝液でその最終濃度の6倍で希釈した。これらのアッセイで使用される最終酵素濃度は、3.3ng/ml(HDAC1)、0.2ng/ml(HDAC2)、0.08ng/ml(HDAC3)および2ng/ml(HDAC6)であった。使用される最終基質濃度は16μM(HDAC1)、10μM(HDAC2)、17μM(HDAC3)および14μM(HDAC6)であった。5μlの化合物および20μlの酵素を黒色、不透明な384ウェルプレートのウェルに重複して添加した。酵素および化合物を室温で10分間一緒にインキュベートした。5μlの基質を各ウェルに添加し、プレートを60秒間振とうし、Victor2マイクロタイタープレートリーダー内に配置した。蛍光の発生を60分間モニターし、反応の線形速度(linear rate)を算出した。4パラメータカーブフィット法(four−parameter curve fit)によりグラフパッドプリズムを使用してIC
50を測定した。
図13a〜13dのデータも、選択されたHDAC6阻害剤の選択性、効力および薬物動態特性を示す。図13aは、tubastatin Aでインキュベートされた組換えHDAC1、HDAC2、HDAC3およびHDAC6の用量依存性の酵素阻害を示す。図13bは、化合物73でインキュベートされた組換えHDAC1、HDAC2、HDAC3およびHDAC6の用量依存性の酵素阻害を示す。図13cは、化合物101でインキュベートされた組換えHDAC1、HDAC2、HDAC3およびHDAC6の用量依存性の酵素阻害を示す。図13dは、阻害剤化合物73および化合物101および参照化合物SAHA、MS−275およびACY−1215についてのIC50値のヒートマップの概要を示す(1条件につきN=2)。明るい赤は、対応するHDACアイソフォームへの化合物のより高い阻害効力を示し、黒色背景は活性の欠如を示す。図13eは、急性の5mg/kgの腹腔内注射後の継時的な血漿濃度に対する脳内濃度の比率を示している。
結論:阻害は、HDAC6について選択的であり、Tubastatin Aより優れる。
Pan−HDAC阻害剤は、遺伝子の転写に大きな変化をもたらし、それは多数の望ましくない作用を有し得、それゆえにそれらは抗うつ薬の候補になる可能性が低くなる。HDAC3がこれらの作用の主な要因だと仮定すると、この阻害をHDAC6のそれから分離させることは興味深い。この研究で試験された化合物は、そうするように設計されており、少なくともHDAC3に対し、HDAC6について少なくとも100倍の選択性を有する。トリペプチド基質3を各酵素のKmに等しい量で使用して蛍光アッセイによって、化合物をHDAC阻害について試験した。HDAC酵素を各化合物の希釈物で、10分間、プレインキュベートした。酵素/化合物混合物に基質を添加した後、蛍光発光を30分間モニターし、4パラメータカーブフィット法によりIC50値を測定した。
下記の表3に示すように、化合物73および101は、それぞれ1.7nMおよび7.5nMのIC50値、クラスIのHDACに対するそれぞれの平均選択性が100〜700倍で、組み換体HDAC6に対する阻害活性を実証した(表1、図13b、13c、および13d)。比較のために、参照HDAC6阻害剤tubastatin Aは、HDAC6について18nMのIC50値を示し、クラスIのHDACに対し、平均約200倍の選択性を示した。(図13a)。化合物101は、全ての他のクラスIIのHDACアイソフォームに対し最小の活性を有した(IC50>1μM)。不活性N末端ドメイン(H216A)で点突然変異体だが無傷C末端ドメインである脱アセチル化酵素活性が、HDAC6WTに匹敵し、化合物73により完全に阻害されたため、インビトロでのアッセイにおける化合物73および101の活性は、HDAC6のC末端触媒ドメインの阻害により完全に説明された。対照的に、HDAC6C末端触媒突然変異体は、ほぼ完全に脱アセチル化活性を欠いた。
実施例8:うつ病のマウスモデルにおけるα−チューブリンの可逆的アセチル化および抗うつ剤作用
様々な抗うつ剤および気分安定剤は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害を介して脳内のタンパク質の高アセチル化を促進し、経過観察により、HDACはこれらの薬物の治療的活性に寄与する可能性があることが示唆される。この仮説は、うつ病のモデルにおいてHDAC阻害剤が抗うつ様反応を促進するという、よく再現された知見と一致する。脳内のほとんどの研究が、クロマチン制御におけるこの酵素ファミリーの役割に焦点を当ててきたが、最近の報告は、HDAC基質の別の重要なクラスだとして細胞骨格タンパク質に向いている。pan−HDAC阻害剤を用いた処置後に重度に高アセチル化されるタンパク質である、α−チューブリンは、活性依存シナプスリモデリングおよび細胞内輸送の役割を果たす微小管の重要な構成要素である。細胞質クラスIIBのHDACである、HDAC6は、主要なα−チューブリン脱アセチル化酵素として同定されており、ある特定の三環系およびSSRI抗うつ剤により阻害される。加えて、HDAC6ノックアウトマウスは、抗うつ剤様表現型を有することが示されている。ここでの目的は、HDAC阻害剤の抗うつ活性におけるチューブリンアセチル化およびHDAC6ノックアウトのプロレジリエント(pro−resilient)効果の因果関与を試験することである。抑うつ操作(すなわち、慢性社会的敗北)および抗うつ処置に曝露され、慢性的ストレス後にα−チューブリンのアセチル化の長期継続的な増加を示した後で、脳内のα−チューブリンアセチル化の包括的なレベル、局所性分布および細胞内局在の変化を調べた。野生型およびHDAC6ノックアウトマウスにおいて、α−チューブリンのアセチル化における領域選択的変化を生成し、抗うつ様反応を生成するための、亢進されたHDAC6選択性および脳バイオアベイラビリティを伴う新規薬理学的阻害剤の能力を試験した。最後に、HDAC6ノックアウトマウスにおけるチューブリンアセチル化の救助がストレス脆弱性を回復できるかどうかを試験するために、ウイルス媒介アプローチを使用した。これらの研究は、うつ病様行動における、α−チューブリンアセチル化の役割についての重要な新しい情報を提供する。
背景
HDAC6は、抗うつ剤の重要な標的である、セロトニン細胞のマーカーである、Tphと高度に共存する。HDAC6は、脳内の上行性セロトニンニューロン(ascending serotonin neurons)の大部分を占める領域である、背側および正中縫線に高度に局在化されている。HDAC6は、トラポキシンまたは酢酸塩ではなく、TSAで処置された繊維芽細胞におけるチューブリンアセチル化の増大によって証明されるように、α−チューブリンの脱アセチル化を左右する。加えて、繊維芽細胞におけるHDAC6のsiRNAノックダウンも、アセチル化の増大をもたらす。インビボのニューロンにおけるHDAC6のCre駆動性ノックダウンも、マウスの脳溶解物中でチューブリンアセチル化の増大をもたらす。HDAC6は、慢性社会的敗北後の抑うつ用行動の発生に自発的に耐性がある、ならびに一般的な三環系抗うつ薬であるイミプラミンを用いた処置後のレジリエントなマウスの、縫線核内のセロトニン作動性ニューロンにおけるmRNA発現が30%低減したことを示す。HDAC6のセロトニン細胞特異的ノックアウトは、慢性社会的敗北後の尾懸垂試験、強制水泳試験および社会的相互作用試験において抗うつ剤様表現型をもたらす。
チューブリンアセチル化に及ぼす影響
化合物73および101は、ヒストンアセチル化を増大させることなく(図4参照)、神経細胞培養物内での(図2参照)、ならびに急性腹腔内注射後のマウス全脳での(図1参照)、および反復腹腔内注射後の特定の脳領域での(図5および図3参照)チューブリンアセチル化の増大をもたらした。図5は、ニューロンHDAC6ノックアウトされたマウスは、HDAC6阻害剤で処置されたときにチューブリンアセチル化においてさらなる増大を示さなかったが、しかしながら、野生型マウスはビヒクルと比べて大きな増大を示したことを示し、これらの増大がHDAC6特異的阻害に起因すると確証させた。図3では、屠殺の48、28、24、4および半時間前の5つの処置からなる、亜慢性処置が1回注射/日を21日間行う慢性処置よりもチューブリンアセチル化において大きな増大をもたらすことが観察された。細胞培養のために、指示通り、RN46B細胞を、1、4または24時間DMSO内で0.25、2.5または25μΜの薬物で処理した。テューキー事後分析:ビヒクル処置と比較した時、*P=0.01〜0.05、**P=0.001〜0.01、***P<0.001である。
図13fおよび14a〜14eのデータは、HDAC2、HDAC3、HDAC6およびTPH2 mRNAの分布および選択されたHDAC6阻害剤が、リジン40(K40)でα−チューブリンのアセチル化およびリジン9(H3K9)でヒストンH3アセチル化に及ぼす効果を実証する。図13fは、マウスの脳の矢状面上でインサイチュハイブリダイゼーション後に見られるように、HDAC2、HDAC3、HDAC6およびTPH2 mRNAの分布を示す:平均発現強度は低(青)から高(赤)まで変動する:写真はアレン脳科学研究所からのものである。図14aは、RN46A−B14セロトニン作動性細胞株において、非選択的HDAC阻害剤トリコスタチンA(TSA、0.6μM)または選択的HDAC6阻害剤tubastatin A(Tub A、2.5μM)、化合物73(2.5μM)および化合物101(2.5μM)を用いた4時間の処置が全て、K40でα−チューブリンアセチル化を増大させたことを示す。対照的に、TSAのみがRN46A−B14細胞においてH3K9アセチル化を有意に増大させた。結果は、ビヒクル処置条件に対して基準を合わせたパーセント変化として示される。水平の実線は、ビヒクル処置されたウェルの平均を示し、点線はそのSEMを示す。代表的なウエスタンブロット画像を提示する。総α−チューブリンレベル(1条件につきN=3、中段)またはヒストンH3タンパク質の総レベルを有意に改変した処置はなかった。図14bは、インビボでの実験において、化合物73(5mg/kg)および化合物101(50mg/kg)の単回腹腔内投与が、マウス全能溶解物中の、30分、1時間および4時間の時点で測定されたK40アセチル化α−チューブリンレベルを増大させたことを示す。対照的に、この化合物の限られたCNSバイオアベイラビリティに基づいて予測されるように、tubastatin A(10mg/kg)の投与後のいずれの時点でも有意な変化は検出されなかった。代表的なウエスタンブロット画像を提示する。図14cは、化合物73(5mg/kg)および化合物101(50mg/kg)の投与によって誘発されたα−チューブリンK40アセチル化における増大は、ベースラインでは高アセチル化α−チューブリンを有したニューロン特異的HDAC6ノックアウトマウスでは妨げられたことを示す。薬物(5mg/kg)を亜慢性的(屠殺の24時間、4時間および30分前)にHDAC6ノックアウトおよび野生型同腹仔に投与した。チューブリンアセチル化における変化は、皮質(ctx)、海馬(Hpc)、背側縫線核(DRN)および小脳(cb)からの組織溶解物において測定された。薬物処置マウスのチューブリンアセチル化レベルを、対応する遺伝子型のビヒクル処置マウスのパーセント変化として表した。水平の線は、ビヒクル処置マウスにおける平均チューブリンアセチル化±SEMを示す。代表的なウエスタンブロット画像は、野生型およびHDAC6ノックアウトマウスの海馬(左列)および背側縫線(右列)における各薬物処置により誘発された変化を示す。ビヒクルで処置された野生型のマウスに比べ、HDAC6ノックアウトマウスにおいてα−チューブリンK40アセチル化のベースラインレベルの劇的な増強が観察された。野生型とは対照的に、化合物73および化合物101で処置したノックアウトマウスにおける増大は観察されなかった。図14dは、ChIPにより測定されたヒストンH3リジン9(H3K9)アセチル化が、高用量の酪酸ナトリウム(1.2g/kg)を用いた亜慢性処置の後、BDNFプロモーター4およびcFOSプロモーターで増大したことを示す。図14eは、BDNFプロモーター4およびcFOSプロモーターで、ヒストンH3リジン9(H3K9)アセチル化に及ぼす、行動的活性用量(behaviorally active dose)の化合物73(5mg/kg)を用いた亜慢性処置の効果の欠如を示す。
マウス脳内で高度におよび広範に出現するクラスIアイソフォームHDAC2および3とは対照的に、HDAC6のmRNA発現は、少数の脳領域に限られて現れ、DRNで最も高い信号が観察される(図13f)。TSA(0.6μM)、tubastatin A(2.5μM)、化合物73(2.5μM)または化合物101(2.5μM)で処置されたRN46A−B14細胞では、処置の4時間後でのウエスタンブロット分析によりα−チューブリンのアセチル化(リジン40)画分の増大が明らかになった(F4,9=48.69、P<0.0001)。総α−チューブリン発現における変化は検出されなかった。(図14a)。TSAがリジン9でのヒストンH3のアセチル化を94%増大させる(F4,5=22.21、P=0.0022)一方で、化合物73または101、またはtubastatin Aを用いた処置の後では、ヒストンH3K9アセチル化において有意な変化は観察されなかった(図14a)。
tubastatin Aは、組織培養物において約400%のα−チューブリンアセチル化における増大をもたらし(図14a)、インビボでの単回全身投与(10mg/kg、2.7mM)に際して、心臓内でのα−チューブリンアセチル化の268%増大を生じた(p<0.05)が、全脳溶解物におけるα−チューブリンアセチル化のレベルを有意に変化させなかった(図14b)。対照的に、化合物73(5mg/kg、1.9mM)および化合物101(50mg/kg、15mM)は両方とも、全脳溶解物におけるα−チューブリンアセチル化を有意に増大させた。これらの変化は、投与後30分(F3,13=163.4、P<0.0001)、1時間(F3,13=163.9、P<0.0001)および4時間(F3,14=4.703、P=0.0179)で有意であった。
化合物73(5mg/kg)または化合物101(50mg/kg)を野生型マウスに、屠殺の24時間、4時間および30分前に反復して投与した時、α−チューブリンアセチル化における有意な増大が、全ての試験された脳領域において観察された(図14c):皮質、F2,7=582.5、P<0.0001;海馬、F2,7=260.4、P<0.0001;背側縫線核、F2,7=54.00、P<0.0001;および小脳、F2,7=136.2、P<0.0001。対照的に、ノックアウトマウスにおける同一の処置レジメンは、ベースラインレベルを超えるα−チューブリンアセチル化の増大を生じなかった(図14c)。注目すべきは、以前に報告されるように(Espallerguesら、2012)、これらの突然変異体マウスは、その野生型同腹仔と比較した時(0.5±0.06;p<0.0001)、ベースラインのアセチル化α−チューブリンを劇的に亢進する(1.98±0.2アセチル/総)。
細胞培養物において上記のように、化合物73および101を用いたインビボでの処置は、ウエスタンブロットにおいてリジン9のヒストン3のアセチル化を有意に改変しなかった。加えて、クロマチン免疫沈降法は、5mg/kgの化合物73を用いた反復腹腔処置の後の海馬内のプロモーターDNAでのヒストンH3K9アセチル化濃縮(enrichment)における同時の変化はなかったことを明らかにした。これは、活性誘導神経遺伝子(activity−induced neuronal genes)のプロモーター、いわゆるcFOSおよびBDNFプロモーター4でのアセチル化H3K9の濃縮の増大をもたらした、行動的活性用量の、クラスIヒストン脱アセチル化酵素阻害剤である、酪酸ナトリウム(1.2g/kg)を用いた処置とは対照的である(図14dおよび14e)。
HDAC6阻害の抗うつ効果
HDAC6特異的阻害剤化合物73および101は、抗うつ様活性を有する。化合物73および101の両方が、急性投与の直後にオープンフィールドにおいて移所運動活性の亢進(hyper locomotor activity)をもたらした(図6、7、および8を参照)。両化合物は、急性投与30分後の、尾懸垂試験においてSSRIシタロプラムに匹敵する抗うつ活性を示した(図11参照)。加えて、低活性を伴うシタロプラムの用量と組み合わせた場合、これらの化合物は相加効果を有するように見られた(図10参照)。この実験のために選ばれたシタロプラムの用量は、2mg/kgが準活性であるべきだと記載する文献に基づいたが、この用量は依然として効果を示すと見出された。それからマウスは、10日間毎日5分間、攻撃的な居住マウスに曝露されるという慢性社会的敗北ストレスを受け、それから社会的相互作用試験において11日目に試験された。最初の10日間は敗北前で、合計20日間ビヒクルで処置されたマウスは、対照マウスと比較したとき、標的マウスが存在する場合には、相互作用ゾーンで過ごした時間が減少したことを示した。HDAC6阻害剤化合物で処置されたマウスは、SSRIフルオキセチンを用いて処置されたマウスにおいて観察されたものと等しく、この表現型の発生に対してレジリエンスを示した(図9参照)。最も低い対象(すなわち、約52秒)より多くの時間を相互作用ゾーンで過ごしていると定義される、レジリエントであると見出されたマウスのパーセントは、HDAC6阻害剤群においてより高い。全ての行動試験は、6〜10週齢のNIH Swissマウスを使用して行った。テューキー事後分析:ビヒクル処置されたマウスと比較して、*P=0.01〜0.05、**P=0.001〜0.01、***P<0.001。
図15a〜15fのデータは、不安試験におけるHDAC6選択的阻害の効果を示す。図15a、15bおよび15cに示すように、化合物73、化合物101またはtubastatin Aの急性全身投与の1時間前および2時間後にオープンフィールド試験において活性を評価した。図15aおよび15bは、化合物73および化合物101が、それぞれ、50mg/kgで投与されたときには探索を増大させたが、より低い用量ではそうでなかったことを示す(矢印は薬物投与を示す)。図15cは、処置後2時間にわたって蓄積されたビームブレーク数を示す。tubastatin A(10mg/kg)の効果の欠如および神経細胞特異的条件付きHDAC6ノックアウトを伴うマウスにおける化合物73と化合物101の効果の遮断に留意されたい(1条件につきN=5〜8)。図15d、15e、および15fは、ビー玉埋め法(図15d、1条件につきN=10〜18)およびNIH試験(図15e、1条件につきN=8〜11)において化合物73または化合物101の急性投与が抗不安薬様効果を生じたが、高架式十字迷路(図15e、1条件につきN=5)では効果がなかったことを示す。
図16a〜15gのデータは、HDAC6阻害剤化合物73および化合物101が抗うつ剤様特性を有することを実証する。図16aは、尾懸垂試験において、化合物73および化合物101の急性投与が、NIH Swissマウスに、基準抗うつ剤シタロプラムのそれに類似した抗不動効果を生じたことを示す。該効果は、急性50mg/kg腹腔注射の30分後に観察されたが、より低い用量(5mg/kg)についてはそうでなかった。準活性用量のHDAC6選択的阻害剤(5mg/kg)およびシタロプラム(0.5mg/kg)の組み合わせは、抗不動活性(1条件につきN=8〜29)の頑強な増強作用を生じた。図16bは、C57BL/6Jマウスにおいて、シタロプラム効果はHDAC6ノックアウトにより増強された一方で、化合物73の抗不動効果は、HDAC6の神経細胞選択的ノックアウトにより遮断されたことを示す。ビヒクルを用いて処置(1条件につきN=6〜15)されたとき、HDAC6野生型およびノックアウト間で差異は見られなかった。図16cは、処置期間、社会的敗北および社会的相互作用(SI)試験を示すタイムラインである。HDAC6選択的阻害剤を用いた慢性処置は、社会的敗北を受けたビヒクル処置されたマウスと比較して、平均相互作用時間の増大(図16d)および試験場の隅で過ごした時間の低減(図16e)が観察されたように、社会的敗北後の回避の発生を防いだ。図16fは、SSRIまたはHDAC6阻害剤を用いた処置が、ビヒクルを用いた処置と比較して、より大きな割合のレジリエントなマウスをもたらすことを示す。図16gは、試験期間中に移動した総距離において変化が観察されなかったを示す(1条件につきN=11〜15)。
一般的な抗うつ剤は、新規の環境において歩行運動を増大させると示されてきた(Broccoら、2002)。化合物73、化合物101およびtubastatin Aの急性投与が、新規のオープンフィールド場での探索に及ぼす効果が試験された。順応した一時間後にtubastatin Aを10mg/kgで注射したとき、マウスは、探索活性の変化を呈さなかった。しかしながら、急速な、用量依存性移所運動の亢進効果が、50mg/kgの化合物73(F4,132=84.63、P<0.0001)(図15aおよび15c)または化合物101(F4,174=7.265、P<0.0001)(図15bおよび3c)を用いた処置後に観察された。移所運動の亢進効果は継時的に変化し、(化合物73:F5,132=84.63、P<0.0001;化合物101:F5,174=28.71、P<0.001)、脳生体内分布プロファイルと一致して、注射後の最初の1時間でピークに達し、2時間までにベースラインに戻った。同一用量の化合物101または化合物73は、神経細胞選択的ノックアウトHDAC6のマウスのオープンフィールド探索を有意に改変しなかった(図15a、15b、および15c)。化合物73(602±96ビームブレーク数)および化合物101(419±73ビームブレーク数)を用いて処置されたマウスが、ビヒクル(177±71ビームブレーク数)を用いて処置されたそれらより中心内で大きな距離を移動するため、オープンフィールドの中心内の距離は増大する傾向にあった。さらには、50mg/kg用量の化合物73は、ホームケージ環境で試験された野生型マウスにおいて移所運動活性の亢進を生じ損ね、(ビヒクル=4273±425ビームブレーク数;化合物73=3468±711ビームブレーク数;F1,232=0.9447、P=0.36)、これは、効果が、非特異的な運動機能の上昇ではなく、ネオフォビックな条件下の探索行動の脱抑制を反映することを示唆する。
抗不安薬(Broekkampら、1986)および抗うつ剤(Albelda and Joel、2012)の両方に感受性の試験である、ビー玉埋め課題においては、化合物73および化合物101を用いた処置は、非鎮静(10mg/kg)用量の一般的な抗不安薬CDP(図15d;F3,50=3.699、P=0.0176)と同様の程度まで、埋められるビー玉の数を有意に減少させた。加えて、急性的に50mg/kgの用量で与えられる化合物73は、NIH試験において食事に対する待機時間を有意に低減させた(p<0.05)が、この効果はCDPのそれ(p<0.01)(図15e)ほど強力ではなかった。抗不安薬に感受性だが、うつ病には感受性ではない試験である、EPMにおいては、化合物73または化合物101のどちらも、行動的変化を生じなかったが、一方でCDPは迷路の壁のない走行路にいる時間を劇的に増大させた(図15f;F3,16=7.498、P=0.0024)。
TST(図16a)においては、薬物/用量の有意な効果が観察された(F12,140=9.368、P<0.0001)。不動性における有意な減少が、化合物73(p<0.001)または化合物101(p<0.01)のいずれを用いても50mg/kgで検出された。いずれの薬物でも5mg/kg用量後、有意な効果は観察されなかった。SSRIシタロプラムの投与は、2mg/kg(p<0.001)および20mg/kg(p<0.001)で不動時間における有意な低減をもたらしたが、0.5mg/kgではそうでなかった。注射の2時間後で、20mg/kgのシタロプラム(p<0.001)または50mg/kgの化合物73(p<0.01)を用いた処置は依然として有意な活性を有した。
シタロプラムおよび化合物73の抗不動効果が、無傷HDAC6タンパク質レベルに依存するのかどうかを試験するために、シタロプラムをHDAC6の神経ノックアウトまたはC57BL/6J背景で飼育されたその野生型同腹仔のマウスに投与した(図16b)。C57BL/6JとNIH SwissマウスをTSTにおいて比較する以前の報告(Luckiら、2001)と一致して、抗不動効果が依然として有意である一方で、C57BL/6J野生型は、NIH Swissマウスより高いベースライン不動性を有し(p<0.0001)、シタロプラム(p<0.0001)および化合物73(p<0.01)の両方に対して反応が少ないことが見出された。対照的に、別のSSRI、フルオキセチンの活性がHDAC6ノックアウトにおいて増幅されることを示す以前の報告(Fukadaら、2012)と一致して、シタロプラムの抗不動効果は、野生型同腹仔よりHDAC6ノックアウトマウスにおいて有意に大きかった(F4,47=7.902、P<0.0001)。しかしながら、化合物73の抗不動活性がHDAC6ノックアウトマウスで試験されたとき、有意な効果は観察されず、TSTにおける化合物73作用のためには無傷HDAC6タンパク質が必要とされることを示した。
SSRIおよびHDAC6間の相互作用をさらに調べるために、シタロプラムおよびHDAC6阻害剤を、NIH Swissマウスに同時投与した(図16a)。化合物73または化合物101(シタロプラム+化合物73対ビヒクル:p<0.001;シタロプラム+化合物101対ビヒクル:p<0.01)と同時投与される準活性用量のシタロプラム(0.5mg/kg)について有意な抗不動効果が観察された(図16a)。シタロプラムと化合物73の組み合わせの効力は、40倍高い用量のシタロプラムのそれと匹敵した。
HDAC6のセロトニン選択的ノックアウト後のCSDパラダイムのマウスにおけるプロ−レジリエント表現型は以前に報告されている(Espallerguesら2012)。HDAC6の慢性薬理学的阻害がその表現型を複製し得るかどうかを研究する。マウスをビヒクル、フルオキセチン(20mg/kg)、化合物73(5mg/kg)または化合物101(50mg/kg)のいずれかを用いて10日間前処置し、処置を継続しながら10日間のCSDに曝露した(図16c)。21日目、最後の注射の24時間後に、マウスを社会的相互作用試験にて試験した。非敗北対照群と比べて、CSDに曝露されたビヒクル処置されたマウスは、社会的標的の存在下で相互作用ゾーンにいる時間において有意な低減を示し(図16d;p<0.01)、これは社会的回避を示す。フルオキセチン、化合物73または化合物101を用いた処置は、社会的相互作用時間におけるCSD−誘発低減を防止した。化合物73を用いて処置された敗北マウスは、ビヒクル(p<0.05)で処置されたそれらより、有意に高い相互作用ゾーン内時間を示した。たとえ、これらの効果が事後有意性に届かないとしても、類似の傾向が、化合物101(p=0.18)およびフルオキセチン(p=0.08)で観察された。同様に、化合物73を用いた処置は、隅ゾーンで過ごした時間の量を低減させた(図16e;p<0.05対ビヒクル)。レジリエンスの基準に到達したマウスの割合に関してデータが上昇したときにも、有意な効果は観察された。ビヒクルを用いて処置されたマウスにおいて、27%のマウスが自発的にレジリエントであることが観察され;フルオキセチンを用いた処置ではパーセンテージは60%まで増大し(p<0.05);化合物73を用いた処置では、パーセンテージは81%まで増大し(p<0.01);および化合物101を用いた処置では、パーセンテージは58%まで増大した(p=0.12)(図16F)。薬物処置は、非敗北対照マウスにおける総移動距離(図16g)または相互作用時間を変化させなかった。化合物73または化合物101が、4週間の処置の間、体重増加に及ぼす有意な影響はなかった。
結論
化合物73および101、HDAC6特異的阻害剤は、HDAC6についての選択性および脳バイオアベイラビリティにおいて、市販のHDAC6阻害剤である、Tubastatin Aより優れる。
これらの化合物は、ヒストンのアセチル化を変化させることなく、細胞培養物および脳内のα−チューブリンのアセチル化において有意な増大を生じる。加えて、HDAC6ノックアウトマウスにおいて遮断されたように、この効果はHDAC6阻害に特異的である。
高用量のこれらの化合物は、オープンフィールドで移所運動の亢進/抗不安薬効果を生じる。
HDAC6阻害剤は、尾懸垂試験ならびに慢性社会的敗北ストレスのモデルにおいて抗うつ剤様効果を示す。
この研究は、脳透過的、HDAC6特異的阻害剤のインビボでの使用が、新規抗うつ剤様薬剤としての有望性(promise)を示すことを示す。
実施例9:薬物動態および血液脳関門研究
雄C57BL/6Jマウスに、10%DMAC/10%ソルトール(solutol)/80%生理食塩水のビヒクル中の5mg/kgの化合物101を腹腔内注射した。時点毎に3匹のマウスを、投与前、5、15、および30分、1、2、4、8および24時間後に屠殺した。屠殺の際に血漿検体を全てのマウスから採取した。脳検体を、5および15分、1および4時間後に屠殺したマウスから採取した。脳検体をPBS内で均質化し、14000rpmで5分間遠心分離した。脳ホモジネートおよび血漿検体からの上清液を、分析のためにLC/MS/MSへと注入した。検体中の化合物レベルを適切なマトリックス中の標準曲線によって測定した。薬物動態パラメータをWinNonLinにより生データから測定した。図12参照。これらの新しい化合物は、血漿で見られるレベルより高いまたは同等の脳レベルで、優れた脳透過性を呈した。
さらに、化合物73および101、およびtubastatin Aのインビボでの生体内分布プロファイルを、5mg/kgまたは50mg/kgでの急性投与後に2時間にわたり検査した(データを表4に示す)。急性50mg/kg注射t=30分後で、化合物73および101のそれぞれの血漿レベルは515ng/ml(1.9μM)および1359ng/ml(4.1μM)であった。血漿からの排出は急速で、12分の血漿半減期および2時間後には濃度が10ng/mlを下回った。それにもかかわらず、化合物73および101の両方について2時間にわたって算出された、脳および血漿についての濃度時間曲線下面積(AUC
脳/AUC
血漿)は1を超える比率をもたらした(表4)。比較して、tubastatin Aは、0.18のAUC
脳/AUC
血漿比で、より長い2時間の血漿半減期、しかしより限られた脳透過性を呈する。まとめると、これらの結果は、それらの半減期が短いにもかかわらず、化合物73および101は急速に脳に分布し、CNSにおける総薬物曝露を抹消組織のそれに匹敵させることを示す。
参照による組み込み
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当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態の多くの等価物を認識する、または日常的な実験のみを使用して確認することができるだろう。かかる等価物は、以下の特許請求の範囲により包含されることを意図する。