JP2015514412A - 哺乳類神経板由来の幹細胞 - Google Patents
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Abstract
本発明は、哺乳類初期神経板から新規幹細胞を誘導するための方法に関する。
Description
本発明の元となる研究は、欧州連合の第7次フレームワーク計画(FP7/2007-2013)及び欧州研究会議(European Research Council)の贈与契約第222943号に基づいてERCによる資金援助を受けたものである。
本発明は、哺乳類初期神経板から幹細胞を誘導するための方法(神経板幹細胞、NPSC)、多能性細胞からNPSCを誘導するための方法、上記方法により得られるNPSC、及びNPSC自体に関する。
ウニ、ショウジョウバエ、魚類、カエル、マウス、ヒト等ほとんど全ての動物は、胎生初期に原腸形成と呼ばれる過程を経る。原腸形成期において、多能性細胞が胚の中心に向かって陥入する(involute)。こうして移動した細胞は、後に、分化の進んだ胚細胞である中胚葉及び内胚葉の層を形成する。中胚葉は血管及び筋骨格系を形成し、内胚葉は消化管とそれに関連する内臓とを形成することになる。
原腸形成後まもなく、胚は神経管形成期に入る。脊椎動物における神経管形成期の際だった特徴として、多能性細胞から神経板が形成される。神経板が正中線で腹側に屈曲し、その縁部が癒合して管を形成する。中枢及び末梢神経系の細胞は全て、神経板及び神経管から誘導される。神経板細胞は、神経細胞系譜を形成する最初の細胞である。
この初期神経細胞をより詳細に研究できれば、極めて多くの神経発達障害及び神経変性障害に関する有用な情報の提供が可能となる。現在、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、及びハンチントン病を含む神経変性障害の罹患者は全世界で一千万人を超える。このため、幹細胞モデルの開発及び神経変性疾患の影響に対する治療法に大きな関心が集まっている。
神経細胞種は多能性幹細胞から発生し得る。しかし、胚性幹細胞から分化させる場合には、複数の段階を要することから、神経変性疾患において欠失する特定のニューロンを高効率で生成できる例は少ない。そのため、別の方法として関心を集めるのが、神経細胞系譜を形成するよう既に方向付けされていて臨床対象のニューロンへと迅速に分化できる幹細胞株である。さらに、培養神経幹細胞株を用いれば、ヒトの神経発生の研究も可能となる。
神経幹細胞株の誘導
Reynolds Tetzlaff及びWeiss(1992)は、神経幹細胞をin vitroにおいて維持できるという知見を提示している。この報告は、受胎14日目の線条体を増殖因子EGFと共に培養することにより幹細胞を含む浮遊細胞塊(「ニューロスフェア」)を増殖させた、というものである。しかし、ニューロスフェアの大部分は、方向付けされた神経始原細胞及び分化細胞からなるため、維持された幹細胞を直に識別又は精製することは不可能である。また、ニューロスフェア中で維持される幹細胞とCNS前駆細胞とのin vivoにおける関連は不明である。
Reynolds Tetzlaff及びWeiss(1992)は、神経幹細胞をin vitroにおいて維持できるという知見を提示している。この報告は、受胎14日目の線条体を増殖因子EGFと共に培養することにより幹細胞を含む浮遊細胞塊(「ニューロスフェア」)を増殖させた、というものである。しかし、ニューロスフェアの大部分は、方向付けされた神経始原細胞及び分化細胞からなるため、維持された幹細胞を直に識別又は精製することは不可能である。また、ニューロスフェア中で維持される幹細胞とCNS前駆細胞とのin vivoにおける関連は不明である。
後の研究により、ニューロスフェアに含まれる細胞はbFGF応答性であり(Vescovi et al 1993)、bFGFの投与により始原細胞2種が増殖することが示された。更に実験が実施され、その結果、bFGFと共に培養することによって成体マウスの線条体から(Gritti et al 1996)、EGF+bFGFと共に培養することによって脊髄の腰部又は仙骨部から(Weiss et al 1996)、また増殖因子FGF2と共に接着培養することによって(Johe et al 1996)、神経前駆細胞の増殖が可能であることが示された。
Rathjen et al(2002)(及び、米国特許出願第10/090,849号、公報第US2002/0151054 A1号)は、神経細胞、グリア細胞、及び神経堤細胞を含む多くの神経細胞種に分化でき「多分化能を有する」神経外胚葉系譜の誘導を報告している。しかし、Rathjenの報告による上記細胞は神経原性bHLH因子mash1及びBMP-2活性マーカーpax3を発現していることが示されている。特にpax3は背腹軸形成の指標であることから、Rathjenの報告による上記細胞は一部が分化していることが示唆される。
Conti et al(2005)は、増殖因子FGF2及びEGFを添加したN2培地中での培養による単一培養系神経幹細胞(NS細胞)の誘導及び維持を報告している。Conti et alは、自身らが誘導したNS細胞を継続的に増殖させるにはFGF2及びEGFの両方を添加することが重要であると報告している。
NS細胞は、その特徴からわかるように、放射状グリア細胞系譜と密接に関連しており、olig2及びmash1等の神経原性塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)因子を一貫して安定に発現し、神経細胞種に分化する能力に乏しい。
FGF2及びFGF4の役割
神経始原細胞の増殖を促進するという上述の役割に加えて、FGF2は胚性幹細胞の神経系への分化を促進することも報告されている。例えば、Forsberg et al(2012)の報告によると、NDST 1/2陰性ネズミES細胞にFGF2及びヘパリンを添加することにより、ES細胞の神経細胞種への分化能が回復した。神経分化を回復させる能力はFGF4及びヘパリンを添加した際にも見られた。
神経始原細胞の増殖を促進するという上述の役割に加えて、FGF2は胚性幹細胞の神経系への分化を促進することも報告されている。例えば、Forsberg et al(2012)の報告によると、NDST 1/2陰性ネズミES細胞にFGF2及びヘパリンを添加することにより、ES細胞の神経細胞種への分化能が回復した。神経分化を回復させる能力はFGF4及びヘパリンを添加した際にも見られた。
FGF2及びFGF4については、in vitroニューロスフェアアッセイにおいて細胞の増殖を誘発することも報告されている(Kosaka et al 2006)。このアッセイでは、E14マウス胚の基底核隆起に由来する初期胚域の細胞をFGF2又はFGF4のいずれかの存在下において培養している。FGF2及びFGF4の双方が存在することによって、形成されるニューロスフェアの数が増加し、細胞生存率も上昇することがわかった。
同報告においてKosaka et alはさらに、FGF2と同様にFGF4もEGF応答性幹細胞の子孫の分化を誘発することを報告しており、これに基づいてKosaka et alは、FGF4は重要な神経分化誘発因子であると提案した。この提案と一致する結果がChen et al(2010)により報告され、その内容は、FGF4及びFGF2の両者が「46C」マウスES細胞(GFP-Sox1ノックイン)における神経誘導を有意に上昇させることを示すものであった。
FGF4は、ES細胞から神経細胞種への分化を促進する作用を有することが既に報告されているほか、一部の(非神経)幹細胞種の維持を促進することが報告されている。
Tanaka et al(1998)は、マウス胚盤胞又は着床後の初期栄養膜をFGF4存在下で培養することによる永久栄養膜幹(TS)細胞株の単離を報告している。この結果は後にAbell et al(2009)により確認され、その報告により、FGF4がTS細胞を維持する機序の更なる特徴としてシグナル伝達ハブとしてのMEKK4キナーゼの利用が示された。
FGF4はさらに、未分化状態におけるヒトES細胞の増殖を助けることが報告されている(Mayshar et al, 2008)。ヒトES細胞においてFGF4の発現を標的としてノックダウンするとhES細胞の分化が進むことが観察された。
しかし、上述したように胚性幹細胞は分化の際に複数の段階を要するため、多くの場合は所望の特定ニューロンを効率よく生成できない。また、現在のところ入手可能な神経幹細胞株には、あらゆる神経細胞種に分化できるほど発生段階の初期にあるものはない。例えば、NS細胞は胎齢12日(E12)以降に誘導されるのに対し、ドーパミン作動性ニューロン(例えばパーキンソン病において標的とされる)はE11.5段階(各段階はマウス胚の段階を指す)までに既に分化している。一方、極めて初期の段階にある神経幹細胞株であれば、神経管欠損(NTD)等の初期神経欠損をモデル化することが可能となる。そして初期神経幹細胞株を入手できるようになれば、研究者が神経発生過程をさらに制御でき、分化の研究及びその方向付けをさらに進めることができる。
そのため、多様なニューロンサブタイプ及びグリアに分化できる神経発生初期の神経幹細胞株を開発することが求められている。
本発明は、神経発生の極めて初期の段階から神経幹細胞系譜を誘導するための方法を提供する。本発明の目的は、発生初期の段階において安定的且つ永久に維持可能であり多様な神経細胞種に分化できる神経幹細胞株の提供である。
以下に記載する本発明の多様な態様において、本発明者らは、由来の多様な初期細胞(神経板の解剖により入手した初期胚細胞、胚性幹(ES)細胞、人工多能性(iPS)細胞、マウス胚盤葉上層幹細胞)から新規の神経板幹細胞(NPSC)を誘導した。いずれの細胞種から誘導する場合も、増殖因子FGF4の存在下において培養することが重要である。
誘導したNPSCは、FGF4の存在下且つFGF2及びEGFの非存在下において継続的に培養することにより未分化のまま安定的且つ永久に維持できる。FGF4の存在下において培養したNPSCは「前パターン形成」状態において維持され、「前パターン形成」状態において上記NPSCは、PLZF、Ngn2、MASH1、Pax3、Pax6、En1、En2、又はKrox20等の神経原性因子を発現せず、背腹軸形成シグナルであるソニックヘッジホッグ(Shh)及びBMP-2に応答しない。
FGF4を除去すると、Shh及びBMP-2が背腹性を適切に誘発でき、NPSCがニューロンに分化する。この変化は、NPSCの上皮形態が消失してNPSCが神経ロゼットを形成することからも観察でき(ロゼット形成は神経管由来の後段階神経細胞の特徴である)、神経ロゼットはその後ニューロンに分化する。この変化は、pax3等のマーカーの誘発が開始されることからも観察できる。NPSCはドーパミン及びセロトニンニューロンや運動ニューロンに分化可能であり、この能力は継代を何度繰り返しても保持される。
NPSCの増殖においてFGF4が役割を果たしていることは、予想されたものではなかった。FGF2及びEGFという2つの増殖因子が胎齢を経た胚や成体に由来する神経前駆体の増殖及び幹細胞状態を助けることは一貫して示されているものの、興味深いことに、FGF2及びEGFのいずれも神経板幹細胞の増殖には効果を有さない。NPSCの増殖及び幹細胞状態を維持するのは、試験した増殖因子のうちFGF4のみである。FGF4が神経前駆体や幹細胞に対して特異的な効果を有するという報告はこれまでなされていなかった。
本発明者らは、FGF4を使用して神経板幹細胞状態をとらえることによって、マウス胚盤葉上層細胞、ヒト胚性幹(hES)細胞、及びヒト人工多能性幹(hIPS)細胞を含む種々の異なる多能性細胞種から神経板細胞株を誘導した。
また、本発明者らは、NPSCにおける神経マーカーの発現を同定した。
以前の報告によると、Sry-box含有転写因子であるSox1は魚類及びカエルにおける最も初期の神経細胞系譜マーカーである。驚くべきことに、Sox1はNPSC集合体の約30%にしか発現が観察されていない。NPSC集合体の調査からは、Sox1+ NPSCとSox1- NPSCとの間で表現型や細胞挙動が異なるか否かは明らかにされていない。
一方、形成された神経ロゼットは、FGF4が除去されると48時間以内にほぼ一様にSox1を発現する。またMASH-1及びニューロゲニン-2(Ngn-2)といった既知の神経原性bHLH転写因子も、神経板幹細胞には発現していないが、FGF4を除去すると一時的に上方調節される。同様に、ジンクフィンガーマーカーPLZF並びにマーカーPax3、Pax6、En1、En2、及びKrox20もNPSCにおいて発現していない。
本発明者らは、初期マウス神経板における遺伝子発現についても調べた。予想外にも、初期神経板においてSox1は発現していなかった。Sox1が中期神経板において活性化された場合には、その発現は神経板の腹側正中線に限局する。後期神経板ではSox1はさらに広く発現するが、神経板細胞の全てに発現するほどではない。
本発明者らは、Sox1ではなく転写因子Brn2(Pou3f2とも称される)を含有するホメオドメインが、最も初期の段階における神経板の全体に発現していることを見いだした。Brn2はまた、in vitroにおいてNPSC全体に一様に発現している。多くの研究団体が示すところによると、胎齢を経た胚から誘導した幹細胞においてSox1が発現している。本発明において本発明者らは、神経細胞系譜の最も初期のマーカーはSox1ではなくBrn2であり、またSox1の場合とは異なりBrn2は完全な状態の神経板の全体に発現し、且つ神経板幹細胞に一様に発現することを示す。
本発明の一部の態様について、以下にさらに詳細に記載する。
NPSCを取得する方法
NPSCを前駆細胞(例えば、多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞)から誘導する際の重要な要因は、前駆細胞の培養をFGF4の存在下において行うことである。これは、神経幹細胞株についての予想されていなかった新たな特徴であり、NPSCに特有の特徴である。FGF2及びEGFという2つの増殖因子が胎齢を経た胚や成体に由来する神経前駆体の増殖及び幹細胞状態を助けることは一貫して示されているものの、FGF2及びEGFのいずれも神経板幹細胞の増殖には効果を有さない。
NPSCを前駆細胞(例えば、多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞)から誘導する際の重要な要因は、前駆細胞の培養をFGF4の存在下において行うことである。これは、神経幹細胞株についての予想されていなかった新たな特徴であり、NPSCに特有の特徴である。FGF2及びEGFという2つの増殖因子が胎齢を経た胚や成体に由来する神経前駆体の増殖及び幹細胞状態を助けることは一貫して示されているものの、FGF2及びEGFのいずれも神経板幹細胞の増殖には効果を有さない。
したがって、本発明は、
神経板幹細胞(NPSC)を取得する方法であって、
(a)多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を提供する工程、
(b)上記細胞の集合体をFGF4の存在下において培養する工程、及び
(c)その結果として神経板幹細胞を取得する工程を含み、
FGF4は上記NPSCの増殖を増大させ、FGF2は上記神経板幹細胞の増殖を増大させない方法を提供する。
神経板幹細胞(NPSC)を取得する方法であって、
(a)多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を提供する工程、
(b)上記細胞の集合体をFGF4の存在下において培養する工程、及び
(c)その結果として神経板幹細胞を取得する工程を含み、
FGF4は上記NPSCの増殖を増大させ、FGF2は上記神経板幹細胞の増殖を増大させない方法を提供する。
既知の神経前駆体群の中には、誘導の際に特定の基質を用いた培養を要するものがあることが報告されている。例えばRathjen et alは米国特許出願第10/090,849号において、細胞フィブロネクチンを要すると示している。一方、本発明者らは、例えばフィブロネクチン、ラミニン、又はゼラチン等の種々の細胞外マトリックスを培養中に使用することによってNPSCを誘導できることを見いだした(図13参照)。したがって、ある実施形態においては、上記神経板幹細胞はフィブロネクチン、ラミニン、又はゼラチンの存在下において培養され、例えば、上記NPSCの培養にあたり唯一の細胞外マトリックス構成要素として存在するのがフィブロネクチン、ラミニン、又はゼラチンであってもよい。ある実施形態においては、上記神経板幹細胞はフィブロネクチン、ラミニン、又はゼラチンの非存在下において培養される。ある実施形態においては、上記神経板幹細胞はフィブロネクチンの非存在下において培養される。
ある実施形態において、FGF4の存在下における上記NPSCの増殖率が、外因性増殖因子の非存在下における増殖率(例えば、N2培地のみを用いて培養したNPSCの増殖率)の2倍を超える。例えば、FGF4の存在下における上記NPSCの増殖率が、外因性増殖因子の非存在下における増殖率の3倍を超えてもよく、例えばその4倍を超えたり、5倍を超えたり、又は6倍を超えたりしてもよい。上記NPSCの増殖は、例えば、ブロモデオキシウリジン(BrdU)が組み込まれた細胞の割合を規定時間範囲にわたって計測することにより測定してもよい(例えば図1参照)。
本発明はまた、
神経板幹細胞(NPSC)を取得する方法であって、
(a)多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を提供する工程、
(b)上記細胞の集合体をFGF4の存在下において培養する工程、及び
(c)その結果として神経板幹細胞を取得する工程を含み、
FGF4は上記NPSCを前パターン形成状態において維持し、FGF2は上記NPSCを前パターン形成状態において維持しない方法をも提供する。
神経板幹細胞(NPSC)を取得する方法であって、
(a)多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を提供する工程、
(b)上記細胞の集合体をFGF4の存在下において培養する工程、及び
(c)その結果として神経板幹細胞を取得する工程を含み、
FGF4は上記NPSCを前パターン形成状態において維持し、FGF2は上記NPSCを前パターン形成状態において維持しない方法をも提供する。
ここで、「前パターン形成状態」とは、上記NPSCがマーカーBrn-2を発現するが神経原性bHLH因子Ngn2及びMASH1は発現しない状態である。前パターン形成状態において、上記NPSCはマーカーPax3を発現せず、マーカーPax6、En1、En2、及び/又はKrox20も発現しない。「前パターン形成状態」において、上記NPSCは、背腹軸形成シグナルであるソニックヘッジホッグ(Shh)及びBMP-2に応答しない。
上記得られたNPSCはアキュターゼ又はコラゲナーゼを用いて継代可能である。コラゲナーゼを用いて継代することにより細胞の上皮形態が維持され、一方、アキュターゼを用いて継代した場合にはこれが維持されない。しかし、アキュターゼを用いて継代したNPSCは、コラゲナーゼを用いて継代したNPSCと同等の機能を有する。ある実施形態において、上記NPSCを、本明細書中に記載するNPSC特有の特性を維持したまま少なくとも40回継代することができる。
上記多能性細胞の培養はN2培地(Bottenstein and Sato, 1979)等の無血清培地中において典型的には実施し、必要な増殖因子(例えばFGF4)は上記培地中に添加する。
ある実施形態において、上記多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を、FGF4の添加に先立ってFGF2及び/又はアクチビンの存在下において培養してもよい。
ある実施形態において、上記多能性細胞を、神経の形態を有する細胞が観察されるまでFGF4、FGF2、及びアクチビンの存在下において培養する。神経の形態を有する細胞が観察されれば、培地からFGF2及び/又はアクチビンを除去してもよい(すなわち、以降の細胞の培養をFGF2及び/又はアクチビンの非存在下において実施する)。FGF2及び/又はアクチビンの「除去」は実際には、FGF2及び/又はアクチビンを含有する培地を、この場合はFGF4のみを含有する培地により置き換えることによって行う。
他の実施形態において、上記多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞をFGF2及び/又はアクチビンの非存在下において培養する。ある実施形態において、培地中に存在するFGFはFGF4のみである。ある実施形態において、培地中に存在する増殖因子はFGF4のみである。他の実施形態において、培地の有効成分はFGF4からなる。更に他の実施形態において、培地の有効成分は本質的にFGF4からなる。本明細書中において「有効成分」は、好ましい(例えばNPSCの)細胞の集合体を選択又は維持するための成分を意味する。
本発明は、本明細書中に記載される方法により取得される、単離された神経板幹細胞又は上記細胞の集合体を提供する。
本発明はまた、神経板幹細胞の取得を目的とした、本明細書中に記載される方法におけるFGF4を含む培地の使用も提供する。
本発明はまた、本明細書中の実施例のいずれかを参照して上記するものと実質的に同様の神経板幹細胞の集合体を誘導する方法も提供する。
NPSCの誘導に使用する好ましい前駆細胞
NPSCの誘導源となる多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞は、好ましくは哺乳類、特にマウス、ラット、霊長類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、ブタ、又はヒトの細胞である。本明細書中の実施例中においてはマウス又はヒトの細胞を使用した。上記細胞は好ましくはヒトの細胞である。但し、鳥類の細胞に本発明を適用することも含まれる。
NPSCの誘導源となる多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞は、好ましくは哺乳類、特にマウス、ラット、霊長類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、ブタ、又はヒトの細胞である。本明細書中の実施例中においてはマウス又はヒトの細胞を使用した。上記細胞は好ましくはヒトの細胞である。但し、鳥類の細胞に本発明を適用することも含まれる。
NPSCの誘導は、多様な多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞(神経板の解剖により入手した初期胚細胞、胚性幹(ES)細胞、人工多能性(iPS)細胞、胚盤葉上層)より開始してもよい。
好適な初期胚細胞(すなわち原始神経外胚葉細胞)は、初期神経板の解剖により、好ましくは初期神経板の構造を確認でき次第入手すべきである。その時期は、マウスでは典型的にはE7.5〜E7.75段階であり、ヒトでは0〜5体節期又は7〜9カーネギー段階である。ある実施形態において、初期胚細胞を、E10段階より以前、例えばE9段階より以前、例えばE8.5段階、E8.0段階、E7.75段階、又はE7.5段階より以前のマウス胚の解剖により入手する。ある実施形態において、初期胚細胞を、10カーネギー段階より以前、例えば9カーネギー段階より以前、例えば8.5カーネギー段階、8.0カーネギー段階、7.5カーネギー段階、又は7.0カーネギー段階より以前のヒト胚の解剖により入手する。
マウス若しくはヒトのES細胞若しくはiPS細胞又はマウス胚盤葉上層幹細胞等の多能性細胞を開始点として使用してもよい。胚盤葉上層幹細胞はマウスにおいてE5.5に相当すると考えられ、E3.5に相当する胚又はマウスES細胞から誘導できる。
胚盤葉上層幹細胞を使用する場合、典型的には、フィブロネクチンと共に且つFGF2及びアクチビンの存在下において培養することにより上記細胞を多能状態に維持する。NPSCを誘導するため、FGF4を培地に添加し、神経板の形態を有するコロニーが現れるまで細胞を培養する。神経板の形態を有するコロニーは、典型的には4〜6回継代後(12〜18日後)に現れる。この段階においてFGF2及びアクチビンを培地から除去する。得られたNPSCを、FGF4と共に培養することにより維持できる。
別の方法として、胚盤葉上層幹細胞からのNPSCの誘導を、増殖因子としてFGF4のみを含有する培地中において(すなわち、FGF2及び/又はアクチビンの非存在下において)上記細胞を培養することにより実施してもよい。この方法においては細胞死が顕著である。得られたNPSCを、FGF4と共に培養することにより維持できる。
更に別の方法として、胚盤葉上層幹細胞からのNPSCの誘導を、胚盤葉上層細胞を異常増殖させた後、50%コンフルエントに達した時点で増殖因子を全て除去することにより実施してもよい。新しい培地を2〜3日毎に添加する(交換はせず)。7日目を過ぎると神経細胞塊を観察することができ、これをFGF4中において培養してNPSCを取得できる。
更に別の方法として、胚盤葉上層細胞からのNPSCの誘導を、FGF4の存在下(且つFGF2及びアクチビンの非存在下)における懸濁培養により細胞を増殖させて凝集体を形成させることによって実施してもよい。培養により得られた凝集体にフィブロネクチンを1日1回3〜4日間にわたり添加した後、凝集体が接着し広がり始める。これに続いてNPSCを観察できる。
ES細胞又はiPS細胞(例えば、ヒトのES細胞又はiPS細胞)を用いる場合、胚盤葉上層幹細胞について上述したようにFGF2及びアクチビンを更に使用してもよい。但し、ES細胞又はiPS細胞を用いる場合には、増殖因子としてFGF4のみを含有する(すなわち、FGF2及び/又はアクチビンを外から添加しない)培地中において細胞を培養することによりNPSCを誘導してもよく、こうすることにより顕著な細胞死が生じない。得られたNPSCを、FGF4と共に培養することにより維持できる。
NPSCの特徴
胎齢を経た胚及び成体に由来する神経前駆体がFGF2及びEGFにより補助されることが一貫して示されているが、NPSCの場合、その増殖及び幹細胞(すなわち未分化)状態はFGF4により維持される。上述したように、FGF4が神経前駆体や幹細胞に対して特異的な効果を有するという報告はこれまでなされていなかった。重要なことには、FGF2及びEGFのいずれも神経板幹細胞の増殖に対して効果を有していない。
胎齢を経た胚及び成体に由来する神経前駆体がFGF2及びEGFにより補助されることが一貫して示されているが、NPSCの場合、その増殖及び幹細胞(すなわち未分化)状態はFGF4により維持される。上述したように、FGF4が神経前駆体や幹細胞に対して特異的な効果を有するという報告はこれまでなされていなかった。重要なことには、FGF2及びEGFのいずれも神経板幹細胞の増殖に対して効果を有していない。
EGF及びFGF2のいずれも増殖効果を有さないことに加え、試験した他の多数のFGF(FGF2、FGF5、FGF8、FGF9、FGF10、FGF19)もNPSCの増殖を増大させない。
重要なことに、FGF4は、NPSCの増殖を引き起こすだけでなく初期の「前パターン形成」状態において分化を停止させる。この状態の特徴として、NPSCの100%がマーカーBrn-2を発現し、且つNPSCの集合体中の細胞の30%以下がマーカーSox-1を発現する。ある実施形態において、NPSCの集合体中の95%未満、例えば85%未満、75%未満、65%未満、55%未満、45%未満、35%未満、25%未満、15%未満、又は5%未満がSox-1を発現する。
上記以外のNPSCの特徴として、神経原性bHLH因子Ngn2及びMASH1を発現しない。大部分のNPSCが神経原性ジンクフィンガー因子PLZFを発現せず、ある実施形態において、NPSCの集合体中の10%未満、例えば9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満がPLZFを発現する。ある実施形態において、NPSCはPLZFを発現しない(すなわちNPSCの集合体中の0%がPLZFを発現する)。したがって、ある実施形態において、NPSCは、PLZF、ngn2、及びMASH1からなる群より選択される1つ以上のマーカーを発現しない。
上記以外のNPSCの特徴として、BMP-2活性マーカーpax3を発現しない。上記のほか、NPSCの特徴としてマーカーPax6、En1、En2、及び/又はKrox20を発現しないことを挙げてもよい。
FGF4の存在下においてNPSCが「前パターン形成」状態に維持され、NPSCは「前パターン形成」状態において背腹軸形成シグナルであるソニックヘッジホッグ(Shh)及びBMP-2に応答しない。FGF4+Shhの存在下において培養したNPSCはShh活性マーカーNkx2.2を発現しない。また、FGF4+BMP-2の存在下において培養したNPSCはBMP-2活性マーカーPax3を発現しない。
したがって、本発明は、
単離された神経板幹細胞(NPSC)であって、
(i)FGF4は上記NPSCの増殖を増大させ、
(ii)FGF2は上記NPSCの増殖を増大させない
ことを特徴とする、単離された神経板幹細胞を提供する。
単離された神経板幹細胞(NPSC)であって、
(i)FGF4は上記NPSCの増殖を増大させ、
(ii)FGF2は上記NPSCの増殖を増大させない
ことを特徴とする、単離された神経板幹細胞を提供する。
ある実施形態において、FGF4の存在下における上記NPSCの増殖率が、外因性増殖因子の非存在下における増殖率(例えば、N2培地のみを用いて培養したNPSCの増殖率)の2倍を超える。例えば、FGF4の存在下における上記NPSCの増殖率が、外因性増殖因子の非存在下における増殖率の3倍を超えてもよく、例えばその4倍を超えたり、5倍を超えたり、又は6倍を超えたりしてもよい。上記NPSCの増殖は、例えば、ブロモデオキシウリジン(BrdU)が組み込まれた細胞の割合を規定時間範囲にわたって計測することにより測定してもよい(例えば図1参照)。
本発明はまた、単離された神経板幹細胞(NPSC)であって、FGF4中において培養すると上記NPSCが前パターン形成状態において維持され、FGF2中において培養すると上記NPSCが前パターン形成状態において維持されないことを特徴とする、単離された神経板幹細胞をも提供する。
ここで、「前パターン形成状態」とは、上記NPSCがマーカーBrn-2を発現するが神経原性bHLH因子Ngn2及びMASH1は発現しない状態である。「前パターン形成状態」において、上記NPSCは、背腹軸形成シグナルであるソニックヘッジホッグ(Shh)及びBMP-2に応答しない。
ある実施形態において、上記NPSCはbrn2が発現していることを更に特徴とする。
ある実施形態において、上記NPSCはNgn2及び/又はMASH1が発現していないことを更に特徴とする。
ある実施形態において、上記NPSCはPax3が発現していないことを特徴とする。
ある実施形態において、上記NPSCはPax6、En1、En2、及び/又はKrox20が発現していないことを更に特徴とする。
ある実施形態において、上記NPSCは神経ロゼットマーカーPLZF(Elkabetz 2008, Genes Dev)を有さないことを特徴とする。したがって、ある実施形態において、上記神経板幹細胞は、PLZF、ngn2、及びMASH1からなる群より選択される1つ以上のマーカーを発現しない。
別の実施形態において、本発明は、神経板幹細胞の単離された集合体であって、上記集合体中の実質的に全ての細胞がbrn2を発現することを特徴とする、神経板幹細胞の単離された集合体を提供する。
ある実施形態において、上記集合体中の細胞の95%未満がsox1を発現する。ある実施形態において、上記NPSCの集合体の90%未満、例えば85%未満、75%未満、65%未満、55%未満、45%未満、35%未満、25%未満、15%未満、又は5%未満がSox-1を発現する。
ある実施形態において、上記NPSCの集合体は、PLZF、Ngn2、及び/又はMASH1が発現していないことを更に特徴とする。
ある実施形態において、上記NPSCの集合体はNgn2及び/又はMASH1が発現していないことを特徴とする。例えば、ある実施形態において、上記NPSCの集合体の10%未満、例えば上記集合体の9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満がMASH1を発現する。ある実施形態において、上記NPSCの集合体中の細胞はMASH1を発現しない(すなわち上記NPSCの集合体中の0%がMASH1を発現する)。
ある実施形態において、上記NPSCの集合体はPax3が発現していないことを特徴とする。例えば、ある実施形態において、上記NPSCの集合体の10%未満、例えば上記集合体の9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満がMASH1を発現する。ある実施形態において、上記NPSCの集合体中の細胞はMASH1を発現しない(すなわち上記NPSCの集合体中の0%がMASH1を発現する)。
ある実施形態において、上記NPSCの集合体はPax6、En1、En2、及び/又はKrox20を有さないことを更に特徴とする。
ある実施形態において、FGF4が存在することにより上記細胞の集合体の増殖が増大し、FGF2が存在することにより上記細胞の集合体の増殖が増大しない。
本発明は、本明細書中の実施例のいずれかを参照して上記するものと実質的に同様の神経板幹細胞の単離された集合体を提供する。
本発明は、本明細書中の実施例のいずれかを参照して上記するものと実質的に同様の神経板幹細胞の単離された集合体を提供する。
NPSCの神経細胞種への分化
FGF4の存在下においてNPSCは「前パターン形成」状態において維持され、「前パターン形成」状態においてNPSCはPLZF、Pax3、Pax6、En1、En2、Krox20、Ngn2、及びMASH1等の神経原性因子を発現しない。しかし、FGF4を除去すると、NPSCは神経細胞種に分化し始め、このことはNPSCが神経ロゼットを形成することからわかり(ロゼット形成は神経管由来の後段階神経細胞の特徴である)、神経ロゼットはその後ニューロンに分化する。
FGF4の存在下においてNPSCは「前パターン形成」状態において維持され、「前パターン形成」状態においてNPSCはPLZF、Pax3、Pax6、En1、En2、Krox20、Ngn2、及びMASH1等の神経原性因子を発現しない。しかし、FGF4を除去すると、NPSCは神経細胞種に分化し始め、このことはNPSCが神経ロゼットを形成することからわかり(ロゼット形成は神経管由来の後段階神経細胞の特徴である)、神経ロゼットはその後ニューロンに分化する。
FGF4を除去すると、NPSCはドーパミン及びセロトニンニューロンや運動ニューロンに分化できるようになり、この能力は継代を何度繰り返しても保持される。また、FGF4を除去すると、Pax3等のマーカーの発現が観察される。NPSCをShh及びFGF8と共に培養した場合には、ドーパミンニューロン等のカテコールアミン作動性ニューロン又はセロトニンニューロンに特徴的なチロシン水酸化酵素の発現を有するニューロンへの分化が観察される(図10参照)。また、NPSCをレチノイン酸と共に培養した場合には、運動ニューロンに特徴的なホメオボックス-9 (HB-9)の発現を有するニューロンへの分化が観察される(図11参照)。
したがって、本発明は、Shh及びFGF8の存在下且つFGF4の非存在下における培養によりドーパミン又はセロトニンニューロン(チロシン水酸化酵素の発現を特徴とする)に分化できる、単離された神経板幹細胞を提供する。
NPSCは、発生の極めて初期であるために任意の又は非常に多様な神経細胞種又はグリア細胞種に分化できると考えられる。例えば、NPSCは、コリン作動性ニューロン、運動ニューロン、アドレナリン作動性ニューロン、ノルアドレナリン作動性ニューロン、ペプチド作動性ニューロン、グリア細胞、星状細胞、及び/又は希突起膠細胞に分化できてもよい。
本発明はまた、レチノイン酸の存在下且つFGF4の非存在下における培養により運動ニューロン(HB-9の発現を特徴とする)に分化できる、単離された神経板幹細胞をも提供する。
ある実施形態において、NPSCの集合体の細胞は、少なくとも40回継代されるとモノアミン作動性ニューロン又は運動ニューロンに分化できる。
定義
本明細書中において用語「神経板の形態」はNPSCの特徴を指し、これには上皮形態(細胞が薄層を形成)、核の大径化、及び/又は細胞質に対する核の比率の上昇が含まれる。ある実施形態において、核の最大径は細胞の最大径の20%を超え、例えば細胞の最大径の30%を超え、例えば細胞の最大径の40%、50%、60%、70%、80%、又は90%を超える。
本明細書中において用語「神経板の形態」はNPSCの特徴を指し、これには上皮形態(細胞が薄層を形成)、核の大径化、及び/又は細胞質に対する核の比率の上昇が含まれる。ある実施形態において、核の最大径は細胞の最大径の20%を超え、例えば細胞の最大径の30%を超え、例えば細胞の最大径の40%、50%、60%、70%、80%、又は90%を超える。
本明細書中において用語「存在下」及び「非存在下」は、特定増殖因子(FGF2及びFGF4等)と共に若しくは無しで、又は特定の培地構成要素と共に若しくは無しで(例えば、フィブロネクチン無しで)細胞を培養することを指す。誤解のないように述べるが、指定された因子の「存在下」において細胞を培養するという場合、上記指定増殖因子を外から培地に添加することを意味する。したがって、培養細胞が上記因子を極微量分泌した培地において上記細胞を培養する場合は、上記因子の「存在下」において培養したとはみなさない。
同様に、指定された因子又は構成要素の「非存在下」という場合、上記指定の増殖因子を培地中に外から添加していないことを意味する。したがって、培養細胞が増殖因子を極微量分泌した培地において上記細胞を培養する場合も、上記因子の「非存在下」において培養したとみなす。したがって、FGF4「のみ」と共に細胞を培養するという場合、培地中に通常含まれる増殖因子(例えば、NPSCの増殖に一般的に使用されるN2培地には、神経細胞の生存にとって非常に重要な因子であるインスリンが含まれる)の他に外から培地中に添加された増殖因子がFGF4のみであることを意味する。
ある実施形態において、増殖因子又は構成要素が培地中に存在する場合、その濃度は5ng/mlを超える、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、又は50ng/mlを超える。この濃度に達しない増殖因子又は構成要素は「存在しない」とみなす。
実際には、本明細書中において、FGF2及び/又はアクチビンの培地からの「除去」は、FGF2及び/又はアクチビンを含有する培地を、例えばFGF4のみを含有する培地により置き換えることによって実施する。
本明細書中において、集合体中の「実質的に全て」の細胞とは、上記集合体中の細胞の95%を超える、例えば上記細胞の96%を超える、97%を超える、98%を超える、又は99%を超える細胞を意味するものとして定義する。
本発明を、特定の実施形態において付属の図面を参照して説明する。
顕著な細胞死はない。7日後、神経板細胞塊が多く観察でき、FGF4により更に増殖できる。FGF4の非存在下においては、異なる細胞の亜集団が観察される(この非神経細胞はこの時点で特定されず)。
一方、N2+FGF4中における非接着条件下において胚盤葉上層細胞の増殖が可能である。48〜72時間後に凝集体が観察される。培養により得られた凝集体にフィブロネクチンを1日1回添加する。3〜4日後に凝集体が接着し、広がり始める。神経板幹細胞が観察される。
結果が示すように、ラミニン被覆プレート及びゼラチン被覆プレートにおいて神経板幹細胞(NPSC)を誘導できる。
材料及び方法
本明細書中に記載するN2培地の組成は、Bottenstein及びSato(1979)による提示に従う。
本明細書中に記載するN2培地の組成は、Bottenstein及びSato(1979)による提示に従う。
実施例1
マウス胚からの神経板幹細胞の誘導
出産時期を調節した妊娠マウスの子宮から頭褶期のマウス胚(E7.5〜E7.75)を切除した。臓側内胚葉、頭部間葉、並びに発生過程の前腸及び心臓原基の解剖により前方神経板を得た。細胞を分離し、フィブロネクチン被覆シャーレ中のN2培地に播種した。
マウス胚からの神経板幹細胞の誘導
出産時期を調節した妊娠マウスの子宮から頭褶期のマウス胚(E7.5〜E7.75)を切除した。臓側内胚葉、頭部間葉、並びに発生過程の前腸及び心臓原基の解剖により前方神経板を得た。細胞を分離し、フィブロネクチン被覆シャーレ中のN2培地に播種した。
これより後の段階の胚から採取した又は多能性細胞から誘導したロゼット形成細胞(Elkabetz et al. 2008; Koch et al. 2009)とは異なり、神経板幹細胞は平らで連続した上皮のコロニーを形成する。胚性幹細胞の場合と同様、神経板幹細胞の核は大径で目立ち、細胞質に対する核の比率が高い。Sox1発現細胞が存在し、非神経マーカーであるOct4、ブラキュリ、及びSox17は存在しない。
これより後の異なる段階における神経幹細胞の多分化能状態及び増殖をFGF2及びEGFが助けることが示されている(Cattaneo and McKay 1990; Pollard 2008)。これに反し、FGF2及びEGFのいずれも神経板幹細胞を未分化のまま維持しなかった。FGF2が存在してもしなくても、マウス胚から誘導した神経板幹細胞は48時間以内にロゼット構造を形成し始め(Elkabetz et al. 2008, Koch et al. 2009)、このロゼットが分化し、1週間でニューロンが形成される。
本発明者らは多数の線維芽細胞増殖因子をスクリーニングし、その結果、予想外にも、FGF4は神経板幹細胞の分裂を特異的に促進する効果が高いこと、他のFGFはこれに類似する効果を有さないことを見いだした。また、切断カスパーゼ3の免疫組織化学的測定によると、FGF4は神経板幹細胞の生存を促進する。
実施例2
マウス及びヒト多能性細胞からの神経板幹細胞の誘導
本発明者らは、マウス多能性細胞からの神経板幹細胞の誘導を試みた。FGF2及びアクチビンの存在下、N2培地中、フィブロネクチン上においてマウス胚盤葉上層細胞を維持した。上記条件下、培養物にFGF4を添加した。
マウス及びヒト多能性細胞からの神経板幹細胞の誘導
本発明者らは、マウス多能性細胞からの神経板幹細胞の誘導を試みた。FGF2及びアクチビンの存在下、N2培地中、フィブロネクチン上においてマウス胚盤葉上層細胞を維持した。上記条件下、培養物にFGF4を添加した。
別個の実験として、FGF4のみを添加した(すなわち、FGF2、アクチビン、又は他の増殖因子の非存在下における)N2培地中で培養することにより、ヒト多能性細胞(hEs及びiPS)から神経板幹細胞を直接誘導した。
FGF4は、神経板幹細胞の分裂を促進する特性を有する以外に多能性細胞の分化にも関連することが示唆されており(Kunath 2007, Stavridis et al. 2007)、FGFは神経誘導に関与すると考えられている(Stern; Pera et al. 2003)。
まず、FGF4処理により胚盤葉上層幹細胞の極性化が観察される。二つの極に分かれた形態となったことが細胞状態の外胚葉への移行を示すのか、又は細胞の形状が変化しただけであるのか、は明らかではない。
4〜6回継代後(約12〜18日後)に神経板の形態を有するコロニーが現れ、この時点でFGF2及びアクチビンを除去する。この段階でFGF2及びアクチビンの投与を継続すると均質な非神経細胞が発達してくるが、この非神経細胞はこの時点で特定されない。
多能性細胞からの誘導により得られた神経板幹細胞をFGF4を添加したN2培地中でフィブロネクチン上において増殖させ、アキュターゼを用いて継代する。
神経板幹細胞は、FGF2及びアクチビンの非存在下においてFGF4を添加したN2中でマウス胚盤葉上層幹細胞から誘導できる。この場合、神経板の形態を有するコロニーをより早期(約1週間)に観察できるが、培養物における細胞死が顕著である。
胚から誘導した神経板幹細胞と同様、多能性細胞から誘導したNPSCは非神経細胞系譜マーカーを発現せず、FGF4を除去すると神経分化の過程でロゼットを形成する。神経板幹細胞のニューロンへの分化は継代41回目まで観察されている。
NPSCを誘導する方法において重要な特徴は、前駆細胞(胚盤葉上層幹細胞、ES細胞、iPS細胞、初期胚細胞)をFGF4と共に培養する工程である。この工程により胚盤葉上層幹細胞からNPSCを誘導することを含む方法について、その概略を図4に例示する。
Sox1は、脊椎動物において神経細胞系譜を決定づける最も初期のマーカーであると考えられている(Pevny 1998)。神経板幹細胞におけるSox1の発現は免疫組織化学により観察されているが、その発現は全細胞の約30%にしかみられず、核染色の強度に幅がある。本発明者らは、FGF4を除去すると、得られたロゼット細胞のほぼ全てが48時間の時点でSox1を発現していることを見いだした。
また、神経板には発現しない神経原性bHLH転写因子であるMASH1及びNgn2(Parras 2002)もFGF4除去後48時間で誘発される。最後に、神経ロゼットマーカーPLZFもFGF4除去後に上方調節される。これらの結果が示すように、Sox1は初期神経板に特異的なマーカーではない可能性がある。
本発明者らは、マウス神経板におけるSox1の発現を免疫組織化学的に調査した。予想外にも、形成時の神経板にはSox1が発現しておらず、Sox1が最初に観察されるのは中期神経板期であり、神経板の腹側正中線にある二層のヒンジ形成細胞に限局して観察され、この二層のヒンジ形成細胞から神経管閉鎖が開始する(Smith JL 1991)。これ以降の段階でも、神経板の水平部分においてsox1は発現していないか、発現が弱い(Thomas Andreska, R. K., and A.G.S, in preparation)。一方、POUドメイン及びホメオドメイン含有転写因子であるBrn2/Pou3f2は極めて初期の段階から神経板全体にわたって発現しており、in vitroにおいて神経板幹細胞に一様に発現する。
実施例3
神経板幹細胞のパターン形成
神経始原細胞の分化を特異的に開始するには、神経管のパターン形成を行う分泌因子に対して神経始原細胞が応答する必要がある。神経管背腹軸の形成にあたり、底板形成体及び蓋板形成体が、腹側化活性及び背側化活性をそれぞれ有するソニックヘッジホッグ(shh)タンパク質及び骨形成タンパク質を分泌する。
神経板幹細胞のパターン形成
神経始原細胞の分化を特異的に開始するには、神経管のパターン形成を行う分泌因子に対して神経始原細胞が応答する必要がある。神経管背腹軸の形成にあたり、底板形成体及び蓋板形成体が、腹側化活性及び背側化活性をそれぞれ有するソニックヘッジホッグ(shh)タンパク質及び骨形成タンパク質を分泌する。
背腹側を示すマーカーは、神経板の開いた部分には発現していないが(Shimamura 1997; Liem 1995)、およそE8.25にて、閉鎖した又はほぼ閉鎖した神経管において誘発される。さらに、背腹側を示すマーカーはFGF4の存在下で神経板幹細胞において発現せず、腹側マーカーNkx2.2又は背側マーカーPax3は単にShh又はBMP2をそれぞれ添加するのみによっては誘発されない。FGF4を除去すると、Sox1及びbHLH因子が誘発されるのと同様に背腹側マーカーも上方調節される。上記条件においては、ShhによりNkx2.2が誘発され、BMP2によりPax3が誘発される。FGF4により神経板幹細胞が未パターン化状態のまま維持されるようである。未パターン化状態とは、Shh又はBMP-2によるパターン化を受けられるようになる以前の状態である。
Shh同様、モルフォゲンの作用も濃度依存的である。本発明者らは、別の実験においてスケールを拡大し、FGF4を除去し、3通りの異なるShh濃度(0ng/ml、500ng/ml、及び1ug/ml)にてBMP-2を添加して神経板幹細胞を増殖させ、背腹側マーカー4種の発現を評価した。
Shh濃度が上昇するにつれて腹側マーカー(Nkx2.2及びNkx6.1)が誘発され、これと同時に背側マーカー(Pax3)が失われる。BMP2で処理した場合には逆の現象が観察される。この条件において、蓋板マーカーMsx1はBMP2処理をした場合にのみ誘発される。完全な胚の脊髄及び中脳(Briscoe 2000; Agarwala 2001)、初期神経管外植片(Wijgerde 2002)、初期神経管から分離した始原細胞(Kittappa 2007)、及び分化過程のマウス胚性幹細胞 (Wichterle 2002)においても同様の結果が観察された。FGF4の影響がなくなると、腹側化及び背側化モルフォゲンによるパターン形成に対して神経板幹細胞が十分に応答できるようになる。
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Claims (28)
- 神経板幹細胞(NPSC)を取得する方法であって、
(a)多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を提供する工程、
(b)前記細胞の集合体をFGF4の存在下において培養する工程、及び
(c)その結果として神経板幹細胞を取得する工程を含み、
FGF4は前記神経板幹細胞の増殖を増大させ、FGF2は前記神経板幹細胞の増殖を増大させない、方法。 - 前記NPSCが、FGF4の存在下において、外因性増殖因子の非存在下における場合の2倍を超えて増殖する、請求項1に記載の方法。
- 神経板幹細胞(NPSC)を取得する方法であって、
(a)多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞を提供する工程、
(b)前記細胞の集合体をFGF4の存在下において培養する工程、及び
(c)その結果として神経板幹細胞を取得する工程を含み、
FGF4は前記NPSCを前パターン形成状態において維持し、FGF2は前記NPSCを前パターン形成状態において維持しない、方法。 - 前記「前パターン形成状態」とは、前記NPSCがマーカーBrn-2を発現するが、
(i)神経原性bHLH因子Ngn2及びMASH1、
(ii)MASH1、
(iii)Pax3、
(iv)Pax6、
(v)En1、
(vi)En2、及び/又は
(vii)Krox20
は発現しない状態である、請求項3に記載の方法。 - 前記多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞が初期神経板から取得された初期胚細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 前記多能性細胞が胚盤葉上層幹細胞、胚性幹細胞、又は人工多能性細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 前記多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞がFGF4の存在下且つFGF2及び/又はアクチビンの非存在下において培養される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 前記多能性細胞又は原始神経外胚葉細胞がFGF4のみの存在下において培養される、請求項7に記載の方法。
- 前記多能性細胞がFGF4に加えてFGF2及び/又はアクチビンの存在下において培養される、請求項6に記載の方法。
- 前記神経板幹細胞がbrn2を発現する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
- 前記神経板幹細胞が、PLZF、ngn2、及びMASH1からなる群より選択される1つ以上のマーカーを発現しない、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
- 前記細胞の集合体がフィブロネクチンの非存在下において培養される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
- 請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法により取得される、単離された神経板幹細胞又は前記細胞の集合体。
- 神経板幹細胞の取得を目的とした、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法におけるFGF4を含む培地の使用。
- 本明細書中の実施例のいずれかを参照して前記するものと実質的に同様の神経板幹細胞の集合体を誘導する方法。
- 単離された神経板幹細胞(NPSC)であって、
(i)FGF4は前記NPSCの増殖を増大させ、
(ii)FGF2は前記神経板幹細胞の増殖を増大させない
ことを特徴とする、単離された神経板幹細胞。 - brn2が発現していることを更に特徴とする、請求項16に記載の単離された神経板幹細胞。
- (i)Ngn2及びMASH1、
(ii)MASH1、
(iii)Pax3、
(iv)Pax6、
(v)En1、
(vi)En2、及び/又は
(vii)Krox20
が発現していないことを更に特徴とする、請求項16又は17に記載の単離された神経板幹細胞。 - 神経板幹細胞の単離された集合体であって、
(i)前記集合体中の実質的に全ての細胞がbrn2を発現する
ことを特徴とする、神経板幹細胞の単離された集合体。 - 前記集合体中の細胞の95%未満がsox1を発現する、請求項19に記載の神経板幹細胞の単離された集合体。
- 前記神経板幹細胞(NPSC)の集合体の90%未満、例えば85%未満、75%未満、65%未満、55%未満、45%未満、35%未満、25%未満、15%未満、又は5%未満がSox-1を発現する、請求項20に記載の神経板幹細胞の単離された集合体。
- (i)Ngn2及びMASH1、
(ii)MASH1、
(iii)Pax3、
(iv)Pax6、
(v)En1、
(vi)En2、及び/又は
(vii)Krox20
が発現していないことを特徴とする、請求項19〜21のいずれか一項に記載の神経板幹細胞の単離された集合体。 - 前記細胞の集合体はFGF4の存在下において増殖し、FGF2の存在下においては増殖しない、請求項19〜22のいずれか一項に記載の神経板幹細胞の単離された集合体。
- 本明細書中の実施例のいずれかを参照して前記するものと実質的に同様の単離された神経板幹細胞又は前記細胞の集合体。
- Shh及びFGF8の存在下且つFGF4の非存在下における培養によりモノアミン作動性ニューロンに分化できる、単離された神経板幹細胞。
- レチノイン酸の存在下且つFGF4の非存在下における培養により運動ニューロンに分化できる、単離された神経板幹細胞。
- 任意の神経細胞種又はグリア細胞種に分化できる、単離された神経板幹細胞。
- 少なくとも40回継代されるとモノアミン作動性ニューロン又は運動ニューロンに分化できる、神経板幹細胞の単離された集合体。
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