以下でさらに記載するように、本発明者らは、一群の上皮癌細胞と非癌性細胞の両方において、Espada et al.(J. Cell Physiol. 219:84-93, 2009)、Fouquet et al.(J. Biol. Chem. 279(41):43061-43069, 2004)及びGalaz et al.(J. Cell Physiol. 205(1):86-96, 2005)により利用されたDECMA-1抗体を含めた、E-カドヘリンの細胞外ドメインを標的化する様々な市販のモノクローナル抗体とポリクローナル抗体の有効性を試験した。本発明者らがこれらの実験を繰り返すと、本発明者らは、40μg/mLほどの低い濃度でのこの抗体の施用が、癌細胞(即ち、MCF-7、SCC12b、SCC13、CRL-1555、PAM212、SP308及びKLN205細胞)と対照として利用した非癌性細胞(即ち、ヒト乳癌上皮細胞及びPHK及びPMK細胞)の両方において細胞死を、驚くことに誘導したことを発見した。さらに、同じ濃度(40μg/mL)で対照IgGアイソタイプ抗体を用いた、これらの癌細胞と非癌性細胞の処置も、両タイプの細胞において同レベルの細胞死を誘導した。これらのデータは、抗体施用後の細胞死の非特異的誘導を示唆する。本発明者らの研究室では、(10〜20μg/mLの低用量で)E-カドヘリンの細胞外ドメインEC2〜EC5を標的化する抗体をより希釈した溶液を施すことにより、癌細胞のみにおいて、明らかにアポトーシスによる細胞死を誘導した。本発明者らは、非癌性細胞に対する悪影響は観察しなかった。さらに、非癌性細胞に対する10〜20μg/mLの濃度での対照IgGアイソタイプの施用は一般に、細胞生存能力に対する検出可能な影響はなかった。10〜20μg/mLの間のこれらの濃度は、Espada et al.(J. Cell Physiol. 219:84-93, 2009)、Fouquet et al.(J. Biol. Chem. 279(41):43061-43069, 2004)及びGalaz et al.(J. Cell Physiol. 205(1):86-96,(2005)によって使用された濃度より約20〜50倍低い。したがって本発明者らは、本発明の医薬製剤及び調製物は、(例えば、従来の試験でEspada及び他者により示唆された製剤より低い用量の)低用量製剤として作製し使用することができ、このような製剤は本発明によって包含されると予想する。当業者は幾つかの考慮事項に基づき用量が変化し得ることを理解しているが、本発明の組成物及び方法は、望ましい影響が癌細胞に関して観察されるが非癌性細胞は無影響又は実質的に影響を受けない状態である、二剤組成物の用量を対象とすることができる。前に記載したように、E-カドヘリンのEC2〜EC5サブドメインを対象とする10〜20μg/mLの抗体(モノクローナル又はポリクローナル)を外から施用することによって、代表的な一群のヒト及びマウス腫瘍細胞系を選択的に殺傷した。これらの濃度は本発明の組成物及び方法中では有用である可能性があり、又は少なくとも、「低用量」性質の臨床上有用な製剤の同定を手助けするのに働く。本発明者らは、このような抗体が、HT29ヒト結腸細胞系、NCI-H292ヒト肺細胞系、及びKLN205ネズミ肺癌細胞系に対して細胞毒性があることを示すデータも有する。したがって本発明の組成物及び方法は、結腸又は肺癌(2タイプの蔓延的及び破壊的な癌)を有する患者の治療を対象とすることができる。さらに本発明者らは、正常ヒト乳上皮細胞、正常ヒト及びマウスケラチノサイト、マウス3T3線維芽細胞及びヒト内皮細胞を含めた非癌性細胞は、低濃度でサブドメインを標的化する抗体を使用した本発明者らのアッセイでは、影響を受けない状態であったことを実証した。上皮由来腫瘍細胞においてE-カドヘリンのEC2〜EC5細胞外ドメインの様々な組合せを標的化し細胞死を誘導する分子経路は、依然として解明されていない。しかしながら本発明者らは、癌細胞の死によりアポトーシス促進マーカーp53が上方制御されたことを実証し、本発明者らは、EC2〜EC5カドヘリンドメインを対象とする抗体を用いた処置後MCF-7乳癌、マウスSCC及びマウスKLN205肺癌細胞系においてこの上方制御を観察した。
前に記したように、本発明の組成物は、(本明細書でsEcadと呼ぶ)shed sEcad断片(EC2〜5)を含めた、E-カドヘリンの細胞外ドメインのEC2、EC3、EC4及びEC5ドメイン(即ちEC2〜5)の1個以上を特異的に標的化する作用物質を含む。しかしながら、これらの作用物質がEC1サブドメインを特異的に標的化することはない。したがって、これらの作用物質はsEcadを阻害することができ、又はそれらは、腫瘍細胞微小環境において、細胞生存受容体などの別の標的と結合する、それを阻害する、若しくはそれを封鎖することができる。本発明の組成物は、任意の特定機構によってその効果を発揮する組成物に限らないが、本発明者らの実験の仮説は、本発明の作用物質が、癌細胞に有益なシグナルをもたらすsEcadの能力に干渉するということである。例えば本発明者らは、癌細胞は微小環境にsEcadを分泌し、そこでそれが正常な細胞間接触に似た機能的足場を提供すると仮定する。したがって、腫瘍微小環境から実際又は効果的にsEcadを除去することによって、接着及び生存状態を維持する腫瘍細胞の能力が乱れる。他の場合、本発明の作用物質は、別の細胞標的(例えばHER-2)と相互作用するsEcad上のエピトープと結合し、それにより細胞生存、細胞増殖、細胞移動及び/又は浸潤と関連がある下流シグナル伝達事象を改変することによって、sEcadの活性を阻害することができる。或いは、又は追加的に、作用物質はsEcadシグナル伝達に必要な特異的エピトープと結合しない可能性があるが、その代わりに、それを壊滅するため封鎖、タグ化、又は標的化し、それにより腫瘍微小環境中のその濃度を低下させ、それが細胞間相互作用を模倣する又は細胞受容体と結合できないような形式でsEcadと結合する可能性がある。例えば、本発明の作用物質及び組成物は、例えばE-カドヘリンと結合しその切断部位を遮断することにより、又は他の場合sEcadの放出を遮断若しくは阻害することにより、sEcad発散を低減することができる。したがって、本明細書に記載する組成物又は作用物質は、EC2〜EC5サブドメインの1個以上を特異的に標的化することができ、特異的エピトープの干渉又はsEcadレベルを実際低減することにより、他の場合sEcadが1個以上のシグナルを生成するのを効率よく妨げることができる。
読みやすさのため、本発明者らは、sEcadの第1サブドメイン(EC1)ではなく、sEcadのEC2〜EC5サブドメインの1個以上におけるアミノ酸残基を特異的に標的化する作用物質を、より簡潔に標的化物質と言うことができる。本発明の標的化物質は、(EC1ドメインではなく)E-カドヘリン及びshed sEcadのEC2〜EC5サブドメインの1個以上におけるアミノ酸残基と特異的に結合する、修飾フィブロネクチンドメイン又は免疫グロブリン、又はそれらの断片若しくは他の変異体などの足場タンパク質であってよい。作用物質がタンパク質(例えば、足場タンパク質又は抗原ポリペプチド)である、又はそれを含む場合、本発明者らは作用物質をタンパク質ベースの治療剤と言うことができる。本発明者らは、用語「タンパク質」を使用してさらに長いアミノ酸ポリマーを言及する傾向があり、本発明者らは、用語「ポリペプチド」を使用して、巨大分子又は複合体内部アミノ酸残基のさらに短い配列又は鎖を言及する傾向がある。しかしながら、いずれの用語も、翻訳後修飾(例えば、アミド化、リン酸化又はグリコシル化)とは無関係に、2個以上のサブユニットアミノ酸の物体、アミノ酸アナログ、又は他のペプチド模倣体の記載を意味する。サブユニットアミノ酸残基は、ペプチド結合、又は例えばエステル若しくはエーテル結合などの、他の結合により連結することが可能である。用語「アミノ酸」及び「アミノ酸残基」は天然及び/又は非天然又は合成アミノ酸を指し、これらはD-又はL-型光学異性体であってよい。
抗sEcad抗体は様々な形状をとり、実質的に免疫グロブリン遺伝子によってコードされる1個以上のポリペプチドからなるタンパク質を包含し得る。完全抗体、抗体多量体、又は抗体の機能的抗原結合領域を含む、その抗体断片若しくは他の変異体を含めた、様々な抗体構造のいずれか1個を使用することができる。本発明者らは、「抗体」と同義で用語「免疫グロブリン」を使用することができる。抗体は、モノクローナル又はポリクローナル起源であってよい。抗体の供給源とは無関係に、適切な抗体には、完全抗体、例えば2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)を有するIgG四量体、単鎖抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、相補性決定領域(CDR)移動抗体、並びに抗体断片、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、及びこのような断片に由来する組換え抗体、例えばキャメルボディ、マイクロ抗体、ダイアボディ及び二重特異性抗体がある。
完全抗体は、抗原結合可変領域(VH及びVL)、並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む抗体である。定常ドメインは、原型配列定常ドメイン(例えば、ヒト原型配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。当技術分野でよく知られているように、VH及びVL領域は、より保存的なフレームワーク領域(FR)と共に散在する、「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに分けられる。FRとCDRの程度は定義されている(Kabat et al.Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, 1991、及びChothia, et al., J. Mol. Biol. 196:901-917(1987)参照)。典型的には抗体のCDRは、天然免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合アフィニティー及び特異性を一緒に画定するアミノ酸配列を含む。
抗sEcad抗体は、任意のクラスの免疫グロブリン、例えばIgA、IgG、IgE、IgD、IgM(並びにそれらの亜型(例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4))に由来してよく、免疫グロブリンの軽鎖はタイプκ又はλであってよい。認識されるヒト免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α(IgA1及びIgA2)、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、ε、及びμ定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子がある。
免疫グロブリン又は抗体の「抗原結合部分」という用語は一般に、標的、この場合、sEcadの第2〜第5サブドメインの1個以上の内部又は間(例えば第4と第5サブドメインの内部又は間)のアミノ酸残基を含むエピトープと特異的に結合する免疫グロブリンの一部分を指す。したがって、免疫グロブリンの抗原結合部分は、1本以上の免疫グロブリン鎖は完全長ではないが、細胞標的と特異的に結合する分子である。抗原結合部分又は断片の例には、(i)Fab断片、VLC、VHC、CL及びCH1ドメインからなる一価断片、(ii)F(ab')2断片、ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結した2個のFab断片を含む二価断片、(iii)抗体の単一アームのVLC及びVHCドメインからなるFv断片、及び(v)例えば、可変領域の抗原結合部分と特異的に結合するのに十分なフレームワークを有する単離CDRがある。軽鎖可変領域の抗原結合部分と重鎖可変領域の抗原結合部分、例えばFv断片の2ドメイン、VLCとVHCは、組換え法を使用して、(単鎖Fv(scFv)として知られる)VLC領域とVHC領域が対形成して一価分子を形成する単一タンパク質鎖として、それらを作製することができる合成リンカーによって接合することができる。例えば、Bird et al., Science 242:423-426(1988)、及びHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883(1988)を参照。このようなscFvは本発明の標的化物質である可能性があり、抗体の「抗原結合部分」という用語によって包含される。
「Fv」断片は、完全抗原認識及び結合部位を含有する最小抗体断片である。この領域は、強く共有結合した1個の重鎖及び1個の軽鎖可変ドメインの二量体からなる。それぞれの可変ドメインの3個の超可変領域が相互作用して、VH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を画定するのは、この形状内である。6個の超可変領域が抗原結合特異性をもたらすが、1個の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3個の超可変領域のみを含むFvの半分)でさえ、結合部位全体より低いアフィニティーではあるが、抗原を認識しそれと結合する能力がある。安定性を改善するため、VH-VLドメインを(Gly4Ser)3などの柔軟なペプチドリンカーにより結合させ単鎖Fv又はscFV抗体断片を形成することが可能であり、フレームワーク領域内に2個のシステイン残基を導入してジスルフィド安定化FV(dsFv)を得ることにより、操作してジスルフィド結合を形成することが可能である。
記したように、他の有用な抗体形式には、ダイアボディ、ミニボディ、及び二重特異性抗体がある。ダイアボディは、短いペプチドリンカー(約5アミノ酸以下)によって共有結合したscFvのホモ二量体である。同一鎖上の2ドメイン間での対形成を可能にするには短いリンカーを使用することによって、ドメインに別の鎖の相補ドメインと対形成させ、2箇所の抗原結合部位を形成させることが可能である(例えば、ダイアボディに関するさらなる情報に関してはEP404,097及びWO93/11161を参照)。本発明の組成物及び方法において有用な、ダイアボディ変異体、(dsFv)2又は直鎖状抗体には、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)がある(例えば、Zapata et al., Prot. Eng. 8:1057(1995)を参照)。有用なミニボディは、scFv-CH3融合タンパク質のホモ二量体である。ミニボディ変異体、Flexミニボディでは、scFvがIgG1のヒンジ領域と融合し、それは次いで10アミノ酸リンカーによってCH3領域に連結する。
単一アームが本明細書に記載するsEcadと特異的に結合する限り、2個の異なるエピトープを認識する二重特異性抗体も使用することができる。様々な異なる二重特異性抗体形式が開発されている。例えば、有用な二重特異性抗体はクアドロマ、即ちそれぞれのH-L対が異なる抗体に由来する完全抗体であってよい。典型的には、2個の異なるB細胞ハイブリドーマの融合、次に融合細胞をスクリーニングして両組のクローンタイプ免疫グロブリン遺伝子の発現を維持した細胞を選択することによってクアドロマを産生する。或いは、二重特異性抗体は組換え抗体であってよい。二重特異性抗体に関する例示的な形式には、異なる特異性の2本の単鎖がペプチドリンカーによって結合したタンデムscFv、ダイアボディ及び単鎖ダイアボディがあるが、これらだけには限らない。
それらが完全長抗体の望ましい特異性及び/又は癌細胞の生存、増殖、又は転移を阻害するのに十分な特異性を保持する限り、抗体の断片は提供する方法中で使用するのに適している。したがって、本明細書に記載する抗sEcad抗体の断片は、列挙するサブドメインと結合する完全抗体の能力を保持し得る。これらの抗体部分は、当業者に知られている従来の技法を使用して得ることができ、抗癌剤として完全抗体をスクリーニングするのと同じ形式で、これらの部分を有用性に関してスクリーニングすることができる。
抗体断片を調製するための方法は当技術分野でよく知られており、生化学的方法(例えば、化学的架橋が続き得る、タンパク質分解による完全抗体の消化)と、免疫グロブリン配列を遺伝子操作して所望断片の合成を誘導する組換えDNAベースの方法の両方を包含する。例示的な生化学的方法は、米国特許第5,855,866号、米国特許第5,877,289号、米国特許第5,965,132号、米国特許第6,093,399号、米国特許第6,261,535号、及び米国特許第6,004,555号中に記載される。キメラ又はヒト化鎖をコードする核酸を発現させて、隣接ポリペプチドを生成することが可能である。例えば、米国特許第4,816,567号(Cabilly et al.)、欧州特許第0,125,023B1号(Cabilly et al.)、米国特許第4,816,397号(Boss et al.)、欧州特許第0,120,694B1号(Boss et al.)、WO86/01533(Neuberger et al.)、欧州特許第0194,276B1号(Neuberger et al.)、米国特許第5,225,539号(Winter)、及び欧州特許第0,239,400B1号(Winter)を参照。CDR移動抗体に関してはNewman et al., BioTechnology 10:1455-1460(1992)、並びに単鎖抗体に関してはLadner et al.(米国特許第4,946,778号)及びBird et al., Science 242:423-426(1988))も参照。
非特異的チオールプロテアーゼ、パパインによる完全免疫グロブリンのタンパク質分解によって、抗体断片を得ることができる。パパイン消化によって、それぞれ一箇所の抗原結合部位を有する「Fab断片」と呼ばれる2個の同一抗原結合断片、及び残留「Fc断片」が生じる。様々な分画は、プロテインA-セファロース又はイオン交換クロマトグラフィーによって分離することができる。ウサギ及びヒト起源のIgGからF(ab')2断片を調製するための通常手順は、酵素ペプシンによるタンパク質分解によって制約を受ける。完全抗体のペプシン処理によって、2個の抗原組合せ部位を有し依然抗原に架橋することができるF(ab')2断片が生じる。Fab断片は、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第一定常ドメイン(CH1)を含有する。抗体ヒンジ領域由来の1個以上のシステイン(複数可)を含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に数個の残基を加えることにより、Fab'断片はFab断片と異なる状態になる。F(ab')2抗体断片は、その間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として最初に生成された。抗体断片の他の化学的カップリングは知られている。
例えば、sEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメイン(又は、2個以上のこれらのサブドメイン中のアミノ酸残基を含むエピトープ)と特異的に結合することによりsEcadを標的化する標的化物質(例えば、抗体又はその抗原結合断片若しくは他の変異体)の作製法も、本発明の範囲内にある。例えば、免疫グロブリン鎖をコードするDNA配列を改変するためのPCR突然変異誘発法を使用して、様々な領域を構築することができる(例えば、ヒト化免疫グロブリンを作製するために利用する方法を使用する;例えば、Kanunan et al., Nucl. Acids Res. 17:5404, 1989; Sato et al., Cancer Research 53:851-856, 1993; Daughetry et al., Nucleic. Acids Res. 19(9):2471-2476, 1991、及びLewis and Crowe, Gene 101:297-302, 1991を参照)。これら又は他の適切な方法を使用して、変異体を容易に作製することもできる。例えば一実施形態では、クローン可変領域に突然変異誘発することができ、所望の特異性を有する変異体をコードする配列を選択することができる(例えばファージライブラリーから;例えば、米国特許第5,514,548号(Krebber et al.)、及びWO93/06213(Hoogenboom et al.)を参照)。
本明細書に記載する細胞標的を特異的に認識する免疫グロブリンを作製又は単離する、他の適切な方法には、例えば、ヒト抗体の完全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)の免疫処置を利用する方法がある(例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551-2555, 1993; Jakobovits et al., Nature 362:255-258, 1993;米国特許第5,545,806号(Lonberg et al.)、及び米国特許第5,545,807号(Surani et al.)を参照)。
当技術分野でよく知られているように、モノクローナル抗体は、抗体産生細胞の単一クローンによって産生される同一抗原特異性の均質な抗体であり、ポリクローナル抗体は同一抗原上の異なるエピトープを一般に認識し、抗体産生細胞の1個以上のクローンによって産生される。それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の1個の抗原決定基を対象とする。修飾語モノクローナルは、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体の性質を示し、任意の特定の方法による抗体の産生が必要とされると解釈すべきではない。例えば、Kohler et al.(Nature256:495, 1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)によって、モノクローナル抗体を作製することができる。モノクローナル抗体は、例えばClackson et al.(Nature 352:624-628, 1991)及びMarks et al.(J. Mol. Biol. 222:581-597, 1991)中に記載された技法を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
本明細書のモノクローナル抗体は、それらが望ましい生物活性を示す限り、キメラ抗体、即ち、特定種に由来するか又は特定抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一若しくは相同的な重鎖及び/又は軽鎖の一部分を典型的に有し、一方で残りの鎖(複数可)が別種に由来するか又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一若しくは相同的である抗体、及びこのような抗体の断片を含むことができる(米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855, 1984)。対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、類人猿、旧世界ザル、新世界ザル、原猿類)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む霊長類抗体がある。
モノクローナル抗体(mAb)を作製するための様々な方法が、当技術分野でよく知られている。例えば、参照により本明細書に組み込む米国特許第4, 196,265号中に記載された方法を参照。最も標準的なモノクローナル抗体作製技法は一般に、ポリクローナル抗体を調製するための技法と同系統で始まる(Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1988))。典型的には、適切な動物を選択した免疫原で免疫処置して、抗体産生細胞を刺激することができる。マウス及びラットなどのげっ歯類が例示的な動物であるが、ウサギ、ヒツジ、カエル、及びニワトリを使用することもできる。マウスは非常に有用であり得る(例えばBALB/cマウスが通常使用され、高い割合の安定融合体を一般に与える)。
免疫処置後、所望の抗体を産生する能力を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)を、MAb作製、及び不死化ミエローマ細胞、一般に免疫処置した動物と同種の細胞の細胞との融合における使用のため選択することができる。ハイブリドーマ産生融合手順における使用に適したミエローマ細胞系は典型的には非抗体産生細胞であり、高い融合効率、及び所望の融合細胞(ハイブリドーマ)の増殖のみを支援する特定選択培地におけるそれらの増殖を不能にする酵素欠陥を有する。当業者には知られているように、幾つかのミエローマ細胞のいずれか1個を使用することができる。例えば、免疫処置する動物がマウスである場合、P3-X63/Ag8、X63-Ag8.653、NS1/1.Ag41、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XX0Bulを使用することができ、ラットに関しては、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F、4B210又は前に列挙したマウス細胞系の1個を使用することができる。U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6はいずれも、ヒト細胞融合に関して有用であり得る。
この培養により、そこから特異的ハイブリドーマを選択可能であるハイブリドーマの集団を得ることができ、次に連続希釈し、個々の抗体産生系にクローニングすることができ、それは抗体の産生用に無限に増殖することが可能である。
モノクローナル抗体を産生するための方法は当技術分野でよく知られており、精製ステップを含むことができる。例えば、濾過、遠心分離、及びHPLC又はアフィニティークロマトグラフィーなどの、様々なクロマトグラフィー法を例えば使用して、一般に抗体をさらに精製することができ、これらは全て当業者にはよく知られている技法である。これらの精製技法は、混合物の他成分から所望抗体を分離するための分画化をそれぞれ含む。抗体の調製に特に適した分析法には、例えばプロテインA-セファロース及び/又はG-セファロースクロマトグラフィーがある。
本発明の抗sEcad抗体は、ヒト又は非ヒト供給源由来のCDRを含むことができる。「ヒト化」抗体は一般に、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ若しくは他種に由来し、ヒト定常及び/又は可変領域ドメイン若しくは特異的変化を有する、キメラ又は突然変異モノクローナル抗体である。いわゆる「ヒト化」抗体を作製するための技法は、当業者にはよく知られている。
免疫グロブリンのフレームワークは、ヒト、ヒト化、又は非ヒト(例えば、ヒトにおける抗原性が低減するように修飾したネズミフレームワーク)、又は合成フレームワーク(例えば、コンセンサス配列)であってよい。ヒト化免疫グロブリンは、フレームワーク残基がヒト生殖細胞系列配列に相当し、CDRがV(D)J組換え及び体細胞突然変異から生じる免疫グロブリンである。しかしながら、ヒト化免疫グロブリンは、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン核酸配列でコードされないアミノ酸残基(例えば、ex vivoでランダム又は部位特異的突然変異誘発により導入された突然変異)も含み得る。ヒト可変遺伝子のin vivo体細胞突然変異が、フレームワーク残基の突然変異をもたらすことは実証されている(Nature Immunol. 2:537, 2001参照)。フレームワーク突然変異にもかかわらず、このような抗体はその供給源を考慮して「ヒト抗体」と呼ばれ得る。マウス抗体可変ドメインも、フレームワーク残基の体細胞突然変異を含有する(Sem. Immunol. 8:159, 1996参照)。したがって、ヒトIg遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスは、それらが平均4.5個のフレームワーク突然変異を有する場合でさえ、「完全ヒト抗体」と一般に呼ばれる免疫グロブリンを生成する(Nature Genet.15:146-56, 1997)。したがって承認される用途は、生殖細胞系列配列をベースとするが、例えばin vivo体細胞突然変異法により導入されたフレームワーク突然変異を有する抗体可変ドメイン遺伝子が「ヒト」と呼ばれることを示す。
当技術分野で知られている様々な方法、例えば(1)ヒトフレームワーク及び定常領域への非ヒト相補性決定領域(CDR)の移動(当技術分野でヒト化と呼ばれるプロセス)、又は代替的に(2)非ヒト可変ドメイン全体の移植、ただし表面残基の置換によってヒト様表面をドメインに与えること(当技術分野でベニアリングと呼ばれるプロセス)によって、ヒト化抗体を操作することができる。ヒト化抗体は、ヒト化抗体とベニアリング抗体の両方を含むことができる。同様に、内在免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスにヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによって、ヒト抗体を作製することができる。刺激によって、ヒト抗体の産生が観察され、それは遺伝子再編成、構築、及び抗体レパートリーを含めたヒトにおいて見られる全ての観点と非常に似ている。この手法は、例えば米国特許第5,545,807号、米国特許第5,545,806号、米国特許第5,569,825号、米国特許第5,625,126号、米国特許第5,633,425号、米国特許第5,661,016号中、及び以下の科学雑誌刊行物、Marks et al., Bio/Technology 10:779-783, 1992; Lonberg et al., Nature 368:856-859, 1994; Morrison, Nature 368:812-13, 1994; Fishwild et al., Nature Biotechnology 14:845-51, 1996; Neuberger, Nature Biotechnology 14:826, 1996; Lonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93, 1995; Jones et al., Nature 321:522-525, 1986; Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 81:6851-6855, 1984; Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92, 1988; Verhoeyer et al., Science 239:1534-1536, 1988; Padlan, Molec. Immun. 28:489-498, 1991; Padlan, Molec. Immunol. 31(3):169-217, 1994、及びKettleborough, C.A. et al., Protein Eng.4(7):773-83, 1991)中に記載されている。
キメラ及びヒト化抗体以外に、完全ヒト抗体を、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニックマウスから(例えば、米国特許第6,075,181号、米国特許第6,091,001号、及び米国特許第6,114,598号を参照)、又はヒト免疫グロブリン遺伝子のファージディスプレイライブラリーから誘導することができる(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554, 1990; Clackson et al., Nature 352:624-628, 1991、及びMarks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597, 1991を参照)。幾つかの実施形態では、当技術分野で知られている標準法を使用してscFv-ファージディスプレイライブラリーにより、抗体を産生し同定することができる。
抗sEcad抗体を修飾して、それらの抗原結合アフィニティー、それらのエフェクター機能、又はそれらの薬物動態を調節することができる。特に、ランダム突然変異をスクリーニングするCDR及び産物に施して、高いアフィニティー及び/又は高い特異性を有する抗体を同定することができる。このような突然変異誘発及び選択は、抗体分野では普通に実施される。このような置換変異体を作製するのに都合がよい方法は、ファージディスプレイを使用したアフィニティー成熟である。
CDRシャッフリング及び移植技術は、例えば本明細書で提供する抗体と共に使用することができる。CDRシャッフリングは、特異的フレームワーク領域にCDR配列を挿入する(Jirholt et al., Gene215:471(1988))。CDR移植技法は、単一マスターフレームワークへのCDR配列のランダムな組合せを可能にする(Soderlind et al., Immunotechnol. 4:279, 1999、及びSoderlind et al., Nature Biotechnol. 18:852, 2000)。このような技法を使用して、抗sEcad抗体のCDR配列に、例えば突然変異を誘発し複数の異なる配列を作製することができ、それらを足場配列に組み込み、生成した抗体変異体は望ましい特性、例えば高いアフィニティーに関してスクリーニングすることができる。幾つかの実施形態では、当技術分野で知られているように、抗sEcad抗体の配列をT細胞エピトープの存在に関して調べることができる。次いで基礎配列を改変して、T細胞エピトープを除去する、即ち抗体を「脱免疫状態にする」ことができる。
例えばファージミド技術を使用する組換え技術によって、一定範囲の抗体をコードする組換え遺伝子から、望ましい特異性を有する抗体を調製することができる。特定の組換え技法は、免疫処置済み動物の脾臓から単離したRNAから調製した、コンビナトリアル免疫グロブリンファージ発現ライブラリーの免疫学的スクリーニングによる、抗体遺伝子の単離を含む(Morrion et al., Mt.Sinai J. Med. 53:175, 1986; Winter and Milstein, Nature 349:293, 1991; Barbas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4457, 1992)。このような方法用に、コンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリーを免疫処置済み動物の脾臓から単離したRNAから調製することができ、適切な抗体を発現するファージミドは、抗原発現細胞及び対照細胞を使用した選別により選択することができる。従来のハイブリドーマ技法に優るこの手法の利点には、1ラウンドで約104倍もの多くの抗体を産生しスクリーニングできること、H鎖とL鎖の組合せにより新たな特異性をもたらすことができ、それによって適切に産生する抗体の割合をさらに増大することができることがある。
細菌の多様な抗体分子の多量のレパートリーを作製するための一方法は、ベクターとしてバクテリオファージλを利用する(Huse et al., Science 246:1275, 1989)。λベクターを使用する抗体の産生は、別の開始ベクターへの重鎖及び軽鎖集団のDNA配列のクローニングを含む。後にベクターをランダムに組合せ、抗体断片を形成するための重鎖と軽鎖の同時発現を誘導する単一ベクターを形成することができる。繊維状ファージディスプレイに関する一般的な技法は記載されている(米国特許第5,658,727号)。最も一般的な意味で、この方法は、単一ベクター系を使用した、抗体遺伝子レパートリーから予め選択したリガンド結合特異性の同時クローニング及びスクリーニングのための系をもたらす。予め選択したリガンド結合能力に関するライブラリーの単離メンバーのスクリーニングによって、発現抗体分子の結合能力と、ライブラリー由来のメンバーをコードする遺伝子を単離するのに好都合な手段を関連付けることができる。ファージミドライブラリーのスクリーニングに関する別の方法は記載されている(米国特許第5,580,717号、米国特許第5,427,908号、米国特許第5,403,484号及び米国特許第5,223,409号)。
完全若しくは部分的合成抗体組合せ部位、パラトープの巨大ライブラリーの作製及びスクリーニングのための一方法は、M13、fl又はfdなどの繊維状ファージから誘導したディスプレイベクターを利用する(参照により本明細書に組み込む米国特許第5,698,426号)。「ファージミド」と呼ばれる繊維状ファージディスプレイベクターは、多様且つ新規な免疫特異性を有するモノクローナル抗体の巨大ライブラリーをもたらす。この技術は、繊維状ファージ複製の構築段階中に遺伝子産物と遺伝子を連結する手段として、繊維状ファージコートタンパク質膜結合ドメインを使用し、コンビナトリアルライブラリー由来の抗体のクローニング及び発現に使用されている(Kang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4363, 1991、及びBarbas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7978, 1991)。標準的アフィニティー単離手順により、ノイラミニダーゼ分子と結合する特異的Fab断片に関して表面発現ライブラリーをスクリーニングする。ファージ集団の増幅後にポリペプチドをコードする核酸の配列を決定することにより、選択したFab断片を特徴付けすることができる。
抗体の多様なライブラリーを作製し望ましい結合特異性をスクリーニングするための一方法は記載されている(米国特許第5,667,988号及び米国特許第5,759,817号)。この方法は、免疫グロブリン可変重鎖及び軽鎖可変ドメインのCDR領域に縮重を取り込むため縮重オリゴヌクレオチド及びプライマー延長反応を使用した、ファージミドライブラリーの形でのヘテロ二量体免疫グロブリン分子のライブラリーの調製、及びファージミド表面上での突然変異ポリペプチドの提示を含む。その後、予め選択した抗原と結合する能力に関して提示タンパク質をスクリーニングする。抗体の多様なライブラリーを作製し望ましい結合特異性をスクリーニングする、この方法のさらなる変形は、参照により本明細書に組み込む米国特許第5,702,892号中に記載される。この方法では、重鎖配列のみを利用し、CDRI又はCDRIII超可変領域の一方をコードする全てのヌクレオチド位置で重鎖配列をランダム化し、如何なる生物学的プロセスとも無関係にCDRにおける遺伝子変異が生じ得る。
前に開示したコンビナトリアル免疫グロブリンファージ発現ライブラリー以外の、分子クローニングの一手法は、ヒト抗体ライブラリーを含有するトランスジェニックマウスから抗体を調製することである。このような技法は記載されている(参照により本明細書に組み込む米国特許第5,545,807号)。このようなトランスジェニック動物を利用して、単一アイソタイプ、より具体的にはIgM及びおそらくIgDなどの、B細胞成熟に必要なアイソタイプのヒト抗体を産生することができる。ヒト抗体を産生するための別の方法は、米国特許第5,545,806号、米国特許第5,569,825号、米国特許第5,625,126号、米国特許第5,633,425号、米国特許第5,661,016号、及び米国特許第5,770,429号中に記載されており、この場合、B細胞発生に必要なアイソタイプから他のアイソタイプに変わり得るトランスジェニック動物が記載されている。
抗sEcad免疫グロブリンを修飾してグリコシル化を低減又は無効にすることができる。グリコシル化がない免疫グロブリンは、全くグリコシル化していない、完全にはグリコシル化していない、又は不規則にグリコシル化した(即ち、突然変異体のグリコシル化パターンが対応する野生型免疫グロブリンのグリコシル化パターンと異なる)免疫グロブリンであり得る。IgGポリペプチドは、グリコシル化を弱める1個以上の(例えば1、2、又は3個以上の)突然変異、即ちグリコシル化がない、又は完全にはグリコシル化していない、又は不規則にグリコシル化したIgG CH2ドメインをもたらす突然変異を含む。ヒトIgG1におけるアミノ酸297でのアスパラギン残基の突然変異は、このような突然変異の一例である。例えばN-結合グリカンからフコース部分を排除することにより、オリゴ糖構造を修飾することもできる。
非タンパク質ポリマー、例えばポリエチレングリコールとの結合により、抗体を修飾してそれらのin vivo安定性及び又は可溶性を増大することも可能である。抗sEcad抗体がsEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメインと選択的に結合する能力を保持する限り、任意のPEG化法を使用することができる。
生成するポリペプチドが標的、即ち、sEcad断片の第2、第3、第4、又は第5サブドメインに特異的な少なくとも1個の結合領域を含む限り、広く様々な抗体/免疫グロブリンフレームワーク又は足場を利用することができる。このようなフレームワーク又は足場は、(本明細書の他の箇所で開示する)5種の主要イディオタイプのヒト免疫グロブリン、又はその断片を含み、好ましくはヒト化の態様を有する、他の動物種の免疫グロブリンを含む。ラクダで同定された抗体などの単一重鎖抗体は、この点において特に興味深い。
sEcad抗体のCDRをその上に移動させることが可能な非免疫グロブリン足場を使用して、非免疫グロブリンベースの抗体を作製することができる。フレームワーク又は足場が標的に特異的な結合領域を含む限り、当業者に知られている任意の非免疫グロブリンフレームワーク及び足場を使用することができる。免疫グロブリン様分子は、免疫グロブリンと特定構造特徴、例えばβシート二次構造を共有するタンパク質を含む。非免疫グロブリンフレームワーク又は足場の例には、アドネクチン(フィブロネクチン)、アンキリン、ドメイン抗体及びAblynx nv、リポカリン、small modular immune-pharmaceuticals(スモールモジュラーイムノファーマスーティカル)(Trubion Pharmaceuticals Inc., Seattle, WA)、マキシボディ(Avidia Inc., Mountain View, CA)、プロテインA及びアフィリン(γクリスタリン又はユビキチン)(Scil Proteins GmbH, Halle, Germany)があるが、これらだけには限らない。
本発明の抗sEcad抗体は、(EC1のエピトープではなく)E-カドヘリン又はsEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメイン上のエピトープと特異的に結合する。エピトープは、パラトープにより特異的に結合される標的上の抗原決定基、即ち抗体の結合部位を指す。エピトープ決定基は通常アミノ酸又は糖側鎖などの化学的活性がある表面分子群からなり、特異的三次元構造特性、及び特異的電荷特性を典型的には有する。一般にエピトープは約4〜約10個の隣接アミノ酸(連続エピトープ)を有し、又は代替的に特定構造を画定する一組の非隣接アミノ酸(例えば立体配座エピトープ)であってよい。したがってエピトープは、少なくとも4個、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、又は少なくとも12個のこのようなアミノ酸からなり得る。アミノ酸の空間的形状を決定するための方法は当技術分野で知られており、例えばx-線結晶構造解析及び2-次元核磁気共鳴がある。
抗体が結合可能である他の潜在的エピトープを予想する方法は当業者に知られており、Kyte-Doolittleの解析法(Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol. 157:105-132, 1982)、Hopp and Woodsの解析法(Hopp and Woods, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:3824-3828, 1981; Hopp and Woods, Mol. Immunol. 20:483-489, 1983; Hopp, J. Immunol. Methods 88:1-18, 1986)、Jameson-Wolfの解析法(Jameson and Wolf, Comput. Appl. Biosci. 4:181-186, 1988)、及びEminiの解析法(Emini et al., Virology 140:13-20, 1985)を非制限的に含む。幾つかの実施形態では、理論上の細胞外ドメインを決定することにより潜在的エピトープを同定する。TMpred (Hofmann and Stoffel, Biol. Chem. 374:166, 1993参照)又はTMHMM(Krogh et al., J. Mol. Biol., 305(3):567-580, 2001)などの解析アルゴリズムを使用してこのような予想をすることができる。SignalP3.0(Bednsten et al., J. Mol. Biol. 340(4):783-795, 2004)などの他のアルゴリズムを使用して、シグナルペプチドの存在を予想することができ、これらのペプチドが完全長タンパク質のどこから切断され得るかを予想することができる。細胞外のタンパク質の一部分は、抗体相互作用の標的として働くことができる。
本発明の組成物は、(1)閾値レベルの結合活性を示す、及び/又は(2)周知の関連ポリペプチド分子と著しく交差反応しない抗体を含む。抗体の結合アフィニティーは、当業者により、例えばScatchardの解析法(Scatchard, Ann. NY Acad, Sci. 51:660-672, 1949)により、容易に決定することができる。
幾つかの実施形態では、抗sEcad抗体は、E-カドヘリン又はsEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメインとある程度の相同性を有することが予想される他のタンパク質より、少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、106倍又はそれ以上、sEcadの標的第2、第3、第4、又は第5サブドメインに対するそれらの標的エピトープ又は模倣擬似体に結合することができる。
幾つかの実施形態では、抗sEcad抗体は、10-4M以下、10-7M以下、10-9M以下の高いアフィニティーで、又は(0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1nM又はそれより低い)サブナノモルのアフィニティーで結合する。幾つかの実施形態では、sEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメインに対する抗体の結合アフィニティーは少なくとも1×106Kaである。幾つかの実施形態では、sEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメインに対する抗体の結合アフィニティーは、少なくとも5×106Ka、少なくとも1×107Ka、少なくとも2×107Ka、少なくとも1×108Ka、又はそれ以上である。sEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメインに対するそれらの結合アフィニティーの点で、抗体を記載又は指定することもできる。幾つかの実施形態では、結合アフィニティーは、5×10-2M、10-2M、5×10-3M、10-3M、5×10-3M、10-4M、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M、又は10-15M未満のKdを有するアフィニティーを含む。
幾つかの実施形態では、抗体は周知の関連ポリペプチド分子と結合せず、例えば抗体は、周知の関連ポリペプチドではなく、sEcadポリペプチドの第2、第3、第4、又は第5サブドメインと結合する。周知の関連ポリペプチドに対する抗体をスクリーニングして、sEcadポリペプチドの第2、第3、第4、又は第5サブドメインと特異的に結合する抗体集団を単離することができる。例えば、sEcadポリペプチドの第2、第3、第4、又は第5サブドメインに特異的な抗体は、適切なバッファー条件下で不溶性マトリックスに接着した(sEcadポリペプチドの第2、第3、第4、又は第5サブドメイン以外の)sEcadポリペプチド関連タンパク質の第2、第3、第4、又は第5サブドメインを含むカラムを通過する。このようなスクリーニングにより、密接に関連があるポリペプチドと交差反応しないポリクローナル及びモノクローナル抗体を単離することができる(Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane(eds.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988; Current so Protocols in Immunology, Cooligan et al.(eds.), National Institutes of Health, John Wiley and Sons, Inc., 1995)。特異的抗体のスクリーニング及び単離は当技術分野ではよく知られている(Fundamental Immunology, Paul(eds.), Raven Press, 1993; Getzoff et al., Adv.in Immunol.43:1-98, 1988; Monoclonal Antibodies:Principles and Practice, Goding, J.W.(eds.), Academic Press Ltd., 1996; Benjamin et al., Ann. Rev. Immunol. 2:67-101, 1984を参照)。このようなアッセイの代表例には、同時免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIA)、放射免疫沈降、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ドットブロット又はウエスタンブロットアッセイ、阻害又は競合アッセイ、及びサンドウィッチアッセイがある。
悪性e-カドヘリン発現細胞を選択的に殺傷する特定抗体の能力は、例えば本明細書の実施例中で開示する方法を使用して評価することができる。
抗sEcad抗体は、レポーター又はマーカー(例えば検出可能マーカー)と呼ぶこともできるタグを含むことができる。検出可能マーカーは、抗sEcad抗体又はその生物活性断片と共有結合する任意の分子であってよく、タグペプチドの発現若しくは活性の定性的及び/又は定量的評価を可能にする。活性は生物学的活性、物理化学的活性、又はこれらの組合せであってよい。標識抗体が生物学的活性を保持する限り、検出可能マーカーの型と位置の両方は変わり得る。多くの異なるマーカーを使用することができ、個々のマーカーの選択は望む用途に依存する。生体サンプル、例えば尿、唾液、脳脊髄液、血液又は生検サンプル中のsEcadのレベルを例えば評価するため、又はsEcadペプチド治療剤に対する臨床応答を評価するために、標識抗sEcad抗体を使用することができる。適切なマーカーには、例えば酵素、光親和性リガンド、放射性同位体、及び蛍光又は化学発光化合物がある。ペプチドに検出可能マーカーを導入する方法は当技術分野でよく知られている。マーカーは合成中又は合成後に加えることができる。形質転換細胞が増殖する培養培地に標識前駆体(例えば放射標識アミノ酸)を加えることにより、組換え抗sEcad抗体又はその生物活性変異体を標識することもできる。幾つかの実施形態では、ペプチドのアナログ又は変異体を使用して検出可能マーカーの取り込みを容易にすることができる。例えば、125Iで容易に標識可能なチロシンなどの密接に関連がある芳香族アミノ酸で、N-末端フェニルアラニン残基を置換することができる。幾つかの実施形態では、有効な標識をサポートする別の官能基を、抗sEcad抗体の断片又はその生物活性変異体に加えることができる。例えば、3-トリブチルチンベンゾイル基を原型構造のN-末端に加えることができ、125Iによるトリブチルチン基のその後の置換によって放射標識ヨードベンゾイル基が生成する。
抗体又は抗体様治療剤自体を投与する代わりに、in vivoでの抗sEcad抗体の産生を誘導するタンパク質を投与することにより、本発明の方法を実施することもできる。したがって本発明の組成物は、EC2〜EC5サブドメインにおけるE-カドヘリンの細胞外ドメインの抗原断片を含む(図1A及び図1B参照)。これらのポリペプチドを異種ポリペプチドと融合して、免疫融合タンパク質を生成することができる。例えば、米国特許第7,262,270号中に記載されたように、sEcadポリペプチドはインフルエンザウイルスHA2ヘマグルチニンタンパク質の断片と融合することができる。
E-カドヘリンの発現を阻害するために使用することができる核酸(例えば、RNA干渉を仲介するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド)も本発明の範囲内にある。核酸構築物を使用して、in vivo又はex vivoで(例えば細胞又は組織培養において)sEcadの抗原断片を発現させることも可能である。
用語「核酸」と「ポリヌクレオチド」を本明細書で交互に使用して、本発明の方法の文脈で有用な作用物質を指すことができ、これらの用語は、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、及び核酸アナログを含有するDNA(又はRNA)を含めたRNAとDNAの両方を指す。ポリヌクレオチドは任意の三次元構造を有し得る。核酸は二本鎖又は一本鎖(即ち、センス鎖又はアンチセンス鎖)であってよい。ポリヌクレオチドの非制限的な例には、遺伝子、遺伝子断片、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)及びその一部分、トランスファーRNA、リボソームRNA、siRNA、マイクロRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、及びプライマー、並びに核酸アナログがある。本発明の文脈では、核酸は、例えば抗体、突然変異抗体若しくはその断片、又はsEcad若しくはその断片をコードすることができる。
「単離」核酸は、通常天然に存在するゲノム中のDNA分子のすぐ隣に見られる核酸配列の少なくとも1個が除去されているか又は不在であるという条件で、例えば天然に存在するDNA分子又はその断片であってよい。したがって単離核酸は、他の配列とは無関係に、別個の分子として存在するDNA分子(例えば、化学合成核酸、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)若しくは制限エンドヌクレアーゼ処理によって生じたcDNA若しくはゲノムDNA断片)を非制限的に含む。単離核酸は、ベクター、自己複製プラスミド、ウイルスに、又は原核生物若しくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれたDNA分子も指す。さらに単離核酸は、ハイブリッド又は融合核酸の一部であるDNA分子などの操作型核酸を含むことができる。例えばcDNAライブラリー又はゲノムライブラリー、又はゲノムDNAの制限酵素消化産物を含有するゲル切片内部の、多くの(例えば数ダース、又は数百〜数千の)他の核酸中に存在する核酸は単離核酸ではない。
単離核酸分子は標準技法によって生成することができる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技法を使用して、本明細書に記載するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含めた、本明細書に記載するヌクレオチド配列を含有する単離核酸を得ることができる(即ち、操作型タンパク質)。PCRを使用して、全ゲノムDNA又は全細胞RNA由来の配列を含めて、DNA及びRNAから特異的配列を増幅することができる。様々なPCR法が、例えばPCR Primer:A Laboratory Manual, Dieffenbach and Dveksler, eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995中に記載されている。一般に、対象又はそれ以外の領域末端からの配列情報を利用して、増幅する鋳型の対抗鎖と配列が同一又は類似であるオリゴヌクレオチドプライマーを設計する。それによって部位特異的ヌクレオチド配列修飾を鋳型核酸に導入することができる、様々なPCR戦略も利用可能である(例えば、操作型タンパク質、例えば抗体、突然変異抗体若しくはその断片、又は融合タンパク質若しくはその断片を作製するとき望まれ得る)。単離核酸は、(例えば、ホスホラミダイト技術を使用して3'から5'方向に自動DNA合成を使用し)単一核酸分子として、又は一連のオリゴヌクレオチドとして化学合成することもできる。例えば、所望の配列を含有する一対以上の長鎖オリゴヌクレオチド(例えば、50〜100を超えるヌクレオチド)を合成することができ、それぞれの対は相補的な短鎖セグメント(例えば約15ヌクレオチド)を含有し、したがってオリゴヌクレオチド対がアニーリングするときデュプレックスが形成される。DNAポリメラーゼを使用してオリゴヌクレオチドを延長し、オリゴヌクレオチド対当たりで一本鎖、二本鎖核酸分子が生成し、次いでそれをベクターに連結することができる。本発明の単離核酸は、例えば操作型タンパク質コードDNAの本来存在する部分の突然変異誘発によって得ることもできる。
本明細書に記載する核酸及びポリペプチド(例えばsEcadの抗原断片)は「外来」と呼ぶことができる。用語「外来」は、核酸又はポリペプチドが、組換え核酸構築物の一部であるか、又はそれによってコードされている、又はその本来の環境に存在しないことを示す。例えば外来核酸は、別種、即ち異種核酸に導入された一種由来の配列であってよい。典型的には、このような外来核酸は組換え核酸構築物を介して他種に挿入される。外来核酸は、ある生物に固有でありその生物の細胞中に再導入された配列であってもよい。原型配列を含む外来核酸は、外来核酸と連結した非天然配列、例えば組換え核酸構築物において原型配列に隣接する非原型制御配列の存在によって、本来存在する配列としばしば区別することができる。さらに、安定的に形質転換された外来核酸が、原型配列が見られる位置以外の位置に典型的に組み込まれる。
組換え構築物も本明細書において提供し、それらを使用して細胞を形質転換し、ポリペプチド、例えば抗体、突然変異抗体若しくはその断片、又はsEcad若しくはその断片を発現させることが可能である。組換え核酸構築物は、操作型タンパク質、例えば抗体、突然変異抗体若しくはその断片、又はsEcad若しくはその断片を発現させるのに適した制御領域に作動可能に連結した、本明細書に記載する抗体、突然変異抗体若しくはその断片、又はsEcad若しくはその断片を例えばコードする核酸を含む。幾つかの場合、組換え核酸構築物は、RNAのアンチセンス鎖が転写されるようアンチセンス方向に、コード配列、遺伝子、又はコード配列若しくは遺伝子の断片を含む核酸を含むことができる。幾つかの核酸が、特定アミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができることは理解される。遺伝コードの縮重は当技術分野でよく知られている。多くのアミノ酸に関して、アミノ酸のコドンとして働く1個以上のヌクレオチドトリプレットが存在する。例えば、所与の抗体断片、突然変異抗体若しくはその断片、又は融合タンパク質若しくはその断片に関するコード配列におけるコドンを、その生物に適したコドンバイアス表を使用して、特定生物において最適な発現が得られるように修飾することができる。
本明細書に記載する核酸などの核酸を含有するベクターも提供する。「ベクター」は、その中に別のDNAセグメントを挿入してその挿入セグメントの複製をもたらすことができる、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどのレプリコンである。発現ベクターには、プラスミドベクター、ウイルスベクター、及び(参照により本明細書に組み込む)米国出願公開第2006/0239970号中に記載されたHSVアンプリコン粒子がある。
一般にベクターは、適切な制御エレメントとの結合時に複製することができる。適切なベクター骨格には、例えば、プラスミド、ウイルス、人工染色体、BAC、YAC、又はPACなどの、当技術分野で通常使用されるベクター骨格がある。用語「ベクター」は、クローニング及び発現ベクター、並びにウイルスベクター及び組み込みベクターを含む。「発現ベクター」は制御領域を含むベクターである。適切な発現ベクターには、非制限的に、プラスミド、及び例えばバクテリオファージ、バキュロウイルス、及びレトロウイルス由来のウイルスベクターがある。多数のベクター及び発現系が、Novagen(Madison, WI)、Clontech(Palo Alto, CA)、Stratagene(La Jolla, CA)、及びInvitrogen/Life Technologies(Carlsbad, CA)などの会社から市販されている。
本明細書に提供するベクターは、例えば複製起点、足場結合領域(SAR)、及び/又はマーカーも含むことができる。マーカー遺伝子は、宿主細胞において選択可能な表現型を与えることができる。例えばマーカーは、抗生物質(例えば、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、又はヒグロマイシン)に対する耐性などの殺菌耐性を与えることができる。前に記したように、発現ベクターは、発現ポリペプチドの操作又は検出(例えば、精製又は位置特定)が容易になるように設計したタグ配列を含むことができる。緑色蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン、c-myc、ヘマグルチニン、Flag(商標)タグ(Kodak, New Haven, CT)配列などのタグ配列が、コードポリペプチドとの融合体として典型的に発現される。このようなタグは、カルボキシル又はアミノ末端のいずれかを含めて、ポリペプチド内の任意の場所に挿入することができる。
ベクターは制御領域も含むことができる。用語「制御領域」は、転写又は翻訳の開始及び割合、並びに転写又は翻訳産物の安定性及び/又は移動性に影響を与えるヌクレオチド配列を指す。制御領域は、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答性エレメント、タンパク質認識部位、誘導性エレメント、タンパク質結合配列、5'及び3'非翻訳領域(UTR)、転写開始部位、終結配列、ポリアデニル化配列、及びイントロンを非制限的に含む。
本明細書で使用する用語「作動可能に連結した」は、配列の転写又は翻訳に影響を与えるような核酸内の制御領域及び転写される配列の配置を指す。例えば、プロモーターの制御下にコード配列を置くため、ポリペプチドの翻訳リーディングフレームの翻訳開始部位は、プロモーターの1〜約50ヌクレオチド下流に典型的に配置する。しかしながらプロモーターは、翻訳開始部位の約5,000ヌクレオチド上流又は翻訳開始部位の約2,000ヌクレオチド上流にも配置し得る。典型的にはプロモーターは、少なくとも1個のコア(基礎)プロモーターを含む。プロモーターは、エンハンサー配列、上流エレメント又は上流活性化領域(UAR)などの、少なくとも1個の制御エレメントも含むことができる。含まれるプロモーターの選択は、効率、選択性、誘導性、所望の発現レベル、及び細胞又は組織優先型発現だけには限らないが、これらを含めた幾つかの要因に依存する。コード配列に対するプロモーター及び他の制御領域を適切に選択し配置することにより、コード配列の発現を調節することは当業者には通常のことである。
本明細書では宿主細胞も提供する。宿主細胞は、本発明のポリペプチドを発現する、例えば原核生物、例えば大腸菌(E.coli)などの細菌、又は真核生物、例えば酵母、昆虫又は哺乳動物細胞であってよい。
sEcadを阻害する本明細書に記載する作用物質を、生理的に許容される(即ち、本明細書に記載する治療及び予防法中で使用するのに十分なほど無毒である)医薬組成物中に含めることができる。したがって本発明は、経皮送達sEcad阻害剤用の(日焼け止め剤に取り込まれた)局所用クリーム及び徐放性パッチを含めた様々な製剤を特徴とする。他の実施形態では、オーラルリンス、ゲル、若しくはエマルジョンとして、又は直腸用溶液、懸濁液、若しくはエマルジョンとして医薬組成物を製剤化することができる。当業者には明らかであるように、治療する癌のタイプに基づき具体的な製剤を選択することができる。例えば、オーラルリンス、ゲル、若しくはエマルジョンを使用して口部、咽頭、食道、若しくは胃における癌を治療することができ、直腸用溶液、懸濁液、若しくはエマルジョンを使用して直腸若しくは結腸における癌を治療することができる。標的化物質を経口及び非経口(例えば静脈内)投与するための製剤は本発明の範囲内にある。
本発明の治療剤(例えば、sEcadを阻害する抗sEcad抗体及び他のタンパク質又は核酸ベースの作用物質)は、in vivoでのそれらの安定性を改善する及び/又は制御型若しくは徐放型放出をもたらす物質を用いて、患者への投与用に製剤化することができる。したがって本発明は、マイクロ粒子(例えば、ポリラクチド-コ-グリコリドマイクロ粒子などのポリマーマイクロ粒子)又はナノ粒子(例えば、リポソーム、ポリマー炭水化物ナノ粒子、デンドリマー、及び炭素系ナノ粒子)を用いてsEcad特異的作用物質を製剤化する送達系を包含する。
他の製剤には、皮下、腹腔内、静脈内、動脈内、又は肺投与用の製剤がある。記したように、徐放性インプラントを作製し使用することもできる。
本発明の任意の治療又は予防法は、治療前又は治療の進行時に患者を評価するステップを含むことができる。前に記したように、乳房、皮膚、肺、前立腺、胃及び結腸直腸癌、並びに他の上皮性悪性腫瘍を有する患者の尿及び/又は血清中でsEcadが上昇することは十分文書化されている。sEcadレベルに関する初期の研究と一致して、本発明者らのデータは、sEcadが正常上皮細胞の表面からは低レベルで、ヒト皮膚癌細胞、ヒト乳癌細胞、及びマウス肺癌細胞からはより高いレベルで発散されることを実証する。したがって本発明の方法は、対象から得たサンプル(例えば、尿又は血液サンプル)からsEcadレベルを決定するステップを含むことができる。上昇したレベルは対象が本明細書に記載する治療に適した候補であることを示し、治療の進行時にsEcadをモニタリングすることによって、投薬及びスケジュールを最適化すること、並びに結果を予想することを手助けすることができる。例えば、モニタリングを使用して耐性の発生を検出し、応答性患者と非応答性患者を迅速に区別することができる。耐性又は非応答性の兆候がある場合、腫瘍が別の逃避機構を示す前に、医師は代替又は補助物質を選択することができる。
sEcadの第2、第3、第4、又は第5サブドメインの1個以上を特異的に標的化する2個以上の作用物質を含む組成物は、癌に罹患した、又は癌に罹患する素因がある、人間又は哺乳動物に投与することができる。抗sEcad抗体は、細胞毒性物質又は癌用化学療法剤などの、別の治療剤と共に投与することもできる。2個以上の治療剤の併用投与は、作用物質がその治療効果を発揮する時間期間が重複する限り、作用物質を同時又は同経路により投与することを必要としない。異なる日数又は週数で投与する、同時又は連続投与が企図される。
本発明の医薬組成物は、sEcad標的化物質以外に、別の治療用抗体(又は抗体(例えば、sEcad以外の1個以上の細胞標的を認識する抗体)も含むことができる。例示的な免疫グロブリンは以下に列挙する。それぞれの免疫グロブリンは、その正式名及びその商品名によって確認される。「DB」で始まる括弧内の数字は、University of Albertaで利用可能なDrugBankデータベースにおけるそれぞれの抗体の識別子を指す。DrugBankデータベースは、Wishart et al., Nucl.Acids Res.36:D901-906(2008)中、世界規模のウエブwww.drugbank.caに記載されている。有用な免疫グロブリンには、その合成がEP0418316(A1)及びWO89/11538(A1)中に記載されるアブシキシマブ(ReoPro(商標))(DB00054)、キメラ型ヒトネズミモノクローナル抗体7E3のFab断片;アダリムマブ(Humira(商標))(DB00051)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)と結合しその同族受容体とTNF-αの結合を遮断する完全ヒトモノクローナル抗体;慢性リンパ性白血病(CLL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)及びT細胞リンパ腫の治療に使用される、アレムツズマブ(Campath(商標))(DB00087)、CD52、成熟リンパ球の表面上に存在するタンパク質を標的化するヒト化モノクローナル抗体;バシリキシマブ(Simulect(商標))(DB00074)、IL-2受容体のα鎖(CD25)に対するキメラ型マウスヒトモノクローナル抗体;その合成がPresta et al., Cancer Res.,57:4593-4599, 1997中に記載されるベバシズマブ(Avastin(商標))(DB00112)、血管内皮増殖因子(VEGF)、血管新生を刺激する化学的シグナルを認識し遮断するヒト化モノクローナル抗体;その合成が米国特許第6,217,866号中に記載されるセツキシマブ(Erbitux(商標))(DB00002)、上皮増殖因子受容体(EGFR)と結合し阻害するキメラ型(マウス/ヒト)モノクローナル抗体;セルトリズマブペゴール(Cimzia(商標))、ヒト化TNF阻害剤モノクローナル抗体のPEG化Fab'断片;ダクリズマブ(Zenapax(商標))(DB00111)、IL-2受容体のαサブユニットに対するヒト化モノクローナル抗体;エクリズマブ(Soliris(商標))、ヒトC5補体タンパク質と結合するヒト化モノクローナル抗体;エファリズマブ(Raptiva(商標))(DB00095)、CD11aと結合するヒト化モノクローナル抗体;そのアミノ酸配列がJ. Immunol.148:1149(1991)及びCaron et al., Cancer.73(3Suppl):1049-1056, 1994)中に記載されるゲムツズマブ(Mylotarg(商標))(DB00056)、細胞毒性物質と結合したCD33に対するモノクローナル抗体;イブリツモマブチウキセタン(Zevalin(商標))(DB00078)、キレート剤チウキセタン及び放射性同位体(イットリウム90又はインジウム111)と併用するモノクローナルマウスIgG1抗体イブリツモマブ;その合成が米国特許第6,015,557号中に記載されるインフリキシマブ(Remicade(商標))(DB00065)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)と結合するキメラ型マウスヒトモノクローナル抗体;ムロモナブ-CD3(Orthoclone OKT3(商標))、T細胞受容体-CD3複合体と結合するマウスモノクローナルIgG2a抗体;その配列がLeger et al., Hum.Antibodies8(1):3-16(1997)中に記載されるナタリズマブ(Tysabri(商標))(DB00108)、細胞接着分子α4-インテグリンに対するヒト化モノクローナル抗体;オマリズマブ(Xolair(商標))(DB00043)、ヒト免疫グロブリンE(IgE)を選択的に結合するヒト化IgG1kモノクローナル抗体;そのアミノ酸配列がJohnson et al., J.Infect.Dis.176(5):1215-1224, 1997中に記載されるパリビズマブ(Synagis(商標))(DB00110)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質のA抗原部位におけるエピトープを対象とするヒト化モノクローナル抗体(IgG);パニツムマブ(Vectibix(商標))、(ヒトにおいてはEGF受容体、EGFR、ErbB-1及びHER1としても知られる)上皮増殖因子受容体に特異的な完全ヒトモノクローナル抗体;ラニビズマブ(Lucentis(商標))、ベバシズマブ(Avastin(商標))と同じ親ネズミ抗体に由来するアフィニティー成熟抗VEGF-Aモノクローナル抗体断片;リツキシマブ(Rituxan(商標)、Mabthera(商標))(DB00073)、B細胞の表面上で主に見られるタンパク質CD20に対するキメラモノクローナル抗体;トシツモマブ(Bexxar(商標))(DB00081)、131Iと共有結合した抗CD20マウスモノクローナル抗体、又はトラスツズマブ(Herceptin(商標))(DB00072)、HER2タンパク質と選択的に結合するヒト化モノクローナル抗体がある。
抗体は承認済み又は市販の抗体のバイオイクイバレント(bioequivalent)を含むことができる(バイオシミラー(biosimilar))。例えばバイオシミラーは、市販の抗体と同じ一次アミノ酸配列を有するが、異なる細胞型において、又は市販の抗体と異なる産生、精製若しくは製剤化法により作製することができる、現在知られている抗体であってよい。一般に、任意の寄託済み材料を使用することができる。
医薬組成物は、細胞毒性物質、例えば細胞機能を阻害又は防止する、及び/又は細胞破壊を引き起こす物質をさらに含む、又はそれと共に投与することができる。例示的な細胞毒性物質には、放射性同位体(例えば、131I、125I、90Y及び186Re)、化学療法剤、及び細菌、真菌、植物若しくは動物由来の酵素活性毒素、又は合成毒素などの毒素、又はそれらの断片がある。非細胞毒性物質は、細胞機能を阻害又は防止しない、及び/又は細胞破壊を引き起こさない物質を指す。非細胞毒性物質は、活性化して細胞毒性状態になり得る作用物質を含む可能性がある。非細胞毒性物質は、ビーズ、リポソーム、マトリックス又は粒子を含み得る(例えば、参照により本明細書に組み込む、米国特許公開第2003/0028071号及び米国特許公開第2003/0032995号を参照)。このような作用物質は、本明細書で開示する抗体又は他の標的化物質との結合、カップリング、連結又は会合が可能である。
医薬組成物は、プロテインキナーゼを阻害する作用物質をさらに含む、又はそれと共に投与することができる。キナーゼは、アデノシン-5'-三リン酸(ATP)などの高エネルギーリン酸ドナーからタンパク質などの特異的基質への、リン酸基の移動を制御する酵素である。プロテインキナーゼの主な機能は、細胞分裂だけには限らないがこれを含めた重要な細胞機能をオンオフ状態にすることである。幾つかの場合、プロテインキナーゼは無限に「オン」位置に存在し、細胞において癌の発症につながり得る制御不能な増殖をもたらす可能性がある。アミノ酸をリン酸化するキナーゼの例は、チロシン及びセリン/スレオニンである。HER1、HER2及びHER3は、EGFRファミリーのチロシンキナーゼ受容体である。例示的なチロシンキナーゼには、ゲフィチニブ(Iressa)及びエルロチニブ(Tarceva)などのEGFRを阻害する作用物質、又はAG1024及びNVP-ADW742などのIFG-1受容体;ラパチニブ(Tykerb)などのHER1及びHER2経路を遮断する二重チロシンキナーゼ受容体、及び他のHER受容体とHER2の二量体化を阻害するペルツズマブ(Perjeta)などのHER二量体化阻害剤がある。mTORを阻害する例示的なセリン/スレオニンプロテインキナーゼには、テムシロリムス(Torisel)、エベロリムス(Zortress; Afinitor)、(ラパマイシン、Rapamuneとしても知られる)シロリムス及びAZD8055、又はLY2584702を含めたP13キナーゼ経路中のPIP3の下流で作用するp70S6Kがある。EGFR、VEGFR及びRET-チロシンキナーゼなどの幾つかの受容体に作用し得る非特異的キナーゼ阻害剤の例には、バンデタニブ(Caprelsa)、又はカネルチニブ(C1-1033、PD183805)を含めたHERファミリーの多重遮断剤メンバー(時折「pan-HER」阻害剤と呼ばれる)がある。MEKを阻害する例示的なプロテインキナーゼには、GDC-041を含めてGDC-973又はPI3K、GSK105615(Pan-PI3K)、BKM120及びペリフォシン(KRX-0401)がある。Akt(セリン/スレオニン特異的プロテインキナーゼ)の例示的な阻害剤には、ペリフォシン(KRX-0401)及びMK2206がある。任意の前述のキナーゼ阻害剤を、別のキナーゼ阻害剤と併用して投与することができる。幾つかの前述の作用物質は多数の治療作用機構を有し、及び/又は個々の細胞内経路において1個以上のステップを阻害し得る。したがって医薬組成物は、NVP-BEZ235又はP70S6KなどのP13KとmTORの両方、及びLY2780301などのAktを阻害する作用物質をさらに含む、又はそれと共に投与することができる。
従来の癌用医薬品は、本明細書で開示する組成物と共に投与することができる。有用な医薬品は、抗血管新生剤、即ち、それらの生存に必要な新たな血管増殖を刺激する腫瘍の能力を遮断する作用物質がある。血管内皮増殖因子(VEGF)の機能を遮断するベバシズマブ(Avastion(登録商標))、Genetech, Inc.)及びアフリベルセプト(Zaltrap)などの作用物質を含めた、当業者に知られる任意の抗血管新生剤を使用することができる。他の例には、非制限的に、ダルテパリン(Fragmin(登録商標))、スラミンABT-510、コンブレタスタチンA4ホスフェート、レナリドマイド、LY317615(エンザスタウリン)、ダイズイソフラボン(ゲニスタイン;ダイズタンパク質単離体)AMG-706、抗VEGF抗体、AZD2171、Bay43-9006(ソラフェニブトシレート)、PI-88、PTK787/ZK222584(バタラニブ)、SU11248(スニチニブマレート)、VEGF-Trap、XL184、ZD6474、サリドマイド、ATN-161、EMD121974(シレニグチド)、及びセレコキシブ(Celebrex(登録商標))がある。
他の有用な治療剤には、癌細胞中のDNA損傷、例えば細胞内DNAにおける二本鎖の破壊を助長する作用物質がある。当業者に知られる、任意の型のDNA損傷物質を使用することができる。DNA損傷は、典型的には放射線療法及び/又は化学療法によって生じ得る。放射線療法の例には、非制限的には、外部照射療法及び(ブラティーセラピーとも呼ばれる)内部照射療法がある。外部照射療法のエネルギー源にはx線、γ線及び粒子ビームがあり、内部照射療法で使用されるエネルギー源には、放射性ヨウ素(ヨウ素125又はヨウ素131)、及びストロンチウム89、又はリン、パラジウム、セシウム、イリジウム、リン酸、若しくはコバルトの放射性同位体がある。放射線療法剤を投与する方法は、当業者にはよく知られている。
DNA損傷化学療法剤の例には、非制限的に、ブスルファン(Myleran)、カルボプラチン(Paraplatin)、カルムスチン(BCNU)、クロラムブシル(Leukeran)、シスプラチン(Platinol)、シクロホスファミド(Cytoxan、Neosar)、ダカルバジン(DTIC-Dome)、イフォスファミド(Ifex)、ロムスチン(CCNU)、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード、Mustargen)、メルファラン(Alkeran)、及びプロカルバジン(Matulane)がある。
他の標準的な癌用化学療法剤には、非制限的に、カルボプラチン及びシスプラチンなどのアルキル化剤、ナイトロジェンマスタードアルキル化剤、カルムスチン(BCNU)などのニトロソウレアアルキル化剤、メトトレキサートなどの代謝拮抗薬、葉酸、プリンアナログ代謝拮抗薬、メルカプトプリン、フルオロウラシル(5-FU)及びゲムシタビン(Gemzar(登録商標))などのピリミジンアナログ代謝拮抗薬、ゴセレリン、リュープロイド、及びタモキシフェンなどのホルモン抗腫瘍薬、アルデスロイキン、インターロイキン-2、ドセタキセル、エトポシド(VP-16)、インターフェロンα、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、及びトレチノイン(ATRA)などの天然抗腫瘍薬、ベロマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ダウノマイシン、及びマイトマイシンCを含めたマイトマイシンなどの抗生物質天然抗腫瘍薬、及びビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ヒドロキシウレアなどのビンカアルカロイド天然抗腫瘍薬、アセグラトン、アドリアマイシン、イフォスファミド、エノシタビン、エピチオスタノール、アクラルビシン、アンシタビン、ニムスタチン、プロカルバジン塩酸塩、カルボクオン、カルボプラチン、カルモファー、クロモマイシンA3、抗腫瘍性多糖、抗腫瘍性血小板因子、シクロホスファミド(Cytoxin(登録商標))、シゾフィラン、シタラビン(シトシンアラビノシド)、ダカルバジン、チオイノシン、チオテパ、テガファー、ドラスタチン、アウリスタチンなどのドラスタチンアナログ、CPT-11(イリノテカン)、ミトザントロン、ビノレルビン、テニポシド、アミノプテリン、カルミノマイシン、エスペラミシン(例えば、米国特許第4,675,187号参照)、ネオカルジノスタチン、OK-432、ベロマイシン、フルツロン、ブロクスウリジン、ブスルファン、ホンバン、ペプロマイシン、ベスタチン(Ubenimex(登録商標))、インターフェロンβ、メピチオスタン、ミトブロニトール、メルファラン、ラミニンペプチド、レンチナン、コリオルスベルシカラーエキス、テガフール/ウラシル、エストラムスチン(エストロゲン/メクロレタミン)がある。
癌患者の治療剤として使用することができる他の作用物質には、EPO、G-CSF、ガンシクロビル、抗体、リュープロリド、メペリジン、ジドブジン(AZT)、突然変異体及びアナログを含めたインターロイキン1〜18、インターフェロンα、β及びγなどのインターフェロン又はサイトカイン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)及びアナログ、並びに性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)などのホルモン、形質転換増殖因子-β(TGF-β)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経増殖因子(NGF)、成長ホルモン放出因子(GHRF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子相同因子(FGFHR)、肝細胞増殖因子(HGF)、及びインスリン増殖因子(IGF)などの増殖因子、腫瘍壊死因子α及びβ(TGF-α及びβ)、浸潤阻害因子-2(IIF-2)、骨形成タンパク質1〜7(BMP1〜7)、ソマトスタチン、チモシン-α-1、γグロブリン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、補体因子、及び抗血管新生因子がある。
有用な治療剤には、プロドラッグ、例えば親薬剤と比較して腫瘍細胞に対する細胞毒性が低い又は非細胞毒性であり、酵素により活性化又は活性型若しくは親型より高活性に転換することができる薬学的に活性がある物質の前駆体又は誘導体型がある。例えば、Wilman, Biochemical Society Transaction,14:375-382(1986)及びStella et al., "Prodrugs:A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery," Directed Drug Delivery, Borchardt et al., (ed.), pp.247-267, Humana Press(1985)を参照。プロドラッグには、より活性がある非細胞毒性薬剤に転換することができる、ホスフェート含有プロドラッグ、チオホスフェート含有プロドラッグ、サルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、D-アミノ酸修飾プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、b-ラクタム含有プロドラッグ、場合によっては置換されたフェノキシアセトアミド含有プロドラッグ又は場合によっては置換されたフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、5-フルオロシトシン及び他の5-フルオロウリジンプロドラッグがあるが、これらだけには限らない。本明細書で使用するためのプロドラッグ型に誘導体化することができる細胞毒性薬剤の例には、前に記載した化学療法剤があるが、これらだけには限らない。
当技術分野で知られている任意の方法を使用して、個々の応答が誘導されたかどうか決定することができる。個々の疾患状態の程度を評価する臨床法を使用して、応答が誘導されたかどうか決定することができる。応答を評価するために使用する個々の方法は、患者の障害の性質、患者の年齢及び性別、投与する他の薬剤、及び担当医の判断に依存する。
ErbBファミリーの受容体(即ち、HER1〜4)を標的化する抗体ベースの療法は、転移性乳癌及び他の上皮由来癌の治療を劇的に変えたが、心臓毒性及び重度のアナフィラキシーは生じる可能性がある。さらに重要なことに、HER-MEK又はmTOR標的療法における患者では、1)別のHERファミリーメンバー、2)他の受容体チロシンキナーゼ(即ち、IGF-1R)、3)下流MAPK-PI3K/Akt/mTORの機能亢進、及び4)アポトーシスタンパク質の阻害剤(IAP)の活性化の代償性上方制御の結果として、最終的に耐性が発達する。近年の報告は、sEcadはHER2受容体のリガンドとして作用することができ、この場合sEcadはSKBR3乳癌細胞においてHER2-HER3のヘテロ二量体化及びAkt/Erk経路の活性化を誘導することを示す。ここで本発明者らは、(本明細書でsEcadと呼ぶ)shed sEcad断片(EC2〜5)を含めたE-カドヘリンの細胞外ドメイン(即ち、EC2〜5)の特異的ドメインを標的化する抗体ベースの療法が、ヒト乳房(HER2陽性、HER2陰性及びHER2+ハーセプチン耐性)、結腸、肺、前立腺及びマウス皮膚扁平上皮細胞の細胞系において、増殖を阻害しプログラムされた細胞死を誘導したことを示す。乳房(HER2陽性、HER2陰性及びHER2陽性ハーセプチン耐性)及び皮膚癌細胞系において、この抗sEcad抗体療法は、多数のHERファミリーのメンバー(即ち、HER1〜4)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF-1R)及び下流PI3K/Akt/mTOR-IAPシグナル伝達の下方制御をもたらした。重要なことに、様々なin vivo前臨床乳癌及び皮膚癌マウスモデルにおいて、抗sEcad mAb療法は、増殖を低下させ腫瘍細胞アポトーシスを活性化することにより、腫瘍の発症を有意に遅らせ、腫瘍負荷を弱め腫瘍等級を引き下げた。細胞培養試験と一致して、抗体処置マウスから切除した腫瘍は、HER1〜4、MAPK-PI3K/Akt/mTOR及びIAP発現レベルの有意な低下を示した。一緒にすると本発明者らのデータは、新規な微小環境の腫瘍標的物質は、癌細胞のタイプに応じて、マウス、正常組織及び細胞に対する毒性を失くしながら、多数の受容体チロシンキナーゼ(HER1、HER2、HER3、HER4、IGF-1R)及びPI3K/Akt/mTOR-IAPシグナル伝達を下方制御することを示す。結論として、提案する処置は、単独又は他のHER-MAPK-PI3K/Akt/mTOR-IAP標的療法と併用して使用し初期及び後天的耐性と闘うことができる、乳癌又は他の上皮癌に対する新規な治療基盤をもたらす。
[実施例1]
sEcadを標的化するモノクローナル抗体のin vivo及びin vitroでの有効性
本発明者らは、ポリオーマウイルス中期T抗原(PyMT)の乳房標的化トランスジェニック発現が浸潤性腺癌に進行して肺に転移する触診可能な腫瘍の急速な発達をもたらす(Guy et al., Mol.Cell Biol.12:954-961, 1992)MMTV-PyMTトランスジェニックマウスを使用して、sEcadを標的化するモノクローナル抗体のin vivoでの有効性を試験した。47日齢で始め90日齢でマウスを屠殺するまで、マウスは生理食塩水、IgG又はDECMA-1(1mg/kg、200μL生理食塩水中、Sigma)で毎週処置した。抗sEcad mAbを用いた処置は、腫瘍発症の有意な遅延及び腫瘍負荷の低減をもたらした(**p<0.01、***<p0.001)。処置した腫瘍は増殖の低下及びアポトーシスの増大を示し、後者はp53発現の増加と関連していた。同様に、HER2陽性(HER2+)ハーセプチン耐性乳癌異種移植片では、抗sEcad療法は統計学的に有意な腫瘍増殖の低下をもたらした。最後に本発明者らは、抗sEcad投与が統計学的に有意な腫瘍増殖及び腫瘍等級の低下をもたらした正常屈性皮膚扁平上皮細胞癌異種移植片モデルにおいて、これらの発見を反復した。MMTV-PyMTモデルと同様に、切除した皮膚腫瘍は増殖の顕著な低下及びアポトーシスの増大を示し、後者はp53発現レベルの増大と関連していた。
次に、本発明者らはin vitroでこれらの発見を確認し、抗sEcad mAb処置はヒト乳房(HER2+、HER2-、ハーセプチン耐性)、肺、結腸、頭頚部、前立腺及び皮膚SCC細胞系においてアポトーシスの有意な用量依存的増大を誘導し、これらの試験において、このアポトーシスはp53及びBadレベルの増大と関連していた。細胞死を誘導する以外に、抗sEcad mAb処置はBrdU-陽性増殖細胞の割合を有意に低減し、本発明者らの前臨床マウス試験における観察結果と一致した。EC3〜5ドメインではなくEC1〜2ドメインが相同的接着に必要なので(Shiraishi et al., J. Immunol.175:1014-1021, 2005)、これによって本発明者らは、抗sEcad mAb標的療法(EC3〜5)が、細胞培養系又はin vivoにおいて何らかの細胞毒性を示すかどうか調べることになった。融合ヒト乳腺上皮細胞(MCF-10A)、初代ヒトケラチノサイト、メラノーマ細胞及び線維芽細胞は、アイソタイプIgG対照と比較して抗sEcad mAb処置後に統計学的に有意なアポトーシスの誘導は示さず、ヘマトキシリン及びエオシン染色パラフィン包埋切片の肉眼及び病理学的分析により評価して、抗sEcad処置MMTV-PyMTマウス又はSCC異種移植片中の切除した心臓、肝臓、腸及び腎臓において明らかな毒性は観察しなかった。まとめると、これらのデータは、shed sEcad断片のエクトドメインを含めたE-カドヘリン(EC2〜5)の特異的エクトドメインに対する標的化mAb療法は、非腫瘍形成細胞、マウス又は末端器官に対して望ましくない毒性効果をもたらさずに、癌の増殖を阻害し腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することを示す。
前に記載した試験中で使用した方法は以下のものを含む:
細胞系及び試薬。ヒトMCF-7、NCI-H292、BT474親、PC3、HT29、FADU、Detroit、MCF-10A、WI-38、初代上皮ケラチノサイト(PHK)、及び初代上皮メラノーマ細胞をアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から購入し、ATCCの推奨に従い培養した。BT474ハーセプチン耐性細胞は、Dr.Kute(Wake Forest University, Winston-Salem, NC)の親切な贈答品であり、10%FBS RPMI-1640培地(ATCC)中で増殖させた。PAM212細胞はDr.Yuspa(NCI, Bethesda, MD)からの親切な贈答品であり、10%FBSを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Lonza)中で増殖させた。抗sEcadエクトドメイン特異的抗体には、DECMA-1(Sigma)、HECD-1(Calbiochem)、SHE78-7(Calbiochem)及びH108(Santa Cruz Biotechnology)がある。
in vivo MMTV-PyMT試験。MMTV-PyMTマウスはJackson Laboratoryから購入し、ヘミ接合体の雄とFVB野生型の雌の交配によりコロニーを維持した。マウスが47日齢に達したとき、雌のマウスを数群(n=5、各群)にランダムに分け、1mg/kgのDECMA-1、ラットIgG1、又は等量の生理食塩水の腹腔内注射を毎週施した。90日齢で屠殺するまで、触診可能な腫瘍は週二回モニタリングした。乳房腫瘍は切除し、重量を測り、ホルマリン固定又は即時凍結のいずれかを施した。ホルマリン固定サンプルはパラフィン包埋し、5μmに切断し、組織化学的評価用にH and E染色し、又は免疫組織化学的分析用に処理した。
in vivo腫瘍異種移植片試験。雌の重症複合型免疫不全マウス(SCID)又は無胸腺ヌードマウス(nu/nu)をTaconicから得た。6〜8週齢のマウスに、指数関数的に増殖する1×106個のPAM212又は1×106個のBT474ハーセプチン耐性細胞又は1×106個のMDA-MB-231細胞、200μl生理食塩水中を皮下(SQ)注射した。PAM212異種移植片に関しては、腫瘍が100mm3に達したとき、マウスをランダムに分け一腹腔内用量の生理食塩水(n=6)、IgG(10mg/kg; n=6)又は抗sEcad mAb(DECAM-1、10mg/kg、n=7)を与えた。処置は20日間続けた。BT474ハーセプチン耐性異種移植片(予備試験)に関しては、腫瘍が100mm3に達した後、マウスをランダムに分け一用量の生理食塩水、IgG(20mg/kg)又は抗sEcad mAb(DECAM-1、20mg/kg)を与え、処置後2週間で屠殺した。次いでマウスを週二回観察し、各病巣の増殖を記録し、固定距離でデジタル写真を撮影した。腫瘍体積(mm3)はVernierカリパスを使用して評価し、lが長さを表しwが幅を表すl×w2×0.52として計算した(Euhus et al., J. Surg. Oncol. 31;229-234, 1986)。皮膚及び乳房腫瘍は切除し、重量を測り、ホルマリン固定又は即時凍結のいずれかを施した。ホルマリン固定サンプルはパラフィン包埋し、5μmに切断し、組織化学的評価用にH and E染色し、又は免疫組織化学的分析用に処理した。
アポトーシス、細胞数及び増殖の評価。細胞のアポトーシスを、製造者の説明書に従い、モノ及びオリゴヌクレオソームの形のDNAヒストン複合体の検出に基づき、細胞死アポトーシス検出ELISA Plusキット(Boehringer Mannheim)を使用して定量測定した。簡単に言うと、24〜48時間、様々な濃度のDECMA-1又はラットIgG1の有無の下で細胞を処置した。トリプシン処理により細胞を採取し、計数し、溶解物はELISAに施した。in vitro及びin vivoのアポトーシスは、製造者の説明書に従い、DeadEnd Fluorometric TUNEL System(Promega)、ApopTag Peroxidase In situアポトーシス検出キット(Millipore)及びヒトアポトーシスアレイキット(ARY009, R and D)を使用し、断片化DNAのin situ検出によってさらに分析した。ApopTagキットは、プロテイナーゼK(20μg/ml)で処置した脱パラフィン状態5μm厚切片に室温において施した。細胞計数に関しては、細胞をトリプシン処理し血球計で計数した。腫瘍BrdU分析に関しては、以前に記載されたように(27)、抗BrdU(ab2284, abcam)抗体を使用して組織を染色した。細胞の増殖は、製造者の説明書に従い、細胞増殖ELISA5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)(比色定量)キット(Roche, Stockholm, Sweden)によりモニタリングした。
統計解析。他に言及しない限り、群間の比較はANOVA、次にStudent-Newman-Keuls又はDunnett法を用いた事後解析を使用して行った。*P<0.05、**P<0.01又は***P<0.001として図中に統計的有意性を示す。
[実施例2]
sEcadに対するモノクローナル抗体は、多数の受容体チロシンキナーゼ並びに下流MAPK-PI3K/Akt/mTOR及びIAP経路の下方制御により発癌を阻害する
HERファミリーの受容体は癌の増殖及び進行に必要不可欠なので、本発明者らは次に、本発明者らの抗sEcad療法が、この発癌促進経路の調節により腫瘍形成を抑制したかどうか評価した。本発明者らの試験は、処置済みMMTV-PyMT(主にHER1とHER2)及び皮膚SCC異種移植片腫瘍(主にHER1、IGF-1R)において、統計学的に有意なHER1、HER2及びIGF-1R発現レベルの低下があったことを示す。HER標的化物質とPI3K/mTOR経路の阻害剤を併用した臨床試験は患者において展望を示しているので(Hennessy et al.Nat.Rev.4:988-1004, 2005)、本発明者らは次に、MMTV-PyMT及び皮膚SCC異種移植片から切除した腫瘍における、MAPK-PI3K/Akt/mTOR及びIAP(即ち、サービビン、リビン、XIAP、c-IAP-1、c-IAP2など)の発現レベルを調べた。処置済みMMTV-PyMT腫瘍は、生理食塩水又はIgG対照と比較して、MEK1/2、ERK1/2、PI3K、Akt、mTOR、4EBP1(mTOR基質)及びサービビンレベルの顕著な低下を示した。同様に、HER及びIGF-1Rの発現レベル、並びにRas、MEK1/2及び4EBP-1レベルの顕著な低下が切除した抗sEcad SCC腫瘍において明らかであった(依然データ進行中)。
これらのin vivoでの発見を確認するため、本発明者らは次に、抗sEcadモノクローナル抗体(mAb)の投与が、細胞培養系において、これらの受容体チロシンキナーゼ及び下流MAPK-PI3K/Akt/mTOR-IAPシグナル伝達にどのように影響を与えたかを調べた。HER2+MCF-7細胞の膜、細胞質及び核分画のウエスタンブロット解析によって、顕著な抗sEcad mAb仲介型のHER1〜4発現レベルの低下、並びにMAPK-PI3K/Akt/mTOR-及びIAPサービビン、XIAP及びc-IAP-1の発現レベルの低下が明らかになった。同様に、BT474ハーセプチン耐性細胞において、抗sEcad mAb処置はホスホ-HER1、HER2、IGF-1R、並びにMEK、ERK1/2、PI3K、Akt、mTOR、4EBP1及びIAP、サービビン、リビン及びXIAPの下方制御をもたらした。(HER3、4を発現しない)皮膚SCC細胞において、HER1〜2、IGF-1R及び下流MEK、ERK、PI3K、mTOR、4EBP1並びにサービビンレベルの同様の抗sEcad誘導型の低下を観察した。一緒に考えるとsEcadの遮断は、ハーセプチン感受性及び耐性細胞系において、多数の受容体チロシンキナーゼ(HER1〜4、IGF-1Rなど)及び下流PI3K/mTORシグナル伝達の下方制御をもたらし、HER標的化療法に対してde novo及び後天的耐性がある患者において、この療法が有効であり得ることを示唆した。
エンドサイトーシスによるHERファミリーの受容体の輸送及び分解は、多数のHER対象癌療法の重要な作用機構をもたらす(Hennessy et al., 上記、Sorkin and Goh, Exp.Cell Res.314:3093-3106, 2008)。したがって本発明者らは次に、sEcadを標的化するmAbがHER受容体の内在化及び分解を誘導するかどうか決定した。未処置MCF-7細胞におけるHER1〜4の免疫蛍光染色は主要原形質膜の局在を実証したが、抗sEcad mAb処置は細胞内小胞構造へのHER1〜4免疫反応性の凝集を誘導した。その後の実験は、抗sEcad mAb処置が、エンドサイトーシス及び分解をHER受容体ファミリーにもたらすことにより腫瘍細胞アポトーシスを誘導することを示唆した。クロロキン、リソソーム阻害剤は低用量で抗sEcad mAb誘導型アポトーシスを妨げ、HER1〜4の膜発現を手助けした。さらに、アポトーシスに対する抗sEcad mAbの影響はプロテアソーム阻害剤ALLNの存在下で阻害され、HER1〜4発現の手助けを伴った。実際、HER1及びHER2のユビキチン化は抗sEcad mAb処置細胞の細胞質及び膜分画において劇的に増大した。このデータは、リソソーム及びユビキチン-プロテアソーム経路は、癌細胞においてHER受容体発現及びアポトーシスに対する抗sEcad mAb療法の影響を仲介することを示唆する。
結論として、本発明者らの発見は、shed sEcad断片(EC2〜5)を含めたE-カドヘリンの特異的エクトドメイン(EC2〜5)に対する抗体の投与は、正常細胞、マウス及び末端器官において望ましくない毒性効果をもたらさずに、癌細胞増殖を遅らせ癌細胞でアポトーシスを選択的に誘導することにより、癌状態のMMTV-PyMT及びSCC異種移植片マウスモデルにおいて、腫瘍負荷を有意に低減し腫瘍等級を引き下げたことを実証する。作用機構の試験は以前に未発見であった機構を明らかにし、この場合抗sEcadモノクローナル抗体療法は、ユビキチン-プロテアソーム及びリソソーム経路によりエンドサイトーシス及び分解を介してHERファミリー受容体を下方制御し、遠位のPI3K/Akt/mTOR-IAPシグナル伝達も下方制御し、したがって既存の療法に応答して見られることが多い宿主耐性の発達をおそらく克服する。したがって抗sEcad標的化モノクローナル抗体療法は、単独投与又は他の戦略との併用で、上皮由来癌を治療するのに有効な療法として証明することができる。この目的のため、本発明者らの結果は、抗sEcad抗体処置が、隣接する正常な健常上皮細胞、線維芽細胞及び内皮細胞を維持しながら、様々な上皮癌細胞系(乳房、皮膚、結腸、頭頚部、肺など)において細胞死を誘導することを明らかに実証する。本発明者らは、癌細胞が微小環境内で人工的に模倣した正常細胞間接触にsEcadを分泌し、隣接する近隣細胞に機能的足場を提供することによりsEcad受容体チロシンキナーゼ(RTK)相互作用を助長することを示す。したがって、腫瘍微小環境からsEcadを除去しsEcad-RTK相互作用を阻害することにより、本発明者らは腫瘍細胞環境のこの栄養供給能力を乱し、プログラムされた細胞死と関連があるp53依存性又は非依存性分子経路を活性化する。
前に記載した試験中で利用した方法は以下のものを含む:
細胞系及び試薬。ヒトMCF-7及びBT474親細胞をアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から購入し、ATCCの推奨に従い培養した。BT474ハーセプチン耐性細胞は、Dr.Kute(Wake Forest University, Winston-Salem, NC)の親切な贈答品であり、10%FBS RPMI-1640培地(ATCC)中で増殖させた。抗sEcadエクトドメイン特異的抗体には、DECMA-1(Sigma)、HECD-1(Calbiochem)、SHE78-7(Calbiochem)及びH108(Santa Cruz Biotechnology)がある。IAP抗体サンプラーキットはCell Signalingから購入した。ALLNプロテアソーム及びクロロキンリソソーム阻害剤はSigmaから購入した。
分画化、免疫沈降及びウエスタンブロット解析。細胞の亜分画化を、製造者の説明書に従い、Bio Vision Fraction PREP Cell Fractionation System(Bio Vision Inc.Mountain View, CA)を使用して実施した。本発明者らは、免疫沈降溶解バッファー(20mMのトリス-HCl、pH7.5、137mMのNaCl、100mMのNaF、10%グリセロール(vol/vol)、1.0%(vol/vol)Nonidet P-40、1mMのPMSF及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)を用いて、DECMA-1又は対照ラットIgG1の有無の下で細胞を採取することにより免疫沈降アッセイを実施した。簡単な超音波処理後、溶解物を4℃での遠心分離によって除去した。Thermo Fisher ScientificからのEGFR/HER1(Ab-15)及びHER2(Ab-17)特異的抗体と共に4時間、及びプロテインA/Gプラスアガロースビーズ(Santa Cruz, sc-2003)と共に2時間4℃で上澄みをインキュベートした。免疫複合体は三回洗浄し、サンプルバッファー(60mMのトリス-HCl、pH6.8、2%SDS(vol/vol)、10%グリセロール(vol/vol)、5%β-メルカプトエタノール(vol/vol)、及び0.01%ブロモフェノールブルー(vol/vol)中で煮沸し、タンパク質分析用にSDS-PAGEに充填した。腫瘍又は腫瘍細胞由来の完全細胞抽出物を、以前に記載されたようにウエスタンブロット用に処理した(Brouxhon et al., Cancer Res. 67:7654-64, 2007)。HER1、HER2、HER3及びHER4、並びにリン酸化HER1〜4、pPI3K、pAkt、pmTOR、p4E-BP1、pp70S6K及びサービビン(2808)全てに対する抗体はCell Signaling Technologiesから得た。HER2、HER3及びHER4に対するモノクローナル抗体はThermo Scientificから得た。E-カドヘリンの細胞外ドメインに対するポリクローナル抗体、及びαアクチンに対するモノクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnologyから得た。E-カドヘリンの細胞外ドメイン(DECMA-1)、及びヒスタグに対するモノクローナル抗体は、それぞれSigma及びAbcamから得た。G3PDH、ユビキチン及びラットIgG1に対するモノクローナル抗体は、それぞれAmbion、Zymed及びSouthern Biotechnologyから得た。ヒトアポトーシスアレイキットはR and D Systems(ARY009)から購入し、製造者の説明書に従い使用した。
免疫蛍光。チャンバースライドで培養した細胞(Nalge Nunc International)を4%ホルムアルデヒドで10分間固定し、1%(wt/vol)BSAを含有するPBS中で20分間遮断し、以前に記載されたようにHER1〜4抗体でインキュベートした(Brouxhon et al., Cancer Res. 67:7654-64, 2007)。核は2μg/mlのHoechst33342(Invitrogen)で対比染色した。
組織化学的分析及び免疫組織化学法。パラフィン包埋腫瘍を固定し、5μmに切断し、脱パラフィン状態にし、標準プロトコールに従いH and E染色した。H and E染色したスライドは十分適任な病理学者により盲検評価された。免疫組織化学法による分析用に、以前に記載されたように、抗HER1、HER2、HER3、HER4、p53、ERK1/2、Akt、mTOR及びサービビン(Cell Signaling)抗体を使用して組織を染色した(Brouxhon et al., Cancer Res. 67:7654-64, 2007)。
標的化モノクローナル抗体は、その腫瘍特異的標的化能力及び低い毒性プロファイルのため、魅力的な治療薬剤候補となっている。したがってトラスツズマブ、HER2の細胞外ドメインに対する組換えヒト化モノクローナル抗体は、HER2転移性乳癌を有する患者の治療に関してFDAにより承認された(Yarden and Sliwkowski, Nat Rev Mol Cell Biol.2:127-37, 2001)。しかしながら、HER標的化療法に当初応答性がある大部分の患者は腫瘍の再発を経験し、療法に抵抗力がある状態になる(Yarden and Sliwkowski, Nat Rev Mol Cell Biol.2:127-37, 2001)。多数のHER受容体と下流の主要生存シグナル伝達経路の間の詳細な関係は、この薬剤耐性に貢献することは示唆されている(Nahta et al., Nat Clin Pract Oncol.3:269-80, 2003)。したがって、HER2とHER3を同時に中和する二重特異性抗体、又はHER1とHER2のみを阻害する標的化mAbの組合せ、又は下流MAPK若しくはPI3K/Akt/mTOR阻害剤と組合せたこれらの標的受容体チロシンキナーゼは、臨床試験において現在活発に遂行されている(Robinson et al., Br J Cancer.99:1415-25, 2008)。
抗sEcad投与が癌腫の発生を抑制する推定機構のさらなる理解を得るため、本発明者らは次に、抗sEcad療法がHERファミリーの受容体を調節するかどうか調べた。重要なことに、この試験の最も興味深く臨床上関連がある発見は、抗sEcad療法が多くの代償経路を下方制御したこと、及びトラスツズマブ処置細胞が最終的に発達し、細胞増殖を維持し生存率を高めたことの実証である。即ち、HER標的化療法の有効性を改善するのに最も重要な戦略の1つは、多数のHER受容体を阻害し、個々の受容体を標的化する作用物質の成功を現在制限する、これらの受容体間に存在する水平面に協同的に干渉することである。具体的には、トラスツズマブ、ペルツズマブ、及びHERチロシンキナーゼ阻害剤ゲフィチニブの同時使用は、単一作用物質として又は二剤の組合せで使用した任意のこれらの薬剤より有効に、HER2過剰発現異種移植片を阻害した(Serra et al., Oncogene.30:2547-57,2011)。ここで、本発明者らの機構試験は、抗sEcad処置が全てのHER1〜4ファミリーメンバーを下方制御し、HER1及びHER2ファミリーメンバーがユビキチン-プロテアソーム及びリソソーム経路によりエンドサイトーシス及び分解を受ける、以前に未発見であった経路を明らかにする。しかしながら、下流生存促進シグナル伝達経路の再活性化を介して後天的薬剤耐性が依然生じ得るので、全てのHERファミリーメンバーの下方制御が十分ではない可能性がある。
PI3K/Akt/mTOR及びMAPK経路、並びにIAPファミリーメンバーは乳癌では相当制御異常状態になり(Nahta et al., Nat Clin Pract Oncol.3:269-80, 2003)、それらは癌治療に関して十分確認される標的となる。しかしながら、詳細な関係及び多くのフィードバックループでは、単一作用物質阻害剤の結果はごく適度な影響を有する。これは、HER2過剰発現乳癌におけるPI3Kのみの標的化は別の代償経路を活性化しERK依存性をもたらしたことを示した、Serra et al(2011)により実証された(Serra et al., Oncogene.30:2547-57,2011)。さらにCarracedo et al(2008)は、ラパマイシンを使用したmTORC1の阻害が、前立腺癌においてPI3Kフィードバックループを介したMAPKの活性化をもたらしたことを実証した(Carracedo et al., J Clin Invest.118:3065-74, 2008)。ここで本発明者らは、抗sEcad mAb処置が多くの複合体、及びトラスツズマブ耐性と関連がある冗長な下流経路を抑制したことを示す。具体的には、mAb処置MCF-7細胞の膜分画化は、ERK1/2並びにAkt、mTOR、mTOR結合タンパク質Raptor及びmTOR基質4E-BP1の下方制御をもたらした。in vitroでの発見と一致して、mAb処置MMTV-PyMTマウス由来の腫瘍においてPI3K/Akt/mTORシグナル伝達も有意に低下した。近年の試験は、HER2陽性乳癌細胞の生存にIAPが必要不可欠であることも実証する。Xia et al(2006)は、HER1/HER2阻害剤、ラパチニブはサービビン発現を顕著に低下させ、HER2過剰発現BT474細胞におけるPI3Kシグナル伝達のその阻害によってアポトーシスを誘導したことを示した(Xia et al., Proc Natl Acad Sci USA.103:7795-800, 2006)。同様に、ラパチニブで処置した患者由来のHER2陽性腫瘍は、サービビン発現レベルの顕著な阻害を示した(Asanuma et al., Cancer Res.65:11018-25, 2005; Xia et al., Proc Natl Acad Sci USA.103:7795-800, 2006)。対照的にトラスツズマブは、トラスツズマブ感受性BT474細胞において定常状態のサービビンレベルに対してほとんど影響がなかったが、HER2陽性トラスツズマブ耐性SUM190PT細胞系では、それはサービビンとXIAPの両方の上方制御を誘導した(Aird et al., Mol Cancer Ther.7:38-47, 2008; Xia et al., Proc Natl Acad Sci USA.103:7795-800, 2006)。この試験において、本発明者らは、抗sEcad療法が、アポトーシスの阻害剤、その多くが腫瘍細胞生存に必須であり耐性腫瘍においてさらに上方制御されるタンパク質ファミリーメンバーサービビン、XIAP、リビン及びc-IAP-1を下方制御したことをさらに示す(Xia et al., Proc Natl Acad Sci USA.103:7795-800, 2006)。
[実施例3]
sEcadはヒト及びマウスの癌並びに細胞培養系において増大する
癌患者の血清におけるsEcadの上方制御は以前に報告されているので(Katayama et al., Br J Cancer.69:580-585, 1994)、本発明者らは最初に、ヒト又はマウスの癌試料、体液又は細胞培養系において内在sEcadレベルが増大するかどうかの決定に着手した。この目的のため、本発明者らは最初に、HER2+ヒト乳房腫瘍試料とヒトトリプルネガティブ乳癌(TNBC)腫瘍試料におけるsEcad発現のレベルを評価し、正常ヒト乳房組織試料よりsEcadレベルが有意に高いことを発見した。ヒト細胞培養試験では、sEcadレベルが、正常MCF-10A乳房上皮細胞と比較して、MCF-7乳癌細胞の条件付け培地において有意に高いことが分かった。対照的に、如何なる測定可能なレベルのsEcadもHER2+SKBR3及びTNBC MDA-MB-231細胞において見られず、これはこれらの細胞系におけるE-カドヘリン発現の欠如に原因があり得る。HER2+乳房腫瘍を有するMMTV-PyMTマウスでは、野生型対照と比較して、多量の内在sEcadレベルが切除した乳房腫瘍において、並びに血清及び尿中で高レベルのsEcadが示された。
ヒト皮膚及び頭頚部試料において、イムノブロット分析は、完全E-カドヘリン(FL-Ecad)の統計学的に有意な減少、並びに皮膚及び頭頸部扁平上皮細胞癌(SCC)と正常皮膚及び中咽頭上皮サンプルにおける80kDa sEcad断片の平行した増大を示した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。さらに、ヒト皮膚及び頭頚部SCC細胞系は、ELISA及びイムノブロット分析により評価して、対照に対してsEcad発散の統計学的に有意な増大を実証した。このFL-Ecad/sEcadの反比例関係は、異常発育領域、切除パピローマ及びSCCで構成される慢性的光発癌性皮膚癌マウスモデルにおいても確認した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。興味深いことに、UV誘導型皮膚癌の進行と共にFL-Ecad mRNAのレベルが増大した。in vitro SCC皮膚癌進行モデルを使用して、本発明者らは、正常皮膚ケラチノサイトからパピローマ及びSCCへの進行と共に、sEcad分泌レベルが細胞の条件付け培地において増大したことをさらに確認した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。一緒に考えると、本発明者らのデータは、一連のヒト及びマウスの癌試料、細胞系及び体液において内在sEcadレベルが増大することを実証する。
前に記載した試験中で使用した方法は以下のものを含む:
細胞系及び試薬。ヒトMCF-7、MCF-10A、SKBR3、MD-MB-231及びFADU細胞をATCCから購入し、ATCCの推奨に従い培養した。PAM212細胞はDr.Yuspa(NCI, Bethesda, MD)からの親切な贈答品であり、10%FBSを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Lonza)中で増殖させた。CC4A細胞は親切にもDr.Klein-Szanto(Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, PA)によって提供され、10%FBS及び2mMのL-グルタミンを補充したSMEM培地において培養した。R and D Systemsから購入した組換えヒトE-カドヘリンFcキメラ(rhEcad/Fc)及びマウスE-カドヘリンFcキメラ(mEcad/Fc)(sEcad)は、C-末端の6×ヒスチジンタグであるヒトIgG1のFc領域とポリペプチドリンカーによって融合した、ヒトE-カドヘリンの細胞外ドメイン(E-カドヘリン細胞外ドメインのアミノ酸残基155〜707又はEC1〜EC5ドメイン)をコードするcDNA配列を表す。
動物実験。野生型(WT)及びMMTV-PyMTマウス交配種をJackson Laboratoriesから得て、販売者の仕様書に従い交配させた。90日齢で、腫瘍、血液及び尿を回収しアッセイするまで保存した。一晩分の尿回収物を、食料と水を自由に与えながら特殊メタボリックケージ(Tecniplast USA Inc.)を使用して、野生型(WT)及び90日齢MMTV-PyMTトランスジェニックマウスから得た。慢性的光発癌モデルに関しては、以前に記載されたように(Kim et al., Photochem Photobiol.75:58-67, 2002)、SKH-1マウス(Charles River Laboratories)の背面皮膚を、35週の間週に二回180mJ/cm2のUVBに曝した。全ての実験手順は、Institutional Laboratory Animal Care and Use Committee at SBUにより承認された。
患者及び組織。ヒトHER2乳癌、TNBC、皮膚SCC及び頭頚部癌試料は、NCI Cooperative Human Tissue Network(CHTN)及びProteogenex(Culver City, CA)から得た。ヒト組織の使用は、Institutional Review Board at Stony Brook Universityにより承認された。
イムノブロッティング。これらの方法は前に記載したのと同様である。
ELISAアッセイ。MMTV-PyMTマウスの血清及び尿、又は血清飢餓細胞の条件付け培地におけるsEcadのレベルを、製造者の推奨に従い、ヒトE-カドヘリンQuantikine ELISAキット(R and D Systems)を使用して定量化した。血清、尿及び条件付け培地は適切に希釈してアッセイの標準範囲内にした。尿のsEcadの結果を、QuantiChromクレアチニンアッセイキット(DICT-500, BioAssay, System)を使用して尿中クレアチニン濃度に補正した。それぞれの実験は三連で実施した。
半定量的PCR:正常マウスからかき取った上皮、切除パピローマ及びSCC(N=2)由来の全細胞RNAを抽出し、E-カドヘリンmRNAのレベルは、以下のマウスE-カドヘリンプライマーを使用して、Kyrkanides et al.(J.Neuroimmunol.188:39-47, 2007)中に記載されたように半定量的RT-PCR反応を使用して決定した。
上部プライマー5'-GGACTACGATTATCTGAACG-3'(配列番号2)、
下部プライマー5'-AACACACACACTATCCAGC-3'(配列番号3)。
[実施例4]
可溶性E-カドヘリンは受容体チロシンキナーゼ、MAPK、及びPI3K/Akt/mTORシグナル伝達と相互作用し活性化する
ヒト上皮増殖因子受容体(HER)ファミリーは、増殖、細胞運動性及び腫瘍細胞生存を含めた多様な生物学的応答を制御するので(Yarden and Sliwkowski, Nature Reviews.2:127-137, 2001)、本発明者らは免疫沈降及びウエスタンブロットアッセイを使用して、この受容体ファミリーとの相互作用によりsEcadが発癌を促進し得るかどうか調べた。ヒト腺管癌又は切除したMMTV-PyMT腫瘍から調製した抽出物はHER1、HER2又はHER3特異的抗体と免疫沈降させ、エクトドメイン特異的E-カドヘリン抗体とイムノブロッティングした。HER1、HER2及びHER3はヒトとマウス乳房腫瘍の両方でsEcadと会合し、免疫蛍光分析によって切除したMMTV-PyMT腫瘍におけるHER1及びHER2とこのドメインの同時局在を示し、SKBR3細胞におけるHER2-sEcad複合体を示した以前の試験と一致した(Najy et al., J. Biol. Chem. 283:18393-401, 2008)。HER1を主に発現するヒトTNBC腫瘍において、本発明者らはsEcad-HER1相互作用を発見したが、120kDaの完全FL-Ecadタンパク質との会合は発見しなかった。ヒト皮膚(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)及び頭頚部SCC試料において、本発明者らはHER1、HER2及びIGF-1Rと内在sEcadの会合をさらに発見したが、一方で前述の受容体とFL-Ecadの如何なる測定可能な相互作用も示されなかった。
これらのRTKとsEcadの会合はin vitro試験によっても確認した。具体的には、細胞培養系において、sEcad(rhEcad/Fc:ヒスタグ)処置E-カドヘリン陽性MCF-7及びE-カドヘリン陰性SKBR3及びMDA-MB-231乳癌細胞由来の抽出物をHER1〜4特異的抗体と免疫沈降させ、ヒスタグ特異的抗体を用いたウエスタンブロッティングにより分析した。ここで本発明者らは、MCF、SKBR3及びMDA-MB-231乳癌細胞においてHER1〜4-sEcad、HER1〜2-sEcad及びHER1-sEcad相互作用をそれぞれ検出した。同様に、sEcad-HER1、sEcad-HER2及びsEcad-IGF-1R相互作用をsEcad刺激皮膚PAM212細胞(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)において発見し、sEcad-HER1及びsEcad-IGF-1R相互作用をFADU中咽頭SCCにおいて発見した。HER受容体ファミリーと結合するリガンドはホモ及びヘテロ二量体の形成を誘導し、細胞質ドメイン内の特異的チロシン残基においてリン酸化をもたらすので(Yarden and Sliwkowski, Nature Reviews.2:127-137, 2001)、本発明者らは次にウエスタンブロット分析を使用して、sEcadがHERのリン酸化及び下流シグナル伝達を促進するかどうか調べた。乳癌細胞では、HER1〜4のリン酸化は、刺激後26時間でE-カドヘリン陽性MCF-7細胞と陰性SKBR3細胞においてsEcad(rhEcad/Fc:)により顕著に増大し、sEcad-HER2複合体が、SKBR3細胞においてHER2-HER3のヘテロ二量体化並びにHER3及びERK1/2リン酸化をもたらすことを実証した報告と一致した(Najy et al., J. Biol. Chem. 283:18393-401, 2008)。HER1を主に発現するMDA-MB-231TNBC細胞では、sEcadはHER1リン酸化を誘導した。皮膚及び中咽頭SCC細胞系では、HER1、HER2及びIGF-1受容体のリン酸化及びHER1とIGF-1Rのリン酸化が、それぞれsEcad投与により顕著に増大した。別の実験では、より浸潤性の高いCC4A皮膚SCC細胞系はIGF-1R及びHER2(p95)を発現し、これらもsEcad処置後に用量依存的に活性化された(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。最後に、ヒト及びマウスホスホ-RTK抗体アレイキット(R and D Systems)を使用して、本発明者らは、MCF-7及びPAM212細胞において、sEcadがHER1〜4、並びにRET、FGFR、TIE、Axl、Eph、VEGF及びMuSKファミリー受容体だけには限らないが、これらを含めた他のRTKを活性化することを確認した。
本発明者らは、HERの下流で細胞増殖を促進するシグナル伝達経路における分子の異常によって、この効果が仲介され得ると推測した。具体的には、脂質キナーゼホスホイノシチド-3-キナーゼ(PI3K)及びタンパク質-セリン/スレオニンキナーゼAkt、及びmTORシグナル伝達経路はHER受容体シグナル伝達の重要なメディエーターであり、乳癌及び他の悪性腫瘍と原因が関係ある(Schmelzle and Hall, Cell 103:253-262, 2000)。乳癌細胞系において、ウエスタンブロット分析はrhEcad/Fc刺激MCF-7及びSKBR3細胞においてERK1/2、PI3K/Akt及びmTOR、並びにMDA-MB-231TNBC細胞においてAktの活性化を示した。PAM212及びCC4A皮膚SCC細胞系において、sEcadはMEK1/2、ERK1/2、Akt及びmTORのリン酸化を誘導したが、CC4A細胞のみはホスホ-PI3Kも誘導した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。これらの系と共に、sEcad処置済みFADUヒト中咽頭細胞ではMEK1/2、ERK1/2及びPI3K/Aktリン酸化が活性化された。p70S6キナーゼ及びeIF4E結合タンパク質1(4EBP1)はmTORの最も十分特徴付けられた標的内にあるので(Schmelzle and Hall, Cell 103:253-262, 2000)、本発明者らは次に、ウエスタンブロットによってThr-389におけるp70S6及びThr-37における4EBP1のリン酸化を試験した。驚くことではないが、未処置対照に対してrhEcad/Fc処置MCF-7、SKBR3、PAM212、CC4A細胞においてリン酸化p70S6K及び4EBP1レベルが高かった。
多量の証拠が、PI3K/Akt経路がIAPファミリーのタンパク質を制御できること(Asanuma et al., Cancer Res65:11018-11025, 2005)、並びにIAPメンバーはde novo及び後天的耐性と関係があることを示すので(Oliveras-Ferraros et al., Biochem Biophys Res Commun407:412-419,2011)、本発明者らは次に、ウエスタンブロット分析を使用して、E-カドヘリン陰性及び陽性細胞においてIAPレベルに対するsEcadの影響を調べた。本発明者らの知る限りでは、本発明者らの試験は、外来sEcadが、MCF-7細胞とSKBR3細胞の両方において、サービビン、cIAP-1、XIAP及びリビンを含めた多くのIAPファミリーメンバーを上方制御したことを最初に示している。しかしながらMDA-MB-231細胞では、サービビン及びリビンタンパク質発現レベルのみがsEcadの存在下で増大した。これらの発見は、E-カドヘリンを発現するか又は欠くHER2+細胞とHER2-TNBC細胞の両方において様々な程度ではあるが、sEcadがIAPファミリーメンバーを制御する証拠を示す。全体として本発明者らの結果は、HER及びIGF-1Rファミリーの受容体を上方制御すること、並びに下流PI3K/Akt/mTOR及びIAP生存促進シグナル伝達を活性化することによって、sEcadが癌の生存及び増殖を促進することをこれまで示唆している。
前に記載した試験中で使用した方法は以下のものを含む:
免疫沈降及びイムノブロッティング。組織又は細胞を採取し、免疫沈降溶解バッファー(20mMのトリス-HCl、pH7.5、137mMのNaCl、100mMのNaF、10%グリセロール(vol/vol)、1.0%(vol/vol)Nonidet P-40、1mMのPMSF及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma))を用いて、免疫沈降アッセイを実施した。簡単な超音波処理後、溶解物を4℃での遠心分離によって除去した。上澄みを予め除去し、EGFR/HER1、HER2、HER3、HER4又はE-カドヘリンエクトドメイン特異的抗体と共に4時間、及びプロテインA/Gプラスアガロースビーズ(Santa Cruz, sc-2003)と共に2時間4℃でインキュベートした。免疫複合体は三回洗浄し、サンプルバッファー(60mMのトリス-HCl、pH6.8、2%SDS(vol/vol)、10%グリセロール(vol/vol)、5%β-メルカプトエタノール(vol/vol)、及び0.01%ブロモフェノールブルー(vol/vol)中で煮沸し、タンパク質分析用にSDS-PAGEに充填した。完全タンパク質抽出バッファー:20mMのトリス、pH7.5、137mMのNaCl、100mMのNaF、10%グリセロール、1%NP40、1mMのPMSF及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)を使用して、細胞におけるタンパク質抽出を氷上で実施した。正常及び腫瘍組織に関して、sEcadをタンパク質抽出バッファー中ではなく水溶液(PBS)中に抽出した。タンパク質濃度はBCAタンパク質アッセイキット(Pierce)を使用して測定した。タンパク質サンプル(50〜100μg)は95℃で変性させ、4〜15%SDS-PAGEゲル電気泳動によって後に分離した。ニトロセルロース膜への移動及び1%BSAでのブロッキング後、一次抗体でサンプルをプローブ処理した。ウエスタンブロット画像はHP Scanjet G4050を使用して捕捉し、NIH Scion Imageを使用してG3PDH又はアクチンと比較して分析した。
[実施例5]
可溶性E-カドヘリンはHERを介してシグナル伝達し、EGFリガンドと相加的に作用して発癌を促進する
HERファミリーのメンバーはよく知られている細胞増殖及び移動のメディエーターなので、本発明者らは次に、sEcadが細胞培養系において乳癌増殖、移動、並びに微小管、ストレスファイバー及び巣状接着の形成を高めるかどうか調べた。MCF-7、SKBR3及びMDA-MB-231乳癌細胞系では、BrdUの取り込みは、細胞型に応じて様々なレベルではあったが10及び20μg/mLのsEcad(rhEcad/Fc)で有意に増大した。この結果は、外来sEcadがSKBR3細胞において増殖を増大したことを示す近年の発見と一致する(Najy et al., J. Biol. Chem. 283:18393-401, 2008)。同様のsEcad誘導型の増殖の増大が、中咽頭FADU及び皮膚SCC(PAM212、CC4A、SCC13及びSCC12b)細胞系において示された。移動及び浸潤に対するsEcadの影響を次いでin vitroで調べた。Transwellプレートを使用すると、乳房(MCF-7、SKBR3)、皮膚(PAM212、CC4A、SCC12b、SCC13)及び中咽頭(FADU)細胞のsEcad処置は、未処置対照と比較して有意な用量依存的な移動の増大を誘導した。新たな分岐F-アクチンと微小管の細胞骨格再編成及び形成は、細胞移動を制御する際に役割を果たすことが示唆されているので(Machesky.FEBS Letters582:2102-2111, 2008)、本発明者らは次に、sEcadで24時間刺激した細胞においてアクチン重合及び微小管構築を評価した。ラメリポディア及びストレスファイバーと関係がある細胞形状の顕著な変化がsEcad処置MCF-7細胞とSKBR3細胞の両方において示されたが、一方で血清飢餓MDA-MB-231細胞は紡錘細胞の存在を示した。sEcadが細胞浸潤を促進するかどうか評価するため、本発明者らは、Matrigelの薄層でコーティングしたTranswellインサートを介して浸潤する、sEcadで処置した血清飢餓細胞の能力を評価した。乳房(MDA-MB-231)、皮膚(SCC12b、SCC13、PAM212及びCC4A)及び頭頚部FADU細胞系は、未処置対照と比較してsEcadの存在下で、Matrigelを介した劇的な浸潤の増大を示した。特に、基底MCF-7及びSKBR3細胞は最小浸潤特性を典型的に示す。マトリックスメタロプロテイナーゼ特にMMP-9及びMMP-2は腫瘍散在における重要な因子なので、本発明者らは、sEcad(rmEcad/Fc)処置済み皮膚SCC PAM212細胞におけるプロ及びアクティブMMP-2及びMMP-9のレベルを評価した。ELISAはMMP-9分泌の用量依存的増大を実証し、ゼラチンザイモグラフィーはこれらの処置細胞の条件付け培地におけるMMP-9及びMMP-2の高い活性化を実証した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。sEcadがMMPを介して浸潤を高めることを確認するため、本発明者らは、GM6001(Ilomastat; BIOMOL, Plymouth, PA)、MMP-2とMMP-9を含めたコラゲナーゼ及びゼラチナーゼの活性を低下させる強力なMMP阻害剤の有無の下で、20μg/mLのrmEcad/Fcで処置したPAM212細胞の浸潤能力を調べた。sEcad刺激型の浸潤はGM6001の存在下で完全に遮断され、皮膚癌浸潤におけるsEcad誘導型MMP活性の役割に関するさらなる証拠を与えた(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。全体としてこれらのデータは、腫瘍微小環境内のsEcadはオートクリン及び/又はパラクリン式に作用して、E-カドヘリンを欠く腫瘍細胞においてさえ、腫瘍細胞の増殖、移動、浸潤、及び浸潤促進MMPの生成を助長することを示唆する。
sEcadがHERファミリーの受容体を介してシグナル伝達しこれらの機能効果を誘導することを確認するため、本発明者らは次に、sEcad(rmEcad/Fc又はrhEcad/Fc)の有無の下で様々なHER阻害剤で異なるタイプの癌細胞を処置して、増殖、移動、及び浸潤を評価した。乳癌細胞では、pan HER阻害剤カネルチニブ(1μM)、HER1/HER2阻害剤ラパチニブ(5μM)、及びHER1阻害剤ゲフィチニブ(5μM)が、基底型とsEcad誘導型BrdU取り込みの両方を有意に低下させた。さらに、カネルチニブ、ラパチニブ及びゲフィチニブは基底型及びrhEcad/Fc仲介型移動において同様の低下を示したが、一方でムブリチニブはsEcad誘導型MCF-7移動のみを遮断した。次に乳癌浸潤を評価するための試みで、本発明者らは、高い浸潤能力を示しHER1を過剰発現するが、HER2、3及び4のレベルは最小である非常に攻撃的なMDA-MB-231細胞系を使用した(Sahin et al., BMC Syst Biol.3:1-20, 2009)。ゲフィチニブの存在下では、基底型とsEcad誘導型浸潤の両方が未処置対照と比較して有意に低下した。次に本発明者らは、sEcadの有無の下で、PAM212皮膚SCC細胞における細胞分裂促進、移動及び浸潤能力に対するカネルチニブ、ラパチニブ及びゲフィチニブの影響を評価した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。興味深いことに、3個全ての阻害剤がsEcad誘導型の増殖、移動及び浸潤を効率よく阻害した。特にPAM212細胞では、pan HER阻害剤カネルチニブはsEcad誘導型のHER1及びHER2リン酸化を完全に無効にし、一方ラパチニブはHER1、ERK1/2、pAkt及びp70S6KのsEcad誘導型リン酸化を有意に下方制御したが、pHER2、PI3K及び4EBP1に関しては最小の変化を示した。ゲフィチニブはHER1、ERK1/2、Akt、p70S6K及びPI3KのsEcad誘導型リン酸化を低減したが、pHER2及び4EBP1に対しては最小の影響のみがあった。カネルチニブ、ラパチニブ及びゲフィチニブは、sEcadの存在下では、その各々の対応する対照と比較してホスホ-IGF-1Rレベルを変えることはなかった。
MEK及びPI3Kの活性化がsEcad仲介型の細胞増殖、移動及び浸潤にいずれも必要であるかどうかを理解するため、PI3K阻害剤(LY294002)及びMEK阻害剤(PD98059)をPAM212細胞において単独又は組合せで使用した(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。ERK1/2とAkt/p70S6Kの両方のリン酸化がPI3K阻害後に低減した。同様に、MEK阻害はERK1/2リン酸化の低減をもたらした。興味深いことに、mTOR/p70S6K/4EBP1のリン酸化は、rmEcad/Fcが不在の場合でさえMEK阻害剤PD98059の存在下で増大した。水平及び垂直方向シグナル伝達関係とフィードバックループの複雑なネットワークがMAPK軸とmTOR軸の間に存在し、一軸における構成要素の阻害が別の経路の代償上方制御をもたらすことが次第に明らかになっているので(Higgins and Baselga., J Clin Invest.121:3797-3803,2011)、これは驚くことではない。これによって、MEK阻害剤の存在下でsEcadによりAktリン酸化が増大した理由を説明することができる。さらに、本発明者らはsEcadがHERとIGF-1Rファミリーメンバーの両方を活性化できることを示しているので、このsEcad誘導型Akt/mTOR/p70S6K/4EBP1活性化はHER1〜4又はIGF-1Rシグナル伝達を介して起こり得ると考えられる。機能的に、本発明者らのデータは、PI3K阻害剤LY294002の存在下でのsEcad誘導型PAM212増殖の有意な低減をさらに示すが、MEK阻害剤PD98059を用いた効果はそれほど有意ではない(Brouxhon et al., Oncogene 2012; In press)。mTOR/p70S6K/4EBP1シグナル伝達分岐は細胞成長及び増殖を制御する際に中心的役割を果たすので(Bjornsti and Houghton., Nat Rev Cancer.4:335-348, 2004)、PD98059で見られる高いsEcad誘導型mTOR/p70S6-キナーゼ/4EBP1発現レベルがこれらの効果を仲介し得ると考えられる。さらに、本発明者らのデータは、どの阻害剤を利用するかとは無関係に、これらの機能的効果が遮断されるので、sEcad誘導型の増殖、移動及び浸潤はPI3K及びMEK依存的であることを示唆する。PI3K及びMEK阻害剤は、単独又は組合せで、MMP-2及びMMP-9のsEcad誘導型活性化を有意に阻害したという本発明者らの結果によって、この結論は支持される。全体として、これらの結果は、sEcadがPI3K及びMEK経路並びにその基質Akt/mTOR及びERK1/2を介して作用して、皮膚癌細胞において発癌促進性を助長する証拠を与える。
腫瘍環境は、結合に関してsEcadとおそらく競合、相加的作用又は相乗作用し得るHER関連リガンドを含有する可能性があるので、本発明者らは次に、EGFなどの外来リガンドがsEcadによって誘導される発癌促進効果を改変し得るかどうか調べた。ここで、MCF-7乳癌細胞を等モル濃度のEGF、sEcad単独、又はEGFと組合せたsEcadで24時間処置し、次いで増殖、移動及び浸潤を評価した。rhEGF又はsEcad(rhEcad/Fc)単独による細胞培養物の処置によって増殖、移動及び浸潤は有意に増大したが、これらの発癌促進効果は外来sEcadを用いるとさらに強力であった。特に、等モルrhEGFとsEcadを用いた併用処置は部分的ではあったが、sEcad又はEGF単独処置と比較して、増殖、移動及び浸潤に対して統計学的に有意な相加的影響をもたらした。次に、HER及び下流シグナル伝達を調べるため、本発明者らは、等モル濃度のsEcad、rhEGF、及びsEcadとrhEGFの組合せの有無の下でこの軸を評価した。予想通りrhEGF単独は、sEcad単独と比較して、HER1及びERK1/2リン酸化に対してより強い影響を示した。対照的に、外来sEcadはホスホ-HER3、Aktの上昇を実証したが、ホスホ-mTOR発現レベルの増大はそれほどでもなかった。組合せると、有意な相加的又は相乗的影響は示されなかった。全体として、これらの結果は、sEcadはHERを介してシグナル伝達し、EGFと相加的に作用して乳癌の発癌を助長する証拠を与える。
前に記載した試験中で使用した方法は以下のものを含む:
細胞系及び試薬。ヒトMCF-7、SKBR3、及びMD-MB-231細胞をATCCから購入し、ATCCの推奨に従い培養した。PAM212及びCC4A細胞は前に記載したように培養した。SCC12b及びSCC13細胞は親切にもMarcia Simon(Stony brook University, Stony Brook, NY)によって提供された。組換えヒト及びマウスE-カドヘリンFcキメラ(sEcad; rhEcad/Fc及びrmEcad/Fc)はR and D Systemsから購入した。カネルチニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ及びムブリチニブはLC Laboratories(Woburn, MA)から購入した。PI3K(LY294002、20μM)及びMEK(PD98059、20μM)阻害剤はEMD(Billerica, MA)から購入した。GM6001はBiomol(Ann Arbor, MI)から購入した。組換えヒトEGF(rhEGF)はEnzo Life Sciences(Farmingdale, NY)から購入した。
ゼラチンザイモグラフィー。対照又はsEcad処置細胞由来の条件付け培地を、製造者の説明書に従いCentriconデバイス(Millipore; Bedford, MA)を使用して10倍濃縮し、ゼラチン(0.1%w/v)を含有するSDS-PAGEゲルに施した。ゲルは再変性バッファー(Invitrogen)中で二回洗浄し、発色用バッファー(Invitrogen)中で24時間37℃においてインキュベートした。ゲルはクーマシーブルーで染色し、メタノール:酢酸(50:10)で脱色した。ザイモグラムは三連の実験を表す。
ELISAアッセイ。ヒト及びマウス細胞由来の条件付け培地を、製造者の仕様書に従い、ヒト及びマウスE-カドヘリンQuantikine ELISAキット及びマウスMMP-9 ELISAキット(R and D Systems, Minneapolis, MN)を使用して、それぞれMMP-9に関して分析した。マウスMMP-9を測定するため、無血清培地を細胞培養物に加え、細胞は高濃度のsEcad(rmEcad/Fc; R and D Systems)に24時間曝した。培養培地を回収し、Centrifugal Ultra Filters(Millipore; Billerica, MA)を使用して濃縮し、MMP-9レベルはELISAによって測定した。それぞれの実験は三連で実施した。
ウエスタンブロット分析。細胞由来の抽出物を、以前に記載されたようにウエスタンブロット用に処理した(Brouxhon et al., Cancer Res. 67:7654-64, 2007)。HER1及びHER4、並びにリン酸化HER1〜4、pPI3K、pAkt、pmTOR、p4E-BP1、pRaptor及びpp70S6K全てに対する抗体はCell Signaling Technologiesから得た。HER3及びHER4に対するモノクローナル抗体はThermo Scientificから得た。E-カドヘリンの細胞外ドメインに対するポリクローナル抗体、及びαアクチンに対するモノクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnologyから得た。E-カドヘリンの細胞外ドメイン(DECMA-1)、及びヒスタグに対するモノクローナル抗体は、それぞれSigma及びAbcamから得た。G3PDH、ユビキチン及びラットIgG1に対するモノクローナル抗体は、それぞれAmbion、Zymed及びSouthern Biotechnologyから得た。
免疫蛍光。チャンバースライドで培養した細胞(Nalge Nunc International)を4%ホルムアルデヒドで10分間固定し、1%(wt/vol)BSAを含有するPBS中で20分間遮断し、以前に記載されたようにHER1〜4抗体でインキュベートした(Brouxhon et al., Cancer Res. 67:7654-64, 2007)。アクチン、微小管及び二重標識の染色用に、細胞は15分間-20℃において100%(vol/vol)メタノールで固定し、1%(wt/vol)BSA-0.4%(vol/vol)Triton X-100で20分間遮断した。細胞はAlexa594結合ファロイジン(Invitrogen)又はモノクローナル抗αチューブリン(Invitrogen)と一晩4℃インキュベートし、次いで対応する蛍光結合二次抗体(Invitrogen)とインキュベートした。核は2μg/mlのHoechst33342(Invitrogen)で対比染色した。
細胞増殖、移動及び浸潤のアッセイ。以前に記載されたように(Brouxhon et al., Cancer Res. 67:7654-64, 2007)、BrdU染色用に、固定前に2時間10μMのBrdUと細胞をインキュベートし、免疫蛍光鏡検用に処理した。BrdU分析用に、切片当たり6乗倍狭い視野(×100)から細胞を計数した。BrdUの取り込みも、製造者の説明書に従い、細胞増殖ELISA5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)(比色定量)キット(Roche, Stockholm, Sweden)によって分析した。細胞の移動及び浸潤は、8.0μm孔のBD BioCoat Control Insert24ウエルプレート(no.354578)及びMatrigel Invasion Chamber24ウエルプレート(no.354480)、それぞれ(BD Bioscience)を使用して測定した。細胞を回収し、洗浄し、2×105個の細胞を上部チャンバー内の0.4%FBS培地中に、下部チャンバーに0〜20μg/mLのrhEcad/Fcで平板培養した。22時間後、上部の細胞はコットンスワブを使用して除去した。下部表面上の移動又は浸潤細胞はメタノールで固定し、0.5%クリスタルバイオレットで染色し、視野が鮮明な鏡検によって調べ写真撮影した。インサート当たりランダムな少なくとも10乗倍広い視野で移動又は浸潤細胞を数えることにより、移動又は浸潤を定量化し、平均として表した。結果は三連の実験において、未処置対照に対する移動/浸潤細胞の数の変化倍率として示す。
統計解析。データは平均及び標準誤差(SEM)として表す。別個の2サンプルt検定によって2群間の差を比較する。0.05未満のp値は統計的有意を示した。統計値はSPSS15.0ソフトウエア(SPSS Inc, Chicago, IL, USA)を用いて分析した。