JP2015223259A - ハイドロキシアパタイト誘導体粒子群 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】抗菌材料として、ハイドロキシアパタイトの結晶構造中のカルシウムイオンの少なくとも一部が銀イオンに置換された抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子、又は、ハイドロキシアパタイトの結晶構造中の水酸化物イオンの少なくとも一部がフッ化物イオンに置換された抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子からなるハイドロキシアパタイト誘導体粒子群を使用する。
【選択図】なし
Description
前記第1のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群において、5.0×104個/μLの所定の微生物と、銀イオン換算で2.47mmol/L以上の濃度で前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子と、を共存させた分散液を調製し、当該分散液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が90%以上であることが好ましい。
前記第1のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群において、前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子のXRDにより定量したハイドロキシアパタイト結晶相純度が90%以上であることが好ましい。
また、本発明は、ハイドロキシアパタイトの結晶構造中の水酸化物イオンの少なくとも一部がフッ化物イオンに置換された抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子からなることを特徴とする、ハイドロキシアパタイト誘導体粒子群(第2のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群)である。
前記第2のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群において、5.0×104個/μLの所定の微生物と、フッ化物イオン換算で89.3mmol/L以上の濃度で前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子と、を共存させた分散液を調製し、当該分散液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が50%以上であることが好ましい。
前記第2のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群において、5.0×104個/μLの所定の微生物と、フッ化物イオン換算で178.6mmol/L以上の濃度で前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子と、を共存させた分散液を調製し、当該分散液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が95%以上であることが好ましい。
前記第1及び第2のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群において、前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子が、焼成ハイドロキシアパタイト誘導体粒子であることが好ましい。
前記第1及び第2のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群において、前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子の粒子径が、10nm〜1,000nmの範囲内であることが好ましい。
1 HAp誘導体粒子群の構成
2 抗菌作用の原理
3 HAp誘導体粒子群の用途
初めに、本発明に係るHAp誘導体粒子群の構成について説明する。本発明に係るHAp誘導体粒子群は、HApの結晶構造中に銀イオン又はフッ化物イオンを含むHAp誘導体粒子からなる。本発明者らが知見したところによれば、この銀イオン又はフッ化物イオンを含むHAp誘導体粒子群は、マイルドな抗菌性を有するものである。ここで、本明細書で言う「マイルドな抗菌性」とは、菌等に感染していない健全な組織には殆ど悪影響を与えることなく、菌等に対して殺菌作用や静菌作用を発揮することが可能な程度の抗菌性を意味する。言い換えると、「マイルドな抗菌性」とは、銀イオンを含むHAp誘導体に関しては、HAp誘導体粒子群が抗菌性を発揮するために必要な銀イオン量が、銀イオン単独で抗菌性を発揮するために必要な銀イオン量と比較して非常に多く、抗菌活性が抑制されている場合を意味する。また、フッ化物イオンを含むHAp誘導体に関しては、HAp誘導体粒子群が抗菌性を発揮するために必要なフッ化物イオン量が、広く抗菌性が認知されている銀イオンの濃度、及び、上記銀イオンを含むHAp誘導体中に含まれる銀イオン量と比較して非常に多く、抗菌活性が抑制されている場合を意味する。
Ag−HApは、銀イオンを結晶構造中に含んでおり、HApの結晶構造中のカルシウムイオン(Ca2+)部分(少なくとも一部)が銀イオン(Ag+)に置換されたものである。言い換えると、Ag−HApは、銀イオンをHApのカルシウムイオンの位置にドープしたHAp誘導体である。このAg−HApは、銀イオンを含まないHApとは異なり抗菌性を有するものであり、また、銀イオンとHApとの単なる混合物と比較して抗菌性はマイルドなものとなる。なお、Ag−HApにおいて、HAp結晶構造中のカルシウムイオンの少なくとも一部が銀イオンで置換されている場合、HAp結晶構造中の水酸化物イオンの少なくとも一部が、フッ化物イオン又はその他の陰イオンで置換されていてもよい。
上述したような特徴を有するAg−HApは、湿式法、乾式法、加水分解法、水熱法等の既知の製造方法によって製造することができる。以下の説明では、湿式法の一つである共沈法を用いてAg−HApを合成する方法を例に挙げ、Ag−HApの合成方法を述べる。なお、湿式法を含む化学反応法を用いることで、低温合成が可能となることから、化学組成を容易に制御でき、また、医学的処置における応用にも好適である。
ここで、「一次粒子」とは、HAp誘導体粒子の製造工程の焼成前に、HAp誘導体原料(フッ素、HAp等)によって形成された粒子のことを意味する。すなわち、HAp誘導体粒子の製造工程において、初めて形成された粒子のことを意味する。また、狭義には単結晶粒子のことを意味する。なお、本発明の説明において「一次粒子」とは、非晶質(アモルファス)の状態のもの、及びその後に焼成を行った焼成体の状態のものをも含む意味である。
本混合工程は、上記工程で生成された一次粒子と、焼成時における一次粒子同士の融着を防止する融着防止剤とを混合する工程である。上記一次粒子生成工程によって得られた一次粒子群の粒子間に、予め融着防止剤を介在させておくことで、その後の焼成工程における一次粒子同士の融着を防止することができる。なお、本混合工程によって得られた一次粒子と融着防止剤との混合物を「混合粒子」と呼ぶこととする。
本焼成工程は、上記混合工程によって得られた混合粒子を焼成温度に曝して、当該混合粒子に含まれる一次粒子をセラミックのHAp誘導体粒子(焼成体粒子)にする工程である。一次粒子の粒子間に融着防止剤が介在しているために、焼成工程における高温条件に曝された場合であっても一次粒子同士の融着を防止することができる。
本除去工程は、上述した焼成工程によって得られたHAp誘導体粒子群の粒子間に混在する融着防止剤を取り除く工程である。
上述したようにして合成されたAg−HApは、例えば、各種構造解析手法により同定することができる。例えば、X線回折装置(X−Ray Diffractometer:XRD)を用いて測定した回折パターンと、既知のAg−HApの回折パターンとを比較し、これらの回折パターンがほぼ一致していれば、Ag−HApが得られていると同定することができる。なお、上記回折パターンにおけるピーク値から結晶格子の軸長を調べることができ、この軸長からカルシウムイオンが銀イオンに置換されていることを確認することもできる。
上述したようにして得られるAg−HApの抗菌力は、例えば、以下に述べる条件を満たすことが好ましい。すなわち、マイクロプレートリーダーで測定した吸光度の値が0.1(105個/μL)に濃度調整した所定の細胞を含む菌液と、該菌液と同体積のNaCl溶液にAg−HAp粒子を銀イオン換算で2.47mmol/L以上の濃度で分散させた溶液と、を混合した混合液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が90%以上であることが好ましい。これにより、本発明のHAp誘導体粒子群が、健全な組織に対しては悪影響を与えずに細菌等を静菌又は殺菌することが可能な、マイルドな抗菌性をより確実に発揮することができる。なお、ここでの「銀イオン換算の濃度」とは、抗菌力の評価に使用したAg−HApの組成(Ca10−x・Agx(PO4)6(OH)2)からその式量を求め、この式量と、上記NaCl溶液中のAg−HApのモル濃度(mol/L)とから算出された、上記NaCl溶液中に含まれる銀イオンのモル濃度(mol/L)を意味する。
F−HApは、フッ化物イオンを結晶構造中に含んでおり、HApの結晶構造中の水酸化物イオン(OH−)部分(少なくとも一部)がフッ化物イオン(F−)に置換されたものである。言い換えると、F−HApは、フッ化物イオンをHApの水酸化物イオンの位置にドープしたHAp誘導体である。このF−HApは、フッ化物イオンを含まないHApとは異なり抗菌性を有するものであり、また、フッ化物イオンとHApの単なる混合物と比較して抗菌性はマイルドなものとなる。さらに、F−HApは、高い耐酸性も有する。なお、F−HApにおいて、HAp結晶構造中の水酸化物イオンの少なくとも一部がフッ化物イオンで置換されている場合、HAp結晶構造中のカルシウムイオンの少なくとも一部が、銀イオン又はその他の陽イオンで置換されていてもよい。
上述したような特徴を有するF−HApは、湿式法、乾式法、加水分解法、水熱法等の既知の製造方法によって製造することができる。以下の説明では、湿式法の一つである共沈法を用いてF−HApを合成する方法を例に挙げ、F−HApの合成方法を述べる。
ここで、「一次粒子」、「二次粒子」、「単結晶一次粒子」の定義については、Ag−HApと同様である。
本混合工程は、上記工程で生成された一次粒子と、焼成時における一次粒子同士の融着を防止する融着防止剤とを混合する工程である。本混合工程については、上述したAg−HApの場合と同様であるので、詳細な説明を省略する。
本焼成工程は、上記混合工程によって得られた混合粒子を焼成温度に曝して、当該混合粒子に含まれる一次粒子をセラミックのHAp誘導体粒子(焼成体粒子)にする工程である。本焼成工程についても、上述したAg−HApの場合と同様であるので、詳細な説明を省略する。ただし、後述する実施例における焼成条件は、Ag−HApの場合と異なり、800℃で1時間焼成を行っている。
本除去工程は、上述した焼成工程によって得られたHAp誘導体粒子群の粒子間に混在する融着防止剤を取り除く工程である。本除去工程についても、上述したAg−HApの場合と同様であるので、詳細な説明を省略する。
上述したようにして合成されたF−HApは、例えば、各種構造解析手法により同定することができる。例えば、X線回折装置(X−Ray Diffractometer:XRD)を用いて測定した回折パターンと、既知のF−HApの回折パターンとを比較し、これらの回折パターンがほぼ一致していれば、F−HApが得られていると同定することができる。なお、上記回折パターンにおけるピーク値から結晶格子の軸長を調べることができ、この軸長から水酸化物イオンがフッ化物イオンに置換されていることを確認することもできる。
上述したようにして得られるF−HApの抗菌力は、例えば、以下に述べる条件を満たすことが好ましい。すなわち、マイクロプレートリーダーで測定した吸光度の値が0.1(105個/μL)に濃度調整した所定の細胞を含む菌液と、該菌液と同体積のNaCl溶液にF−HAp粒子をフッ化物イオン換算で89.3mmol/L以上の濃度で分散させた溶液と、を混合した混合液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が50%以上であることが好ましい。これにより、本発明の抗菌剤が、健全な組織に対しては悪影響を与えずに細菌等を静菌することが可能な、マイルドな抗菌性をより確実に発揮することができる。さらに、マイクロプレートリーダーで測定した吸光度の値が0.1(105個/μL)に濃度調整した所定の細胞を含む菌液と、該菌液と同体積のNaCl溶液にF−HAp粒子をフッ化物イオン換算で178.6mmol/L以上の濃度で分散させた溶液と、を混合した混合液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が95%以上であることが好ましい。これにより、本発明の抗菌剤が、健全な組織に対しては悪影響を与えずに細菌等を殺菌することが可能な、マイルドな抗菌性をより確実に発揮することができる。なお、ここでの「フッ化物イオン換算の濃度」とは、抗菌力の評価に使用したF−HApの組成(Ca10(PO4)6F2−y(OH)y)からその式量を求め、この式量と、上記NaCl溶液中のF−HApのモル濃度(mol/L)とから算出された、上記NaCl溶液中に含まれるフッ化物イオンのモル濃度(mol/L)を意味する。
本発明に係る抗菌剤の作用機序は不明であるが、本発明者らは、上述したようにHAp誘導体をナノ粒子にした結果、数μm程度の大きさの菌の内部に取り込まれやすくなり、このようにして菌の内部に取り込まれたマイルドな抗菌性を有するHAp誘導体が、菌の内部から菌を静菌又は殺菌する作用を示すものと推測している。
本発明に係るHAp誘導体、特に、焼成HAp誘導体は、生体活性が非常に高いため、医療分野において、例えば、骨充填剤、歯科用充填剤、薬物徐放剤等の歯科用材料または医療用材料として広く用いることができる。また、HAp誘導体は、生体活性が高いので、特に医療用材料として好適に用いることができる。また、焼成HAp誘導体粒子群は、菌体、酵母等の固定化担体、カラムクロマトグラフィー用充填剤、消臭剤等の吸着剤等に好適に用いることができる。さらに、本発明にHAp誘導体は、ナノメートルサイズのドラッグデリバリーシステム(ナノDDS)にもその利用が期待される。特に、本発明に係るHAp誘導体及びこれを含む抗菌剤は、これらの用途の中でも、抗菌性が要求される用途、例えば、体外と体内を繋いで、カテーテル、人工関節等の医療機器等の用途に好適に用いられる。
初めに、Ag−HApを合成し、得られたAg−HApを同定した上で、当該Ag−HApの抗菌性について評価した結果を説明する。
湿式法の一つである共沈法を用いて、Ag−HAp{Ca10−xAgx(PO4)6(OH)2(式中、x=0、0.1、0.2)}ナノ単結晶の作製を行った。出発原料については、Ca源として硝酸カルシウム四水和物{Ca(NO3)2・4H2O}、P源としてリン酸二水素アンモニウム{(NH4)2HPO4}、Ag源として硝酸銀{AgNO3}を用い、脱イオン水中で混合しながら室温で合成された。具体的には以下のようにして行った。
硝酸カルシウム四水和物、硝酸銀、及びリン酸二水素アンモニウムとしては、いずれも和光純薬工業株式会社から購入したものを精製せずに用いた。また、HAp中の銀含有量を確認するために、Ca:Ag=80:20(モル%)のAg含有HApを調製した。すべての反応は100℃の温度で行い、(Ca2+ + Ag+):PO4 3−のモル比が10:6となるように計算して反応物の量を定めた。
次に、上記で得られたAg−HAp粉体の一部を融着防止剤を添加せずに焼成し、他の一部を融着防止剤と混合した後に焼成した。焼成は、るつぼ内にて700℃で2時間行った。
最後に、Ag−HApの焼成体にNH4NO3溶液を加えることでpHを約7まで低下させた後に、遠心分離を用いて脱イオン水で洗浄した。洗浄後、Ag−HApの焼成体をろ過し、60℃のオーブンで十分に乾燥させ、Ag−HApの焼成体のサンプルを得た。
上述のようにして得られたAg−HApのサンプルに関し、Ag−HApの同定として、フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)による官能基分析、X線回折装置(XRD)による結晶構造解析、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面形状及び粒径測定、並びに、誘導結合プラズマ−原子発光分析法(ICP−AES)による元素組成分析を行った。
赤外分光測定による官能基の測定は、フーリエ変換型赤外分光光度計(パーキンエルマー(株)製、Spectrum50)を用いて行った。測定方法としてはKBr法を採用した。Ag−HApのサンプル1質量%に対して臭化カリウム(KBr)粉末を99質量%の比率で混合し、乳鉢を用いて十分にすりつぶし、均一に混合した粉末を拡散反射モードで測定波長範囲を4000cm−1から400cm−1、分解能4で積算回数は16回で測定した。なお、F−HApのサンプルとしては、(a)上記一次粒子生成工程で作製したAg−HApと、(b)(a)のAg−HApを融着防止剤を添加せずに焼成したサンプルと、(c)(a)のAg−HApを融着防止剤{Ca(NO3)2}を添加して焼成したサンプルとを用いた。図1に、上記(a)〜(c)のサンプルのIRスペクトルを示す。
粉末X線回析装置(理学電機(株)製、RAD−X)を用いて、作製したAg−HApの結晶構造解析を行った。XRDで使用したX線源としてはCuKα線源(λ=1.541841Å(オングストローム))を用い、出力は30kV/15mA、スキャンスピードは1.0°/min、サンプリング幅は0.01°、測定モードは連続の条件とした。図2に、作製したAg−HApのX線回析ピークを示す。なお、ピークの同定には、ICCD−PDFカード(00−009−0432)のHApの標準データと、ICCD−PDFカード(04−0783)の金属銀の標準データとを用いた。
作製したAg−HApの形態をSEMを用いて観察した。作製したAg−HApのサンプル(a)〜(c)のSEM画像を図3に示す。図3に示すように、一次粒子の状態のサンプル(a)では、各粒子が互いに近づいていることが観察された。すなわち、サンプル(a)は、不十分な結晶質(非晶質)であることがわかった。また、融着防止剤を添加せずに焼成したサンプル(b)では、一次粒子同士が融着して大きな塊状となっていることが観察された。一方、融着防止剤を添加して焼成したサンプル(c)では、一次粒子同士がほとんど融着されずに焼結され、球形又は棒状の粒子の混合物である(各粒子が互いに分離されている)ことが観察された。また、一次粒子の粒径は、融着防止剤の有無で殆ど変わらなかった。
Ag−HAp中の銀の組成比を、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP−AES)により求めた。測定装置としては、Optima 2000DV(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いた。ICP測定用のサンプルとして、100ppmのAg−HAp溶液を調製した。その結果を表3に示した。一次粒子の状態のサンプル(a)(表中の「sample−1」に相当)中のAgは1.5%であるが、融着防止剤を添加して焼成したサンプル(c)(表中の「sample−3」に相当)のAgは0.5%であった。このAgの減少は、除去工程におけるAg−HApの洗浄に起因するものと推測された。
次に、上記で作成したAg−HApに対する抗菌性評価について説明する。以下の説明では、評価方法、評価結果の順に説明する。
作製したAg−HApを用いて、粉末添加法によりAg−HApの抗菌性を評価した。なお、Ag−HApの抗菌性はE.Coliに対して行った.E.coliは、インプラントに関連する感染の原因となりうる微生物であり、グラム陰性細菌の一種である。
まず、抗菌性試験に使用するAg−HAp(Ca9.95Ag0.05(PO4)6(OH)2:式量=1015.0)の洗浄を行った。乳鉢で十分に粉砕しチューブの中に入れたAg−HAp10mgに、70%エタノールを1mL加えピペッティングした。その後15,000rpmで5分間遠心分離し、上澄みを捨てた。これを2回繰り返し、次に140mMのNaClで同様に洗浄を行った。
菌液の濃度を調整するためにマイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。液体培養した菌を20倍に希釈し、プレートに150μLスポットし波長600nmにおける吸光度を測定した。バックグラウンドには140mMのNaClを用いた。吸光度の値が0.1(105個/μL)になるよう菌液を希釈した。
粉末添加法
100μL の140mM NaCl溶液に分散させたAg−HApを含む溶液と、菌液100μLをチューブの中に入れ、ピペッティングし、1時間プチローターで撹拌を行い、Ag−HApと細菌とを接触させた。次いで、チューブ5本に180μLずつNaCl溶液を入れたものを用意し、順番に(1)〜(5)と番号をつけ、1時間撹拌させた細菌とAg−HApの混合液20μLを(1)に入れ、ピペッティングして十分に撹拌した。次に(1)の溶液20μLを(2)に入れ、ピペッティングして十分に撹拌した。これを図4のように(2)から(3)、(3)から(4)・・・と同様の手順で繰り返し、細菌とAg−HApの混合液を希釈した(20μLを180μLに加えているため、10倍ずつ希釈していることになる)。さらに、10倍ずつ5段階に希釈した溶液を濃度の薄い(5)から順番に5μLずつ寒天培地のシャーレにスポットし、37℃に設定したインキュベータで1日培養した。なお、抗菌性試験のコントロールとしてB社製HApを使用した。以上のような評価を、100μLのNaCl溶液に分散させるAg−HApをそれぞれ上記サンプル(a)〜(c)としたNo.1〜No.3の溶液に対して行った。なお、NaCl溶液中のAg−HAp濃度は、49.3mmol/L(5.0mg/100μL)とした。
〔Ag−HApの抗菌性〕
上記粉末添加法によりAg−HApの抗菌性試験を行った結果を図5及び表4に示す。なお、図5の最上段にはコントロールとしてのHApの結果を示し、それ以下の段にはAg−HApの結果を示している。表4に記載の殺菌率は、コントロールのコロニー数に対するAg−HApのコロニー数の割合、すなわち、(F−HApのコロニー数の減少数)/(コントロールのコロニー数)から求めた。その結果、全てのサンプル(a)〜(c)において、すなわち、焼成の有無に関わらず、90%以上の殺菌率を示した。なお、本抗菌性試験は、上記No.1〜No.3の溶液に対して、それぞれ3回ずつ(n=3)行った。また、図5には、n=3のうちの特定の1回の試験の結果を一例として示している。
次に、F−HApを合成し、得られたF−HApを同定した上で、当該F−HApの耐酸性及び抗菌性について評価した結果を説明する。
湿式法の一つである共沈法を用いて、F−HApナノ単結晶の作製を行った。出発原料については、Ca源として硝酸カルシウム四水和物、P源としてリン酸、F源としてフッ化ナトリウムを用いた。具体的には以下のようにして行った。
エタノール(99.5%水溶液)200mlに硝酸カルシウム四水和物7.03gとフッ化ナトリウム0.254gをそれぞれ溶解させ、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。同様に、エタノール50mlにリン酸2.04gを溶解させ、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。次に、硝酸カルシウムにフッ化ナトリウムを一気に混合し、5分撹拌後リン酸を加え、ウォーターバスにて80℃に保ったまま1時間撹拌し反応させた。その後、常温で15時間撹拌を行った。撹拌後、遠心分離機を用いて6,500rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を捨てた。純水を加え超音波照射を行い、沈殿した反応物を十分に分散させ、6,500rpmで3分間遠心分離を行った。この精製を3回繰り返し、得られたサンプル(F−HAp)を水に分散させた。
上記で作製したF−HAp 1.0gに対して、ポリアクリル酸1.0gを100mlの純水に溶解させ、アンモニア水(28.0%)を用いてポリアクリル酸のpHが5になるように調製した(溶液A)。その後、F−HAp溶液を撹拌しながら、溶液Aをペリスタポンプを用いて1分間10mlの割合で滴下した。さらに、5分間そのまま撹拌させた(溶液B)。同様に、作製したF−HAp 1.0gに対して、硝酸カルシウム3.7gを370mlの純水に溶解させた(溶液C)。溶液Bを撹拌しながら、溶液Cをぺリスタポンプを用いて1分間10mlの割合で滴下した。その後、混合液をアスピレータを用いて吸引濾過し、取り出したサンプルを1時間減圧乾燥した。乾燥させたサンプルを乳鉢で粉砕し、るつぼに入れ電気炉にて800℃で1時間焼成した。炉冷後、焼成したF−HApを乳鉢で粉砕した。
純水800mlに硝酸アンモニウム8.0gを溶解させ、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。焼成したF−HApに溶液を加え、超音波照射を行い沈殿した反応物を十分に分散させ、8,500rpmで3分間遠心分離を行った。上澄み液を捨てて硝酸水素アンモニウム水溶液を加え、以下、この精製を上澄み液のpHが中性になるまで4回繰り返した。さらに取り出したサンプルを、純水を用いて同様の方法で精製した。最後に、サンプルを1時間減圧乾燥させ、乳鉢で粉砕し回収した。
上述のようにして得られたF−HApのサンプルに関し、F−HApの同定として、X線回折装置(XRD)による結晶構造解析、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面形状測定及び粒径測定(DLS)による分散性評価、並びに、フッ素イオン濃度計による濃度分析を行った。
粉末X線回析装置(理学電機(株)製、Mini Flex/HCM)を用いて、作製したF−HApの結晶構造解析を行った。XRDで使用したX線源としてはCuKα線源(λ=1.541841Å(オングストローム))を用い、出力は30kV/15mA、スキャンスピードは1.0°/min、サンプリング幅は0.01°、測定モードは連続の条件とした。図6に、作製したF−HApのX線回析ピークを示す。なお、図6の上段がF−HApのピークであり、下段がJCPDSカードのF−HApデータである。
作製したF−HApの形態をSEMを用いて観察した。市販のF−HApを図7に、作製したF−HApのSEM画像を図8に示す。図7、8より、融着防止剤を用いて合成した(上記で作製した)F−HApの方が、市販のF−HApよりも1次粒子が小さく、均一な球体状であることが分かった。
フッ素イオン濃度計(笠原理化工業(株)製、F−10Z)を用いて、市販のF−HApと作製したF−HApのフッ化物イオン濃度を測定した。サンプル(市販のF−HAp及び作製したF−HAp)約50mgに、0.5M塩酸4mlと純水15mlとを混ぜ合わせ、純水を容積が25mlになるまで加えた。しばらく溶液を振り混ぜた後、サンプルの溶解を確認し、溶解していなければ0.5Mの塩酸を加え溶かした。サンプルの入った溶液25mlとマスキング剤2mlを100mlのメスフラスコに入れ、更に純水を加えて溶液が100mlになるよう調整した。超音波照射により溶液中の濃度を均一にした後、アンモニア水を加えてpHを5.0に調整した。表6にそれぞれのサンプルの理論濃度(mmol/L)、測定濃度(mmol/L)を示す。
次に、上記で作成したF−HApに対する耐酸性評価について説明する。以下の説明では、評価方法、評価結果の順に説明する。
作製したF−HApの溶解点を調べるため耐酸性試験を行った。比較のために、A社製F−HAp、B社製HAp、C社製HApの3つを加えた合計4つのサンプルの耐酸性を評価した。
図9より、C社製化学製とB社製のHApの溶解点はpH=4.0、A社製のF−HApの溶解点はpH=3.2、作製したF−HApの溶解点はpH=2.9であった。よって、作製したF−HApは、HApと比較して耐酸性が高いことが確認できた。今回合成したF−HApとA社製F−HApの耐酸性の違いは、フッ素含有率の違いに由来するものと考えられた。
次に、上記で作成したF−HApに対する抗菌性評価について説明する。以下の説明では、評価方法、評価結果の順に説明する。
作製したF−HApを用いて、粉末添加法によりF−HApの抗菌性を評価した。なお、F−HApの抗菌性は、大腸菌に対して行った。なお、フッ化ナトリウムを用いてフッ化物イオンの抗菌性も併せて評価した。フッ化物イオンの抗菌性評価については、表7に記載の7菌種に対して行った。
菌液の濃度を調整するためにマイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。液体培養した菌を20倍に希釈し、プレートに150μLスポットし波長600nmにおける吸光度を測定した。バックグラウンドには140mMのNaClを用いた。吸光度の値が0.1(105個/μL)になるよう菌液を希釈した。
粉末添加法
100μL の140mM NaCl溶液に分散させたF−HAp(Ca10(PO4)6F1.8(OH)0.2:式量=1008.2)を含む溶液と、菌液100μLをチューブの中に入れ、ピペッティングし、1時間プチローターで撹拌を行い、F−HApと細菌とを接触させた。次いで、チューブ5本に180μLずつNaCl溶液を入れたものを用意し、順番に(1)〜(5)と番号をつけ、1時間撹拌させた細菌とF−HApの混合液20μLを(1)に入れ、ピペッティングして十分に撹拌した。次に(1)の溶液20μLを(2)に入れ、ピペッティングして十分に撹拌した。これを図4のように(2)から(3)、(3)から(4)・・・と同様の手順で繰り返し、細菌とF−HApの混合液を希釈した(20μLを180μLに加えているため、10倍ずつ希釈していることになる)。さらに、10倍ずつ5段階に希釈した溶液を濃度の薄い(5)から順番に5μLずつ寒天培地のシャーレにスポットし、37℃に設定したインキュベータで1日培養した。なお、抗菌性試験のコントロールとしてB社製HApを使用した。以上のような評価を、100μLのNaCl溶液に分散させるF−HApの含有量を変化させた実施例1〜7の溶液に対して行った。なお、上記F−HApの組成式は、F−HApサンプル中のフッ化物イオンの理論濃度18.8mg/L(100%フッ化物イオンに置換されていた場合)をベースに、作製したサンプルの実測値(16.9mg/L)との比を計算し、元々のHAp;Ca10(PO4)6(OH2)と100%フッ化物イオンに置換されたF−HAp;Ca10(PO4)6F2より、理論量に不足したイオン種は、すべて水酸化物イオンに換算して求めた。
人体に害のない濃度の50mMのNaF溶液を作製し、フィルトレーションを行い除菌した。それをオートクレーブしたLB溶液と混合して5mM、0.5mM、0.05mM、0.005mM、0mMの5つの濃度の異なる混合液を作製し、プレートに流し込んでNaF入りの寒天培地を用意した。液体培養させた細菌をOD600の値を1(106個/μL)として濃度のことなる5つのプレートに5μLスポットし図10のようにコンラージ棒で塗り広げた。その後37℃に設定したインキュベータで1日培養した。
〔F−HApの抗菌性〕
上記粉末添加法によりF−HApの抗菌性試験を行った結果、菌液に加えるF−HAp溶液の濃度を49.6mmol/L以上にすると53.7〜99.9%の抗菌性を確認することができた。その結果を表8に示す。なお、表8の上段にはコントロールとしてのHApの結果を示し、下段にはF−HApの結果を示している。表8に記載の殺菌率は、コントロールのコロニー数に対するF−HApのコロニー数の割合、すなわち、(F−HApのコロニー数の減少数)/(コントロールのコロニー数)から求めた。
上記方法で行ったフッ化ナトリウム用いた抗菌性試験の結果を図11に示す。(1)がセレウス菌、(2)がサルモネラ菌、(3)が黄色ブドウ球菌、(4)が大腸菌、(5)が緑膿菌、(6)が肺炎桿菌、(7)が化膿レンサ球菌である。
Claims (8)
- ハイドロキシアパタイトの結晶構造中のカルシウムイオンの少なくとも一部が銀イオンに置換された抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子からなることを特徴とする、ハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- 5.0×104個/μLの所定の微生物と、銀イオン換算で2.47mmol/L以上の濃度で前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子と、を共存させた分散液を調製し、当該分散液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が90%以上である、請求項1に記載のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- 前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子のXRDにより定量したハイドロキシアパタイト結晶相純度が90%以上である、請求項1又は2に記載のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- ハイドロキシアパタイトの結晶構造中の水酸化物イオンの少なくとも一部がフッ化物イオンに置換された抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子からなることを特徴とする、ハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- 5.0×104個/μLの所定の微生物と、フッ化物イオン換算で89.3mmol/L以上の濃度で前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子と、を共存させた分散液を調製し、当該分散液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が50%以上である、請求項4に記載のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- 5.0×104個/μLの所定の微生物と、フッ化物イオン換算で178.6mmol/L以上の濃度で前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子と、を共存させた分散液を調製し、当該分散液を培地にスポットし、37℃で1日培養した後の殺菌率が95%以上である、請求項4に記載のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- 前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子が、焼成ハイドロキシアパタイト誘導体粒子であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
- 前記抗菌性ハイドロキシアパタイト誘導体粒子の粒子径が、10nm〜1,000nmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のハイドロキシアパタイト誘導体粒子群。
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