JP2015218589A - 内燃機関の熱発生量算出装置、熱発生量算出方法、および燃焼モデル作成装置 - Google Patents

内燃機関の熱発生量算出装置、熱発生量算出方法、および燃焼モデル作成装置 Download PDF

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Abstract

【課題】火花点火式内燃機関の燃焼による熱発生量を算出するための工数を低減し、燃焼モデルを作成するための工数を低減して、設計・開発コストの削減を図る。
【解決手段】気筒内に供給される燃料の供給量を推定する(ステップST41)と共に、未燃状態で気筒外に排出される燃料の排出量を、燃焼サイクル中に予め設定された所定時期の気筒内の燃料密度(例えば熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeak)に基づいて推定し(ST42)、これら燃料の供給量の推定値から排出量の推定値を減算して、1回の燃焼サイクルにおける燃料の燃焼量を求め(ST43)、この燃焼量に基づいて熱発生量を算出する(ST44)。
【選択図】図21

Description

本発明は、火花点火式の内燃機関における燃焼熱の発生量を計算によって求めるための装置や方法に関連し、特に、未燃状態で排出される燃料に着目して燃焼による熱発生量を算出する技術に係る。
従来より、火花点火式内燃機関の燃焼状態を表す指標の一つとして、気筒内での混合気の燃焼による熱発生量が用いられている。例えば特許文献1に記載されている内燃機関の制御装置においては、燃焼行程(膨張行程)中の所定クランク角における筒内圧センサの実測値に基づいて、筒内の実熱発生量を算出する一方、燃料噴射量に基づいて理想熱発生量を取得し、これらを比較して燃焼状態を判定するようにしている。
すなわち、前記従来例においては、インジェクタによる燃料の噴射量と、この燃料が完全燃焼した場合の理想熱発生量との関係を予め実験等により運転条件毎に求めて、マップを作成しておく。そして、このマップから算出した理想熱発生量に対して実熱発生量が少な過ぎる場合に、異常燃焼により火炎伝搬不良が生じたと判定するようにしている。
特開2011−208540号公報
しかしながら、内燃機関の気筒内に供給された燃料のうちの幾らかは燃焼せず、未燃状態で気筒外に排出されることになり、しかも、こうして排出される燃料の割合は内燃機関の運転条件によって変化する。このため、前記従来例のように燃料噴射量とこれに対応する理想熱発生量との関係を運転条件毎に求める作業は多大な労力を必要とする。
すなわち、内燃機関の運転条件を規定するパラメータは例えば負荷率、回転速度、点火時期、空燃比等々と多岐に渡るので、これらをそれぞれ変化させた非常に多くの運転条件毎に燃料噴射量と理想熱発生量との関係を求めなくてはならないからである。このように前記従来の方法には熱発生量を算出するための工数が嵩むという問題があり、このことが設計・開発コストを押し上げていた。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、未燃状態で気筒外に排出される燃料に着目して、燃焼状態を表す指標の一つである熱発生量の算出にかかる工数を低減し、設計・開発のコスト削減を図ることにある。
本発明の発明者は、火花点火によって着火した混合気が燃焼する際の所定時期における燃料密度が、未燃状態で気筒外に排出される燃料の量と高い相関を有しており、この排出量に対する機関負荷率および点火時期の影響は、燃料密度によってまとめて表現できるという新規な知見を得た。
かかる新規な知見に基づいて本発明は、内燃機関の燃焼状態を表す指標の一つである熱発生量を、未燃燃料の排出量も考慮して算出する際に、この排出量を燃焼サイクル中の所定時期の燃料密度に基づいて推定するようにしたものである。
−解決手段−
具体的に本発明は、火花点火式内燃機関の燃焼による熱発生量を算出するための装置が対象であって、気筒内に供給される燃料の供給量から未燃状態で気筒外に排出される燃料の排出量を減算して、1回の燃焼サイクルにおける燃料の燃焼量を求め、この燃焼量に基づいて熱発生量を算出する構成となっている。そして、前記燃料の排出量については、前記燃焼サイクル中に予め設定された所定時期の気筒内の燃料密度に基づいて推定するようにしている。
前記の特定事項によると、内燃機関の気筒内への燃料供給量から未燃状態で排出される量を減算して、燃焼サイクル中に実際に燃焼する燃料の量を求めることで、この燃焼量に基づいて熱発生量を算出することができる。この際、燃料の供給量については例えば、当該燃焼サイクルにおける燃料噴射量に基づき、吸気ポートへの噴射であればポート壁面を伝って気筒内へ吸入される量なども考慮して、精度良く推定することができる。
一方、気筒からの未燃燃料の排出量は、内燃機関の負荷率や回転速度、空燃比、点火時期等々、種々の運転パラメータ(運転条件)の影響を受けると考えられるが、このうちの機関負荷率および点火時期の影響については、所定時期における燃料密度という一つのパラメータによってまとめて表現することができる。よって、前記の特定事項にあるように燃料の排出量を燃料密度に基づいて推定することができ、機関負荷率および点火時期の両方に基づいて推定するのに比べて工数を低減できる。これにより、熱発生量の算出にかかる工数も低減できる。
ここで、前述の如く未燃状態で気筒外に排出される燃料は、主として気筒内の火炎が伝播しない狭い隙間(クレビス)に存在し、膨張行程において隙間から流出した後に一部は燃焼するものの、大部分は燃焼しないで気筒外に排出されると考えられる。このことから燃料の排出量は、前記隙間の容積と前記所定時期の燃料密度とに基づいて推定するのが好ましい。
なお、気筒内の燃料が燃焼する際に火炎が伝播しない隙間としては、例えば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの隙間や吸排気の各バルブの傘部とバルブシートとの隙間などが挙げられ、このような隙間の容積は内燃機関の気筒内の形状、仕様に基づいて幾何学的に算出することができる。また、所定時期における気筒内の燃料密度は、当該時期において気筒内に存在する燃料の量を、そのときの気筒内の容積(筒内体積)によって除算して求めればよい。
そして、前記所定時期としては、気筒内において混合気が燃焼している間、前記のように隙間に存在している混合気中の燃料密度を表すのに好適なものであればよく、例えば、その隙間に気筒内から混合気が最大限、充填された状態での燃料密度とすればよい。この点から前記所定時期は熱発生率最大時期とすればよく、また、燃料の燃焼割合が略半分になる時期としてもよい。
また、前記のように隙間から気筒内に流出した混合気の一部は燃焼することになるが、その燃焼量は混合気中の燃料密度が高いほど多くなるので、燃焼せずに気筒外に排出される燃料の量は、正確には燃料密度に比例する値よりも少なくなる。この点を考慮すれば、燃料の排出量は、前記隙間の容積に前記熱発生率最大時期の燃料密度の指数関数を乗算して推定するようにしてもよい。
さらに、そのように隙間から流出した後に燃焼する燃料の量は、機関回転速度が高くて、気筒内の乱れが強いときほど多くなると考えられるので、前記燃料の排出量は、機関回転速度に基づく補正係数によって補正するようにしてもよい。すなわち、機関回転速度が高いほど、未燃状態の燃料の排出量が少なくなるように補正することにより、熱発生量をより精度良く算出できるようになる。
なお、例えば未暖機状態で内燃機関の温度が低いときやアイドリングのような極低負荷状態(機関負荷率が所定値以下の状態)など、混合気の燃焼状態が特に悪い状況においては、前述したように狭い隙間に存在するもの以外にも未燃状態で排出される燃料が多くなって、その排出量が急増するおそれがある。そこで、このような状況下の内燃機関については前記した排出量の推定は行わないことが好ましい。
そして、前記のようにして算出した熱発生量を用いて、火花点火式内燃機関の気筒内の燃焼を表すモデルを作成することができる。例えば、気筒内の燃料の燃焼期間を表すクランク角度範囲を底辺とし、この燃焼期間における熱発生率の最大値を頂点とする三角形のモデルによって熱発生率波形を近似する場合、その三角形の面積が前記熱発生量となる。この場合、前述したように熱発生量を算出する工数が低減できることにより、前記のように燃焼モデルを作成する工数も低減できる。
その場合に好ましいのは、混合気の着火時期から熱発生率最大時期までの期間が、機関負荷率、空燃比、EGR率および油水温のいずれにも依らず、主に機関回転速度および点火時期に依って決まるものとして、前記三角形モデルを作成することである。すなわち、機関負荷率や空燃比、EGR率などの変化によって混合気の燃焼速度が変化しても、着火時期から熱発生率最大時期までの期間は変化せず、熱発生率傾きの変化の分は、最大熱発生率が変化するものとして、前記三角形のモデルを作成する。こうすることで、熱発生率波形(燃焼モデル)を作成する工数のさらなる低減が図られる。
見方を変えると本発明は、火花点火式内燃機関の燃焼による熱発生量を算出する方法に係る。すなわち、まず、気筒内に供給される燃料の供給量を推定すると共に、未燃状態で気筒外に排出される燃料の排出量を、燃焼サイクル中に予め設定された所定時期の気筒内の燃料密度に基づいて推定する。そして、前記燃料の供給量の推定値から排出量の推定値を減算して、1回の燃焼サイクルにおける燃料の燃焼量を求め、この燃焼量に基づいて熱発生量を算出するものである。
本発明によると、内燃機関の燃焼状態を表す指標の一つである熱発生量を算出する際に、未燃状態で気筒外に排出される燃料の量(排出量)を所定時期における気筒内の燃料密度に基づいて推定するようにしたから、この推定にかかる工数を低減でき、熱発生量の算出にかかる工数も低減できる。さらに、そうして算出した熱発生量を用いて熱発生率波形などの燃焼モデルを作成する工数も低減でき、内燃機関の設計・開発コストの削減が図られる。
実施形態に係る燃焼モデル作成装置の構成、および、この燃焼モデル作成装置の入出力情報を表す図である。 燃焼モデル作成装置から出力される燃焼モデルの一例を示す図である。 燃焼モデル作成装置において行われる燃焼モデルの作成手順を示すフローチャート図である。 BTDC着火の場合における、点火時期SAでの筒内の燃料密度ρfuel@SAの変化に対する着火遅れ期間τの変化を実験によって計測した結果を示す図である。 式(1)で算出された予測着火遅れ期間と、実機において計測された実測着火遅れ期間との関係を検証した結果を示す図である。 ATDC着火の場合における、着火時期FAでの筒内の燃料密度ρfuel@FAの変化に対する着火遅れ期間τの変化を実験によって計測した結果を示す図である。 式(2)で算出された予測着火遅れ期間と、実機において計測された実測着火遅れ期間との関係を検証した結果を示す図である。 負荷率のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示した図である。 EGR率のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示した図である。 空燃比のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示した図である。 油水温のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示した図である。 点火時期SAのみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示した図である。 エンジン回転速度Neのみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示した図である。 あるエンジンに対して、式(3)で算出された予測前半燃焼期間と、実機において計測された実測前半燃焼期間との関係を検証した結果を示す図である。 他のエンジンに対して、式(3)で算出された予測前半燃焼期間と、実機において計測された実測前半燃焼期間との関係を検証した結果を示す図である。 負荷率のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示した図である。 点火時期SAのみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示した図である。 熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakと熱発生率傾きb/aとの関係を、互いに異なるエンジン回転速度Neそれぞれに対して調べた実験の結果を示す図である。 クレビスの一例を模式的に示したシリンダ(気筒)の説明図である。 熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakと総熱発生量Qallとの関係を、互いに異なるエンジン回転速度Neそれぞれに対して調べた実験の結果を示す図である。 熱発生量推定部において行われる総熱発生量Qallの算出手順を示すフローチャート図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車用のガソリンエンジン(火花点火機関)を対象とした燃焼モデルを作成する燃焼モデル作成装置に本発明を適用した場合について説明する。
図1は、本実施形態に係る燃焼モデル作成装置1の構成、および、この燃焼モデル作成装置1の入出力情報を表す図である。この燃焼モデル作成装置1には、エンジンの状態量、制御パラメータの制御量および物理量の各種情報が入力される。これら入力情報としては、エンジン回転速度、負荷率、点火時期、EGR率、空燃比、油水温、吸排気の各バルブの開閉タイミング(バルブタイミング)等が挙げられる。そして、燃焼モデル作成装置1は、各入力情報に基づいて以下の各推定部2〜5により燃焼状態を表す各種特性値を推定し、この各種特性値を利用して作成した燃焼モデルを出力する。
−燃焼モデルの各特性値の推定部−
燃焼モデル作成装置1は、火花点火式エンジンの吸気、圧縮、膨張および排気という4行程からなる燃焼サイクルにおいて、気筒内で燃焼される混合気の熱発生率などを表す燃焼モデルを作成するためのものである。本実施形態の燃焼モデル作成装置1は、燃焼モデルの特性値として着火遅れ、前半燃焼期間、熱発生率傾きおよび熱発生量をそれぞれ推定するために、着火遅れ推定部2、前半燃焼期間推定部3、熱発生率傾き推定部4、および熱発生量推定部5を備えている。
着火遅れ推定部2は、エンジンの点火プラグによって混合気に点火された時期(以下、点火時期という)、即ち点火プラグの電極間に火花放電が行われてから、この火花によって混合気に着火し初期火炎核が形成される時期(以下、着火時期という)までの期間(以下、着火遅れ期間という)を推定する部分である。この着火遅れ期間はクランク角度[CA]または時間[ms]で表される。
なお、前記着火時期の定義として、本実施形態では、点火時期以降に熱発生率(クランクシャフトの回転の単位クランク角度当たりの熱発生量)が1[J/CA]に達した時期としているが、この値には限定されず、例えば熱発生率が0[J/CA]を超えた時期を着火時期としてもよい。また、熱発生量が総熱発生量に対して所定割合(例えば5%)に達した時期を着火時期としてもよい。
前半燃焼期間推定部3は、混合気の燃焼期間のうち、前記着火時期から、火炎核の成長に伴って熱発生率が最大となるタイミング(点火時期から燃焼終了時期までの期間中で熱発生率が最大となるタイミング)までの期間である前半燃焼期間を推定する部分である。以下、この熱発生率が最大となるタイミングを熱発生率最大時期という。また、この熱発生率最大時期および前半燃焼期間はそれぞれクランク角度[CA]で表される。
熱発生率傾き推定部4は、前記前半燃焼期間、即ち着火時期から熱発生率最大時期までの期間における、クランク角度変化に対する平均的な熱発生率の増加率(熱発生率の傾き)を推定する部分である。すなわち、本実施形態では、図2を参照して以下に述べるように、熱発生率波形に近似した三角形の燃焼モデルを作成するようにしており、熱発生率傾き推定部4は、その三角形モデルにおける着火時期から熱発生率最大時期までの熱発生率を表す斜辺の傾きを推定するものである。この熱発生率の傾きの単位としては[J/CA2]で表される。
熱発生量推定部5は、混合気の燃焼によって発生した熱量(燃焼期間の全期間において発生した熱発生量であって、着火時期から燃焼終了時期までの期間中における熱発生率の積算値)を推定する部分である。この熱発生量の単位としては[J]で表される。この熱発生量推定部5が、火花点火式エンジンの燃焼による熱発生量を算出するための熱発生量算出装置を構成する。
そして、これら各推定部2〜5での推定動作によってそれぞれ、着火遅れ、前半燃焼期間、熱発生率傾き、および熱発生量という燃焼モデルの特性値が求められ、これらの特性値を利用して燃焼モデルが作成される。こうして作成された燃焼モデルが燃焼モデル作成装置1の出力となる。
このため、本実施形態に係る燃焼モデル作成装置1にあっては、図3に示すフローチャートの如く、着火遅れ推定部2における着火遅れ期間の推定動作(ステップST1)、前半燃焼期間推定部3における前半燃焼期間の推定動作(ステップST2)、熱発生率傾き推定部4における熱発生率傾きの推定動作(ステップST3)、熱発生量推定部5における熱発生量の推定動作(ステップST4)が順に行われた後、これら推定された特性値を利用した燃焼モデルの作成動作(ステップST5)が行われることになる。
図2は、各推定部2〜5で推定された特性値を利用して作成されて、燃焼モデル作成装置1から出力される燃焼モデルの一例を示している。この図2では、図中のタイミングSAが点火時期であり、図中のタイミングFAが着火時期である。このため、図中のτが着火遅れ期間となる。また、図中においてdQpeakAが熱発生率最大時期であって、この熱発生率最大時期dQpeakAにおける熱発生率が図中のbである。つまり、この熱発生率bが燃焼期間中における最大熱発生率となっている。
また、着火時期FAから熱発生率最大時期dQpeakAまでの期間である図中のaが前半燃焼期間となっている。このため、前半燃焼期間aにおける熱発生率の傾きはb/aとして表される。さらに、熱発生率最大時期dQpeakAから燃焼終了時期EAまでの期間である図中のcが後半燃焼期間となっている。図中のQ1は前半燃焼期間aにおける熱発生量であり、Q2は後半燃焼期間cにおける熱発生量である。そして、燃焼期間の全期間において発生する熱発生量(総熱発生量Qall)は、これら熱発生量Q1と熱発生量Q2との和として表される。
言い換えると、本実施形態の燃焼モデル作成装置1は、火花点火式のエンジンにおいて気筒内の燃料の燃焼期間を表すクランク角度範囲(図中のFAからEA)を底辺とし、熱発生率最大時期dQpeakAにおける熱発生率b(熱発生率の最大値)を頂点とする三角形モデルによって熱発生率波形を近似するようにしている。本実施形態では、この燃焼モデル作成装置1の出力である燃焼モデルを利用し、エンジンの設計・開発に際してのシステムの検討、制御の検討、適合値の検討が行われる。
以下、各推定部2〜5での推定処理についてそれぞれ具体的に説明する。
−着火遅れ推定部−
着火遅れ推定部2は、前述した如く、点火時期SAから着火時期FAまでの期間である着火遅れ期間τを推定する部分である。
この着火遅れ推定部2において行われる着火遅れ期間τの推定処理は以下のとおりである。
この着火遅れ期間τ[ms]は、以下の式(1)および式(2)のいずれか一方を利用して推定される。
Figure 2015218589
Figure 2015218589
ρfuel@SAは点火時期SAにおける筒内の燃料密度(筒内燃料量[mol]/点火時期の筒内体積[L])である。ρfuel@FAは着火時期FAにおける筒内の燃料密度(筒内燃料量[mol]/着火時期の筒内体積[L])である。Neはエンジン回転速度である。C1,C2,χ,δ,φ,ψはそれぞれ実験等に基づいて同定される係数である。
これら式(1)および式(2)は、空燃比が理論空燃比であり、EGR率が「0」であり、エンジンの暖機運転が完了しており(油水温が所定値以上であり)、吸排気の各バルブの開閉タイミングが固定されていることを条件に成立する式となっている。
式(1)は、ピストンが圧縮上死点に達するタイミング(TDC)よりも進角側(BTDC)で混合気が着火した(以下、BTDC着火という)場合の着火遅れ期間τの算出式である。また、式(2)は、ピストンが圧縮上死点に達したタイミング(TDC)よりも遅角側(ATDC)で混合気が着火した(以下、ATDC着火という)場合の着火遅れ期間τの算出式である。
これらの式に示すように、着火遅れ期間τは、所定タイミングでの筒内の燃料密度ρfuelおよびエンジン回転速度Neを変数とする演算式によって算出される。
これら演算式によって着火遅れ期間τが算出可能である根拠について以下に説明する。
図4は、BTDC着火の場合における、点火時期SAでの筒内の燃料密度ρfuel@SAの変化に対する着火遅れ期間τの変化を実験によって計測した結果を示すグラフである。この実験は、空燃比を理論空燃比とし、EGR率を「0」とし、エンジンの暖機運転が完了しており(油水温が所定値以上であり)、吸排気の各バルブの開閉タイミングを固定して行われたものである。また、この図4では、「○」「△」「□」「◇」「×」「+」「▽」の順でエンジン回転速度Neが高くなっている。例えば「○」は800rpm、「△」は1000rpm、「□」は1200rpm、「◇」は1600rpm、「×」は2400rpm、「+」は3200rpm、「▽」は3600rpmである。
この図4に示すように、BTDC着火した場合、点火時期SAにおける筒内の燃料密度ρfuel@SAと着火遅れ期間τとの間にはエンジン回転速度Ne毎に相関がある。つまり、これらの相関を概ね1本の曲線で表すことができる。図4では、エンジン回転速度Neが1000rpmの場合および2400rpmの場合のそれぞれについて、点火時期SAにおける筒内の燃料密度ρfuel@SAと着火遅れ期間τとの相関を1本の曲線で表している。
図4に示すように、点火時期SAにおける筒内の燃料密度ρfuel@SAが高いほど着火遅れ期間τは短くなっている。これは、燃料密度ρfuel@SAが高いほど、点火後の火炎核の成長が急速になるためと考えられる。また、エンジン回転速度Neが高いほど、着火遅れ期間τは短くなっている。これは、エンジン回転速度Neが高いほど、気筒内の混合気流れの乱れ(以下、単に乱れという)が強くなって、火炎核の成長が急速になるためと考えられる。このように、点火時期SAにおける筒内の燃料密度ρfuel@SAおよびエンジン回転速度Neは着火遅れ期間τに影響を与えるパラメータとなっている。
図5は、式(1)で算出された予測着火遅れ期間と、実機において計測された実測着火遅れ期間との関係を検証した結果を示すグラフである。この予測着火遅れ期間を求めるに当たっては、式(1)におけるC1,χ,δの各係数をエンジン運転条件に応じて同定することにより得られた予測式を使用している。この図5では、「○」「△」「□」「◇」「×」「+」「▽」「☆」の順でエンジン回転速度Neが高くなっている。例えば「○」は800rpm、「△」は1000rpm、「□」は1200rpm、「◇」は1600rpm、「×」は2000rpm、「+」は2400rpm、「▽」は3200rpm、「☆」は3600rpmである。
この図5から明らかなように、予測着火遅れ期間は実測着火遅れ期間に略一致しており、式(1)によって、BTDC着火した場合の着火遅れ期間が高い精度で算出されていることが解る。
図6は、ATDC着火の場合における、着火時期FAでの筒内の燃料密度ρfuel@FAの変化に対する着火遅れ期間τの変化を実験によって計測した結果を示すグラフである。この実験は、エンジン回転速度を固定し、空燃比を理論空燃比とし、EGR率を「0」とし、エンジンの暖機運転が完了しており(油水温が所定値以上であり)、吸排気の各バルブの開閉タイミングを固定して行われたものである。また、この図6では、「○」「×」「+」「△」の順で負荷率が高くなっている。例えば「○」は負荷率20%、「×」は負荷率30%、「+」は負荷率40%、「△」は負荷率50%である。
この図6に示すように、ATDC着火した場合、着火時期FAにおける筒内の燃料密度ρfuel@FAと着火遅れ期間τとの間には負荷率に依らず(負荷率に関わりなく)相関がある。つまり、これらの相関を概ね1本の曲線で表すことができる。
図6に示すように、着火時期FAにおける筒内の燃料密度ρfuel@FAが高いほど着火遅れ期間τは短くなっている。これは、前述したように、燃料密度ρfuel@FAが高いほど、点火後における火炎核の成長が急速になるためと考えられる。このように、着火時期FAにおける筒内の燃料密度ρfuel@FAは着火遅れ期間τに影響を与えるパラメータとなっている。また、前述した場合と同様に、エンジン回転速度Neも着火遅れ期間τに影響を与えるパラメータになっていると想定される。
図7は、式(2)で算出された予測着火遅れ期間と、実機において計測された実測着火遅れ期間との関係を検証した結果を示すグラフである。この予測着火遅れ期間を求めるに当たっては、式(2)におけるC2,φ,ψの各係数をエンジン運転条件に応じて同定することにより得られた予測式を使用している。この図7では、「○」「×」「+」「△」の順でエンジン回転速度Neが高くなっている。例えば「○」は800rpm、「×」は1200rpm、「+」は3600rpm、「△」は4800rpmである。
この図7から明らかなように、予測着火遅れ期間は実測着火遅れ期間に略一致しており、式(2)によって、ATDC着火した場合の着火遅れ期間が高い精度で算出されていることが解る。
本発明の発明者は、これらの新たな知見に基づいて前記式(1)および式(2)を導き出した。この式(1)、(2)の使い分けについては、点火時期SAが圧縮上死点よりも遅角側(ATDC)であれば当然、ATDC着火になるので、前記の式(2)を使用すればよい。一方、点火時期SAが圧縮上死点よりも進角側(BTDC)であれば、BTDC着火になる場合と、ATDC着火になる場合との両方があり得る。
そこで、まず、仮想の着火時期を設定し、この仮想の着火時期と実際の点火時期との間の期間(仮想の着火時期で着火したとした場合の仮想の着火遅れ期間)と、式(1)または式(2)で算出された(推定された)推定着火遅れ期間とを比較する。そして、仮想の着火遅れ期間が推定着火遅れ期間よりも長い場合には、前記仮想の着火時期を進角側に変更し、反対に仮想の着火遅れ期間が推定着火遅れ期間よりも短い場合には、前記仮想の着火時期を遅角側に変更する。
こうして変更した仮想の着火時期に基づいて再度、式(1)または式(2)によって推定着火遅れ期間を算出し、この推定着火遅れ期間と仮想の着火遅れ期間とを比較した結果によって前記のように仮想の着火時期を進角側または遅角側に変更する。この動作を繰り返して、仮想の着火遅れ期間と推定着火遅れ期間とが概ね一致した場合に、これが真の着火遅れ期間として得られることになる。
このような着火遅れ推定部2による着火遅れ期間τの推定により、エンジン運転領域の全領域に対して着火遅れ期間τの推定が可能になる。
以上のようにして着火遅れ期間τが算出されると、前記点火時期SAに着火遅れ期間τを加算することで着火時期FAを求めることができる。
−前半燃焼期間推定部−
前半燃焼期間推定部3は、前述した如く、着火時期FAから熱発生率最大時期dQpeakAまでの期間である前半燃焼期間aを推定する部分である。
この前半燃焼期間推定部3において行われる前半燃焼期間aの推定処理は以下のとおりである。
この前半燃焼期間a[CA]は、以下の式(3)を利用して推定される。
Figure 2015218589
@dQpeakは前記熱発生率最大時期dQpeakAにおける筒内体積[L]であり、以下では、熱発生率最大時筒内体積ともいう。Neはエンジン回転速度である。C,α,βはそれぞれ実験等に基づいて同定される係数である。
この式(3)は、吸排気の各バルブの開閉タイミングが固定されていることを条件に成立する式となっている。また、この式(3)は、負荷率、EGR率、空燃比、油水温の影響を受けることなく成立するものとなっている。つまり、式(3)は、前半燃焼期間aが、負荷率、EGR率、空燃比、油水温の影響を受けないことに基づいて成立している。
この式(3)によって前半燃焼期間aが算出可能である根拠について以下に説明する。
図8〜図11それぞれは、互いに異なるエンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示したものである。図8は、負荷率のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示したものである。図9は、EGR率のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示したものである。図10は、空燃比のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示したものである。また、図11は、エンジンの暖機運転の途中のように油水温のみが互いに異なる場合に得られる熱発生率波形を重ねて表示したものである。
これら図8〜図11に示すように、負荷率、EGR率、空燃比、油水温の何れが変化しても前半燃焼期間aは一定に維持されている。つまり、前半燃焼期間aは、負荷率、EGR率、空燃比、油水温の影響を受けないものであることが解る。
一方、図12は、点火時期SAのみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示したものである。この図12から解るように、点火時期SAが遅角されるほど前半燃焼期間aは長くなっている。
また、図13は、エンジン回転速度Neのみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAを互いに一致させるように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示したものである。エンジン回転速度Neが高いほど単位時間[ms]当たりにおけるクランクの回転角度[CA]は大きくなるので、その分、前半燃焼期間aは長くなる(クランク角度軸上で長くなる)はずであるが、図13に示すものでは、エンジン回転速度Neが異なっても前半燃焼期間aは殆ど変化していない。これは、エンジン回転速度Neが高いほど前半燃焼期間aが短くなる要因が存在しているものと考えられる。つまり、エンジン回転速度Neが高いほど単位時間当たりにおけるクランクの回転角度が大きくなることに起因して前半燃焼期間aが長くなることとは別に、「他の要因」によって前半燃焼期間aが短くなっていると想定できる。
このように前半燃焼期間aは、点火時期SAおよびエンジン回転速度Neの影響を受けるものであることが解る。前半燃焼期間aが点火時期SAおよびエンジン回転速度Neの影響を受ける要因としては、点火時期SAおよびエンジン回転速度Neが気筒内の乱れに影響を与えることが考えられる。
すなわち、点火時期SAが遅角側に移行するほど着火時期FAおよび熱発生率最大時期dQpeakAも遅角側に移行し、この熱発生率最大時期dQpeakAにおける筒内体積(熱発生率最大時筒内体積V@dQpeak)が大きくなると共に、気筒内の乱れは弱くなる。そして、気筒内の乱れが弱くなると、火炎伝播が緩慢になって前半燃焼期間aは長くなる。逆に、点火時期SAが進角側に移行するほど着火時期FAおよび熱発生率最大時期dQpeakAも進角側に移行し、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakが小さくなると共に、気筒内の乱れは強くなる。これにより火炎伝播が急速になって、前半燃焼期間aは短くなる。
また、エンジン回転速度Neが低いほど吸気系から気筒内に流入する空気の流速が低くなって気筒内の乱れは弱くなる。そして、気筒内の乱れが弱くなると、火炎伝播が緩慢になって前半燃焼期間aは長くなる。逆に、エンジン回転速度Neが高いほど吸気系から気筒内に流入する空気の流速が高くなって気筒内の乱れは強くなる。そして、気筒内の乱れが強くなると、火炎伝播が急速になって前半燃焼期間aは短くなる。前述した「他の要因(前半燃焼期間aを短くする要因)」は、このエンジン回転速度Neが高いほど気筒内の乱れが強くなることに起因して火炎伝播が急速になっていることと考えられる。
本発明の発明者は、このような知見に基づいて前記式(3)を導き出した。この式(3)においては、制御量である点火時期SAに相関のある物理量として筒内体積、特に、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakを変数として用いている。つまり、前述した如く、点火時期SAが遅角側に移行するほど熱発生率最大時期dQpeakAも遅角側に移行し、筒内体積V@dQpeakが大きくなることから、点火時期SAに相関のある物理量として、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakを変数として用いている。
次に、前記式(3)の変数である熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakを求める手順および前半燃焼期間aを算出する手順について説明する。まず、仮想の熱発生率最大時期を設定し、この時期における筒内体積を求める。筒内体積はクランク角度位置(ピストンの位置)によって幾何学的に求まるので、仮想の熱発生率最大時期から筒内体積は一義的に決まる。そして、この仮想の熱発生率最大時期における筒内体積およびエンジン回転速度を式(3)に代入して推定前半燃焼期間を算出し、この推定前半燃焼期間だけ前記仮想の熱発生率最大時期から進角した時期を仮想の着火時期とする。
また、前述した着火遅れ推定部2において着火遅れ期間τが算出されていて、着火時期FAが分かっているので、この着火時期FAと前記仮想の着火時期とを比較して、一致しない場合には前記仮想の熱発生率最大時期を変更する。例えば、着火時期FAが仮想の着火時期よりも進角側にあれば、前記仮想の熱発生率最大時期を進角側に変更し、着火時期FAが仮想の着火時期よりも遅角側にあれば、前記仮想の熱発生率最大時期を遅角側に変更する。そうして変更した仮想の熱発生率最大時期における筒内体積およびエンジン回転速度を式(3)に代入して再度、推定前半燃焼期間を算出し、これにより仮想の着火時期を求めて着火時期FAと比較する。
この動作を繰り返し、仮想の着火時期と算出された着火時期FAとが概ね一致した場合に、この仮想の熱発生率最大時期が真の熱発生率最大時期dQpeakAとして得られることになる。そして、この際(真の熱発生率最大時期dQpeakAが得られた際)、式(3)において算出された推定前半燃焼期間が真の前半燃焼期間として得られることになる。
ここで、前記式(3)における各係数について具体的に説明すると、Cは実験等に基づいた同定によって得られる。αはエンジンの種類に関わらず略一定(例えば「0.60」程度)の値となっている。また、βは気筒内でのタンブル比に応じた値となっており、タンブル比が大きいほど大きな値として与えられる。なお、各係数それぞれを実験等に基づいた同定によって設定するようにしてもよい。また、これら係数は、吸排気の各バルブの開閉タイミングの変化に対して同定することも可能である。
図14および図15は、互いに異なるエンジンに対して、式(3)で算出された予測前半燃焼期間と、実機において計測された実測前半燃焼期間との関係を検証した結果を示すグラフである。この予測前半燃焼期間を求めるに当たっては、式(3)における係数Cをエンジン運転条件に応じて同定することにより得られた予測式を使用している。図14では、「○」「△」「□」「◇」「×」「+」「▽」の順でエンジン回転速度Neが高くなっている。例えば「○」は800rpm、「△」は1000rpm、「□」は1200rpm、「◇」は1600rpm、「×」は2400rpm、「+」は3200rpm、「▽」は3600rpmである。また、図15では、「○」「×」「+」「△」「□」の順でエンジン回転速度Neが高くなっている。例えば「○」は800rpm、「×」は1200rpm、「+」は2400rpm、「△」は3600rpm、「□」は4800rpmである。
これら図14および図15から明らかなように、予測前半燃焼期間は実測前半燃焼期間に略一致しており、式(3)によって前半燃焼期間aが高い精度で算出されていることが解る。
以上、述べたように前半燃焼期間aは、負荷率、空燃比、EGR率、油水温の影響を受けないものとして、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakとエンジン回転速度Neとに基づいて推定できる。こうして負荷率、空燃比、EGR率、油水温を考慮することなしに、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakとエンジン回転速度Neとに基づいて前半燃焼期間aを推定できることから、エンジンの種々の運転条件における前半燃焼期間aを決定するための工数を大幅に低減できる。
このように前半燃焼期間は負荷率の影響を受けないが、負荷率は燃料噴射量を制御するためのパラメータの一つであり、燃料噴射量は気筒内の燃料密度に影響を及ぼす制御パラメータである。このことから、前半燃焼期間は気筒内の燃料密度に依ることなく推定されることが解る。つまり、前述したように熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakおよびエンジン回転速度Neといった、気筒内の乱れに影響を与えるパラメータに基づいて、前半燃焼期間は推定される。一方、以下に述べるように熱発生率傾きは、気筒内の燃料密度に基づいて推定される。言い換えると、本実施形態において前半燃焼期間と熱発生率傾きとは、互いに独立した(従属関係にない)値として推定される。
−熱発生率傾き推定部−
熱発生率傾き推定部4は、前述した如く、前半燃焼期間aにおける熱発生率の傾きb/a(以下、熱発生率傾きという)を推定する部分である。
この熱発生率傾き推定部4において行われる熱発生率傾きb/aの推定処理は以下のとおりである。
この熱発生率傾きb/a[J/CA2]は、基本的には以下の式(4)を利用して推定される。
Figure 2015218589
ρfuel@dQpeakは、前記熱発生率最大時期dQpeakAにおける燃料密度(筒内燃料量[mol]/熱発生率最大時期の筒内体積[L])であり、以下では、熱発生率最大時燃料密度ともいう。C3は実験等に基づいて同定される係数である。
この式(4)は、エンジン回転速度が固定されており、空燃比が理論空燃比であり、EGR率が「0」であり、エンジンの暖機運転が完了しており(油水温が所定値以上であり)、吸排気の各バルブの開閉タイミングが固定されていることを条件に成立する式となっている。
この式(4)によって熱発生率傾きb/aが算出可能である根拠について以下に説明する。
図16(a)〜図16(d)それぞれは、負荷率のみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形であって、熱発生率最大時期dQpeakAが互いに一致するように点火時期SAを調整した各熱発生率波形を重ねて表示したものである。図16(a)〜図16(d)の順に点火時期は遅角側に変化しており、また、各図において負荷率は、KL1,KL2,KL3の順に大きくなっている。例えば図16において、KL1は負荷率20%、KL2は負荷率30%,KL3は負荷率40%である。
これら図16(a)〜図16(d)に表れているように、熱発生率傾きb/aは負荷率および点火時期SAの影響を受けている。具体的には、それぞれ点火時期SAの異なる図16(a)〜図16(d)のいずれにおいても、負荷率が大きいほど熱発生率傾きb/aは大きくなっている。このように熱発生率傾きb/aが負荷率の影響を受ける要因として、負荷率に応じて気筒内の燃料密度が変化することが考えられる。つまり、負荷率が高いほど筒内燃料量が多くなるので、気筒内の燃料密度も高くなって、混合気の燃焼速度が高くなると考えられる。
また、図16(a)〜図16(d)の順に点火時期SAが遅角側に移行するに連れて、熱発生率傾きb/aが小さくなっている。図17(a)および図17(b)それぞれは、点火時期SAの変化による影響を調べるために、点火時期SAのみが互いに異なる各エンジン運転状態において得られる熱発生率波形を重ねて表示したものである。これら図17(a)および図17(b)においてはそれぞれ負荷率が異なっているが、そのいずれにおいても熱発生率傾きb/aは、点火時期SAの遅角側への移行に連れて小さくなる傾向がある。
このように熱発生率傾きb/aが点火時期SAの影響を受ける要因も、前記した負荷率の場合と同じく気筒内の燃料密度によるものと考えられる。すなわち、ピストンが圧縮上死点(TDC)付近にあるときは、クランク角度の変化に伴う筒内体積の変化は小さいが、膨張行程においてTDCから離れてゆくに連れて(例えばATDC10°CAくらいからは)遅角側ほど筒内体積が大きくなってゆき、これに連れて気筒内の燃料密度は低下してゆく。
そして、前記図17(a)および図17(b)に表れているように熱発生率波形は、点火時期SAの遅角に伴い全体として遅角側に移動すると共に、着火時期FA(波形の始点)がTDC以降になると、徐々に熱発生率波形の傾きも小さくなってゆく。この結果、着火時期FA(波形の始点)から熱発生率最大時期dQpeakAにおける熱発生率b(波形の頂点)までを結んだ直線(図中には一点鎖線で示す)の傾き、即ち熱発生率傾きb/aも遅角側に向かって徐々に小さくなっている。
そのように点火時期SAの遅角(即ち着火時期FAの遅角)が熱発生率傾きb/aに及ぼす影響は、この熱発生率傾きb/aと熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakとの関係に顕著に表れている。すなわち、図17(a)および図17(b)に表れているように、点火時期SAの遅角に伴い熱発生率最大時期dQpeakAが遅角側に移行し、この熱発生率最大時期dQpeakAにおける筒内体積(熱発生率最大時筒内体積V@dQpeak)が徐々に大きくなってゆくと、これに応じて熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakが小さくなってゆき、これに対応して熱発生率傾きb/aが小さくなってゆく。
本発明者は、そのように熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakの変化に対応して熱発生率傾きb/aが変化する様子を調べた。この実験の結果を図18(a)〜図18(d)のグラフに示す。これらの各図において負荷率は、「○」「×」「+」「△」「□」「◇」「▽」「☆」の順に大きくなっている。例えば図18(a)において、「○」は負荷率15%、「×」は負荷率20%、「+」は負荷率25%、「△」は負荷率30%、「□」は負荷率35%、「◇」は負荷率40%、「▽」は負荷率45%、「☆」は負荷率50%である。
また、図18(a)〜図18(d)の順にエンジン回転速度Neが高くなっており、例えば、図18(a)は800rpm、図18(b)は1200rpm、図18(c)は2000rpm、図18(d)は3200rpmである。
図18(a)〜図18(d)それぞれに表れているように、エンジン回転速度を固定すれば、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakと熱発生率傾きb/aとの関係は、負荷率や点火時期SAが異なっていても概ね1本の直線として表すことができ、両者の間には高い相関(具体的には概略比例関係)のあることが解る。つまり、熱発生率傾きb/aに対するエンジンの負荷率および点火時期SAの影響は、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakという一つのパラメータによって、まとめて表現されるものである。
本発明の発明者は、この新たな知見に基づいて前記式(4)を導き出した。この式(4)において変数である熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakは、前述したように筒内燃料量を熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakによって除算して、求めることができる。熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakを求める手順は、前半燃焼期間推定部3の説明において上述したとおりである。
また、筒内燃料量は、或る燃焼サイクルにおいて気筒内に供給される燃料の供給量であり、例えば、燃焼モデル作成装置1の入力情報として与えられる燃料噴射量を基に、吸気ポートへの噴射であればポート壁面を伝って気筒内へ吸入される量なども考慮して、公知の手法により精度良く推定することができる。
このようにして、燃焼モデルの特性値の一つである熱発生率傾きb/aを、基本的には熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakの一次関数(この実施形態では、一例として比例関数)として算出することができる。言い換えると、負荷率および点火時期SAを考慮せず、主に熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakに基づいて熱発生率傾きb/aを推定できることから、エンジンの種々の運転条件における熱発生率傾きb/aの決定にかかる工数を低減できる。
ここで、前記の図18(a)〜図18(d)に表れているように、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakと熱発生率傾きb/aとの相関関係がエンジン回転速度Neによって変化している。具体的には図18(a)〜図18(d)の順にエンジン回転速度Neが高くなるに連れて、熱発生率傾きb/aは小さくなる傾向がある。そこで、このエンジン回転速度Neに基づく補正係数Neεを前記式(4)の右辺に乗算して、以下の式(5)を用いることもできる。
Figure 2015218589
εは実験等に基づいて同定される値であるが、前記のようにエンジン回転速度Neが高くなるに連れて、熱発生率傾きb/aは小さくなる傾向があるので、εは一般的には負の値となる。
前記エンジン回転速度Neの影響については、前半燃焼期間推定部3の説明において上述したように、エンジン回転速度Neが高いほど時間当たりのクランク角度変化は大きくなるので、その分、熱発生率傾きb/aは小さくなるはずであるが、前記図18(a)および図18(d)を比較すると、エンジン回転速度Neが4倍になっても熱発生率傾きb/aは1/4にはなっていない。
これは、前半燃焼期間推定部3の説明において上述したように、エンジン回転速度Neが高いほど気筒内の乱れが強くなることに起因して、燃焼速度が高くなっていることによると考えられる。つまり、エンジン回転速度Neが高いほど燃焼速度が高くなるため、時間当たりのクランク角度変化が大きくなるほどには、熱発生率傾きb/aは小さくならないのである。
−熱発生量推定部−
熱発生量推定部5は、前述した如く、燃焼期間の全期間において発生した熱発生量(総熱発生量Qall)を推定する部分である。
この熱発生量推定部5において行われる総熱発生量Qallの推定処理は以下のとおりである。
まず、総熱発生量Qall[J]は、気筒内の混合気(燃料)の燃焼量に基づいて算出される。この燃焼量は、未燃状態で気筒外に排出される燃料量THC(以下、単に燃料排出量THCという)を筒内燃料量から減算して得られる。また、その燃料排出量THCは、以下の式(6)を利用して推定される。
Figure 2015218589
上述したようにρfuel@dQpeakは、熱発生率最大時期dQpeakAにおける燃料密度(熱発生率最大時燃料密度)であり、C4、C5、γは、実験等に基づいて同定される係数である。この式(6)は、空燃比が理論空燃比であり、EGR率が「0」であり、エンジンの暖機運転が完了しており、吸排気の各バルブの開閉タイミングが固定されていることを条件に成立する式となっている。
この式(6)によって燃料排出量THCが算出できる根拠について以下に説明する。
まず、前記のように未燃状態で排出される燃料は、主として気筒内に臨む狭い隙間(クレビス)に充填された混合気に含まれるものと考えられる。すなわち、図19に模式的に示すシリンダ10(気筒)内において、シリンダボア内周面とピストン11の頂部外周縁との隙間10a、シリンダブロック12とシリンダヘッド13との隙間10b、吸排気の各バルブ14の傘部とバルブシート15の隙間10c、および点火プラグ16のねじ溝10d等々がクレビスとなる。
このようなクレビスには、圧縮行程から膨張行程にかけて高圧になるシリンダ10内の混合気が充填されるが、クレビス内には壁面への熱の消散によって火炎が伝播しないことから、シリンダ10内で混合気が燃焼するときにもクレビス内の混合気は燃え残ってしまう。そして、膨張行程の序盤を過ぎてシリンダ10内の圧力が低下するに従い、クレビスから流出した未燃混合気は、その一部は燃焼するものの大部分は未燃状態のまま排気されることになる。
こうしてクレビス内で燃え残る混合気について気体の状態方程式が成立すると仮定すると、以下の式(7)が得られる。なお、ncrevisはクレビス内の混合気に含まれる燃料量[mol]であり、Pcrevis、Vcrevisはその混合気の圧力[Pa]および体積[L]である。また、Rは気体定数である。
Figure 2015218589
同様にクレビスを除いたシリンダ10内の混合気についても気体の状態方程式が成立するとして、このシリンダ10内の、即ちクレビス外の平均的な状態を表す以下の式(8)が得られる。なお、naverageはクレビス外の混合気に含まれる燃料量[mol]であり、Paverage、Vaverageは、クレビス内に混合気が最大限に充填されたときのクレビス外の圧力[Pa]および体積[L]である。
Figure 2015218589
ここで、クレビス内の混合気は、前記したように圧縮行程から膨張行程にかけて高圧になるシリンダ10内の混合気が充填されたものなので、最大限に充填されたときのクレビス内の圧力および温度はクレビス外とバランスしていると考えられる。よって、クレビス内の圧力Pcrevisおよび温度Tcrevisは、それぞれシリンダ10内の圧力および温度の平均値Paverage ,Taverageと見なしてよく、前記式(7)は以下の式(9)のように表される。
Figure 2015218589
そして、前記の式(8)に式(9)を代入して整理すると、以下の式(10)が得られる。
Figure 2015218589
この式(10)の「naverage/Vaverage 」は、シリンダ10内の燃料密度を表しており、前記のようにクレビス内に混合気が最大限に充填されたときのシリンダ10内の燃料密度として、例えば熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakを用いることができる。よって、クレビス内で燃え残った混合気が全てシリンダ10から排出されるとすれば、この混合気に含まれる燃料の排出量THCは、以下の式(11)のように表される。
Figure 2015218589
本発明の発明者は、このような新たな知見に基づいて前記式(6)を導き出した。そして、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakの変化に対応して、燃料排出量THCの変化する様子を調べる実験によって、図20(a)〜図20(d)に示すグラフを得た。これらの各図において負荷率は、「○」「×」「+」「△」「□」「◇」「▽」の順に大きくなっている。例えば図20(a)において、「○」は負荷率15%、「×」は負荷率20%、「+」は負荷率25%、「△」は負荷率30%、「□」は負荷率35%、「◇」は負荷率40%、「▽」は負荷率45%である。
また、図20(a)〜図20(d)の順にエンジン回転速度Neが高くなっており、例えば、図20(a)は800rpm、図20(b)は1200rpm、図20(c)は1600rpm、図20(d)は3200rpmである。
図20(a)〜図20(d)それぞれに表れているように、エンジン回転速度Neを固定すれば、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakと燃料排出量THCとの関係は、負荷率や点火時期SAが異なっていても概ね1本の曲線として表すことができ、両者の間には高い相関のあることが解る。つまり、燃料排出量THCに対するエンジンの負荷率および点火時期SAの影響は、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakという一つのパラメータによってまとめて表現される。
より詳しくは、図20(a)に一点鎖線で示すように、気筒内の燃料密度が高くなれば、概ね比例して燃料排出量THCが増大するとも考えられるが、実際のグラフは曲線を描いており、燃料密度が高くなるに連れて一点鎖線から離れてゆく。これは、前述したようにクレビスから流出した燃料の一部がシリンダ10内で燃焼するためであり、この燃焼分は燃料密度の高いときほど多くなると考えられる。
この点を考慮して本実施形態では燃料排出量THCを、基本的には熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakの指数関数(ρfuel@dQpeak γ)として算出するようにしている。なお、前述したようにγは実験等に基づいて同定される値であるが、前記のように燃料密度が高くなるほど燃料排出量THCは仮想線Iから離れてゆくので、γは「1」よりも少し小さな値に設定すればよい。
また、図20(a)、(b)、(d)などに破線の円Eで囲んで示すように、エンジンの負荷率が所定値(この例では20%)以下であると、混合気の燃焼状態が悪化することから、クレビス内の燃料以外にも未燃状態で排出されるものが増えてしまい、燃料排出量THCが急増することがある。そこで、このような極低負荷状態やエンジンの未暖機状態、さらには点火時期の大幅な遅角制御によって燃焼期間が遅角し、排気バルブが開く時期までに終了しない場合などについては、本実施形態にかかる熱発生量Qallの推定を行わないようにしている。
さらに、前記の図20(a)〜図20(d)に表れているように、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakと燃料排出量THCとの相関関係はエンジン回転速度Neによって変化している。具体的には図20(a)〜図20(d)の順にエンジン回転速度Neが高くなるに連れて、燃料排出量THCは小さくなる傾向がある。これは、エンジン回転速度Neが高いほどシリンダ10内の乱れが強くなって、クレビスから流出した後に燃焼する燃料が多くなることによると考えられる。
この点も考慮して、本実施形態では燃料排出量THCを、基本的には前記のように熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakの指数関数(ρfuel@dQpeak γ)に基づいて算出しながら、エンジン回転速度Neに基づく補正係数によって補正するようにしている。すなわち、基準となるエンジン回転速度(例えば800rpm)との回転速度差ΔNeに係数C5を乗算して補正係数とし、前記式(6)のように燃料密度の項(C4×ρfuel@dQpeak γ)から減算するのである。
なお、前述したように式(6)において係数C4、C5、γの値は、実験等に基づいて同定すればよいが、特に係数C4 にはクレビスの容積Vcrevisが含まれており、この容積Vcrevisについてはシリンダ10の形状、仕様に基づいて幾何学的に算出することができる。また、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeak、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakについては上述したとおりである。
このようにして、未燃燃料の排出量THCは、エンジンの負荷率および点火時期SAを考慮せずに、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakおよびエンジン回転速度Neに基づいて算出することができる。そして、算出した燃料排出量THCを用いて、燃焼モデルの特性値の一つである総熱発生量Qallを算出する。一例として図21には、熱発生量推定部5における総熱発生量Qallの算出手順を示す。これは、図3を参照して上述した燃焼モデル作成装置1の動作のフローにおけるステップST4の熱発生量の推定動作に相当する。
本実施形態では、図21に示すフローチャートの如く、まず、燃料噴射量などに基づく筒内燃料量の推定動作が行われ(ステップST41)、前記したように燃料排出量THCの推定動作が行われ(ステップST42)、その後、これらの差を算出する燃料の燃焼量の推定動作が行われる(ステップST43)。そして、その燃焼量に基づいて総熱発生量Qallの算出(ステップST44)が行われる。なお、総熱発生量Qallの算出方法としては、燃料であるガソリンの低位発熱量に燃焼量を乗算すればよい。
−三角形モデルの作成−
以上のようにして本実施形態の燃焼モデル作成装置1では、着火遅れ推定部2において着火遅れ期間τが推定され、前半燃焼期間推定部3において前半燃焼期間aが推定され、熱発生率傾き推定部4において熱発生率傾きb/aが推定され、熱発生量推定部5において熱発生量Qallが推定される。そして、それらの推定値を用いて以下のように三角形モデルが作成される。
すなわち、まず、前半燃焼期間aにおける熱発生量Q1は、図2における左側の直角三角形の面積なので、以下の式(12)によって算出される。
Figure 2015218589
また、図2を参照して上述したように、熱発生率波形を作成するためには熱発生率最大時期dQpeakAにおける熱発生率bおよび後半燃焼期間cを求める必要がある。熱発生率bは、図2から明らかなように、前半燃焼期間aに熱発生率傾きb/aを乗算して求められる。また、後半燃焼期間cにおける熱発生量Q2は、熱発生量Qallから前半燃焼期間aにおける熱発生量Q1を減算して求められるので、後半燃焼期間cは以下の式(13)によって算出される。
Figure 2015218589
こうして算出された値を用いて、図2のように熱発生率波形を近似する三角形モデル(燃焼モデル)が作成されて、燃焼モデルとして出力される。この出力された燃焼モデルを利用して、エンジン設計・開発に際してのシステムの検討、制御の検討、適合値の検討を行うことができる。
以上、説明したように本実施形態では、エンジンの熱発生率波形に近似した三角形モデル(燃焼モデル)の特性値の一つとして前半燃焼期間aを用いている。そして、この前半燃焼期間aをエンジンの負荷率、EGR率、空燃比および油水温のいずれにも依らないものとし、熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakとエンジン回転速度Neとに基づいて算出するようにしている。このため、前半燃焼期間aの推定にかかる工数が大幅に低減される。
また、同じく三角形モデルの特性値の一つとして熱発生率傾きb/aを用い、これを熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakから算出するようにしているので、エンジンの負荷率および点火時期の両方に基づいて算出するのに比べて、熱発生率傾きb/aの推定にかかる工数が低減される。
さらに、本実施形態では、同じく三角形モデルの特性値の一つとして総熱発生量Qallを用いており、この総熱発生量Qallの算出に必要となる未燃燃料の排出量THCも、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakから算出するようにしている。これにより、未燃燃料の排出量THCの推定にかかる工数を低減でき、総熱発生量Qallの算出にかかる工数が低減される。
そして、それら前半燃焼期間aや熱発生率傾きb/a、総熱発生量Qallなどの算出値を用いて熱発生率波形(三角形モデル)を作成することにより、従来一般的な手法(例えば、エンジンの負荷率、回転速度、点火時期、空燃比など非常に多くのパラメータを変化させた種々の運転条件毎に同定するもの)に比べて、十分な精度を保証しながらも燃焼モデルを作成する工数を大幅に低減できる。よって、この燃焼モデル(または熱発生率波形)を利用して、エンジン設計・開発に際しての種々の検討などを効率的に行うことができ、設計・開発コストの削減が図られる。
しかも、そうして熱発生率最大時筒内体積V@dQpeakおよびエンジン回転速度Neから前半燃焼期間aを算出し、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakから熱発生率傾きb/aおよび総熱発生量Qallを算出して、燃焼モデルを作成していることから、この燃焼モデルは、気筒内での燃焼という物理現象に則って作成されたものとなる。この点で、単にパラメータの値を合わせ込むといった従来の燃焼モデルの作成手法に比べて、本実施形態に係る燃焼モデルは高い信頼性を有するものとなる。
−他の実施形態−
以上、説明した実施形態は、自動車用のガソリンエンジンを対象とした燃焼モデルを作成する燃焼モデル作成装置に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車用以外の火花点火機関に対しても適用が可能である。また、ガソリンエンジンにも特に限定されることはなく、例えばガスエンジンに対しても適用が可能である。
また、前記の実施形態で説明した燃焼モデル作成装置において実施される燃焼モデル作成方法も本発明の技術的思想の範疇である。
前記の実施形態では、式(6)のように熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakに基づいて総熱発生量Qallを算出するようにしているが、これに限らず、予め設定した所定時期(例えば、熱発生量が最大熱発生量の所定割合に達する時期)における燃料密度に基づいて算出するようにしてもよい。この場合、予め設定された熱発生量の割合(例えば50%)に応じて、前記式(6)における各係数それぞれは実験等に基づいて同定されることになる。
また、前記の実施形態では、式(6)のように熱発生率最大時燃料密度の指数関数ρfuel@dQpeak γに基づいて未燃燃料の排出量THCを算出するようにしており、この際、エンジン回転速度に基づく補正も行うようにしているが、簡易的にはエンジン回転速度に基づく補正を省略してもよいし、γ=1として、熱発生率最大時燃料密度ρfuel@dQpeakに基づいて未燃燃料の排出量THCを算出するようにしてもよい。
さらに、前記の実施形態における混合気の着火遅れ期間τや前半燃焼期間a、熱発生率傾きb/aなどの算出の仕方は一例に過ぎず、これらに限定されることはない。例えば、着火遅れ期間τや前半燃焼期間a、熱発生率傾きb/aなどを実験、シミュレーションによって決定するようにしてもよい。
また、前記の実施形態に係る燃焼モデル作成装置1は、燃焼状態を表す三角形モデルを出力するものであるが、これにも限定されず、三角形モデルに対して所定のフィルタ処理を行って熱発生率波形を作成し、この熱発生率波形を出力する構成としてもよい。
本発明によると、内燃機関の燃焼状態を表す指標の一つである熱発生量の算出にかかる工数を低減でき、これを用いて燃焼モデルを作成する工数も低減でき、もって設計・開発のコストの削減が可能になるので、例えば自動車用の内燃機関に適用可能である。
1 燃焼モデル作成装置
5 熱発生量推定部(熱発生量算出装置)
10 エンジンのシリンダ(火花点火式内燃機関の気筒)
10a〜10d クレビス(火炎の伝播しない隙間)
a 前半燃焼期間(着火時期から熱発生率最大時期までの期間)
b 最大熱発生率(熱発生率の最大値)
a+c 燃焼期間(着火から燃焼終了までのクランク角度範囲)
dQpeakA 熱発生率最大時期(熱発生率が最大になる時期)
all 総熱発生量
crevis クレビス(隙間)の容積
ρfuel@dQpeak 熱発生率最大時燃料密度(所定時期の気筒内の燃料密度)

Claims (8)

  1. 火花点火式内燃機関の燃焼による熱発生量を算出するための装置であって、
    気筒内に供給される燃料の供給量から未燃状態で気筒外に排出される燃料の排出量を減算して、1回の燃焼サイクルにおける燃料の燃焼量を求め、この燃焼量に基づいて熱発生量を算出する構成となっており、
    前記燃料の排出量が、前記燃焼サイクル中に予め設定された所定時期の気筒内の燃料密度に基づいて推定されることを特徴とする内燃機関の熱発生量算出装置。
  2. 請求項1に記載の内燃機関の熱発生量算出装置において、
    前記所定時期は、気筒内の燃料の燃焼による熱発生率が最大になる時期である、内燃機関の熱発生量算出装置。
  3. 請求項1または2のいずれかに記載の内燃機関の熱発生量算出装置において、
    気筒内の燃料が燃焼する際に火炎の伝播しない隙間の容積を予め算出しておき、この隙間の容積と前記所定時期の燃料密度とに基づいて、前記燃料の排出量を推定する構成となっている、内燃機関の熱発生量算出装置。
  4. 請求項3に記載の内燃機関の熱発生量算出装置において、
    前記燃料の排出量を機関回転速度に基づく補正係数によって補正する構成となっている、内燃機関の熱発生量算出装置。
  5. 請求項1〜4のいずれか1つに記載の内燃機関の熱発生量算出装置において、
    前記燃料の排出量の推定を、内燃機関の未暖機状態および機関負荷率が所定値以下の極低負荷状態の少なくとも一方については行わない構成となっている、内燃機関の熱発生量算出装置。
  6. 請求項1〜5のいずれか1つに記載の熱発生量算出装置によって算出された熱発生量を用いて、気筒内の燃焼のモデルを作成する内燃機関の燃焼モデル作成装置であって、
    気筒内の燃料の燃焼期間を表すクランク角度範囲を底辺とし、この燃焼期間における熱発生率の最大値を頂点とする三角形のモデルによって熱発生率波形を近似し、
    前記三角形の面積を前記熱発生量として前記モデルを作成する構成となっている、内燃機関の燃焼モデル作成装置。
  7. 請求項6に記載の内燃機関の燃焼モデル作成装置において、
    気筒内の燃料の着火時期から熱発生率最大時期までの期間が、機関負荷率、空燃比、EGR率および油水温のいずれにも依らず、主に機関回転速度および点火時期に依って決まるものとして、前記モデルを作成する、内燃機関の燃焼モデル作成装置。
  8. 火花点火式内燃機関の燃焼による熱発生量を算出する方法であって、
    気筒内に供給される燃料の供給量を推定すると共に、未燃状態で気筒外に排出される燃料の排出量を、燃焼サイクル中に予め設定された所定時期の気筒内の燃料密度に基づいて推定し、
    前記燃料の供給量の推定値から排出量の推定値を減算して、1回の燃焼サイクルにおける燃料の燃焼量を求め、この燃焼量に基づいて熱発生量を算出することを特徴とする内燃機関の熱発生量算出方法。
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