JP2015209562A - 溶射被膜、及びその形成方法と形成装置、並びに軸受部材 - Google Patents

溶射被膜、及びその形成方法と形成装置、並びに軸受部材 Download PDF

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Abstract

【課題】封孔処理される溶射被膜において、該被膜の膜厚に見合った特性を有し、厚膜化による高い耐食性や電気絶縁性を有する溶射被膜を提供する。【解決手段】溶射被膜1は、溶射被膜の所定膜厚に対して、膜厚の一部を構成する一の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成し、その上に膜厚の一部を構成する他の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成して、これらを繰り返して溶射被膜が上記所定膜厚となるまで溶射被膜層(1a〜1d)を積層して構成される。【選択図】図1

Description

本発明は、封孔処理された溶射被膜層を積層してなる溶射被膜と、該被膜が形成された軸受部材に関する。また、この溶射被膜の形成方法と形成装置に関する。
鋼などから構成される機械部品の基材表面に金属またはセラミックスなどの硬質粒子および粉体を溶射し、耐熱性や耐摩耗性、耐食性、耐絶縁性を高める技術は以前より実施されている。一般に溶射被膜はその被膜形成の過程で生じる空隙や間隙、ボイドなどの気孔を有しており、この気孔は種々の特性を被膜自体に付与している。気孔の中で、あるものは基材表面から被膜表層に通じる連通孔の形態を示し、被膜表層が接している環境と、被膜が被覆されている基材とを連通している。この連通孔を通じて、溶射被膜外部に接触した気体や液体が基材素地まで浸透したり、拡散したりする現象がみられる。その結果、溶射材自身が腐食劣化し、所望の性能が発揮されなくなる場合もある。
そこで、溶射被膜を形成した後、何らかの封孔処理を施し、被膜の環境遮断性を高める封孔処理が行なわれてきた。従来提案されている封孔処理方法としては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂などの熱硬化性樹脂、またはアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂のエマルジヨンを塗布する方法、あるいはそれらの樹脂を希釈した溶液に浸漬して含浸せる方法などがある。
従来の封孔処理方法として、特許文献1および特許文献2には、溶射材を減圧状態で乾燥させて水分を除去した後、重合触媒を混合したモノマーを含浸させて細孔を封じ込める方法が提案されている。この方法は、高粘度の封孔剤は細孔内に浸透しにくい、また、低粘度の封孔材は乾燥により溶媒が揮散した後、細孔内に再び穴ができ、細孔内全体を樹脂で埋めた状態にはなり難いという問題を解決し得る。また、特許文献3には、水の沸点より硬化温度が高く、水で適当な粘度に調整できるレゾール型フェノール樹脂を用い、細孔内に浸透しやすくし、硬化温度以上に加熱することで優れた封孔性能を得る方法が提案されている。さらに、特許文献4および特許文献5には、大気中でも高い浸透性があり、かつ硬化後の封孔剤の体積収縮が少なく高い充填性を持つ封孔剤が提案されている。
特開平01−263259号公報 特開平02−213458号公報 特開平05−279833号公報 特許第3598401号公報 特許第4980659号公報
しかしながら、特許文献1〜3は、溶射被膜の細孔内まで封孔するための手段であるが、減圧設備などの使用は、設備、生産コストが高い、作業性が低いなどの問題がある。また、減圧や封孔材の低粘度化によって浸透性の改善を図ったとしても、硬化した封孔剤体積縮小による封孔性能低下の懸念がある。さらに封孔処理後に溶射被膜表面を研削加工するような用途では、封孔しやすい表層領域が研削加工によって除去されるため、封孔による耐食性や電気絶縁性などの特性がより劣化する。一方、特許文献4や5の技術は、これらの課題を解決し得るが、溶射被膜が厚くなった場合には、封孔剤が十分に浸透できないなどの理由で、耐食性や電気絶縁性などの特性が膜厚に比例して向上しないおそれがある。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、封孔処理される溶射被膜において、該被膜の膜厚に見合った特性を有し、厚膜化による高い耐食性や電気絶縁性を有する溶射被膜を提供することを目的とする。
本発明の溶射被膜は、2層以上の溶射被膜層を積層形成してなる溶射被膜であって、上記溶射被膜層は、それぞれ、溶射材の溶射後に封孔剤を用いて封孔処理が施された層であることを特徴とする。また、上記溶射被膜の膜厚は50μm〜1000μmであり、上記溶射被膜層の層厚は溶射被膜の膜厚よりも薄く、かつ、10μm〜100μmであることを特徴とする。
上記溶射材および上記封孔剤が絶縁体で構成されることを特徴とする。また、上記溶射被膜は、その表層が研磨されて使用されることを特徴とする。
本発明の軸受部材は、軸またはハウジングに接する面が本発明の溶射被膜で被覆されてなることを特徴とする。
本発明の溶射被膜の形成方法は、上記溶射被膜の所定膜厚に対して、該所定膜厚の一部を構成する一の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成し、その上に上記所定膜厚の一部を構成する他の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成して、これらを繰り返して、上記溶射被膜が上記所定膜厚となるまで溶射被膜層を積層する工程を有することを特徴とする。
本発明の溶射被膜の形成装置は、上記溶射材を溶射する溶射手段と、上記溶射手段による溶射の合間に該溶射された部位に上記封孔処理を行なう封孔手段とを有することを特徴とする。
本発明の溶射被膜は、2層以上の溶射被膜層を積層形成してなり、これらの溶射被膜層は、それぞれ溶射材の溶射後に封孔剤を用いて封孔処理が施された層であるので、同一膜厚で積層化していない溶射被膜(所定膜厚を溶射した後に全体を封孔処理したもの)と比較して、高い耐食性や電気絶縁性を有する。本発明では、厚膜化する際に、封孔剤が十分に浸透可能な膜厚の溶射被膜層を積層形成することで、封孔剤の浸透力などに依存せずに、見かけの溶射被膜膜厚から期待される耐食性や電気絶縁性を付与でき、これらの特性を膜厚に比例して向上させることができる。
例えば、溶射被膜の膜厚が50μm〜1000μmであり、溶射被膜層の層厚が10μm〜100μmであるので、各層の層厚を常に10μm〜100μmに抑えることで、各層において十分な封孔処理がなされ、被膜全体における空孔体積が少なくなり、高い耐食性や電気絶縁性を付与できる。
溶射材および封孔剤が絶縁体で構成されるので、電気絶縁性を付与できる。また、本発明の溶射被膜は、その表層が研削・研磨されて使用される場合でも、耐食性や電気絶縁性の劣化を防止できる。
本発明の軸受部材は、軸またはハウジングに接する面に本発明の溶射被膜が形成されているので、長期間にわたり耐食性に優れ、特に電気絶縁性を付与した場合には、長期間にわたり電流の伝達を抑制でき、高い電食防止効果を有する。
本発明の溶射被膜の形成方法は、上記溶射被膜の所定膜厚に対して、該膜厚の一部を構成する一の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成し、その上に上記膜厚の一部を構成する他の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成して、これらを繰り返して、上記溶射被膜が上記膜厚となるまで溶射被膜層を積層する工程を有するので、同一所定膜厚で積層化していない溶射被膜(所定膜厚を溶射した後に全体を封孔処理したもの)と比較して、高い耐食性や電気絶縁性を有する溶射被膜を形成できる。
本発明の溶射被膜の形成装置は、上記溶射材を溶射する溶射手段と、該溶射手段による溶射の合間に該溶射された部位に上記封孔処理を行なう封孔手段とを有するので、同一工程内において溶射処理と封孔処理とが交互に実施でき、上記の形成方法に好適に利用できる。
本発明の溶射被膜の断面図である。 本発明の溶射被膜の形成方法の工程図である。 本発明の溶射被膜の形成装置の概略図である。 本発明の溶射被膜が形成された軸受部材を示す図である。 従来(比較例)の溶射被膜の断面図である。 従来(比較例)の溶射被膜の形成方法の工程図である。 従来(比較例)の溶射被膜の形成装置の概略図である。
通常の封孔処理された溶射被膜は、溶射工程によって所定の溶射被膜膜厚を成膜してから封孔処理が行われて形成される(図6、図7参照)。封孔剤による溶射被膜の封孔では、連通した空孔に封孔剤が浸透、硬化することで、耐食性や電気絶縁性などの特性を得ることができるが、被膜膜厚が厚くなるに従い、封孔剤の浸透が難しくなっていく。それに加え、被膜膜厚が厚くなると、溶射被膜内でいずれの空孔とも連通しない独立した閉空孔の存在確率も増えていくが、連通していない以上、封孔という手段では閉空孔の内部を充填することはできない。この残留した閉空孔は、例えば絶縁溶射被膜の耐電圧特性に影響を与える。具体的には、溶射被膜を形成する例えばアルミナなどの絶縁体と、空孔内に存在すると思われる空気の耐電圧特性とを比較すると、空気の耐電圧特性はかなり低く、溶射被膜内の空孔体積が多ければ、見かけの溶射被膜膜厚から想定される耐電圧値より低い値しか得られないことになる。従って従来技術では、溶射被膜膜厚が厚くなると封孔剤の浸透限界と封孔できない閉空孔の増加により、見かけの溶射被膜膜厚から期待される電気絶縁性を得ることは困難である。さらに、封孔処理後に溶射被膜表面を研削・研磨加工するような用途では、封孔されやすい表層領域が研削加工によって除去されることに加え、溶射被膜形成時には表面と連通せず被膜内部で連通している空孔が、新たに研削面に露出する可能性があり、耐食性や電気絶縁性が劣化する可能性がある。
通常の溶射被膜は、溶射ガンとワークを相対移動させながら被膜を積層させる(図7参照)。これに対して、本発明では、この積層している途中で封孔処理を行なうことで(図3参照)、上記課題を解決できると考えた。まず、溶射膜厚が薄厚で封孔剤の浸透性を考えると、溶射膜厚が薄い方が浸透性(空孔の封孔性)に優れると考えられる。また、溶射被膜の薄厚と閉空孔の存在確率を考えると、溶射膜厚が薄い方が閉空孔が少なく、多くの空孔に封孔剤が浸透すると考えられる。そこで、所定の溶射被膜に対して膜厚の一部を溶射したところで封孔処理を行なうと、その形成された被膜については、所定膜厚を溶射した被膜よりも封孔剤が膜厚全体に浸透しやすく、閉空孔の存在確率も低いため、被膜の封孔率が高くなる。この操作を繰り返して所定の膜厚まで積層すれば、所定膜厚を溶射した後に全体を封孔処理するよりも、高い耐食性や電気絶縁性を得られることになる。
本発明の溶射被膜を図1に基づいて説明する。図1は、基材表面に形成された溶射被膜の断面図である。図1に示すように、溶射被膜1は、鋼などの基材2の表面に、4層の溶射被膜層1a〜1dを順次積層形成してなる。溶射被膜層1a〜1dは、それぞれ、溶射材の溶射後に封孔剤を用いて封孔処理が施された封孔処理済みの溶射被膜層である。これに対して、図5に示す従来の溶射被膜12は、基材13の表面に所定膜厚(図1と同じ膜厚)を溶射した後に全体を封孔処理したものあり、封孔処理済みの溶射被膜層を積層した構造ではない。なお、従来も所定膜厚とするために、上述のとおり、溶射被膜(封孔処理なし)を積層形成しているが、その都度に封孔処理は行なっていない。本発明では、図1の積層構造により、図5に示すような同一膜厚で積層化していない溶射被膜(所定膜厚を溶射した後に全体を封孔処理したもの)と比較して、膜厚が同じでありながら、高い耐食性や電気絶縁性を得られる。
本発明の溶射被膜の膜厚(全体)は特に限定されるものではなく、例えば50μm〜1000μmとできる。本発明では特に厚膜とする際に有効な効果を発揮するため、好ましくは200μm〜1000μm、より好ましくは300μm〜1000μm、最も好ましくは500μm〜1000μmである。また、各溶射被膜層の層厚も特に限定されるものではないが、溶射被膜の膜厚(全体)よりも薄く、例えば、10μm〜100μmとできる。溶射被膜の膜厚(全体)に関わらず、各層の層厚を常に10μm〜100μmに抑えることで、各層において十分な封孔処理がなされて空孔体積が少なくなる。本発明では特に各溶射被膜層の層厚を薄くすると有効な効果を発揮するため、各溶射被膜層の層厚は、好ましくは10μm〜60μm、より好ましくは10μm〜30μmである。溶射被膜層の積層数は、適宜設定できる。この積層数は、溶射被膜層の層厚が層間で一定である場合には、溶射被膜の膜厚(全体)と溶射被膜層1つの層厚とから決定される。例えば、狙い膜厚(全体)が200μm(研磨なし)である場合には、50μmの溶射被膜層を4層積層して形成する。
溶射被膜の溶射材としては、例えば、金属(アルミニウム、亜鉛、クロム、ニッケル)、合金(ステンレス鋼)、酸化物セラミックス(アルミナ、ジルコニア、チタニア)、炭化物サーメット(クロム炭化物、タングステン炭化物)などが挙げられる。溶射方法としては、例えば、プラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速ガス炎溶射法、アーク溶射法などを採用できる。
封孔処理は、溶射被膜に封孔剤を塗布することで行なう。この溶射被膜への封孔剤の塗布方法は、特に限定されず、例えばスプレーや刷毛が採用できる。封孔処理に用いる封孔剤としては、エポキシ系樹脂、シリケート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。通常、溶射被膜への封孔処理では、処理される溶射被膜の膜厚や該被膜を形成している粒子境界融着構造により封孔剤の浸透・充填性が左右され、十分な封孔処理を行なうためには、適した封孔剤を選択する必要がある。本発明では、積層化により封孔処理時の対象となる各溶射被膜層は薄いため、封孔剤の浸透力に大きくは依存せずに密な充填が可能である。よって、任意の封孔剤を採用しつつ、被膜全体として高い封孔率を達成し得る。
本発明の溶射被膜の形成方法を図2に基づき説明する。図2は溶射被膜の形成方法の工程を示す図である。まず、溶射被膜の対象となる、鋼などの金属からなる部材(基材)を準備する(S1)。例えば、JIS規格SUJ2などの軸受鋼からなり、転がり軸受の外輪形状に成形された部材が作製される。次に、該部材の洗浄、表面粗さの調整、マスキング治具の取り付けなどの前処理工程が実施される(S2)。
この部材の被覆対象表面に、溶射被膜層を積層形成する(S3)。この工程は、溶射被膜の所定膜厚に対して、この所定膜厚の一部を構成する一の溶射被膜層を、溶射材を溶射し(S3−1)、その後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成し(S3−2)、その上に上記所定膜厚の一部を構成する他の溶射被膜層を、溶射材を溶射し(S3−1)、その後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成する(S3−2)ように、これらを繰り返して溶射被膜が上記所定膜厚となるまで溶射被膜層を積層形成する工程である。封孔処理(S3−2)は、溶射処理(S3−1)のインターバル間に実施される。なお、溶射被膜層の形成工程(S3)の開始前に、溶射被膜と基材金属との密着性を高めるために、ニッケルなどの金属粉末を最下層(基材表面)に溶射してもよい。
封孔処理は、溶射後の溶射被膜に対して速やかに施すことが好ましい。溶射被膜は、粒子径分布のある多数の粒子が粒子間表層のみで融着して形成された被膜である。必然的に粒子境界に間隙が生成するため、被膜形成の直後から粒子境界の間隙をぬって水分や異物が侵入するなど、環境条件の影響を受けることが多い。このため、封孔効率の低下を防ぐには溶射後、溶射被膜の封孔処理をできる限り早く施すことが好ましい。また、溶射処理と封孔処理を繰り返し行なうため、一層下の溶射被膜層の封孔処理表面に対して溶射処理を行なう際に、溶射熱による封孔剤の浸透と硬化促進とが図れる。これにより、各溶射被膜層の封孔処理毎の焼成(加熱硬化)は省略可能である。
溶射被膜が上記所定膜厚となるまで溶射被膜層を積層形成した後、最表層の封孔剤を硬化させるため、また、各層の封孔剤を十分に硬化させるために、必要に応じて焼成(加熱硬化)を実施する(S4)。焼成温度および時間は、封孔剤種などに応じて適宜設定できるが、上述の溶射熱による硬化促進があり、また、封孔剤が塗布された各層の層厚が薄いため、同一膜厚で積層化していない溶射被膜(所定膜厚を溶射した後に全体を封孔処理したもの)と比較して、焼成時間の短縮または省略が図れる。
最後に仕上げ工程として、必要に応じて、所望の寸法精度を保つために、研削砥石、研磨紙、不織布バフなどを用いて溶射被膜の表面を研削・研磨する(S5)。本発明の溶射被膜は、所定の溶射被膜より小さい厚みで封孔された溶射被膜層の積層で構成されるため、溶射被膜に上記の研削加工などを施しても性能劣化はほとんどない。また、溶射被膜の最表層には、封孔剤による塗膜状の薄い層が形成されるが、これも上記研削・研磨により除去される。
本発明の溶射被膜の形成装置を図3に基づいて説明する。図3は環状部材に対する溶射被膜の形成装置の概略構成を示す図である。この装置は、上記形成方法における特に溶射被膜層の形成工程を実施するための装置である。図3に示すように、環状部材である転がり軸受の外輪4は、その外周面および端面以外がマスキングされた状態で、回転軸(図示しない)にセットされている。形成装置3は、溶射手段である溶射ガン5を有し、溶射ガン5の吐出口から溶射材を溶射(吐出)できる。溶射ガン5は、外輪4の端面から外周面に溶射できるように円弧状にスイング可能に配置されている。溶射ガン5は円弧状にスイングしながら溶射材を外輪4に向けて吐出口から吐出する。この溶射ガン5による溶射は、回転軸により外輪4を所定回転数で回転させながら行なう。また、図3に示すように、スイングの際の角速度について、外周面の中央部を溶射するときの角速度を、端面側を溶射するときの角速度よりも速くすることが好ましい。これにより、形成される被膜の厚みの均一性を確保し、被膜に十分な品質を付与することが可能となる。なお、溶射ガン5から吐出される溶射材の単位時間当たりの吐出量は、必要に応じて変化させてもよいが、制御を容易にする観点から一定とすることが好ましい。
一定厚さ(被膜全体の一部)の溶射被膜を形成後、封孔手段であるスプレーガン6から封孔剤を吐出して、上記溶射被膜表面に塗布して封孔処理を行なう。封孔手段は、単一の溶射工程内部に設けられ、封孔処理は溶射手段による溶射の合間(溶射被膜層毎)に行なわれ、該工程内において溶射処理と封孔処理とが交互に実施される。また、2個以上の部材に溶射する場合、1個の部材に溶射手段で溶射処理を実施している間、他方の部材が封孔手段で封孔処理が実施される。
本発明の軸受部材を図4に基づいて説明する。図4は、軸受部材である外輪の外周面が溶射封孔処理された転がり軸受(深溝玉軸受)の断面図である。転がり軸受7は、内輪8と、外輪9と、この内外輪間に介在する複数の転動体10と、この転動体10を周方向等間隔に保持する保持器11とを備えている。外輪9において、ハウジングなど(図示省略)と接触する面である外周部(外周面および両端面)9aに上述の絶縁性の溶射被膜が形成されている。これにより、絶縁性能が担保されて電食を防止できる。なお、内輪8、外輪9および転動体10は、軸受鋼などの金属材からなる。図4においては、外輪9の外周部9aに溶射被膜を形成したがこれに限定されず、軸など(図示省略)と接触する面である内輪8の内周面に形成する態様としても同様に電食を防止できる。
また、本発明の軸受部材は、上記深溝玉軸受を構成する部材に限定されず、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト針状ころ軸受、円すいころ軸受、スラスト円すいころ軸受、自動調心玉軸受、自動調心ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの任意の形式の転がり軸受を構成する部材や、滑り軸受を構成する部材にも適用できる。
実施例1〜実施例6
軸受の外輪を模した環状部材であるリング形状の鋼製の試験片(外径φ150mm、内径φ130mm、幅70mm)を作製した。次に、当該試験片を脱脂洗浄した上で、外周面および両端面をブラスト処理し、表面粗さを約Ra2.0μmとした。なお、外周面および端面以外はマスキングした。次に、図2の工程および図3の装置を用いて試験片の外周面および両端面に大気プラズマ溶射を行ない溶射被膜を形成し、封孔剤の塗布を行なった。溶射材にはアルミナ粉末(Al、粒子のサイズ15〜45μm)を採用し、封孔剤には、エポキシ樹脂系封孔剤を採用した。溶射被膜層の各層の厚みは、20μmまたは50μmとし、上記工程を4〜25回繰り返した。その後に封孔剤を硬化させるための焼成(加熱硬化)工程を実施し、膜厚200μm(繰り返し回数:4〜10回)、300μm(繰り返し回数:6〜15回)、500μm(繰り返し回数:10〜25回)のアルミナ溶射被膜を有する試験片を得た。表1に溶射被膜の膜厚(狙い膜厚)、各層の層厚(1回の溶射膜厚)を示す。また、後述の耐電圧測定試験により絶縁破壊電圧を測定した。結果を表1に示す。なお、膜厚の測定は、電磁膜厚計を用いて行なった。
実施例7〜実施例12
実施例1と同様の装置、前処理試験片、溶射材、封孔剤を用いた。溶射被膜層の各層の厚みは、20μmまたは50μmとし、上記工程を6〜30回繰り返した。その後に封孔剤を硬化させるための焼成(加熱硬化)工程を実施し、膜厚300μm(繰り返し回数:6〜15回)、400μm(繰り返し回数:8〜20回)、600μm(繰り返し回数:12〜30回)のアルミナ溶射被膜を有する試験片を得た。次いで、それぞれ溶射被膜表面を100μm研磨し、膜厚200μm、300μm、500μmのアルミナ溶射被膜を有する試験片を得た。表1に溶射被膜の膜厚(狙い膜厚)、各層の層厚(1回の溶射膜厚)を示す。また、後述の耐電圧測定試験により絶縁破壊電圧を測定した。結果を表1に示す。
比較例1〜比較例3
軸受の外輪を模した環状部材であるリング形状の鋼製の試験片(外径φ150mm、内径φ130mm、幅70mm)を作製した。次に、当該試験片を脱脂洗浄した上で、外周面および両端面をブラスト処理し、表面粗さを約Ra2.0μmとした。なお、外周面および端面以外はマスキングした。次に、図6の工程および図7の装置を用いて試験片の外周面および両端面に大気プラズマ溶射を行ない溶射被膜を形成し、封孔剤の塗布を行なった。図6の工程(S11〜S16)は、所定膜厚を溶射処理により形成し(S13)、溶射処理の終了後に全体を封孔処理する(S14)ものである。また、図7の装置は、図3の装置と溶射手段は同じであるが封孔手段が異なる。図7の装置における封孔手段14は、容器17に封孔剤16が入れられ、溶射後の外輪4’をローラ15で回転させながら、その外周面と両端面を封孔剤16に浸漬して封孔処理する手段である。
溶射材と封孔材は、実施例1と同じものを採用した。封孔処理後に、封孔剤を硬化させるための焼成(加熱硬化)工程を実施し、膜厚200μm、300μm、500μmのアルミナ溶射被膜を有する試験片を得た。表1に溶射被膜の膜厚(狙い膜厚)などを示す。また、後述の耐電圧測定試験により絶縁破壊電圧を測定した。結果を表1に示す。
比較例4〜比較例6
比較例1と同様の装置、前処理試験片、溶射材、および封孔剤を用い、膜厚300μm、400μm、600μmのアルミナ溶射被膜を得た。次いで、それぞれ溶射被膜表面を100μm研磨し、膜厚200μm、300μm、500μmのアルミナ溶射被膜を有する試験片を得た。表1に溶射被膜の膜厚(狙い膜厚)などを示す。また、後述の耐電圧測定試験により絶縁破壊電圧を測定した。結果を表1に示す。
<耐電圧測定試験>
耐電圧測定試験は、実施例および比較例で得られた試験片を試験治具に固定し、開始電圧2.0kVから0.2kVのステップで昇圧し、絶縁破壊が生じる電圧を測定するものである。
Figure 2015209562
実施例1〜3と比較例1〜3との比較から、1回の溶射被膜膜厚が同じ場合、本発明の溶射被膜の絶縁破壊電圧は、従来のものより狙い膜厚200μmでは1.2倍、300μmでは1.4倍、500μmでは1.6倍の値を示した。すなわち、従来の封孔方法では溶射被膜の膜厚が厚くなると絶縁破壊電圧の増加が小さくなるが、本発明では膜厚と絶縁破壊電圧が比例関係を維持し、膜厚が厚くなるほど本発明の効果が大きいことが判った。これは、本発明の封孔方法では1回に封孔する溶射被膜膜厚が薄くかつ一定なため、封孔剤の浸透限界や封孔できない閉空孔がなくなり、膜厚に関係なく溶射被膜下部(基材側)まで封孔されたためと推量される。
実施例1〜3と実施例4〜6との比較、または、実施例7〜9と実施例10〜12との比較から、絶縁破壊電圧は膜厚20μm毎に封孔した方が、膜厚50μm毎に封孔するよりも1.1倍高い値を示した。これは、1回の溶射被膜膜厚が薄いほど、封孔できない閉空孔の存在確率が減少するためと推量される。
実施例1〜3と実施例7〜9との比較、実施例4〜6と実施例10〜12との比較、または、比較例1〜3と比較例4〜6との比較から、絶縁破壊電圧は従来の封孔方法では同じ狙い膜厚であっても溶射被膜表面研磨を実施した方が実施していない方の0.8倍の値となるのに対して、本発明の封孔方法では同じ狙い膜厚であれば、絶縁破壊電圧は溶射被膜表面研磨の有無に関わらず同等の値を示すことが判った。これは、溶射被膜表面研磨を実施することにより、従来の封孔方法では、溶射被膜形成時に表面と連通していない閉空孔が新たに研削面に露出することで、封孔されていない空孔が増加するのに対して、本発明の封孔方法では、溶射被膜形成時に表面と連通していない閉空孔の存在確率が低く、溶射被膜表面研磨を実施しても新たに封孔されていない空孔が増加する可能性が低いためと推量される。
本発明の溶射被膜は、封孔処理された溶射被膜であり、該被膜の膜厚に見合った特性を有し、厚膜化による高い耐食性や電気絶縁性を有するので、鋼などから構成される各種産業機械部品の保護用部材や改質部材として好適に利用できる。
1 溶射被膜
2 基材
3 形成装置
4、4’ 外輪
5 溶射ガン
6 スプレーガン
7 転がり軸受
8 内輪
9 外輪
10 転動体
11 保持器
12 溶射被膜
13 基材
14 封孔手段
15 ローラ
16 封孔剤
17 容器

Claims (7)

  1. 2層以上の溶射被膜層を積層形成してなる溶射被膜であって、
    前記溶射被膜層は、それぞれ、溶射材の溶射後に封孔剤を用いて封孔処理が施された層であることを特徴とする溶射被膜。
  2. 前記溶射被膜の膜厚は50μm〜1000μmであり、
    前記溶射被膜層の層厚は、前記溶射被膜の膜厚よりも薄く、かつ、10μm〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の溶射被膜。
  3. 前記溶射材および前記封孔剤が絶縁体で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の溶射被膜。
  4. 前記溶射被膜は、その表層が研磨されて使用されることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の溶射被膜。
  5. 軸またはハウジングに接する面が溶射被膜で被覆されてなる軸受部材であって、該溶射被膜が請求項1から請求項4のいずれか1項記載の溶射被膜であることを特徴とする軸受部材。
  6. 請求項1から請求項4のいずれか1項記載の溶射被膜の形成方法であって、
    前記溶射被膜の所定膜厚に対して、該所定膜厚の一部を構成する一の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成し、その上に前記所定膜厚の一部を構成する他の溶射被膜層を、溶射材を溶射した後に封孔剤を用いて封孔処理を施して形成して、これらを繰り返して、前記溶射被膜が前記所定膜厚となるまで溶射被膜層を積層する工程を有することを特徴とする溶射被膜の形成方法。
  7. 請求項6記載の形成方法に用いる溶射被膜の形成装置であって、
    前記溶射材を溶射する溶射手段と、前記溶射手段による溶射の合間に該溶射された部位に前記封孔処理を行なう封孔手段とを有することを特徴とする溶射被膜の形成装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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US10823229B2 (en) 2017-03-24 2020-11-03 Aktiebolaget Skf Rolling-element bearing including an electrically insulating layer
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