以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
本発明の実施形態に係るバルーンコーティング方法は、バルーンの表面に水不溶性薬剤を含むコート層を形成するものであり、図1に示すバルーンコーティング装置50により実施される。なお、本明細書では、バルーンカテーテル10の生体管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、図2に示すように、長尺なカテーテル本体部20と、カテーテル本体部20の先端部に設けられるバルーン30と、カテーテル本体部20の基端に固着されたハブ40とを有している。
カテーテル本体部20は、先端および基端が開口した管状体である外管21と、外管21の内部に配置される内管22とを備えている。外管21および内管22の間には、バルーン30を拡張するための拡張用流体が流通する拡張ルーメン23が形成されており、内管22の内側には、ガイドワイヤーが挿通されるガイドワイヤールーメン24が形成されている。
バルーン30は、先端側が内管22に接着され、基端側が外管21に接着されており、バルーン30の内部が、拡張ルーメン23に連通している。バルーン30の軸心方向Xにおける中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部31(拡張部)が形成され、ストレート部31の軸心方向Xの両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部31の外表面の全体に、薬剤を含むコート層32が形成される。なお、バルーン30においてコート層32を形成する範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部31の一部のみであってもよい。
ハブ40は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する第1開口部41と、ガイドワイヤールーメン24を挿通させる第2開口部42とを備えている。第2開口部42には、血液の流出を抑制する止血弁43が設けられている。
バルーン30は、ある程度の柔軟性と血管や組織等に到達した際に拡張されてその表面に有するコート層32から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、金属や、樹脂で構成されるが、コート層32が設けられるバルーン30の少なくとも表面は、樹脂で構成されているのが好ましい。バルーン30の少なくとも表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートする医療機器の拡張部の表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/ 66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、本発明に係る医療用具の基材として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
バルーン30は、その基材の表面上に、後述するコーティング方法によって、直接またはプライマー層等の前処理層を介してコート層32が形成される。
次に、バルーンコーティング装置50について説明する。バルーンコーティング装置50は、図1に示すように、バルーンカテーテル10を保持してバルーン30の軸心Xを中心として回転させる回転機構部60と、バルーンカテーテル10を支持する支持台70と、バルーン30の外表面にコーティング溶液を塗布するディスペンシングチューブ94が設けられる塗布機構部90と、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して移動させるための移動機構部80と、バルーンコーティング装置50を制御する制御部100と、を有する。
回転機構部60は、バルーンカテーテル10のハブ40を保持し、内蔵されるモーター等の駆動源によってバルーンカテーテル10を回転させる。バルーンカテーテル10は、ガイドワイヤールーメン24内に芯材61が挿通されて保持されるとともに、芯材61によってコーティング溶液のガイドワイヤールーメン24内への流入が防止されている。また、バルーンカテーテル10は、拡張ルーメン23を覆うようにハブ40の第1開口部41にキャップ63が被せられ、バルーン30を拡張させた際に拡張用流体を密封することができる。
支持台70は、カテーテル本体部20を内部に収容して回転可能に支持する管状の基端側支持部71と、芯材61を回転可能に支持する先端側支持部72とを備えている。なお、先端側支持部72は、可能であれば、芯材61ではなしにカテーテル本体部20の先端部を回転可能に支持してもよい。
移動機構部80は、バルーン30の軸心Xと平行な方向へ直線的に移動可能な移動台81と、移動台81も載置され、軸心Xと直交するY軸方向およびZ軸方向(図5を参照)へディスペンシングチューブ94を移動させるためのチューブ位置決め部82とを備えている。移動台81は、内蔵されるモーター等の駆動源によって、直線的に移動可能である。移動台81には、塗布機構部90が載置されており、塗布機構部90をバルーンカテーテル10の軸心Xに沿う両方向へ直線的に移動させる。チューブ位置決め部82は、ディスペンシングチューブ94が固定されるチューブ固定部83と、チューブ固定部83をY軸方向およびZ軸方向へ移動させる駆動部84とを備えている。駆動部84は、例えば、内蔵されるモーターやシリンダ等の駆動源によって移動可能な2軸のスライダ構造を備えることで、チューブ固定部83をY軸方向およびZ軸方向の両方へ移動させることが可能となっている。なお、ディスペンシングチューブ94がバルーンカテーテル10の軸心Xと直交する面で移動するY軸方向およびZ軸方向は、かならずしも鉛直方向および水平方向と定義されなくてもよい。
塗布機構部90は、コーティング溶液を収容する容器92と、任意の送液量でコーティング溶液を送液する送液ポンプ93と、コーティング溶液をバルーン30に塗布するディスペンシングチューブ94とを備えている。
送液ポンプ93は、例えばシリンジポンプであり、制御部100によって制御されて、容器92から吸引チューブ91を介してコーティング溶液を吸引し、供給チューブ96を介してディスペンシングチューブ94へコーティング溶液を任意の送液量で供給することができる。送液ポンプ93は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、送液ポンプ93は、コーティング溶液を送液可能であればシリンジポンプに限定されず、例えばチューブポンプであってもよい。
ディスペンシングチューブ94は、供給チューブ96と連通しており、送液ポンプ93から供給チューブ96を介して供給されるコーティング溶液を、バルーン30の外表面へ吐出する部材である。ディスペンシングチューブ94は、可撓性を備えた円管状の部材である。ディスペンシングチューブ94は、チューブ固定部83に上端が固定されており、チューブ固定部83から鉛直方向下方へ延在し、下端である吐出端97に開口部95が形成されている。ディスペンシングチューブ94は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される送液ポンプ93とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向Xに沿う両方向へ直線的に移動可能である。また、ディスペンシングチューブ94は、図1,5に示すように、駆動部84によって、軸心方向Xと直交する面において異なる2方向(本実施形態では、鉛直方向であるY軸方向および水平方向であるZ軸方向)へ移動可能であり、ディスペンシングチューブ94の端部側の側面の一部(ディスペンシングチューブ94の延在方向への連続した長さの部位)がバルーン外表面に接触するように配置されている。ディスペンシングチューブ94はバルーン30に押し付けられて撓んだ状態で、コーティング溶液をバルーン30の外表面に供給可能である。あるいはディスペンシングチューブ94の先端の端部側がディスペンシングチューブ94の長軸に対してある角度を形成するように予め形状づけられて屈曲し、屈曲したディスペンシングチューブ94の先端の側面又はその少なくとも一部がバルーン外表面に接触するように配置されてもよい。この場合、吐出端はディスペンシングチューブ94の最先端に存在する。
なお、ディスペンシングチューブ94は、コーティング溶液を供給可能であれば、円管状でなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、開口部95からコーティング溶液を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。
ディスペンシングチューブ94は、バルーン30への接触負担を低減し、かつバルーン30の回転に伴う接触位置の変化を撓みにより吸収できるように、柔軟な材料であることが好ましい。ディスペンシングチューブ94の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂等を適用できるが、可撓性を有して変形可能であれば、特に限定されない。
ディスペンシングチューブ94の外径は、特に限定されないが、例えば0.1mm〜5.0mm、好ましくは0.15mm〜3.0mm、より好ましくは0.3mm〜2.5mmである。ディスペンシングチューブ94の内径は、特に限定されないが、例えば0.05mm〜3.0mm、好ましくは0.1mm〜2.0mm、より好ましくは0.15mm〜1.5mmである。ディスペンシングチューブ94の長さは、特に限定されないが、バルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、例えば1.0mm〜50mm、好ましくは3mm〜40mm、より好ましくは5mm〜35mmである。
制御部100は、例えばコンピュータにより構成され、回転機構部60、移動機構部80および塗布機構部90を統括的に制御する。したがって、制御部100は、バルーン30の回転速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する初期の位置決め、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する軸心方向Xへの移動速度、ディスペンシングチューブ94からの薬剤吐出速度等を、統括的に制御することができる。
コーティング溶液は、水不溶性薬剤および溶媒を含んでいる。コーティング溶液がバルーン30の外表面に供給された後、溶媒が揮発することで、バルーン30の外表面に、結晶層や非晶質層を有するコート層32が形成される。バルーン30およびコート層32は、生体内で薬剤を徐々に溶出させる薬剤溶出バルーンとして用いることができる。
〔水不溶性薬剤〕
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5〜8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
水不溶性薬剤は、好ましくは、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
水不溶性薬剤はさらに賦形剤を含んでもよい。賦形剤は、医薬として許容されるものであれば限定されないが、例えば、水可溶性ポリマー、糖、造影剤、クエン酸エステル、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等があげられる。
賦形剤は、水不溶性薬剤に対して少量であることが好ましく、マトリクスを形成しないことが好ましい。また、賦形剤は、ミセル、リポソーム、造影剤、乳化剤、界面活性剤を含まないことが好ましいが、含まれてもよい。また、賦形剤は、ポリマーを含まず低分子の化合物のみを含むことが好ましい。
溶媒は、特に限定されず、テトラヒドロフラン、エタノール、グリセリン(グリセロールまたはプロパン−1,2,3−トリオールともいう)、アセトン、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートおよび水が例示できる。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトン、水のうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。
次に、上述したバルーンコーティング装置50を用いてバルーン30の表面に水不溶性薬剤を含むコート層32を形成するバルーンコーティング方法を説明する。
初めに、バルーンカテーテル10の第1開口部41から拡張用の流体をバルーン30内に供給し、バルーン30を拡張させた状態で第1開口部41にキャップ63を被せて密封し、バルーン30を拡張させた状態で維持する。なお、バルーン30を拡張させずに、バルーン30の表面にコート層32を形成することもでき、その場合には、拡張用の流体をバルーン30内に供給する必要はない。
次に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の外表面と接触しない状態で、バルーンカテーテル10を支持台70に回転可能に設置し、ハブ40を回転機構部60に連結する。
次に、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して位置決めする(位置決め工程)。位置決め工程では、まず、移動台81の位置を調節して、ディスペンシングチューブ94のX軸方向への位置決めを行う。このとき、バルーン30においてコート層32を形成する最も先端側の位置に、ディスペンシングチューブ94を位置決めする。
次に、駆動部84を作動させて、図3に示すように、ディスペンシングチューブ94が撓まない状態で、予め設定された基準点Bに、ディスペンシングチューブ94の吐出端97を位置決めする。基準点Bは、ディスペンシングチューブ94が延在する方向(本実施形態では鉛直方向)に対して垂直であってバルーン30の軸心Xを通る基準面A(本実施形態では水平面)において、バルーン30の外表面の、ディスペンシングチューブ94の吐出方向と逆方向(本実施形態では上方向)へ回転する位置である。したがって、バルーン30は、ディスペンシングチューブ94を接触させた位置において、ディスペンシングチューブ94からのコーティング溶液の吐出方向と逆方向に回転する。なお、ディスペンシングチューブ94が延在する方向は、鉛直方向でなくてもよく、基準面Aは、水平面でなくてもよい。
次に、駆動部84により、図4に示すように、ディスペンシングチューブ94の吐出端97のY軸方向(鉛直方向)への位置決めを行う。この際、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の外表面から一旦離れることになる。
次に、駆動部84により、図5に示すように、ディスペンシングチューブ94の吐出端97のZ軸方向(水平方向)への位置決めを行う。この際、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の外表面に近づき、バルーン30に押し付けられて撓み、または押し付けられず撓むことなしに、バルーン30に接触する。このときバルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、先端の端部側の側面がバルーン表面に接触するように配置される。ディスペンシングチューブ94が、Z軸方向へ移動しつつバルーン30に接触することで、ディスペンシングチューブ94の側面側から、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に対して接触する。このため、ディスペンシングチューブ94は延在方向と直交する方向へ逃げるように撓むことができるため、バルーン30が傷つき難い。これに対し、ディスペンシングチューブ94を延在方向へ移動させつつ開口部95をバルーン30に対して突き当てるようにバルーン30に接触させる場合には、バルーン30への負担が大きくなり、バルーン30が変形したり、場合によっては傷つく可能性も否定できないため、バルーン30に変形や損傷が生じているか否かを確認する作業工程を設ける必要性が生じ得る。しかしながら、上述のように、ディスペンシングチューブ94がZ軸方向へ移動しつつ側面側からバルーン30に対して接触することで、バルーン30に変形や損傷が生じているか否かを確認する作業工程を設ける必要がなく、作業性が向上する。
また、ディスペンシングチューブ94は、Y軸方向への位置決めを先に行った後に、Z軸方向への位置決めを行っているため、Y軸方向へ移動して一旦バルーン30から離れた後に、Z軸方向へ移動してバルーン30と接触する。このため、例えば、Z軸方向への位置決めを先に行うことで、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して押し付けるように移動させた後、Y軸方向への位置決めを行ってディスペンシングチューブ94をバルーン30の外表面上で滑らせつつ移動させる場合と比較して、バルーン30への負担が低下し、バルーン30に変形や損傷が生じているか否かを確認する作業工程を設ける必要がなく、作業性が向上する。
ディスペンシングチューブ94を位置決めした後に、吐出端97がバルーン30に対して接触する位置は、ディスペンシングチューブ94が直線状に形成されているため、基準面Aと一致する位置、または基準面Aよりもディスペンシングチューブ94の吐出方向と逆方向側(本実施形態では上方側)となる。なお、ディスペンシングチューブ94が直線状でない場合には、ディスペンシングチューブ94が基準面Aよりもディスペンシングチューブ94の吐出方向側(本実施形態では下方側)の位置に接することもあり得る。
そして、ディスペンシングチューブ94が撓まないと仮定した場合にディスペンシングチューブ94の吐出端97が位置し得る仮想位置Vが、基準面Aからバルーン30の回転方向へ0度以上40度以下の角度θに位置することが好ましい。なお、仮想位置Vは、吐出端97を基準点Bから駆動部84によってY軸方向およびZ軸方向へ移動させた際に、ディスペンシングチューブ94が撓まなければ吐出端97が移動する位置であり、ディスペンシングチューブ94の撓みを考慮する必要なしに、駆動部84によるY軸方向およびZ軸方向への移動距離のみによって定義できるため、容易に制御が可能である。
そして、仮想位置Vが、基準面Aからバルーン30の回転方向へ0度以上40度以下の範囲内であることで、後述する塗布工程において、図5にて2点破線で示すように、ディスペンシングチューブ94がバルーン30との間の摩擦力によって、接触位置から離脱することを抑制できる。すなわち、吐出方向がバルーン30の回転方向と逆方向となるようにディスペンシングチューブ94がバルーン30に接触していると、条件によっては、ディスペンシングチューブ94の吐出方向が、バルーン30の回転方向と同方向となる安定的な位置へ移動しやすいが、仮想位置Vが上述の範囲に位置することで、吐出方向がバルーン30の回転方向と逆方向となる位置に、吐出端97を良好に維持することができる。
なお、ディスペンシングチューブ94の吐出方向は、図6(A)に示すように、バルーン30の回転方向と同方向とすることもできる。また、ディスペンシングチューブ94の吐出方向は、図6(B)に示すように、バルーン30の外周面と垂直とすることもできる。
また、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の外表面に位置決めする工程は、上述の順序に限定されず、例えば、ディスペンシングチューブ94をZ軸方向へ移動させてバルーン30の外表面に接触させた後に、ディスペンシングチューブ94をY軸方向へ移動させてもよい。また、ディスペンシングチューブ94をY軸方向へ移動させることでバルーン30の外表面に接触させてもよい。
次に、送液ポンプ93により送液量を調節しつつコーティング溶液をディスペンシングチューブ94へ供給し、回転機構部60によりバルーンカテーテル10を回転させるとともに、移動台81を移動させて、ディスペンシングチューブ94をX方向に沿って徐々に基端方向へ移動させる。ディスペンシングチューブ94の開口部95から吐出されるコーティング溶液は、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に対して相対的に移動することで、バルーン30の外周面に螺旋を描きつつ塗布される(塗布工程)。この際、バルーン30の外表面の、ディスペンシングチューブ94の吐出方向と逆方向(本実施形態では上方向)へ回転する位置でコーティング溶液を塗布した後に、コーティング溶液を塗布した部位が、他の部材(例えば、吐出方向が回転方向と順方向となるディスペンシングチューブ)と接触しない。コーティング溶液を塗布した部位に、例えば吐出方向が回転方向と順方向となるディスペンシングチューブが接触しないことで、「水不溶性薬剤の結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態型」の生成を阻害する可能性を防ぎ、生成後においては形態型の破壊の可能性を防ぐことができる。
ディスペンシングチューブ94の移動速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜2mm/sec、好ましくは0.03〜1.5mm/sec、より好ましくは0.05〜1.0mm/secである。コーティング溶液のディスペンシングチューブ94からの吐出速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜1.5µL/sec、好ましくは0.01〜1.0µL/sec、より好ましくは0.03〜0.8µL/secである。バルーン30の回転速度は、特に限定されないが、例えば10〜300rpm、好ましくは30〜250rpm、より好ましくは50〜200rpmである。コーティング溶液を塗布する際のバルーン30の直径は、特に限定されないが、例えば1〜10mm、好ましくは2〜7mmである。
バルーンカテーテル10が回転すると、バルーン30の軸心方向Xに沿う湾曲によってバルーン30が偏心する場合があるが、ディスペンシングチューブ94が可撓性を備えているため、バルーン30が偏心しても、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に追従して移動して接触が良好に維持される。これにより、塗布されるコーティング溶液の厚さのバラツキを抑制でき、コート層32の厚さや形態型の調節が容易となる。
この後、バルーン30の表面に塗布されたコーティング溶液に含まれる溶媒が揮発して、バルーン30の表面に水不溶性薬剤を含むコート層32が形成される。揮発させる時間は、溶媒により適宜設定されるが、例えば、数秒〜数百秒程度である。
コート層32に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1μg/mm2〜10μg/mm2、好ましくは0.5μg/mm2〜5μg/mm2の密度で、より好ましくは0.5μg/mm2〜4μg/mm2、さらに好ましくは1.0μg/mm2〜3.5μg/mm2の密度で含まれる。
そして、ディスペンシングチューブ94の開口部95へ向かう延在方向(吐出方向)が、バルーン30の回転方向と逆方向であることで、バルーン30の外表面に形成されるコート層32の水不溶性薬剤は、結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態型を含んで形成される。
結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態を有するコート層32は、各々が独立した長尺体形状を形成した状態の複数の長尺体を基材(バルーン30の外表面)に含む。複数の長尺体は、バルーン表面に対してほぼ周方向外側に伸びていてもよいし、ほぼ周方向に平行な方向に配置されていてもよい。複数の長尺体はこれらが組み合された状態で存在していてもよいし、隣接する複数の長尺体同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の長尺体はバルーン表面上で空間(結晶を含まない空間)をおいて位置していてもよい。具体的にコート層32として好ましいのは、水不溶性薬剤の結晶からなる長軸を有する複数の長尺体がブラシ状に存在する層である。複数の長尺体は基材表面上で円周状にブラシ状として配置されている。各々の前記長尺体は独立して存在しており、ある長さを有し、その長さ部分の一端(基端)が基材表面に固定されている。前記長尺体は隣接する長尺体と複合的な構造を形成せず、連結していない。前記結晶の長軸は、ほぼ直線状である。前記長尺体はその長軸が交わる基材表面に対して所定の角度を形成している。所定の角度とは、45度〜135度の範囲である。好ましくは、所定の角度として70度〜110度の範囲があげられ、さらに好ましくは、所定の角度として80度〜100度の範囲があげられる。より好ましいのは、前記長尺体の長軸が、基材表面に対してほぼ90度の角度を形成している。前記長尺体は少なくともその先端付近は中空である。前記長尺体の長軸に直角な(垂直な)面における長尺体の断面は中空を有する。該中空を有する長尺体は長軸に直角な(垂直な)面における長尺体の断面が多角形である。当該多角形は、例えば4角形、5角形、6角形などである。したがって、長尺体は先端(または先端面)と基端(または基端面)とを有し、先端(または先端面)と基端(または基端面)との間の側面が複数のほぼ平面で構成された長尺多面体として形成される。この結晶形態型(中空長尺体結晶形態型)は基材表面において、ある平面の全体または少なくとも一部を構成する。例えば中空長尺体結晶形態型を含む層は、図7〜図17のSEM像で示される結晶形態型を有する層である。
中空長尺体結晶を含む形態型を有する層の特徴は以下である。
(1)複数の、独立した長軸を有する長尺体(棒状体)で、長尺体は中空である。長尺体は棒状である。
(2)長軸を有する長尺体であり、長軸に直角な面における長尺体の断面は多角形である多面体の場合が多い。前記長尺体結晶の50体積%以上は長尺多面体である。多面体の側面は、主として4面体である。前記長尺多面体は頂点が長軸方向に延びる凹角で形成された複数の面(溝)を有する場合もある。ここでいう凹角とは、長軸に直角な面における長尺体の断面の多角形の内角の少なくとも一つが180度より大きい角であることを意味する。
(3)長軸を有する長尺体は、長尺多角体である場合が多い。長軸に垂直な断面でみたときにその断面が多角形であり、4角形、5角形、6角形として観察される。
(4)複数の、独立した長軸を有する長尺体は、基材表面に対してその長軸を所定範囲の角度、好ましくは45度〜135度の範囲で複数の長尺体が並び立つ、すなわち、複数の、独立した長軸を有する長尺体は基材表面においてほぼ均一に林立する。林立した領域は、基材表面に周方向および軸方向に延びてほぼ均一に形成される。各々の独立した長尺体の基材表面に対する角度は、所定の範囲において各々異なっていてもよいし、同じであってもよい。
(5)各々の独立した長軸を有する長尺体は、その長さ部分の一端(基端)が基材表面に固定されている。
(6)基材表面に近い部分の形態は粒子状、短い棒状、短い曲線状の結晶が積層される場合がある。長軸を有する長尺体は、基材表面に直接的もしくは間接的に長軸を有する長尺体が存在する。したがって、前記積層の上に長軸を有する長尺体が林立する場合がある。
(7)長軸を有する長尺体の軸方向の長さは5μm〜20μmが好ましく、9μm〜11μmがより好ましく、10μm前後であるのがさらに好ましい。長軸を有する長尺体の径は、0.01μm〜5μmであるのが好ましく、0.05μm〜4μmであるのがより好ましく、0.1μm〜3μmであるのがさらに好ましい。
(8)中空長尺体結晶形態型を含む層の表面には他の形態型(例えばアモルファスである板状の形態型)は混在せず、結晶形態として50体積%以上、より好ましくは70体積%以上が上記(1)から(7)の結晶形態型を成している。より好ましくは、ほぼすべてが7)の結晶形態型を成している。
(9)中空長尺体結晶形態型において、結晶を構成する水不溶性薬剤を含むコート層に他の化合物が存在することも可能である。その場合、その化合物は、バルーン基材表面上に林立する複数の水不溶性薬剤の結晶(長尺体)の間の空間に分配されて存在する。コート層を構成する物質の割合は、この場合水不溶性薬剤の結晶の方が、他の化合物よりもはるかに大きい体積を占める。
(10)中空長尺体結晶形態型において、結晶を構成する水不溶性薬剤は、バルーンの基材表面上に存在する。結晶を構成する水不溶性薬剤を有するバルーン基材表面上のコート層には、賦形剤によるマトリックスは形成されない。したがって、結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に付着していない。結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に埋め込まれてもいない。
(11)中空長尺体結晶形態型において、コート層は基材表面に規則性を持って配置された水不溶性薬剤の結晶粒子、および前記結晶粒子の間に不規則に配置された、賦形剤からなる賦形剤粒子を含んでもよい。この場合、前記賦形剤の分子量は水不溶性薬剤の分子量よりも小さい。したがって、基材の所定の面積あたり、賦形剤粒子が占める割合は前記結晶粒子が占める割合に対して少なく、前記賦形剤粒子はマトリクスを形成しない。ここで水不溶性薬剤の結晶粒子は上記長尺体の1つであってもよく、賦形剤粒子は水不溶性薬剤の結晶粒子よりはるかに小さい状態で存在し、かつ水不溶性薬剤の結晶粒子の間に分散するため、SEM像あるいはレーザー顕微鏡像で観察されない場合がある。
中空長尺体の形態型の結晶層は、コート層として、医療機器の基材表面に薬剤をコートして体内に送達する際に、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い。その理由として、発明者は、ある特定の結晶形態を有する薬剤の組織移行後の、溶解性と組織内滞流性が影響していると考える。中空長尺体結晶形態を含む水不溶性薬剤は、薬剤が組織に移行した時に結晶の一つの単位が小さくなるために組織への浸透性が良く、かつ、良好な溶解性を有するため、有効に作用して狭窄を抑制できる。また、薬剤が大きな塊として組織に残留することが少ないために毒性が低くなると考えている。
また、中空長尺体結晶形態型を含む層は、複数の、長軸を有するほぼ均一な長尺体であり、かつ基材表面に規則性を有してほぼ均一に並び立っている形態型である。したがって、組織に移行する結晶の大きさ(長軸方向の長さ)が約10μmと小さい。そのために病変患部に均一に作用し、組織浸透性が高まる。さらに、移行する結晶の寸法が小さいために過剰量の薬剤が、過剰時間、患部に留まることがなくなるために、毒性を発現することなく、高い狭窄抑制効果を示すことが可能であると考える。
ディスペンシングチューブ94の吐出方向がバルーン30の回転方向と逆方向であることで、コート層32の水不溶性薬剤が中空長尺体結晶形態型を含む形態型で形成される原理としては、開口部95からバルーン30上に吐出されたコーティング溶液が、回転に伴ってディスペンシングチューブ94から刺激を受けることなどが考えられる。そして、ディスペンシングチューブ94の端部側の側面の一部(ディスペンシングチューブ94の延在方向への連続した長さの部位)をバルーン30の外表面に接触させた状態で、開口部95からバルーン30上にコーティング溶液を吐出するため、水不溶性薬剤の結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態型となるように、ディスペンシングチューブ94およびバルーン30の間に適切な接触を与えることができる。
また、バルーン30が鉛直方向上側へ向かって回転する領域で、開口部95からバルーン30に対してコーティング溶液を吐出するため、下方へ向かって延在することでコーティング溶液を吐出しやすいディスペンシングチューブ94の吐出方向を、バルーン30の回転方向と逆方向に設定することが容易となっている。
そして、バルーン30に接触するディスペンシングチューブ94の構成材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン(フッ素を含まないポリオレフィン)であれば、PTFE等のフッ素系樹脂製のチューブと比較して、耐有機溶媒性が低いが、有機溶媒に対する親和性が高くかつ接触角が小さくなり、開口部95やバルーン30に対する接触部位においてコーティング溶液が材料の特性によって弾かれ難くなる。このため、バルーン30の外表面にコーティング溶液の塗りムラが生じ難くなり、コート層の均一度を高精度に調節することが可能となる。すなわち、フッ素系樹脂ほど耐有機溶媒性が高くない材料をディスペンシングチューブ94に敢えて使用することで、バルーン30の外表面へのコーティング溶液の塗りムラを、生じ難くすることが可能となる。また、ディスペンシングチューブ94の構成材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの場合、ディスペンシングチューブ94の移動速度、コーティング溶液の吐出速度、およびバルーン30の回転速度の少なくとも1つを調節することで、バルーン30の外表面に、コーティング溶液の塗りムラを生じさせることも可能である。このため、ディスペンシングチューブ94をポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンにより形成することで、コート層の均一度の高低を任意に制御することが可能となる。
また、ディスペンシングチューブ94の構成材料が、PTFE、ETFE、PFA、FEP等のフッ素系樹脂であれば、有機溶媒に対する親和性が低くかつ接触角が大きくなり、開口部95やバルーン30に対する接触部位においてコーティング溶液が材料の特性によって強く弾かれて、バルーン30の外表面にコーティング溶液の塗りムラ(不均一性)を容易に生じさせることが可能である。コーティング溶液の塗りムラが多い場合には、バルーン30に形成されるコート層32に含まれる薬剤の総量は等しくしつつ、実際に塗布される各箇所における薬剤量を多くすることが可能となり、生体への負担を増加させることなしに、薬剤を効果的に作用させることができる。そして、塗りムラは、規則性を有する不均一性であり、バルーン30の軸心方向Xに沿って線状に塗布された部位が並ぶ縞模様(螺旋状線条体)であることが好ましい。塗りムラがバルーン30をディスペンシングチューブ94に対して回転させつつコーティング溶液を塗布することで、縞模様の塗りムラを生じさせつつコート層32を容易に形成することができる。なお、塗りムラは、縞模様の形態に限定されず、例えば極端な濃淡相を形成する状態であってもよい。
そして、塗布工程において、ポリオレフィンにより形成されるディスペンシングチューブ94、およびフッ素系樹脂により形成される他のディスペンシングチューブ94の両方を用いて、上述の異なる特性を利用して、コート層32の均一度を制御することもできる。異なる特性のディスペンシングチューブ94を両方使用する際には、例えば、複数のバルーンカテーテル10のバルーン30を順次コーティングする際に、バルーン30に応じて、ディスペンシングチューブ94を変更する制御を行うことができる。または、1つのバルーン30において、部位によってディスペンシングチューブ94を変更する制御を行うこともできる。
バルーン30の外表面にコーティングされる薬剤は、結晶型、非結晶質(アモルファス)型、およびそれらの混合型などの異なる形態型となり得る。薬剤が結晶型となる場合でも、結晶構造が異なる種々の形態型が存在する。さらに、結晶や非晶質は、コート層32において規則性を有するように配置されてもよいが、不規則に配置されてもよい。
そして、バルーン30を回転させつつディスペンシングチューブ94を徐々に軸心方向Xへ移動させることで、バルーン30の外表面に、軸心方向Xへ向かってコート層32を徐々に形成する。バルーン30のコーティングする範囲の全体にコート層32が形成された後、回転機構部60、移動機構部80および塗布機構部90を停止させる。
この後、バルーンカテーテル10をバルーンコーティング装置50から取り外して、バルーン30のコーティングが完了する。
以上のように、本実施形態に係るバルーンコーティング方法は、ディスペンシングチューブ94を、開口部95がバルーン30の回転方向と逆方向へ向くようにバルーン30の外表面に接触させてコーティング溶液を吐出させるため、バルーン30の外表面に形成されるコート層32の水不溶性薬剤を、結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態型で形成することができる。複数の長尺体は、バルーン表面に対してほぼ周方向外側に伸びていてもよいし、ほぼ周方向に平行な方向に配置されていてもよい。複数の長尺体が配置される方向は一定であってもよいし、ランダムに複数の方向に向けて配置されていてもよい。複数の長尺体はこれらが組み合された状態で存在していてもよいし、隣接する複数の長尺体同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の長尺体はその形成過程および/または形成された後の過程で、結晶が長尺体の形状ではなく融合して長尺体の輪郭を示さない構造(例えば、平坦にバルーン表面上に延びた構造)を含まないように形成される。本実施形態に係るバルーンコーティング方法は、バルーン表面上に薬剤結晶(複数の長尺体)が存在しない領域がないように(コーティングを適用した領域にはすべて薬剤結晶が形成されるように)コーティングすることができるし、バルーン表面上に薬剤結晶(複数の長尺体)が存在しない領域と薬剤結晶が存在する領域を規則性をもって、または規則性をもたずに、形成することができる。また、上記のバルーンコーティング方法は、ディスペンシングチューブ94を、開口部95がバルーン30の回転方向と逆方向へ向くようにバルーン30の外表面に接触させてコーティング溶液を吐出させることで、ディスペンシングチューブ94とバルーン30の間に適切な接触を与え、コート層32に含まれる薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。
また、ディスペンシングチューブ94の開口部95が形成される端部側の側面の連続した長さ(ディスペンシングチューブ94の延在方向へ連続した長さ)をバルーン30の外表面に接触させた状態で、コーティング溶液を吐出させるため、水不溶性薬剤の結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態型となるように、ディスペンシングチューブ94およびバルーン30の間に適切な接触を与えることができる。
また、塗布工程において、可撓性を有するディスペンシングチューブ94を撓ませつつバルーン30の外表面に押しつけてコーティング溶液を吐出させることで、バルーン30が偏心しても、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に追従して移動するため、バルーン30の損傷を抑制できるとともに、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する接触を良好に維持でき、形成されるコート層32の厚さや形態型を高精度に設定できる。
また、塗布工程において、ディスペンシングチューブ94をバルーン30が鉛直方向上側へ向かって回転する部位に接触させつつ、開口部95からコーティング溶液を吐出させることで、バルーン30の回転方向と逆方向に開口部95が向くようにディスペンシングチューブ94を配置することが容易となる。
また、水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、またはエベロリムスであるようにすることで、結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体を含む形態型で形成される上述の水不溶性薬剤により、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制することができる。
また、本実施形態に係るバルーンコーティング方法は、ポリオレフィンにより形成されるディスペンシングチューブ94がバルーン30に接触するため、フッ素系樹脂製のチューブを使用する場合と比較して、有機溶媒に対する親和性が高くかつ接触角が小さくなり、ディスペンシングチューブ94の開口部95やバルーン30に対する接触部位においてコーティング溶液が弾かれ難くなる。このため、バルーン30の外表面にコーティング溶液の塗りムラが生じ難くなり、コート層32の均一度を高精度に調節することが可能となる。さらに、コート層32の均一度を高精度に調節可能であることで、コート層32に含まれる薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。
また、ディスペンシングチューブ94が、ポリエチレンまたはポリプロピレンにより形成されることで、フッ素系樹脂製のチューブと比較して、有機溶媒に対する親和性を確実に高め、かつ接触角を確実に低くすることができ、ディスペンシングチューブ94の開口部95やバルーン30に対する接触部位においてコーティング溶液が弾かれ難くなる。
また、塗布工程において、ポリオレフィンにより形成されるディスペンシングチューブ94、またはフッ素系樹脂により形成される他のディスペンシングチューブ94を用いてコート層32の均一度を制御することで、ポリオレフィンにより形成されるディスペンシングチューブ94を用いてコート層32の均一度を高めつつ、フッ素系樹脂により形成される他のディスペンシングチューブ94を用いてコート層32に塗りムラを与えることができ、コート層32の均一度の高低を任意に制御できる。
また、塗布工程において、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する軸心方向Xへの相対的な移動速度、ディスペンシングチューブ94からのコーティング溶液の吐出速度、およびバルーン30の回転速度の少なくとも1つを調節してコート層32の均一度(均一性)を制御することで、コート層32の均一度の高低を任意に制御することが可能となる。
また、本実施形態に係るバルーンコーティング方法は、バルーン30に接触するディスペンシングチューブ94がフッ素系樹脂により形成されることで、溶媒に対する親和性が低くかつ接触角が大きくなり、開口部95やバルーン30に対する接触部位においてコーティング溶液が強く弾かれて、バルーン30の外表面にコーティング溶液の塗りムラを容易に生じさせることが可能となり、コート層32に含まれる薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。また、塗りムラが多い場合には、バルーン30に塗布される薬剤の総量は等しくしつつ、塗布される各箇所における薬剤量を多くすることが可能となり、生体への負担を増加させることなしに、薬剤を効果的に作用させることができる。
また、塗布工程において、バルーン30をディスペンシングチューブ94に対して回転させつつコーティング溶液を塗布することで、コーティング溶液をバルーン30の外表面に縞模様を形成しつつ、塗りムラを有するコート層32を容易に形成することができる。
また、本実施形態におけるバルーンコーティングのための位置決め方法は、ディスペンシングチューブ94の延在方向と交差する方向へディスペンシングチューブ94を移動させて、ディスペンシングチューブ94の開口部95が形成される部位をバルーン30の外表面に接触させるため、ディスペンシングチューブ94を延在方向へ移動させて突き当てるようにバルーン30に接触させる場合と比較して、バルーン30への負担が小さくなり、ディスペンシングチューブ94とバルーン30とが適切な状態で接触し、コート層32に含まれる水不溶性薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。また、バルーン30への負担が小さくなることで、バルーン30に変形や損傷が生じているか否かを確認する作業工程を設ける必要がなく、作業性が向上する。
また、バルーンコーティングのための位置決め方法は、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向へ当該バルーン30に対して相対的に移動させつつ、開口部95からコーティング溶液を吐出させてバルーン30の外表面に塗布する塗布工程をさらに有することで、位置決め工程において変形や損傷が抑制されたバルーン30にコーティング溶液を塗布できるため、バルーン30に塗布されるコーティング溶液の量や厚さ等を高精度に設定可能となり、形成されるコート層32に含まれる薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。
また、位置決め工程において、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して接触させずにディスペンシングチューブ94の延在方向へ当該ディスペンシングチューブ94を移動させた後、ディスペンシングチューブ94の延在方向と交差する方向へ当該ディスペンシングチューブ94を移動させて、ディスペンシングチューブ94のコーティング溶液を吐出する開口部95が形成される部位をバルーン30の外表面に接触させることで、ディスペンシングチューブ94を延在方向へ移動させる際に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30と接触しない。このため、バルーン30への負担が小さくなり、バルーン30に変形や損傷が生じているか否かを確認する作業工程を設ける必要がなく、作業性が向上する。
また、接触工程において、ディスペンシングチューブ94が撓まないと仮定した場合に開口部95が位置する仮想位置Vが、基準面Aからディスペンシングチューブ94の吐出方向と逆方向側の領域において、バルーン30の軸心を中心としてバルーン30の回転方向側へ基準面Aから0度以上40度以下の範囲内に位置するようにディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して位置決めすることで、ディスペンシングチューブ94がバルーン30との間の摩擦力によって接触位置から離脱することを抑制でき、良好な接触が維持されて、コート層32に含まれる水不溶性薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。
また、本実施形態に係るバルーンコーティング方法は、ディスペンシングチューブ94の延在方向と交差する方向へディスペンシングチューブ94を移動させて、ディスペンシングチューブ94の開口部95が形成される部位(ディスペンシングチューブ94の先端の側面)をバルーン30の外表面に接触させることで、ディスペンシングチューブ94がバルーン30との間の摩擦力によって接触位置から離脱することを抑制でき、良好な接触が維持されて、コート層32に含まれる水不溶性薬剤の形態型や大きさなどをより自在に設定することが可能となる。
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、バルーン30の先端側から基端側へ向かってコーティング溶液を塗布しているが、基端側から先端側へ向かって塗布してもよい。
また、本実施形態では、ディスペンシングチューブ94が鉛直方向に沿って下方へ延在してバルーン30に接触しているが、ディスペンシングチューブ94の延在方向は特に限定されず、例えば鉛直方向に対して傾いてもよく、または、側方や上方へ向かって延在してもよい。
また、本実施形態では、バルーン30は、外周面が軸直交断面において円形であるが、円形でなくてもよい。本実施形態に係るバルーンコーティング方法によれば、バルーンの外周面の形状が円形でなくとも、ディスペンシングチューブ94がバルーンの形状に追従して移動できるため、塗りムラを抑制しつつ均一にコーティング溶液を塗布でき、所望のコート層32を適切に形成することができる。
また、上述の実施形態に係るバルーンコーティング方法では、バルーンカテーテル10は、オーバーザワイヤ型(Over−the−wire type)のバルーンカテーテル10のバルーン30にコーティングを施しているが、ガイドワイヤールーメンがカテーテルの先端部にのみ形成されるラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)のバルーンカテーテルのバルーンにコーティングを施してもよい。
以下に、実施例、比較例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
<試験1(バルーンの回転方向に関する検証試験)>
[薬剤溶出バルーンの作製]
〈実施例1〉
(1)コーティング溶液1の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(CAS No.26348−61−8)(56mg)およびパクリタキセル(CAS No.33069−62−4)(134.4mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.2mL)、テトラヒドロフラン(1.6mL)、RO(Reverse Osmosis、逆浸透膜)処理水(以下、RO水とする)(0.4mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液1を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液1を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、最先端に開口部を有するディスペンシングチューブ(ディスペンシングチューブの素材はポリエチレン)をバルーンカテーテルに対して横方向(水平方向)から移動させ、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このとき、ディスペンシングチューブの仮想位置が、バルーンの基準面(バルーンの軸心を通る水平面)から回転方向へ0度以上40度以下となるように、ディスペンシングチューブを位置決めした。そして、常時、バルーンの外表面にディスペンシングチューブの先端の側面を接触させながら、ディスペンシングチューブの先端開口部から薬剤を吐出させた。この状態で、薬剤の吐出方向に対して反対方向(逆方向)に、バルーンの軸心を中心としてバルーンカテーテルを回転させた。ディスペンシングチューブのバルーン軸心方向への移動速度及びバルーンの回転速度を調整し、回転開始とともに、薬剤を0.053μL/secで吐出し、コーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例2〉
(1)コーティング溶液2の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(70mg)およびパクリタキセル(180mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.5mL)、アセトン(2.0mL)、テトラヒドロフラン(0.5mL)、RO水(1mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液2を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液2を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、薬剤を0.088μL/secで吐出した以外は、実施例1に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例3〉
(1)コーティング溶液3の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(70mg)およびパクリタキセル(168mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.5mL)、テトラヒドロフラン(1.5mL)、RO水(1mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液3を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液3を、拡張したバルーンにコーティング溶液3の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、薬剤を0.101μL/secで吐出した以外は、実施例1に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例4〉
(1)コーティング溶液4の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(70mg)およびパクリタキセル(180mg)を量りとった。これに無水エタノール(1.75mL)、テトラヒドロフラン(1.5mL)、RO水(0.75mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液4を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液4を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、薬剤を0.092μL/secで吐出した以外は、実施例1に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例5〉
(1)コーティング溶液5の調製
L−アスパラギン酸ジメチルエステル塩酸塩(CAS No.32213−95−9)(37.8mg)およびパクリタキセル(81mg)を量りとった。これに無水エタノール(0.75mL)、テトラヒドロフラン(0.96mL)、RO水(0.27mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液5を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液5を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、薬剤を0.055μL/secで吐出した以外は、実施例1に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例6〉
(1)コーティング溶液6の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液6を調製した。
2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液6を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、薬剤を0.101μL/secで吐出した以外は、実施例1に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈比較例1〉
(1)コーティング溶液7の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液6を調製した。
2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液7を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、薬剤を0.101μL/secで吐出し、薬剤の吐出方向に対して、同方向(順方向)に長軸を中心としてバルーンカテーテルを回転させた以外は、実施例1に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
[薬剤溶出バルーンのコート層の走査型電子顕微鏡観察(SEM)]
実施例1〜6(図7〜図17)、および比較例1(図18)の薬剤溶出バルーンについて、乾燥後の薬剤溶出バルーンを適切な大きさに切断後、支持台にのせ、その上から白金蒸着を行った。これらの白金蒸着後のサンプルのコート層の表面および内部を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
[試験1の結果]
吐出方向が回転方向と逆方向となる実施例1〜6のコート層では、SEM写真から、バルーン表面に対して周方向外側に突出した(倒立した)中空長尺体の形態型の結晶層が観察された。
実施例1〜6は、図7〜図17に示すように、中空長尺体の形態型を含むコート層が形成され、約10μm長の中空長尺体の均一なパクリタキセル結晶が、バルーンの外表面に均一に形成されていることが観察された。それらの中空長尺体のパクリタキセルの結晶は長軸を有し、その長軸を有する長尺体(約10μm)がバルーンの外表面に対してほぼ直角方向となるように形成されていた。長尺体の径は、約2μmであった。また、長軸に直角な面における長尺体の断面は多角形であった。多角形として、例えば、4角形の多角形を有していた。さらに、これらのパクリタキセルのほぼ均一な中空長尺体結晶は、同様の形態型(構造および形状)にてバルーンの外表面全体に均一かつ密に(同程度の密度で)形成されていた。
一方、吐出方向が回転方向と同方向となる比較例1は、図18に示すSEM写真のように、同一平面に非晶質と結晶とが混在していた。
<試験2(バルーンの構成材料に関する検証試験)>
[薬剤溶出バルーンの作製]
〈実施例7〉
(1)コーティング溶液8の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液8を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径7.0×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(Kaneka社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液8を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、最先端に開口部を有するディスペンシングチューブ(外径0.61mm、内径0.28mm、ディスペンシングチューブの素材はポリエチレン)をバルーンカテーテルに対して横方向(水平方向)から移動させ、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。常時、バルーンの外表面にディスペンシングチューブの先端の側面を接触させながら、ディスペンシングチューブの先端開口部から薬剤を吐出させた。この状態で、薬剤の吐出方向に対して反対方向(逆方向)に、バルーンの軸心を中心としてバルーンカテーテルを回転させた。ディスペンシングチューブのバルーン軸心方向への移動速度及びバルーンの回転速度を調整し、回転開始とともに、薬剤を0.378μL/secで吐出し、コーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例8〉
(1)コーティング溶液9の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液9を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径4.0×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(Kaneka社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液9を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、ディスペンシングチューブ(外径0.99mm、内径0.61mm、ディスペンシングチューブの素材はポリプロピレン)で薬剤を0.191μL/secで吐出した以外は、実施例7に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例9〉
薬剤の吐出速度を0.240μL/secとした以外は、実施例8と同様の条件で、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈比較例2〉
(1)コーティング溶液10の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液10を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径7.0×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(Kaneka社製、バルーン(拡張部)の素材はPTFE)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液10を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、ディスペンシングチューブ(外径0.60mm、内径0.30mm、ディスペンシングチューブの素材はPTFE)で薬剤を0.335μL/secで吐出した以外は、実施例7に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈比較例3〉
(1)コーティング溶液11の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液11を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径4.0×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(Kaneka社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液11を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、ディスペンシングチューブ(外径0.304mm、内径0.152mm、ディスペンシングチューブの素材はPTFE)で薬剤を0.145μL/secで吐出し、薬剤の吐出方向に対して同方向(順方向)に、バルーンの軸心を中心としてバルーンカテーテルを回転させた以外は、実施例7に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈比較例4〉
(1)コーティング溶液12の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液12を調製した。
2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径7.0×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(Kaneka社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液12を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、ディスペンシングチューブ(外径0.90mm、内径0.51mm、ディスペンシングチューブの素材はオールテフロン(登録商標))で薬剤を0.378μL/secで吐出した以外は、実施例7に記載の方法と同様にコーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
[薬剤溶出バルーンの薬剤コート層のレーザー顕微鏡観察]
実施例7〜9(図19〜24)、並びに比較例2〜4(図25〜30)の薬剤溶出バルーンについて、表面の写真を撮影した後、コート層表面をレーザー顕微鏡で観察した。
[試験2の結果]
構成材料が(フッ素を含まない)ポリオレフィン(ポリエチレンまたはポリプロピレン)であるディスペンシングチューブを用いた実施例7および実施例8では、コート層がバルーンをムラなく均一に覆い、バルーンがほぼ全域で露出していないことが観察された。
実施例7および8では、図19および21に示す写真のように、バルーンの外表面の先端部から基端部に亘ってムラなく均一にコートされたコート層が観察された。そして、実施例7のバルーンの中央部P1のレーザー顕微鏡像である図20、実施例8のバルーンの中央部P2のレーザー顕微鏡像である図22から、バルーン上のコート層の水不溶性薬剤が、中空長尺体結晶を含む形態型で形成されていることが観察された。
また、ディスペンシングチューブの構成材料がポリオレフィン(ポリプロピレン)である実施例9では、図23に示す写真、およびバルーンの中央部P3のレーザー顕微鏡像である図24から、実施例8に対して吐出速度を変更するのみで、バルーンの外表面が部分的に露出するように形成された不均一なコート層が観察された。これにより、ディスペンシングチューブの構成材料がポリオレフィン(ポリプロピレン)であれば、バルーンの外表面にコート層を均一に形成できるのみならず、不均一に形成することも可能であることが確認された。
一方、構成材料がフッ素系樹脂である比較例2〜4では、図25〜30に示すように、バルーンの外表面の先端部から基端部に亘って、塗りムラが多くコート層が不均一にコートされて、バルーンが露出した部位が観察された。塗りムラは、バルーンの軸心方向に沿ってコート層が並ぶように縞模様で形成された。コート層の水不溶性薬剤の結晶は、比較例2のバルーンの中央部P4のレーザー顕微鏡像である図26、比較例3のバルーンの中央部P5のレーザー顕微鏡像である図28、並びに、比較例4のバルーンの中央部P6のレーザー顕微鏡像である図30から、多くがバルーンの表面に沿うように寝た状態で形成されていることが観察された。
<試験3(ディスペンシングチューブとバルーンの接触位置に関する検証試験)>
[薬剤溶出バルーンの作製]
〈実施例10〉
(1)コーティング溶液13の調製
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)およびパクリタキセル(336mg)を量りとった。これに無水エタノール(3.0mL)、アセトン(4.0mL)、テトラヒドロフラン(1.0mL)、RO水(2mL)をそれぞれ加えて溶解し、コーティング溶液13を調製した。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径7.0×長さ200mm(拡張部)のバルーンカテーテル(Kaneka社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約3μg/mm2となるように、コーティング溶液13を、拡張したバルーンにコーティング溶液の溶媒がゆっくりと揮発するようにコートした。
具体的には、最先端に開口部を有するディスペンシングチューブ(外径0.61mm、内径0.28mm、長さ6mm、ディスペンシングチューブの素材はポリエチレン)をバルーンの外表面の基準位置(基準面からバルーンの回転方向側へ0度)に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)および水平方向(Z軸方向)へ移動させることなしに、吐出する位置とした。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ0度の位置であった。この後、常時、バルーンの外表面にディスペンシングチューブの先端の側面を接触させながら、ディスペンシングチューブの先端開口部から薬剤を吐出させた。この状態で、薬剤の吐出方向に対して反対方向(逆方向)に、バルーンの軸心を中心としてバルーンカテーテルを回転させた。ディスペンシングチューブのバルーン軸心方向への移動速度及びバルーンの回転速度を調整し、回転開始とともに、薬剤を0.378μL/secで吐出し、コーティングした。この後、コーティング後のバルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
〈実施例11〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ0.6mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ2.0mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ21.8度の位置であった。
〈実施例12〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.5mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ0.9mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ30.0度の位置であった。
〈実施例13〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ0.4mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ2.7mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ26.6度の位置であった。
〈実施例14〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.0mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ2.0mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ33.7度の位置であった。
〈実施例15〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.7mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ1.4mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ39.0度の位置であった。
〈実施例16〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ0.2mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ0.6mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ3.9度の位置であった。
〈実施例17〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ0.2mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ1.3mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ5.2度の位置であった。
〈実施例18〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.2mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ0.8mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ24.0度の位置であった。
〈実施例19〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.1mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ1.5mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ28.8度の位置であった。
〈実施例20〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.1mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ1.6mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ30.1度の位置であった。
〈実施例21〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.2mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ1.9mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ36.9度の位置であった。
〈比較例5〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.7mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ2.1mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ50.5度の位置であった。
〈比較例6〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.4mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ2.4mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ51.8度の位置であった。
〈比較例7〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.8mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ1.7mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ45.0度の位置であった。
〈比較例8〉
ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置以外は実施例10と同様の条件として、薬剤溶出バルーンを作製した。ディスペンシングチューブをバルーンに接触させる際には、ディスペンシングチューブの先端をバルーンの外表面の基準位置に撓まないように接触させ、この位置から鉛直方向(Y軸方向)上側へ1.1mm移動させた後、水平方向(Z軸方向)へ2.4mm移動させて、ディスペンシングチューブの先端の側面の一部がバルーンの外表面に沿って接触するように配置した。このときのディスペンシングチューブの先端部の仮想位置は、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ45.0度の位置であった。
[ディスペンシングチューブの離脱の観察]
実施例10〜21、比較例5〜8において、薬剤のコーティングの際に、吐出方向がバルーンの回転方向に対して逆方向となるようにディスペンシングチューブがバルーンに対して接触した状態から、吐出方向がバルーンの回転方向と同方向となるようにディスペンシングチューブがバルーンから離脱するか否かを観察した。また、実施例10〜15、比較例5の薬剤溶出バルーンについて、表面の写真を撮影した。
[試験3の結果]
表1および図31に、ディスペンシングチューブがバルーンから離脱するか否かを観察した結果を、図32〜38に、実施例10〜15、比較例5の薬剤溶出バルーンの表面の写真を示す。
ディスペンシングチューブの先端部の仮想位置が、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ0度以上40度以下である実施例10〜21では、表1および図31に示すように、ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置が良好に維持されることが観察された。また、図32〜37に示す実施例10〜15の写真から、バルーンの外表面全体に均一でムラのないコート層が観察された。
これに対し、ディスペンシングチューブの先端部の仮想位置が、バルーンの軸心を中心として基準面からバルーンの回転方向側へ40度を超えている比較例5〜8では、表1および図31から、ディスペンシングチューブのバルーンに対する接触位置が維持されず、途中で、ディスペンシングチューブの先端部が、吐出方向がバルーンの回転方向と同方向となる位置へ移動した。ディスペンシングチューブの移動は、比較例5においては、図38に示すP7の位置で発生し、この位置において、完成したコート層にムラ(不均一性)が観察された。