(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の制御装置が適用されるエンジンの一実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの多気筒ガソリンエンジンである。具体的に、このエンジンは、直線状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有する直列4気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路35とを備えている。
図2は、エンジン本体1の断面図である。本図に示すように、エンジン本体1は、上記4つの気筒2A〜2Dが内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上側に設けられたシリンダヘッド4と、シリンダヘッド4の上側に設けられたカムキャップ5と、各気筒2A〜2Dに往復摺動可能に挿入されたピストン11とを有している。
ピストン11の上方には燃焼室10が形成されており、この燃焼室10には、後述するインジェクタ12(図1)から噴射されるガソリンを主成分とする燃料が供給される。そして、供給された燃料が燃焼室10で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン11が上下方向に往復運動するようになっている。
ピストン11は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸15とコネクティングロッド14を介して連結されており、上記ピストン11の往復運動に応じてクランク軸15が中心軸回りに回転するようになっている。
図1に示すように、シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室10に向けて燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ12と、インジェクタ12から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギーを供給する点火プラグ13とが設けられている。なお、当実施形態では、1気筒につき1つの割合で合計4個のインジェクタ12が設けられるとともに、同じく1気筒につき1つの割合で合計4個の点火プラグ13が設けられている。
当実施形態のような4サイクル4気筒のガソリンエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン11がクランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。これに対応して、各気筒2A〜2Dでの点火のタイミングも、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、図1の左側から順に、気筒2Aを第1気筒、気筒2Bを第2気筒、気筒2Cを第3気筒、気筒2Dを第4気筒とすると、第1気筒2A→第3気筒2C→第4気筒2D→第2気筒2Bの順に点火が行われる。
なお、詳細は後述するが、当実施形態のエンジンは、4つの気筒2A〜2Dのうちの2つを休止させ、残りの2つの気筒を稼動させる運転、つまり減筒運転が可能な可変気筒エンジンである。このため、上記のような点火順序は、減筒運転ではない通常の運転時(4つの気筒2A〜2Dを全て稼動させる全筒運転時)のものである。一方、減筒運転時には、点火順序が連続しない2つの気筒(当実施形態では第1気筒2Aおよび第4気筒2D)において点火プラグ13の点火動作が禁止され、1つ飛ばしで点火が行われるようになる。
図1および図2に示すように、シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気(吸気)を各気筒2A〜2Dの燃焼室10に導入するための吸気ポート6と、各気筒2A〜2Dの燃焼室10で生成された排気ガスを排気通路35に導出するための排気ポート7と、吸気ポート6を通じた吸気の導入を制御するために吸気ポート6の燃焼室10側の開口を開閉する吸気弁8と、排気ポート7からのガス排出を制御するために排気ポート7の燃焼室10側の開口を開閉する排気弁9とが設けられている。なお、当実施形態では、1気筒につき2つの割合で合計8個の吸気弁8が設けられるとともに、同じく1気筒につき2つの割合で合計8個の排気弁9が設けられている。
図1に示すように、吸気通路30は、気筒2A〜2Dの各吸気ポート6と連通する4本の独立吸気通路31と、各独立吸気通路31の上流端部(吸気の流れ方向上流側の端部)に共通に接続されたサージタンク32と、サージタンク32から上流側に延びる1本の吸気管33とを有している。吸気管33の途中部には、エンジン本体1に導入される吸気の流量を調節する開閉可能なスロットル弁34が設けられている。
排気通路35は、気筒2A〜2Dの各排気ポート7と連通する4本の独立排気通路36と、各独立排気通路36の下流端部(排気ガスの流れ方向下流側の端部)が1箇所に集合した集合部37と、集合部37から下流側に延びる1本の排気管38とを有している。
(2)動弁機構
次に、吸気弁8および排気弁9を開閉させるための機構について、図2および図3を用いて詳しく説明する。吸気弁8および排気弁9は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対の動弁機構28,29(図2)により、クランク軸15の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁8用の動弁機構28は、吸気弁8を閉方向(図2の上方)に付勢するリターンスプリング16と、クランク軸15の回転に連動して回転するカム軸18と、カム軸18と一体に回転するように設けられたカム部18aと、カム部18aにより周期的に押圧されるスイングアーム20と、スイングアーム20の揺動支点となるピボット部22とを有している。
同様に、排気弁9用の動弁機構29は、排気弁9を閉方向(図2の上方)に付勢するリターンスプリング17と、クランク軸15の回転に連動して回転するカム軸19と、カム軸19と一体に回転するように設けられたカム部19aと、カム部19aにより周期的に押圧されるスイングアーム21と、スイングアーム20の揺動支点となるピボット部22とを有している。
上記のような動弁機構28,29により、吸気弁8および排気弁9は次のようにして開閉駆動される。すなわち、クランク軸15の回転に伴いカム軸18,19が回転すると、スイングアーム20,21の略中央部に回転自在に設けられたカムフォロア20a,21aがカム部18a,19aによって周期的に下方に押圧されるとともに、スイングアーム20,21がその一端部を支持するピボット部22を支点にして揺動変位する。これに伴い、当該スイングアーム20,21の他端部がリターンスプリング16,17の付勢力に抗して吸排気弁8,9を下方に押圧し、これによって吸排気弁8,9が開弁する。一度開弁された吸排気弁8,9は、リターンスプリング16,17の付勢力により再び閉弁位置まで戻される。
ピボット部22は、自動的にバルブクリアランスをゼロに調整する公知の油圧式ラッシュアジャスタ24,25(以降、Hydraulic Lash Adjusterの頭文字をとって「HLA」と略称する)により支持されている。このうち、HLA24は、気筒列方向の中央側にある第2気筒2Bおよび第3気筒2Cのバルブクリアランスを自動調整するものであり、HLA25は、気筒列方向の両端にある第1気筒2Aおよび第4気筒2Dのバルブクリアランスを自動調整するものである。
第1気筒2Aおよび第4気筒2D用のHLA25は、エンジンの減筒運転か全筒運転かに応じて吸排気弁8,9を開閉動作させるか停止させるかを切り替える機能を有している。すなわち、HLA25は、エンジンの全筒運転時には第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9を開閉動作させる一方、エンジンの減筒運転時には、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9を閉弁状態のまま停止させる。このため、HLA25は、吸排気弁8,9の開閉動作を停止させるための機構として、図3に示される弁停止機構25aを有している。これに対し、第2気筒2Bおよび第3気筒2C用のHLA24は、弁停止機構25aを備えておらず、吸排気弁8,9の開閉動作を停止させる機能を有していない。以下では、これらHLA24,25を区別するために、弁停止機構25aを備えたHLA25のことを、特にS−HLA25(Switchable-Hydraulic Lash Adjusterの略)という。
S−HLA25の弁停止機構25aは、ピボット部22を軸方向に摺動自在に収納する有底の外筒251と、外筒251の周面に互いに対向するように設けられた2つの貫通孔251aを出入り可能でかつピボット部22をロック状態またはロック解除状態に切替可能な一対のロックピン252と、これらロックピン252を径方向外側へ付勢するロックスプリング253と、外筒251の内底部とピボット部22の底部との間に設けられ、ピボット部22を外筒251の上方に押圧して付勢するロストモーションスプリング254とを備えている。
図3(a)に示すように、ロックピン252が外筒251の貫通孔251aに嵌合しているときは、ピボット部22が上方に突出したまま固定されたロック状態にある。このロック状態では、図2に示すように、ピボット部22の頂部がスイングアーム20,21の揺動支点となるため、カム軸18,19の回転によりカム部18a,19aがカムフォロア20a,21aを下方に押圧したときに、吸排気弁8,9がリターンスプリング16,17の付勢力に抗して下方に変位し、吸排気弁8,9が開弁される。このため、4つの気筒2A〜2Dを全て稼働させる全筒運転時には、弁停止機構25aがロック状態とされることにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9が開閉駆動される。
上記のようなロック状態を解除するには、一対のロックピン252を作動油圧により径方向内側に押圧する。すると、図3(b)に示すように、ロックスプリング253の引張力に抗して、一対のロックピン252が互いに接近する方向(外筒251の径方向内側)に移動する。これにより、ロックピン252と外筒251の貫通孔251aとの嵌合が解除され、ピボット部22が軸方向に移動可能なロック解除状態となる。
このロック解除状態への変化に伴い、ピボット部22がロストモーションスプリング254の付勢力に抗して下方に押圧されることにより、図3(c)に示すような弁停止状態が実現される。すなわち、吸排気弁8,9を上方に付勢するリターンスプリング16,17の方が、ピボット部22を上方に付勢するロストモーションスプリング254よりも強い付勢力を有しているので、上記ロック解除状態では、カム軸18,19の回転に伴いカム部18a,19aがカムフォロア20a,21aを下方に押圧したときに、吸排気弁8,9の頂部がスイングアーム20,21の揺動支点となり、ピボット部22がロストモーションスプリング254の付勢力に抗して下方に変位する。つまり、吸排気弁8,9は閉弁された状態に維持される。このため、第1、第4気筒2A,2Dを休止させる減筒運転時には、弁停止機構25aがロック解除状態とされることにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の開閉動作が停止され、当該吸排気弁8,9が閉弁状態に維持される。
(3)制御系統
次に、エンジンの制御系統について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部が図4に示されるECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
エンジンおよび車両には、その各部の状態量を検出するための複数のセンサが設けられており、各センサからの情報がECU50に入力されるようになっている。
例えば、シリンダブロック3には、クランク軸15の回転角度(クランク角)および回転速度を検出するクランク角センサSN1が設けられている。このクランク角センサSN1は、クランク軸15と一体に回転する図略のクランクプレートの回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸15の回転角度および回転速度が特定されるようになっている。なお、以下では、クランク軸15の回転速度のことを「エンジン回転速度」、もしくは単に「回転速度」という。
また、シリンダブロック3には、エンジン本体1に生じている振動を検出する振動センサSN2が設けられている。振動センサSN2は、例えばノッキング等の異常燃焼を検出するために利用されるので、ノックセンサと呼ばれることもある。
シリンダヘッド4にはカム角センサSN3が設けられている。カム角センサSN3は、カム軸(18または19)と一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、この信号と、クランク角センサSN1からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるかという気筒判別情報が特定されるようになっている。
吸気通路30のサージタンク32には、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dに導入される吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN4が設けられている。
車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN5が設けられている。
ECU50は、これらのセンサSN1〜SN5と電気的に接続されており、それぞれのセンサから入力される信号に基づいて、上述した各種情報(クランク角、エンジン回転速度、振動強度、気筒判別情報、アクセル開度など)を取得する。
また、ECU50は、上記各センサSN1〜SN5からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、インジェクタ12、点火プラグ13、スロットル弁34、弁停止機構25aと電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。なお、当実施形態では、1気筒につき1組の割合で合計4組のインジェクタ12および点火プラグ13が存在するが、図4では、インジェクタ12および点火プラグ13をそれぞれ1つのブロックで表記している。また、弁停止機構25aは、第1気筒2A用に設けられた吸気側および排気側の各S−HLA25と、第4気筒2D用に設けられた吸気側および排気側の各S−HLA25とにそれぞれ1つずつ備わっており、合計4つの弁停止機構25aが存在するが、図4ではこれを1つのブロックで表記している。
ECU50のより具体的な機能について説明する。ECU50は、いわゆる気筒数制御(全筒運転するか減筒運転するかの切り替え制御)に関する特有の機能的要素として、運転要求判定部51、バルブ制御部52、バルブ復帰判定部53、および燃焼制御部54を有している。
運転要求判定部51は、アクセル開度センサSN5やクランク角センサSN1の検出値から特定されるエンジンの運転条件(負荷、回転速度等)に基づいて、エンジンの減筒運転および全筒運転のいずれを選択するかを判定するものである。例えば、運転要求判定部51は、エンジンの負荷および回転速度が比較的低い特定の運転条件にあるときに、第1、第4気筒2A,2Dを休止させる(第2、第3気筒2B,2Cのみを稼働させる)減筒運転の要求があると判定する。逆に、上記特定の運転条件を除く残余の運転条件にあるときには、第1〜第4気筒2A〜2Dを全て稼働させる全筒運転の要求があると判定する。
バルブ制御部52は、全筒運転から減筒運転への切り替え要求もしくは減筒運転から全筒運転への切り替え要求があることが上記運転要求判定部51により確認された場合に、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の作動状態を切り替えるものである。例えば、全筒運転から減筒運転への切り替え要求があったとき、バルブ制御部52は、S−HLA25の弁停止機構25aがロック解除状態(図3(c)参照)となるように作動油圧を制御することにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の開閉動作を停止させ、当該吸排気弁8,9を閉弁状態のまま停止させる。一方、減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったとき、バルブ制御部52は、弁停止機構25aがロック状態(図3(a)参照)になるように作動油圧を制御することにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の開閉動作を再開させる(弁停止動作を解除する)。
バルブ復帰判定部53は、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、上記弁停止動作が本当に解除されたか否か、つまり、休止気筒である第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の開閉動作が正常に復帰したか否かを判定するものである。詳細は後述するが、バルブ復帰判定部53は、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度、振動センサSN2により検出されるエンジン本体1の振動強度、および吸気圧センサSN4により検出される吸気の圧力に基づいて、上記のような開閉動作の復帰の有無を判定する。
燃焼制御部54は、減筒運転か全筒運転かに応じて第1、第4気筒2A,2Dのインジェクタ12および点火プラグ13の制御を切り替えるものである。すなわち、エンジンが全筒運転されているとき、燃焼制御部54は、全ての気筒2A〜2Dのインジェクタ12および点火プラグ13を駆動して燃料噴射および点火を実行し、全ての気筒2A〜2Dで混合気を燃焼させる。一方、エンジンが減筒運転されているとき、燃焼制御部54は、休止気筒である第1、第4気筒2A,2Dでの燃焼を停止させるために、当該気筒のインジェクタ12および点火プラグ13の駆動を禁止する。特に、減筒運転から全筒運転への切り替え時、燃焼制御部54は、バルブ復帰判定部53により第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の正常復帰が確認された後に、当該気筒2A,2Dへの燃料噴射および点火を再開させる。
(4)バルブ復帰判定ロジック
次に、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の正常復帰が上述したバルブ復帰判定部53によりどのように判定されるのかについて具体的に説明する。なお、以下では、減筒運転時に休止状態にある第1気筒2Aまたは第4気筒2Dのことを指して、単に「休止気筒」ということがある。
図5は、減筒運転から全筒運転への切り替え時における特定の休止気筒(第1気筒2Aまたは第4気筒2D)の状態変化を時系列で示したタイムチャートである。この図5の例では、時点t0において減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったものとする。このため、時点t0よりも以前は、弁停止機構25aが図3(c)に示したロック解除状態にあり、上記休止気筒の吸気弁8および排気弁9はともに閉弁状態のまま停止している(図5では、吸気弁8を「IN」、排気弁9を「EX」と表記)。一方、時点t0で全筒運転への切り替え要求があると、その時点で弁停止機構25aに制御信号が出力されて、弁停止機構25aが図3(a)に示したロック状態に変位するように作動油圧が制御される。これにより、上記休止気筒では、例えば時点t0の後にくる最初の排気行程から排気弁9の開閉動作が再開されるとともに、これに続く吸気行程から吸気弁8の開弁動作が再開される。なお、弁停止機構25aが実際にロック状態に変位するまでにはある程度の時間(作動遅れ時間)が必要である。このため、全筒運転への切り替え要求が排気行程にあまりに近いタイミングで発生した場合は、切り替え要求後の最初の排気行程から排気弁9を開閉させることはできない。そこで、このような場合には、次サイクルの排気行程および吸気行程から吸排気弁8,9の開閉動作を再開させる。
バルブ復帰判定部53は、吸排気弁8,9の開閉動作が再開されるのに合わせて、吸排気弁8,9が正常に復帰したか否かを所定の判定ロジックを用いて判定する。当実施形態では、休止気筒の排気弁9が正常復帰したか否かを判定するための手段として3つの判定ロジックが用意され、休止気筒の吸気弁8が正常復帰したか否かを判定するための手段として1つの判定ロジックが用意されている。以下では、排気弁9の復帰判定に用いられる3つの判定ロジックをI,II,III、吸気弁8の復帰判定に用いられる判定ロジックをIVとし、それぞれの判定ロジックについて詳しく説明する。
(i)判定ロジックI
判定ロジックIは、休止気筒が排気行程から吸気行程に移行する時期に生じるエンジンの速度変動(回転速度の低下幅)に基づき排気弁9の正常復帰を判定するものである。
すなわち、休止気筒のピストン11が排気上死点(排気行程と吸気行程の間の上死点)を通過するとき、他の気筒のピストン11は圧縮上死点を通過しているので、図6に破線で示すように、エンジン回転速度は排気上死点の前後にわたってやや低下する。このとき、例えば弁停止機構25aが故障するなどして排気弁9が閉弁状態のまま停止していた場合には、休止気筒のピストン11は燃焼室10内のガス(空気または排気ガスもしくはその混合物)を圧縮することになり、当該ピストン11に圧縮反力が加わることになる。このように、排気弁9が復帰に失敗した場合は、圧縮上死点を通過する上記他の気筒のピストン11だけでなく、排気上死点を通過する休止気筒のピストン11にも圧縮反力が加わるので、図6に実線で示すように、エンジン回転速度の低下幅ΔRはより大きい値として現れる。
以上のような現象を利用すれば、エンジン回転速度の低下幅ΔRが小さいときは排気弁9が正常復帰したと判定でき、当該低下幅ΔRが大きいときは排気弁9が復帰に失敗したと判定することができる。そこで、判定ロジックIとして、当実施形態では、クランク角センサSN1の検出値に基づくエンジン回転速度を休止気筒の排気上死点を挟んだ所定期間にわたって調べ、そこから特定される回転速度の低下幅ΔRに基づいて、排気弁9が正常復帰したか否かを判定する。なお、回転速度の低下幅ΔRは、例えば、排気上死点の時点でのエンジン回転速度と、そこから所定クランク角だけ前の時点でのエンジン回転速度との差分をとることで特定することができる。
図5に示される符号w1の期間は、上記判定ロジックIにより排気弁9の復帰判定をするためのモニタリング期間(エンジン回転速度の変動を調べる期間)を表している。この場合において、全筒運転への切り替え要求時点t0を基準にした判定ロジックIによる判定所要時間は、時点t0から上記モニタリング期間w1の終了時点までの期間T1となる。
図9(a)は、上記エンジン回転速度の低下幅ΔR(速度変動)をパラメータとして、休止気筒の排気弁9が正常復帰したケースと復帰に失敗したケースとがどのような確率で現れるのかを説明するための図である。本図に示すように、回転速度の低下幅ΔRがr1よりも小さい場合には、排気弁9は確実に正常復帰していると判定することができ、回転速度の低下幅ΔRがr2よりも大きい場合には排気弁9は確実に復帰に失敗した(閉弁状態のまま停止している)と判定することができる。これに対し、回転速度の低下幅ΔRがr1以上r2以下である場合は、排気弁9が正常復帰したときと復帰に失敗したときとの両方が想定され得る。このため、低下幅ΔRがr1以上r2以下である場合は、排気弁9が正常復帰したのか復帰に失敗したのかを判定できないことになる。
(ii)判定ロジックII
判定ロジックIIは、休止気筒の排気弁9が閉弁する時期に生じるエンジン本体1の振動に基づき排気弁9の正常復帰を判定するものである。
すなわち、休止気筒の排気弁9が全筒運転への切り替えに伴って開閉動作を再開させたとすれば、排気弁9が閉弁する時期に、排気弁9の傘部がバルブシートに着座することに伴う振動がエンジン本体1に生じる。このような現象を利用すれば、排気弁9の閉時期において振動強度が大きいときは排気弁9が正常復帰したと判定でき、振動強度が小さいときは排気弁9が復帰に失敗したと判定することができる。そこで、判定ロジックIIとして、当実施形態では、振動センサSN2の検出値に基づくエンジン本体1の振動強度を休止気筒の排気弁9の閉時期を挟んだ所定期間にわたって調べ、その間に得られる振動強度の最大値等に基づいて、排気弁9が正常復帰したか否かを判定する。
図5に示される符号w2の期間は、上記判定ロジックIIにより排気弁9の復帰判定をするためのモニタリング期間(エンジン本体1の振動強度を調べる期間)を表している。この場合において、全筒運転への切り替え要求時点t0を基準にした判定ロジックIIによる判定所要時間は、時点t0から上記モニタリング期間w2の終了時点までの期間T2となる。
図9(b)は、上記エンジン本体1の振動強度をパラメータとして、休止気筒の排気弁9が正常復帰したケースと復帰に失敗したケースとがどのような確率で現れるのかを説明するための図である。本図に示すように、振動強度がs2よりも大きい場合には、排気弁9は確実に正常復帰していると判定することができ、振動強度がs1よりも大きい場合には排気弁9は確実に復帰に失敗した(閉弁状態のまま停止している)と判定することができる。これに対し、振動強度がs1以上s2以下である場合は、排気弁9が正常復帰したときと復帰に失敗したときとの両方が想定され得る。このため、振動強度がs1以上s2以下である場合は、排気弁9が正常復帰したのか復帰に失敗したのかを判定できないことになる。
(iii)判定ロジックIII
判定ロジックIIIは、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する時期の前後にわたる吸気の圧力変動に基づき排気弁9の正常復帰を判定するものである。
例えば、弁停止機構25aが故障するなどして休止気筒の排気弁9が閉弁状態のまま停止していたとすれば、先にも説明したとおり、休止気筒のピストン11が排気上死点を通過する際に、当該ピストン11は燃焼室10内のガスを圧縮することになる。したがって、図7に示すように、排気上死点の近傍で吸気弁8が開弁を開始したとき(図7ではこの時期をIVOとして表している)、上記燃焼室10内の圧縮ガスが吸気ポート6を通じて吸気通路30へと逆流し、吸気圧力が一時的に上昇する現象が起きる。一方、休止気筒の排気弁9が正常復帰していれば、上述したピストン11によるガス圧縮は起きないので、吸気弁8の開弁開始時期に吸気圧力はそれほど上昇しなくなる。
以上のような現象を利用すれば、吸気弁8の開弁開始時期における吸気の圧力変動が小さいときは排気弁9が正常復帰したと判定でき、当該圧力変動が大きいときは排気弁9が復帰に失敗したと判定することができる。そこで、判定ロジックIIIとして、当実施形態では、吸気圧センサSN4の検出値に基づく吸気圧力を休止気筒の吸気弁8の開弁開始時期を挟んだ所定期間にわたって調べ、そこから特定される吸気の圧力変動に基づいて、排気弁9が正常復帰したか否かを判定する。
なお、吸気の圧力変動としては、図8に示すような種々の状態量を採用することができる。例えば、上記所定期間内に検出された吸気圧力の最大値とその直前に現れる圧力波形の谷の部分の圧力値との差分をとり(図8の(x))、これを圧力変動として採用することが考えられる。また、上記所定期間内に検出された吸気圧力の最大値と最小値との差分をとり(図8の(z))、これを圧力変動として採用してもよい。あるいは、吸気圧力が最大値に向かって上昇するときの上昇率(傾き)をとり(図8の(y))、これを圧力変動として採用してもよい。
図5に示される符号w3の期間は、上記判定ロジックIIIにより排気弁9の復帰判定をするためのモニタリング期間(吸気の圧力変動を調べる期間)を表している。本図に示すように、吸気の圧力変動を調べるモニタリング期間は、全筒運転への切り替え要求があった後(時点t0以降)において休止気筒で最初に開弁する吸気弁8の開弁開始時期ではなく、その次のサイクルで開弁する吸気弁8の開弁開始時期を挟んだ所定期間に設定される。したがって、全筒運転への切り替え要求時点t0を基準にした判定ロジックIIIによる判定所要時間は、時点t0から上記モニタリング期間w3の終了時点までの期間T3となり、上述した判定ロジックI,IIによる判定所要時間T1,T2よりも長くなる。このように、判定ロジックIIIにおいて判定所要時間を長くしている(1サイクル後の吸気の圧力変動を調べる)のは、吸気の圧力変動が生じる条件を揃えてより精度よく排気弁9の復帰判定を行うためである。
すなわち、エンジンが減筒運転されている間、休止気筒では、吸気弁8および排気弁9の双方が閉弁したままピストン11が往復運動することになるので、その往復運動を通じて、ピストン11と燃焼室10の内壁との隙間からガスが外部に漏れることにより、燃焼室10の内部圧力は徐々に低下する。このため、仮に減筒運転から全筒運転への切り替え時にいきなり(最初の吸気弁8の開弁開始時期に)排気弁9の復帰判定を行った場合には、それまでの減筒運転の継続時間の長短に応じて吸気の圧力変動に有意な差が生じることから、排気弁9の復帰判定の精度が低下すると想定される。そこで、当実施形態では、休止気筒で最初に開弁する吸気弁8の開弁開始時期ではなく、その次のサイクルで開弁する吸気弁8の開弁開始時期を挟んだ期間w3を、吸気弁9の復帰判定をするための吸気圧力のモニタリング期間として設定している。つまり、最初の吸気弁8の開弁により燃焼室10に吸気を導入して燃焼室10内のガス量を一定に揃えた上で、その次のサイクルで開弁する吸気弁8の開弁開始時期に吸気の圧力変動を調べることにより、圧力変動が起きる条件を揃えて復帰判定の精度を高めるようにしている。
図9(c)は、上記吸気の圧力変動をパラメータとして、休止気筒の排気弁9が正常復帰したケースと復帰に失敗したケースとがどのような確率で現れるのかを説明するための図である。本図に示すように、吸気の圧力変動がu1よりも小さい場合には、排気弁9は確実に正常復帰していると判定することができ、吸気の圧力変動がu1よりも大きい場合には排気弁9は確実に復帰に失敗した(閉弁状態のまま停止している)と判定することができる。なお、本図から明らかなように、判定ロジックIIIでは、先に説明した判定ロジックI,IIとは異なり、排気弁が正常復帰したとも復帰に失敗したとも判定できない領域は存在しない。
(iv)判定ロジックI,II,IIIの比較
以上説明したとおり、当実施形態では、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、3つの判定ロジックI,II,IIIを用いて排気弁9が正常復帰したか否かを判定する。これら3つの判定ロジックI,II,IIIを比較すると、次のような特性の相違がある。
すなわち、エンジンの速度変動に基づき排気弁9の正常復帰を判定する判定ロジックIは、全筒運転への切り替え要求後に排気弁9が最初に開弁する排気行程の終了時、つまり排気上死点を挟んだ所定期間w1にわたってエンジン回転速度の変動を調べるものである。また、エンジンの振動に基づき排気弁9の正常復帰を判定する判定ロジックIIは、全筒運転への切り替え要求後に最初に開弁した排気弁9の閉時期を挟んだ所定期間w2にわたってエンジン本体1の振動を調べるものである。このため、判定ロジックI,IIによる判定所要時間T1,T2に大きな差はなく、図5の例では、全筒運転への切り替え要求後の1度目の吸気行程の途中で判定所要時間T1,T2が経過し、判定ロジックI,IIによる判定が完了する。
これに対し、吸気の圧力変動に基づき排気弁9の正常復帰を判定する判定ロジックIIIは、全筒運転への切り替え要求後に吸気弁8が2回目に開弁を開始する時期を挟んだ所定期間w3にわたって吸気の圧力変動を調べるものである。このため、判定ロジックIIIによる判定所要時間T3は、上述した判定ロジックI,IIによる判定所要時間T1,T2よりも長く、図5の例では、全筒運転への切り替え要求後の2度目の吸気行程の途中で判定所要時間T3が経過し、判定ロジックIIIによる判定が完了する。
以上のように、3つの判定ロジックI,II,IIIを比較すると、判定ロジックI,IIよりも判定ロジックIIIの方が判定所要時間は長い。ただし、図9(a)(b)(c)の比較からも理解されるように、判定ロジックIIIは、判定ロジックI,IIに比べて、排気弁9が正常復帰したのか復帰に失敗したのかをより明確に判定することができる。すなわち、判定ロジックI,IIでは、パラメータがある特定の範囲にあるときには排気弁9が正常復帰したのか復帰に失敗したのかを把握できない(どちらのケースにも該当し得るため判定が不可能になる)のに対し、判定ロジックIIIでは、排気弁9が正常復帰したのか復帰に失敗したのかをパラメータの値に応じて明確に判定することができる(判定不能になるパラメータ領域が存在しない)。言い換えると、判定ロジックIIIについては、排気弁9が正常復帰したか否かの判定ができない確率である判定不能率がゼロであるのに対し、判定ロジックI,IIは判定不能率がゼロではなく、判定ロジックIIIよりも判定不能率が高いということができる。
以上のことから、判定ロジックI,IIは、請求項にいう「第1の判定ロジック」に相当し、判定ロジックIIIは、請求項にいう「第2の判定ロジック」(第1の判定ロジックに比べて判定不能率が低くかつ判定所要時間が長い第2の判定ロジック)に相当する。
(v)判定ロジックIV
次に、吸気弁8が正常復帰したか否かを判定するための判定ロジックIVについて説明する。判定ロジックIVは、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり吸気圧力をスペクトル解析した結果に基づき吸気弁8の正常復帰を判定するものである。
図10(a)(b)は、クランク角に応じて変化する吸気圧力の波形を示している。具体的に、図10(a)は、休止気筒の吸気弁8および排気弁9が正常に開閉駆動されている全筒運転時の吸気圧力の波形を示し、図10(b)は、休止気筒の吸気弁8および排気弁9が閉弁状態のまま停止している減筒運転時の吸気圧力の波形を示している。これらの図から理解されるように、休止気筒の吸排気弁8,9が正常に開閉駆動されている全筒運転時の吸気圧力の波形(図10(a))は、概ね180°CAの周期性を有している。これに対し、休止気筒の吸排気弁8,9が停止している減筒運転時の吸気圧力の波形(図10(b))は、概ね360°CAの周期性を有している。
図11(a)(b)は、上記のような全筒運転時および減筒運転時のそれぞれの吸気圧力を、360°CAを1周期とする周波数を基本周波数としてスペクトル解析した結果を示している。各図の横軸は基本周波数に対する次数(1次、2次、3次‥)を示し、縦軸はスペクトル強度を示している。全筒運転時の吸気圧力は180°CAの周期性を有しているため、これをスペクトル解析すると、スペクトル強度は2次のものが大きくなる(図11(a))。一方、減筒運転時の吸気圧力は360°CAの周期性を有しているため、これをスペクトル解析すると、スペクトル強度は1次のものが大きくなる(図11(b))。
図12は、種々の運転条件で吸気圧力をスペクトル解析して得られたデータを、1次のスペクトル強度(1次強度)SP1と2次のスペクトル強度(2次強度)SP2との相関関係を表すように加工したグラフである。このグラフに示される領域Aは、休止気筒の吸気弁8および排気弁9が正常に開閉駆動されている場合に得られるデータのプロット領域であり、領域Bは、休止気筒の吸気弁8のみが開閉駆動されている場合(排気弁9は閉弁状態のまま停止している場合)に得られるデータのプロット領域である。また、領域Cは、休止気筒の吸気弁8および排気弁9の双方が閉弁状態のまま停止している場合に得られるデータのプロット領域である。
図12のグラフにおいて、領域A,Bは、所定の直線Pを挟んだ2領域のうちの一方側、より詳しくは、1次強度SP1に対する2次強度SP2の割合である強度比SP2/SP1が直線Pの傾きαよりも大きい領域に存在している。一方、領域Cは、直線Pを挟んだ2領域のうちの他方側、より詳しくは、強度比SP2/SP1がαよりも小さい領域に存在している。このことから、強度比SP2/SP1がαよりも大きければ、吸排気弁8,9の双方が開閉駆動されているか吸気弁8のみが開閉駆動されているかのどちらかである、つまり、少なくとも吸気弁8は正常に開閉駆動されていると判定することができる。一方、強度比SP2/SP1がαよりも小さければ、吸排気弁8,9の双方が閉弁状態のまま停止していると判定することができる。
以上のような事象から、当実施形態では、判定ロジックIVとして、吸気圧センサSN4の検出値に基づく吸気圧力を休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり取得し、その吸気圧力のデータをスペクトル解析した結果に基づいて、吸気弁8が正常復帰したか否かを判定する。
図5に示される符号w4の期間は、上記判定ロジックIVにより吸気弁8の復帰判定をするためのモニタリング期間(吸気圧力を調べる期間)を表している。図5の例では、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する排気上死点から360°CAの期間がモニタリング期間w4とされている。この場合において、全筒運転への切り替え要求時点t0を基準にした判定ロジックIVによる判定所要時間は、時点t0から上記モニタリング期間w4の終了時点までの期間T4となる。
(5)減筒運転から全筒運転に復帰する際の制御動作
次に、減筒運転から全筒運転への切り替え時に行われる制御動作について、図13のフローチャートを用いて詳しく説明する。なお、このフローチャートによる制御が開始される前提として、エンジンは減筒運転されているものとする。
エンジンの減筒運転中、ECU50の運転要求判定部51は、アクセル開度センサSN5およびクランク角センサSN1等から特定されるエンジンの負荷および回転速度に基づいて、減筒運転から全筒運転に切り替える要求があるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、運転要求判定部51は、減筒運転に適合する運転条件(負荷および回転速度が比較的低い運転条件)から負荷または回転速度が上昇して全筒運転を行うべき条件に移行した場合に、減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったと判定する。
上記ステップS1でYESと判定されて全筒運転への切り替え要求が確認された場合、ECU50のバルブ制御部52は、S−HLA25の弁停止機構25aをロック解除状態からロック状態に切り替える制御信号を出力し、休止気筒(第1気筒2Aおよび第4気筒2D)の吸排気弁8,9の開閉駆動を再開させる処理を開始する(ステップS2)。
次いで、ECU50のバルブ復帰判定部53は、休止気筒が排気行程から吸気行程に移行する時期に生じるエンジンの速度変動(回転速度の低下幅)をクランク角センサSN1の検出値から特定し、その速度変動に基づき休止気筒の排気弁9が正常復帰したか否かを判定する処理、つまり上述した判定ロジックIによる判定処理を開始する(ステップS3)。
また、バルブ復帰判定部53は、休止気筒の排気弁9が閉弁する時期に生じるエンジン本体1の振動強度を振動センサSN2の検出値から特定し、その振動強度に基づき休止気筒の排気弁9が正常復帰したか否かを判定する処理、つまり上述した判定ロジックIIによる判定処理を開始する(ステップS4)。
さらに、バルブ復帰判定部53は、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり吸気圧センサSN4で検出された吸気圧力をスペクトル解析し、そのスペクトル解析の結果に基づいて休止気筒の吸気弁8が正常復帰したか否かを判定する処理、つまり上述した判定ロジックIVによる判定処理を開始する(ステップS5)。
上記の各判定ロジックI,II,IVによる判定処理を開始した後、バルブ復帰判定部53は、判定ロジックIにより排気弁9が正常復帰したと判定できるか否かを判定する(ステップS6)。例えば、図9(a)に示したように、エンジン回転速度の低下幅ΔRがr1よりも小さければ、排気弁9が正常復帰したと判定することができる。逆に、低下幅ΔRがr1以上であれば、排気弁9が正常復帰したと判定することはできない。つまり、排気弁9が復帰に失敗したか、あるいは復帰の成否判定が不可能であるかのいずれかである。
上記ステップS6でNOと判定されて排気弁9の正常復帰が確認できなかった場合、バルブ復帰判定部53は、判定ロジックIIにより排気弁9が正常復帰したと判定できるか否かを判定する(ステップS7)。例えば、図9(b)に示したように、エンジン本体1の振動強度がs2よりも大きければ、排気弁9が正常復帰したと判定することができる。逆に、振動強度がs2以下であれば、排気弁9が正常復帰したと判定することはできない。つまり、排気弁9が復帰に失敗したか、あるいは復帰の成否判定が不可能であるかのいずれかである。
上記ステップS7でNOと判定されて排気弁9の正常復帰が確認できなかった場合、バルブ復帰判定部53は、全筒運転への切り替え要求後に休止気筒の吸気弁8が2回目に開弁を開始する時期まで待った上で、当該吸気弁8の開弁開始時期の前後にわたる吸気の圧力変動を吸気圧センサSN4の検出値から特定し、その吸気の圧力変動に基づき排気弁9の正常復帰を判定する処理、つまり判定ロジックIIIによる判定処理を開始する(ステップS8)。
次いで、バルブ復帰判定部53は、判定ロジックIIIにより排気弁9が正常復帰したと判定できるか否かを判定する(ステップS9)。例えば、図9(c)に示したように、吸気の圧力変動がu1よりも小さければ、排気弁9が正常復帰したと判定することができる。逆に、圧力変動がu1よりも大きければ、排気弁9が復帰に失敗したという判定になる。
上記ステップS9でNOと判定されて排気弁9の正常復帰が確認できなかった場合(復帰に失敗したと判定された場合)、ECU50は、エンジンの減筒運転を維持する(ステップS10)。すなわち、ECU50の燃焼制御部54により、休止気筒(第1気筒2Aおよび第4気筒2D)のインジェクタ12および点火プラグ13の作動を停止させて燃焼噴射および点火を禁止する処理が継続され、エンジンの減筒運転が維持される。
次に、上記ステップS6,S7,S9のいずれかでYESと判定された場合、つまり、判定ロジックI,II,IIIのいずれかにより排気弁9の正常復帰が確認された場合の制御について説明する。この場合、ECU50のバルブ復帰判定部53は、判定ロジックIVにより吸気弁8が正常復帰したと判定できるか否かを判定する(ステップS11)。例えば、図12に示したように、吸気圧力波形の1次強度SP1と2次強度SP2との比(強度比)SP2/SP1が直線Pの傾きαよりも大きければ、吸気弁8が正常復帰したと判定することができる。逆に、強度比SP2/SP1がαよりも小さければ、吸気弁8が復帰に失敗したという判定になる。
上記ステップS11でYESと判定されて吸気弁8の正常復帰が確認された場合、ECU50は、エンジンの運転を減筒運転から全筒運転に切り替える(ステップS12)。すなわち、ECU50の燃焼制御部54により、休止気筒(第1気筒2Aおよび第4気筒2D)のインジェクタ12および点火プラグ13を作動させて燃料噴射および点火を再開させる処理が実行され、全ての気筒2A〜2Dで燃焼が行われる全筒運転へと切り替えられる。
一方、上記ステップS11でNOと判定されて吸気弁8の正常復帰が確認できなかった場合(復帰に失敗したと判定された場合)、ECU50は、エンジンの減筒運転を維持する(ステップS10)。
(6)作用等
以上説明したとおり、当実施形態では、減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったときに、複数の判定ロジックI,II,IIIを用いて排気弁9の正常復帰が判定される。このうち、判定ロジックIIIは、判定ロジックI,IIと比べて、排気弁9が正常復帰したか否かを判定できない確率である判定不能率が低く、かつ判定に要する時間である判定所要時間が長いという特性がある。判定ロジックIまたは判定ロジックIIにより排気弁9の正常復帰が確認された場合(ステップS6,S7のいずれかでYESと判定された場合)には、判定ロジックIIIによる判定結果を待つことなく上記休止気筒への燃料供給が再開される(ステップS12)。一方、判定ロジックI,IIにより排気弁9の正常復帰が確認できなかった場合(ステップS6,S7でいずれもNOと判定された場合)には、判定ロジックIIIにより排気弁9の正常復帰が確認されてから(ステップS9の判定がYESとなってから)、上記休止気筒への燃料供給等が再開される(ステップS12)。このような構成によれば、減筒運転から全筒運転への切り替え時に排気弁9が正常復帰したか否かの判定を効率的かつ高精度に行うことができるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、判定所要時間の短い判定ロジックI,IIのいずれかで排気弁9の正常復帰が確認された場合に、判定所要時間の長い判定ロジックIIIによる判定結果を待たずに休止気筒への燃料供給等が再開されるので、休止気筒での燃焼が再開されるタイミング(実質的に全筒運転に切り替わるタイミング)を可及的に早めることができ、減筒運転から全筒運転への切り替えを迅速化することができる。例えば、図5に「INJ」「IG」(▼の記号)として示すように、判定ロジックI,IIによる判定所要時間T1,T2を経過した後に迎える最初の吸気行程(図例では全筒運転への切り替え要求後の2回目の吸気行程)とこれに続く圧縮行程にて、休止気筒に対する燃料噴射(INJ)および点火(IG)を実行して燃焼を再開させることができる。
一方、判定ロジックI,IIにより排気弁9の正常復帰が確認できなかった場合でも、判定不能率が低い判定ロジックIIIにより排気弁9が正常復帰したか否かが判定されるので、判定に要する時間は多少長くなるものの、排気弁9が正常復帰したことを見逃す可能性を低減でき、排気弁9の正常復帰をより精度よく判定することができる。そして、判定ロジックIIIにより排気弁9の正常復帰が確認された場合には、それ以降に休止気筒への燃料供給等を再開することにより、排気弁9が間違いなく正常復帰している状態で休止気筒での燃焼を再開させて全筒運転に切り替えることができる。例えば、図5のケースでは、判定ロジックIIIによる判定所要時間T3を経過した後に最初に迎える吸気行程(図5中最も右側の吸気行程のさらにその次の吸気行程)とこれに続く圧縮行程にて、休止気筒に対する燃料噴射および点火を実行して燃焼を再開させることができる。このように、排気弁9が正常復帰した後に休止気筒での燃焼を再開させることにより、燃焼により生じた高温の排気ガスが吸気通路30を逆流するバックファイアが起きるのを確実に防止することができ、エンジンを適切に保護することができる。
また、上記実施形態では、判定ロジックIとして、休止気筒が排気行程から吸気行程に移行する時期に生じるエンジンの速度変動に基づき排気弁9の正常復帰を判定するとともに、判定ロジックIIとして、休止気筒の排気弁9が閉弁する際に生じるエンジンの振動に基づき排気弁9の正常復帰を判定するので、エンジンの回転速度や振動を検出する既存のセンサ(クランク角センサSN1および振動センサSN2)を用いて、簡単に、しかも短時間で排気弁9の正常復帰を判定することができる。一方、判定ロジックIIIとして、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する時期の前後にわたる吸気の圧力変動に基づき排気弁9の正常復帰を判定するので、判定に要する時間は多少長くなるものの、吸気圧力を検出する既存のセンサ(吸気圧センサSN4)を用いて、簡単かつ確実に排気弁9の正常復帰を判定することができる。
また、上記実施形態では、減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったときに、休止気筒の排気弁9が正常復帰したか否かだけでなく、休止気筒の吸気弁8が正常に復帰したか否かが判定され(判定ロジックIV)、これら吸気弁8および排気弁9の双方の復帰が確認された場合に限り(ステップS11での判定がYESの場合に)、休止気筒への燃料供給等が再開される(ステップS12)。このように、吸排気弁8,9の双方の正常復帰を全筒運転に切り替えるための前提条件とした場合には、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、バックファイアの発生を防止できるだけでなく、休止気筒に吸気が導入されないことに起因した失火等の発生を防止することができる。
また、上記実施形態では、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり検出された吸気圧力をスペクトル解析した結果に基づいて休止気筒の吸気弁8が正常復帰したか否かを判定するので、吸気圧力を検出する既存のセンサ(吸気圧センサSN4)を用いて、簡単かつ確実に吸気弁8の正常復帰を判定することができる。
なお、上記実施形態では、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、休止気筒の吸気弁8および排気弁9の双方が正常復帰したか否かを判定したが、吸気弁8の復帰判定は省略してもよい。すなわち、排気弁9が復帰に失敗した状態で燃料噴射等を再開した場合はバックファイアのような現象が起きてエンジンに重大な影響が及ぶものの、吸気弁8のみが復帰に失敗した状態で燃料噴射等を再開してもエンジン自体には重大な影響が及ばないので、少なくとも排気弁9が正常復帰したか否かを判定し、吸気弁8の復帰判定は省略してもよい。
上記のように排気弁9の正常復帰のみを確認した上で燃料噴射等を再開するようにした場合(吸気弁8の正常復帰を省略した場合)には、より迅速に全筒運転への切り替えを果たすことが可能である。すなわち、判定ロジックI,IIのいずれかにより排気弁9の正常復帰が確認された場合に、吸気弁8の判定結果を待つことなく(上述した判定ロジックIVによる判定処理を経ることなく)、直ちに休止気筒への燃料噴射等を再開できるので、実質的な全筒運転への切り替え時期をより早めることができる。例えば、図5のケースでは、全筒運転への切り替え要求(時点t0)後に休止気筒が迎える最初の吸気行程または圧縮行程で燃料噴射を再開することにより、休止気筒の1回目の圧縮上死点の近傍から燃焼を再開させることができ、最短で全筒運転に切り替えることができる。
さらに、吸気弁8の復帰判定を行いつつも、その判定結果を事後的に反映させることにより、運転切り替えの迅速化を図ることもできる。例えば、判定ロジックI,IIのいずれかにより排気弁9の正常復帰が確認されると、直ちに休止気筒への燃料噴射等を再開し、その後に吸気弁8が復帰に失敗したことが確認されると、その後の燃料噴射等を再び禁止する(減筒運転に戻す)という方法が考えられる。
また、図5の例では、全筒運転への切り替え時に休止気筒で再開される燃料噴射の目標時期が、吸気行程の中期(図5の▼「INJ」)に設定されるものとした。このため、判定ロジックI,IIでは排気弁9の正常復帰が確認できず、その後判定ロジックIIIにより排気弁9の正常復帰が確認できた場合において、判定ロジックIIIによる判定所要期間T3(図5)が経過した時点では、目標の噴射時期まで余裕がなく、次のサイクルの吸気行程がくるのを待ってから燃料噴射を再開させる必要があった。しかしながら、目標の噴射時期を例えば吸気行程の後期や圧縮行程に設定した場合には、判定ロジックIIIによる判定所要期間T3(図5)が経過した時点で、まだ目標の燃料噴射時期まで余裕があることになる。そこで、このような場合には、次のサイクルまで待つことなく、現サイクルの吸気行程または圧縮行程で燃料噴射等を行って直近の圧縮上死点(図5では最も右側の圧縮上死点)から燃焼を再開させるのが望ましい。
また、上記実施形態では、排気弁9が復帰に失敗すると休止気筒内のガスが排気行程中にピストン11によって圧縮されるという現象を利用して、排気行程から吸気行程に移行する時期に生じるエンジン回転速度の低下幅ΔR(図6)を調べ、その低下幅ΔRに基づいて排気弁9が正常復帰したか否かを判定するようにしたが(判定ロジックI)、上記のようなピストン11による圧縮現象を同じく利用して、別の方法で排気弁9の正常復帰を判定することも可能である。
例えば、点火プラグ13を利用することが考えられる。すなわち、点火プラグ13において放電が開始されるときの印加電圧である絶縁破壊電圧は、燃焼室10のガス密度によって変化し、絶縁破壊電圧が変化すれば、これに伴って放電持続時間も変化する。そこで、休止気筒の排気上死点において点火プラグ13に放電させ、そのときの放電持続時間を調べれば、休止気筒内のガスがピストン11により圧縮されているか否か、つまり排気弁9が復帰に失敗したか否かを判定することができる。
また、上記実施形態では、4気筒ガソリンエンジンに本発明の制御装置を適用した例について説明したが、本発明の制御装置が適用可能なエンジンの形式はこれに限られない。例えば、6気筒や8気筒など、4気筒以外の多気筒エンジンを対象としてもよく、また、ディーゼルエンジン、エタノール燃料エンジンやLPGエンジン等、他種の内燃機関を対象としてもよい。