JP2015178602A - アップコンバージョン被覆粒子 - Google Patents

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Kunio Fujii
邦生 藤井
森 一起
Kazuoki Mori
一起 森
修 小田原
Osamu Odawara
修 小田原
裕之 和田
Hiroyuki Wada
裕之 和田
圭吾 大鷲
Keigo Owashi
圭吾 大鷲
孫 仁徳
Hitonori Son
孫  仁徳
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Abstract

【課題】生体適合性に優れ、PDTやバイオマーカー等の医療用途に好適で使用でき、粒子の凝集を抑制することが可能なアップコンバージョン被覆粒子を提供する。
【解決手段】アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子と、前記ランタノイド含有無機微粒子を被覆する被覆層とを有し、前記被覆層は、シリカ、両親媒性ポリマー及び光感受性物質を含有するアップコンバージョン被覆粒子。
【選択図】 なし

Description

本発明は、生体適合性に優れ、粒子の凝集を抑制することが可能なアップコンバージョン被覆粒子に関する。
赤外線等の長波長の光を、可視光や紫外線等の短波長の光へと変換する「アップコンバージョン」機能を有する無機微粒子は、マトリックス材料中に分散させることにより、アップコンバージョン機能を付与した高機能化材料として、近年注目を浴びている。
なお、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子としては、主にランタノイド元素を含有するものが知られており、これら元素のエネルギー準位差による「多光子励起」という現象を利用している。
また、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子は、光線力学的治療(PDT)、バイオマーカー等の医療用途への応用が期待されている。特に、PDTでは、光感受性物質が腫瘍に特異的に集積することを利用し、腫瘍の部位を特定することにより早期発見することができる。また、これらの物質に光を照射することにより光感受性物質が活性化され、例えば、活性酸素や酸素ラジカルを発生させて腫瘍細胞を直接的に死滅、破壊、又は増殖能力を減少させることが期待できる。
例えば、非特許文献1には、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子と、がんに集積性を示す光感受性物質とについて、レーザー光照射による光化学反応を利用した局所的治療法が開示されている。
しかしながら、このような方法では、光感受性物質を無機微粒子に被覆する際に、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子と光感受性物質との距離が離れていたり、光感受性物質の濃度が不充分であったりすることに起因して充分な量の活性酸素や酸素ラジカルを発生できないという問題があった。また、粒子同士が凝集してしまい、粗大化してしまうという問題も生じていた。
F. Chen, S. Zhang, W. Bu, Y. Chen, Q. Xiao, J. Liu, et al., A uniform sub-50 nm-sized magnetic/upconversion fluorescent bimodal imaging agent capable of generating singlet oxygen by using a 980 nm laser., Chemistry. 18 (2012) 7082-90.
本発明は、上記現状に鑑み、生体適合性に優れ、PDTやバイオマーカー等の医療用途に好適で使用でき、粒子の凝集を抑制することが可能なアップコンバージョン被覆粒子を提供することを目的とする。
本発明は、アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子と、前記ランタノイド含有無機微粒子を被覆する被覆層とを有し、前記被覆層は、シリカ、両親媒性ポリマー及び光感受性物質を含有するアップコンバージョン被覆粒子である。
以下に本発明を詳述する。
本発明のアップコンバージョン被覆粒子は、アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子を有する。
上記ランタノイド含有無機微粒子を有することで、本発明のアップコンバージョン被覆粒子は、赤外線等の長波長の光を、可視光や紫外線等の短波長の光へと変換する「アップコンバージョン」機能が付与される。これにより、紫外線等を用いることがなく、安全性の高い赤外線等の長波長の光によって、短波長の光を生じさせることが可能となる。
なお、本発明において、「アップコンバージョン機能」とは、赤外線等の長波長の光を、可視光や紫外線等の短波長の光へと変換する機能のことをいう。
上記ランタノイド含有無機微粒子を構成するランタノイドとしては、所定の範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能な希土類元素であれば特に限定されるものではないが、例えば、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)等が挙げられる。これらのランタノイドは、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
なかでも、得られる波長が可視光域であるエルビウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。更に、10000cm−1付近に強い吸収を有するイッテルビウムと、イッテルビウムからのエネルギー移動を受けて発光し、その得られる波長が可視光域であるエルビウム、ホルミウム及びツリウムから選ばれる少なくとも1種との組み合わせが好ましい。
上記ランタノイド含有無機微粒子が、イッテルビウムと、エルビウム、ホルミウム及びツリウムから選ばれる少なくとも1種とを含む場合、上記ランタノイド無機微粒子中のイッテルビウムの含有量(A)と、エルビウム、ホルミウム及びツリウムから選ばれる少なくとも1種の含有量(B)との比(A/B)は、原子組成比で好ましい下限が1、より好ましい下限が5、好ましい上限が50、より好ましい上限が40である。
上記ランタノイド無機微粒子中のイッテルビウムの含有量(A)と、エルビウム、ホルミウム及びツリウムから選ばれる少なくとも1種の含有量(B)との比(A/B)が、上記好ましい下限以上、且つ、好ましい上限以下であることにより、イッテルビウムと、エルビウム、ホルミウム及びツリウムから選ばれる少なくとも1種のランタノイドとを組み合わせて用いる際、イッテルビウムで吸収したエネルギーを過不足なく均一にランタノイド含有無機微粒子内におけるエルビウム、ホルミウム及びツリウムから選ばれる少なくとも1種のランタノイドに移動できるため、得られるアップコンバージョン発光の効率は高いものとなる。
上記ランタノイド含有無機微粒子は、上記ランタノイドを含有する物質で構成されていれば特に限定されないが、例えば、上記ランタノイドの酸化物、ハロゲン化物等からなるものが好ましい。上記ハロゲン化物としては、フッ化物が好ましい。更に、上記ランタノイド含有無機微粒子は、ナトリウム塩、カリウム塩であることが好ましい。
また、上記ランタノイド含有無機微粒子には、上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素又はその化合物を含有していても良い。上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の化合物は、酸化物又はハロゲン化物であることが好ましい。上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素としては、上記ランタノイド以外の希土類元素が挙げられ、その化合物としては上記ランタノイド以外の希土類元素の酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。上記ランタノイド以外の希土類元素としては、例えば、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)等が挙げられる。上記ランタノイド以外の希土類元素の化合物としては、例えば、イットリウム(Y)及びスカンジウム(Sc)の、酸化物又はハロゲン化物などが挙げられる。なかでも、ランタノイド含有無機微粒子においてランタノイド間のエネルギー移動に関して高い効率が期待でき、発光効率の向上が期待できることから、上記ランタノイド含有無機微粒子には、イットリウム(Y)、イットリウムの酸化物又はイットリウムのハロゲン化物を含むことが好ましい。イットリウムの酸化物としては、Yであることが好ましく、イットリウムのハロゲン化物としては、NaYFであることが好ましい。
上記ランタノイド含有無機微粒子は、上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の化合物として、Y又はNaYFを含有し、上記ランタノイドとして、イッテルビウムと、エルビウム、ホルミウム及びツリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有することが好ましい。
上記ランタノイド含有無機微粒子を構成するランタノイドの含有量の合計は、上記ランタノイド含有無機微粒子中に含まれる上記ランタノイドと、上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の原子組成比との合計100原子%に対し、2原子%以上であることが好ましく、2.5原子%以上であることがより好ましく、50原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であることがより好ましい。上記ランタノイド含有無機微粒子を構成するランタノイドの含有量の合計が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、ランタノイド含有無機微粒子中におけるランタノイドが、ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素によって構成される結晶構造を崩すことなく置換及びドープできるため、ランタノイド含有無機微粒子内におけるエネルギー移動の効率を損なうことなく保持することができる。上記ランタノイド含有無機微粒子を構成するランタノイドの含有量は、例えば、蛍光X線分析装置(島津製作所社製、EDX−800HS)を用いて測定することができる。
上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量は、上記ランタノイド含有無機微粒子中に含まれる上記ランタノイドと、上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の原子組成比との合計100原子%に対し、5原子%以上であることが好ましく、10原子%以上であることがより好ましく、98原子%以下であることが好ましく、80原子%以下であることがより好ましい。上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量が、上記好ましい下限以上、且つ、上記好ましい上限以下であることにより、上記ランタノイドをドープするホスト材料として結晶構造の規則配列構造を形成でき、ランタノイド含有無機微粒子内におけるエネルギー移動の効率を高くすることができ、発光効率が向上する。上記ランタノイドと類似のイオン半径や結晶化時の構造を有する元素の含有量は、例えば、蛍光X線分析装置(島津製作所社製、EDX−800HS)を用いて測定することができる。
本発明のアップコンバージョン被覆粒子は、上記ランタノイド含有無機微粒子を被覆する被覆層を有する。また、上記被覆層は、シリカ、両親媒性ポリマー及び光感受性物質を含有する。
このような被覆層を有することで、アップコンバージョン機能を有する無機微粒子と光感受性物質を近くに配置でき、また、シリカ中に光感受性物質を閉じ込めることにより、化学的に表面吸着するよりも多くの量の光感受性物質をアップコンバージョン微粒子の近くに配置できる。また、上記被覆層にシリカを用いることにより、アップコンバージョン被覆粒子の生体適合性が向上する。
また、両親媒性ポリマーを用いることで、微粒子間の凝集を抑制して、均一分散可能な粒子を得ることができ、各種応用に利用可能となる。
上記シリカとしては、シリカ自体のほか、TEOS(テトラエチルオルトシリケート)、テトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等のアルコキシシランやポリシラザン等のシリカ前駆体により得られるシリカ化合物や、加水分解触媒組成物、液体溶媒及び水から、加水分解/縮合により得られるシリカ化合物等が挙げられる。
上記両親媒性ポリマーとしては、1つの分子内に親水性基及び疎水性基の両方を有するポリマーであることが好ましい。上記親水性基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、エーテル基、ヒドロキシル基、アミド基などが挙げられる。上記疎水性基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基などが挙げられる。上記、両親媒性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、セルロース、セルロース誘導体、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリエチレングリコール、部分ケン化ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。なかでも、水素結合性官能基を有する両親媒性ポリマーが好ましく、特にポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールが好ましい。
上記両親媒性ポリマーの平均分子量の好ましい下限は5000、好ましい上限は100万である。上記分子量が5000以上であることで、粒子間の凝集を防ぐことができる。
上記ランタノイド含有無機微粒子100重量%に対する両親媒性ポリマーの含有量の好ましい下限は3重量%、好ましい上限は2×10重量%である。
上記両親媒性ポリマーの含有量が3重量%未満であると、粒子同士が凝集してしまうことがある。
上記光感受性物質としては、例えば、ヘマトポルフィリン誘導体、5−アミノレブリン酸、プロトポルフィリンIX、フェオホルバイデ(Pheophorbidea)、アルミニウム・フタロシアニンテトラサルフェート(A1PcS)、スズ・エチオプルプリン(SnET)、亜鉛(II)・オクタデシルフタロシアニン(ZnOPPc)、プルプリンイミド、アザクロリン、亜鉛・エチオプルプリン(ZnET)、フタロシアニン(Pc)、カドミウム・テクサフィリン(CdTX)、テクサフィリン、亜鉛・テトラフィプタロポルフィリン(ZnTNP)、ベルデイン、ベンゾポルフィリン誘導体モノ酸リングA(BPDMA)、プルプリン、亜鉛・テトラスルホネーテッドフタロシアニン(ZnTSPc)、ガリウム・フタロシアニン(Ga−Pc)、インジウムフタロシアニン(In−Pc)、ベンゾポルフィリン誘導体(BPD)、カルシウム・スルホネーテッドフタロシアニン(Ca−SPc)、亜鉛・フタロシアニン誘導体(ZnPc)、アルミニウム・スルホネーテッドフタロシアニン(AlSPc)、ベンゾポルフィリン派生体、N‐アスパルチルクロリンe6(Npe6)、メチレンブルー、ベルテポルフィン、ローダミン、テモポルフィリン、ポルフィセン、ハイペルシン等が挙げられる。
なかでも、メチレンブルーを用いることが好ましい。
なお、上記光感受性物質は、光エネルギーによって活性化される物質であり、特に波長540nm〜700nmの可視光や紫外線等の短波長の光によって活性化され、活性酸素や酸素ラジカルを発生させる光感受性物質が好ましい。
上記ランタノイド含有無機微粒子100重量%に対する光感受性物質の含有量の好ましい下限10重量%、好ましい上限は2×10重量%である。上記光感受性物質の含有量が10重量%未満であると、光感受性物質の活性化効果が充分に得られないことがあり、2×10重量%を超えると、被覆層中に含有させることが困難となることがある。
上記被覆層の厚みの好ましい下限は0.1nm、好ましい上限は50nmである。上記範囲内とすることで、光感受性物質を微粒子の近傍に配置することができる。上記被覆層の厚みのより好ましい下限は1nmであり、より好ましい上限は30nmである。
上記被覆層の厚みは、例えば、以下の方法によって測定することができる。得られるランタノイド含有被覆粒子について、TEMを用いて顕微鏡写真を撮影を行う。その際、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いた元素分析を行い、元素マッピングを行う。得られるTEM写真及びSiの元素マッピングの結果を用いて、ランタノイド含有被覆粒子の表面に観察されたSiの層を被覆層と判断し、5個の粒子に対して、それぞれ任意の10点の被覆層の厚みを測定し、その平均を被覆層の厚みとする。
また、上記被覆層の厚みは、ランタノイド含有無機微粒子に被覆層を形成する際に、ランタノイド含有無機微粒子に対するシリカの量を相対的に増やすことで、厚くすることができる。
上記被覆層は、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
本発明のアップコンバージョン被覆粒子の平均粒子径は、好ましい下限が5nm、好ましい上限が10μmである。上記平均粒子径が5nm以上であれば、作製することが容易であり、10μm以下であれば、医療用途に好適に使用できる。上記平均粒子径は、10nm以上であることがより好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
上記「平均粒子径」は、体積平均粒子径を示す。上記平均粒子径は、以下の方法によって測定することができる。まず、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製、LA−950)、粒度分布測定装置(日機装社製「UPA−EX150」)、動的光散乱解析装置(PSS−NICOMP社製、380DLS)、等を用いて、粒子径分布を測定する。得られる粒子径分布において、累積体積頻度が50%となる粒子径を体積平均粒子径とする。
また、上記平均粒子径は、ランタノイド含有無機微粒子に被覆層を形成する際に、ランタノイド含有無機微粒子に対するシリカの量を相対的に増やすことで、大きくすることができる。
本発明のアップコンバージョン被覆粒子を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子を作製する工程を行った後、得られたアップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子を含有する分散液に両親媒性ポリマーを添加する工程、及び、上記分散液にシリカ前駆体及び光感受性物質を添加する工程を有する方法等が挙げられる。
上記アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子を作製する工程では、例えば、ランタノイドを含有する金属塩溶液にアルカリ溶液を添加して、ランタノイド含有水酸化物微粒子を析出させる析出工程、上記ランタノイド含有水酸化物微粒子を焼成する焼成工程を有する方法を用いることが好ましい。
上記ランタノイドを含有する金属塩としては、例えば、上記ランタノイドの硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩等の酸素酸塩や、上記ランタノイドのカルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩等の有機酸塩、上記ランタノイドの塩化物等が挙げられる。なかでも、硝酸塩が好ましい。
上記ランタノイドを含有する金属塩溶液中の上記ランタノイドを含有する金属塩の含有量は、好ましい下限が0.005モル%、好ましい上限が0.5モル%である。上記含有量が0.005モル%未満であると、アルカリ溶液を添加してもランタノイド含有水酸化物微粒子が析出しないことがある。0.5モル%を超えると、アルカリ溶液滴下時に即座に水酸化物が析出することがあり、得られるランタノイド含有水酸化物微粒子の粒子径制御が困難になることがある。上記含有量のより好ましい下限は0.01モル%、より好ましい上限は0.25モル%である。
上記ランタノイドを含有する金属塩溶液に使用される溶媒としては、例えば、水や、アルコール等の親水性有機溶媒が挙げられる。なかでも、水が好ましい。
上記アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等を含むものが挙げられる。
また、上記アルカリ溶液の添加量は、上記アルカリ溶液のpHや上記ランタノイドを含有する金属塩溶液の種類、濃度によって適宜選択することができる。
上記析出工程において、難熱分解性有機高分子を更に添加することが好ましい。これにより、ランタノイド含有水酸化物微粒子の表面に上記難熱分解性有機高分子を吸着することから、後の焼成工程において、上記難熱分解性有機高分子が熱分解されたことによって炭化物が生じる。この炭化物は、微粒子間に介在することで、焼成工程後に得られる微粒子の合着を防止することができる。
上記難熱分解性有機高分子としては、可溶性の高分子化合物が挙げられる。具体的には例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、スチレンとマレイン酸無水物との共重合体等が挙げられる。また、上記ポリカルボン酸としては、櫛形ポリカルボン酸が好ましい。
上記難熱分解性有機高分子は、特にカルボキシル基、カルボニル基及びヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これにより、ランタノイド含有水酸化物微粒子の表面に吸着しやすくなり、本発明の効果を充分に発揮することができる。
上記難熱分解性有機高分子は、重量平均分子量が5000〜500000であることが好ましい。上記重量平均分子量が5000未満であると、熱分解時に炭化物として残留しにくく、効果が得られにくくなることがある。500000を超えると、難熱分解性有機高分子の体積が大きくランタノイド含有水酸化物微粒子に均一に吸着しにくくなることがある。上記重量平均分子量のより好ましい下限は10000、より好ましい上限は250000である。
上記難熱分解性有機高分子の添加量は、アルカリ溶液添加後のランタノイドを含有する金属塩溶液全量に対して0.025〜0.25質量%であることが好ましい。上記添加量が0.025質量%未満であると、微粒子間に介在する炭化物量が少なくなるため、充分な効果が得られないことがあり。0.25質量%を超えると、添加したアルカリ溶液を中和してしまい、水酸化物微粒子の析出を阻害することがある。上記添加量のより好ましい下限は0.05質量%、より好ましい上限は0.2質量%である。
上記焼成工程としては特に限定されず、例えば、マッフル炉、トンネル炉等、陶芸用窯、ガス炉、電気炉等を用いて焼成する方法等が挙げられる。なお、上記焼成工程は、大気雰囲気で行うことが好ましい。また、上記焼成工程を行う前に乾燥工程を行ってもよい。
上記焼成工程における焼成温度としては、700〜1200℃とすることが好ましい。
上記焼成温度が700℃未満であると、水酸化物微粒子の熱分解及び酸化が不充分となり、所望の酸化物微粒子を得ることができないことがある。1200℃を超えると、合着が更に促進され、炭化物による介在によっても合着を抑制することができないことがある。
上記焼成工程を行った後、解砕工程を行ってもよい。
上記解砕工程としては、例えば、ビーズミル、高エネルギーボールミル、高速導体衝突式気流型粉砕機、衝突式粉砕機、ゲージミル、媒体攪拌型ミル、高水圧式粉砕装置等を用いる方法等が挙げられる。
上記シリカ前駆体は、物理的、化学的変化によりシリカを生じる化合物をいい、シリカ前駆体としては、例えば、TEOS(テトラエチルオルトシリケート)、テトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等のアルコキシシランやポリシラザン等が挙げられる。
上記分散液にシリカ前駆体及び光感受性物質を添加する工程を行った後、塩析を行うことにより、アップコンバージョン被覆粒子を析出されることが好ましい。
本発明によれば、生体適合性に優れ、PDTやバイオマーカー等の医療用途に好適で使用でき、粒子の凝集を抑制することが可能なアップコンバージョン被覆粒子を提供することができる。
実施例1で得られたランタノイド含有被覆粒子のTEM写真である。 実施例1で得られたランタノイド含有被覆粒子のSEM写真である。 比較例1で得られたランタノイド含有被覆粒子のSEM写真である。
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
(1)ランタノイド含有無機微粒子の作製
櫛形ポリカルボン酸(マリアリムAFB−1521、重量平均分子量50000)を0.1質量%添加した水溶液に硝酸イットリウム2.98g、硝酸イッテルビウム0.83g、硝酸エルビウム0.09gを溶解させて金属イオン溶液150gを作製した。
同様に櫛形ポリカルボン酸を0.1質量%添加した水溶液50gに水酸化カリウム2.81gを溶解させてアルカリ溶液を作製した。攪拌しながら金属イオン溶液にアルカリ溶液を徐々に添加することで水酸化物微粒子を析出させた(アルカリ溶液添加後の櫛形ポリカルボン酸の濃度は0.1質量%)。
その後、遠心分離装置(日立工機社製、CR21N)及び純水を添加しての超音波分散による洗浄を数回繰り返した後、得られた水酸化物微粒子分散液を遠心分離装置を用いて回収し、80℃、24時間の条件において乾燥させた。その後、焼成炉(アドバンテック社製、KM−420)を用いて1000℃、1時間の条件において大気雰囲気下で焼成処理を行い、ランタノイド含有無機微粒子を得た。
(2)ランタノイド含有被覆粒子の製造
蒸留水100gに、得られたランタノイド含有無機微粒子100mg、ポリビニルピロリドン(PVP、粘度平均分子量:40000)600mgを添加した後、超音波処理を15分間行い、更に24時間攪拌した。
遠心分離(5000rpm、30分間)を行った後、希釈アセトン溶液(蒸留水:アセトン=1:9)で3回洗浄し、真空乾燥機(60℃)で蒸留水、アセトンを蒸発させることで、PVP被覆ランタノイド含有無機微粒子を得た。
エタノール50mLに、PVP被覆ランタノイド含有無機微粒子50mg、メチレンブルー(関東化学社製)0.5mol/Lを添加した後、15分間超音波処理を行った。更に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)67.2μL、及び、アンモニア水溶液(28%)4.2mLを添加した後、120分間撹拌し、5000rpm,30分間遠心分離した。その後、希釈エタノール溶液(蒸留水:エタノール=1:1)で3回洗浄し、真空乾燥機(60℃)で蒸留水、エタノールを蒸発させることで、ランタノイド含有被覆粒子を得た。
(実施例2)
実施例1の「(1)ランタノイド含有無機微粒子の作製」と同様の方法でランタノイド含有無機微粒子を得た。
その後、以下の方法を用いてランタノイド含有被覆粒子を製造した。
(2)ランタノイド含有被覆粒子の製造
蒸留水100gに、得られたランタノイド含有無機微粒子100mg、ポリビニルピロリドン(PVP、粘度平均分子量:40000)600mgを添加した後、超音波処理を15分間行い、更に24時間攪拌した。
遠心分離(5000rpm、30分間)を行った後、希釈アセトン溶液(蒸留水:アセトン=1:9)で3回洗浄し、真空乾燥機(60℃)で蒸留水、アセトンを蒸発させることで、PVP被覆ランタノイド含有無機微粒子を得た。
ジメチルスルホキシド50mLに、PVP被覆ランタノイド含有無機微粒子50mg、亜鉛フタロシアニン(東京化成工業社製)0.1mol/Lを添加した後、15分間超音波処理を行った。更に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)15μL、及び、アンモニア水溶液(28%)4.2mLを添加した後、120分間撹拌し、5000rpm,30分間遠心分離した。その後、希釈エタノール溶液(蒸留水:エタノール=1:1)で3回洗浄し、真空乾燥機(60℃)で蒸留水、エタノールを蒸発させることで、ランタノイド含有被覆粒子を得た。
(実施例3)
実施例1の「(2)ランタノイド含有被覆粒子の製造」において、ポリビニルピロリドンをポリビニルアルコール(PVA、平均分子量:16000)に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりランタノイド含有被覆粒子を製造した。
(比較例1)
実施例1の「(1)ランタノイド含有無機微粒子の作製」と同様の方法でランタノイド含有無機微粒子を得た。
その後、以下の方法を用いてランタノイド含有被覆粒子を製造した。
(2)ランタノイド含有被覆粒子の製造
エタノール50mLに、ランタノイド含有無機微粒子50mg、メチレンブルー(関東化学社製)0.5mol/Lを添加した後、15分間超音波処理を行った。更に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)67.2μL、及び、アンモニア水溶液(28%)4.2mlを添加した後、120分間撹拌し、5000rpm,30分間遠心分離した。その後、希釈エタノール溶液(蒸留水:エタノール=1:1)で3回洗浄し、真空乾燥機(60℃)で蒸留水、エタノールを蒸発させることで、ランタノイド含有被覆粒子を得た。
(比較例2)
実施例1の「(2)ランタノイド含有被覆粒子の製造」において、ポリビニルピロリドンをポリスチレンに変更した以外は実施例1と同様の方法によりランタノイド含有被覆粒子を製造した。
(評価)
実施例及び比較例で得られたランタノイド含有被覆粒子について以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
(1)平均粒子径の測定
得られたランタノイド含有被覆粒子についてレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製、LA−950)を用いて、まず、粒子径分布を測定した。得られた粒子径分布において、累積体積頻度が50%となる粒子径を体積平均粒子径として測定した。
(2)被覆層の厚みの測定
得られたランタノイド含有被覆粒子について、TEMを用いて顕微鏡写真を撮影した。また、その際、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いた元素分析を行い、元素マッピングを行った。
得られたTEM写真及びSiの元素マッピングの結果を用いて、ランタノイド含有被覆粒子の表面に観察されたSiの層を被覆層と判断し、5個の粒子に対して、それぞれ任意の10点の被覆層の厚みを測定し、その平均を被覆層の厚みとした。なお、実施例1で得られたランタノイド含有被覆粒子のTEM写真を図1に示す。
(3)アップコンバージョン機能の確認
得られたランタノイド含有被覆粒子について、外部光源として赤外線発生装置(THORLABS社製、L980P300J)を用いて波長980nm、出力300mWの条件における蛍光発光を、蛍光分光光度計(日立ハイテク社製、U−2700)を用いて測定した。得られたスペクトル中の蛍光波長662nmにおけるピークの有無を確認し、ピークが見られる場合を「○」、ピークが見られない場合を「×」として評価した。
(4)活性酸素発生能の確認
得られたランタノイド含有被覆粒子の活性酸素発生能を以下の手順に従って確認した。
まず、得られたランタノイド含有被覆粒子5mgを純水5mLに分散した後、分散液0.2mLを採取した。採取した分散液へ、1,3−ジフェニルイソベンゾフラン(東京化成工業社製、以下DPBF)とエタノールとを混合した0.1mol/L DPBF/エタノール溶液0.2mLを添加した後、更に、純水1.6mLを添加し測定試料を得た。得られた測定試料に近赤外光レーザー(旭データシステムズ社製、温調モジュール、ALTH−7603CHSd温調付LD電源、ALP−7433CA)を照射し,紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V−670)を用いて波長400〜410nm付近の吸光度の変化を測定した。照射前後で吸光度が5%以上変化した場合を「◎」、5%未満変化した場合を「○」、変化が確認されなかった場合を「×」として評価した。本評価方法による活性酸素発生能の測定原理は、以下であると考えられる。得られたランタノイド含有被覆粒子に、赤外線等の長波長の光が照射されると、アップコンバージョン機能によって、可視光や紫外線等の短波長の光へと変換される。生じた可視光や紫外線等の短波長の光が、光感受性物質に照射されると、光感受性物質が活性化され、活性酸素や酸素ラジカルを発生させる。DPBFは、活性酸素の1種である一重項酸素の存在下では、一重項酸素と選択的に反応して酸化分解し、波長400〜410nm付近の吸光度が低下する。DPBFの吸光度変化を測定することで、間接的に一重項酸素の生成を確認し、活性酸素発生能を確認できる。
(5)分散性
得られたランタノイド含有被覆粒子について、SEMを用いて顕微鏡写真を撮影した。
得られたSEM写真を用いて、粒子の凝集の有無を評価した。粒子の凝集がみられる場合を「○」、粒子の凝集がみられない場合を「×」として評価した。
なお、実施例1で得られたランタノイド含有被覆粒子のSEM写真を図2、比較例1で得られたランタノイド含有被覆粒子のSEM写真を図3に示す。
本発明によれば、生体適合性に優れ、PDTやバイオマーカー等の医療用途に好適で使用でき、粒子の凝集を抑制することが可能なアップコンバージョン被覆粒子を提供することができる。

Claims (5)

  1. アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子と、前記ランタノイド含有無機微粒子を被覆する被覆層とを有し、
    前記被覆層は、シリカ、両親媒性ポリマー及び光感受性物質を含有することを特徴とするアップコンバージョン被覆粒子。
  2. ランタノイド含有無機微粒子は、ランタノイドの酸化物又はハロゲン化物を含有することを特徴とする請求項1記載のアップコンバージョン被覆粒子。
  3. 平均粒子径が5nm〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2記載のアップコンバージョン被覆粒子。
  4. 両親媒性ポリマーは、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のアップコンバージョン被覆粒子。
  5. 請求項1、2、3又は4記載のアップコンバージョン被覆粒子を製造する方法であって、アップコンバージョン機能を有するランタノイド含有無機微粒子を含有する分散液に両親媒性ポリマーを添加する工程、及び
    前記分散液にシリカ前駆体及び光感受性物質を添加する工程を有することを特徴とするアップコンバージョン被覆粒子の製造方法。
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