本発明は、以下に説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
なお、本明細書において「A〜B」と記載した場合には、当該記載は「A以上B以下」を意図するものとする。
〔1.細胞死促進剤〕
本発明の細胞死促進剤は、それ自体は生体にとって非常に安全なものであるが、他の薬剤または刺激等と併用することによって、所望の細胞を効果的に殺す(具体的には、アポトーシス)ことができる。本発明の細胞死促進剤の実施形態の一例について、以下に説明する。
本実施の形態の細胞促進剤は、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害する物質を含んでいる。
更に具体的には、本実施の形態の細胞死促進剤は、ELAモチーフを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質、または、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸、を含んでいる。
「ELAモチーフ(EGF/Erb1-like Auto-phosphorylation motif)」とは、サイクリンのC末端近傍に存在する23個のアミノ酸からなる領域を意図する。
「ELAモチーフ」としては、例えば、配列番号1または2に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から1番目から23番目のアミノ酸に対応するポリペプチド、および、当該ポリペプチドにおいて1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、を挙げることができる。
本実施の形態の細胞死促進剤は、以下の(a)または(b)に記載のポリペプチドを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質(上述した、ELAモチーフを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質に対応)、または、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸(上述した、ELAモチーフを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸に対応)、を含んでいてもよい。つまり、
(a)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチド。
また、本実施の形態の細胞死促進剤は、以下の(e)に記載のポリペプチドを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質、または、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸、を含んでいてもよい。つまり、
(e)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチド。
また、本実施の形態の細胞死促進剤は、上記(a)、(b)または(e)に記載のポリペプチドからなるタンパク質、または、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸、を含んでいてもよい。
ここで、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、サイクリン G1の部分ペプチドであって、サイクリン G1の、ELAモチーフ(EGF/Erb1-like Auto-phosphorylation motif)を含む部分ペプチドである。
一方、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、サイクリン G2の部分ペプチドであって、サイクリン G2の、ELAモチーフ(EGF/Erb1-like Auto-phosphorylation motif)を含む部分ペプチドである。
つまり、本実施の形態の細胞死促進剤は、上述した(a)、(b)または(e)に記載のポリペプチドを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質を生体(例えば、細胞、組織、個体など)に投与できる形態であれば、如何なる形態であってもよい。
例えば、本実施の形態の細胞死促進剤は、上記タンパク質自体を含むものであってもよいし、生体内において上記タンパク質を発生(例えば、翻訳)させ得る核酸(例えば、DNA、または、RNA)を含むものであってもよい。
より簡単に、かつ、より確実に細胞を死滅させる観点から、本実施の形態の細胞死促進剤は、生体内において上記タンパク質を発生させ得るポリヌクレオチドを含むものであることが好ましいといえる。
本実施の形態において、(a)または(b)に記載のポリペプチドを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質を構成するアミノ酸の総数は特に限定されないが、例えば、200個以下であってもよく、190個以下であってもよく、180個以下であってもよく、170個以下であってもよく、160個以下であってもよく、150個以下であってもよく、140個以下であってもよく、130個以下であってもよく、120個以下であってもよく、110個以下であってもよく、100個以下であってもよく、90個以下であってもよく、80個以下であってもよく、70個以下であってもよく、60個以下であってもよく、50個以下であってもよく、40個以下であってもよく、30個以下であってもよい。
生体への投与のし易さ(例えば、細胞内への取り込み易さ)、タンパク質の安定性、所望の効果以外の効果の排除、の観点から、アミノ酸の総数は、少ないほど好ましいといえる。例えば、50個以下であることが好ましく、40個以下であることが更に好ましく、30個以下であることが最も好ましい。
本明細書における「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸」では、欠失、置換若しくは付加が生じる位置は特に限定されない。
また、「1若しくは数個のアミノ酸」が意図するアミノ酸の数は特に限定されないが、20個以内のアミノ酸であることが好ましく、19個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、18個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、17個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、16個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、15個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、14個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、13個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、12個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、11個のアミノ酸であることが更に好ましく、10個以内のアミノ酸であることが好ましく、9個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、8個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、7個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、6個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、5個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、4個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、3個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、2個以内のアミノ酸であることが更に好ましく、1個のアミノ酸であることが最も好ましい。
アミノ酸の置換は、保存的置換であることが好ましい。なお、保存的置換とは、特定のアミノ酸から、当該アミノ酸と同様な化学的性質および/または構造を有する他のアミノ酸に置換されることをいう。化学的性質としては、例えば、疎水性度(疎水性および親水性)、電荷(中性、酸性および塩基性)が挙げられる。構造としては、例えば、側鎖、または、側鎖の官能基として存在する芳香環、脂肪炭化水素基およびカルボキシル基が挙げられる。
保存的置換の例としては、例えば、セリンとスレオニンとの置換、リジンとアルギニンとの置換、およびフェニルアラニンとトリプトファンアミノとの置換、が挙げられる。勿論、本発明は、これらの置換に限定されない。
また、アミノ酸配列の相同性は、公知の方法で求めることができる。具体的には、GENETYX−WIN(株式会社ゼネティックス社製)を、GENETYX−WINのマニュアルに従って使用し、例えば、特定のアミノ酸配列と比較対象のアミノ酸配列とのホモロジーサーチ(homology search)を行い、同一のアミノ酸の割合(%)として相同性を算出することができる。
更に具体的には、比較するアミノ酸配列のうちの長い方のアミノ酸配列の総アミノ酸数に対する、同一のアミノ酸の数の割合(%)として、相同性を算出することができる。
上述した(e)に記載のポリペプチドは、配列番号1または2に示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものであるが、相同性は、91%以上であってもよく、92%以上であってもよく、93%以上であってもよく、94%以上であってもよく、95%以上であってもよく、96%以上であってもよく、97%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
上述した(a)、(b)および(e)に記載のポリペプチドは、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチドである。
PP2A B’γサブユニットの種類としては特に限定されないが、例えば、B’3サブユニット、B’2サブユニット、または、B’1サブユニットを挙げることができる。
ポリペプチドが、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチドであるか否かを確認する方法は特に限定されないが、例えば、試験対象であるポリペプチドが存在する条件下にてサイクリンとPP2A B’γサブユニットとの共沈試験(coprecipitation test)を行うことによって確認することができる。
例えば、サイクリン(例えば、サイクリン G1、または、サイクリン G2)、PP2A B’γサブユニット(例えば、PP2A B’γ3サブユニット)、および、試験対象であるポリペプチドが共存している溶液から、免疫沈降法などによって、サイクリンを沈殿および分離する(当該沈殿物を沈殿物Aと呼ぶ)。なお、上記溶液中の試験対象であるポリペプチドの濃度は特に限定されないが、例えば、上記溶液中のサイクリンの濃度とPP2A B’γサブユニットの濃度とが略同じであると仮定すると、上記溶液中の試験対象であるポリペプチドの濃度は、サイクリンの濃度の10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。
また、ネガティブコントロールとして、サイクリン(例えば、サイクリン G1、または、サイクリン G2)、および、PP2A B’γサブユニット(例えば、PP2A B’γ3サブユニット)が共存している溶液から、免疫沈降法などによって、サイクリンを沈殿および分離する(当該沈殿物を沈殿物Bと呼ぶ)。
次いで、沈殿物Aおよび沈殿物Bの各々の中に含まれるPP2A B’γサブユニットを、各々定量する。なお、定量の方法は特に限定されないが、例えば、抗PP2A B’γサブユニット抗体を用いたウエスタンブロット法を挙げることができる。なお、抗PP2A B’γ3抗体としては、適宜、市販の抗体を用いればよい。勿論、周知の方法にしたがって作製した抗体を用いることも可能である。
次いで、沈殿物A中に含まれるPP2A B’γサブユニットの量と、沈殿物B中に含まれるPP2A B’γサブユニットの量とを比較し、沈殿物A中に含まれるPP2A B’γサブユニットの量が、沈殿物B中に含まれるPP2A B’γサブユニットの量よりも少なければ(例えば、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下、最も好ましくは1/10以下)、試験対象であるポリペプチドは、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチドであると判定することができる。
また、上述した方法とは別の方法によって、ポリペプチドが、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチドであるか否かを確認することも可能である。
例えば、サイクリン(例えば、サイクリン G1、または、サイクリン G2)、PP2A B’γサブユニット(例えば、PP2A B’γ3サブユニット)、および、試験対象であるポリペプチドが共存している溶液から、免疫沈降法などによって、PP2A B’γサブユニットを沈殿および分離する(当該沈殿物を沈殿物Cと呼ぶ)。なお、上記溶液中の試験対象であるポリペプチドの濃度は特に限定されないが、例えば、上記溶液中のサイクリンの濃度とPP2A B’γサブユニットの濃度とが略同じであると仮定すると、上記溶液中の試験対象であるポリペプチドの濃度は、サイクリンの濃度の10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。
また、ネガティブコントロールとして、サイクリン(例えば、サイクリン G1、または、サイクリン G2)、および、PP2A B’γサブユニット(例えば、PP2A B’γ3サブユニット)が共存している溶液から、免疫沈降法などによって、PP2A B’γサブユニットを沈殿および分離する(当該沈殿物を沈殿物Dと呼ぶ)。
次いで、沈殿物Cおよび沈殿物Dの各々の中に含まれるサイクリンを、各々定量する。なお、定量の方法は特に限定されないが、例えば、抗サイクリン抗体を用いたウエスタンブロット法を挙げることができる。なお、抗サイクリン抗体としては、適宜、市販の抗体を用いればよい。勿論、周知の方法にしたがって作製した抗体を用いることも可能である。
次いで、沈殿物C中に含まれるサイクリンの量と、沈殿物D中に含まれるサイクリンの量とを比較し、沈殿物C中に含まれるサイクリンの量が、沈殿物D中に含まれるサイクリンの量よりも少なければ(例えば、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下、最も好ましくは1/10以下)、試験対象であるポリペプチドは、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチドであると判定することができる。
本実施の形態の細胞死促進剤は、投与対象が、DNA損傷(例えば、DNA二本鎖切断)を発症している生体、または、DNA損傷(例えば、DNA二本鎖切断)を発症させるための処置が施される生体、であってもよい。
本実施の形態の細胞死促進剤は、DNA(換言すれば、染色体)に生じる損傷の中でも特にDNA二本鎖切断を発症している生体を死滅させる効果が高い。それ故に、上記構成であれば、所望の生体を特異的に、かつ、効率よく死滅させることができる。
なお、本明細書において「DNA二本鎖切断を発症している生体」とは、本実施の形態の細胞死促進剤を投与する時点において、既にDNA二本鎖切断が生じている生体を意図している。
例えば、DNA二本鎖切断を生じる薬剤が投与された後の生体に対して本実施の形態の細胞死促進剤を投与する場合、などが意図される。勿論、当該場合は一例にすぎず、本実施の形態は、当該場合に限定されない。
また、本明細書において「DNA二本鎖切断を発症させるための処置が施される生体」とは、本実施の形態の細胞死促進剤を投与する時と同時、または、本実施の形態の細胞死促進剤を投与した後で、DNA二本鎖切断を発症させるための処置が施される生体を意図している。
例えば、DNA二本鎖切断を生じる薬剤と本実施の形態の細胞死促進剤とを同時に生体へ投与する場合、または、本実施の形態の細胞死促進剤が投与された後の生体に対してDNA二本鎖切断を生じる薬剤を投与する場合、などが意図される。勿論、これらの場合は一例にすぎず、本実施の形態は、これらの場合に限定されない。
具体的に、上記生体は、γ線照射、X線照射、トポイソメラーゼI阻害剤の投与(例えば、カンプトテシン投与、イリノテカン投与)、または、トポイソメラーゼII阻害剤の投与(例えば、エトポシド投与)によって、DNA二本鎖切断を発症している生体、または、DNA二本鎖切断を発症させるための処置が施される生体であってもよい。
γ線照射、X線照射、トポイソメラーゼI阻害剤の投与(例えば、カンプトテシン投与、イリノテカン投与)、または、トポイソメラーゼII阻害剤の投与(例えば、エトポシド投与)は、高頻度にて、生体内でDNA二本鎖切断を発症させることができる。それ故に、上記構成であれば、所望の生体を特異的に、かつ、効率よく死滅させることができる。
本実施の形態の細胞死促進剤は、DNA二本鎖切断を発症させる薬剤を含んでいてもよい。
DNA二本鎖切断を発症させる薬剤としては特に限定されないが、例えば、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシン、イリノテカン)およびトポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
細胞死促進剤中に含まれる上記薬剤の量としては特に限定されないが、例えば、細胞死促進剤の投与対象の体重100gあたり、10mg以下、1mg以下、0.1mg以下、0.01mg以下、または、0.001mg以下の薬剤を投与できる量であり得る。勿論、本発明は、上述した量に限定されない。
本実施の形態の細胞死促進剤は、上記薬剤の効果を増幅することができる。それ故に、本実施の形態の細胞死促進剤であれば、含有する薬剤の量が少なくても、所望の生体を特異的に、かつ、効率よく死滅させることができる。
上述したように、本実施の形態の細胞死促進剤は、上記(a)、(b)または(e)に記載のポリペプチドを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸、を含んでいてもよい。つまり、本実施の形態の細胞死促進剤は、生体内において上記タンパク質を発生(例えば、翻訳)させ得る核酸(例えば、DNA、または、RNA)を含むものであってもよい。
更に具体的に、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、以下の(c)または(d)のDNAを少なくとも一部分として含んでいるポリヌクレオチドであってもよい。つまり、
(c)配列番号3または4に示される塩基配列からなるDNA;
(d)配列番号3または4に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、サイクリンとPP2A B’γサブユニットとの結合を阻害するポリペプチドをコードするDNA。
ここで、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAとは、サイクリン G1の部分ペプチドであって、サイクリン G1の、ELAモチーフ(EGF/Erb1-like Auto-phosphorylation motif)を含む部分ペプチド、をコードしているDNAである。換言すれば、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの一例である。
一方、配列番号4に示される塩基配列からなるDNAとは、サイクリン G2の部分ペプチドであって、サイクリン G2の、ELAモチーフ(EGF/Erb1-like Auto-phosphorylation motif)を含む部分ペプチド、をコードしているDNAである。換言すれば、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているDNAの一例である。
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図されるが、ハイブリダイゼーションさせるポリヌクレオチドによって、高ストリンジェンシーでの洗浄条件は適宜変更され、例えば、哺乳類由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.5×SSC中にて65℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、E.coli由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、RNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、オリゴヌクレオチドを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にてハイブリダイゼーション温度での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましい。また、上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている周知の方法で行うことができる。
上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸は、発現ベクター内に、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドが挿入されたものであってもよい。
この場合、上記発現ベクターの種類は特に限定されないが、例えば、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター(例えば、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、および、レトロウイスルベクター)、または、ウイルス粒子であり得る。
これらの発現ベクターの中では、ウイルスベクターが好ましいといえる。その理由は、宿主内へ安定的に核酸を導入することができるからである。
〔2.細胞死促進剤の有効成分のスクリーニング方法〕
上述した〔1.細胞死促進剤〕では、本発明の一例として、上記(a)、(b)または(e)に記載のポリペプチドを少なくとも一部分として含んでいるタンパク質、または、上記タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを少なくとも一部分として含んでいる核酸、を含んでいる細胞死促進剤について説明した。
しかしながら、本発明の細胞死促進剤の有効成分は、上述した有効成分に限定されず、本発明の思想に基づいてスクリーニングしたものを、有効成分として利用することができる。
以下では、細胞死促進剤に含まれる有効成分のスクリーニング方法について説明する。
〔2−1.スクリーニング方法(例1)〕
本実施の形態の細胞死促進剤の有効成分のスクリーニング方法は、
培養細胞に対して、臨床現場で使用されているよりも低濃度のDNA二本鎖切断を発症させる薬剤、および、試験試料を投与する投与工程と、
上記培養細胞がアポトーシスを生じているか否かを判定する判定工程と、
上記アポトーシスを生じさせる上記試験試料を、細胞死促進剤の有効成分であると決定する決定工程と、を含む方法であってもよい。
上記投与工程では、臨床現場で使用されているよりも低濃度のDNA二本鎖切断を発症させる薬剤によって、培養細胞に対して、軽度のDNA二本鎖切断を発症させる。なお、通常、このような軽度のDNA二本鎖切断では、培養細胞は、アポトーシスを起こすことはない。しかしながら、本発明の細胞死促進剤の有効成分として利用可能なものであれば、このような軽度のDNA二本鎖切断であっても、培養細胞は、アポトーシスを起こす。
上記培養細胞としては特に限定されないが、例えば、骨肉腫細胞(例えば、U2OS)、前立腺癌細胞(PC−3、DU−145)、舌癌細胞(SAS)、子宮頸癌細胞(HeLa)、膵臓癌細胞(PANC−1)、または、卵巣癌細胞(OVCAR−3)を用いることができる。
上記DNA二本鎖切断を発症させる薬剤としては特に限定されないが、例えば、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシン、イリノテカン)およびトポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド)からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
本明細書中で「臨床現場で使用されているよりも低濃度」は、例えば、臨床現場で使用されている濃度の1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/6以下、1/7以下、1/8以下、1/9以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、1/40以下、1/50以下、1/60以下、1/70以下、1/80以下、1/90以下、1/100以下、1/150以下、1/200以下、1/300以下、1/400以下、1/500以下、1/600以下、1/700以下、1/800以下、1/900以下、または、1/1000以下であってもよい。
更に具体的に、「臨床現場で使用されているよりも低濃度」は、50μM以下、40μM以下、30μM以下、20μM以下、10μM以下、9μM以下、8μM以下、7μM以下、6μM以下、5μM以下、4μM以下、3μM以下、2μM以下、1μM以下、0.9μM以下、0.8μM以下、0.7μM以下、0.6μM以下、0.5μM以下、0.4μM以下、0.3μM以下、0.2μM以下、0.1μM以下、0.09μM以下、0.08μM以下、0.07μM以下、0.06μM以下、0.05μM以下、0.04μM以下、0.03μM以下、0.02μM以下、または、0.01μM以下であってもよい。
より安全で、かつ、感度が高い細胞死促進剤を実現するという観点から、投与工程に用いる薬剤の濃度は、低いほど好ましいといえる。
上記判定工程では、培養細胞がアポトーシスを生じているか否かを判定する。なお、当該判定工程に用いる具体的な方法としては周知の方法を用いればよく、例えば、FACS(fluorescence activated cell sorting)を用いればよい。
上記決定工程では、アポトーシスを生じさせる試験試料を、細胞死促進剤の有効成分であると決定する。
なお、アポトーシスは、観察する培養細胞の全てにおいて起こっていなくてもよい。例えば、観察する培養細胞の10%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上がアポトーシスを生じていれば、試験試料を細胞死促進剤の有効成分であると決定することができる。
但し、アポトーシスが生じている培養細胞の割合が高いほど、より安全で、かつ、感度が高い細胞死促進剤を実現することができる。
〔2−2.スクリーニング方法(例2)〕
本実施の形態の細胞死促進剤の有効成分のスクリーニング方法は、
培養細胞に対して、臨床現場で使用されているよりも弱いγ線またはX線を照射するとともに、当該培養細胞へ試験試料を投与する投与工程と、
上記培養細胞がアポトーシスを生じているか否かを判定する判定工程と、
上記アポトーシスを生じさせる上記試験試料を、細胞死促進剤の有効成分であると決定する決定工程と、を含む方法であってもよい。
上記投与工程では、臨床現場で使用されているよりも弱いγ線またはX線を培養細胞に照射することによって、軽度のDNA二本鎖切断を発症させる。なお、通常、このような軽度のDNA二本鎖切断では、培養細胞は、アポトーシスを起こすことはない。しかしながら、本発明の細胞死促進剤の有効成分として利用可能なものであれば、このような軽度のDNA二本鎖切断であっても、培養細胞は、アポトーシスを起こす。
上記培養細胞としては特に限定されないが、例えば、骨肉腫細胞(例えば、U2OS)、前立腺癌細胞(PC−3、DU−145)、舌癌細胞(SAS)、子宮頸癌細胞(HeLa)、膵臓癌細胞(PANC−1)、または、卵巣癌細胞(OVCAR−3)を用いることができる。
上記DNA二本鎖切断を発症させる薬剤としては特に限定されないが、例えば、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシン、イリノテカン)およびトポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド)からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
本明細書中で「臨床現場で使用されているよりも弱いγ線またはX線」は、例えば、臨床現場で使用されているγ線の強度の1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/6以下、1/7以下、1/8以下、1/9以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、1/40以下、1/50以下、1/60以下、1/70以下、1/80以下、1/90以下、1/100以下、1/150以下、1/200以下、1/300以下、1/400以下、1/500以下、1/600以下、1/700以下、1/800以下、1/900以下、または、1/1000以下であってもよい。
更に具体的に、「臨床現場で使用されているよりも弱いγ線またはX線」は、100グレイ以下、10グレイ以下、5グレイ以下、または、1グレイ以下の強度のγ線またはX線であり得る。勿論、本発明は、これらの強度のγ線およびX線に限定されない。
より安全で、かつ、感度が高い細胞死促進剤を実現するという観点から、投与工程に用いるγ線およびX線の強度は、弱いほど好ましいといえる。
本実施の形態の判定工程および決定工程は、上述した〔2−1.スクリーニング方法(例1)〕における判定工程および決定工程と同じである。それ故に、ここでは、その説明を省略する。
〔2−3.スクリーニング方法(例3)〕
本実施の形態の細胞死促進剤の有効成分のスクリーニング方法は、
培養細胞を移植したヌードマウスに対して、臨床現場で使用されているよりも少量のDNA二本鎖切断を発症させる薬剤、および、試験試料を投与する投与工程と、
上記ヌードマウスにおいて、移植された培養細胞に由来する腫瘍が小さくなっているか否かを判定する判定工程と、
上記移植された培養細胞に由来する腫瘍を小さくする上記試験試料を、細胞死促進剤の有効成分であると決定する決定工程と、を含む方法であってもよい。
上記投与工程では、臨床現場で使用されているよりも低濃度のDNA二本鎖切断を発症させる薬剤によって、ヌードマウスに移植された培養細胞に対して、軽度のDNA二本鎖切断を発症させる。なお、通常、このような軽度のDNA二本鎖切断では、培養細胞は、アポトーシスを起こすことはない。しかしながら、本発明の細胞死促進剤の有効成分として利用可能なものであれば、このような軽度のDNA二本鎖切断であっても、培養細胞は、アポトーシスを起こす。そして、培養細胞がアポトーシスを起こせば、移植された培養細胞に由来する腫瘍は小さくなる。また、培養細胞がアポトーシスを起こせば、ヌードマウスの生存率が上昇する。
上記培養細胞としては特に限定されないが、例えば、骨肉腫細胞(例えば、U2OS)、前立腺癌細胞(PC−3、DU−145)、舌癌細胞(SAS)、子宮頸癌細胞(HeLa)、膵臓癌細胞(PANC−1)、または、卵巣癌細胞(OVCAR−3)を用いることができる。
上記DNA二本鎖切断を発症させる薬剤としては特に限定されないが、例えば、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシン、イリノテカン)およびトポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド)からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
本明細書中で「臨床現場で使用されているよりも少量」は、例えば、臨床現場で使用されている濃度の1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/6以下、1/7以下、1/8以下、1/9以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、1/40以下、1/50以下、1/60以下、1/70以下、1/80以下、1/90以下、1/100以下、1/150以下、1/200以下、1/300以下、1/400以下、1/500以下、1/600以下、1/700以下、1/800以下、1/900以下、または、1/1000以下であってもよい。
更に具体的に、「臨床現場で使用されているよりも少量」は、ヌードマウスの体重100gあたり、10mg以下、1mg以下、0.1mg以下、0.01mg以下、または、0.001mg以下であってもよい。勿論、本発明は、上述した量に限定されない。
より安全で、かつ、感度が高い細胞死促進剤を実現するという観点から、投与工程に用いる薬剤の量は、少ないほど好ましいといえる。
上記判定工程では、ヌードマウスに移植された培養細胞に由来する腫瘍が小さくなっているか否かを判定する。なお、当該判定工程に用いる具体的な方法としては特に限定されず、例えば、ヌードマウスの体表に生じた腫瘍の直径を測定すればよい。
上記決定工程では、移植された培養細胞に由来する腫瘍を小さくする上記試験試料を、細胞死促進剤の有効成分であると決定する。
例えば、上記決定工程では、試験試料を投与していないヌードマウスに生じた腫瘍の直径と比較して、試験試料を投与したヌードマウスに生じた腫瘍の直径が小さくなっていれば、試験試料を細胞死促進剤の有効成分であると決定することができる。
更に具体的には、試験試料を投与していないヌードマウスに生じた腫瘍の直径を1とした場合、試験試料を投与したヌードマウスに生じた腫瘍の直径が、1/2以下、好ましくは1/3以下、更に好ましくは1/4以下、更に好ましくは1/5以下、更に好ましくは1/6以下、更に好ましくは1/7以下、更に好ましくは1/8以下、更に好ましくは1/9以下、または、最も好ましくは1/10以下になっていれば、試験試料を細胞死促進剤の有効成分であると決定することができる。
判定工程および決定工程は、上述したものとは別の工程とすることも可能である。
例えば、判定工程は、培養細胞を移植したヌードマウスの生存率を判定する工程であってもよい。
生存率を判定する具体的な日は特に限定されないが、例えば、投与工程を行ってから、10日後であってもよいし、20日後であってもよいし、30日後であってもよいし、1ケ月後であってもよいし、2ケ月後であってもよいし、3ケ月後であってもよいし、4ケ月後であってもよいし、5ケ月後であってもよいし、6ケ月後であってもよいし、7ケ月後であってもよいし、8ケ月後であってもよいし、9ケ月後であってもよいし、10ケ月後であってもよいし、11ケ月後であってもよいし、または、1年後であってもよい。勿論、1年後以降に生存率を判定してもよい。
当該判定工程を採用する場合、決定工程は、生存率が高いヌードマウスに投与された試験試料を、細胞死促進剤の有効成分であると決定する工程であってもよい。
例えば、上記決定工程では、試験試料を投与していないヌードマウスの生存率と比較して、試験試料を投与したヌードマウスの生存率が高ければ、試験試料を細胞死促進剤の有効成分であると決定することができる。
更に具体的には、試験試料を投与したヌードマウスの生存率が、試験試料を投与していないヌードマウスの生存率の1.5倍以上、好ましくは2倍以上、好ましくは3倍以上、更に好ましくは4倍以上、更に好ましくは5倍以上、更に好ましくは6倍以上、更に好ましくは7倍以上、更に好ましくは8倍以上、更に好ましくは9倍以上、または、最も好ましくは10倍以上になっていれば、試験試料を細胞死促進剤の有効成分であると決定することができる。
<1.Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合、および、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関する解析>
<1−1.試験に用いたポリペプチドの説明>
本実施例では、Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与する、Cyclin G1内の結合ドメイン、および、PP2A B’γ3サブユニット内の結合ドメインを同定した。また、本実施例では、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与する、Cyclin G2内の結合ドメイン、および、PP2A B’γ3サブユニット内の結合ドメインを同定した。以下に、試験方法および試験結果について説明する。
Cyclin G1、Cyclin G2、および、PP2A B’γ3の各々について、試験に用いる様々なポリペプチドを作製した。各種ポリペプチドの概略を、図1(A)〜(C)に示す。なお、Cyclin G1、Cyclin G2、および、PP2A B’γ3サブユニットの全長のアミノ酸配列を、各々、配列番号5、6および7にて示す。
更に具体的に、図1(A)には、Cyclin G1に由来する様々なポリペプチドが記載されており、これらのポリペプチドには、FlagタグまたはMycタグが連結されている。
図1(A)において、「F−Cyclin G1」は、Cyclin G1の全長に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G1_N」は、Cyclin G1のアミノ末端から1番目のアミノ酸から160番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G1_C」は、Cyclin G1のアミノ末端から154番目のアミノ酸から295番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G1_ΔELA」は、Cyclin G1のアミノ末端から1番目のアミノ酸から275番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「M−G1_ELA+6」は、Cyclin G1のアミノ末端から267番目のアミノ酸から295番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものである。
また、図1(A)には図示しないが、後述する<1−4>の試験のために、Cyclin G1の全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものも作製した。
図1(B)には、Cyclin G2に由来する様々なポリペプチドが記載されており、これらのポリペプチドには、FlagタグまたはMycタグが連結されている。
図1(B)において、「F−Cyclin G2」は、Cyclin G2の全長に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G2_N」は、Cyclin G2のアミノ末端から1番目のアミノ酸から186番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G2_C」は、Cyclin G2のアミノ末端から175番目のアミノ酸から345番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G2_ΔC」は、Cyclin G2のアミノ末端から1番目のアミノ酸から263番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「F−G2_ΔELA」は、Cyclin G2のアミノ末端から1番目のアミノ酸から264番目のアミノ酸と、アミノ末端から295番目のアミノ酸から345番目のアミノ酸とを連結させたポリペプチドにFlagタグが連結されたものであり、「M−G2_ELA+6」は、Cyclin G2のアミノ末端から272番目のアミノ酸から300番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものである。
また、図1(B)には図示しないが、後述する<1−4>の試験のために、Cyclin G2の全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものも作製した。
図1(C)には、PP2A B’γ3に由来する様々なポリペプチドが記載されており、これらのポリペプチドには、FlagタグまたはMycタグが連結されている。
図1(C)において、「PP2A B’γ3」は、PP2A B’γ3サブユニットの全長に対応するポリペプチドにFlagタグまたはMycタグが連結されたものであり、「B’γ3_1−151」は、PP2A B’γ3サブユニットのアミノ末端から1番目のアミノ酸から151番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグまたはMycタグが連結されたものであり、「B’γ3_149−300」は、PP2A B’γ3サブユニットのアミノ末端から149番目のアミノ酸から300番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグまたはMycタグが連結されたものであり、「B’γ3_288−450」は、PP2A B’γ3サブユニットのアミノ末端から288番目のアミノ酸から450番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグまたはMycタグが連結されたものであり、「B’γ3_451−524」は、PP2A B’γ3サブユニットのアミノ末端から451番目のアミノ酸から524番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにFlagタグまたはMycタグが連結されたものである。
<1−2.Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与する、Cyclin G1内の結合ドメインの決定>
図1(A)に示したポリペプチドの各々と、PP2A B’γ3サブユニットの全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものと、を含む溶液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、200mM NaCl、1mM EDTA、0.2% Nonidet(登録商標)P−40、1mM ジチオスレイトール、1mM EGTA、0.5mM フェニルメチルスルホニルフッ化物、1mM ベンズアミジン、プロテアーゼ阻害剤のカクテル、20% グリセロール)に対して、抗Flagタグ抗体およびprotein A−Sepharose 4B(GE healthcare)を用いた免疫沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Mycタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、免疫沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれているか否かを確認した。その結果を、図2(A)に示す。
図2(A)に示すように、「F−Cyclin G1」、「F−G1_C」および「F−G1_ΔELA」を含む溶液の場合、免疫沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれていることが確認された。つまり、「F−Cyclin G1」、「F−G1_C」および「F−G1_ΔELA」の各々は、PP2A B’γ3サブユニットと結合することが確認された。なお、図1(A)の右側に、結合の強さを記載する。
<1−3.Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与する、Cyclin G2内の結合ドメインの決定>
図1(B)に示したポリペプチドの各々と、PP2A B’γ3サブユニットの全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものとを含む溶液(<1−2>に記載のものと同じ組成)に対して、抗Flagタグ抗体およびprotein A−Sepharose 4B(GE healthcare)を用いた免疫沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Mycタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、免疫沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれているか否かを確認した。その結果を、図2(B)に示す。
図2(B)に示すように、「F−Cyclin G2」および「F−G2_C」を含む溶液の場合、免疫沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれていることが確認された。つまり、「F−Cyclin G2」および「F−G2_C」の各々は、PP2A B’γ3サブユニットと結合することが確認された。なお、図1(B)の右側に、結合の強さを記載する。
<1−4.Cyclin G1内またはCyclin G2内の結合ドメインの詳細な解析>
Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与するCyclin G1内の結合ドメイン、および、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与するCyclin G2内の結合ドメインを、更に短い領域へと絞り込むための試験を行った。
Cyclin G1の全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたもの、Cyclin G1のアミノ末端から267番目のアミノ酸から295番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたもの(M−G1_ELA+6)、Cyclin G2の全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたもの、または、Cyclin G2のアミノ末端から272番目のアミノ酸から300番目のアミノ酸に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたもの(M−G2_ELA+6)と、PP2A B’γ3サブユニットの全長に対応するポリペプチドにFlagタグが連結されたものと、を含む溶液(<1−2>に記載のものと同じ組成)に対して、抗Mycタグ抗体およびprotein A−Sepharose 4B(GE healthcare)を用いた免疫沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Flagタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、免疫沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれているか否かを確認した。その結果を、図2(C)に示す。
図2(C)に示すように、「M−Cyclin G1」、「M−G1_ELA+6」、「M−Cyclin G2」および「M−G2_ELA+6」を含む溶液の場合、免疫沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれていることが確認された。つまり、「M−Cyclin G1」、「M−G1_ELA+6」、「M−Cyclin G2」および「M−G2_ELA+6」の各々は、PP2A B’γ3サブユニットと結合することが確認された。なお、図1(A)および(B)の右側に、結合の強さを記載する。
<1−5.Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与する、PP2A B’γ3サブユニット内の結合ドメインの決定>
Mycタグが連結された図1(C)に示したポリペプチドの各々と、図1(A)の「F−Cyclin G1」とを含む溶液(<1−2>に記載のものと同じ組成)に対して、抗Mycタグ抗体およびprotein A−Sepharose 4B(GE healthcare)を用いた免疫沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Flagタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、免疫沈降物中に、Cyclin G1が含まれているか否かを確認した。その結果を、図3(A)に示す。
図3(A)に示すように、「M−PP2A B’γ3」、「M−1−151」、「M−149−300」および「M−451−524」を含む溶液の場合、免疫沈降物中に、Cyclin G1が含まれていることが確認された。つまり、「M−PP2A B’γ3」、「M−1−151」、「M−149−300」および「M−451−524」の各々は、Cyclin G1と結合することが確認された。なお、図1(C)の右側に、結合の強さを記載する。
<1−6.Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与する、PP2A B’γ3サブユニット内の結合ドメインの決定>
Flagタグが連結された図1(C)に示したポリペプチドの各々と、Cyclin G2の全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものとを含む溶液(<1−2>に記載のものと同じ組成)に対して、抗Flagタグ抗体およびprotein A−Sepharose 4B(GE healthcare)を用いた免疫沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Mycタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、免疫沈降物中に、Cyclin G2が含まれているか否かを確認した。その結果を、図3(B)に示す。
図3(B)に示すように、「F−PP2A B’γ3」、「F−1−151」、「F−149−300」および「F−451−524」を含む溶液の場合、免疫沈降物中に、Cyclin G2が含まれていることが確認された。つまり、「F−PP2A B’γ3」、「F−1−151」、「F−149−300」および「F−451−524」の各々は、Cyclin G2と結合することが確認された。なお、図1(C)の右側に、結合の強さを記載する。
<2.結合阻害試験>
上記<1−1>〜<1−6>の試験から、Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与するCyclin G1内の結合ドメインは、図1(A)に示す「M−G1_ELA+6」に対応するポリペプチドであり、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合に関与するCyclin G2内の結合ドメインは、図1(B)に示す「M−G2_ELA+6」に対応するポリペプチドであることが明らかになった。
そこで、これらのポリペプチドが、実際にCyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合、および、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合を阻害するか試験した。
まず、図1(A)に示す「M−G1_ELA+6」に対応するポリペプチド(ELAS1と呼ぶ(配列番号1))、および、図1(B)に示す「M−G2_ELA+6」に対応するポリペプチド(ELAS2と呼ぶ(配列番号2))を化学合成した。なお、化学合成の具体的な方法は、周知の方法にしたがった。
<2−1.ELAS1の結合阻害効果>
GST、または、Cyclin G1の全長に対応するポリペプチドにGSTが連結されたものと、PP2A B’γ3サブユニットの全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものと、を含む溶液(<1−2>に記載のものと同じ組成)を準備した。
当該溶液に対して、ELAS1非存在下、または、ELAS1存在下にて、Glutathione Sepharose bead(GE healthcare)を用いた沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Mycタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれているか否かを確認した。その結果を、図4(A)に示す。
図4(A)から明らかなように、ELAS1非存在の条件下では沈降物中にPP2A B’γ3サブユニットが含まれていたのに対し、ELAS1存在の条件下では沈降物中にPP2A B’γ3サブユニットが含まれていなかった。
つまり、ELAS1によって、Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合が阻害されることが明らかになった。
<2−2.ELAS2の結合阻害効果>
GST、または、Cyclin G2の全長に対応するポリペプチドにGSTが連結されたものと、PP2A B’γ3の全長に対応するポリペプチドにMycタグが連結されたものと、を含む溶液(<1−2>に記載のものと同じ組成)を準備した。
当該溶液に対して、ELAS2非存在下、または、ELAS2存在下にて、Glutathione Sepharose bead(GE healthcare)を用いた沈降処理(4℃、3時間)を行った。
抗Mycタグ抗体を用いたウエスタンブロット法によって、沈降物中に、PP2A B’γ3サブユニットが含まれているか否かを確認した。その結果を、図4(B)に示す。
図4(B)から明らかなように、ELAS2非存在の条件下では沈降物中にPP2A B’γ3サブユニットが含まれていたのに対し、ELAS2存在の条件下では沈降物中にPP2A B’γ3サブユニットが含まれていなかった。
つまり、ELAS2によって、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合が阻害されることが明らかになった。
<3.ELAS1およびELAS2の副作用に関する試験−1>
上述した<2>の試験によって、ELAS1が、Cyclin G1とPP2A B’γ3サブユニットとの結合を阻害し、ELAS2が、Cyclin G2とPP2A B’γ3サブユニットとの結合を阻害することが明らかになった。このことは、ELAS1およびELAS2が、投与された生体内においてCyclin G1およびCyclin G2の機能を阻害し得ることを示唆している。
そこで、生体内においてCyclin G1およびCyclin G2の機能を阻害した場合、当該生体において悪影響が生じ得るか否かを検討した。
まず、周知の方法にしたがって、Cyclin G1のノックアウトマウス、Cyclin G2のノックアウトマウス、および、Cyclin G1とCyclin G2とのダブルノックアウトマウスを作製した。なお、図5(A)に、Cyclin G1のノックアウトマウスの作製ストラテジーを示し、図5(B)に、Cyclin G2のノックアウトマウスの作製ストラテジーを示す。
また、Cyclin G1とCyclin G2とのダブルノックアウトマウスは、Cyclin G1のノックアウトマウスとCyclin G2のノックアウトマウスとの交配によって作製した。
Cyclin G1のノックアウトマウス(2週齢)、Cyclin G2のノックアウトマウス(2週齢)、および、Cyclin G1とCyclin G2とのダブルノックアウトマウス(2週齢)の各々に、発癌剤であるジエチルニトロサミン(diethylnitrosamine:DEN)を投与した。そして、投与してから36週間後に、各ノックアウトマウスの肝臓に生じた腫瘍を観察した。
図6に、各ノックアウトマウスの肝臓に生じた腫瘍の写真を示す。なお、図6に示す円は、腫瘍の位置を示している。
図7(A)に、体重あたりの肝臓の重量の割合を示し、図7(B)に、直径が3mm以上の腫瘍の数を示す。
図6、図7(A)、図7(B)から明らかなように、野生型のマウスに発癌剤を投与した場合には、肝臓に、多数の大きな腫瘍が生じていた。一方、ノックアウトマウスに発癌剤を投与した場合には、野生型のマウスと比較して、肝臓に生じた腫瘍の数が少ないとともに、腫瘍のサイズも小さかった。
以上の結果は、たとえ、ELAS1およびELAS2を投与することによって生体内のCyclin G1およびCyclin G2の機能を阻害したとしても、当該生体に悪影響を及ぼすことがないことを示している。
それどころか、以上の結果は、ELAS1およびELAS2を投与することによって生体内のCyclin G1およびCyclin G2の機能を阻害すれば、かえって、生体は発癌し難くなることを示している。
<4.ELAS1およびELAS2の副作用に関する試験−2>
周知の方法にしたがって、U2OS細胞にpTet−Onを導入し、pTet−Onを安定的に保持するU2OS細胞を、G418を含む培地中で選別した。選別された細胞を、U2OS/Tet−On細胞と名付けた。
次いで、当該U2OS/Tet−On細胞に対して、ELAS1またはELAS2が挿入されたpTRET3−6Mycと、Linear Hygromycin Marker(Clontech)と、を導入した。
次いで、各遺伝子が導入されたU2OS/Tet−On細胞にドキシサイクリン(Dox)を与えることによってELAS1またはELAS2の発現を誘導し、このときの、当該U2OS/Tet−On細胞の細胞周期の変化を観察した。なお、細胞周期の変化は、フローサイトメトリーによる周知の方法によって解析した。
図8(A)に、ドキシサイクリン(Dox)を与える前後における、U2OS/Tet−On細胞内でのELAS1およびELAS2の発現量の変化を示す。なお、図8(A)〜図8(C)において、「Myc−vec」および「M−vec」は、空のpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞を示し、「Myc−ELAS1」および「M−ELAS1」は、ELAS1が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞を示し、「Myc−ELAS2」および「M−ELAS2」は、ELAS2が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞を示している。
図8(A)に示すように、ドキシサイクリン(Dox)によって、ELAS1またはELAS2の発現が誘導されることが確認された。
図8(B)および図8(C)に、フローサイトメトリーの結果を示す。図8(B)および図8(C)から明らかなように、細胞内でELAS1およびELAS2の発現が誘導されても、細胞周期に変化はなかった。このことは、ELAS1およびELAS2が、極めて副作用が少なく、生体にとって安全であることを示している。
<5.γ線によるアポトーシスの誘導>
上記<4>にて説明したU2OS/Tet−On細胞について、γ線によって誘導されるアポトーシスにおける、ELAS1およびELAS2の影響を検討した。
具体的には、ELAS1が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞、ELAS2が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞、および、空のpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞の各々に対して、10グレイ(Gy)のγ線を照射し、その後、経時的に各細胞の細胞周期(特に、sub−G1)を観察した。
図9(A)に示すように、ELAS1およびELAS2が発現しているU2OS/Tet−On細胞では、sub−G1期にある細胞の割合が経時的に上昇していった。また、ELAS1が発現しているU2OS/Tet−On細胞では、ELAS2が発現しているU2OS/Tet−On細胞と比較して、sub−G1期にある細胞の割合の変化が大きかった。なお、sub−G1期にある細胞の割合が上昇することは、当該細胞が死滅しつつあることを示している。
例えば、ELAS1が発現しているU2OS/Tet−On細胞では、γ線を照射後24時間目でsub−G1期にある細胞の割合が14.9%となり、γ線を照射後48時間目でsub−G1期にある細胞の割合が27.2%となり、γ線を照射後72時間目でsub−G1期にある細胞の割合が38.6%となった。
次いで、細胞死がアポトーシスによるものであるか否かを確認するために、周知の方法にしたがって、Annexin Vアッセイ、および、TUNELアッセイを行った。
図9(B)に、Annexin Vアッセイの結果を示す。
図9(B)に示すように、ELAS1が発現しているU2OS/Tet−On細胞では、γ線を照射後72時間目で、Annexin Vに対して陽性の細胞が増加していた。より具体的には、「early apoptosis」にある細胞が、全細胞のうちの略32%であり、「late apoptosis」にある細胞が、全細胞のうちの略23%であった。
図9(C)に、TUNELアッセイの結果を示す。なお、図9(C)において、「NT」は、γ線を照射する前のデータを示し、「IR72」は、γ線を照射後72時間目のデータを示している。
空のpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞と比較して、ELAS1が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞、および、ELAS2が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞では、TUNELに対して陽性の細胞が顕著に増加していた。特に、ELAS1が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞は、ELAS2が挿入されたpTRET3−6Mycが導入されたU2OS/Tet−On細胞と比較して、TUNELに対して陽性の細胞の数が多かった。
以上のことは、ELAS1およびELAS2が、γ線によるアポトーシスを、効率よく引き起こし得ることを示している。
<6.薬剤によるアポトーシスの誘導−1>
細胞にγ線を照射すると、細胞の染色体DNAがダメージを受ける。当該染色体のダメージには幾つかの種類が存在する。例えば、当該ダメージとして、DNA二本鎖切断(DSB:DNA double strand break)およびDNA一本鎖切断(SSB:DNA single strand break)などを挙げることができる。
本発明者等は、γ線によって誘起される、ELAS1およびELAS2を介したアポトーシスは染色体のダメージの種類に依存しているのではないか、との仮説の元、以下の試験を行った。
現在用いられている抗癌作用を有する薬剤の中には、DSBを誘導することなく抗癌作用を発揮するもの、および、DSBを誘導しながら抗癌作用を発揮するもの、等の様々な作用機序を有する薬剤が存在する。
DSBを誘導しながら抗癌作用を発揮する薬剤としては、現在までに多くの薬剤が知られている。なお、DSBが誘導されていることは、DSBのマーカーとして周知であるH2AXおよびCycG2の二重染色によって確認することができる(具体的には、H2AXおよびCycG2の局在が一致すれば、当該細胞においてDSBが生じていると判定することができる)。
例えば、図10に、各種薬剤によって4時間処理された後の骨肉腫(U2OS)細胞における、H2AXおよびCycG2の二重染色の結果を示す。なお、染色は、市販の抗体を用いて、周知の方法にしたがって行った。
具体的に、H2AXの染色には、一次抗体として抗γH2AX抗体(Millipore社製)を用い、二次抗体としてHRP−conjugated anti−rabbit/mouse IgG抗体(Capel社製)を用いた。一方、CycG2の染色には、一次抗体として抗CycG2抗体(周知の方法にて作製したもの)を用い、二次抗体としてHRP−conjugated anti−rabbit/mouse IgG抗体(Capel社製)を用いた。
また、薬剤としては、カンプトテシン(Camptothecin:CPT)(sigma社製)、シスプラチン(Cisplatin)(LKT Laboratories,Inc製)、エトポシド(Etoposide)(sigma社製)、5−フルオロウラシル(5-fluorouracil:5−FU)(sigma社製)、および、イリノテカン(Irinotecan)(CAMPTO yakult社製)を用いた。
図10に示すように、骨肉腫(U2OS)細胞を、10グレイのγ線にて処理した場合、10μMのカンプトテシン(CPT)にて処理した場合、20μg/mLのエトポシドにて処理した場合、20μMのイリノテカンにて処理した場合、核の内部において、H2AXおよびCycG2の局在が一致した。このことは、γ線、カンプトテシン、エトポシド、および、イリノテカンが、骨肉腫(U2OS)細胞においてDSBを引き起こしていることを示している。
<7.薬剤によるアポトーシスの誘導−2>
上記<4>にて説明したU2OS/Tet−On細胞について、様々な濃度のカンプトテシン、イリノテカン、シスプラチン、または、エトポシドと、ドキシサイクリン(Dox)との存在下において、経時的に各細胞の細胞周期(特に、sub−G1)を観察した。
図12(A)に示すように、DSBを生じさせないシスプラチンに対する細胞の感受性(換言すれば、シスプラチンによる細胞死の生じ易さ)は、ELAS1およびELAS2によって変化しなかった。
一方、図11(A)に示すように、DSBを生じさせるカンプトテシンに対する細胞の感受性(換言すれば、カンプトテシンによる細胞死の生じ易さ)は、ELAS1およびELAS2によって増強された。
また、図11(C)に示すように、DSBを生じさせるイリノテカンに対する細胞の感受性(換言すれば、イリノテカンによる細胞死の生じ易さ)は、ELAS1およびELAS2によって増強された。
また、図12(B)に示すように、DSBを生じさせるエトポシドに対する細胞の感受性(換言すれば、エトポシドによる細胞死の生じ易さ)は、ELAS1およびELAS2によって増強された。