JP2015160837A - 新規パラシチコリド誘導体 - Google Patents

新規パラシチコリド誘導体 Download PDF

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靖智 篠原
Yasutomo Shinohara
靖智 篠原
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Abstract

【課題】麹菌(アスペルギルス属)から得られ、癌の治療又は予防のために有用な新規化合物、及び該化合物を含有する医薬組成物の提供。
【解決手段】下式で示される新規パラシチコリド誘導体、及び該化合物を含有する医薬組成物。
Figure 2015160837

【選択図】なし

Description

本発明は、新規パラシチコリド(parasiticolide)誘導体、該誘導体を含む医薬組成物、及び麹菌の該化合物産生性を増大させる方法等に関する。より詳細には、がん細胞の増殖を抑制する作用を有する新規パラシチコリド誘導体、該誘導体を含む、がんの治療又は予防のための医薬組成物、及び当該誘導体を産生する微生物を用いた前記誘導体の製造方法等に関する。
抗がん剤に関しては、すでに多くのものが医薬として実用化されている。しかし、臨床において有用な抗がん剤は、それほど多くはなく、また、治療効果が認められる抗がん剤においても、その副作用が問題となっている。一般に化学物質の生理活性は、その化学構造に依存するところが大きいため、抗がん性を有する新規な化合物の出現が常に望まれている。
アスペルギルス・オリゼ及びアスペルギルス・ソーヤ等の麹菌は、様々な酵素類(蛋白質加水分解酵素、アミラーゼ類等)を産生・分泌し、その優れた澱粉糖化能力及び蛋白質分解力等により、醤油、酒、味噌などの醸造食品の製造に工業的に用いられている。
近年、他の生物種同様アスペルギルス・オリゼのゲノム配列が明らかとなり(例えば、特許文献1参照)、その解析の結果、全ゲノム解析が完了したアスペルギルス・ニードランスやアスペルギルス・フミガタスなどのゲノムと比較して、アスペルギルス・オリゼは、特徴的に染色体上に二次代謝産物産生に関連する遺伝子群が多く存在することが明らかになった(非特許文献1、2)。
Tamano et al. (2008) Fungal Genet Biol. 45, 139−151 Khaldi et al. (2010) Fungal Genet Biol. 47, 736−741
特開2005−176602号公報
がん細胞増殖抑制活性を有する新規パラシチコリド誘導体を麹菌の代謝産物より見出すとともに、該誘導体の生産に関与する新たな遺伝子を同定し、麹菌等の微生物の該化合物生産性を向上させる新規な手段を提供することにある。
前記目的の達成のために、種々の検討を行った結果、新規パラシチコリド誘導体(14−デアセチルパラシチコリドB)が各種がん細胞に対して増殖抑制作用を有しており、麹菌において特定のヒストンメチル化酵素のサブユニット遺伝子の破壊によって該化合物の生産量を増大させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の
(1) 構造式(I):
Figure 2015160837
で表される化合物、製薬上許容されるその塩、光学異性体、溶媒和物、水和物又はそれらの混合物、
(2) 有効成分としての(1)に記載の化合物と、医薬として許容される担体とを含む、医薬組成物、
(3) 癌の治療又は予防のための、(2)に記載の医薬組成物、
(4) (1)に記載の化合物を製造する方法であって、前記化合物を産生する微生物を用いる方法、
(5) 前記微生物がアスペルギルス属に属する、(4)に記載の方法、
(6) 以下のDNA又は蛋白質の発現を阻害又は抑制する工程を含む、(4)又は(5)に記載の方法:
(i) 以下の(a−1)、(a−2)又は(a−3)の蛋白質:
(a−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(a−2)(a−1)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質、又は
(a−3)(a−1)のアミノ酸配列からなる蛋白質と80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質;
(ii)(i)の蛋白質をコードするDNA:
(iii) 以下の(b−1)、(b−2)又は(b−3)のDNA:
(b−1)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b−2)(b−1)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、微生物における前記構造式(I)の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、又は
(b−3)(b−1)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA;並びに/あるいは
(iv) (iii)のDNAによってコードされる蛋白質。
(7) 前記DNAの上流に位置する転写調節領域を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制する工程を含む、(6)に記載の方法、
(8) (i) 以下の(a−1)、(a−2)又は(a−3)の蛋白質をコードするDNA:
(a−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(a−2)(a−1)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質、又は
(a−3)(a−1)のアミノ酸配列からなる蛋白質と80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質;あるいは
(ii) 以下の(b−1)、(b−2)又は(b−3)のDNA:
(b−1)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b−2)(b−1)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、微生物における前記構造式(I)の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、又は
(b−3)(b−1)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、
(9) (i) 以下の(a−1)又は(a−2)の蛋白質:
(a−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(a−2)(a−1)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質、又は
(a−3)(a−1)のアミノ酸配列からなる蛋白質と80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質;あるいは、
(ii) 以下の(b−1)、(b−2)又は(b−3)のDNAによってコードされる蛋白質:
(b−1)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b−2)(b−1)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、微生物における前記構造式(I)の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、又は
(b−3)(b−1)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、
(10) (8)記載のDNA又は(9)記載の蛋白質の発現を阻害又は抑制することにより、麹菌における前記化学式(I)の産生を増大させる方法、
を提供する。
アスペルギルス・オリゼの代謝物から単離された新規パラシチコリド誘導体(14−デアセチルパラシチコリドB)はがん細胞の増殖抑制活性を有することから、これを有効成分として医薬品に用いることで、効果の高い新規な抗がん剤の提供を実現することができる。また、特定のヒストンメチル化酵素のサブユニット遺伝子を破壊することによって、麹菌の該化合物の生産性を増大させることができる。
cclA破壊株及びcontrol株の代謝物のLC分析におけるUVクロマトグラムを比較した図である。
(新規パラシチコリド誘導体)
本発明に係る新規化合物14−デアセチルパラシチコリドBは、それ自体が新規であって、その生産方法は限定されず、あらゆる方法を用いて生産することができる。一例を挙げると、微生物、例えば糸状菌の代謝産物として生産することができる。あるいは、かかる化合物は当業者にとって公知の有機化学的手法により合成してもよい。
本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等の生産に用いることができる微生物は、新規化合物14−デアセチルパラシチコリドBの生産能を有する微生物であれば特に限定されず、あらゆる微生物を用いて、本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等を生産することができる。一例としては、アスペルギルス属菌などの糸状菌が挙げられる。
このアスペルギルス属菌は、本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等の生産能を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ RIB40株及びその変異株を好適に用いることができる。
本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドBのより具体的な生産方法を説明すると、前記のような本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドBの生産能を有する微生物を培養し、その培養物より化合物14−デアセチルパラシチコリドBを分離・精製することにより行う。
前記培養のための培地は、特に限定されず、通常の微生物が利用し得る栄養源を含有する培地等を自由に選択して用いることができる。
前記栄養源も特に限定されず、従来から培養に利用されている栄養源を自由に選択して用いることができる。具体的には、炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、澱粉、糖蜜、玄米、油脂類などが使用できる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦胚芽、綿実粕、コーンステイープリカー、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、などの有機物ならびに硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウムなどの無機物が利用できる。その他、必要に応じて、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸及びその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することができる。さらに、菌の発育を助け、本発明におけるテルペノイド化合物の生産を促進するような有機及び無機物を適当に添加することができる。
培養温度、通気量、培養時間などの培養方法は、特に限定されず、用いる微生物に応じて、適宜設定することができる。例えば、糸状菌を用いる場合であれば、寒天培養法が最も適している。この場合の培養温度も特に限定されないが、25〜35℃が好適であり、30℃付近がより好適である。
次に、前記培養後、培養物から化合物14−デアセチルパラシチコリドB等を分離・精製する。分離・精製方法も、特に限定されず、公知の方法を自由に選択して用いることができる。一例を挙げると、まず、前記培養物を酢酸エチル等にて抽出する。次に、例えば、シリカゲルなどの担体を用いた吸着カラムクロマト法、ゲル濾過用樹脂を用いたゲルろ過カラムクロマト法、溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、分配カラムクロマト法、透析法、沈澱法などを単独で又は適宜組み合わせて抽出精製する方法を用いることができる。
本発明の化合物は、製薬上許容されるその塩、光学異性体、溶媒和物又は水和物の形態又はそれらの混合物であってもよい。例えば、製薬上許容される塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩や、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩や、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸塩などを挙げることができる。
(医薬組成物)
本発明に係る、14−デアセチルパラシチコリドB又はその塩等を含む医薬組成物は、単独で用いることもでき、また、既存のあらゆる薬剤等と併用することができる。本発明に係る医薬組成物は、その用途について特に限定するものではないが、有効成分である14−デアセチルパラシチコリドBの顕著ながん細胞増殖抑制作用を考慮した場合、がんの治療又は予防、例えば白血病、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、乳がん、口腔がん、頭頸部がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、腎細胞がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣腫瘍、肺がん・縦隔腫瘍、骨・軟部腫瘍、皮膚がん、悪性黒色腫、脳腫瘍、悪性リンパ腫等、特に白血病の治療又は予防に使用され得る。さらには、本発明に係る医薬組成物の所望の効果、例えば抗がん効果を損なわない範囲において、既存のあらゆる薬剤等と合剤とすることもできる。
本発明に係る医薬組成物の剤型は、特に限定されず、既存の剤型に全て適用することができる。一例としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤等の経口剤、注射剤、又は、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤等の外用剤などに製剤化することも可能である。
前記経口剤には、有効成分である本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等に加え薬理学的に許容される添加剤を含有させることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
前記注射剤には、有効成分である本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等に加え薬理学的に許容される添加剤を含有させることができる。例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
前記外用剤には、有効成分である本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等に加え薬理学的に許容される添加剤を含有させることができる。例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
(新規パラシチコリド誘導体の生産に関与する新規遺伝子及び蛋白質)
本発明は更に、微生物における14−デアセチルパラシチコリドBの産生を阻害又は抑制する機能を有するDNA又は蛋白質を提供する。より具体的には、配列番号1で表される塩基配列からなるDNA又はその相同DNA、そして配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質又はその相同蛋白質は、14−デアセチルパラシチコリドBの産生を阻害又は抑制するため、当該DNA又はタンパク質の発現を阻害又は抑制することで、微生物における14−デアセチルパラシチコリドBの産生を阻害又は抑制することができる。配列番号1の塩基配列からなるDNAはゲノムデータベースDOGAN(http://www.bio.nite.go.jp/dogan/MicroTop?GENOME_ID=ao)にAO090124000076として登録されている遺伝子である。以下の実施例において、麹菌の該遺伝子を破壊することで、本発明に係る化合物14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性が向上することが確認されている。
アスペルギルス・ニードランスが有する該遺伝子のホモログがcclAであることから、本明細書ではこのAO090124000076遺伝子を「cclA」遺伝子と呼ぶ。
配列番号2で表されるアミノ酸配列は、麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードする。さらに、本発明DNAがコードする蛋白質には、該蛋白質に加えて、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列(上記アミノ酸配列と配列相同性を有するアミノ酸配列)からなり、麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質も含まれる。
より具体的には、本発明のDNAは、配列番号1で表される塩基配列からなるDNA又はその相同DNAである。ここで、「配列番号1で表される塩基配列からなるDNA」には、イントロンを含むゲノム由来のDNAに加えて、アミノ酸をコードする領域のみから成る塩基配列(すなわち、エクソン部分のみが結合された塩基配列)からなるcDNAも含まれる。このようなcDNAは、当業者に公知の任意の方法によって、本明細書に開示の塩基配列情報に基づき調製した適当なプライマーを用いて、麹菌のmRNAを鋳型としたPCR等により取得することが可能である。また、本発明のDNAは当業者に公知の任意の方法によって化学合成することも可能である。
さらに、本発明のDNAには、上記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、及び上記DNAと約80%以上、好ましくは約95%以上である配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNAが含まれる。
ここで、ハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular cloninng third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)、又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al.,1987)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度15〜900mM、好ましくは15〜600mM、さらに好ましくは15〜150mM、pH6〜8であるような条件を挙げることができる。
従って、配列番号1で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該DNAの全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で、約80%以上、好ましくは約90%以上、もっとも好ましくは約95%以上である塩基配列からなるDNAであって、微生物における14−デアセチルパラシチコリドBの生産の阻害又は抑制する機能を有すDNA等を挙げることができる。かかる相同性の程度は、本発明に係る蛋白質と相同のタンパク質についても適用される。
2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性を決定するために、配列は、比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
上記の原理に従い、2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性は、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268、1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877、1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムやFASTAプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
上記のような塩基配列の配列相同性又はコードするアミノ酸配列の配列相同性を示すようなDNAは、上記のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもでき、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群又は公共データベースの中から、当業者が通常用いている方法により、例えば、前述のBLASTソフトウェアを用いた検索により発見することも容易である。さらに、本発明遺伝子は、種々の公知の変異導入方法によって得ることもできる。
本明細書で使用する場合、「相同性」は同一性を指す場合がある。「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つの塩基配列又はアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全塩基又は全アミノ酸残基に対する、同一塩基又はアミノ酸残基の割合(%)を意味する。好ましくは、当該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである。
(新規パラシチコリド誘導体の生産性増大)
本発明DNAは、麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードすることから、該蛋白質又はこれをコードするDNAの発現を阻害又は抑制することによって、麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性を増大させることが可能となる。
上記蛋白質の発現の阻害又は抑制は、当業者に公知の任意の方法・手段により実施することが可能である。例えば、本発明のDNAの転写によって生成されるmRNAに対してRNA干渉及びアンチセンス等の方法を実施し、蛋白質への翻訳を阻害又は抑制することが可能である。また、本発明のDNAの上流に位置する転写調節領域を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、その下流にある本発明のDNAの発現を阻害又は抑制することが可能となる。一般に、転写調節領域には、プロモーター等の各種転写因子が含まれていることが知られている。従って、このような転写因子の少なくとも一部を含む領域を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、目的を達することができる。
あるいは、より直接的に本発明のDNA自体の少なくとも一部を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性を増大させることも可能である。
例えば、当業者に公知の相同組換え等を用いて遺伝子を破壊することにより該遺伝子の発現を阻害することが可能である。しかしながら、麹菌は、相同組換え頻度が低いことから、このような方法で本発明の形質転換体を作製する場合には、非相同組換えに関与するKu70及び Ku80等のKu遺伝子が抑制された形質転換菌を使用することが好ましい。このようなKu遺伝子の抑制は、当業者に公知の任意の方法で実施することができる。例えば、非相同組換え修復機構に関与するKu遺伝子の一種であるKu70遺伝子が破壊されて相同組換え頻度が向上した形質転換菌である、Aspergillus oryzae RkuN16ptr1株を上げることができる。
本明細書において、「麹菌の14−デアセチルパラシチコリドB等の生産性を増大させる」とは、14−デアセチルパラシチコリドB等の生産量を実質的に増大させることを意味し、本明細書の実施例に示した方法によって計数した麹菌の「14−デアセチルパラシチコリドB」産生量が親株と比較して有意に増大すること、好ましくは約3倍以上になることをいう。
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの記載によって何等制限されるものではない。なお、以下の実施例における各遺伝子操作の手段・条件等は、特に断わりがない限り、例えば、特開平8−80196号公報等に記載されている当業者に公知の一般的な方法に従い実施した。
<アスペルギルス・オリゼ RIB40 cclA破壊株の作製>
ヒストンメチル化酵素のサブユニット遺伝子(cclA:AO090124000076)、破壊のためのDNAフラグメントは、玉野らの報告(Tamano et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., (2007) 71: 926−934)に準じて行った。
以下、cclA遺伝子の遺伝子破壊断片を作製した方法を具体的に挙げる。Aspergillus oryzae RIB40株のゲノムを鋳型として、Primer cclAのLU(配列番号3)及びLL(配列番号4)を用いて、cclA遺伝子の上流側配列を含む断片をPCRにより増幅した。同様に、cclA遺伝子の下流側配列を含む断片をPrimer cclAのRU(配列番号5)及びRL(配列番号6)を用いて増幅した。
さらに、選択マーカーpyrG遺伝子の断片をPrimer cclAのPU(配列番号7)及びPL(配列番号8)で増幅した。Primer cclAのPU及びPLは、上記で増幅したcclA遺伝子の上流側配列断片と下流側配列断片に相補的な配列を有しているため、これら3つの断片を混合したものを鋳型とし、配列番号3および6のプライマーを用いたPCR反応を行うことにより、3つの断片が融合した1つの断片を得た。
この断片は、cclA遺伝子の上流及び下流の部分配列がpyrG遺伝子の両端に存在する構造をしているため、相同組み換えによる置換破壊を行う遺伝子破壊断片となる。用いたプライマー配列を表1に示す。
Figure 2015160837
こうして得られた遺伝子破壊断片を用いて、アスペルギルス・オリゼRkuptrP2−1ΔAF株(Appl.Environ Microbiol.,74:7684,2
008)を宿主とした形質転換を行い、遺伝子破壊株を取得した。遺伝子破壊の確認は、用いた遺伝子破壊断片よりも外側の配列から増幅するプライマーを用いたPCRにより、選択マーカーの遺伝子に相当する増幅断片長の変化を指標に行った。確認に用いたプライマーの配列(配列番号9、10)を表2に示す。
Figure 2015160837
<遺伝子破壊株における14−デアセチルパラシチコリドB産生量の定性的評価>
RkuptrP2−1ΔAF株のpyrG遺伝子のみを相補した株(以下contro
l株とする)を対照とし、表3に示す組成のCYA寒天培地にそれぞれ1×107胞子/ mlに調整した胞子懸濁液100μlをプレートに塗布し、30℃で7日間培養した。
Figure 2015160837
次に、培地と菌体を直径6mmのスポットとして5サンプル回収し、酢酸エチル溶液1mlで抽出した。得られた酢酸エチル抽出物を遠心濃縮機に供し濃縮乾固させ、100μlのアセトニトリルに再溶解させたものをサンプルとした。
検出は、LC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析装置)(アジレント社製1100シリーズ高速液体クロマトグラフィー、及びアプライドバイオシステム社製QSTAR Elite質量分析装置)を用いて行った。
分離カラムは、ODSカラム(財団法人化学物質評価研究機構 L−column 粒子径5μm、内径2.1mm、長さ100mm)を用い、溶離液は、0.1vol%蟻酸水をA液、0.1vol%蟻酸−アセトニトリルをB液とし、0分から5分までをA液95%、B液5%で流し、25分までにA液5%、B液95%に達するように濃度勾配をかけ、その後35分から36分でA液95%、B液5%とする方法でサンプル5μlを分離した。流速は、毎分0.2mlで行った。
質量分析は、Electrospray ionization(ESI)をイオン化法として用い、イオンスプレー電圧は5500 V、ヒーターガス温度は450℃、ネブライザーガス(GS1)は50psi、ターボガス(GS2)は50psi、カーテンガス(Nitrogen)は30psiとし、正イオン検出モードより検出した。
その結果、cclA破壊株において14−デアセチルパラシチコリドBの産生量が、control株と比較して約3倍程度増加していた。クロマトグラムを図1に示す。
<14−デアセチルパラシチコリドBの分離・精製>
CYA寒天培地1Lに、麹菌アスペルギルス・オリゼ RIB40 cclA破壊株の胞子を添加して、30℃で7日間培養することにより麹菌培養物を得た。得られた麹菌培養物を細かく切片化し、酢酸エチル(1L)で2回抽出を行った後、フィルターろ過したサンプルを酢酸エチル抽出物とした。
次に、この酢酸エチル抽出物を遠心エバポレータで濃縮乾燥した。この濃縮乾燥後の粗抽出物の重量は、134mgであった。
粗抽出物をアセトニトリル:水(50:50)溶液に溶解し、遠心分離(3,000rpm、20分間)にかけ、遠心上清を回収した。この遠心上清をODSカラム(ナカライテスク社製Cosmosil 5C18−ARII 20×250mm)に供与し、本発明にかかる化合物14−デアセチルパラシチコリドBを精製した(10mg)。
得られた化合物は、下記の物理化学的性質を有するものであり、各種スペクトルデータの解析の結果、前記式(1)で示される化学構造を有することがわかった。
<14−デアセチルパラシチコリドBの物性>
性状;無色粉末
分子式:C24H28O8
高分解能ESI−MS 実測値;445.1863(M+H)+ 計算値;445.1862
UVスペクトル;アセトニトリル溶液中、198、210、355nmに吸収
Figure 2015160837
<がん細胞増殖抑制作用の評価>
HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞株)は、DMEM medium(Invitrogen社製)に10% Fetal Calf Serum(Nichirei社製)、0.5% penicillin/streptomycin溶液(Invitrogen社製)を添加した培地中、37℃、5%CO2の湿気中培養下で維持した。HL-60細胞(ヒト急性前骨髄性白血病細胞株)は、RPMI1640 medium(Invitrogen社製)に10% Fetal Calf Serum、0.5%penicillin/streptomycin溶液を添加した培地中、37℃、5%CO2の湿気中培養下で維持した。tsFT210細胞(マウス乳がん細法FM3Aを親株とするcdc2の温度感受性株)は、RPMI1640 mediumに5%Calf Serum(Hyclone社製)、0.5%penicillin/streptomycin溶液(Invitrogen社製)を添加した培地中、32℃、5%CO2の湿気中培養下で維持した。srcts-NRK細胞(ラット腎細胞由来正常繊維芽細胞NRKを親株とするがん遺伝子v-srcの温度感受性株)は、MEM medium(Sigma-Aldrich社製)に0.03g/l glutamine、10% Calf Serum、0.5% penicillin/streptomycin溶液を添加した培地中、32℃、5%CO2の湿気中培養下で維持した。
HeLa細胞は96穴プレート(IWAKI社製)に4×103cells/well/100(lとなるように播種し、翌日、各濃度に調整した14−デアセチルパラシチコリドBを0.5%(v/v)で添加した。HL-60細胞、tsFT210細胞、srcts-NRK細胞は96穴プレートにそれぞれ1.5×104cells/well/100(l、1.6×104cells/well/100(l、1.0×104cells/well/100(lとなるように播種し、3時間後に各濃度に調整した14−デアセチルパラシチコリドBを0.5%(v/v)で添加した。薬剤添加から48時間後に、生細胞数測定試薬SF溶液(WST-8試薬、Nacalai tesque社製)を各ウェルに10(l添加し、HeLa細胞、HL-60細胞を37℃、5%CO2の湿気中培養下で30分、tsFT210細胞、srcts-NRK細胞を32℃、5% CO2の湿気中培養下で1時間維持した。反応後、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer社製)を用いて、450nmの吸光度を測定し、測定値から細胞増殖率を求めた。
評価した結果を表4に示す。14−デアセチルパラシチコリドBは、いずれの細胞に対しても細胞増殖阻害活性を示し、特に白血病細胞に対して高い作用を示した。
Figure 2015160837

Claims (10)

  1. 構造式(I):
    Figure 2015160837
    で表される化合物、製薬上許容されるその塩、光学異性体、溶媒和物、水和物又はそれらの混合物。
  2. 有効成分としての請求項1に記載の化合物と、医薬として許容される担体とを含む、医薬組成物。
  3. 癌の治療又は予防のための、請求項2に記載の医薬組成物。
  4. 請求項1に記載の化合物を製造する方法であって、前記化合物を産生する微生物を用いる方法。
  5. 前記微生物がアスペルギルス属に属する、請求項4に記載の方法。
  6. 以下のDNA又は蛋白質の発現を阻害又は抑制する工程を含む、請求項4又は5に記載の方法:
    (i) 以下の(a−1)、(a−2)又は(a−3)の蛋白質:
    (a−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
    (a−2)(a−1)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質、又は
    (a−3)(a−1)のアミノ酸配列からなる蛋白質と80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質;
    (ii)(i)の蛋白質をコードするDNA:
    (iii) 以下の(b−1)、(b−2)又は(b−3)のDNA:
    (b−1)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
    (b−2)(b−1)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、微生物における前記構造式(I)の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、又は
    (b−3)(b−1)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA;並びに/あるいは
    (iv) (iii)のDNAによってコードされる蛋白質。
  7. 前記DNAの上流に位置する転写調節領域を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制する工程を含む、請求項6に記載の方法。
  8. (i) 以下の(a−1)、(a−2)又は(a−3)の蛋白質をコードするDNA:
    (a−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
    (a−2)(a−1)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質、又は
    (a−3)(a−1)のアミノ酸配列からなる蛋白質と80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質;あるいは
    (ii) 以下の(b−1)、(b−2)又は(b−3)のDNA:
    (b−1)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
    (b−2)(b−1)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、微生物における前記構造式(I)の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、又は
    (b−3)(b−1)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA。
  9. (i) 以下の(a−1)又は(a−2)の蛋白質:
    (a−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
    (a−2)(a−1)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質、又は
    (a−3)(a−1)のアミノ酸配列からなる蛋白質と80%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質であって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質;あるいは、
    (ii) 以下の(b−1)、(b−2)又は(b−3)のDNAによってコードされる蛋白質:
    (b−1)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
    (b−2)(b−1)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、微生物における前記構造式(I)の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、又は
    (b−3)(b−1)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、微生物における前記構造式(I)で表される化合物の産生を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA。
  10. 請求項8記載のDNA又は請求項9記載の蛋白質の発現を阻害又は抑制することにより、麹菌における前記化学式(I)の産生を増大させる方法。


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