JP2015158365A - 導電材料の疲労試験方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】平均結晶粒径の調整と結晶組織の均質化が図られた疲労試験片を使用することが可能な導電材料の疲労試験方法を提供する。
【解決手段】導電材料の疲労試験方法は、導電材料で作製した被加工物12に、加工度が1.5以上の塑性変形を加えて、平均結晶粒径が50μm以下の結晶組織で構成される原試験体11を作製する第1工程と、原試験体11に加える塑性変形の加工度を0.3以下にして、原試験体11に形成された結晶組織の状態を維持しながら、原試験体11から薄板試験片10を作製する第2工程とを有し、作製された薄板試験片10を片持ち支持し共振させて薄板試験片10に繰り返し曲げ変形を加えて、薄板試験片10が破断するまでの繰り返し回数を求める。
【選択図】図1

Description

本発明は、ロボットや自動車等の各種装置において、例えば、駆動部分と静止部分の間に配設される配線等に使用する各種細径ケーブル用の導電材料の疲労試験方法に関する。
疲労試験片に繰り返し変形を加えて、繰り返し回数が、例えば10回以上の疲労試験を行う場合、繰り返し速度を高くした迅速疲労試験方法として、疲労試験片を薄片化して共振させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1参照)。
特許第3833146号公報 特許第3361895号公報
津志田雅之、外3名、「薄片試験片用小型疲労試験機の開発とマグネシウム単結晶の疲労試験」、材料、日本材料学会、2009年8月、第58巻、第8号、p.703−708
一般に、金属材料に加工を施した場合、金属材料に加えられた加工度の増大に伴って、金属材料の結晶組織を構成している結晶粒が微細化することが知られている。また、金属材料を構成している結晶粒が微細化すると、金属材料の疲労強度が増大することが知られている。このため、導電材料から疲労試験片を加工する際に導電材料に加えられた加工度と、導電材料から製品(例えば、ケーブル)を製造する際に導電材料に加えられる加工度が異なると、疲労試験片を構成している結晶組織と、製品を構成している結晶組織は異なることになる。
特に、製品が細径ケーブルの場合、細径ケーブルを構成している素線の線径を細くする必要があるため、素線(製品)の作製時に導電材料に加える加工度は、疲労試験片の作製時に導電材料に加える加工度に比べて大きくなる。このため、疲労試験片を構成している結晶組織は、素線を構成している結晶組織と大きく異なることになって、疲労試験片を用いた疲労試験の結果に基づいて予測した使用時の細径ケーブル(素線)の破断回数と細径ケーブルを実際に使用した際に得られた細径ケーブルの破断回数との間には齟齬が生じ、疲労試験の結果から使用時の破断回数を正確に予測できないという問題が生じる。
そこで、細径ケーブル(素線)の破断回数を正しく評価するためには、素線の結晶組織と同等の結晶組織を有する疲労試験片を作製する必要があり、そのためには、素線の製造設備と同程度の加工度を加えることが可能な専用の加工装置を用いて疲労試験片を作製することが必要になる。ここで、専用の加工装置として、圧延ロール式の強圧下加工装置の使用が、操作性及び経済性の観点から有利であるが、結晶粒径の調節を目的としてロール圧延を行った場合、均質な結晶組織を有する疲労試験片が得られ難く、疲労試験の結果のばらつきが問題となっている。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、平均結晶粒径の調整と結晶組織の均質化が図られた疲労試験片を使用することが可能な導電材料の疲労試験方法を提供することを目的とする。
前記目的に沿う本発明に係る導電材料の疲労試験方法は、導電材料で作製した被加工物に、加工度が1.5以上の塑性変形を加えて、平均結晶粒径が50μm以下の結晶組織で構成される原試験体を作製する第1工程と、
前記原試験体に加える塑性変形の加工度を0.3以下にして、該原試験体に形成された結晶組織の状態を維持しながら、前記原試験体から薄板試験片を作製する第2工程とを有し、
作製された前記薄板試験片を片持ち支持し共振させて該薄板試験片に繰り返し曲げ変形を加えて、該薄板試験片が破断するまでの繰り返し回数を求めている。
本発明に係る導電材料の疲労試験方法において、前記被加工物に加える前記塑性変形は、繰り返しせん断変形加工により与えることが好ましい。
本発明に係る導電材料の疲労試験方法において、前記繰り返しせん断変形加工は、ECAP法による加工を繰り返すことにより行い、該ECAP法の加工前後の前記被加工物の断面積の減少率は20%以下であることが好ましい。
ここで、前記ECAP法の加工を繰り返す際、1又は複数回の加工毎に、前記被加工物を加工方向に沿った中心軸の回りに回転させて、該被加工物内でのせん断変形部位の周方向角度位置をずらしながら行うことが好ましい。
本発明に係る導電材料の疲労試験方法においては、被加工物に加える加工度を1.5以上とし、原試験体に加える加工度を0.3以下とすることにより、原試験体に形成された結晶組織を、薄板試験片の作製中に維持することができ、薄板試験片を用いた疲労試験から得られた疲労特性は、原試験体に形成された結晶組織を反映した疲労特性となる。そこで、被加工物に加える加工度を変えて原試験体をそれぞれ作製し、各原試験体から薄板試験片を作製して疲労試験を行うことにより、加工度をパラメータとした導電材料の疲労特性を求めることができる。このため、予め求めておいた加工度と疲労特性との関係に、細径ケーブル用の素線を製造する際に導電材料に加える加工度を当てはめることにより、想定される使用条件下における細径ケーブル(素線)の疲労特性を予測することができる。
本発明に係る疲労試験方法において、被加工物に加える塑性変形を、繰り返しせん断変形加工により与える場合、被加工物に加える加工度の調節が容易になる。
本発明に係る疲労試験方法において、繰り返しせん断変形加工を、ECAP法による加工を繰り返すことにより行う場合、被加工物に加える加工度の調節を正確に行うことができる。そして、ECAP法の加工前後の被加工物の断面積の減少率が20%以下である場合、ECAP法による加工を繰り返すことが容易となる。
本発明に係る導電材料の疲労試験方法において、ECAP法の加工を繰り返す際、1又は複数回の加工毎に、被加工物を加工方向に沿った中心軸の回りに回転させて、被加工物内でのせん断変形部位の周方向角度位置をずらしながら行う場合、被加工物全体に亘ってせん断変形を均一に生じさせることができ、原試験体の結晶組織の均質化を図ることができる。その結果、疲労試験を行った際に得られる疲労特性のばらつきを抑制することができる。
本発明の一実施の形態に係る導電材料の疲労試験方法の説明図である。 第1工程におけるせん断変形加工方法の説明図である。 実施例1で求めたS−N曲線を示す説明図である。 比較例1で求めたS−N曲線を示す説明図である。 実施例2で求めたS−N曲線を示す説明図である。
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る導電材料の疲労試験方法は、図1に示すように、例えば、ケーブルの素線の製造に使用する導電材料から薄板試験片10を作製し、薄板試験片10を片持ち支持し共振させて薄板試験片10に繰り返し曲げ変形を加えて、薄板試験片10が破断するまでの繰り返し回数を求めるものであって、導電材料で作製したロッド12(被加工物の一例)に、加工度が1.5以上の塑性変形を加えて、平均結晶粒径が50μm以下の結晶組織で構成される原試験体11を作製する第1工程と、原試験体11に加える塑性変形の加工度を0.3以下にして、原試験体11に形成された結晶組織の状態を維持しながら、原試験体11から薄板試験片10を作製する第2工程と、薄板試験片10を片持ち支持しながら共振させて応力振幅Sと破断回数Nの関係から疲労特性(例えば、S−N曲線)を求める第3工程とを有している。以下、各工程毎に各別に説明する。
(1)第1工程
ロッド12から原試験体11を作製する第1工程は、導電材料の原料(金属)から、原試験体11の基となるロッド12を作製するロッド作製過程と、作製したロッド12に加工度が1.5以上となる塑性変形を加えて原試験体11を作製する強加工過程とを有している。そして、ロッド作製過程では、導電材料の原料を、例えば、グラファイトルツボ内に所定量投入し、高周波誘導加熱により撹拌溶融した後、溶融金属をグラファイトダイスが設けられた容器に移し、水冷したグラファイトダイスを介して鋳造することによりロッド12を得る。なお、ロッド12は、ケーブルの素線の製造に使用するインゴットから取り出してもよい。
ここで、導電材料としては、素線に使用される素材であれば特に制約はなく、例えば、純銅(例えば、純度が99.9%以上)、銅合金(例えば、銅−スズ系、銅−銀系等)、純アルミニウム(例えば、純度が99.5%以上)、アルミニウム合金(例えば、アルミニウム−マグネシウム系、アルミニウム−マグネシウム−シリコン系、アルミニウム−スカンジウム系等)が対象となる。なお、ロッド12の寸法は、使用する金型14に合わせて決定されるが、ロッド12が円柱状の場合、直径は、例えば8〜12mm、長さは、例えば100〜200mmである(図2参照)。
強加工過程では、ロッド12に繰り返しせん断変形加工を行うことにより、ロッド12を塑性変形させている。ここで、繰り返しせん断変形加工は、図2に示すように、屈曲角度Φが90度である貫通孔13が形成された、例えば直方体状の金型14を使用して、金型14の上部に設けられた貫通孔13の一側開口部15からロッド12を押し込み、金型14の側部に設けられた貫通孔13の他側開口部16から排出させるECAP(Equal−Channel Angular Pressing)法を繰り返し行うことにより行っている。なお、ロッド12を貫通孔13の一側開口部15に押し込む場合、ロッド12の表面には、無機系潤滑剤(例えば、二硫化モリブデン)を塗布することが好ましい。
図2に示す貫通孔13の一側開口部15からロッド12を入れて、他側開口部16から強制的に押し出すと、ロッド12が屈曲部(弧の角度がΨとなるコーナ部)を通過する際、せん断ひずみが導入される。ここで、ECAP法の加工前後のロッド12の断面積の減少率を0を越え20%以下に設定、即ち、一側開口部15の内径に対して、他側開口部16の内径を小さく(例えば、開口部断面積減少率で0%を超え20%以下に)設定するので、せん断変形加工後のロッド12は縮径しており、せん断変形加工後のロッド12を再度一側開口部15に装入することが容易にでき、ロッド12のせん断変形加工を繰り返し行うことが容易にできる。
なお、せん断変形加工後のロッド12の断面積減少率を20%以下とすることで、金型14を用いて繰り返しせん断変形加工を行う場合、繰り返しせん断変形加工を行っても1回のせん断変形加工でロッド12に加える加工度を一定にすることができ、せん断変形加工の繰り返し回数により、ロッド12に加える加工度の調節を容易に行うことができる。
ロッド12が貫通孔13を通過した回数をMとすると、ロッド12に導入された累積相当ひずみεは、次式で近似することができる。
ε=(M/31/2)・(P+Q)
ここで、P=2cot{(Φ/2)+(Ψ/2)}、Q=Ψcosec{(Φ/2)+(Ψ/2)}である。
また、貫通孔13の屈曲角度Φが90度以上の場合、ロッド12が貫通孔13を1回通過した際の相当ひずみεは、屈曲部の弧の角度Ψにあまり影響されないことが確認されているので、屈曲角度Φが90度では、P+Qを1と近似できる。このため、貫通孔13をM回通過したロッド12の累積相当ひずみεは、(M/31/2)として計算できる。従って、ロッド12が貫通孔13を通過する回数Mを決めることで、ロッド12の累積相当ひずみεを定量的に容易に評価することができると共に、ロッド12の累積相当ひずみεを正確に調整することができる。
加工度Wは、加工前後の断面積比を用いて、次式で示される。
W=ln(A/A
ここで、Aは加工前の断面積、Aは加工後の断面積を示す。
そして、加工度は、塑性変形に伴う塑性ひずみ量を定量的に示す尺度であるので、加工度Wと累積相当ひずみεとの間には、
W≒ε
という関係が成立する。このため、加工度1.5以上とするには、ロッド12が貫通孔13を通過する回数Mは2以上となる。そして、ロッド12にせん断変形加工をM回繰り返すことにより、原試験体11を作製する場合、先のせん断変形加工に対して次のせん断変形加工では、360/Mで計算される値に相当する角度だけロッド12を加工方向に沿った中心軸の回りに回転させて、ロッド12内におけるせん断変形部位の周方向角度位置をずらしながらせん断変形加工を繰り返す。これにより、ロッド12全体に亘ってせん断変形を均一に生じさせることができ、得られる原試験体11の結晶組織の均質化を図ることができる。
せん断変形加工を繰り返すことによりロッド12内にはひずみが蓄積されていく。一方、ロッド12にひずみが蓄積されると、ロッド12を構成している結晶組織は、ひずみエネルギーの増大に伴ってエネルギー的に不安定な状態となるため、ひずみエネルギーを駆動源とする再結晶が生じて結晶組織が微細化し、エネルギー的に安定な結晶組織に戻ろうとする。このため、原試験体11を作製するためにロッド12に加工度1.5以上の加工を行うと、ロッド12内に常温で再結晶を起こすことが可能となるレベルのひずみエネルギーを注入することができ、再結晶により原試験体11は、平均結晶粒径が50μm以下の結晶組織となる。
例えば、純銅の場合、ロッド12の加工度を0.5とすると、原試験体11の平均結晶粒径は50μm以下、ロッド12の加工度を2とすると、原試験体11の平均結晶粒径は10μm以下、ロッド12の加工度を4とすると、原試験体11の平均結晶粒径は2μm以下、ロッド12の加工度を6とすると、原試験体11の平均結晶粒径は1μm以下となることが確認されている。また、銅−6質量%スズの銅−スズ系合金の場合、ロッド12の加工度を0.3とすると、原試験体11の平均結晶粒径は50μm以下、ロッド12の加工度を1とすると、原試験体11の平均結晶粒径は10μm以下、ロッド12の加工度を3とすると、原試験体11の平均結晶粒径は2μm以下、ロッド12の加工度を5とすると、原試験体11の平均結晶粒径は1μm以下となることが確認されている。
同様に、純アルミニウムの場合、ロッド12の加工度を1.5とすると、原試験体11の平均結晶粒径は50μm以下、ロッド12の加工度を3とすると、原試験体11の平均結晶粒径は10μm以下、ロッド12の加工度を6とすると、原試験体11の平均結晶粒径は2μm以下、ロッド12の加工度を10とすると、原試験体11の平均結晶粒径は1μm以下となることが確認されている。また、アルミニウム−0.3質量%スカンジウム−0.3質量%ジルコニウム系合金の場合、ロッド12の加工度を1とすると、原試験体11の平均結晶粒径は50μm以下、ロッド12の加工度を2とすると、原試験体11の平均結晶粒径は10μm以下、ロッド12の加工度を5とすると、原試験体11の平均結晶粒径は2μm以下、ロッド12の加工度を8とすると、原試験体11の平均結晶粒径は1μm以下となることが確認されている。
(2)第2工程
第2工程は、原試験体11から薄板試験片10の基になる試験片母材を切り出す1次加工過程と、試験片母材を所定の厚さ(例えば、0.2〜0.5mm)に圧延して薄片を作製する2次加工過程と、薄片を切削加工及び研磨加工して所定寸法の薄板試験片10(例えば、長さが20〜30mm、幅が2〜3mm、厚さが0.2〜0.3mm)を作製する3次加工過程とを有している。
ここで、薄板試験片10の再結晶温度は、薄板試験片10を形成する導電材料によって決まる。このため、ケーブルの素線に適用できる導電材料で板状体をそれぞれ複数作製し、室温で板状体をロール圧延して、圧延前後で板状体の結晶組織を構成している結晶粒の粒径に20%以上の変化が見られるか否かを調査した。その結果、導電材料の種類を問わず、加工度が0.3以下では、圧延前後で板状体の結晶組織の結晶粒の粒径に20%以上の変化が生じないことが判明した。なお、結晶粒の粒径変化の有無の判定の閾値を変化率20%としたのは、ロールの水平方向に対し(板状体の圧延方向に沿って)、板状体の外縁部と中心部の加工後の結晶粒の粒径のばらつきを示す変動係数(それぞれの部位の任意の領域における単位面積当たりに含まれる結晶粒の粒径の標準偏差を粒径の平均値で除したもの)が10%以内に収まることに因る。このため、原試験体11から薄板試験片10を作製する間に、薄板試験片11に加えられる加工度を0.3以下とする。
第2工程(1次加工過程〜3次加工過程)において、1次加工過程及び3次加工過程における加工度は、2次加工過程における加工度に対して無視できる値なので、薄板試験片11に加えられる加工度を0.3以下とするには、2次加工過程における加工度を調節することが必要になる。具体的には、試験片母材から薄片を作製する際の圧下量が大きくならないように、試験片母材の厚さができるだけ薄片の厚さに近づくように試験片母材を切り出すか、あるいは、試験片母材から薄片を作製する際の圧下量を小さくして、3次加工過程における研削量を大きくする。なお、3次加工の加工負荷を大きくしてもよい場合は、2次加工を省略することもできる。
従って、薄板試験片11に加えられる加工度を0.3以下とすることにより、薄板試験片11内に常温で再結晶を起こすことが可能となるレベルのひずみエネルギーの導入が防止され、再結晶は生じない。このため、原試験体11に形成された結晶組織の状態を維持しながら、原試験体11から薄板試験片10を作製することができ、薄板試験片10の結晶組織は、原試験体11の結晶組織と同一となる。
(3)第3工程
第3工程では、薄板試験片10の長手方向の一側をホルダに取り付け、薄板試験片10が取り付けられたホルダを音響用スピーカのボイスコイル部に固定することにより、薄板試験片10の長手方向の他端を自由端とした片持ち支持状態にする。次いで、ボイスコイルを振動させ、薄板試験片10が1次共振状態となるように周波数を調整すると共に、薄板試験片10の長手方向の他端(自由端)の最大振幅が所定の値となるようにボイスコイルの振動力を調整する。この共振状態において、薄板試験片10に生じる曲げ変形により、薄板試験片10のホルダ付け根の位置に引張と圧縮の繰り返し応力が負荷されることになって、薄板試験片10の疲労試験が実施される。
ここで、繰り返し応力は、薄板試験片10の自由端の最大振幅に比例し、比例係数は薄板試験片10のヤング率、薄板試験片10の断面2次モーメント、薄板試験片10の断面係数、及び薄板試験片10のホルダ付け根から自由端までの長さを用いて、理論的に計算することができる。なお、疲労試験中、薄板試験片10の一側の両表面をそれぞれCCDカメラで撮像することによりき裂の発生を監視し、き裂の発生が検知された時点の繰り返し回数を求めて、疲労試験を終了する。
続いて、本発明の一実施の形態に係る導電材料の疲労試験方法の作用について説明する。
ロッド12から原試験体11を作製する際に、ロッド12にせん断変形加工を加えるECAP法を繰り返して、ロッド12に加える加工度を1.5以上とするので、ロッド12内に蓄積されたひずみのエネルギーを駆動源とする再結晶が生じて、原試験体11の結晶組織の平均結晶粒径を50μm以下にすることができる。また、原試験体11から薄板試験片10を作製する際に、原試験体11に加える加工度を0.3以下とすることにより、薄板試験片11内に常温で再結晶を起こすことが可能となるレベルのひずみエネルギーの導入を防止して、薄板試験片11に再結晶が生じることを防止できる。このため、原試験体11に形成された結晶組織を、薄板試験片10の作製中に維持することができ、薄板試験片10の結晶組織を、原試験体11の結晶組織と同一とすることができる。
その結果、薄板試験片10を用いた疲労試験から得られた疲労特性は、原試験体11に形成された結晶組織を反映した疲労特性となる。そこで、ロッド12に加える加工度を変えた原試験体11をそれぞれ作製し、各原試験体11から薄板試験片10を作製して疲労試験を行うことにより、加工度毎の、即ち、原試験体11に形成された結晶組織毎の疲労特性(応力振幅と破断回数の関係)を求めることができる。このため、予め求めておいた加工度と疲労特性との関係に、細径ケーブル用の素線を製造する際に加える加工度を当てはめることにより、想定される使用条件下における細径ケーブル(素線)の疲労特性、例えば、応力振幅を想定した際の素線の破断回数、素線の破断回数を想定した際の応力振幅を予測することができる。
ここで、ロッド12にせん断変形加工を行う際にECAP法を用いると、ECAP法の繰り返し回数を調整することで、ロッド12に加える加工度の調節を正確かつ容易に行うことができる。その結果、原試験体11を構成している結晶組織の平均結晶粒径の調整を確実に行うことができ、薄板試験片10を構成する結晶組織の平均結晶粒径の制御が可能になる。
更に、ECAP法を繰り返す際、ロッド12を加工方向に沿った中心軸の回りに回転させて、ロッド12内でのせん断加工部位の周方向角度位置をずらしながらせん断変形加工を繰り返すことにより、原試験体11全体に亘ってせん断変形を均一に生じさせることができ、原試験体11の結晶組織の均質化を図ることができる。これにより、薄板試験片10の結晶組織の均質化を図ることができ、薄板試験片10を用いた疲労試験を行った際に得られる疲労特性のばらつきを抑制することができる。なお、ロッド12の回転は、1回の加工毎に行ってもよいし、複数回の加工毎に行ってもよい。
(実施例1)
アルミニウム−0.3質量%スカンジウム−0.3質量%ジルコニウム系合金のインゴットから直径が10mm、長さが100mmのロッドを4本取り出し、一側開口部の内径が10mm、他側開口部の内径が9.8mmで、中間部で90度屈曲する貫通孔が形成された金型をプレス機に取り付けて、各ロッドを、金型に形成された一側開口部から約200mm/分の押し込み速度で押し込み、金型の他側開口部から排出させるECAP法によるせん断変形加工を室温で4回繰り返し、加工度が3.8の原試験体を4本作製した。なお、ロッドを金型の一側開口部に繰り返し押し込む際、ロッドを中心軸の回りに90度ずつ回転させて、ロッド内でのせん断加工部位の周方向角度位置を90度ずつ移動させた。
次いで、各原試験体から長さが100mm、幅が5mm、厚さが0.36mmの試験片母材を切り出し、圧延により厚さ0.32mmの薄片を作製して、薄片を切削加工及び研磨加工して長さが30mm、幅が3mm、厚さが0.3mmの薄板試験片を複数作製した。なお、原試験体から薄片を得る際に加えた加工度は0.12である。
そして、得られた薄板試験片の長手方向の一側をホルダに取り付け、薄板試験片が取り付けられたホルダを音響用スピーカのボイスコイル部に固定して、薄板試験片の長手方向の他端を自由端とした片持ち支持状態にした。次いで、薄板試験片が1次共振状態となるように周波数を設定すると共に、薄板試験片のホルダ付け根の位置に発生する引張及び圧縮の繰り返し応力が所定の値となるようにボイスコイルの振動力を設定して、薄板試験片を共振させ、疲労試験を実施した。そして、疲労試験中は、薄板試験片のホルダ付け根の両表面をそれぞれCCDカメラで撮像し、き裂の発生を監視し、き裂の発生が検知された時点の繰り返し回数を求めて、疲労試験を終了した。
図3に疲労試験から得られた応力振幅と破断回数(繰り返し数)の関係(S−N曲線)を示す。なお、図3では、4本の原試験体を◇、△、○、□のマークで区別し、同一の原試験体から作製された薄板試験片には、原試験体と同じマークを使用した。
(比較例1)
実施例1で使用したアルミニウム−0.3質量%スカンジウム−0.3質量%ジルコニウム系合金のインゴットから直径が10mm、長さが100mmのロッドを4本取り出し、圧延ロールで圧下率94%の圧延を行って、加工度が2.8の原試験体を4本作製した。
次いで、各原試験体から長さが100mm、幅が5mm、厚さが0.36mmの試験片母材を切り出し、圧延により厚さ0.32mmの薄片を作製して、薄片を切削加工及び研磨加工して長さが30mm、幅が3mm、厚さが0.3mmの薄板試験片を複数作製した。なお、原試験体から薄片を得る際に加えた加工度は0.12である。
得られた薄板試験片を用いて、実施例1と同様の疲労試験を行った。図4に疲労試験から得られた応力振幅と破断回数の関係(S−N曲線)を示す。なお、図4では、4本の原試験体を◆、▲、●、■のマークで区別し、同一の原試験体から作製された薄板試験片には、原試験体と同じマークを使用した。
図3、図4には、全薄板試験片の疲労試験結果に基づいて得られる平均S−N曲線、平均S−N曲線に対して疲労試験結果のばらつきの範囲を示す上、下限S−N曲線をそれぞれ示している。そして、図3における上、下限S−N曲線の間隔(繰り返し回数を指定した場合の応力振幅の上限値と下限値の差又は応力振幅値を指定した場合の繰り返し回数の上限値と下限値の差)は、図4における上、下限S−N曲線の間隔と比較して小さくなっている。
従って、本発明の導電材料の疲労試験方法では、平均結晶粒径の調整と結晶組織の均質化が図られた疲労試験片を作製することができるため、ばらつきの小さな疲労試験結果が得られることが確認できた。
(実施例2)
アルミニウム−0.3質量%スカンジウム−0.3質量%ジルコニウム系合金のインゴットから長さが100mm、幅が5mm、厚さが0.36mmの試験片母材を切り出し、ロール圧延により厚さ0.32mmの薄片を作製して、薄片を切削加工及び研磨加工して長さが30mm、幅が3mm、厚さが0.3mmの薄板試験片を複数作製した。なお、原試験体から薄片を得る際に加えた加工度は0.12であり、結晶組織の平均結晶粒径は550μmであった。
得られた薄板試験片を用いて、実施例1と同様の疲労試験を行った。図5に疲労試験から得られた応力振幅と破断回数の関係(S−N曲線)を◆を用いて示す。
また、同一のインゴットから、直径が10mm、長さが100mmのロッドを4本取り出した。そして、一側開口部の内径が10mm、他側開口部の内径が9.8mmで90度屈曲する貫通孔が形成された金型をプレス機に取り付けて、ロッドを、金型に形成された一側開口部から約200mm/分の押し込み速度で押し込み、金型の他側開口部から排出させるECAP法によるせん断変形加工を室温でそれぞれ2、4、6、及び8回繰り返し、加工度が1.8、3.6、5.4、及び7.2の原試験体を4本作製した。
なお、ECAP法を2回繰り返す場合は、ロッドを金型の一側開口部に再度押し込む際にロッドを中心軸の回りに180度回転させ、ECAP法を4回繰り返す場合は、ロッドを金型の一側開口部に繰り返し押し込む際にロッドを中心軸の回りに90度回転させ、ECAP法を6回繰り返す場合は、ロッドを金型の一側開口部に繰り返し押し込む際にロッドを中心軸の回りに60度回転させ、ECAP法を8回繰り返す場合は、ロッドを金型の一側開口部に繰り返し押し込む際にロッドを中心軸の回りに45度回転させた。
次いで、各原試験体から長さが100mm、幅が5mm、厚さが0.36mmの試験片母材を切り出し、圧延により厚さ0.32mmの薄片を作製して、薄片を切削加工及び研磨加工して長さが30mm、幅が3mm、厚さが0.3mmの薄板試験片を複数作製した。なお、原試験体から薄片を得る際に加えた加工度は0.12である。
ここで、ECAP法を2回繰り返して作製した原試験体から得られた薄板試験片(ECAP2)に関する疲労試験結果は■を用いて、ECAP法を4回繰り返して作製した原試験体から得られた薄板試験片(ECAP4)に関する疲労試験結果は▲を用いて、ECAP法を6回繰り返して作製した原試験体から得られた薄板試験片(ECAP6)に関する疲労試験結果は□を用いて、ECAP法を8回繰り返して作製した原試験体から得られた薄板試験片(ECAP8)に関する疲労試験結果は○を用いてそれぞれ示している。また、ECAP法を2、4、6、及び8回繰り返して作製した原試験体から得られた原試験体の結晶組織の平均結晶粒径は、8μm、1.2μm、0.6μm、及び0.3μmであり、原試験体から作製した薄板試験片の結晶組織の平均結晶粒径は、原試験体の結晶組織の平均結晶粒径と同一であった。
そして、各原試験体から得られた薄板試験片を用いて、実施例1と同様の疲労試験を行った。図5に疲労試験から得られた応力振幅と破断回数の関係(S−N曲線)を示す。
図5から、本発明の導電材料の疲労試験方法により、導電材料からなるロッドに加える加工度を調節することで、原試験体の結晶組織(平均結晶粒径)を制御することを介して、薄板試験片の結晶組織(平均結晶粒径)の調節ができ、結晶組織を反映した導電材料の疲労特性が得られることが確認できた。
従って、素線を形成する導電材料から加工度が1.5以上となる原試験体を作製し、原試験体から加工度が0.3以下となる薄板試験片を作製して、疲労試験を行って加工度と疲労特性との関係を求めてデータベースを予め作成しておくと、素線の製造の際に加えられる加工度を算出し、その加工度に一致又は近接する加工度で作製された原試験体から作製された薄板試験片を用いて得られた疲労特性をデータベース中から抽出することにより、素線の想定される使用条件下における寿命を予測することができる。
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
例えば、せん断変形加工法としてECAP法(ECAE(Equal Channel Angular Extrusion)法ともいう)を採用したが、HPT(High Pressure Torsion)法を使用することもできる。
10:薄板試験片、11:原試験体、12:ロッド、13:貫通孔、14:金型、15:一側開口部、16:他側開口部

Claims (4)

  1. 導電材料で作製した被加工物に、加工度が1.5以上の塑性変形を加えて、平均結晶粒径が50μm以下の結晶組織で構成される原試験体を作製する第1工程と、
    前記原試験体に加える塑性変形の加工度を0.3以下にして、該原試験体に形成された結晶組織の状態を維持しながら、前記原試験体から薄板試験片を作製する第2工程とを有し、
    作製された前記薄板試験片を片持ち支持し共振させて該薄板試験片に繰り返し曲げ変形を加えて、該薄板試験片が破断するまでの繰り返し回数を求めることを特徴とする導電材料の疲労試験方法。
  2. 請求項1記載の導電材料の疲労試験方法において、前記被加工物に加える前記塑性変形は、繰り返しせん断変形加工により与えることを特徴とする導電材料の疲労試験方法。
  3. 請求項2記載の導電材料の疲労試験方法において、前記繰り返しせん断変形加工は、ECAP法による加工を繰り返すことにより行い、該ECAP法の加工前後の前記被加工物の断面積の減少率は20%以下であることを特徴とする導電材料の疲労試験方法。
  4. 請求項3記載の導電材料の疲労試験方法において、前記ECAP法の加工を繰り返す際、1又は複数回の加工毎に、前記被加工物を加工方向に沿った中心軸の回りに回転させて、該被加工物内でのせん断変形部位の周方向角度位置をずらしながら行うことを特徴とする導電材料の疲労試験方法。
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