JP2015142547A - 植物成長強化剤及びそれを用いた植物栽培方法 - Google Patents
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Abstract
Description
(2)ペロモナス属(Pelomonas)微生物、キサントモナス科(Xanthomonadaceae)微生物、ブラディリゾリウム属(Bradyrhizobium)微生物及びアシネトバクター属(Acinetobacter)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、(1)に記載の水生植物根圏微生物。
(3)ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01645の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(4)ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01647の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(5)キサントモナス科微生物が受託番号NITE P-01646の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(6)ブラディリゾリウム属微生物が受託番号NITE P-01648の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(7)キトファギア綱(Cytophagia)微生物、ラキバクター属(Lacibacter)微生物、及びウンディバクテリウム属(Undibacterium)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、(1)に記載の水生植物根圏微生物。
(8)キトファギア綱微生物が受託番号NITE P-01894の微生物である、(7)に記載の水生植物根圏微生物。
(9)ラキバクター属微生物が受託番号NITE P-01895の微生物である、(7)に記載の水生植物根圏微生物。
(10)ウンディバクテリウム属微生物が受託番号NITE P-01896の微生物である、(7)に記載の水生植物根圏微生物。
(11)(1)〜(10)に記載の水生植物根圏微生物を少なくとも1種含む植物成長強化剤。
(12)(2)に記載のアシネトバクター属微生物が受託番号NITE P-523の微生物である、(11)に記載の植物成長強化剤。
(13)植物が双子葉植物又は単子葉植物である、(11)又は(12)に記載の植物成長強化剤。
(14)(11)〜(13)のいずれかに記載の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用して当該植物を栽培する植物栽培方法。
(15)前記栽培が水耕栽培である、(14)に記載の植物栽培方法。
(16)低濃度肥料培地で栽培する、(14)又は(15)に記載の植物栽培方法。
(17)低照度条件下で栽培する、(14)〜(16)のいずれかに記載の植物栽培方法。
1-1.概要及び定義
本発明の第1の態様は、植物成長強化剤である。本態様の植物成長強化剤は、水生植物根圏微生物を有効成分として含む。本態様の植物成長強化剤を宿主植物に施用することで、宿主植物の成長を強化することができる。
1−2−1.含有成分
本態様の植物成長強化剤は、有効成分として水生植物根圏微生物を含む。
本態様の植物成長強化剤に含まれる水生植物根圏微生物(以下、しばしば「本態様の水生植物根圏微生物」、又は「第1態様の水生植物根圏微生物」若しくは「本発明の水生植物根圏微生物」と称する。)は、宿主植物の成長を促進させる作用(成長促進作用)を有する、いわゆる植物成長促進性根圏微生物(Plant Growth Promoting Rhizobacteria:PGPR)であることを特徴とする。ここでいう「成長促進作用」とは、水生植物根圏微生物を根圏に生息させることによって、生息させていない同種植物と比較して植物の成長を促進する作用をいう。また、本態様の水生植物根圏微生物は、前記成長促進作用に加えて、宿主植物のクロロフィル量を増加する作用(クロロフィル量増加作用)をさらに有することを特徴とする。「クロロフィル量増加作用」とは、水生植物根圏微生物を根圏に生息させることによって、生息させていない同種植物と比較して植物全体のクロロフィル量を増加する作用をいう。前述した本態様の植物成長強化剤が有する植物成長強化作用は、有効成分である水生植物根圏微生物に起因する作用である。つまり、本態様の水生植物根圏微生物が本発明の効果を奏する植物成長強化作用を有している。
本態様の植物成長強化剤は、有効成分である本態様の水生植物根圏微生物を生存状態で保持し得ることができれば、特に限定はしない。例えば、本態様の水生植物根圏微生物を適当な溶液に懸濁した液体状態、固体状態又はその組み合わせとすることができる。液体状態の場合、本態様の水生植物根圏微生物を適切な溶液に懸濁したものであればよい。適切な溶液としては、例えば、水(滅菌水、脱イオン水、超純水を含む)、生理食塩水、バッファー(リン酸緩衝液、炭酸緩衝液を含む)、その水生植物根圏微生物の培地が挙げられる。固体状態の場合、例えば、顆粒状態、粉末状態、ゲルのような半固体状態が挙げられる。これらの具体例として、液剤、粉剤、粒剤等の剤形が含まれる。
本態様の植物成長強化剤の所定量あたりにおける有効成分である本態様の水生植物根圏微生物の含有量は、含有する水生植物根圏微生物の種類、異なる複数種を含む場合には、その組み合わせ、宿主物の種類、剤形、及び施用方法等の諸条件によって異なるが、通常は、本態様の植物成長強化剤を施用後、本態様の水生植物根圏微生物が宿主植物に対して植物成長強化作用を発揮する上で十分な量を含んでいることが好ましい。この含有量は、当該分野の技術常識の範囲内で、施用後に所定量の培地あたりの水生植物根圏微生物が所望の存在量となるように勘案し、決定すればよい。一例として、本態様の植物成長強化剤における本態様の水生植物根圏微生物の含有量は、103〜1015cfu/mL、好ましくは104〜1010cfu/mLの範囲にあればよい。この場合、施用時に、必要に応じて水、生理食塩水、バッファー等で10〜1000倍に希釈することもできる。
2−1.概要
本発明の第2の態様は、植物栽培方法である。本態様の植物栽培方法は、前記第1態様の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用して当該植物を栽培することを特徴とする。本態様の植物栽培方法により、低照度条件下及び/又は低濃度肥料下であっても栽培植物の成長率を維持及び/又は促進させることができる。
本態様の植物栽培方法を適用する栽培形態は、特に制限はしない。しかし、本態様の植物栽培方法は、植物工場、特に完全制御型の植物工場で用いた場合にその効果を最も享受し得る。ここで「完全制御型の植物工場」とは、ビル屋内のような閉鎖空間内において、光、湿度、温度等の気象条件や培地の供給及び交換等が完全にシステム化され、コンピューター制御された人工環境下で植物の栽培を行う工場をいう。一般に、植物工場では、管理面、衛生面、労力面等から水耕栽培形態が採用されている。
本態様の植物栽培方法では、必須の工程として施用工程及び栽培工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
本明細書において「施用工程」は、前記第1態様の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用する工程である。施用工程は、植物成長強化剤の有効成分である第1態様の水生植物根圏微生物を栽培植物の根圏に付与することを目的とする。
本明細書において「栽培工程」は、前記施用工程後の栽培植物を所定の期間栽培する工程である。本工程は、栽培植物の根圏に第1態様の水生植物根圏微生物を定着させ、その後、栽培植物を所望の状態にまで生育させることを目的とする。
本態様の植物栽培方法は、低照度条件下及び/又は低濃度肥料下であっても栽培植物の成長率を維持及び/又は促進させることができることから、電力コスト及び肥料コストの低減が可能となり、従来の植物工場における最大の課題であった生産コストの低減を実現することができる。それによって、安価で、安全な栽培植物の安定的な供給が可能となる。
(目的)
様々な水生植物から水生植物根圏微生物を分離し、水生植物根圏微生物ライブラリーを作製する。
水生植物根圏微生物の分離源として、浮遊植物のアオウキクサ(Lemna aoukikusa)及びコウキクサ(Lemna minor)、抽水植物のヨシ(Phragmites australis)、及び湿生植物のミソハギ(Lythrum anceps)の4種の水生植物を使用した。
(1)分離培地
培地にはR2Aの成分を10倍希釈した1/10-R2A培地を使用した。培地の組成は、表3に示す通りである。
各水生植物の根を滅菌Hoagland培地で2回軽く洗浄した後、10mLの滅菌Hoagland培地内でホモジナイザー(エースホモジナイザーAM5;日本精機製作所)を用いて15000rpmにて5分間ホモジナイズした。Hoagland培地組成は表4に示す。
(目的)
実施例1で作製した水生植物根圏微生物ライブラリーから植物成長促進根圏微生物(PGPR)を選抜する。
滅菌コウキクサを用いた無菌系で前記ライブラリー内の各水生植物根圏微生物について、コウキクサに対する成長促進効果を個別検証し、PGPRを選抜した。
結果を図1に示す。本選抜によってPGPRとして、新たに4種の菌株(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)が得られた。14日間栽培後の陰性対照(コントロール)に対するMRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株のコウキクサの成長促進効果は、それぞれ3.6倍、3.4倍、4.6倍、2.9倍、及び2.3倍であった。これら5株を本発明の水生植物根圏微生物候補とした。
(目的)
実施例2で新たに得た4種のPGPR(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)の分類を行う。
各PGPRの16S rRNA遺伝子の塩基配列を解析した。各PGPRの菌体を寒天培地上から滅菌ナイロンスワブで回収し、Fast DNA SPIN Kit for Soil(Q-biogene)を用いて、添付のプロトコルに従いDNAを抽出した。
表5に結果を示す。MRB1株とMRB3株は、ペロモナス サッカロフィラ(Pelomonas saccharophila)に近縁であることが判明した。そこで、それぞれPelomonas sp. MRB1株、及びPelomonas sp. MRB3株と命名した。また、MRB2株はドクドネラ(Dokdonella)sp. KIS28-6に比較的近縁であることが判明した。ただし、93.6%の相同性は同属としては低い値であり、MRB2株は、ドクドネラ属を含むキサントモナス科(Xanthomonadaceae)に属する新属の微生物の可能性もある。しかし、詳細な分類分析前であることから本明細書では前述のようにMRB2株をドクドネラ属の1種としてDokdonella sp. MRB2株と命名した。ただし、この株名は、便宜的なものであって、今後の分類分析により新属に属する種であることが判明した場合、その新たな属名への変更を何ら妨げるものではない。さらに、MRB4株はブラディリゾリウム シチシ(Bradyrhizobium cytisi)に近縁であることが判明した。そこで、Bradyrhizobium sp. MRB4株と命名した。
(目的)
新規PGPR(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)及び既知PGPRのP23株を施用した宿主植物は、図1で示すように成長促進効果が認められたが、それ以外にも宿主植物の葉色が濃くなる現象が観察された(図示せず)。そこで、これらのPGPRによる宿主植物のクロロフィル量増加作用について検証した。
実施例2における栽培14日目の各コウキクサの葉状体と根を70℃で24時間乾燥させた後、N,N-ジメチルホルムアミド5 mLに浸漬し、4℃/暗条件下で24時間抽出した。得られた上清についてR. J. Porraらの方法(Porra R. J. et al, (1989) Biochim. Biophys. Acta 975: 384-394)に従って、649 nmと665 nmの吸光度を測定した。測定した吸光度の値から以下の式を用いて全クロロフィル量(a+b)を算出した。
クロロフィル a (μg/mL)=13.5275×A665-5.2007×A649
クロロフィル b (μg/mL)=-7.0741×A665+22.4327×A649
結果を図2に示す。MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株又はP23株を施用したコウキクサは、それらを施用していない陰性対照のコウキクサよりもクロロフィル量が4倍以上増加することが示された。すなわち、MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株は、PGPRの性質に加えて、宿主植物に対するクロロフィル量増加作用を有することが明らかとなった。通常のPGPRでは、このような作用はこれまで知られていない。そこで、クロロフィル量増加作用を有する上記5株のPGPRを本発明の水生植物根圏微生物として、以下の実施例に用いた。
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物(MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株)は、図1で示すように、いずれも顕著な成長促進作用を宿主植物に付与することができた。そこで、これらの水生植物根圏微生物が低肥料濃度培地においても宿主植物に成長効果を付与し得るか否かを検証する。
基本的な方法は、実施例2の方法に準じた。ただし、本実施例では、Hoagland培地を原液(×1:至適濃度培地)と、原液の5倍希釈液(×1/5:低肥料濃度培地)をそれぞれに対して使用した。
結果を図3に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。本発明の水生植物根圏微生物を施用した場合、陰性対照よりも低肥料濃度培地で高い成長性が観察された。この結果から、本発明の水生植物根圏微生物は、低肥料濃度培地であっても宿主植物に成長促進効果を付与できることが立証された。
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物(MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株)は、図2で示すように、いずれも顕著なクロロフィル量の増加効果を宿主植物に付与した。そこで、これらの水生植物根圏が低照度条件下においても宿主植物に成長効果を付与し得るか否かを検証する。
基本的な方法は、実施例2の方法に準じた。ただし、本実施例では、無菌コウキクサの栽培を、25000luxの高照度条件下と10000luxの低照度条件下で行った。
結果を図4に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。本発明の水生植物根圏微生物を施用した場合、低照度条件下栽培の方が高照度条件下栽培よりも、むしろ高い成長性が観察された。この結果から、本発明の水生植物根圏微生物は、低照度条件下であっても宿主植物に成長促進効果を付与できることが立証された。これは、これらの水生植物根圏微生物を根圏に有する宿主植物がそれを有さない同種植物よりも弱い光照射で効率的に成長できることを示している。
(目的)
上記実施例では、いずれも宿主植物として単子葉植物であるコウキクサを使用した。そこで、本実施例では、本発明の水生植物根圏微生物が双子葉植物に対しても同様の効果を有することを確認するため、双子葉植物に本発明の水生植物根圏微生物を施用したときのクロロフィル量増加効果について検証した。
宿主植物として、双子葉植物であるキク科(Asteraceae )植物のレタス(Lactuca sativa L. cv. Great Lakes)(アタリヤ農園)を使用した。
(1)種子の表面殺菌
滅菌水に0.05% 次亜塩素酸ナトリウム、0.02% TritonX-100となるように加えて、殺菌溶液を調製した。この溶液にレタスの種子(アタリヤ農園)入れて、上下に激しく攪拌した後、3〜5分静置した。その後、上清を除去し、滅菌水を加えて静かに攪拌して洗浄後、再び静置した。滅菌水による同様の洗浄を5回繰り返し、種子の表面殺菌を行った。
10倍希釈のHoagland寒天培地200 mL(pH6.0)を入れたプラントボックス(72mm×72mm×100 mm)(インキティッシュ SPL-310072; バイオメディカルサイエンス社)に、表面殺菌後の種子を播種した。プラントボックスの蓋には直径10 mmの穴を開け、その穴にミリシール(FWMS01800; アズワン社)を貼付して、栽培に用いた。プラントボックスを人工気象器(LPH-240S日本医化器械製作所)内に入れて、25℃で、湿度70%、6000lux、16時間 Light / 8時間 Darkの栽培条件で7日間栽培した。
3〜4葉の幼苗を水耕栽培に移植した。水耕栽培は、プラスチック製の角形容器(ハイパックS-38;エンテック社)に黒ビニールテープを巻いたものを用い、水耕液にはHoagland培地(pH 6.0)を10倍又は100倍希釈して1500 mL用いた。各培地には、P23株又は大腸菌(E. coli)を終濁度OD600=0.3 (108 cfu/mL)で接種したもの、又は菌を添加しないもの(菌非接種条件)をそれぞれ調製した。茎と根の境目をスポンジ(1.5 cm3)で挟み、容器の蓋に空けた直径10 mmの穴に差し込み、上記人工気象器を用いて同一栽培条件で7日間栽培した。栽培後、根を洗浄し、無菌Hoagland培地でさらに7日間栽培した。
炭酸カルシウム0.2 gに4℃の99.5%エタノール50 mL加えた後、7500 rpm、4℃で10分間遠心分離し、不溶性画分を除去した溶液をクロロフィル抽出溶液として使用した。一穴パンチを用いてレタスの第8葉を直径5 mmの円状に切り取った後、クロロフィル抽出溶液を1 mL加えて、マルチビーズショッカー(MB755U(S);安井器械社)を用いて2500 rpm、60秒で粉砕した。得られた抽出液を12000 rpm、4℃で10分間遠心分離した後、上清を採取し、649 nmと665 nmの吸光度を測定した。測定した吸光度の値から以下の式用いてクロロフィル量(a+b)を算出した。
クロロフィル a (μg/mL)=13.5275×A665-5.2007×A649
クロロフィル b (μg/mL)=-7.0741×A665+22.4327×A649
測定した湿重量からmg/100 g(湿重量)の単位に換算し求めた。
結果を図5に示す。菌非接種のコントロール及び大腸菌接種のレタスと比較してP23株接種のレタスではクロロフィル量が増加した。
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物が非水生植物の根圏にも生息し得ることを実施例7で用いたレタスで確認する。
実施例7で使用したレタスのうち、菌非接種のレタスとP23株接種のレタス主根を蛍光顕微鏡で観察した。レタス主根は、菌液に浸漬して7日間栽培した後、根を洗浄し、無菌培地でさらに7日間栽培したものを用いた。レタスの主根を軽く洗浄した後、生存バクテリアを緑色蛍光標識することのできるLIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit (登録商標)(life technologies社)を用いて染色した。具体的な方法は、添付のプロトコルに従った。その後、蛍光顕微鏡BZ9000 (キーエンス社)で観察した。
結果を図6に示す。Aは菌非接種のレタス主根の一部の、またBはP23株接種のレタス主根の一部の、蛍光画像である。A及びBにおいて根全体に散在し、図中、矢頭で示す小スポット(カラー図では赤色蛍光スポットに相当)は、自家蛍光しているクロロプラストを示す。また、Bにおいて、根表面で蛍光スポットが集積した部分(カラー図では緑色蛍光スポットに相当)は、根表面に付着した生存状態のP23株の集団(マイクロコロニー)を示す。Bから、非水生植物であっても水生植物根圏微生物は、その根圏に生息し得ることが立証された。
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物が代表的な穀類でもあるイネ科植物のイネにおいても成長促進とクロロフィル量増加に関して、同じ単子葉植物のコウキクサと同様の効果が見られることを確認した。
宿主植物にはイネ(Oryza sativa)(農業生物資源ジーンバンクより入手)を使用した。
(1)種子の表面殺菌
滅菌水に0.05% 次亜塩素酸ナトリウム、0.02% TritonX-100となるように加えて、殺菌溶液を調製した。この溶液にイネの種子入れて、上下に激しく攪拌した後、3〜5分静置した。その後、上清を除去し、滅菌水を加えて静かに攪拌して洗浄後、再び静置した。滅菌水による同様の洗浄を5回繰り返し、種子の表面殺菌を行った。
表面殺菌後の種子を40〜50℃のインキュベーターで5日間乾燥させて休眠打破を行った。その後、種子を水に浸し、遮光下にて30℃で3〜5日間静置して、発根させた。発根した種子を25℃、70%の相対湿度下において0.5mM CaCl2溶液に7日間浸漬し、発芽させた。
3〜4葉の幼苗を水耕培地に移植した。水耕液には水で10倍に希釈したKimura B培地(0.35 mM (NH4)2S04, 0.54 mM KNO3, 0.17 mM Na2HPO4, 0.18 mM Ca(NO3)2, 0.19 mM CaCl2, 0.47 mM MgSO4, 4.5×10-2 mM Fe-Citrate, 4.6×10-3 mM MnSO4, 18.8×10-3 mM H3BO4, 1.0×10-4 mM (Na2)6Mo04 , 1.5×10-4 mM ZnSO4, 1.6×10-4 mM CuSO4, 2 mM MES [pH5.7])を用いた。28℃、70%の相対湿度下において16時間-Light(20300lux)/8時間-Darkの条件下で7日間、前栽培した。
本栽培2日、3日、4日、6日、9日、11日、13日及び15日後に地上部の草丈を測定した。また、本栽培14日後の1株あたりの葉数を測定した。
葉のクロロフィル量の測定には、Chlorophyll monitor SPAD-502plus (KONICA)を用いた。測定場所は全ての葉の中央部であり、測定方法は所定の方法に従った。
イネ地上部草丈の成長を図7に、1株当たりの葉数を図8に、そしてクロロフィル量を図9に示す。
(目的)
実施例5で検証した低肥料濃度培地における宿主植物の成長効果について、さらに肥料濃度が低い培地であっても本発明の水生植物根圏微生物が宿主植物に成長効果を付与し得るか否かを検証する。
基本的な方法は、実施例5の方法に準じた。ただし、本実施例では、Hoagland培地の50倍希釈液(×1/50)及び100倍希釈液(×1/100)を使用した。また水生植物根圏微生物にはMRB3株及びP23株を用いた。
結果を図10に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。本発明の水生植物根圏微生物を施用した場合には、Hoagland培地を50倍又は100倍に希釈した極めて低濃度の肥料培地であっても陰性対照と比較して高い成長性が確認された。この結果から、本発明の水生植物根圏微生物を接種した植物は、低肥料環境下であっても生育ができることが示唆された。これは、肥料コストの削減が可能であることを示唆している。
(目的)
実施例6で検証した低照度条件下での宿主植物の成長効果について、さらに照度が低い条件下で成長効果を付与し得るか否かを検証する。
基本的な方法は、実施例6の方法に準じた。ただし、本実施例では、無菌コウキクサの栽培を5000luxの低照度条件下で行った。また水生植物根圏微生物にはMRB3株及びP23株を用いた。
結果を図11に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。5000luxの低照度条件下であってもMRB3株又はP23株を接種したコウキクサでは、陰性対照と比較して高い成長性を維持していることが確認された。これは、植物工場において栽培する植物の成長を維持しながら、光源の消費電力を抑制できることを示唆している。
(目的)
実施例1に記載の方法に準じて新たに作製した水生植物根圏微生物ライブラリーから成長促進効果の高い植物成長促進根圏微生物(PGPR)を選抜する。
基本的な方法は、新たな水生植物根圏微生物ライブラリーの作製方法は実施例1に、また植物成長促進根圏微生物の選抜方法は実施例2に、準じた。滅菌コウキクサを用いた無菌系で前記ライブラリー内の各水生植物根圏微生物について、コウキクサに対する成長促進効果を個別検証し、P23株よりも高い成長促進効果を有する微生物を新たなPGPRとして選抜した。
結果を図12に示す。本選抜によってPGPRとして、新たに3種の菌株(MRB5株, MRB6株, MRB7株)が得られた。これらの菌株は、葉状体数に関してP23株の約1.5倍の成長促進効果がみられた。
(目的)
実施例11で新たに得た3種のPGPR(MRB5株〜MRB7株)を16S rRNAの塩基配列に基づき分類を行う。
基本的な方法は、実施例3に準じた。
表6に結果を示す。MRB5株は、キトファギア綱(Cytophagia)のクリセオリネア セルペンス(Chryseolinea serpens)に最も近縁である。しかし、その相同性は90.1%に過ぎない。本発明者らの研究によりMRB5株はキトファギア綱に属する新属新種の微生物であることが確実視されているものの、目や科レベルの帰属については現在のところ不明である。そこで、本明細書では、便宜的にCytophagia微生物MRB5株と命名した。また、MRB6株はラキバクター カウエンシス(Lacibacter cauensis) NJ-8株に最も近縁であることが判明した。しかし、89.0%の相同性は、同属としては非常に低い値である。それ故、MRB6株はLacibacter cauensisと同じスフィンゴバクテリア綱(Sphingobacteria)スフィンゴバクテリアレス目(Sphingobacteriales)キチノファガセアエ科(Chitinophagaceae)に属する新属新種の微生物である可能性が極めて高い。しかし、詳細な分類分析前であるため本明細書では前述のようにMRB6株をラキバクター属の1種として取扱い、Lacibacter sp. MRB6株と命名した。ただし、この株名は、便宜的なものであって、今後の分類分析により新属に属する種であることが判明した場合、その新たな属名への変更を何ら妨げるものではない。さらに、MRB7株はウンディバクテリウム オリゴカルボニフィルム(Undibacterium oligocarboniphilum)EM1株に最も近縁であることが判明した。しかし、93.7%の相同性も同属としては低い値である。したがって、MRB7株もUndibacterium oligocarboniphilumと同じベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)ブルクホルデリアレス目(Burkholderiales)オキサロバクテラセアエ科(Oxalobacteraceae)に属する新属新種の微生物の可能性が非常に高い。しかし、詳細な分類分析前であるため本明細書では前述のようにMRB7株をウンディバクテリウム属の1種として取扱い、Undibacterium sp. MRB7株と命名した。ただし、この株名は、便宜的なものであって、今後の分類分析により新属に属する種であることが判明した場合、その新たな属名への変更を何ら妨げるものではない。
Claims (17)
- 宿主植物のクロロフィル量を増加する作用を有する水生植物根圏微生物。
- ペロモナス属(Pelomonas)微生物、キサントモナス科(Xanthomonadaceae)微生物、ブラディリゾリウム属(Bradyrhizobium)微生物及びアシネトバクター属(Acinetobacter)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、請求項1に記載の水生植物根圏微生物。
- ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01645の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
- ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01647の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
- キサントモナス科微生物が受託番号NITE P-01646の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
- ブラディリゾリウム属微生物が受託番号NITE P-01648の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
- キトファギア綱(Cytophagia)微生物、ラキバクター属(Lacibacter)微生物、及びウンディバクテリウム属(Undibacterium)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、請求項1に記載の水生植物根圏微生物。
- キトファギア綱微生物が受託番号NITE P-01894の微生物である、請求項7に記載の水生植物根圏微生物。
- ラキバクター属微生物が受託番号NITE P-01895の微生物である、請求項7に記載の水生植物根圏微生物。
- ウンディバクテリウム属微生物が受託番号NITE P-01896の微生物である、請求項7に記載の水生植物根圏微生物。
- 請求項1〜10に記載の水生植物根圏微生物を少なくとも1種含む植物成長強化剤。
- 請求項2に記載のアシネトバクター属微生物が受託番号NITE P-523の微生物である、請求項11に記載の植物成長強化剤。
- 植物が双子葉植物又は単子葉植物である、請求項11又は12に記載の植物成長強化剤。
- 請求項11〜13のいずれか一項に記載の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用して当該植物を栽培する植物栽培方法。
- 前記栽培が水耕栽培である、請求項14に記載の植物栽培方法。
- 低濃度肥料培地で栽培する、請求項14又は15に記載の植物栽培方法。
- 低照度条件下で栽培する、請求項14〜16のいずれか一項に記載の植物栽培方法。
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