JP2015142547A - 植物成長強化剤及びそれを用いた植物栽培方法 - Google Patents

植物成長強化剤及びそれを用いた植物栽培方法 Download PDF

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Abstract

【課題】植物工場での生産コストを低減する植物栽培技術を開発し、それを提供する。【解決手段】宿主植物のクロロフィル量を増加する作用を有する植物成長促進根圏微生物を少なくとも1種含む植物成長強化剤、及びそれを栽培植物の根に施用して当該植物を栽培する植物栽培方法を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、宿主植物のクロロフィル量増加作用を有する水生植物根圏微生物を含む植物成長強化剤及びそれを用いた植物栽培方法に関する。
世界の食糧需要は、新興国の経済成長に伴う生活水準の向上や中長期的な人口増加により今後も上昇傾向が予測されている。一方、世界的な食糧難に対応するための耕作地の拡大は、大規模な環境破壊を伴うため、大気中の二酸化炭素量の削減を阻害し、温室ガス効果による地球温暖化を進行させる結果となっている。また、地球温暖化に起因する昨今の世界的な異常気象は、農業に深刻な損害を与えており、耕作地の拡大による食糧難の解決策が食糧難の到来を助長するというジレンマに陥っている。
上記問題の解決策として、近年植物工場が注目されている。「植物工場」とは、光、湿度、温度等の気象条件や培地の供給等が管理された人工環境下で植物を栽培する農作物生産工場である。植物工場は、工場化及び機械化による作業の省力化が可能であり、栽培時期や生産量を自由に制御できることから需要量に応じた生産量の調節ができる。それ故、広い貯蔵スペースや多大な貯蔵管理費を必要としない。また、工場形式であることから生産者は日本の農地法のような法的規制を受けることがなく、従来の二次元的な圃場栽培と異なり、都市部でもビル屋内等で三次元的に実施することが可能であるため、耕作地の拡大による環境破壊を伴うことがない。さらに、植物工場は、農耕作に不適な乾燥地や寒冷地などでも設置可能であり、天候の影響を受けないため年間を通じて農作物を安定供給することができる。また、植物の成育に必要な養分を人工的に調製した培地で栽培することから根部の環境を制御し易く、連作による障害もない。その上、害虫を完全に排除できるため無農薬栽培が可能であり、残留農薬の心配がない安全で新鮮な農作物を提供することができる(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。
上記のように多くの利点を有する植物工場ではあるが、解決すべき課題も多い。最大の課題は、生産コストである。植物工場では、人工環境下で植物を栽培しなければならず、光照射や空調等の管理が重要となる。例えば、光照射は、工場内に設置された光源から光合成に必要な光を長時間にわたって植物に連続照射する必要があり、また光源等から発生する熱による過度な温度上昇を空調によって抑え、かつ適切な温度に調節しなければならない。それ故、植物工場では膨大な電力を消費する。特に外界から隔絶された閉鎖空間内で行われる完全制御型の植物工場ではその傾向が著しい。また、植物を正常、かつ効率的に生育させるためには、人工培地に必要十分量の肥料を施肥する必要があり、雑菌の繁殖防止のためには培地を定期的に交換しなければならず、多大な肥料費を要する。それ故、必然的に生産コストが高くなり、栽培作物を安価で提供できないという問題があった。
特開2013-5766 特許5057882
平成17年度特許流通支援チャート 一般23「水耕栽培(植物工場) 2006年3月 独立行政法人 工業所有権情報・研修館
本発明は、植物工場における生産コストを低減する技術を開発し、それを提供する。
植物では、周囲の環境に化学的又は物理的に影響を与える「根圏」と呼ばれる根を中心とした領域において、微生物と共生関係にある例が数多く知られている(Urbance J.W., et al., 2003, Nucleic Acids Res.31: 152-155)。例えば、マメ科(Fabaceae)植物と根粒菌の関係は、その代表的な例である(Tao C.,et al., 2009, Mol. Microbiol. 73(3): 507−517)。マメ科植物は、根粒菌に対して根粒という生息場所の提供と根から直接的な養分の供給を行う一方、根粒菌は、大気中の窒素を固定して植物が利用できる形に変換することで双方が利益を得ている。この他にも植物の根圏には多数の微生物が生息している。例えば、アオウキクサ(Lemna aoukikusa)の根圏に生息し、水中の有機汚染物質を分解する微生物(Yamaga F. et al., 2010, Environ. Sci. Technol. 44, 6470-6474)や、コウキクサの成長を促進する微生物等が単離されている(Underwood G.J.C. and Baker J.H., 1991, J. Appl. Bacteriol.)。このような植物の根圏に生息する微生物を一般に「根圏微生物」と総称する。根圏微生物の多くは、前述の根粒菌等のように、宿主植物の根から養分を得る一方で宿主植物に対して有用な活性や性質を付与する等、宿主植物と相利共生関係にある。
上記本発明の課題に鑑み、本発明者らは、根圏微生物の中に本発明の課題を解決し得る性質を宿主植物に付与する種が存在すると仮定し、その探索と分離を試みた。植物工場では、管理及び衛生面から一般に水耕栽培が採用されており、栽培植物の根は液体培地に浸漬している。水耕栽培環境のように水中又は水底に根を張る自然界の植物には、水生植物が知られている。そこで、本発明者らは、水生植物の根圏微生物に着目し、様々な水生植物から根圏微生物を網羅的に分離、収集した。その後、個々の水生植物根圏微生物を培地に添加して宿主植物を培養し、未添加の個体との間で成長性等について比較検証を行った。その結果、特定の水生植物根圏微生物を培地に添加したときに宿主植物が低照度条件下や低濃度肥料培地でも高い成長率を維持できることを見出した。このような性質を宿主植物に付与し得る水生植物根圏微生物は、共通の性質として宿主植物の成長を促進する植物成長促進性根圏微生物(Plant Growth Promoting Rhizobacteria:本明細書では、しばしば「PGPR」と表記する。)で、かつ宿主植物のクロロフィル量を増加することのできる水生植物根圏微生物であることが明らかとなった。本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、以下を提供する。
(1)宿主植物のクロロフィル量を増加する作用を有する水生植物根圏微生物。
(2)ペロモナス属(Pelomonas)微生物、キサントモナス科(Xanthomonadaceae)微生物、ブラディリゾリウム属(Bradyrhizobium)微生物及びアシネトバクター属(Acinetobacter)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、(1)に記載の水生植物根圏微生物。
(3)ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01645の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(4)ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01647の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(5)キサントモナス科微生物が受託番号NITE P-01646の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(6)ブラディリゾリウム属微生物が受託番号NITE P-01648の微生物である、(2)に記載の水生植物根圏微生物。
(7)キトファギア綱(Cytophagia)微生物、ラキバクター属(Lacibacter)微生物、及びウンディバクテリウム属(Undibacterium)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、(1)に記載の水生植物根圏微生物。
(8)キトファギア綱微生物が受託番号NITE P-01894の微生物である、(7)に記載の水生植物根圏微生物。
(9)ラキバクター属微生物が受託番号NITE P-01895の微生物である、(7)に記載の水生植物根圏微生物。
(10)ウンディバクテリウム属微生物が受託番号NITE P-01896の微生物である、(7)に記載の水生植物根圏微生物。
(11)(1)〜(10)に記載の水生植物根圏微生物を少なくとも1種含む植物成長強化剤。
(12)(2)に記載のアシネトバクター属微生物が受託番号NITE P-523の微生物である、(11)に記載の植物成長強化剤。
(13)植物が双子葉植物又は単子葉植物である、(11)又は(12)に記載の植物成長強化剤。
(14)(11)〜(13)のいずれかに記載の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用して当該植物を栽培する植物栽培方法。
(15)前記栽培が水耕栽培である、(14)に記載の植物栽培方法。
(16)低濃度肥料培地で栽培する、(14)又は(15)に記載の植物栽培方法。
(17)低照度条件下で栽培する、(14)〜(16)のいずれかに記載の植物栽培方法。
本発明の水生植物根圏微生物を宿主植物の根部に付着させることで当該宿主植物のクロロフィル量を増加させることができる。それにより、低照度条件下であっても宿主植物の成長率を維持することができる。
本発明の水生植物根圏微生物を宿主植物の根部に付着させることで当該宿主植物の栄養状態を強化することができる。それにより、培地の肥料濃度が通常の1/10以下であっても宿主植物の成長率を維持することができる。
本発明の水生植物根圏微生物を宿主植物の根部に付着させることで当該宿主植物の成長を促進させることができる。
本発明の植物成長強化剤によれば、培地に施用することで、当該植物成長強化剤が包含する前記水生植物根圏微生物による前記効果により、植物の成長を促進し、また低濃度肥料培地で、かつ低照度条件下であっても植物の成長率を維持することができる。
本発明の植物栽培方法によれば、植物栽培における栽培コストを抑えることができる。特に水耕栽培のような人工培地栽培法において、電力コスト及び肥料コストを抑えることで、安価な栽培植物を提供することができる。
水生植物根圏微生物ライブラリーから新たに分離された4種のPGPR(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)と既知PGPRのP23株におけるコウキクサ(Lemna minor)の成長促進効果を示す図である。コントロールは水生植物根圏微生物を供与していない陰性対照を示す。成長促進効果は葉状体数(Number of Fronds)で評価した。 本発明の植物成長強化剤の有効成分である水生植物根圏微生物(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株, P23株)を施用したときのコウキクサのクロロフィル量を示す図である。縦軸の値は水生植物根圏微生物を供与していない陰性対照のコウキクサのクロロフィル量に対する相対値である。 本発明の植物成長強化剤の有効成分である水生植物根圏微生物(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株, P23株)を施用した時の低肥料濃度培地におけるコウキクサの成長を示す図である。縦軸の値は水生植物根圏微生物を供与していない陰性対照のコウキクサに対する成長の相対値である。 本発明の植物成長強化剤の有効成分である水生植物根圏微生物(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株, P23株)を施用した時の低照度条件下におけるコウキクサの成長を示す図である。縦軸の値は水生植物根圏微生物を供与していない陰性対照のコウキクサの成長の相対値である。 本発明の植物成長強化剤の有効成分である水生植物根圏微生物P23株を施用したときのレタスの湿重量に対するクロロフィル量を示す図である。Noneは微生物を供与していない陰性対照を、またE. coliはPGPRではない大腸菌を供与したときの微生物対照を示す。 非水生植物の根圏に生息する水生植物根圏微生物P23株を示す図である。AはP23株非接種の、BはP23株接種の、レタス主根の一部(図中、「root」で示す)の蛍光画像である。矢頭で示すスポットは、クロロプラストを示す。また、Bにおいて、根表面で蛍光スポットが集積した部分は、生存状態のP23のマイクロコロニーを示す。バーは0.1mmの長さを示す。 本発明の植物成長強化剤を施用したイネ地上部の草丈の変化を示す図である。図中、P23はイネ根部にPGPRである水生植物根圏微生物P23株を施用したときの、LB3はイネ根部に非PGPRのAcinetobacter sp. LB3株を施用したときの、そしてNCは微生物を含まない培地での、結果である。 本発明の植物成長強化剤を施用したイネ1株あたりの葉数を示す図である。図中、P23、LB3、及びNCの説明は図7に準じる。 本発明の植物成長強化剤を施用したイネのクロロフィル量をSPAD値で示した図である。図中、P23、LB3、及びNCの説明は図7に準じる。 本発明の植物成長強化剤の有効成分である水生植物根圏微生物(P23株及びMRB3株)を施用したコウキクサの低肥料濃度培地における成長を示す図である。横軸は希釈なし(1)、Hoagrand培地50倍希釈(1/50)及び100倍希釈(1/100)を示す。縦軸の値は水生植物根圏微生物を供与していない陰性対照のコウキクサに対する成長の相対値である。 本発明の植物成長強化剤の有効成分である水生植物根圏微生物(P23株及びMRB3株)を施用したコウキクサの低照度条件下における成長を示す図である。縦軸の値は水生植物根圏微生物を供与していない陰性対照のコウキクサに対する成長の相対値である。 新たに作製した水生植物根圏微生物ライブラリーから分離された3種のPGPR(MRB5株, MRB6株, MRB7株)と既知PGPRのP23株におけるコウキクサ(Lemna minor)の栽培2週間後の成長促進効果を示す図である。成長促進効果は葉状体数(Number of Fronds)で評価した。縦軸の値は、陰性対照である水生植物根圏微生物を供与していないコウキクサの葉状体数に対する相対値である。
1.植物成長強化剤
1-1.概要及び定義
本発明の第1の態様は、植物成長強化剤である。本態様の植物成長強化剤は、水生植物根圏微生物を有効成分として含む。本態様の植物成長強化剤を宿主植物に施用することで、宿主植物の成長を強化することができる。
本態様の植物成長強化剤は、植物成長強化作用を有する。本明細書において「植物成長強化作用」とは、至適栽培条件下のみならず、低照度条件下及び/又は低濃度肥料下であっても植物の成長率を維持及び/又は促進させる作用をいう。「植物の成長」とは、植物体の重量、好ましくは乾燥重量の増加をいい、植物体の伸長及び/又は拡大、葉数及び/又は茎数の増加、花芽形成、結実等を含む。「植物の成長率」とは、一定期間内で植物が成長した割合をいう。成長率が0の場合は、その植物が一定期間において全く成長しなかったことを示す。また、成長率がマイナスの場合は、その植物が衰弱、枯死、又は成長停止後、落葉した場合等を示す。したがって、本明細書において「植物の成長率を維持」するとは、植物の成長率がプラス状態を保持していることを意味し、必ずしも前記と同程度の成長率である必要はない。
本明細書において「低照度条件」とは、通常の室内の明るさに相当する照度条件で、耐陰性のない一般的な植物にとっては成長に必要な光合成を行う上で不十分な明るさをいう。具体的には100〜15000ルクス(lux)、500〜10000ルクス、又は1000〜5000ルクスの範囲の照度である。
本明細書において「低濃度肥料」とは、施肥される肥料の至適濃度の1/500〜1/2の濃度、1/300〜1/3の濃度、又は1/100〜1/5の濃度をいう。
本明細書において「水生植物根圏微生物」とは、水生植物の根圏から単離された根圏微生物をいう。
本明細書において「水生植物」とは、通常の生活環において根が水中に浸漬している植物をいう。例えば、浮遊植物、浮葉植物、沈水植物、抽水植物、及び湿生植物が該当する。淡水性、汽水性、海水性を問わないが、淡水性が好ましい。「浮遊植物」とは、根を水底に張らずに水中に露出し、植物体全体を水面に浮かべた植物をいう。例えば、アオウキクサ(Lemna aoukikusa)やコウキクサ(Lemna minor)のようなウキクサ科(Lemnaceae)植物、ホテイアオイ(Eichhornia crassipes)のようなミズアオイ科(Pontederiaceae)植物が該当する。「浮葉植物」とは、水底に根を張り、葉を水面又は水面近くに浮かべる植物をいう。例えば、ヒツジグサ(Nymphaea tetragona)やジュンサイ(Brasenia schreberi)のようなスイレン科(Nymphaeaceae)植物、ヒシ(Trapa japonica)のようなヒシ科(Trapaceae)植物、及びアサザ(Nymphoides peltata)のようなミツガシワ科(Menyanthaceae)植物が該当する。「沈水植物」とは、水底に根を張り、植物体全体が水面下にある植物をいう。例えば、クロモ(Hydrilla verticillata)のようなトチカガミ科(Hydrocharitaceae)植物、エビモ(Potamogeton crispus)のようなヒルムシロ科(Potamogetonaceae)植物、及びシャジクモ(Chara braunii)のような車軸藻綱 (Charophyceae)藻類が該当する。「抽水植物」とは、水底に根を張り、葉や茎の植物体上部を水面上に伸ばした植物をいう。例えば、イネ(Oryza sativa)、マコモ(Zizania latifolia)及びヨシ(Phragmites australis)のようなイネ科(Poaceae)植物、ハス(Nelumbo nucifera)のようなハス科(Nelumbonaceae)植物、コウホネ(Nuphar japonicum)のようなスイレン科植物、及びガマ(Typha latifolia)のようなガマ科(Typhaceae)植物が該当する。「湿生植物」とは、湿地や、河川又は池沼の周辺等のように根が水に浸漬し得る場所に生息する植物で、根や地下茎を除く植物体の大部分は水に浸かることがないものをいう。例えば、ミソハギ(Lythrum anceps)のようなミソハギ科(Lythraceae)植物、サギソウ(Habenaria radiata)のようなラン科(Orchidaceae)植物、キショウブ(Iris pseudacorus)のようなアヤメ科(Iridaceae)植物が該当する。
本明細書において「根圏」とは、前述のように植物の根から化学的又は物理的影響を受ける領域をいう。
本明細書において「根圏微生物」(Rhizobacteria)とは、根圏に生息する微生物をいう。ここでいう「微生物」とは、肉眼での認識が困難な微小生物で、細菌(バクテリア)、古細菌(アーキア)、真菌(酵母を含む)、糸状菌を含む。根圏では、植物の根から分泌される物質を餌として様々な根圏微生物が繁殖する一方で、根圏微生物は根圏環境を保護し、植物を土壌伝染性病害の感染から防護すると共に、植物成長因子の供給や代謝調節など植物にとって様々な利点を付与している。したがって、通常の根圏微生物は、根圏を提供する宿主植物と相利共生の関係にある。
本明細書において「宿主植物」とは、本態様の植物成長強化剤の施用対象植物をいう。宿主植物は、水生植物である必要はなく、その根圏に水生植物根圏微生物を生息させることのできる植物であれば特に制限はしない。例えば、コケ植物、シダ植物及び種子植物を含む。種子植物の場合、被子植物又は裸子植物を問わず、また被子植物は、単子葉植物又は双子葉植物のいずれであってもよい。さらに、草本植物及び木本植物も問わない。本態様の水生植物根圏微生物を適応する宿主植物の例として、農業的に重要な植物、例えば、穀類、花、野菜、果物等の作物植物が挙げられる。具体的には、単子葉植物では、イネ科に属する種(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、コウリャン)が該当する。また、双子葉植物では、アブラナ科に属する種(例えば、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、アブラナ)、キク科に属する種(例えば、レタス、ゴボウ、キク)、マメ科に属する種(例えば、ダイズ、落花生、エンドウ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ)、ナス科に属する種(例えば、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、ピーマン、トウガラシ、ペチュニア)、バラ科に属する種(例えば、イチゴ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド、スモモ、バラ、ウメ、サクラ)、ウリ科に属する種(例えば、キュウリ、ウリ、カボチャ、メロン、スイカ)、ユリ科に属する種(例えば、ネギ、タマネギ、ユリ)、ミカン科(例えば、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ユズ)、ブドウ科に属する種(例えば、ブドウ)が該当する。後述する水耕栽培に好適な植物は、特に好ましい。
1−2.構成
1−2−1.含有成分
本態様の植物成長強化剤は、有効成分として水生植物根圏微生物を含む。
本態様の植物成長強化剤に含まれる水生植物根圏微生物(以下、しばしば「本態様の水生植物根圏微生物」、又は「第1態様の水生植物根圏微生物」若しくは「本発明の水生植物根圏微生物」と称する。)は、宿主植物の成長を促進させる作用(成長促進作用)を有する、いわゆる植物成長促進性根圏微生物(Plant Growth Promoting Rhizobacteria:PGPR)であることを特徴とする。ここでいう「成長促進作用」とは、水生植物根圏微生物を根圏に生息させることによって、生息させていない同種植物と比較して植物の成長を促進する作用をいう。また、本態様の水生植物根圏微生物は、前記成長促進作用に加えて、宿主植物のクロロフィル量を増加する作用(クロロフィル量増加作用)をさらに有することを特徴とする。「クロロフィル量増加作用」とは、水生植物根圏微生物を根圏に生息させることによって、生息させていない同種植物と比較して植物全体のクロロフィル量を増加する作用をいう。前述した本態様の植物成長強化剤が有する植物成長強化作用は、有効成分である水生植物根圏微生物に起因する作用である。つまり、本態様の水生植物根圏微生物が本発明の効果を奏する植物成長強化作用を有している。
本態様の植物成長強化剤に含まれる水生植物根圏微生物の例として、ペロモナス属(Pelomonas)微生物、ドクドネラ属(Dokdonella)微生物を含むキサントモナス科(Xanthomonadaceae)微生物、好ましくは下記MRB2株が属する属の微生物、ブラディリゾリウム属(Bradyrhizobium)微生物、アシネトバクター属(Acinetobacter)微生物、キトファギア綱(Cytophagia)微生物、好ましくは下記MRB5株が属する属の微生物、ラキバクター属(Lacibacter)微生物を含むキチノファガセアエ科(Chitinophagaceae)微生物、好ましくは下記MRB6株が属する属の微生物、及びウンディバクテリウム属(Undibacterium)微生物を含むオキサロバクテラセアエ科(Oxalobacteraceae)微生物、好ましくは下記MRB7株が属する属の微生物が挙げられる。中でも表1又は表2に示す水生植物根圏微生物は、本態様の植物成長強化剤の水生植物根圏微生物として特に好ましい。
Figure 2015142547
Figure 2015142547
表1において受託番号NITE P-01645〜NITE P-01648の水生植物根圏微生物は、2013年7月3日付で、また、受託番号NITE P-523の水生植物根圏微生物は、2008年3月12日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構(292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託されている。Pelomonas sp. MRB1株(以下、本明細書では、しばしば「MRB1(株)」と略称する。)、Dokdonella sp. MRB2株(以下、本明細書では、しばしば「MRB2(株)」と略称する。なお、後述の表5に記載のように、本株は、既知株であるDokdonella sp. KIS28-6株と16S rRNAの相同性が93.6%しかなく、ドクドネラ属に近い新属の可能性もある。しかし、本明細書では便宜的にDokdonella属として記載する。)、Pelomonas sp. MRB3株(以下、本明細書では、しばしば「MRB3(株)」と略称する。)、及びBradyrhizobium sp. MRB4株(以下、本明細書では、しばしば「MRB4(株)」と略称する。)は、後述する実施例において新たに分離された新規水生植物根圏微生物である。また、Acinetobacter calcoaceticus P23株(以下、本明細書では、しばしば「P23(株)」と略称する。)は、フェノール等の多環式芳香族化合物に対して分解能を有する水生植物根圏微生物として分離されていた(特開2009-247279)が、今回、低照度条件下及び/又は低濃度肥料下で植物の成長率を維持及び/又は促進する植物成長強化剤としての新たな用途が見出された。
表2において受託番号NITE P-01894〜NITE P-01896の水生植物根圏微生物は、2014年7月10日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)で寄託されている。Cytophagia綱微生物 MRB5株(以下、本明細書では、しばしば「MRB5(株)」と略称する。)、Lacibacter sp. MRB6株(以下、本明細書では、しばしば「MRB6(株)」と略称する。)、及びUndibacterium sp. MRB7株(以下、本明細書では、しばしば「MRB7(株)」と略称する。)は、後述する実施例12において新たに分離された新規水生植物根圏微生物である。
本態様の植物成長強化剤において、水生植物根圏微生物は、原則として生存状態で含まれている。したがって、本態様の植物成長強化剤の有効成分として用いる場合、L培地等の適当な培地で培養した対数増殖期にある水生植物根圏微生物を用いることが好ましい。ただし、一部に死亡した水生植物根圏微生物が含まれていても構わない。なお、本態様の水生植物根圏微生物は、本態様の植物成長強化剤に包含する前は、個別に凍結保存しておくことができる。例えば、L培地等の培地で一晩培養した後、滅菌したグリセロールを終濃度20%となるように添加して、-80℃の超低温で保存すればよい。
本態様の植物成長強化剤は、植物成長強化作用を互いに阻害せず、また、宿主植物の根圏内で同所的又は異所的に共存し得る限りにおいて、異なる二種類以上の水生植物根圏微生物を含むことができる。
本態様の植物成長強化剤は、上記有効成分としての水生植物根圏微生物に加えて、その微生物の生存及び植物成長強化作用を阻害又は抑制しない範囲において農業上許容可能な溶媒又は担体を含むことができる。
「農業上許容可能な溶媒又は担体」とは、植物成長強化剤の施用を容易にし、水生植物根圏微生物の生存及び/又は植物成長強化作用を維持し、農作物栽培への使用が法的に認められており、水質汚染等の環境に対する有害性がないか若しくは低く、及び/又は動物、特にヒトに対する有害性がないか若しくは少ない物質をいう。
「農業上許容可能な溶媒」には、水、又はそれ以外の農業上許容し得る水溶液が含まれる。水溶液としては、例えば、リン酸塩緩衝液のような緩衝剤、液体培地が挙げられる。
「農業上許容可能な賦形剤」には、粉砕天然鉱物(例えば、カオリン、クレイ、タルク及びチョーク)、粉砕合成鉱物(例えば、高分散シリカ及びシリケート)、乳化剤(非イオン性乳化剤やアニオン性乳化剤)、分散剤(リグノ亜硫酸廃液及びメチルセルロース)及び界面活性剤等が含まれる。
本態様の植物成長強化剤は、農業上許容可能な溶媒又は担体を1以上包含することできる。また、この他に、有効成分である水生植物根圏微生物の生存及び植物成長強化作用に影響しない範囲において、他の成長強化剤等や栄養素を包含することもできる。「栄養素」とは、その物質の欠乏により植物が成長上又は生殖上何らかの異常をきたし、その症状の回復が他の物質の供給では補償できない物質をいう。原則として植物の必須元素を意味する。一般的な植物の必須元素としては、16種の元素、すなわち、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、鉄(Fe)、マンガン(Mg)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)及び塩素(Cl)が挙げられる。また、それらの元素を含む肥料(例えば、尿素、アンモニウム塩、(過)リン酸塩)もここでいう栄養素に含まれる。
1−2−2.剤形
本態様の植物成長強化剤は、有効成分である本態様の水生植物根圏微生物を生存状態で保持し得ることができれば、特に限定はしない。例えば、本態様の水生植物根圏微生物を適当な溶液に懸濁した液体状態、固体状態又はその組み合わせとすることができる。液体状態の場合、本態様の水生植物根圏微生物を適切な溶液に懸濁したものであればよい。適切な溶液としては、例えば、水(滅菌水、脱イオン水、超純水を含む)、生理食塩水、バッファー(リン酸緩衝液、炭酸緩衝液を含む)、その水生植物根圏微生物の培地が挙げられる。固体状態の場合、例えば、顆粒状態、粉末状態、ゲルのような半固体状態が挙げられる。これらの具体例として、液剤、粉剤、粒剤等の剤形が含まれる。
1−2−3.含有量
本態様の植物成長強化剤の所定量あたりにおける有効成分である本態様の水生植物根圏微生物の含有量は、含有する水生植物根圏微生物の種類、異なる複数種を含む場合には、その組み合わせ、宿主物の種類、剤形、及び施用方法等の諸条件によって異なるが、通常は、本態様の植物成長強化剤を施用後、本態様の水生植物根圏微生物が宿主植物に対して植物成長強化作用を発揮する上で十分な量を含んでいることが好ましい。この含有量は、当該分野の技術常識の範囲内で、施用後に所定量の培地あたりの水生植物根圏微生物が所望の存在量となるように勘案し、決定すればよい。一例として、本態様の植物成長強化剤における本態様の水生植物根圏微生物の含有量は、103〜1015cfu/mL、好ましくは104〜1010cfu/mLの範囲にあればよい。この場合、施用時に、必要に応じて水、生理食塩水、バッファー等で10〜1000倍に希釈することもできる。
2.植物栽培方法
2−1.概要
本発明の第2の態様は、植物栽培方法である。本態様の植物栽培方法は、前記第1態様の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用して当該植物を栽培することを特徴とする。本態様の植物栽培方法により、低照度条件下及び/又は低濃度肥料下であっても栽培植物の成長率を維持及び/又は促進させることができる。
2−2.栽培形態
本態様の植物栽培方法を適用する栽培形態は、特に制限はしない。しかし、本態様の植物栽培方法は、植物工場、特に完全制御型の植物工場で用いた場合にその効果を最も享受し得る。ここで「完全制御型の植物工場」とは、ビル屋内のような閉鎖空間内において、光、湿度、温度等の気象条件や培地の供給及び交換等が完全にシステム化され、コンピューター制御された人工環境下で植物の栽培を行う工場をいう。一般に、植物工場では、管理面、衛生面、労力面等から水耕栽培形態が採用されている。
本明細書において「水耕栽培」とは、栽培植物の根の全部又は一部が水耕液に浸漬した状態で栽培を行う形態である。「水耕液」とは、水耕栽培に用いる液体培地又は液体肥料をいう。本態様の植物栽培方法で用いる水耕液は、当該分野で公知の水耕液でよい。水耕液の組成等については、例えば、社団法人 日本施設園芸協会編、培養液栽培新マニュアル、に記載の組成に基づいて調製することができる。また、水耕液は、園芸用品メーカーからも市販されており、それらを利用してもよい。
本態様の植物栽培方法で施用する第1態様の水生植物根圏微生物は、元来、根が水中に浸漬している水生植物の根圏に生息していた根圏微生物であることから、水耕栽培は、本態様の植物栽培方法における栽培形態としても好適である。通常の水耕栽培では、水耕液のみで栽培されるが、本明細書における水耕栽培では、水耕液に植物の足場としての支持体を充填しても構わない。支持体には、例えば、ウレタン、ロックウール、砂、礫、バーミキュライト、パーライト等の無機材の他、おが屑、籾殻、やし殻、バークチップ等の未腐植セルロース、及び寒天等の天然有機材、又はそれらの組み合わせが使用される。栽培植物の回収及び再生が容易な支持体、すなわち掘り上げが容易で植物体残渣の残りにくい支持体が好ましい。
水耕栽培の具体的な方法については、公知の水耕栽培法、例えば、非特許文献1に記載の平成17年度特許流通支援チャート 一般23「水耕栽培(植物工場)に記載の方法を参照すればよい。
2−3.栽培方法
本態様の植物栽培方法では、必須の工程として施用工程及び栽培工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
(施用工程)
本明細書において「施用工程」は、前記第1態様の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用する工程である。施用工程は、植物成長強化剤の有効成分である第1態様の水生植物根圏微生物を栽培植物の根圏に付与することを目的とする。
「栽培植物」とは、本態様の植物栽培方法の栽培対象となる植物をいう。栽培植物は、前記宿主植物と同じであるため、ここでは具体的な説明を省略する。本工程で使用する栽培植物の成長段階については、制限はしないが、前記本工程の目的を鑑みれば、発根後の栽培植物を用いることが好ましい。
施用方法については、栽培植物の根に第1態様の植物成長強化剤を施用することができる方法であれば、当該分野で公知の方法を用いればよく、特に限定はされない。例えば、前述の水耕栽培であれば、第1態様の植物成長強化剤を水耕液中に添加すればよい。添加後、必要に応じて水耕液を撹拌する。第1態様の水生植物根圏微生物は、栽培植物の根圏に誘引されて移動し、栽培植物の根圏に到達後、定着する。この方法は、溶液を介して第1態様の水生植物根圏微生物が水耕液全体に行き渡る点で好ましい。あるいは、栽培植物の根に第1態様の植物成長強化剤を直接、塗布、噴霧、散布又は浸漬によって接触させる施用法であってもよい。水耕液中への添加方法が簡便で好適である。
植物成長強化剤の施用量は、含有された水生植物根圏微生物の種類及び施用する栽培植物の種類、及び/又は施用方法に応じて適宜調整すればよい。しかし、本工程で第1態様の水生植物根圏微生物を一旦栽培植物の根圏に生息させることができれば、水生植物根圏微生物は根圏内で必要に応じて増殖可能である。したがって、植物成長強化剤の施用量は、少量であっても十分な作用効果を奏することができる。一例として、水耕液に植物成長強化剤を添加する場合であれば、第1態様の植物成長強化剤を施用後、水耕液中の水生植物根圏微生物の濃度が、103〜1015cfu/mL、好ましくは104〜1010cfu/mLとなるようにすればよい。
(栽培工程)
本明細書において「栽培工程」は、前記施用工程後の栽培植物を所定の期間栽培する工程である。本工程は、栽培植物の根圏に第1態様の水生植物根圏微生物を定着させ、その後、栽培植物を所望の状態にまで生育させることを目的とする。
前述のように本態様の植物栽培方法では、通常、水耕栽培形態が採用されることから、本工程では、公知の水耕栽培方法に基づいて栽培すればよい。水耕栽培の具体的な方法については、例えば、前述の社団法人 日本施設園芸協会編、培養液栽培新マニュアルに記載の方法を参照すればよい。明暗時間(光照射時間及び暗黒時間)、気温及び湿度等を含む気象条件、及び生育期間等の栽培条件は、栽培植物に関して当該分野で公知の条件を適用すればよい。完全制御型の植物工場において本態様の植物栽培方法を適用する場合、本工程において栽培植物の至適栽培条件に設定することは比較的容易である。
2−4.効果
本態様の植物栽培方法は、低照度条件下及び/又は低濃度肥料下であっても栽培植物の成長率を維持及び/又は促進させることができることから、電力コスト及び肥料コストの低減が可能となり、従来の植物工場における最大の課題であった生産コストの低減を実現することができる。それによって、安価で、安全な栽培植物の安定的な供給が可能となる。
<実施例1:水生植物根圏微生物ライブラリーの作製>
(目的)
様々な水生植物から水生植物根圏微生物を分離し、水生植物根圏微生物ライブラリーを作製する。
(材料)
水生植物根圏微生物の分離源として、浮遊植物のアオウキクサ(Lemna aoukikusa)及びコウキクサ(Lemna minor)、抽水植物のヨシ(Phragmites australis)、及び湿生植物のミソハギ(Lythrum anceps)の4種の水生植物を使用した。
(方法)
(1)分離培地
培地にはR2Aの成分を10倍希釈した1/10-R2A培地を使用した。培地の組成は、表3に示す通りである。
Figure 2015142547
(2)分離方法
各水生植物の根を滅菌Hoagland培地で2回軽く洗浄した後、10mLの滅菌Hoagland培地内でホモジナイザー(エースホモジナイザーAM5;日本精機製作所)を用いて15000rpmにて5分間ホモジナイズした。Hoagland培地組成は表4に示す。
Figure 2015142547
その後、滅菌Hoagland培地で10倍、100倍、及び1000倍に段階希釈したサンプル液を調製し、各サンプル液を50μLずつ1/10-R2Aの分離培地に塗布した。その後、プレートを25℃にて30日間インキュベートした。コロニー形成した水生植物根圏微生物を単離した。
40属60種以上からなる125株の水性植物根圏微生物の単離に成功した。各水性植物根圏微生物はR2A培地で25℃にて2週間培養し、滅菌スワブで回収した後、20%滅菌グリセロール水溶液に懸濁して-80℃で保存した。これらの水性植物根圏微生物を水生植物根圏微生物ライブラリーとして登録した。
<実施例2:植物成長促進根圏微生物の選抜(1)>
(目的)
実施例1で作製した水生植物根圏微生物ライブラリーから植物成長促進根圏微生物(PGPR)を選抜する。
(方法)
滅菌コウキクサを用いた無菌系で前記ライブラリー内の各水生植物根圏微生物について、コウキクサに対する成長促進効果を個別検証し、PGPRを選抜した。
前記ライブラリーから各水生植物根圏微生物をR2A培地に接種した。その後、25℃暗条件下で2週間培養した。
植物培養用試験管(直径4cm、高さ13cm、専用キャップ使用; IWAKI社)に40mLのHoagland培地を入れて、121℃で20分間滅菌した。滅菌後のHoagland培地に、供試菌としての前記前培養液をOD600=0.3となるようにナイロンフロックスワブ(スギヤマゲン社)で接種した。続いて、無菌コウキクサ1株(葉状体2枚、根1本)をHoagland培地に移植し、25℃で16時間-Light(10000lux)/8時間-Darkで14日間栽培した。
なお、陰性対照として、水生植物根圏微生物の懸濁液を添加しない系を調製した。また、陽性対照として、PGPRであることが既に公知(Yamaga F. et al., 2010, Environ. Sci. Technol. 44, 6470-6474)の受託番号NITE P-523のAcinetobacter calcoaceticus P23株の懸濁液を添加した系を調製した。
栽培開始後0日目、3日目、7日目、10日目、及び14日目の葉状体数をカウントした。コウキクサの成長促進効果の評価方法は、栽培14日目の陰性対照における葉状体数に対する、供試菌を添加した各系の葉状体数の比を算出し、既知のPGPRであるP23株と同等以上の値となる株を選抜した。
(結果)
結果を図1に示す。本選抜によってPGPRとして、新たに4種の菌株(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)が得られた。14日間栽培後の陰性対照(コントロール)に対するMRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株のコウキクサの成長促進効果は、それぞれ3.6倍、3.4倍、4.6倍、2.9倍、及び2.3倍であった。これら5株を本発明の水生植物根圏微生物候補とした。
<実施例3:新たに単離したPGPRの分類(1)>
(目的)
実施例2で新たに得た4種のPGPR(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)の分類を行う。
(方法)
各PGPRの16S rRNA遺伝子の塩基配列を解析した。各PGPRの菌体を寒天培地上から滅菌ナイロンスワブで回収し、Fast DNA SPIN Kit for Soil(Q-biogene)を用いて、添付のプロトコルに従いDNAを抽出した。
続いて、フォワードプライマーとしてBacteria 10f(AGAGTTTGATCMTGGCTCAG:配列番号1)、リバースプライマーとしてUniversal 1492r-mix2(TACGGHTACCTTGTTACGACTT:配列番号2)を用いて95℃-2分で熱変性後、(95℃-30秒, 56℃-30秒,72℃1.5分)を35サイクルで反応を行い、各PGPRの16S rRNA領域を増幅した。
AMPure(登録商標)(ベックマン)を用いて、添付のプロトコルに従い、PCR反応産物を精製した後、Big Dye Sequencing kit (life technologies)を用いて、添付のプロトコルに従い、シークエンス反応を行った。シークエンス反応プライマーには、Bacteria 10f(AGAGTTTGATCMTGGCTCAG:配列番号3)、Universal 787f(ATTAGATACCCNGGTAG:配列番号4)、Universal 909f(ACTYAAAKGAATTGRCGGGGT:配列番号5)、Universal 907r(CCGYCAATTCMTTTRAGTTT:配列番号6)、及びUniversal 1492r(TACGGHTACCTTGTTACGACTT:配列番号7)を用いた。反応後の産物をClean Kit(登録商標)(ベックマン社)で精製後、シークセンサー(ABI 3130xl Genetic Analyzer;life technologies社)を用いてシークエンシングを行った。
得られた塩基配列情報をATGCソフトウェア(ゼネティクス社)でトリミングならびにアセンブリし、BLAST検索により遺伝子配列の相同性解析を実施して各分離株の近縁種を調べた。
(結果)
表5に結果を示す。MRB1株とMRB3株は、ペロモナス サッカロフィラ(Pelomonas saccharophila)に近縁であることが判明した。そこで、それぞれPelomonas sp. MRB1株、及びPelomonas sp. MRB3株と命名した。また、MRB2株はドクドネラ(Dokdonella)sp. KIS28-6に比較的近縁であることが判明した。ただし、93.6%の相同性は同属としては低い値であり、MRB2株は、ドクドネラ属を含むキサントモナス科(Xanthomonadaceae)に属する新属の微生物の可能性もある。しかし、詳細な分類分析前であることから本明細書では前述のようにMRB2株をドクドネラ属の1種としてDokdonella sp. MRB2株と命名した。ただし、この株名は、便宜的なものであって、今後の分類分析により新属に属する種であることが判明した場合、その新たな属名への変更を何ら妨げるものではない。さらに、MRB4株はブラディリゾリウム シチシ(Bradyrhizobium cytisi)に近縁であることが判明した。そこで、Bradyrhizobium sp. MRB4株と命名した。
Figure 2015142547
<実施例4:宿主植物体におけるクロロフィル量の検証>
(目的)
新規PGPR(MRB1株, MRB2株, MRB3株, MRB4株)及び既知PGPRのP23株を施用した宿主植物は、図1で示すように成長促進効果が認められたが、それ以外にも宿主植物の葉色が濃くなる現象が観察された(図示せず)。そこで、これらのPGPRによる宿主植物のクロロフィル量増加作用について検証した。
(方法)
実施例2における栽培14日目の各コウキクサの葉状体と根を70℃で24時間乾燥させた後、N,N-ジメチルホルムアミド5 mLに浸漬し、4℃/暗条件下で24時間抽出した。得られた上清についてR. J. Porraらの方法(Porra R. J. et al, (1989) Biochim. Biophys. Acta 975: 384-394)に従って、649 nmと665 nmの吸光度を測定した。測定した吸光度の値から以下の式を用いて全クロロフィル量(a+b)を算出した。
クロロフィル a (μg/mL)=13.5275×A665-5.2007×A649
クロロフィル b (μg/mL)=-7.0741×A665+22.4327×A649
(結果)
結果を図2に示す。MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株又はP23株を施用したコウキクサは、それらを施用していない陰性対照のコウキクサよりもクロロフィル量が4倍以上増加することが示された。すなわち、MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株は、PGPRの性質に加えて、宿主植物に対するクロロフィル量増加作用を有することが明らかとなった。通常のPGPRでは、このような作用はこれまで知られていない。そこで、クロロフィル量増加作用を有する上記5株のPGPRを本発明の水生植物根圏微生物として、以下の実施例に用いた。
<実施例5:本発明の水生植物根圏微生物による低肥料濃度培地での宿主植物の成長効果(1)>
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物(MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株)は、図1で示すように、いずれも顕著な成長促進作用を宿主植物に付与することができた。そこで、これらの水生植物根圏微生物が低肥料濃度培地においても宿主植物に成長効果を付与し得るか否かを検証する。
(方法)
基本的な方法は、実施例2の方法に準じた。ただし、本実施例では、Hoagland培地を原液(×1:至適濃度培地)と、原液の5倍希釈液(×1/5:低肥料濃度培地)をそれぞれに対して使用した。
(結果)
結果を図3に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。本発明の水生植物根圏微生物を施用した場合、陰性対照よりも低肥料濃度培地で高い成長性が観察された。この結果から、本発明の水生植物根圏微生物は、低肥料濃度培地であっても宿主植物に成長促進効果を付与できることが立証された。
<実施例6:本発明の水生植物根圏微生物による低照度条件下での宿主植物の成長効果(1)>
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物(MRB1株、MRB2株、MRB3株、MRB4株及びP23株)は、図2で示すように、いずれも顕著なクロロフィル量の増加効果を宿主植物に付与した。そこで、これらの水生植物根圏が低照度条件下においても宿主植物に成長効果を付与し得るか否かを検証する。
(方法)
基本的な方法は、実施例2の方法に準じた。ただし、本実施例では、無菌コウキクサの栽培を、25000luxの高照度条件下と10000luxの低照度条件下で行った。
(結果)
結果を図4に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。本発明の水生植物根圏微生物を施用した場合、低照度条件下栽培の方が高照度条件下栽培よりも、むしろ高い成長性が観察された。この結果から、本発明の水生植物根圏微生物は、低照度条件下であっても宿主植物に成長促進効果を付与できることが立証された。これは、これらの水生植物根圏微生物を根圏に有する宿主植物がそれを有さない同種植物よりも弱い光照射で効率的に成長できることを示している。
<実施例7:双子葉植物における本発明の水生植物根圏微生物によるクロロフィル量増加効果>
(目的)
上記実施例では、いずれも宿主植物として単子葉植物であるコウキクサを使用した。そこで、本実施例では、本発明の水生植物根圏微生物が双子葉植物に対しても同様の効果を有することを確認するため、双子葉植物に本発明の水生植物根圏微生物を施用したときのクロロフィル量増加効果について検証した。
(材料)
宿主植物として、双子葉植物であるキク科(Asteraceae )植物のレタス(Lactuca sativa L. cv. Great Lakes)(アタリヤ農園)を使用した。
(方法)
(1)種子の表面殺菌
滅菌水に0.05% 次亜塩素酸ナトリウム、0.02% TritonX-100となるように加えて、殺菌溶液を調製した。この溶液にレタスの種子(アタリヤ農園)入れて、上下に激しく攪拌した後、3〜5分静置した。その後、上清を除去し、滅菌水を加えて静かに攪拌して洗浄後、再び静置した。滅菌水による同様の洗浄を5回繰り返し、種子の表面殺菌を行った。
(2)種子の発芽
10倍希釈のHoagland寒天培地200 mL(pH6.0)を入れたプラントボックス(72mm×72mm×100 mm)(インキティッシュ SPL-310072; バイオメディカルサイエンス社)に、表面殺菌後の種子を播種した。プラントボックスの蓋には直径10 mmの穴を開け、その穴にミリシール(FWMS01800; アズワン社)を貼付して、栽培に用いた。プラントボックスを人工気象器(LPH-240S日本医化器械製作所)内に入れて、25℃で、湿度70%、6000lux、16時間 Light / 8時間 Darkの栽培条件で7日間栽培した。
(3)水耕栽培
3〜4葉の幼苗を水耕栽培に移植した。水耕栽培は、プラスチック製の角形容器(ハイパックS-38;エンテック社)に黒ビニールテープを巻いたものを用い、水耕液にはHoagland培地(pH 6.0)を10倍又は100倍希釈して1500 mL用いた。各培地には、P23株又は大腸菌(E. coli)を終濁度OD600=0.3 (108 cfu/mL)で接種したもの、又は菌を添加しないもの(菌非接種条件)をそれぞれ調製した。茎と根の境目をスポンジ(1.5 cm3)で挟み、容器の蓋に空けた直径10 mmの穴に差し込み、上記人工気象器を用いて同一栽培条件で7日間栽培した。栽培後、根を洗浄し、無菌Hoagland培地でさらに7日間栽培した。
(4)クロロフィル量の測定
炭酸カルシウム0.2 gに4℃の99.5%エタノール50 mL加えた後、7500 rpm、4℃で10分間遠心分離し、不溶性画分を除去した溶液をクロロフィル抽出溶液として使用した。一穴パンチを用いてレタスの第8葉を直径5 mmの円状に切り取った後、クロロフィル抽出溶液を1 mL加えて、マルチビーズショッカー(MB755U(S);安井器械社)を用いて2500 rpm、60秒で粉砕した。得られた抽出液を12000 rpm、4℃で10分間遠心分離した後、上清を採取し、649 nmと665 nmの吸光度を測定した。測定した吸光度の値から以下の式用いてクロロフィル量(a+b)を算出した。
クロロフィル a (μg/mL)=13.5275×A665-5.2007×A649
クロロフィル b (μg/mL)=-7.0741×A665+22.4327×A649
測定した湿重量からmg/100 g(湿重量)の単位に換算し求めた。
(結果)
結果を図5に示す。菌非接種のコントロール及び大腸菌接種のレタスと比較してP23株接種のレタスではクロロフィル量が増加した。
この結果からP23株は、単子葉植物だけでなく双子葉植物に対してもクロロフィル量増加作用を有することが明らかとなった。一方、大腸菌接種のレタスではクロロフィル量が菌非接種のコントロールよりも逆に減少し、葉色が薄くなった(図示せず)。この結果から本発明の水生植物根圏微生物の施用とクロロフィル量の増加との間には相関があり、クロロフィル量の増加が不特定の微生物の施用による非特異的な効果ではないことが立証された。
<実施例8:非水生植物の根圏における本発明の水生植物根圏微生物の生息状況>
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物が非水生植物の根圏にも生息し得ることを実施例7で用いたレタスで確認する。
(方法)
実施例7で使用したレタスのうち、菌非接種のレタスとP23株接種のレタス主根を蛍光顕微鏡で観察した。レタス主根は、菌液に浸漬して7日間栽培した後、根を洗浄し、無菌培地でさらに7日間栽培したものを用いた。レタスの主根を軽く洗浄した後、生存バクテリアを緑色蛍光標識することのできるLIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit (登録商標)(life technologies社)を用いて染色した。具体的な方法は、添付のプロトコルに従った。その後、蛍光顕微鏡BZ9000 (キーエンス社)で観察した。
(結果)
結果を図6に示す。Aは菌非接種のレタス主根の一部の、またBはP23株接種のレタス主根の一部の、蛍光画像である。A及びBにおいて根全体に散在し、図中、矢頭で示す小スポット(カラー図では赤色蛍光スポットに相当)は、自家蛍光しているクロロプラストを示す。また、Bにおいて、根表面で蛍光スポットが集積した部分(カラー図では緑色蛍光スポットに相当)は、根表面に付着した生存状態のP23株の集団(マイクロコロニー)を示す。Bから、非水生植物であっても水生植物根圏微生物は、その根圏に生息し得ることが立証された。
また、菌非接種条件のAと比較してP23株接種のBでは、根全体に散在する小スポット数、すなわちクロロプラス数が多いことがわかる。これは、P23株を接種したレタスでクロロフィル量が増加した実施例7の結果とも矛盾しない。
<実施例9:イネ科植物における本発明の水生植物根圏微生物による成長促進効果及びクロロフィル量増加効果>
(目的)
本発明の水生植物根圏微生物が代表的な穀類でもあるイネ科植物のイネにおいても成長促進とクロロフィル量増加に関して、同じ単子葉植物のコウキクサと同様の効果が見られることを確認した。
(材料)
宿主植物にはイネ(Oryza sativa)(農業生物資源ジーンバンクより入手)を使用した。
(方法)
(1)種子の表面殺菌
滅菌水に0.05% 次亜塩素酸ナトリウム、0.02% TritonX-100となるように加えて、殺菌溶液を調製した。この溶液にイネの種子入れて、上下に激しく攪拌した後、3〜5分静置した。その後、上清を除去し、滅菌水を加えて静かに攪拌して洗浄後、再び静置した。滅菌水による同様の洗浄を5回繰り返し、種子の表面殺菌を行った。
(2)種子の発芽
表面殺菌後の種子を40〜50℃のインキュベーターで5日間乾燥させて休眠打破を行った。その後、種子を水に浸し、遮光下にて30℃で3〜5日間静置して、発根させた。発根した種子を25℃、70%の相対湿度下において0.5mM CaCl2溶液に7日間浸漬し、発芽させた。
(3)水耕栽培
3〜4葉の幼苗を水耕培地に移植した。水耕液には水で10倍に希釈したKimura B培地(0.35 mM (NH4)2S04, 0.54 mM KNO3, 0.17 mM Na2HPO4, 0.18 mM Ca(NO3)2, 0.19 mM CaCl2, 0.47 mM MgSO4, 4.5×10-2 mM Fe-Citrate, 4.6×10-3 mM MnSO4, 18.8×10-3 mM H3BO4, 1.0×10-4 mM (Na2)6Mo04 , 1.5×10-4 mM ZnSO4, 1.6×10-4 mM CuSO4, 2 mM MES [pH5.7])を用いた。28℃、70%の相対湿度下において16時間-Light(20300lux)/8時間-Darkの条件下で7日間、前栽培した。
続いて、苗根を細菌溶液に1日間浸漬し、細菌を接種した。細菌溶液には、水生植物根圏微生物であるP23株又は非水生植物根圏微生物(Acinetobacter sp. LB3)(本明細書ではしばしば「LB3(株)」と略称する)を終濁度OD600=0.3 (108 cfu/mL)となるように調製した懸濁液を使用した。菌を添加しない培地に1日間浸漬したサンプルも陰性対照として調製した。接種後、10倍希釈したKimura B培地で根部を2回洗浄し、前栽培と同様に、それぞれ1倍の、又は10倍希釈した、Kimura B培地で16時間-Light(20,300 lux)/8時間-Darkの条件下で15日間本栽培した。
(4)地上部草丈及び葉数の測定
本栽培2日、3日、4日、6日、9日、11日、13日及び15日後に地上部の草丈を測定した。また、本栽培14日後の1株あたりの葉数を測定した。
(5)クロロフィル量の測定
葉のクロロフィル量の測定には、Chlorophyll monitor SPAD-502plus (KONICA)を用いた。測定場所は全ての葉の中央部であり、測定方法は所定の方法に従った。
(結果)
イネ地上部草丈の成長を図7に、1株当たりの葉数を図8に、そしてクロロフィル量を図9に示す。
図7で示すように、イネの栽培で通常使用する1×Kimura B培地を10倍に希釈した低濃度肥料培地を使用した場合、P23株を接種したイネでは、LB3株を接種したイネや菌非接種のイネと比較して有意に草丈が高かった。また、図8で示すように、1株当たりの葉数もP23株を接種したイネでは、LB3株を接種したイネや菌未接種のイネよりも有意に多かった。これらの結果から、本発明の水生植物根圏微生物を接種した場合には、単子葉植物はウキクサのみならず、イネ科植物であっても低濃度肥料培地で高い成長率を維持できることが立証された。
さらに図9で示すように、LB3株を接種したイネや菌非接種のイネと比較してP23株接種のイネでは、クロロフィル量が有意に増加した。この結果からP23株は、ウキクサやレタスと同様に、イネにおいてもクロロフィル量増加作用を有することが明らかとなった。
<実施例10:本発明の水生植物根圏微生物による低肥料濃度培地での宿主植物の成長効果(2)>
(目的)
実施例5で検証した低肥料濃度培地における宿主植物の成長効果について、さらに肥料濃度が低い培地であっても本発明の水生植物根圏微生物が宿主植物に成長効果を付与し得るか否かを検証する。
(方法)
基本的な方法は、実施例5の方法に準じた。ただし、本実施例では、Hoagland培地の50倍希釈液(×1/50)及び100倍希釈液(×1/100)を使用した。また水生植物根圏微生物にはMRB3株及びP23株を用いた。
(結果)
結果を図10に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。本発明の水生植物根圏微生物を施用した場合には、Hoagland培地を50倍又は100倍に希釈した極めて低濃度の肥料培地であっても陰性対照と比較して高い成長性が確認された。この結果から、本発明の水生植物根圏微生物を接種した植物は、低肥料環境下であっても生育ができることが示唆された。これは、肥料コストの削減が可能であることを示唆している。
<実施例11:本発明の水生植物根圏微生物による低照度条件下での宿主植物の成長効果(2)>
(目的)
実施例6で検証した低照度条件下での宿主植物の成長効果について、さらに照度が低い条件下で成長効果を付与し得るか否かを検証する。
(方法)
基本的な方法は、実施例6の方法に準じた。ただし、本実施例では、無菌コウキクサの栽培を5000luxの低照度条件下で行った。また水生植物根圏微生物にはMRB3株及びP23株を用いた。
(結果)
結果を図11に示す。この図は、栽培14日目における陰性対照のコウキクサの葉状体数に対する、本発明の水生植物根圏微生物を施用したコウキクサの葉状体数の比を示している。5000luxの低照度条件下であってもMRB3株又はP23株を接種したコウキクサでは、陰性対照と比較して高い成長性を維持していることが確認された。これは、植物工場において栽培する植物の成長を維持しながら、光源の消費電力を抑制できることを示唆している。
<実施例12:植物成長促進根圏微生物の選抜(2)>
(目的)
実施例1に記載の方法に準じて新たに作製した水生植物根圏微生物ライブラリーから成長促進効果の高い植物成長促進根圏微生物(PGPR)を選抜する。
(方法)
基本的な方法は、新たな水生植物根圏微生物ライブラリーの作製方法は実施例1に、また植物成長促進根圏微生物の選抜方法は実施例2に、準じた。滅菌コウキクサを用いた無菌系で前記ライブラリー内の各水生植物根圏微生物について、コウキクサに対する成長促進効果を個別検証し、P23株よりも高い成長促進効果を有する微生物を新たなPGPRとして選抜した。
(結果)
結果を図12に示す。本選抜によってPGPRとして、新たに3種の菌株(MRB5株, MRB6株, MRB7株)が得られた。これらの菌株は、葉状体数に関してP23株の約1.5倍の成長促進効果がみられた。
<実施例13:新たに単離したPGPRの分類(2)>
(目的)
実施例11で新たに得た3種のPGPR(MRB5株〜MRB7株)を16S rRNAの塩基配列に基づき分類を行う。
(方法)
基本的な方法は、実施例3に準じた。
(結果)
表6に結果を示す。MRB5株は、キトファギア綱(Cytophagia)のクリセオリネア セルペンス(Chryseolinea serpens)に最も近縁である。しかし、その相同性は90.1%に過ぎない。本発明者らの研究によりMRB5株はキトファギア綱に属する新属新種の微生物であることが確実視されているものの、目や科レベルの帰属については現在のところ不明である。そこで、本明細書では、便宜的にCytophagia微生物MRB5株と命名した。また、MRB6株はラキバクター カウエンシス(Lacibacter cauensis) NJ-8株に最も近縁であることが判明した。しかし、89.0%の相同性は、同属としては非常に低い値である。それ故、MRB6株はLacibacter cauensisと同じスフィンゴバクテリア綱(Sphingobacteria)スフィンゴバクテリアレス目(Sphingobacteriales)キチノファガセアエ科(Chitinophagaceae)に属する新属新種の微生物である可能性が極めて高い。しかし、詳細な分類分析前であるため本明細書では前述のようにMRB6株をラキバクター属の1種として取扱い、Lacibacter sp. MRB6株と命名した。ただし、この株名は、便宜的なものであって、今後の分類分析により新属に属する種であることが判明した場合、その新たな属名への変更を何ら妨げるものではない。さらに、MRB7株はウンディバクテリウム オリゴカルボニフィルム(Undibacterium oligocarboniphilum)EM1株に最も近縁であることが判明した。しかし、93.7%の相同性も同属としては低い値である。したがって、MRB7株もUndibacterium oligocarboniphilumと同じベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)ブルクホルデリアレス目(Burkholderiales)オキサロバクテラセアエ科(Oxalobacteraceae)に属する新属新種の微生物の可能性が非常に高い。しかし、詳細な分類分析前であるため本明細書では前述のようにMRB7株をウンディバクテリウム属の1種として取扱い、Undibacterium sp. MRB7株と命名した。ただし、この株名は、便宜的なものであって、今後の分類分析により新属に属する種であることが判明した場合、その新たな属名への変更を何ら妨げるものではない。
Figure 2015142547

Claims (17)

  1. 宿主植物のクロロフィル量を増加する作用を有する水生植物根圏微生物。
  2. ペロモナス属(Pelomonas)微生物、キサントモナス科(Xanthomonadaceae)微生物、ブラディリゾリウム属(Bradyrhizobium)微生物及びアシネトバクター属(Acinetobacter)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、請求項1に記載の水生植物根圏微生物。
  3. ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01645の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
  4. ペロモナス属微生物が受託番号NITE P-01647の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
  5. キサントモナス科微生物が受託番号NITE P-01646の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
  6. ブラディリゾリウム属微生物が受託番号NITE P-01648の微生物である、請求項2に記載の水生植物根圏微生物。
  7. キトファギア綱(Cytophagia)微生物、ラキバクター属(Lacibacter)微生物、及びウンディバクテリウム属(Undibacterium)微生物からなる群のいずれかの微生物属に属する、請求項1に記載の水生植物根圏微生物。
  8. キトファギア綱微生物が受託番号NITE P-01894の微生物である、請求項7に記載の水生植物根圏微生物。
  9. ラキバクター属微生物が受託番号NITE P-01895の微生物である、請求項7に記載の水生植物根圏微生物。
  10. ウンディバクテリウム属微生物が受託番号NITE P-01896の微生物である、請求項7に記載の水生植物根圏微生物。
  11. 請求項1〜10に記載の水生植物根圏微生物を少なくとも1種含む植物成長強化剤。
  12. 請求項2に記載のアシネトバクター属微生物が受託番号NITE P-523の微生物である、請求項11に記載の植物成長強化剤。
  13. 植物が双子葉植物又は単子葉植物である、請求項11又は12に記載の植物成長強化剤。
  14. 請求項11〜13のいずれか一項に記載の植物成長強化剤を栽培植物の根に施用して当該植物を栽培する植物栽培方法。
  15. 前記栽培が水耕栽培である、請求項14に記載の植物栽培方法。
  16. 低濃度肥料培地で栽培する、請求項14又は15に記載の植物栽培方法。
  17. 低照度条件下で栽培する、請求項14〜16のいずれか一項に記載の植物栽培方法。
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