本発明の第1の実施例について説明する。
実施例1は,1つまたは複数の単位変換器を直列接続して構成したアームとリアクトルとの直列回路3つをΔ結線し,変圧器を介して交流系統と連系する電力変換装置であって,STATCOMとして交流系統に連系している。
実施例1の特徴は,各アームに含まれる前記の単位変換器のうち,少なくとも1つが,ハーフブリッジ回路である点である。
言い換えれば,非特許文献1に記載されているMMCC−SDBCに用いられている単位変換器のうち,各アームに含まれる前記の単位変換器の少なくとも1つを,フルブリッジ回路からハーフブリッジ回路に置き換えた構成である。
本実施例によれば,簡便な回路構成で,前記の変圧器の過度な直流偏磁を防止できるという効果を得られる。
以下,実施例1の全体構成を説明した後,単位変換器の構成,単位変換器の出力電圧と電流経路について説明し,アームとしての出力電圧を合成するための制御手段の動作について説明する。加えて,本発明の電力変換装置がSTATCOMとして機能することを説明し,最後に,本発明によって変圧器の直流偏磁を防止できる原理を説明する。
まず,図1を参照して,実施例1の全体構成を説明する。
電力変換装置104は,変圧器105を介して連系母線103に連系している。また,連系母線103と交流系統101の間に,系統インピーダンス102が存在している。
以下,電力変換装置104の内部構成を説明する。
電力変換装置104は,リアクトル106とアーム107uvの直列回路,リアクトル106とアーム107vwの直列回路,リアクトル106とアーム107wuの直列回路の3つが,図1に示すU点,V点,W点でΔ結線されている構成である。
なお,本明細書では,特に区別する必要が無い場合,アーム107uv,vw,wuを総称して「アーム107」と称することとする。
また,各アーム107は,ハーフブリッジ形単位変換器108と,フルブリッジ形単位変換器109の直列回路である。ハーフブリッジ形単位変換器108とフルブリッジ形単位変換器109の内部構成については後述する。
本発明の特徴は,各アーム107にハーフブリッジ形単位変換器を用いた点にある。
なお,以下では,一例として図1に描いたように,各アーム107が,1つのハーフブリッジ形変換器108と複数のフルブリッジ形単位変換器109を含んでいる場合について説明する。
しかし,各アーム107が含んでいるハーフブリッジ形単位変換器108の数は必ずしも1つである必要はなく,複数であっても本発明の効果を得ることができる。さらに,各アーム107がハーフブリッジ形単位変換器108のみを含んでおり,フルブリッジ形単位変換器109を含んでいない場合にも,本発明の効果を得ることができる。
また,本実施例では,ハーフブリッジ形単位変換器108の個数と,フルブリッジ形単位変換器109の個数の合計をNと表記する。
本明細書では,特に区別する必要が無い場合,ハーフブリッジ形単位変換器108とフルブリッジ形単位変換器109,および図6,図9を参照して後述するダブルハーフブリッジ形単位変換器503,双方向チョッパ形単位変換器804を,総称して単に「単位変換器」と称する。
なお,電力変換装置104の動作原理,および,中央制御手段110,送信用通信線111,受信用通信線112については,単位変換器108,109の内部構成を説明した後に説明する。
以下,図1に描いた各部の電圧・電流を定義する。
交流系統101と連系母線103の各相をA相,B相,C相と称し,交流系統101の線間電圧をVSab,VSbc,VScaと表記し,連系母線103の線間電圧をVRab,VRbc,VRcaと表記する。
また,連系母線から電力変換装置104に流れる電流をIa,Ib,Icと表記する。
変圧器105のアーム107側の各相をU相,V相,W相と称し,変圧器105からU点,V点,W点に流れる電流をIU,IV,IWと表記する。
さらに,各アーム107uv,vw,wuの出力電圧をそれぞれVuv,Vvw,Vwuと表記し,各アーム107uv,vw,wuを流れる電流をそれぞれIuv,Ivw,Iwuと表記する。
以下,図2を参照して,ハーフブリッジ形単位変換器108の内部構成を説明する。
X相上側スイッチング素子201XPとX相上側環流ダイオード202XPの逆並列回路と,X相下側スイッチング素子201XNとX相下側環流ダイオード202XNの逆並列回路は,x点で直列接続されている。これを,第1の直列回路と称することとする。
また,ハーフブリッジ形単位変換器108は,エネルギー貯蔵素子として,上側コンデンサ203Pと下側コンデンサ203Nの2つのコンデンサを備えている。
上側コンデンサ203Pと下側コンデンサ203Nはm点で直列接続されている。これを,第2の直列回路と称することとする。
ハーフブリッジ形単位変換器108は,前記の第1,第2の直列回路をp点とn点で並列接続した構成である。
以下,ハーフブリッジ形単位変換器108における電圧・電流を定義する。
m点を基準としたx点の電圧をハーフブリッジ形単位変換器108の出力電圧と称し,Vjkと表記する。
ただし,jは該ハーフブリッジ形単位変換器108の属するアーム107を表わし,j=uv,vw,wuである。また,kは該ハーフブリッジ形単位変換器108のアーム107における番号を表わし,k=1,2,…,Nである。以下,本明細書において,単位変換器の各部電圧に付記されたj,kは同様の意味を表わす。
上側コンデンサ203Pの電圧をVCPjk,下側コンデンサ203Nの電圧をVCNjkと表記する。
本明細書では,特に区別する必要が無い場合,図2のX相上側スイッチング素子201XP,X相下側スイッチング素子201XN,および,後述する他の単位変換器(図3,図6,図9を参照)に用いられているスイッチング素子201XP,XN,YP,YNについても,総称して単に「スイッチング素子201」と称する。
また,本明細書では,特に区別する必要が無い場合,図2のX相上側環流ダイオード202XP,X相下側環流ダイオード202XN,および,後述する他の単位変換器(図3,図6,図9を参照)に用いられている環流ダイオード202XP,XN,YP,YNについても,総称して単に「環流ダイオード202」と称する。
また,図2,図3,図6,図9では,スイッチング素子としてIGBT(insulated-gate bipolar transistor)の記号を描いているが,本発明はこれに限るものではなく,オン・オフ制御形スイッチング素子であれば,BJT(bipolar junction transistor),MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor),GTO(gate turn-off)サイリスタ,IGCT(integrated gate-commutated thyristor)等,他の方式のスイッチング素子を用いた場合にも,本発明の効果を得ることができる。
以下,スイッチング素子のオン・オフ状態と,出力電圧Vjkの関係を説明する。また,電流Ijの流れる経路についても説明する。
X相上側スイッチング素子201XPがオン,X相下側スイッチング素子201XNがオフである場合,m点を基準としたx点の電圧は,上側コンデンサ203Pの電圧VCPjkと概ね等しくなる。すなわち,Vjk=VCPjkである。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,上側コンデンサ203Pを通って流れる。
X相上側スイッチング素子201XPがオフ,X相下側スイッチング素子201XNがオンである場合,m点を基準としたx点の電圧は,下側コンデンサ203Pの電圧VCNjkと大きさが概ね等しく,かつ,逆極性の電圧となる。すなわち,Vjk=−VCNjkである。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,下側コンデンサ203Nを通って流れる。
以上より,スイッチング素子のオン・オフを制御することにより,ハーフブリッジ形単位変換器108の出力電圧Vjkを制御できることが分かる。
また,ハーフブリッジ形単位変換器108においては,スイッチング素子のオン・オフ状態に関わらず,電流Ijはコンデンサ203P,Nのいずれかを通ることが分かる。
なお,ハーフブリッジ形単位変換器108は,ハーフブリッジ形単位変換器制御手段204を備えているが,その動作については,後述する。
以下,図3を参照して,フルブリッジ形単位変換器109の内部構成を説明する。
X相上側スイッチング素子201XPとX相上側環流ダイオード202XPの逆並列回路と,X相下側スイッチング素子201XNとX相下側環流ダイオード202XNの逆並列回路は,x点で直列接続されている。これを,第1の直列回路と称することとする。
Y相上側スイッチング素子201YPとY相上側環流ダイオード202YPの逆並列回路と,Y相下側スイッチング素子201YNとY相下側環流ダイオード202XNの逆並列回路は,y点で直列接続されている。これを,第2の直列回路と称することとする。また,フルブリッジ形単位変換器109は,エネルギー貯蔵素子として,コンデンサ203を備えている。
フルブリッジ形単位変換器109は,前記第1,第2の直列回路とコンデンサ203がp点とn点で並列接続した構成である。
以下,フルブリッジ形単位変換器109における電圧・電流を定義する。
y点を基準としたx点の電圧をフルブリッジ形単位変換器109の出力電圧と称し,Vjkと表記する。
また,コンデンサ203の電圧をVCjkと表記する。
以下,スイッチング素子のオン・オフ状態と,出力電圧Vjkの関係を説明する。また,電流Ijの流れる経路についても説明する。
X相上側スイッチング素子201XPがオン,X相下側スイッチング素子201XNがオフ,Y相上側スイッチング素子201YPがオン,Y相下側スイッチング素子201YNがオフである場合,y点を基準としたx点の電圧は,概ね零となる。すなわち,Vjk=0である。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,コンデンサ203を通らない。
X相上側スイッチング素子201XPがオン,X相下側スイッチング素子201XNがオフ,Y相上側スイッチング素子201YPがオフ,Y相下側スイッチング素子201YNがオンである場合,y点を基準としたx点の電圧は,コンデンサ203の電圧VCjkと概ね等しくなる。すなわち,Vjk=VCjkである。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,コンデンサ203を通る。
X相上側スイッチング素子201XPがオフ,X相下側スイッチング素子201XNがオン,Y相上側スイッチング素子201YPがオン,Y相下側スイッチング素子201YNがオフである場合,y点を基準としたx点の電圧は,コンデンサ203の電圧VCjkと大きさが概ね等しく,逆極性の電圧となる。すなわち,Vjk=−VCjkである。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,コンデンサ203を通る。
X相上側スイッチング素子201XPがオフ,X相下側スイッチング素子201XNがオン,Y相上側スイッチング素子201YPがオフ,Y相下側スイッチング素子201YNがオンである場合,y点を基準としたx点の電圧は,概ね零となる。すなわち,Vjk=0である。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,コンデンサ203を通る。
以上より,スイッチング素子のオン・オフを制御することにより,フルブリッジ形単位変換器109の出力電圧Vjkを制御できることが分かる。
また,フルブリッジ形単位変換器109においては,スイッチング素子のオン・オフ状態に依存して,電流Ijがコンデンサ203を通る場合と通らない場合とが存在する。
一方で,前述の通り,ハーフブリッジ形単位変換器108では,電流Ijがコンデンサ203P,Nのいずれかを必ず通る。
これは,ハーフブリッジ形単位変換器108とフルブリッジ形単位変換器109の相違点の1つである。
アーム107の電流Ijに着目して言い換えれば,アーム107を流れる電流Ijは,アーム107に含まれる少なくとも1つのコンデンサを必ず通ることになる。
本実施例,および図1では,ハーフブリッジ形単位変換器108を用いた場合について記述しているが,本発明はこれに限るものではなく,各アームに流れる電流が少なくとも1つのコンデンサ等の電力貯蔵素子を必ず通る場合には,本実施例と同様の効果が得られる。
以下,電力変換装置104の制御手段について説明する。また,該制御手段によって,アーム107uv,vw,wuの出力電圧Vuv,Vvw,Vwuを合成する方法について説明する。
中央制御手段110は,各単位変換器108,109に対して,送信用通信路111を介して,例えばゲート信号gjk(j=uv,vw,wu,k=1,2,…,N)を送信する。
各単位変換器108,109は,中央制御手段110から受診したgjkに基づいて各スイッチング素子のオン・オフを制御し,出力電圧Vjkを制御する。
また,中央制御手段110は,各単位変換器108,109から,受信用通信路112を介して,例えば電圧検出手段205P,Nを介して検出したコンデンサ電圧VCjk(j=uv,vw,wu,k=1,2,…,N)の検出値を受信する。
送信用通信路111と受信用通信路112は,例えば電線,光ファイバ,あるいは無線等の通信路である。
各アーム107の出力電圧Vuv,Vvw,Vwuは,各アーム107を構成する単位変換器108,109の出力電圧Vjkの和である。したがって,前述の制御手段の動作によってVjkを制御することによって,アーム107としての出力電圧Vuv,Vvw,Vwuを合成できる。
例えば,非特許文献1にて開示されているような位相シフトPWM(pulse-width modulation)を適用することにより,Vuv,Vvw,Vwuを,正弦波に近いマルチレベル電圧波形とすることができる。
以下,電力変換装置104がSTATCOMとして機能する原理を説明する。なお,説明を簡単にするため,変圧器105の巻数比を1:1とし,かつ,連系母線103側とアーム107側で,移相がないものと仮定して説明する。
また,以下では,各アームの出力電圧Vuv,Vvw,Vwuの基本波成分のみに着目して説明し,高調波成分については説明を簡単にするため無視する。
まず,電力変換装置104が容量性(capacitive)の無効電力を出力する原理について説明する。
前述の制御手段の動作によって,各アーム107の出力電圧Vuv,Vvw,Vwuが,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと同位相で,かつ,より大きな振幅をもつように制御する。
この場合,リアクトル106と変圧器105の漏れインダクタンスに印加される電圧は,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと逆位相の電圧となる。
正弦波定常状態を仮定した場合,リアクトル105と変圧器105の漏れインダクタンスに流れる電流は,その印加電圧より90°だけ遅れる。
この場合,各アーム107uv,vw,wuに流れる電流Iuv,Ivw,Iwuは,VRab,VRbc,VRcaと逆位相の電圧から90°だけ遅れた電圧,言い換えれば,VRab,VRbc,VRcaから90°だけ位相の進んだ電流となる。
また,連系母線103から電力変換装置104に流れる電流Ia,Ib,Icは,連系母線103の相電圧VRa,VRb,VRcから90°だけ位相の進んだ電流となる。
さらに,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと,各アーム107の出力電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅の差を制御することにより,電流Iuv,Ivw,IwuおよびIa,Ib,Icの振幅を制御できる。言い換えれば,容量性の無効電力の大きさを制御できる。
次に,電力変換装置104が誘導性(inductive)の無効電力を出力する原理について説明する。
前述の制御手段の動作によって,各アーム107の出力電圧Vuv,Vvw,Vwuが,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと同位相で,かつ,より小さな振幅となるように制御する。
この場合,リアクトル106と変圧器105の漏れインダクタンスに印加される電圧は,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと同位相の電圧となる。
正弦波定常状態を仮定した場合,リアクトル105と変圧器105の漏れインダクタンスに流れる電流は,その印加電圧より90°だけ遅れる。
この場合,各アーム107uv,vw,wuに流れる電流Iuv,Ivw,Iwuは,VRab,VRbc,VRcaから90°だけ位相の遅れた電流となる。
また,連系母線103から電力変換装置104に流れる電流Ia,Ib,Icは,連系母線103の相電圧VRa,VRb,VRcから90°だけ位相の遅れた電流となる。
以上より,電力変換装置104が誘導性の無効電力を出力できることが分かる。
また,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと,各アーム107の出力電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅の差を制御することにより,電流Iuv,Ivw,IwuおよびIa,Ib,Icの振幅を制御できる。言い換えれば,容量性の無効電力の大きさを制御できる。
以上より,連系母線103の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと,各アーム107の出力電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅の大小関係を制御することにより,電力変換装置104は,容量性もしくは誘導性の無効電力を任意に出力でき,かつ,その大きさを任意に制御できることが分かる。言い換えれば,電力変換装置104は,STATCOMとして機能する。
なお,以上の説明では,3つのアーム107uv,vw,wuが同じ大きさの無効電力を出力する場合について説明したが,VRabとVuvの振幅の大小関係,VRbcとVvwの振幅の大小関係,VRcaとVRwuの振幅の大小関係を個別に制御することにより,3つのアーム107uv,vw,wuがそれぞれ異なる無効電力を出力することも可能である。
次に,本発明の特徴であるアーム107にハーフブリッジ形単位変換器108を備えることによって,変圧器105の過度な直流偏磁を防止できる原理を説明する。
まず,図10を参照して,上側コンデンサ203Pの電圧VCPjkと,下側コンデンサ203Nの電圧VCNjkが等しい場合(VCPjk=VCNjk)における,ハーフブリッジ形単位変換器108の出力電圧Vjkの概略波形について説明する。
図10は,例えばPWMによって,その基本波成分がVjkfundとなるようにVjkのパルス列を生成した場合である。
図10のようにVCPjk=VCNjkである場合,Vjkは基本波成分Vjkfundを含有するが,直流成分を含有しない。
さて,前述のように,ハーフブリッジ形単位変換器108では,アーム電流Ij(j=uv,vw,wu)が上側コンデンサ203P,下側コンデンサ203Nのいずれかを必ず通る。
ところで変圧器105が直流偏磁している場合,アーム電流Ijに直流成分が含有されている。したがって,Ijに含有されている直流成分を減衰できれば,過度な直流偏磁を防止できる。
電流Ij(j=uv,vw,wu)が直流成分Ijdcを含有し,かつ,Ijdc>0である場合,スイッチング素子のオン・オフ状態に依存して,Ijdcは上側コンデンサ203Pを充電するか,または下側コンデンサ203Nを放電するかのいずれかの経路を通る。
言い換えれば,正の直流成分Ijdcによって,VCPjkは上昇し,VCNjkは低下する。したがって,VCPjk>VCNjkとなる。これについては図11を参照して後述する。
また,電流Ijが直流成分Ijdcを含有し,かつ,Ijdc<0である場合,スイッチング素子のオン・オフ状態に依存して,Ijkdcは上側コンデンサ203Pを放電するか,または下側コンデンサ203Nを充電するかのいずれかの経路を通る。
言い換えれば,負の直流成分Ijdcによって,VCPjkは低下し,VCNjkは上昇する。したがって,VCPjk<VCNjkとなる。これについては図12を参照して後述する。
正のIjkdcによってVCPjk>VCNjkとなった場合,図10に示した概略波形は図11のように変化する。
VCPjk>VCNjkとなったため,Vjkの正の電圧パルスは,負の電圧パルスよりもその大きさが大きくなる。したがって,Vjkは基本波成分Vjkfundに加えて正の直流成分Vjkdcを含有する。
単位変換器108の出力電圧の直流成分Vjkdcが正である場合(Vjkdc>0)は,アーム電流Ijの正の直流成分(Ijdc>0)を妨げる極性の電圧となる。
以上を要約すれば,Ijの正の直流成分Ijdcによって,正のVjkdcが発生し,発生した正のVjkdcは正のIjdcを減衰させる。
また,負のIjdcによってVCPjk<VCNjkとなった場合,図10に示した概略波形は図12のように変化する。
VCPjk<VCNjkとなったため,Vjkの正の電圧パルスは,負の電圧パルスよりもその大きさが小さくなる。したがって,Vjkは基本波成分Vjkfundに加えて負の直流成分Vjkdcを含有する。
単位変換器108の出力電圧の直流成分Vjkdcが負である場合(Vjkdc<0)は,アーム電流Ijの負の直流成分(Ijdc<0)を妨げる極性の電圧となる。
以上を要約すれば,Ijの負の直流成分Ijdcによって,負のVjkdcが発生し,発生した負のVjkdcは負のIjdcを減衰させる。
以上より,ハーフブリッジ形単位変換器108に含まれるコンデンサ203P,Nは,その充放電によって,アーム電流Ijの正負いずれの直流成分Ijkdcをも減衰できることがわかる。
したがって,変圧器105の過度な直流偏磁を防止できる。
以上で説明したように,ハーフブリッジ形単位変換器108の特長によって,アーム107を流れる電流が少なくとも1つのコンデンサを必ず通ることによって,変圧器105の過度な直流偏磁を防止できるという効果を得られる。
なお,以上では,3つのアーム107とリアクトル106との直列回路がΔ結線されている場合(図1)を例として説明した。
本発明は,図4に示すように,3つのアームがY結線されている場合にも適用でき,同様の効果を得られる。
なお,図4では,アーム107u,v,wと変圧器105を直接接続している回路図を描いているが,アーム107u,v,wと変圧器105との間にリアクトルを備えていても同様の効果を得られる。
本発明の第2の実施例について説明する。
実施例2は,実施例1と同様に,1つまたは複数の単位変換器を直列接続して構成したアームとリアクトルとの直列回路3つをΔ結線し,変圧器を介して交流系統と連系する電力変換装置であって,STATCOMとして交流系統に連系している。
実施例2の特徴は,各アームに含まれる前記の単位変換器のうち,少なくとも1つが,2つのハーフブリッジ回路を逆直列接続したダブルハーフブリッジ回路である点である。
言い換えれば,非特許文献1に記載されているMMCC−SDBCに用いられている単位変換器のうち,各アームに含まれる前記の単位変換器の少なくとも1つを,ダブルハーフブリッジ回路に置き換えた構成である。
本実施例によれば,実施例1と同様に,簡便な回路構成で,前記の変圧器の過度な直流偏磁を防止できるという効果を得られる。
さらに,ダブルハーフブリッジ回路を用いた単位変換器(以下,ダブルハーフブリッジ形単位変換器と称する)では,ハーフブリッジ形単位変化器108の概ね2倍(フルブリッジ形単位変換器109と概ね同じ)の電圧を出力できるという効果を得られる。
以下,実施例1の全体構成を説明した後,単位変換器の構成,単位変換器の出力電圧と電流経路について説明し,アームとしての出力電圧を合成するための制御手段の動作について説明する。加えて,本発明の電力変換装置がSTATCOMとして機能することを説明し,最後に,本発明によって変圧器の直流偏磁を防止できる原理を説明する。
まず,図5を参照して,実施例1の全体構成を説明するが,実施例1の図1との相違点についてのみ説明する。
本実施例の図5に示す電力変換装置501では,図1とは異なり,各アーム502uv,vw,wuが少なくとも1つのダブルハーフブリッジ形単位変換器503を備えている点を特徴とする。
ダブルハーフブリッジ形単位変換器503は,2つのハーフブリッジ回路を逆直列接続した回路であり,詳細は図6を用いて後述する。
本実施例における電力変換装置501がSTATCOMとして機能する原理,および,アーム電流Ijの直流成分Ijdcを減衰させ,変圧器105の偏磁を防止できる原理については,実施例1と概ね同様である。
以下,図6を参照して,ダブルハーフブリッジ形単位変換器503の内部構成を説明する。
ダブルハーフブリッジ形単位変換器503は,X相ハーフブリッジ601XとY相ハーフブリッジ601Yをm点で逆直列に接続した構成である。また,X相ハーフブリッジ601XとY相ハーフブリッジ601Yを制御するダブルハーフブリッジ形単位変換器制御手段602を備えている。
本明細書では特に区別する必要が無い場合,X相ハーフブリッジ601XとY相ハーフブリッジ601Yを総称して単に「ハーフブリッジ601」と称することにする。
以下,ハーフブリッジ601Xの内部構成を説明する。
X相上側スイッチング素子201XPとX相上側環流ダイオード202XPの逆並列回路と,X相下側スイッチング素子201XNとX相下側環流ダイオード202XNの逆並列回路は,x点で直列接続されている。これを,第1の直列回路と称することとする。
また,ハーフブリッジ601Xは,エネルギー貯蔵素子として,X相上側コンデンサ203XPとX相下側コンデンサ203XNの2つのコンデンサを備えている。
X相上側コンデンサ203YPとX相下側コンデンサ203YNはm点で直列接続されている。これを,第2の直列回路と称することとする。
ハーフブリッジ601Xは,前記の第1,第2の直列回路をpx点とnx点で並列接続した構成である。
次に,ハーフブリッジ601Yの内部構成を説明する。
Y相上側スイッチング素子201YPとY相上側環流ダイオード202YPの逆並列回路と,Y相下側スイッチング素子201YNとY相下側環流ダイオード202YNの逆並列回路は,y点で直列接続されている。これを,第1の直列回路と称することとする。
また,ハーフブリッジ601Yは,エネルギー貯蔵素子として,Y相上側コンデンサ203YPとY相下側コンデンサ203YNの2つのコンデンサを備えている。
Y相上側コンデンサ203YPとX相下側コンデンサ203YNはm点で直列接続されている。これを,第2の直列回路と称することとする。このm点は,X相ハーフブリッジ601のm点と共通である。
ハーフブリッジ601Yは,前記の第1,第2の直列回路をpy点とny点で並列接続した構成である。
以上で説明したように,X相ハーフブリッジ601XとY相ハーフブリッジ601Yのm点は接続されている。
以下,ダブルハーフブリッジ形単位変換器503における電圧・電流を定義する。
y点を基準としたx点の電圧をダブルハーフブリッジ形単位変換器503の出力電圧と称し,Vjkと表記する。
ただし,jは該ダブルハーフブリッジ形単位変換器503の属するアーム502を表わし,j=uv,vw,wuである。また,kは該ダブルハーフブリッジ形単位変換器504のアーム502における番号を表わし,k=1,2,…,Nである。以下,本明細書において,単位変換器の各部電圧に付記されたj,kは同様の意味を表わす。
X相上側コンデンサ203XPの電圧をVCXPjk,X相下側コンデンサ203XNの電圧をVCXNjkと表記する。
同様に,Y相上側コンデンサ203YPの電圧をVCYPjk,X相下側コンデンサ203YNの電圧をVCYNjkと表記する。
以下,スイッチング素子のオン・オフ状態と,出力電圧Vjkの関係を説明する。また,電流Ijの流れる経路についても説明する。
ただし,以下の説明では,4つのコンデンサ203の電圧が概ね等しい場合を仮定し,VCXPjk=VCXNjk=VCYPjk=VCYNjk=VCjkと近似して説明する。
X相上側スイッチング素子201XPがオン,X相下側スイッチング素子201XNがオフ,Y相上側スイッチング素子201YPがオン,Y相下側スイッチング素子201YNがオフである場合,y点を基準としたx点の電圧は,X相上側コンデンサ203XPの電圧とY相上側コンデンサ203YPの電圧の差,すなわち概ねVjk=0となる。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,X相上側コンデンサ203XPとY相上側コンデンサ203YPを通る。
X相上側スイッチング素子201XPがオン,X相下側スイッチング素子201XNがオフ,Y相上側スイッチング素子201YPがオフ,Y相下側スイッチング素子201YNがオンである場合,y点を基準としたx点の電圧は,X相上側コンデンサ203XPの電圧とY相下側コンデンサ203YNの電圧の和,すなわち概ねVjk=2VCjkである。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,X相上側コンデンサ203XPとY相下側コンデンサ203YNを通る。
X相上側スイッチング素子201XPがオフ,X相下側スイッチング素子201XNがオン,Y相上側スイッチング素子201YPがオン,Y相下側スイッチング素子201YNがオフである場合,y点を基準としたx点の電圧は,X相下側コンデンサ203XNの電圧とY相上側コンデンサ203YPの電圧の和の逆極性の電圧,すなわち概ねVjk=−2VCjkである。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,X相下側コンデンサ203XNとY相上側コンデンサ203YPを通る。
X相上側スイッチング素子201XPがオフ,X相下側スイッチング素子201XNがオン,Y相上側スイッチング素子201YPがオフ,Y相下側スイッチング素子201YNがオンである場合,y点を基準としたx点の電圧は,X相下側コンデンサ203XPの電圧とY相下側コンデンサ203YNの電圧の差,すなわち概ねVjk=0となる。この場合,該単位変換器に流れる電流Ijは,X相下側コンデンサ203XNとY相下側コンデンサ203YNを通る。
以上より,スイッチング素子のオン・オフを制御することにより,ダブルハーフブリッジ形単位変換器503の出力電圧Vjkを制御できることが分かる。
また,ダブルブリッジ形単位変換器109においては,スイッチング素子のオン・オフ状態に関わらず,電流Ijがいずれか2つのコンデンサ203を通ることが分かる。
ダブルハーフブリッジ形単位変換器503の特長によって,アーム107を流れる電流は少なくとも2つのコンデンサを必ず通る。これによって,実施例1の図10〜12を用いて説明した原理に従って,変圧器105の過度な直流偏磁を防止できるという効果を得られる。
以下,図6を参照して,ダブルハーフブリッジ形単位変換器503において,2つのハーフブリッジ601X,Yのm点を接続することにより得られるもう1つの効果を説明する。
図6に示すように,ダブルハーフブリッジ形単位変換器503は,2つのハーフブリッジ601X,Yを制御するダブルハーフブリッジ形単位変換器制御手段602を備えている。
ダブルハーフブリッジ形単位変換器制御手段602は,4つのスイッチング素子201XP,XN,YP,YNを制御する。
ここで,図6に示すようにダブルハーフブリッジ形単位変換器制御手段602の基準電位と,m点の電位を等電位Gcとした場合,ダブルハーフブリッジ形単位変換器制御手段602と,各スイッチング素子201XP,XN,YP,YNとの電位差は,それぞれ最大でコンデンサ203XP,XN,YP,YNの電圧と概ね等しくなる。
すなわち,ダブルハーフブリッジ形単位変換器制御手段602と各スイッチング素子201との間の電気的絶縁は,1つのコンデンサ203の電圧に耐えればよく,しかも,1つの制御手段で,4つのスイッチング素子のオン・オフを制御できるという効果を得られる。
一方,実施例1における図2に示したハーフブリッジ形単位変換器108を2つ用いた場合,1つの制御手段で2つのスイッチング素子を制御することになり,制御手段1つあたり制御できるスイッチング素子の個数が少ない。
さらに,図2に示すハーフブリッジ形単位変換器108を2つ直列接続し,該2つハーフブリッジ形単位変換器に含まれる4つのスイッチング素子を1つの制御手段で制御しようとした場合,該制御手段と4つのスイッチング素子との間の電気的絶縁は,2つのコンデンサ203の電圧の和に耐える必要がある。
以上で説明したように,ハーフブリッジ形単位変換器108を単に2台用いることに比較して,ダブルハーフブリッジ形単位変換器503では,制御手段1つあたり制御できるスイッチング素子の数が2倍にでき,かつ,制御手段と各スイッチング素子との間の絶縁耐力をコンデンサ1つ分の電圧にすることができるという効果を得られる。
なお,以上では,3つのアーム502とリアクトル106との直列回路がΔ結線されている場合(図5)を例として説明した。
本発明は,図7に示すように,3つのアームがY結線されている場合にも適用でき,同様の効果を得られる。
なお,図7では,アーム502u,v,wと変圧器105を直接接続している回路図を描いているが,アーム502u,v,wと変圧器105との間にリアクトルを備えていても同様の効果を得られる。
本発明の第3の実施例について説明する。
実施例1は,1つまたは複数の単位変換器を直列接続して構成したアームとリアクトルとの直列回路2つから構成されるレグを3つ並列接続し,さらに前記直列回路2つの接続点を前記レグの交流端子として変圧器を介して交流系統と連系する電力変換装置であって,前記レグの交流端子と前記変圧器との間に,各相に少なくとも1つのハーフブリッジ形単位変換器を接続した構成である。
本実施例の電力変換装置は,例えば直流送電(HVDC)システムとして交流系統に連系している。
言い換えれば,実施例3の特徴は,非特許文献1に記載されているMMCC−DSCC(double-star chopper cells)の交流出力端子と変圧器との間に,ハーフブリッジ形単位変換器を直列接続した点である。
本実施例によれば,実施例1と同様に簡便な回路構成で,前記の変圧器の過度な直流偏磁を防止できるという効果を得られる他,交直電力変換が可能となるという効果を得られる。
以下,図8を参照して,本実施例の全体構成を説明する。
電力変換装置801は,変圧器105,ハーフブリッジ形単位変換器108,レグ802u,v,wを備えている。
U相について説明すると,レグ802uは,アーム803up,2つのリアクトル803,アーム803unの直列回路であり,図8に示すように,前記2つのリアクトル803の接続点をU’点と称することにする。
変圧器105のU点とレグ802uのU’点との間にハーフブリッジ形単位変換器108を直列接続する。
同様に,レグ802vは,アーム803vp,2つのリアクトル803,アーム803vnの直列回路であり,図8に示すように,前記2つのリアクトル803の接続点をV’点と称することにする。
変圧器105のV点とレグ802vのV’点との間にハーフブリッジ形単位変換器108を直列接続する。
また,レグ802wは,アーム803wp,2つのリアクトル803,アーム803wnの直列回路であり,図8に示すように,前記2つのリアクトル803の接続点をW’点と称することにする。
変圧器105のW点とレグ802wのW’点との間にハーフブリッジ形単位変換器108を直列接続する。
また,レグ802u,v,wを,図8に示すようにP点とN点で並列接続する。
P点とN点の間には,直流装置805が接続されている。直流装置805は,例えば直流負荷,直流電源,他の交直変換装置等である。例えば,直流送電線を介して他の交直変換装置を接続すれば,電力変換装置801と直流装置805はHVDCシステムを構成する。
本明細書では特に区別する必要が無い場合,レグ802u,v,wを総称して単に「レグ802」と称することにする。同様に,アーム803up,un,vp,vn,wp,wnを総称して単に「アーム803」と称することにする。
以下,図9を参照して,双方向チョッパ形単位変換器805の内部構成について説明する。
X相上側スイッチング素子201XPとX相上側環流ダイオード202XPの逆並列回路と,X相下側スイッチング素子201XNとX相下側環流ダイオード202XNの逆並列回路は,x点で直列接続されている。
また,双方向チョッパ形単位変換器805は,エネルギー貯蔵素子としてコンデンサ203を備えている。
双方向チョッパ形単位変換器805は,前記の直列回路とコンデンサ203をp点とn点で並列接続した構成である。
n点を基準としたx点の電圧を双方向チョッパ形単位変換器805の出力電圧と称し,Vjkと表記する。
また,コンデンサ203の電圧をVCjkと表記する。
以下,スイッチング素子のオン・オフ状態と,出力電圧Vjkの関係を説明する。また,電流Ijの流れる経路についても説明する。
X相上側スイッチング素子201XPがオン,X相下側スイッチング素子201XNがオフである場合,n点を基準としたx点の電圧は,コンデンサ203の電圧VCjkと概ね等しくなる。すなわち,Vjk=VCjkである。
X相上側スイッチング素子201XPがオフ,X相下側スイッチング素子201XNがオンである場合,n点を基準としたx点の電圧は概ね零となる。すなわち,Vjk=0である。
以上より,スイッチング素子のオン・オフを制御することにより,双方向チョッパ形単位変換器805の出力電圧Vjkを制御できることが分かる。
なお,ハーフブリッジ形単位変換器108の内部構成と動作については,実施例1において説明した通りである。
以下の説明では,変圧器105のU点,V点,W点に流れる電流を図8に示す通り,Iu,Iv,Iwと称することにする。
電流Iu,Iv,Iwに直流成分が含まれている場合,変圧器105に直流偏磁が発生する。また,Iu,Iv,Iwに含まれている直流成分を減衰させることができれば,変圧器105の偏磁を防止できる。
さて,Iu,Iv,Iwはハーフブリッジ形単位変換器108を通る。すなわち,Iu,Iv,Iwは,ハーフブリッジ形単位変換器108の内部のコンデンサ203Pまたは203Nのいずれかを必ず通る。
言い換えれば,変圧器105を流れる電流Iu,Iv,Iwは,ハーフブリッジ形単位変換器108を必ず通る。
したがって,実施例1において,図10〜12を用いて説明した原理と同様の原理によって,Iu,Iv,Iwに含まれる直流成分を減衰させることができる。
すなわち,ハーフブリッジ形単位変換器108をU点-U’点,V点-V’点,W点-W’点の間に直列接続することによって,変圧器105の直流偏磁を防止できるという効果を得られる。
なお,図8において,U,V,W各相のハーフブリッジ形単位変換器108の直列接続の個数を1つとして描いているが,複数個を直列接続しても同様の効果を得られる。
また,図8において,U,V,W各相のハーフブリッジ形単位変換器108に代えて,ダブルハーフブリッジ形単位変換器(図6)を用いても,同様の効果を得られる。
本発明の第4の実施例について説明する。
実施例1では,図10〜13に示す概略波形を参照して,ハーフブリッジ形単位変換器のコンデンサの充放電の働きによって,変圧器の巻線を流れる直流電流を減衰できる原理を説明した。
本実施例ではこれに加えて,ハーフブリッジ形単位変換器の2つのコンデンサの電圧を計測し,これをバランスするように制御する手段を追加したことに特長がある。
これによって,変圧器の巻線を流れる電流の直流成分を直接センシングすることなく,かつ,積極的に直流電流を減衰できるという効果を得られる。
以下,実施例1で説明した図1の電力変換装置104に,ハーフブリッジ形単位変換器108の2つのコンデンサ203P,Nのバランス制御を追加した本実施例の中央制御手段110の構成を述べる。
以下,図13を参照して,本実施例における中央制御手段110の内部構成と動作を説明する。
図13に,図1に中央制御手段110の内部構成の一例を示す。以下,後述する図14との区別のために,図13を「中央制御手段110a」と称することにする。
図13は,ハーフブリッジ形単位変換器108が備えている2つのコンデンサ203P,Nの電圧に基づいて,各アーム107uv,vw,wuの電圧指令値を補正する機能を有する。
中央制御手段110aは,全コンデンサ電圧制御手段1301,電力制御手段1302,電流制御手段1303,コンデンサ電圧バランス制御手段1304,ゲートパルス生成手段1305とから構成されている。
本発明の特徴は,中央制御手段110aが,コンデンサ電圧バランス制御手段1304を備えている点である。
以下,各部の機能を説明する。
全コンデンサ電圧制御手段1301は,各単位変換器108,109のコンデンサ電圧VCjkの平均値あるいは合計値VCをその指令値VC*に極力一致させるため,例えば有効電力指令値P*を生成する。
また,中央制御手段110aは無効電力指令値Q*を図示されていない外部の制御システムから受信する。あるいは,中央制御手段110aの内部でQ*を生成しても,本実施例の効果を得られる。
電力制御手段1302は,P*とQ*とを実現するため,例えばアーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*を生成する。
電流制御手段1303は,例えばアーム電流Iuv,Ivw,Iwuの計測値,連系点の線間電圧VRab,VRbc,VRcaと,アーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*から,アーム電圧指令値Vuv*,Vvw*,Vwu*を生成する。
以下,本発明の特徴である,コンデンサ電圧バランス制御手段1304について説明する。ただし,以下では,各アーム107がハーフブリッジ形単位変換器108を1つだけ備えており,その番号が1(すなわち,k=1)の場合を例にして説明する。
アーム107uvに含まれるハーフブリッジ形単位変換器108ついて,上側コンデンサ203Pの電圧VCPuv1と,下側コンデンサ203Nの電圧VCNuv1の差を減算器1305によって求める。
同様に,アーム107vwに含まれるハーフブリッジ形単位変換器108ついて,上側コンデンサ203Pの電圧VCPvw1と,下側コンデンサ203Nの電圧VCNvw1の差を減算器1305によって求める。
また,アーム107wuに含まれるハーフブリッジ形単位変換器108ついて,上側コンデンサ203Pの電圧VCPwu1と,下側コンデンサ203Nの電圧VCNwu1の差を減算器1305によって求める。
以上で求めた3つの差,すなわち補正電圧VDCCuv,VDCCvw,VDCCwuにそれぞれゲイン1306を乗算し,加算器1307によって,その結果をそれぞれアーム電圧指令値Vuv*,Vvw*,Vwu*に加算し,Vuv’*,Vvw’*,Vwu’*を演算する。
なお,図13では,ゲイン1306として比例ゲインKDCCbを描いているが,ゲイン1306としては,比例(P)ゲインだけでなく,比例・積分(PI)ゲイン,比例・積分・微分(PID)ゲインやその組み合わせであっても,本発明の効果を得られる。
ゲートパルス生成手段は,例えばVuv’*,Vvw’*,Vwu’*と,各コンデンサの電圧VCjkから,各単位変換器108,109へのゲートパルスguvk,gvwk,gwukを演算する。
中央制御手段110は,演算したゲートパルスguvk,gvwk,gwukを,図1に示した送信用通信路111を介して,各単位変換器108,109の単位変換器制御手段204,301に送信する。
本実施例では,図13に示したコンデンサ電圧バランス制御手段1304の働きにより,アーム電圧指令値に補正電圧VDCCuv,VDCCvw,VDCCwuが重畳される。この補正電圧とアーム電流の直流成分とが形成する有効電力によって,ハーフブリッジ形単位変換器108の内部の2つのコンデンサ203P,Nの電圧バランスが保持されるように制御できる。
一方で,2つのコンデンサ203P,Nの電圧バランスを保持できれば,結果として,アーム電流Iuv,Iwu,Iwuに含有される直流成分を概ね零にできる。すなわち,変圧器105の偏磁を防止できるという効果を得られる。
この理由は,Iuv,Iwu,Iwuに含有される直流成分が零出ない場合,ハーフブリッジ形単位変換器108の内部の2つのコンデンサ203P,Nの電圧バランスが崩れるためである。言い換えれば,2つのコンデンサ203P,Nの電圧バランスを保持することと,アーム電流Iuv,Ivw,Iwuの直流成分を零にすることは,概ね等価である。
以上で,図13に示す中央制御手段110aの内部構成と動作を説明した。
以下,図14を参照して,コンデンサ電圧バランス制御のもう1つの例について説明する。ただし,図13との相違点についてのみ説明する。
図14は,ハーフブリッジ形単位変換器108が備えている2つのコンデンサ203P,Nの電圧に基づいて,各アーム107uv,vw,wuの電流検出値を補正する機能を有する。
図14の中央制御手段110bにおいては,コンデンサ電圧バランス制御手段1401は,図13とは異なり,補正電流検出値IDCCuv,IDCCvw,IDCCwuを演算する。
得られたIDCCuv,IDCCvw,IDCCwuは,加算器1307によって,アーム電流検出値Iuv,Ivw,Iwuにそれぞれ加算され,Iuv’,Ivw’,Iwu’を得る。
得られたIuv’,Ivw’,Iwu’は,電流制御手段1303に入力される。図13と同様に,電流制御手段1303は補正されたアーム電流検出値Iuv’,Ivw’,Iwu’がそれぞれ指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*に一致するように制御する。
以上のように,コンデンサ電圧バランス制御手段1401の出力信号を,アーム電流検出値の補正値とすることによっても,ハーフブリッジ形単位変換器108の内部の2つのコンデンサ203P,Nの電圧バランスを保持することができ,結果として,アーム電流Iuv,Iwu,Iwuに含有される直流成分を概ね零にできる。すなわち,変圧器105の偏磁を防止できるという効果を得られる。
また,図15に示す中央制御手段110cのように,アーム電流検出値Iuv,Ivw,IwuにIDCCuv,IDCCvw,IDCCwuをそれぞれ加算する場合代えて,アーム電流指令値Iuv*,Ivw*,Iwu*からIDCCuv,IDCCvw,IDCCwuをそれぞれ減算する場合にも,同様の効果を得られる。
言い換えれば,図15は,ハーフブリッジ形単位変換器108が備えている2つのコンデンサ203P,Nの電圧に基づいて,各アーム107uv,vw,wuの電流指令値を補正する機能を有する。
この他,数学的に等価であれば,同様の効果を得られる。
以上で説明した図13,図14,図15は,図1の中央制御手段110,図4の中央制御手段402,図5の中央制御手段504,図7の中央制御手段702,図8の中央制御手段807にも適用でき,以上で説明した通り,いずれの場合においても,変圧器105の偏磁を防止できるという効果を得られる。