JP2015134945A - 浸炭用鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】 950℃以上の高温浸炭処理時に結晶粒の粗大化が防止できる被削性に優れたB添加型の浸炭用鋼を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.10〜0.18%、Si:0.10〜0.80%、Mn:0.10〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.90〜2.50%、Al:0.010〜0.050%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.010%以下を含有し、さらにTi:0.01〜0.08%、Nb:0.01〜0.08%の1種又は2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる浸炭用鋼で、0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C]≦0.10を満足し、球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃まで加熱し、該温度で1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満の耐結晶粒粗大化特性に優れた浸炭用鋼。
【選択図】 なし
【解決手段】 質量%で、C:0.10〜0.18%、Si:0.10〜0.80%、Mn:0.10〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.90〜2.50%、Al:0.010〜0.050%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.010%以下を含有し、さらにTi:0.01〜0.08%、Nb:0.01〜0.08%の1種又は2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる浸炭用鋼で、0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C]≦0.10を満足し、球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃まで加熱し、該温度で1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満の耐結晶粒粗大化特性に優れた浸炭用鋼。
【選択図】 なし
Description
本願の発明は、冷間鍛造し、浸炭焼入れする浸炭用鋼に関し、特に950℃以上の高温の浸炭処理時に安定して結晶粒の粗大化を防止できるB添加型の浸炭用鋼に関する。
冷間鍛造やその他の冷間加工といった冷間工法は機械構造用部品の製造コストダウンに対して有利な工法である。しかし、冷間加工後に直接的に浸炭処理を施して部品を製造する場合、冷間加工により浸炭初期に微細なオーステナイト粒が形成される影響により、浸炭時にかえって結晶粒が粗大化しやすいという問題を有する。結晶粒が粗大化すると部品強度が低下する場合があるので、結晶粒粗大化の抑制が不可欠である。この課題があるために、冷間工法のコストメリットを十分に活かすことができていないのが現状である。部品を冷間加工した後に浸炭温度まで加熱する過程で、冷間加工時のひずみの影響により、いったんフェライトが微細に再結晶する段階を経てからオーステナイトに変態することが浸炭初期の微細なオーステナイト粒形成を促している。
そこで、従来技術として冷間加工後に熱処理を行い、前述のフェライトが再結晶する段階における、フェライト再結晶の駆動力となるひずみエネルギーを予め解放させることを通じて、浸炭時の結晶粒粗大化を抑制する方法がある(例えば、非特許文献1参照。)。また、冷間鍛造後にいったん焼ならしや高温焼なましを施すことも結晶粒粗大化抑制に有効である。しかし、これらの方法により新たな工程が追加されるため、部品コストダウンの観点からは利用しにくい。
ところで、化学成分の限定、球状化焼なまし後のラメラーパーライト面積率の制限、球状化焼なまし条件の限定を加えることにより、冷間鍛造もしくは冷間加工を行い、さらに必要に応じた切削加工を行って、所定の形状に加工してから浸炭処理を行った場合、結晶粒粗大化を起こしにくい機械構造用鋼、およびその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
さらに、鋼中に第2相を微細に析出させることで結晶粒の粗大化防止を目指した技術が数多く開発されており、多数の提案がある(例えば、特許文献2〜14参照。)。ただし、本願のような省合金化や高強度化に有益なBを添加した浸炭用鋼においては、その効果を発揮するためにBを固溶Bの状態で鋼中に存在させることが重要であり、そのためにはBと化合物を形成してしまうNの添加量を低く抑える必要があるため、一般的なAlキルド鋼において結晶粒界ピン止めに効果を発揮するAlN(Al窒化物)が利用できないという特徴がある。したがって、上記提案のような方法のみでは、冷間鍛造もしくは他の手段による冷間加工をした後に高温での直接浸炭を行った場合、浸炭後に整細粒を安定的に維持することは困難であり、さらなる条件の限定が必要と考えられた。そこで、B添加型の浸炭用鋼における結晶粒界ピン止めのためにTi炭化物やTiNb炭化物を利用することを案出したが、一方でそれらは鋼材の被削性を低下させる場合もあるため、耐結晶粒粗大化特性と被削性を高度に両立させる条件を検討する必要があった。
K.C.Evanson,G.Krauss and D.K.Matlock:Grain Growth in Policrystallin Materials III,ed.by H. Weiland,B.L.Adams and A.D.Rollet,TMS,Warrendale,PA(1993),599.
本発明が解決しようとする課題は、冷間鍛造した後、焼ならしや高温焼なましを施すことなく、浸炭焼入れする浸炭用鋼であり、950℃以上の高温浸炭処理時に安定して結晶粒の粗大化を防止でき、なおかつ被削性に優れたB添加型の浸炭用鋼を提供することである。
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.10〜0.18%、Si:0.10〜0.80%、Mn:0.10〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.90〜2.50%、Al:0.010〜0.050%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.010%以下を含有し、さらにTi:0.01〜0.08%、Nb:0.01〜0.08%のうち1種又は2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる浸炭用鋼であり、下記(1)式を満足し、なおかつ、球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後に、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃の温度まで加熱し、その温度にて1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満であることを特徴とする耐結晶粒粗大化特性と被削性に優れた浸炭用鋼である。なお、ここでいうAc3点とは鋼材を300℃/Hrで昇温したときに鋼材のオーステナイト化が完了する温度のことである。
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C] ≦0.10・・・(1)
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C] ≦0.10・・・(1)
第2の手段では、第1の手段の化学成分に加え、さらにNi:2.0%以下、Mo:1.0%以下の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる浸炭用鋼であり、下記(1)式を満足し、なおかつ、球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後に、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃の温度まで加熱し、その温度にて1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満であることを特徴とする耐結晶粒粗大化特性と被削性に優れた浸炭用鋼である。
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C] ≦0.10・・・(1)
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C] ≦0.10・・・(1)
本発明は、上記の手段としたことにより、被削性を劣化させることなく、950℃以上の高温の浸炭処理時においても結晶粒の粗大化の防止が安定して図られたB添加型の浸炭用鋼が得られる。
本発明を実施するための形態について説明するにあたり、まず、上記の各請求項の手段における鋼の化学成分の限定理由について説明する。なお、化学成分における各元素の%は質量%で示す。
C:0.10〜0.18%、望ましくは0.10〜0.16%、さらに望ましくは0.12〜0.16%
Cは、機械構造用部品として鋼材の焼入焼戻し後の強度もしくは浸炭焼入焼戻し後の芯部強度を確保するために必要な元素である。Cは0.10%未満では強度を確保できず、0.18%を超えると素材の硬度が上昇して加工性が低下するだけでなく、浸炭時のオーステナイト粒が小さくなり、結晶粒の粗大化が発生し易くなる。そこで、Cは0.10〜0.18%とし、望ましくは、0.10〜0.16%とする。さらに望ましくは0.12〜0.16%とする。
Cは、機械構造用部品として鋼材の焼入焼戻し後の強度もしくは浸炭焼入焼戻し後の芯部強度を確保するために必要な元素である。Cは0.10%未満では強度を確保できず、0.18%を超えると素材の硬度が上昇して加工性が低下するだけでなく、浸炭時のオーステナイト粒が小さくなり、結晶粒の粗大化が発生し易くなる。そこで、Cは0.10〜0.18%とし、望ましくは、0.10〜0.16%とする。さらに望ましくは0.12〜0.16%とする。
Si:0.10〜0.80%、望ましくは0.20〜0.60%
Siは、脱酸に必要な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入性を付与し、また一定量以上の添加で浸炭異常層深さを浅くする効果がある。Siは、その効果を得るために、0.10%以上の添加が必要である。一方、Siは0.80%を超えると素材の硬度を高めるため、加工性を低下させる。そこで、Siは0.10〜0.80%とし、望ましくは0.20〜0.60%とする。
Siは、脱酸に必要な元素であるとともに、鋼に必要な強度、焼入性を付与し、また一定量以上の添加で浸炭異常層深さを浅くする効果がある。Siは、その効果を得るために、0.10%以上の添加が必要である。一方、Siは0.80%を超えると素材の硬度を高めるため、加工性を低下させる。そこで、Siは0.10〜0.80%とし、望ましくは0.20〜0.60%とする。
Mn:0.10〜0.90%、望ましくは0.20〜0.50%
Mnは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Mnが0.10%未満では焼入性への効果は十分に得られない。一方、Mnは0.90%を超えると機械加工性を低下させると同時に、浸炭時の結晶粒の粗大化が発生し易くなる。そこで、Mnは0.10〜0.90%とし、望ましくは0.20〜0.50%とする。
Mnは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Mnが0.10%未満では焼入性への効果は十分に得られない。一方、Mnは0.90%を超えると機械加工性を低下させると同時に、浸炭時の結晶粒の粗大化が発生し易くなる。そこで、Mnは0.10〜0.90%とし、望ましくは0.20〜0.50%とする。
P:0.030%以下
Pは、スクラップから含有される不可避な元素であるが、粒界に偏析して衝撃強度や曲げ強度などの特性を低下させる。そこで、Pは0.030%以下とする。
Pは、スクラップから含有される不可避な元素であるが、粒界に偏析して衝撃強度や曲げ強度などの特性を低下させる。そこで、Pは0.030%以下とする。
S:0.030%以下、望ましくは0.020%以下
Sは、被削性を向上させる元素であるが、非金属介在物であるMnSを生成して横方向の靱性および疲労強度を低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。さらに強度が重視される場合には0.020%以下とする。
Sは、被削性を向上させる元素であるが、非金属介在物であるMnSを生成して横方向の靱性および疲労強度を低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。さらに強度が重視される場合には0.020%以下とする。
Ni:≦2.00%、望ましくは1.80%以下
Niは、鋼の焼入性および靭性の向上に有効な元素である。しかし、Niが2.0%を超えると、素材の硬度が上昇し過ぎて加工性を低下させ、かつ、鋼材のコストが上昇する。
そこで、Niは2.00%以下とする。望ましくは1.80%以下とする。
Niは、鋼の焼入性および靭性の向上に有効な元素である。しかし、Niが2.0%を超えると、素材の硬度が上昇し過ぎて加工性を低下させ、かつ、鋼材のコストが上昇する。
そこで、Niは2.00%以下とする。望ましくは1.80%以下とする。
Cr:0.90〜2.50%、望ましくは1.35〜2.10%、さらに望ましくは1.50〜2.10%
Crは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Crが0.90%未満ではこれらの効果を十分に得られない。一方、Crは2.50%を超えると浸炭を阻害し、また素材硬度を上昇させて機械加工性を低下させる。そこで、Crは0.90〜2.50%とし、望ましくは1.35〜2.10%とする。さらに望ましくは1.50〜2.10%とする。
Crは、焼入性を確保するために必要な元素である。しかし、Crが0.90%未満ではこれらの効果を十分に得られない。一方、Crは2.50%を超えると浸炭を阻害し、また素材硬度を上昇させて機械加工性を低下させる。そこで、Crは0.90〜2.50%とし、望ましくは1.35〜2.10%とする。さらに望ましくは1.50〜2.10%とする。
Mo:≦1.00%、望ましくは0.35%以下
Moは、鋼の焼入性、靭性および焼戻し軟化抵抗特性の向上に必要な元素である。しかし、Moが1.00%より多すぎると加工性を低下させ、かつ、鋼材コストが上昇する。そこで、Moは1.00%以下とする。望ましくは0.35%以下とする。
Moは、鋼の焼入性、靭性および焼戻し軟化抵抗特性の向上に必要な元素である。しかし、Moが1.00%より多すぎると加工性を低下させ、かつ、鋼材コストが上昇する。そこで、Moは1.00%以下とする。望ましくは0.35%以下とする。
Al:0.010〜0.050%
Alは、脱酸材として使用される元素である。この効果を得るため、Alは0.010%以上の添加が必要である。一方、Alは0.050%を超えて添加されると大型のアルミナ系介在物を形成し、疲労特性および加工性を低下する。そこで、Alは0.010〜0.050%とする。
Alは、脱酸材として使用される元素である。この効果を得るため、Alは0.010%以上の添加が必要である。一方、Alは0.050%を超えて添加されると大型のアルミナ系介在物を形成し、疲労特性および加工性を低下する。そこで、Alは0.010〜0.050%とする。
Ti:0.01〜0.08%、望ましくは0.02〜0.08%
Tiは、ナノオーダーサイズのTi炭化物やNbTi炭化物を形成し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらす。さらに、TiはNと結合することにより、BがNと結合してBNとなることを防ぐ。その効果を得る場合には、Tiは0.01%以上添加される必要がある。一方、Tiは0.08%を超えて添加されると被削性を損なう。そこで、Tiは0.01〜0.08%とする。望ましくは0.02〜0.08%とする。
Tiは、ナノオーダーサイズのTi炭化物やNbTi炭化物を形成し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらす。さらに、TiはNと結合することにより、BがNと結合してBNとなることを防ぐ。その効果を得る場合には、Tiは0.01%以上添加される必要がある。一方、Tiは0.08%を超えて添加されると被削性を損なう。そこで、Tiは0.01〜0.08%とする。望ましくは0.02〜0.08%とする。
Nb:0.01〜0.08%、望ましくは0.03〜0.08%
Nbは、ナノオーダーサイズのNb炭化物やNbTi炭化物を形成し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらす。しかし、Nbは0.01%未満では、その効果は得られない。一方、Nbは0.08%を超えると結晶粒粗大化防止効果が飽和するのみならず、析出物の量が過剰となり被削性を低下させる。そこで、Nbは0.01〜0.08%とする。望ましくは0.03〜0.08%とする。
Nbは、ナノオーダーサイズのNb炭化物やNbTi炭化物を形成し、結晶粒粗大化を防止する効果をもたらす。しかし、Nbは0.01%未満では、その効果は得られない。一方、Nbは0.08%を超えると結晶粒粗大化防止効果が飽和するのみならず、析出物の量が過剰となり被削性を低下させる。そこで、Nbは0.01〜0.08%とする。望ましくは0.03〜0.08%とする。
B:0.0005〜0.0050%
Bは、極く少量固溶させることで鋼の焼入性や結晶粒界強度を著しく向上させる元素であり、さらには添加することによって他の合金元素の添加量を減らすことができるため、鋼材コストを下げるのに有効な元素であり、必須の添加とする。しかし、Bは0.0005%未満では焼入性の向上効果が小さい。一方、Bは0.0050%を超えるとかえって強度を低下させる。そこで、Bは0.0005〜0.0050%とする。
Bは、極く少量固溶させることで鋼の焼入性や結晶粒界強度を著しく向上させる元素であり、さらには添加することによって他の合金元素の添加量を減らすことができるため、鋼材コストを下げるのに有効な元素であり、必須の添加とする。しかし、Bは0.0005%未満では焼入性の向上効果が小さい。一方、Bは0.0050%を超えるとかえって強度を低下させる。そこで、Bは0.0005〜0.0050%とする。
N:0.010%以下
Nは、BNの生成を抑制してBの強度および焼入性の向上効果を確保するためにその量を低減する必要があり、この効果はNが0.010%以下にすることで得られる。そこで、Nは0.010%以下とする。
Nは、BNの生成を抑制してBの強度および焼入性の向上効果を確保するためにその量を低減する必要があり、この効果はNが0.010%以下にすることで得られる。そこで、Nは0.010%以下とする。
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C] ≦0.10・・・(1)とする理由
冷鍛後の浸炭処理時において結晶粒の粗大化を防止するには、TiとNbの含有量を必要量確保するのみならず、併せてC含有量を少なくすることが有効である。TiとNb含有量を多くすることで結晶粒界の移動を抑制するピンニング粒子として寄与する炭化物をより多く分散させることができる。ただし、分散量が多すぎると、被削性の低下を招く。一方、C含有量を少なくすることで、浸炭時のオーステナイト粒は大きくなり、そのため、オーステナイトの粒成長駆動力は小さくなる。したがって、C含有量を少なくすることは結晶粒粗大化を防止するために有利である。また、(1)式に従ったC含有量の制限は同時に被削性の改善にも有効に寄与する。したがって、[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C]で表すパラメーターの値を0.03以上、0.10以下に制御しておくことで、被削性を確保するとともに、結晶粒度特性の向上が可能である。なお、このパラメーターの値が0.03未満であると、優れた結晶粒度特性が得られず、0.10超ではその効果が飽和するのと同時に被削性は低下してしまう。そこで、該パラメーターの値を0.03以上、0.10以下とし、望ましくは0.04以上、0.10以下とする。さらに望ましくは該パラメーターの値を0.04以上、0.08以下とする。
冷鍛後の浸炭処理時において結晶粒の粗大化を防止するには、TiとNbの含有量を必要量確保するのみならず、併せてC含有量を少なくすることが有効である。TiとNb含有量を多くすることで結晶粒界の移動を抑制するピンニング粒子として寄与する炭化物をより多く分散させることができる。ただし、分散量が多すぎると、被削性の低下を招く。一方、C含有量を少なくすることで、浸炭時のオーステナイト粒は大きくなり、そのため、オーステナイトの粒成長駆動力は小さくなる。したがって、C含有量を少なくすることは結晶粒粗大化を防止するために有利である。また、(1)式に従ったC含有量の制限は同時に被削性の改善にも有効に寄与する。したがって、[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C]で表すパラメーターの値を0.03以上、0.10以下に制御しておくことで、被削性を確保するとともに、結晶粒度特性の向上が可能である。なお、このパラメーターの値が0.03未満であると、優れた結晶粒度特性が得られず、0.10超ではその効果が飽和するのと同時に被削性は低下してしまう。そこで、該パラメーターの値を0.03以上、0.10以下とし、望ましくは0.04以上、0.10以下とする。さらに望ましくは該パラメーターの値を0.04以上、0.08以下とする。
球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後に、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃の温度まで加熱し、その温度にて1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満とする理由
上記(1)式を満たした上で、この条件にて加熱を行った場合のオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満とすることにより、結晶粒成長のための駆動力となる粒界エネルギーを低く抑えることができるため、浸炭処理を行った際の結晶粒粗大化を防止することができる。なお、本発明鋼において結晶粒粗大化を防止できる温度は低くとも950℃である。
上記(1)式を満たした上で、この条件にて加熱を行った場合のオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満とすることにより、結晶粒成長のための駆動力となる粒界エネルギーを低く抑えることができるため、浸炭処理を行った際の結晶粒粗大化を防止することができる。なお、本発明鋼において結晶粒粗大化を防止できる温度は低くとも950℃である。
表1に示す鋼種A〜鋼種Jの10種の比較鋼(鋼種AはJIS−SCR420、鋼種BはJIS−SCM420)および鋼種K〜鋼種Sの9種の発明鋼のそれぞれの化学成分を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を100kg真空溶解炉で溶製した。鋼の凝固の過程において生成した炭化物や窒化物を鋼のマトリックス中に十分に固溶させるために、得られた鋼を、1300℃に加熱して10.8ks保持した後、直径40mmの棒鋼と直径60mmの棒鋼にそれぞれ鍛伸した。次に、これらの棒鋼を加熱して980℃に加熱して3.6ks保持した後に空冷して焼ならしを施し、さらに最高温度が770℃の球状化焼なまし処理を施した。
次に、上記の球状化焼なまし処理を施した直径40mmの棒鋼における中心から直径の4分の1だけ離れた箇所付近から、切削加工によって直径14mmで長さ21mmの円柱型試験片を作製した。この場合、試験片の長さ方向は母材の鍛伸方向と一致させた。万能試験機を用いて試験片に高さ比で70%の冷間据え込み加工を施した。なお、本発明において冷間加工率は特に70%に限定されるものではない。
次に、浸炭時の結晶粒粗大化温度を確認するために擬似浸炭試験を行った。この試験は浸炭処理の加熱パターンのみを模擬した熱履歴を試験片に付与することで、実際の浸炭処理を行わなくとも結晶粒度特性を評価することができる慣例的な試験である。表1に示す鋼種K〜鋼種Sの9種の発明鋼と、請求項から外れる鋼種A〜鋼種Jの10種の比較鋼のそれぞれを、冷間据え込み加工して試験片に形成し、この試験片を2分割し、その1片を300℃/Hrで1000℃に昇温して、925℃、950℃、975℃、1000℃の各温度で10.8ks保持した後、それらの保持温度からそれぞれ水冷して、疑似浸炭処理を行った。さらに、擬似浸炭初期のオーステナイト粒径を観察するために、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃に昇温して、1.8ks保持した後に水冷する試料も準備した。この疑似浸炭処理後に、試験片の断面を鏡面研磨し、これを飽和ピクリン酸溶液で腐食して、旧オーステナイト粒界を現出させて粗大粒の有無を判定した。なお、断面内に粒度No.5未満の粒が1個でもあれば粗大粒有と判定した。擬似浸炭初期のオーステナイト粒径を観察するための試料では、旧オーステナイト粒の粒度No.を測定した。その結果を表2に示す。
さらに、上記の球状化焼なまし処理を施した直径60mmの棒鋼を用いて、旋削試験を実施した。試験において、工具としてJIS規格のP20で刃先のRが0.4mmである超硬製のチップを使用し、切削油は使わず、周速が150m/min、送り速度が0.25mm/rev、切込み量が0.5mmの条件で試験材の切削を行い、10min旋削加工後の超硬チップの逃げ面摩耗量を評価した。その結果を表2に示す。
表1および表2において、鋼種AはJIS−SCR420であり、鋼種BはJIS−SCM420である。これらは、925℃の擬似浸炭にて結晶粒が粗大化している。また、鋼種C〜鋼種Jは、C量、Ti量、Nb量、A値([Ti]+1.39[Nb]−0.4[C])、擬似浸炭初期のオーステナイト粒径のいずれか一つもしくは一つ以上が請求項を満足しないものである。このうち、C量が本願請求の成分範囲を満足し、かつA値が請求項の上限値を超える比較例の鋼種E、鋼種Gは、950℃の擬似浸炭にて結晶粒の粗大化はないが、これらの鋼種を除いたC量が本願請求の成分範囲を満たさない、および/またはA値が請求項の下限値を下回る比較鋼は、925℃あるいは950℃の擬似浸炭において結晶粒が粗大化している。他方で、A値が請求項の上限値を超える鋼種E、鋼種G、鋼種Iの旋削試験でのチップ摩耗量は、JIS−SCR420などのその他鋼種と比較しても大きくなっており、旋削加工性に劣る。
発明鋼である鋼種K〜鋼種Sは、いずれも擬似浸炭での結晶粒粗大化温度が低くとも975℃以上であり結晶粒度特性に優れる。特に、鋼種K、鋼種O、鋼種P、鋼種Q、鋼種Sでは1000℃の擬似浸炭でも結晶粒が粗大化していない。鋼種Oは、比較鋼である鋼種Jと比較すると、ほぼC量が異なるだけであるが、C量が低いことにより擬似浸炭初期の初期オーステナイト粒径が大きくなることを通じて、結晶粒の粗大化温度が大きく向上している。他方、鋼種K〜鋼種Sの旋削試験における超硬チップの摩耗量は、JIS−SCR420やJIS−SCM420などの一般鋼である鋼種Aあるいは鋼種Bと比較しても、ほぼ同等であり、旋削加工性は良好である。
以上のように、本発明の実施例の各発明鋼は、被削性を劣化させることなく、950℃以上の高温の浸炭処理時においても安定して結晶粒の粗大化を防止できる浸炭用鋼であることが確認されている。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.10〜0.18%、Si:0.10〜0.80%、Mn:0.10〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.90〜2.50%、Al:0.010〜0.050%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.010%以下を含有し、さらにTi:0.01〜0.08%、Nb:0.01〜0.08%のうち1種又は2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる浸炭用鋼であり、下記(1)式を満足し、なおかつ、球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後に、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃の温度まで加熱し、その温度にて1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満であることを特徴とする耐結晶粒粗大化特性に優れた浸炭用鋼。
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C]≦0.10・・・(1) - 請求項1の化学成分に加え、さらに質量%で、Ni:2.00%以下、Mo:1.00%以下の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる浸炭用鋼であり、下記(1)式を満足し、なおかつ、球状化焼なまし後に70%の冷間据込みを行った後に、300℃/Hrの昇温速度でAc3点+20℃の温度まで加熱し、その温度にて1.8ks保持したときのオーステナイト粒径が粒度No.10.5未満であることを特徴とする耐結晶粒粗大化特性に優れた浸炭用鋼。
0.03≦[Ti]+1.39[Nb]−0.4[C]≦0.10 ・・・(1)
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