以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.一般的な亀裂進行解析技術に対する検討
1−1.一般的な亀裂進行解析方法における処理手順
2.第1の実施形態
2−1.第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順
2−2.亀裂前縁候補の抽出処理
2−2−1.亀裂前縁の連続性についての条件
2−2−2.亀裂の進行前後における連続性についての条件
2−3.計算負荷の比較
2−3−1.一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷
2−3−2.第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷
3.第2の実施形態
3−1.第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順
3−2.亀裂前縁候補の抽出処理
3−2−1.表面における亀裂の進行を解析する方法
3−2−2.3−2−2.表面層における亀裂の進行を解析する方法
3−3.計算負荷の比較
3−3−1.一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷
3−3−2.第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷
4.装置の構成
5.変形例
5−1.異方性を考慮した亀裂進行解析
5−2.異種材料間の界面を考慮した亀裂進行解析
5−3.メッシュ形状が異なる変形例
5−4.材料の内部応力を考慮した亀裂進行解析
5−5.3次元の靱性の異方性を考慮した2次元の亀裂進行解析
5−6.外力因子条件が変化する際における亀裂進行解析
6.ハードウェア構成
7.補足
(1.一般的な亀裂進行解析技術に対する検討)
まず、本開示の好適な実施形態について説明するに先立ち、本開示をより明確なものとするために、一般的に行われている既存の亀裂進行解析技術について説明する。一般的な亀裂進行解析技術としては、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて、亀裂の進行方向において亀裂の前縁と隣接する各ノードの弾性エネルギー解放率を算出する手法が知られている。
(1−1.一般的な亀裂進行解析方法における処理手順)
図1A、図1B及び図2A−図2Cを参照して、一般的な亀裂進行解析方法(情報処理方法)における処理手順について説明する。図1A及び図1Bは、一般的な亀裂進行解析方法の処理手順を示すフロー図である。また、図2A−図2Cは、一般的な亀裂進行解析方法における、FEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算について説明するための説明図である。なお、図1A及び図1Bに示す各ステップにおける処理は、例えばPC(Personal Computer)やワークステーション(WS:Work Station)等の各種の情報処理装置のプロセッサが、所定のプログラムに従って動作することにより実行され得る。
図1A及び図1Bを参照すると、一般的な亀裂進行解析方法においては、まず、解析対象の構造体を表す形状モデルが作成される(ステップS601)。当該形状モデルは、例えば3次元形状を有し、互いに異なる複数の材料が組み合わされて構成されてもよい。ステップS601に示す処理では、FEMにおいて形状モデルを作成する際の一般的な手法が用いられてよいため、その詳細な説明は省略する。
次いで、ステップS601で作成した形状モデルに対して、構造体の材料に応じた各種の物性値が設定される(ステップS603)。設定される物性値は、一般的なFEM計算において用いられる各種の物性値であってよく、例えば、当該材料の弾性率や靱性値(後述する単位面積当たりの靱性値を含む。)等の値が含まれる。また、構造体が異種材料によって構成される場合であれば、当該異種材料間の界面における密着力が設定されてもよい。
次いで、ステップS601で作成された形状モデルに対して、初期亀裂前縁が設定される(ステップS605)。亀裂前縁とは、亀裂の進行方向における縁部である。設定された初期亀裂前縁の位置に基づいて1ステップ後の亀裂前縁の位置が計算されることにより亀裂の進行が解析される。このように、亀裂の進行解析では、初期亀裂前縁からの亀裂の進行が解析される。
次いで、亀裂の進行解析における各種の計算条件が設定される(ステップS607)。例えば、ステップS607に示す処理では、ステップS605で設定された初期亀裂前縁を考慮して、形状モデルに対してメッシュが形成される。具体的には、少なくとも初期亀裂前縁がメッシュ間の境界となるように、形状モデルが複数のメッシュに分割される。当該メッシュは、数値計算において計算対象の単位となる計算格子であり、FEMにおけるエレメント(要素)に対応している。メッシュの形成は、一般的にFEMにおいて用いられる各種の手法によって行われてよい。また、メッシュの形成と同時に、メッシュ間の境界上であって初期亀裂前縁と隣接する点には、計算を行う際に用いられる仮想的なノード(節点)が設定される。
また、ステップS607における処理では、構造体(形状モデル)に加えられる外力を表す条件である、外力因子条件が設定されてもよい。当該外力因子条件に基づいて所定の外力が加えられた形状モデルに対して、後述するステップS611に示す処理においてFEMを用いた応力解析が行われることとなる。
また、ステップS607における処理では、後述するステップS611、S613に示す処理において計算されるエネルギー解放率及び靱性エネルギーの演算式や、ステップS615に示す処理において計算される亀裂進行評価関数の定義式、亀裂進行評価関数と比較されるしきい値D等が設定されてもよい。
図2Aに、メッシュの形成処理が終了した段階での形状モデル70を模式的に示す。図2Aに示す例では、形状モデル70が複数の立方体のメッシュ710に分割されている。また、形状モデル70は、初期亀裂前縁720(図中に破線で示す。)がメッシュ710間の境界に位置するように分割されている。更に、形状モデル70においては、メッシュ710間の境界上であって初期亀裂前縁720と隣接する点に、ノードA、B、Cが設定されている。
なお、以下の説明では、図2Aに示すように、形状モデルにおいて亀裂が進行する方向をz軸方向と呼称する。z軸の正方向が亀裂の進行方向である。また、z軸と垂直な平面内において互いに直交する2方向を、それぞれ、x軸方向及びy軸方向と呼称する。形状モデルを分割するメッシュが立方体や直方体である場合には、当該メッシュを構成する直交する2辺と平行な方向に、x軸方向及びy軸方向を取ることとする。
上述したように、亀裂は初期亀裂前縁720から進行する。従って、図2Aに示す形状モデル70であれば、ノードA、B、Cのうちの少なくともいずれかの部位でメッシュ710同士がy軸方向に分離されることにより、初期亀裂前縁720からの亀裂の進行が表現され得る。よって、ノードA、B、Cのそれぞれについて、メッシュ710同士の分離のしやすさを評価することにより、1ステップ後の亀裂前縁を推定することが可能となる。なお、図2A−図2Cでは、亀裂が進行する際にメッシュ710同士を分離させる方向に加わる力が模式的に矢印で図示されている。
図1A及び図1Bに戻り、一般的な亀裂進行解析方法における、メッシュ710同士の分離のしやすさの評価について詳細に説明する。当該評価においては、まず、亀裂進行評価用のノード及びメッシュが選択される(ステップS609)。亀裂進行評価用のノード及びメッシュとは、初期亀裂前縁に隣接するノードのいずれか及び当該ノードが境界上に存在するメッシュのことである。ここでは、例えば、図2Aに示すノードAにおけるメッシュ710同士の分離、すなわち、ノードAにおける亀裂の進行を評価するために、当該ノードA及びノードAのy軸方向両側に存在するメッシュ710が選択されたとする。
次に、ノードAで亀裂が進行する場合の弾性エネルギー解放率が計算される(ステップS611)。弾性エネルギー解放率は、形状モデルにおいてメッシュ同士が分離される際に解放される弾性エネルギーであり、一般的な亀裂進行解析方法においては、メッシュ同士が分離される前(ノード開放前)の系全体の弾性エネルギーとメッシュ同士が分離された後(ノード開放後)の系全体の弾性エネルギーとの差分で定義される。
具体的には、弾性エネルギー解放率の計算では、FEMを用いた応力解析が行われる。まず、図2Aに示すようなノード開放前の状態に対して、所定の外力因子条件の下でFEMを用いて形状モデルに作用する応力分布を計算することにより、ノード開放前の状態において系全体が有する弾性エネルギーが算出される。次いで、図2Bに示すように、ノードAが開放された状態を表す形状モデルを作成し、同様に所定の外力因子条件の下でFEMを用いてノードAが開放された形状モデルに作用する応力分布を計算することにより、ノード開放後の状態において系全体が有する弾性エネルギーが算出される。算出された弾性エネルギーの差分を取ることにより、弾性エネルギー解放率δUe1が計算される(末尾の「1」は、ノードAに対する計算結果であることを示す。)。図2Bに示すように、ノードAが開放された状態では、ノードAのy軸方向両側に位置するメッシュ710間に空隙が存在し、当該メッシュ710には、当該空隙を閉じようとする方向に弾性力が作用することとなる。当該弾性力による成分が、ノード開放前後の系における弾性エネルギーの差として表れることとなる。なお、FEMを用いた弾性エネルギーの具体的な計算方法には、既存の公知の方法が適用されてよいため、その詳細な説明は省略する。
弾性エネルギー解放率が算出されると、次に、ノードAで亀裂が進行する場合の靱性エネルギーが計算される(ステップS613)。靱性エネルギーとは、形状モデルにおいてメッシュ同士を分離するために必要なエネルギーのことである。具体的には、亀裂進行時の靱性エネルギーは、単位面積当たりの靱性値Gcと、亀裂によってメッシュ710間に生じ得る分離面の面積sとの乗算によって求められる。単位面積当たりの靱性値Gcは、構造体を構成する材料固有の物性パラメータであり、例えばステップS603に示す処理において形状モデルの物性値を設定する際に併せて設定され得る。また、分離面の面積sは、例えばステップS607に示す処理において形成されるメッシュ710の大きさ(一面の面積)に基づいて設定され得る。
図2Bに示す例では、ノードAが開放された状態、すなわち、ノードAにおいて亀裂が進行した場合に、メッシュ710間に、面積s1を有する分離面が生じている。従って、ノードAで亀裂が進行する場合の靱性エネルギーは、Gc・s1と計算され得る。
弾性エネルギー解放率及び靱性エネルギーが算出されると、次に、これらの値に基づいて、ノードAでの亀裂の進行しやすさを評価するための亀裂進行評価関数が計算される(ステップS615)。亀裂の進行は、弾性エネルギー解放率と靱性エネルギーとを比較することにより評価され得る。具体的には、弾性エネルギー解放率が靱性エネルギーよりも大きい場合、すなわち、亀裂が進行したことにより解放され得るエネルギーが亀裂を進行させるために必要なエネルギーよりも大きい場合に、亀裂が進行することが想定される。従って、亀裂進行評価関数は、弾性エネルギー解放率と靱性エネルギーとの大小関係を比較し得る関数として定義される。図1A及び図1Bに示す例では、亀裂進行評価関数pは、弾性エネルギー解放率と靱性エネルギーとの比率、すなわち、p=(δUe)/(Gc・s)として定義されている。この場合、亀裂進行評価関数pの値が大きいほど亀裂が進行しやすいと考えることができる。ノードAについての亀裂進行評価関数p1は、ステップS611で計算された弾性エネルギー解放率δUe1と、ステップS613で計算された靱性エネルギーGc・s1とを用いて、p1=(δUe1)/(Gc・s1)と計算される。
ノードAについての亀裂進行評価関数p1が計算されると、次に、亀裂前縁に隣接する全てのノードについて、亀裂評価関数pの計算が完了したかどうかが判断される(ステップS617)。ステップS617で、全てのノードについて亀裂評価関数pの計算が完了していると判断された場合には、ステップS619に進む。一方、全てのノードについて亀裂評価関数pの計算が完了していないと判断された場合には、ステップS609に戻り、ステップS609〜S615に示す処理が他のノードに対して繰り返し行われることとなる。図2Aに示す形状モデル70の例であれば、亀裂前縁720と隣接するノードとして、ノードA以外にも解析対象となり得る他のノード(ノードB、C)が存在するため、ステップS609に戻り、ノードB、Cに対してステップS609〜S615に示す処理が行われる。
例えば、ノードBにおける亀裂の進行が評価される場合であれば、ステップS609において、ノードB及びノードBのy軸方向両側に位置するメッシュ710が、亀裂進行評価用のノード、メッシュとして選択される(ステップS609)。そして、図2Cに示すように、ノードBが開放された形状モデル70が作成され、当該形状モデル70を用いて、ノードBで亀裂が進行する場合の弾性エネルギー解放率δUe2及び靱性エネルギーGc・s2が計算される(ステップS611、S613)。更に、計算された弾性エネルギー解放率δUe2及び靱性エネルギーGc・s2を用いて、ノードBについての亀裂進行評価関数p2が、p2=(δUe2)/(Gc・s2)と計算される(ステップS615)。
同様に、ノードCについての亀裂進行評価関数p3=(δUe3)/(Gc・s3)も計算される。図2Aに示す例では、簡単のため、亀裂前縁720と隣接するノードがノードA、B、Cの3つしか存在しないが、より一般的に、n個(nは任意の自然数)のノードが亀裂前縁720と隣接して存在する場合であれば、各ノードに対応するn個の亀裂進行評価関数p1〜pnが計算されることとなる。
全てのノードについての亀裂評価関数p1〜pnが計算されると、これらの値p1〜pnが比較され、最大となるもの(pmax)が抽出される(ステップS619)。弾性エネルギー解放率、靱性エネルギー及び亀裂評価関数の定義から、図1A及び図1Bに示す例では、亀裂評価関数pの値が大きいほど亀裂が生じやすいことを示していると考えられるため、ステップS619に示す処理によって、最も亀裂が進行しやすいノードに対応する亀裂評価関数pが抽出されることとなる。
次いで、値が最大である亀裂進行評価関数pmaxが所定の値D以上であるかどうかが判断される(ステップS621)。ここで、所定の値Dは、亀裂が進行するかどうかを評価するためのしきい値であり、図1A及び図1Bに示す例では、例えばD=1として設定され得る。上述したように、弾性エネルギー解放率が靱性エネルギーよりも大きい場合に亀裂が進行することが想定されることから、pmax<D=1である場合には、亀裂評価関数の定義から、更なる外力等が加えられない限り、それ以上亀裂は進行し得ないと考えられる。従って、ステップS621においてpmax<D=1であると判断された場合には、一連の亀裂進行解析処理は終了する。
一方、pmax≧D=1である場合には、少なくとも当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する箇所において亀裂が進行する可能性があることを示している。従って、ステップS621においてpmax≧D=1であると判断された場合には、当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する箇所において亀裂が進行するとみなし、形状モデル70において当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する箇所のノード及びメッシュ710を開放し、亀裂を進行させる処理が行われる(ステップS623)。なお、図1A及び図1Bに示す例では、亀裂進行評価関数pが、弾性エネルギー解放率と靱性エネルギーとの比率として定義されているため、しきい値DとしてD=1が設定されているが、しきい値Dの値は、亀裂進行評価関数pの定義に応じて、亀裂の進行を判断し得る値として適宜設定されてよい。
次に、ステップS623において対応するノード及びメッシュ710が開放されたことにより、亀裂が形状モデル70の端まで到達したかどうかが判断される(ステップS625)。亀裂が形状モデル70の端まで到達した場合には、当該方向へのそれ以上の亀裂の進行の解析は不可能であるため、一連の亀裂進行解析処理は終了する。一方、亀裂が形状モデル70の端まで到達していない場合には、当該方向にまだ亀裂が進行する可能性がある。従って、ステップS623において亀裂が形状モデル70の端まで到達していないと判断された場合には、開放された箇所を含む新たな亀裂前縁が計算対象として再設定され(ステップS627)、新たな亀裂前縁と隣接する全てのノードに対して、ステップS609以降の処理が繰り返し行われる。
一般的な亀裂進行解析方法においては、以上説明したステップS601〜S627に示す処理が、計算対象となるノードが開放されなくなるまで繰り返し行われる。ノードが開放されなくなる状態とは、亀裂の進行が停止した場合(上述したステップS621においてpmax<D=1であると判断された場合)又は、亀裂が形状モデル70の端まで到達した場合(上述したステップS625において亀裂が形状モデル70の端まで到達したと判断された場合)である。亀裂が形状モデル70の端まで到達した場合には、亀裂の進行によって形状モデル70が完全に分離されてしまった場合も含み得る。ただし、ステップS621においてpmax<D=1であると判断され亀裂の進行が停止した場合であっても、外力因子条件が変更された場合には、形状モデル70における応力分布が変化し、弾性エネルギー解放率の値も変化し得るため、再度一連の処理が繰り返されてもよい。
以上、図1A、図1B及び図2A−図2Cを参照して、一般的な亀裂進行解析方法における処理手順について説明した。なお、以上の説明では、構造体に生じる亀裂の進行について説明したが、例えば亀裂前縁を異種材料間の界面に設定し、当該界面に沿った亀裂の進行について解析することにより、構造体内における剥離の進行についても同様に解析することが可能である。
以上説明したように、一般的な亀裂進行解析方法においては、1ステップで1メッシュ分の亀裂の進行しか解析されない。また、1メッシュ分の亀裂の進行を解析するために、亀裂前縁に隣接する全てのノードに対して、すなわち、構造体の構造上取り得る全てのノードに対して、弾性エネルギー解放率、靱性エネルギー及び亀裂進行評価関数が計算される。ここで、靱性エネルギー及び亀裂進行評価関数の計算は、スカラー同士の単純な乗算又は除算であり、その計算負荷はさほど大きいものではない。しかしながら、弾性エネルギー解放率の計算には、FEMを用いた応力解析を行う必要がある。FEM計算は、一般的に計算負荷が大きいことが知られており、例えば、弾性エネルギー解放率の計算における計算負荷は、靱性エネルギーや亀裂進行評価関数の計算における計算負荷の100倍以上にもなり得る。従って、亀裂前縁に隣接するノードの数が多い場合には、1メッシュ分の亀裂の進行を解析するだけでも、長大な計算時間を要する。評価対象面、すなわち亀裂の進行面が特定の面だけに限定されている場合であれば計算負荷を比較的小さくすることができるが、3次元的に亀裂の進行方向の探索を行う場合には、亀裂前縁と隣接するノードの数が多くなり、その計算時間は膨大なものとなる。従って、一般的な亀裂進行解析方法を用いて、例えば進行方向を限定しない3次元的な亀裂の進行の解析を行おうとすると、現実的な時間での解析が困難となる可能性がある。
以上説明した、一般的な既存の亀裂進行解析方法についての検討結果に鑑みれば、例えば異種材料が複合された構造体における当該異種材料間を貫通して進行する亀裂や、界面での剥離、3次元的に進行する亀裂等、多様な亀裂の解析に対応できるより高い汎用性を確保しつつ、より小さい計算負荷で解析を行うことが可能な亀裂進行解析技術が求められていた。本発明者らは、以上の検討結果に基づき、より高い汎用性を備えつつ、より小さい計算負荷で亀裂の進行を解析することが可能な技術について検討した結果、以下に説明する本開示の第1及び第2の実施形態に想到した。以下では、本開示の好適な実施形態である、第1及び第2の実施形態について説明する。
(2.第1の実施形態)
本開示の好適な実施形態では、構造体における亀裂進行後の亀裂前縁候補が抽出される際に、構造体の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす亀裂前縁候補が抽出される。これにより、総当たり的に亀裂前縁候補が抽出されるのではなく、所定の条件に基づいて亀裂前縁候補が絞り込まれることとなる。絞り込まれた亀裂前縁候補に対して、例えば上述したような亀裂進行評価関数に基づく亀裂の進行解析が行われることにより、長大な計算時間を要するFEM計算を伴う弾性エネルギー解放率の計算処理の回数を低減することができ、より小さな計算負荷で亀裂の進行を解析することが可能となる。
以下では、本開示の好適な実施形態として、第1及び第2の実施形態の2つの実施形態について説明するが、これらの実施形態は、亀裂前縁候補を抽出する(絞り込む)ための条件が互いに異なるものに対応する。以下、第1及び第2の実施形態について順に説明する。
(2−1.第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順)
図3A及び図3Bを参照して、本開示の第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法(情報処理方法)における処理手順について説明する。図3A及び図3Bは、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順を示すフロー図である。また、図3A及び図3Bに示す各ステップにおける処理は、例えばPCやワークステーション等の各種の情報処理装置のプロセッサが、所定のプログラムに従って動作することにより実行され得る。
図3A及び図3Bを参照すると、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法においては、まず、解析対象の構造体を表す形状モデルが作成される(ステップS101)。第1の実施形態では、例えば、構造体は互いに異なる複数の材料によって構成されており、それに応じて、形状モデルも複数の材料が組み合わされて形成され得る。ただし、第1の実施形態はかかる例に限定されず、構造体は単一の材料によって構成されてもよい。当該形状モデルは、例えば3次元形状を有する。ステップS101に示す処理では、FEMにおいて形状モデルを作成する際の一般的な手法が用いられてよいため、その詳細な説明は省略する。
次いで、ステップS101で作成した形状モデルに対して、構造体の材料に応じた各種の物性値が設定される(ステップS103)。設定される物性値は、一般的なFEM計算において用いられる各種の物性値であってよく、例えば、当該材料の弾性率や靱性値(後述する単位面積当たりの靱性値を含む。)等の値が含まれる。また、構造体が異種材料によって構成される場合であれば、当該異種材料間の界面における密着力が設定されてもよい。
次いで、ステップS101で作成した形状モデルに対して、初期亀裂前縁が設定される(ステップS105)。亀裂前縁とは、亀裂の進行方向における縁部である。設定された初期亀裂前縁の位置に基づいて1ステップ後の亀裂前縁の位置が計算されることにより、亀裂の進行が解析される。このように、亀裂の進行解析では、初期亀裂前縁からの亀裂の進行が解析される。
次いで、亀裂の進行解析における各種の計算条件が設定される(ステップS107)。例えば、ステップS107に示す処理では、ステップS105で設定された初期亀裂前縁を考慮して、形状モデルに対してメッシュが形成される。具体的には、少なくとも初期亀裂前縁がメッシュ間の境界となるように、形状モデルが複数のメッシュに分割される。当該メッシュは、数値計算において計算対象の単位となる計算格子であり、FEMにおけるエレメント(要素)に対応している。メッシュの形成は、一般的にFEMにおいて用いられる各種の手法によって行われてよく、メッシュの形状も、例えば四面体、六面体等、各種の形状であってよい。また、メッシュの形成と同時に、メッシュ間の境界上であって初期亀裂前縁と隣接する点には、計算を行う際に用いられる仮想的なノード(節点)が設定される。
また、ステップS107における処理では、構造体(形状モデル)に加えられる外力を表す条件である、外力因子条件が併せて設定され得る。当該外力因子条件に基づいて所定の外力が加えられた構造体に対して、後述するステップS113に示す処理においてFEMを用いた応力解析が行われることとなる。
また、ステップS107における処理では、後述するステップS113に示す処理において計算されるエネルギー解放率の演算式や、ステップS115に示す処理において計算される亀裂進行評価関数の定義式、亀裂進行評価関数と比較されるしきい値D等が設定されてもよい。
このように、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法では、ステップS101〜S107に示す処理までは、図1A及び図1Bを参照して説明した一般的な亀裂進行解析方法におけるステップS601〜S607に示す処理と略同様の処理が行われてよい。メッシュの形成処理が終了した段階での形状モデルは、例えば図2Aに示す形状モデル70と同様であってよい。
第1の実施形態では、ステップS107より後の処理が、一般的な亀裂進行解析方法とは異なる。第1の実施形態では、ステップS107に示す処理の次に、総靱性エネルギーを設定する処理が行われる(ステップS109)。総靱性エネルギーとは、亀裂が進行する際に複数のメッシュ同士を分離するために必要な靱性エネルギーの総和として定義される。具体的には、ステップS109において設定される総靱性エネルギーは、1ステップ分亀裂が進行する際にメッシュ同士を分離させるために必要なエネルギーとして設定される。換言すれば、ステップS109において設定される総靱性エネルギーは、1ステップでの亀裂の進行量を決定する値であると言える。なお、ステップS109では、総靱性エネルギーとして1つの値が設定されるのではなく、所定の範囲が設定されることが好ましい。
次いで、1ステップ後の亀裂前縁の候補である亀裂前縁候補が抽出される(ステップS111)。具体的には、ステップS111に示す処理では、亀裂が進行する際の総靱性エネルギーが、ステップS109で設定された総靱性エネルギーの範囲に含まれるような亀裂前縁候補が抽出される。例えば、ステップS111においては、初期亀裂前縁と接するメッシュであって亀裂の進行方向に位置するメッシュに対して、分離した際の総靱性エネルギーが設定された所定の範囲に含まれるようなメッシュの組み合わせが総当たり的に抽出されることにより、亀裂前縁候補が抽出される。ここで、上述した一般的な亀裂進行解析方法においては、1つのノードに注目して当該ノードにおける亀裂の進行が解析されるため、1ステップで亀裂が進行する量は1メッシュ分に限定されていた。従って、計算される靱性エネルギーは、1対のメッシュを分離するために必要なエネルギーとしてしか計算されなかった。一方、第1の実施形態では、上述のように、1ステップ分亀裂を進行させるために必要な総靱性エネルギーの範囲が設定され、亀裂が進行した際の総靱性エネルギーが設定された範囲に含まれるような亀裂前縁の候補が抽出される。いわば、総靱性エネルギーは、亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に必要な靱性エネルギーを表していると言える。従って、ステップS109において総靱性エネルギーを適切に設定することにより、1回のステップで、複数のノード(すなわち複数のメッシュ)に跨る亀裂の進行を解析することが可能となる。
また、ステップS111における亀裂前縁候補の抽出処理では、総靱性エネルギーとともに、以下の条件1、2が考慮される。すなわち、1.亀裂前縁の連続性についての条件、及び、2.亀裂の進行前後における連続性についての条件である。条件1は、亀裂が進行する際に、例えば亀裂前縁のうちの一部のみが他の部分に比べて突出的に進行することを防止するために設けられる。また、条件2は、亀裂が進行する際に、亀裂によってメッシュ間が分離している領域内に、飛び地状(浮き島状)にメッシュ間が未分離の領域が存在することを防止するために設けられる。これらの条件1、2を満たすように亀裂前縁候補が抽出されることにより、実際の亀裂進行時には発生することが想定しづらい亀裂前縁の形状が候補から除かれるため、より実際に則した亀裂進行解析を行うことが可能となる。なお、条件1、2に基づく亀裂前縁候補の抽出処理については、下記(2−2.亀裂前縁候補の抽出処理)で詳細に説明する。
次いで、抽出された亀裂前縁候補の各々に対して、弾性エネルギー解放率δUeが計算される(ステップS113)。弾性エネルギー解放率δUeの計算では、FEMを用いた応力解析が行われる。具体的には、亀裂前縁位置が初期亀裂前縁である状態に対して、所定の外力因子条件の下でFEMを用いて形状モデルにおける応力分布を計算することにより、亀裂前縁位置が初期亀裂前縁である状態において系全体が有する弾性エネルギーが算出される。次いで、亀裂前縁位置が亀裂前縁候補である状態に対して、所定の外力因子条件の下でFEMを用いて形状モデルにおける応力分布を計算することにより、亀裂前縁位置が亀裂前縁候補である状態において系全体が有する弾性エネルギーが算出される。算出された弾性エネルギーの差分を取ることにより、弾性エネルギー解放率δUeが計算される。ステップS113では、弾性エネルギー解放率δUeの計算は、抽出された亀裂前縁候補の各々に対して行われる。ここでは、ステップS111において抽出されたm個(mは任意の自然数)の亀裂前縁候補に対して、弾性エネルギー解放率δUe1〜δUemがそれぞれ計算されたとする。
ここで、上述した一般的な亀裂進行解析方法では、ステップS611に示す処理において、1つのノードに注目し、当該ノード開放前後での弾性エネルギーの差分から弾性エネルギー解放率δUeが求められていた。一方、第1の実施形態では、亀裂前縁位置が初期亀裂前縁である状態での系全体の弾性エネルギーと、亀裂前縁位置が亀裂前縁候補である状態での系全体の弾性エネルギーとが計算され、それらの値の差分を計算することにより、弾性エネルギー解放率δUeが求められる。このように、本実施形態では、複数のノード及びメッシュを対象とした弾性エネルギー解放率δUeの計算が行われる。
次いで、抽出された亀裂前縁候補の各々に対して、亀裂進行評価関数pが計算される(ステップS115)。亀裂進行評価関数pは、亀裂前縁候補の実現可能性(亀裂前縁候補を実現するように亀裂が進行する可能性)を表す指標である。第1の実施形態では、亀裂の進行は、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとを比較することにより評価され得る。具体的には、弾性エネルギー解放率が総靱性エネルギーよりも大きい場合、すなわち、亀裂が進行したことにより解放され得るエネルギーが亀裂を進行させるために必要なエネルギーよりも大きい場合に、亀裂が進行することが想定される。従って、亀裂進行評価関数は、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの大小関係を比較し得る関数として定義される。
図3A及び図3Bに示す例では、亀裂進行評価関数pは、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの比率、すなわち、p=(δUe)/(Gc・s)として定義されている。なお、亀裂進行評価関数pを、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの比率として計算する際には、必要に応じて所定の係数が乗算されてもよい。m個の亀裂前縁候補が抽出されたとすれば、ステップS115においては、m個の亀裂前縁候補に対するm個の亀裂進行評価関数p1=(δUe1)/(Gc・s1)〜pm=(δUem)/(Gc・sm)が計算される。ここで、亀裂進行評価関数pの分子のδUeはステップS113で計算された弾性エネルギー解放率δUeである。また、亀裂進行評価関数pの分母のGc・sは、亀裂前縁が、初期亀裂前縁の位置から亀裂前縁候補の位置まで進行する際にメッシュ同士を分離するために必要な総靱性エネルギーである。Gcは、単位面積当たりの靱性値であり、構造体を構成する材料固有の物性パラメータとして、例えばステップS103に示す処理において形状モデルの物性値を設定する際に設定され得る。また、sは、亀裂前縁が、初期亀裂前縁の位置から亀裂前縁候補の位置まで進行した際のメッシュの分離面の面積であり、形状モデルにおける初期亀裂前縁の位置と亀裂前縁候補の位置とを比較することにより求められる。分離面の面積sは、例えばステップS111において亀裂前縁候補が抽出された際に併せて計算されてもよい。
亀裂進行評価関数pが、p=(δUe)/(Gc・s)として定義されている場合、亀裂進行評価関数pの値が大きいほど亀裂が進行しやすいと考えることができる。従って、抽出された複数の亀裂前縁候補において、亀裂進行評価関数pの値が大きいほど対応する亀裂前縁候補の実現可能性が高いと判断することができる。ただし、本実施形態では、亀裂進行評価関数は上記の例に限定されない。本実施形態では、亀裂進行評価関数は、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの大小関係を比較し得る関数として定義されればよく、上記以外の他の形式であってもよい。例えば、亀裂進行評価関数pは、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの差分として定義されてもよい。また、例えば構造体が単一材料によって構成される場合には、各亀裂前縁候補における総靱性エネルギーは略同一の値(ステップS109において設定された値)になることが想定されるため、亀裂進行評価関数pは、弾性エネルギー解放率に基づいて定義されてもよい。構造体が単一材料である場合に、弾性エネルギー解放率を用いて亀裂の発生有無及び亀裂の進行方向を解析する方法としては、公知の各種の方法(例えば、上記特許文献2に記載の方法)を用いることが可能であるため、詳細な説明は省略する。
抽出された全ての亀裂前縁候補について亀裂評価関数p1〜pmが計算されると、これらの値p1〜pmが比較され、最大となるもの(pmax)が抽出される(ステップS117)。ここで、ステップS117において値が最大の亀裂進行評価関数pmaxを抽出しているのは、弾性エネルギー解放率、総靱性エネルギー及び亀裂評価関数の定義から、本実施形態では亀裂評価関数pの値が大きいほど亀裂が生じやすいと考えられるからである。ステップS117に示す処理では、亀裂評価関数に基づいて最も実現可能性が高いと考えられる亀裂前縁候補が抽出されればよく、その具体的な抽出の方法は、弾性エネルギー解放率、総靱性エネルギー及び亀裂評価関数の定義に応じて適宜設定されてよい。なお、ステップS111において亀裂前縁候補が1つしか抽出されなかった場合には、ステップS117では、当該亀裂前縁候補が、最も実現可能性が高い亀裂前縁候補として抽出されてもよい。
次いで、値が最大である亀裂進行評価関数pmaxが所定の値D以上であるかどうかが判断される(ステップS119)。ここで、所定の値Dは、亀裂が進行するかどうかを評価するためのしきい値であり、図3A及び図3Bに示す例では、例えばD=1として設定され得る。上述したように、弾性エネルギー解放率が総靱性エネルギーよりも大きい場合に亀裂が進行することが想定されることから、pmax<D=1である場合には、亀裂評価関数の定義から、更なる外力が加えられる等外力因子条件が変更されない限り、それ以上亀裂は進行し得ないと考えられる。従って、ステップS119においてpmax<D=1であると判断された場合には、一連の亀裂進行解析処理は終了する。
一方、pmax≧D=1である場合には、少なくとも当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補を実現するように亀裂が進行する可能性があることを示している。従って、ステップS119においてpmax≧D=1であると判断された場合には、当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補を実現するように亀裂が進行するとみなし、形状モデルにおいて当該亀裂前縁候補を実現するようにノード及びメッシュを開放し、亀裂を進行させる処理が行われる(ステップS121)。このように、ステップS119における処理は、亀裂前縁候補に対して、当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する処理であると言える。なお、図3A及び図3Bに示す例では、亀裂進行評価関数pが、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの比率として定義されているため、しきい値DとしてD=1が設定されているが、しきい値Dの値は、亀裂進行評価関数pの定義に応じて、亀裂の進行を判断し得る値として適宜設定されてよい。
次に、ステップS121において亀裂前縁候補に対応するノード及びメッシュが開放されたことにより、亀裂が形状モデルの端まで到達したかどうかが判断される(ステップS123)。亀裂が形状モデルの端まで到達した場合には、当該方向へのそれ以上の亀裂の進行の解析は不可能であるため、一連の亀裂進行解析処理は終了する。一方、亀裂が形状モデルの端まで到達していない場合には、当該方向にまだ亀裂が進行する可能性がある。従って、ステップS123において亀裂が形状モデルの端まで到達していないと判断された場合には、開放された箇所を含む新たな亀裂前縁が計算対象として再設定され(ステップS125)、新たな亀裂前縁と隣接する全てのノードに対して、ステップS111以降の処理が繰り返し行われる。
なお、上記の例では、ステップS117において最も実現可能性が高い亀裂前縁候補が抽出された後に、ステップS119において当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかが判断される場合について説明したが、これらの処理の順番は逆であってもよい。すなわち、まず、ステップS111において抽出された亀裂前縁候補の各々に対して、亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかが判断され、次いで、その亀裂の進行が発生すると判断された亀裂前縁候補の中から、最も実現可能性の高い亀裂前縁候補が抽出されてもよい。ステップS117及びステップS119における処理の順番は、例えば計算負荷等を考慮して適宜設定されてよい。
第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法においては、以上説明したステップS101〜S125に示す処理が、計算対象となる亀裂前縁候補が存在しなくなるまで繰り返し行われる。亀裂前縁候補が存在しなくなる状態とは、亀裂の進行が停止した場合(上述したステップS119においてpmax<D=1であると判断された場合)又は、亀裂が形状モデルの端まで到達した場合(上述したステップS123において亀裂が形状モデルの端まで到達したと判断された場合)である。亀裂が形状モデルの端まで到達した場合には、亀裂の進行によって形状モデルが完全に分離されてしまった場合も含み得る。ただし、ステップS119においてpmax<D=1であると判断され亀裂の進行が停止した場合であっても、外力因子条件が変更された場合には、形状モデルにおける応力分布が変化し、弾性エネルギー解放率の値も変化し得るため、再度一連の処理が繰り返されてもよい。
以上、図3A及び図3Bを参照して、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順について説明した。以上説明したように、第1の実施形態では、1ステップ分亀裂が進行する際に必要なエネルギーである総靱性エネルギーが設定され、当該総靱性エネルギーに適合する1ステップ後の亀裂前縁候補が抽出される。そして、抽出された亀裂前縁候補に対して、弾性エネルギー解放率δUe及び亀裂進行評価関数pが計算される。ここで、一般的な亀裂進行解析方法においては、1つのノードに注目して当該ノードにおける亀裂の進行が解析されるため、1ステップで亀裂が進行する量は1メッシュ分に限定されていた。具体的には、亀裂進行方向において亀裂前縁に隣接する全てのノードの各々に対して、計算負荷の大きい弾性エネルギー解放率δUeの計算を行い、その計算結果に基づいて最も亀裂が進行しやすいメッシュが選択されていた。従って、1ステップ分の亀裂の進行を計算するために、亀裂前縁に隣接する全てのノードに対するFEM計算が必要であり、計算負荷の増加につながっていた。
一方、第1の実施形態では、上述したように、ノードごとではなく、亀裂前縁候補に対して弾性エネルギー解放率δUeの計算が行われる。従って、第1の実施形態では、複数のノード及びメッシュの開放を対象とした弾性エネルギー解放率δUeの計算を行うことが可能となる。このように、第1の実施形態では、ノード1つ1つの開放を計算の対象とするのではなく、複数のノードの開放を計算の対象とすることにより、計算負荷の大きいFEM計算を伴う弾性エネルギー解放率δUeの計算回数を少なくすることができ、計算負荷を低減することができる。従って、3次元方向の亀裂進行解析のような、従来は計算負荷が大きく実行が困難であった解析も行うことが可能となる。また、弾性エネルギー解放率δUeを用いた亀裂進行解析方法は、例えば異種材料が複合された構造体における当該異種材料間を貫通して進行する亀裂や、界面での剥離等の解析にも適用可能な高い汎用性を有する方法であるため、第1の実施形態では、高い汎用性を維持しつつ、計算負荷のより小さい亀裂進行解析が実現される。
また、第1の実施形態では、総靱性エネルギーの設定を変更することにより、亀裂進行解析の分解能を調整することが可能となる。上述したように、ステップS109において設定される総靱性エネルギーは、1ステップでの亀裂の進行量を決定する値であると言える。従って、総靱性エネルギーを大きな値に設定すれば、相対的に1ステップでの亀裂の進行量は大きくなり、一連の亀裂進行解析処理をより短い計算時間で終了させることが可能となる。一方、総靱性エネルギーを小さな値に設定すれば、相対的に1ステップでの亀裂の進行量は小さくなり、より分解能が高く精度の高い亀裂進行解析を行うことが可能となる。このように、本実施形態では、総靱性エネルギーの設定を変更することにより、得たい結果の精度や計算時間を適宜調整することが可能となるため、亀裂進行解析を行うユーザにとっての利便性を向上させることができる。
(2−2.亀裂前縁候補の抽出処理)
図3A及び図3BのステップS111に示す、第1の実施形態に係る亀裂前縁候補の抽出処理について詳細に説明する。上述したように、当該抽出処理においては、予め設定された総靱性エネルギーに基づいて亀裂前縁候補が抽出されるが、その際に、2つの条件、条件1.亀裂前縁の連続性についての条件、及び、条件2.亀裂の進行前後における連続性についての条件が考慮される。以下では、亀裂前縁候補の抽出処理において考慮されるこれら2つの条件について説明する。
(2−2−1.亀裂前縁の連続性についての条件)
まず、図4A、図4B、図5A−図5B、図6A、図6B及び図7を参照して、1つ目の条件である、亀裂前縁の連続性について説明する。図4A及び図4Bは、亀裂前縁の連続性についての条件について説明するための構造体の形状モデルを示す概略図である。図5A−図5Cは、図4Bに示す形状モデルにおいて、亀裂前縁の連続性についての条件を満たす亀裂前縁候補を例示する概略図である。図6A及び図6Bは、図4Bに示す形状モデルにおいて、亀裂前縁の連続性についての条件を満たさない亀裂前縁候補を例示する概略図である。図7は、図4Aに示す形状モデルにおいて、亀裂前縁の連続性についての条件を満たさない亀裂前縁候補を例示する概略図である。
実際の亀裂進行においては、亀裂前縁のうちで、特定の一部分のみが他の部分よりも突出して亀裂が前進することは考えにくく、進行方向に対して滑らかに接続された亀裂前縁が形成されることが想定される。従って、第1の実施形態では、このような亀裂前縁の連続性を考慮して、亀裂進行後の亀裂前縁を構成する複数のメッシュにおいて、隣接する当該メッシュ間の距離が所定の値以下になるように、亀裂前縁候補が抽出される。
図4A及び図4Bに、当該条件について説明するための構造体のモデルを示す。図4Aは、構造体の形状モデルの斜視図である。図4Aを参照すると、形状モデル30は、6面体形状を有する複数のメッシュ310によって構成され、直方体形状を有する。形状モデル30の一部には亀裂が生じており、図4Aでは、当該亀裂の亀裂面320がハッチングによって図示されている。亀裂面320は、亀裂によって分離されたメッシュ310間の分離面に対応する。図4Aでは、簡単のため、亀裂面320は、x軸方向に延伸する1列分のメッシュ310において、x軸とz軸とで規定される平面(x−z平面)と平行な一面に存在しているものとしている。また、亀裂面320のz軸の正方向の端には亀裂前縁321が存在する。図4Aでは、亀裂前縁321を破線で図示している。
図4Bは、図4Aに示す形状モデル30を、亀裂面320を含む断面で切断したときの断面図である。図4Bに示す断面は、形状モデル30のx−z平面における断面であり、x方向に5つ、z軸方向に4つのメッシュが配列された長方形形状を有する。以下では、簡単のため、図4Bに示す平面内における2次元的な亀裂の進行を例に挙げて、上記条件についての説明を行う。ただし、第1の実施形態はかかる例に限定されず、図7を参照して後述するように、3次元的な亀裂の進行に対しても、同様に、亀裂前縁の連続性についての条件を考慮して亀裂前縁候補が抽出され得る。また、説明を容易にするため、図4Bに示す各メッシュ310を、x−z座標によって表現する。具体的には、図4Bに示すように、当該平面内のメッシュ310のうち、紙面内で最も左下に位置するメッシュ310の座標を(x,z)=(1,1)とし、当該メッシュ310をメッシュ(1,1)とも記載する。また、メッシュ(1,1)を基点として、紙面内で右方向に進むほどx軸の座標が増加し、紙面内で上方向に進むほどz軸の座標が増加することとする。例えば、紙面内で最も右上に位置するメッシュ310の座標は(x,z)=(5,4)であり、当該メッシュ310はメッシュ(5,4)とも記載される。他のメッシュについても、同様に、x−z座標の値を用いてメッシュ(x,z)と記載することとする。図4Bには、各メッシュの位置に対応するx−z座標の値も併せて図示している。
図4Bを参照すると、z軸方向において最も負方向に位置する1列のメッシュ310、すなわち、メッシュ(1,1)〜メッシュ(5,1)の表面が亀裂面320に対応している。また、亀裂前縁321は、メッシュ(1,1)〜メッシュ(5,1)とメッシュ(1,2)〜メッシュ(5,2)の間に、x軸方向と平行に存在している。
図4Bに示す状態から、亀裂がz軸の正方向に進行する場合の亀裂前縁候補を考える。上述したように、第1の実施形態では、亀裂前縁の連続性を考慮して、亀裂進行後の亀裂前縁を構成する複数のメッシュにおいて、隣接する当該メッシュ間の距離が所定の値以下になるように、亀裂前縁候補が抽出される。具体的には、図3A及び図3BのステップS109に示す処理で設定される総靱性エネルギーに適合するように、亀裂前縁321を仮に進行させ、進行後の亀裂前縁を構成するメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離が測定される。そして、当該距離の最大値が所定のしきい値以下であった場合に、当該亀裂前縁が亀裂前縁候補として抽出され得る。
まず、図5A−図5Cを参照して、亀裂前縁候補が亀裂前縁の連続性についての条件を満たす場合について説明する。図5Aに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,2)、メッシュ(4,2)にまで進行している。亀裂面320の進行に伴い、亀裂前縁321もz軸の正方向に進行する。図5Aを参照すると、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310は、メッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,2)、メッシュ(4,2)、メッシュ(5,1)である。亀裂前縁321を構成するこれらのメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離Lが測定される。図5Aでは、当該距離Lに対応する長さを、両端矢印で図示している(後述する図5B、図5C、図6A、図6B及び図7でも同様に、隣接するメッシュ310間の距離を両端矢印で表す。)。図5Aに示す例では、距離Lの最大値Lmaxは、メッシュ(4,2)とメッシュ(5,1)との間の距離である。当該距離Lmaxは、例えば所定のしきい値t以下であるため、図5Aに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用され得る。
図5Bに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,2)、メッシュ(5,2)にまで進行している。この場合も、同様に、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離が測定され、当該距離の最大値が所定のしきい値と比較される。図5Bを参照すると、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310は、メッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,2)、メッシュ(4,1)、メッシュ(5,2)である。亀裂前縁321を構成するこれらのメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離Lが測定される。図5Bに示す例では、距離Lの最大値Lmaxは、メッシュ(3,2)とメッシュ(4,1)との間の距離及びメッシュ(4,1)とメッシュ(5,2)との間の距離である。当該距離Lmaxは、例えば所定のしきい値t以下であるため、図5Bに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用され得る。
図5Cに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,2)、メッシュ(4,2)、メッシュ(3,3)にまで進行している。この場合も、同様に、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離が測定され、当該距離の最大値が所定のしきい値と比較される。図5Cを参照すると、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310は、メッシュ(1,1)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,3)、メッシュ(4,2)、メッシュ(5,1)である。亀裂前縁321を構成するこれらのメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離Lが測定される。図5Cに示す例では、これらのメッシュ310間の距離はすべて等しく、各隣接メッシュ310間の距離が最大値Lmaxとなる。当該距離Lmaxは、例えば所定のしきい値t以下であるため、図5Cに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用され得る。
次に、図6A及び図6Bを参照して、亀裂前縁候補が亀裂前縁の連続性についての条件を満たさない場合について説明する。図6Aに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,2)、メッシュ(3,3)、メッシュ(3,4)にまで進行している。この場合も、同様に、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離が測定され、当該距離の最大値が所定のしきい値と比較される。図6Aを参照すると、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310は、メッシュ(1,1)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,4)、メッシュ(4,1)、メッシュ(5,1)である。亀裂前縁321を構成するこれらのメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離Lが測定される。図6Aに示す例では、距離Lの最大値Lmaxは、メッシュ(3,4)とメッシュ(4,1)との間の距離である。当該距離Lmaxは、例えば所定のしきい値tよりも大きいため、図6Aに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用されない。
図6Bに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(2,2)、メッシュ(2,3)、メッシュ(3,2)、メッシュ(5,2)にまで進行している。この場合も、同様に、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離が測定され、当該距離の最大値が所定のしきい値と比較される。図6Bを参照すると、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310は、メッシュ(1,1)、メッシュ(2,3)、メッシュ(3,2)、メッシュ(4,1)、メッシュ(5,2)である。亀裂前縁321を構成するこれらのメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離Lが測定される。図6Bに示す例では、距離Lの最大値Lmaxは、メッシュ(1,1)とメッシュ(2,3)との間の距離である。当該距離Lmaxは、例えば所定のしきい値tよりも大きいため、図6Bに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用されない。
図6A及び図6Bに示す亀裂前縁321では、図5A−図5Cに示す亀裂前縁321に比べて、その一部がz軸の正方向に突出するように亀裂が進行していると言える。亀裂前縁候補の抽出処理において亀裂前縁の連続性についての条件を適用することにより、例えば図6A及び図6Bに示すような、一部が突出するように亀裂が進行する、実際には生じる可能性が低い亀裂前縁候補を排除することが可能となる。
更に、図7を参照して、亀裂前縁の連続性についての条件を3次元での亀裂進行解析における亀裂前縁候補の抽出処理に適用した場合について説明する。図7は、図4Aに示す形状モデル30において、亀裂が3次元的に進行した様子を図示している。図7に示す例では、図4Aに示す初期の亀裂面320から、z軸方向及びy軸方向のそれぞれの方向に亀裂が進行しており、進行した亀裂面320は、いわばねじれの位置に存在している。この場合も、進行後の亀裂前縁321を構成するメッシュ310において、隣接するメッシュ310間の距離が測定され、当該距離の最大値が所定のしきい値と比較される。図中に示すように、この場合の距離Lの最大値Lmaxは、z軸方向及びy軸方向のそれぞれの方向に進行した亀裂面320の端部に位置するメッシュ310間の距離となる。当該距離Lmaxは、例えば所定のしきい値tよりも大きいため、図7に示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用されない。亀裂前縁候補の抽出処理において亀裂前縁の連続性についての条件を適用することにより、例えば図7に示すような、3次元的にねじれの位置に対応する方向に亀裂面が進行する、実際には生じる可能性が低い亀裂前縁候補を排除することが可能となる。
(2−2−2.亀裂の進行前後における連続性についての条件)
次に、図8A、図8B及び図9を参照して、2つ目の条件である、亀裂の進行前後における連続性について説明する。図8A及び図8Bは、図4Bに示す形状モデルにおいて、亀裂の進行前後における連続性についての条件を満たさない亀裂前縁候補を例示する概略図である。図9は、図4Aに示す形状モデルにおいて、亀裂の進行前後における連続性についての条件を満たさない亀裂前縁候補を例示する概略図である。
実際の亀裂進行においては、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを結ぶ直線上に亀裂が発生していない領域が飛び地状(浮き島状)に存在したり、亀裂が3次元的に回り込むように進行したりすることは、エネルギー安定性の観点から考え難い。従って、第1の実施形態では、このような亀裂進行前後における連続性を考慮して、亀裂の進行方向に不連続な領域が存在しないように、すなわち、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを最短距離で結ぶ面内にメッシュが結合している領域が存在しないように、亀裂前縁候補が抽出される。
なお、本条件についての説明も、図4A及び図4Bに示す形状モデル30を参照して行う。図8A及び図8Bに示す例においても、初期亀裂面320は、z軸の最も負方向に位置する1列のメッシュ310に存在し、亀裂は図4Bに示すx−z平面と水平な断面内でz軸方向に進行するものとする。また、当該断面内におけるメッシュ310の位置を、x軸とz軸の座標(x,z)で表すこととする。
図8A及び図8Bを参照して、亀裂前縁候補が亀裂進行前後における連続性についての条件を満たさない場合について説明する。図8Aに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(1,2)、メッシュ(2,3)、メッシュ(3,2)、メッシュ(4,2)にまで進行している。ここで、メッシュ(2,2)には亀裂面320は進行していない(すなわち、y軸方向においてメッシュ310間が結合している。)。このとき、亀裂の進行方向(z軸方向)においてメッシュ(2,2)の前後に位置するメッシュ310に注目すると、メッシュ(2,1)及びメッシュ(2,3)には、いずれも亀裂面320が形成されている。従って、メッシュ(2,2)は、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを最短距離で結ぶ面内において結合しているメッシュ310である(すなわち、メッシュ(2,2)は、亀裂の進行方向における不連続な領域である)と判断されるため、図8Aに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用されない。
図8Bに示す例では、亀裂面320が、メッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)、メッシュ(2,3)、メッシュ(3,3)にまで進行している。ここで、メッシュ(3,2)には亀裂面320は進行していない(すなわち、y軸方向においてメッシュ310間が結合している。)。この場合、亀裂の進行方向(z軸方向)においてメッシュ(3,2)の前後に位置するメッシュ310に注目すると、メッシュ(3,1)及びメッシュ(3,3)には、いずれも亀裂面320が形成されている。従って、メッシュ(3,2)は、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを最短距離で結ぶ面内において結合しているメッシュ310である(すなわち、メッシュ(3,2)は、亀裂の進行方向における不連続な領域である)と判断されるため、図8Bに示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用されない。
更に、図9を参照して、亀裂進行前後における亀裂前縁での連続性の条件を、3次元での亀裂進行解析における亀裂前縁候補の抽出処理に適用した場合について説明する。図9は、図4Aに示す形状モデル30において、亀裂が3次元的に進行した様子を図示している。図9に示す例では、図4Aに示す初期の亀裂面320から、z軸方向及びy軸方向のそれぞれの方向に亀裂が進行している。また、y軸の負方向に進行した亀裂は、途中で逆方向に進行方向を変更し、回り込むようにy軸の正方向に向かって進行している。この場合も、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを最短距離で結ぶ面内において結合しているメッシュ310が存在するかどうか(すなわち、亀裂の進行方向に非連続な領域が存在しないかどうか)が判断されることにより、図9に示す亀裂前縁321は、亀裂前縁候補として採用されない。
このように、亀裂前縁候補の抽出処理において亀裂の進行前後における連続性についての条件を適用することにより、図8A及び図8Bに例示する飛び地状に非亀裂面が存在する場合や、図9に例示する3次元的に所定の領域を迂回するように亀裂が進行する場合のような、実際には生じる可能性が低い亀裂前縁候補を排除することが可能となる。
以上、図4A、図4B、図5A−図5C、図6A、図6B、図7、図8A、図8B及び図9を参照して、第1の実施形態に係る亀裂前縁候補の抽出処理において考慮される、2つの条件、亀裂前縁の連続性についての条件及び亀裂の進行前後における連続性についての条件について説明した。これらの条件が考慮されることにより、より実際の亀裂進行現象に則した亀裂前縁が亀裂前縁候補として抽出されることとなるため、亀裂進行解析の精度を向上させることが可能となる。
なお、上述した2つの条件は、1ステップ内での亀裂前縁候補の抽出処理における規定であり、第1の実施形態では、複数回の亀裂進行解析ステップの結果、一部が突出した亀裂や非連続性の強い亀裂が生じることは禁止されない。このように、複数ステップ亀裂が進行した後における亀裂の形状について所定の自由度を確保することにより、第1の実施形態に係る亀裂進行解析では、マクロなレベルでの汎用性は維持され得る。
(2−3.計算負荷の比較)
次に、図1A及び図1Bを参照して説明した一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷と、図3A及び図3Bを参照して説明した第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷との比較を行う。ここでは、簡単のため、単純な構造の形状モデルに対して亀裂進行解析を行った場合を例に挙げて、その計算負荷の違いについて説明を行う。
図10A及び図10Bを参照して、計算負荷を比較するための説明に用いる形状モデルについて説明する。図10A及び図10Bは、計算負荷を比較するための説明に用いる形状モデルを示す図である。
図10Aは、当該形状モデルの外観を示す斜視図である。図10Aを参照すると、形状モデル40は、立方体形状を有する複数のメッシュ410によって構成され、直方体形状を有する。形状モデル40のz軸と垂直な面の一方には、x−z平面と略平行な亀裂面を有する亀裂420が形成されている。亀裂420は、亀裂進行解析を行う際の初期の亀裂を表している。
図10Bは、図10Aに示す形状モデル40を、亀裂420を含む断面で切断したときの断面図である。図10Bに示す断面は、形状モデル40のx−z平面における断面であり、x方向に7つ、z軸方向に4つのメッシュ410が配列された長方形形状を有する。形状モデル40においては、簡単のため、図10Bに示す平面内における、2次元的な亀裂の進行を例に挙げて、計算負荷の違いについての説明を行う。
ここで、図4Bにおいてメッシュ310の平面内での位置をx−z座標で表現していたように、図10Bにおいても、メッシュ410の平面内での位置をx−z座標で表現することとする。具体的には、図10Bに示すように、当該平面内のメッシュ410のうち、紙面内で最も左下に位置するメッシュ410の座標を(x,z)=(1,1)とし、当該メッシュ410をメッシュ(1,1)とも記載する。また、メッシュ(1,1)を基点として、紙面内で右方向に進むほどx軸の座標が増加し、紙面内で上方向に進むほどz軸の座標が増加することとする。例えば、紙面内で最も右上に位置するメッシュ410の座標は(x,z)=(7,4)であり、当該メッシュ410はメッシュ(7,4)とも記載される。他のメッシュについても、同様に、x−z座標の値を用いてメッシュ(x,z)と記載することとする。図10Bには、各メッシュの位置に対応するx−z座標の値も併せて図示している。
図10Bを参照すると、z軸方向において最も負方向に位置する1列のメッシュ410、すなわち、メッシュ(1,1)〜メッシュ(7,1)の表面が亀裂420の亀裂面421に対応している。また、亀裂420の亀裂前縁422は、メッシュ(1,1)〜メッシュ(7,1)とメッシュ(1,2)〜メッシュ(7,2)との間に、x軸方向と平行に存在している。
ここで、形状モデル40は、複数の異種材料によって構成されている。具体的には、形状モデル40を構成するメッシュ410は、互いに異なる3つの種類のメッシュ411、412、413を含む。3種類のメッシュ411、412、413は、それぞれ、互いに異なる靱性値を有する異種材料を示している。図10A及び図10Bでは、これら3種類のメッシュ411、412、413に、互いに異なる種類のハッチングを付して図示している。図10A及び図10Bに示すように、形状モデル40は、x軸の座標が「1」及び「2」である2列がメッシュ411によって構成され、x軸の座標が「3」、「4」及び「5」である3列がメッシュ412によって構成され、x軸の座標が「6」及び「7」である2列がメッシュ413によって構成されている。
メッシュ411、412、413の靱性値は、例えば図1Aに示す一般的な亀裂進行解析方法のステップS603における処理や、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法のステップS103における処理で設定され得る。ここでは、簡単のため、メッシュ411、412、413の靱性値を、単純な整数値として設定した。具体的には、メッシュ411の靱性値を「2」、メッシュ412の靱性値を「1」、メッシュ413の靱性値を「4」に設定した。メッシュ410の靱性値は、実際には単位面積当たりの靱性値として設定され得るが、ここでは、簡単のため、互いに接する1対のメッシュ411、412、413同士を分離するために必要な靱性値として設定されたとする。
(2−3−1.一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷)
まず、図11A−図11Cを参照して、図10Bに示す形状モデル40の断面内における亀裂の進行を、図1A及び図1Bに示す一般的な亀裂進行解析方法の処理フローによって解析する場合について説明する。図11A−図11Cは、一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷について説明するための説明図である。図11A−図11Cは、図10Bに示す断面と同じ断面を示しており、当該断面において亀裂が進行していく様子を示している。なお、上記(1−1.一般的な亀裂進行解析方法における処理手順)で説明したように、一般的な亀裂進行解析方法での計算負荷においては、FEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算における計算負荷が支配的になる。従って、ここでは、FEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算に注目して、計算負荷の違いについて説明する。
上記(1−1.一般的な亀裂進行解析方法における処理手順)で説明したように、一般的な亀裂進行解析方法においては、亀裂の進行方向において亀裂前縁と隣接する全てのノードの各々に対して弾性エネルギー解放率が計算される。従って、図10Bに示す亀裂前縁422を初期亀裂前縁として、1ステップ目の亀裂の進行を解析する場合には、図11Aに示すように、メッシュ(1,2)〜メッシュ(7,2)のそれぞれについて、メッシュ410同士をy軸方向に分離した場合(すなわち、メッシュ(1,2)〜メッシュ(7,2)のそれぞれで亀裂が進行した場合)の弾性エネルギー解放率が計算される。図10Aでは、弾性エネルギー解放率の計算対象であるメッシュ410の輪郭を太線で図示するとともに、順に計算が行われることを示す破線の矢印を亀裂前縁422に沿って図示している。このように、一般的な亀裂進行解析方法では、1ステップ目において、亀裂前縁422と隣接する7個のメッシュ(1,2)〜メッシュ(7,2)に対して、計7回のFEM計算が行われる。
図11Aに示すメッシュ(1,2)〜メッシュ(7,2)に対する亀裂進行評価関数pの計算の結果、例えば、メッシュ(3,2)に対応する亀裂進行評価関数pの値が最も大きくなったとする。この場合、メッシュ(3,2)において亀裂を進行させた、新しい亀裂前縁422に対して、2ステップ目の亀裂進行解析が行われる。2ステップ目における形状モデル40を図11Bに示す。2ステップ目では、新しい亀裂前縁422と亀裂進行方向において隣接する全てのノードに対して弾性エネルギー解放率が計算される。従って、2ステップ目においては、亀裂前縁422と隣接する7個のメッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)、メッシュ(3,3)、メッシュ(4,2)、メッシュ(5,2)、メッシュ(6,2)、メッシュ(7,2)に対して、計7回のFEM計算が行われる。
以下、同様に、亀裂前縁の更新と、更新された亀裂前縁と亀裂進行方向において隣接するノードに対する弾性エネルギー解放率の計算が繰り返される。例えば、4ステップ目が終了した時点での亀裂前縁422の様子を、図11Cに示す。図11Cに示すように、4ステップ目が終了した段階では、図11Aに示す初期の亀裂前縁422から、メッシュ410が4つ分、亀裂が進行している。上述したように、一般的な亀裂進行解析方法においては、1回のステップで、亀裂前縁422と隣接する7つのメッシュ410に対する7回の弾性エネルギー解放率の計算が行われるため、図11Aに示す状態から、図11Cに示す状態にまで亀裂を進行させるために、計28回のFEM計算を要することとなる。
(2−3−2.第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷)
次に、図12A−図12Eを参照して、図10Bに示す形状モデル40の断面内における亀裂の進行を、図3A及び図3Bに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法の処理フローによって解析する場合について考える。図12A−図12Eは、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷について説明するための説明図である。図12A−図12Eは、図10Bに示す断面と同じ断面を示しており、当該断面において亀裂が進行していく様子を示している。
上記(2−1.第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順)で説明したように、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法においては、設定された総靱性エネルギーに適合する亀裂前縁候補が抽出され、抽出された亀裂前縁候補に対してFEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算が行われる。今、例えば、図3Aに示すステップS109における処理において、総靱性エネルギーが「4」と設定されたとする。この場合、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法では、ステップS111において、総靱性エネルギーが「4」となるような亀裂前縁候補が、上述した2つの条件(亀裂前縁の連続性についての条件及び亀裂の進行前後における連続性についての条件)を考慮した上で抽出される。これら2つの条件を踏まえた亀裂前候補の抽出処理については、上記(2−2.亀裂前縁候補の抽出処理)で説明しているため、詳細な説明は省略する。
図10Bに示す亀裂前縁422を初期亀裂前縁として亀裂前縁候補が抽出された場合、例えば、図12A−図12Eに示す亀裂前縁候補が抽出され得る。図12A−図12Eは、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法において、1ステップ目に抽出され得る亀裂前縁候補423を示している。図12Aに示す亀裂前縁候補423は、図10Bに示す初期の亀裂前縁422に対して、靱性値の設定値が「2」であるメッシュ(1,2)、メッシュ(2,2)に対応する箇所に亀裂面421が進行することにより形成されている。図12Bに示す亀裂前縁候補423は、図10Bに示す初期の亀裂前縁422に対して、靱性値の設定値が「2」であるメッシュ(2,2)と、靱性値の設定値が「1」であるメッシュ(3,2)、メッシュ(4,2)に対応する箇所に亀裂面421が進行することにより形成されている。図12Cに示す亀裂前縁候補423は、図10Bに示す初期の亀裂前縁422に対して、靱性値の設定値が「1」であるメッシュ(3,2)、メッシュ(4,2)、メッシュ(5,2)、メッシュ(4,3)に対応する箇所に亀裂面421が進行することにより形成されている。図12Dに示す亀裂前縁候補423は、図10Bに示す初期の亀裂前縁422に対して、靱性値の設定値が「4」であるメッシュ(7,2)に対応する箇所に亀裂面421が進行することにより形成されている。図12Eに示す亀裂前縁候補423は、図10Bに示す初期の亀裂前縁422に対して、靱性値の設定値が「4」であるメッシュ(6,2)に対応する箇所に亀裂面421が進行することにより形成されている。
このように、図12A−図12Eに示す亀裂前縁候補423は、図10Bに示す初期の亀裂前縁422からそれぞれの亀裂前縁候補423に亀裂が進行する際にメッシュ410同士をy軸方向に分離するための靱性エネルギーの総和(すなわち、総靱性エネルギー)が、総靱性エネルギーの設定値である「4」となるように抽出されている。具体的には、初期亀裂前縁422と接するメッシュ410であって亀裂の進行方向に位置するメッシュ410に対して、分離した際の総靱性エネルギーが設定値である「4」となるようなメッシュ410の組み合わせが、上記の2つの条件を考慮した上で総当たり的に抽出されることにより、亀裂前縁候補423が抽出され得る。図12A−図12Eに示す例では、簡単のため、2次元方向に進行する亀裂について示しているが、3次元方向に進行する亀裂に対しても、同様に、分離した際の総靱性エネルギーが設定値となるようなメッシュ410の組み合わせが、上記の2つの条件を考慮した上で総当たり的に抽出されることにより、亀裂前縁候補423が抽出され得る。
第1の実施形態では、亀裂前縁を1ステップ分進行させる際に、図12A−図12Eに示す5つの亀裂前縁候補423のそれぞれに対してFEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算が行われる。そして、これらの亀裂前縁候補423のそれぞれに対して亀裂進行評価関数pが計算され、当該亀裂進行評価関数pを比較することにより、1ステップ後の亀裂前縁422が決定される。ここで、図12A−図12Eに示す亀裂前縁候補423のうち、例えば、図12Cに示す亀裂前縁候補423が、1ステップ後の亀裂前縁422として決定されたとする。本実施形態に係る亀裂進行解析方法では、1回のステップで、図10Bに示す状態から図12Cに示す状態にまで亀裂面421を進行させることができ、その際に必要なFEM計算の回数は、各亀裂前縁候補423に対して行われる5回だけである。
ここで、図12Cに示す亀裂面421は、図11Cに示す一般的な亀裂進行解析方法における4ステップ後の亀裂面421と同じ形状を有する。上述したように、一般的な亀裂進行解析方法では、図11Cに示す状態にまで亀裂面421を進行させるために、4回のステップを要し、計28回のFEM計算を行う必要があった。しかしながら、第1の実施形態では、同じ形状である図12Cに示す状態にまで亀裂面421を進行させるために、1回のステップで計5回のFEM計算を行えばよい。このように、第1の実施形態では、亀裂前縁候補を抽出し、抽出した亀裂前縁候補に対して亀裂進行評価関数を計算することにより、一般的な方法に比べて、計算時間を大幅に低減することが可能となる。従って、第1の実施形態では、弾性エネルギー解放率を用いた汎用性の高い解析方法を行いながら、計算負荷をより小さくすることが可能となる。
(3.第2の実施形態)
図13A、図13B及び図14を参照して、本開示の第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法(情報処理方法)における処理手順について説明する。図13A及び図13Bは、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順を示すフロー図である。図14は、図13Aに示す亀裂前縁候補抽出処理(S209)における処理手順を示すフロー図である。なお、図13A、図13B及び図14に示す各ステップにおける処理は、例えばPCやワークステーション等の各種の情報処理装置のプロセッサが、所定のプログラムに従って動作することにより実行され得る。
ここで、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法では、亀裂前縁候補を抽出する処理が、第1の実施形態とは異なる。また、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法では、2段階での亀裂進行解析処理が実行される。すなわち、まず、第1段階の解析処理として、構造体の表層領域における亀裂の進行が解析される。次いで、第2段階の解析処理として、当該表層領域での亀裂進行に基づいて、構造体の内部領域における亀裂の進行が解析される。ここで、表層領域とは、構造体の表面、又は、表面を含み当該表面から所定の深さに存在する層(以下、表面層とも呼称する。)を表す。また、内部領域とは、構造体の内部の領域であって、第1の解析処理において亀裂の進行が解析された表層領域と接する、所定の深さの領域のことを表す。第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法の処理手順は、上記の点以外は、上述した第1の実施形態と同様であるため、以下の第2の実施形態についての説明では、第1の実施形態との相違点について主に説明することとし、重複する事項については詳細な説明を省略する。
図13A及び図13Bを参照すると、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法においては、まず、解析対象の構造体を表す形状モデルが作成される(ステップS201)。次いで、ステップS201で作成した形状モデルに対して、構造体の材料に応じた各種の物性値が設定され(ステップS203)、初期亀裂前縁が設定される(ステップS205)。更に、亀裂の進行解析における各種の計算条件が設定される(ステップS207)。ステップS201〜S207に示す処理は、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS101〜SS07に示す処理と略同様であるため、詳細な説明は省略する。ただし、第2の実施形態では、ステップS207に示す処理において、メッシュの形成、外力因子条件の設定、エネルギー解放率の演算式の設定、亀裂進行評価関数の定義式の設定及び亀裂進行評価関数と比較されるしきい値Dの設定に加えて、後述するステップS209に示す亀裂前縁候補の抽出処理において用いられる、表面と平行な面内における角度r(以下、平行面内角度rとも呼称する。)及び表面と垂直な面内における角度u(以下、厚み方向面内角度uとも呼称する。)の変化範囲(振り幅)も設定されてよい。平行面内角度r及び厚み方向面内角度uの詳細については、図14を参照して後述する。
次に、亀裂前縁候補の抽出処理が行われる(ステップS209)。上述したように、第2の実施形態では、2段階での亀裂進行解析が実行される。具体的には、第1段階の解析処理として、形状モデルの表層領域における亀裂の進行が解析され、第2段階の解析処理として、第1段階の解析処理によって得られる表層領域の亀裂に基づいて、形状モデルの内部における亀裂の進行が解析される。ステップS209では、まず、第1段階の解析処理に対応して、形状モデルの表層領域における亀裂の進行を解析するための亀裂前縁候補が抽出される。なお、ステップS209に示す処理の詳細については、図14を参照して後述する。
次に、ステップS209で抽出された亀裂前縁候補の各々に対して、弾性エネルギー解放率δUeが計算される(ステップS211)。そして、算出された弾性エネルギー解放率δUeを用いて、抽出された亀裂前縁候補の各々に対して亀裂進行評価関数pが計算される(ステップS213)。ステップS209においてm個の亀裂前縁候補が抽出されたとすれば、ステップS213においては、m個の亀裂前縁候補に対するm個の亀裂進行評価関数p1〜pmが計算されることとなる。亀裂進行評価関数pは、例えば、弾性エネルギー解放率δUeと総靱性エネルギーGc・sとの比率、すなわち、p=(δUe)/(Gc・s)として定義される。総靱性エネルギーGc・sは、亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に必要な靱性エネルギーのことであり、例えばステップS209において亀裂前縁候補が抽出される際に計算される、亀裂の進行に伴って生じる分離面の面積sに、ステップS203において形状モデルの物性値を設定する際に設定される構造体の単位面積当たりの靱性値Gcを乗じることにより得られる。
次に、亀裂評価関数p1〜pmの値が比較され、その中で最大となるもの(pmax)が抽出される(ステップS215)。そして、値が最大である亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補において亀裂が進行するかどうかを判断するために、当該亀裂進行評価関数pmaxと所定の値Dとが比較される(ステップS217)。なお、以上説明したステップS211〜S217に示す処理は、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS113〜S119に示す処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
ステップS217においてpmax≧D=1であると判断された場合には、少なくとも当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補を実現するように、表層領域において亀裂が進行する可能性があることを示している。従って、pmax≧D=1であると判断された場合には、当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補を実現するように亀裂が表層領域で進行するとみなし、形状モデルにおいて当該亀裂前縁候補を実現するようにノード及びメッシュを開放し、亀裂を進行させる処理が行われる(ステップS219)。
次に、ステップS219において亀裂前縁候補に対応するノード及びメッシュが開放されたことにより、亀裂が形状モデルの端まで到達したかどうかが判断される(ステップS221)。亀裂が形状モデルの端まで到達していない場合には、当該方向にまだ亀裂が進行する可能性がある。従って、ステップS221において亀裂が形状モデルの端まで到達していないと判断された場合には、開放された箇所を含む新たな亀裂前縁が計算対象として再設定され(ステップS223)、新たな亀裂前縁に対して、ステップS209以降の、表層領域における亀裂の進行を解析する処理が繰り返し行われることとなる。一方、亀裂が形状モデルの端まで到達した場合には、当該方向へのそれ以上の亀裂の進行の解析は不可能である。この場合、ステップS225に進み、現在行っている亀裂進行解析が、第1段階の解析処理(すなわち、表層領域の亀裂進行解析処理)か、又は、第2段階の解析処理(すなわち、内部領域の亀裂進行解析処理)か、が判断される。ステップS221において亀裂が形状モデルの端まで到達したと判断され、かつ、ステップS225において現在行っている亀裂進行解析が第1段階の解析処理(表層領域の亀裂進行解析)であると判断された場合には、第1段階の解析処理は終了したと判断され、ステップS209に戻り、第2段階の解析処理が開始される。
一方、ステップS217においてpmax<D=1であると判断された場合には、ステップS225に進む。ステップS225では、上述したように、現在行っている亀裂進行解析が、第1段階の解析処理(すなわち、表層領域の亀裂進行解析処理)か、又は、第2段階の解析処理(すなわち、内部領域の亀裂進行解析処理)か、が判断される。ステップS217においてpmax<D=1であると判断された場合には、更なる外力が加えられる等外力因子条件が変更されない限り、現在考えている方向への亀裂はそれ以上進行し得ないと考えられる。従って、ステップS217においてpmax<D=1であると判断され、かつ、ステップS225において現在行っている亀裂進行解析が第1段階の解析処理(表層領域の亀裂進行解析)であると判断された場合には、第1段階の解析処理は終了したと判断され、ステップS209に戻り、第2段階の解析処理が開始される。
第2段階の解析処理では、ステップS209に示す亀裂前縁候補の抽出処理において、形状モデルの内部領域における亀裂の進行を解析するための亀裂前縁候補が抽出される。以降の処理は、第1段階の解析処理と同様である。すなわち、ステップS209で抽出された亀裂前縁候補の各々に対して、弾性エネルギー解放率δUe及び亀裂進行評価関数pが計算される(ステップS211、S213)。計算された例えばm個の亀裂評価関数p1〜pmの値が比較され、その中で最大となるもの(pmax)が抽出される(ステップS215)。そして、値が最大である亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補において亀裂が進行するかどうかを判断するために、当該亀裂進行評価関数pmaxと所定の値Dとが比較される(ステップS217)。
ステップS217においてpmax≧D=1であると判断された場合には、内部領域における亀裂がまだ進行する可能性があることを示しているため、当該亀裂進行評価関数pmaxに対応する亀裂前縁候補を実現するように亀裂が内部領域において進行するとみなし、形状モデルにおいて当該亀裂前縁候補を実現するようにノード及びメッシュを開放し、亀裂を進行させる処理が行われる(ステップS219)。そして、ステップS219において亀裂前縁候補に対応するノード及びメッシュが開放されたことにより、亀裂が形状モデルの端まで到達したかどうかが判断される(ステップS221)。亀裂が形状モデルの端まで到達していない場合には、当該方向にまだ亀裂が進行する可能性がある。従って、ステップS221において亀裂が形状モデルの端まで到達していないと判断された場合には、開放された箇所を含む新たな亀裂前縁が計算対象として再設定され(ステップS223)、新たな亀裂前縁に対して、ステップS209以降の、内部領域における亀裂の進行を解析する処理が繰り返し行われることとなる。
一方、亀裂が形状モデルの端まで到達した場合には、当該方向へのそれ以上の亀裂の進行の解析は不可能である。この場合、ステップS225に進み、現在行っている亀裂進行解析が、第1段階の解析処理(すなわち、表層領域の亀裂進行解析処理)か、又は、第2段階の解析処理(すなわち、内部領域の亀裂進行解析処理)か、が判断される。ステップS221において亀裂が形状モデルの端まで到達したと判断され、かつ、ステップS225において現在行っている亀裂進行解析が第2段階の解析処理(内部領域の亀裂進行解析)であると判断された場合には、第2段階の解析処理は終了したと判断され、一連の亀裂進行解析処理は終了する。
また、ステップS217においてpmax<D=1であると判断された場合には、外力因子条件が変更されない限り、内部領域における亀裂はそれ以上進行しないと考えられる。この場合、ステップS225に進み、同様に、現在行っている亀裂進行解析が、第1段階の解析処理(すなわち、表層領域の亀裂進行解析処理)か、又は、第2段階の解析処理(すなわち、内部領域の亀裂進行解析処理)か、が判断される。ステップS225において現在行っている亀裂進行解析が第2段階の解析処理(内部領域の亀裂進行解析)であると判断された場合には、第2段階の解析処理が終了したと判断され、一連の亀裂進行解析処理は終了する。
第2の実施形態では、第1の解析処理において計算対象となる亀裂前縁候補が存在しなくなるまで表層領域における亀裂進行に係る計算が行われ、次いで、第2の解析処理において計算対象となる亀裂前縁候補が存在しなくなるまで内部領域における亀裂進行に係る計算が行われることとなる。亀裂前縁候補が存在しなくなる状態とは、亀裂の進行が停止した場合(上述したステップS215においてpmax<D=1であると判断された場合)、又は、亀裂が形状モデルの端まで到達した場合(上述したステップS221において亀裂が形状モデルの端まで到達したと判断された場合)である。亀裂が形状モデルの端まで到達した場合には、亀裂の進行によって形状モデルが完全に分離されてしまった場合も含み得る。ただし、ステップS215においてpmax<D=1であると判断され亀裂の進行が停止した場合であっても、外力因子条件が変更された場合には、形状モデルにおける応力分布が変化し、弾性エネルギー解放率の値も変化し得るため、再度一連の処理が繰り返されてもよい。
次に、図14を参照して、図13Aに示す亀裂前縁候補抽出処理(S209)の処理手順について詳しく説明する。図14を参照すると、第2の実施形態に係る亀裂前縁候補抽出処理では、まず、第1段階の解析処理である、表層領域の亀裂進行解析が終了したかどうかが判断される(ステップS301)。ステップS301において表層領域の亀裂進行解析が終了していないと判断された場合には、ステップS303に進み、第1段階の解析処理を実行するために、表層領域において亀裂が進行する際の亀裂前縁候補が抽出される。
第1段階の解析処理では、亀裂前縁から、構造体の表面と平行な面内における角度(平行面内角度r)が探索されることにより、亀裂前縁候補が抽出される。具体的には、まず、表層領域において、亀裂前縁から異なる平行面内角度rの方向に存在する複数のノードが、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するためのノード(探索ノード)として設定される(ステップS303)。そして、亀裂前縁と各探索ノードで形成される亀裂候補面の前縁が、それぞれ、亀裂前縁候補として設定される(ステップS305)。ステップS305において設定された亀裂前縁候補の各々に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211以降の処理が行われることになる。
一方、ステップS301において表面の亀裂進行解析が終了したと判断された場合には、ステップS307に進み、第2段階の解析処理を実行するために、内部領域における亀裂前縁候補が抽出される。第2段階の解析処理では、第1段階の解析処理によって得られる表層領域における亀裂上のノード(亀裂進行ノード)から、当該亀裂進行ノードを通り構造体の表面と略垂直な評価面内における角度(厚み方向面内角度u)を探索することにより、亀裂前縁候補が抽出される。
具体的には、まず、第1段階の解析処理の結果得られた表層領域の亀裂進行順に従って、当該表層領域での亀裂の進行を表すノード(亀裂進行ノード)が選択される(ステップS307)。そして、選択された亀裂進行ノードを通り、形状モデルの表面と略垂直な面(すなわち、形状モデルの厚み方向の面)が評価面として設定される(ステップS309)。
次に、設定された評価面(厚み方向の面)において、選択された亀裂進行ノードから異なる厚み方向面内角度uの方向に存在する複数のノードが、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するためのノード(探索ノード)として設定される(ステップS311)。そして、亀裂前縁と、亀裂進行ノードと、各探索ノードと、で形成される亀裂候補面の前縁が、それぞれ、亀裂前縁候補として設定される(ステップS313)。ステップS313において設定された亀裂前縁候補の各々に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211以降の処理が行われることになる。なお、ステップS303、S305に示す第1段階の解析処理での表層領域における亀裂前縁候補の抽出処理、及び、ステップS307〜S313に示す第2段階の解析処理での内部領域における亀裂前縁候補の抽出処理については、図15−図18Eを参照して、詳しく後述する。
以上、図13A、図13B及び図14を参照して、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法の処理手順について説明した。以上説明したように、第2の実施形態では、2段階での亀裂解析処理が行われる、具体的には、まず、第1段階の解析処理として、表層領域における亀裂の解析が行われた後に、当該表層領域での亀裂に基づいて、内部領域における亀裂の解析が行われる。また、第1段階の解析処理では、平行面内角度rが変更されることによって亀裂前縁候補を探索するための探索ノードが選択され、第2段階の解析処理では、厚み方向面内角度uが変更されることによって探索ノードが選択される。
ここで、一般的な亀裂進行解析方法においては、亀裂進行方向において亀裂前縁に隣接する全てのノード(構造体の構造上取り得る全てのノード)を順次開放し、その都度弾性エネルギー解放率δUeの計算を行っていた。いわば、亀裂進行方向において亀裂前縁に隣接する全てのノードが探索ノードとして選択されることとなる。
一方、上述したように、第2の実施形態によれば、第1段階の解析処理では平行面内角度rの方向に存在する探索ノードのみが選択され、第2段階の解析処理では厚み方向面内角度uの方向に存在する探索ノードのみが選択される。従って、第2の実施形態では、選択される探索ノードの数が、一般的な亀裂進行解析方法に比べて少なくなる。よって、探索ノードに応じて抽出される亀裂前縁候補に対して実行される、FEM計算を伴う弾性エネルギー解放率δUeの計算回数を少なくすることができ、計算負荷を低減することができる。このように、第2の実施形態によれば、3次元方向の亀裂進行解析のような、従来は計算負荷が大きく実行が困難であった解析も行うことが可能となる。また、弾性エネルギー解放率δUeを用いた亀裂進行解析方法は、例えば異種材料が複合された構造体における当該異種材料間を貫通して進行する亀裂や、界面での剥離等の解析にも適用可能な高い汎用性を有する方法であるため、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、高い汎用性を維持しつつ、計算負荷のより小さい亀裂進行解析が実現される。
なお、構造体における亀裂の進行では、一般的に、表層領域における亀裂の進行が、内部の亀裂の進行に与える影響が大きいと考えられる。例えば、構造体の表面にクラック等が生じた場合には、当該クラックを基点として亀裂が進行する可能性が高い。第2の実施形態では、第1段階の解析処理として、より影響の大きい表層領域における亀裂の進行が解析され、次いで、その表層領域における亀裂の進行に基づいて、内部領域における亀裂の進行が解析されることにより、領域を分割して2段階で亀裂の進行が解析される場合であっても、精度を低下させることなく解析を行うことが可能となる。
また、上記の説明においては、表層領域を、構造体の表面又は表面から所定の深さの領域を表す言葉として用いていたが、第2の実施形態はかかる例に限定されない。表層領域は、例えば、異種材料間の界面又は界面から一の材料に対して所定の深さの領域を表していてもよい。構造体の表面を異種材料間の界面とみなして表層領域を設定して、上述した第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法を実行することにより、構造体が異種材料の組み合わせによって構成される場合において、その材料間の界面近傍における亀裂の進行をより小さい計算負荷で解析することが可能となる。
(3−2.亀裂前縁候補の抽出処理)
次に、図14を参照して説明した、第2の実施形態に係る亀裂前縁候補の抽出処理について、図15−図18Eを参照してより詳細に説明する。ここで、第2の実施形態では、第1段階の解析処理である表層領域における亀裂進行解析を行う際に、形状モデルの表面における亀裂の進行を解析する方法と、形状モデルを複数層に分割し、その最上層である表面層における亀裂の進行を解析する方法と、のいずれかを行うことができる。いずれの方法においても、表面又は表面層での亀裂の進行に基づいて、第2段階の解析処理である内部領域における亀裂進行解析が行われる。以下では、これら2つの方法について順に説明する。
(3−2−1.表面における亀裂の進行を解析する方法)
まず、図15及び図16A−図16Fを参照して、第1段階の解析処理において、表面における亀裂の進行を解析する方法について説明する。図15は、表面における亀裂進行解析処理について説明するための構造体の形状モデルを示す概略図である。図16A−図16Fは、図15に示す形状モデルに対する、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法について説明するための説明図である。
図15は、構造体の形状モデルの斜視図である。図15を参照すると、形状モデル50は、複数のメッシュによって構成された直方体形状を有する。ただし、図面が煩雑になることを避けるために、図15及び図16A−図16Fでは、メッシュを示す線については図示を省略し、メッシュ間に存在し得るノードについても説明に必要なもの以外は図示を省略している。
形状モデル50の一部には亀裂が生じており、図15では、当該亀裂面520がハッチングによって図示されている。図15に示す例では、亀裂面520は、形状モデル50において、y−z平面と略平行な面として存在している。また、図15では、亀裂面520を構成するノード522を図示している。ノード522のうち、表面530と同一平面上に位置するノード522を白抜きの丸印で図示し、表面530以外に位置するノード522にハッチングを付して図示している。なお、図15に示す例では、形状モデル50の表面として表面530を図示しているが、表面530を構造体における異種材料間の界面とみなすこともできる。また、亀裂面520のz軸の正方向の端には亀裂前縁521が存在する。図15では、亀裂前縁521を含む、亀裂面520の縁を構成する線を破線で図示している。
図16A−図16Fを参照して、形状モデル50において亀裂が進行する様子を示しながら、図13A、図13B及び図14を参照して説明した第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法について改めて詳しく説明する。図15に示す亀裂前縁521を初期亀裂前縁として、図15に示す状態から亀裂が進行する場合について考える。上述したように、第2の実施形態では、第1段階の解析処理として、表層領域、すなわち、図15に示す例では表面530における亀裂進行解析が行われる。
表面530における亀裂進行解析では、図16Aに示すように、表面530上のノードであって、初期亀裂前縁521からの表面530内での角度(平行面内角度r)が異なる複数のノードが、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するためのノード523a(探索ノード523a)として設定される(図14に示すステップS303における処理に対応)。探索ノード523aは、例えば、亀裂の進行方向において亀裂前縁521と隣接するノード(すなわち、1メッシュ分隣りに位置するノード)であってよい。なお、平行面内角度rは、表面530と平行な面(x−z平面)内における角度であるため、以下では、平行面内角度rのことを、x−z平面内角度rとも呼称する。また、図16A−図16F及び後述する図18A−図18Eに示す例では、z軸方向に対する角度として平行面内角度rを定義しているが、平行面内角度rの基準となる方向は、x−z平面と平行な方向の中から適宜設定されてよい。
図16Aでは、概略的に、5個の異なる平行面内角度rの方向に対応する5個の探索ノード523aを図示している。ただし、実際には、より一般的に、i個(iは任意の自然数)の平行面内角度r1〜riに対応するi個の探索ノード523aが設定されてよい。初期亀裂前縁521と各探索ノード523aとで形成される亀裂候補面の前縁が、それぞれ、亀裂前縁候補として設定される(図14に示すステップS305における処理に対応)。そして、各亀裂前縁候補に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211〜S217に示す処理が実行されることにより、1ステップ後の亀裂前縁が決定されることになる。
図16Bは、図15に示す初期亀裂前縁521から、表面530において1ステップ分亀裂が進行した場合における亀裂面520及び亀裂前縁521を図示している。1ステップ後の亀裂前縁521は、図16Bに示すように、亀裂進行前の初期亀裂前縁521から、亀裂進行評価関数pに基づいて亀裂が進行すると判断された探索ノード523aに至るまでのノード及びメッシュ(図示せず。)が開放されたものとなる。図16Bに示す亀裂前縁521に対しても同様に、表面530上のノードであって亀裂前縁521からの平行面内角度rが異なる複数のノードが、探索ノード523bとして設定され、亀裂前縁521と各探索ノード523bとで形成される亀裂候補面の前縁が、それぞれ、亀裂前縁候補として設定される。そして、各亀裂前縁候補に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211〜S217に示す処理が実行されることにより、1ステップ後の亀裂前縁が決定される。図16Cは、図16Bに示す亀裂前縁521から、表面530において1ステップ分亀裂が進行した場合における亀裂前縁を図示している。
以下、同様の処理が、図13Bに示すS217に示す処理又はS221に示す処理において亀裂の進行が終了したと判断されるまで繰り返し実行される。例えば、亀裂が形状モデル50の端に到達するまで表面530における亀裂進行解析処理が実行された場合には、図16Dに示すように、形状モデル50の表面530上における亀裂540の形状が算出されることとなる。このように、表面530における亀裂の進行を解析する方法では、第1段階の解析処理が終了した段階では、表面530上における亀裂540の形状が算出され得る。なお、図16Dに示す表面530上の亀裂540を構成する各ノードは、表面530における亀裂の進行を表すノードであることから、これらのノードのことを、説明のため便宜的に、亀裂進行ノード524とも呼称する。
第1段階の解析処理が終了すると、次いで、第2段階の解析処理として、形状モデル50の内部領域における亀裂の進行が解析される。内部領域における亀裂進行解析では、図16Eに示すように、第1段階の解析処理の結果求められた表面530における亀裂540の進行順に従って、当該表面530での亀裂540の進行を表す亀裂進行ノード524が選択される(図14に示すステップS307における処理に対応)。そして、選択された亀裂進行ノード524を通り、表面530と略垂直な、形状モデル50の厚み方向の面が、評価面550として設定される(図14に示すステップS309における処理に対応)。図16Eでは、評価面550にハッチングを付して図示している。なお、図16Eに示す例では、評価面550を、x−y平面と平行な面として図示しているが、第2の実施形態はかかる例に限定されない。評価面550は、表面530と略垂直な面であればよく、その面の方向は任意であってよい。例えば、評価面550は、表面530と略垂直で、かつ、亀裂540の進行方向と略垂直な面として設定されてもよい。
次に、設定された評価面550上のノードであって、選択された亀裂進行ノード524からの当該評価面550上における角度(厚み方向面内角度u)が異なる複数のノードが、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するためのノード525a(探索ノード525a)として設定される(図14に示すステップS311における処理に対応)。厚み方向面内角度uは、表面530と垂直な面(x−y平面)内における角度であるため、以下では、厚み方向面内角度uのことを、x−y平面内角度uとも呼称する。また、図16A−図16F及び後述する図18A−図18Eに示す例では、y軸方向に対する角度として厚み方向面内角度uを定義しているが、厚み方向面内角度uの基準となる方向は、x−y平面と平行な方向の中から適宜設定されてよい。
図16Eでは、概略的に、5個の異なる厚み方向面内角度uの方向に対応する5個の探索ノード525aを図示している。ただし、実際には、より一般的に、j個(jは任意の自然数)の平行面内角度um〜ujに対応するj個の探索ノード525が設定されてよい。亀裂前縁521と、亀裂進行ノード524と、各探索ノード525と、で形成される亀裂候補面における前縁が、それぞれ、亀裂前縁候補として設定される(図14に示すステップS313における処理に対応)。各亀裂前縁候補に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211〜S217に示す処理が実行されることにより、1ステップ後の亀裂前縁が決定されることになる。
図16Fは、図16Dに示す初期亀裂前縁521から、内部領域において1ステップ分亀裂が進行した場合における亀裂面520及び亀裂前縁521を図示している。1ステップ後の亀裂前縁521は、図16Fに示すように、初期亀裂前縁521から、選択された亀裂進行ノード524、及び、亀裂進行評価関数pに基づいて亀裂が進行すると判断された探索ノード525aに至るまでのノード及びメッシュ(図示せず。)が開放されたものとなる。以下、同様の処理が、表面530における亀裂540の進行順に従って、各亀裂進行ノード524に対して実行される。図16Fでは、次の亀裂進行ノード524に対して、同様に、評価面550が設定され、当該評価面内において当該亀裂進行ノード524からの厚み方向面内角度uが異なる複数の探索ノード525bが設定された様子を図示している。
以上の内部領域における亀裂の進行解析処理が、図13Bに示すS217に示す処理又はS221に示す処理において亀裂の進行が終了したと判断されるまで繰り返し実行されることにより、第2段階の解析処理が終了し、一連の亀裂進行解析処理が終了することとなる。以上、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法において、表面530における亀裂の進行を解析する方法について説明した。
なお、表面530における亀裂解析処理においては、1メッシュごとに亀裂の進行が解析されなくてもよい。例えば、図16Aに示す探索ノード523aは、亀裂前縁521から1メッシュ分離れたノードであってもよいし、任意のメッシュ分離れた位置に存在するノードであってもよい。表面530における亀裂解析処理において、1ステップ分の亀裂の進行量は、ユーザによって任意に設定可能であってよい。これにより、亀裂進行解析の分解能を向上させたい場合には、1ステップでの進行量を細かく設定し、亀裂進行解析に掛かる計算時間を短縮したい場合には、1ステップでの進行量を粗く設定する等、ユーザの用途に応じた亀裂進行解析が実現される。
また、表面530における亀裂解析処理に対して、第1の実施形態における亀裂前縁候補の抽出処理が組み合わされてもよい。例えば、図16Aに示す場合であれば、第1の実施形態と同様に、1ステップ分の亀裂の進行量を規定する総靱性エネルギーの範囲が設定され、亀裂前縁521から亀裂が進行した際の靱性エネルギーが当該総靱性エネルギーの範囲に収まるようなノードが、探索ノード523aとして設定されてもよい。
(3−2−2.表面層における亀裂の進行を解析する方法)
次に、図17及び図18A−図18Eを参照して、第1段階の解析処理において、形状モデルを複数層に分割し、その表面層における亀裂の進行を解析する方法について説明する。図17は、表面層における亀裂進行解析処理について説明するための構造体の形状モデルを示す概略図である。図18A−図18Eは、図17に示す形状モデルに対する、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法について説明するための説明図である。
図17は、構造体の形状モデルの斜視図である。図17を参照すると、形状モデル60は、複数の層が積層されて構成される。説明のため便宜的に、最も上層を第1の層640と呼称し、上から2番目の層を第2の層641と呼称し、上から3番目の層を第3の層642と呼称することとする。第1の層640は、形状モデル60の表面領域に対応する層である。以下では、第1の層640のことを表面層640とも呼称する。表面層640の上面は、表面630に対応する。また、表面層640と第2の層641との間の平面を第2の面631と呼称し、第2の層641と第3の層642との間の平面を第3の面632と呼称することとする。図17では、図面を理解しやすくするために、第2の面631にハッチングを付している。表面層640、第2の層641及び第3の層642は、複数のメッシュによって構成され得るが、図面が煩雑になることを避けるために、図17及び図18A−図18Eでは、メッシュを示す線については図示を省略している。また、図17及び図18A−図18Eでは、メッシュ間に存在し得るノードについても説明に必要なもの以外は図示を省略している。
形状モデル60の一部には亀裂が生じており、図17では、当該亀裂面620がハッチングによって図示されている。図17に示す例では、亀裂面620は、表面層640及び第2の層641に跨って、y−z平面と略平行な面として存在している。また、図17では、亀裂面620を構成するノード622を図示している。ノード622のうち、表面層640に位置するノード622を白抜きの丸印で図示し、表面層640以外に位置するノード622にハッチングを付して図示している。なお、図17に示す例では、形状モデル60の表面層として表面層640を図示しているが、表面層640を構造体における異種材料間の界面を構成する層とみなすこともできる。また、亀裂面620のz軸の正方向の端には亀裂前縁621が存在する。図17では、亀裂前縁621を含む、亀裂面620の縁を構成する線を破線で図示している。
図18A−図18Eを参照して、形状モデル60において亀裂が進行する様子を示しながら、図13A、図13B及び図14を参照して説明した第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法について改めて詳しく説明する。図17に示す亀裂前縁621を初期亀裂前縁として、図17に示す状態から亀裂が進行する場合について考える。上述したように、第2の実施形態では、第1段階の解析処理として、表層領域、すなわち、図17に示す例では表面層640における亀裂進行解析が行われる。
表面層640における亀裂進行解析では、図18Aに示すように、表面層640内のノードであって、初期亀裂前縁621からの表面630内での角度(平行面内角度r)が異なる複数のノードが、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するためのノード623a、623b(探索ノード623a、623b)として設定される(図14に示すステップS303における処理に対応)。ここで、表面層640における亀裂進行解析においては、探索ノード623a、623bとして、表面層640の両面に位置する2つの探索ノード623a、623b、すなわち、表面630上の探索ノード623a(便宜的に、第1探索ノード623aとも呼称する。)と、第2の面631上の探索ノード623b(便宜的に、第2探索ノード623bとも呼称する。)が設定される。第1探索ノード623a及び第2探索ノード623bは、第1探索ノード623aと第2探索ノード623bとを結んだ線分が表面630に対して略垂直になるように設定されてよい。なお、図18Aでは、1組の探索ノード623a、623bのみを図示しているが、実際には、k個(kは任意の自然数)の平行面内角度r1〜rkに対応するk組の探索ノードが設定されてよい。また、第1探索ノード623aと第2探索ノード623bは、例えば、亀裂の進行方向において亀裂前縁621と隣接するノード(すなわち、1メッシュ分隣りに位置するノード)であってよい。
そして、初期亀裂前縁621と、第1探索ノード623aと、第2探索ノード623bとで形成される亀裂候補面650の前縁が、亀裂前縁候補624として抽出される(図14に示すステップS305における処理に対応)。第1探索ノード623a及び第2探索ノード623bが、第1探索ノード623aと第2探索ノード623bとを結んだ線分が表面630に対して略垂直になるように設定され得るため、亀裂候補面650は、表面630に対して略垂直な面であり得る。
互いに異なる複数の平行面内角度rに対して、複数の亀裂前縁候補624が抽出され得る。抽出された各亀裂前縁候補624に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211〜S217に示す処理が実行されることにより、1ステップ後の亀裂前縁621が決定されることになる。
例えば、図18Aに示す亀裂前縁候補624が、1ステップ後の亀裂前縁621として選択されたとする。亀裂進行前の初期亀裂前縁621から、図18Aに示す亀裂前縁候補624を構成する第1探索ノード623a及び第2探索ノード623bに至るまでのノード及びメッシュ(図示せず。)が開放されることにより、新たな亀裂前縁621が形成される。図18Bに示すように、新たな亀裂前縁621に対して、当該亀裂前縁621からの平行面内角度rが異なる複数のノードの組が、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するための探索ノードとして設定され、各探索ノードの組に対応する複数の亀裂前縁候補624に対して、亀裂進行評価関数pに基づく亀裂の進行解析が実行されることとなる。図18Bでは、一例として、1組の探索ノード623c、623d、及び、亀裂前縁621と、第1探索ノード623aと、第2探索ノード623bとで形成される亀裂候補面650を図示している。亀裂候補面650の前縁が亀裂前縁候補624となる。
以下、同様の処理が、図13Bに示すS217に示す処理又はS221に示す処理において亀裂の進行が終了したと判断されるまで繰り返し実行される。例えば、亀裂が形状モデル60の端に到達するまで表面層640における亀裂進行解析処理が実行された場合には、図18Cに示すように、形状モデル60の表面層640における亀裂面620の形状が算出されることとなる。このように、表面層640における亀裂の進行を解析する方法では、第1段階の解析処理が終了した段階では、表面層640内における亀裂面620の形状が算出されることとなる。なお、図18Cに示す表面層640内の亀裂面620を構成する各ノードは、表面層640における亀裂面620の進行を表すノードであることから、これらのノードのことを、説明のため便宜的に、亀裂進行ノード625とも呼称する。
第1段階の解析処理が終了すると、次いで、第2段階の解析処理として、形状モデル60の内部領域における亀裂の進行が解析される。ここで、内部領域における亀裂進行解析では、第2の層641における亀裂の進行が解析され得る。内部領域における亀裂進行解析では、図18Dに示すように、第1段階の解析処理の結果求められた表面層640における亀裂面620の進行順に従って、当該表面層640での亀裂面620の進行を表す亀裂進行ノード625であって、表面層640と第2の層641との境界面である第2の面631上の亀裂進行ノード625が選択される(図14に示すステップS307における処理に対応)。そして、選択された亀裂進行ノード625を通り、表面630と略垂直な、形状モデル60の厚み方向の面が、評価面として設定される(図14に示すステップS309における処理に対応)。そして、設定された評価面上のノードであって、選択された亀裂進行ノード625からの当該評価面上における角度(厚み方向面内角度u)が異なる複数のノードが、1ステップ分進行後の亀裂前縁を探索するためのノード626(探索ノード626)として設定される(図14に示すステップS311における処理に対応)。
なお、図面が煩雑になることを避けるために、図18Dでは、評価面の図示を省略しているが、当該評価面は、上述した図16Eに示す評価面550と同様に、例えばx−y平面と平行な面として設定される。ただし、第2の実施形態はかかる例に限定されず、評価面は、表面630と略垂直な面であればよく、その面の方向は任意であってよい。例えば、評価面は、表面630と略垂直で、かつ、亀裂面620の進行方向と略垂直な面として設定されてもよい。また、図18Dでは、1つの探索ノード626のみを図示しているが、実際には、l個(lは任意の自然数)の厚み方向面内角度u1〜ulに対応するl個の探索ノードが設定されてよい。
亀裂前縁621と、亀裂進行ノード625と、探索ノード626と、で形成される亀裂候補面650における前縁が、亀裂前縁候補624として抽出される(図14に示すステップS313における処理に対応)。なお、図18Dでは、1つの探索ノード626に対応する1つの亀裂前縁候補624のみを代表的に図示している。実際には、互いに異なる複数の厚み方向面内角度uに対して、複数の亀裂前縁候補624が抽出され得る。各亀裂前縁候補624に対して、図13A及び図13Bに示すステップS211〜S217に示す処理が実行されることにより、1ステップ後の亀裂前縁621が決定されることになる。
以上の内部領域における亀裂の進行解析処理が、図13Bに示すS217に示す処理又はS221に示す処理において亀裂の進行が終了したと判断されるまで繰り返し実行されることにより、第2段階の解析処理が終了し、一連の亀裂進行解析処理が終了することとなる。亀裂進行解析処理が終了した段階での亀裂面620の形状の一例を、図18Eに示す。なお、第2の層641における亀裂進行解析が終了した段階で、内部領域における亀裂進行解析が終了しなくてもよく、例えば図18Eに示す状態から、形状モデル60の内部における他の層(図示する例であれば第3の層642)に対して、更に同様に、亀裂の進行の解析処理が実行されてもよい。形状モデル60の厚み方向に対して順次解析処理を実行し、厚み方向においても亀裂の進行が終了した場合に、一連の亀裂進行解析が終了したと判断してもよい。
以上、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法において、表面層640における亀裂の進行を解析する方法について説明した。ここで、上記(3−2−2.表面層における亀裂の進行を解析する方法)で説明した方法では、第1の解析処理において、例えば図16Cに示すように、亀裂面520が高アスペクト比の三角形形状を含む可能性がある。このような形状の亀裂面520を有する形状モデル50に対してFEM計算を行うと、その亀裂面520の形状によっては、計算が収束しない恐れがある。一方、上述したような、第1段階の解析処理において表面層640における亀裂の進行を解析する場合には、第2の面631上の探索ノード(例えば図18A及び図18Bに示す623b、623d)が、いわば、表面領域と内部領域とを接続する接続用ノードの役割を果たす。このように、表面領域と内部領域とを接続する接続用ノードを設け、当該接続用ノードを用いて表面領域における亀裂の進行を解析することにより、FEM計算の週背億世を向上させ、より安定的な亀裂進行解析を行うことが可能となる。
なお、上記(3−2−1.表面における亀裂の進行を解析する方法)と同様に、表面層640における亀裂解析処理においては、1メッシュごとに亀裂の進行が解析されなくてもよい。例えば、図18Aに示す探索ノード623a、623bは、亀裂前縁621から1メッシュ分離れたノードであってもよいし、任意のメッシュ分離れた位置に存在するノードであってもよい。表面層640における亀裂解析処理において、1ステップ分の亀裂の進行量は、ユーザによって任意に設定可能であってよい。これにより、亀裂進行解析の分解能を向上させたい場合には、1ステップでの進行量を細かく設定し、亀裂進行解析に掛かる計算時間を短縮したい場合には、1ステップでの進行量を粗く設定する等、ユーザの用途に応じた亀裂進行解析が実現される。
また、表面層640における亀裂解析処理に対して、第1の実施形態における亀裂前縁候補の抽出処理が組み合わされてもよい。例えば、図18Aに示す場合であれば、第1の実施形態と同様に、1ステップ分の亀裂の進行量を規定する総靱性エネルギーの範囲が設定され、亀裂前縁621から亀裂が進行した際の靱性エネルギーが当該総靱性エネルギーの範囲に収まるようなノードが、探索ノード623a、623bとして設定されてもよい。
(3−3.計算負荷の比較)
ここで、図1A及び図1Bを参照して説明した一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷と、図13A及び図13Bを参照して説明した第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷との比較を行う。ここでは、一例として、図15に示す形状モデル50及び初期亀裂前縁521に対して、1ステップ分だけz軸方向に亀裂が進行する際における亀裂進行解析を例に挙げて、その計算負荷の違いについて説明を行う。
(3−3−1.一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷)
まず、図19A及び図19Bを参照して、図15に示す形状モデル50における亀裂の進行を、図1A及び図1Bに示す一般的な亀裂進行解析方法の処理手順に従って解析する場合について説明する。図19A及び図19Bは、一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷について説明するための説明図である。なお、上記(1−1.一般的な亀裂進行解析方法における処理手順)で説明したように、一般的な亀裂進行解析方法での計算負荷においては、FEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算における計算負荷が支配的なものとなる。従って、ここでは、FEMを用いた弾性エネルギー解放率の計算回数に注目して、計算負荷の違いについて説明する。
上記(1−1.一般的な亀裂進行解析方法における処理手順)で説明したように、一般的な亀裂進行解析方法においては、亀裂の進行方向において亀裂前縁と隣接する全てのノード(形状モデル50の構造上、亀裂前縁候補を形成し得る全てのノード)の各々に対して弾性エネルギー解放率が計算される。簡単のため、図19Aに示すように、亀裂の進行方向において亀裂前縁521と隣接するノード523a(探索ノード523a)が、表面530上に5つ、表面530以外の面に5つ、計10個存在するとする。この場合、一般的な亀裂進行解析方法では、表面530上に位置する各ノード523aと、表面530とは逆側の面に位置する各ノード523aと、の全ての組み合わせ(5×5=25通り)に対して、それぞれ亀裂進行評価関数pが計算されることとなる。従って、1ステップ分の亀裂の進行を解析するために、FEM計算は計25回実行されることとなる。このように、一般的な亀裂進行解析方法では、いわば、形状モデル50の構造上取り得る全ての亀裂前縁候補に対してFEM計算が計算されることとなるため、その計算負荷が大きなものとなり得る。一般的な各亀裂前縁候補に対して計算された亀裂進行評価関数pを評価した結果、例えば、図19Bに示す亀裂面520が、進行後の亀裂面として算出されたとする。
(3−3−2.第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷)
次に、図20A−図20Cを参照して、図15に示す形状モデル50における亀裂の進行を、図13A及び図13Bに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法の処理手順に従って解析する場合について説明する。図20A−図20Cは、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷について説明するための説明図である。ここでは、一例として、上記(3−2−1.表面における亀裂の進行を解析する方法)で説明した方法によって亀裂進行解析が行われる場合における計算負荷について説明する。
上記(3−1.第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における処理手順)で説明したように、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法においては、第1段階の解析処理として、形状モデル50の表層領域(例えば表面530)における亀裂の進行が解析され、第2段階の解析処理として、形状モデル50の内部領域における亀裂の進行が解析される。
まず、第1段階の解析処理では、図20Aに示すように、表面530上において、亀裂前縁521から異なる平行面内角度rに位置する複数のノード523aが、進行後の亀裂前縁を探索するための探索ノード523aとして設定される。そして、亀裂前縁521と各探索ノード523aと、で形成される亀裂候補面の前縁が、それぞれ、亀裂前縁候補として設定される。上記(3−3−1.一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷)と同様に、亀裂の進行方向において亀裂前縁521と隣接するノード523aが、表面530上に5つ、表面530とは逆側の面に5つ、計10個存在する場合であれば、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法では、第1段階の解析処理において、亀裂前縁候補が5個抽出されることとなる。これら5個の亀裂前縁候補に対して、それぞれ亀裂進行評価関数pが計算されることとなるため、第1段階の解析処理では、FEM計算は5回実行されることとなる。
第1段階の解析処理、すなわち、表面530における亀裂進行解析処理が終了した段階における亀裂面520の一例を、図20Bに示す。第2の実施形態では、図20Bに示す状態に対して、第2段階の解析処理、すなわち、形状モデル50の内部領域における亀裂の進行が解析される。具体的には、図20Cに示すように、表面530上における亀裂540の進行を表す亀裂進行ノード524が選択され、選択された亀裂進行ノード524を通り、表面530と略垂直な形状モデル50の厚み方向の面が評価面550として設定される。そして、当該評価面550内のノードであって、選択された亀裂進行ノード524からの厚み方向面内角度uが異なる複数のノードが、進行後の亀裂前縁を探索するための探索ノード525aとして設定される。
図20Cに示す例では、5つの探索ノード525aが設定され得る。従って、亀裂前縁521と、亀裂進行ノード524と、各探索ノード525aによって形成される各亀裂候補面に対応する、計5個の亀裂前縁候補が抽出されることとなる。これら5個の亀裂前縁候補に対して、それぞれ亀裂進行評価関数pが計算されることとなるため、第2段階の解析処理では、FEM計算は5回実行されることとなる。第2段階の解析処理が終了することにより、1ステップ分の亀裂の進行が解析されたこととなる。このように、第2の実施形態によれば、第1段階の解析処理において5回のFEM計算が行われ、第2段階の解析処理において5回のFEM計算が行われるため、1ステップ分の亀裂の進行を解析するために、計10回のFEM計算が実行されることとなる。
以上、同一の形状モデル50に対して1ステップ分の亀裂の進行を解析する際における計算負荷について、一般的な亀裂進行解析方法における計算負荷と、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法における計算負荷について説明した。以上説明したように、一般的な亀裂進行解析方法においては、1ステップ分の亀裂の進行を解析する際に、計25回のFEM計算を要した。一方、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法によれば、1ステップ分の亀裂の進行を解析する際に必要なFEM計算の回数を、計10回に低減することができる。
一般的な亀裂進行解析方法では、亀裂進行後の亀裂前縁を構成するノードとして、亀裂前縁と隣接する全てのノード(形状モデル50の構造上取り得る全てのノード)が選択され得る。これは、亀裂進行後の亀裂前縁を構成するノードを探索する際に、表面530と平行な面内における探索ノード523aの探索(すなわち、平行面内角度rを変化させることによる表面530における探索ノード523aの探索)と、形状モデル50の内部領域における探索ノード523aの探索(すなわち、厚み方向面内角度uを変化させることによる厚み方向面内における探索ノード523aの探索)と、が同時に総当たり的に行われることを意味する。従って、抽出される探索ノード253aの数が増加し、実行されるFEM計算の数も増加することとなる。一方、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法では、2段階で亀裂の進行が解析され、第1段階の解析処理では形状モデル50の表面530における亀裂の進行が解析され、第2段階の解析処理では第1段階の解析処理の結果を用いて形状モデル50の内部領域における亀裂の進行が解析される。従って、一般的な亀裂進行解析方法のように総当たり的に探索ノード523aが選択される場合に比べて、選択される探索ノード523aの数を絞り込むことができ、計算時間を大幅に低減することが可能となる。従って、第2の実施形態では、弾性エネルギー解放率を用いた汎用性の高い解析方法を行いながら、計算負荷をより小さくすることが可能となる。
(4.装置の構成)
次に、図21を参照して、以上説明した第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法を実現するための情報処理装置の構成について説明する。図21は、第1及び第2の実施形態に係る情報処理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図21を参照すると、第1及び第2の実施形態に係る情報処理装置10は、制御部110を備える。情報処理装置10は、例えばPCやワークステーション等の各種の情報処理装置であってよく、後述するハードウェア構成によって実現され得る。
なお、図21では、簡単のため、情報処理装置10が備える機能のうち、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法に関係する機能について主に図示し、その他の機能については図示を省略している。図示しない機能については、一般的な公知の情報処理装置が備える各種の機能と同様であってよいため、その詳細な説明は省略する。例えば、情報処理装置10は、図示しない機能として、ユーザが各種の情報を情報処理装置10に入力するためのマウス、キーボード、タッチパネル等によって構成される入力部、情報処理装置10において処理された各種の結果をユーザに対して視覚的に出力するためのディスプレイ装置等によって構成される表示部、各種のネットワークを介して情報処理装置10の外部の機器と各種の情報を送受信する通信部、及び/又は、情報処理装置10において処理される各種の情報を記憶するためのストレージ装置等によって構成される記憶部等を更に備えてもよい。
制御部110は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processing)等の各種のプロセッサによって構成され、所定のプログラムに従って各種の信号処理を行うことにより、情報処理装置10の動作を統合的に制御する。本実施形態では、制御部110によって、図3A及び図3Bに示すフロー図や、図13A、図13B及び図14に示すフロー図における各処理が実行され得る。図21を参照すると、制御部110は、その機能として、解析条件設定部111、亀裂前縁候補抽出部112、FEM計算部113、弾性エネルギー解放率計算部114及び亀裂前縁決定部118を有する。
解析条件設定部111は、本実施形態に係る一連の亀裂進行解析処理に必要な各種の解析条件を設定する。例えば、解析条件設定部111は、解析条件の設定処理として、解析対象の構造体を表す形状モデルの作成、構造体の物性値(弾性率、靱性値等)の設定、初期亀裂前縁の設定、形状モデルに対するメッシュの形成、弾性エネルギー解放率の演算式の設定、亀裂評価関数の定義式の設定、及び、外力因子条件等FEM計算に用いられる各種のパラメータの設定等の各処理を行う。また、第1の実施形態では、解析条件設定部111は、1ステップ後の亀裂前縁候補を抽出するための総靱性エネルギーを更に設定することができる。また、第2の実施形態では、解析条件設定部111は、1ステップ後の亀裂前縁候補を抽出するための、水平面内角度rや厚み方向面内角度uの変化範囲を更に設定することができる。このように、解析条件設定部111によって行われる処理は、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS101〜S109に対応する処理、又は、図13Aに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS201〜S207に示す処理に対応する。解析条件設定部111は、設定した解析条件についての情報を、亀裂前縁候補抽出部112に提供する。
なお、解析条件設定部111が設定する解析条件の具体的な内容は、例えば上述した入力部を介したユーザによる操作に基づいて情報処理装置10に入力されてもよいし、上述した通信部を介して外部の他の機器から情報処理装置10に入力されてもよい。情報処理装置10に入力された解析条件は、上述した記憶部に一旦記憶されてもよく、解析条件設定部111は、当該記憶部を参照することにより各種の解析条件を設定してもよい。また、解析条件設定部111が解析条件の設定を開始するタイミングは、例えば、ユーザによって上記入力部や上記通信部を介して亀裂進行解析を開始する旨の指示が情報処理装置10に対して入力されたタイミングであってよい。
亀裂前縁候補抽出部112は、設定された解析条件に基づいて、亀裂前縁候補を抽出する。亀裂前縁候補抽出部112は、構造体(形状モデル)の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす亀裂前縁候補を抽出することができる。
第1の実施形態では、亀裂前縁候補抽出部112は、複数のメッシュによって構成される構造体において、亀裂が進行する際に複数の前記メッシュ同士を分離するために必要な総靱性エネルギーが所定の範囲に含まれるような、亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する。また、第1の実施形態では、亀裂前縁候補抽出部112は、上記(2−2.亀裂前縁候補の抽出処理)で説明した2つの条件(亀裂前縁の連続性についての条件及び亀裂の進行前後における連続性についての条件)に基づいて、亀裂前縁候補を抽出することができる。
また、第2の実施形態では、亀裂前縁候補抽出部112は、第1の解析処理と、第2の解析処理とで、異なる条件に基づいて、亀裂前縁候補を抽出することができる。第1段階の解析処理では、亀裂前縁候補抽出部112は、構造体の表層領域において亀裂が進行する際の亀裂前縁候補を抽出する。具体的には、第1段階の解析処理では、亀裂前縁候補抽出部112は、亀裂進行前の亀裂前縁から、構造体の表面と平行な面内における角度(平行平面内角度r)を探索することにより、現在の亀裂前縁から互いに異なる複数の平行平面内角度rの方向に位置する表層領域のノードを探索ノードとして設定し、現在の亀裂前縁と当該探索ノードとで形成される亀裂候補面の前縁を亀裂前縁候補として抽出する。また、第2段階の解析処理では、亀裂前縁候補抽出部112は、第1段階の解析処理の結果得られる表層領域における亀裂に基づいて、構造体の内部領域において亀裂が進行する際の亀裂前縁候補を抽出する。具体的には、第2段階の解析処理では、亀裂前縁候補抽出部112は、表層領域における亀裂上のノード(亀裂進行ノード)から、当該亀裂進行ノードを通り構造体の表面と略垂直な評価面内における角度(厚み方向面内角度u)を探索することにより、当該亀裂進行ノードから互いに異なる複数の厚み方向面内角度uの方向に位置する構造体の内部領域のノードを探索ノードとして設定し、現在の亀裂前縁と亀裂進行ノードと探索ノードとで形成される亀裂候補面の前縁を亀裂前縁候補として抽出する。
亀裂前縁候補抽出部112によって行われる処理は、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS111に示す処理、又は、図13Aに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS209に示す処理(すなわち、図14に示す各処理)に対応する。亀裂前縁候補抽出部112は、抽出した亀裂前縁候補についての情報を、FEM計算部113及び弾性エネルギー解放率計算部114に提供する。
FEM計算部113は、弾性エネルギー解放率を計算するために、構造体に対してFEMを用いた応力解析を行う。具体的には、FEM計算部113は、亀裂前縁位置が初期亀裂前縁である状態に対して、所定の外力因子条件の下でFEMを用いて構造体における応力分布を計算することにより、亀裂前縁位置が初期亀裂前縁である状態において系全体が有する弾性エネルギーを算出する。また、FEM計算部113は、亀裂前縁位置が亀裂前縁候補である状態に対して、所定の外力因子条件の下でFEMを用いて構造体における応力分布を計算することにより、亀裂前縁位置が亀裂前縁候補である状態において系全体が有する弾性エネルギーを算出する。FEM計算部113は、これらの、算出された弾性エネルギーについての情報を含む、構造体に対する応力解析の結果についての情報を、弾性エネルギー解放率計算部114に提供する。なお、FEM計算部113によって行われるFEMを用いた応力解析には、一般的にFEMにおいて用いられる各種の公知の方法が適用されてよいため、その詳細な計算方法については説明を省略する。
弾性エネルギー解放率計算部114は、FEM計算部113による応力解析の結果に基づいて、抽出された亀裂前縁候補に示す状態にまで亀裂が進行する際に、当該メッシュ同士が分離されることにより解放される弾性エネルギーである弾性エネルギー解放率を計算する。具体的には、弾性エネルギー解放率計算部114は、亀裂前縁位置が初期亀裂前縁である状態において系全体が有する弾性エネルギーと、亀裂前縁位置が亀裂前縁候補である状態において系全体が有する弾性エネルギーとの差分を取ることにより、弾性エネルギー解放率を計算することができる。FEM計算部113及び弾性エネルギー解放率計算部114によって行われる処理は、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS113に示す処理、又は、図13Aに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS211に示す処理に対応する。弾性エネルギー解放率計算部114は、計算した弾性エネルギー解放率についての情報を、亀裂前縁決定部118に提供する。
亀裂前縁決定部118は、少なくとも弾性エネルギー解放率に基づいて、亀裂進行後の亀裂前縁を決定する。具体的には、亀裂前縁決定部118は、亀裂前縁候補抽出部112によって抽出された複数の亀裂前縁候補の中から、系全体のエネルギーの観点から最も実現可能性の高い亀裂前縁候補を選択することにより、亀裂進行後の亀裂前縁を決定することができる。また、亀裂前縁決定部118は、系全体のエネルギーの観点から、亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断することもできる。
亀裂前縁決定部118の機能についてより詳細に説明する。亀裂前縁決定部118は、その機能として、亀裂進行評価関数計算部115、亀裂進行評価関数評価部116及び亀裂進行判断部117を有する。
亀裂進行評価関数計算部115は、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて、前記亀裂前縁候補の実現可能性を表す指標である亀裂進行評価関数を計算する。亀裂前縁候補が複数存在する場合には、亀裂進行評価関数計算部115は、亀裂前縁候補の各々に対して亀裂進行評価関数を計算する。亀裂進行評価関数pは、解析条件設定部111によって設定される定義式に従って計算され得る。亀裂進行評価関数pは、例えば、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギー(すなわち、亀裂前縁候補まで亀裂を進行させるために必要な靱性エネルギー)との比率(p=(δUe)/(Gc・s))として定義されてよい。なお、亀裂進行評価関数pが、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの比率として計算される場合には、必要に応じて所定の係数が乗算されてもよい。亀裂進行評価関数計算部115は、亀裂前縁候補抽出部112によって抽出された亀裂前縁候補に基づいて亀裂が進行したことによって生じるメッシュ同士の分離面の面積を計算し、当該面積と解析条件設定部111によって設定される構造体における単位面積当たりの靱性値と、に基づいて当該亀裂前縁候補に対応する総靱性エネルギーを計算することにより、上記の亀裂進行評価関数pを計算することができる。このように、亀裂進行評価関数計算部115によって行われる処理は、図3Aに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS115に示す処理、又は、図13Aに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS213に示す処理に対応する。
ここで、第1及び第2の実施形態では、亀裂進行評価関数は上記の形式に限定されず、亀裂進行評価関数は、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの大小関係を比較し得る関数として定義されれば、上記以外の他の形式であってもよい。例えば、亀裂進行評価関数計算部115は、亀裂進行評価関数pを、弾性エネルギー解放率と総靱性エネルギーとの差分として計算してもよい。また、例えば構造体が単一材料によって構成される場合には、亀裂進行評価関数計算部115は、亀裂進行評価関数pを、弾性エネルギー解放率に基づいて、亀裂の進行有無及び亀裂の進行方向を判断し得る関数として計算してもよい。亀裂進行評価関数計算部115は、計算した亀裂進行評価関数についての情報を、亀裂進行評価関数評価部116に提供する。
亀裂進行評価関数評価部116は、計算された亀裂進行評価関数に基づいて、複数の亀裂前縁候補の中から、最も実現可能性が高い亀裂前縁候補を選択することにより、亀裂進行後の亀裂前縁を決定する。例えば、亀裂進行評価関数がp=(δUe)/(Gc・s)として計算される場合であれば、亀裂進行評価関数評価部116は、亀裂前縁候補の各々に対して計算された亀裂進行評価関数pの大小を比較し、その中から最もpの値が大きな亀裂前縁候補を、実現する可能性が最も高い亀裂前縁候補として選択する。このように、亀裂進行評価関数評価部116によって行われる処理は、図3Bに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS117に示す処理、又は、図13Bに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS215に示す処理に対応する。亀裂前縁候補抽出部112により亀裂前縁候補が1つしか抽出されなかった場合には、亀裂進行評価関数評価部116は、当該亀裂前縁候補を、実現する可能性が最も高い亀裂前縁候補として選択してもよい。また、亀裂進行評価関数の形式が異なる場合には、亀裂進行評価関数評価部116は、その亀裂進行評価関数の形式に応じた方法で、亀裂前縁候補のうちで最も実現可能性が高いものを適宜選択することができる。亀裂進行評価関数評価部116は、選択した最も実現可能性が高い亀裂前縁候補についての情報を、亀裂進行判断部117に提供する。
亀裂進行判断部117は、亀裂進行評価関数に基づいて、亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する。例えば、亀裂進行判断部117は、亀裂進行評価関数評価部116によって選択された、最も実現可能性が高い亀裂前縁候補について、当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する。具体的には、亀裂進行評価関数がp=(δUe)/(Gc・s)として計算される場合であれば、亀裂進行判断部117は、選択された亀裂前縁候補に対応するpの値が所定のしきい値D=1以上かどうかを判断することにより、当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断することができる。pの値がD=1以上である場合には、亀裂進行判断部117は、当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生すると判断し、解析条件設定部111に当該亀裂前縁候補についての情報を提供する。一方、pの値がD=1よりも小さい場合には、亀裂進行判断部117は、当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行は発生しないと判断し、その旨の情報及び解析が終了した旨の情報を、例えば上述した情報処理装置10の出力部に出力させてユーザに対して通知する。このように、亀裂進行判断部117は、弾性エネルギー解放率の値と総靱性エネルギーの値(すなわち、亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に必要な靱性エネルギーの値)とを比較することにより、当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断することができる。
亀裂進行判断部117によって行われる処理は、図3Bに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS119に示す処理、又は、図13Bに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS217に示す処理に対応する。なお、亀裂進行評価関数の形式が異なる場合には、亀裂進行判断部117は、その亀裂進行評価関数の形式に応じた方法で、亀裂前縁候補に従った亀裂進行の有無を適宜判断することができる。
なお、上記の例では、亀裂進行評価関数評価部116によって最も実現可能性が高い亀裂前縁候補が抽出された後に、亀裂進行判断部117によって当該亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかが判断される場合について説明したが、亀裂進行評価関数評価部116及び亀裂進行判断部117における処理の順番は逆であってもよい。すなわち、亀裂進行判断部117が、亀裂前縁候補抽出部112によって抽出された亀裂前縁候補の各々に対して、亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断した後に、亀裂進行評価関数評価部116が、亀裂の進行が発生すると判断された亀裂前縁候補の中から、最も実現可能性の高い亀裂前縁候補を選択してもよい。亀裂進行評価関数評価部116及び亀裂進行判断部117における処理の順番は、例えば計算負荷等を考慮して適宜設定されてよい。
亀裂進行判断部117が、亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生すると判断し、解析条件設定部111に当該亀裂前縁候補についての情報を提供した場合には、解析条件設定部111は、取得した情報に基づいて、当該亀裂前縁候補に対応するように構造体における亀裂を進行させ(すなわち、ノード、メッシュを開放し)、開放された箇所を含む新たな亀裂前縁を計算対象として再設定する。このように、解析条件設定部111は、図3Bに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS121、S125に示す処理、又は、図13Bに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS219、S223に示す処理を更に行う。亀裂前縁候補抽出部112、FEM計算部113、弾性エネルギー解放率計算部114及び亀裂前縁決定部118は、設定された新たな亀裂前縁に対して、上述した同様の処理を繰り返し実行する。
ここで、亀裂進行判断部117は、解析条件設定部111によって亀裂前縁候補に対応するように構造体における亀裂が進行された段階で、亀裂が形状モデルの端まで到達したかどうかに基づいて、亀裂の進行を更に判断してもよい。亀裂が形状モデルの端まで到達していない場合には、亀裂進行判断部117は、その方向への亀裂の進行がまだ発生する可能性があると判断し、解析条件設定部111に、亀裂進行後の形状モデルに対して新たな亀裂前縁を計算対象として設定するよう指示し、亀裂前縁候補抽出部112、FEM計算部113、弾性エネルギー解放率計算部114及び亀裂前縁決定部118に、設定された新たな亀裂前縁に対する解析処理を実行させる。一方、亀裂が形状モデルの端まで到達している場合には、亀裂進行判断部117は、その方向への亀裂の進行はそれ以上生じないと判断し、その旨の情報及び解析が終了した旨の情報を、例えば上述した情報処理装置10の出力部に出力させてユーザに対して通知する。このように、亀裂進行判断部117は、図3Bに示す第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS123に示す処理、又は、図13Bに示す第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法におけるステップS211に示す処理を更に行うことができる。
なお、第2の実施形態では、亀裂進行判断部117が、それ以上亀裂が進行しないと判断した場合であっても、その亀裂の進行の解析が、第1段階の解析処理(すなわち、表層領域における亀裂進行解析処理)である場合には、引き続き第2段階の解析処理に移行することとなる。従って、亀裂進行判断部117は、亀裂進行評価関数に基づいて又は亀裂が形状モデルの端まで到達したかどうかに基づいて亀裂の進行が停止したと判断した場合には、現在行われている解析処理が表層領域における亀裂進行解析処理かどうかを更に判断し、現在行われている解析処理が表層領域における亀裂進行解析処理である場合には、第2段階の解析処理に伴う解析条件を設定するよう、解析条件設定部111に指示を出すことができる。一方、現在行われている解析処理が第2段階の解析処理である内部領域における亀裂進行解析処理である場合には、一連の亀裂進行解析処理が終了した旨の情報を例えば上述した情報処理装置10の出力部に出力させる。
以上、図21を参照して、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法を実現するための情報処理装置10の構成について説明した。以上説明したように、本開示の一実施形態においては、亀裂進行解析処理において、亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する際に、構造体の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす亀裂前縁候補が抽出される。従って、構造上取り得る全ての亀裂前縁候補に対してではなく、所定の条件に基づいて絞り込まれた亀裂前縁候補に対して亀裂進行評価関数pが計算されることとなるため、亀裂進行評価関数pを算出する際に例えばFEM計算を伴う比較的計算負荷の大きい計算が行われる場合であっても、全体的な計算負荷を低減することが可能となる。
なお、上述のような第1及び第2の実施形態に係る情報処理装置10の各機能、特に制御部110の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
ここで、情報処理装置10が有する機能は、必ずしも単一の情報処理装置によって実現されなくてもよく、ネットワークによって互いに接続された複数の情報処理装置の協働によって実現されてもよい。例えば、図21に機能ブロックとして図示される制御部110の各機能が、ネットワークによって互いに接続された複数の情報処理装置の制御部によって行われることにより、各種の計算処理を並列化して行うことができ、計算時間の更なる低減が実現され得る。また、例えば、情報処理装置10への入出力インターフェースと、その他の機能とが、別個の装置によって構成されてもよい。例えば、少なくとも入力部及び出力部を備えるユーザ端末と、数値計算に特化したワークステーションとが有線又は無線のネットワークによって互いに通信可能に接続されており、ワークステーションへの各種の情報の入出力はユーザによって当該ユーザ端末を介して行われ、制御部110が行う亀裂進行解析における各種の計算は当該ワークステーションにおいて行われてもよい。当該ワークステーションは、例えば、ユーザ端末からアクセス可能なネットワーク上(いわゆるクラウド上)に配置され得る。このように、数値計算に特化したワークステーションによって各種の演算が実行されることにより、より短時間で亀裂進行解析を実行することが可能となる。
(5.変形例)
次に、以上説明した実施形態におけるいくつかの変形例について説明する。
(5−1.異方性を考慮した亀裂進行解析)
第1及び第2の実施形態では、異方性を考慮した亀裂進行解析が行われてもよい。図22を参照して、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、異方性を考慮した変形例について説明する。図22は、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、異方性を考慮した変形例について説明するための説明図である。
図22を参照すると、本変形例に係る解析対象の構造体の一例を表す形状モデル210が図示されている。図22に示す例では、形状モデル210は、立方体形状を有する複数のメッシュ211によって構成されている。ここで、一般的に、結晶材料であって異方性の強い材料や、一方向に繊維状の材料が埋め込まれて形成されるような材料においては、弾性率が異方性を有するとともに、靱性値も異方性を有する場合がある。本変形例では、形状モデル210に対して弾性率及び靱性値を設定する際に、その異方性を考慮して弾性率及び靱性値が設定される。具体的には、本変形例では、構造体に対して、当該構造体内部の各方向における結合力に応じた靱性値が、当該各方向に対して設定される。更に具体的には、本変形例では、形状モデル210に対して単位面積当たりの靱性値が設定される際に、形状モデル210を構成するメッシュ211の表面の方向毎に個別の値が設定され得る。
弾性率の異方性を設定することは、一般的なFEMにおいても広く行われており、例えばテンソル量等として設定することができる。靱性値の異方性を設定する際には、例えば解析対象とする材料の各方位に対する靱性値を予め実験、試験等に基づいて計算しておき、その計算値を各方位に対する靱性値として設定する。例えば、図22に示す例では、メッシュ211の表面のうち、x軸と直交する表面については単位面積当たりの靱性値がGc_xに設定され、y軸と直交する表面については単位面積当たりの靱性値がGc_yに設定され、z軸と直交する表面については単位面積当たりの靱性値がGc_zと設定されている。Gc_x、Gc_y、Gc_zは、例えば実験的に得られた、当該構造体を構成する材料の各方位における靱性値であってよい。材料における靱性値が3次元的に異なる値を有する場合には、図22に示すように、メッシュ211の各面の法線ベクトルに応じて、それぞれの面に異なる靱性値(Gc_x、Gc_y、Gc_z)が与えられ得る。具体的な靱性値の設定の方法としては、3次元的な全ての方位に対して靱性値を導出できるように、所定の連続的な関数として靱性値が設定されてもよいし、ある方位に対して離散的に靱性値を設定しておき、間に対応する位置での靱性値を所定の関数で補間してもよい。
このように、構造体に対して、当該構造体内部の各方向における結合力に応じた靱性値が、当該各方向に対して設定されることにより、靱性値が異方性を有する構造体における亀裂進行解析をより正確に行うことが可能となり、亀裂進行解析の利便性、汎用性が向上する。
(5−2.異種材料間の界面を考慮した亀裂進行解析)
第1及び第2の実施形態では、異種材料間の界面を考慮した亀裂進行解析が行われてもよい。図23を参照して、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、異種材料間の界面を考慮した変形例について説明する。図23は、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、異種材料間の界面を考慮した変形例について説明するための説明図である。
図23を参照すると、本変形例に係る解析対象の構造体の一例を表す形状モデル220が図示されている。図23に示す例では、形状モデル220は、立方体形状を有する複数のメッシュ221によって構成されている。ここで、形状モデル220は、2つの互いに異なる材料が組み合わされて構成されており、互いに異なる材料を表すメッシュ221間の境界には、異種材料間の界面222が存在している。異種材料の界面においては、その界面結合力(密着力)が、どちらの材料の靱性値とも異なっている場合がある。従って、本変形例では、形状モデル220に対して靱性値を設定する際に、界面222については界面結合力に相当する靱性値を設定する。
具体的には、本変形例では、形状モデル220に対して単位面積当たりの靱性値を設定する際に、異種材料間の界面に対応する面について個別に値を設定することができる。例えば、図23に示す例では、材料1と材料2との界面222については、その界面結合力に対応する靱性値Gc_iが、単位面積当たりの靱性値として設定される。
このように、本変形例では、構造体が互いに異なる複数の材料によって構成される場合に、構造体における各材料に対応する領域には、各材料の結合力に応じた靱性値が設定されるとともに、構造体における異なる材料間の界面に対応する面には、当該材料間の界面結合力に応じた靱性値が設定される。構造体に靱性値を設定する際に、異種材料間の界面を考慮した靱性値が設定されることにより、当該異種材料間の界面での剥離についての解析をより正確に行うことが可能となり、亀裂進行解析の利便性、汎用性が向上する。
(5−3.メッシュ形状が異なる変形例)
上述した実施形態及び変形例では、形状モデルを構成するメッシュの形状は6面体形状であった。しかし、第1及び第2の実施形態では、形状モデルを構成するメッシュの形状は他の形状であってもよい。図24A及び図24Bを参照して、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、メッシュ形状が異なる変形例について説明する。図24A及び図24Bは、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、メッシュ形状が異なる変形例について説明するための説明図である。
図24A及び図24Bでは、解析対象である形状モデルについて、簡単のため、亀裂を含む断面のみを図示している。図24Aでは、これまで説明してきた形状モデルと同様に、6面体形状を有するメッシュ231によって構成される、形状モデル230を図示している。形状モデル230には亀裂232が存在しており、亀裂前縁にはノード233が存在している。本実施形態に係る亀裂進行解析では、亀裂前縁候補が抽出される際に、当該ノード233においてメッシュ231同士が分離され、亀裂が進行することとなる。図24Aに示す例では、ノード233がノード233aとノード233bとに分離されることにより、メッシュ231同士がx軸方向に分離され、亀裂232が進行している様子が図示されている。
一方、図24Bは、これまで説明してきた形状モデルとは異なり、4面体形状を有するメッシュ241によって構成される、形状モデル240を図示している。形状モデル240には亀裂242が存在しており、亀裂前縁にはノード243が存在している。本実施形態に係る亀裂進行解析では、亀裂前縁候補が抽出される際に、当該ノード243においてメッシュ241同士が分離され、亀裂が進行することとなる。図24Bに示す例では、ノード243がノード243aとノード243bとに分離されることにより、メッシュ241同士が分離され、亀裂242が進行している様子が図示されている。
なお、本実施形態に係るメッシュ形状は、4面体及び6面体に限定されず、FEMにおいて用いられる他の各種の形状が適用されてよい。このように、本実施形態に係る亀裂解析は多様なメッシュ形状に対して適用可能であるため、例えばFEM計算からの要請によりメッシュ形状が特定の形状に限定された場合であっても、当該形状に合わせて亀裂の進行の解析を行うことができ、汎用性がより高まる。
(5−4.材料の内部応力を考慮した亀裂進行解析)
例えば半導体デバイスは、各種の材料からなる薄膜が積層された構造を有するが、各薄膜中にはプロセス条件に応じた熱応力が発生する場合がある。また、半導体デバイスに限定されない他の構造体においても、加工条件等により局所的な残留応力が生じる場合がある。第1及び第2の実施形態では、このような材料の内部応力を考慮した亀裂進行解析が行われてもよい。図25を参照して、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、材料の内部応力を考慮した変形例について説明する。図25は、第1及び第2の実施形態に係る亀裂進行解析において、材料の内部応力を考慮した変形例について説明するための説明図である。
図25を参照すると、本変形例に係る解析対象の構造体の一例を表す形状モデル250が図示されている。図25に示す例では、解析対象である形状モデル250について、簡単のため、亀裂を含む断面のみを図示している。形状モデル250は、立方体形状を有する複数のメッシュ251によって構成されている。形状モデル250は、例えば互いに異なる複数の材料によって構成されており、メッシュ251には、これらの各材料に対応する物性値が設定されている。図25では、異種材料であることを示すために、メッシュ251の輪郭を細線又は太線で図示している。
本変形例では、上述した熱応力や残留応力のような各材料内部における内部応力や、当該内部応力に対応する歪み等をメッシュ251ごとに設定することができる。当該内部応力としては、例えば材料ごと、位置ごとに、異なる値が設定されてよい。図25では、各メッシュ251に設定された互いに異なる値を有する内部応力を、例えば長さの異なる両端矢印によって模式的に図示している。なお、内部応力及び当該内部応力に伴う歪みの設定は、例えば図3Aに示すフローにおけるステップS103の処理、又は、図13Aに示すフローにおけるステップS103の処理において設定されてよい。そして、外力因子条件に加えてこれらの応力及び歪みが考慮された上で、FEMを用いた応力解析が行われ、弾性エネルギー解放率が計算される。
このように、本変形例によれば、構造体内部の位置に応じた内部応力が設定され、設定された当該内部応力を加味して、弾性エネルギー解放率が計算され得る。従って、外力因子条件に加えて、構造体の製造中に生じる熱応力や加工条件に応じて発生する残留応力等の内部応力をも考慮した亀裂の進行解析が行われるため、より精度の高い解析を実行することが可能となる。
(5−5.3次元の靱性の異方性を考慮した2次元の亀裂進行解析)
上記(5−1.異方性を考慮した亀裂進行解析)で説明したように、構造体における3次元的な靱性の異方性を反映させて形状モデルを作成することが可能である。ここで、例えば図16A−図16F及び図18A−図18Eを参照して説明したように、上述した第2の実施形態では、第1段階の解析処理として、形状モデルの表層領域における、表面と平行な平面内(x−z平面内)での2次元的な亀裂の進行解析が行われるが、形状モデルに3次元的な靱性の異方性が設定されている場合には、厚み方向(y軸方向)における靱性が、x−z平面内での2次元的な亀裂の進行に影響を及ぼす可能性がある。ここでは、3次元的な靱性の異方性を考慮して平面内での2次元的な亀裂の進行の解析を行うことにより、より精度の高い亀裂進行解析を行うことを可能とする方法について説明する。
図26及び図27を参照して、このような、3次元の靱性の異方性を考慮した2次元の亀裂進行解析について説明する。図26及び図27は、3次元の靱性の異方性を考慮した2次元の亀裂進行解析について説明するための説明図である。なお、図26及び図27に示すx軸、y軸及びz軸は、例えば図16A−図16F及び図18A−図18E等におけるx軸、y軸及びz軸と同じ定義に基づくものである。例えば、x−z平面は形状モデルの表面と平行な面を表し、y軸方向は形状モデルの厚み方向を示している。
図26では、形状モデルに設定される靱性値を、x−y−z座標と楕円とを組み合わせることにより模擬的に図示している。原点から所定の方向における楕円の円周までの距離が、その方向における靱性値の大きさを表している。つまり、原点から楕円の円周まで延びる矢印(ベクトル)の方向及び長さが、その方向における靱性値の大きさを表している。
ここで、解析の対象としている構造体が、靱性値について3次元的な異方性を有しており、当該靱性値が、x軸及びz軸に対しては対称で、y軸に対しては非対称な性質を有しているものとする。この場合、図26(a)に示すように、靱性値を表す楕円は、x軸及びz軸に対しては対称であるが、y軸に対しては非対称である(傾く)ように図示され得る。
図26(a)に示すように設定された靱性値を用いて、上述した第2の実施形態に係る亀裂進行解析を行うことを考える。この場合、第1段階の解析処理である表層領域における亀裂進行解析では、x−z平面と平行な方向における亀裂の進行が解析されるので、図26(a)の上段に示すような、x軸及びz軸に対して対称な靱性値を用いて亀裂の進行が解析されることとなる。例えば、図26(a)に示すように、z軸に対して±wの角度方向における靱性値は同一の値を取ることとなり、+w方向に所定の距離だけ亀裂が進行する際に要する靱性エネルギーと、−w方向に同じ距離だけ亀裂が進行する際に要する靱性エネルギーとは、同一ということになる。
ここで、第2の実施形態では、計算負荷を軽減するために、表層領域における亀裂進行解析と内部領域における亀裂進行解析とを段階的に実行しているが、実際の現象としては、表層領域における亀裂の進行と内部領域における亀裂の進行とは並行して発生し得る。従って、y軸方向における靱性値の非対称性が、x−z平面における亀裂の進行に影響を及ぼす可能性がある。よって、より高精度に亀裂の進行を解析するためには、表層領域における亀裂進行解析において、形状モデルの厚み方向であるy軸方向における靱性値の非対称性が考慮されることが望ましい。
具体的には、本変形例では、図26(b)に示すように、y軸方向における靱性値の分布のx−z平面への射影成分を、x−z平面内における靱性値の分布に対して、x軸方向へのオフセット成分として付与する。これにより、x−z平面内における靱性値が、z軸方向に対して非対称的なものとなり、例えばz軸に対して±wの角度方向における靱性値が、厚み方向の靱性値の分布が考慮された、互いに異なる値を取ることとなる。このように、異方性靱性の厚み方向の非対称性の影響を考慮して設定された靱性値を用いて表層領域における亀裂の進行の解析が実行されることにより、3次元的により精度の高い解析を行うことが可能となる。
ここで、図26(b)では、y軸方向における靱性値の分布のx−z平面への射影成分だけ、x−z平面内における靱性値の分布をオフセットさせていたが、本変形例はかかる例に限定されない。本変形例では、図26に示す方法とは異なる方法によって、x−z平面内における靱性値の分布に、y軸方向における靱性値の分布の影響を反映させてもよい。図27を参照して、このような、図26に示す方法とは異なる方法によって、x−z平面内における靱性値の分布に、y軸方向における靱性値の分布の影響を反映する方法について説明する。
図27においても、図26と同様に、靱性値の異方性を、x−y−z座標と楕円とを組み合わせることにより模擬的に図示している。なお、図27(a)に示す図は、図26(a)に示す図と同様であるため、詳細な説明は省略する。
図27(b)に示すように、本変形例では、y軸方向における靱性値の分布のx−z平面への射影成分の分だけ、x−z平面内における靱性値の分布を表す楕円が傾くように、x−z平面内における靱性値の分布が設定されてもよい。このように靱性値の分布が設定される場合であっても、y軸方向における靱性値の非対称性が、x−z平面内における靱性値の分布に反映されることとなり、例えばz軸に対して±wの角度方向における靱性値が、厚み方向の靱性値の分布が考慮された、互いに異なる値を取ることとなる。よって、図26に示す場合と同様に、厚み方向の非対称性の影響を考慮して設定された靱性値を用いて表層領域における亀裂の進行の解析を実行することができ、3次元的により精度の高い亀裂の進行の解析を行うことが可能となる。
(5−6.外力因子条件が変化する際における亀裂進行解析)
上述したように、第1の実施形態及び第2の実施形態では、弾性エネルギー解放率δUeが算出される際に、所定の外力因子条件の下でのFEM計算が行われる(図3AのステップS113に示す処理及び図13AのステップS211に示す処理を参照)。ここで、上記の実施形態では、例えば、一連の亀裂進行解析処理が行われる間、一定の外力因子条件が設定され得る。しかしながら、実際に構造体に亀裂が生じる状況としては、例えば構造体に与えられる外力が時間の経過に従って徐々に変化する場合も考えられる。
図28及び図29を参照して、このような、外力因子条件が時間変化する場合における亀裂進行解析について説明する。図28及び図29は、外力因子条件が時間変化する場合における亀裂進行解析について説明するための説明図である。なお、図28及び図29では、一例として、図17に示す形状モデル60及び初期亀裂前縁621に対して亀裂進行解析を行う場合を例に挙げて説明を行う。
図28及び図29では、亀裂進行解析処理中に形状モデル60に負荷される外力の大きさ及び向きを、矢印の長さ及び方向で模擬的に図示している。例えば、形状モデル60に対して、y軸方向への引っ張り力が外力として負荷されており、当該外力が、徐々に大きくなる場合を想定する。この場合、まず、図28に示すように、外力の大きさが比較的小さい状態で、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法(図3A及び図3Bに示す一連の処理)又は第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法(図13A、図13B及び図14に示す一連の処理)が実行される。図28及び図29では、一例として、第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法が実行された場合について図示している。具体的には、図28に示すように、形状モデル60に対するy軸方向への比較的小さい大きさの引っ張り力が外力因子条件として設定された状態で、当該形状モデル60に対してFEM計算が行われ、弾性エネルギー解放率δUeが算出される。そして、当該弾性エネルギー解放率δUeを用いて亀裂進行評価関数pが算出され、亀裂の進行が解析される。
形状モデル60に対して負荷される外力の大きさが比較的小さい状態で、亀裂の進行が停止するまで第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法が実行された結果、図28の上段に示す状態から、下段に示す状態まで亀裂面620が進行したとする。外力因子条件が変化しない場合には、当該状態で亀裂の進行の解析が終了することとなるが、外力因子条件が変化する場合には、当該外力因子条件の変化に応じて、弾性エネルギー解放率δUe及び亀裂進行評価関数pの値が変化し得るため、更に亀裂の進行が生じる可能性がある。
従って、本変形例では、図29の上段に示すように、図28の下段に示す状態(すなわち、負荷される外力の大きさが比較的小さい状態で亀裂面620の進行が停止した状態)を初期の亀裂面620の状態とみなして、比較的大きな外力が負荷された状態で、第1の実施形態に係る亀裂進行解析方法(図3A及び図3Bに示す一連の処理)又は第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法(図13A、図13B及び図14に示す一連の処理)が再度実行される。図29に示す例では、引き続き第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法が実行された場合について図示している。
図29に示す外力は、所定の時間が経過した後の形状モデル60に対する外力の変化を再現したものである。例えば、亀裂の進行が停止するまで第2の実施形態に係る亀裂進行解析方法が実行された結果、図29の上段に示す状態から、下段に示す状態まで亀裂面620が進行したとする。図29の下段に示す亀裂面620は、形状モデル60に負荷される外力が変化した際の亀裂進行の過渡応答を示すものであると言える。
以上、図28及び図29を参照して、外力因子条件が時間変化する場合における亀裂進行解析について説明した。以上説明したように、外力因子条件を変化させながら、各外力因子条件の基で形成される3次元の亀裂の形状を次の外力因子条件の初期条件として亀裂進行解析処理を連続的に実行することにより、外力因子条件の時間変化を加味した高精度な亀裂進行解析を行うことができる。
なお、上記の例では、外力の大きさが変化する場合について説明したが、本変形例はかかる例に限定されない。例えば、外力が負荷される方向等、他の要素が時間変化する場合であっても、同様の方法により、外力因子条件の時間変化を加味した亀裂進行解析を行うことができる。また、例えば外力因子条件の時間変化を所定の単位時間で離散化して設定することにより、外力因子条件が連続的に変化する場合を模擬することが可能である。
(6.ハードウェア構成)
次に、図30を参照しながら、第1及び第2の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成について説明する。図30は、第1及び第2の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。なお、図30に示す情報処理装置900は、例えば、図21に示す情報処理装置10を実現し得る。
情報処理装置900は、CPU901、ROM(Read Only Memory)903、およびRAM(Random Access Memory)905を含む。また、情報処理装置900は、ホストバス907、ブリッジ909、外部バス911、インターフェース913、入力装置915、出力装置917、ストレージ装置919、通信装置921、ドライブ923、接続ポート925を含んでもよい。情報処理装置900は、CPU901に代えて、又はこれとともに、DSP(Digital Signal Processor)若しくはASIC(Application Specific Integrated Circuit)と呼ばれるような処理回路を有してもよい。
CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置919又はリムーバブル記録媒体929に記録された各種プログラムに従って、情報処理装置900内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行時のパラメータ等を一次記憶する。CPU901、ROM903及びRAM905は、CPUバス等の内部バスにより構成されるホストバス907により相互に接続されている。更に、ホストバス907は、ブリッジ909を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バス等の外部バス911に接続されている。CPU901は、本実施形態では、例えば上述した情報処理装置10の制御部110に対応する。
ホストバス907は、ブリッジ909を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バス911に接続されている。
入力装置915は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等、ユーザによって操作される装置によって構成される。また、入力装置915は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール装置(いわゆる、リモコン)であってもよいし、情報処理装置900の操作に対応した携帯電話やPDA等の外部接続機器931であってもよい。更に、入力装置915は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。情報処理装置900のユーザは、この入力装置915を操作することにより、情報処理装置900に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。入力装置915は、第1及び第2の実施形態では、例えば上述した情報処理装置10の入力部(図21では図示せず。)に対応する。第1及び第2の実施形態においては、例えば、ユーザが、入力装置915を介して、亀裂進行解析に関する各種の情報や指示(例えば、解析条件についての情報や解析開始指示等)を情報処理装置900に対して入力してもよい。
出力装置917は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプ等の表示装置や、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置や、プリンタ装置等がある。出力装置917は、例えば、情報処理装置900が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、情報処理装置900が行った各種処理により得られた結果を、テキスト、イメージ、表、グラフ等、様々な形式で視覚的に表示する。当該表示装置は、第1及び第2の実施形態では、例えば上述した情報処理装置10の出力部(図21では図示せず。)に対応する。第1及び第2の実施形態では、当該表示装置に、亀裂進行解析における解析条件を設定するための設定画面や、解析結果が表示される結果表示画面が表示されてよい。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して聴覚的に出力する。
ストレージ装置919は、情報処理装置900の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置919は、例えば、HDD等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置919は、CPU901が実行するプログラムや各種データ及び外部から取得した各種のデータ等を格納する。ストレージ装置919は、第1及び第2の実施形態では、例えば上述した情報処理装置10の記憶部(図21では図示せず。)に対応する。第1及び第2の実施形態においては、例えば図3A及び図3Bに示すフロー図において処理される各種の情報が、ストレージ装置919に記憶されてもよい。
通信装置921は、例えば、通信網(ネットワーク)927に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置921は、例えば、有線若しくは無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置921は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ又は各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置921は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置921に接続されるネットワーク927は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。通信装置921は、第1及び第2の実施形態では、例えば上述した情報処理装置10の通信部(図21では図示せず。)に対応する。第1及び第2の実施形態においては、例えば図3A及び図3Bに示すフロー図において処理される各種の情報が、通信装置921によってネットワーク927を介して他の装置との間で送受信されてもよい。
ドライブ923は、記録媒体用リーダライタであり、情報処理装置900に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ923は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体929に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ923は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体929に情報を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体929は、例えば、DVDメディア、HD−DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体929は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ又はSDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体929は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)又は電子機器等であってもよい。第1及び第2の実施形態では、例えば図3A及び図3Bに示す第1の実施形態に係るフロー図において処理される各種の情報、並びに、図13A、図13B及び図14に示す第2の実施形態に係るフロー図において処理される各種の情報が、ドライブ923によってリムーバブル記録媒体929から読み出されたり、リムーバブル記録媒体929に書き込まれたりしてもよい。
接続ポート925は、機器を情報処理装置900に直接接続するためのポートである。接続ポート925の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート及びSCSI(Small Computer System Interface)ポート等がある。接続ポート925の別の例として、RS−232Cポート、光オーディオ端子及びHDMI(登録商標)(High−Definition Multimedia Interface)ポート等がある。この接続ポート925に外部接続機器931を接続することで、情報処理装置900は、外部接続機器931から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器931に各種のデータを提供したりする。第1及び第2の実施形態では、例えば図3A及び図3Bに示すフロー図において処理される各種の情報、並びに、図13A、図13B及び図14に示す第2の実施形態に係るフロー図において処理される各種の情報が、接続ポート925を介して外部接続機器931から取得されたり、外部接続機器931に出力されたりしてもよい。
以上、本開示の実施形態に係る情報処理装置900の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る情報処理装置900の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
(7.補足)
以上説明したように、本開示の一実施形態においては、亀裂進行解析処理において、亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する際に、構造体の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす亀裂前縁候補が抽出される。従って、構造上取り得る全ての亀裂前縁候補に対してではなく、所定の条件に基づいて絞り込まれた亀裂前縁候補に対して亀裂進行評価関数pが計算されることとなるため、亀裂進行評価関数pを算出する際に例えばFEM計算を伴う比較的計算負荷の大きい計算が行われる場合であっても、全体的な計算負荷を低減することが可能となる。
具体的には、第1の実施形態では、1ステップ分亀裂が進行する際に必要なエネルギーである総靱性エネルギーが設定され、当該総靱性エネルギーに適合する1ステップ後の亀裂前縁候補が抽出される。そして、抽出された亀裂前縁候補に対して、弾性エネルギー解放率δUe及び亀裂進行評価関数pが計算される。このように、第1の実施形態では、総靱性エネルギーに基づいて抽出された亀裂前縁候補に対して弾性エネルギー解放率δUeの計算が行われることにより、複数のノード及びメッシュの開放を対象とした弾性エネルギー解放率δUeの計算を行うことが可能となる。従って、一般的に行われているノード1つ1つの開放を対象とする場合と比べて、計算負荷の大きいFEM計算を伴う弾性エネルギー解放率δUeの計算回数を少なくすることができ、計算負荷の低減が実現される。
また、第2の実施形態では、第1段階の解析処理として、構造体の表層領域において亀裂が進行する際の亀裂前縁候補が抽出され、当該第1段階の解析処理終了後に、第2段階の解析処理として、第1段階の解析処理の結果得られる表層領域における亀裂に基づいて、構造体の内部領域において亀裂が進行する際の亀裂前縁候補が抽出される。このように、第2の実施形態では、内部領域における亀裂進行解析処理において、表層領域における亀裂進行解析処理の結果を利用して絞り込まれた亀裂前縁候補が抽出されることとなるため、構造上取り得る全てのノードに対して解析が行われる一般的な方法に比べて、計算負荷の大きいFEM計算を伴う弾性エネルギー解放率δUeの計算回数を少なくすることができる。従って、計算負荷を低減することができる。
ここで、弾性エネルギー解放率δUeを用いた亀裂進行解析方法は、例えば異種材料が複合された構造体における亀裂の解析や、異種材料間の界面での剥離等の解析にも適用可能な高い汎用性を有する方法である。従って、第1及び第2の実施形態では、高い汎用性を維持しつつ、計算負荷のより小さい亀裂進行解析が実現される。
例えば、既存の一般的な技術では、弾性エネルギー解放率δUeの概念を用いて、互いに異なる複数の材料によって構成される構造体に対する3次元的な亀裂の解析を行うためには、長大な計算時間を要していた。一方、第1及び第2の実施形態では、高い汎用性を維持しつつ計算負荷がより低減されるため、例えば、互いに異なる複数の材料からなる構造体における、異種材料を貫通して3次元的に進行する亀裂に対する解析を、より高速に実行することが可能となる。
また、例えば、既存の一般的な技術では、計算負荷を低減するために、亀裂の進行を解析する対象面を予め一意に決定している場合があった。従って、一般的な技術では、例えば互いに異なる複数の材料からなる構造体について、材料の内部において亀裂が進行するのか、材料間において亀裂(すなわち剥離)が進行するのかが不明である場合には、対応することが困難であった。一方、第1及び第2の実施形態では、高い汎用性を維持しつつ計算負荷がより低減されるため、解析の対象面を限定する必要がなく、亀裂の進行方向まで含めた解析を行うことが可能となる。従って、互いに異なる複数の材料からなる構造体について、材料の内部における亀裂の進行と、材料間における剥離の進行とを、3次元的に同時に解析することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)構造体における亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する亀裂前縁候補抽出部と、抽出された前記亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に解放される弾性エネルギーを表す弾性エネルギー解放率を計算する弾性エネルギー解放率計算部と、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて亀裂進行後の亀裂前縁を決定する亀裂前縁決定部と、を備え、前記亀裂前縁候補抽出部は、前記構造体の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす前記亀裂前縁候補を抽出する、情報処理装置。
(2)前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂が進行する際に前記構造体を構成する複数のメッシュ同士を分離するために必要な総靱性エネルギーが所定の範囲に含まれるような、亀裂前縁候補を抽出する、前記(1)に記載の情報処理装置。
(3)前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂進行後の亀裂前縁を構成する複数の前記メッシュにおいて、隣接する当該メッシュ間の距離が所定の値以下になるように、前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(2)に記載の情報処理装置。
(4)前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを最短距離で結ぶ面内に、前記メッシュが結合している領域が存在しないように、前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(2)又は(3)に記載の情報処理装置。
(5)第1段階の解析処理として、前記亀裂前縁候補抽出部は、前記構造体の表層領域において亀裂が進行する際の前記亀裂前縁候補を抽出し、前記第1段階の解析処理終了後に、第2段階の解析処理として、前記亀裂前縁候補抽出部は、前記第1段階の解析処理の結果得られる前記表層領域における亀裂に基づいて、前記構造体の内部領域において亀裂が進行する際の前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(1)に記載の情報処理装置。
(6)前記亀裂前縁候補抽出部は、前記第1段階の解析処理では、亀裂進行前の亀裂前縁から、前記構造体の表面と平行な面内における角度を探索することにより、前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(5)に記載の情報処理装置。
(7)前記亀裂前縁候補抽出部は、前記第2段階の解析処理では、前記第1段階の解析処理によって得られる前記表層領域における亀裂上のノードから、当該ノードを通り前記構造体の表面と略垂直な評価面内における角度を探索することにより、前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(5)又は(6)に記載の情報処理装置。
(8)前記第1段階の解析処理では、前記構造体の表面上における亀裂の進行が解析される、前記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(9)前記第1段階の解析処理では、前記構造体の表面を含み当該表面から所定の深さに存在する表面層における亀裂の進行が解析される、前記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(10)前記構造体は、互いに異なる複数の材料によって構成される、前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(11)前記構造体における各材料に対応する領域には、各材料の結合力に応じた靱性値が設定され、前記構造体における異なる材料間の界面に対応する面には、当該材料間の界面結合力に応じた靱性値が設定される、前記(10)に記載の情報処理装置。
(12)前記構造体には、当該構造体内部の位置に応じた内部応力が設定され、前記弾性エネルギー解放率計算部は、当該内部応力を加味して、前記弾性エネルギー解放率を計算する、前記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(13)前記構造体に対して、当該構造体内部の各方向における結合力に応じた靱性値が、当該各方向に対して設定され、前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂の進行方向と、前記構造体内部における各方向に対して設定された靱性値と、に基づいて、前記亀裂前縁を抽出する、前記(1)〜(12)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(14)前記弾性エネルギー解放率計算部は、有限要素法を用いた当該構造体における応力解析の結果に基づいて、前記弾性エネルギー解放率を計算する、前記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(15)前記亀裂前縁決定部は、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて、前記亀裂前縁候補の実現可能性を表す指標である亀裂進行評価関数を計算する亀裂進行評価関数計算部と、前記亀裂進行評価関数に基づいて、最も実現可能性が高い前記亀裂前縁候補を選択することにより、亀裂進行後の亀裂前縁を決定する亀裂進行評価関数評価部と、前記亀裂進行評価関数に基づいて、前記亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する亀裂進行判断部と、を更に備える、前記(1)〜(14)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(16)前記亀裂進行評価関数計算部は、前記弾性エネルギー解放率の値と、前記亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に必要な靱性エネルギーの値と、の大小関係を比較し得る関数として、亀裂進行評価関数を計算する、前記(15)に記載の情報処理装置。
(17)前記亀裂進行判断部は、前記弾性エネルギー解放率の値と、前記亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に必要な靱性エネルギーの値と、を比較することにより、前記亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する、前記(15)又は(16)に記載の情報処理装置。
(18)プロセッサが、構造体における亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出することと、抽出された前記亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に解放される弾性エネルギーを表す弾性エネルギー解放率を計算することと、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて亀裂進行後の亀裂前縁を決定することと、を含み、前記構造体の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす前記亀裂前縁候補が抽出される、情報処理方法。
(19)コンピュータのプロセッサに、構造体における亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する機能と、抽出された前記亀裂前縁候補まで亀裂が進行する際に解放される弾性エネルギーを表す弾性エネルギー解放率を計算する機能と、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて亀裂進行後の亀裂前縁を決定する機能と、を実現させ、前記構造体の構造上取り得る亀裂前縁候補の中から、所定の条件を満たす前記亀裂前縁候補が抽出される、プログラム。
また、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)複数のメッシュによって構成される構造体において、亀裂が進行する際に複数の前記メッシュ同士を分離するために必要な総靱性エネルギーが所定の範囲に含まれるような、亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する亀裂前縁候補抽出部と、抽出された前記亀裂前縁候補に示す状態にまで亀裂が進行する際に、前記メッシュ同士が分離されることにより解放される弾性エネルギーである弾性エネルギー解放率を計算する弾性エネルギー解放率計算部と、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて、亀裂進行後の亀裂前縁を決定する亀裂前縁決定部と、を備える、情報処理装置。
(2)前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂進行後の亀裂前縁を構成する複数の前記メッシュにおいて、隣接する当該メッシュ間の距離が所定の値以下になるように、前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(1)に記載の情報処理装置。
(3)前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂進行前の亀裂前縁と亀裂進行後の亀裂前縁とを最短距離で結ぶ面内に、前記メッシュが結合している領域が存在しないように、前記亀裂前縁候補を抽出する、前記(1)又は(2)に記載の情報処理装置。
(4)前記構造体は、互いに異なる複数の材料によって構成される、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(5)前記構造体における各材料に対応する領域には、各材料の結合力に応じた靱性値が設定され、前記構造体における異なる材料間の界面に対応する面には、当該材料間の界面結合力に応じた靱性値が設定される、前記(4)に記載の情報処理装置。
(6)前記構造体には、当該構造体内部の位置に応じた内部応力が設定され、前記弾性エネルギー解放率計算部は、当該内部応力を加味して、前記弾性エネルギー解放率を計算する、前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(7)前記構造体に対して、当該構造体内部の各方向における結合力に応じた靱性値が、当該各方向に対して設定され、前記亀裂前縁候補抽出部は、亀裂の進行方向と、前記構造体内部における各方向に対して設定された靱性値と、に基づいて、前記亀裂前縁を抽出する、前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(8)前記弾性エネルギー解放率計算部は、有限要素法を用いた当該構造体における応力解析の結果に基づいて、前記弾性エネルギー解放率を計算する、前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(9)前記亀裂前縁決定部は、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて、前記亀裂前縁候補の実現可能性を表す指標である亀裂進行評価関数を計算する亀裂進行評価関数計算部と、前記亀裂進行評価関数に基づいて、最も実現可能性が高い前記亀裂前縁候補を抽出することにより、亀裂進行後の亀裂前縁を決定する亀裂進行評価関数評価部と、前記亀裂進行評価関数に基づいて、前記亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する亀裂進行判断部と、を更に備える、前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の情報処理装置。
(10)前記亀裂進行評価関数計算部は、前記弾性エネルギー解放率の値と前記総靱性エネルギーの値との大小関係を比較し得る関数として、亀裂進行評価関数を計算する、前記(9)に記載の情報処理装置。
(11)前記亀裂進行判断部は、前記弾性エネルギー解放率の値と前記総靱性エネルギーの値との大小関係を比較することにより、前記亀裂前縁候補に従った亀裂の進行が発生するかどうかを判断する、前記(9)又は(10)に記載の情報処理装置。
(12)複数のメッシュによって構成される構造体において、亀裂が進行する際に複数の前記メッシュ同士を分離するために必要な総靱性エネルギーが所定の範囲に含まれるような、亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出することと、抽出された前記亀裂前縁候補に示す状態にまで亀裂が進行する際に、前記メッシュ同士が分離されることにより解放される弾性エネルギーである弾性エネルギー解放率を計算することと、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて、亀裂進行後の亀裂前縁を決定することと、を備える、情報処理方法。
(13)コンピュータに、複数のメッシュによって構成される構造体において、亀裂が進行する際に複数の前記メッシュ同士を分離するために必要な総靱性エネルギーが所定の範囲に含まれるような、亀裂進行後の亀裂前縁候補を抽出する機能と、抽出された前記亀裂前縁候補に示す状態にまで亀裂が進行する際に、前記メッシュ同士が分離されることにより解放される弾性エネルギーである弾性エネルギー解放率を計算する機能と、少なくとも前記弾性エネルギー解放率に基づいて、亀裂進行後の亀裂前縁を決定する機能と、を実現させる、プログラム。