特許文献1に開示された発明は、マラソンなどの長距離のランナーの走行状態を管理したり、サッカーなどのグランド内を一定時間走り回っているような競技における移動軌跡などを管理したりすることに適しているが、本発明が対象とする短距離を走行する競技者等の解析には不十分なものとなる。すなわち、短距離走などでは、一回の走行時間が10秒から20秒程度の短時間であるとともに、移動距離も数十mから100m程度と短距離であることから、GPS通信衛星からの信号では、解析するために必要な精度や、測定データの時間間隔が得られない。さらに、ランナーがハンディGPSレシーバを携帯しながらの測定となるため、係るレシーバが邪魔となり、実際の競技時の状態による測定ができない。
また、その他の方式として、レーザーを用いたものが考えられる。例えば、反射型のレーザー方式では、レーザーの送受信機を備え、短距離走者に向けてレーザーを発射し、短距離走者からの反射波を受信することで、送受信機から短距離走者までの距離を測定することを繰り返し行うことで、時間経過に伴う短距離走者までの距離の変化から、走行速度を計測することができる。しかし、係る方式では、検知距離が短距離走者の衣類の色で左右されるという問題がある。さらに、レーザーは指向性が強いため、その標準合わせをシビアに行う必要がある。例えば、100m先の短距離走者に対し、レーザーを照射し反射波を得るためには、シビアな角度制御が要求され、少しでもぶれると、反射波が得られずに測定不能となるおそれもある。さらに、そもそもレーザーは大型でかつ高価なものとなるので、簡単に利用することができない。
よって、走行距離が短い陸上競技者等に対する走行時の解析に適し、取り扱いが容易で、コンパクトな練習補助器具の開発が望まれているという課題がある。
上記の課題を解決するために、本発明は、(1)マイクロ波ドップラーセンサと、そのマイクロ波ドップラーセンサから出力されるドップラー信号を周波数解析して速度を算出する速度算出手段と、前記速度算出手段で繰り返し算出した速度を記録する記憶手段と、を備え、前記記録手段に記録された速度の履歴に基づいて速度分布を求めるようにした。記憶手段は、CPU内のバッファメモリのように一時的に格納する内部メモリでも良いし、内部不揮発性メモリでも良いし、実施形態のメモリカードのように着脱可能な外部メモリでも良い。記録は、1回の走行毎に行うようにしても良いし、複数回の走行を連続して記録し、後で纏めて複数回の走行についての速度分布を求めるなどの解析をしても良い。速度分布の算出を含めた解析は、本装置で行っても良いし、別途用意したパソコン等で行っても良い。
マイクロ波ドップラーセンサの指向性は、ある程度の直進性を有するものの一定の幅を許容している。従って、マイクロ波ドップラーセンサをある程度走行方向に沿うように比較的ラフに走者に向けても、確実に走者を検出できる。そのため、シビアな(厳密な)方向調整が不要となり、例えば、三脚等に本装置を固定する場合にも、走行方向に沿うように設置するだけでよく、また本装置を固定せずに、手にもって測定することも容易にできる。なお、本装置には三脚に固定する固定機構を設け、さらに手で握ってもった状態で測定可能な握持部を設けるとよい。そして、繰り返し速度を算出し、記憶装置に記録することで、走者の走行中の速度の履歴(速度分布)を求めることができる。走者の走行時の速度分布を数値データやグラフ等により得ることができ、客観的に走者の走行状態を確認し、その後の練習について的確な計画をたてることができる。なお、マイクロ波ドップラーセンサの指向性は、できる限り狭く設定するとよい。
(2)前記速度分布を求める速度分布算出手段と、その速度分布算出手段で求めた速度分布を出力する出力手段と、を備えると良い。
(3)前記出力手段は、求めた速度分布を、時間と速度の関係及びまたは距離と速度の関係をグラフ表示するものとすることができる。走行開始からの時間経過、或いは進行した距離(位置)における速度の状態を直感的に理解でき、最高速度に到達するまでの加速が良く出てきているか、走行中の速度の変化はどうか(安定しているか)などを科学的・客観的に容易に理解できるので好ましい。
(4)前記速度分布は、1秒間に4〜20回(10回でも充分)速度を求めた結果とするとよい。4回であれば、走者の走行速度の解析に必要な情報は確保でき、記憶手段におけるメモリ容量の削減の点で好ましい。なお、これより少ないと十分な結果が得られないことがある。そして、10回程度記録すると、十分な結果が得られる。また、例えば、(3)の発明のようにグラフで描画することを考慮すると、計測した速度を単純に点でプロットしても、線のように繋がって見えるので好ましい。20回を超えると、より詳細な情報(速度の変化等)を収集することができるが、データ量が増えることに伴い得られる効果の向上の程度が少なくなり、メモリ容量の無駄(費用対効果が低下する)となる。
(5)前記速度分布は、走者の走行についてのものであり、前記ドップラーセンサは、前記走者の走行開始地点の後方に基準距離(数m:例えば5m)だけ離して設置するとよい。後方に設置することで、走行開始時が最も信号レベルが大きくなり、検出しやすい。そして、基準距離があまり遠いとドップラー信号の信号レベルが最初から小さくなり検出しにくくなるので、基準距離は、5m程度とするのが好ましい。一方、検出のためには近い方が良いが、あまり近づけると、走者が装置を気にするおそれもあるので、近くても2,3m程度にするのがよい。
(6)前記マイクロ波ドップラーセンサは、走者の背中の高さに相当する範囲内の高さに設置するとよい。当該範囲内の高さは、例えば、50cm以上150cm以下の高さとすると良いが、これに限るものでもない。マイクロ波ドップラーセンサと走者が接近している領域での測定において、これより低いと脚の辺りのバタバタした信号が多くなり、これより高いと頭上を抜けやすい。よって、この範囲にすると、背中を狙うことができるので好ましい。
(7)前記マイクロ波ドップラーセンサは、測定対象の走者の走行開始位置の進行方向後方に置き、前記ドップラー信号の信号レベルが、基準値を超えた以降のドップラー信号に基づいて算出した前記速度を前記記憶手段に記録するとよい。例えば、マイクロ波ドップラーセンサを走行開始しようとする測定対象物の進行方向後方に設置すると、その測定対象物に基づくドップラー信号の信号レベルは大きい。このとき測定対象物とセンサの間を他の人が通過することは考えられない。また、周囲を走行する人からのドップラー信号の信号レベルは低い。そこで、一定の基準値を超えた信号を受信した場合には、測定対象物の人が走り始めたと判断する(スタートタイミングを見つけることができる)。それ以前に取得したデータは捨てる。
(8)上記の(7)の発明を前提とし、スタータの信号(音の取得、引き金と連動)を取得し、その取得したスタータの信号と、前記基準値を超えたときのタイミングの前後を比較するスタート判定手段を備えるとよい。スタート判定は、フライングの有無の判定や、フライングしない場合には、どれだけタイミング良く走行開始できたか(ずれの程度)の判定などがある。
(9)走行開始を検出する開始検出手段を設け、その開始検出手段が走行開始を検出してから基準時間(加速期間を排除するためで、数秒(例えば2秒))経過後、直近の速度の平均値を求め、その算出した速度と前記平均値とのずれに基づき前記記憶手段への算出した速度の記録を行うか否かを決定するとよい。走行開始は、例えば、(7)の発明のように前記基準値を超えたときとすることができる。平均値に近い速度か否かの判断は、速度を直接比較しても良いし、実施形態に示すように、速度を算出する前の周波数スペクトラム等で間接的に比較するものでも良い。同じ人の場合、初期の加速期間を除くと、速度の変化はあまり大きくないので、その人をロックでき、周囲で走行している他の人からの信号の影響を抑制できる。
(10)走行開始を検出する開始検出手段を設け、その開始検出手段が走行開始を検出してから、単位時間あたりの速度の変化が基準値以下になった後、直近の速度の平均値を求め、その算出した速度と前記平均値とのずれに基づき前記記憶手段への算出した速度の記録を行うか否かを決定するとよい。加速時間は人により違う。(9)の発明で基準時間をマニュアルで変更設定しても、そのときの走り方により基準時間経過前にすでに速度が安定している場合と、基準時間経過しても加速期間の場合もあり、設定した基準時間と速度が安定するタイミングと合わないことがある。そして、設定を変更するのは煩雑であると共に、設定ミスにより十分な測定・解析ができないおそれもある。そこで、実際に速度の変化を監視し、一定の範囲内に安定したことを契機にロックをかけると、確実にロックをかけることができるのでよい。
(11)走行開始を検出してから、信号レベルの変化が基準値を超えるものに基づく速度は前記記録がされないようにするとよい。測定対象物である走者とマイクロ波ドップラーセンサとの距離は、徐々に変化していくので信号レベルも徐々に変化する。信号レベルが極端に大きく変化するものは他の人からのものが検出されたと推定できるので、その信号は解析に利用しないようにすることで、確実に測定対象物の信号を検出し続けることができる。
(12)前記速度算出手段で求めた速度が、歩行速度に対応する第1基準速度(例えば時速5km)以下の信号に基づく速度は前記記録がされにくくするとよい。これにより、歩いている人からの信号の影響を抑制する。ただし、記録されにくくするのであって0にカット(削除)するのではない。これは、実際の走者の走行速度は、走り始めは、0から上昇するので、第1基準速度以下をカットすると、肝心の測定対象物の信号も検出できなくなる。これにより、走っている人をより確かに抽出できる。
(13)前記速度算出手段で求めた速度が、中・長距離走に対応する第2基準速度(例えば時速10km)以下の信号に基づく速度は前記記録がされにくくするとよい。長距離(マラソン)や中距離走や、アップ等でのジョギング等、非短距離走における速度は、短距離走のものよりは遅い。そこで、係る短距離走ではなく走っている人からの信号の影響を抑制する。
(14)前記速度算出手段で求めた速度が、基準速度値を下回った状態が設定時間以上続いた場合には、前記記憶手段への記録を終了するとよい。一定速度以上が続かなければ走り終わったとみなし、それ以降のデータは不要と判断できる。なお、このとき最長時間などの二次的な終了条件を決めると良い。他の人からの信号を拾い続け、終了しなくなることをなくすためである。
(15)設定時間経過後に前記記憶手段への記録を終了するとよい。設定時間は、例えば、10秒(50mを考慮),15秒(100mを考慮),20秒(100mハードルや、子供(小・中・高校等)の100mを考慮)などであり、変更可能とすると良い。設定時間の開始は、走行開始を検知する機能がある場合にはスタートを検知して解析開始から行うとよい。
(16)速度を時間積分して求めた累積走行距離が、設定された距離を超えた場合に前記記憶手段への記録を終了するようにするとよい。累積走行距離が走行予定の距離を大きく超えた場合には、すでに本来の測定したい走行は終了していると見なせるため、不要なデータの記録をしないことで、メモリ容量の無駄な消費・不要なデータに基づき解析が不十分になることを抑制できる。
(17)最高速度,最高速度到達時間,最高速度到達距離,最高速度保持時間,最高速度保持距離の少なくとも一つを抽出する機能を備えると良い。最高速度保持時間は、実際には、最高速度に対し一定の範囲内の速度を維持している期間を対象とすると良い。グラフ表示では、走行時の傾向はわかるものの、具体的な値がわかりにくい。そこで、それらの走行時の特徴量データを抽出することで、グラフ表示に変えて或いはグラフ表示と共に数値をテキスト表示すると、理解しやすい。また、数値化することで、複数回の走行時の状態を対比しやすくなる。
(18)前記速度分布と、模範データと比較する比較手段を備えるとよい。模範データは、トップランナーとの模範とする人の速度分布等のデータである。トップランナーのデータは、例えば教科書等にあるのでそれを用いても良いし、トップランナー等の手本となる人のデータを実際に計測して取得するようにしてもよい。比較結果は、グラフを重ねて描画したり、最高速度到達距離・保持時間等の特徴量データでの数値のずれをテキスト表示したりするなど各種の形態を取ることができる。
(19)速度を時間積分して求めた累積走行距離を出力する機能を備えるとよい。係る出力は、例えば、時間に対する累積距離をグラフ表示することができる。このグラフ表示は、単独で行うこともできるし、速度分布と併せて出力することもできる。
(20)前記速度分布を出力する出力手段として、無線表示器を備えるとよい。このようにすると、例えば無線表示器を走者が携帯した状態で走ることで、マイクロ波ドップラーセンサ等を備えた本体の設置位置に戻ることなく、走行直後等に手元で走行結果を確認できる。また、マイクロ波ドップラーセンサ等を備えた本体から離れた場所にいるコーチ・指導者等が係る無線表示器を持つことで、離れた場所にいる指導者等がリアルタイムで速度分布等の必要な情報を確認し、検討することができる。指導者等が持つ場合、例えば、本装置を複数設置することで、複数の走者の状態を一括して管理することができる。
(21)本発明のプログラムは、(1)から(20)に記載の走り方解析支援装置の機能をコンピュータに実現させるためのプログラムである。
本発明は、マイクロ波ドップラーセンサを用いて走者の速度を求めるようにしたので、比較的ラフに照準合わせができ、取り扱いが容易で、コンパクトな練習補助器具となる。そして、走者の走行時の速度分布を数値データやグラフ等により得ることができるので、走者や指導者は、走者の走行状態を客観的に理解できるのでよい。
以下、図面を用いて本発明の好適な実施形態を説明する。図1は本発明の好適な一実施形態を示している。走り方解析支援装置10は、マイクロ波ドップラーセンサ11と、そのマイクロ波ドップラーセンサ11から出力されるドップラー信号を増幅するアンプ12と、そのアンプ12の出力に基づき、演算処理を実行する演算部13と、その演算部13による演算結果を出力する表示部14と、記憶装置15と、を備えている。これらの各部品は、同一のケース内に収納しても良い、複数のケースに分割しても収納しても良い。複数のケースに分割する場合、有線・無線により通信することができる。また、表示部14は、無線を利用した携帯表示器として構成し、離れた場所で確認できるようにしても良い。また、この携帯表示器を設ける場合において、本体側にも表示部14を設け、本体側と、離れた場所の両方で確認できるようにしても良い。さらに出力手段として、表示部14に加え、音声出力手段を備えても良い。
マイクロ波ドップラーセンサ11は、送信器から移動している対象物に向けマイクロ波を発射し、反射してきたマイクロ波を受信して送信波と周波数を比較した場合、対象物の移動速度に比例して受信波の周波数がシフトする現象(ドップラー効果)を利用したセンサであり、シフトした周波数(ドップラー周波数)の信号(ドップラー信号)を出力する。従って、このドップラー信号に基づいて反射した対象物の移動速度を求めることができる。そこで、このマイクロ波ドップラーセンサ11を、速度の測定対象物となる走者の後方に設置し、当該センサが有する送受信機(アンテナ)がその走者に向くようにする。
さらに、本実施形態の走り方解析支援装置10は、マイクロ波ドップラーセンサ11の出力に基づき、直線運動をしている走者の走行時の情報を取得するのに適している。すなわち、まっすぐに走っている走者に対し、マイクロ波ドップラーセンサ11の指向がその走行方向と平行になるようにする。これにより、走者は、マイクロ波ドップラーセンサ11に対して、その正面から接近・離反することになり、走行速度を正確に求めることができる。
たとえば陸上競技の練習場は、図2に示すように、周回走路であるトラック1と、そのトラック1の内側のエリアであるインフィールド2と、トラック1の外側のエリアであるアウトフィールド3に分けられる。トラック1は、平行な2本の直走路1a,1a′と、それらをつなぐ2つの曲走路1bからなる。インフィールド2には、跳躍や投擲などの競技を行うための所定形状の助走路4が設けられる。図2では、走り高跳び用の助走路4であるため、その形状は長方形となっている。また、助走路に加え砂場を必要とする走幅跳・三段跳の競技エリア5は、アウトフィールド3に設けられることが多い。さらに、トラック1は、中長距離の練習で使用することから、アウトフィールド3の所定位置、たとえば、トラック1の一方の直走路1aの外側に平行に短距離用の直走路6を設けたものもある。また、この直走路6では、短距離走である100mの練習をしたり、ハードルの練習をしたりする。そして、直走路6を横断するように、スタートラインSLとフィニッシュラインFLが引かれており、走者は、そのライン間を走行することで所定距離(ここでは、100m)の練習ができる。もちろん、フィニッシュラインFLから110m離れた位置には、110mハードルようにスタートラインが引かれたり、その他の距離(たとえば50m等)にもスタートラインが引かれたりしており、練習をする人は、走行しようとする距離にあったスタートラインを利用する。
そして、上述したように、本実施形態の走り方解析支援装置10は、まっすぐに走っている人に対する解析を行うため、例えば、直走路6を走行したり、走り幅跳び用の助走路4を走行したりする人が解析対象となる。そこで、この直走路6を走行する走者の解析を行う場合、その走者が走行するラインの走行開始地点となるスタートラインSLの手前(走行方向にとって後方)の所定位置に、マイクロ波ドップラーセンサ11を設置する。所定位置は、スタートラインSLの5m手前にしている。さらに、マイクロ波ドップラーセンサ11から発射されるマイクロ波は、直走路6と平行になるように、そのマイクロ波ドップラーセンサ11のアンテナの向きが調整されている。
すなわち、データ採取の最中に他の競技の練習も行われており、短距離選手の練習のために他の競技の練習をストップするといったことは現実的にできない。そのため、できるだけ周囲に存在する他の人からの反射波の影響を排除する必要がある。そして、本実施形態のように、スタートラインSLの手前5mの位置にマイクロ波ドップラーセンサ11(走り方解析支援装置10)を設置した場合、他の人は、測定をしていることはわかるので、わざわざマイクロ波ドップラーセンサ11とスタートラインSLにいる走者の間を通過することは考えにくい。よって、スタートラインSLにいる測定対象の走者からの反射波がもっとも強いレベルとなる。その結果、仮に、隣接する走行路等に存在する人からの反射波に基づくドップラー信号が検出された場合でも、それぞれのドップラー信号の信号強度に差が出る。つまり、測定対象の走者からのドップラー信号の信号強度が最も高いので、測定対象の走者からのドップラー信号を弁別して抽出できる。
また、本発明では、直進運動をしている走者であれば、その進行方向がマイクロ波ドップラーセンサ11から離反する方向であっても、逆に近づく場合であっても走行速度は求めることができる。但し、ドップラー信号の信号レベルは、測定対象物が近いほど大きくなる。従って、本実施形態の図示した使用例のように、スタートラインSLの手前側においた方が、1回の走行に伴い得られるドップラー信号は、走行開始時のものが最も大きくなるので測定対象の走者からのドップラー信号を確実に認識できるので好ましい。
また、少なくともマイクロ波ドップラーセンサ11は、その設置高さが50cm以上150cm以下の高さに設置する。この高さの範囲内であれば、走行開始直後(数m)の領域での測定においても確実に走者の背中にマイクロ波を照射することができる。係る高さに設定するため、好ましくは、マイクロ波ドップラーセンサ11の筐体(装置全体が一体化されている場合には、その装置本体)の底面に、三脚などの高さ調整可能な保持器具に取り付けるための接続部を設け、その接続部を三脚等に連結することで、所望の高さに固定できる。また、三脚は、高さが調整できると共に、設定した高さを保持できるので、走者の身長等に合わせて適切な高さの調整・設置が容易に行えるのでよい。
演算部13は、CPU,ROM,RAM,不揮発性メモリ、I/O等を備えるマイコンを備える。記憶装置15は、演算結果を記録しておくもので、着脱できない内部記憶装置でも良いし、SDメモリカード等の着脱可能な記録メディアを装着するためのスロット部(読み書きする機能を含む)でも良い。
本実施形態の走り方解析支援装置10における機能は、演算部13に有するコンピュータが実行するプログラムとして演算部13のEEPROM上に格納され、これを演算部13に有するコンピュータが実行することで実現される。演算部13の有するプログラムによってコンピュータが実現する主な機能としては、ドップラー信号を周波数解析して測定対象物である走者の走行速度を算出する速度算出機能と、その速度算出機能により求めた走行速度に基づいて各種の解析を行う解析機能等を備えている。速度算出機能は、電源ONに伴い、常時(基準時間ごと:1秒あたり4〜20回程度で好ましくは10回前後)走行速度を算出する。なお、電源ONに伴い常時走行速度を算出するようにしてもよいが、電源ON後、操作スイッチのスタートスイッチの押下を検出した場合に常時走行速度を算出するようしてもよい。いずれの動作を行うかは設定できるようにしてもよい。そして、解析機能は、速度算出機能で求めた走行速度のうち、条件に合致するものを記憶装置15に記録する速度記録機能や、記憶装置15に格納された走行速度に基づき、速度分布を求める速度分布算出機能や、速度を積分することで走行開始からの累積走行距離を求める累積走行距離算出機能等を備える。速度分布算出機能で求める速度分布は、時間経過に伴う走行速度や、走行距離に伴う走行速度などがある。各機能の詳細は、後述する。
また、図示省略するが、ケース本体の表面には、操作スイッチが設けられる。また、表示部14の表示画面に重ねてタッチパネルを配置してもよい。また、図示省略するが、外部装置と接続するインタフェースとして、USB端子や、無線による通信を行う通信インタフェースや、リモコン通信機等を備えると良い。
なお、本体に内蔵する演算部13は、一定のサイクルで走行速度を算出し、記憶装置15に記録するだけにし、その記録した情報をパソコン等の解析装置に送り、そこで詳しい解析を行うようにしても良い。パソコン等の解析装置に送る場合、USB端子等を用いて直接本体と解析装置を接続してデータを転送しても良いし、記憶装置15としてSDメモリカードのような着脱可能な記憶メディアを用いている場合には、その記憶メディアを取り出すと共に解析装置に装着することでデータを送るようにしても良い。
また、本実施形態の走り方解析支援装置10における解析は、単発モードと連続モードがある。単発モードは、1回の走行毎に測定を終了し、結果を表示するモードである。連続モードは、複数の走行を連続して記録するモードである。この連続モードの場合、複数の走行分のデータを連続して記録し、後で一括して解析する場合と、データは連続してとり続けるが、それと平行して1回の走行が終了と判断した場合に、その1回の走行についての解析を行う場合がある。また、後で一括して解析する場合、実際の演算処理や表示は、別の装置で行うようにしても良い。
連続モードでは、1回の走行毎に識別符号を表示部14に表示する。識別符号はたとえば走行毎に連番で付与する番号とする(例えば、処理ステップS1で識別符号である番号を+1して表示部14に表示する。)
1回の走行の測定結果と関連付けて表示した識別符号を特定する情報とを関連づけて記憶しておく。(例えばS7で速度分布のデータと対応づけてこの番号を記憶装置15に記憶する。)このデータを用いてグラフを表示する際(本機の表示部14またはPCの画面等)には識別符号もあわせて表示する。
連続モードでは、複数回の速度分布のデータが記録されるので今表示されているグラフがいずれの走行時のデータのものなのかがわかりにくいが、このようにすれば両者の対応関係を容易に把握することができる。特に、連番とすれば、連続して別の人の走行を測定する場合に、順番さえ覚えておけばどのグラフがどの人のものなのか容易に把握することができる。
図3は、走り方解析支援装置10における測定アルゴリズムを示している。実際には、演算部13が、この図3に示すフローチャートを実行する機能を備えている。まず、本装置の電源ONに伴い、マイクロ波ドップラーセンサ11が動作し、常時ドップラー信号が出力されるので、演算部13は、アンプ12で増幅されたドップラー信号を所定の短時間の基準時間間隔で取り込む(S1)。
演算部13は、取り込んだドップラー信号の周波数成分を解析すべき、FFTを用いたスペクトル解析を行う(S2)。なお、本実施形態ではFFTを用いたスペクトル解析を行なうこととしたが、これに限らず各種のスペクトル解析方法を採ることができる。例えばDCTやウェーブレット変換などを用いてもよい。また、スペクトル解析に変えて、ドップラー信号の周期を直接測定する周波数カウント方式を用いてもよい。
マイクロ波ドップラーセンサ11は、アンテナの指向性により検知範囲にある程度の幅があるので、シビアな照準合わせが不要であり、ランナーの進路が多少ぶれても測定でき、衣類の種類(形状,素材,色)によらず安定した測定ができるといったメリットがある。一方、係る検知範囲の広がりから、直走路6の周辺に存在している物体(人)からの反射波を受信することがある。そのため、処理ステップS1で取り込んだドップラー信号には、測定対象の走者からの目的の信号と、その他の人等からの非目的の信号を含んだものとなる。そこで、演算部13は、目的信号/非目的信号の分離を行う。この分離は、例えば、スタートラインSLにいる走者は、マイクロ波ドップラーセンサ11の直前方(5m先)にいるで、目的信号の信号レベルは大きい。また、このスタートラインに測定対象の走者がスタートの準備をしているような状態で、当該走者とマイクロ波ドップラーセンサ11との間を他の人が通過することは考えられない。また、直走路6の周辺のエリア(アウトフィールド3や、トラック1の一方の直走路1aや、直走路6の前方等)を通過(走行・徒歩)する人に基づくドップラー信号(非目的信号)の信号レベルは小さい。従って、係るスタートライン(スタート直後)の走者からのドップラー信号の信号レベルと、他の非目的信号の信号レベルとを弁別できる適宜の基準値を設定しておき、その基準値を超えるか否かにより、目的/非目的信号の分離を行う。
また、直走路6を走行している走者は、マイクロ波ドップラーセンサ11から徐々に離れていく。従って、目的信号であれば、信号レベルは徐々に小さくなっていく。よって、前回受信した目的信号の信号レベルと比較し、今回受信した信号レベルが大きい場合には、その信号は非目的信号であると判断できる。例えば、走者が、直走路6のフィニッシュライン近くに到達した際に、マイクロ波ドップラーセンサ11近くのトラック1の一方の直走路1aを走行する中・長距離の走者からの信号を受信した場合、当該中・長距離の走者からの信号の信号レベルは、目的信号の信号レベルに比べて、大きな信号レベルとなる。なお、誤差等を考慮し、信号レベルが大きいと判断する場合に一定のマージンを採るとよい。また、信号レベルが小さい場合でも、その変化が大きい場合には、離れた場所にいる別の人からのドップラー信号と推定できるので、非目的信号として分離する。比較する目的信号の信号レベルは、前回1回分のデータを用いても良いし、複数回分の信号レベルの平均値を用いても良い。
また、測定対象の走者(被験者)と、その以外の人(非被験者)との間で、ある程度の速度差があれば、FFTを用いたスペクトル解析を行い得られたスペクトラムではそれらを個別に認識できる。また、走行開始(スタート)直後、およびゴール直後以外では急激な速度変化はない。従って、一旦、測定対象の走者の目的信号(スペクトラム)を特定できると、それを追うことでそれ以外のスペクトラムを非目的信号として排除できる。
次に、演算部13は、分離した目的信号の周波数に基づき、速度を求める(S4)。なお、このドップラー信号の周波数成分に基づく速度算出は、公知の技術を用いることができる。このS4の速度を求める処理ステップを実行する機能が、速度算出機能である。また、処理ステップS2,S3を実行する機能も速度算出機能に含めても良い。また、FFTを用いたスペクトル解析を行い得られたスペクトラムは、複数の周波数のものが存在することがある。これは、測定対象の走者(被験者)以外の人(非被験者)からの反射波に伴うドップラー信号があり、被験者の速度と非被験者の速度が異なる場合に生じる。この場合に、上記の処理ステップS3にて非目的信号のものを排除できればよいが、排除できずに複数の周波数のスペクトラムが残った場合、速度算出処理は、それぞれの周波数に対して行い、同一の時刻の異なる速度を算出し、それぞれを記録するようにしても良いし、レベルの大きいものなどの選択条件に一致する一つの周波数に基づいて速度を算出し、記憶する速度は1つとするようにしても良い。
そして、演算部13は、求めた速度を時系列がわかるように記憶装置15に記録する(S5)。また、この速度の記録であるが、電源ONしてから求めた全ての速度を最初から記録するようにしてもよいが、測定対象の走者のスタートを検出する機能を備え、スタート検出してから記録するようにしても良い。つまり、走者が、スタートラインSLの前に立ったり、クラウチングスタート等の姿勢で保持していたりしているときに、その周囲を移動する人からのドップラー信号を受信することがある。測定対象の走者が走行し、その走者からのドップラー信号を受信している場合には、それとの対比で非目的信号を分離することができるケースはあるが、全てを分離・排除できるわけではなく、分離できずにそのまま速度を求めてしまう場合もある。そこで、係る走行開始前の情報は記録せず破棄するようにすることで、正しい解析をすると共に、無駄なメモリの消費を抑制するようにした。
この記録を開始する開始条件は、ドップラー信号の信号レベルが、基準値を超えたこととすることができる。すなわち、走行開始しようとする人は、ドップラーセンサの直前方にいるで、その測定対象物に基づく信号レベルは大きい。このとき測定対象物とセンサの間を他の人が通過することは考えられない。また、周囲を走行する人からのドップラー信号の信号レベルは低い。そこで、一定の基準値を超えた信号を受信した場合には、測定対象物の人が走り始めたと判断し、それ以降のデータのみ記憶装置15に記録するようにした。
一例を示すと、図4の要対策(1)で示す6秒後から11秒くらいまでの速度のデータは、例えば、トラック1の一方の直走路1aを走行する中・長距離の走者からのものである。これに対し、図4中、11秒経過後からの速度のデータが測定対象の走者のものである。つまり、0秒から6秒までは、速度が0となっている。この期間は、測定対象の走者がいなかったり、スタートのための姿勢を保持して停止したりしている状態であって、しかも周囲に移動する人がいない状態である。係る状態のときに、例えば、短距離走用の直走路6に近接するトラック1の一方の直走路1aを走行する中・長距離の走者が、マイクロ波ドップラーセンサ11の検知範囲内に入ると、マイクロ波ドップラーセンサ11の出力は、当初から、係る中・長距離の走者の走行速度に対応した信号となる。そのため、図4の6秒から11秒の期間で、急にある速度(時速10〜12km)で走行しているデータが検出される。
図ではわからないが、この要対策(1)の区間の速度のもととなる信号、すなわち処理ステップS2のFFTによるスペクトル解析して周波成分ごとに分離して得られた当該(1)の区間の速度に対応する周波数の信号の信号レベルと、同様にスペクトル解析して得られた11秒以降の速度に対応する周波数の信号の信号レベルでは、11秒以降の速度のもととなる信号レベルの方が大きい。そして、この例では、11秒以前の要対策(1)の区間の速度のもととなる信号レベルは基準値を超えておらず、11秒以降の速度のもととなる信号レベルが基準値を超えたので、11秒以前のデータはカットする(記録しない)。これにより、記憶装置15に記録された速度データに基づくデータは、図5に示すようになり、不要なデータを排除できる。
速度の測定(記録)の終了条件を満たす(S5でYes)まで、上記処理を繰り返し実行する。終了条件は、例えば、1回の走行毎に測定を終了し、結果を表示する単発モードの場合、走者がゴールしたと見なせる条件である。また、複数の走行を連続して記録し、後で、解析するような連続モードの場合には、例えば予め設定した時間が経過、或いは、電源OFFなどが、終了条件となる。
単発モードの終了条件は、例えば、電源ONから設定された時間経過ごとすることができる。例えば、走行開始と、電源ONとを一致させるのは困難であると共に、スタート直後のデータを正しく取得できないおそれがあることから、電源ONしてから実際にスタートするまでには一定の準備時間があるのが前提となる。そこで、係るタイムラグに実際の走行時間(20秒以内等)を加味した時間を設定するとよい。但し、その場合に、電源ONしてから、実際に走行開始するまでの時間が、想定している準備時間よりも大きくオーバーすると、フィニッシュラインに到達する前に測定(速度の記録)が終了となるおそれがある。従って、ある程度十分長い時間(例えば1分)を設定するとよい。
また、走者の走行開始を検出する機能を備えた場合、係る走行開始時から所定の設定時間経過した場合を終了条件とすることができる。設定時間は、例えば、10秒(50mを考慮),15秒(100mを考慮),20秒(100mハードル、子供の100mを考慮)などとできる。この設定時間は、本体に設けた設定スイッチ・表示部14に重ねて設けたタッチパネル・リモコン操作などで変更できるようにすると良い。
また、処理ステップS4で求めた速度が、基準速度値を下回った状態が設定時間(数秒)以上続いた場合を終了条件としてもよい。すなわち、短距離走者は、フィニッシュラインFLを通過すると、速度を落とす。従って、基準速度値を下回った状態が続くと、終了と判断できる。また、単純に基準速度値のように絶対値で比較するのではなく、速度の低下の変化が一定以上の場合を終了条件としても良い。また、フィニッシュラインを通過した場合は、マイクロ波ドップラーセンサ11から離れているので、信号レベルも小さく、フィニッシュライン付近或いはその先を移動(走行)している人からのドップラー信号を測定対象の走者からのドップラー信号と判断して拾い続けることがある。従って、最長時間を決め、その最長時間を超えた場合には、記録を終了するようにしてもよい。このような各種の終了条件を適宜に設定することで、図4に示す要対策(3)のようなゴール後にその周辺にいる他の人からのドップラー信号を拾ってしまうことが抑制できる(図5参照)。
また、速度を積分することで、累積走行距離が求められる。従って、累積走行距離が所定距離を超えた場合を終了条件とすることができる。この場合に、例えば、短距離(100m)の練習をしている場合、累積走行距離の終了条件を100mとすると、誤差その他の要因でフィニッシュラインを通過する前に終了条件を満たしてしまうおそれがある。一方、150m等の長い距離に設定すると、そこまで走行せずに走るのを停止すると、終了条件を満たさなくなるので、記録を終了することができなくなる。よって、フィニッシュラインを通過した直後に停止することはないことから、累積走行距離が、110mや120m程度になった場合を終了条件とすることができる。
また、これらの終了条件は、単独で設定しても良いし、複数の条件を組み合わせて使用しても良い。例えば、基準速度値を下回ったことを停止条件とした場合には、累積走行距離による終了条件や時間による終了条件を組み合わせることで、他の人からの信号を拾い続けて終了しないことを防止できる。また、累積走行距離を停止条件とした場合に、時間による終了時要件を組み合わせることで、フィニッシュライン経過後すぐに停止してしまった場合でも終了することができるようになる。
単発モードの場合、上記の終了条件を満たすまで記録することで、記憶装置15には、測定対象の走者が走り始めてから、ゴールするまでの間の基準時間毎の速度の履歴が記録される。
演算部13は、記憶装置15に格納された速度の履歴から、速度分布等の出力データを作成し(S7)、その結果を表示部14に出力する(S8)。速度分布等の出力データの作成処理は、以下のようにすることができる。
基本的なアルゴリズム(速度分布算出機能)は、記憶装置15に格納された時系列の速度の履歴を呼び出し、時間−速度の関係を示すグラフを作成する。本実施形態では、図4,図5に示すように、横軸が経過時間で縦軸が速度のグラフを作成する。各速度は、予め設定した基準時間ごとに測定したものである。従って、例えば、1秒間に10回速度を算出するようにした場合には、あるときの速度と、次に計測した速度の差は、1/10秒となる。そして、各速度は、時系列に関連づけて記録されているので、記録された速度を時系列に読み出すと共に、読み出した速度を横軸が時間で縦軸が速度のグラフ上の該当する位置にプロットする処理を行う。1秒間に10回程度サンプリングことで、単純に点をプロットするだけで、図4,図5等に示すような線で繋がったようなグラフが作成できる。つまり、本実施形態では、各プロットした点を繋ぐような線分を描画する処理は行わない。これにより、処理アルゴリズムの負荷が軽減されると共に、高速に処理できる。なお、図4,図5は、本装置の計測可能な距離を測定するため、150mほど走行したときの実験結果である。なお、表示部14に出力するグラフの描画は、本実施形態のように該当する点をプロットするだけのものに限ることはなく、点と点を通る直線または曲線(例えば補完線)として表示してもよい。また、この直線または曲線上に点をさらに描画するようにしてもよい。さらにまた、該当する位置に点をプロットするのではなく棒グラフとしても良い。つまり、各点から横軸、すなわち速度0(y=0)のラインに向けたバーを描画するようにしても良い。
さらに、本実施形態の走り方解析支援装置10は、陸上競技場その他の練習場に持って行き、そこで簡単に速度測定並びにそれに基づく解析結果を出力するものであり、全体的にコンパクトであり、表示部14の面積もさほど大きくとれない。そして、表示部14は、ドットマトリクスの各点をON/OFFして、文字や図を描画するものとしているので、上記のように各速度の該当する箇所を1つのドットとしてONすることで、グラフを描画するようにしたので、上記の該当する位置をプロットするアルゴリズムはそれに適している。
従って、図5を見ると明らかなように、走行開始直後に加速し、加速期間は何秒くらい有り、最高速度(トップスピード)は時速何kmで、その最高速度到達するまでに要する時間(最高速度到達時間)や、最高速度を保持している時間(最高速度保持時間)はどれくらいか、さらには、速度変化のばらつきはどのようになっているかなどを一目で理解することができる。図6(a)は、小さい表示画面の表示部14におけるグラフ表示の一例を示している。なお、図示したグラフ表示は、該当する点をプロットしたが、上述したように棒グラフのように描画した場合、図6(a)で下の線と上の点とでかこまれる部分全体が黒くなる。このようにすると、形がより明確になる。
一方、画面が小さいと、大まかな傾向はグラフの形状からわかるものの、具体的な数値はすぐに理解することは困難となる。そこで、演算部13は、最高速度や、最高速度到達時間や、最高速度保持時間等の特徴量データを求め、それをテキスト表示する機能を備える(図6(b)参照)。
なお、走行中に、最高速度を厳密に維持することはできず、ある程度の速度の増減はあるので、演算部13は、最高速度を抽出したならば、そこから一定の範囲内で維持している区間を抽出し、その区間の時間を最高速度保持時間として決定する。最高速度保持時間を特定するための一定の範囲は、例えば「最高速度−2km/h」のように固定された値でも良いし、最高速度のn%までというような相対的なものでもよい。また、それらの一定の範囲を決める値は、設定により変更できるようにすると良い。
また、図6(a)に示すグラフ表示を行うと共に、図6(b)のテキスト表示も併せて行うとよい。この場合に、グラフ表示するに際し、図6(b)の各ポイントを他の点とは異なる態様の点やアイコン、マーク等で描画するとよい。
さらに、グラフ表示をする場合に、最高速度保持時間の間の区間は、他の区間とは異なる態様で描画するとよい。異なる態様としては例えば描画の色を異なるようにすることができる。このようにすれば、どの区間で最高速度から一定の範囲の速度を保持できているかが、一目で分かる。特に、上述したように最高速度保持をしている区間が、最高速度に対して一定の速度差の範囲内としている場合、特に表示画面が小さいと、その一定の範囲内の区間がわかりにくくなることがあるが、異なる態様で描画することで、係る問題は生じない。
また、速度を積分することで、累積走行距離を求めることができる。そこで、演算部13(累積走行距離算出機能)は、係る速度から累積走行距離を求め、時間経過に対する累積走行距離の関係のグラフを作成し、表示する機能を備える。このグラフは、図5等に示すように、時間−速度の関係のグラフと併せて描画しても良いし、単独のグラフとして描画しても良い。この累積走行距離を求めることで、何秒後にどの位置まで進んでいるかが一目で理解できる。
本実施形態では、累積走行距離を横軸にし、速度を縦軸にしたグラフを作成する機能を備える。係るグラフを出力することで、何mの位置には、何秒後に到達しているかがわかる。また、そのように累積走行距離−速度のグラフから、最高速度に到達する距離(最高速度到達距離)や、最高速度を保持している距離(最高速度保持距離)等の特徴量データを求めることができ、図6(b)に示すようにテキスト表示する機能を備えると良い。また、グラフ表示をする場合、縦軸及びまたは横軸のスケールを変更できるようにすると良い。特に、距離のスケールは、50m,100m,110m,200mのうち少なくともいずれか2つ以上から選択できる構成とするとよい。また速度のスケールは、10km/h,20km/h,40km/hのうち少なくともいずれか2つ以上から選択できる構成とするとよい。特に、携帯型の装置では、その本体はあまり大きくできず、それに伴い表示画面も小さくなる。そこで、適切なスケールに設定することで、画面全体にグラフを描画することが可能となるので見やすくなり好ましい。
また、走行開始直後およびゴール直後以外では急激な速度変化はないが、実際に測定すると、図4の要対策(2)に例示するように、急な変化を生じる速度が検出される。これは、測定対象の走者以外の人からのドップラー信号を受信し、それに基づく速度が算出されるためである。これらの影響を抑制するため、走行開始後から加速期間を考慮した基準時間(数秒(例えば2秒))経過後は、直近の速度の平均値を求め、平均値に対して一定以上差がある速度はプロットしないようにするとよい。何点か速度がプロットされない箇所があっても、元々離散的なプロットの集合でグラフを表現しているので、問題はない。また、プロットされない箇所は、前後の速度から補完データを算出(前後n点の平均速度)し、その補完した速度をプロットしても良い。このようにすれば、同時期に得られた複数の異なる周波数のスペクトラムに基づき、複数の速度を求めた場合でも、適切なものが残る。また、複数の周波数スペクトラムから選択された1つのスペクトラムの周波数から速度を求めた場合、その選択したスペクトラムが誤っているときには、その速度はプロットされず、選択されたスペクトラムが目的信号のものの場合には速度がプロットされる。いずれにしても、測定対象の走者の速度のみが抽出され、グラフ化される。
また、この速度変化が少ないことを利用した修正処理として、上記のように算出した速度に対して取捨選択をするのではなく、以下に示すように、FFTを用いたスペクトル解析により得られたスペクトラムに対して、修正処理をするようにしてもよい。すなわち、走行開始後から加速期間を考慮した基準時間(数秒(例えば2秒))経過後は、直近の速度の平均値を求め、その平均値の速度に対応する周波数スペクトラムに近いものほど、大きな利得を掛けるような強調フィルタを設定し、複数の周波数スペクトラムが素材した場合にレベルの大きいものを残す処理を行う。係る処理は、目的/非目的信号の分離処理で行うことができる。そして、具体的な演算処理の一例を示すと、下記の通りである。
直近(たとえば0.8秒分)の速度測定値の平均値VAVEを算出し、その時点のスペクトラムに対し、
K(i)=1
(但し、f(i)<fAVE(i)−a,f(i)>fAVE(i)+aの場合)
K(i)=1+{−|f(i)−fAVE(i)|+a}[0]
(但し、fAVE(i)−a≦f(i)≦fAVE(i)+aの場合)
を乗ずる。
ここで、f(i)=全ての周波数に対応するスペクトラムのインデックス,
fAVE(i)=VAVEに対応するスペクトラムのインデックス
とする。
これにより、図7に示したような帯域を強調するフィルタの働きをもち、その帯域は信号に随時追従する。よって、測定対象の走者からのドップラー信号に基づくスペクトラムは、大きな利得を乗ずることで大きな値となり、目的信号として選択され、他の信号は非目的信号として排除される。よって、係る目的信号の周波数に基づいて速度が求められるので、図5に示すように、図4における要対策(2)で示すような速度の大きな変動が無くなり、測定対象の走者の速度変化を正しく再現できる。
なお、平均速度を求め始める基準時間は、変更できるようにするとよい。子供と大人の違いや、競技レベルの相違等から、走行速度が安定するまでの走行開始直後の加速期間は異なる。本体に設けた操作スイッチや、リモコン等により基準時間を変更できるようにすると、目的信号を確実にとらえ続ける(非目的信号を分離する)ことができる。
また、このように走行開始から基準時間の経過までのような固定値ではなく、単位時間あたりの速度の変化が基準値以下になったなど、安定走行期間に移行したことを契機として上記の平均速度に基づく処理を行うと良い。すなわち、加速時間は人により違うので、マニュアルで基準時間を設定しても、そのときの走り方により基準時間の経過前にすでに速度が安定している場合と、基準時間を経過しても加速期間中で速度が安定していない場合もある。よって、設定が正しく行われないと、十分な測定・解析ができないおそれもある。そこで、実際に速度の変化を監視し、一定の範囲内に安定したことを契機に、目的信号のロックをかけることで、確実にとらえ続けることができる。
また、演算部13は、周波数から求められる速度が、測定対象の走者の速度でない可能性が高いものの場合、信号レベルを減衰する機能を備えると良い。例えば、徒歩の場合、早歩きでも時速6km程度であるので、例えば、第1基準速度として時速5kmと設定し、第1基準速度以下の信号は、測定対象の走者の走行中の速度ではないとして、信号レベルを減衰する。例えば、同時に複数の周波数(速度)のスペクトラムが検出された場合、第1基準速度以下の信号は、その信号レベルが減衰されて小さくなる。つまり、たとえ本機から比較的近い領域を歩いている人が存在していても、その人からの反射波に基づく信号レベルは、そのままでは比較的大きくなるが、上記の減衰処理をすることで小さくなる。よって、複数の周波数の信号が存在しているときには信号レベルが高いものを優先的に選択するルールにした場合、歩行者からの反射波の信号レベルを減衰することで当該歩行者からの信号は選択されにくくなる。よって、歩いている人からの信号の影響を抑制することができる。ただし、減衰であって0にカットするのではない。走行速度は、走り始めは、時速0kmから上昇するので、第1基準速度以下をカットすると、肝心の測定対象物の信号も検出できなくなる。従って、例えば、測定対象の走者からの信号のみ検出しているような場合には、信号レベルが小さくても拾うことができる。
また、中・長距離走に対応する速度は、第1基準速度よりも速いものの、短距離走(例えば、時速12km以上等)に比べると遅い。従って、短距離走と、中・長距離走とを弁別する第2基準速度(例えば、時速10km)を設定し、係る第2基準速度以下の信号は、第1基準速度以下の場合と同様に減衰する機能を備えると良い。係る機能を設けると、中・長距離走を練習している人からの信号の影響を抑制できる。また、この第1基準速度に基づく制御と、第2基準速度に基づく制御は、いずれか一方を採用しても良いし、両方とも採用しても良い。両方採用する場合、減衰量は、第2基準速度以下の場合の方が少なくするとよい。
また、第1基準速度や第2基準速度に基づく処理は、具体的な速度を求めたものに対して行うものに限ることはなく、目的信号/非目的信号の分離処理のように、速度に対応する周波数スペクトラムに対して判定し、該当するものを減数するようにしても良い。
さらに補助機能として、短距離走を走行する際の模範データを記憶装置15等に記録しておき、測定対象の走者の走行に伴い得られたデータ(速度分布を示すグラフや、最高速度到達時間等の特徴量データ)と、模範データを比較する比較機能を備えると良い。この比較機能の比較結果の出力としては、模範データの速度分布と実際に測定して得られた速度分布のグラフを重ねて描画したり、最高速度到達距離・保持時間等の特徴量データの数値のずれをテキスト表示したりすることができる。模範データは、教科書等に載っているものを利用しても良いし、実際に模範となる選手に走行してもらい、その時の測定データから作成しても良い。
本実施形態の測定対象物は、人であり、たとえば陸上競技の短距離走者や、110mハードルの走者や、走り幅跳びの選手等の短い直線距離を走行する走者である。短距離は、一般の競技では、100mであるが、50mなどのさらに短い距離でも設定を変えることなく測定できる。短距離走の場合、走行中の速度変化や、最高速度や最高速度に到達するまでの時間や、最高速度を維持している時間などを求める。110mハードルの場合、100mの場合と同様に、走行中の速度変化などの基本的なデータに加え、ハードル間の速度変化や、ハードル直前の速度(速度を落とさずにハードルを跳んでいるか)等の解析を行うことができる。マイクロ波ドップラーセンサは、指向性があるもののレーザーに比べるとその許容範囲が広いので、ハードルを飛び越える程度の走者の上下移動程度では、マイクロ波センサ11にて補足し続けることができる。さらに、走り幅跳びの競技者の場合、踏切直前にトップスピードに持って行けているかの解析を行うことができる。それぞれの競技において、理想となる走行時のパターン等があるので、実際の選手の走行時のパターンが理想通りか否か、並びに、理想から離れている場合には、どこを修正していけばよいかが、科学的に客観的に検討することができる。
さらにまた、本実施形態では、測定対象の走者の走行開始を検出することができるのでも、別の補助機能として、スタータの信号(音の取得、引き金と連動)を取得し、その取得したスタータの信号と、走行開始のタイミングの前後を比較し、フライングの有無や、フライングしていない場合には、どれだけ反応良く走行開始できたかのスタート判定機能を備えると良い。
さらに、上記の各実施形態並びに変形例において、制御部にリアルタイムクロック(時計)やGPS受信機を備え、速度を測定した時刻や位置を速度データと関連付けて記録するようにしてもよい。このようにすれば、いつどこで測定したものであるかが容易にわかる。また、上記の各実施形態並びに変形例のハードウェアを共用して、ボールの速度等を測定するスピードガン等の機能をさらに備えた構成としてもよい。