JP2015048492A - 多気筒エンジン用クランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法、そのクランク軸の製造方法、及びそのクランク軸 - Google Patents

多気筒エンジン用クランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法、そのクランク軸の製造方法、及びそのクランク軸 Download PDF

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Abstract

【課題】多気筒エンジン用クランク軸のピン部及びジャーナル部の焼入れの際、曲がり及び伸びを低減できる焼入れ深さ設定方法を提供する。【解決手段】設定方法は、ピン部に焼入れを施す第1基準条件並びにジャーナル部に焼入れを施す第2基準条件の各基準条件で曲がり量及び伸び量を把握する第1、第2ステップと、第1基準条件から各ピン部の焼入れ深さを個別に変更した各第1変更条件並びに第2基準条件から各ジャーナル部の焼入れ深さを個別に変更した各第2変更条件の各変更条件で曲がり量及び伸び量を把握する第3、第4ステップと、変更条件ごとに基準条件に対する曲がり量及び伸び量の各変化率を求める第5、第6ステップと、曲がり量及び伸び量の各変化率に基づき、曲がり量及び伸び量が最小になる各部位の焼入れ深さを算出する第7ステップとを含む。【選択図】図8

Description

本発明は、多気筒エンジンに搭載されるクランク軸について、そのすべてのピン部及びジャーナル部に個々のフィレット部の領域まで高周波焼入れを施す際の焼入れ硬化層深さの設定方法に関する。また、本発明は、その焼入れ硬化層深さ設定方法を用いたクランク軸の製造方法、及びその製造方法により製造されたクランク軸に関する。
自動車、自動二輪車、船舶、農機などのレシプロエンジンには、シリンダ(気筒)内でのピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すため、クランク軸が不可欠である。クランク軸は、ピストンを支持するためにピン部を有する。このピン部の数は、エンジンの気筒数(ピストン数)と一致する。
図1は、一般的な多気筒エンジン用クランク軸の一例を模式的に示す平面図である。同図に例示するクランク軸1は、4気筒エンジンに搭載されるものであり、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、及びジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ8つのクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)W1〜W8から構成される。なお、アーム部W1〜W8には、図示しないカウンターウエイトが適宜設けられる。
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、及びアーム部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「W」とも記す。ピン部P、このピン部Pにつながる一組のアーム部W、及びこれらの各アーム部Wにつながるジャーナル部Jをまとめて「スロー」ともいう。
ジャーナル部J、フロント部Fr及びフランジ部Flは、クランク軸1の回転中心と同軸上に配置され、ピン部Pは、クランク軸1の回転中心からピストンストロークの半分の距離ほど偏心して配置される。ジャーナル部Jは、すべり軸受けメタルを介してエンジンブロックに支持され、回転中心となる。ピン部Pには、すべり軸受けメタルを介してコネクティングロッド(以下、「コンロッド」ともいう)が連結され、このコンロッドにピストンが連結される。
通常、このようなクランク軸1のピン部P及びジャーナル部Jは、個々のフィレット部(アーム部Wへの付け根)の領域までの全域にわたって高周波焼入れ(以下、単に「焼入れ」ともいう)が施され、表層が強化される。ピン部P及びジャーナル部Jの耐摩耗性を向上させるとともに、クランク軸1の疲労強度を向上させるためである。
ここで、高周波焼入れ法は、被焼入れ材の表層に相変態によるマルテンサイト相の硬化層を形成する表面強化法である。クランク軸のピン部及びジャーナル部にフィレット部の領域を含めて焼入れが施されると、焼入れ硬化層の体積膨張に伴ってクランク軸の曲がりが発生する。このようなクランク軸の曲がりは、ピン部の数が2つ以上となる多気筒エンジン用クランク軸で顕著に発生する。体積が膨張する焼入れ硬化層の箇所が多くなるからである。クランク軸の著しい曲がりは、エンジンの組立て時に組込みトラブルをもたらすだけでなく、エンジン運転時に異常な振動を誘発する可能性もある。
したがって、特に多気筒エンジン用のクランク軸には、高周波焼入れによる曲がりを低減することが求められる。高周波焼入れによるクランク軸の曲がりを低減する従来技術としては、下記のものがある。
特許文献1には、ピン部を3つ以上有する多気筒エンジン用クランク軸について、ピン部及びジャーナル部のうちのピン部の焼入れ硬化層深さ(以下、「焼入れ深さ」ともいう)に着目し、クランク軸の長手方向中央部分に位置するピン部の焼入れ深さを、長手方向端部側に位置するピン部の焼入れ深さよりも浅くしたクランク軸が記載されている。
また、特許文献2には、主に4気筒エンジンを想定した多気筒エンジンに搭載されるクランク軸について、高周波焼入れを施す際、クランク軸の曲がり量が最小になるように、各ピン部及び各ジャーナル部への焼入れエネルギ量を周方向で調整し、焼入れ深さを周方向で変化させる焼入れ方法及び焼入れ装置が記載されている。
また、特許文献3、4でも、主に4気筒エンジンを想定した多気筒エンジンに搭載されるクランク軸の焼入れ方法及び焼入れ装置が記載されている。同文献では、ピン部及びジャーナル部のうちのピン部の焼入れ条件に着目し、クランク軸の長手方向中央部分に位置するピン部と長手方向端部側に位置するピン部とで高周波加熱時間を変えて焼入れを行い、ピン部における歪みを少なくすることとしている。
実開平3−130424号公報 特開平8−337822号公報 特開2002−226917号公報 特開2002−226918号公報
ところで、多気筒エンジン用クランク軸のピン部及びジャーナル部に焼入れが施されると、実態として、クランク軸には、曲がりが発生することはもとより、長手方向への伸びも発生する。クランク軸の伸びが著しい場合でも、エンジン組立て時の組込みトラブルや、エンジン運転時の異常振動が問題となり得る。
しかし、前記特許文献1〜4に記載された従来技術のいずれも、クランク軸の曲がりのみに着眼し、クランク軸の伸びについてまったく考慮していない。したがって、多気筒エンジン用のクランク軸に焼入れを施す際には、クランク軸の曲がりを低減すると同時に、クランク軸の伸びを低減することが強く望まれる。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、多気筒エンジン用のクランク軸について、高周波焼入れの際に曲がり及び伸びを同時に低減することができる焼入れ硬化層深さの設定方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、高周波焼入れによる曲がり及び伸びが低減された多気筒エンジン用クランク軸の製造方法、及びそのクランク軸を提供することにある。
本発明は、上記の課題を解決するため、下記(I)に示すクランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法、下記(II)に示すクランク軸の製造方法、及び(III)に示すクランク軸を要旨とする。
(I)多気筒エンジン用のクランク軸のピン部及びジャーナル部のすべてに個々のフィレット部の領域まで高周波焼入れを施す際の焼入れ硬化層深さの設定方法であって、
ピン部に焼入れを施す第1基準条件を決定し、この第1基準条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第1ステップと、
ジャーナル部に焼入れを施す第2基準条件を決定し、この第2基準条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第2ステップと、
前記第1基準条件から各ピン部の焼入れ硬化層深さを個別に変更し、これらの各第1変更条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第3ステップと、
前記第2基準条件から各ジャーナル部の焼入れ硬化層深さを個別に変更し、これらの各第2変更条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第4ステップと、
第1ステップ及び第3ステップで把握した曲がり量及び伸び量に基づき、前記第1変更条件ごとに、前記第1基準条件に対する曲がり量及び伸び量それぞれの変化率を求める第5ステップと、
第2ステップ及び第4ステップで把握した曲がり量及び伸び量に基づき、前記第2変更条件ごとに、前記第2基準条件に対する曲がり量及び伸び量それぞれの変化率を求める第6ステップと、
第5ステップ及び第6ステップで求めた、前記第1変更条件及び前記第2変更条件ごとの曲がり量変化率及び伸び量変化率に基づき、クランク軸の曲がり量及び伸び量が最小になる、各ピン部及び各ジャーナル部それぞれの焼入れ硬化層深さを算出し設定する第7ステップと、を含む、クランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法である。
上記の焼入れ硬化層深さ設定方法は、
ジャーナル部の中心軸に沿った長手方向を3次元座標系のz軸方向とし、ピン部のうちの先頭に配置された第1ピン部の偏心方向をy軸方向とし、y軸及びz軸と直交する方向をx軸方向とし、
さらに、各ピン部及び各ジャーナル部の各部位について、評価対象の部位をjとし、焼入れ硬化層深さを変更した部位をiとしたとき、
前記第7ステップにおいて、
ピン部及びジャーナル部の各部位jについて、x軸方向の曲がり量A’xjを下記の(1)式で表し、y軸方向の曲がり量A’yjを下記の(2)式で表し、z軸方向の伸び量B’zjを下記の(3)式で表し、これらの(1)式〜(3)式を用いて下記の(4)式で表される目的関数が最小となるように、下記の(5)式で表される焼入れ硬化層深さd’iを算出し設定する構成であることが好ましい。
Figure 2015048492
上記の(1)式〜(5)式中、
αj、βjは重み係数であり、
xj及びAyj、並びにBzjは、それぞれ予め任意に設定した焼入れ硬化層深さ条件での各部位jのx軸方向の曲がり量及びy軸方向の曲がり量、並びにz軸方向の伸び量であり、
xij及びayij、並びにbzijは、それぞれ前記第3ステップ及び前記第4ステップで各部位iの焼入れ硬化層深さを変更したときの部位jごとのx軸方向の曲がり量変化率及びy軸方向の曲がり量変化率、並びにz軸方向の伸び量変化率であり、
iは予め任意に設定した焼入れ硬化層深さ条件での部位iの焼入れ硬化層深さであり、
Δdiはdiに対する焼入れ硬化層深さの変化量である。
上記の焼入れ硬化層深さ設定方法において、
前記第1基準条件は、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さが同じで、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さがゼロであり、
前記第2基準条件は、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さが同じで、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さがゼロであることが好ましい。
ここで、ばらつきを考慮して、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さが、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さを平均したものから±0.2mm以内であれば、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さが同じと定義する。また、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さが、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さを平均したものから±0.2mm以内であれば、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さが同じと定義する。
(II)多気筒エンジン用のクランク軸の製造方法であって、
クランク軸に高周波焼入れを施し、各ピン部及び各ジャーナル部の焼入れ硬化層深さを、上記(I)の焼入れ硬化層深さ設定方法により設定された焼入れ硬化層深さにする、クランク軸の製造方法である。
(III)上記(II)の製造方法により製造された、多気筒エンジン用のクランク軸である。
本発明のクランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法によれば、高周波焼入れの際に曲がり及び伸びを同時に低減することができる焼入れ深さを設定することが可能である。また、本発明のクランク軸の製造方法によれば、高周波焼入れによる曲がり及び伸びが低減された多気筒エンジン用クランク軸を製造することができる。
一般的な多気筒エンジン用クランク軸の一例を模式的に示す平面図である。 高周波焼入れ時のクランク軸の変形挙動を示す模式図であって、同図(a)はピン部のみに焼入れを施した場合を、同図(b)はジャーナル部のみに焼入れを施した場合をそれぞれ示す。 焼入れシミュレーションで用いたクランク軸の解析モデルを示す図であって、同図(a)は平面図を、同図(b)はそのアーム部を拡大した断面図を示す。 基準条件でのシミュレーション結果を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。 ピン部のみに焼入れを施す第1変更条件でのシミュレーション結果の一例を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。 ジャーナル部のみに焼入れを施す第2変更条件でのシミュレーション結果の一例を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。 表3に示す最適な焼入れ深さを採用してピン部及びジャーナル部のすべてに焼入れを施す条件でのシミュレーション結果を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。 本発明のクランク軸の焼入れ深さ設定方法の手順を示すフローチャートである。
以下に、本発明の多気筒エンジン用クランク軸の焼入れ硬化層深さの設定方法、クランク軸の製造方法、及びそのクランク軸について、その実施形態を詳述する。
1.焼入れによるクランク軸の曲がり及び伸びの発生メカニズム
図2は、高周波焼入れ時のクランク軸の変形挙動を示す模式図であって、同図(a)はピン部のみに焼入れを施した場合を、同図(b)はジャーナル部のみに焼入れを施した場合をそれぞれ示す。図2(a)、(b)では、上段に1スローの断面図を、下段にその簡易線図をそれぞれ示しており、上段の断面図には、高周波焼入れによる焼入れ硬化層を斜線で表示している。
クランク軸のアーム部Wにおいて、ピン部Pとジャーナル部Jのつなぎ部分(図2の上段の断面図中、点線で囲った部分)は剛性が低く、危険断面と称される。図2(a)に示すように、ピン部Pのみにフィレット部の領域まで焼入れを施した場合、アーム部Wの危険断面のピン部P側にまで焼入れ硬化層HPが形成されることから、危険断面のピン部P側がマルテンサイト変態により膨張する。これにより、ピン部Pを間に挟む一組のアーム部Wは、互いに開く方向に変形する。このため、クランク軸はアーム部W同士が開くように曲がることになり、この曲がりに起因する伸びと、焼入れ硬化層HPの特にピン平行部のマルテンサイト変態による膨張による伸びとが重畳する。したがって、ピン部Pのみに焼入れを施した場合は、クランク軸は長手方向に+(プラス)の伸び量で伸びる様相となる。ここでいうピン平行部は、ピン部Pにおける軸と平行な部分、すなわちピン部Pにおけるフィレット部を除いた部分である。
一方、図2(b)に示すように、ジャーナル部Jのみにフィレット部の領域まで焼入れを施した場合、アーム部Wの危険断面のジャーナル部J側にまで焼入れ硬化層HJが形成されることから、危険断面のジャーナル部J側がマルテンサイト変態により膨張する。これにより、ピン部Pを間に挟む一組のアーム部Wは、互いに閉じる方向に変形する。このため、クランク軸はアーム部W同士が閉じるように曲がることになるが、これはクランク軸の長手方向への縮みとなり、焼入れ硬化層HJの特にジャーナル平行部のマルテンサイト変態による膨張による伸びと相殺される。したがって、ジャーナル部Jのみに焼入れを施した場合、クランク軸は長手方向に−(マイナス)の伸び量で縮む様相となるか、又は小さい伸び量で伸びる様相となる。ここでいうジャーナル平行部は、ジャーナル部Jにおける軸と平行な部分、すなわちジャーナル部Jにおけるフィレット部を除いた部分である。
このように、ピン部とジャーナル部とでは、高周波焼入れが施されたときの曲がり及び伸びの傾向が異なる。このため、ピン部の焼入れとジャーナル部の焼入れを組み合わせ、個々の焼入れ状態、具体的には焼入れ深さを適切に設定することにより、クランク軸全体の曲がり及び伸びの最小化が見込まれる。
2.焼入れ深さの適正化によるクランク軸の曲がり及び伸びの低減の検討
2−1.基準条件での曲がり量及び伸び量
下記の寸法の直列4気筒エンジン用クランク軸を例に挙げ、ピン部及びジャーナル部に個々のフィレット部の領域まで高周波焼入れを施すシミュレーションを実施した。
・ピン部の直径:φ60mm
・ジャーナル部の直径:φ75mm
・ピン部の偏心量(ピストンストロークの半分):55mm
・アーム部の最大厚み:20mm
・アーム部の最大幅:105mm
図3は、焼入れシミュレーションで用いたクランク軸の解析モデルを示す図であって、同図(a)は平面図を、同図(b)はそのアーム部を拡大した断面図を示す。図3(a)に示すように、シミュレーションでは、クランク軸の回転中心である5つのジャーナル部Jのうち、先頭に配置された第1ジャーナル部J1の中心軸上で、かつ当該第1ジャーナル部J1の長手方向の中央位置を3次元座標系の原点とした。z軸方向は、ジャーナル部Jの中心軸に沿った長手方向、すなわち第1ジャーナル部J1から第2ジャーナル部J2に向かう方向とした。y軸方向は、ピン部Pのうちの先頭に配置された第1ピン部P1の偏心方向、すなわちクランク軸をフロント部側から見たときの第1ジャーナル部J1から第1ピン部P1に向かう方向とした。x軸方向は、第1ピン部P1の偏心方向に直角な方向とした。
シミュレーションは、第1基準条件、第2基準条件及び参考条件という3種の条件で行った。第1基準条件は、ピン部Pのみに焼入れを施す場合であり、すべてのピン部Pの焼入れ深さが同じ4.63mmで、すべてのジャーナル部Jの焼入れ深さがゼロ(0)である。第2基準条件は、ジャーナル部Jのみに焼入れを施す場合であり、すべてのジャーナル部Jの焼入れ深さが同じ4.43mmで、すべてのピン部Pの焼入れ深さがゼロ(0)である。参考条件は、第1基準条件と第2基準条件を組み合わせ、ピン部P及びジャーナル部Jの両方に焼入れを施す場合であり、すべてのピン部Pの焼入れ深さが同じ4.63mmで、すべてのジャーナル部Jの焼入れ深さが同じ4.43mmである。
その際、焼入れ深さは、ピン部及びジャーナル部のいずれも、アーム部Wの危険断面におけるフィレット部の焼入れ硬化層Hの45°方向での厚みとした(図3(b)参照)。焼入れ硬化層Hの厚みは、マルテンサイト相の体積分率が0.5になる位置と定義した。なお、実験で焼入れ硬化層を定義する場合は、JIS G0559の有効硬化層深さで定義するのが望ましい。
上記の焼入れシミュレーションにより、クランク軸の曲がり及び伸びを評価した。曲がりは、第1ジャーナル部J1と第5ジャーナル部J5の各中心(各ジャーナル部の中心軸上で、かつ当該各ジャーナル部の長手方向の中央位置)を結んだ直線を基準とし、この基準線からの各ジャーナル部J2、J3、J4の中心のx軸方向及びy軸方向の変位で示される(図3(a)中の塗潰し丸印部)。伸びは、第1ジャーナル部の中心、すなわち原点を基準とし、この原点からの各ジャーナル部J2、J3、J4、J5の中心のz軸方向の変位で示される(図3(a)中の塗潰し丸印部)。
ここで、図3に例示するクランク軸は、4気筒エンジン用クランク軸であることから、y軸−z軸平面(図3の紙面)に対し面対称の形状となる。ピン部がジャーナル部の周りに180°の位相角で配置され、ピン部の配置が2次元的だからである。このため、クランク軸の曲がりは、第1ピン部P1の偏心方向(y軸方向)のみに生じ、第1ピン部P1の偏心方向に直角な方向(x軸方向)には生じない。
図4は、基準条件でのシミュレーション結果を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。図4(a)の縦軸に示すy軸方向の曲がり量は、第1ピン部の偏心方向への曲がり量であり、「+(プラス)」(図中では省略)が第1ピン部の偏心方向に変位していることを意味し、「−(マイナス)」が第1ピン部の偏心方向と逆方向に変位していることを意味する。図4(b)の縦軸に示すz軸方向の伸び量は、長手方向の伸び量であり、「+」(図中では省略)が伸びていることを意味し、「−」が縮んでいることを意味する。
曲がりに関しては、図4(a)に示すように、ピン部のみに焼入れを施す第1基準条件の場合、各ジャーナル部が第1ピン部の偏心方向(+)に曲がるのに対し、ジャーナル部のみに焼入れを施す第2基準条件の場合は、各ジャーナル部が第1ピン部の偏心方向とは逆方向(−)に曲がることがわかる。そして、ピン部及びジャーナル部の両方に焼入れを施す参考条件の場合は、それらの曲がりが相殺されることとなる。本参考条件の場合は、ジャーナル部の焼入れ時の影響が大きく、その結果として、第1ピン部の偏心方向とは逆方向(−)への曲がりが発生する。
一方、伸びに関しては、図4(b)に示すように、ピン部のみに焼入れを施す第1基準条件の場合、各ジャーナル部が伸びるのに対し、ジャーナル部のみに焼入れを施す第2基準条件の場合は、各ジャーナル部が縮むことがわかる。そして、ピン部及びジャーナル部の両方に焼入れを施す参考条件の場合は、それらの伸びと縮みが相殺されることとなる。本参考条件の場合は、ピン部の焼入れ時の影響が大きく、その結果として、伸びが発生する。
2−2.変更条件での曲がり量及び伸び量
前記図3に示すクランク軸の解析モデルについて、上記の第1基準条件(ピン部の焼入れ深さが同じ)から各ピン部の焼入れ深さを個別に変更し、これらの各第1変更条件で焼入れシミュレーションを行った。第1変更条件は、ピン部のみに焼入れを施す場合であり、第1基準条件で焼入れ深さを4.63mmとしているピン部のうちから1つのピン部を順次選択し、選択したピン部のみで焼入れ深さを2.59mmと浅焼きに変更したものである。
第1変更条件としては、例えば、第1ピン部の焼入れ深さが2.59mmに変更され、これ以外の各ピン部の焼入れ深さが第1基準条件のままの4.63mmである。同様に、第2ピン部の焼入れ深さが2.59mmに変更され、これ以外の各ピン部の焼入れ深さが第1基準条件のままの4.63mmである。これらの各第1変更条件では、すべてのジャーナル部の焼入れ深さがゼロである。
また、前記図3に示すクランク軸の解析モデルについて、上記の第2基準条件(ジャーナル部の焼入れ深さが同じ)から各ジャーナル部の焼入れ深さを個別に変更し、これらの各第2変更条件で焼入れシミュレーションを行った。第2変更条件は、ジャーナル部のみに焼入れを施す場合であり、第2基準条件で焼入れ深さを4.43mmとしているジャーナル部のうちから1つのジャーナル部を順次選択し、選択したジャーナル部のみで焼入れ深さを2.50mmと浅焼きに変更したものである。
第2変更条件としては、例えば、第1ジャーナル部の焼入れ深さが2.50mmに変更され、これ以外の各ジャーナル部の焼入れ深さが第2基準条件のままの4.43mmである。同様に、第2ジャーナル部の焼入れ深さが2.50mmに変更され、これ以外の各ジャーナル部の焼入れ深さが第2基準条件のままの4.43mmである。第3ジャーナル部の焼入れ深さが変更されたときも同様である。これらの各第2変更条件では、すべてのピン部の焼入れ深さがゼロである。
上記の焼入れシミュレーションにより、第1変更条件及び第2変更条件のそれぞれにおけるクランク軸の曲がり及び伸びを評価した。
図5は、ピン部のみに焼入れを施す第1変更条件でのシミュレーション結果の一例を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。図5(a)の縦軸に示すy軸方向の曲がり量の意味、及び図5(b)の縦軸に示すz軸方向の伸び量の意味は、前記図4の場合と同様である。後述する図6及び図7でも同様である。
曲がりに関しては、図5(a)に示すように、第2ピン部の焼入れ深さを浅くした第1変更条件の場合、第1基準条件の場合と比較して曲がり量が小さくなることがわかる。これに対し、第1ピン部の焼入れ深さを浅くした第1変更条件の場合は、第1基準条件の場合と比較して曲がり量が大きくなり、第2ピン部の焼入れ深さを浅くした場合と曲がり度合いの傾向が逆になることがわかる。また、伸びに関しては、図5(b)に示すように、第1ピン部及び第2ピン部の焼入れ深さを浅くした第1変更条件の場合、第1基準条件の場合と比較して伸び量が小さくなることがわかる。
図6は、ジャーナル部のみに焼入れを施す第2変更条件でのシミュレーション結果の一例を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。
曲がりに関しては、図6(a)に示すように、第2ジャーナル部及び第3ジャーナル部の焼入れ深さを浅くした第2変更条件の場合は、第2基準条件の場合と比較して曲がりが小さくなることがわかる。これに対し、第1ジャーナル部の焼入れ深さを浅くした第2変更条件の場合は、第2基準条件の場合と比較して曲がりが大きくなり、第2ジャーナル部及び第3ジャーナル部の焼入れ深さを浅くした場合と曲がり度合いの傾向が逆になることがわかる。また、伸びに関しては、図6(b)に示すように、第1ジャーナル部、第2ジャーナル部及び第3ジャーナル部の焼入れ深さを浅くした第2変更条件の場合は、第2基準条件の場合と比較して縮み量が同等か小さくなることがわかる。
このように、ピン部のみに焼入れを施す場合と、ジャーナル部のみに焼入れを施す場合とでは、曲がり及び伸びの傾向が異なることに加え、ピン部及びジャーナル部の各部位のうちでどの部位の焼入れ深さを変更するかでも、曲がり及び伸びの傾向が異なることがわかる。このため、ピン部の焼入れとジャーナル部の焼入れを組み合わせ、ピン部及びジャーナル部のすべての部位に焼入れを施すに際し、上記の基準条件(第1基準条件、第2基準条件)及び変更条件(第1変更条件、第2変更条件)のそれぞれでの曲がり量及び伸び量を活用し、各部位の焼入れ深さを適切に設定することにより、クランク軸全体の曲がり及び伸びを同時に低減することができると考えられる。
2−3.基準条件及び変更条件のそれぞれでの曲がり量及び伸び量の活用
上記の第1基準条件及び上記の各第1変更条件(ピン部の焼入れ深さを第1基準条件から個別に変更)のそれぞれでの曲がり量及び伸び量に基づき、第1変更条件ごとに、第1基準条件に対する曲がり量及び伸び量それぞれの変化率を求める。これと合わせ、上記の第2基準条件及び上記の各第2変更条件(ジャーナル部の焼入れ深さを第2基準条件から個別に変更)のそれぞれでの曲がり量及び伸び量に基づき、第2変更条件ごとに、第2基準条件に対する曲がり量及び伸び量それぞれの変化率を求める。
ここで、ピン部P及びジャーナル部Jの各部位(P1、P2、P3、P4、J1、J2、J3、J4及びJ5)について、評価対象の部位をjとし、焼入れ深さを変更した部位をiする。そして、曲がり量変化率は、x軸方向ではaxijとし、y軸方向ではayijとする。さらに、z軸方向の伸び量変化率は、bzijとする。
下記の表1に、曲がり量変化率をまとめて示す。下記の表2に、伸び量変化率をまとめて示す。
なお、ここでは、4気筒エンジン用クランク軸を例に挙げているため、x軸方向には曲がりが発生せず、x軸方向の曲がり量変化率axijが生じない。このため、下記の表1では、y軸方向の曲がり量変化率ayijのみを表示する。もっとも、3気筒エンジンや直列6気筒エンジンや8気筒エンジン、さらにはV型6気筒エンジンや8気筒エンジンといった多気筒エンジンに搭載されるクランク軸の場合は、ピン部の配置が3次元的であることから、曲がりはy軸方向のみならず、x軸方向にも発生する。したがって、4気筒エンジン用クランク軸以外の多気筒エンジン用クランク軸の場合は、x軸方向の曲がり量変化率も検討に加える。
Figure 2015048492
Figure 2015048492
表1中、例えば、焼入れ深さ変更部位iがP1で、曲がり評価部位jがJ2である欄の数値「−0.06154」は、第1ピン部P1の焼入れ深さが第1基準条件に対して+1mm変化(増加)した場合に、第2ジャーナル部J2の曲がりが、第1ピンの偏心方向(+)と逆方向(−)に0.06154mm変化することを意味する。
ここで、基準条件、すなわち上記の第1基準条件(ピン部の焼入れ深さが同じ4.63mm)、及び上記の第2基準条件(ジャーナル部の焼入れ深さが同じ4.43mm)での各部位jについて、予め任意に設定した焼入れ硬化層深さ条件(参考条件:各ピン部の焼入れ深さが4.63mm、各ジャーナル部の焼入れ深さが4.43mm)でのx軸方向の曲がり量をAxjとし、y軸方向の曲がり量をAyjとし、z軸方向の伸び量をBzjとする。すると、各部位jについて、ピン部及びジャーナル部それぞれの焼入れ深さを、予め任意に設定した焼入れ硬化層深さ条件での焼入れ深さからΔdiほど変更したとき、このときのx軸方向の曲がり量A’xjは下記の(1)式で表すことができる。同じく、y軸方向の曲がり量A’yjは下記の(2)式で表すことができ、z軸方向の伸び量B’zjは下記の(3)式で表すことができる。
Figure 2015048492
これらの(1)式〜(3)式を用い、各部位jの曲がり量A’xj、A’yjと伸び量B’zjの2乗和で示される目的関数を定義する。この目的関数は、下記の(4)式で表される。
Figure 2015048492
次に、(4)式の目的関数が最小となるようなΔdiを求める。そして、各部位iについて、求めたΔdiより、下記の(5)式で表される焼入れ深さd’iを算出する。このd’iが、各部位j(P1、P2、P3、P4、J1、J2、J3、J4及びJ5)において曲がり及び伸びを最小化する最適な焼入れ深さとなる。
Figure 2015048492
(5)式中、diは基準条件での各部位iの焼入れ深さであり、Δdiはdiに対する焼入れ深さの変化量である。
また、上記(4)式中、αj、βjは重み係数である。具体的には、αjは曲がりの要因に対する重み係数であり、βjは伸びの要因に対する重み係数である。これらの重み係数αj、βjは、0または正の任意の値を設定することができ、各要因の重要度により適宜決定する。本発明では、曲がりのみならず、伸びも重視する。このため、曲がりの要因に対する重み係数αjのうち最大のものをαmax、伸びの要因に対する重み係数βjのうち最大のものをβmaxとしたとき、αmaxに対するβmaxの比の値βmax/αmaxは、0.0001〜10.0程度とするのが好ましい。より好ましくは、βmax/αmaxは1以上とする。
例えば、上記(4)式に関し、上述のとおりに4気筒エンジン用クランク軸を対象とする場合、クランク軸の曲がりは第2ジャーナル部J2、第3ジャーナル部J3及び第4ジャーナル部J4で評価し、クランク軸の伸びは第5ジャーナル部J5で評価する。重み係数αj、βjはいずれも1とする。そうすると、上記(4)式の目的関数は、下記の(6)式となる。
Figure 2015048492
そして、上記(2)式及び(3)式、並びに上記表1及び表2に示す曲がり量変化率ayij及び伸び量変化率bzijなどを用い、(6)式の目的関数が最小となるように、各部位j(P1、P2、P3、P4、J1、J2、J3、J4及びJ5)の最適な焼入れ深さd’iを算出すると、下記の表3に示すとおりになる。なお、目的関数を最小化させる際、焼入れ深さに上下限を設ける。ここでは、実用性を踏まえて2mm〜5mmの範囲を許容するものとする。
Figure 2015048492
図7は、表3に示す最適な焼入れ深さを採用してピン部及びジャーナル部のすべてに焼入れを施す条件でのシミュレーション結果を示す図であって、同図(a)はクランク軸の曲がりの分布を、同図(b)はクランク軸の伸びの分布をそれぞれ示す。なお、同図には、比較のために、前記図4に示した参考条件(ピン部の焼入れ深さが同じで、且つジャーナル部の焼入れ深さが同じ)の場合のシミュレーション結果も示している。同図に示すように、ピン部及びジャーナル部のすべての部位に焼入れを施すに際し、各部位の焼入れ深さを適切に設定することにより、クランク軸全体の曲がり及び伸びを同時に低減することが確認できる。
3.多気筒エンジン用クランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法
本発明の焼入れ深さの設定方法は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、多気筒エンジン用クランク軸のピン部及びジャーナル部のすべてに個々のフィレット部の領域まで高周波焼入れを施すに際し、下記の第1ステップ〜第7ステップの一連のステップを経て、各部位の焼入れ深さを設定するものである。
図8は、本発明のクランク軸の焼入れ深さ設定方法の手順を示すフローチャートである。先ず、第1ステップにおいて、ピン部に焼入れを施す第1基準条件を決定し、この第1基準条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する。これと合わせ、第2ステップにおいて、ジャーナル部に焼入れを施す第2基準条件を決定し、この第2基準条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する。
このとき、第1基準条件のピン部焼入れ深さ、及び第2基準条件のジャーナル部焼入れ深さは、任意に決定することができるが、クランク軸に要求される仕様の範囲内とする。また、実施例では、第1基準条件において、すべてのピン部の焼入れ深さが同じであるが、焼入れ深さが各ピンで異なっていても構わない。同様に、第2基準条件において、すべてのジャーナル部の焼入れ深さが同じであるが、焼入れ深さが各ジャーナルで異なっていても構わない。また、実施例では、第1基準条件のジャーナル、第2基準条件のピン部の焼入れ深さはゼロとしているが、第1基準条件と第1基準変更条件の対応する各ジャーナル部の焼入れ深さが同じであれば、0である必要も、各ジャーナル部の焼入れ深さが同じである必要も無い。同様に、第2基準条件と第2基準変更条件の対応する各ピン部の焼入れ深さが同じであれば、0である必要も、各ピンの硬化層深さが同じである必要も無い。ただし、ばらつきを考慮して、基準条件の焼入れ深さに対し、変更条件の対応する部位の焼入れ深さが±0.2mm以内であれば、基準条件の焼入れ深さと、変更条件の焼入れ深さは同じと定義する。
また、曲がり量及び伸び量の把握は、上記の項目「2−1」で述べたとおり、コンピュータによるシミュレーションで行うことができる。ただし、シミュレーションに代え、実験で行うこともできる。これらの第1ステップと第2ステップの順序は入れ替わっても構わない。
次に、第3ステップにおいて、第1基準条件から各ピン部の焼入れ硬化層深さを個別に変更し、これらの各第1変更条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する。これと合わせ、第4ステップにおいて、第2基準条件から各ジャーナル部の焼入れ硬化層深さを個別に変更し、これらの各第2変更条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する。
このとき、第1変更条件で変更したピン部焼入れ深さ、及び第2変更条件で変更したジャーナル部焼入れ深さは、任意に決定することができるが、クランク軸に要求される仕様の範囲内で浅焼きまたは深焼きとする。曲がり量及び伸び量の把握は、第1ステップ及び第2ステップと同様に、上記の項目「2−2」で述べたとおり、コンピュータによるシミュレーションで行うことができるが、実験で行うこともできる。これらの第3ステップと第4ステップの順序は入れ替わっても構わない。
続いて、第5ステップにおいて、第1ステップ及び第3ステップで把握した曲がり量及び伸び量に基づき、第1変更条件ごとに、第1基準条件に対する曲がり量変化率及び伸び量変化率を求める。これと合わせ、第6ステップにおいて、第2ステップ及び第4ステップで把握した曲がり量及び伸び量に基づき、第2変更条件ごとに、第2基準条件に対する曲がり量変化率及び伸び量変化率を求める。ここでは、上記の項目「2−3」で述べた表1及び表2のような一覧をまとめる。
次いで、第7ステップにおいて、第5ステップ及び第6ステップで求めた、第1変更条件及び第2変更条件ごとの曲がり量変化率及び伸び量変化率に基づき、クランク軸の曲がり量及び伸び量が最小になる、各ピン部及び各ジャーナル部それぞれの焼入れ深さを算出し設定する。このとき、各部位の焼入れ深さの算出は、上記の項目「2−3」で述べたとおり、上記(4)式の目的関数が最小となるように演算を実行することで行える。
このようにして得られた各部位の焼入れ深さは、クランク軸の曲がり及び伸びを最小化する最適なものとなる。したがって、多気筒エンジン用クランク軸に高周波焼入れを施すに際し、ピン部及びジャーナル部の各部位の焼入れ深さとして、上記の設定方法で得られた各部位の焼入れ深さを個々に設定することにより、クランク軸の曲がり及び伸びを同時に低減することが可能になる。
また、高周波焼入れ時に、各部位の焼入れ深さが、上記の設定方法で得られた焼入れ深さとなるように、各部位の焼入れ条件(例:高周波コイルへの電力、加熱時間)を個々に調整することにより、曲がり及び伸びが低減されたクランク軸を製造することができる。
その他本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
本発明は、あらゆる多気筒エンジンに搭載されるクランク軸に有効に利用できる。
1:クランク軸、
J、J1〜J5:ジャーナル部、 P、P1〜P4:ピン部、
Fr:フロント部、 Fl:フランジ部、
W、W1〜W8:クランクアーム部、
H、HP、HJ:焼入れ硬化層

Claims (5)

  1. 多気筒エンジン用のクランク軸のピン部及びジャーナル部のすべてに個々のフィレット部の領域まで高周波焼入れを施す際の焼入れ硬化層深さの設定方法であって、
    ピン部に焼入れを施す第1基準条件を決定し、この第1基準条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第1ステップと、
    ジャーナル部に焼入れを施す第2基準条件を決定し、この第2基準条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第2ステップと、
    前記第1基準条件から各ピン部の焼入れ硬化層深さを個別に変更し、これらの各第1変更条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第3ステップと、
    前記第2基準条件から各ジャーナル部の焼入れ硬化層深さを個別に変更し、これらの各第2変更条件のときのクランク軸の曲がり量及び伸び量を把握する第4ステップと、
    第1ステップ及び第3ステップで把握した曲がり量及び伸び量に基づき、前記第1変更条件ごとに、前記第1基準条件に対する曲がり量及び伸び量それぞれの変化率を求める第5ステップと、
    第2ステップ及び第4ステップで把握した曲がり量及び伸び量に基づき、前記第2変更条件ごとに、前記第2基準条件に対する曲がり量及び伸び量それぞれの変化率を求める第6ステップと、
    第5ステップ及び第6ステップで求めた、前記第1変更条件及び前記第2変更条件ごとの曲がり量変化率及び伸び量変化率に基づき、クランク軸の曲がり量及び伸び量が最小になる、各ピン部及び各ジャーナル部それぞれの焼入れ硬化層深さを算出し設定する第7ステップと、を含む
    ことを特徴とするクランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法。
  2. ジャーナル部の中心軸に沿った長手方向を3次元座標系のz軸方向とし、ピン部のうちの先頭に配置された第1ピン部の偏心方向をy軸方向とし、y軸及びz軸と直角な方向をx軸方向とし、
    さらに、各ピン部及び各ジャーナル部の各部位について、評価対象の部位をjとし、焼入れ硬化層深さを変更した部位をiとしたとき、
    前記第7ステップにおいて、
    ピン部及びジャーナル部の各部位jについて、x軸方向の曲がり量A’xjを下記の(1)式で表し、y軸方向の曲がり量A’yjを下記の(2)式で表し、z軸方向の伸び量B’zjを下記の(3)式で表し、これらの(1)式〜(3)式を用いて下記の(4)式で表される目的関数が最小となるように、下記の(5)式で表される焼入れ硬化層深さd’iを算出し設定する
    ことを特徴とする請求項1に記載のクランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法。
    Figure 2015048492
    上記の(1)式〜(5)式中、
    αj、βjは重み係数であり、
    xj及びAyj、並びにBzjは、それぞれ予め任意に設定した焼入れ硬化層深さ条件での各部位jのx軸方向の曲がり量及びy軸方向の曲がり量、並びにz軸方向の伸び量であり、
    xij及びayij、並びにbzijは、それぞれ前記第3ステップ及び前記第4ステップで各部位iの焼入れ硬化層深さを変更したときの部位jごとのx軸方向の曲がり量変化率及びy軸方向の曲がり量変化率、並びにz軸方向の伸び量変化率であり、
    iは予め任意に設定した焼入れ硬化層深さ条件での各部位iの焼入れ硬化層深さであり、
    Δdiはdiに対する焼入れ硬化層深さの変化量である。
  3. 前記第1基準条件は、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さが同じで、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さがゼロであり、
    前記第2基準条件は、すべてのジャーナル部の焼入れ硬化層深さが同じで、すべてのピン部の焼入れ硬化層深さがゼロである
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載のクランク軸の焼入れ硬化層深さ設定方法。
  4. 多気筒エンジン用のクランク軸の製造方法であって、
    クランク軸に高周波焼入れを施し、各ピン部及び各ジャーナル部の焼入れ硬化層深さを、請求項1から3のいずれかに記載の焼入れ硬化層深さ設定方法により設定された焼入れ硬化層深さにする
    ことを特徴とするクランク軸の製造方法。
  5. 請求項4に記載の製造方法により製造された
    ことを特徴とする多気筒エンジン用のクランク軸。
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