以下、本発明について、図面を参照して詳述する。
本発明の外周切断刃は、例えば、図1に示されるように、円形薄板(円形リング状薄板)の台板10の外周縁部上に、電気メッキ又は無電解メッキにより形成された金属又は合金(金属結合材)で、台板と砥粒、及び砥粒と砥粒とが固着された切り刃部20が形成されているものである。この台板10の中央部には内穴12が形成されている。
台板は、厚みが0.1〜1.0mm、好ましくは0.2〜0.8mmで、外径が80〜200mm、好ましくは100〜180mm、内穴の直径(内径)が30〜80mm、好ましくは40〜70mmの寸法を有する。厚みを0.1〜1.0mm、外径を200mm以下の範囲とするのは、精度のよい台板の製作が可能なこと、また、このサイズの台板であれば、希土類焼結磁石等の被作物(ワーク)を寸法精度良く長期にわたって安定して切断しやすいことによる理由からである。厚みが0.1mm未満であると、外径によらず大きな反りが発生しやすいため、精度良い台板の製作が難しく、また、1.0mmを超えると切断加工代が大きくなる。一方、外径をφ200mm以下としたのは、現行の超硬合金の製造技術及び加工技術での製作可能な寸法による理由からである。内穴の直径については、加工機の外周切断刃の取り付け軸の太さに合わせて設定する。
台板の材質は超硬合金であり、例えば、WC、TiC、MoC、NbC、TaC、Cr3C2などの周期表4族、5族又は6族に属する金属の炭化物粉末をFe、Co、Ni、Mo、Cu、Pb、Sn、又はそれらの合金を用いて焼結結合した合金が好ましく、これらの中でも特にWC−Co系、WC−Ti系、C−Co系、WC−TiC−TaC−Co系の代表的なものを用い、ヤング率が450〜700GPaのものを用いる。
また、これらの超硬合金においては、メッキができる程度の電気伝導性を有するか、又はパラジウム触媒などによって電気伝導性を付与できるものが好ましい。パラジウム触媒などによる電気伝導性の付与については、例えば、ABS樹脂にメッキする場合などに用いられる導電化処理剤など、公知のものを利用することができる。
台板外周縁部は、金属結合材で、砥粒が固着されて形成された切り刃部との結合強度を高めるため、C面取りやR面取りを施すことも効果的である。これらの面取りを施すことによって、切り刃部の刃厚調整時に、台板と切り刃部との境目を誤って研削しすぎた場合であっても、金属結合材が境目に残り、切り刃部の脱落を防ぐことができる。面取りの角度や量は、加工できる範囲が台板の厚みに依存するため、用いる台板の厚みと固着する砥粒の平均粒径に応じて決定すればよい。
台板の磁気的特性は、後述する砥粒を磁気吸引する方法により台板に固定することができるように飽和磁化が大きいほうが好ましいが、仮に、飽和磁化が小さくても、後述するように磁石位置や磁界の強さを制御することで予め磁性体でコーティングされた砥粒を台板に磁気吸引させることが可能なため、40kA/m(0.05T)以上であればよい。
台板の飽和磁化は、所定厚みの台板から5mm角の測定試料を切り出し、VSMを用いて24〜25℃の間で磁化曲線(4πI−H)を測定し、第一象限における磁化の値の上限を台板の飽和磁化とすることができる。
外周切断刃に用いる砥粒には、ダイヤモンド砥粒及び/又はcBN砥粒を用いる。また、切り刃部を形成する砥粒は、切断加工条件に応じて、平均粒径が45〜310μmの砥粒を用いる。この砥粒の平均粒径には、レーザー回折・散乱光を測定する粒度分布測定器を用いて得られる50%径(メジアン径)を適用することができる。平均粒径が45μm未満であると、砥粒と砥粒の隙間が少なくなるため、切断中の目詰まりが生じやすくなり、切断能力が低下し、平均粒径が310μmを超えると、被作物の切断面が粗くなるなどの不具合が生じる。この平均粒径の範囲内において、切断加工性や寿命などを考慮して、特定の大きさの砥粒を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いる。
更に、切り刃部を形成する砥粒は、以下に示す方法で測定される靭性指標TI(Toughness Index)が150以上の砥粒を用いる。本発明者らは、平均粒径が45〜310μmのダイヤモンド砥粒及びcBN砥粒について、TIの異なる砥粒を固着した外周切断刃を作製して希土類焼結磁石(希土類焼結永久磁石)を切断し、切り出した磁石の寸法及びその公差を調べたところ、TIが150以上である砥粒を用いた外周切断刃が、高い切断精度を長期間維持でき、このTIが、発熱を伴う衝撃に対する砥粒の耐久性の現実的な評価指標となることを知見した。
この靭性指標TIは、所定の合金製円筒容器内に、金属ボール1個と所定質量の砥粒とを入れて密封し、室温(例えば15〜25℃)で、一定のストロークと振動数で振とうし、所定の大きさ以下になった砥粒が初期質量(試験前の砥粒の総質量)の50%になるまでの時間(秒)を指標とするものである。
具体的には、ANSI(American National Standards Institute) B74.23−2002で規定されている方法を適用することができる。この方法では、例えば、図5に示されるように、φ(12.70±0.02)mm、高さ(19.10±0.01)mmの周面、一端面としてφ(12.70±0.02)mmの平面、及び他端面としてR7.14mm、深さ(3.84±0.06)mmの部分球面で囲まれた空間を有する合金製容器71内に、直径φ(7.94±0.02)mm、質量(2.040±0.005)gのクロム合金鋼製のボール72を1個と、所定の篩で分けられた所定質量の砥粒26とを入れて密封し、室温でストローク(8.1±1.5)mm、毎分(2,400±3)回振とうさせる。
この場合、上記周面を形成する合金としては、組成X100CrMoV51(AISI Type A2)の合金、又は硬度58−60Rc相当品、上記平面及び部分球面を形成する合金としては、組成X100Cr6(AISI 52100)の合金、又は硬度58−60Rc相当品が適用できる。
試験に供する砥粒には、砥粒の平均粒径である45〜310μmの範囲内において、ダイヤモンド砥粒又はcBN砥粒の規格粒径に応じて、下記表1に示される所定の篩と試料量が適用される。例えば、規格粒径(USメッシュサイズ)が80/100のダイヤモンド砥粒(FEPA(Federation of European Producers of Abrasives)粒度記号 D/B 181 相当品)であれば、砥粒を、まず、篩穴径が197μmの上篩(表中の篩A)と篩穴径が151μmの下篩(表中の篩B)とを用いて篩分し、両篩間に篩分されたもの6gを合金製容器に入れて振とうする。振とう後の砥粒は、篩穴径が127μmの破壊後篩(表中の篩C)を用いて篩分し、この篩分において、篩下の砥粒が試験前の砥粒の総質量(この場合、6g)の50%(この場合、3g)になるまでに要する振とうの時間(秒)を靭性指標TIとする。表1に示されるように、砥粒の粒径によって、用いる篩と試験に供される砥粒の質量が異なる。
TIが150以上であれば、砥粒が破砕しにくく、容易に脱落することがなく、磨耗も少ないため、砥粒と金属結合材、更には、後述する砥粒間及び砥粒と台板との間に存する空隙に含浸する金属、合金及び樹脂との磨耗の違い(磨耗比)が維持され、砥粒が小さくなって保持できなくなるまでの間、長期にわたって高精度切断の持続が可能となる。一方、TIが150未満であると、砥粒が破砕しやすく、容易に脱落又は磨耗してしまうため、上述した砥粒と金属結合材との作用が得られず、高精度切断を持続できない。
砥粒となるダイヤモンドとしては、Fe、Ni、Co、Mn、Crなどの金属やこれらの合金が溶媒として用いられ、黒鉛、金属や合金、触媒とを共存させた状態で、ダイヤモンドとして安定な圧力・温度にて保持することにより黒鉛をダイヤモンドに変換する溶解度差法や、高温部に炭素源を、低温部に成長の核となる微小なダイヤモンド種結晶を配置して金属溶媒を介し、炭素源と種結晶との温度差を特定の範囲に維持して高温・高圧にすることにより種結晶上にダイヤモンドを成長させる温度差法などによって製造されたものを用いることができる。
また、砥粒となるcBNとしては、Li等のアルカリ金属、Mg、Ca等の周期表第2族元素、それらの窒化物やホウ化物などの溶液を触媒として用いて、hBNをcBN変換する製造法や、hBNを高強度のアンビル内に納め、高圧、高温を加えてcBNに変換する方法によって製造されたものを用いることができる。
製造される砥粒には、反応セルや溶媒中に含まれている窒素が不純物として取り込まれるが、これを少なくするためにAl、Ti、Zrなど窒素と親和性の高い金属を溶媒に添加することが有効とされる。但し、これらの添加物はダイヤモンドに炭化物を混入させたり、結晶の成長阻害を引き起こしたりして、耐衝撃性や耐熱性に影響を与えるため注意が必要で、より不純物の少ない結晶を得るために、高圧での温度差法を採用することは有効である。
得られる砥粒は、製造法と製造条件によって、粒形が異なり、硬さや耐磨耗性が異なる幾つかの結晶方位を有する。
例えば、ダイヤモンドにおいては、Hertz圧壊試験などでみられるように[111]面は[100]面や[110]面よりもクラックが入りやすく、へき開が生じやすいとされる一方で、耐磨耗性においては、[110]面が磨耗しやすく[111]面が磨耗しにくいとされているので、目的に合わせて、溶媒金属、温度、圧力を適度に調整して特定の面方位を比較的多く成長させた砥粒を製造することや、その面が切削にかかるように砥粒を保持(固着)することも有効である。
なお、これらの砥粒は、後述する砥粒を磁気吸引する方法により台板に固定することができるように、予め磁性体によってコーティングすることが好ましい。この場合、砥粒の表面に、Fe、Co、Crなどの金属を1μm程度スパッタリングしてコーティングする磁性体との結合強度を高める方法も有効である。
砥粒は、Ni、Fe及びCoから選ばれる1種の金属、これら金属から選ばれる2種以上からなる合金、又はこれら金属若しくは合金の1種とP及びMnから選ばれる1種若しくは2種との合金を、スパッタリング、電気メッキ、無電解メッキなどの公知の方法により、皮膜の厚みが砥粒径の0.5〜100%、好ましくは2〜80%となるようにコーティングする。
コーティングする磁性体の厚みは、切り刃部を形成した際にできる砥粒間の隙間の大きさに影響を与えるので、特に適切な範囲とすることが必要である。最小厚みは、メッキでコーティングする場合でも砥粒のほぼ全体をコーティングできる厚みである1.5μm以上となるようにするのが好ましく、2.5μm以上がより好ましい。例えば、上述した砥粒の平均粒径範囲の最大値310μmの場合では、平均粒径の0.5%以上であればコーティング厚みを1.5μm以上とすることができる。一方、最大厚みは、45μm以下が好ましい。例えば、上述した砥粒の平均粒径範囲の最小値45μmの場合では、切断加工において有効に機能しない部分や、砥粒の自生作用を妨げる部分が増え、加工能力が低下するので、砥粒の平均粒径に対して100%までとすることが好ましく、この場合、平均粒径の100%以下であればコーティング厚みを45μm以下とすることができる。
コーティングの厚みをこのようにすることにより、外周切断刃として切断加工する際においても、砥粒の脱落を低減できる保持力を得ることができ、また、コーティングする磁性体の種類を適切に選ぶことで、メッキ工程中に脱落することなく、砥粒が磁場によって台板外周縁部上又は近傍に吸引される。
金属結合材は、メッキにより形成された金属又は合金であり、Ni、Fe、Co、Cu及びSnから選ばれる1種の金属、これら金属から選ばれる2種以上からなる合金、又はこれら金属若しくは合金の1種とP及びMnから選ばれる1種又は2種との合金が好ましく、これをメッキによって砥粒間及び砥粒と台板との間を連結するように析出させる。
金属結合材をメッキで形成する方法には、大きく分けて電着法(電気メッキ法)と無電解メッキ法の2種類があるが、本発明では、金属結合材に残留する内部応力の制御が容易で生産コストの安い電着法と、メッキ液が入り込みさえすれば金属結合材を比較的均一に析出できる無電解メッキ法とを、切り刃部に含まれる砥粒間の隙間が適度な範囲となるように、各々単独で又は組み合わせて用いる。
NiメッキやCuメッキなどの単一金属、例えば、スルファミン酸Niメッキ液を用いた電気メッキ法を用いる場合は、主成分となるスルファミン酸ニッケルの濃度、メッキ時の電流密度、メッキ液の温度を好適な範囲とし、かつオルソベンゼンスルフォンイミドやパラトルエンスルフォンアミドなどの有機添加物を添加して実施すればよい。メッキ液には、Zn、S、Mnなどの元素を加え、皮膜の応力を調整することも可能である。
その他、Ni−Fe合金、Ni−Mn合金、Ni−P合金、Ni−Co合金、Ni−Sn合金などの合金メッキの場合は、合金中のFe、Mn、P、Co、Snの含有量、メッキ液の温度などを好適な範囲にするなどして皮膜の応力を調整する。もちろんこれらの合金メッキの場合でも応力を調整できる有機添加物の併用は効果的である。
メッキは、単一金属又は合金を析出させる従来公知のメッキ液を用い、そのメッキ液における通常のメッキ条件を採用して公知の方法で行うことができる。
好適な電気メッキ液としては、例えば、スルファミン酸ニッケルが250〜600g/L、硫酸ニッケルが50〜200g/L、塩化ニッケルが5〜70g/L、ホウ酸が20〜40g/L、オルソベンゼンスルフォンイミドが適量の電気スルファミン酸ワットニッケルメッキ液、ピロリン酸銅が30〜150g/L、ピロリン酸カリウムが100〜450g/L、25%アンモニア水が1〜20mL/L、硝酸カリウムが5〜20g/Lの電気ピロリン酸銅メッキ液などが挙げられる。また、無電解メッキ液としては、硫酸ニッケルが10〜50g/L、次亜リン酸ナトリウムが10〜50g/L、酢酸ナトリウムが10〜30g/L、クエン酸ナトリウムが5〜30g/L、チオ尿素が適量の無電解ニッケル・リン合金メッキ液などが挙げられる。
切り刃部の形成には、砥粒を磁気吸引する方法により台板に固定する場合、台板の外周縁部に近接して永久磁石を配設することが必要であり、例えば、台板の外周端より内側(外周切断刃としたときの回転軸側)の台板面(台板側面)上、又は外周端より内側で台板面からの距離が20mm以下となる空間内に、残留磁束密度が0.3T以上である永久磁石を2個以上配置することで、台板の少なくとも外周端から10mm以下の空間に8kA/m以上の磁場を形成し、更に、予め磁性体をコーティングしてなるダイヤモンド砥粒及び/又はcBN砥粒に、この磁場を作用させて磁気吸引力を生じさせ、その吸引力によりこれらの砥粒を台板外周縁部上又は近傍に磁気的に吸引固定し、その状態のまま台板外周縁部上に電気メッキ又は無電解メッキを施して、台板外周縁部上に固着する方法を採用することができる。
この際に用いる治具としては、台板の外径より大きい外径を有する絶縁体からなるカバーと、このカバーに、台板の外周端より内側になるように配置、固定された永久磁石とを有する1対の治具本体を用いることができる。メッキは、これら治具本体間に台板を保持して行うことができる。
図2,3は、このメッキの際に用いる治具の一例を示すもので、50,50は一対の治具本体であり、これら治具本体50,50はそれぞれ絶縁体製のカバー52,52と、これらカバー52,52に装着された永久磁石54,54とを有し、治具本体50,50間に台板1が保持される。なお、永久磁石54,54はカバー52,52内に埋設することが好ましいが、台板1と当接するように設けてもよい。
治具に装着する永久磁石には、メッキ法で金属結合材を析出させて砥粒を固着させる間、台板に砥粒を吸引しつづけるだけの磁力が必要である。必要とする磁力は、台板外周縁部と磁石との距離や、予め砥粒をコーティングしている磁性体の磁化にもよるが、残留磁束密度0.3T以上、保磁力0.2MA/m以上の永久磁石を用いることで得られる。
永久磁石の残留磁束密度は、値が大きいほど、形成する磁場の勾配を大きくできるため、局所的に砥粒を吸引したい場合には好都合である。よって、メッキ中に生じるメッキ液の撹拌や台板と治具の揺動による振動で砥粒が台板から外れてしまうことを防ぐために、0.3T以上の残留磁束密度の永久磁石を用いることが好ましい。
保磁力は値が大きいほど、高温のメッキ液にさらされても長期間砥粒を台板に強く磁気吸引でき、用いる磁石の位置、形状、大きさについての自由度が大きくなって治具製作が容易となるので、必要な残留磁束密度を満たした中から選べばよい。
永久磁石のコーティングは、メッキ液に磁石が触れる場合も考慮し、メッキ液へのコーティング材の溶出やメッキ液中の金属種との置換ができるだけ少なくなるような条件で選定して、永久磁石の耐食性を高めるようにする。例えば、Niメッキ液を用いて金属結合材を析出するのであれば、Cu、Sn、Niの金属や、エポキシ樹脂やアクリル樹脂のコーティングが適している。
治具に内蔵する永久磁石の形状と寸法及び数は、台板となる超硬合金の大きさ、所望する磁場の位置と向きと強さによる。例えば、台板外周縁部に均一に砥粒を固着させたい場合は、台板の外径に合ったリング状や円弧状の磁石、又は1辺の長さが数mm程度の直方体状磁石を、台板外周に沿って隙間なく連続に配置する。なお、磁石にかかるコストを少なくする目的で、これら磁石の間に均等に空間を設けて個数を減らして配置してもよい。
また、用いる磁石の残留磁束密度にもよるが、磁石間隔を大きくすることで予め磁性体によってコーティングされている砥粒が吸引される部分と吸引されない部分とを設けて、固着される砥粒のある部分とない部分を作り、矩形状の切り刃部を形成することもできる。
なお、台板外周縁部に生じさせる磁場は、台板を挟む2つの治具本体に固定される永久磁石の位置と磁化方向の向きの組み合わせによって様々に作り出すことができるため、台板の少なくとも外周端から10mm以下の空間に8kA/m以上の磁場が形成されるように磁場解析と実証を繰り返して決定する。磁場の強さが8kA/m未満であると、予め磁性体によってコーティングされている砥粒の吸引力が不足するため、その状態でメッキすると、メッキ中に砥粒が動いてしまい、隙間の多い切り刃部が形成されたり、砥粒が樹枝状に固定されたりして切り刃部の寸法が所望よりも大きくなるおそれがある。その結果、整形加工中に切り刃部が脱落したり、整形加工にかかる時間が長くなったりするため、製造コストが増大する場合がある。
永久磁石の位置は、できるだけ砥粒を吸引させたい部分に近いほうが好ましいが、大まかには、台板の外周端より内側の台板面上又は外周端より内側で台板面からの距離が20mm以下である空間内、更に好ましくは距離10mm以下である空間内がより好ましい。この範囲の特定位置に0.3T以上の残留磁束密度を有する永久磁石をその全て又は一部分が含まれるように2個以上(治具本体1個あたり1個以上)配置することで、台板の少なくとも外周端から10mm以下の空間内に8kA/m以上の磁場を形成することができるため、超硬合金のように飽和磁化が低く磁力の誘導が小さい材質であっても、台板外周縁部に磁力が適切な磁場を形成させることができる。この磁場内に予め磁性体でコーティングされた砥粒を取り込むことで、コーティング皮膜が磁化されるため、結果として所望する台板外周縁部上又は近傍に砥粒を吸引保持することが可能となる。
台板外周端からの磁石の位置が、例えば、外周端から0.5mm外側(外周切断刃としたときの回転軸から離間する側)である場合のように、台板外周端に極めて近い位置であっても、上記の範囲に含まれない場合は、台板外周端近傍の磁場強度は強くなるが、磁場勾配が反転する領域が生じやすくなるため、砥粒が台板から浮き上がるような挙動を示し砥粒が脱落しやすくなる。また、台板外周端よりも内側にあっても外周端からの距離が20mmを超えてしまうような場合には、台板の外周端から10mm以下の空間にできる磁場の強度が8kA/m未満になりやすいため、砥粒を磁気的に吸引する力が不足してしまうおそれがある。また、このような場合、磁場の強度を上げるため、磁石を大きくする方法もあるが、磁石を保持する治具も大きくなってしまうため、あまり現実的ではない。
治具の形状は、用いる台板の形状に合わせる。また、その寸法は治具で台板を挟んだ際に台板に対して永久磁石を所望の位置に固定できるようなものにする。例えば、台板の大きさが外径φ125mm、厚み0.26mmで、永久磁石の大きさがL2.5mm×W2mm×t1.5mmの場合には、外径125mm以上、厚み20mm程度の円板を用いることができる。
より具体的には、治具の外径は所望する切り刃部の高さ(突き出し量:図1(C)のH2)が確保できるように、台板の外径+(切り刃部の高さ×2)以上とし、その厚みは、材質によるが、高温のメッキ液に出し入れする際の急激な温度変化等によって反りなどが生じない程度の強度を確保できるものにする。なお、砥粒と接する部分の治具厚みは、切り刃部が台板の厚み方向にせり出す量(図1(C)のT3)が得られるように薄くしてもよいし、治具の寸法精度を高めたり、加工費を抑える目的で、せり出し量と同等厚みのマスキングテープ又はスペーサーを併用して他の部分と同じ厚みとしてもよい。
治具の材質は、台板を挟んだ治具全体を高温のメッキ液に浸漬して金属結合材を析出させることから、メッキが析出しない絶縁体が好ましく、その中でも耐薬品性、90℃程度までの耐熱性、メッキ液への出し入れ時に生じる急激な温度変化を繰り返し受けても安定した寸法を保つことができるような耐ヒートショック性が望まれる。更に、高温のメッキ液に浸漬した際でも、成型時や加工時に蓄積された内部応力などで反りを生じて台板との間に隙間を生じさせることがないような寸法安定性も必要である。もちろん、任意の位置に永久磁石を内蔵するための溝を割れや欠けなしに高精度で加工できる加工性も求められる。
具体的なものとしては、PPS、PEEK、POM、PAR、PSF、PESなどのエンジニアリングプラスティックやアルミナなどのセラミックスを用いることができる。このような材質を用い、機械強度も考慮して厚み等の寸法を決め、永久磁石を保持する溝や、電気メッキ法を用いる場合に必要な給電電極等が収まる溝を設ける。このように製作した1対の治具本体2つを台板1枚と一体化して用いる。一体化する際には、電気メッキができるよう台板に通電するための電極等を用いて締結できるようにすれば、給電部の確保と締結を両立でき、全体も小型化できる。もちろん、一度に複数の台板にメッキできるよう、例えば、図2に示したように、治具を連結できるような構造にすれば、より効率的な生産が可能となるので好ましい。
即ち、図2において、56,56はそれぞれカバー52,52の中央部に装着された台板押さえを兼ねた電気メッキ用陰極体であり、これら陰極体56,56は、1対の治具本体50,50を支持、固定する導電性の支持棒58と接触し、この支持棒58から通電し得るようになっている。また、図2の治具は、2組の1対の治具本体50,50が所定間隔離間して支持棒58に取り付けられるものである。図2中、60はジョイント、62はエンドキャップである。なお、この図2の治具は電気メッキ用であり、無電解メッキ用の場合は、陰極体は必要とせず、その代わりに非導電性の押さえを設けてもよく、支持棒は必ずしも導電性である必要はない。
このような治具を用いてメッキを行う場合、磁性体をコーティングした砥粒は必要により天秤等で任意の質量を量り取り、永久磁石を保持した1対の治具本体で台板を挟んだ際に、台板外周縁部と治具によって形成された隙間に吸引保持させる。図3はこの隙間を説明したもので、1対の治具本体50,50(カバー52,52)の台板1より先方に突出部52a,52aが突出し、台板1の先端部との間に隙間64が形成され、この隙間64に砥粒を磁気吸引するものである。なお、超硬台板の外周縁部に面取りを施した場合、面取りした部分と治具との間に砥粒が十分に入り込むように隙間を設定する。この部分に十分な砥粒がないと、メッキ後に得られた切り刃部が、この部分で浮いた状態となるおそれがある。
保持させる砥粒の量は、用いる台板の外径と厚み、砥粒の大きさ及び所望する切り刃部の高さや幅に依存する。なお、台板外周の全ての位置で単位体積あたりの砥粒の量を均等にでき、かつメッキ法で砥粒を強固に固着させることができるように、砥粒を保持させてメッキする操作を数回繰り返し行うことも好ましい。
このようにして切り刃部を形成するが、切り刃部における砥粒の体積率は10〜80体積%、特に30〜75体積%の範囲が好ましい。10体積%未満では、切断に寄与する砥粒の割合が少なく、切断時の抵抗が増える場合がある。80体積%を超えると切断中の刃先変形量が少なくなるため、切断面に切り跡が残り被作物の寸法精度や外観を悪くしてしまうおそれがある。砥粒の体積率が低すぎる場合及び高すぎる場合のいずれにおいても、これらの理由から切断速度を遅くせざるを得なくなるので、目的に応じて砥粒にコーティングする磁性体の厚みを変えることで粒径を変えて体積率を調整することが好ましい。
なお、図1(C)に示されるように、切り刃部は、台板の外周縁部を挟持し、かつ台板の外周縁部より先方に突出して形成されており、切り刃部の厚みが台板の厚み(図1(C)のT1)より厚くなるように形成されていることが有効であり、従って、このように図3で示される隙間64を形成することが好ましい。
この場合、図1(C)において、切り刃部の台板外周縁部を挟持する1対の挟持部22a,22bの長さH1は、それぞれ0.1〜10mm、特に0.5〜5mmであることが好ましい。また、これら1対の挟持部22a、22bの厚みT3は、それぞれ5μm(0.005mm)以上、より好ましくは5〜2,000μm、更に好ましくは10〜1,000μmであり、従って、これら1対の挟持部22a,22bの合計厚み(即ち、切り刃部が台板より厚い部分の厚み)が0.01mm以上、より好ましくは0.01〜4mm、更に好ましくは0.02〜2mmであることが好ましい。挟持部22a,22bの長さH1が0.1mm未満であると台板外周縁部の欠けや割れを防ぐ効果はあるが、台板の補強効果が少なく、切断時の抵抗による台板の変形を防げない場合がある。また、H1が10mmを超える場合は台板を補強することに対するコストパフォーマンスが低下するおそれがある。一方、T3が5μm未満であると台板の機械的強度を高めることができない場合があり、また、切断スラッジを効果的に排出することができなくなるおそれがある。
なお、図4(A)〜(D)に示されるように、挟持部22a,22bは、金属結合材24と砥粒26から形成されていてもよく[図4(A)]、金属結合材24のみによって形成されていてもよく[図4(B)]、金属結合材24のみによって台板10を覆い、更にこれを被覆して金属結合材24と砥粒26との層を形成するようにしてもよい[図4(C)]。なお、図4(C)の金属結合材24と砥粒26との層の外側に全体を覆うように金属結合材24を析出させて[図4(D)]のようにすると、切り刃部の強度を更に上げることができる。
更に、図4(B)〜(D)のように、挟持部の台板10に接する部分を金属結合材24のみによって形成する方法としては、例えば、台板の挟持部が形成されるべき部分のみを露出させて他の部分をマスキングし、この状態でメッキを行った後、上記した治具を装着し、隙間64に砥粒26を充填してメッキを行う方法が採用され、砥粒26を電着した後に、例えば、電着部分が露出するような外径の図2のカバー52,52で台板10をマスキングして更にメッキを行うことにより、図4(D)のように、切り刃部最外層として金属結合材24のみからなる層を形成することができる。
切り刃部20の台板10より先方に突出している突出部の突出長さ(図1(C)のH2)は、固着する砥粒の大きさによるが0.1〜10mm、特に0.3〜8mmであることが好ましい。突出長さが0.1mm未満であると、切断時の衝撃や磨耗によって切り刃部がなくなるまでの時間が短く、結果として刃の寿命が短くなってしまうし、10mmを超えると刃厚(図1のT2)にもよるが、切り刃部が変形しやすくなり、切断面がうねったりして切断した磁石の寸法精度が悪くなるおそれがある。
このような方法により、ダイヤモンド砥粒及び/又はcBN砥粒を台板の外周縁部に最終形状に近い寸法で高精度に形成することができる。
砥粒を台板に電気メッキ又は無電解メッキにより固着して切り刃部を形成した外周切断刃では、砥粒としてある程度の粒径のものが用いられるため、固着された砥粒は、砥粒と砥粒の間、及び砥粒と台板の間で、一部分でしか接触し得ず、それらの間の隙間をメッキで完全に埋めることはない。そのため、切り刃部には、メッキ後においても、隙間、即ち、切り刃部表面に連通する空隙が存在する。
切断中の外周切断刃への負荷が少ない場合、これらの隙間があっても切削中に受ける力によって大きな変形を起こすことなく高精度の切断が行なえるが、超硬合金台板が変形するような高負荷切断が行われる状況にあっては、刃先の一部が変形したり、脱落したりするおそれがある。刃先の変形や脱落を防ぐには、刃先の強度を高める方法が有効であるが、切り刃部には、変形して切断面をなめらかにつなぐことができる弾性も必要である。
上述した方法で得られた切り刃部の砥粒間及び砥粒と台板との間に存在する空隙には、融点が350℃以下の金属及び/又は合金を含浸することが有効である。また、この空隙には、融点が350℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下の熱可塑性樹脂を含浸すること、又は硬化温度が350℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下の液体状の熱硬化性樹脂組成物を含浸し、硬化させることが有効である。これにより、本発明の超硬合金台板外周切断刃では、切り刃部の内部及び表面の、砥粒間及び砥粒と台板との間に、金属、合金又は樹脂が含まれている外周切断刃を得ることができる。
この含浸する金属としては、Sn、Pbなどが挙げられ、また、含浸する合金としては、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag合金、Sn−Cu合金、Sn−Zn合金、Sn−Pb合金などが挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。
金属又は合金を切り刃部に含浸する方法として具体的には、例えば、φ0.1〜2.0mm、好ましくはφ0.8〜1.5mmの線状、粉状、又は切り刃部の形状寸法と同じで厚みが0.05〜1.5mmのリング状の薄膜状に加工した金属又は合金を切り刃部に載せ、ホットプレートのような加熱器上、オーブンの中などで、融点以上に昇温し、溶融した金属又は合金を切り刃部に含浸させ、その後、徐々に冷却して室温に戻す方法が挙げられる。この他、切り刃部の近傍に幾らかのクリアランスがある下金型に、含浸前の外周切断刃を入れた後、予め計り取った金属や合金を充填して上金型をはめ、上下に適度に加圧しながら加熱して、金属や合金を切り刃部に含浸させ、冷却してから脱圧し、金型から取り出す方法も可能である。加熱後は、ひずみが残らないように、徐々に冷却する。
なお、切り刃部に金属又は合金を載せる際に、金属又は合金を切り刃部に固定する目的や、切り刃部の濡れ性をよくする目的で、予め、例えば、塩素やフッ素が含有されている市販のソルダーフラックスなどを塗布することも有効である。
濡れ性が比較的高い低融点金属や合金を含浸させる場合には、台板をステンレス、鉄、銅などの金属で挟んでから通電して、この金属を発熱させることで台板及び切り刃部を加熱し、低融点金属を溶かした溶湯に発熱した切り刃部を接触させて含浸することもできる。
一方、含浸する樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びそれらの変成樹脂が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用い得る。
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を切り刃部に含浸する方法として具体的には、熱可塑性樹脂の場合は、例えば、φ0.1〜2.0mm、好ましくはφ0.8〜1.5mmの線状、粉状、又は切り刃部の形状寸法と同じで厚みが0.05〜1.5mmのリング状の薄膜状に加工した熱可塑性樹脂を切り刃部に載せ、ホットプレートのような加熱器上、オーブンの中などで、融点以上に昇温し、溶融した熱可塑性樹脂を切り刃部に含浸させ、その後、徐々に冷却して室温に戻す方法が挙げられる。また、熱硬化性樹脂の場合は、例えば、有機溶剤、硬化剤等を含む液体状の熱硬化性樹脂組成物を切り刃部に載せて浸透させ、硬化温度以上に昇温し、硬化させ、徐々に冷却して室温に戻す方法が挙げられる。この他、切り刃部の近傍に幾らかのクリアランスがある下金型に、含浸前の外周切断刃を入れた後、予め計り取った樹脂や樹脂組成物を充填して上金型をはめ、上下に適度に加圧しながら加熱して、樹脂や樹脂組成物を切り刃部に含浸させ、冷却してから脱圧し、金型から取り出す方法も可能である。加熱後は、ひずみが残らないように、徐々に冷却する。
濡れ性が比較的高い樹脂を含浸させる場合には、上述した金属、合金の場合と同様に、台板をステンレス、鉄、銅などの金属で挟んでから通電して、この金属を発熱させることで台板及び切り刃部を加熱し、樹脂を溶かした溶融液又は液体状の樹脂組成物に発熱した切り刃部を接触させて含浸することもできる。
なお、これら切り刃部に含浸させる金属、合金、樹脂の物性は以下のものが適している。融点は350℃以下であればよい。樹脂の場合、融点の上限温度については、超硬合金台板にひずみが生じて寸法精度が悪化すること、機械的強度が変化すること、超硬合金台板と切り刃部の熱膨張差が顕著となって切り刃部が変形したり、ひずみが残ったりすることを防ぐため350℃以下、特に300℃以下の樹脂を適用することができるが、通常は250℃以下の樹脂が用いられる。なお、熱硬化性樹脂の場合、室温付近で組成物を含浸させるために十分な流動性があればよく、融点は10℃以上が好ましい。
金属、合金、樹脂の硬度は、切断中に砥粒が摩滅、破壊、脱落するなどしても次の砥粒が露出して切断に寄与する作用(砥粒の自生作用)を妨げない程度でよく、砥粒を被覆している磁性体や砥粒を固着している金属結合材よりも低いものが好ましい。また、切断加工する際に用いられる加工油やクーラントに曝されても強度変化や腐食を起こさないことも必要である。
このようにして得られた切り刃部は、砥粒、砥粒をコーティングしている磁性体、金属結合材、空隙に含浸した金属、合金又は樹脂が適度に分散した状態になっている。
本発明の外周切断刃の切り刃部は、台板の厚み方向外方にせり出している範囲の部分において、せり出し部分の厚みの公差[(T3max−T3min)mm]が、下記式(1)
0.001≦T3max−T3min≦0.1×T2max (1)
(式中、T3max及びT3minは、各々、上記せり出し部分の厚み(図1(C)中のT3に相当)の切り刃部全周における最大値及び最小値、T2maxは、切り刃部全体の厚み(図1(C)中のT2に相当)の切り刃部全周における最大値を表わす)
を満たすように形成される。台板の厚み方向外方にせり出している範囲は、台板の板面を外方に拡張した仮想面より台板の厚み方向外方の範囲に相当し、図1(C)に示される厚みT3に対応する範囲である。この範囲は、台板の表側と裏側の双方に存在するが、それぞれの側において、上記公差範囲を満たすように形成される。
また、本発明の外周切断刃の切り刃部は、切り刃部の真円度[(ODmax/2−ODmin/2)mm]が、下記式(2)
0.001≦(ODmax/2−ODmin/2)≦0.01×ODmax (2)
(式中、ODmax及びODminは、各々、切り刃部の外径の最大値及び最小値を表わす)
を満たすように形成される。
切り刃部を、上記サイズ条件を満たすように形成すると、長期間にわたって、切り出した被作物の寸法公差を良好な切断精度に維持できる。切り刃部は、通常、酸化アルミ、炭化ケイ素、ダイヤモンドなどの砥石による研削加工や、放電加工などにより、上記サイズ条件を満たすように整形加工できる。
この整形加工においては、切り刃部の厚みにもよるが、刃先にC0.1以上又はR0.1以上の面取りを施すことができ、面取り加工は、切断面の切り跡を少なくすることに加えて、磁石等の被作物の欠けも低減することができるので有効である。なお、面取り加工をした場合は、上記せり出し部分の厚みの公差及び真円度は、面取り部以外が各々のサイズ条件を満たすようにすればよい。
切断を高い精度に維持するためには、上記公差や真円度をできるだけ狭い範囲とすることが好ましい。しかし、高い靭性指数TIを有する砥粒を用いる場合、切り刃部自体が高い耐久性を有するものであるため、切り刃部自体の整形加工が非常に難しくなり、加工にかかるコストが無視できないものとなる。そのため、加工コスト、ひいては外周切断刃の価格を抑えるには、整形加工が少なくなるようにすることが必要となる。
本発明のように、靭性指数TIが150以上の砥粒を用いれば、せり出し部分の厚みの公差が(0.1×T2max)mm以下であれば、また、切り刃部の真円度が(0.01×ODmax)mm以下であれば、長期間にわたって、切り出した磁石等の被作物の寸法公差を良好な切断精度に維持できる。これにより、耐久性が高く、整形が難しい砥粒、特に、靭性指標TIが150以上の砥粒を用いた場合であっても、高精度切断を実現できる切り刃部の整形加工を、従来よりも簡素にすることができ、外周切断刃自体の製造コストも抑えることが可能となる。
せり出し部分の厚みの公差が(0.1×T2max)mmより大きい場合は、台板に対して切り刃部が波打っている形態が顕著となるし、切り刃部の真円度が(0.01×ODmax)mmよりも大きい場合には、切り刃部が被切断物に極めて不連続に当接することとなるため、特に高速回転では、切断中に大きな振動を生じて被切断物に欠けを生じさせ、極端な場合には被切断物を破損させてしまう。一方、せり出し部分の厚みの公差が0.001mmより小さい場合、また、切り刃部の真円度が0.001mmよりも小さい場合は、いずれも砥粒の露出が少なく、切断効率が低下してしまうし、切り刃部と被切断物との間の空隙が少なくなることで、切断部分へのクーラントの供給が不足して、冷却が不十分となり、切断精度を悪化させてしまう。これらの不具合は、切断の条件、突き出し量(切り刃部の高さ)、せり出し量によって程度が異なるが、最悪の場合には、切り刃部と被切断物とが焼きついてしまうこともある。必要以上に公差及び真円度を小さくすることは、外周切断刃の加工コストを増大させるばかりでなく、切断されるワークの寸法精度の低下や、切断加工時のトラブルを誘発する原因となるため好ましくない。以上のことから、せり出し部分の厚みの公差は0.001mm以上、(0.1×T2max)mm以下、特に0.005mm以上、(0.05×T2max)mm以下であることがより好ましい。また、切り刃部の真円度は0.001mm以上、(0.01×ODmax)mm以下、特に0.005mm以上、(0.005×ODmax)mm以下であることがより好ましい。
せり出し部分の厚みは、例えば、図6に示される模式図に示されるように測定することができる。まず、(A)に示されるように、回転可能な定盤81上で切り刃部20の外径よりも小さい外径を有する治具82を載せ、この治具82の上に外周切断刃2を載せて、台板10の板面の高さを基準として、切り刃部20のせり出し部分の厚みをコンパレーター83で測定する。図6に示される切り刃部20は、図4(C)に示される態様に対応する切り刃部20であり、図中、24は金属結合材、26は砥粒を示す。この場合、(B)に示されるように、切り刃部20の表面にコンパレーター83の先端を当接させ、表面を走査することによって、切り刃部20の表面の波打った状態が、高さ情報として測定される。治具の平面度は高いことが好ましいが、計測値から予め測定しておいた平面度を差し引き、オフセットをかける方法で、平面度の影響を回避することができる。台板が薄くなると、コンパレーターで台板又は切り刃部を押圧した時に、外周切断刃が変形して見かけの高さが変わることがあるため、コンパレーターでの測定時の荷重が過剰にならないように注意が必要である。
真円度は、例えば、ガラステーブル上に切り刃部の外径よりも小さい外径を有する治具を載せ、この治具の上に外周切断刃を載せ、ガラステーブル下側から光を照射、投影して、図7(A)に示されるような画像を得、この画像から、切り刃部の影の外径上の位置を座標情報として取り込み、これらの座標から、例えば、図7(B)に示される模式図のように、JIS B 0621で規定されるMZC最小領域中心法に準じて、測定された点をつないで描かれる図形を挟む二つの同心円の半径差が最も小さくなるときの、切り刃部20の外径の最大値(ODmax)の1/2と最小値(ODmin)の1/2との差から算出する。このような明暗情報を解析して計測する非接触測定器を用いると、砥粒の露出を含む凸凹まで測定でき、非常に有用である。
本発明の外周切断刃を適用した切断は、その被作物(被切断物)としては、R−Co系希土類焼結磁石、R−Fe−B系希土類焼結磁石(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種)に対する切断において効果的である。これら磁石は、例えば、次のようにして製造される。
R−Co系希土類焼結磁石は、RCo5系、R2Co17系などがある。このうち、例えば、R2Co17系では、質量百分率で20〜28%のR、5〜30%のFe、3〜10%のCu、1〜5%のZr、残部Coからなる。このような成分比で原料を秤量して溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R2Co17系磁石粉末を得る。その後、磁場中成形し、更に1,100〜1,250℃で0.5〜5時間焼結し、次いで焼結温度より0〜50℃低い温度で0.5〜5時間、溶体化し、最後に700〜950℃で一定時間保持した後、冷却する時効処理を施す。
R−Fe−B系希土類焼結磁石は、質量百分率で5〜40%のR、50〜90%のFe、0.2〜8%のBからなり、磁気特性や耐食性を改善するために、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Hf、Ta、Wなどの添加元素を加える。これら添加元素の添加量は、Coの場合、質量百分率で30%以下、その他の元素の場合には質量百分率で8%以下である。このような成分比で原料を秤量して溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R−Fe−B系磁石粉末を得る。その後、磁場中成形し、更に1,000〜1,200℃で0.5〜5時間焼結し、400〜1,000℃で一定時間保持した後、冷却する時効処理を施す。
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板のヤング率は600GPa、飽和磁化は127kA/m(0.16T)であった。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように外径φ123mm、厚み10mmのPPS製円盤で挟み、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、水洗した。
次いで、外径φ130mm、厚み10mmのPPS製円盤の一側面に、外径φ123mm、内径φ119mm、深さ1.5mmの溝を形成し、この溝に、長さ2.5mm×幅2mm×厚み1.5mmの永久磁石(信越レアアースマグネット製N39UH、Br=1.25T)を、厚み方向を円盤の深さ方向として、均等間隔で円盤1個あたり75個配列させた後、溝をエポキシ樹脂で埋めて磁石を固定したカバーを作製し、このカバー2枚からなる治具本体で、磁石側を内側にして台板を挟持した。このとき、磁石は台板外周端から台板側面内側方向に1mm離れていた。なお、台板外周端から10mmまでの空間内に形成される磁場について磁界解析したところ、磁場強度は8kA/m(0.01T)以上であった。
平均粒径103μm(規格粒径140/170)、TIが500のダイヤモンド砥粒をNiPメッキし、0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた切り刃部両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの切り刃部の厚み方向のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して切り刃部のせり出しの厚みを整えた後、ワイヤー放電加工して外径を整え、ドレスして、せり出し部分の設計厚み0.05mm、T2max0.43mm、せり出し部分の厚みの公差0.02mm、C0.1、切り刃部の設計外径127mm、ODmax127.3mm、真円度0.6mmの超硬合金台板外周切断刃を得た。
[実施例2]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように外径φ123mm、厚み10mmのPPS製円盤で挟み、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、水洗した。
次いで、外径φ130mm、厚み10mmのセラミックス製円盤の一側面に、外径φ123mm、内径φ119mm、深さ1.5mmの溝を形成し、この溝に、長さ2.5mm×幅2mm×厚み1.5mmの永久磁石(信越レアアースマグネット製N39UH、Br=1.25T)を、厚み方向を円盤の深さ方向として、均等間隔で円盤1個あたり75個配列させた後、溝をエポキシ樹脂で埋めて磁石を固定したカバーを作製し、このカバー2枚からなる治具本体で、磁石側を内側にして台板を挟持した。このとき、磁石は台板外周端から台板側面内側方向に1mm離れていた。なお、台板外周端から10mmまでの空間内に形成される磁場について磁界解析したところ、磁場強度は8kA/m(0.01T)以上であった。
平均粒径103μm(規格粒径140/170)、TIが1,000のダイヤモンド砥粒をNiPメッキし、0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた切り刃部両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、φ1.0mmのワイヤー状に加工したSn−3Ag−0.5Cu合金を、外周切断刃の切り刃部の側面にリング状に載せ、その状態のまま200℃のオーブンに入れた後、オーブン内部の温度が200℃に到達したのを確認して、250℃に昇温し、250℃で約5分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。なお、Sn−3Ag−0.5Cu合金の融点は220℃である。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの切り刃部の厚み方向のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して切り刃部のせり出しの厚みを整えた後、ワイヤー放電加工して外径を整え、ドレスして、せり出し部分の設計厚み0.05mm、T2max0.41mm、せり出し部分の厚みの公差0.018mm、C0.2、切り刃部の設計外径127mm、ODmax127.1mm、真円度0.7mmの超硬合金台板外周切断刃を得た。
[実施例3]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように外径φ123mm、厚み10mmのPPS製円盤で挟み、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、水洗した。
平均粒径86μm(規格粒径170/200)、TIが160のcBN砥粒をNiPメッキし、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、cBN砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた切り刃部両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとジシアンジアミドを樹脂主成分として有機溶媒に溶解させた液状エポキシ樹脂組成物を、外周切断刃の切り刃部側面に塗布して3分間保持し、その状態のまま180℃のオーブンに入れて約120分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの切り刃部の厚み方向のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して切り刃部のせり出しの厚みを整えた後、ワイヤー放電加工して外径を整え、ドレスして、せり出し部分の設計厚み0.05mm、T2max0.405mm、せり出し部分の厚みの公差0.01mm、C0.1、切り刃部の設計外径127mm、ODmax127.05mm、真円度0.4mmの超硬合金台板外周切断刃を得た。
[実施例4]
質量百分率でWCが95%、Coが5%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板のヤング率は580GPa、飽和磁化は40kA/m(0.05T)であった。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように外径φ123mm、厚み10mmのPPS製円盤で挟み、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、水洗した。
平均粒径86μm(規格粒径170/200)、TIが250のダイヤモンド砥粒をNiPメッキし、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、0.3gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと80℃の無電解ニッケル・リン合金メッキ液に浸漬し無電解メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.3gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を2度繰り返し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、φ1.0mmのワイヤー状に加工したSn−3Ag−0.5Cu合金を、外周切断刃の切り刃部の側面にリング状に載せ、その状態のまま200℃のオーブンに入れた後、オーブン内部の温度が200℃に到達したのを確認して、250℃に昇温し、250℃で約5分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの切り刃部の厚み方向のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して切り刃部のせり出しの厚みを整えた後、ワイヤー放電加工して外径を整え、ドレスして、せり出し部分の設計厚み0.05mm、T2max0.398mm、せり出し部分の厚みの公差0.02mm、C0.1、切り刃部の設計外径127mm、ODmax127.1mm、真円度0.5mmの超硬合金台板外周切断刃を得た。
[比較例1]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように外径φ123mm、厚み10mmのPPS製円盤で挟み、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、水洗した。
平均粒径103μm(規格粒径140/170)、TIが200のダイヤモンド砥粒をNiPメッキし、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた切り刃部両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、φ1.0mmのワイヤー状に加工したSn−3Ag−0.5Cu合金を、外周切断刃の切り刃部の側面にリング状に載せ、その状態のまま200℃のオーブンに入れた後、オーブン内部の温度が200℃に到達したのを確認して、250℃に昇温し、250℃で約5分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。なお、Sn−3Ag−0.5Cu合金の融点は220℃である。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの切り刃部の厚み方向のせり出しが片側50μmになるように研削した後、放電加工して厚み及び外径を整え、ドレスして、せり出し部分の設計厚み0.05mm、T2max0.41mm、せり出し部分の厚みの公差0.044mm、切り刃部の設計外径127mm、ODmax127.1mm、真円度1.29mmの超硬合金台板外周切断刃を得た。
[比較例2]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように外径φ123mm、厚み10mmのPPS製円盤で挟み、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、水洗した。
平均粒径103μm(規格粒径140/170)、TIが140のcBN砥粒をNiPメッキし、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、cBN砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた切り刃部両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、φ1.0mmのワイヤー状に加工したSn−3Ag−0.5Cu合金を、外周切断刃の切り刃部の側面にリング状に載せ、その状態のまま200℃のオーブンに入れた後、オーブン内部の温度が200℃に到達したのを確認して、250℃に昇温し、250℃で約5分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。なお、Sn−3Ag−0.5Cu合金の融点は220℃である。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの切り刃部の厚み方向のせり出しが片側50μmになるように研削した後、放電加工して厚み及び外径を整え、ドレスして、せり出し部分の設計厚み0.05mm、T2max0.42mm、せり出し部分の厚みの公差0.048mm、切り刃部の設計外径127mm、ODmax127.2mm、真円度1.32mmの超硬合金台板外周切断刃を得た。
図8に、超硬合金台板外周切断刃を用いて希土類焼結磁石を切断したときの、磁石の切断精度を示す。切断精度の評価方法は以下のとおりである。
まず、実施例1〜4及び比較例1,2の超硬合金台板外周切断刃を各々2枚ずつ計12枚、間隔1.0mmで、台板の穴に回転軸を挿通して組み上げたマルチ切断刃とした。このマルチ切断刃により、回転数4,500rpm、送り速度35mm/minで、幅(W)40mm×長さ(L)120mm×高さ(H)20mmのNd−Fe−B系希土類焼結磁石から、W40mm×L(=厚み(t))1.0mm×H20mmの磁石を切断し、実施例及び比較例の各々の2枚の外周切断刃の間で切断された各2,005枚を、評価対象の切断磁石とした。切断磁石について、切断1枚目から100枚目までを寸法の計測サイクル(全20サイクル)とし、各サイクルにおいて最初の5枚分と、20サイクル後の5枚(即ち、最初のサイクルが1〜5枚目、次が101〜105枚目、最後が2,001〜2,005枚目)をサンプリングした。なお、この評価では、切断精度が50μmを超えた場合に、切断精度が悪化したものとして、該当する外周切断刃のみドレスを実施した。
各サイクルの5枚について、1枚毎に中央部1点と隅部4点の合計5点の厚み(t)をマイクロメーターで測定し、5点のうちの最大値と最小値の差を切断精度(μm)として5枚の切断精度の平均値を算出し図8にプロットした。
比較例1,2の場合は、寸法計測7サイクル目以降(切断枚数601枚目以降)、複数のサイクルにおいて切断精度が悪化し、切断精度の回復にドレスが必要であったが、実施例1〜4の場合は、多少の変動はあるものの、20サイクル目以降まで(切断枚数2005枚目まで)ドレスをする必要がなく、切断精度が落ちずに長期間にわたって良好な切断精度を維持していることがわかる。
以上の結果から、本発明の超硬合金台板外周切断刃により、希土類焼結磁石等の被作物を、長期間にわたって高い寸法精度で加工することが可能であることがわかる。