<第一実施形態>
以下、本発明の典型的な実施形態の1つである第一実施形態について、図1から図3を参照して説明する。本実施形態では、患者眼Eの角膜および水晶体を共に処置することが可能な眼科用レーザ手術装置1を例示する。なお、「処置」とは、患者眼Eの組織の切断、破砕等を行うことを示す。以下、第一実施形態の眼科用レーザ手術装置1の各構成について、レーザ光源10側(つまり、パルスレーザ光の光路の上流側)から、患者眼E側(つまり、パルスレーザ光の光路の下流側)に順に説明する。
レーザ光源10は、パルスレーザ光を出射する。本実施形態では、レーザ光源10によって出射されたパルスレーザ光が、患者眼Eの組織内で集光されると、集光位置でプラズマが発生し、組織の切断・破砕等が行われる。以上の現象は、光破壊(photodisruption)と言われる場合もある。レーザ光源10には、例えば、フェムト秒からピコ秒オーダーのパルス幅のパルスレーザ光を出射するデバイスを使用することができる。以下では、レーザ光源10によって出射されるパルスレーザ光の光軸に沿う方向をZ方向とする。Z方向に交差(本実施形態では垂直に交差)する方向のうちの1つをX方向とする。Z方向およびX方向に共に交差(本実施形態では垂直に交差)する方向をY方向とする。X,Y,Z方向は適宜設定すればよい。例えば、患者の上下左右に基づいて方向を規定する場合、X方向を患者の左右方向、Y方向を患者の上下方向としてもよいし、X方向を患者の上下方向、Y方向を患者の左右方向としてもよい。
エイミング光源11は、パルスレーザ光が照射される位置を示すエイミング光を出射する。本実施形態では、可視のレーザ光を出射する光源が、エイミング光源11として用いられる。なお、エイミング光源11は省略してもよい。
ダイクロイックミラー12は、パルスレーザ光の光路(以下、単に「光路」という場合もある)のうち、レーザ光源10とズームエキスパンダ13(後述する)の間に設けられている。ダイクロイックミラー12は、レーザ光源10から出射されるレーザ光と、エイミング光源11から出射されるエイミング光を合波する。詳細には、本実施形態のダイクロイックミラー12は、レーザ光源10から出射されるレーザ光の大部分を透過し、且つ、エイミング光源11から出射されるエイミング光の大部分を反射させることで、2つの光を合波する。
ズームエキスパンダ13は、光路におけるレーザ光源10とXY走査部25(後述する)の間に設けられている。詳細には、本実施形態では、レーザ光源10と高速Z走査部15(後述する)の間にビームエキスパンダ13が設けられている。ズームエキスパンダ13は、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光のビーム径を変更することができる。眼科用レーザ手術装置1の制御部(図示せず)は、ズームエキスパンダ13を駆動してパルスレーザ光のビーム径を変更することで、対物レンズ35(後述する)から患者眼Eに向けて出射されるパルスレーザ光の開口数NAを調整することができる。ビーム径が大きくなると開口数NAは大きくなり、ビーム径が小さくなると開口数NAは小さくなる。
眼科用レーザ手術装置1は、開口数NAを調整することで、患者眼Eを処理する際の処置能力を向上させることができる。例えば、開口数NAが大きくなる程、パルスレーザ光の集光位置におけるスポットサイズは小さくなる。角膜手術では、パルスレーザ光の集光位置の精度を高くして精密な処置を行うことが求められ易い。一方で、水晶体手術では、スポットサイズを大きくして手術時間を短縮することが求められる場合がある。従って、本実施形態の眼科用レーザ手術装置1は、角膜手術を行うモードでは、水晶体手術を行うモードに比べて開口数NAを大きくし、スポットサイズを小さくしてもよい。水晶体手術を行うモードでは、開口数NAを小さくしてスポットサイズを大きくしてもよい。この場合、眼科用レーザ手術装置1は、患者眼Eの部位に応じて、より適切な処置を行うことができる。なお、開口数NAの調整方法は適宜変更できる。例えば、眼科用レーザ手術装置1は、集光位置のZ方向の走査に応じて、開口数NAを連続的または断続的に変更してもよい。この場合、眼科用レーザ手術装置1は、集光位置のZ方向の深度に応じて適切な光破壊を組織に生じさせることができる。
高速Z走査部15(第二Z走査部:本実施形態ではエキスパンダ)は、光路におけるレーザ光源10とXY走査部25の間(詳細には、第一実施形態ではズームエキスパンダ13とXY走査部25の間)に設けられている。本実施形態の高速Z走査部15は、負の屈折力を有する光学素子16と、光学素子16を光軸に沿って移動させる高速Z走査駆動部17とを備える。光学素子16とXY走査部25の間には、レンズ21が設けられている。レンズ21は、高速Z走査部15を経たレーザ光をXY走査部25に導光させる。
光路上に配置された光学素子16が光軸に沿って移動すると、パルスレーザ光の集光位置がZ方向に移動する。従って、眼科用レーザ手術装置1の制御部は、高速Z走査駆動部17を駆動制御して光学素子16を移動させることで、集光位置をZ方向に走査させることができる。また、本実施形態の高速Z走査部15は、Z走査部44(後述する)よりも高速で集光位置をZ方向に走査させることができる。従って、制御部は、高速Z走査部15を用いることで、Z方向の集光位置を細かく調整することができる。例えば、制御部は、患者眼Eの傾きに応じて高速Z制御部15を駆動させることで、集光の精度を向上させてもよい。また、XY走査部25によるXY方向への走査に応じて高速Z制御部15を駆動させることで、XY方向への走査に起因して生じるZ方向の集光位置の誤差を低減させてもよい。
XY走査部25は、光軸に交差するXY平面上でパルスレーザ光を走査する。本実施形態では、XY走査部25は、X偏向デバイス26およびY偏向デバイス27を備える。X偏向デバイス26は、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光をX方向に走査する。Y偏向デバイス27は、X偏向デバイス26によってX方向に走査されたパルスレーザ光を、さらにY方向に走査する。本実施形態では、X偏向デバイス26およびY偏向デバイス27には共にガルバノミラーが採用されている。しかし、光を走査する他のデバイス(例えば、ポリゴンミラー、音響光学素子(AOM)等のスキャナ)を、X偏向デバイス26およびY偏向デバイス27の少なくともいずれかに採用してもよい。
図2を参照して、第一実施形態におけるXY走査部25の構成について詳細に説明する。第一実施形態では、一例として、3つのガルバノミラーを用いたXY走査部25が採用されている。詳細には、第一実施形態のX偏向デバイス26は、第一X偏向デバイス28および第二X偏向デバイス29を備える。第一X偏向デバイス28は、光路の上流側(本実施形態ではレンズ21)から入射したパルスレーザ光を、X方向に走査する。第二X偏向デバイス29の回転軸線は、第一X偏向デバイス28の回転軸線と平行である。第二X偏向デバイス29は、第一X偏向デバイス28によってX方向に走査されたパルスレーザ光を、さらにX方向に走査する。図2に示すように、制御部は、第一X偏向デバイス28による走査量に応じて第二X偏向デバイス29の走査量を制御することで、Y偏向デバイス27の所定箇所(本実施形態ではミラーの走査面の中心)にパルスレーザ光を入射させる。つまり、パルスレーザ光の主光線は、X方向の走査量に関わらず、Y偏向デバイス27の所定箇所に入射する。従って、眼科用レーザ手術装置1は、Y偏向デバイス27におけるパルスレーザ光の入射位置の変化に起因する各種の影響を排除することができる。なお、第一実施形態では、Y偏向デバイス27の走査面の中心は、XY走査部25によって走査される全てのパルスレーザ光の主光線が通過するピボット点となる。
リレー部30は、図1に示すように、XY走査部25と対物レンズ35の間に設けられている。本実施形態のリレー部30は、ケプラー式のリレー光学系である。ケプラー式のリレー光学系は、3つ以上の光学部材によって構成されている場合でも、その機能を2つのレンズによって表現することができる。よって、図1では、2つのレンズによってリレー部30を示す。なお、以下で説明するケプラー式のリレー光学系についても同様に2つのレンズで図示する。リレー部30は、上流側リレー光学素子31と下流側リレー光学素子32によって、XY走査部25におけるピボット点(第一実施形態では、Y偏向デバイス27における走査面の中心のピボット点P)と、対物レンズ35(後述する)の物側焦点とを共役関係に結ぶ。
また、図3に示すように、上流側リレー光学素子31の物側焦点が、XY走査部25におけるピボット点Pに一致するように、上流側リレー光学素子31とXY走査部25との位置関係が保たれている。つまり、上流側リレー光学素子31とピボット点Pの間の距離が、上流側リレー光学素子31の焦点距離f31と一致する。従って、上流側リレー光学素子31から出射されるパルスレーザ光のテレセントリックの性能が保たれる。
対物レンズ35は、リレー部30の下流側リレー光学素子32よりも光路の下流側に配置されている。換言すると、対物レンズ35の主平面は、下流側リレー光学素子32の主平面よりも光路の下流側に位置する。対物レンズ35を通過したパルスレーザ光は、眼球固定インターフェース37を経て患者眼Eの組織に集光される。詳細は図示しないが、眼球固定インターフェース37は、吸着リングおよびカップを有する。吸着リングには、吸引ポンプ等によって負圧が加えられる。その結果、患者眼Eの前眼部が吸着リングによって吸引固定される。カップは前眼部の周囲を覆う。手術時には、角膜の屈折率と同程度の屈折率を有する液体が、カップ内に満たされる。よって、角膜等によるパルスレーザ光の屈折が弱まり、集光位置の精度が向上する。なお、眼球固定インターフェース37の構成を適宜変更してもよいことは言うまでもない。コンタクトレンズ等を患者眼Eに装着してもよい。眼球固定インターフェース37等を使わずに、眼科用レーザ手術装置1による手術を行うことも可能である。
光路における対物レンズ35と下流側リレー光学素子32との間には、ダイクロイックミラー38が設けられている。本実施形態では、ダイクロイックミラー38は、レーザ光源10からのパルスレーザ光、およびエイミング光源12からのエイミング光の大部分を反射し、且つ、後述する観察ユニット40およびOCTユニット41からの光の大部分を透過する。その結果、これらの複数の光の光軸が同軸とされる。なお、観察ユニット40およびOCTユニット41の光の光軸を、パルスレーザ光の光軸と同軸にする場合、同軸にする位置を変更することも可能である。
第一実施形態では、光路において対物レンズ35よりも上流側に位置する光学素子のうち、対物レンズ35に最も近く、且つ屈折力を有する光学素子(以下、「対物レンズ35の上流側素子」という)は、リレー部30の下流側リレー光学素子32である。第一実施形態では、対物レンズ35の上流側素子における主平面と、対物レンズ35における主平面との間の距離が、対物レンズ35の上流側素子の焦点距離と、対物レンズ35の焦点距離との和に等しい。つまり、下流側リレー光学素子32の像側焦点が、対物レンズ35の物側焦点に一致している。本実施形態では、下流側リレー光学素子32および対物レンズ35の光路上における位置は固定されている。
また、前述したように、第一実施形態では、XY走査部25におけるピボット点Pと、対物レンズ35の物側焦点とが、リレー部30によって共役関係となっている。従って、XY走査部25によって走査される全てのパルスレーザ光の主光線が、対物レンズ35の物側焦点を通過する。なお、本実施形態では、ダイクロイックミラー38は、対物レンズ35の物側焦点の位置(つまり、下流側リレー光学素子32の像側焦点の位置)に設けられている。
なお、対物レンズ35の物側焦点等を規定するための焦点距離は、対物レンズ35のみの焦点距離であってもよいし、対物レンズ35と眼球固定インターフェース37とを含めた光学素子の焦点距離であってもよい。対物レンズ35の主平面を考える場合も同様である。つまり、本発明における「対物レンズ」という表現は、眼球固定インターフェース37を含む光学素子を指す場合もある。
観察ユニット40は、患者眼Eの正面画像を取得する。本実施形態の観察ユニット40は、可視光または赤外光によって照明された患者眼Eを撮影し、モニタ(図示せず)に表示させることができる。術者等は、モニタを見ることで患者眼Eを正面から観察することができる。
OCTユニット41は、患者眼Eの組織の断層画像を取得する。一例として、本実施形態のOCTユニット41は、光源、光分割器、参照光学系、走査部、および検出器を備える。光源は、断層画像を取得するための光を出射する。光分割器は、光源によって出射された光を、参照光と測定光に分割する。参照光は参照光学系に入射し、測定光は走査部に入射する。参照光学系は、測定光と参照光の光路長差を変更する構成を有する。走査部は、測定光を組織上で二次元方向に走査させる。検出器は、組織によって反射された測定光と、参照光学系を経た参照光との干渉状態を検出する。眼科用レーザ手術装置1は、測定光を走査し、反射測定光と干渉光の干渉状態を検出することで、組織の深さ方向の情報を取得する。取得した深さ方向の情報に基づいて、組織の断層画像を取得する。本実施形態の眼科用レーザ手術装置1は、パルスレーザ光を集光させるターゲット位置を、患者眼Eの断層画像に対応付ける。その結果、眼科用レーザ手術装置1は、パルスレーザ光を照射・走査させる動作を制御するためのデータを、断層画像を用いて作成することができる。OCTユニット41には種々の構成を用いることができる。例えば、SS−OCT、SD−OCT、TD−OCT等のいずれをOCTユニット41として採用してもよい。また、眼科用レーザ手術装置1は、光干渉以外の技術を用いて断層画像を撮影してもよい。断層画像を用いずにターゲット位置を決定することが可能な場合(例えば、圧平した角膜のみを処置する場合)には、OCTユニット41を省略してもよい。
ダイクロイックミラー42は、観察ユニット40の光軸とOCTユニット41の光軸を同軸とする。ダイクロイックミラー42を経た光は、前述したダイクロイックミラー38によって、レーザ光源10からのパルスレーザ光と同軸とされる。
Z走査部44は、パルスレーザ光の集光位置をZ方向に走査させる。第一実施形態では、上流側リレー光学素子31は、XY走査部25のX偏向デバイス26およびY偏向デバイス27よりも光路の下流側に設けられ、屈折力を有し、光路の下流側にパルスレーザ光を導光させる導光光学素子である。眼科用レーザ手術装置1は、光路における対物レンズ35の位置を固定した状態で、導光光学素子である上流側リレー光学素子31と、対物レンズ35との間の光路長を変化させることで、集光位置をZ方向に走査させる。換言すると、眼科用レーザ手術装置1は、上流側リレー光学素子31の主平面と、対物レンズ35の主平面との光路上の距離を変化させることで、集光位置をZ方向に走査させる。
詳細には、第一実施形態におけるZ走査部44は、XY走査部25と上流側リレー光学素子31とを含む光学ユニットを光軸に沿って移動させることで、上流側リレー光学素子31と対物レンズ35との間の光路長を変化させる。より詳細には、第一実施形態のZ走査部44は、高速Z走査部15およびレンズ21を、XY走査部25および上流側リレー光学素子31と共に、光軸に沿って移動させる。
以上説明したように、第一実施形態の眼科用レーザ手術装置1は、偏向デバイス26,27の少なくともいずれか(第一実施形態では偏向デバイス26,27の全て)よりも光路の下流側に設けられた導光光学素子と、対物レンズ35との間の光路長を、対物レンズ35の光路上の位置を固定した状態で変化させる。換言すると、眼科用レーザ手術装置1は、導光光学素子の主平面と、対物レンズ35の主平面との間の光路長を変化させる。これにより、眼科用レーザ手術装置1は、パルスレーザ光の集光位置を適切に走査させることができる。以下、本実施形態における眼科用レーザ手術装置1の光学系を採用した場合の利点の詳細について、数点の例を挙げて説明する。
例えば、第一実施形態におけるZ走査部44を用いる代わりに、XY走査部25の上流側の光学部材を光軸方向に移動させることで、集光位置をZ方向に走査させることも考えられる。具体的には、XY走査部25の上流側のエキスパンダを移動させる方法が考えられる。また、XY走査部25よりも上流側の光路に、パルスレーザ光を反射するミラー(光路長変更手段)を設け、このミラーを移動させてZ方向の走査を行うことも考えられる。この場合、光学部材の移動量に対する集光位置のZ方向の移動量は、移動させる光学部材よりも下流側に配置された光学系の影響を受ける。その結果、光学部材を大きく移動させないと、集光位置の移動量を十分に確保できない場合も生じ得る。
上記の問題を、図1を変形させた例に基づいて説明する。図1に示す第一実施形態において、Z走査部44を用いずに、高速Z走査部15のみによって全てのZ方向の走査を実行する場合を仮定する。まず、上流側リレー光学素子31の焦点距離をf31、下流側リレー光学素子32の焦点距離をf32とすると、XY走査部25よりも下流側のリレー部30の横倍率は「f32/f31」で表される。ここで、一般的には、対物レンズ35から出射させるパルスレーザ光の開口数NAを適切な値とし、且つ、対物レンズ35と患者眼Eの距離を適切な距離に保つには、対物レンズ35の焦点距離をある程度大きくする必要がある。一方で、XY走査部25は高速で駆動する必要があるので、XY走査部25に用いられるガルバノミラーのミラー径は、対物レンズ35の入射瞳径と比べると非常に小さくなる場合が多い。その結果、リレー部30の横倍率「f32/f31」は大きい値になり易い。高速Z走査部15のみによって全てのZ方向の走査を実行する場合、焦点位置を単位距離だけZ方向に移動させるために必要な高速Z走査部15の移動量は、リレー部30の縦倍率(横倍率の二乗)に比例する。従って、高速Z走査部15の移動量を小さくすることが、リレー部30の制約によって困難になり得る。同様に、高速Z走査部15の移動量の削減には、XY走査部25よりも上流側の光学素子の制約も影響を与え得る。また、XY走査部25よりも上流側でZ方向の走査を行う場合、XY走査部25は、高速Z走査部15を経たパルスレーザ光をXY方向に走査する必要がある。従って、XY走査部25の大きさを小さくするのが難しい。以上の問題は、ミラーを移動させてZ方向の走査を実行する場合にも生じ得る。
また、対物レンズ35を光軸に沿って移動させることで、光学部材の移動量を削減することも考えられる。しかし、この場合、Z方向の走査に伴って収差が増加し易い。その結果、光学系の設計が複雑になる等の問題が生じ得る。さらに、対物レンズ35を移動させる場合には、対物レンズ35を移動できるように眼球固定インターフェース37を設計する必要も生じる。
これに対し、第一実施形態の眼科用レーザ手術装置1は、偏向デバイス26,27の少なくともいずれかよりも光路の下流側に設けられた導光光学素子と、対物レンズ35との間の光路長を、対物レンズ35の光路上の位置を固定した状態で変化させる。従って、XY走査部25よりも上流側でZ方向の走査を行う場合に比べて、Z走査部44よりも下流側に位置する光学系の影響が低減される。XY走査部25の大きさを小さくすることも容易である。また、対物レンズ35を移動させる場合の影響を考慮する必要も無い。よって、眼科用レーザ手術装置1は、パルスレーザ光の集光位置を適切に走査させることができる。
第一実施形態では、Z走査部44よりも光路の下流側に配置される光学素子(詳細には、下流側リレー光学素子32、ダイクロイックミラー38、および対物レンズ35)の光路上の位置が、Z走査部44の駆動に関わらず一定である。また、第一実施形態では、少なくともパルスレーザ光を組織に照射している間には、Z方向の走査を行う場合でも、XY走査部25と上流側リレー光学素子31の間の位置関係は固定されている。さらに、導光光学素子である上流側リレー光学素子31の物側焦点が、XY走査部25におけるピボット点に一致する。この場合、Z走査部44によって焦点位置がZ方向に走査されても、導光光学素子から出射されるパルスレーザ光のテレセントリック性能が維持される。その結果、対物レンズ35からのパルスレーザ光の出射角度を、Z方向の走査に関わらず一定にすることができる。換言すると、偏向デバイス26,27よりも下流側でZ方向の走査を行うと、Z方向の走査に伴って共役関係が変化し、パルスレーザ光の出射角度が変動する可能性がある。これに対し、第一実施形態の眼科用レーザ手術装置1は、共役関係を維持してパルスレーザ光の出射角度を固定しつつ、偏向デバイス26,27よりも下流側で適切に集光位置をZ方向に走査させることができる。よって、集光位置の走査制御が容易になる。例えば、パルスレーザ光を軸外に走査させる場合の制御が容易になる。OCT画像に基づくパルスレーザ光の照射位置の制御(例えば、XY走査部25およびZ走査部44を制御するための制御データの作成)も容易になる。
さらに、第一実施形態では、XY走査部25によって走査される全てのパルスレーザ光の主光線が、対物レンズ35の物側焦点を通過する。この場合、集光位置がZ方向に走査されても、対物レンズ35の像側テレセントリックの性能が維持される。換言すると、対物レンズ35から患者眼Eに向けて出射されるパルスレーザ光の出射角度が平行に保たれる。従って、集光位置の走査制御がさらに容易になる。
第一実施形態では、リレー部30における下流側リレー光学素子32の主平面と、対物レンズ35の主平面との光路上の距離が、互いの焦点距離の和に等しい。この場合、対物レンズ35から出射されるパルスレーザ光の開口数NAが、Z走査部44によるZ方向の走査に関わらず維持される。従って、集光位置の走査制御がさらに容易になる。例えば、収差の影響を無視すると、開口数NAを一定とすることで、Z方向の走査量に関わらずスポットサイズが一定となる。
第一実施形態の眼科用レーザ手術装置1は、XY走査部25と、リレー部30における上流側リレー光学素子31とを含む光学ユニットを光軸に沿って移動させる。この場合、X偏向デバイス26とY偏向デバイス27の間にリレー部を設けずにXY走査部25を実現することも可能である。仮に、X偏向デバイス26とY偏向デバイス27の間にリレー部を設けなければ、リレー部を設ける場合に比べて構成が簡素化され、収差の影響も低下する。また、XY方向に走査されたレーザをさらにZ方向に適切に走査させるための設計を行う必要も無い。
第一実施形態では、XY走査部25は、第一X偏向デバイス28、第二X偏向デバイス29、およびY偏向デバイス27を備える。第一X偏向デバイス28および第二X偏向デバイス29によってX方向に走査されたパルスレーザ光は、Y偏向デバイス27の所定箇所に入射する。この場合、X方向の走査量に関わらず、Y偏向デバイス27の所定箇所でY方向の走査が行われる。従って、集光位置の走査精度がさらに向上する。
第一実施形態では、光路におけるレーザ光源10とXY走査部25の間に高速Z走査部(第二Z走査部)15が設けられている。Z走査部を複数設けることで、処置の精度が向上する。一例として、本実施形態の高速Z走査部15は、パルスレーザ光の集光位置を、Z走査部44よりも高速でZ方向に走査させる。この場合、眼科用レーザ手術装置1は、パルスレーザ光による処置が行われている間に、種々の要素(例えば、眼球の傾き、XY方向の走査に起因した像面湾曲等の少なくともいずれか)に応じて、集光位置をZ方向に高速で走査させることができる。
第一実施形態では、光路におけるレーザ光源10とXY走査部25の間にズームエキスパンダ13が設けられている。ズームエキスパンダ13は、パルスレーザ光のビーム径を変更する。この場合、眼科用レーザ手術装置1は、ズームエキスパンダ13によってビーム径を変えることで、対物レンズ35から出射されるパルスレーザ光の開口数NAを調整することができる。なお、本実施形態のズームエキスパンダ13は、XY走査部25よりも上流側に配置されているので、軸外に走査されたパルスレーザ光に対応する必要は無い。
<第二実施形態>
第一実施形態とは異なる典型的な実施形態の1つである第二実施形態について、図4を参照して説明する。第二実施形態では、XY走査部55およびZ走査部66の構成等が第一実施形態と異なるが、第一実施形態と共通する構成もある。従って、以下では、第一実施形態と同様の構成については第一実施形態と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。第二実施形態でも、第一実施形態と同様に、患者眼Eの角膜および水晶体を共に処置することが可能な眼科用レーザ手術装置2を例示する。
第二実施形態の眼科用レーザ手術装置2は、レーザ光源10、エイミング光源11、ダイクロイックミラー12、ズームエキスパンダ13、高速Z走査部15、およびレンズ21を備える。以上のレーザ光源10からレンズ21までの構成には、第一実施形態で例示した構成を採用することが可能である。
第二実施形態のXY走査部55は、X偏向デバイス56と、Y偏向デバイス57と、XYリレー部60とを備える。X偏向デバイス56は、レンズ21から入射したパルスレーザ光をX方向に走査させる。Y偏向デバイス57は、X偏向デバイス56から入射したパルスレーザ光をY方向に走査させる。一例として、第二実施形態では、X偏向デバイス56およびY偏向デバイス57の各々は、共に1つのガルバノミラーである。しかし、光を走査する他のデバイスを採用してもよい。複数のデバイス(例えば、2つのガルバノミラー)を、X偏向デバイス56およびY偏向デバイス57の少なくともいずれかに採用してもよい。
XYリレー部60は、X偏向デバイス56とY偏向デバイス57の間に設けられている。XYリレー部60は、上流側XYリレー光学素子61と、上流側XYリレー光学素子61よりも下流側に設けられた下流側XYリレー光学素子62とを備える。XYリレー部60は、ケプラー式のリレー光学系であり、X偏向デバイス56をY偏向デバイス57にリレーする。つまり、X偏向デバイス56の走査中心と、Y偏向デバイス57の走査中心とは、XYリレー部60によって共役関係となる。上流側XYリレー光学素子61の物側(前側)焦点が、X偏向デバイス56における走査中心に一致するように、上流側XYリレー光学素子61とX偏向デバイス56との位置関係が保たれている。従って、上流側XYリレー光学素子61から出射されるパルスレーザ光のテレセントリックの性能が保たれる。また、第二実施形態では、下流側XYリレー光学素子62とY偏向デバイス57の位置関係が固定されている。詳細には、下流側XYリレー光学素子62の像側(後側)焦点が、Y偏向デバイス57における走査中心に一致するように、下流側XYリレー光学素子62とY偏向デバイス57との位置関係が保たれている。
XY走査部55よりも光路の下流側には、リレー部30、ダイクロイックミラー38、および対物レンズ35が順に設けられている。リレー部30、ダイクロイックミラー38、および対物レンズ35には、第一実施形態で例示した構成と同様の構成を採用できる。詳細には、第二実施形態でも、上流側リレー光学素子31の物側焦点が、Y偏向デバイス57におけるピボット点に一致するように、上流側リレー光学素子31とY偏向デバイス57との位置関係が保たれている。また、対物レンズ35の上流側素子(第二実施形態では下流側リレー光学素子32)における主平面と、対物レンズ35における主平面との間の光路上の距離が、対物レンズ35の上流側素子の焦点距離と、対物レンズ35の焦点距離の和に等しい。さらに、XY走査部55によって走査される全てのパルスレーザ光の主光線が、対物レンズ35の物側焦点を通過する。ただし、第二実施形態では、第一実施形態とは異なり、リレー部30における上流側リレー光学系31は光軸に沿って移動することは無い(詳細は後述する)。
なお、第二実施形態では、リレー部30における上流側リレー光学素子31の主平面と、下流側リレー光学素子32の主平面との光路上の距離は、上流側リレー光学素子31の焦点距離と、下流側リレー光学素子32の焦点距離との和と等しい。また、上流側リレー光学素子31の主平面と、下流側XYリレー光学素子62の主平面との間の光路上の距離は、上流側リレー光学素子31の焦点距離と、下流側XYリレー光学素子62の焦点距離との和と等しい。この場合、後述するZ走査部66による走査が行われても、対物レンズ35から出射されるパルスレーザ光の開口数NAは維持される。
また、第二実施形態でも、観察ユニット40およびOCTユニット41を搭載してもよい。観察ユニット40、OCTユニット41、ダイクロイックミラー38,42等の構成は、第一実施形態と同様の構成としてもよいし、異なる構成としてもよい。
Z走査部66は、第一実施形態と同様に、光路における対物レンズ35の位置を固定した状態で、導光光学素子と対物レンズ35との間の光路長を変化させることで、集光位置をZ方向に走査させる。ただし、第二実施形態では、上流側XYリレー光学素子61が導光光学素子となる。第二実施形態のZ走査部66は、X偏向デバイス56と、XYリレー部60の上流側XYリレー光学素子61とを含む光学ユニットを、光軸に沿って移動させることで、光路長を変化させる。下流側XYリレー光学素子62、Y偏向デバイス57、リレー部30、および対物レンズ35は、Z走査部66によって移動されることは無い。なお、第二実施形態のZ走査部66は、高速Z走査部15およびレンズ21を、X偏向デバイス56および上流側XYリレー光学素子61と共に、光軸に沿って移動させる。
以上説明したように、第二実施形態の眼科用レーザ手術装置2は、第一実施形態の眼科用レーザ手術装置1と同様に、偏向デバイス56,57の少なくともいずれか(第二実施形態ではX偏向デバイス56)よりも光路の下流側に設けられた導光光学素子と、対物レンズ35との間の光路長を、対物レンズ35の光路上の位置を固定した状態で変化させる。従って、XY走査部55よりも上流側でZ方向の走査を行う場合に比べて、Z走査部66よりも下流側に位置する光学系の影響が低減される。XY走査部55の大きさを小さくすることも容易である。また、対物レンズ35を移動させる場合の影響を考慮する必要も無い。よって、眼科用レーザ手術装置2は、パルスレーザ光の集光位置を適切に走査させることができる。
詳細には、第二実施形態のZ走査部66は、X偏向デバイス56と、導光光学素子である上流側XYリレー光学素子61とを含む光学ユニットを光軸に沿って移動させることで、上流側XYリレー光学素子61と対物レンズ35との間の光路長を変化させる。この場合、眼科用レーザ手術装置2は、Y偏向デバイス57を移動させずにZ方向の走査を行うことができる。また、X偏向デバイス56の直前のレンズ21の焦点距離は、X偏向デバイス56までの距離で良い。よって、レンズ21の焦点距離を短くすることも容易である。
第二実施形態では、Z走査部66よりも光路の下流側に配置される光学素子(詳細には、下流側XYリレー光学素子62、Y偏向デバイス57、リレー部30、および対物レンズ35)の光路上の位置が、Z走査部66の駆動に関わらず一定である。また、第二実施形態でも第一実施形態と同様に、Z方向の走査を行う場合でも、X偏向デバイス56と上流側XYリレー光学素子61の間の位置関係は固定されている。さらに、導光光学素子である上流側XYリレー光学素子61の物側焦点が、X偏向デバイス56におけるピボット点に一致する。この場合、導光光学素子から出射されるパルスレーザ光のテレセントリックの性能が維持される。また、Z方向の走査に関わらず、Z走査部66よりも下流側における共役関係が維持され、対物レンズ35からのパルスレーザ光の出射角度が固定される。よって、集光位置の走査制御が容易になる。さらに、第二実施形態における眼科用レーザ手術装置2の構成の一部は、第一実施形態における眼科用レーザ手術装置1の構成の一部と共通する。従って、前述した第一実施形態における効果の少なくとも一部は、第二実施形態でも同様に奏し得る。
<第三実施形態>
本発明の第三実施形態について、図5を参照して説明する。第三実施形態では、反射部71を移動させてZ方向の走査を行う点が第一実施形態と異なるが、第一実施形態と共通する構成もある。従って、以下では、第一実施形態と同様の構成については第一実施形態と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。
第三実施形態の眼科用レーザ手術装置3は、レーザ光源10、エイミング光源11、ダイクロイックミラー12、ズームエキスパンダ13、高速Z走査部15、レンズ21、およびXY走査部25を備える。以上のレーザ光源10からXY走査部25までの構成には、第一実施形態で例示した構成を採用することが可能である。
XY走査部25よりも光路の下流側には、ケプラー式のリレー部30が設けられている。リレー部30は、上流側リレー光学素子31と、下流側リレー光学素子32とを備える。上流側リレー光学素子31の物側焦点は、XY走査部25におけるピボット点に一致する。従って、上流側リレー光学素子31から出射されるパルスレーザ光のテレセントリックの性能が保たれる。また、下流側リレー光学素子32よりも光路の下流側には対物レンズ35が配置されている。XY走査部25におけるピボット点と、対物レンズ35の物側焦点とは、リレー部30によって共役関係となっている。従って、XY走査部25によって走査される全てのパルスレーザ光の主光線が、対物レンズ35の物側焦点を通過する。また、下流側リレー光学素子32の主平面と、対物レンズ35の主平面との間の距離が、互いの焦点距離の和に等しい。なお、図5では図示を省略したが、第三実施形態でも、観察ユニット40およびOCTユニット41を搭載してもよい。観察ユニット40、OCTユニット41、ダイクロイックミラー38,42等の構成は、第一実施形態と同様の構成としてもよいし、異なる構成としてもよい。
第三実施形態では、リレー部30の上流側リレー光学素子31と下流側リレー光学素子32の間にZ走査部70が設けられている。第三実施形態のZ走査部70は、反射部71とZ走査駆動部74とを備える。
反射部71は、上流側リレー光学素子31と下流側リレー光学素子32の間の光路に設けられている。第三実施形態の反射部71には、一例として、上流側リレー光学素子31を経たパルスレーザ光を反射させて下流側リレー光学素子32に導光させるミラーが採用されている。より詳細には、本実施形態の反射部71は、2つの反射部材72,73を備える。反射部材72は、上流側リレー光学素子31から入射するパルスレーザ光を反射部材73に向けて反射させる。反射部材73は、反射部材72から入射するパルスレーザ光を下流側リレー光学素子32に向けて反射させる。従って、上流側リレー光学素子31を経たパルスレーザ光は、進行方向を180度変えられた状態で下流側リレー光学素子32に入射する。この場合、反射部71が有する反射部材の数を極力少なくすることができる。
Z走査駆動部74は、反射部71を移動させることで、導光光学素子(第三実施形態では上流側リレー光学素子31)と対物レンズ35の間の光路長を変化させる。その結果、パルスレーザ光の集光位置がZ方向に走査される。詳細には、第三実施形態のZ走査駆動部74は、上流側リレー光学素子31から出射されるパルスレーザ光の光軸と平行な方向(図5の紙面上下方向)に反射部71を移動させる。
以上説明したように、第三実施形態の眼科用レーザ手術装置3は、第一・第二実施形態と同様に、偏向デバイス26,27の少なくともいずれかよりも光路の下流側に設けられた導光光学素子(第三実施形態では上流側リレー光学素子31)と、対物レンズ35との間の光路長を、対物レンズ35の光路上の位置を固定した状態で変化させる。よって、眼科用レーザ手術装置3は、パルスレーザ光の集光位置を適切に走査させることができる。
詳細には、第三実施形態におけるZ走査部70は、反射部71とZ走査駆動部74を備える。反射部71は、光路上に配置され、且つ、パルスレーザ光を反射させる。Z走査駆動部74は、反射部71を移動させることで光路長を変化させる。この場合、XY走査部25自体を移動させてZ方向の走査を行う場合に比べて、移動させる部材が減少する。従って、Z方向の走査を行うための機構等を簡素化することが容易である。より詳細には、第三実施形態では、上流側リレー光学素子31と下流側リレー光学素子32の間の光路に反射部71が設けられている。この場合、反射部71を用いた集光位置のZ方向の走査を適切に実行できる。なお、第三実施形態における眼科用レーザ手術装置3の構成の一部は、第一実施形態における眼科用レーザ手術装置1の構成の一部と共通する。従って、前述した第一実施形態における効果の少なくとも一部は、第三実施形態でも同様に奏し得る。
<第四実施形態>
本発明の第四実施形態について、図6を参照して説明する。第四実施形態では、反射部81を移動させてZ方向の走査を行う点が第二実施形態と異なるが、第二実施形態と共通する構成もある。従って、以下では、第二実施形態と同様の構成については第二実施形態と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。
第四実施形態の眼科用レーザ手術装置4は、レーザ光源10、エイミング光源11、ダイクロイックミラー12、ズームエキスパンダ13、高速Z走査部15、レンズ21、およびX偏向デバイス56を備える。以上のレーザ光源10からX偏向デバイス56までの構成には、第二実施形態で例示した構成を採用することが可能である。また、眼科用レーザ手術装置4は、Y偏向デバイス57、リレー部30、ダイクロイックミラー38、および対物レンズ35を備える。以上のY偏向デバイス57から対物レンズ35までの構成も、第二実施形態で例示した構成を採用することが可能である。なお、観察ユニット40およびOCTユニット41の図示は省略している。また、第二実施形態の構成と異なる構成を第四実施形態で採用してもよいことは言うまでもない。
X偏向デバイス56とY偏向デバイス57の間には、XYリレー部60が設けられている。第四実施形態では、XYリレー部60は、上流側XYリレー光学素子61と、上流側リレー光学素子61よりも下流側に位置する下流側XYリレー光学素子62とを備える。上流側XYリレー光学素子6の物側焦点は、X偏向デバイス56における走査中心に一致する。従って、上流側XYリレー光学素子61から出射されるパルスレーザ光のテレセントリックの性能が保たれる。また、第四実施形態では、下流側XYリレー光学素子62の像側焦点が、Y偏向デバイス57における走査中心(ピボット点)に一致する。
なお、第四実施形態でも、第二実施形態と同様に、上流側リレー光学素子31の物側焦点が、Y変更デバイス57におけるピボット点に一致する。また、下流側リレー光学素子32における主平面と、対物レンズ35における主平面との間の光路上の距離が、下流側リレー光学素子32の焦点距離と、対物レンズ35の焦点距離の和に等しい。さらに、XY走査部55によって走査される全てのパルスレーザ光の主光線が、対物レンズ35の物側焦点を通過する。
第四実施形態では、XYリレー部60の上流側XYリレー光学素子61と下流側XYリレー光学素子62の間にZ走査部80が設けられている。第四実施形態のZ走査部80は、反射部81とZ走査駆動部84を備える。
反射部81は、上流側XYリレー光学素子61と下流側XYリレー光学素子62の間の光路に設けられている。第四実施形態の反射部81には、一例として、第三実施形態の反射部71と同様の構成のミラーが採用されている。つまり、第四実施形態の反射部81は、2つの反射部材82,83によって、上流側XYリレー光学素子61を経たパルスレーザ光の進行方向を180度変化させる。反射部81を経たパルスレーザ光は、下流側XYリレー光学素子62に入射する。
Z走査駆動部84は、反射部81を移動させることで、導光光学素子(第四実施形態では上流側XYリレー光学素子61)と対物レンズ35の間の光路長を変化させる。その結果、パルスレーザ光の集光位置がZ方向に走査される。詳細には、第四実施形態のZ走査駆動部84は、上流側XYリレー光学素子61から出射されるパルスレーザ光の光軸と平行な方向に反射部81を移動させる。
以上説明したように、第四実施形態の眼科用レーザ手術装置4は、第一〜第三実施形態と同様に、偏向デバイス56,57の少なくともいずれかよりも光路の下流側に設けられた導光光学素子(第三実施形態では上流側XYリレー光学素子61)と、対物レンズ35との間の光路長を変化させる。よって、眼科用レーザ手術装置4は、パルスレーザ光の集光位置を適切に走査させることができる。
詳細には、第四実施形態におけるZ走査部80は、反射部81とZ走査駆動部84を備える。反射部81は、光路上に配置され、且つ、パルスレーザ光を反射させる。Z走査駆動部84は、反射部81を移動させることで光路長を変化させる。この場合、XY走査部55自体を移動させてZ方向の走査を行う場合に比べて、移動させる部材が減少する。
より詳細には、第四実施形態では、上流側XYリレー光学素子61と下流側リレー光学素子62の間の光路に反射部81が設けられている。この場合、上流側XYリレー光学素子61の焦点距離と、下流側XYリレー光学素子62の焦点距離とを規定することで、X偏向デバイス56よりも下流側に位置する光学系の縦倍率を調整することができる。従って、焦点位置を単位距離だけ移動させるために要する反射部81の移動量を、縦倍率を調整することで減少させることも可能である。また、Y方向に走査される前のパルスレーザ光が反射部81を通過するため、X偏向デバイス56およびY偏向デバイス57の下流側に反射部81を設ける場合に比べて、反射部81を小型化することが容易である。
なお、第四実施形態における眼科用レーザ手術装置4の構成の一部は、第一〜第三実施形態における眼科用レーザ手術装置1〜3の構成の一部と共通する。従って、前述した第一〜第三実施形態における効果の少なくとも一部は、第四実施形態でも同様に奏し得る。
本発明は上記実施形態に限定されることは無く、様々な変形が可能であることは勿論である。まず、図1〜図6では、それぞれの光学素子(例えば、16、21、31、32、35、61、62)1つの光学部材(例えば、レンズ等)によって図示されている。しかし、当然ながら、それぞれの光学素子は、1つの光学部材によって構成されてもよいし複数の光学部材によって構成されてもよい。また、上記実施形態の説明では、「光学素子Aが光学素子Bの下流側に位置する」との表現は、光学素子Aの主平面が光学素子Bの主平面よりも下流側に位置することを示す。従って、上記の例では、光学素子Aを構成する光学部材の一部が、光学素子Bを構成する光学部材の少なくとも一部よりも上流側に位置していてもよい。
また、図1〜図6では、説明を簡略化するために、実際の構成よりも簡略化した構成が示されている。従って、図示しない光学部材(例えば、光路を曲折させるための光学部材等)が構成に含まれていてもよい。また、光学素子には、凸レンズ、凹レンズ、凹面鏡、平面ミラー等の種々の光学部材およびこれらの組合せを採用できる。
リレー部30等の構成を変更することも可能である。例えば、図4に示す第二実施形態、および、図6に示す第四実施形態では、Y偏向デバイス57と対物レンズ35の間に、上流側リレー光学素子31と下流側リレー光学素子32が設けられている。しかし、第二・第四実施形態において、例えば下流側XYリレー光学素子62等の焦点距離を調整することで、Y偏向デバイス57から出射されるパルスレーザ光を平行でない光とし、リレー部30の上流側リレー光学素子31を省略することも可能である。この場合、具体的には、上流側XYリレー光学素子61の物側焦点を、X偏向デバイス56の走査中心に一致させる。下流側XYリレー光学素子62の像側焦点を、Y偏向デバイス57の走査中心に一致させる。また、Y偏向デバイス57の走査中心と、対物レンズ35の物側焦点とを共役とする。この場合でも、上記第二・第四実施形態と同様に集光位置が定まる。また、同様に、第一・第三実施形態における上流側リレー光学素子31、および、第二・第四実施形態における上流側XYリレー光学素子61を省略することも可能である。下流側リレー光学素子32、および下流側XYリレー光学素子62を省略することも可能である。
上記第一〜第四実施形態では、レーザ光源10と、レーザを患者眼Eに照射するための光学系とを含む種々の構成が、眼科用レーザ手術装置1〜4に一体的に組み込まれている場合を例示した。しかし、光学系を含む構成をモジュール化して眼科用レーザ手術装置1〜4に組み込むことも可能である。この場合、モジュール化された光学系は、例えば、以下のように表すことも可能である。パルスレーザ光を患者眼の組織内に集光させることで前記患者眼を処置する眼科用レーザ手術装置で使用される光学系であって、レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を偏向させる偏向デバイスを少なくとも1つ有し、前記偏向デバイスによってパルスレーザ光を光軸に交差する方向に走査するXY走査部と、前記XY走査部の前記偏向デバイスの少なくともいずれかよりもパルスレーザ光の光路の下流側に設けられ、屈折力を有し、前記光路の下流側にパルスレーザ光を導光させる導光光学素子と、前記XY走査部および前記導光光学素子を経たパルスレーザ光を前記組織内に集光させる対物レンズと、前記光路における前記対物レンズの位置が固定された状態で、前記導光光学素子と前記対物レンズの間の光路長を変化させることで、前記パルスレーザ光の集光位置を、前記光軸に沿うZ方向に走査させるZ走査部とを備えたことを特徴とする光学系。
上記第一〜第四実施形態では、角膜および水晶体を共に処置することが可能な眼科用レーザ手術装置1〜4を例示した。しかし、患者眼Eの特定の部位(例えば、角膜のみ、または水晶体のみ)を処置する眼科用レーザ手術装置にも、上記実施形態で例示した構成を適用できる。なお、角膜のみを処置する場合に比べて、水晶体を処置する場合の方が、Z方向の走査量を大きくする必要がある。さらに、水晶体のみを処置する場合に比べて、角膜と水晶体を共に処置する場合の方が、Z方向の走査量を大きくする必要がある。簡易な構成で適切なZ方向の走査を行うことは、Z方向の走査量が大きい程困難になる。しかし、上記第一〜第四実施形態で例示した技術を用いることで、Z方向の走査を適切に行うことができる。従って、上記第一〜第四実施形態で例示した技術は、水晶体を処置する場合、および、水晶体と角膜を共に処置する場合に、より大きな優位性を発揮する。眼科用レーザ手術装置1〜4では、水晶体と角膜を共に処置する場合でも、角膜処置用の光路と水晶体処置用の光路とを切り換える構成等も必須では無い。
上記第一実施形態では、Z走査部44は、高速Z走査部15、レンズ21、XY走査部25、および上流側リレー光学素子31を光軸方向に移動させる。また、上記第二実施形態では、Z走査部66は、高速Z走査部15、レンズ21、X偏向デバイス56、および上流側XYリレー光学素子61を光軸方向に移動させる。しかし、Z走査部44,66によって移動される構成を変更することも可能である。例えば、上記第一・第二実施形態において、高速Z走査部15およびレンズ21を、Z走査部44,46によって移動される構成から除外することも可能である。また、Z走査部44,46は、ズームエキスパンダ13等の他の部材も併せてZ方向に移動させてもよい。
上記第一〜第四実施形態の眼科用レーザ手術装置1〜4は、高速Z走査部15によって、種々の要素に応じて集光位置を高速でZ方向に走査させることができる。しかし、高速Z走査部15を省略することも可能である。また、上記第一〜第四実施形態とは逆に、Z走査部15による走査速度よりも、Z走査部44,66,70,80による走査速度を高速とすることも可能である。この場合でも、1つのZ走査部を用いる場合に比べて処置の精度を容易に向上させることができる。また、上記第一〜第四実施形態の眼科用レーザ手術装置1〜4は、ズームエキスパンダ13によってビーム径を変更することで、パルスレーザ光の開口数NAを調整することができる。しかし、ズームエキスパンダ13を省略することも可能である。また、高速Z走査部15とズームエキスパンダ13の位置を入れ替えてもよい。
上記第一〜第四実施形態では、対物レンズ35からのパルスレーザ光の出射角度が固定されている(詳細にはテレセントリックの性能が維持される)。従って、眼科用レーザ手術装置1〜4は、集光位置の高精度な走査を容易に行うことができる。しかし、出射角度が変動する構成としてもよい。この場合、XY走査部25,55の駆動制御等によって集光位置を高精度に走査してもよい。
上記第一〜第四実施形態では、Z方向の走査に関わらず、対物レンズ35から出射されるパルスレーザ光の開口数NAが維持される。しかし、Z方向の走査に応じて開口数NAが変化してもよい。また、各種パラメータ(例えば、Z方向におけるパルスレーザ光の集光位置)に応じてビームエキスパンダ13等を駆動させることで、開口数NAを変化させてもよい。
上記実施形態の構成に加え、パルスレーザ光の走査に起因して発生する収差を補正するための構成を設けることも可能である。例えば、XY走査部25,55よりも上流側に、パルスレーザ光の波面を変化させるためのデバイスを設けることで、収差を補正してもよい。また、パルスレーザ光をX方向に走査させるための偏向デバイスと、Y方向に走査させるための偏向デバイスとを別で設ける必要は無い。つまり、眼科用レーザ手術装置は、1つの偏向デバイスでパルスレーザ光をXY方向に走査させてもよい。
上記第三・第四実施形態では、2つの反射部材を備えた反射部71,81によって、パルスレーザ光の進行方向が180度変えられる。この反射部71,81が移動することで、集光位置がZ方向に走査される。しかし、反射部71,81の構成を変更することも可能である。例えば、反射部71,81が備える反射部材は2つに限られない。プリズム等を反射部71,81として用いてもよい。