〔第1の実施の形態〕
図1は第1の実施の形態に係る無線通信システムの一例を示している。無線通信システム2−1は、本開示の無線通信システムの一例であり、アンテナ装置4−1と信号源42とを含んでいる。アンテナ装置4−1は信号源42に接続している。アンテナ装置4−1では、信号源42がアンテナ装置4−1から送信する情報を特定の周波数を持つ信号に変調し、この信号を無線信号として外部に送信する。また、アンテナ装置4−1は、到来する無線信号を受信し、情報を含む信号をこの無線信号から復調する。無線通信システム2−1は、この無線信号の送信および受信により外部との通信を行う。
アンテナ装置4−1は、本開示のアンテナ装置の一例である。アンテナ装置4−1は、アンテナ素子6と、給電回路32とを含んでいる。アンテナ装置4−1は、信号源42により生成された信号を給電回路32で取得し、この信号を給電回路32によりアンテナ素子6の給電点14に給電する。
アンテナ素子6は、給電素子12と、無給電素子22−1、22−2とを含んでいる。つまり、アンテナ素子6は複数の素子を含んでいる。
図2および図3は、アンテナ素子の一例を示している。図2はアンテナ素子の正面図であり、図3はアンテナ素子の側面図である。なお、図2には、信号源42が示され、信号の供給位置が示されている。
給電素子12は、帯状の素子であって、1対の素子12−1、12−2を含み、ダイポールアンテナを形成している。素子12−1、12−2の近接する端部は、既述の給電点14を形成し、給電回路32を介して信号源42に接続されている。つまり、給電素子12は、給電点14で信号源42の信号を受ける。給電素子12は受けた信号を外部に放射する放射素子の一例である。
素子12−1、12−2は同じ長さであり、給電点14は、給電素子12の素子中間部に設定されている。給電素子12の幅W1は、たとえば2[mm]である。給電素子12の厚さt1は、幅W1よりも薄く設定されている。給電素子12は、金属などの導電材料により形成され、たとえば銅により形成される。銅は高い導電率を有するので、銅の使用により素子の抵抗値が小さくなる。よって、素子の抵抗成分によるアンテナの信号損失が抑制できる。
無給電素子22−1、22−2は、帯状の素子である。無給電素子22−1の幅W2および無給電素子22−2の幅W3は、たとえば2[mm]である。無給電素子22−1の厚さt2および無給電素子22−2の厚さt3は、たとえば同じ厚さであって、幅W2、W3よりも薄く設定されている。無給電素子22−1、22−2は、既述の導電材料で形成される。
無給電素子22−1の長さL2および無給電素子22−2の長さL3は、給電素子12の長さL1と同じ長さに設定されている(L1=L2=L3)。つまり、長さL1、L2、L3は、アンテナ素子6の長さを表している。
無給電素子22−1、22−2は、給電素子12に平行に配置される。このとき、無給電素子22−1、22−2の帯形状により形成される平坦面が給電素子12の帯形状により形成される平坦面に対して平行に配置される。
無給電素子22−1、22−2は、給電素子12を軸にして給電素子12を中心に対称に配置されている。無給電素子22−1、22−2は、給電素子12を間に挟んでいる。給電素子12の幅中心から無給電素子22−1の幅中心までの間隔G1は給電素子12の幅中心から無給電素子22−2の幅中心までの間隔G2と同じ間隔に設定されている。なお、間隔G1、G2は、給電素子12および無給電素子22−1、22−2の平坦面に対して平行方向の距離としている。間隔G1、G2の設定により、無給電素子22−1、22−2は給電素子12の配置位置からずれ、給電素子12の平坦面と無給電素子22−1、22−2の平坦面とが重ならない。つまり、無給電素子22−1、22−2は、給電素子12の平坦面の直上から離されている。このため、給電素子12と無給電素子22−1、22−2との対向面積が小さくなり、給電素子12と無給電素子22−1、22−2間が容量的に結合することが抑制される。給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間の容量結合は、指向性を緩和させる。容量結合の抑制により、指向性の緩和が抑制される。
無給電素子22−1、22−2は、給電素子12から放射された電波を誘導する導波器として機能し、または放射された電波を反射する反射器として機能する。給電素子12および無給電素子22−1、22−2は相互に誘導し合うなどの相互作用を生じさせ、放射素子を形成する。
間隔G1、G2は、長さL1、L2、L3よりも短く、アンテナ素子6が放射する電波の4分の1波長よりも短い。つまり、アンテナ素子6の間隔G1、G2方向の長さが抑制されている。
各素子の平坦面と垂直な方向において、給電素子12と無給電素子22−1、22−2との間に間隔G3が設定されている。間隔G3はたとえば間隔G1、G2よりも短い間隔である。間隔G3の設定により、アンテナ素子6が立体的になり、アンテナ素子6の設定の自由度が高められる。給電素子12および無給電素子22−1、22−2に挟まれた区域zには、空気などの誘電部材が配置される。給電素子12および各無給電素子22−1、22−2は、この区域z上に配置される。つまり区域zは、給電素子12および無給電素子22−1、22−2の配置面の一例である。
次に給電回路について図4を参照する。図4は、給電回路の一例を示している。図4に示す構成は一例であって、斯かる構成に本開示の技術が限定されるものではない。
図4は、給電回路32およびRF部(Radio Frequency Part:無線部)43を示している。
給電回路32は、アンテナ装置4−1の給電点14とRF部43との間に設置される。給電回路32には整合回路36が備えられ、整合回路36は一例として容量素子38および誘導素子40−1、40−2を含んでいる。容量素子38は伝送回路44−1を介してアンテナ素子6の給電点14に接続されている。容量素子38は給電点14に並列に接続されている。この容量素子38はたとえば、キャパシタである。各誘導素子40−1、40−2は伝送回路44−1を介して給電点14に個別に接続されている。また、各誘導素子40−1、40−2は伝送回路44−2を介してRF部43に個別に接続されている。つまり、誘導素子40−1は給電点14の一方とRF部43の一方の端子との間に直列に接続されている。誘導素子40−2は給電点14の他方とRF部43の他方の端子との間に直列に接続されている。各誘導素子40−1、40−2はたとえば、インダクタである。
整合回路36は、容量素子38および誘導素子40−1、40−2により給電回路32側のインピーダンスをアンテナ素子6のインピーダンスに整合させる整合処理部の一例である。容量素子38の接続位置および大きさと誘導素子40−1、40−2の接続位置および大きさは、アンテナ素子6の形状、および無線信号の周波数等により調整される。整合回路36は、π型回路(πマッチ)、T型回路(Tマッチ)などの整合回路であってもよい。
RF部43は既述の信号源42(図1)の一例である。このRF部43には送信部であればたとえば、変調器および電力増幅器が含まれ、受信部であれば復調器などが含まれる。変調器は、アンテナ素子6から送信する情報を搬送波に乗せて既述の信号を生成する、つまり、変調器は無線信号を生成する。電力増幅器は、信号または無線信号を増幅する。復調器は、アンテナ素子6が受信した無線信号から情報を含む信号部分を取り出す。つまり、RF部43は、高周波信号を処理する信号処理部の一例であり、たとえば無線通信システム2−1のRFモジュールとして機能する。
伝送回路44−1、44−2は、アンテナ素子6、整合回路36、RF部43の接続に用いられる。伝送回路44−1、44−2は、たとえば、平行二線または同軸ケーブルであり、信号又は無線信号を伝送する。アンテナ素子6は平衡型のアンテナであるので、伝送回路44−1、44−2に同軸ケーブルを用いる場合、伝送回路44−1、44−2は、バランを介してアンテナ素子6に接続される。バランの平衡、不平衡間の変換機能により、漏洩電流の発生が抑制される。
(アンテナ素子6の長さL1、L2、L3および間隔G1、G2の設定)
次に、アンテナ素子6の長さL1、L2、L3および間隔G1、G2の設定について図5を参照する。図5は、アンテナ素子6の長さに対するFB比の変化を示している。このFB比はシミュレーションにより解析している。
FB比の解析に際し、アンテナ装置4−1のアンテナ素子6には図1に示すXYZ座標系が設定される。図1に示すように、アンテナ素子6はYZ平面上に配置され、給電点14は原点Oに配置される。アンテナ装置4−1の前方は、X軸の正方向に設定され、アンテナ装置4−1の後方は、X軸の負方向に設定される。つまり、YZ平面の面方向に給電素子12と無給電素子22−1、22−2とが配置されている。X軸は、給電素子12と無給電素子22−1、22−2の配置方向の直交方向を表している。
FB比の解析に際し、給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間には、比誘電率εrが4である誘電部材を配置する。つまり、既述の区域zには、比誘電率εrが4である誘電部材が配置されている。
FB比の解析では、FB比がたとえばアンテナ装置4−1が真空中に配置された場合における電波放射の前方と後方の比(単位:[dB])として計算される。FB比は、X軸の正方向の利得(単位:[dB])からX軸の負方向の利得を引くことで得られる。利得はダイポールアンテナなどの基準アンテナに対する電力の集中度合いを表す。なお、電波の周波数は1[GHz]に設定されている。また、長さL1、L2、L3は、同じ値l[mm]に設定され、間隔G1、G2は同じ値g[mm]に設定される。
図5に示すグラフは、間隔G1、G2の値gが7[mm](0.023波長)、9[mm](0.030波長)、11[mm](0.037波長)、13[mm](0.043波長)、または15[mm](0.050波長)である場合のFB比の変化を示している。何れの値gである場合も、値l[mm]の変化に応じてFB比が変化している。つまり、FB比はアンテナ素子6の長さに応じて変化する。また、何れの値gである場合も、値lに応じてFB比が正の値となる場合と、負の値となる場合がある。FB比が正の値である場合、X軸の負方向の放射よりも正方向の放射が強いことを表している。一方、FB比が負の値である場合、X軸の正方向の放射よりも負方向の放射が強いことを表している。つまり、アンテナ装置4−1では、各素子の長さL1、L2、L3を変えることで電波が強く放射される方向を前後で逆転できる。また、一例として、間隔G1、G2が15[mm]に設定され、アンテナの長さL1、L2、L3が119[mm](0.40波長)に設定されれば、FB比が約18[dB]になる。
アンテナ素子6に含まれる各素子の長さL1、L2、L3の変化は、アンテナ素子6のインピーダンスを変化させる。このアンテナ素子6のインピーダンスの変化が、給電素子12および各無給電素子22−1、22−2に挟まれた区域zと交差する前後方向の利得とを変化させていると考えられる。つまり、アンテナ素子6の長さの変更は、アンテナ素子6の電波の放射方向をX軸の正方向と負方向の間で逆転させることができるとともにアンテナ素子6の指向性を表すFB比を所望の値に変えることができる。
(第1の実施の形態の効果)
アンテナ装置4−1およびアンテナ装置4−1を含む無線通信システム2−1によれば、アンテナ素子6の間隔G1、G2がたとえば0.023波長から0.050波長の範囲であり、アンテナ素子6の幅W4(図3)が長さL1、L2、L3よりも小さい。つまり、アンテナ素子6が設置される設置面積が、長さL1、L2、L3の2乗よりも小さい。また、アンテナ装置4−1および無線通信システム2−1によれば、間隔G3は間隔G1、G2よりも短い。つまり、アンテナ素子6の放射方向の高さが小さく、低背である。そして、給電素子12および無給電素子22−1、22−2を含むことで、給電素子12と無給電素子22−1、22−2の配置方向と交差する前後方向に指向性を得ることができる。無線通信システム2−1によれば、アンテナ素子6の配置面の一方面側と他方面側との間で指向性を調整し、または放射方向を特定方向に設定することができる。
アンテナ素子6の設置面積が小さく高さが小さいので、アンテナ装置4−1および無線通信システム2−1は小型の無線通信システムに適用できる。たとえば、アンテナ装置4−1および無線通信システム2−1は、無線センサネットワークのセンサノードに適用できる。アンテナ装置4−1のFB比または指向性が特定の値または特性に調整できる。
図6は、無線通信システムの設置の一例を示している。図6中、R1およびR2は、電波の放射を概念的に表している。電波の放射R2は、破線で表され、放射が放射R1より弱いことを表している。無線通信システム2−1は既述の設置環境として壁46に設置されている。このとき、アンテナ装置4−1のFB比または指向性の調整により、無線通信システム2−1は、図6に示す放射方向(X軸の正の方向)に電波を強く放射する。一方、無線通信システム2−1は、図6に示すX軸の負の方向の放射を抑制している。よって、壁46側に電界が広がることが抑制される。壁46の誘電率および構造がアンテナ装置4−1に与える影響が小さく、アンテナ装置4−1の周波数特性、利得および指向性パターンの変化が抑制される。無線通信システム2−1を物体や人体などの設置環境に設置した場合であっても、アンテナ素子6のインピーダンスが安定し、アンテナ装置4−1周波数特性、利得および指向性が安定する。
アンテナ装置4−1は電波の放射方向が特定方向に設定可能であるので、多重反射された電波の受信を抑制できる。つまり、電波の多重反射の影響が抑制される。
(変形例)
上記第1の実施の形態では、給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間に空気などの誘電部材を配置したが、各素子間が絶縁されればよく、たとえば誘電部材は誘電体基板などであってもよい。この場合、誘電体基板の一対の対向面に給電素子12および無給電素子22−1、22−2がそれぞれ設置でき、給電素子12および無給電素子22−1、22−2が一体的に固定できる。斯かる構成であっても、給電素子12および無給電素子22−1、22−2が相互に誘導し合うなどの相互作用を生じさせることができる。また、誘電体基板の波長短縮効果により、給電素子12および無給電素子22−1、22−2の素子長を短くすることができる。
給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間に誘電部材を配置せずに、給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間は真空状態であってもよい。給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間に空気を配置しまたは真空状態にする場合、給電素子12および無給電素子22−1、22−2はたとえば個別の固定手段により固定される。また、給電素子12および無給電素子22−1、22−2はたとえばその周縁部を絶縁材料により相互に固定されてもよい。斯かる構成であっても、給電素子12および無給電素子22−1、22−2が相互に誘導し合うなどの相互作用を生じさせることができる。
〔実施例〕
実施例について、図7、図8および図9を参照して説明する。図7は実施例に係る無線通信システムを示す図である。図8はアンテナ素子の正面図である。図9はアンテナ素子の側面図である。なお、図7ないし図9に示す構成は一例であって、斯かる構成に本開示の技術が限定されるものではない。なお、図8には、信号源42が示され、信号の供給位置が示されている。図1、図2および図3と同一部分には同一符号を付してある。図7および図8では、誘電体基板52により隠れる部材が破線により表わされている。
無線通信システム2−2は、給電素子12および各無給電素子22−1、22−2に挟まれた区域に誘電体基板52を含んでいる。
無線通信システム2−2は、無線通信システム2−1の一例である。無線通信システム2−2は、アンテナ装置4−2と既述の信号源42とを含んでいる。
アンテナ装置4−2は、アンテナ装置4−1の一例である。アンテナ装置4−2は、既述のアンテナ素子6および給電回路32と、誘電体基板52を含んでいる。
誘電体基板52は、アンテナ素子6の固定手段の一例である。誘電体基板52は、第1の面および第2の面を備えている。この第2の面は、第1の面の反対側の面であり、第1の面に対する平行面を形成している。誘電体基板52の厚さTsは一例として1.6[mm]に設定されている。また、誘電体基板52の比誘電率εrは、一例として4に設定されている。
誘電体基板52の第1の面には給電素子12が設置され、第2の面には無給電素子22−1、22−2が設置されている。誘電体基板52は給電素子12と無給電素子22−1、22−2の配置面を形成している。
給電素子12は、帯状の銅板である。給電素子12の幅W1は、一例として2[mm]に設定されている。給電素子12の厚さt1は、幅W1よりも小さい値に設定されている。
無給電素子22−1、22−2には、帯状の銅板である。無給電素子22−1、22−2の幅W2、W3は、一例として2[mm]に設定されている。無給電素子22−1の厚さt2および無給電素子22−2の厚さt3は、それぞれ幅W2、W3よりも小さい値に設定されている。
給電素子12の長さL1、無給電素子22−1の長さL2および無給電素子22−2の長さL3は、一例として117[mm]であり、アンテナ素子6の幅W4は一例として28[mm]である。つまり、間隔G1、G2は、13[mm]に設定されている。
給電素子12と無給電素子22−1、22−2の間には、誘電体基板52が配置され、この誘電体基板52により間隔G3が設定されている。この間隔G3は、誘電体基板52の厚さTsとなる(G3=Ts=1.6[mm])。
アンテナ素子6、給電回路32および信号源42の構成は、第1の実施の形態と同様であるのでその説明を省略する。
(アンテナ装置4−2の特性)
次に、アンテナ装置4−2の特性について図10ないし図13を参照する。図10は、周波数に対する反射損失(リターンロス)を示している。図11は、XY平面における指向性を示している。図12は、ZX平面における指向性を示している。図13は、YZ平面における指向性を示している。これらの特性は、アンテナ装置4−2に信号源42を接続した場合の特性であり、ミュレーションにより解析した特性である。なお、図11ないし図13の指向性図周縁の数値は、角度(Ang)(単位:[°])を表している。指向性図円内の数値は、利得(単位:[dB])を表している。なお、図11のA、図12のAおよび図13のAは指向性図であり、図11のB、図12のBおよび図13のBは指向性図で表されている指向性の方向に関する情報、つまり極座標系におけるφ方向またはθ方向の成分の利得を示している。図11のCは、指向性図で表されているマーカm1、m2におけるPhi値(角度φの値)、Ang値(角度の値)およびMag値(電界強度の値、単位[dB])を示している。図12のCは、指向性図で表されているマーカm1、m2、m3におけるTheta値(角度θの値)、Ang値およびMag値を示している。
アンテナ装置4−2の特性の解析に際し、アンテナ装置4−2に対し図7に示すXYZ座標系が設定される。図7に示すように、アンテナ素子6および誘電体基板52がYZ平面上に配置され、給電素子12の給電点14は原点Oに配置される。アンテナ装置4−2の前方は、X軸の正方向に設定され、アンテナ装置4−2の後方は、X軸の負方向に設定される。つまり、YZ平面の面方向に給電素子12と無給電素子22−1、22−2とが配置されている。X軸は、給電素子12と無給電素子22−1、22−2の配置方向の直交方向を表している。
図10において、反射損失(リターンロス)S11は、周波数1[GHz]において、落ち込み、反射損失S11の値が約−23[dB]になっている。その他の周波数では、周波数0.80[GHz]から1.20[GHz]の範囲において反射損失S11の値が約0[dB]になっている。つまり、アンテナ装置4−2は周波数1[GHz]の信号に共振し、入力信号を外部に放射していており、周波数1[GHz]の信号に共振するアンテナ装置として設定されている。
図11に示す指向性図において、角度0[°]方向は、X軸の正方向であり、角度−180[°]方向は、X軸の負方向である。太い線で示されている指向性は、極座標系におけるφ方向の成分の利得を表している。また、細い線で示されている指向性が、極座標系におけるθ方向の成分の利得を表している。
アンテナ装置4−2では、φ方向の成分の利得がθ方向の成分の利得よりも十分に大きい値を有している。Xの値が正の領域(領域I)におけるφ方向の成分の利得は、Xの値が負の領域(領域II)におけるφ方向の成分の利得よりも大きくなっている。つまり図11に示す利得は、アンテナ素子6が配置されている配置面の一方面側と他方面側とで異なっていることを示している。
また、角度0[°]の方向は、利得が最も高い。利得の値は約4.7[dB]である。角度−180[°]の方向は、利得が低い。利得の値は約−15.4[dB]である。また、角度0[°]を前方とし、角度−180[°]を後方とすると、FB比は式1に示す利得差で表される。FB比は約20.1[dB]となり、アンテナ装置4−2は、高い指向性を有していることが分かる。
FB比[dB]=前方の利得[dB]−後方の利得[dB] ・・・式1
図12に示す指向性図おいて、角度0[°]方向は、Z軸の正方向であり、角度−180[°]方向は、Z軸の負方向である。角度90[°]方向は、X軸の正方向であり、角度−90[°]方向は、X軸の負方向である。太い線で示されている指向性は、極座標系におけるφ方向の成分の利得を表している。極座標系におけるθ方向の成分の利得は、全方位において−40[dB]以下である。
アンテナ装置4−2では、φ方向の成分の利得がθ方向の成分の利得よりも十分に大きい値を有している。Xの値が正の領域(領域III)におけるφ方向の成分の利得は、Xの値が負の領域(領域IV)におけるφ方向の成分の利得よりも大きくなっている。つまり図12に示す利得は、アンテナ素子6が配置されている配置面の一方面側と他方面側とで異なっていることを示している。
図13に示す指向性図において、角度0[°]方向は、Z軸の正方向であり、角度−180[°]方向は、Z軸の負方向である。角度90[°]方向は、Y軸の正方向であり、角度−90[°]方向は、Y軸の負方向である。太い線で示されている指向性は、極座標系におけるφ方向の成分の利得を表している。細い線で示されている指向性が、極座標系におけるθ方向の成分の利得を表している。アンテナ装置4−2は、φ方向の成分の利得が既述の領域Iおよび領域IIIにおけるφ方向の成分の利得よりも十分に小さい値を有している。
この実施例に係るアンテナ装置4−2およびアンテナ装置4−2を含む無線通信システム2−2によれば、アンテナ素子6のY軸方向の長さは117[mm]、つまり1波長の約0.39倍の長さに抑えられている。また、アンテナ素子6のZ軸方向の長さは28[mm]、つまり、1波長の約0.09倍の長さでありY軸方向の長さよりも更に短い。また、アンテナ素子6のX軸方向の長さ、つまりアンテナ素子6の高さは、1.6[mm]である。よって、アンテナ装置4−2の設置面積が小さく、放射方向の高さが小さい。また、アンテナ装置4−2の設置面として、YZ平面に直交するX軸方向のFB比が約20.1[dB]となるので、アンテナ装置4−2では高い利得差が得られる。
〔比較例1〕
図14は、比較例1に係るパッチアンテナを示している。パッチ506は誘電体基板504の一方の面に設置され、地板508は誘電体基板504の他方の面に設置されている。誘電体基板504の厚さは、1.6[mm]に設定され、誘電体の比誘電率εrは4.4である。つまり、パッチ506と地板508とは1.6[mm]の間隔をあけて配置されている。
パッチアンテナ502では、1辺の長さが2分の1波長以上の接地面積が必要である。このため、地板508では、1辺の長さS1が130.5「mm」の正方形に設定される。パッチ506は、1辺の長さS2が70.5[mm]の正方形に設定される。パッチアンテナ502は、周波数1[GHz]の電波に共振するように設定されている。
(比較例1に係るパッチアンテナ502の特性)
図15は、パッチアンテナ502のZX平面の指向性を示している。この指向性は、シミュレーションにより解析した特性である。図15の指向性図周縁の数値は、角度(Ang)(単位:[°])を表している。指向性図円内の数値は、利得(単位:[dB])を表している。なお、図15のAは指向性図を示し、図15のBは指向性図で表されている指向性の方向に関する情報を示し、図15のCは、指向性図で表されているマーカm1、m2におけるTheta値、Ang値およびMag値を示している。
パッチアンテナ502の特性の解析に際し、パッチアンテナ502に対し図14に示すXYZ座標系が設定される。パッチアンテナ502がXY平面上に配置され、パッチアンテナ502の中心は、原点Oに設定される。
図15のAに示す指向性図において、角度0[°]方向は、Z軸の正方向であり、角度−180[°]方向は、Z軸の負方向である。太い線で示されている指向性は、極座標系におけるφ方向の成分の利得を表している。また、細い線で示されている指向性が、極座標系におけるθ方向の成分の利得を表している。
パッチアンテナ502では、θ方向の成分の利得がφ方向の成分の利得よりも十分に大きい値を有している。
角度0[°]の方向におけるθ方向の成分の利得の値は約0.8[dB]である。角度−180[°]の方向におけるθ方向の成分の利得の値は約−10.7[dB]である。
また、角度0[°]を前方とし、角度−180[°]を後方とすると、FB比は既述の式1により計算され、FB比は約11.5[dB]となる。パッチアンテナ502では、FB比を高めようとすると、地板508により形成されるグランド面を広げる必要がある。つまり、地板508の面積が広がることになる。
比較例1では、地板508の1辺の長さS1が130.5[mm]であり、FB比は約11.5[dB]である。よって、実施例に係る無線通信システム2−2およびアンテナ装置4−2は、比較例1のパッチアンテナ502に比べて約4分の1の面積で、2倍近いFB比を得ることができる。このため、アンテナ装置4−2は、小型な端末への搭載性に優れている。無線通信システム2−2およびアンテナ装置4−2は、アンテナ素子6の放射方向の厚さG3がパッチアンテナ502の厚さと同等でありながら、パッチアンテナ502よりも設置面積が小さく、かつ高いFB比を得ることができる。
〔他の比較例〕
(1) 八木・宇田アンテナ
八木・宇田アンテナは、複数の素子を備え、各素子の間隔が約4分の1波長に設定されている。素子の数は少なくとも3素子必要であり、これらの素子は電波の放射軸方向に配置される。このため、八木・宇田アンテナは、放射軸方向に対して長いアンテナである。
(2) リフレクタアンテナ
リフレクタアンテナは、反射板(リフレクタ)と給電素子を備え、反射板と給電素子の間隔は約4分の1波長に設定されている。リフレクタアンテナでは、FB比を高めるため、反射板には面積が必要である。
(3) パラボラアンテナ
パラボラアンテナは、反射鏡と1次放射器を備える。パラボラアンテナでは、利得を高めるため、反射鏡には面積が必要である。また、反射鏡の断面は放物曲線を有するので、放射方向に対して厚さが必要である。
八木・宇田アンテナ、リフレクタアンテナおよびパラボラアンテナは、いずれも放射方向に長さまたは厚さが必要である。本開示のアンテナ装置4−1、4−2は、八木・宇田アンテナ、パラボラアンテナおよびパラボラアンテナよりも低背であり、小型な端末への搭載性に優れている。
以上説明した実施の形態について、その特徴事項や変形例を以下に列挙する。
(1) 上記実施の形態または実施例では、給電素子12の長さL1および無給電素子22−1、22−2の長さL2、L3は、同じ長さに設定されたが、各素子の長さは異なっていてもよい。たとえば、図16のAに示すように、無給電素子22−1、22−2の長さL2、L3は同じ長さであり、給電素子12の長さL1より長く設定してもよい。逆に、図16のBに示すように、長さL2、L3は同じ長さであり、長さL1より短く設定してもよい。斯かる構成であっても既述の効果を得ることができる。
(2) 上記実施の形態または実施例では、アンテナ素子6が誘電体基板52に単独で設置されたが、アンテナ装置4−1、4−2や無線通信システム2−1、2−2を構成する他の電子部品を誘電体基板52に実装してもよい。
図17に示す無線通信システム2−3では、給電回路32および信号源42を省略して示している。誘電体基板52には、アンテナ素子6が設置されるアンテナ設置領域102が設定され、アンテナ設置領域102に隣接する部品実装領域104が設定されている。この部品実装領域104には、電子部品が実装される。アンテナ素子6は、部品実装領域104の影響を受ける。よって、給電素子12と無給電素子22−2の間隔G2は、給電素子12と無給電素子22−1の間隔G1よりも短く設定している。無給電素子22−2が給電素子12に近づくと、部品実装領域104の設定に伴う指向性の変化の調整が図られる。つまり、無給電素子22−1、22−2は、給電素子12を対称軸として対称に置かれる場合に限らない。指向性の調整などのために間隔G1、G2は異ならせてもよい。なお、間隔G1、G2の変更は、部品実装領域104が併設された場合に限られない。間隔G1、G2の変更は電子部品の実装以外の他の要因に対応するため変更してもよい。
(3) 上記実施の形態または実施例では、2本の無給電素子22−1、22−2を備えたが、無給電素子の数は複数本であれば良く、2本に限らない。
図18に示す無線通信システム2−4では、給電回路32および信号源42を省略して示している。誘電体基板52には、既述の部品実装領域104が設定されている。誘電体基板52には、給電素子12および無給電素子22−1、22−2とともに無給電素子22−3が設置されている。部品実装領域104の設定に対応して無給電素子22−3を設置することで、部品実装領域104の設定に伴う指向性の変化の調整が図られる。なお、無給電素子22−1、22−2、22−3の数の変更は、部品実装領域104が併設された場合に限られない。無給電素子22−1、22−2、22−3の数は、電子部品の実装以外の他の要因に対応するため変更してもよい。
(4) 上記実施の形態または実施例では、給電素子12は、無給電素子22−1、22−2が配置されている配置面から間隔G3ほど離したが、給電素子12は、無給電素子22−1、22−2が配置されている配置面上に配置され、各素子を同一平面上に設置してもよい。
図19は、給電素子12および無給電素子22−1、22−2を同一平面上に設置した無線通信システムの一例を示している。図20はアンテナ素子の側面図を示している。間隔G3は0[mm]に設定され、給電素子12および無給電素子22−1、22−2が同一面上に配置される。斯かる無線通信システム2−5であっても、長さL1、L2、L3を変更することで、更には間隔G1、G2を変更することで利得差を生じさせ、指向性を調整し、または放射方向を特定方向に設定することができる。また、誘電体基板52を備える場合、給電素子12および無給電素子22−1、22−2が誘電体基板52の同一面に設置されるので、各素子の設置が容易になる。
(5) 上記実施の形態または実施例では、給電素子12としてダイポールアンテナを用いたが電波を放射する機能を有する素子を用いればよく、ダイポールアンテナに限定されない。
図21は、モノポールアンテナを用いた無線通信システムの一例を示している。図22はアンテナ素子の正面図、図23はアンテナ素子の側面図を示している。
無線通信システム2−6は、接地素子108を備えている。給電素子112は接地素子108との間に給電点14を形成し、接地素子108ともにモノポールアンテナを形成している。無給電素子122−1、122−2の端部は接地素子108に接続している。接地素子108を備えることで、給電素子112の長さL11および無給電素子122−1、122−2の長さL12、L13は、既述の長さL1、L2、L3の約半分の長さに設定される。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。斯かる構成であっても、長さL11、L12、L13を変更することで、更には間隔G1、G2を変更することで、アンテナ装置において利得差を生じさせ、指向性を調整し、または放射方向を特定方向に設定することができる。
(6) 上記実施の形態では、信号源42が生成した信号をアンテナ素子6から送信したが、アンテナ素子6は無線信号の受信に用いてもよい。この場合、給電回路32は、受信した信号の伝送回路として用いられる。また、アンテナ素子6は、電波の送信と受信の両方を行ってもよい。
(7) 上記実施の形態は、RF部43と整合回路36とを備える構成であったが、他の構成であってもよい。
図24に示す無線通信システム2−7は、既述のアンテナ素子6と、既述の整合回路36と、既述のRF部43と、信号処理部142とを含んでいる。信号処理部142は、たとえばベースバンド部であって、送信するための信号をディジタル処理するとともにアナログ信号に変換し、RF部43に出力する。信号処理部142は、アンテナ素子6で受信した信号の処理も可能である。
図25に示す無線通信システム2−8は、既述のアンテナ装置4−1と、マイクロプロセッサ202と、センサ204と、バッテリ206とを含み、既述のセンサノードとして機能する。マイクロプロセッサ202は、既述の信号処理部142、信号源42またはRF部43の一例である。マイクロプロセッサ202は、センサ204の検出情報をセンサ204から取得する。マイクロプロセッサ202は、この検出情報を信号としてアンテナ装置4−1に出力する。バッテリ206は、電源部の一例であり、アンテナ装置4−1、マイクロプロセッサ202およびセンサ204に電力を供給する。センサ204を備えることで、無線通信システム2−8は、電力、温度、湿度などのセンサ204による検出情報をたとえば無線ネットワークのゲートウェイノードに送信することができる。なお、アンテナ装置4−1に代え、アンテナ装置4−2または変形例に係るアンテナ装置を用いてもよい。
(8) アンテナ素子6の各寸法、たとえば、長さL1、L2、L3、間隔G1、G2、G3、幅W1、W2、W3、および厚さt1、t2、t3には、アンテナの特性に大きく影響しない範囲で公差が設定される。公差は、たとえば、各寸法の設定値に対してプラス・マイナス5パーセントである(±5%)。公差はアンテナの特性に大きく影響しない範囲であれば、プラス・マイナス5パーセントを超えてもよい。たとえば、図26に示すように、幅W1、W2、W3を太くし間隔G1、G2に対する割合が大きくてもよい。
(9) 上記実施の形態では、無線通信システム2−1、2−2が無線センサネットワークのセンサノードである例をしたが、無線通信機能を備えるシステムまたは装置であればよい。無線センサネットワークは、たとえばセンサノードの他にゲートウェイノードを含んで構成される。このゲートウェイノードに本開示のアンテナ装置を搭載し、本開示の無線通信システムとしてもよい。また、無線通信システムは、遠隔測定法(テレメトリング)の計測器などであってもよく、セルラーネットワークの無線通信端末装置などであってもよい。
以上説明したように、本開示の技術の実施の形態等について説明した。本開示の技術は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または明細書に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論である。斯かる変形や変更が、本開示の技術の範囲に含まれることは言うまでもない。