JP2014199556A - 動物感染症対策のための意思決定を支援する装置、方法およびプログラム - Google Patents

動物感染症対策のための意思決定を支援する装置、方法およびプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】動物感染症対策に関係する少なくとも自治体および農場の各主体が抑止策の作業段階にて意思決定を行うための客観的な指標を提供し、動物感染症に関するリスク情報を可視化する。【解決手段】装置10は、動物感染症の発生地域の県、県に属する複数の市町村および市町村に属する複数の農場を含む3階層にて、県、市町村および農場の各主体が動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する作業フロー作成部12と、作業フロー内の各作業段階にて各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定するシナリオ候補決定部13と、複数の作業シナリオのそれぞれについて、動物感染症により発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出するリスク指標算出部15と、複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出されたリスク指標を対応付けて提示するリスク指標提示部16と、を有する。【選択図】図2

Description

本発明は、動物感染症対策のための意思決定を支援する装置、方法およびプログラムに関する。
特許文献1には、事業者が災害発生に関わる災害リスクを適正に評価できる災害リスク評価システムが記載されている。この災害リスク評価システムでは、現状設備における災害時の直接損失額と対策後の設備における災害時の直接損失額との差額を評価し、災害対策設備費用と比較することにより災害対策の意思決定情報として提示する。
非特許文献1,2には、口蹄疫の発生・伝染による資産価値の喪失を災害リスクとして位置づけ、家畜の殺処分による期待被害額を最小にするような口蹄疫感染の危機管理の方法論が記載されている。非特許文献1,2では、口蹄疫の発生・伝染過程を空間的マルコフ連鎖過程としてモデル化し、期待損失を最小にするような最適予防殺処分を求める最適感染リスク抑止モデルをマルコフ決定モデルとして定式化し、時空間データに基づくワクチン接種のタイミングとその範囲を決定するような危機管理モデルを定式化している。
特開2004−280444号公報
吉田護,阿部真育,紅谷昇平,小林潔司,2011,口蹄疫の最適感染リスク抑止モデルの開発,土木計画学・講演集,No.44 阿部真育,吉田護,小林潔司,紅谷昇平,2012,口蹄疫の空間伝染モデリング,土木学会論文集D3(土木計画学),Vol.68,No.4,p.369−387
牛や豚などの家畜に発症する動物感染症は、初期時点での感染範囲が狭い場合は、適切な対応を行うことで抑止できるため問題が顕在化することはないが、感染が拡大してしまうと、被害拡大を容易には抑止できず甚大な人的および経済的被害が発生する。このため、動物感染症は時間的にピークのあるリスクであり、その対策を実施する適切なタイミングと範囲を検討することが重要となる。
動物感染症の場合、都道府県、市町村、農場の各階層で対策が実行される。動物感染症への対策の1つとして、例えば、ある農場で感染症の発症が確認された場合に、その近隣の農場の家畜に対し、感染拡大を防ぐために予防的殺処分が行われる。しかし、感染が発生した農場から同心円状に何キロ以内にある農場について殺処分を行うなど、客観性に欠ける指標に基づき対策が取られているのが現状である。
非特許文献2で提案されている手法により、動物感染症の感染が発生したときにすぐ初期対応を行った場合や、初期対応が遅れた場合について、感染確率の空間分布をシミュレーションすることができる。しかし、この感染確率は、発生地域から何キロ以内の農場に何%の確率で感染が広がるかということを示しているに過ぎず、何%以上なら殺処分が必要かという指標決めをしなければならない。このように、動物感染症については、どの農場でいつ予防的殺処分を実施すべきかなどの、関係する都道府県、市町村および農場が適切なタイミングで対策を実施するための客観的な指標がない。
また、顕在化した場合に甚大かつ不可逆な損害をもたらし得るリスクに対しては、平常時から対策物資などの備えを用意しておくことが必要不可欠である。この備えには、例えば、ワクチンや、資材、獣医師、重機、殺処分した家畜の埋設場所などが含まれる。しかし、リスクが顕在するが不確実である計画段階において、そのリスクへの対処行動をとることは極めて難しい。その原因は、住民のリスク事象に対する不十分な理解と、それに基づく合意形成を行うことの困難さにある。
行政には、住民のリスク認識を適切に形成するため、科学的根拠の裏付けに基づくリスク評価とその情報公開が求められる。そして、リスクに備える費用を確保するために、事前に行政と住民の間で合意形成がなされる必要がある。動物感染症に関連するリスク情報には、例えば、感染リスクの大きさや、被害規模の大きさ、予防的計画の内容、対策遅延を引き起こし得る防疫作業項目などがある。しかし、動物感染症の場合、合意形成のために必要な、行政と住民の間で共有すべきリスク情報を可視化するシステムがない。
そこで本発明の目的は、動物感染症対策に関係する少なくとも自治体および農場の各主体が抑止策の作業段階にて意思決定を行うための客観的な指標を提供し、動物感染症に関するリスク情報を可視化することである。
本発明に係る装置は、動物感染症対策のための意思決定を支援する装置であって、動物感染症の発生地域の自治体および自治体の行政区域に属する複数の農場を少なくとも含む複数の階層にて、自治体および農場を含む各主体が動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する作業フロー作成部と、作成された作業フロー内の各作業段階にて各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定するシナリオ候補決定部と、複数の作業シナリオのそれぞれについて、動物感染症により発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出するリスク指標算出部と、複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出されたリスク指標を対応付けて提示するリスク指標提示部と、を有することを特徴とする。
本発明に係る装置では、作業フロー作成部は、自治体として発生地域の都道府県および都道府県に属する市町村を含む、少なくとも都道府県、市町村および農場の3階層にて、都道府県、市町村および農場の各主体が動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成することが好ましい。
本発明に係る装置では、シナリオ候補決定部は、複数の異なる時点のそれぞれについて、当該時点以降の作業シナリオの候補を決定し、リスク指標提示部は、複数の異なる時点について時系列で、作業シナリオおよび作業シナリオについて算出されたリスク指標を対応付けて提示することが好ましい。
本発明に係る装置では、シナリオ候補決定部は、動物感染症を抑止するためにいつどの農場にて動物の殺処分を行うかの決定を含む意思決定に応じて決まる作業シナリオの候補を決定することが好ましい。
本発明に係る装置では、リスク指標算出部は、少なくとも、動物感染症が終息するまでに殺処分される動物の頭数、殺処分が行われる農場の個数、または動物感染症の発生から終息までの期間の長さを表す指標を含むリスク指標を算出することが好ましい。
本発明に係る装置では、リスク指標提示部は、複数の作業シナリオのうち、動物感染症が終息するまでに必要な対策費用または動物感染症による被害額が少ない一部の作業シナリオについて、作業シナリオおよび当該作業シナリオについて算出されたリスク指標を対応付けて提示することが好ましい。
また、本発明に係る方法は、動物感染症対策のための意思決定を支援する方法であって、コンピュータが、動物感染症の発生地域の自治体および自治体の行政区域に属する複数の農場を少なくとも含む複数の階層にて、自治体および農場を含む各主体が動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成するステップと、作成された作業フロー内の各作業段階にて各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定するステップと、複数の作業シナリオのそれぞれについて、動物感染症により発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出するステップと、複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出されたリスク指標を対応付けて提示するステップと、を有することを特徴とする。
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータに、動物感染症の発生地域の自治体および自治体の行政区域に属する複数の農場を少なくとも含む複数の階層にて、自治体および農場を含む各主体が動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する機能と、作成された作業フロー内の各作業段階にて各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定する機能と、複数の作業シナリオのそれぞれについて、動物感染症により発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出する機能と、複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出されたリスク指標を対応付けて提示する機能と、を実現させることを特徴とする。
本発明によれば、動物感染症対策に関係する少なくとも自治体および農場の各主体が抑止策の作業段階にて意思決定を行うための客観的な指標を提供し、動物感染症に関するリスク情報を可視化することが可能になる。
動物感染症対策に関係する、農場、市町村、都道府県、国の階層構造を示した概念図である。 装置10の機能ブロック図である。 家畜伝染病予防法に基づく口蹄疫に関する防疫指針で規定されている、県および市町村での防疫作業項目を示した表である。 家畜伝染病予防法に基づく口蹄疫に関する防疫指針で規定されている、農場での防疫作業項目を示した表である。 県および市町村の2階層にわたる、図3Aの作業項目についてのPERT図である。 市町村および農場の2階層にわたる、図3Aおよび図3Bの作業項目についてのPERT図である。 図4Aおよび図4Bの作業フローの作業が時間発展していく様子を示した概念図である。 殺処分の対象となる農場の空間的確率分布の具体例を示した地図である。 殺処分される家畜数の確率分布の具体例を示した棒グラフである。 口蹄疫が終息するまでに必要な期間長の確率分布の具体例を示した棒グラフである。 リスク指標提示部16が作業シナリオとリスク指標を提示する方法の例を説明するための図である。 リスク指標提示部16が作業シナリオとリスク指標を提示する方法の別の例を説明するための図である。 最適シナリオ決定部17が最適な作業シナリオを決定する処理例を示したフローチャートである。 重点対策農場の確率分布の具体例を示した地図である。 対策費用算出部18が提示する対策費用曲線のグラフの例である。 図2の装置10を実現するコンピュータ90のハードウェア構成図である。
以下、添付図面を参照して、本発明に係る装置について詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
図1は、動物感染症対策に関係する、農場、市町村、都道府県(以下、単に「県」という)および国の階層構造を示した概念図である。
農場1は、動物感染症に感染し得る豚や、牛、鶏などの家畜を飼育する。農場1は、動物感染症への対策として、例えば、感染し殺処分された家畜の埋却地を指定する。
市町村2は、農場1を含む地域の市町村である。符号5で示したものは、市町村2が所有している、動物感染症の抑止策に必要な作業人員や、防疫資材、重機、移送手段、埋却地などの資材である。以下では、地域内で調達可能なこうした人材や資材の量のことを、「地域キャパシティ」という。市町村2は、抑止策として、家畜の殺処分を行ったり、人員や重機の確保を行ったりする。抑止策に必要な人材や資材の調達量が市町村2の地域キャパシティを超過する場合、市町村2は県3に応援要請を出す。
県3は、市町村2を含む都道府県である。動物感染症が発生したときは、県3に対策本部が置かれ、県3が抑止策を指揮することが一般的である。県3も市町村2と同様に、動物感染症の抑止策に必要な作業人員や、防疫資材、重機、移送手段、埋却地などの資材を有する。必要な調達量が県3の地域キャパシティを超過する場合、県3は国4に応援要請を出す。
国4は、動物感染症の被害が大規模になったときに対策に関与してくる最上位の階層である。このため、以下では国4を除いた、農場1、市町村2および県3の3階層に着目する。動物感染症は複数の県にまたがって発生する場合もあるが、以下では簡単のため、1つの県内で発生する場合を考える。県3には複数の市町村2が属し、さらにそれぞれの市町村2には複数の農場1が属するモデルを考える。
なお、以下では3階層を例に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、当初は県、市町村、農場という3つの意思決定階層のみで対策を行っていたが、被害規模の拡大に伴い予防的殺処分やワクチン接種の処置が必要になった場合には、これらの処置を指揮監督する国を別階層として含めることも可能である。さらに、防疫対策専門の機関を別階層として含めることも可能である。
逆に、例えば、動物感染症が狭い地域のみで発生している場合には、発生地域の市町村と農場の2階層のみで抑止策が実施されることもあり得る。したがって、意思決定階層は3階層に限らず、動物感染症の発生地域の県または市町村である自治体と、その自治体の行政区域に属する複数の農場との2階層でもよいし、あるいは上記のような別階層を含めた4階層以上あってもよい。
ある地域に動物感染症が発生すると、県などの上位層の行政主体により、最適な抑止策を実施すべき空間的範囲と実施期間が決定される。その抑止策の決定を受けて、抑止策を実行するために必要な人材や資材の調達量が明らかとなる。最適な抑止策を実行可能にするためには、発生地域内で即時に調達可能な人材、資材量を明確にする必要がある。
また、抑止策に必要な人材や資材の調達量が地域キャパシティを超過するリスクが大きくなれば、必要なタイミングで、より広域的な上位層の行政主体(例えば国)に対して支援を依頼することが不可欠となる。さらに、地域キャパシティの制約が顕在化した場合を想定し、階層構造全体を視野に入れて、人材や資材を配分する優先順位を検討することも必要となる。
その際は、各行政主体が行ったある時点における意思決定が、次の時点における意思決定の基本情報となる。この関係は、動物感染症の終息宣言がなされるまで続いていく。したがって、各時点の意思決定に応じてその後の意思決定が展開していくような、意思決定ネットワークがマルコフ過程に基づいてリアルタイムで変化していくことになる。ここでは、そのようなネットワークをマルコフネットワークと定義する。
そこで、以下で説明する装置では、県、市町村および農場の3階層にまたがる、動物感染症対策のための意思決定ネットワークをモデル化する。このモデルでは、必要な調達量が地域キャパシティを超過するリスクが大きくなれば、必要なタイミングでより広域的な上位層の行政主体に対して支援を依頼するという作業フローを前提とする。そしてこの装置は、動物感染症により予想される被害額を最小限に抑えるように、抑止策の各実行段階で上位層の行政主体が適切に意思決定できるような、客観的な指標を提供する。この装置により、動物感染症が発生したときに発生地域内で即時に調達可能な人材、資材量(地域キャパシティ)が明らかになり、対策遅延を引き起こし得る作業項目が可視化される。
動物感染症には、例えば、口蹄疫や、狂牛病、鳥インフルエンザなどがある。以下では、一例として、動物感染症は口蹄疫であるとして説明する。ただし、以下で説明する内容は、感染拡大を抑止するために動物(家畜)の殺処分が行われるような動物感染症であれば、口蹄疫に限らず適用可能である。
図2は、装置10の機能ブロック図である。図示するように、装置10は、リスト記憶部11と、作業フロー作成部12と、シナリオ候補決定部13と、空間伝染演算部14と、リスク指標算出部15と、リスク指標提示部16と、最適シナリオ決定部17と、対策費用算出部18とを有する。
リスト記憶部11は、各自治体がそれぞれの自治体に合わせた形で作成した動物感染症対策の作業項目に関する情報を予め記憶する。この作業項目は、動物感染症ごとに決まっている既知の情報である。リスト記憶部11が記憶する情報の具体例を図3Aおよび図3Bに示す。図3Aおよび図3Bは、家畜伝染病予防法に基づく口蹄疫に関する防疫指針で規定されている、県、市町村および農場の各階層での防疫作業項目を示した表である。
作業フロー作成部12は、動物感染症の発生地域の都道府県、都道府県に属する複数の市町村および市町村に属する複数の農場で構成される3階層にて、都道府県、市町村および農場の各主体が動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する。例えば、作業フロー作成部12は、リスト記憶部11が記憶する作業項目から、PERT(Program Evaluation and Review Technique)図を作成する。PERT図により作業項目の全体像を把握しやすくなり、作業遅延が生じ得るクリティカルパスが明らかになる。
図4Aおよび図4Bは、県、市町村および農場の3階層にわたる、図3Aおよび図3Bの作業項目についてのPERT図である。県レベルには図3Aに示した6個の作業項目があり、これらを1A〜1Fの符号で表している。市町村レベルには、図3Aに示した14個の作業項目があり、これらを2A〜2Oの符号で表している。市町村レベルには、図3Bに示した25個の作業項目があり、これらを3A〜3Yの符号で表している。これらの作業項目は、各階層内において、矢印で示した順序で実行される。なお、図示しないが、実際には、各作業項目に対応するパスにおいて、作業人員や事象の検討に必要な実質時間などの数値が入る。地域キャパシティもこの図に重ねて表示することができる。
作業項目の中には、他の階層の作業に影響を及ぼすものがある。図4Aおよび図4Bでは、階層間をつなぐ太線と破線の矢印で、このことを示している。破線の矢印は、県レベルにおける意思決定が市町村レベルに影響を及ぼすパスの一例である。例えば、県が市町村への資材搬送を決定する場合を考える。その市町村にとってその資材が不足していたとすると、県からその資材が搬送されてこなければ、市町村が行うそれ以降の作業が遅延する。このため、県の意思決定が、その後の市町村の作業に影響を及ぼすことになる。
逆に、太線の矢印は、市町村レベルにおける行動が県レベルへと影響を及ぼすパスの一例である。例えば、県が制限区域を設定する場合を考える。通行遮断場所や殺処分された家畜の埋却地について市町村から通知を受けなければ、県は制限区域を設定することができない。このため、市町村の決定が、その後の県の作業に影響を及ぼすことになる。このように、ある階層の作業項目での意思決定が、別の階層の作業項目に関連付けられていることがある。
PERT図により、作業期間に余裕がないクリティカルパスが明らかになる。クリティカルパス上の作業が遅延すると、全体の作業遅延につながる。作業遅延は、意思決定の遅れや、必要な人材または資材の量が地域キャパシティに達することによって生じ得る。作業フロー作成部12がPERT図を作成することにより、動物感染症の発生時にボトルネックとなり得る作業項目が可視化される。
なお、図4Aおよび図4Bでは県、市町村および農場についてのPERT図をそれぞれ1つずつしか示していないが、複数ある市町村と農場のそれぞれに同様のPERT図が対応付けられている。したがって、作業フロー作成部12が作成する作業フローは、複数のPERTが階層構造をもって互いに関連付けられたPERTのネットワークを構成する。
シナリオ候補決定部13は、作業フロー作成部12により作成された作業フロー内の各作業段階にて各階層の主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定する。この意思決定には、例えば、県からある市町村に資材を搬送すると決定したり、市町村がある農場で家畜の殺処分を行うと決定したりすることが含まれる。
抑止策の作業の時間発展と作業シナリオについて、以下で説明する。図4Aおよび図4BのPERT図に示した作業フローに従って、県、市町村および農場は、それぞれ各作業項目を実行し、抑止策の作業が時間発展していく。そして、動物感染症の感染の広がりが確率的に把握されるという状況下では、上記のように、国や県など上位層の意思決定が下位層の作業の進捗に影響を及ぼし得る。すなわち、ある時点での県、市町村および農場の作業進捗状況から、次の時点での作業進捗状況が決定されるという過程が確率的に進行する。ある時点における意思決定が次の時点における意思決定の基本情報となり、その関係は動物感染症の終息宣言がなされるまで続く。
一般に、ある時点tのとき、県、複数の市町村および複数の農場における作業の進捗状況は、それぞれ異なっている。ある時点における県、市町村および農場を含む地域全体の作業進捗状況は、全部で(県の作業項目数)+(市町村の数)×(市町村の作業項目数)+(農場の数)×(農場の作業項目数)通り考えられる。したがって、意思決定ネットワークの時間発展は、その個数の状態間のマルコフ過程として記述される。
図5(a)および図5(b)は、図4Aおよび図4Bの作業フローの作業が時間発展していく様子を示した概念図である。図5(a)は、時点t=1での作業の進捗状況を示している。ここでは、図4Aおよび図4Bで省略していた複数の市町村および農場の作業フローを表示している。時点t=1では、例えば、県では作業項目1Aまで、市町村Aでは作業項目2Bまで、市町村Bでは作業項目2Cまで、農場Aでは作業項目3Cまで、農場Bでは作業項目3Aまで、作業が進んでいるとする。図5(a)では、各階層の主体が現在実行している作業項目を強調して示している。このような、県、市町村および農場を含む地域全体の作業進捗状況が、1つの状態uを形成する。次の時点t=2では、それぞれの主体での作業が進捗して、状態uとは別の状態uが実現される。
図5(b)は、作業進捗状況の時間発展を時系列で模式的に示している。図の左から右に向かって時間が経過し、各階層で各作業項目が実行されていく様子を模式的に示している。図中の四角は、図5(a)で示した状態uやuといった個々の状態を表す。そして、時間が経過するにつれて各階層で作業が進捗していくことを、各状態の四角内における増加する個数の黒丸で示している。
図中左端は初期時点t=0の状態であり、最初の作業項目が実行される。そして、例えば、t=0のときの状態は、県、市町村および農場のどれが最初に意思決定するかにより、3通りが考えられる。その後の各時点でも、各階層の主体がどのような意思決定を行うかにより、次の時点での状態は複数通りが考えられる。例えば、ある時点で県が市町村に対して行動を起こすとすると、それをどの市町村に対して行うかにより、次の時点の作業進捗状況には複数通りが考えられる。このことを、各時点間の状態をつなぐ複数の矢印で示している。
図5(b)において、初期時点t=0から最終時点t=Tまでの一続きの矢印が、抑止策のための一連の意思決定プロセスを示している。この一連の意思決定プロセスのことを「作業シナリオ」という。図5(b)において、作業シナリオの3つの例を太線の矢印R,R,Rで示している。シナリオ候補決定部13は、上記のマルコフ過程を利用することで、初期時点t=0から最終時点t=Tまでにとり得る意思決定プロセスを、作業シナリオの候補として決定する。
初期時点t=0から最終時点t=Tまでにとり得る作業シナリオの候補の具体例について説明する。一例として、小規模農場A、小規模農場B、大規模農場Cがこの順で隣接しており、t=0のとき小規模農場Aで感染が発生したとする。この場合、感染の拡大を防ぐためには農場Cまで殺処分すべきであるが、農場Cは家畜の頭数が多く、感染していないのに殺処分すると損失が大きくなることから、農場Cでは殺処分しないという考え方もある。そこで、県の対策本部は、感染の抑止策として、以下の3つ作業シナリオを考えるとする。
・作業シナリオR:t=1にて、すべての農場A,B,Cで殺処分をしてしまう。
・作業シナリオR:t=1にて、農場A,Bでは殺処分するが、農場Cでは殺処分しない。
・作業シナリオR:t=1にて、農場Aのみで殺処分し、農場Bではt=α(1<α<T)まで様子を見てから殺処分する。農場Cでは殺処分しない。
このような作業シナリオR,R,Rが、作業シナリオの候補となる。
空間伝染演算部14は、非特許文献1,2で開示されている非定常なマルコフ連鎖モデルを用いて、ある地域で動物感染症が発生したときにそれが他の農場に空間伝染していく確率を演算する。装置10では、その感染確率をもとに、例えば行政主体が、疫学検査を実施すべき農場の目星を付けられるようにする。以下では、動物感染症は口蹄疫であるとして、空間伝染演算部14が行う処理内容を説明する。
まず、農場の総数をN個とする。i番目の農場における、時点tでの家畜の口蹄疫の感染状態s(t)を、次式のように表す。
Figure 2014199556
時点tでの地域全体における口蹄疫の感染状態を、以下では「システム状態S(t)」という。システム状態の総数をKとし、K個のうちh番目のシステム状態をSと表す。S={s ,・・・,s }である。
システム状態がSのときに、各農場の状態がs からs に推移する確率πhg(S)は、次式のように表される。
Figure 2014199556
ここで、δ は、システム状態がSのときに農場iにて殺処分を実施しないならば0であり、実施するならば1となるダミー変数である。
また、ρ(S)とq(S)は、次式で与えられる。
Figure 2014199556
ここで、J(S)はシステム状態Sにおいて口蹄疫が確認された農場の集合、ζは家畜の感染の感受性パラメータ、m は農場iでの家畜の飼育頭数、dijは農場iと農場jの間の距離、ηは距離抵抗パラメータである。
時点tのときにシステム状態がS(t)=Sであるシステムが、時点t+1のときにS(t+1)=Sのシステム状態に推移する確率Πhgは、次式のように表される。
Figure 2014199556
システム状態の生起確率をP(t)={P(t),・・・,P(t)}と表すと、地域全体における口蹄疫の空間的伝染過程は、次式のようなマルコフ過程で表される。
Figure 2014199556
(t)は、時点tにおいて、システム状態がK個の状態うちh番目の状態をとる確率である。
なお、実際には、システム状態変数の個数は非常に大きくなるため、すべてのシステム状態の生起確率を、マルコフ連鎖モデルを用いて計算することは難しい。そこで、空間伝染演算部14は、モンテカルロシミュレーションかまたは準モンテカルロシミュレーションを利用して、各状態の生起確率を求める。
リスク指標算出部15は、さらに、殺処分範囲算出部15Aと、殺処分頭数算出部15Bと、収束日数算出部15Cを有する。リスク指標算出部15は、複数の作業シナリオのそれぞれについて、動物感染症により発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出する。
殺処分範囲算出部15Aは、口蹄疫が終息するまでに殺処分の対象となる農場の空間的確率分布を用いて、リスク指標の1つとして、口蹄疫が終息するまでに殺処分が行われる農場の個数を算出する。以下では、ある農場が殺処分の対象となる確率のことを「殺処分確率」という。
最終時点t=Tにおいて、殺処分確率がc(0≦c≦1)以上となる農場集合Ψ(c)は、次式のように表される。
Figure 2014199556
図6は、殺処分の対象となる農場の空間的確率分布の具体例を示した地図である。図6は、宮崎県の農場について、実際の農場間の距離データをもとに、ある農場で口蹄疫の感染が発生した場合の殺処分確率の分布を数6に従い計算して、地図上にプロットしたものである。
殺処分範囲算出部15Aは、初期発症農場の位置が与えられると、リスク指標を算出するための基準となる確率分布を、数6に従って求める。殺処分範囲算出部15Aは、その確率に、例えば初期発症農場からの距離の逆数を掛けて、各農場の殺処分確率の基準値を算出する。また、殺処分範囲算出部15Aは、殺処分確率が基準値を超える農場の個数についてのしきい値を設定しておく。
そして殺処分範囲算出部15Aは、口蹄疫に対する抑止策が進展していく過程で、数6に従い殺処分確率を算出する。その殺処分確率の分布から、農場単位で、殺処分確率が上記の基準値を超えるか否かがわかる。殺処分範囲算出部15Aは、殺処分確率が基準値を超えた農場の個数を数え上げ、その個数をリスク指標として使用する。
殺処分頭数算出部15Bは、口蹄疫が終息するまでに殺処分される家畜数の確率分布を用いて、リスク指標の1つとして、口蹄疫が終息するまでに殺処分される動物の頭数を算出する。
最終時点t=Tにおいて地域全体の殺処分数がn以下となる確率σ(n)は、次式で与えられる。
Figure 2014199556
ここで、Θ(n,T)は、対象地域全体における殺処分数の総和がn以下となるシステム状態の集合を示す。また、δ (ι+2,T)は、i番目の農場が時点t=Tまでに殺処分対象となった場合は0であり、それ以外の場合は1となるダミー変数である。
図7は、殺処分される家畜数の確率分布の具体例を示した棒グラフである。この棒グラフでは、殺処分頭数が14万頭のところで発生確率が最大となることから、14万頭殺処分されるのが最も確からしいと考えられる。そこで、殺処分頭数算出部15Bは、このような発生確率が最大となる殺処分頭数を、リスク指標として使用する。
収束日数算出部15Cは、口蹄疫が終息するまでに必要な期間長の確率分布を用いて、リスク指標の1つとして、口蹄疫の発生から終息までの期間の長さを算出する。
時点tにおいて口蹄疫が終息する確率Λ(t)は、次式のように表される。
Figure 2014199556
ただし、τ (t)は、システム状態S(t)={s (t),・・・,s (t)}の下で、農場iが感染または発症状態(すなわちs (t)=1,・・・,ι+1)にあれば1、それ以外であれば0となるダミー変数である。
図8は、口蹄疫が終息するまでに必要な期間長の確率分布の具体例を示した棒グラフである。この棒グラフでは、収束日数が20日のところで発生確率が最大となることから、20日で収束するのが最も確からしいと考えられる。そこで、収束日数算出部15Cは、このような発生確率が最大となる収束日数を、リスク指標として使用する。
リスク指標提示部16は、シナリオ候補決定部13により決定された複数の作業シナリオと、リスク指標算出部15によりそれぞれの作業シナリオについて算出されたリスク指標とを対応付けて、例えば表示機構95(図14参照)上に提示する。特に、リスク指標提示部16は、複数の異なる時点について時系列で、作業シナリオとリスク指標とを対応付けて提示する。
図9は、リスク指標提示部16が作業シナリオとリスク指標を提示する方法の例を説明するための図である。図の縦軸はリスク指標であり、横軸は動物感染症の発生からの経過日数を示す。リスク指標提示部16は、リスク指標のしきい値として、2つの意思決定基準α,βを用いる。リスク指標が意思決定基準α未満であるときを「第1モード」と呼ぶ。第1モードは、比較的小規模な被害で感染を抑止できるようなリスクが低い状態である。リスク指標が意思決定基準β以上であるときを「第3モード」と呼ぶ。第3モードは、感染が拡大し、甚大な被害が生じるようなリスクが高い状態である。そして、リスク指標が意思決定基準α以上かつβ未満である第1モードと第3モードの中間を、「第2モード」と呼ぶ。
ここでのリスク指標は、上記した家畜の殺処分が行われる農場数、家畜殺処分数または発生期間長である。農場数については、殺処分確率が基準値を超えた農場の個数に2つのしきい値を設けて、それらを意思決定基準α,βとする。家畜殺処分数および発生期間長については、それぞれ、発生確率が最大となる殺処分頭数および収束日数に2つのしきい値を設けて、それらを意思決定基準α,βとする。意思決定基準α,βは、非常事態宣言する基準として、リスク指標の種類に応じて県や国が設定する。
ただし、リスク指標として上記の3つのうちいずれか1つだけを用いると、動物感染症により発生地域にもたらされる被害の規模を的確にとらえられなくなることもある。例えば、リスク指標として発生期間長を用いる場合を考えると、短い期間で終息し、リスク指標が小さい値になったとしても、多数の家畜を殺処分することにより被害額が甚大になる場合もある。このため、リスク指標提示部16は、例えば家畜の殺処分が行われる農場数、家畜殺処分数および発生期間長を適当に重み付けして平均するなどして、これら3つの指標を加味した値をリスク指標として用いることが好ましい。
図9において、ある農場に初期時点で感染が発生し、時点Aまで実線に沿って対象地域のリスク指標が変化したとする。時点Aのとき、対象地域は第1モードにあり、感染は比較的容易に抑止可能である。
ここで、シナリオ候補決定部13が、上記の意思決定ネットワークのマルコフ過程を用いて、時点Aから次の時点Bまでの間にとり得る作業シナリオを決定する。そして、リスク指標算出部15が、その作業シナリオのそれぞれについて、時点Bでのリスク指標を算出する。リスク指標提示部16は、例えば時点Aを頂点とする3角形で図9に示したように、作業シナリオに応じて時点Bでのリスク指標の広がりを提示する。県などの上位層の行政主体は、リスク指標提示部16によりリスク指標とともに提示された作業シナリオの中から、1つの作業シナリオを選んで意思決定を行う。例えば、このとき感染状態にある農場で殺処分を行うなど適切な抑止策をとれば、感染の拡大が抑えられるので、時点Aで選ぶ作業シナリオによって、その後のリスク指標の広がり方(図中の3角形の縦軸方向の長さ)が変わることになる。
その後、時点Bでリスク指標が意思決定基準αに達したとする。これに応じてリスク指標提示部16は、第2モードへの遷移を提言する。時点Bでも時点Aのときと同様に、リスク指標提示部16は、例えば時点Bを頂点とする3角形で図9に示したように、作業シナリオに応じた次の時点Cでのリスク指標の広がりを提示する。
その後、時点Cでリスク指標が意思決定基準βに達したとする。これに応じてリスク指標提示部16は、第3モードへの遷移を提言し、行政主体に非常事態宣言を出すように促す。時点Cでも時点Bのときと同様に、例えば時点Cを頂点とする3角形で図9に示したように、作業シナリオに応じた次の時点でのリスク指標の広がりを提示する。
このように、リスク指標提示部16は、各時点でとり得る作業シナリオとその作業シナリオに従った場合のリスク指標の変化を時系列で示す。これにより、リスク指標提示部16は、県や国などの行政主体が意思決定を行う際の判断材料を提供し、どのような意思決定をしていけばリスク指標をしきい値β以下に抑えられるかが行政主体の責任者にわかるようにする。なお、一般に、とり得る作業シナリオの総数は非常に多いと考えられるため、リスク指標提示部16が提示する作業シナリオは、抑止策を実施するための費用が少なくなる特定の個数に限定するとよい。
図10は、リスク指標提示部16が作業シナリオとリスク指標を提示する方法の別の例を説明するための図である。図示するように、この例では、リスク指標提示部16は、複数の作業シナリオと、それぞれの作業シナリオについてのリスク指標とを対応付けて示した画面50を、表示機構95(図14参照)上に提示する。この画面50では、図5(b)を用いて説明した作業シナリオR,RおよびRを今後実行する場合の、30日後のリスク指標を示している。リスク指標は、家畜の殺処分が行われる農場数、家畜殺処分数および収束日数の3つをすべて表示している。この例では、意思決定基準αを、殺処分農場数=20か所、殺処分頭数=5000頭、収束期間=15日としている。また、意思決定基準βを、殺処分農場数=100か所、殺処分頭数=20000頭、収束期間=50日としている。
作業シナリオRでは、いずれのリスク指標も意思決定基準αを下回る。一方、作業シナリオRでは、殺処分頭数と収束日数が意思決定基準αを超えており、作業シナリオRでは、いずれのリスク指標も意思決定基準βを超えている。このため、リスク指標提示部16は、作業シナリオR,R,Rが実行された場合、30日後に対象地域はそれぞれ第1,第2,第3モードにあると判断する(Rでは多数決による判定を行った場合の例である)。すなわち、リスク指標提示部16は、作業シナリオRに従って抑止策を実施すれば感染を抑止可能であると判断する。したがって、リスク指標提示部16は、作業シナリオRに従って抑止策を実施すべき旨を画面50に表示させて、行政主体の責任者に作業シナリオRを提案する。
最適シナリオ決定部17は、シナリオ候補決定部13が決定した複数のシナリオ候補の中から、動物感染症による地域全体の期待被害額または感染が広がる空間的範囲を最小にするような最適な抑止策を決定する。ここで、期待被害額とは、動物感染症が終息するまでに必要になると予想される対策費用、および家畜を殺処分することにより生じると予想される損失額のことをいう。
図11は、最適シナリオ決定部17が最適な作業シナリオを決定する処理例を示したフローチャートである。まず、被害額Vminを十分大きな数Mとする(S11)。そして、シナリオ候補決定部13が決定した複数のとり得る作業シナリオの中から1つの作業シナリオを選ぶ(S12)。その作業シナリオにより、いつどこの農場で殺処分を行うかが決まるため、数2の推移確率πhg(S)を具体的に書き下すことができる。このことから、数2〜数5を用いて、マルコフ推移行列Πを決定する(S13)。
次に、初期時点t=0でのシステム状態Sの生起確率P(0)を与える(S14)。そして、数5に従って生起確率P(0)を時間発展させ、最終時点t=Tでのシステム状態の生起確率P(T)を求める(S15)。ここで、最終時点t=Tまでに発生した被害額Vを見積もる(S16)。被害額Vは、例えば、{(家畜の1頭の殺処分に必要な費用)+(家畜の1頭の殺処分により生じる損失)}×(殺処分された頭数)で与えられる。この被害額VがVmin<Vであれば(S17でYes)、Vmin=Vとする(S18)。
次の作業シナリオがあれば(S19でYes)、処理はS12に戻る。すべての作業シナリオについて被害額Vを求めていれば(S19でNo)、最終的なVminを与える作業シナリオを最適シナリオとする(S19)。以上で、最適シナリオ決定部17が最適な作業シナリオを決定する処理は終了する。
また、最適シナリオ決定部17は、決定された最適な作業シナリオに従って抑止策が実施された場合の殺処分確率を、例えば対象地域の地図に重ねて、表示機構95(図14参照)上に提示する。
図12は、重点対策農場の確率分布の具体例を示した地図である。図12は、宮崎県のある農場で口蹄疫の感染が発生し、その後最適シナリオ決定部17が決定した最適な作業シナリオに従って抑止策が実施された場合の殺処分確率の分布を、空間伝染演算部14が実際の農場間の距離データをもとに数6に従って計算し、地図上にプロットしたものである。このように、最適な作業シナリオの場合でも殺処分確率が高い重点対策農場を可視化することにより、重点的に対策すべき農場を行政主体の責任者が判断できるようにする。
対策費用算出部18は、シナリオ候補決定部13が決定した各作業シナリオについて、動物感染症の抑止策を実施するために必要な対策費用を算出する。特に、対策費用算出部18は、抑止策の作業フローにおける各作業工程を短縮した場合の対策費用の変化を、表示機構95(図14参照)上にグラフ表示する。
図13は、対策費用算出部18が提示する対策費用曲線のグラフの例である。図13では、最低対策必要経費を2000万円と仮定し、とり得る作業シナリオとして作業シナリオA〜Cの3つがあり、対策項目が1〜7の7個ある場合について、各工程の効率化を行った場合にどの程度の費用削減効果が望めるかを示している。作業シナリオが決まれば、階層ごとまたは地域全体でその対策にかかる費用を見積もることができる。この対策費用は、ある作業工程にかかる日数を短縮するか否かによっても変化する。一般に、ある作業工程にかかる日数を短縮しようとすると、人員増加などのために余分なコストがかかる。図13のグラフは右から左に進むにつれて傾きが急になるので、番号が小さい作業項目ほど、短縮するために多くのコストがかかり、期間短縮が難しいことがわかる。
このような対策費用曲線を提示することにより、各種対策項目の効率化を行った場合にどの程度の費用削減効果が望めるかを行政主体の責任者が判断できるようにする。なお、一般に、とり得る作業シナリオの総数は非常に多いと考えられるため、グラフ表示するものは、見やすさを考慮して、対策費用が少なくなる特定の個数に限定するとよい。
なお、本実施例では、リスク指標の意思決定基準としてαとβの2つを、モードとして第1〜第3モードの3段階を用いて説明したが、本発明はこれに限られない。対象とする動物感染症に対する各自治体の実情などに合わせた個数の意思決定基準やモードを設けることができる。
また、本実施例ではリスク指標として、動物感染症が終息するまでに殺処分される動物の頭数、殺処分が行われる農場の個数、または動物感染症の発生から終息までの期間の長さの3つを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。対象とする動物感染症や各自治体の実情などに合わせて、別のリスク指標を適宜追加することができる。
図14は、図2の装置10を実現するコンピュータ90のハードウェア構成を示した図である。図示するように、コンピュータ90は、プロセッサ91と、メインメモリ92と、記憶装置93と、通信インタフェース94と、表示機構95と、入力インタフェース96とを備える。プロセッサ91は、記憶装置93に記憶されるプログラムを実行することにより、上述した各機能を実現する。メインメモリ92は、プロセッサ91が実行中のプログラムや、そのプログラムにより一時的に使用されるデータ等を記憶する。記憶装置93は、プロセッサ91が実行するプログラムやそのプログラムに関する入出力データ等を記憶する。通信インタフェース94は、外部装置との間でデータの送受信を行う。表示機構95は、ビデオメモリやディスプレイ等を含み、ユーザにデータ等を表示する。入力インタフェース96は、キーボードやマウス等を含み、ユーザからの入力操作を受け付ける。
なお、図2の装置10の各機能部は、図14に示すプロセッサ91がプログラムを記憶装置93からメインメモリ92に読み込んで実行することにより実現される。また、リスト記憶部11は、例えば図14に示すメインメモリ92により実現される。
なお、装置10を実現するプログラムは、通信手段により提供してもよいし、CD−ROM等の記録媒体に格納して提供してもよい。
10 装置
11 リスト記憶部
12 作業フロー作成部
13 シナリオ候補決定部
14 空間伝染演算部
15 リスク指標算出部
16 リスク指標提示部
17 最適シナリオ決定部
18 対策費用算出部

Claims (8)

  1. 動物感染症対策のための意思決定を支援する装置であって、
    前記動物感染症の発生地域の自治体および前記自治体の行政区域に属する複数の農場を少なくとも含む複数の階層にて、前記自治体および前記農場を含む各主体が前記動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する作業フロー作成部と、
    作成された前記作業フロー内の各作業段階にて前記各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定するシナリオ候補決定部と、
    前記複数の作業シナリオのそれぞれについて、前記動物感染症により前記発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出するリスク指標算出部と、
    前記複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出された前記リスク指標を対応付けて提示するリスク指標提示部と、
    を有することを特徴とする装置。
  2. 前記作業フロー作成部は、前記自治体として前記発生地域の都道府県および前記都道府県に属する市町村を含む、少なくとも前記都道府県、前記市町村および前記農場の3階層にて、前記都道府県、前記市町村および前記農場の各主体が前記動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する、請求項1に記載の装置。
  3. 前記シナリオ候補決定部は、複数の異なる時点のそれぞれについて、当該時点以降の前記作業シナリオの候補を決定し、
    前記リスク指標提示部は、前記複数の異なる時点について時系列で、前記作業シナリオおよび前記作業シナリオについて算出された前記リスク指標を対応付けて提示する、請求項1または2に記載の装置。
  4. 前記シナリオ候補決定部は、前記動物感染症を抑止するためにいつどの農場にて動物の殺処分を行うかの決定を含む意思決定に応じて決まる前記作業シナリオの候補を決定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
  5. 前記リスク指標算出部は、少なくとも、前記動物感染症が終息するまでに殺処分される動物の頭数、前記殺処分が行われる農場の個数、または前記動物感染症の発生から終息までの期間の長さを表す指標を含む前記リスク指標を算出する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
  6. 前記リスク指標提示部は、前記複数の作業シナリオのうち、前記動物感染症が終息するまでに必要な対策費用または前記動物感染症による被害額が少ない一部の作業シナリオについて、前記作業シナリオおよび当該作業シナリオについて算出された前記リスク指標を対応付けて提示する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
  7. 動物感染症対策のための意思決定を支援する方法であって、コンピュータが、
    前記動物感染症の発生地域の自治体および前記自治体の行政区域に属する複数の農場を少なくとも含む複数の階層にて、前記自治体および前記農場を含む各主体が前記動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成するステップと、
    作成された前記作業フロー内の各作業段階にて前記各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定するステップと、
    前記複数の作業シナリオのそれぞれについて、前記動物感染症により前記発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出するステップと、
    前記複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出された前記リスク指標を対応付けて提示するステップと、
    を有することを特徴とする方法。
  8. コンピュータに、
    動物感染症の発生地域の自治体および前記自治体の行政区域に属する複数の農場を少なくとも含む複数の階層にて、前記自治体および前記農場を含む各主体が前記動物感染症を抑止するためにそれぞれ行う作業フローを作成する機能と、
    作成された前記作業フロー内の各作業段階にて前記各主体が行う意思決定に応じて決まる複数の作業シナリオの候補を決定する機能と、
    前記複数の作業シナリオのそれぞれについて、前記動物感染症により前記発生地域にもたらされる被害の規模を示すリスク指標を算出する機能と、
    前記複数の作業シナリオおよびそれぞれの作業シナリオについて算出された前記リスク指標を対応付けて提示する機能と、
    を実現させるためのプログラム。
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